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  • 特許-水素製造装置および水素製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-02-02
(45)【発行日】2023-02-10
(54)【発明の名称】水素製造装置および水素製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/40 20060101AFI20230203BHJP
【FI】
C01B3/40
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020508268
(86)(22)【出願日】2019-03-13
(86)【国際出願番号】 JP2019010246
(87)【国際公開番号】W WO2019181687
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018056426
(32)【優先日】2018-03-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100135389
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 尚
(74)【代理人】
【識別番号】100086380
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100103078
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 達也
(74)【代理人】
【識別番号】100130650
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 泰光
(74)【代理人】
【識別番号】100168099
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 伸太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100168044
【弁理士】
【氏名又は名称】小淵 景太
(72)【発明者】
【氏名】桜井 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 智和
(72)【発明者】
【氏名】本田 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】高田 吉則
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-099596(JP,A)
【文献】特開2007-095359(JP,A)
【文献】国際公開第2016/162263(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/40
B01J 23/86
H01M 8/0606
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空断熱改質器と、
当該真空断熱改質器の内部に配置され、燃焼用触媒が充填されたガス燃焼管と、
前記真空断熱改質器の内部に配置され、水蒸気改質反応により水素を生成するための通電加熱可能な構造体触媒と、を備え
前記構造体触媒は筒状とされており、
前記ガス燃焼管は、前記構造体触媒の内側を挿通する、水素製造装置。
【請求項2】
前記真空断熱改質器を経た改質ガスから水素を精製するための水素精製装置を更に備え、
前記水素精製装置にて前記改質ガスから分離された水素以外の不純物を多く含むオフガスを燃焼用燃料として前記ガス燃焼管に供給する、請求項1に記載の水素製造装置。
【請求項3】
前記構造体触媒は、ニッケルクロム合金を金属基板とし、その表面にアルミニウム層が形成されたクラッド担体に、ニッケルを含む金属が担持されたものである、請求項1または2に記載の水素製造装置。
【請求項4】
前記構造体触媒は、ニッケルクロム合金を金属基板とし、その表面にアルミナ層が形成されたクラッド担体に、ニッケルを含む金属が担持されたものである、請求項1または2に記載の水素製造装置。
【請求項5】
前記真空断熱改質器を経た改質ガスに含まれる一酸化炭素を水と触媒反応させて水素を生成するための水性ガスシフト反応器を更に備えている、請求項1ないし4のいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項6】
前記真空断熱改質器を経た改質ガスに含まれる一酸化炭素を水と触媒反応させて水素を生成するための水性ガスシフト反応器と、
前記水性ガスシフト反応器からのシフト混合ガスに含まれる水素を精製するための水素精製装置と、を更に備え、
前記水素精製装置にて前記シフト混合ガスから分離された水素以外の不純物を多く含むオフガスを燃焼用燃料として前記ガス燃焼管に供給する、請求項1、3または4のいずれかに記載の水素製造装置。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の水素製造装置を用いて行う水素の製造方法であって、
前記構造体触媒に電流を流して当該構造体触媒を発熱させ、かつ前記ガス燃焼管に燃焼用ガスを供給して触媒燃焼させつつ、炭化水素と水とを含む原料ガスを前記真空断熱改質器内で水蒸気改質反応させる、水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素と水とを含む原料ガスから触媒反応により水素を発生させるための水素製造装置、および水素製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素はクリーンなエネルギーであり、工業的には還元剤として用いられるなど広い用途を有している。近年では、水素は、特に水素自動車や燃料電池の燃料として期待されている。水素ガスの生成方法の一つとして、都市ガスや天然ガスなどに代表される炭化水素と水とを原料とし、以下の反応式に示すように、触媒を用いた水蒸気改質反応(steam reforming reaction:吸熱反応)や水性ガスシフト反応(water gas shift reaction:発熱反応)によって水素を含む混合ガスを得る方法が良く知られている。
mn+mH2O→mCO+(m+n/2)H2
CO+H2O→CO2+H2
【0003】
一般的に、水蒸気改質反応では、製造した水素を精製するPSA(Pressure Swing Adsorption)分離装置で分離された水素以外の不純物を多く含むオフガスが燃焼用燃料としてバーナーで燃焼される。このバーナー燃焼により触媒を充填している反応管を外部から間接的に加熱することで、吸熱反応である水蒸気改質反応に必要な熱量を供給している(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
しかしながら、バーナー燃焼による間接加熱では、反応管内部のガスおよび触媒を加熱する熱効率は低く、多くの熱が水蒸気改質に利用されずに排熱される。このため、水蒸気改質反応に必要な熱量はオフガス燃焼熱だけでは不十分となり、水蒸気改質反応の原料である炭化水素の一部をバーナーに供給することも必要となる。したがって、原料原単位(単位製品量当たりに消費される燃料の量:水素製造においては、単位水素量の製造に要する燃料ガス量)が大きくなるという問題があった。
【0005】
このような不都合の解決策の一つとして、近年、粒状触媒ではなく構造体触媒(structured catalyst)を用い、さらに、構造体触媒へ電流を流すことによって構造体触媒を直接発熱させる通電加熱方式が提唱されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-8453号公報
【文献】特開2011-31162号公報
【0007】
しかしながら、特許文献2に記載の通電加熱による熱供給方式では大量の電力が必要となるため、ランニングコストが高くなるという問題があった。
【発明の概要】
【0008】
本発明は、このような事情の下で考え出されたものであって、炭化水素と水とを含む原料ガスから触媒反応により水素を含む混合ガスを発生させる水蒸気改質反応において、燃焼用ガスの燃焼熱および触媒への通電加熱による熱を高効率で利用するのに適した水素の製造装置および製造方法を提供することを主たる課題とする。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、炭化水素と水とを含む原料ガスから触媒反応により水素を含む混合ガスを発生させる水蒸気改質反応において、改質器に真空断熱改質器を採用し、その内部で燃焼用ガスを触媒燃焼させ、さらに構造体触媒への通電加熱で熱供給する構造の改質器を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
本発明の第1の側面によって提供される水素製造装置は、真空断熱改質器と、当該真空断熱改質器の内部に配置され、燃焼用触媒が充填されたガス燃焼管と、前記真空断熱改質器の内部に配置され、水蒸気改質反応により水素を生成するための通電加熱可能な構造体触媒と、を備えることを特徴としている。
【0011】
好ましくは、前記真空断熱改質器を経た改質ガスから水素を精製するための水素精製装置を更に備え、前記水素精製装置にて前記水素含有混合ガスから分離された水素以外の不純物を多く含むオフガスを燃焼用燃料として前記ガス燃焼管に供給する。
【0012】
好ましくは、前記構造体触媒は筒状とされており、前記ガス燃焼管は、前記構造体触媒の内側を挿通する。
【0013】
好ましくは、前記構造体触媒は、ニッケルクロム合金を金属基板とし、その表面にアルミニウム層が形成されたクラッド担体に、ニッケルを含む金属が担持されたものである。
【0014】
本発明の第2の側面によって提供される水素の製造方法は、本発明の第1の側面に係る水素製造装置を用いて行う水素の製造方法であって、前記構造体触媒に電流を流して当該構造体触媒を発熱させ、かつ前記ガス燃焼管に燃焼用ガスを供給して触媒燃焼させつつ、炭化水素と水とを含む原料ガスを前記真空断熱改質器内で水蒸気改質反応させることを特徴としている。
【0015】
本発明のその他の特徴および利点は、添付図面を参照して以下に行う詳細な説明によって、より明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係る水素製造装置の一例を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して具体的に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係る水素製造装置の一例を示す概略構成図である。同図に示すように、水素製造装置X1は、真空断熱改質器1、構造体触媒2、オフガス燃焼管3、水性ガスシフト反応器4、PSA分離装置5、およびこれらを連結するための配管を備え、原料ガスから水素を作り出して当該水素を分離取得するものである。
【0019】
真空断熱改質器1は、炭化水素と水とを含む原料ガスから触媒反応(水蒸気改質反応)により水素を発生させる。真空断熱改質器1は、例えば円筒状の側壁11および一対の端部壁12,13を含む密閉容器からなる。詳細な図示説明は省略するが、例えば真空断熱改質器1の側壁11および端部壁12,13は、中空の真空空隙部を画定する二重構造を有しており、真空空隙部は、相互に間隔を隔てて設けられた複数の隔壁によって互いに分離された複数の部屋に区画されている。真空断熱改質器1は、例えばステンレス鋼にて作製することができる。
【0020】
前記一対の端部壁12,13には、ガス導入口121およびガス導出口131が設けられている。ガス導入口121は、原料ガスを真空断熱改質器1の内部に導くためのものである。ガス導出口131は、真空断熱改質器1の内部を通過したガス(改質ガス)を外部に導くためのものである。ガス導入口121には、原料ガスを供給するための配管61が連結されている。ガス導出口131には、改質ガスを送るための配管62が連結されている。
【0021】
オフガス燃焼管3は、PAS分離装置から排出されたオフガスを燃焼用燃料として燃焼させるためのものであり、真空断熱改質器1の内部に配置されている。図示の実施形態において、オフガス燃焼管3は、ガス導入口121およびガス導出口131に挿通し、かつ真空断熱改質器1の内部を貫通するように延びている。オフガス燃焼管3の内部には、オフガス燃焼用の触媒が充填されている。当該オフガス燃焼用触媒としては、例えば、白金やパラジウムなどの白金系触媒を適切な担体に担持させたものが用いられる。
【0022】
オフガス燃焼管3の一端部にはガス導入口31が設けられており、他端部にはガス排出口32が設けられている。ガス導入口31は、PSA分離装置5から排出されたオフガスをオフガス燃焼管3に導くためのものである。ガス排出口32は、オフガス燃焼管3を通過した後の燃焼ガスを排出するためのものである。ガス導入口31には、配管67が連結されている。オフガス燃焼管3は、例えばステンレス鋼にて作製することができる。
【0023】
オフガス燃焼管3には、PSA分離装置5から排出されたオフガスが配管67を介して供給される。図示の実施形態におけるオフガスは、PSA分離装置5により分離された水素以外の不純物(例えば、一酸化炭素や未反応の炭化水素など)を多く含むガスである。また、配管67には、当該配管67を流れるオフガスに空気を添加するための配管68の一端が連結されている。配管68の他端には、ブロア69が連結されている。
【0024】
構造体触媒2は、炭化水素と水とを含む原料ガスから水蒸気改質反応を行わせるためのものであり、真空断熱改質器1の内部に配置されている。図示の実施形態において、構造体触媒2は、所定の厚みを有するプレート状の担体を円筒状に成形したものである。より具体的には、構造体触媒2は、基板の表面にアルミニウム層(クラッド層)が形成されてなるクラッド担体に、金属触媒が担持されたものである。前記クラッド担体は、例えばニッケルクロム合金からなる金属基板の表面にアルミニウム層を形成したものである。前記金属基板の表面にアルミニウム層を形成させる方法としては、例えば、非水メッキ、圧着、蒸着、どぶ付け、溶射、圧延(クラッド法)等の公知の方法のいずれであっても良いが、厚みの均一性および製造容易性の観点から、圧延法を用い、金属基板表面にアルミニウム板またはアルミニウム箔を貼り合わせることが好ましい。図示の実施形態において、前記クラッド担体は、円筒状に加工される。なお、前記クラッド担体に対して、必要に応じて、陽極酸化処理、細孔拡大処理や水和処理を適宜行う。前記陽極酸化処理を行うことで、クラッド担体は、表面にアルミナ層が形成されたアルミナクラッド担体になる。このような構成を有する構造体触媒は、例えば特開2011-31162に開示されており、同公報の開示内容は、その参照により本明細書に採り込むものとする。
【0025】
前述のように、構造体触媒2は、クラッド担体(アルミナクラッド担体)に金属触媒が担持されたものである。ここで、担持させる触媒成分は、例えば、ニッケル、ランタン、銅およびセリウムならびに、これらの合金および化合物からなる群より選択される少なくとも一種、または、当該一種以上を含む混合物である。図示の実施形態においては、経済性および触媒活性の観点から、ニッケルが好ましい。クラッド担体(アルミナクラッド担体)の表面に金属触媒を担持させる方法としては、例えば浸漬および焼成により行う。
【0026】
上述のようにして得られた円筒状の構造体触媒2は、オフガス燃焼管3の少なくとも一部を囲むように配置される。図示の実施形態においては、オフガス燃焼管3は、構造体触媒2の内側を挿通するように配置される。
【0027】
真空断熱改質器1、構造体触媒2およびオフガス燃焼管3の寸法の一例を挙げると、真空断熱改質器1の直径(内径)が30cm程度、構造体触媒2の直径(内径)が20~25cm程度、構造体触媒2の径方向の厚さが0.15mm程度、オフガス燃焼管3の直径(外径)が10cm程度である。
【0028】
図示の実施形態において、構造体触媒2は通電加熱可能とされている。具体的には、構造体触媒2の両端に電極71,72が接続されており、電源8およびコントローラ9により電極71,72を介して構造体触媒2に電流が流れるように構成されている。
【0029】
配管61、ガス導入口121を介して真空断熱改質器1内に原料ガス(主として、炭化水素を含む)が導入されると、構造体触媒2の作用による水蒸気改質反応により水素および一酸化炭素が生成する。そして、水素、一酸化炭素および水を含む混合ガス(改質ガス)がガス導出口131から真空断熱改質器1外に導出される。
【0030】
配管61,62には、熱交換器63が設けられている。熱交換器63は、真空断熱改質器1に供給される前の原料ガスと真空断熱改質器1において生じた改質ガスとの熱交換により、原料ガスを予熱し、かつ改質ガスを冷却する。
【0031】
水性ガスシフト反応器4は、真空断熱改質器1で生成された改質ガスから触媒反応(水性ガスシフト反応)により水素を発生させる。水性ガスシフト反応器4は、例えば円筒状の密閉容器である。水性ガスシフト反応器4の内部には、水性ガスシフト反応を生じさせるための触媒が充填されている。当該触媒としては、例えば粒状の担体の表面に活性成分である金属や金属化合物を担持させた粒状触媒が用いられる。当該水性ガスシフト反応の触媒としては、例えば、銅-亜鉛系や白金/アルミナ系、あるいは鉄-クロム系が使用される。
【0032】
水性ガスシフト反応器4の一端部にはガス導入口41が設けられており、他端部にはガス導出口42が設けられている。ガス導入口41は、真空断熱改質器1から導出された改質ガスを水性ガスシフト反応器4の内部に導くためのものである。ガス導出口42は、水性ガスシフト反応器4の内部を通過したガス(水素含有混合ガス)を外部に導くためのものである。ガス導入口41には、改質ガスを供給するための配管62が連結されている。ガス導出口42には、水素含有混合ガスを流すための配管64が連結されている。水性ガスシフト反応器4は、例えばステンレス鋼にて作製することができる。なお、水性ガスシフト反応器4は、当該水性ガスシフト反応器4に設けられた温度調節器(図示略)により、内部の反応温度が調節可能とされている。
【0033】
配管62、ガス導入口41を介して水性ガスシフト反応器4内に改質ガスが導入されると、触媒作用による水性ガスシフト反応により水素および二酸化炭素が生成する。そして、水素、二酸化炭素を含むシフト混合ガス(さらに水分を含む)がガス導出口42から水性ガスシフト反応器4外に導出される。
【0034】
配管64には、気液分離器65が設けられている。気液分離器65は、液排出口651を有しており、シフト混合ガス中に混在する液成分(例えば水)652を当該ガスと分離するためのものである。液排出口651は、気液分離器65に回収された液成分652を当該気液分離器65の外部に排出するためのものである。
【0035】
PSA分離装置5は、水素精製装置の一例であり、吸着剤が充填された少なくとも1つの吸着塔(通常は複数の吸着塔)を備え、当該吸着塔を用いて行う圧力変動吸着法(PSA法)によって水素含有混合ガスから水素富化ガスを取り出すことのできる。吸着塔に充填される吸着剤としては、例えば、ゼオライト系吸着剤、カーボン系吸着剤、またはアルミナ吸着剤を採用することができる。PSA分離装置5にて実行される圧力変動吸着法では、各吸着塔について、例えば吸着工程、脱着工程、および再生工程を含む1サイクルが繰り返される。吸着工程は、塔内が所定の高圧状態にある吸着塔に水素含有混合ガスを導入して当該水素含有混合ガス中の不純物(二酸化炭素、一酸化炭素、未反応の炭化水素、窒素など)を吸着剤に吸着させ、当該吸着塔から水素富化ガスを導出するための工程である。脱着工程は、吸着塔内を減圧して吸着剤から不純物を脱着させ、当該不純物を塔外に排出するための工程である。再生工程は、再度の吸着工程に吸着塔を備えさせるべく、例えば洗浄ガスを塔内に通流させることにより、不純物に対する吸着剤の吸着性能を回復させるための工程である。このようなPSA分離装置5は公知であり、その構成の詳細についてここでは説明しない。
【0036】
なお、図示の実施形態では真空断熱改質器1内での水蒸気改質反応により生成されたガスを「改質ガス」と呼び、水性ガスシフト反応器4内での水性ガスシフト反応により生じた「シフト混合ガス」と区別している。その一方、前記改質ガスもシフト混合ガスも水素を含む混合ガスであり、「水素含有混合ガス」に該当する。
【0037】
以上の構成を有する水素製造装置X1の稼働時には、主として炭化水素を含む原料ガスが、例えば図示しないポンプの作動により、配管61、熱交換器63を介してガス導入口121より真空断熱改質器1内に導入される。熱交換器63内では、相対的に低温(例えば250℃程度)の原料ガスは、後述のようにして熱交換器63内に導入される相対的に高温(例えば800℃程度)の改質ガスとの熱交換により、例えば490℃程度に加熱(予熱)される。
【0038】
真空断熱改質器1に導入された原料ガスについては、構造体触媒2の作用により、吸熱反応である水蒸気改質反応が進行し、水素を含む改質ガスが発生する。水蒸気改質反応を適切に進行させるためには、構造体触媒2の表面付近のガス雰囲気温度を所定の反応温度まで昇温する必要がある。また、水蒸気改質反応は吸熱反応であるため、真空断熱改質器1の内部のガスおよび構造体触媒2を加熱し続ける必要がある。
【0039】
図示の実施形態において、真空断熱改質器1の内部には、燃焼用触媒が充填されたオフガス燃焼管3が配置されている。真空断熱改質器1に導入された原料は、後述のようにオフガス燃焼管3の内部でオフガスが触媒燃焼することで、水蒸気改質反応に必要な熱が直接供給される。
【0040】
また、真空断熱改質器1の内部において、オフガス燃焼管3を包囲するように配置された構造体触媒2は、電源8およびコントローラ9により電極71,72を介して電流が流れるように構成されている。このため、構造体触媒2への通電によって発熱し、当該構造体触媒2自体が加熱される。図示の実施形態では、構造体触媒2に流す電流を調節し、構造体触媒2の温度を例えば800℃程度に維持する。
【0041】
真空断熱改質器1において生じた改質ガスは、ガス導出口131から真空断熱改質器1外に導出され、配管62、熱交換器63を介してガス導入口41より水性ガスシフト反応器4内に導入される。熱交換器63内では、相対的に高温(例えば800℃程度)の改質ガスは、上述のようにして熱交換器63内に導入される相対的に低温(例えば250℃程度)の原料ガスとの熱交換により、例えば490℃程度に冷却される。
【0042】
水性ガスシフト反応器4内に導入された改質ガスは、触媒の作用により、発熱反応である水性ガスシフト反応が進行し、二酸化炭素と水素を含むシフト混合ガスが発生する。ここで、水性ガスシフト反応器4の内部は、所定の反応温度(例えば300℃程度)に調節される。
【0043】
水性ガスシフト反応器4において生じたシフト混合ガスは、ガス導出口42から水性ガスシフト反応器4外に導出され、配管64、気液分離器65を介してPSA分離装置5に供給される。気液分離器65では、水素含有混合ガス中に混在する液成分652(主に水)が当該水素含有混合ガスから分離される。この気液分離により回収された液成分652は、液排出口651を介して気液分離器65から外部に排出される。このような気液分離器65を経たシフト混合ガス(水素含有混合ガス)がPSA分離装置5に供給される。
【0044】
PSA分離装置5においては、圧力変動吸着法により、吸着塔ごとに、吸着工程、脱着工程、および再生工程を含む1サイクルが繰り返される。
【0045】
吸着工程では、水素含有混合ガスに含まれる不純物(二酸化炭素、一酸化炭素、未反応の炭化水素、窒素など)が吸着剤により吸着除去され、水素富化ガス(水素濃度の高いガス)が製品ガスとして塔外へ導出される。この水素富化ガスは、配管66を介して水素製造装置X1外に取り出される。脱着工程では、塔内の減圧により吸着剤から不純物が脱着され、塔内に残存する水素と当該不純物とを含む脱着ガス(オフガス)が塔外に排出される。即ち、吸着塔から排出される当該オフガスは、塔内に残存する水素の他に、前記水素含有混合ガスから分離された水素以外の不純物を多く含む。当該水素以外の不純物として一酸化炭素や未反応の炭化水素も含まれており、前記オフガスは可燃性ガスである。このオフガスは、PSA分離装置5から配管67を介してオフガス燃焼管3に燃焼用燃料として供給される。再生工程では、例えば洗浄ガスが塔内に通流されることにより、不純物に対する吸着剤の吸着能が回復される。PSA分離装置5からは、以上のようにして、水素富化ガス(製品ガス)が取り出されるとともに、オフガスが排出される。水素富化ガスは、例えば、所定の用途に連続的に使用されるか、あるいは所定のタンクに貯留される。
【0046】
配管67を流れるオフガスには、ブロア69および配管68を介して空気が混合され、オフガスおよび空気の混合ガスが燃焼用燃料としてオフガス燃焼管3に供給される。オフガス燃焼管3においては、オフガス燃焼用触媒の作用により、オフガス中の可燃性ガスは触媒燃焼され、例えば600~700℃程度の燃焼ガスが生ずる。なお、オフガスが流れる配管67には、オフガス燃焼管3へのオフガス供給量を安定させるために当該オフガスを一旦貯留するバッファタンク(図示略)を設けてもよい。オフガス燃焼管3内において生じた燃焼ガスは、ガス排出口32を介してオフガス燃焼管3から排出される。
【0047】
以上のように、水素製造装置X1では、その稼動時において、原料ガスが、熱交換器63、真空断熱改質器1、熱交換器63、水性ガスシフト反応器4、気液分離器65、およびPSA分離装置5を順次経ることにより、当該PSA分離装置5から水素富化ガスが取り出され、且つ、PSA分離装置5から排出されるオフガスがオフガス燃焼管3に供給される。
【0048】
図示の実施形態において、燃焼用触媒が充填されたオフガス燃焼管3は、原料ガスが流れる真空断熱改質器1の内部に配置されている。このため、オフガスの燃焼により600~700℃程度に昇温した燃焼ガスの熱は、水蒸気改質反応の熱源としてオフガス燃焼管3の周囲を流れる原料ガスに直接供給される。したがって、オフガスの燃焼熱を水蒸気改質反応に効率よく利用することが可能である。
【0049】
水蒸気改質反応により水素を生成するための構造体触媒2は、通電加熱可能とされている。これにより、構造体触媒2自体の温度は、例えば800℃程度に昇温し、構造体触媒2の近傍に存在するガスを加熱することが可能である。この構造体触媒2の通電加熱により、水蒸気改質反応を継続するための熱源として、オフガス燃焼による熱供給だけでは不足する熱量を補うことができる。
【0050】
構造体触媒2は円筒状とされており、オフガス燃焼管3は、構造体触媒2の内側を挿通するように配置されている。このような構成によれば、定形性を有する構造体触媒2について、当該構造体触媒2の表面付近のガスを効率よく加熱することが可能である。また、オフガス燃焼管3と構造体触媒2との間においては、オフガス燃焼管3および構造体触媒2の双方からの熱供給によってガスをより効率よく加熱することができる。
【0051】
図示の実施形態では、水蒸気改質反応を行うための改質器として、真空断熱改質器1が用いられる。当該真空断熱改質器1の側壁11および端部壁12,13は、中空の真空空隙部を画定する二重構造を有しており、真空空隙部は、相互に間隔を隔てて設けられた複数の隔壁によって互いに分離された複数の部屋に区画されており、輻射伝熱を有効に遮断する技術と真空の持つ高い断熱特性を応用したものである。これにより、真空断熱改質器1は、一般的に断熱性能が優れているといわれるセラミックファイバー断熱材の熱伝導率0.14W/m・Kと比較して、熱伝導率が0.005~0.01W/m・Kと非常に小さく、断熱性能が極めて優れている。したがって、真空断熱改質器1からの放熱による温度低下を大幅に抑制することが可能である。
【0052】
以上、本発明の具体的な実施形態を説明したが、本発明の思想から逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。本発明に係る水素製造装置および水素の製造方法の具体的な構成については、上記実施形態と異なる構成としてもよい。
【0053】
上記実施形態において、水素精製装置の一例としてPSA分離装置について説明したが、本発明はこれに限定されない。水素精製装置としては他の構成を採用することができ、例えば膜分離を利用する構成としてもよい。
【0054】
上記実施形態の水素製造装置X1は、真空断熱改質器1での水蒸気改質反応により生成された改質ガスを導入する水性ガスシフト反応器4を具備する構成について説明したが、当該水性ガスシフト反応器4は必ずしも必要ではない。水性ガスシフト反応器4を具備しない構成の場合、真空断熱改質器1において生じた改質ガスを水素精製装置に送出し、当該改質ガスから水素精製装置により水素を濃縮分離してもよい。
【0055】
次に、本発明の有用性を実施例および比較例により説明する。
【0056】
〔実施例1〕
本実施例では、構造体触媒を用いた通電加熱による直接熱供給方式において、都市ガスの水蒸気改質による水素製造のランニングコストについて評価した。オフガス燃焼による熱供給は、改質器内部での触媒燃焼により直接熱供給する方式を採用し、熱伝達効率に優れている。原料に都市ガスを用いる場合、水素製造装置の水素製造能力については、改質率が91%、CO変成率が95%、PSA回収率が74%であった。この条件下で水素製造のコストを算出した。
【0057】
通電加熱方式では原料の都市ガスを燃焼用燃料として用いず、水素製造の原料としてのみ用いる。この場合、前記水素製造能力での原料原単位は0.326Nm3/Nm3-H2である。
【0058】
続いて、水蒸気改質反応に必要な熱量は、原料加温熱量および吸熱である反応熱の2種類を含む。原料ガスは改質器入口までに水素を多く含む改質ガスから熱交換で490℃まで加温されており、改質器では490℃から800℃まで原料を加温すると仮定する。前記水素製造能力での原料加温熱量は20.5kJ/mol-H2、吸熱である反応熱は66.2kJ/mol-H2である。よって、全必要熱量は86.7kJ/mol-H2である。
【0059】
また、水蒸気改質反応における加熱源は、触媒燃焼によるオフガス燃焼熱および構造体触媒への通電加熱の2種類を含む。前記水素製造能力でのオフガス燃焼熱は126.8kJ/mol-H2である。オフガス燃焼熱の熱伝達効率を51%(64.7kJ/mol-H2)と仮定した際、上述した全必要熱量である86.7kJ/mol-H2に到達するために、通電加熱で補う必要のある熱量は22.0kJ/mol-H2となる。
【0060】
次に、ランニングコスト試算を行った。水素製造装置のランニングコストは原料コストおよび電力コストの2種類を含む。原料である都市ガス単価を63円/Nm3とし、0.326Nm3/Nm3-H2の原料原単位から原料コストは20.6円/Nm3-H2である。電気単価10円/kWhとし、基本電力原単位0.16kWh/Nm3-H2および通電電力原単位0.27kWh/Nm3-H2から電力コストは4.3円/Nm3-H2である。よって、直接熱供給方式における都市ガス水蒸気改質水素製造装置のランニングコストは24.9円/Nm3-H2となった。
【0061】
〔実施例2〕
本実施例では、実施例1と同様の前提条件、直接熱供給方式に基づいて、オフガス燃焼熱の熱伝達効率を実施例1の51%から60%に変更してランニングコストを評価した。
【0062】
通電加熱方式では原料の都市ガスを燃焼用燃料として用いず、水素製造の原料としてのみ用いる。この場合、前記水素製造能力での原料原単位は0.326Nm3/Nm3-H2である。
【0063】
続いて、水蒸気改質反応に必要な熱量は、実施例1と同様に原料加温熱量および吸熱である反応熱の2種類を含む。前記水素製造能力での原料加温熱量は20.5kJ/mol-H2、吸熱である反応熱は66.2kJ/mol-H2である。よって、全必要熱量は86.7kJ/mol-H2である。
【0064】
また、水蒸気改質反応における加熱源は、触媒燃焼によるオフガス燃焼熱および構造体触媒への通電加熱による直接熱供給の2種類を含む。前記水素製造能力でのオフガス燃焼熱は126.8kJ/mol-H2である。オフガス燃焼熱の熱伝達効率を60%(76.1kJ/mol-H2)と仮定した際、上述した全必要熱量である86.7kJ/mol-H2に到達するために、通電加熱で補う必要のある熱量は10.6kJ/mol-H2となる。
【0065】
次に、ランニングコスト試算を行った。水素製造装置のランニングコストは、実施例1と同様に原料コストおよび電力コストの2種類を含む。原料である都市ガス単価を63円/Nm3とし、0.326Nm3/Nm3-H2の原料原単位から原料コストは20.6円/Nm3-H2である。電気単価10円/kWhとし、基本電力原単位0.16kWh/Nm3-H2および通電電力原単位0.13kWh/Nm3-H2から電力コストは2.9円/Nm3-H2である。よって、直接熱供給方式における都市ガス水蒸気改質水素製造装置のランニングコストは23.5円/Nm3-H2となった。
【0066】
〔比較例1〕
本比較例では、従来法の粒状触媒を用いたバーナー燃焼での間接熱供給方式における水蒸気改質水素製造のランニングコストについて評価した。実用化されている間接熱供給方式の水素製造装置(水素製造量300Nm3/h)の原料原単位0.37Nm3/Nm3-H2を参考にし、前記実施例1,2と同様の前提条件に基づいて水素製造のコストを算出した。
【0067】
前記水素製造能力での原料に用いられる原料原単位は0.326Nm3/Nm3-H2である。間接熱供給方式では原料の都市ガスを燃焼用燃料として用いるため、公表されている原料原単位は0.37Nm3/Nm3-H2と高くなっている。したがって、燃焼用燃料として用いられる原料原単位は、これらの差0.044Nm3/Nm3-H2であり、その分だけ余分に原料を燃料として使用しなければならないことになる。
【0068】
続いて、水蒸気改質反応における加熱源は、バーナー燃焼のための、オフガス燃焼熱および助燃用都市ガス燃焼熱の2種類を含む。前記水素製造能力でのオフガス燃焼熱は126.8kJ/mol-H2、助燃用都市ガス燃焼熱は43.8kJ/mol-H2である。
【0069】
また、水蒸気改質反応に必要な熱量は、前記実施例1,2と同様に、原料加温熱量および吸熱である反応熱の2種類を含む。前記水素製造能力での原料加温熱量は20.5kJ/mol-H2、吸熱である反応熱は66.2kJ/mol-H2である。
【0070】
したがって、全供給熱量は170.6kJ/mol-H2、全必要熱量は86.7kJ/mol-H2であるため、熱伝達効率は51%である。
【0071】
次に、ランニングコスト試算を行った。水素製造装置のランニングコストは、実施例1,2と同様に原料コストおよび電力コストの2種類を含む。原料である都市ガス単価を63円/Nm3とし、0.37Nm3/Nm3-H2の原料原単位から原料コストは23.3円/Nm3-H2である。電気単価10円/kWhとし、水素製造装置の基本電力原単位0.16kWh/Nm3-H2から電力コストは1.6円/Nm3-H2である。よって、間接熱供給方式における都市ガス水蒸気改質水素製造装置のランニングコストは24.9円/Nm3-H2となった。
【0072】
前記実施例1,2および比較例1から理解されるように、水蒸気改質水素製造装置のランニングコストは通電加熱による直接熱供給方式の方が低く、さらに原料原単位を低減することができる。オフガス燃焼熱供給方式を従来のバーナー燃焼による間接熱供給方式から真空断熱改質器内で触媒燃焼させる直接熱供給方式にすることで、従来と同様かそれ以上の熱伝達効率でオフガス燃焼熱を供給できることが期待できる。その結果、水蒸気改質反応を適切に行うための全体の熱エネルギー効率を高めることができ、水素の製造コスト削減に寄与する。
【符号の説明】
【0073】
X1 水素製造装置
1 真空断熱改質器
11 側壁
12 端部壁
121 ガス導入口
13 端部壁
131 ガス導出口
2 構造体触媒
3 オフガス燃焼管
31 ガス導入口
32 ガス排出口
4 水性ガスシフト反応器
41 ガス導入口
42 ガス導出口
5 PSA分離装置
61 配管
62 配管
63 熱交換器
64 配管
65 気液分離器
651 液排出口
652 液成分
66 配管
67 配管
68 配管
69 ブロア
71 電極
72 電極
8 電源
9 コントローラ
図1