(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-01-25
(45)【発行日】2023-02-02
(54)【発明の名称】X線CTにおけるCTボリュームの表面抽出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 23/046 20180101AFI20230126BHJP
G01B 15/04 20060101ALI20230126BHJP
【FI】
G01N23/046
G01B15/04 H
(21)【出願番号】P 2018226040
(22)【出願日】2018-11-30
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000137694
【氏名又は名称】株式会社ミツトヨ
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100080458
【氏名又は名称】高矢 諭
(74)【代理人】
【識別番号】100076129
【氏名又は名称】松山 圭佑
(74)【代理人】
【識別番号】100144299
【氏名又は名称】藤田 崇
(74)【代理人】
【識別番号】100150223
【氏名又は名称】須藤 修三
(72)【発明者】
【氏名】大竹 豊
(72)【発明者】
【氏名】長井 超慧
(72)【発明者】
【氏名】後藤 智徳
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠治
(72)【発明者】
【氏名】今 正人
【審査官】横尾 雅一
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-257333(JP,A)
【文献】特開2018-040790(JP,A)
【文献】国際公開第2013/005455(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01B 15/00 - G01B 15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線CTにおけるCTボリュームの表面抽出に際して、
X線CTで取得したボリュームデータからCT値が一定のボクセルを抽出して等値面メッシュを生成し、
生成した等値面メッシュの頂点を抽出し、
抽出した頂点におけるCT値をフェルドカンプ法(FDK法)を用いて計算し、
計算したCT値の勾配情報を使って等値面
メッシュの頂点を修正することを特徴とするX線CTにおけるCTボリュームの表面抽出方法。
【請求項2】
前記等値面
メッシュの頂点の修正を、
頂点のCT値の勾配ベクトルを計算し、
計算された勾配ベクトルの正負方向に複数のサンプル点を生成し、
生成された各サンプル点におけるCT値の勾配ノルムを計算し、
計算された勾配ノルムが最大のサンプル点に頂点を移動することにより行うことを特徴とする請求項1に記載のX線CTにおけるCTボリュームの表面抽出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線CTにおけるCTボリュームの表面抽出方法に係り、特に、CT値揺らぎに頑健で、高精度な表面抽出を実現することが可能な、X線CTにおけるCTボリュームの表面抽出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1970年代に医療用X線CT装置が実用に供され、この技術をベースに1980年代初期頃より工業用製品のためのX線CT装置が登場した。以来、工業用X線CT装置は、外観からでは確認困難な鋳物部品の鬆、溶接部品の溶接不良、および電子回路部品の回路パターンの欠陥などの観察・検査に用いられてきた。一方、近年3Dプリンタの普及に伴い、3Dプリンタによる加工品内部の観察・検査のみならず、内部構造の3D寸法計測とその高精度化の需要が増大しつつある。
【0003】
上述の技術の動向に対して、計測用X線CT装置がドイツを中心に普及し始めている(特許文献1、2参照)。この計測用X線CT装置では、測定対象を回転テーブル中心に配置して測定対象を回転させながらX線照射を行う。
【0004】
計測で使用する一般的なX線CT装置1の構成を
図1に示す。X線を遮蔽するエンクロージャ10の中にコーンビーム状のX線13を照射するX線源12、X線13を検出するX線検出器14、測定対象物(例えばワーク)Wを置いてCT撮像の為にワークWを回転させる回転テーブル16、X線検出器14に映るワークWの位置や倍率を調整するためのXYZ移動機構部18があり、それらのデバイスを制御するコントローラ20、及び、ユーザ操作によりコントローラ20に指示を与える制御PC22などで構成される。
【0005】
制御PC22は、各デバイス制御の他に、X線検出器14に映るワークWの投影画像を表示する機能や、ワークWの複数の投影画像から断層画像を再構成する機能を有する。
【0006】
X線源12から照射されたX線13は、
図2に示す如く、回転テーブル16上のワークWを透過してX線検出器14に届く。ワークWを回転させながらあらゆる方向のワークWの透過画像(投影画像)をX線検出器14で得て、逆投影法や逐次近似法などのCT再構成アルゴリズムを使って再構成することにより、ワークWの断層画像を生成する。
【0007】
前記XYZ移動機構部18のXYZ軸と回転テーブル16のθ軸を制御することにより、ワークWの位置を移動することができ、ワークWの撮影範囲(位置、倍率)や撮影角度を調整することができる。
【0008】
X線CT装置1の最終目的であるワークWの断層画像またはボリュームデータ(ワークWの立体像または断層画像のZ軸方向の集合)を得るには、ワークWのCTスキャンを行う。
【0009】
CTスキャンはワークWの透視像(投影画像)取得とCT再構成の2つの処理で構成され、透視像取得処理では、X線照射中にワークWを載せた回転テーブル16を一定速度で連続的あるいは一定ステップ幅で断続的に回転し、全周囲方向(一定間隔)のワークWの透視像を取得する。得られた全周囲方向(一定間隔)の透視像を逆投影法や逐次近似法などのCT再構成アルゴリズムを使ってCT再構成することで、
図3に例示する如く、ワーク(
図3ではマスターボールB)の断層画像またはボリュームデータを生成する。
【0010】
生成したボリュームデータから所望の表面形状のメッシュを生成して、評価や解析を行うことができる(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2002-71345号公報
【文献】特開2004-12407号公報
【文献】特開2018-40790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ボリュームデータから表面形状のメッシュを生成する基本的な方法に、一定のCT値のボクセルを抽出してメッシュを生成する方法(等値面メッシュ生成)があるが、一般的にボリュームデータ中の表面形状にはアーチファクト(ノイズ)に起因するCT値のゆらぎがあり、この方法ではアーチファクト等によるCT値揺らぎの影響を直接受けるため、一定のCT値で表面を決定する等値面だけでは表面形状を精度良く抽出できないという問題があった。
【0013】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、CT値揺らぎに頑健で、高精度な表面抽出を容易に実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、X線CTにおけるCTボリュームの表面抽出に際して、X線CTで取得したボリュームデータからCT値が一定のボクセルを抽出して等値面メッシュを生成し、生成した等値面メッシュの頂点を抽出し、抽出した頂点におけるCT値をフェルドカンプ法(FDK法)を用いて計算し、計算したCT値の勾配情報を使って等値面メッシュの頂点を修正することにより、前記課題を解決するものである。
【0015】
ここで、前記等値面メッシュの頂点の修正を、頂点のCT値の勾配ベクトルを計算し、計算された勾配ベクトルの正負方向に複数のサンプル点を生成し、生成された各サンプル点におけるCT値の勾配ノルムを計算し、計算された勾配ノルムが最大のサンプル点に頂点を移動することにより行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、フェルドカンプ法(FDK法)を用いて計算したCT値の勾配情報を使って等値面メッシュの頂点を修正することで、高精度な表面抽出を容易に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】計測で使用する一般的なX線CT装置の全体構成を示す断面図
【
図5】同じくCT値勾配の解析的計算方法の一例を説明するための斜視図
【
図6】同じく勾配±g方向に複数のサンプル点を抽出した例を示す図
【
図7】同じく頂点をサンプル点に移動する様子を示す図
【
図8】測定対象の一例であるステップシリンダを示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。又、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0019】
本発明のアルゴリズムは、X線CTにより生成したボリュームデータを入力とし、表面抽出したメッシュデータを出力とする。
【0020】
本発明の実施形態における処理手順の概要を
図4に示す。
【0021】
まず、ステップ100でボリュームデータから等値面メッシュMを生成する。
【0022】
ボリュームデータの各ボクセルはCT値を持っており、一定のCT値を持つボクセルを抽出して等値面メッシュを生成することができる。CT値の選択方法としては、ボリュームデータのCT値のヒストグラムを確認して選択する方法がある。このヒストグラムには通常、各ワーク材質と空気の山(ピーク)がそれぞれあり、例えばワーク外形表面(空気とワークの境界面)を抽出したい場合、ヒストグラム上で空気とワーク外形表面材質のピークの中間値(CT値)を選択する。そして、選択したボリュームデータ中の所望の表面形状に相当する適切なCT値を使って、等値面メッシュを生成する。
【0023】
次いでステップ110に進み、メッシュMを構成する1つの頂点pを抽出する。
【0024】
次いでステップ120に進み、抽出したメッシュ頂点pの勾配ベクトルgを計算する。勾配ベクトルgの計算は以下のように行うことができる。
【0025】
まず、頂点p(x,y,z)におけるCT値f(p)
を逆投影
法の一つであるフェルドカンプ法(FDK法)を用いて次式により計算する(
図5参照)。
【数1】
【0026】
なお、フィルタ補正投影値を求める際はShepp-Loganフィルタ以外にRam-LakフィルタやKak-Slaneyフィルタを利用することもできる。
【0027】
次いで次式を用いて、点p(x,y,z)におけるCT値の勾配ベクトルg(p)を計算する。ここで計算の簡単化のために、α(θ,p)=α(θ)(αはpによらない)と仮定することができる。
【数2】
【0028】
なお、点pは連続値として扱い、投影値の計算等は適宜補間処理が行われる。
【0029】
次いでステップ130に進み、
図6に例示する如く、メッシュ頂点pを通る勾配ベクトル±g上でサンプル点Sを複数抽出する。抽出範囲や抽出間隔は、例えばボクセルサイズを基準に任意に設定でき、例えばサンプリング範囲は±4ボクセル程度、サンプリング間隔はボクセルサイズの0.1~0.2倍程度に設定することができる。
【0030】
次いでステップ140に進み、
図7に例示する如く、次式により、抽出した全てのサンプル点Sの勾配ノルムNを勾配ベクトルgの絶対値から計算する。
【数3】
【0031】
次いでステップ150に進み、サンプル点Sの勾配ノルムNの中で最大値Nmとなるサンプル点Smを導出する。
【0032】
次いでステップ160に進み、頂点pをサンプル点Smに移動する。これは、ワークと空気の境界、又は異なるワーク材質の境界でサンプル点Sのずれが大きくなるためである。
【0033】
ステップ160終了後、ステップ170に進み、全ての頂点pについて修正が終わったかチェックする。
【0034】
修正が終わっていない時はステップ110に戻り、次の頂点pを修正する。
【0035】
一方、ステップ170で全ての頂点pについての修正が終わったと判定された時は、処理を終了する。
【0036】
発明者らのシミュレーションによると、
図8に例示するような1段目の外径が20mm、5段目の外径が60mmのステップシリンダについて測定値の評価を行ったところ、従来の等値面メッシュ法では、特に1、2段目の誤差が大きかったのが、本発明によれば1、2段目の誤差を半減できた。
【0037】
又、
図3に例示したマスターボールBのルビー球について評価したところ、従来法では球の直径の実測値とフィッティング時の直径の差が8~9μmであったのが、本発明法によれば0~2μmに低減できた。これは全ての球について同様の傾向を確認できた。
【0038】
本実施形態においては、FDK法を用いていたので、CT値を求める式を微分したものが簡単に求められ、CT値の勾配情報が容易に得られる。なお、CT値の勾配情報を得る方法は、FDK法に限定されない。
【0039】
又、前記実施形態においては、勾配情報が勾配ノルムとされていたが、勾配情報は、これに限定されない。測定対象物もワークに限定されない。
【符号の説明】
【0040】
1…X線CT装置
12…X線源
14…X線検出器
16…回転テーブル
20…コントローラ
22…制御PC
g…CT値勾配ベクトル
M…等値面メッシュ
N、Nm…勾配ノルム
p…頂点
S、Sm…サンプル点
W…ワーク