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特許7260092マンガン酸化物/導電性担体複合体及びその用途
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  • 特許-マンガン酸化物/導電性担体複合体及びその用途 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】マンガン酸化物/導電性担体複合体及びその用途
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20230411BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20230411BHJP
   H01M 12/08 20060101ALI20230411BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20230411BHJP
【FI】
H01M4/90 X
H01M4/86 B
H01M12/08 K
B01J23/34 M
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019059964
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020161341
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】504174135
【氏名又は名称】国立大学法人九州工業大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【弁理士】
【氏名又は名称】泉名 謙治
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【弁理士】
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【弁理士】
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 大一郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 陽一
(72)【発明者】
【氏名】井手 望水
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康浩
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-200953(JP,A)
【文献】特表2015-524741(JP,A)
【文献】特開2002-093425(JP,A)
【文献】特開2006-302822(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/90
H01M 4/86
H01M 4/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MnOx(式中、x=1.3~2.05である。)又はMnOOHで表される粒子径0.01μm以上50μm以下のマンガン酸化物がカーボンブラック又はケッチェンブラックの表面に担持しているマンガン酸化物/導電性担体複合体であって、マンガン酸化物/導電性担体複合体中のアルカリ金属元素の含有量が1.0wt%未満であることを特徴とするマンガン酸化物/導電性担体複合体。
【請求項2】
請求項1に記載のマンガン酸化物/導電性担体複合体を含む酸素還元・酸素発生用電極。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のマンガン酸化物/導電性担体複合体を含む電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マンガン酸化物/導電性担体複合体及びその用途に関する。より詳しくは、電池、例えば空気電池において、酸素還元/酸素発生触媒として使用されるマンガン酸化物/導電性担体複合体及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
マンガン酸化物/導電性担体は、高価な貴金属元素や貴金属元素/カーボン担体等の酸素還元/酸素発生触媒の安価な代替品として種々の検討が行われていることが知られている。例えば、非特許文献1では、各種マンガン酸化物の酸素還元/酸素発生触媒能を評価されており、特許文献1では、高純度ラムズデライト型二酸化マンガンをカーボンに担持し空気極触媒に用いた空気電池が検討されており、特許文献2では、平均粒子径100nm以下のMnOx(x=4/3~8/5)を触媒として用いた空気電池用触媒が検討されている。
【0003】
一方、高効率なマンガン酸化物の製造方法として、非特許文献2では、電極上にマンガン酸化物を電着させずに電解を実施する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5211858号公報
【文献】特開2002-93425号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】J.Am.Chem.Soc.2014,136,11452-11464
【文献】Electrochemistry of Manganese dioxide and Manganese dioxide batteries Chapter7 p115-p122
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の材料は、合成方法の煩雑さや導電性担体であるカーボンとの混合を、後工程で実施している点から、導電性担体上にマンガン酸化物が高分散しにくいことに加え、工程数が多くなり工業的には効率が低いことが予想される。また、マンガンアルカリ塩を用いた製造方法であり、かつ、アルカリを構造中に取り込んでしまう結晶構造であるため、触媒反応上不要なアルカリ金属を材料中に余分に含有してしまう問題点を有している。
【0007】
特許文献1は、触媒電極として使用する際のマンガン酸化物の分散性や二次粒子の状態については言及されておらず、有効に三相界面を形成できていないことが予想され、また、空気極触媒を得るための工程数も多い。特許文献2は、記載の平均粒子径は導電性担体に担持する前の一次粒子径であり、後工程で導電性担体と混合した際に、粒子が凝集していることが予想される。
【0008】
一方、非特許文献2では、アルカリ電池の材料として求められる粒子密度を高めることができず、工業化には至っていない。また、アルカリ電池向け材料として検討されていることから、導電性担体との複合化、酸素還元、発生触媒としての検討等は行われていない。
【0009】
本発明の目的は、凝集することなく高分散し、アルカリ金属含有量が少なく、触媒活性を示すマンガン酸化物の表面積が大きく、電池、特に、空気電池の作用極(空気極)における触媒として使用した場合に優れた出力特性を示すマンガン酸化物/導電性担体複合体、及びその用途を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、MnOx(x=1.3~2.05)又はMnOOHで表される粒子径0.01μm以上50μm以下のマンガン酸化物が導電性担体の表面に担持しており、アルカリ金属元素の含有量が1.0wt%未満であるマンガン酸化物/導電性担体複合体、及びその用途にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、マンガン酸化物が凝集することなく高分散し、アルカリ金属含有量が少なく、触媒活性を示すマンガン酸化物の表面積が大きく、電池、特に、空気電池の作用極(空気極)における触媒として使用した場合に優れた出力特性を示す。
また、本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体を、特に、空気電池の作用極(空気極)における触媒として使用した場合には、優れた出力特性を有する電池が得られる。
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、導電性担体の表面に特定のマンガン酸化物が担持しているものである。
導電性担体の表面に担持されているマンガン酸化物は、MnOx(式中、x=1.3以上2.05以下である。)又はMnOOHの一方又は両方を含有する。マンガン酸化物がこれらの一方又は両方を含有しないと、酸素還元、発生触媒としての活性は低く、大気中での構造安定性も低くなる。
結合水やボイドを内蔵したマンガン酸化物またはMnOOHが電池特性に好ましい。マンガン酸化物の結晶形態は、特に限定しないが、nsutite(γ-MnO)、ε-MnO、ramsdellite、Pyrolusiteなどを含むものである。
【0013】
導電性担体の表面に担持しているマンガン酸化物の粒子径は、0.01μm以上50μm以下である。該粒子径が50μmより大きいと、触媒表面が少なくなり、触媒活性が低くなる。該粒子径が0.01μmより小さいと、マンガン酸化物の凝集により、触媒表面が少なくなり、触媒活性が低くなる。触媒表面をより確保するため、該粒子径は、0.02μm以上40μm以下が好ましく、0.03μm以上30μm以下がさらに好ましい。
【0014】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、アルカリ金属元素の含有量が1.0wt%未満である。該含有量が1.0wt%以上であると、アルカリ金属がマンガン酸化物の触媒活性を阻害し、触媒活性が低くなる。触媒活性をより維持するため、0.7wt%以下が好ましく、0.5wt%以下がさらに好ましい。ここにおけるアルカリ金属とは、Li、Na、Kなどを意味し、特に、Naを意味する。また、アルカリ金属の含有量の測定は、ICP法により行われる。
【0015】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体に含まれる導電性担体は、例えば、炭素材料、微細な金属粉、導電性金属酸化物等が例示される。炭素材料としては、炭素を含有し、マンガン酸化物を十分担持する表面があれば特に限定はないが、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、グラファイト、ケッチェンブラック、活性炭素、カーボンナノチューブ、グラフェンシート等が例示される。なかでも、カーボンブラック又はケッチェンブラックが好ましい。
【0016】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、好ましくは、マンガン塩水溶液に導電性担体を懸濁させて得られた導電性担体懸濁マンガン塩水溶液を用いて電解を行い、導電性担体の表面に、マンガン酸化物を電析させて担持させることで製造することができる。
【0017】
上記マンガン塩水溶液は電解槽内の電解液として用いるものである。マンガン塩に特に制限はないが、例えば、硝酸マンガン、塩化マンガン、硫酸マンガン等が例示できる。
導電性担体懸濁マンガン塩水溶液中の導電性担体の含有量(濃度)は特に限定するものではないが、0.2g/L以上15.0g/L以下が好ましく、0.5g/L以上5.0g/L以下がさらに好ましい。
【0018】
電解を行う前又は電解を行っている間に、導電性担体懸濁マンガン塩水溶液に酸を添加してもよい。酸としては、例えば、硝酸、塩酸、硫酸等が例示できる。添加する酸の量は特に限定するものではないが、0.1g/L以上60g/L以下が好ましく、0.2g/L以上50g/L以下がより好ましい。
【0019】
電解を行う前又は電解を行っている間に、導電性担体懸濁マンガン塩水溶液に、さらにマンガン塩水溶液を添加してもよい。添加する量は特に限定するものではないが、3g/L以上140g/L以下が好ましく、5g/L以上130g/L以下がより好ましい。
【0020】
上記電析時の温度に特に制限はないが、マンガン塩水溶液の凝固・蒸発を抑える観点から1℃以上99℃以下が好ましく、さらに、マンガン酸化物生成の副反応を抑制する観点から1℃以上80℃以下がより好ましく、1℃以上60℃以下がさらに好ましい。
【0021】
電解し、電析する期間に特に制限はなく、マンガン酸化物と導電性担体複合体との任意の割合(マンガン酸化物/導電性担体複合体)の複合体が任意の量、得られる時間(例えば、30分以上5日以下)でよい。
電流密度に特に制限はないが、電極一枚当たりのマンガン酸化物/導電性担体複合体の生産量を維持して、生産性を維持し、さらに、電極電位を低くして、電流効率を向上させて、生産性を維持するため、0.5A/dm以上60A/dm以下が好ましく、0.8A/dm以上50A/dm以下がより好ましく、1.0A/dm以上40A/dm以下がさらに好ましい。
【0022】
導電性担体懸濁マンガン塩水溶液に対する電流量は特に限定するものではないが、0.05A/L以上8.0A/L以下が好ましく、0.1A/L以上6.5A/L以下がより好ましく、0.12A/L以上5.0A/L以下がさらに好ましい。
【0023】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、高いマンガン酸化物の分散性と触媒面積から、高性能な酸素還元・酸素発生用電極として、電池、特に、空気電池の作用極(空気極)として好適に使用することができる。
【0024】
電池用の作用極として使用する方法としては、特に限定はない。例えば、特許第5211858号公報などに記載される既知の方法で種々の添加物と混合して作用極合剤として用いることができる。例えば、マンガン酸化物/導電性担体複合体に導電性を付与するためのカーボン、結着剤を加えた混合粉末を調製し、金属メッシュなどの集電体に圧着して作用極とすることができる。
【0025】
本発明に使用する作用極に特に限定はなく、例えば、チタン(Ti)、グラファイト、PbO、ダイヤモンド電極、白金(Pt)、金、鉛、銅等が例示できる。
また、対極に関しても特に限定はなく、例えば、グラファイト、白金(Pt)、金、鉛、銅等が例示できる。
【0026】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、高いマンガン酸化物の分散性と触媒面積を有するため、出力特性に優れた電池として使用することができる。ここにおける電池とは、空気電池、特に亜鉛-空気電池、リチウム-空気電池、ナトリウム-空気電池、カリウム-空気電池、カルシウム-空気電池等が例示できる。なかでも、亜鉛空気電池、リチウム空気電池が好ましい。
【実施例
【0027】
以下、本発明を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
<粒子径の測定>
粒子径の測定は、「JIS H 7804:2005 電子顕微鏡による金属触媒の粒子径測定方法」に準拠した。すなわち、SEM-EDS(走査型電子顕微鏡)にて倍率5,000倍で観察した際のMn粒子の長径Lと短径Lを求め、以下の式により粒子径dを算出した。
d=(L+L)/2
【0028】
実施例1
2.0mol/Lの硫酸マンガン水溶液中に、1.0gのケッチェンブラックを懸濁させて得たケッチェンブラック懸濁硫酸マンガン水溶液(硫酸マンガン水溶液中のケッチェンブラック濃度:1.25g/L)を用いて、ホウ素ドープダイヤモンド電極(10cm)を作用極、対極をPt板とし、電流密度を20A/dm、ケッチェンブラック懸濁硫酸マンガン水溶液に対する電流量を2.5A/L、電解温度を10℃として、1時間半電解し、マンガン酸化物/導電性担体複合体を得た。電解後のマンガン酸化物/導電性担体複合体は、洗浄後、60℃で一晩乾燥させた。
【0029】
上記で得られたマンガン酸化物/導電性担体複合体のSEM画像(倍率:5,000倍)及びMn元素マッピング(倍率:5,000倍)を図1に示す。
Mn元素マッピングは、エネルギー分散型X線分析(EDS)により、SEM画像上の特性X線の強度を調べることで含有元素の濃度を調べることで行った。
得られたSEM画像から、担体上に1μmから5μm程度の粒子径のマンガン酸化物が分散していることが確認できた(マンガン酸化物の一般式:MnOOH、マンガン酸化物の粒子径:1~5μm、マンガン酸化物/導電性担体複合体中のアルカリ金属元素の含有量:0.1wt%)。
【0030】
得られたサンプルをホットプレスにてニッケルメッシュ(厚み:150μm、直径:15mm)に圧着し、評価用電極とした。これを70℃、5M-KOH水溶液中、純酸素雰囲気中でポテンシオスタット(HAL3001;北斗電工社製)、ファンクションジェネレーター(HB-305;北斗電工社製)を用い、アクリルセル中でIV測定を実施した。対極にPt板、参照極にRHEを用い、400mVまで-25mV/3min,stepにて測定した。電流値が-400mA・cmに達した際の還元電圧は815mVであった。
【0031】
比較例1
ケッチェンブラック1g、電解二酸化マンガンを2g、エタノール150mlを、ボールミルで4時間混合し、15分間超音波処理した後、乾燥して、マンガン酸化物/導電性担体複合体を得た(マンガン酸化物の一般式:MnO、マンガン酸化物の粒子径:18μm、マンガン酸化物/導電性担体複合体中のアルカリ金属元素の含有量:0.1wt%)。実施例1と同様の方法でIV測定を実施し、電流値が-400mA・cmに達した際の電圧を測定した。還元電圧は680mVであった。
【0032】
IV測定の結果に示されるように、実施例1で得られたマンガン酸化物/導電性担体複合体は比較例1で得られた複合体と比較すると高い電圧値を示した。これは、実施例1で得られたマンガン酸化物/導電性担体複合体において、マンガン酸化物が高分散しており、電解液、導電性担体、触媒の三相界面を形成しやすく、触媒活性が、比較例1の粉砕混合品と比較し、高かったためであると考えられる。このことから、電池用の酸素還元・酸素発生用電極として考えた際に、優れた特性を示すことが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明のマンガン酸化物/導電性担体複合体はマンガン酸化物が導電性担体上に高分散しているため、触媒活性が良好な酸素還元・酸素発生用電極として、電池、特に空気電池の空気極触媒として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】実施例1に係るマンガン酸化物/導電性担体複合体のSEM画像(倍率:5,000倍)<上の図>、及びMn元素マッピング(倍率:5,000倍)<下の図>である。
図1