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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-08
(45)【発行日】2023-05-16
(54)【発明の名称】SiC基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20230509BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20230509BHJP
   C30B 33/12 20060101ALI20230509BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
C30B33/12
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021537355
(86)(22)【出願日】2020-08-05
(86)【国際出願番号】 JP2020030067
(87)【国際公開番号】W WO2021025077
(87)【国際公開日】2021-02-11
【審査請求日】2022-02-03
(31)【優先権主張番号】P 2019144449
(32)【優先日】2019-08-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】長屋 正武
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/079983(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/151413(WO,A1)
【文献】特開2018-158858(JP,A)
【文献】特開2017-065986(JP,A)
【文献】特開2017-081813(JP,A)
【文献】特開2003-63890(JP,A)
【文献】E. Pernot et al(翻訳:西野茂弘),SiC単結晶の昇華成長 成長パラメータと欠陥の発生,FEDジャーナル,2000年,Vol. 11, No.2
【文献】鳥見聡ほか,Si蒸気圧エッチング法による4H-SiC表面の加工変質層除去とその効果,第76回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集(2015名古屋国際会議場),2015年
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C30B 25/20
C30B 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以下であるSiC基板を、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングするエッチング工程を含み、
前記エッチング工程が、前記SiC基板をSiC製の容器に収容し、前記SiC基板と前記SiC製の容器とを相対させて、前記SiC基板と前記SiC製の容器との間に温度勾配が形成されるように加熱することで、前記SiC基板をエッチングする工程を含み
記エッチング工程におけるエッチング温度が、1400~2300℃である、SiC基板の製造方法。
【請求項2】
表面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下であるSiC基板を、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングするエッチング工程を含み、
前記エッチング工程が、前記SiC基板をSiC製の容器に収容し、前記SiC基板と前記SiC製の容器とを相対させて、前記SiC基板と前記SiC製の容器との間に温度勾配が形成されるように加熱することで、前記SiC基板をエッチングする工程を含み
記エッチング工程におけるエッチング温度が、1400~2300℃である、SiC基板の製造方法。
【請求項3】
算術平均粗さ(Ra)が100nm以下となるようにSiC基板の表面を平坦化する平坦化工程と、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記平坦化工程後のSiC基板をエッチングするエッチング工程と、を含み、
前記エッチング工程が、前記SiC基板をSiC製の容器に収容し、前記SiC基板と前記SiC製の容器とを相対させて、前記SiC基板と前記SiC製の容器との間に温度勾配が形成されるように加熱することで、前記SiC基板をエッチングする工程を含み
記エッチング工程におけるエッチング温度が、1400~2300℃である、SiC基板の製造方法。
【請求項4】
前記平坦化工程において、算術平均粗さ(Ra)が2nm以下となるようにSiC基板の表面を平坦化する、請求項3に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項5】
平均砥粒径が10μm以下の砥粒を用いてSiC基板の表面を平坦化する平坦化工程と、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記平坦化工程後のSiC基板をエッチングするエッチング工程と、を含み、
前記エッチング工程が、前記SiC基板をSiC製の容器に収容し、前記SiC基板と前記SiC製の容器とを相対させて、前記SiC基板と前記SiC製の容器との間に温度勾配が形成されるように加熱することで、前記SiC基板をエッチングする工程を含み
記エッチング工程におけるエッチング温度が、1400~2300℃である、SiC基板の製造方法。
【請求項6】
前記砥粒の平均砥粒径が0.5μm以下である、請求項5に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項7】
前記エッチング工程が、クラックが導入されたSiC基板を、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間内に配置し加熱する工程を含む、請求項1~6の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項8】
前記エッチング工程後に、前記SiC基板の表面への機械加工を行わない、請求項1~7の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング工程後に、洗浄工程を行わない、請求項1~8の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項10】
前記エッチング工程に次いで、SiC基板の表面にエピ層を形成するエピタキシャル成長工程を行う、請求項1~9の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項11】
前記エッチング工程が、SiC単結晶原基板をエッチングしてSiC単結晶種基板を製造する工程であり、該エッチング工程に次いで、前記SiC単結晶種基板を結晶成長させインゴットを得るインゴット形成工程を含む、請求項1~10の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【請求項12】
前記SiC基板が2インチ以上である、請求項1~11の何れか一項に記載のSiC基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)ウェハは、SiC単結晶のインゴットをスライスすることにより形成される。スライスされたSiC基板の表面には、スライス時に導入された結晶の歪みや傷等を有する表面層(以下、加工変質層という。)が存在する。デバイス製造工程にて歩留まりを低下させないためには、この加工変質層を除去する必要がある。
【0003】
従来、この加工変質層を除去し、SiCデバイス製造のためのエピタキシャル成長を行うことができるエピレディなSiC基板を得るため、機械加工が行われていた。この機械加工としては、ダイヤモンド等の砥粒を用いた粗研削工程、粗研削工程で用いた砥粒よりも粒径の小さい砥粒を用いた仕上げ研削工程、そして、研磨パッドの機械的な作用とスラリーの化学的な作用を併用して研磨を行う化学機械研磨(CMP)工程という段階を経ることが一般的であった(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-5702号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、エピレディな表面を有するSiC基板を得るために、化学機械研磨(CMP)を行うことが一般的であった。しかし、CMPに係るコストが高いという問題があった。またCMPによって新たに歪みが導入されるという問題があった。
【0006】
上述の問題に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、歪みを除去し、かつ、CMPを行った場合と同程度の平坦面を実現できる、SiC基板を製造するための新規の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明は、表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以下であるSiC基板を、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングするエッチング工程を含む、SiC基板の製造方法である。
表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以下であるSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、歪みが除去され、かつ、極めて平滑(でこぼこが無く滑らか)な表面を有するSiC基板を製造することができる。
【0008】
本発明の好ましい形態では、表面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下であるSiC基板を、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングするエッチング工程を含む。
表面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下であるSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、より平坦な面を有するSiC基板を得ることができる。
【0009】
本発明は、算術平均粗さ(Ra)が100nm以下となるようにSiC基板の表面を平坦化する平坦化工程と、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記平坦化工程後のSiC基板をエッチングするエッチング工程と、を含むSiC基板の製造方法にも関する。
表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以下であるSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、歪みが除去され、かつ、極めて平滑な表面を有するSiC基板を製造することができる。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記平坦化工程において、算術平均粗さ(Ra)が2nm以下となるようにSiC基板の表面を平坦化する。
表面の算術平均粗さ(Ra)が2nm以下であるSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、より平坦な面を有するSiC基板を得ることができる。
【0011】
本発明は、平均砥粒径が10μm以下の砥粒を用いてSiC基板の表面を平坦化する平坦化工程と、Si元素及びC元素を含む雰囲気下で前記平坦化工程後のSiC基板をエッチングするエッチング工程と、を含むSiC基板の製造方法にも関する。
平均砥粒径が10μm以下の砥粒を用いて平坦したSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、歪みが除去され、かつ、極めて平滑な表面を有するSiC基板を製造することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記砥粒の平均砥粒径が0.5μm以下である。
平均砥粒径が0.5μm以下である砥粒を用いて平坦したSiC基板に対して、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、より平坦な面を有するSiC基板を得ることができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程が、SiC基板とSiC材料とを相対させて、SiC基板とSiC材料との間に温度勾配が形成されるように加熱することで、前記SiC基板をエッチングするエッチング工程を含む。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程が、クラックが導入されたSiC基板を、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間内に配置し加熱する工程を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程後に、前記SiC基板の表面への機械加工を行わない。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程後に、前記SiC基板の表面を液剤で洗浄する洗浄工程を行わない。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程に次いで、SiC基板の表面にエピ層を形成するエピタキシャル成長工程を行う。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記エッチング工程が、SiC単結晶原基板をエッチングしてSiC単結晶種基板を製造する工程であり、該エッチング工程に次いで、前記SiC単結晶種基板を結晶成長させインゴットを得るインゴット形成工程を含む。
このように本発明はSiCインゴットの製造に応用することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記SiC基板が2インチ以上である。
【発明の効果】
【0020】
開示した技術によれば、歪みが除去され、かつ、極めて平滑な表面を有するSiC基板を製造することができる。
また、本発明によれば、コスト高な化学機械研磨(CMP)の工程を削減することができ、工業的に有利にSiCデバイスを製造することが可能となる。
【0021】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】一実施の形態のSiC基板の製造工程を示す概略図である。
図2】一実施の形態のSiC基板の製造装置の説明図である。
図3】一実施の形態の本体容器と高融点容器の概略図である。
図4】エッチング工程におけるエッチングの概要を示す説明図である。
図5】本発明をSiCインゴットの製造に応用した場合の一実施形態を示す概略図である。
図6】試験例におけるエッチング前後のサンプル1の断面SEM-EBSDイメージング画像である。
図7】試験例におけるエッチング前後のサンプル1~4の表面のSEM像を示す(倍率3000倍)。上段はエッチング前の初期状態、中段は条件Aによりエッチングした後、下段は条件Bによりエッチングした後の表面である。
図8】試験例におけるサンプル1の結果を表すグラフである。縦軸は算術平均粗さ(Ra)、横軸はエッチング量を示す。各プロットの近傍に示す温度はエッチング工程における加熱温度を示す。図中の黒色矢印はエッチング前のSiC基板に存在した歪みの深さを表す。
図9】試験例におけるサンプル3の結果を表すグラフである。縦軸は算術平均粗さ(Ra)、横軸はエッチング量を示す。各プロットの近傍に示す温度はエッチング工程における加熱温度を示す。図中の黒色矢印はエッチング前のSiC基板に存在した歪みの深さを表す。
図10】試験例におけるサンプル4の結果を表すグラフである。縦軸は算術平均粗さ(Ra)、横軸はエッチング量を示す。各プロットの近傍に示す温度はエッチング工程における加熱温度を示す。図中の黒色矢印はエッチング前のSiC基板に存在した歪みの深さを表す。
図11】従来のSiC基板の製造工程を示す説明図である。
図12】一般的な機械加工処理を施したSiC基板の表面を断面から観察した場合の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明はSiC基板の製造方法である。本明細書でいうところの「SiC基板」との語には、インゴットより切り出された後のいわゆる「SiCウェハ」の他、SiCインゴットの製造に用いる「SiC単結晶種基板」や、インゴット形成工程に供する「SiC単結晶種基板」よりも前段階の状態のSiC単結晶基板である「SiC単結晶原基板」などを広く含む。
【0024】
以下、本発明について「SiCウェハ」を製造するための実施形態と、「SiC単結晶種基板」を製造するための実施形態とに分けて説明する。
【0025】
[SiCウェハの製造方法]
図1を参照して、本発明のSiCウェハの製造方法について更に詳細に説明する。図面には好ましい実施形態が示されている。しかし、多くの異なる形態で実施されることが可能であり、本明細書に記載される実施形態に限定されない。
【0026】
なお、本発明の理解においては、従来のSiCウェハの製造工程と比較することが有用であると認められる。そのため、適宜、図11を参照し従来のSiCウェハの製造方法の各工程と比較しながら、本発明のSiCウェハの製造方法における各工程について説明する。
【0027】
SiC半導体のベースとなるSiC単結晶については、2000℃以上の高温下で原料を昇華させて結晶の塊であるインゴットが人工的に作られる。SiC単結晶の材料物性は、ダイヤモンド及び炭化ホウ素の次に硬いとされ、研磨材にも利用されるほどの高硬度かつ化学的、熱的に安定なことにあわせ、結晶の方位、方向を持つため、ぜい(脆)性材料特有の劈開性も併せ持つ非常に加工が困難な材料である。
【0028】
その材料の表面に半導体を作り込むため、従来、スライス工程S1により単結晶インゴットからSiCウェハを切り出した後、平坦化工程S20が行われる。従来法においては、平坦化工程S20として、典型的には、うねりを平坦にするためのラッピング工程S21、加工変質層11を除去するための粗研削工程S22及び仕上げ研削工程S23が行われる(図11)。
【0029】
そして、平坦化工程S20を経たSiCウェハに対しては、最終的に無歪加工を実現できる化学機械研磨工程S41、すなわちCMP(Chemical Mechanical Polishing)が行われることが一般的である(図11)。
【0030】
これに対する本発明のSiCウェハの製造方法の概要を図1に示す。図1に示す通り、本発明のSiCウェハの製造方法は、所定の表面粗さとなるまで平坦化工程を行った後、又は所定の粒径以下の砥粒を用いて平坦化工程を行った後に、エッチング工程S31を行う。
【0031】
このような構成を採ることから、本発明においてはラッピング工程S21、粗研削工程S22及び仕上げ研削工程S23という一連の工程を全て踏む必要はない(図1右側)。
例えば、ラッピング工程S21により所定の表面粗さのSiCウェハを得ることができるのであれば、その後、粗研削工程S22や仕上げ研削工程S23を経ることなくエッチング工程S31を行っても良い。
【0032】
もちろん、ラッピング工程S21、粗研削工程S22及び仕上げ研削工程S23という一連の工程を全て実行した後に、エッチング工程S31を行っても良い。
【0033】
また、SiCウェハに対して行った加工工程の種類は問わず、単に所定の表面粗さを有するSiCウェハに対してエッチング工程S31を行う形態であってもよい。
【0034】
なお、本発明を適用可能なSiC基板には、オフ角を有しているもの及び有していないものが制限なく含まれる。
また、SiC基板が4H-SiC、6H-SiC、3C-SiCなど、何れの結晶多型であっても本発明を制限なく適用することができる。
更に、本発明を適用するSiC基板の主面(処理を行う面)は、Si面(0001)面であってもC面(000-1)面であっても良い。
【0035】
また、図12に、機械加工処理を施したウェハの表面を断面から観察した場合の概念図を示す。従来法のように機械加工を経るSiCウェハ10の表面には、多数のクラック(傷)を有するクラック層111や結晶格子に歪みが生じた歪層112を含む加工変質層11が残存してしまうのが通常である。
デバイス製造工程にて歩留まりを低下させないためには、この加工変質層11を除去する必要がある。すなわち、表面加工によるクラックや格子歪みが導入されていない加工変質層11下のバルク層12を表出させることが好ましい。
本発明のSiCウェハの製造方法によれば、熱エッチングにより加工変質層11を除去することにより、クラックや格子歪みが導入されていないバルク層12を表出させることができる。
【0036】
以下、一実施形態の工程に沿って本発明のSiCウェハの製造方法について説明を加える。
【0037】
<1>スライス工程S1
スライス工程S1はSiCインゴットからSiCウェハを切り出す工程である。スライス工程S1のスライス手段としては、複数本のワイヤーを往復運動させることでインゴットを所定の間隔で切断するマルチワイヤーソー切断や、プラズマ放電を断続的に発生させて切断する放電加工法、インゴット中にレーザーを照射・集光させて切断の基点となる層を形成するレーザーを用いた切断、等を例示できる。
【0038】
<2>平坦化工程S20
本発明における平坦化工程S20は、図1に示すように、所定の粗さ以下となるまで平坦化する態様と、所定の粒径以下の砥粒を用いて平坦化する態様を含む。これら態様は互いに相関する関係にある。
まず、砥粒を用いて平坦化する形態について説明を加える。
【0039】
(1)砥粒を用いて平坦化する形態
砥粒としては、ダイヤモンド、炭化ホウ素(BC)、炭化ケイ素(SiC)、アルミナ(Al)等を例示することができる。
【0040】
平坦化工程S20の平坦化手段としては、定盤に微細な砥粒をかけ流しながら加工を行う遊離砥粒方式(ラッピング研磨等)や、砥粒をボンド材に埋め込んだ砥石で加工を行う固定砥粒方式(グラインド研削等)を例示できる。
固定砥粒方式を採用する場合には、ダイヤモンド砥粒を用いた粗研削や仕上げ研削を例示することができる。
また、遊離砥粒方式を採用する場合には、砥粒は水や分散剤と混合された混合液(スラリー)として滴下されることが望ましい。
本工程において使用される加工装置としては、従来の遊離砥粒方式で使用される汎用型の加工装置を採用することができる。
【0041】
平坦化工程S20に用いる砥粒の平均砥粒径は、好ましくは10μm以下、より好ましくは9μm以下、より好ましくは8μm以下、より好ましくは7μm以下、より好ましくは6μm以下、より好ましくは5μm以下、より好ましくは4μm以下、より好ましくは3μm以下、更に好ましくは2μm以下、更に好ましくは1μm以下、更に好ましくは0.8μm以下、更に好ましくは0.6μm以下、更に好ましくは0.5μm以下、更に好ましくは0.4μm以下、更に好ましくは0.3μm以下である。
【0042】
上記数値範囲の平均砥粒径を有する砥粒を用いて平坦化工程S320を行い、エッチング工程S31を行うことで、歪みが除去され、かつ、化学機械研磨工程S41を経た後と同程度に平坦化された表面を有するSiCウェハを得ることができる。
【0043】
特に、平均砥粒径が0.5μm以下の砥粒を用いて平坦化工程S20を行い、エッチング工程S31を行うことで、極めて平坦な表面を有するSiCウェハを製造することができる。かかる実施形態は量産プロセスにも適用可能である。
【0044】
本発明を適用可能なSiC基板のサイズに制限はない。好ましくは2インチ以上、より好ましくは4インチ以上のSiC基板に本発明を適用することができる。
なお、砥粒を用いてSiCウェハの表面を研削して平坦化する場合、同一ウェハ上において、研削加工位置によって平坦性にばらつきが生じるという問題がある。この問題は例えば6インチ以上の大口径のSiCウェハを平坦化する場合に顕著となる。
本発明のSiCウェハによれば、後工程のエッチング工程S31によって、砥粒を用いた平坦化工程S20によって生じた平坦性のばらつきを是正することができる。
つまり、本発明は6インチ以上、より好ましくは8インチ以上の大口径のSiCウェハを加工する場合に好適である。
【0045】
なお、本明細書中の説明において、平均砥粒径というときは、日本工業規格(JIS)R6001-2:2017に準拠する平均粒子径のことである。
【0046】
(2)所定の表面粗以下となるまで平坦化する形態
平坦化工程S20においては、算術平均粗さ(Ra)が、好ましくは100nm以下、より好ましくは90nm以下、より好ましくは80nm以下、より好ましくは70nm以下、より好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、より好ましくは45nm以下、より好ましくは40nm以下、より好ましくは35nm以下、より好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下、より好ましくは18nm以下、より好ましくは15nm以下、より好ましくは12nm以下、より好ましくは10nm以下、より好ましくは9nm以下、より好ましくは8nm以下、より好ましくは7nm以下、より好ましくは6nm以下、より好ましくは5nm以下、より好ましくは4nm以下、より好ましくは3nm以下、更に好ましくは2nm以下、更に好ましくは1.5nm以下、更に好ましくは1nm以下となるように、平坦化工程S20を行う。
【0047】
上記数値範囲の表面粗さになるように平坦化工程S20を行い、エッチング工程S31を行うことで、歪みを除去し、かつ、化学機械研磨工程S41を経た後と同程度に平坦化された表面を有するSiCウェハを得ることができる。
【0048】
特に算術平均粗さ(Ra)が2nm以下となるように平坦化工程S20を行い、エッチング工程S31を行うことで、極めて平坦な表面を有するSiCウェハを製造することができる。かかる実施形態は量産プロセスにも適用可能である。
【0049】
なお、本明細書中の説明において、算術平均粗さ(Ra)は、日本工業規格(JIS)B0601-2001に準拠する算術平均粗さのことである。SiC基板の表面の算術平均粗さ(Ra)は、原子間力顕微鏡(AFM:Atomic Force Microscope)やレーザー顕微鏡により測定することができる。
なお、本明細書において特に説明なく「算術平均粗さ(Ra)」というときは、AFMにより測定した算術平均粗さ(Ra)のことをいう。
【0050】
平坦化工程S20において、SiCウェハの表面に、上記数値範囲の表面粗さを実現するための手段としては、好ましくは上述した所定の平均砥粒径を有する砥粒を用いた方法が挙げられる。
また、砥粒を用いる形態の他、各種エッチングによって平坦化工程S20を行っても良い。エッチングによる平坦化工程S20としては、Si蒸気圧エッチングなどを好適に例示することができる。
【0051】
<3>洗浄工程S51
図1に示すように、平坦化工程S20の後に洗浄工程S51を行うことが好ましい。エッチング工程S31の前に洗浄工程S51により有機物汚染とパーティクル汚染の除去、酸化物層の除去、イオン汚染の除去などを行うことにより、異常なエッチングの発生を抑制することができ、また、エッチング炉の汚染を防ぐことができる。
洗浄工程S51の具体的な手法としてはRCA洗浄を例示することができる。
【0052】
<4>エッチング工程S31
エッチング工程S31は、上述の平坦化工程S20を経た後のSiCウェハをエッチングする工程である。
なお、平坦化工程S20は経ていないが、表面粗さが上述した数値範囲にあるSiCウェハに対してエッチング工程S31を行ってもよい。例えば、スライス工程S1によって得られたSiCウェハの表面粗さが上述した数値範囲にある場合には、平坦化工程S20を経ずに、スライス工程S1に次いでエッチング工程S31を行っても良い。
【0053】
エッチング工程S31は、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でSiCウェハをエッチングする工程である。
より具体的には、エッチング工程S31は、SiCウェハ10とSiC材料とを相対させて加熱し、SiCウェハ10からSiC材料にSi元素及びC元素を輸送して、SiCウェハ10をエッチングする工程である。
【0054】
SiC材料は、SiCウェハ10と相対させて加熱することで、SiCウェハ10からのSi元素とC元素を受け取ることが可能なSiCで構成される。例えば、SiC製の容器やSiC製の基板(SiC部材)を含む。なお、SiC材料の結晶多形としては、何れのポリタイプのものも採用することができ、多結晶SiCを採用しても良い。
【0055】
以下、好ましい実施の形態として、SiCウェハ10を収容することができ、それ自体がSiC材料として働くように構成された本体容器20を用いる形態について説明する。
【0056】
まず、エッチング工程S31を実現することができる装置構成について説明する。
図2に示すように、エッチング工程S31のためのエッチング装置は、SiCウェハ10を収容可能で、加熱によりSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20と、この本体容器20を収容し、Si元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱する加熱炉30と、を備える。
また、本体容器20は、SiCウェハ10が温度勾配の高温側に配置された状態で、温度勾配の低温側に配置される本体容器20の一部と、SiCウェハ10とを相対させることで形成されるエッチング空間X1を有する。
【0057】
本明細書中の説明においては、SiCウェハ10の半導体素子を作る面(具体的にはエピ層を堆積する面)を主面101といい、この主面101に相対する面を裏面102という。また、主面101及び裏面102を合わせて表面といい、主面101と裏面102を貫通する方向を表裏方向という。
【0058】
なお、主面101としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例えば、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる。(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0059】
本体容器20は、SiCウェハ10を収容可能であり、加熱処理時にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる構成であれば良い。例えば、本体容器20は、多結晶SiCを含む材料で構成されている。本実施形態では、本体容器20の全体が多結晶SiCで構成されている。このような材料で構成された本体容器20を加熱することで、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させることができる。
【0060】
すなわち、加熱処理された本体容器20内の環境は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の混合系の蒸気圧環境となることが望ましい。このSi元素を含む気相種としては、Si,Si,Si,SiC,SiC,SiCが例示できる。また、C元素を含む気相種としては、SiC,SiC,SiC,Cが例示できる。すなわち、SiC系ガスが本体容器20内に存在している状態となる。
【0061】
また、本体容器20の加熱処理時に、内部空間にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を発生させる構成であれば、その構成を採用することができる。例えば、内面の一部に多結晶SiCが露出した構成や、本体容器20内に別途多結晶SiCを配置する構成等を示すことができる。
【0062】
本体容器20は、図3に示すように、互いに嵌合可能な上容器21と下容器22とを備える嵌合容器である。上容器21と下容器22の嵌合部には、微小な間隙23が形成されており、この間隙23から本体容器20内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0063】
このような構成により、本体容器20の内部には、準閉鎖空間が形成されることが好ましい。なお、本明細書における「準閉鎖空間」とは、容器内の真空引きは可能であるが、容器内に発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことをいう。
【0064】
本体容器20は、SiCウェハ10が温度勾配の高温側に配置された状態で、温度勾配の低温側に配置される本体容器20の一部と、SiCウェハ10とを相対させることで形成されるエッチング空間X1を有する。すなわち、加熱炉30に設けられる温度勾配により、少なくとも本体容器20の一部(例えば、下容器22の底面)がSiCウェハ10よりも低温となることで、エッチング空間X1が形成されている。
【0065】
エッチング空間X1は、SiCウェハ10と本体容器20の間に設けられた温度差を駆動力として、SiCウェハ10表面のSi原子及びC原子を本体容器20に輸送する空間である。
例えば、SiCウェハ10の主面101(又は、裏面102)の温度と、この主面101に相対する下容器22の底面の温度を比較した際に、主面101側の温度が高く、下容器22の底面側の温度が低くなるようSiCウェハ10を配置する(図4参照)。このように、主面101と下容器22底面との間に温度差を設けた空間(エッチング空間X1)を形成することで、温度差を駆動力として、主面101のSi原子及びC原子を下容器22の底面に輸送することができる。
【0066】
本体容器20は、SiCウェハ10と本体容器20との間に設けられる基板保持具24を有していても良い。
本実施形態に係る加熱炉30は、本体容器20の上容器21から下容器22に向かって温度が下がるよう温度勾配を形成するよう加熱する構成となっている。そのため、SiCウェハ10を保持可能な基板保持具24を、SiCウェハ10と下容器22の間に設けることにより、SiCウェハ10と下容器22の間にエッチング空間X1を形成することができる。
【0067】
基板保持具24は、SiCウェハ10の少なくとも一部を本体容器20の中空に保持可能な構成であればよい。例えば、1点支持や3点支持、外周縁を支持する構成や一部を挟持する構成等、慣用の支持手段であれば当然に採用することができる。この基板保持具24の材料としては、SiC材料や高融点金属材料を採用することができる。
【0068】
なお、基板保持具24は、加熱炉30の温度勾配の方向によっては設けなくても良い。例えば、加熱炉30が下容器22から上容器21に向かって温度が下がるよう温度勾配を形成する場合には、下容器22の底面に(基板保持具24を設けずに)SiCウェハ10を配置しても良い。
【0069】
加熱炉30は、図2に示すように、被処理物(SiCウェハ10等)を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することが可能な本加熱室31と、被処理物を500℃以上の温度に予備加熱可能な予備加熱室32と、本体容器20を収容可能な高融点容器40と、この高融点容器40を予備加熱室32から本加熱室31へ移動可能な移動手段33(移動台)と、を備えている。
【0070】
本加熱室31は、平面断面視で正六角形に形成されており、その内側に高融点容器40が配置される。
本加熱室31の内部には、加熱ヒータ34(メッシュヒーター)が備えられている。また、本加熱室31の側壁や天井には多層熱反射金属板が固定されている(図示せず。)。この多層熱反射金属板は、加熱ヒータ34の熱を本加熱室31の略中央部に向けて反射させるように構成されている。
【0071】
これにより、本加熱室31内において、被処理物が収容される高融点容器40を取り囲むように加熱ヒータ34が配置され、更にその外側に多層熱反射金属板が配置されることで、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。
なお、加熱ヒータ34としては、例えば、抵抗加熱式のヒータや高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0072】
また、加熱ヒータ34は、高融点容器40内に温度勾配を形成可能な構成を採用しても良い。例えば、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に多くのヒータが配置されるよう構成しても良い。また、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて幅が大きくなるように構成しても良い。あるいは、加熱ヒータ34は、上側(若しくは下側)に向かうにつれて供給される電力を大きくすることが可能なよう構成しても良い。
【0073】
また、本加熱室31には、本加熱室31内の排気を行う真空形成用バルブ35と、本加熱室31内に不活性ガスを導入する不活性ガス注入用バルブ36と、本加熱室31内の真空度を測定する真空計37と、が接続されている。
【0074】
真空形成用バルブ35は、本加熱室31内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されている(図示せず。)。この真空形成用バルブ35及び真空引きポンプにより、本加熱室31内の真空度は、例えば、10Pa以下、より好ましくは1Pa以下、更に好ましくは10-3Pa以下に調整することができる。この真空引きポンプとしては、ターボ分子ポンプを例示することができる。
【0075】
不活性ガス注入用バルブ36は、不活性ガス供給源と接続されている(図示せず。)。この不活性ガス注入用バルブ36及び不活性ガス供給源により、本加熱室31内に不活性ガスを10-5~10000Paの範囲で導入することができる。この不活性ガスとしては、Ar,He,N等を選択することができる。
【0076】
予備加熱室32は、本加熱室31と接続されており、移動手段33により高融点容器40を移動可能に構成されている。なお、本実施形態の予備加熱室32には、本加熱室31の加熱ヒータ34の余熱により昇温可能なよう構成されている。例えば、本加熱室31を2000℃まで昇温した場合には、予備加熱室32は1000℃程度まで昇温され、被処理物(SiCウェハ10や本体容器20、高融点容器40等)の脱ガス処理を行うことができる。
【0077】
移動手段33は、高融点容器40を載置して、本加熱室31と予備加熱室32を移動可能に構成されている。この移動手段33による本加熱室31と予備加熱室32間の搬送は、最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。
このように急速昇温及び急速降温が行えるため、従来の装置では困難であった、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。
また、図2においては、本加熱室31の下方に予備加熱室32を配置しているが、これに限られず、何れの方向に配置しても良い。
【0078】
また、本実施形態に係る移動手段33は、高融点容器40を載置する移動台である。この移動台と高融点容器40の接触部から、微小な熱を逃がしている。これにより、高融点容器40内に温度勾配を形成することができる。
【0079】
本実施形態の加熱炉30では、高融点容器40の底部が移動台と接触しているため、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
なお、この温度勾配の方向は、移動台と高融点容器40の接触部の位置を変更することで、任意の方向に設定することができる。例えば、移動台に吊り下げ式等を採用して、接触部を高融点容器40の天井に設ける場合には、熱が上方向に逃げる。そのため温度勾配は、高融点容器40の上容器41から下容器42に向かって温度が上がるように温度勾配が設けられることとなる。なお、この温度勾配は、SiCウェハ10の表裏方向に沿って形成されていることが望ましい。
また、上述したように、加熱ヒータ34の構成により、温度勾配を形成してもよい。
【0080】
本実施形態に係る加熱炉30内のSi元素を含む気相種の蒸気圧環境は、高融点容器40及びSi蒸気供給源44を用いて形成している。例えば、本体容器20の周囲にSi元素を含む気相種の蒸気圧の環境を形成可能な方法であれば、エッチング装置に採用することができる。
【0081】
高融点容器40は、高融点材料を含んで構成されている。例えば、汎用耐熱部材であるC、高融点金属であるW,Re,Os,Ta,Mo、炭化物であるTa,HfC,TaC,NbC,ZrC,TaC,TiC,WC,MoC、窒化物であるHfN,TaN,BN,TaN,ZrN,TiN、ホウ化物であるHfB,TaB,ZrB,NB,TiB,多結晶SiC等を例示することができる。
【0082】
この高融点容器40は、本体容器20と同様に、互いに嵌合可能な上容器41と下容器42とを備える嵌合容器であり、本体容器20を収容可能に構成されている。上容器41と下容器42の嵌合部には、微小な間隙43が形成されており、この間隙43から高融点容器40内の排気(真空引き)が可能なよう構成されている。
【0083】
高融点容器40は、高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧を供給可能なSi蒸気供給源44を有している。Si蒸気供給源44は、加熱処理時にSi蒸気を高融点容器40内に発生させる構成であれば良く、例えば、固体のSi(単結晶Si片やSi粉末等のSiペレット)やSi化合物を例示することができる。
【0084】
エッチング装置においては、高融点容器40の材料としてTaCを採用し、Si蒸気供給源44としてタンタルシリサイドを採用している。すなわち、図3に示すように、高融点容器40の内側にタンタルシリサイド層が形成されており、加熱処理時にタンタルシリサイド層からSi元素を含む気相種の蒸気圧が容器内に供給されることにより、Si蒸気圧環境が形成されるように構成されている。
この他にも、加熱処理時に高融点容器40内にSi元素を含む気相種の蒸気圧が形成される構成であれば採用することができる。
【0085】
上述したエッチング装置によれば、SiCウェハ10を収容し、加熱によりSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20と、本体容器20を収容し、Si元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させるとともに温度勾配が形成されるように加熱する加熱炉30と、を備え、本体容器20は、SiCウェハが温度勾配の高温側に配置された状態で、温度勾配の低温側に配置される本体容器20の一部と、SiCウェハ10とを相対させることで形成されるエッチング空間X1を有する構成となっている。
【0086】
このような構成により、SiCウェハ10と本体容器20の間に近熱平衡状態を形成可能であり、かつ、本体容器20内にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧(Si,Si,Si,SiC,SiC,SiC等の気相種の分圧)環境が形成可能となる。このような環境において、加熱炉30の温度勾配を駆動力として質量の輸送が起こり、結果としてSiCウェハ10がエッチングされ、平坦化される。
【0087】
また、本体容器20を、Si元素を含む気相種の蒸気圧環境(例えば、Si蒸気圧環境)下で加熱することにより、本体容器20内からSi元素を含む気相種が排気されることを抑制することができる。すなわち、本体容器20内のSi元素を含む気相種の蒸気圧と、本体容器20外のSi元素を含む気相種の蒸気圧とをバランスさせることにより、本体容器20内の環境を維持することができる。
【0088】
また、上述したエッチング装置によれば、本体容器20は多結晶SiCで構成されている。このような構成とすることにより、加熱炉30を用いて本体容器20を加熱した際に、本体容器20内にSi元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧のみを発生させることができる。
【0089】
図3及び図4に示すように、本実施形態に係るエッチング工程S31は、Si元素を含む気相種及びC元素を含む気相種の蒸気圧を内部空間に発生させる本体容器20の内部にSiCウェハ10を収容し、本体容器20を、Si元素を含む気相種の蒸気圧の環境下で温度勾配が形成されるように加熱することで、SiCウェハ10をエッチングする。
【0090】
図4は、エッチング機構の概要を示す説明図である。SiCウェハ10を配置した本体容器20を、1400℃以上2300℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~5)の反応が持続的に行われ、結果としてエッチングが進行すると考えられる。
【0091】
1) SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC(v)
3) C(s)+2Si(v)→SiC(v)
4) Si(v)+SiC(v)→2SiC(s)
5) SiC(v)→Si(v)+SiC(s)
【0092】
1)の説明:SiCウェハ10(SiC(s))が加熱されることで、熱分解によってSiCウェハ10表面からSi原子(Si(v))が脱離する(Si原子昇華工程)。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することでSiCウェハ10表面に残存したC(C(s))は、本体容器20内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となってSiCウェハ10表面から昇華する(C原子昇華工程)。
4)及び5)の説明:昇華したSiC又はSiC等が、温度勾配によって本体容器20内の底面(多結晶SiC)に到達し成長する。
【0093】
すなわち、エッチング工程S31は、SiCウェハ10の表面からSi原子を熱昇華させるSi原子昇華工程と、SiCウェハ10の表面に残存したC原子と本体容器20内のSi蒸気とを反応させることでSiCウェハ10の表面から昇華させるC原子昇華工程と、を有する。
【0094】
なお、本体容器20の内部に、SiCウェハ10以外のSi元素供給源やC元素供給源を配置した状態でエッチング工程S31を行っても良い。SiCウェハ10以外のSi元素供給源/C元素供給源を存在させても特に問題はない。
【0095】
また、SiCウェハ10がクラック(クラック層111)を有している場合には、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間にSiCウェハ10を配置して加熱することが好ましい。例えば、化学量論比1:1を満たすSiC製の容器(本体容器20)内に、化学量論比1:1を満たすSiCウェハ10と、化学量論比1:1を満たすSiC材料と、を配置した場合には、本体容器20内の原子数比Si/Cは1となる。また、C蒸気供給源(Cペレット等)を配置して原子数比Si/Cを1以下としても良い。
このような環境で、SiCウェハ10をエッチングすることにより、クラック(クラック層111)を高速に除去することができる。
【0096】
なお、このクラック及びクラック層111の有無及び深さは、算術平均粗さ(Ra)と相関関係がある。すなわち、クラックを有するSiCウェハ10の表面の算術平均粗さ(Ra)の値は、10nm以上であり、又は15nm以上であり、又は20nm以上であり、又は25nm以上であり、又は30nm以上、又は35nm以上、又は40nm以上である。
【0097】
また、エッチング工程S31は、温度勾配の高温側に配置されたSiCウェハ10と、温度勾配の低温側に配置された本体容器20の一部と、を相対させてエッチングする。
すなわち、SiCウェハ10の主面101と、この主面101よりも温度が低い本体容器20底面とを相対させて配置することにより、これらの間にエッチング空間X1を形成する。このエッチング空間X1では、加熱炉30が形成する温度勾配を駆動力として質量の輸送が起こり、結果としてSiCウェハ10をエッチングすることができる。
【0098】
エッチング工程S31におけるエッチング温度は、好ましくは1400~2300℃の範囲で設定され、より好ましくは1600~2000℃の範囲で設定される。
【0099】
エッチング工程S31におけるエッチング速度は、上記温度領域によって制御することができ、0.001~2μm/minの範囲で選択することが可能である。
【0100】
エッチング工程S31におけるエッチング量は、SiC基板の歪みが除去でき、SiC基板の表面を所定の表面粗さ以下とすることができれば、特に限定されない。
【0101】
エッチング工程S31によりSiC基板の歪みが除去されたか否かは、以下の手法により評価することができる。
SiC基板の歪み(より具体的には格子歪み)は、基準となる基準結晶格子と比較することにより求めることができる。この格子歪みを測定する手段としては、例えば、SEM-EBSD法を用いることができる。SEM-EBSD法は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope: SEM)の中で、電子線後方散乱により得られる菊池線回折図形をもとに、微小領域の歪み測定が可能な手法(Electron Back Scattering Diffraction: EBSD)である。この手法では、基準となる基準結晶格子の回折図形と測定した結晶格子の回折図形を比較することで、格子歪み量を求めることができる。
【0102】
基準結晶格子としては、例えば、格子歪みが生じていないと考えられる領域に基準点を設定する。通常、機械加工により導入される加工変質層の深さは、10μm程度となるのが定説である。そのため、加工変質層よりも十分に深いと考えられる深さ20~35μm程度の位置に、基準点を設定すればよい。
【0103】
次に、この基準点における結晶格子の回折図形と、ナノメートルオーダーのピッチで測定した各測定領域の結晶格子の回折図形とを比較する。これにより、基準点に対する各測定領域の格子歪み量を算出することができる。
【0104】
また、基準結晶格子として格子歪みが生じていないと考えられる基準点を設定する場合を示したが、単結晶SiCの理想的な結晶格子を基準とすることや、測定領域面内の大多数(例えば、過半数以上)を占める結晶格子を基準とすることも当然に可能である。
【0105】
このSEM-EBSD法により格子歪みが存在するか否かを測定することにより、加工変質層の有無を判断することができる。すなわち、機械加工により導入された傷や潜傷、歪み等の加工ダメージが導入されている場合には、SiC基板に格子歪みが生じるため、SEM-EBSD法により応力が観察される。
【0106】
また、エッチング工程S31により達成すべき、SiC基板の「所定の表面粗さ」は、算術平均粗さ(Ra)として、好ましくは60nm以下、より好ましくは50nm以下、より好ましくは40nm以下、より好ましくは30nm以下、より好ましくは20nm以下、より好ましくは10nm以下、更に好ましくは5nm以下、更に好ましくは4nm以下、更に好ましくは3nm以下、更に好ましくは2nm以下である。
【0107】
上述した通り、エッチング量は、SiC基板の歪みを除去でき、かつ、上述した数値範囲の表面粗さを達成できるのであれば特に限定されないが、具体的には、好ましくは0.5μm以上、より好ましくは0.6μm以上、より好ましくは0.7μm以上、より好ましくは0.8μm以上、より好ましくは0.9μm以上、更に好ましくは1μm以上、更に好ましくは2μm以上、更に好ましくは3μm以上である。
【0108】
エッチング工程S31におけるエッチング時間は、所望のエッチング量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、エッチング速度が1μm/minの時に、エッチング量を1μmとしたい場合には、エッチング時間は1分間となる。
【0109】
エッチング工程S31における温度勾配は、エッチング空間X1において、0.1~5℃/mmの範囲で設定される。
【0110】
<5>エッチング工程S31の後の工程
エッチング工程S31を経たSiCウェハは、歪みが低減され、極めて平滑な表面を有する。
そのため、エッチング工程S31の後に、改めて何らかの機械加工を行わない形態とすることができる。機械加工としては化学機械研磨(CMP)等が挙げられる。
【0111】
CMPを含む機械加工では、少なからずSiCウェハの表面に、加工に伴う傷(クラッチ)や歪みなどが生じることがある。エッチング工程S31の後に機械加工を行わないことで、より高品質なSiCウェハを提供することができる。
【0112】
また、従来、化学機械研磨工程S41を含む鏡面研磨工程S40を行った後、SiCウェハの表面に残留した微細な粒子を除去するために、洗浄工程S52が行われる。洗浄方法として一般的にRCA洗浄が行われている(図11)。
一方、鏡面研磨工程S40ではなく、エッチング工程S31により歪み除去と極めて平滑な表面を実現する本発明においては、エッチング工程S31の後に洗浄工程S52により除去すべき残留異物が生じない。したがって、エッチング工程S31の後に洗浄工程S52を行わずともよい(図1)。
【0113】
上述の通り、本発明においては、エッチング工程S31によりエピタキシャル成長に供することが可能な表面を有するSiCウェハを得ることができる。
そのため、エッチング工程S31に次いで、SiCウェハの表面にエピ層を形成するエピタキシャル成長工程S61を行う形態とすることが、工数削減の観点から有効である。
【0114】
エッチング工程S31の後に行うエピタキシャル成長工程S61の手法としては、公知の何れの手法であっても採用することができる。
例えば、エピタキシャル成長の手段としては、CVD法,PVE法,又はLPE法を用いることができる。ここでCVD法は,Chemical VaporDeposition(化学気相堆積法)法、PVE法は,Physical Vapor Epitaxy(昇華エピタキシー)法,LPE法は,Liquid Phase Epitaxy(液相エピタキシー)法をいう。
【0115】
[SiC単結晶種基板の製造方法]
本発明はSiC単結晶種基板の製造に応用することができる。図5に本発明をSiC単結晶種基板の製造に応用した場合の一実施形態を示す。
【0116】
図5に示すように、本実施形態では、SiC単結晶原基板について、所定の表面粗さとなるまで平坦化工程を行った後、又は所定の粒径以下の砥粒を用いて平坦化工程S20を行った後に、エッチング工程S31を行う。
平坦化工程S20とエッチング工程S31の具体的態様については、上述したSiCウェハの製造方法に係る説明が妥当する。
【0117】
本実施形態においては、エッチング工程S31によって得られたSiC単結晶種基板を結晶成長させインゴットを得るインゴット形成工程S62を含む。
インゴット形成工程S62の具体的な態様は、公知のインゴット形成手段を特段の制限なく採用することができ、例えば昇華法やCVD法、ガス成長法を挙げることができる。
【0118】
こうして得られたSiCインゴットを原料としてスライス工程S1に供し、図1に示す実施形態によってSiCウェハを製造してもよい。
【実施例
【0119】
<1>サンプルの作製(平坦化工程)
鏡面加工がなされ、潜傷等の欠陥が除去されたSiC基板を用意した。
このSiC基板に対して、平均砥粒径15μm、10μm、1μm又は0.3μmのダイヤモンド砥粒を用い、固定砥粒方式で疑似的に平坦化を行い、それぞれサンプル1~4とした。
【0120】
サンプル1~4の算術平均粗さ(Ra)を測定した。なお、サンプル1はレーザー顕微鏡、サンプル2~4はAFMを用いて算術平均粗さ(Ra)を測定した。
サンプル1~4について、作製に用いた砥粒の平均砥粒径及び算術平均粗さ(Ra)を以下の表1にまとめる。なお、算術平均粗さ(Ra)については、小数点第1位を四捨五入した値を表に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
<2>エッチング工程
【0123】
以下の本体容器20、高融点容器40、そしてサンプル1~4(SiCウェハ10)を図2及び3に示す構成となるように配置した。
【0124】
[本体容器20]
材料:多結晶SiC
容器サイズ:直径60mm×高さ4mm
基板保持具24の材料:単結晶SiC
SiCウェハ10と本体容器20の底面の距離:2mm
【0125】
[高融点容器40]
材料:TaC
容器サイズ:直径160mm×高さ60mm
Si蒸気供給源44(Si化合物):TaSi
【0126】
[エッチング工程]
上記条件で配置したサンプル1~4を、温度勾配:1℃/mm、本加熱室真空度:10-5Paの条件で加熱処理した。
なお、それぞれのサンプルについて、本体容器20の内部に、Si蒸気供給源として単結晶Si片を配置してエッチングする条件Aと、単結晶Si片を配置せずにエッチングする条件Bの2通りの条件のもと試験を行った。
【0127】
すなわち、条件Aは原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間にSiCウェハ10を配置して加熱する条件であり、条件Bは原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間にSiCウェハ10を配置して加熱する条件となっている。
【0128】
エッチングは、加熱温度1500℃、1600℃、1700℃、1800℃及び1900℃のそれぞれについて行い、エッチング量が異なる複数の条件で行った。なお、エッチング量は加熱時間を変更することで調整できる。
【0129】
<3>評価
<3-1>SEM-EBSD法による歪みの測定
【0130】
エッチング工程の前後のサンプル1~4に存在する歪みをSEM-EBSD法により観察した。SEM-EBSD法による歪みの測定は、サンプル1~4のSiC基板を劈開した断面について、走査型電子顕微鏡を用いて、以下の条件で行った。
SEM装置:Zeiss製Merline
EBSD解析:TSLソリューションズ製OIM結晶方位解析装置
加速電圧:15kV
プローブ電流:15nA
ステップサイズ:200nm
基準点R深さ:20μm
【0131】
測定の結果、エッチング工程前のサンプル1~4には歪みが観察された。これは、サンプル作製において行った疑似的な平坦化工程により導入された格子歪みであり、加工変質層を有していることがわかる。なお、何れも圧縮応力が観測された。具体的には、サンプル1には深さ5μm、サンプル3には深さ3μm、サンプル4には深さ1μmの歪みが観察された。
一方、エッチング後のサンプル1~4においては、歪みが観察されなかった。この結果は、エッチング工程により、加工変質層が除去されたことを示している。
【0132】
図6にエッチング前後のサンプル1のSiC基板の断面SEM-EBSDイメージング画像を示す。図6(a)は、サンプル1のエッチング前の断面SEM-EBSDイメージング画像である。このエッチング前においては、画像の白黒コントラストから深さ5μmの位置まで歪みが導入されていることがわかる。図6(b)は、エッチング後の断面SEM-EBSDイメージング画像である。このエッチング後においては、エッチング前のような白黒コントラストは観察されなかった。すなわち、図6に示すように、エッチング工程前においては深さ5μmの歪みが導入されていたが、エッチングによりこれを除去することができた。
【0133】
<3-2>SEMによる表面の評価
エッチング工程前後におけるサンプル1~4の表面をSEMにより観察した。図7に、エッチング工程前、並びに、条件A(温度1800℃)で3.08μmエッチングした後、及び条件B(温度1800℃)で5μmエッチングした後のサンプル1~4のSiC基板の表面のSEM画像(倍率3000倍)を示す。
【0134】
図7に示すように、サンプル1は条件A及び条件Bの何れの条件でエッチング後であっても、表面に顕著な凹凸が残ったままであった。
一方、図7に示すようにサンプル2~4においては、エッチングにより極めて平滑な表面状態を達成することができ、サンプル1のような顕著な凹凸は観察されなかった。
【0135】
サンプル3においては、条件Bによりエッチングした後、わずかなピット(白抜き矢印で示す箇所)が観察された。しかし、サンプル4においては、条件Bによるエッチングであってもピットは観察されず、より平滑な表面が得られることがわかった。
【0136】
<3-3>算術平均粗さ(Ra)とエッチング量の関係
上述した各種条件でエッチングしたサンプル1、3及び4のSiC基板について、エッチング量と算術平均粗さ(Ra)を測定した。なお、サンプル1はレーザー顕微鏡、サンプル3及び4はAFMを用いて算術平均粗さ(Ra)を測定した。エッチング前後の算術平均粗さ(Ra)及びエッチング量をグラフにプロットした。
サンプル1の結果を図8に、サンプル3の結果を図9に、サンプル4の結果を図10に示す。なお、それぞれの結果を示すグラフには、上記<3-1>で測定した歪みの深さを黒矢印で表示した。
【0137】
図8に示すように、平均砥粒径15μmの砥粒で加工したサンプル1(初期の算術平均粗さ(Ra)は約1100nm)のSiC基板については、深くエッチングしても算術平均粗さ(Ra)が60nmを下回ることが無かった。特に、条件BによりエッチングしたSiC基板については、エッチング量の増加に伴い表面粗さが増大する領域すら観察された。
この結果は、サンプル1のSiC基板は、エッチングにより歪みを除去することはできる一方、極めて平滑な表面を実現するには至らないことを示している。
【0138】
一方、平均砥粒径1μmの砥粒で加工したサンプル3(初期の算術平均粗さ(Ra)は約17nm)のSiC基板に関しては、エッチング量1000nm付近で、算術平均粗さ(Ra)が5nmを下回った(図9)。
更に、エッチング前に存在していた歪みの深さ以上にエッチングを進行させれば、算術平均粗さ(Ra)を2nm以下にまで低減できることがわかった(図9)。
【0139】
更に、平均砥粒径0.3μmの砥粒で加工したサンプル4(初期の算術平均粗さ(Ra)は約0.5nm)のSiC基板をエッチングしたとき、算術平均粗さ(Ra)が2nm以下、更には1nm以下である極めて平坦な表面が形成されていることが確認できた(図10)。
【0140】
また、図8によれば、クラックを有したSiCウェハ10であるサンプル1においては、加工変質層を除去する5μm地点まで、条件Bのエッチング速度が、条件Aのエッチング速度よりも早いことがわかる。
そのため、クラックを有しているSiCウェハ10をエッチングする場合には、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間にSiCウェハ10を配置して加熱する工程(条件B)を含めることで、エッチングを高速に行うことができる。
具体的には、クラックを有するSiCウェハ10をエッチングする場合には、まず条件Bでエッチングし、その後条件Aでエッチングする等して、SiCウェハ10のエッチング工程の時間を短縮することができる。
【0141】
<4>まとめ
以上の結果は、SiC基板に対して、表面の算術平均粗さ(Ra)が100nm以下となるまで平坦化工程を行った後、又は、平均砥粒径が10μm以下の砥粒を用いて平坦化工程を行った後に、Si元素及びC元素を含む雰囲気下でエッチングすることにより、歪みを除去し、かつ、極めて平滑な表面を有するSiC基板を得ることができることを示している。このようにして得られたSiC基板は、更にCMPなどの機械加工を行わずともエピタキシャル成長工程に供することができる。
【符号の説明】
【0142】
10 SiC基板(SiCウェハ)
101 主面
11 加工変質層
111 クラック層
112 歪層
12 バルク層
20 本体容器
24 基板保持具
30 加熱炉
40 高融点容器
44 Si蒸気供給源
X1 エッチング空間
S1 スライス工程
S20 平坦化工程
S21 ラッピング工程
S22 粗研削工程
S23 仕上げ研削工程
S31 エッチング工程
S40 鏡面研磨工程
S41 化学機械研磨工程
S51、S52 洗浄工程
S61 エピタキシャル成長工程
S62 インゴット形成工程
図1
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