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特許7219924空洞充填用セメント組成物、空洞充填材、及び、充填施工方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-01
(45)【発行日】2023-02-09
(54)【発明の名称】空洞充填用セメント組成物、空洞充填材、及び、充填施工方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20230202BHJP
   C04B 14/18 20060101ALI20230202BHJP
   C04B 24/16 20060101ALI20230202BHJP
   C04B 24/12 20060101ALI20230202BHJP
   C04B 24/38 20060101ALI20230202BHJP
   E01C 23/10 20060101ALI20230202BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B14/18
C04B24/16
C04B24/12 A
C04B24/38 A
E01C23/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020054057
(22)【出願日】2020-03-25
(65)【公開番号】P2021155228
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-01-12
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和元年度国土技術政策総合研究所「道路構造及び空洞特性に適応した陥没危険度評価と合理的路面下空洞対策についての研究開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】小堺 規行
(72)【発明者】
【氏名】金城 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】桑野 玲子
(72)【発明者】
【氏名】タン ティンシェン
【審査官】手島 理
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-160544(JP,A)
【文献】特開2005-163526(JP,A)
【文献】特開2007-016504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 28/02
C04B 14/18
C04B 24/16
C04B 24/12
C04B 24/38
E01C 23/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントと、軽量骨材と、増粘剤と、を含む空洞充填用セメント組成物であって、
前記増粘剤が、アルキルアリルスルホン酸塩及びアルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤と、メチルセルロース系増粘剤と、を含有
前記軽量骨材の含有量が、セメント100質量部に対して80質量部以上であり、
前記メチルセルロース系増粘剤の含有量が、セメント100質量部に対して4.5質量部以上であり、
前記メチルセルロース系増粘剤は、20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度が0.35Pa・s以上35Pa・s以下である、空洞充填用セメント組成物。
【請求項2】
前記軽量骨材の比重が0.20以上0.75以下である、請求項に記載の空洞充填用セメント組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の空洞充填用セメント組成物と、水と、を含む、空洞充填材。
【請求項4】
前記空洞充填用セメント組成物に対する前記水の比が50以上100以下である、請求項に記載の空洞充填材。
【請求項5】
湿潤密度が0.50g/cm以上0.90g/cm以下である、請求項又はに記載の空洞充填材。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の空洞充填用セメント組成物100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下の水を混練して空洞充填材を得て、該空洞充填材を空洞に充填した後、硬化させる、充填施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空洞充填用セメント組成物、該空洞充填用セメント組成物を含む空洞充填材、及び、前記空洞充填用セメント組成物を用いた充填施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、路面下の空洞部分には、例えば、地上からボーリング孔等を介して空洞充填材を充填することで、該空洞部分を閉塞して地盤の安定化を図っている。また、トンネルの地山と矢板の間の隙間が放置されることにより残存している空洞部分においても、空洞充填材を充填して該空洞部分を閉塞することにより、トンネルにおけるひび割れや圧縮破壊を防止している。さらに、空洞充填材は、土や砂等で埋め戻しができないような種々の箇所の空洞部分においても使用することができる。
【0003】
空洞充填材として、近年、起泡剤を含有させて気泡を発生させた充填材が用いられている。例えば、特許文献1では、セメントと、起泡剤と、水とを含み、起泡剤及び水の含有量を所定の範囲にすることで、密度が1.0t/m以上1.48t/m以下となるように調整された空洞充填材が開示されている。また、特許文献2では、セメントと、起泡剤と、粘土鉱物と、急結剤と、水とを含み、急結剤及び粘土鉱物の含有量を所定の範囲にすることで、密度が1.0t/m以上1.4t/m以下となるように調整された空洞充填材が開示されている。
【0004】
特許文献1及び2で用いられる空洞充填材は、流動性が高いため空洞部分の隅々にまで充填することができる等、施工性に優れる。また、このような充填材は密度が小さく軽量であるため、空洞周囲の地盤に負荷を与えず、再沈下が生じにくいという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-59070号公報
【文献】特開2014-210688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
路面下の空洞部分は、破損した埋設管(例えば、下水管等)上に発生する場合が多い。このような空洞部分に特許文献1及び2で開示される流動性の高い空洞充填材を充填すると、空洞充填材が破損部を介して埋設管内に漏出するという問題があった。
【0007】
本発明は、このような問題を解決するためになされたものであり、硬化後に必要な強度を確保するとともに、空洞部分からの漏出を抑制することが可能な空洞充填用セメント組成物、空洞充填材、及び、充填施工方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る空洞充填用セメント組成物は、セメントと、軽量骨材と、増粘剤と、を含み、前記増粘剤が、アルキルアリルスルホン酸塩及び/又はアルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤と、メチルセルロース系増粘剤と、を含有する。
【0009】
前記空洞充填用セメント組成物は、斯かる構成により、水と混練して空洞充填材として用いることで適度なチキソ性を発揮し、その結果、空洞部分からの漏出を抑制することができる。また、前記空洞充填用セメント組成物は、硬化後に必要な強度を確保することができる。
【0010】
本発明に係る空洞充填用セメント組成物において、前記メチルセルロース系増粘剤は、20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度が0.35Pa・s以上35Pa・s以下であってもよい。
【0011】
前記空洞充填用セメント組成物は、メチルセルロース系増粘剤の20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度が0.35Pa・s以上であることにより、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料分離を抑制する。また、メチルセルロース系増粘剤の20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度が35Pa・s以下であることにより、水と混練して空洞充填材として用いることで適度なチキソ性を発揮し、該空洞充填材の空洞への材料充填性を良好にする。
【0012】
本発明に係る空洞充填用セメント組成物は、前記軽量骨材の比重が0.20以上0.75以下であってもよい。
【0013】
前記空洞充填用セメント組成物は、軽量骨材の比重が0.20以上であることにより、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の軽量化を図ることができる。また、軽量骨材の比重が0.75以下であることにより、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料混練性を向上させる。
【0014】
本発明に係る空洞充填材は、上述の空洞充填用セメント組成物と、水と、を含む。
【0015】
前記空洞充填材は、上述の空洞充填用セメント組成物を含むため、適度なチキソ性を発揮し、その結果、空洞部分からの漏出を抑制することができる。また、前記空洞充填材は、硬化後に必要な強度を確保することができる。
【0016】
本発明に係る空洞充填材は、前記空洞充填用セメント組成物に対する前記水の比が50以上100以下であってもよい。
【0017】
前記空洞充填材は、空洞充填用セメント組成物に対する水の比が50以上であることにより、空洞充填に適切な流動性を保持することができる。また、前記比が100以下であることにより、一軸圧縮強度を損なうことなく、空洞充填に適切な流動性を保持することができる。
【0018】
本発明に係る空洞充填材は、湿潤密度が0.50g/cm以上0.90g/cm以下であってもよい。
【0019】
前記空洞充填材は、湿潤密度が0.50g/cm以上0.90g/cm以下であることにより、空洞周囲の地盤に負荷を与えず、再沈下が生じにくくなる。
【0020】
本発明に係る充填施工方法は、上述の空洞充填用セメント組成物100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下の水を混練して空洞充填材を得て、該空洞充填材を空洞に充填した後、硬化させる。
【0021】
前記充填施工方法は、空洞充填材の空洞部分からの漏出を抑制することができる。また、前記充填施工方法によって、必要な強度を有する硬化物を得ることができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、硬化後に必要な強度を確保するとともに、空洞部分からの漏出を抑制することが可能な空洞充填用セメント組成物、空洞充填材、及び、充填施工方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物、空洞充填材、及び、充填施工方法について説明する。
【0024】
<空洞充填用セメント組成物>
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、セメントと、軽量骨材と、増粘剤と、を含む。
【0025】
(セメント)
セメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、白色ポルトランドセメント等のポルトランドセメント;高炉セメント、フライアッシュセメント、シリカセメント等の混合セメント;超速硬セメント、アルミナセメント等の公知のセメントを用いることができる。これらの中でも、硬化時間を短くする観点から、超速硬セメント及びアルミナセメントから選択される少なくとも一種であることが好ましい。なお、セメントは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0026】
セメントの含有量は、一軸圧縮強度を発現させる観点から、組成物全体に対して、40質量%以上であることが好ましく、44質量%以上であることがより好ましく、55質量%以下であることが好ましく、50質量%以下であることがより好ましい。なお、セメントが2種以上含まれる場合、前記含有量は、セメントの合計含有量である。
【0027】
(軽量骨材)
軽量骨材としては、例えば、人工軽量骨材や天然軽量骨材等を用いることができる。人工軽量骨材は、膨張性頁岩、膨張性粘土、膨張スレート、焼成フライアッシュ等の天然の岩石鉱物を焼成・発泡することで形成することができる。一方、天然軽量骨材としては、火山の噴火に伴って噴出した軽石や火山礫、天然の岩石を原料とするパーライト等を用いることができる。これらの中でも、軽量骨材としては、不燃性のパーライトを用いることが好ましい。なお、軽量骨材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0028】
軽量骨材の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の軽量化を図る観点から、セメント100質量部に対して、80質量部以上であることが好ましく、110質量部以上であることがより好ましい。また、軽量骨材の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の一軸圧縮強度を発現させ、かつ、前記空洞充填材の湿潤密度を適切な範囲に保持する観点から、セメント100質量部に対して、160質量部以下であることが好ましい。なお、軽量骨材が2種以上含まれる場合、前記含有量は、軽量骨材の合計含有量である。
【0029】
軽量骨材の比重は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の軽量化を図る観点から、0.20以上であることが好ましく、0.30以上であることがより好ましい。また、軽量骨材の比重は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料混練性を向上させる観点から、0.75以下であることが好ましく、0.63以下であることがより好ましい。
【0030】
(増粘剤)
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物において、増粘剤は、アルキルアリルスルホン酸塩及び/又はアルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤と、メチルセルロース系増粘剤と、を含有する。
【0031】
アルキルアリルスルホン酸塩としては、例えば、市販されているビスコトップ 100A(花王社製)を用いることができる。アルキルアンモニウム塩としては、例えば、市販されているビスコトップ 100B(花王社製)、VT-200P(昭栄薬品社製)を用いることができる。また、アルキルアリルスルホン酸塩及びアルキルアンモニウム塩の混合物としては、例えば、市販されているビスコトップ 200LS-2(花王社製)を用いてもよいし、上述のビスコトップ 100A及び100Bを併用してもよい。なお、これらは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0032】
アルキルアリルスルホン酸塩及び/又はアルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料分離を抑制する観点から、セメント100質量部に対して、1.1質量部以上であることが好ましい。また、前記高機能特殊増粘剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の一軸圧縮強度を発現させる観点から、セメント100質量部に対して、16.3質量部以下であることが好ましい。なお、前記高機能特殊増粘剤が2種以上含まれる場合、前記含有量は、前記高機能特殊増粘剤の合計含有量である。
【0033】
メチルセルロース系増粘剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。なお、メチルセルロース系増粘剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0034】
メチルセルロース系増粘剤の20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料分離を抑制する観点から、0.35Pa・s以上であることが好ましく、25Pa・s以上であることがより好ましい。また、メチルセルロース系増粘剤の20℃環境下における増粘剤2.0%水溶液の粘度は、水と混練して空洞充填材として用いることで適度なチキソ性を発揮し、該空洞充填材の空洞への材料充填性を良好にする観点から、35Pa・s以下であることが好ましい。なお、粘度は、Brookfild型粘度計により測定することができる。
【0035】
メチルセルロース系増粘剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料分離を抑制する観点から、セメント100質量部に対して、1.7質量部以上であることが好ましく、4.5質量部以上であることがより好ましい。また、メチルセルロース系増粘剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いることで適度なチキソ性を発揮し、該空洞充填材の空洞への材料充填性を良好にする観点から、セメント100質量部に対して、5.7質量部以下であることが好ましい。なお、メチルセルロース系増粘剤が2種以上含まれる場合、前記含有量は、メチルセルロース系増粘剤の合計含有量である。
【0036】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、さらに、混和材を含んでいてもよい。混和材としては、例えば、フライアッシュ、シリカフューム、セメントキルンダスト、高炉フューム、高炉水砕スラグ微粉末、高炉除冷スラグ微粉末、転炉スラグ微粉末、半水石膏、膨張材、石灰石微粉末、生石灰微粉末、ドロマイト微粉末等の無機質微粉末、ナトリウム型ベントナイト、カルシウム型ベントナイト、アタパルジャイト、セピオライト、活性白土、酸性白土、アロフェン、イモゴライト、シラス(火山灰)、シラスバルーン、カオリナイト、メタカオリン(焼成粘土)、合成ゼオライト、人造ゼオライト、人工ゼオライト、モルデナイト、クリノプチロライト等の無機物系フィラーが挙げられる。なお、混和材は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0037】
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、さらに、混和剤を含んでいてもよい。混和剤としては、例えば、AE剤、AE減水剤、流動化剤、分離低減剤、凝結遅延剤(例えば、酒石酸等)、凝結促進剤(例えば、硫酸アルミニウム等)、急結剤、収縮低減剤、起泡剤、発泡剤、防水剤等が挙げられる。なお、混和剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0038】
起泡剤としては、例えば、脂肪族アルコール系の起泡剤を用いることができる。本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、脂肪族アルコール系の起泡剤を含有することにより、該セメント組成物中の気泡を安定的に維持することができる。脂肪族アルコール系の起泡剤としては、例えば、アルファオレフィンスルホン酸ナトリウムの粉末等を用いることができる。このような起泡剤としては、例えば、市販されているライオン社製の商品名「リポランPJ-400」、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製の商品名「リポランPB-800CJ」等が挙げられる。なお、起泡剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
起泡剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の軽量化を図る観点から、セメント100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.3質量部以上であることがより好ましい。また、起泡剤の含有量は、水と混練して空洞充填材として用いる際、該空洞充填材の材料分離を抑制し、かつ、一軸圧縮強度を発現させる観点から、セメント100質量部に対して、0.6質量部以下であることが好ましい。なお、起泡剤が2種以上含まれる場合、前記含有量は、起泡剤の合計含有量である。
【0040】
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、セメントと、軽量骨材と、増粘剤と、必要に応じて混和材及び混和剤と、を混合することにより製造することができる。
【0041】
本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物は、セメントと、軽量骨材と、増粘剤と、を含み、前記増粘剤が、アルキルアリルスルホン酸塩及び/又はアルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤と、メチルセルロース系増粘剤と、を含有することにより、水と混練して空洞充填材として用いることで適度なチキソ性を発揮し、その結果、施工性に優れると共に、空洞部分からの漏出を抑制することができる。また、前記空洞充填用セメント組成物は、硬化後に必要な強度を確保することができる。
【0042】
<空洞充填材>
本実施形態に係る空洞充填材は、上述の空洞充填用セメント組成物と、水と、を含む。前記空洞充填用セメント組成物に対する前記水の比は、空洞充填に適切な流動性を保持する観点から、50以上であることが好ましく、80以上であることがより好ましい。また、前記比は、一軸圧縮強度を損なうことなく、空洞充填に適切な流動性を保持する観点から、100以下であることが好ましい。
【0043】
本実施形態に係る空洞充填材の湿潤密度は、空洞周囲の地盤に負荷を与えず、再沈下が生じにくくなる観点から、0.70g/cm以上0.90g/cm以下であることが好ましい。さらに、本実施形態に係る空洞充填材は、従来の空洞充填材と比べても湿潤密度が小さいことから、空洞周囲の地盤への負荷をより低減し、再沈下をより生じにくくする。なお、湿潤密度は、JIS A 1171:2016『ポリマーセメントモルタルの試験方法』6.4単位容積質量試験に準じて測定することができる。
【0044】
本実施形態に係る空洞充填材では、混練に用いる水のpHが、下水道法の規定に基づく下水排除基準から、5.0を超えて9.0以下であることが好ましい。
【0045】
本実施形態に係る空洞充填材のフロー値は、施工性を良好にする観点から、80mm以上であることが好ましく、100mm以上であることがより好ましい。また、前記フロー値は、空洞部分からの漏出を抑制する観点から、140mm以下であることが好ましく、120mm以下であることがより好ましい。なお、フロー値は、NEXCO試験法313に記載のフロー試験に準じて測定することができる。
【0046】
本実施形態に係る空洞充填材における材齢28日の圧縮強度は、空洞充填材として必要な強度を確保する観点から、80kN/m以上であることが好ましく、130kN/m以上であることがより好ましい。また、前記圧縮強度は、再掘削性を良好にする観点から、1000kN/m以下であることが好ましく、500kN/m以下であることがより好ましい。なお、圧縮強度は、JIS A 1216に記載の土の一軸圧縮試験方法に準じた方法を用いて測定することができる。
【0047】
本実施形態に係る空洞充填材は、本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物を含むため、適度なチキソ性を発揮し、その結果、施工性に優れると共に、空洞充填箇所から埋設物内への漏出を抑制することができる。また、前記空洞充填材は、硬化後に必要な強度を確保することができる。
【0048】
<充填施工方法>
本実施形態に係る充填施工方法では、本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下の水を混練して空洞充填材を得て、該空洞充填材を空洞に充填した後、硬化させる。
【0049】
空洞充填用セメント組成物と水とは、例えば、ハンドミキサー、グラウトミキサー等を用いて混練することができる。本実施形態に係る充填施工方法は、このような小型のミキサーを用いて混練することができるため、機動性に優れ、短時間で複数ヵ所を施工することができる。また、本実施形態に係る充填施工方法では、混練する際に大型の設備を必要としないため、予め製造された空洞充填用セメント組成物を施工現場へ搬送し、施工現場において水と混練することができる。
【0050】
空洞充填用セメント組成物と水とを混練する時間は、施工性を良好にする観点から、2.0min以上3.0min以下とすることが好ましい。
【0051】
空洞充填用セメント組成物と水とを混練した後の空洞充填材の容積は、空洞充填用セメント組成物1kgに対して、1.18L以上1.40L以下とすることができる。すなわち、本実施形態に係る充填施工方法では、少量の空洞充填用セメント組成物を用いて、より多くの空洞を充填することができる。
【0052】
本実施形態に係る充填施工方法では、空洞充填材の空洞部分からの漏出を抑制する観点から、空洞充填材の20℃における硬化時間を5.0h以下とすることが好ましい。なお、硬化時間とは、凝結時間のうち、終結時間とする。
【0053】
本実施形態に係る充填施工方法は、本実施形態に係る空洞充填用セメント組成物100質量部に対して、50質量部以上100質量部以下の水を混練して空洞充填材を得て、該空洞充填材を空洞に充填した後、硬化させるため、施工性に優れると共に、空洞充填材の空洞部分からの漏出を抑制することができる。また、前記充填施工方法によって、必要な強度を有する硬化物を得ることができる。
【実施例
【0054】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0055】
<空洞充填材の製造>
表1に示す配合量で各成分を混合してセメント組成物を得た後、該セメント組成物と水とを表1に示す水材料比(セメント組成物に対する水の比)で混練することにより各実施例及び比較例の空洞充填材を得た。混練時間、並びに、空洞充填材の湿潤密度及びpHを表1に示す。なお、湿潤密度は、JIS A 1171:2000『ポリマーセメントモルタルの試験方法』6.3.1試験用機械器具、及び、JIS A 1104:2006『骨材の単位容積質量及び実績率試験方法』3.2容器を用いて測定することができる。また、pHは、実施例8及び9の空洞充填材について測定した。
【0056】
表1に示す各成分の詳細は下記の通りである。
(セメント)
超速硬セメント:マイルドジェットセメント、住友大阪セメント社製、密度 2.93g/cm
(軽量骨材)
A1:パーライト(市販品)、比重 0.50~0.75、粒径範囲 0.7~2.4mm
A2:パーライト(市販品)、比重 0.20~0.40、粒径範囲 0.3mm以下
(増粘剤)
B1:アルキルアンモニウム塩系粉末高機能特殊増粘剤(市販品)
B2:メチルセルロース系粉末増粘剤(市販品)、粘度 25~35Pa・s(2.0%水溶液/20℃)
B3:メチルセルロース系粉末増粘剤(市販品)、粘度 0.35~0.55Pa・s(2.0%水溶液/20℃)
B4:メチルセルロース系粉末増粘剤(市販品)、粘度 3.0~5.6Pa・s(2.0%水溶液/20℃)
(混和材)
C1:石灰石微粉末(市販品)
(混和剤)
D1:ポリカルボン酸系粉末高性能減水剤(市販品)
D2:ナフタレン系粉末高性能減水剤(市販品)
D3:酒石酸(市販品)
D4:硫酸アルミニウム(市販品)
D5:脂肪族アルコール系粉末起泡剤(市販品)
【0057】
<フロー値の測定>
フロー値は、NEXCO試験法313に記載のフロー試験に準じて測定した。測定結果を表1に示す。なお、本実施例では、空洞部分から空洞充填材が漏出することを抑制するため、フロー値が140mm以下の空洞充填材を合格とした。
【0058】
<一軸圧縮強度の測定>
圧縮強度は、JIS A 1216に記載の土の一軸圧縮試験方法に準じた方法を用いて、材齢7日、28日の圧縮強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0059】
<水中分離性>
2Lのガラス製ビーカーに予め水を1.5L充填し、各空洞充填材を200~250g程度水中に浮かし、この時間を起点とし5分後の材料の分離具合及び水の懸濁具合を目視にて観察した。水中不分離性については、下記の基準に基づき評価を行った。なお、比較例1及び2の空洞充填材については、上記の評価を行わなかった。
○:水中不分離性が良好である。
△:水中不分離性がやや劣り(軽微な材料分離が生じ)、かつ、その際の水中懸濁具合が軽微である。
▲:水中不分離性に劣り(完全な材料分離ではないが、△より劣る)、かつ、その際の水中懸濁具合が著しい。
【0060】
【表1】
【0061】
表1の結果から分かるように、本発明の構成要件をすべて満たす各実施例の空洞充填材は、フロー値が140mm以下である。すなわち、各実施例の空洞充填材は、空洞部分からの漏出を抑制することができると言える。また、各実施例の空洞充填材は、フロー値が80mm以上であることから、施工性が良好である。
【0062】
各実施例の空洞充填材は、材齢28日の圧縮強度が80kN/m以上1000kN/m以下であることから、空洞充填材として必要な強度を確保でき、かつ、再掘削性が良好であると言える。
【0063】
実施例11の空洞充填材は、水中不分離性が良好である。
【0064】
一方、増粘剤として、アルキルアンモニウム塩である高機能特殊増粘剤のみを含む比較例1及び2の空洞充填材は、フロー値が140mmを超えている。すなわち、比較例1及び2の空洞充填材は、空洞部分から漏出すると言える。また、増粘剤として、メチルセルロース系増粘剤のみを含む比較例3の空洞充填材は、強度が劣る。