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  • -徐波活動促進剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-10
(45)【発行日】2023-04-18
(54)【発明の名称】徐波活動促進剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/05 20060101AFI20230411BHJP
   A61K 36/899 20060101ALI20230411BHJP
   A61K 36/22 20060101ALI20230411BHJP
   A61P 25/20 20060101ALI20230411BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20230411BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20230411BHJP
【FI】
A61K31/05
A61K36/899
A61K36/22
A61P25/20
A23L33/10
A23L33/105
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019093219
(22)【出願日】2019-05-16
(65)【公開番号】P2020186214
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-11-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】弁理士法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 優也
(72)【発明者】
【氏名】野崎 聡美
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】大石 勝隆
(72)【発明者】
【氏名】岡内 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 明花
【審査官】伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-153387(JP,A)
【文献】特開2016-132641(JP,A)
【文献】特開2019-004755(JP,A)
【文献】国際公開第2005/123074(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/010254(WO,A1)
【文献】最新 医薬大辞典 第2版,2001年10月20日,第818頁,「徐波睡眠」
【文献】ファルマシア,2010年,46(11),第1047~1052頁
【文献】薬局,2011年,62(10),第3383~3387頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
A61P
A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分として含有する、徐波活動促進剤。
【化1】
【請求項2】
脳波におけるシータ波に対するデルタ波の比率を高める機能を有する、請求項1に記載の徐波活動促進剤。
【請求項3】
睡眠中の徐波活動を促進させる、請求項1又は2に記載の徐波活動促進剤。
【請求項4】
前記一般式(I)におけるRがRに対してパラ位に結合している、請求項1~3の何れか1項に記載の徐波活動促進剤。
【請求項5】
前記一般式(I)におけるRが、炭素原子数15~27の飽和又は不飽和のアルキル基である、請求項1~4の何れか1項に記載の徐波活動促進剤。
【請求項6】
前記アルキルレゾルシノールとして、イネ科植物又はウルシ科植物由来のアルキルレゾルシノール含有抽出物を含有する、請求項1~5の何れか1項に記載の徐波活動促進剤。
【請求項7】
前記アルキルレゾルシノール含有抽出物が、イネ科植物又はウルシ科植物のアルコール抽出物である、請求項6に記載の徐波活動促進剤。
【請求項8】
前記イネ科植物が小麦又はライ麦であり、前記ウルシ科植物がカシューナッツである、請求項6又は7に記載の徐波活動促進剤。
【請求項9】
睡眠の6時間前以内に摂取することで徐波活動促進効果を発現する、請求項1~8の何れか1項に記載の徐波活動促進剤。
【請求項10】
飲食品である、請求項1~9の何れか1項に記載の徐波活動促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、深い眠りと密接に関連する徐波活動(SWA:Slow Wave Activity)を促進させ得る、徐波活動促進剤に関する。
【背景技術】
【0002】
睡眠は、レム睡眠と、それ以外の睡眠であるノンレム睡眠とに大別され、睡眠中はこれらが交互に繰り返される。レム睡眠は体の休息期であり、全身は脱力状態にあるが、大脳は部分的に活動している状態である。夢はレム睡眠中に見る場合が多いとされている。一方、ノンレム睡眠は脳の休息期であり、意識がなくなり大脳の活動が著しく低下している状態である。脳の疲労回復にはノンレム睡眠が特に重要であることが知られている。またノンレム睡眠は、記憶や運動学習の定着にも重要であることが知られている。
【0003】
本出願人は先に、穀類などに含まれるアルキルレゾルシノールにノンレム睡眠時間を増加させる作用があることを見出し、これを有効成分として含有する睡眠改善剤を提案した(特許文献1)。
【0004】
ところで、ノンレム睡眠は、睡眠の深さに応じてステージ1~4の4段階に分けることができ、ステージ1が最も睡眠が浅く、ステージ4が最も睡眠が深い。各ステージは脳波(EEG:Electroencephalogram)で区別できる。脳波は、大脳皮質の微弱な電位変動を頭皮上に置いた電極で記録したものであり、脳の機能状態、とりわけ大脳皮質の機能状態と密接に関係し、意識水準とよく対応して変化する。脳波は、脳の活動水準が高いほど周波数の高い波が多くなり(速波化)、活動が低下すると周波数の低い波が多くなる(徐波化)。ステージ3~4は、周波数の低い成分(徐波成分)が中心となることから徐波睡眠(slow wave sleep)などとも呼ばれ、熟眠感と関連があるとされている。ステージ3~4で特に目立つ徐波成分はデルタ波であり、ステージ4で計測される脳波の50%以上はデルタ波である。
【0005】
また、ノンレム睡眠の深さ又は強度の指標として、徐波活動(SWA)が知られている。睡眠中の徐波活動は深い眠りの特徴であるとされており、徐波活動が促進され活性化しているほど睡眠が深くなる。特許文献2には、脳内の徐波活動を促進するために、経頭蓋磁気刺激デバイスなどの脳刺激手段を用い、脳に周波数約5Hz以下の周期的刺激を与えることが開示されている。特許文献2に記載の技術によれば、睡眠障害がある人などの安眠を促進することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-153387号公報
【文献】特表2010-504843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
徐波活動を促進させることは、睡眠の質を高める上で有効である。特許文献2に記載の技術は、徐波活動の促進に効果があるものの、これを使用するためには経頭蓋磁気刺激デバイスなどの装置が必要であり、準備や操作が煩雑で汎用性に乏しい。より手軽に徐波活動を促進させ得る技術が望まれる。特許文献1には、穀類由来のアルキルレゾルシノールがノンレム睡眠時間を増加させることが開示されているが、徐波活動については言及がなく、自ずと、アルキルレゾルシノールと徐波活動との関係については言及がない。「徐波活動の促進」と「ノンレム睡眠時間の増加」とは関連性はあるものの、同一視できるものではない。
【0008】
本発明の課題は、徐波活動を促進させ、深く良質な睡眠を提供し得る、徐波活動促進剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、下記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分として含有する、徐波活動促進剤である。
【化1】
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、徐波活動を促進させ、深く良質な睡眠を提供し得る、徐波活動促進剤が提供される。この本発明の徐波活動促進剤は、その有効成分が、食経験が豊富な穀類やナッツ類に含まれている成分であることから、継続的に服用しても有害な副作用がなく安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実験食又は対照食を3日間摂取したマウスのノンレム睡眠中の徐波活動の活性化の程度を示すグラフであり、デルタ波比率(デルタ波/シータ波)の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明において「徐波活動促進剤」とは、脳内の徐波活動(SWA)の活性化を促進させる作用を有する薬学的組成物又は飲食用組成物を意味する。また、本発明において「徐波活動」とは、大脳皮質での低周波のリズム活動であり、具体的には例えば、0.5~4Hzの帯域又は0.5~4.5Hzの帯域の脳波図信号の電力に対応する。徐波活動は、睡眠中及び活動中(覚醒中)の双方で行われる。
【0013】
徐波活動の活性化の程度は、脳波におけるシータ(θ)波に対するデルタ(δ)波の比率(デルタ波/シータ波)を指標として表すことができる。以下、この比率を「デルタ波比率」ともいう。一般に、徐波活動の活性化に伴い、脳波はデルタ波が主流となる。したがって、デルタ波比率の数値が大きいほど、徐波活動が活性化していると判断できる。本発明の徐波活動促進剤は、後述する実施例1と比較例1との対比からも明らかなように、デルタ波比率を高める機能を有する。
【0014】
デルタ波比率は、デルタ波の強度積算値をシータ波の強度積算値で除することで求められる。すなわち、デルタ波比率=デルタ波の強度積算値/シータ波の強度積算値である。また、デルタ波(シータ波)の強度積算値は、所定の測定期間(例えばノンレム睡眠期間)におけるデルタ波(シータ波)の強度の単位時間(例えば1時間)当たりの平均値を求め、それらの平均値を積算することで求められる。デルタ波及びシータ波(脳波)は、公知の方法によって測定することができる。
【0015】
本発明の徐波活動促進剤は、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分として含有する。前記一般式(I)におけるRで表される飽和又は不飽和のアルキル基は、その炭素原子数により制限されるものではないが、炭素原子数15~27であることが好ましく、炭素原子数15~25であることがより好ましい。
【0016】
炭素原子数15~27の飽和アルキル基としては、代表例として、n-ペンタデシル、n-ヘプタデシル、n-ノナデシル、n-ヘンイコシル、n-トリコシル、n-ペンタコシル、n-ヘプタコシル等の直鎖状のものが挙げられ、これらの他に、分岐状又は環状のものでもよい。これらの中でも、炭素原子数15~25の飽和アルキル基が好ましく、炭素原子数15~25の直鎖飽和アルキル基がより好ましい。
【0017】
炭素原子数15~27の不飽和アルキル基としては、前記の炭素原子数15~27の飽和アルキル基に対応するものが挙げられる。不飽和アルキル基に含まれる不飽和結合の数及び位置に特に制限はない。
【0018】
また、前記一般式(I)におけるRは水素原子であることが好ましい。また、RはRに対してパラ位に結合していることが好ましい。
【0019】
本発明の徐波活動促進剤において有効成分として用いられる前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの具体例としては、以下のものが挙げられる。
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)
1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタコシルベンゼン(C27:0)
【0020】
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールとしては、Rが炭素原子数15~25の飽和アルキル基であり、Rが水素原子であるものが特に好ましく、とりわけ、下記6種類のアルキルレゾルシノールを含有するものが好ましい。
1)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数15の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR15ともいう)。
2)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数17の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR17ともいう)。
3)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数19の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR19ともいう)。
4)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数21の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR21ともいう)。
5)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数23の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR23ともいう)。
6)前記一般式(I)におけるRが炭素原子数25の飽和又は不飽和のアルキル基であるアルキルレゾルシノール(以下、AR25ともいう)。
【0021】
AR15として特に好ましいものは、Rが炭素原子数15の飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)が挙げられる。
AR17として特に好ましいものは、Rが炭素原子数17の飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)が挙げられる。
AR19として特に好ましいものは、Rが炭素原子数19の飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)が挙げられる。
AR21として特に好ましいものは、Rが炭素原子数21の飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)が挙げられる。
AR23として特に好ましいものは、Rが炭素原子数23の飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)が挙げられる。
AR25として特に好ましいものは、Rが炭素原子数25飽和アルキル基、Rが水素原子であるものであり、具体的には、1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)が挙げられる。
【0022】
本発明の徐波活動促進剤において、AR15、AR17、AR19、AR21、AR23及びAR25の含有量は、徐波活動促進剤による作用効果の一層の向上の観点から、それぞれ、下記範囲内にあることが好ましい。
AR15の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは0.1~10.0質量%、更に好ましくは0.1~5.0質量%、特に好ましくは0.5~1.5質量%である。
AR17の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは1.0~20.0質量%、更に好ましくは5.0~15.0質量%、特に好ましくは8.0~12.0質量%である。
AR19の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは25.0~40.0質量%、更に好ましくは27.5~37.5質量%、特に好ましくは30.0~35.0質量%である。
AR21の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは40.0~55.0質量%、更に好ましくは42.5~52.5質量%、特に好ましくは45.0~50.0質量%である。
AR23の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは1.0~15.0質量%、更に好ましくは2.5~12.5質量%、特に好ましくは5.0~10.0質量%である。
AR25の含有量は、本発明の徐波活動促進剤中、好ましくは0~5.0質量%、更に好ましくは0~2.0質量%、特に好ましくは0~1.5質量%である。
【0023】
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールは、常法により合成することができ、また市販品として入手することもできる。また、植物から常法により抽出したものを用いることもできる。アルキルレゾルシノールは、天然の非イソテルペノイド系フェノール性両親媒性化合物であるレゾルシノール脂質として、種々の植物に含まれていることが知られており、アルキルレゾルシノールの給源としては、イネ科植物以外にも、例えば、ウルシ科、イチョウ科、ヤマモガシ科、ヤブコウジ科、サクラソウ科、ニクズク科、アヤメ科、サトイモ科、キク科のヨモギ、マメ科等が知られている。これらの植物の中でも、イネ科植物及びウルシ科植物は、食経験が豊富で人体に対する安全性が高いことから、本発明の徐波活動促進剤の有効成分の給源に適している。特にイネ科植物は、可食性有効成分としてのアルキルレゾルシノールの研究が進んでいることもあり、本発明の徐波活動促進剤の有効成分の給源として好適である。すなわち、本発明の徐波活動促進剤は、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールとして、イネ科植物又はウルシ科植物から抽出したアルキルレゾルシノール含有抽出物(イネ科植物又はウルシ科植物由来のアルキルレゾルシノール含有抽出物)を含有することが好ましい。
【0024】
イネ科植物としては、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、イネ、ヒエ、アワ、キビ等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらのイネ科植物の中でも、アルキルレゾルシノール含量が比較的多く、高い活性が得られる点から、小麦又はライ麦が好ましい。また同様の観点から、ウルシ科植物としてはカシューナッツが好ましい。
【0025】
給源としてイネ科植物を用いる場合は通常、イネ科植物種子が用いられる。イネ科植物種子の形態は特に限定されず、例えば、イネ科植物種子(好ましくは種子外皮;糟糠類)そのもの;当該イネ科植物種子を切断、粉砕若しくは粉末化したもの;当該イネ科植物種子を乾燥したもの;当該イネ科植物種子を乾燥後粉砕若しくは粉末化したもの等を用いることができる。イネ科植物種子外皮を含む好適な例としては、ふすま、末粉、籾殻、ぬか等が挙げられる他、外皮を伴った種子も挙げられる。
【0026】
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールとして、イネ科植物又はウルシ科植物から抽出したアルキルレゾルシノール含有抽出物を用いる場合、該アルキルレゾルシノール含有抽出物としては、イネ科植物又はウルシ科植物のアルコール抽出物が好ましい。アルコールによる抽出方法は特に制限されないが、例えば、前記各種形態のイネ科植物種子をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の他、超臨界流体抽出法等が挙げられる。イネ科植物種子をアルコール中に浸漬、攪拌又は還流する方法の場合、抽出温度(アルコールの液温)は2~100℃が好ましく、抽出時間は0.5~72時間が好ましく、アルコール使用量は、イネ科植物種子100質量部に対し50~2000質量部が好ましい。ウルシ科植物のアルコール抽出は、イネ科植物種子のアルコール抽出に準じて行うことができる。
【0027】
抽出に用いられるアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1~4のもの)、及び1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコールが挙げられる。これらのアルコールの中でも、操作性や環境性の点から、エタノールが好ましい。尚、抽出に用いられるアルコールとしては、アルコール以外の水性成分(水、純水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、中性水等)が含まれている含水エタノールを用いることもできる。含水アルコール中のアルコール含有量は、通常70体積%以上、好ましくは80体積%以上、より好ましくは90体積%以上である。
【0028】
イネ科植物、ウルシ科植物等の植物のアルコール抽出物(アルキルレゾルシノール含有抽出物)は、分配クロマトグラフィーによって精製される。分配クロマトグラフィーは、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールが得られる手法であればその種類は問わないが、移動相として非水系溶媒を用いる順相クロマトグラフィー法が好ましく、オープンカラム法、中圧カラム法、高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法を適宜選択することができる。
【0029】
植物のアルコール抽出物(アルキルレゾルシノール含有抽出物)の分配クロマトグラフィーにおける移動相としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール等の1価の低級アルコール(好ましくは炭素原子数1~4のもの)、及び1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の多価アルコール等の室温(25℃)で液体であるアルコール;ジエチルエーテル、プロピルエーテル等のエーテル;酢酸ブチル、酢酸エチル等のエステル;アセトン、エチルメチルケトン等のケトン;ヘキサン;塩化メチレン;アセトニトリル;並びにクロロホルム等が挙げられ、これら溶媒の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。複数の溶媒を組み合わせて移動相とする場合、分配クロマトグラフィーの実施中(植物のアルコール抽出物の精製中)において、複数の溶媒の混合比を一定にするイソクラクティックモードでもよく、あるいは該混合比を変化させるグラジエントモードでもよい。また、分配クロマトグラフィーにおける担体としては、目的とする有効成分を担持-放出できる担体であればいずれも用いることができるが、一般的にはシリカゲル、ポリアクリルアミドゲル、デキストランゲル等を挙げることができる。植物のアルコール抽出物の分配クロマトグラフィーにおける検出波長は、170~320nmであればよく、好ましくは190~280nmである。
【0030】
植物(好ましくはイネ科植物又はウルシ科植物)のアルコール抽出物(好ましくはエタノール抽出物)の精製に好適な分配クロマトグラフィーの例として、下記分配クロマトグラフィーA及びBが挙げられる。
・分配クロマトグラフィーA:担体としてシリカゲル及び移動相としてヘキサン-酢酸エチル混合溶媒を用いた中圧カラム法(中圧クロマトグラフィー)を用い、且つその分配クロマトグラフィーの実施中に、移動相を「ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒においてヘキサンの含有割合が相対的に高いもの」から「ヘキサン-酢酸エチル混合溶媒においてヘキサンの含有割合が相対的に低いもの」へと変化させ(すなわち、「ヘキサン大-少」へのグラジエントモードで用い)、且つ検出波長254nmでのピーク成分を分取する。
・分配クロマトグラフィーB:担体としてシリカゲル及び移動相としてメタノールを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、且つ検出波長215nmでのピーク成分を分取する。
【0031】
本発明の徐波活動促進剤の形態は特に制限されず、例えば、植物のアルコール抽出物(アルキルレゾルシノール含有抽出物)を含む液状物(液体又は半液体)、該液状物中の液媒体(アルコール又は含水アルコール)を蒸発乾固して得られる乾固物又はその粉末、該乾固物又はその粉末をエタノール等のアルコールに溶解してなるアルコール溶液等が挙げられる。
【0032】
本発明の徐波活動促進剤は、哺乳動物の徐波活動を促進するために用いられる。哺乳動物としては、ヒトの他に、例えばイヌ、ネコ、マウス、ラット、ウサギ、ウシ、ウマ、サル等が含まれる。すなわち、本発明の徐波活動促進剤は、ヒトのみならず、ペット(愛玩動物)、家畜等に対しても適用可能であり、哺乳動物全般に対して医療目的又は非医療目的で適用し得る。
【0033】
本発明の徐波活動促進剤によって直接奏される作用効果は、徐波活動の促進(活性化)であるが、徐波活動が促進されることで睡眠の質が改善し得るので、本発明の徐波活動促進剤は、睡眠の質の改善という効果を奏し得る。なお、本発明の徐波活動促進剤は、睡眠(ノンレム睡眠)中の徐波活動のみならず、活動(覚醒)中の徐波活動も促進し得る(図1参照)。
【0034】
ここでいう「睡眠の質の改善」とは、寝つきが良くなる、不眠が改善される、睡眠状態が深くなる、覚醒後の気分が良くなる等の基準により評価され得る状態である。睡眠の質の改善は、マウス等の動物から脳波、筋電図、心電図、体温、血圧、行動(locomotion)などを測定し、当該動物の睡眠量を調べることによって評価することができる。睡眠の質の評価は、標準判定方法(Rechtschaffen A. & Kales A., A Manual of Standardized Terminology, Techniques and Scoring System for Sleep Stages of Human Subjects., Public Health Service: Washington DC, 1968)に従って行うことができる。具体的には、動物からの脳波等の測定データに基づいて睡眠ポリグラフを作成し、睡眠ポリグラフのエポック(例えば4~60秒間)毎に、行動(locomotion)の有無、脳波(δ波)の振幅、脳波のθ波成分比〔θ/(δ+θ)〕などに基づいて、動物の状態を覚醒、ノンレム睡眠、レム睡眠の各ステージとして判別すればよい。睡眠ポリグラフに基づく覚醒又は睡眠の判別は、睡眠解析研究用プログラム:SleepSign(登録商標)(キッセイコムテック株式会社)等により自動で行うことができる。その判別の結果、睡眠ステージを増加させた物質は、睡眠の質の改善効果を有し、睡眠障害を改善し得る物質として評価することができる。
【0035】
本発明の徐波活動促進剤は、徐波活動の促進が有効な用途に使用できる。本発明の徐波活動促進剤は、睡眠中、特にノンレム睡眠中の徐波活動を促進させる作用を有することから、不眠を主訴とする睡眠障害の治療に用いることができる。本発明の徐波活動促進剤は、例えば、不眠症、初期不眠症(就眠困難)、中途覚醒、早期覚醒、熟眠障害、睡眠周期の逆転等に適用可能であるが、これらに限られず、不眠を主訴とする睡眠障害全般に適用可能である。
【0036】
本発明の徐波活動促進剤は、哺乳動物の医薬品、医薬部外品又は食品として、あるいはそれらを製造するために使用することができる。ここでいう「食品」は、食品全般を包含し、いわゆる健康食品を含む一般食品の他、厚生労働省の保健機能食品制度に規定される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、サプリメント等を包含し、更には動物に給餌される家畜用飼料、ペットフードも包含する。本発明の徐波活動促進剤は、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分として含有し、且つ徐波活動促進効果を企図して、その旨を表示した医薬品、医薬部外品又は食品として使用することができる。
【0037】
本発明の徐波活動促進剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合、有効成分である前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを単独で含有していてもよく、又は、更に薬学的に許容される担体を含有していてもよく、又は、アルキルレゾルシノールによる徐波活動促進効果が損なわれない範囲で更に他の有効成分や薬理成分を含有していてもよい。斯かる担体としては、例えば、賦形剤、被膜剤、結合剤、増量剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、希釈剤、分散剤、緩衝剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、乳化剤、防腐剤、安定剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、活性増強剤、抗炎症剤、殺菌剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。
【0038】
本発明の徐波活動促進剤を医薬品又は医薬部外品として使用する場合、任意の投与形態で投与され得る。投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。例えば、経口投与形態としては、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤のような固形投薬形態、並びにエリキシル、シロップ及び懸濁液のような液体投薬形態が挙げられ、非経口投与形態としては、注射、輸液、経皮、経粘膜、経鼻、経腸、吸入、坐剤、ボーラス、貼布剤等が挙げられる。このうち、経口投与形態が好ましい。
【0039】
本発明の徐波活動促進剤を食品として使用する場合、有効成分である前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを単独で含有していてもよく、又は、アルキルレゾルシノールによる徐波活動促進効果が損なわれない範囲で更に、医薬品、医薬部外品、食品の製造に用いられる種々の添加剤を含有していてもよい。斯かる添加剤としては、例えば、各種油脂、生薬、アミノ酸、多価アルコール、天然高分子、ビタミン、食物繊維、界面活性剤、精製水、賦形剤、安定剤、pH調製剤、酸化防止剤、甘味料、呈味成分、有機酸などの酸味料、安定剤、フレーバー、着色料、香料等が挙げられる。
【0040】
本発明の徐波活動促進剤を食品として使用する場合、その形態は特に限定されないが、例えば、飲料の形態としては、茶飲料、コーヒー飲料、乳飲料、果汁飲料、炭酸飲料、アルコール飲料、清涼飲料等が挙げられる。また、飲料以外の食品の形態としては、固形、半固形又は液状であり得、錠剤形態、丸剤形態、カプセル形態、液剤形態、シロップ形態、粉末形態、顆粒形態等が挙げられる。具体的な食品の形態としては、パン類、麺類、ゼリー状食品や各種スナック類、焼き菓子、ケーキ類、チョコレート、ガム、飴、タブレット、カプセル、スープ類、乳製品、冷凍食品、インスタント食品、サプリメント、その他加工食品、調味料及びそれらの材料等が挙げられる。
【0041】
本発明の徐波活動促進剤における有効成分(前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノール)の含有量は、特に制限されるものではなく、剤型、適用対象(哺乳動物)の症状や年齢性別などによって適宜調整可能である。例えば、ヒトを対象とする場合、通常、本発明の徐波活動促進剤の有効成分の投与量が成人1人1日当たり0.01~10gとなるように含有させることが好ましい。
【0042】
本発明の徐波活動促進剤を摂取するタイミングは特に制限されないが、少なくとも睡眠の6時間前以内に摂取することが好ましく、睡眠の6時間前以内のみに摂取することがより好ましい。後述する実施例1では、睡眠の6時間前以内のみに本発明の徐波活動促進剤をマウスに摂取させており、それによって徐波活動の促進効果が得られている。つまり、本発明の徐波活動促進剤は、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを有効成分として含有し、睡眠の6時間前以内(好ましくは睡眠の6時間前以内のみ)に摂取することで徐波活動促進効果を発現するものであるとも言える。
【0043】
なお、前記「睡眠」(徐波活動促進剤の摂取タイミングの基準となる睡眠)は、周囲の刺激に対する反応の低下を伴い、意識はないが容易に覚醒できる自然な状態を意味する。斯かる状態が1日24時間の中に複数存在する場合は、それらのうちで斯かる状態が最も長い持間継続したものが前記「睡眠」である。すなわち前記「睡眠」は、1日24時間の中で1回だけであり、また例えば、ヒトが通常夜間にとる数時間にわたる睡眠(就寝)とは別に、昼間などにとる比較短時間にわたるいわゆる昼寝は、前記「睡眠」ではない。
【0044】
本発明には、前述した本発明の徐波活動促進剤と、該徐波活動促進剤についての説明書を含む商業用パッケージが包含される。前記説明書には、少なくとも徐波活動促進剤がアルキルレゾルシノールを含有するものであることが記載されている。前記説明書には更に、徐波活動促進剤を睡眠の6時間前以内に摂取することが好ましい旨記載されていてもよい。前記商業用パッケージの形態は特に制限されず、例えば、徐波活動促進剤を収容する包装容器に説明書が貼付されている形態、包装容器中に徐波活動促進剤と共に説明書が同封されている形態、包装容器自体に説明書の記載内容が印刷されている形態(包装容器が説明書の形態)等が挙げられる。
【0045】
本発明には、下記<1>ないし<3>の形態が含まれる。
<1>前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを生体(哺乳動物)に投与することにより睡眠中の徐波活動を促進する方法。
<2>前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを生体(哺乳動物)に投与することにより、健康維持、美容等の非医療目的で睡眠中の徐波活動を促進する方法。
<3>前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを、それを必要とする生体(哺乳動物)が睡眠する前6時間以内に摂取させる、前記<1>又は<2>に記載の方法。
【実施例
【0046】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は実施例により制限されるものではない。
【0047】
〔実施例1〕
下記<抽出精製法>により、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールを含有する、小麦エタノール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分を得た。得られたピーク成分の組成は次の通り。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタデシルベンゼン(C15:0)1.2質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘプタデシルベンゼン(C17:0)10.9質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ノナデシルベンゼン(C19:0)33.9質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ヘンイコシルベンゼン(C21:0)46.4質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-トリコシルベンゼン(C23:0)7.5質量%。
・1,3-ジヒドロキシ-5-n-ペンタコシルベンゼン(C25:0)0.1質量%。
【0048】
<抽出精製法>
小麦ふすまに質量で5倍量のエタノールを添加して、600rpm、室温の条件で、16時間撹拌抽出した。抽出物を濾過して不要物を除きエタノール抽出液を回収した後、エタノールを留去し、小麦エタノール抽出物を得た。
次いで、この小麦エタノール抽出物を中圧クロマトグラフィーによって精製した。中圧クロマトグラフィー条件は下記の通りである。溶出開始後31~36分に出現するピーク成分を回収して、溶媒留去し、小麦エタノール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分を得た。
(中圧クロマトグラフィーの条件)
・カラム:シリカゲル(インジェクトカラム3L、ハイフラッシュカラム5L、60Å、40μm、山善株式会社製)
・移動相:ヘキサン/酢酸エチル混合溶媒(体積比)=90/10にて9分、80/20にて15分、60/40にて16分
・検出波長:254nm
【0049】
尚、前記<抽出精製法>における小麦エタノール抽出物の精製は、中圧クロマトグラフィーに代えて、HPLCによって行うこともできる。その場合、小麦エタノール抽出物にメタノールを添加して該エタノール抽出物の濃度が200μg/mlのメタノール添加液を調製し、該メタノール添加液を、孔径0.45μmのフィルターを通過させ、その通過分を、HPLCの試料とする。HPLCの条件は下記の通り。
(HPLCの条件)
・カラム:シリカゲル(ODS-80A、5μm、4.6×250mm、ジーエルサイエンス株式会社製)
・ガードカラム:ODS-80A、5μm、4.6×50mm、
・カラム温度:30℃
・移動相:メタノール100%
・検出波長:215nm
【0050】
〔徐波活動促進効果の評価〕
前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールが徐波活動に与える影響を確認するために、マウスを用いて以下の試験を行い、ノンレム睡眠中の脳波(デルタ波、シータ波)を測定し、徐波活動の活性化の程度の指標となる前述のデルタ波比率(デルタ波/シータ波)を算出した。その結果を図1のグラフに示した。
【0051】
(1)動物への睡眠ポリグラフ記録用電極の留置
マウス(C3H/HeN、10週齢、雄、日本SLC社)に、麻酔下で睡眠脳波測定用送信器(DSI、TAlOM2-F20-EET)の留置手術を行った。具体的には、マウスの頭蓋骨の2カ所(頭蓋骨ラムダ縫合よりブレグマ側2mm、左右側1mmの位置)にドリルで穴をあけて脳波用電極を挿入し、歯科用セメントで固定した。また、筋電図用の電極コードを、マウスの頸部筋肉に差し込み固定し、それらのコードに接続された送信器を背部皮下に留置した。
前記留置手術後2週間の回復期間を経た後に、マウスを睡眠ポリグラフ用の個別ケージに移し、下記の実験食又は対照食を給餌した(実験食摂取群:n=4 対照食摂取群:n=3)。実験食摂取群には、暗期の後半6時間のみ実験食を給餌し、残りの時間は対照食を給餌した。一方、対照食摂取群には対照食のみを給餌した。実験食摂取群及び対照食摂取群の何れも自由摂食とした。
【0052】
・実験食:マウス飼育用の精製飼料AIN-93に、5.0質量%のラードを添加し、更に実施例1の小麦エタノール抽出物の分配クロマトグラフィーのピーク成分(アルキルレゾルシノール)を0.4質量%添加し混合した飼料
・対照食:マウス飼育用の精製飼料AIN-93に、5.0質量%のラードを添加した飼料
【0053】
(2)睡眠ポリグラフの記録と解析
前記の実験食又は対照食の給餌開始から3日経過後に、マウスの脳波(EEG)及び筋電位(EMG)をそれぞれリモートで3日間連続測定した。測定は、送信器及びマウスが収容されているケージを受信ボード(DSI、RPC-1)上に設置して行った。
検出データは、データ解析ソフト(DSI、Dataquest A.R.T.)を用いてパーソナルコンピュータに取得され、睡眠解析研究用プログラムであるSleepSign(登録商標)(キッセイコムテック株式会社)によって自動解析された。その自動解析においては、10秒間の筋電図が閾値以上の場合は「覚醒」と判定され、覚醒以外の状態については、脳波の周波数解析の結果、比較的遅い周波数の脳波(0.5~4Hz)が閾値以上の場合は「ノンレム睡眠」と判定され、閾値未満の場合は「レム睡眠」と判定された。
そして、ノンレム睡眠中の脳波の強度を解析し、デルタ波比率を算出した。具体的には、デルタ(Delta)波(周波数0.488281~3.90625Hz)及びシータ(Theta)波(周波数4.394531~7.8125Hz)それぞれの強度(μV^2;10秒を1エポックとする)の平均値を1時間単位で積算して、デルタ波比率を算出した。
【0054】
(3)試験結果
図1は、実験食又は対照食を3日間摂取したマウスのノンレム睡眠中のデルタ波比率の経時変化を示すグラフである。図1中、「実施例1」は実験食摂取群、「比較例1」は対照食摂取群である。図1の横軸において、ZT=0に点灯、ZT=12に消灯しており、ZT=0~12が明期(睡眠期)、ZT=12~24が暗期(活動期)である。なお、マウスの脳波は3日間測定したが、図1のグラフでは、24時間(1日)1サイクルとして、平均値(3日分×マウスの数(実験食摂取群はn=3、対照食摂取群はn=4))を示している。図1から明らかなように、実施例1は比較例1に比べて、睡眠期及び活動期(覚醒期)の双方でデルタ波比率(Delta/Theta)が高い。この結果から、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールが、ノンレム睡眠中の徐波活動の促進(デルタ波比率の増加)に有効であることが明白である。実験食摂取群は、対照食摂取群に比べて、徐波睡眠が促進されていると考えられる。
【0055】
また、実験食及び対照食にはそれぞれラードが5.0質量%添加されており、何れも高脂肪であるところ、高脂肪食の摂取は睡眠の質の低下を誘発する可能性があることが指摘されており、マウスを用いた実験で、高脂肪食の摂取によって睡眠時間の減少、睡眠途中での覚醒など症状が見られたことが報告されている。前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールは、このような睡眠への悪影響が懸念される高脂肪食を摂取した場合でもノンレム睡眠中の徐波活動を促進させている。つまり、前記一般式(I)で表されるアルキルレゾルシノールの摂取は、高脂肪食の摂取に起因する睡眠不足や睡眠の質の低下などの、睡眠障害を有する対象にも効果を及ぼし得る。
図1