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特許72376064-スチレン誘導体を重合したポリマー並びに、これを用いたマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、及びマグネシウム二次電池
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  • 特許-4-スチレン誘導体を重合したポリマー並びに、これを用いたマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、及びマグネシウム二次電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-03-03
(45)【発行日】2023-03-13
(54)【発明の名称】4-スチレン誘導体を重合したポリマー並びに、これを用いたマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、及びマグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230306BHJP
   C08F 12/30 20060101ALI20230306BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20230306BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20230306BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
C08F12/30
H01M10/054
H01M10/0566
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019011470
(22)【出願日】2019-01-25
(65)【公開番号】P2020117642
(43)【公開日】2020-08-06
【審査請求日】2021-11-19
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、「戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA)(特別重点技術領域「次世代蓄電池」、研究開発課題「新原理に基づく金属負極を有する高性能新電池の創製」)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301005614
【氏名又は名称】東ソー・ファインケム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182073
【弁理士】
【氏名又は名称】萩 規男
(72)【発明者】
【氏名】富永 洋一
(72)【発明者】
【氏名】井手本 康
(72)【発明者】
【氏名】石田 直哉
(72)【発明者】
【氏名】北村 尚斗
(72)【発明者】
【氏名】尾添 真治
(72)【発明者】
【氏名】藤 彰宏
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-508678(JP,A)
【文献】特開2003-086202(JP,A)
【文献】特開2012-107219(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176982(WO,A1)
【文献】特開2016-104860(JP,A)
【文献】特開2012-194466(JP,A)
【文献】特開2011-105948(JP,A)
【文献】特開2017-132728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08F301/00
C08C 19/00- 19/44
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
H01M 4/00- 4/98
H01M 10/00- 10/667
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1);
【化1】
(式(1)中、Mはマグネシウムを示し、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)
で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤
【請求項2】
下記一般式(6);
【化6】
(式(6)中、M はマグネシウムを示し、R 1 はフッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)
で表される構造を含む、請求項1記載の4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤。
【請求項3】
請求項2に記載の一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤を製造するための4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドの単量体であって、
下記一般式(8);
【化8】
で表される4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド。
(式(8)中、M はマグネシウムを示し、R は、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)
【請求項4】
以下の構造の単位(A)及び構造の単位(B)を含み、
構造の単位(A)が、構造の単位(A)及び構造の単位(B)の合計に対して99モル%~5モル%である、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤
(A);一般式(2)
【化2】
(式(2)中、Mはマグネシウムを示し、R はフッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)で表される4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系構造の単位であり、
構造の単位(B);
一般式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは水素原子又はフッ素原子を示し、nは1~5の整数を示す。)で表されるスチレン系構造の単位、
一般式(4);
【化4】
(式(4)中、Rは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10のアルキルを示す。)で表されるアクリル酸エステル系構造の単位、
及び
一般式(5);
【化5】
(式(5)中、RおよびRは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキルを示す。)で表されるアクリルアミド系構造の単位からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【請求項5】
下記一般式(6);
【化6】
(式(6)中、M はマグネシウムを示し、R 1 はフッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)
で表される構造を含む、請求項4記載の4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤。
【請求項6】
請求項5に記載の一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤を製造するための4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドの単量体であって、
下記一般式(8);
【化8】
で表される4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド。
(式(8)中、M はマグネシウムを示し、R は、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。)
【請求項7】
集電体と、マグネシウム二次電池用電極と、電解液とを備え、
マグネシウム二次電池用電極は、前記集電体上にマグネシウム二次電池用電極合剤を用いて形成された電極活物質層を有しており、
前記マグネシウム二次電池用電極合剤は、請求項1~6のいずれか一項に記載のマグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤と電池活物質とを含有するマグネシウム二次電池用電極合剤からなる、
マグネシウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、それを用いたマグネシウム二次電池用電極、及びマグネシウム二次電池に関する。
【0002】
マグネシウム二次電池の安定動作のため、正極活物質であるコバルト酸マグネシウム(MgCo,MCO)に適した新規ポリマーバインダーを開発した。MCO表面に擬似的なSEI(Solid Electrolyte Interface)層を形成させ、マグネシウム二次電池の安定的な充放電を実現させる目的で、Mgイオンのみがフリーに移動可能なポリアニオンを新規に設計した。
【背景技術】
【0003】
近年、二次電池の用途が携帯電話等のモバイル機器のみならず自動車、定置用電源等へと多様化しており、汎用されているリチウムイオン二次電池に代わる安価で高エネルギー密度を有する次世代の二次電池の開発が望まれている。その中でもマグネシウム二次電池は、高容量、安全性、高電圧作動、原材料調達等の利点があり、その開発が望まれている。
【0004】
従来、マグネシウム二次電池の正極作製においてバインダーに用いられるポリマー材料としては、PVdF(PolyVinylidene diFluoride)やPTFE(polytetrafluoroethylene)が多数を占めている。これらのポリマー材料は電気化学的に安定であり、また濡れ性が良く、電極材料と集電体の界面をラミネート・コネクトするバインダーあるいはコート剤として優れた特性を持つからである。
【0005】
正極に用いられるバインダーを検討するにあたり、WangらはPVdFのほかに市販のポリマーである、PAA(poly(acrylic acid))、PVA(poly(vinyl alcohol))、ゼラチン(gelatin)、SA(sodium alginate)、b-CD(Beta-cyclodextrin)の比較検討を行っている(例えば非特許文献1参照)。しかしながら、新たなポリマーを正極に用いられるバインダーあるいはコート剤の材料として考案し、その性能について調査した例はほとんどなかった。殊に、マグネシウム二次電池向けとして優れた作用を有するバインダーあるいはコート剤が望まれていた。
【0006】
マグネシウム二次電池等の二次電池は、正極、負極、電解液、セパレータ等を主要な部材として構成される。電極は一般に、電極活物質、導電材、バインダーあるいはコート剤および液状媒体を含有する畜電池用の合剤を集電体表面に塗布し、乾燥させることで製造される。
【0007】
マグネシウム二次電池用バインダーは、通常、バインダーあるいはコート剤となるポリマーを水や有機溶媒に溶解または分散させた組成物として用いられ、このバインダーあるいはコート剤の組成物に電極活物質、導電材を分散させて、合剤を調製する。
【0008】
また電極活物質間の密着性や電極活物質層と集電体との密着性その他の不具合があると、得られた二次電池について充放電を繰り返すと電池の容量が低下してしまう。さらに、電極活物質が二次電池用バインダーで覆われても、電極の抵抗を低く抑え、良好な充放電特性を有することが望まれる。殊に、Mg金属二次電池では充放電により急速に電池の容量が低下することから、これを改善できるバインダーあるいはコート剤が望まれていた。
【0009】
特許文献1には、側鎖に親水性基を有するテトラフルオロエチレン等の含フッ素オレフィン共重合体または両末端に疎水性のパーフルオロアルキル基を有する線状の親水性重合体から選ばれる数平均分子量が1000~1000000の重合体からなるバインダーもしくはコート剤が、電極活物質や導電助剤などの電極材料を微細で均質に分散可能で、得られた電極コンポジット層が高い加工性を有するとする発明が開示されている。しかしながら、このバインダーがマグネシウム二次電池について充放電の繰り返しにより電池容量の低下を起こさないか否かは不明である。
【0010】
特許文献2には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、およびフッ化ビニリデンからなる群より選ばれる単量体(s)に基づく単位(s)の1種以上を有し、ガラス転移温度が-60℃~20℃である含フッ素共重合体(Z)、および液状媒体を含有する蓄電デバイス用バインダー組成物が、良好な柔軟性および密着性を有し、良好な塗工性が得られ、二次電池における良好な充放電特性を実現できると記載されている。しかしながら、引用文献2では正極活物質としてLiNi0.5Mn0.2Co0.3などのLi系の二次電池として評価したものであって、マグネシウム二次電池について充放電の繰り返しにより電池容量の低下を起こさないか否かは不明である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第2010/134465号
【文献】特開2018-005972号公報
【非特許文献】
【0012】
【文献】N. Wang et al. J. Power Sources 341, 219-229 (2017)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
マグネシウム二次電池用バインダーとしては現在のところ、リチウム(Li)イオン二次電池で既に実績のあるポリフッ化ビニリデン(PVdF)が正極用のバインダーとして用いられている。しかしながら、リチウムイオン二次電池において用いられているバインダーがマグネシウム二次電池用バインダーあるいはコート剤として適しているかは不明である。また、マグネシウム二次電池用バインダーあるいはコート剤としても新しいポリマーの提案例は少なく、適したポリマー系バインダーが明確になっていない。このため、基礎段階においても試行錯誤されており、さらなる検討が必要である。殊に既に報告されているマグネシウム二次電池に関しては、数サイクルの充放電で容量が大きく低下することが課題となっており、さらなる改善が求められている。
【0014】
そこで本発明の目的は、新規な4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドを重合した重合体(ポリマー)又は4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドを第一の単量体とし第一の単量体と共重合する第二の単量体とを共重合した重合物(ポリマー)並びに、これを用いた充放電におけるサイクル特性及び/又は電気容量に優れたマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、及びマグネシウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドを重合したポリマー、例えばポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)などのポリマーが、マグネシウム二次電池用基材間を結着するバインダーとして、あるいはマグネシウム二次電池用基材自身の表面をコーティングするコート剤として優れた性質を有することを見出した。さらにこれを用いたマグネシウム二次電池用バインダーあるいはコート剤をマグネシウム二次電池に組み入れることで、充放電におけるサイクル特性及び/又は電気容量に優れたマグネシウム二次電池を製造することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
すなわち本発明は、下記一般式(1);
【化1】
で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体に係る。
【0017】
ここで、式(1)中、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。
【0018】
また本発明は、以下の構造の単位(A)及び構造の単位(B)を含み、
構造の単位(A)が、構造の単位(A)及び構造の単位(B)の合計に対して99モル%~5モル%である、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体に係る。
【0019】
構造の単位(A);一般式(2)
【化2】
(式(2)中、MおよびRは上記式(1)と同じ。)で表される4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系構造の単位であり、
構造の単位(B);
一般式(3)
【化3】
(式(3)中、Rは水素原子又はフッ素原子を示し、nは1~5の整数を示す。)で表されるスチレン系構造の単位、
一般式(4);
【化4】
(式(4)中、Rは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10のアルキルを示す。)で表されるアクリル酸エステル系構造の単位、
及び
一般式(5);
【化5】
(式(5)中、RおよびRは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキルを示す。)で表されるアクリルアミド系構造の単位からなる群より選ばれる少なくとも一つである。
【0020】
また本発明は、下記一般式(6);
【化6】
で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体に係る。
【0021】
ここで、式(6)中、Mはアルカリ土類金属を示し、R1は上記式(1)と同じである。
【0022】
さらに本発明は、上記一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を製造するための4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドの単量体(モノマー)に係る。
【0023】
さらに本発明は、上記一般式(1)もしくは一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体、または、上記の構造の単位(A)及び構造の単位(B)を含み、構造の単位(A)が、構造の単位(A)及び構造の単位(B)の合計に対して99モル%~5モル%である、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体を含む、マグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤に係る発明である。
【0024】
また本発明は、上記のマグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤と電池活物質とを含有するマグネシウム二次電池用電極合剤に係る発明である。
【0025】
また本発明は、集電体と、前記集電体上に、上記のマグネシウム二次電池用電極合剤を用いて形成された電極活物質層を有する、マグネシウム二次電池用電極に係る発明である。
【0026】
また本発明は、集電体と、マグネシウム二次電池用電極及び電解液を備え、
マグネシウム二次電池用電極は、前記集電体上にマグネシウム二次電池用電極合剤を用いて形成された電極活物質層を有しており、
前記マグネシウム二次電池用電極合剤は、上記のマグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤と電池活物質とを含有するマグネシウム二次電池用電極合剤からなる、
マグネシウム二次電池に係る発明である。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、コバルト酸マグネシウム(MgCo)表面に擬似的なSEI(Solid Electrolyte Interface)層を形成させ、マグネシウム二次電池の安定的な充放電、即ち、安定動作を実現させる目的で、マグネシウム(Mg)イオンのみがフリーに移動可能なポリアニオンを新規に設計することにより、当該電池の正極活物質であるコバルト酸マグネシウムに適した新規ポリマーバインダーを提供できる。
【0028】
このMg含有新規ポリマー(Mg-poly)を正極にバインダーとして所定量使用すれば、少なくとも放電容量は25mAh/gで8サイクルまで大きな容量低下が起こらず、安定的に充放電が発現できる。
【0029】
本発明に係るMgポリマーは、正極活物質(MCO)を結着するだけの、いわゆるバインダーとしての役割のみならず、マグネシウム二次電池の充放電サイクルの安定化及び/又は容量劣化の低減に機能している。また、Mg含有新規ポリマー(Mg-poly)の存在によって、電解液に含まれる溶媒やMg塩の正極近傍での劣化(分解)を防いでいると推察され、結果として、充放電サイクルの安定化及び/又は容量劣化の低減に寄与することができる。
【0030】
本発明によれば、マグネシウム二次電池用バインダーあるいはコート剤として適する、充放電におけるサイクル特性及び/又は電気容量に優れたマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤、それを用いたマグネシウム二次電池用電極及びマグネシウム二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本明細書において「単量体」又は「モノマー」とは、重合性炭素-炭素二重結合を有する化合物である。
【0032】
本明細書において「重合体」又は「ポリマー」とは、単量体又はモノマーが重合した高分子化合物を言い、一種の単量体が重合したものだけでなく、単量体とこれと異なる単量体の一種もしくは複数種とを組み合わせて得られる共重合体となる高分子化合物であってもよい。さらにこれらの重合体または共重合体となる高分子化合物は、ランダム共重合体、交互共重合体、あるいはブロック共重合体のいずれであってもよい。
【0033】
本明細書において、含フッ素重合体又は含フッ素共重合体の数平均分子量又は重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、N,N-ジメチルホルムアミド溶液などの含フッ素重合体が可溶な溶媒を用いて測定し、例えば東ソー株式会社製の標準ポリスチレンキット PStQuick C/PStQuick D/PStQuick Eなどの標準ポリスチレンキットを用いて得た測定値(ピークトップ分子量と溶出時間などのパラメータによる)と比較し、ポリスチレン換算値として得られる値である。
【0034】
<含フッ素重合体製造のための単量体>
本発明のマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤に用いられる含フッ素重合体を製造するために、第一の単量体を単体で重合して重合体を得ることができる。さらに第二の単量体あるいは第一の単量体以外の二種以上の単量体と第一の単量体とを共重合させて共重合体とする。
【0035】
第二の単量体としては、第一の単量体である4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドあるいはその塩とラジカル共重合あるいはその他の重合反応ができるものであれば特に制限はない。
【0036】
例えば、スチレン、クロロスチレン、p-アミノスチレン、ジクロロスチレン、ブロモフロロスチレン、トリフロロスチレン、ニトロスチレン、シアノスチレン、α-メチルスチレン、p-クロロメチルスチレン、p-シアノスチレン、p-アセトキシスチレン、p-t-ブトキシスチレン、p-塩化p-スチレンスルホニル、エチルp-スチレンスルホニル、メチルp-スチレンスルホニル、プロピルp-スチレンスルホニル、4-ビニル安息香酸、p-トリメトキシシリルスチレン、3-イソプロペニル-α,α’-ジメチルベンジルイソシアネート、ビニルベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどのスチレン類、イソブチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、2-フェニルビニルアルキルエーテル、ニトロフェニルビニルエーテル、シアノフェニルビニルエーテル、クロロフェニルビニルエーテル、クロロエチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸オクチル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸ステアリル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ボルニル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸2-ブトキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸テトラヒドロフルフリル、アクリル酸メトキシエチレングリコール、アクリル酸エチルカルビトール、アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、アクリル酸4-ヒドロキシブチル、アクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、ポリエチレングリコールアクリレート、アクリル酸グリシジル、2-(アクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、アクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、アクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、アクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、アクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチルなどのアクリル酸エステル類、メタクリル酸メチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸sec-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ボルニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸グリシジル、ポリエチレングリコールメタクリレート、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸メトキシエチレングリコール、メタクリル酸エチルカルビトール、メタクリル酸2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸4-ヒドロキシブチル、2-(メタクリロイルオキシ)エチルフォスフェート、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸3-(ジメチルアミノ)プロピル、メタクリル酸2-(イソシアナート)エチル、メタクリル酸2,4,6-トリブロモフェニル、メタクリル酸2,2,3,3-テトラフロロプロピル、メタクリル酸2,2,2-トリフロロエチル、メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフロロプロピル、メタクリル酸2,2,3,4,4,4-ヘキサフロロブチル、ジアセトンメタクリレートなどのメタクリル酸エステル類、イソプレンスルホン酸、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2,3-ジクロロ-1,3-ブタジエン、2-シアノ-1,3-ブタジエン、1-クロロ-1,3-ブタジエン、2-(N-ピペリジルメチル)-1,3-ブタジエン、2-トリエトキシメチル-1,3-ブタジエン、2-(N,N-ジメチルアミノ)-1,3-ブタジエン、N-(2-メチレン-3-ブテノイル)モルホリン、2-メチレン-3-ブテニルホスホン酸ジエチルなどの1,3-ブタジエン類、N-フェニルマレイミド、N-(クロロフェニル)マレイミド、N-(メチルフェニル)マレイミド、N-(イソプロピルフェニル)マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-メチルフェニルマレイミド、N-ブロモフェニルマレイミド、N-ナフチルマレイミド、N-ヒドロキシフェニルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミド、N-カルボキシフェニルマレイミド、N-(ニトロフェニル)マレイミド、N-ベンジルマレイミド、N-(4-アセトキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(4-オキシ-1-ナフチル)マレイミド、N-(3-フルオランチル)マレイミド、N-(5-フルオレセイニル)マレイミド、N-(1-ピレニル)マレイミド、N-(2,3-キシリル)マレイミド、N-(2,4-キシリル)マレイミド、N-(2,6-キシリル)マレイミド、N-(アミノフェニル)マレイミド、N-(トリブロモフェニル)マレイミド、N-[4-(2-ベンゾイミダゾリル)フェニル]マレイミド、N-(3,5-ジニトロフェニル)マレイミド、N-(9-アクリジニル)マレイミド、マレイミド、N-(スルフォフェニル)マレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド、N-エチルマレイミド、N-メトキシフェニルマレイミドなどのマレイミド類、フマル酸ジブチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジシクロヘキシル、フマル酸ビス2-エチルヘキシル、フマル酸ドデシルなどのフマル酸ジエステル類、フマル酸ブチル、フマル酸プロピル、フマル酸エチルなどのフマル酸モノエステル類、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジエチルなどのマレイン酸ジエステル類、マレイン酸ブチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸エチル、マレイン酸ジシクロヘキシルなどのマレイン酸モノエステル類、無水マレイン酸、無水シトラコン酸などの酸無水物、アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、N-メチロールアクリルミド、スルフォフェニルアクリルアミド、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-1-メチルスルホン酸、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドなどのアクリルアミド類、メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリルアミド、N,N-ジエチルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミド、メタクリロイルモルホリン、N,N-ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、イソプロピルメタクリルアミド、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、メタクリルアミドアルキルトリアルキルアンモニウムクロライドなどのメタクリルアミド類などが挙げられる。
【0037】
その他にも、ビニルピロリドン、スルフォフェニルイタコンイミド、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-シアノエチルアクリレート、シトラコン酸、無水シトラコン酸、ビニル酢酸、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサミック酸ビニル、クロトン酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルフタレート、モノ2-(メタクリロイルオキシ)エチルサクシネート、モノ2-(アクリロイルオキシ)エチルサクシネート、メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、アクロレイン、ビニルメチルケトン、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、ビニルエチルケトン、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、デヒドロアラニン、二酸化イオウ、塩化ビニル、イソブテン、N-ビニルカルバゾール、ビニリデンジシアニド、パラキノジメタン、クロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン、ノルボルネン、N-ビニルカルバゾール、アクリル酸、メタクリル酸等が挙げられる。
【0038】
用いられる第一の単量体としては、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドあるいはそのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩が挙げられる。さらに具体的には、ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが挙げられるが、この化合物に制限されることはなく、後述する重合体を製造できる単量体であれば特に制限なく用いることができる。
【0039】
具体的に、第一の単量体としては、下記一般式(7);
【化7】
で表される4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドが挙げられる。
【0040】
ここで、式(7)中、Mは水素原子、アルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルを示す。
【0041】
上記一般式(7)で表わされる4-スチレンスルホニル(トリフルオロアルキルスルホニル)イミドは、前記一般式(1)または一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体の製造に好適に使用できる。
【0042】
一般式(7)について、Mは水素原子、ナトリウム(Na)等のアルカリ金属または、下記一般式(8)で表わされるマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属が好ましく、さらに下記一般式(9)で表わされるマグネシウム(Mg)であることが好ましい。
【0043】
Mが水素原子の場合には上記一般式(7)の単量体を重合後、ナトリウム(Na)等のアルカリ金属またはマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属などの他の金属を導入することができる。
【0044】
一般式(7)について、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルが好ましく、さらにフッ素原子又は、パーフルオロ基を有する炭素数1~3のアルキルが好ましく、特にフッ素原子、トリフルオロメチル(CF)基又はペンタフルオロエチル(CFCF)基が好ましい。
【0045】
【化8】
ここで、式(8)中、Mはアルカリ土類金属を示し、Rは、上記一般式(7)と同じである。
【0046】
【化9】
ここで、式(9)中、Rは、上記一般式(7)と同じである。なお、式(9)において、電気陰性度から鑑みて、窒素(N)は陰性に荷電(N)、Mgは陽性に荷電(Mg2+)となって存在しているものと思われる。
【0047】
上記の単量体を単独で重合して含フッ素重合体等の重合物を得ることができる。上記の一般式(8)の単量体は、本発明のマグネシウム二次電池用バインダー又はコート剤に含まれる一般式(1)または一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を製造するために有用な出発原料又は中間体としての単量体として有用であり、さらに一般式(9)の単量体は、後記する一般式(13)で表される構造を含むマグネシウム 4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体を製造するために有用な出発原料又は中間体としての単量体として有用である。
【0048】
さらに二種以上の単量体より共重合させて含フッ素共重合体を得る場合は、第一の単量体とは別に、第二あるいはそれ以外の単量体による複数種の単量体を用いて共重合体とするとよい。第二の単量体としては、第一の単量体と共重合できるのであれば制限されることなく用いることができ、上記したスチレンその他の化合物を挙げることができる。
【0049】
上記に挙げた第二の単量体について、さらに具体的には、上記の4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体を得るための構造の単位(A)及び構造の単位(B)を構成する単量体である。
【0050】
この内、構造の単位(A)については、上記の一般式(7)~(9)の4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドが挙げられる。
【0051】
構造の単位(B)については、上記の一般式(3)のスチレン系構造の単位、一般式(4)のアクリル酸エステル系構造の単位、及び一般式(5)のアクリルアミド系構造の単位から選ばれる一つまたは複数の構造の単位を構成できる単量体が好ましい。
【0052】
すなわち、一般式(3)のスチレン系構造の単位としては、下記一般式(10)が挙げられる。ここで、式(10)中、Rは水素原子又はフッ素原子を示し、nは1~5の整数を示す。
【0053】
【化10】
【0054】
すなわち、一般式(4)のアクリル酸エステル系構造の単位としては、下記一般式(11)が挙げられる。ここで、式(11)中、Rは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10のアルキルを示す。
【0055】
【化11】
【0056】
すなわち、一般式(5)のアクリルアミド系構造の単位としては、下記一般式(12)が挙げられる。ここで、式(12)中、RおよびRは水素原子又は任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐アルキルを示す。
【0057】
【化12】
【0058】
<単量体の製造方法>
単量体の製造方法としては、例えばナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであれば、反応容器にトリフルオロメタンスルホンアミド、炭酸ナトリウム、溶媒として酢酸エチルを仕込み、反応物が十分に混合できる程度に撹拌しながら、0℃~70℃、好ましくは10℃~60℃、さらに好ましくは20℃~50℃に、通常は40℃程度に加熱する。
【0059】
次いで、4-スチレンスルホニルクロリド溶液、例えば反応に関与しないトルエン等の有機溶媒の溶液を加え、必要により4-スチレンスルホニルクロリド溶液を滴下し、撹拌しながら、30℃~90℃、好ましくは40℃~80℃、さらに好ましくは50℃~70℃に、通常は60℃程度に加熱し、所定時間、例えば1時間~50時間、好ましくは5時間~20時間、さらに好ましくは10時間~15時間、通常は13時間程度撹拌する。
【0060】
得られた反応液を例えば室温まで放冷した後、反応停止させるために水などを加え、所定時間、例えば1分~10時間、好ましくは10分~5時間、さらに好ましくは30分~2時間程度撹拌した後に、分液し、得られた有機層を20%食塩水などの塩を含む水溶液で洗浄する。
【0061】
洗浄後、有機層として例えばトルエンなどの有機溶媒を加え、ロータリーエバポレータなどの公知の処方、装置により低沸点溶媒を蒸発させ、濃縮等することで目的物を得ることができる。
【0062】
なお、用いる反応容器は反応物、目的物の量に応じて適宜容量を変更でき、加熱、冷却方法や装置、撹拌方法、濃縮方法は本発明の目的を達しうるものであれば適宜、適正な装置等を用いることができる。
【0063】
得られた目的物は、保存あるいは重合反応のために、例えば水溶液としてもよく、またナトリウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩としてもよい。
【0064】
得られた目的物の物性等を把握するために分析するとよい。分析方法としては、ナトリウム塩などのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩の場合には、ICP-AES分析などにより金属イオン含量を求めることができる。またH-NMR、19F-NMRなどのNMR分析により分析することもでき、具体的処方は通常の処方に準じることでよい。
【0065】
<含フッ素重合体>
含フッ素重合体は単量体を基本単位とした重合体である。
【0066】
本発明は、下記一般式(1);
【化1】
で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体に係る発明である。
【0067】
ここで、式(1)中、Mは水素原子、ナトリウム(Na)等のアルカリ金属または、下記一般式(6)で表わされる構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体である。
【0068】
式(6)中のMはマグネシウム(Mg)等のアルカリ土類金属が好ましく、さらに下記一般式(13)で表わされる構造を含むマグネシウム 4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体が好ましい。
【0069】
上記の式(1)中、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルが好ましく、さらにフッ素原子又は、パーフルオロ基を有する炭素数1~3のアルキルが好ましく、特にフッ素原子、トリフルオロメチル(CF)基又はペンタフルオロエチル(CFCF)基が好ましい。
【0070】
また一般式(1)で表わされる構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体は、一般式(1)で表わされる構造を1または2以上繰り返す構造であり、後記のように重合体の分子量としては、数平均分子量として、1,000ダルトン~1,000,000ダルトン、重量平均分子量として、2,000ダルトン~200,000ダルトンとなる繰り返し数とすればよい。
【0071】
【化6】
【0072】
式(6)中、Mはアルカリ土類金属を示し、Rは上記式(1)と同じであり、繰り返し数は1または2以上である。
【0073】
【化13】
【0074】
式(13)中、Rは上記式(1)と同じであり、繰り返し数は1または2以上である。なお、式(13)において、電気陰性度から鑑みて、窒素(N)は陰性に荷電(N)、Mgは陽性に荷電(Mg2+)となって存在している、すなわち、「―N―Mg2+―N―」(「N」の上付き「-」は陰性に荷電して状態を示す)と結合しているものと思われる。
【0075】
さらに「―N―Mg2+―N―」の状態に由来する「N」は、一般式(6)または一般式(13)に表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体において、隣り合った4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミドの鎖間で相互作用する場合であっても、隣り合っていない鎖間で相互作用する場合のいずれも含まれる。
【0076】
また上記の構造の単位(A)及び構造の単位(B)を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体の場合、例えば構造の単位(B)がスチレン系構造の単位であれば、下記一般式(14)のような構造となると思われ、構造の単位(A)及び構造の単位(B)の繰り返し数は1または2以上である。一般式(14)において「―N―Mg2+―N―」の状態は上記と同様である。式(14)中、R及びnは上記式(3)と同じである。
【0077】
【化14】
【0078】
一般式(1)、(6)又は(13)について、Rは、フッ素原子又は、少なくとも1つのフッ素原子を含む任意の数の置換基を有する炭素数1~10の直鎖若しくは分岐鎖アルキルが好ましく、さらにフッ素原子又は、パーフルオロ基を有する炭素数1~3のアルキルが好ましく、特にフッ素原子、トリフルオロメチル(CF)基又はペンタフルオロエチル(CFCF)基が好ましい。
【0079】
また本発明は上記一般式(1)もしくは一般式(6)で表される構造を含む4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系重合体、または、上記の構造の単位(A)及び構造の単位(B)を含み、構造の単位(A)が、構造の単位(A)及び構造の単位(B)の合計に対して99モル%~5モル%である、4-スチレンスルホニル(アルキルスルホニル)イミド系共重合体をマグネシウム二次電池用バインダーあるいはコート剤に適用した発明に係る。
【0080】
さらに第一の単量体を含む共重合体としては、任意の第二の単量体とを組み合わせて共重合体を得ることができる。ここで、第二の単量体は1種または複数の単量体を組み合わせたものであってもよい。
【0081】
第二の単量体の種類と共重合量は、必要に応じて適宜調整すれば良い。例えば、電池形状によっては、電極活物質層のプレスが必須となるが、バインダーやコート剤のガラス転移温度が高すぎると、電極活物質層にクラックが生じることがある。これを抑制するため、ガラス転移温度を下げるような(メタ)アクリル酸エステル系単位や(メタ)アクリルアミド系単位を導入すれば良い。また、使用する導電材、導電助剤及び集電体に対する密着性の向上、電極合剤に用いる有機溶剤への溶解性の向上、さらには、電解液に対する膨潤性の調整やバインダーとの結着性などを目的として、第二の単量体の種類と量を調整すれば良い。
【0082】
<含フッ素重合体の製造方法>
含フッ素重合体の製造方法としては、例えば上記した単量体、例えば4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの水溶液を、水などの溶媒、開始剤として例えば開始剤として過硫酸アンモニウム、添加剤として例えば3-メルカプト-1,2-プロパンジオールを反応容器入れた後、重合反応を進行させるために脱酸素雰囲気で、例えば不活性気体存在下、さらに具体的には窒素雰囲気下、所定温度、10℃~80℃、好ましくは20℃~70℃、さらに好ましくは30℃~60℃に、通常は50℃程度に、所定時間、例えば1時間~50時間、好ましくは5時間~40時間、さらに好ましくは10時間~30時間、通常は24時間程度撹拌する。
【0083】
この処理により目的物であるポリマー、例えば第一の単量体として4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドを用いた場合には、ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)を得ることができ、形態として水溶液として得ることでよい。
【0084】
更に第二または複数の単量体を用いて共重合し、含フッ素共重合体を製造するときは、第一の単量体単体での重合と同様に、公知の処方を適用すればよい。
【0085】
上記に製造処方の例示を挙げたが、さらに重合反応に用いる材料について以下に付記する。
【0086】
反応溶媒は特に限定するものではないが、モノマー又はその塩溶解性等を考慮すると、水及び水溶性溶剤の混合物が好ましい。水溶性溶剤としては、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等があげられる。好ましくは、アセトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、およびジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0087】
分子量調節をするための添加剤は特に限定されるものではないが、例えば、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド、ジエチルキサントゲンジスルフィド、ジエチルチウラムジスルフィド、2,2’-ジチオジプロピオン酸、3,3’-ジチオジプロピオン酸、4,4’-ジチオジブタン酸、2,2’-ジチオビス安息香酸などのジスルフィド類、n-ドデシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、チオサリチル酸、3-メルカプト安息香酸、4-メルカプト安息香酸、チオマロン酸、ジチオコハク酸、チオマレイン酸、チオマレイン酸無水物、ジチオマレイン酸、チオグルタール酸、システイン、ホモシステイン、5-メルカプトテトラゾール酢酸、3-メルカプト-1-プロパンスルホン酸、3-メルカプトプロパン-1,2-ジオール、メルカプトエタノール、1,2-ジメチルメルカプトエタン、2-メルカプトエチルアミン塩酸塩、6-メルカプト-1-ヘキサノール、2-メルカプト-1-イミダゾール、3-メルカプト-1,2,4-トリアゾール、システイン、N-アシルシステイン、グルタチオン、N-ブチルアミノエタンチオール、N,N-ジエチルアミノエタンチオールなどのメルカプタン類、ヨードホルムなどのハロゲン化炭化水素、ジフェニルエチレン、p-クロロジフェニルエチレン、p-シアノジフェニルエチレン、α-メチルスチレンダイマー、ベンジルジチオベンゾエート、2-シアノプロプ-2-イルジチオベンゾエート、有機テルル化合物、イオウ、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、重亜硫酸ナトリウム、重亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸カリウム等が挙げられる。
【0088】
ラジカル重合により重合体を製造する場合、ラジカル重合開始剤としては、例えば、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジラウリルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルパーオキシ)-シクロヘキサン、シクロヘキサノンパーオキサイド、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシイソブチレート、t-ブチルパーオキシ-3,5,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、クミルパーオキシオクトエート、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素などのパーオキサイド類、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1-[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、4,4’-アゾビス(4-シアノバレリックアシッド)、2,2’-アゾビス(2,4,4-トリメチルペンタン)、2,2’-アゾビス{2-メチル-N-[1,1’-ビス(ヒドロキシメチル)-2-ヒドロキシエチル]プロピオンアミド}、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス{2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]ジサルフェートジハイドレート、2,2’-アゾビス{2-[1-(2-ヒドロキシエチル)-2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]}ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(1-イミノ-1-ピロリジノ-2-メチルプロパン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロライド、2,2’-アゾビス[N-(2-カルボキシエチル)-2-メチルプロピオンアミジン]テトラハイドレートなどのアゾ化合物等があげられる。また、必要に応じて、アスコルビン酸、エリソルビン酸、アニリン、三級アミンなどの有機系還元剤等を併用しても良い。
【0089】
用いる反応容器は反応物、目的物の量に応じて適宜容量を変更でき、加熱、冷却方法や装置、撹拌方法は本発明の目的を達しうるものであれば適宜、適正な装置等を用いることができる。
【0090】
得られた目的物は、保存あるいは重合反応のために、例えば水溶液、N-メチル-2-ピロリドン溶液など、水溶液、有機溶媒の溶液のいずれも用いることができ、目的に応じて調製することでよい。
【0091】
得られた目的物の物性等を把握するために分析するとよい。分析方法としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩の場合には、ICP-AES分析などにより金属イオン含量を求めることができる。またポリマーの分子量を測定する場合には、上述したようにゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、数平均分子量や重量平均分子量を測定することができる。
【0092】
本発明のマグネシウム金属二次電池用バインダー又はコート剤は、上記の含フッ素重合体を含んでおり、分子量としては、数平均分子量として、1,000ダルトン~1,000,000ダルトン、好ましくは、5,000ダルトン~200,000ダルトン、さらに好ましくは10,000ダルトン~100,000ダルトン、特に好ましくは20,000ダルトン~60,000ダルトンであればよい。重量平均分子量として、2,000ダルトン~2,000,000ダルトン、好ましくは、10,000ダルトン~400,000ダルトン、さらに好ましくは20,000ダルトン~200,000ダルトン、特に好ましくは40,000ダルトン~100,000ダルトンであればよい。
【0093】
<含フッ素重合体の後処理>
上記により得られる含フッ素重合体を、さらに水酸化マグネシウムなどのアルカリ土類金属の水酸化物や、その他のアルカリ土類金属化合物により反応あるいは処理することで、マグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤として、より適したものとなる。
【0094】
上記の含フッ素重合体の後処理方法としては、例えば上記した含フッ素重合体、例えばポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液を反応容器に入れた後、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物や、その他のアルカリ土類金属化合物を入れた後、反応を進行させるために脱酸素雰囲気で、例えば不活性気体存在下、さらに具体的には窒素雰囲気下、所定温度、0℃~50℃、好ましくは10℃~40℃、さらに好ましくは20℃~30℃に、通常は25℃程度に、所定時間、例えば10分~10時間、好ましくは20分~3時間、さらに好ましくは30分~2時間程度、通常は1時間程度撹拌する。
【0095】
この処理により目的物である含フッ素重合体の後処理物を得ることができ、形態として水溶液として得ることでよく、また水溶液、有機溶媒の溶液のいずれもとることができ、目的に応じて調製することでよい。
【0096】
用いる反応容器は反応物、目的物の量に応じて適宜容量を変更でき、加熱、冷却方法や装置、撹拌方法は本発明の目的を達しうるものであれば適宜、適正な装置等を用いることができる。
【0097】
得られた含フッ素重合体の後処理物の物性等を把握するために分析するとよい。分析方法としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩、マグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩の場合には、ICP-AES分析などにより金属イオン含量を求めることができる。またポリマーの分子量を測定する場合には、上述したようにゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)により、数平均分子量、重量平均分子量を測定することができる。
【0098】
含フッ素重合体の後処理により得られる本発明のマグネシウム金属二次電池用バインダー又はコート剤は、上記の含フッ素重合体の後処理物を含んでおり、分子量としては、数平均分子量として、1,000ダルトン~1,000,000ダルトン、好ましくは、5,000ダルトン~200,000ダルトン、さらに好ましくは10,000ダルトン~100,000ダルトン、特に好ましくは20,000ダルトン~60,000ダルトンであればよい。重量平均分子量として、2,000ダルトン~2,000,000ダルトン、好ましくは、10,000ダルトン~400,000ダルトン、さらに好ましくは20,000ダルトン~200,000ダルトン、特に好ましくは40,000ダルトン~100,000ダルトンであればよい。
【0099】
<マグネシウム金属二次電池用電極合剤>
本発明のマグネシウム金属二次電池用電極の製造に用いられるマグネシウム金属二次電池用電極合剤(以下、単に電極合剤ということがある。)は、本発明のマグネシウム金属二次電池用バインダーもしくはコート剤を含有するほか、電極活物質を含有する。必要に応じて導電材を含有してもよく、これら以外のその他の成分を含有してもよい。
【0100】
本発明で用いられる電極活物質は特に限定されず、公知のものを適宜使用できる。
【0101】
マグネシウム金属二次電池用の電極合剤の場合、用いる電極活物質は、電解質中で電位をかけることにより可逆的にマグネシウムイオンを挿入放出できるものであればよく、無機化合物でも有機化合物でも用いることができる。
【0102】
特に、正極の製造に使用する電極合剤には導電材を含有させることが好ましい。導電材を含有させることにより、電極活物質同士の電気的接触が向上し、活物質層内の電気抵抗を下げることができ、非水系二次電池の放電レート特性を改善することができる。
【0103】
導電材としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンブラック、グラファイト、気相成長カーボン繊維、およびカーボンナノチューブ、カーボンナノコーン、グラフェン、フラーレン等の導電性カーボンが挙げられる。電極合剤が、導電材を含有すると、少量の導電材の添加で電気抵抗の低減効果が大きくなり好ましい。
【0104】
その他の成分としては、電極合剤において公知の成分を用いることができる。具体例としては、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の水溶性ポリマー等が挙げられる。
【0105】
電極合剤中の、含フッ素重合体の合計の割合は、電極活物質100質量部に対して、1質量部~50質量部が好ましく、5質量部~40質量部がより好ましく、10質量部~30質量部質量部が特に好ましい。
【0106】
電極合剤中の固形分濃度は、電極合剤の100質量%に対して、30~95質量%が好ましく、40~85質量%がより好ましく、45~80質量%が特に好ましい。
【0107】
<マグネシウム二次電池用電極>
本発明のマグネシウム二次電池用電極は、集電体と、該集電体上に、本発明のマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤および電極活物質を含有する電極活物質層を有する。
【0108】
集電体としては、導電性材料からなるものであれば特に限定されないが、一般的には、アルミニウム、ニッケル、ステンレススチール、銅等の金属箔、金属網状物、金属多孔体等が挙げられる。正極集電体としては、アルミニウムが好適に、負極集電体としては銅が好適に用いられる。集電体の厚さは1~100μmであることが好ましい。
【0109】
正極集電体としては、特に制限されず、公知の正極集電体を使用することができる。正極集電体としては、アルミニウム、ステンレス、銅等からなる箔、メッシュ等が挙げられる。
【0110】
正極合剤は、正極活物質と、バインダーもしくはコート剤、導電助剤等とを混合することにより調製することができる。導電助剤としては、特に制限されず、公知の材料を使用することができる。
【0111】
バインダーもしくはコート剤としては、Mg含有新規ポリマー(Mg-poly)が好ましく用いられる。バインダーもしくはコート剤は、Mg含有量、ポリマーの分子量など種々適用可能であるが、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0112】
導電助剤としては、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、金属繊維等が挙げられる。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック等が挙げられる。導電助剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0113】
正極合剤に有機溶媒を添加してペースト化する場合、有機溶媒としては特に制限されず、公知の材料を使用することができる。有機溶媒としては、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド等が挙げられる。有機溶媒は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。正極集電体に対するペーストの塗布量は、マグネシウム二次電池の用途等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0114】
マグネシウム二次電池用電極の製造方法としては、例えば、本発明のマグネシウム二次電池用の電極合剤を集電体の少なくとも片面、好ましくは両面に塗布し、乾燥により電極合剤中の液状媒体を除去し、電極活物質層を形成することにより得られる。必要に応じて、乾燥後の電極活物質層をプレスして、所望の厚みに成形してもよい。
【0115】
電極合剤を集電体に塗布する方法としては、種々の塗布方法が挙げられる。例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、およびハケ塗り法等の方法が挙げられる。塗布温度は、特に制限ないが、通常は常温付近の温度が好ましい。乾燥は、種々の乾燥法を用いて行うことができ、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、(遠)赤外線や電子線等の照射による乾燥法が挙げられる。乾燥温度は、特に制限ないが、加熱式真空乾燥機等では通常室温~200℃が好ましい。プレス方法としては金型プレスやロールプレス等を用いて行うことができる。
【0116】
蓄電デバイスとしてのマグネシウム二次電池は、本発明の蓄電デバイス用電極を正極および負極の少なくとも一方の電極として備えるとともに電解液を備える。さらにセパレータを備えることが好ましい。
【0117】
電解液は電解質と非水溶媒を含む。これら電解質と非水溶媒は本発明の目的を達し得るものであれば特に制限されず、それぞれ公知の材料を使用することができる。
【0118】
例えば電解質としては、モノグライム(エチレングリコールジメチルエーテル)、ジグライム(ジエチレングリコールジメチルエーテル)、トリグライム(triglyme、トリエチレングリコールジメチルエーテル)、テトラグライム(ジメトキシテトラエチレングリコール)、Mg(N(SOCF、Mg(SOCF、Mg(ClO、MgBr、Mg(BF、Mg(PF等が挙げられ、その使用量は用途などに応じて適宜決めることができる。
【0119】
また例えば非水溶媒としては、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イオン液体等が挙げられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0120】
<マグネシウム二次電池>
本実施形態のマグネシウム二次電池は、前述した正極と、負極と、非水電解液とを有するものである。正極と負極との間にはセパレータが介在している。正極については前述したとおりであるため、以下では、正極以外の構成について詳細に説明する。
【0121】
<負極>
負極は、マグネシウムイオンを吸蔵及び放出可能な負極活物質を含む。
【0122】
負極活物質としては、金属マグネシウム及びマグネシウム合金が挙げられる。マグネシウム合金としては、Mg-Al合金、Mg-Zn合金、Mg-Mn合金、Mg-Ni合金、Mg-Sb合金、Mg-Sn合金、Mg-In合金等が挙げられる。
【0123】
また、負極活物質としては、マグネシウムと合金化するアルミニウム、亜鉛、リチウム、シリコン、スズ等の材料を用いることもできる。また、負極活物質としては、マグネシウムイオンを電気化学的に吸蔵及び放出可能な黒鉛、非晶質炭素等の炭素材料を用いることもできる。
【0124】
負極は、金属マグネシウム、マグネシウム合金等の負極活物質を電極に適した形状(板状等)に成形して作成することができる。
【0125】
また、負極は、上記の負極活物質を含有する負極合剤ペーストを負極集電体上に塗布し、乾燥して負極合剤層を形成し、更に必要に応じて圧延することにより作製することもできる。負極集電体としては、特に制限されず、公知の負極集電体を使用することができる。負極集電体としては、アルミニウム、ステンレス、銅等からなる箔、メッシュ等が挙げられる。
【0126】
負極合剤ペーストは、負極活物質と、必要に応じてバインダーもしくはコート剤、導電助剤等とを有機溶媒に添加して混合することにより調製することができる。バインダー、導電助剤、及び有機溶媒としては、正極と同様の材料を用いることができる。
【0127】
<セパレータ>
セパレータは、正極と負極との間に介在するように設けられ、正極と負極とを絶縁する。セパレータとしては、特に制限されず、公知のセパレータを使用することができる。セパレータの材料としては、ガラス、セラミックス、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。セパレータの形状としては多孔質体等が挙げられる。
【0128】
<非水電解液>
非水電解液は電解質と非水溶媒を含む。これら電解質と非水溶媒は本発明の目的を達し得るものであれば特に制限されず、それぞれ公知の材料を使用することができる。
【0129】
電解質としては、Mg(N(SOCF、Mg(SOCF、Mg(ClO、MgBr、Mg(BF、Mg(PF等が挙げられる。
【0130】
非水溶媒としては、アセトニトリル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、γ-ブチロラクトン、スルホラン、1,2-ジメトキシエタン、1,2-ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、3-メチル-1,3-ジオキソラン、プロピオン酸メチル、酪酸メチル、イオン液体等が挙げられる。これらは、単独、または2種以上を混合して用いることができる。
【0131】
<マグネシウム二次電池の形状等>
マグネシウム二次電池の形状は特に制限されず、コイン型、円筒型、積層型等のいずれであってもよい。また、マグネシウム二次電池内の電気的な接続形態(電極構造)は、非双極型(内部並列接続型)であっても双極型(内部直列接続型)であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0132】
図1】実施例9において製造された本発明に係るマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤の乾燥品を示す図である。
図2】実施例9において製造された本発明に係るマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤の熱重量(TG)測定の結果を示す図である。
図3】実施例9において製造された本発明に係るマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤の示差走査熱量計(DSC)測定の結果を示す図である。
図4】実施例10において、本発明に係るマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤を用いずに製造された正極のSEM-EDS測定の結果を示す図であり、図上部がSEM(走査型電子顕微鏡)撮影像、図下部がEDSによる結果である。
図5】実施例10において、本発明に係るマグネシウム二次電池用バインダーもしくはコート剤(Mg-poly)を用いて製造された正極のSEM-EDS測定の結果を示す図であり、図上がSEM(走査型電子顕微鏡)撮影像、下がEDSによる結果である。
図6】実施例11において製造された本発明に係るマグネシウム二次電池の構成を示す概略図である。
図7】実施例12においてMg-poly10を用いて製造された電池の充放電試験の結果を示す図である。
図8】実施例12においてMg-poly20を用いて製造された電池の充放電試験の結果を示す図である。
図9】実施例13においてMg-polyありとして製造された電池の充放電試験の結果を示す図である。
図10】実施例13においてMg-polyなしとして製造された電池の充放電試験の結果を示す図である。
【実施例
【0133】
以下、実施例により本発明を説明するが、それらは本発明を限定するものではない。
【0134】
ナトリウムイオンの含有量は、誘導結合高周波プラズマ発光分光分析法(以下、「ICP-AES分析」と示す。)により定量した。
本発明により得られる化合物については、核磁気共鳴分析(以下、「NMR分析」と示す。)により反応系中における目的化合物の生成、および反応生成物を同定し、ゲル浸透クロマトグラフィー分析(以下、「GPC分析」と示す。)により反応系中における重合転化率、数平均分子量、および重量平均分子量を測定した。
加熱天秤により得られた化合物(乾燥品)を加熱し、その温度-重量プロファイルを測定した。また、示差走査熱量計(DSC)により加熱冷却曲線を測定した。
これらを以下に示す。
【0135】
[ICP-AES分析]
装置:パーキンエルマー社製、 Optima 8300
測定サンプルの調製方法:試料約0.5gを超純水に溶解し、25mLとした後、ICP-AES分析により、ナトリウムイオン及びマグネシウムイオン含有量を測定した。
【0136】
[NMR分析]
装置:ブルカー・バイオスピン社製、 AV-400M
測定試料の調製方法:内部標準物質として約0.05%のテトラメチルシランを含むジメチルスルホキシド-d6(99.5%)約0.7mLに試料を溶解し、H-NMRおよび19F-NMRを測定した。
【0137】
[GPC分析]
装置:東ソー株式会社製、 HLC-8320GPC
カラム:TSK guardcolumn Super AW-H/TSKgel Super AW6000/TSKgel Super AW4000/TSKgel Super AW2500
溶離液:臭化リチウム(0.01mol/L)のN,N-ジメチルホルムアミド溶液
カラム温度:40℃、流量:0.5mL/min
検出器:示差屈折率(RI)検出器、注入量:10μL
検量線:東ソー株式会社製の標準ポリスチレンキット PStQuick C/PStQuick D/PStQuick Eのピークトップ分子量と溶出時間から作成した。
測定サンプルの調製方法:試料約0.1mLを溶離液約5mLに溶解した。
【0138】
[熱重量分析(TG)]
装置:日立ハイテクサイエンス社製、型式:TG-DTA7200
測定方法:試料を5.4mg秤りとり加熱天秤へ入れ、10℃/分の速度で加熱し、温度および重量をモニターした。重量の測定誤差は+/-0.1mgである。
【0139】
[示差走査熱量計(DSC)分析]
装置:日立ハイテクサイエンス社製、型式:DSC7020
測定方法:試料を4.4mg秤りとりDSCへ入れ、10℃/分の速度で1回目加熱をし、その後、10℃/分の速度で冷却した。さらに10℃/分の速度で2回目加熱をした。
[SEM-EDS測定]
装置:JEOL(日本電子株式会社)製、型式:JCM-6000Plus
測定方法:試料を加速電圧15kV、積算回数50回の条件で測定した。
【0140】
<マグネシウム金属二次電池用バインダーもしくはコート剤の製造>
以下の実施例1~7により、マグネシウム金属二次電池用バインダーもしくはコート剤を製造した。
【0141】
(実施例1)ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成
20Lの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、トリフルオロメタンスルホンアミド736.8g(4.94mol)、炭酸ナトリウム1061.4g(10.01mol)、酢酸エチル7159.7gを入れた後に撹拌しながら40℃に加熱した。次に、36.9%4-スチレンスルホニルクロリド/トルエン溶液2750.0g(5.01mol)を滴下し、さらに60℃で撹拌を13時間継続した。得られた反応液を室温まで放冷した後、水8250.0gを加え、1時間撹拌した後に、分液し、得られた有機層を20%食塩水で洗浄した。トルエン6860.0gを加え、ロータリーエバポレータで濃縮したところ、目的物であるナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが1175.0g(収率68.6%)得られた。
【0142】
ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに対するナトリウムイオンの含有量を上記のICP-AES分析により測定したところ、7.3wt%であった。
【0143】
NMR分析結果は次の通りであった。
H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ (ppm) 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.79 (dd, J = 12.0 Hz, 20.0 Hz, 1H), 5.96 (d, J = 20.0 Hz, 1H), 5.39 (d, J = 12.0 Hz, 1H);19F-NMR(376 MHz, DMSO-d6): δ (ppm)-77.85(s, 3F).
【0144】
(実施例2)4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの水溶液の合成
実施例1で得られたナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド53.8g(169.6mmol)を水484.4gに溶解させた後、強酸性カチオン交換樹脂アンバーライト IR120B 150mLを充填した直径30cmのガラスカラムに5mL/分の流速で通液し、さらに水100gを5mL/分の流速で通液したところ、目的物である4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの水溶液が590.5g(純分46.9g、収率93.3%)得られた。
【0145】
4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに対するナトリウムイオンの含有量を上記のICP-AES分析により測定したところ、75ppmであった。
【0146】
NMR分析結果は次の通りであった。
H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ (ppm) 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.79 (dd, J = 12.0 Hz, 20.0 Hz, 1H), 5.96 (d, J = 20.0 Hz, 1H), 5.39 (d, J = 12.0 Hz, 1H);19F-NMR (376 MHz, DMSO-d6): δ (ppm)-77.85(s, 3F).
【0147】
(実施例3)マグネシウム (4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の合成
1Lの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、合成例2で得られた4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの水溶液125.9g(純分10.0g、31.7mmol)、水酸化マグネシウム927mg(15.9mmol)を入れた後、窒素雰囲気下、25℃で1時間撹拌した。次に、アセトニトリル312.9g、塩化マグネシウム六水和物133.2g(655.0mg)を加え、さらに25℃で撹拌を1時間継続した後に、分液した。得られた有機層にトルエン312.9gを加え、ロータリーエバポレータで濃縮したところ、目的物であるマグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが9.4g(収率90.8%)得られた。
【0148】
上記のICP-AES分析によりマグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドに対するマグネシウムイオンの含有量を測定したところ、3.7 wt%、ナトリウムイオンの含有量を測定したところ、110 ppmであった。
NMR分析結果は次の通りであった。
【0149】
H-NMR (400 MHz, DMSO-d6): δ (ppm) 7.74 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 7.58 (d, J = 8.0 Hz, 2H), 6.79 (dd, J = 12.0 Hz, 20.0 Hz, 1H), 5.96 (d, J = 20.0 Hz, 1H), 5.39 (d, J = 12.0 Hz, 1H);19F-NMR (376 MHz, DMSO-d6): δ (ppm)-77.85(s, 3F).
【0150】
(実施例4)ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液の合成
100mLの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、実施例2で得られた4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの水溶液37.8g(純分3.0g、9.5mmol)、水22.2g、過硫酸アンモニウム2mg(10μmol)、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール31mg(285μmol)を入れた後、窒素雰囲気下、50℃で24時間撹拌したところ、目的物であるポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液が56.5g(純分2.8g、収率93.3%)得られた。
【0151】
4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの重合転化率を上記のGPC分析により測定したところ、94.0%であった。ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の数平均分子量は29,000、重量平均分子量は42,000であった。
【0152】
(実施例5)ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液の合成
実施例4における過硫酸アンモニウム2mg(10μmol)を22mg(95μmol)、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール31mg(285μmol)を10mg(10μmol)に変えたところ、目的物であるポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液が56.4g(純分2.8g、収率93.3%)得られた。
【0153】
4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの重合転化率を上記のGPC分析により測定したところ、100.0%であった。ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の数平均分子量は49,000、重量平均分子量は93,000であった。
【0154】
(実施例6)ポリ(ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)のN-メチル-2-ピロリドン溶液の合成
100mLの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、実施例1で得られたナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド6.7g(19.9mmol)、N-メチル-2-ピロリドン36.9g、アゾビスイソブチロニトリル65mg(397μmol)を入れた後、窒素雰囲気下、70℃で24時間撹拌したところ、目的物であるポリ(ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)のN-メチル-2-ピロリドン溶液が43.6g(純分6.7g、収率100.0%)得られた。
【0155】
ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの重合転化率を上記のGPC分析により測定したところ、98.6%であった。ポリ(ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の数平均分子量は29,000、重量平均分子量は57,000であった。
【0156】
(実施例7)ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)のN-メチル-2-ピロリドン溶液の合成
実施例6で得られたポリ(ナトリウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)のN-メチル-2-ピロリドン溶液43.6g(純分6.7g)にN-メチル-2-ピロリドン90.4gを加えて希釈した後、アンバーライト 200CHT 150mLを充填した30φのクロマトカラムに5mL/分の流速で通液し、さらにN-メチル-2-ピロリドン200gを5mL/分の流速で通液したところ、目的物であるポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)のN-メチル-2-ピロリドン溶液が379.4g(純分6.7g、収率100.0%)得られた。
【0157】
ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)に対するナトリウムイオンの含有量を上記のICP-AES分析により測定したところ、389ppmであった。
【0158】
ポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の数平均分子量は29,000、重量平均分子量は57,000であった。
【0159】
(実施例8)ポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液の合成
100mLの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、実施例5で得られたポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液56.5g(純分2.8g)、水酸化マグネシウム258mg(4.4mol)を入れた後、窒素雰囲気下、25℃で1時間撹拌したところ、目的物であるポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液が56.8g(純分2.9g、収率100.0%)得られた。
【0160】
ポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)に対するマグネシウムイオンの含有量を上記のICP-AES分析により測定したところ、3.6wt%(ポリマー中のスルホニルイミド単位に対して0.5当量)であった。
【0161】
ポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の数平均分子量は49,000、重量平均分子量は93,000であった。
【0162】
(実施例9)ポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液の合成と物性評価
100mLの四口フラスコに撹拌機と温度計を装着し、実施例7で得られたポリ(4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液15.3g(純分0.765g)、水酸化マグネシウム1.5g(0.0257mol)を入れた後、窒素雰囲気下、25℃で48時間撹拌し、目的物であるポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)の水溶液が(純分0.60g、収率78.4%)得られた。
【0163】
ポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド)(以下、「p-TfNS-Mg」と略することがある。)の数平均分子量は29,000、重量平均分子量は57,000であった。
【0164】
これを加熱真空乾燥器により乾燥し、図1に示すように、板状結晶状の半透明、淡黄~白色の物質を得た。これをマグネシウム二次電池用正極に用いるために、粉状に粉砕した。
【0165】
以上により得たポリ(マグネシウム 4-スチレンスルホニル(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(p-TfNS-Mg)は、それ自体が親水性でかつ非常に吸湿性が高いという性質がある。
大気開放系での測定のため、含有水分による重量減少も考えられるが、熱重量(TG)測定のカーブの形状から、二段階の分解が起こっていることが推察される。
【0166】
<マグネシウム二次電池用電極(正極)の製造>
以下の手順でマグネシウム二次電池用正極を製造した。
【0167】
(実施例10)
正極作成にあたっては、活物質であるMgCo(MCO)0.125gと、アセチレンブラック(AB)0.125gに対し、バインダーとしてp-TfNS-Mg(以下、「Mg-poly」とも称する。)を0.025g又は0.05g粉末状態で混合し、その後溶媒としてN-メチルピロリジン(NMP)1.9g(又はmL)を段階的に加え、スラリーを作製した。
【0168】
得られたスラリーを、集電体であるAlシート(20cm×22cm×20μm(厚さ))に塗布し、85℃で、真空乾燥して溶媒を除去して正極を得た。
【0169】
図4にはバインダーとしてp-TfNS-Mgを用いずに製造された正極のSEM-EDS測定の結果を示す。図上部がSEM(走査型電子顕微鏡)撮影像、図下部がEDSによる結果と測定条件である。また図5にはバインダーとしてp-TfNS-Mgを用いて製造された正極のSEM-EDS測定の結果を示す。図上部がSEM(走査型電子顕微鏡)撮影像、図下部がEDSによる結果と測定条件である。図4図5のEDSによる結果から明らかに、p-TfNS-Mgを用いて製造された正極にはMgポリマー由来の硫黄(S)があり、図4では硫黄(S)が認められない。このことから、上記の製造条件によりp-TfNS-Mgが正極表面に導入されていることが分かる。
【0170】
図7及び図8に示すように、重量比でMCO:AB:Mg-poly=50:50:10のものと50:50:20のものの2種類について作製した。50:50:10のものは「約9%」、50:50:20のものは「約17%」(以上、重量換算)のとなり、それぞれ、「Mg-poly10」(図7参照)、「Mg-poly20」(図8参照)と称した。
【0171】
図9に示す電池は、MCO(活物質)とMg-Polyを混ぜ複合化し、これにアセチレンブラック(AB)とPTFE(polytetrafluoroethylene)を混ぜて電極を作成した。材料は重量比でMCO:AB:PTFE:Mg-poly=5:5:1:0.5とし、「Mg-polyあり」(図9参照)と称した。図10に示す電池は、MCO(活物質)にアセチレンブラック(AB)とPTFEを混ぜて電極を作成した。材料は重量比でMCO:AB:Mg-poly=5:5:1とし、「Mg-polyなし」(図10参照)と称した。
【0172】
<マグネシウム二次電池の製造>
(実施例11)
正極は、実施例10で得たMCO Mg-poly複合正極を用い、セパレータとしてワットマン(φ=16mm)を用い、負極にはAZ31(φ=9mm)を用いたコインセルを用いた。電解液にはMg(TFSI)の0.5M triglyme電解質溶液を用い、Ar雰囲気下で作製した。図6に示すように、正極、セパレータ(ワットマン)、負極の順に積層し、マグネシウム二次電池を作製した。
【0173】
また別途、実施例10で得た正極を用い、上記と同様にして、マグネシウム二次電池を作製した。
【0174】
<マグネシウム二次電池の評価>
(実施例12)
実施例11で作製したマグネシウム二次電池について、100℃の恒温槽内で0.1C、すなわち0.1時間で満充電し充電量の全てを放電する条件で充放電試験を行った。
【0175】
正極材量として、実施例10で製造した、MCO:AB:Mg-poly=50:50:10のもの(Mg-poly10)と50:50:20のもの(Mg-poly20)の2種類について測定した。その結果を、Mg-poly10は図5に、Mg-poly20は図6に示した。
【0176】
図5及び図6から分かるように、Mg-poly10を用いて製造した電池は4サイクルまで6~8mAh/g程度を維持し、Mg-poly20を用いて製造した電池は8サイクルまで25~30mAh/g程度を維持でき、大きく改善できている。
【0177】
このことから、Mg-polyの正極への塗布条件や、添加量を最適化することで、充放電容量およびサイクル数をさらに改善できることが期待される。
【0178】
(実施例13)
実施例11で作製したマグネシウム二次電池について、実施例12と同様に評価し、その結果を図9および図10に示した。
【0179】
図9および図10より、いずれも通常のMCO電極に近いデータが得られた。充放電容量は図10に示すMg-polyなしの方が図9に示すMg-polyありにおけるよりも高容量ではあるものの、Mg-polyあり(図9)においては、図中央部のプラトー部について1~3回目の線で示すように充放電サイクルに伴う変化が小さいことが分かる。
【0180】
このことから、実施例12の結果と同様に、Mg-polyの正極への塗布条件や、添加量を最適化することで、充放電容量およびサイクル数をさらに改善できることが期待される。
【0181】
<まとめ>
マグネシウム二次電池の安定動作のため、正極活物質であるコバルト酸マグネシウム(MgCoO4、MCO)に適した新規ポリマーバインダーを開発した。MCO表面に擬似的なSEI(Solid Electrolyte Interface)層を形成させ、電池の安定的な充放電を実現させる目的で、Mgイオンのみがフリーに移動可能なポリアニオンを新規に設計した。
このMg含有新規ポリマー(Mg-poly)を正極にバインダーとして約17%使用したところ、放電容量は25 mAh/gと小さいながら8サイクルまで大きな容量低下が起こらず、安定的に充放電が発現していることが分かった。
【0182】
このMg含有新規ポリマー(Mg-poly)を正極にバインダーとして約17%使用したところ、放電容量は25mAh/gで8サイクルまで大きな容量低下が起こらず、安定的に充放電が発現できる。
【0183】
本発明に係るMgポリマーは、正極活物質(MCO)を結着するだけの、いわゆるバインダーとしての役割のみならず、マグネシウム二次電池の充放電サイクルの安定化及び/又は容量劣化の低減に機能している。また、Mg含有新規ポリマー(Mg-poly)の存在によって、電解液に含まれる溶媒やMg塩の正極近傍での劣化(分解)を防いでいると推察される。
【符号の説明】
【0184】
1:ケース
2:ワッシャー
3:SUS
4:ワットマン
5:SUS
6:ガスケット
7:ケース
8:AZ31(負極)
9:カソード(正極)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10