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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-04-26
(45)【発行日】2023-05-09
(54)【発明の名称】マルチコア光ファイバ及び設計方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 6/02 20060101AFI20230427BHJP
【FI】
G02B6/02 461
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019134908
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021018362
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-11-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
【審査官】奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-097172(JP,A)
【文献】米国特許第04134642(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02
G02B 6/036
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチコア光ファイバであって、
クラッドの屈折率より低い屈折率を持ち、断面において全てのコアを囲むリング状の共通トレンチを備え、
前記コアと前記クラッドとの境界から前記共通トレンチの内径までの最小値E(μm)が数C1を満たし、
前記共通トレンチは、数C2のトレンチボリュームxを満たす内径C(μm)とリング幅W(μm)であり、
曲げ半径30mm且つ波長1625nmにおける前記コアの所望の曲げ損失αB0が0.1dB/100turnより低く、かつ前記コアの所望のカットオフ波長λcc0が1260nmより短いことを特徴とするマルチコア光ファイバ。
【数C1】
ただし、Δは前記共通トレンチの前記クラッドに対する比屈折率差(%)である。
【数C2】
ただし、x(μm%)は、前記マルチコア光ファイバの断面における前記共通トレンチの面積と前記共通トレンチの比屈折率差の絶対値Δの積、
αB0は、前記コアの所望の曲げ損失(dB/100turn)、
λcc0は、前記コアの所望のカットオフ波長(nm)
αは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアの曲げ損失(dB/100turn)、
λccは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアのットオフ波長(nm)
である。
【請求項2】
マルチコア光ファイバの設計方法であって、
前記マルチコア光ファイバは、クラッドの屈折率より低い屈折率を持ち、断面において全てのコアを囲むリング状の共通トレンチを備えており、
前記コアと前記クラッドとの境界から前記共通トレンチの内径までの最小値E(μm)を数C1を満たすように設計することを特徴とする設計方法。
【数C1】
ただし、Δは前記共通トレンチの前記クラッドに対する比屈折率差(%)である。
【請求項3】
数C2のトレンチボリュームxを満たすように、前記共通トレンチの内径C(μm)とリング幅W(μm)を設計することを特徴とする請求項2に記載の設計方法。
【数C2】
ただし、x(μm%)は、前記マルチコア光ファイバの断面における前記共通トレンチの面積と前記共通トレンチの比屈折率差の絶対値Δの積、
αB0は、前記コアの所望の曲げ損失(dB/100turn)、
λcc0は、前記コアの所望のカットオフ波長(nm)
αは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアの曲げ損失(dB/100turn)、
λccは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアのットオフ波長(nm)
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチコア光ファイバ及びその設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズにより伝送容量が制限される。これらの制限を緩和するために1本の光ファイバ中に複数のコアを有するマルチコア光ファイバを用いた並列伝送(例えば、非特許文献1を参照。)や、コア内に複数の伝搬モードが存在するマルチモードファイバを用いたモード多重伝送(例えば、非特許文献2を参照。)、及びマルチコアとモード多重を組み合わせた数モードマルチコア光ファイバ(例えば、非特許文献3を参照。)といった空間多重技術が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Takara et al., “1.01-Pb/s (12 SDM/222 WDM/456 Gb/s) Crosstalk-managed Transmission with 91.4-b/s/Hz Aggregate Spectral Efficiency”, in ECOC2012, paper Th.3.C.1 (2012)
【文献】T. Sakamoto et al., “Differential Mode Delay Managed Transmission Line for WDM-MIMO System Using Multi-Step Index Fiber”, J. Lightwave Technol. vol. 30, pp. 2783-2787 (2012).
【文献】Y. Sasaki et al., “Large-effective-area uncoupled few-mode multi-core fiber,” ECOC2012, paper Tu.1.F.3 (2012).
【文献】T. Ohara et al., “Over-1000-Channel Ultradense WDM TransmissionWith Supercontinuum Multicarrier Source,” IEEE J. Lightw. Technol., vol. 24, pp.2311-2317 (2006)
【文献】K. Imamura et al., “Investigation on multi-core fibers with large Aeff and low micro bending loss, ” Opt. Express, vol. 19, pp.10595-10603 (2011).
【文献】T. Sakamoto, T. Matsui, K. Saitoh, S. Saitoh, K. Takenaga, T. Mizuno, Y. Abe, K. Shibahara, Y. Tobita, S. Matsuo, K. Aikawa, S. Aozasa, K. Nakajima, Y. Miyamoto, “Low-Loss and Low-DMD 6-Mode 19-Core Fiber With Cladding Diameter of Less Than 250 μm”, J. Lightwave Technol. 35, 443-449 (2017).
【文献】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto, and K. Nakajima, “Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber”, J. Lightwave Technol. 34, 1228-1237 (2016).
【文献】ITU-T Recommendation G.652
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチコア光ファイバを用いた伝送においては、コア間のクロストークが生じると信号品質が劣化するため、クロストークを抑圧するためにコア間を一定以上離さなければならない。一般には、光通信システムで十分な伝送品質を担保するためには、パワーペナルティを1dB以下にすることが望ましく、そのためには非特許文献1及び4に記載の通りクロストークは-26dB以下としなければならない。このようなファイバは非結合マルチコア光ファイバと呼ぶ。
【0005】
一方で、コア間クロストークを十分低減するためにコア間距離を大きくすると、一定のクラッド外径のもとでは、外側に配置されたコアとクラッド境界までの距離が小さくなり、曲げ損失が大きくなるという課題があった(例えば、非特許文献5を参照。)。
【0006】
また、各コアの曲げ損失を低減するために、各コアの屈折率分布に非特許文献6に記載のような、各コアの周囲を低屈折率領域が囲む、トレンチアシスト構造にすることも検討されているが、非特許文献6に記載の通り、中心側に配置されたコアに関しては、周辺に配置されたコアの低屈折率領域の影響で、遮断波長が長波長化することが課題である。
【0007】
一方、非特許文献7に記載の通り、コア間クロストークが大きい結合型マルチコア光ファイバというファイバ種が検討されており、MIMO技術を用いると受信端においてクロストークを補償することが可能であり、コア間距離を小さくし、クロストークが-26dB以上であっても信号処理によりパワーペナルティを1dB未満とすることができ、空間利用効率を向上させることができる。
【0008】
このような結合型マルチコア光ファイバにおいても、先に述べた曲げ損失の低減のため、外側に配置されたコアとクラッド境界との距離を所定の値以上としなければならない。また、曲げ損失を低減するために、トレンチ型屈折率分布を有するコア屈折率を採用すると、中心コアを導波する高次モードが、周辺コアの低屈折率領域により伝搬してしまい、遮断波長が長波長化する問題は、先に述べた非結合型マルチコア光ファイバと同じである。
【0009】
そこで、本発明は、上記の課題を解決するために、周辺コアとクラッド境界までの距離を短くしても曲げ損失の増大を防ぎ、且つ遮断波長及びモードフィールド径への影響が小さい状態で曲げ損失特性を向上できるマルチコア光ファイバ及びその設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係るマルチコア光ファイバは、複数のコアを囲むようにリング状の低屈折率領域を有する構造とした。
【0011】
具体的には、本発明に係るマルチコア光ファイバは、クラッドの屈折率より低い屈折率を持ち、断面において全てのコアを囲むリング状の共通トレンチを備え、前記コアと前記クラッドとの境界から前記共通トレンチの内径までの最小値E(μm)が数C1を満たすことを特徴とする。
【数C1】
ただし、Δは前記共通トレンチの前記クラッドに対する比屈折率差(%)である。
【0012】
さらに、本発明に係るマルチコア光ファイバの前記共通トレンチは、数C2のトレンチボリュームxを満たす内径C(μm)とリング幅W(μm)であることを特徴とする。
【数C2】
ただし、x(μm%)は、前記マルチコア光ファイバの断面における前記共通トレンチの面積と前記共通トレンチの比屈折率差の絶対値Δの積、
αB0は、前記コアの所望の曲げ損失(dB/100turn)、
λcc0は、前記コアの所望のカットオフ波長(nm)
αは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアの曲げ損失(dB/100turn)、
λccは、前記共通トレンチが無い場合の前記コアの所望のカットオフ波長(nm)
である。
【0013】
また、本発明に係る設計方法は、マルチコア光ファイバの設計方法であって、
前記マルチコア光ファイバは、クラッドの屈折率より低い屈折率を持ち、断面において全てのコアを囲むリング状の共通トレンチを備えており、前記コアと前記クラッドとの境界から前記共通トレンチの内径までの最小値E(μm)を数C1を満たすように設計することを特徴とする。
【0014】
さらに、本発明に係る設計方法は、数C2のトレンチボリュームxを満たすように、前記共通トレンチの内径C(μm)とリング幅W(μm)を設計することを特徴とする。
【0015】
マルチコア光ファイバを上記の構造とすることで、周辺コアとクラッド境界までの距離Eを小さくすることができ、よりクラッド径の小さなマルチコア光ファイバ、もしくは所定のクラッド径(例えば125μm)により多くのコアを配置することができる。
【0016】
低屈折率領域である共通トレンチの付与により、中心領域に存在するコアの遮断波長が周辺コアの遮断波長に対して長波長化することなく、曲げ損失特性を改善できる効果を奏する。また、低屈折率領域である共通トレンチの付与により、モードフィールド径に影響を与えずに、曲げ損失が向上する効果を奏する。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、周辺コアとクラッド境界までの距離を短くしても曲げ損失の増大を防ぎ、且つ遮断波長及びモードフィールド径への影響が小さい状態で曲げ損失特性を向上できるマルチコア光ファイバ及びその設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(a)マルチコア光ファイバの断面構造を示す概略図である。(b)本発明に係るマルチコア光ファイバの断面構造を示す概略図である。
図2】マルチコア光ファイバにおいて共通トレンチの有無による曲げ損失の変化について計算した結果である。曲げ半径は140mmである。
図3】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、トレンチボリュームを一定とした時の、共通トレンチの比屈折率差に対する曲げ損失特性の計算結果である。
図4】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、トレンチボリュームに対する曲げ損失改善量を計算した結果である。
図5】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、トレンチボリュームに対する遮断波長の変化量を計算した結果である。
図6】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、共通トレンチの付与によるMFDの変化を1%許容した場合、共通トレンチの比屈折率差と、コア中心から共通トレンチ内径までの最小距離Eとの関係を説明する図である。
図7】シングルモード光ファイバにおいて所望の曲げ損失と遮断波長を満たす、コア半径と比屈折率差との関係を説明する図である。
図8】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、トレンチボリュームに対する曲げ損失の改善量を説明する図である。
図9】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、共通トレンチが無い場合のコアの曲げ損失と、共通トレンチの付与による曲げ損失改善量との関係を説明する図である。
図10】本発明に係るマルチコア光ファイバの特性を説明する図である。本図は、共通トレンチが無い場合のコアの曲げ損失と、共通トレンチの付与による遮断波長の変化量の関係を説明する図である。
図11】本発明に係るマルチコア光ファイバの4コア構造以外のマルチコア構造を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。また、特に記載しない限り「曲げ損失」は曲げ半径30mmであるときの損失である。
【0020】
(実施形態1)
図1は、マルチコア光ファイバの断面の構造を説明する図である。同図(a)は、従来のマルチコア光ファイバ50の構造である。2以上のコア11がクラッド12の領域に存在している。なお、本図ではコアの屈折率プロファイルをステップ型としたが、任意の屈折率分布でもよく、グレーデッド型や各コア周辺が低屈折率領域で囲まれたW型、トレンチアシスト型でもよい。
【0021】
図1(b)は、本実施形態のマルチコア光ファイバ51の断面図を示す。クラッド12内の複数のコア11はリング状の低屈折率領域で囲まれている。以後、本低屈折率領域を共通トレンチ13と呼ぶこととする。共通トレンチ13はリング形状であり、クラッド12の中心から当該リングの内側までの距離(内径)をC、共通トレンチ13の幅をWとする。また、コア11の半径をa、クラッド12に対する比屈折率差をΔ、共通トレンチ13のクラッド12に対する比屈折率差をΔとする。
【0022】
なお、本発明は、図1に示す4コア構造以外のマルチコア構造にも適用可能であり、例えば、図11に示すような様々なコア配置において、全てのコアを取り囲む低屈折率領域を付与してもよい。
【0023】
図2は、a=4.5μm、Δ=0.3%、C=40μm、W=20μm、Δ=-0.2%、曲げ半径140mmとした時の、波長1625nmにおける曲げ損失のクラッド厚依存性の計算結果を示す。クラッド厚とは、各コアの中心からクラッドの最外周(境界)までの最短距離を指す。
【0024】
一般に、マルチコア光ファイバの設計においては、コアをクラッド外側に配置することで曲げ損失が増加し、伝搬損失が増加することから適切なクラッド厚を設計しなければならない。図2より、共通トレンチが無い場合(図1(a)のマルチコア光ファイバ50)で、曲げ損失が無視できるほど小さく(例えば10-3dB/km)するためには、およそ50μmのクラッド厚が必要である。
【0025】
一方、本実施形態のマルチコア光ファイバ51は、共通トレンチを有することで、必要クラッド厚が41μmで曲げ損失を10-3dB/kmとすることができる。つまり、共通トレンチを有することで、従来よりクラッド径の小さなマルチコア光ファイバを設計することができ、被覆を厚くすることができるので機械的信頼性が向上する。また、クラッド径が従来と同じであれば、共通トレンチを有することで、コア密度を上昇させて従来より多くのコアを配置することができる。
【0026】
共通トレンチの設計は、C、W、及びΔがパラメータであるが、光学特性の設計では、共通トレンチの面積とΔの積であるトレンチボリュームxをパラメータとして利用する。
【0027】
図3は、トレンチボリュームxを一定(1257μm%)とし、C、W、及びΔを変化させた時の曲げ損失の計算結果を示す。Cは30~40μm、Wは10~20μmの範囲で変化させている。なお、コアの構造は、a=4.5μm,Δ=0.3%としている。また、波長は1625nm、曲げ半径は30mmとしている。
【0028】
結果より、C、W、Δ-が変化しても、トレンチボリュームxが一定であれば曲げ損失特性はほぼ一定であることがわかる。つまり、トレンチボリュームxを用いて共通トレンチによる曲げ損失の改善効果を見積もることができる。
【0029】
図4は、トレンチボリュームxに対する曲げ損失の改善効果を計算した結果を説明する図である。曲げ損失改善効果とは、コア単体で計算される曲げ損失から共通トレンチ付与による低減分を示したもので、例えば図中の10dBの改善効果とは、共通トレンチ付与により曲げ損失が1/10倍となることを示している。図4より、トレンチボリュームxに対する曲げ損失改善効果は、
【数1】
となる(上記式は図中の実線で示されている)。
【0030】
共通トレンチの付与により曲げ損失特性が向上するということは、伝搬する基本モードに対してのみならず、高次モードに対しても作用する。各コアがシングルモード動作する設計の場合は、所望の通信波長帯で高次モードが伝搬しないことが条件となるが、共通トレンチ付与により遮断波長が長波長化することを見込んで設計しなければならない。
【0031】
図5は、図4における計算と同条件の時、トレンチボリュームxと遮断波長の変化を計算した結果を説明する図である。なお、縦軸のΔλは、コア単体での遮断波長λに対して、トレンチを付与したことでどれだけ遮断波長が長波長化したかを示すものである。図5より、遮断波長はトレンチボリュームxが増加すると
【数2】
の関係を満たすように長波長化する。なお、上式は同図の実線で示されている。
【0032】
また、曲げ損失や遮断波長に加え、光ファイバ通信においてはモードフィールド径(MFD)も、接続損失や非線形特性に関わる重要なパラメータである。そこで、共通トレンチによるMFD変化を計算した。
【0033】
ここで、“E”をコアの境界と、共通トレンチの内径境界との最小値を示すコア-共通トレンチ距離と定義する。共通トレンチの比屈折率差Δを変化させた時の“E”は、図6の実線で示される。そして、図6において、当該実線の右上の領域が、共通トレンチを付与したことによるMFD変動(従来のマルチコア光ファイバのコアのMFDに対する、本実施形態のマルチコア光ファイバのコアのMFDの変動量)が1%未満の領域である。
つまり、
【数3】
とすれば、共通トレンチの付与によるMFDの変化を1%以下とすることができ、ほぼMFDの変化は伝送特性上無視することができる。
【0034】
(実施形態2)
次に、共通トレンチによる効果のコア構造依存性を確認した。
【0035】
図7は、コアの半径aと比屈折率差Δについて、遮断波長が1260nm(曲線L1)となるコアの構造領域、曲げ損失が0.1dB/100turn(曲線L2)、1dB/100turn(曲線L3)、及び10dB/100turn(曲線L4)となるコアの構造領域、並びにMFDが8.2μm(曲線L5)及び9.6μm(曲線L6)となるコアの構造領域を示した図である。なお、ITU-Tにおける通常のシングルモードファイバ勧告であるG.652.Dの規格(非特許文献8を参照。)においては、遮断波長が1260nm、曲げ損失が0.1dB/100turn、及びMFDが8.2μm~9.6μmである。図7では、共通トレンチの付与による曲げ損失の改善を考慮し、1dB/100turn,10dB/100turnの条件も記載している。所望の曲線(L1~L6)に囲まれるコアの構造領域が、通常SMFにおける設計範囲となる。
【0036】
例えばG.652規格に整合した光学特性を実現しようとするならば、共通トレンチで遮断波長が長波長化するため、遮断波長=1260nmのコア構造に共通トレンチを付与するのではなく、曲げ損失が高いコア構造で検討する必要がある。ここでは、3つの曲げ損失設計条件(L2~L4)において、MFDが最も小さい設計(L5)、大きい設計(L6)でそれぞれ3種の構造を検討すれば十分である。図7に示したポイント(P1~P6)の6種のコア構造において共通トレンチ付与による曲げ損失の改善効果を計算した。
【0037】
図8は、トレンチボリュームxに対する曲げ損失改善量Δαを示した図である。図8より次のことがわかる。
(a)曲げ損失改善量Δαはコア構造に依存して変化する。
(b)曲げ損失特性が同じコア構造では、MFDに関わらず、曲げ損失改善量Δαはほぼ同じである。
(c)トレンチボリュームxと曲げ損失改善量Δαとの関係を示す曲線形状は、どのコア構造でもほぼ同じであり、切片が変化するだけである。
【0038】
図9は、トレンチボリュームxが2200μm%である時の曲げ損失改善量Δαのコア構造依存性を示した図である。横軸は、コアが単体で存在していた時の曲げ損失(従来のマルチコア光ファイバのコアの曲げ損失)αである。縦軸は、曲げ損失改善量Δαである。曲げ損失改善量Δαのコア構造依存性(曲げ損失についてのコア構造)は、
【数4】
で示すことができる。
【0039】
つまり、共通トレンチ付与による曲げ損失改善量Δαは、式(1)に式(4)の切片を付加したものであり、
【数5】
で見積もることができる。
【0040】
図10は、図9と同条件における遮断波長の変化を説明する図である。ここでは、トレンチボリュームが1260または2200μm%としている。図9の曲げ損失改善量のコア依存性とは異なり、コア単体での曲げ損失がいかなる値であっても、遮断波長の変化はトレンチボリュームxのみに依存している。
【0041】
つまり、コアの構造が、コア単体を仮定した時の曲げ損失α及びカットオフ波長がλccであった時、所望の曲げ損失目標値αB0及びカットオフ波長λcc0となるようにするためには、トレンチボリュームxを
【数6】
となるよう設計すればよい。
【0042】
例えば、通常SMFと同等の特性を得るためには、曲げ半径30mmにおいて、αB0<0.1dB/100turn、λcc0<1260nmとすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、光伝送システムにおける伝送媒体として利用できる。
【符号の説明】
【0044】
11:コア
12:クラッド
13:共通トレンチ
50、51:マルチコア光ファイバ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11