(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-12
(45)【発行日】2023-05-22
(54)【発明の名称】SiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20230515BHJP
C30B 25/20 20060101ALI20230515BHJP
H01L 21/205 20060101ALI20230515BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C30B25/20
H01L21/205
(21)【出願番号】P 2020556059
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043203
(87)【国際公開番号】W WO2020095872
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018208475
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】芦田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】井原 知也
(72)【発明者】
【氏名】堂島 大地
【審査官】有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113303(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018533(WO,A1)
【文献】特開2017-059670(JP,A)
【文献】国際公開第2014/199615(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/188381(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/125550(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/174105(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 1/00-35/00
H01L 21/205
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板の歪層を除去する歪層除去工程と、
1ユニットセル高さのステップが表面に配列したSiC基板であって、前記歪層除去工程に供された前記SiC基板を、前記SiC基板のテラス幅が増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程と、を含む、SiC半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記エピタキシャル成長工程は、SiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させる、請求項1に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる、請求項1又は請求項2に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記エピタキシャル成長工程は、CVD法を用いて前記SiC基板をCリッチ環境下で成長させる、請求項1に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項5】
前記エピタキシャル成長工程は、オフ方向が<11-20>であるSiC基板に対して成長させた際に、ステップ端形状がジグザグ形状のマクロステップバンチングが形成される成長条件でエピタキシャル成長を行う、請求項1~
4の何れかに記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項6】
前記エピタキシャル成長工程は、1600℃以上の温度で行う、請求項1~
5の何れかに記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項7】
前記エピタキシャル成長工程後に、マクロステップバンチングを分解させるバンチング分解工程をさらに含む、請求項1~
6の何れかに記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項8】
基底面転位を有するバルク層と、
前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、
前記成長層における前記基底面転位の変換率は99.95%より大き
く、
前記バルク層の表面は、1ユニットセル高さのステップが配列している、SiC半導体基板。
【請求項9】
歪層を有さず、かつ1ユニットセル高さのステップが表面に配列したSiC基板に対して、前記SiC基板のテラス幅が増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法。
【請求項10】
歪層を有さず、かつ1ユニットセル高さのステップが表面に配列したSiC基板に対して、前記SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下でエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法。
【請求項11】
前記エピタキシャル成長工程は、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板にエピタキシャル成長させる、請求項
9又は請求項
10に記載のSiC半導体基板の基底面転位を低減する方法。
【請求項12】
前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる、請求項
9~
11の何れかに記載のSiC半導体基板の基底面転位を低減する方法。
【請求項13】
歪層を有さず、かつ1ユニットセル高さのステップが表面に配列したSiC基板に対して、前記SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の製造方法。
【請求項14】
前記エピタキシャル成長工程は、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板にエピタキシャル成長させる、請求項
13に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項15】
前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる、請求項
13又は請求項
14に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項16】
基底面転位を有するバルク層と、
前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、
前記バルク層の表面の基底面転位の密度は、2000個/cm
2以上であり、前記成長層の表面の基底面転位の密度は、100個/cm
2以下であ
り、
前記バルク層の表面は、1ユニットセル高さのステップが配列している、SiC半導体基板。
【請求項17】
前記成長層の表面の基底面転位の密度は、1個/cm
2未満である、
請求項16に記載のSiC半導体基板。
【請求項18】
前記成長層の表面の基底面転位の密度は、0個/cm
2である、
請求項16に記載のSiC半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化珪素)基板上にSiCをエピタキシャル成長させたエピタキシャルウェハには、多くの結晶欠陥・転位が存在しており、これらがSiC半導体デバイスの特性に悪影響を与えている。
【0003】
特に、エピタキシャル成長させた層(以下、エピ層という。)中の基底面転位(BPD:Basal Plane Dislocation)は、SiC半導体デバイスをバイポーラ動作させた際に積層欠陥に拡張する。この積層欠陥は、SiC半導体デバイスのオン電圧を上昇させ、バイポーラ劣化の発生につながるため、エピ層中のBPDを低減する技術が強く求められている。
【0004】
BPDは、通常、SiC基板中に数百~数千個/cm2の密度で存在している。これらBPDの多くは、エピタキシャル成長中に貫通刃状転位(TED:Threading Edge Dislocation)に変換されることが知られている。しかしながら、BPDの一部は、(例えば、0.1~数個/cm2の密度で)エピ層へ引き継がれてしまうという問題あった。
【0005】
このような問題に対し、TEDへの変換率を向上させる技術が種々提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、SiC基板に含まれる転位に対応するピットを形成し、その後ピットが形成された表面に対してエピタキシャル成長を施すことで、エピ層内のBPDの密度を低減することが可能な技術が記載されている。
【0006】
しかしながら、非特許文献1には、ピットが形成された表面にエピタキシャル成長を行う際、エピタキシャル成長時にピットの形状が引き継がれてしまい、エピ層の表面が荒れてしまうという問題が指摘されている。
さらに、非特許文献2には、このようなエピ層に作りこまれたpn接合ダイオードでは、オン状態の特性の信頼性はBPD密度の減少によって確かに向上しているものの、オフ状態の特性は逆に悪化することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特表2007-506289号公報
【文献】特開2017-71525号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Appl.Phys.Lett.2006,89(8),No.081910.
【文献】Mater.Sci.Forum.527-529,(2006)pp.1329-1334
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、エピ層中のBPD密度を低減可能なSiC半導体基板の製造方法及びその製造装置を提供することを課題とする。
また、本発明は、BPDの変換率が99.95%より大きい成長層を有するSiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様のSiC半導体基板の製造方法は、SiC基板の表面に導入された歪層を除去する歪層除去工程と、前記SiC基板のテラス幅が増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程と、を含む。
【0011】
このように、歪層を除去したSiC基板に対し、テラス幅を増大させる条件でエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程を含むことにより、成長層中のBPD密度を低減させることができる。
【0012】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、SiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させる。
このように、SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程を含むことにより、成長層中のBPD密度を低減させることができる。
【0013】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる。
このように、Si原子供給源及びC原子供給源を配置することにより、原料供給空間内にSiC-C平衡蒸気圧環境を形成することができる。
【0014】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、CVD法を用いて前記SiC基板をCリッチ環境下で成長させる。
このように、CVD法を用いてSiC基板をCリッチ環境下で成長させるエピタキシャル成長工程を含むことにより、成長層中のBPD密度を低減させることができる。
【0015】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、マクロステップバンチングが形成されていないSiC基板に対して成長させる。
このように、マクロステップバンチングが形成されていない表面に対して成長させるエピタキシャル成長工程を含むことにより、成長層中のBPD変換率を99.95%より大きくすることができる。
【0016】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、オフ方向が<11-20>であるSiC基板に対して成長させた際に、ステップ端形状がジグザグ形状のマクロステップバンチングが形成される成長条件でエピタキシャル成長を行う。
【0017】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、1600℃以上の温度で行う。
このような温度領域でエピタキシャル成長を行うことにより、高品質かつ高速に成長層を形成することができる。
【0018】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程後に、マクロステップバンチングを分解させるバンチング分解工程をさらに含む。
このように、成長層上のMSBを分解するバンチング分解工程を含むことにより、SiC半導体デバイスに好ましい表面を提供することができる。
【0019】
また、本発明はSiC半導体基板にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板は、基底面転位を有するバルク層と、前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、前記成長層における前記基底面転位の変換率は99.95%より大きい。
このように、成長層における前記基底面転位の変換率が99.95%より大きいことにより、BPD起因の積層欠陥の発生を抑制することができる。
【0020】
この態様において、前記バルク層の表面は、1ユニットセル高さのステップが配列している。
このように、バルク層の表面が1ユニットセル高さのステップが配列していることにより、成長層における前記基底面転位の変換率が99.95%より大きくなる。すなわち、BPD起因の積層欠陥の発生を抑制することができる。
【0021】
また、本発明は、上述したSiC半導体基板の製造装置にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板の製造装置は、SiC基板にSi原子及びC原子を供給して成長させる原料供給空間と、前記原料供給空間を加熱可能な高温真空炉と、を備え、前記原料供給空間は、Si原子供給源と、C原子供給源と、を有し、前記Si原子供給源及び前記C原子供給源は、前記原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう配置される。
このような構成とすることにより、原料供給空間内にSiC-C平衡蒸気圧環境を形成してSiC基板を成長させることができる。その結果、成長層中のBPDを低減することができる。
【0022】
この態様において、Si蒸気圧環境が形成されるSi蒸気圧空間をさらに備え、前記原料供給空間は、前記Si蒸気圧空間を介して排気される。
このように、原料供給空間は、Si蒸気圧空間を介して排気(真空引き)されることにより、原料供給空間内のSiC-C平衡蒸気圧環境を長時間維持することができる。
【0023】
この態様において、前記原料供給空間を有する原料容器と、前記Si蒸気圧空間を有する浸炭容器と、を備える。
【0024】
この態様において、前記原料供給空間内には、前記SiC基板に向かって温度が下がるような温度勾配が設けられている。
このような温度勾配が設けられていることにより、効率よく原料をSiC基板へ輸送することができる。
【0025】
この態様において、前記高温真空炉は、前記原料供給空間を加熱可能な本加熱室と、前記本加熱室に接続する予備加熱室と、前記原料供給空間を移動させる移動手段と、を有し、前記移動手段は、前記本加熱室と前記予備加熱室の間を移動可能に構成されている。
このように、原料供給空間を本加熱室から予備加熱室へ移動可能な構成とすることにより、SiC基板を急速に昇温及び降温させることが可能である。
【0026】
また、本発明は、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板の基底面転位を低減する方法は、SiC基板に単結晶SiCを成長させるエピタキシャル成長工程を含むSiC半導体基板の製造方法において、SiC基板のテラス幅が増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法である。
【0027】
本発明の一態様のSiC半導体基板の基底面転位を低減する方法は、SiC基板に単結晶SiCを成長させるエピタキシャル成長工程を含むSiC半導体基板の製造方法において、前記SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下でエピタキシャル成長させることにより、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法である。
【0028】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板にエピタキシャル成長させる。
【0029】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる。
【0030】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、マクロステップバンチングが形成されていないSiC基板に対して成長させる。
【0031】
また、本発明はSiC半導体基板の製造方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板の製造方法は、SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程を含む。
【0032】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板にエピタキシャル成長させる。
【0033】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる。
【0034】
この態様において、前記エピタキシャル成長工程は、マクロステップバンチングが形成されていないSiC基板に対して成長させる。
【0035】
また、本発明の一態様のSiC半導体基板は、基底面転位を有するバルク層と、前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、前記バルク層の表面の基底面転位の密度は、2000個/cm2以上であり、前記成長層の表面の基底面転位の密度は、100個/cm2以下である。
【0036】
また、本発明の一態様のSiC半導体基板は、基底面転位を有するバルク層と、前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、前記バルク層の表面の基底面転位の密度は、2000個/cm2以上であり、前記成長層の表面の基底面転位の密度は、1個/cm2未満である。
【0037】
また、本発明の一態様のSiC半導体基板は、基底面転位を有するバルク層と、前記基底面転位を基底面転位以外に変換させる成長層と、を備え、前記バルク層の表面の基底面転位の密度は、2000個/cm2以上であり、前記成長層の表面の基底面転位の密度は、0個/cm2である。
【発明の効果】
【0038】
開示した技術によれば、成長層中の基底面転位(BPD)の密度を低減可能なSiC半導体基板の製造方法及びその装置を提供することができる。
また、本発明は、BPDの変換率が99.95%より大きい成長層を有するSiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置を提供することができる。
【0039】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程を示す概略図である。
【
図2】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程における歪層除去工程からバンチング分解工程までを示す説明図である。
【
図3】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程の歪層除去工程の説明図である。
【
図4】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程の歪層除去工程の説明図である。
【
図5】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程の歪層除去工程の説明図である。
【
図6】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程のエピタキシャル成長工程の説明図である。
【
図7】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程のエピタキシャル成長工程の説明図である。
【
図8】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程のエピタキシャル成長工程の説明図である。
【
図9】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程のBPD変換率を求める手法の説明図である。
【
図10】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程で用いる高温真空炉の概略図である。
【
図11】一実施の形態のSiC半導体基板の製造工程のBPD変換率とテラス幅増大率の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明を図面に示した好ましい一実施形態について、
図1~
図11を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。
【0042】
[SiC半導体基板の製造方法]
以下、本発明の一実施形態であるSiC半導体基板の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
本発明の一実施形態であるSiC半導体基板の製造方法は、
図1に示すように、SiC基板10の表面に導入された歪層11を除去する歪層除去工程(ステップS10)と、SiC基板10のテラス幅Wが増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程(ステップS20)と、エピタキシャル成長工程S20中に形成されたマクロステップバンチング(MSB:Macro Step Bunching)を分解させるバンチング分解工程(ステップS30)と、を含む。
【0044】
このように、歪層11が除去されたSiC基板10を、テラス幅Wが増大する条件で成長させることにより、BPDが他の欠陥・転位に変換される変換率(BPD変換率)を向上させ、成長層13中のBPD密度を低減することができる。このテラス幅Wが増大する条件とは、成長前のテラス幅W1と比較して成長後のテラス幅W2が増大する条件であり、例えば、SiC-C平衡蒸気圧環境やCリッチ環境で成長させることで実現することができる。
【0045】
なお、歪層除去工程S10においては、歪層11を除去すると共に、SiC基板10表面のMSBを分解する手法を用いることが望ましい。また、歪層11を除去する歪層除去工程S10後に、別途、MSBを分解させるバンチング分解工程S11をさらに含んでも良い(
図1参照)。
【0046】
<SiC基板>
SiC基板10としては、何れのポリタイプのものも用いることができる。SiC半導体デバイスの基板としては昇華法等で作製したバルク結晶から加工したSiC基板10を用いる。
【0047】
通常、機械的な加工(スライスや研磨・研削)を経たSiC基板10は、
図2に示すように、歪み111や傷112、潜傷113等の加工ダメージが導入された歪層11と、このような加工ダメージが導入されていないバルク層12と、を有している。
この歪層11の有無は、SEM-EBSDやTEM、μXRD等で確認することができる。
【0048】
本明細書中の説明においては、SiC基板10の半導体素子を作る面(具体的には成長層13を堆積する面)を主面といい、この主面に相対する面を裏面という。また、主面及び裏面を合わせて表面という。
【0049】
なお、主面としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例えば、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる。(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0050】
原子レベルで平坦化されたSiC基板10及び成長層13を堆積したSiC半導体基板14の表面には、ステップ-テラス構造が確認される。このステップ-テラス構造は、1分子層以上の段差部位であるステップ15と、{0001}面が露出した平坦部位であるテラス16と、が交互に並んだ階段構造となっている。
【0051】
ステップ15は、1分子層(0.25nm)が最小高さ(最小単位)であり、この1分子層が複数層重なることで、様々なステップ高さを形成している。本明細書中の説明においては、ステップ15が束化(バンチング)して巨大化し、各ポリタイプの1ユニットセルを超えた高さを有するものをマクロステップバンチング(MSB:Macro Step Bunching)という。
【0052】
すなわち、MSBとは、4H-SiCの場合には4分子層を超えて(5分子層以上)バンチングしたステップ15であり、6H-SiCの場合には6分子層を超えて(7分子層以上)バンチングしたステップ15である。
【0053】
<歪層除去工程>
歪層除去工程S10は、SiC基板10の表面に存在する歪層11を除去する工程である。この歪層除去工程S10は、歪層11を除去可能な手法であれば当然に採用することができ、Si蒸気圧エッチング法やH2エッチング法等を例示することができる。
以下、本工程の実施形態について説明する。
【0054】
(1)Si蒸気圧エッチング法
Si蒸気圧エッチング法(SiVE:Si-Vapor Etching)は、Si雰囲気下で、SiC基板10の温度を約1400~2300℃に加熱することで、SiC基板10表面をエッチングする手法である。
【0055】
本発明の実施形態に係るSi蒸気圧エッチング法では、
図3(a)に示すように、C原子吸蔵機能(浸炭機能)を有した浸炭容器20内にSiC基板10を収容して加熱する。浸炭容器20は、容器内のC原子を内壁面から浸炭容器20内に取り込むことができ、浸炭容器20内にSi蒸気圧空間S1を形成することができる。これにより、Si蒸気圧空間S1にSiC基板10が配置され、SiC基板10表面のエッチングが達成される。
【0056】
浸炭容器20は、Si蒸気圧空間S1内にSiC基板10を収容可能な構成であればよく、例えば、上容器21と、この上容器21に嵌合可能な下容器22と、を備えている。この浸炭容器20は、上容器21と下容器22の嵌合部には、微小な間隙23が形成されており、この間隙23から浸炭容器20内が排気される。
【0057】
浸炭容器20の内壁面は、複数の層から構成されており、Si蒸気圧空間S1側から外部側に向かって順に、タンタルシリサイド層24(TaSi2又はTa5Si3等)、タンタルカーバイド層25(TaC及びTa2C)、タンタル層26(Ta)、を有している。
【0058】
このタンタルシリサイド層24は、加熱することで浸炭容器20のSi蒸気圧空間S1内にSi原子を供給する。さらに、浸炭容器20は内側から、タンタルシリサイド層24、タンタルカーバイド層25、タンタル層26が形成されていることにより、Si蒸気圧空間S1内に存在するC原子を容器自体に取り込む(浸炭させる)ことができる。その結果、Si蒸気圧空間S1内を高純度のSi雰囲気とすることができる。
このように、C原子を取り込んでSi蒸気圧空間S1にSi蒸気圧環境を形成可能であれば、浸炭容器20として採用することができる。
【0059】
また、タンタルシリサイド層24を設けることに代えて、Si基板等のSi原子供給源をSi蒸気圧空間S1内に配置しても良い。この場合、加熱時にSi原子が昇華することで、Si蒸気圧空間S1内を高純度のSi雰囲気とすることができる。
【0060】
本手法におけるSi蒸気圧空間S1内の原子数比Si/Cは、タンタルシリサイド層24の組成を選択することにより、制御することができる。すなわち、タンタルシリサイド層24の組成により、浸炭容器20のSi蒸気圧空間S1へのSi供給量が異なる。例えば、Ta5Si3は、TaSi2と比べて加熱時のSi供給量が多い。そのため、Ta5Si3を選択することでSi蒸気圧空間S1内の原子数比Si/Cを増大させて、SiC基板10のエッチング速度を向上させることができる。
【0061】
さらに、浸炭容器20の加熱温度により、Si蒸気圧空間S1へのSi供給量が異なる。具体的には、高温で加熱する程Si供給量が多くなるため、SiC基板10のエッチング速度を向上させることができる。
【0062】
このように、浸炭容器20内に形成されたタンタルシリサイド層24の種類と、浸炭容器20の加熱温度と、を選択することで、Si蒸気圧空間S1のSi蒸気圧量を調整し、SiC基板10のエッチング速度を制御することができる。
【0063】
本手法における加熱温度は、好ましくは1400~2200℃の範囲で設定され、より好ましくは1400~2000℃の範囲で設定される。
本手法におけるタンタルシリサイド層24の組成は、好ましくはTaSi
2,Ta
5Si
3等が選択され、さらに好ましくはTa
5Si
3が選択される。
本手法におけるエッチング速度は、上記加熱温度及びタンタルシリサイド層24の組成によって制御することができ、1~10000nm/minの範囲で設定することが可能である(
図4参照)。
本手法におけるエッチング量は、SiC基板10に導入された歪層11を除去可能な範囲に設定される。このエッチング量としては、市販のCMP後のSiCウェハに導入された歪層11厚さとして1~5μmを例示することができる。
なお、エッチング時間は、所望のエッチング量となるよう、任意の時間に設定することができる。例えば、エッチング速度を1μm/minの条件で、エッチング量を3μmとしたい場合には、エッチング時間は3分となる。
本手法で用いる高温真空炉40(本加熱室41)の真空度は、10
-5~10Paであり、より好ましくは10
-4~10
-2Paである。
本手法においては、エッチング中に不活性ガスを導入することも可能である。この不活性ガスは、Ar等を選択することができ、この不活性ガスを10
-5~10000Paの範囲で導入することによって、高温真空炉40(本加熱室41)の真空度を調整することができる。
【0064】
図3(b)は、エッチング機構の概要を示す説明図である。SiC基板10を配置したSi蒸気圧空間S1を、1400℃以上2300℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~4)の反応が持続的に行われ、結果としてエッチングが進行すると考えられている。
【0065】
1) SiC(s)→Si(v)I+C(s)
2) TaxSiy→Si(v)II+Tax’Siy’
3) 2C(s)+Si(v)I+II→SiC2(v)
4) C(s)+2Si(v)I+II→Si2C(v)
【0066】
1)の説明:SiC基板10(SiC(s))がSi蒸気圧下で加熱されることで、熱分解によってSiCからSi原子(Si(v)I)が脱離する。
2)の説明:タンタルシリサイド層(TaxSiy)からSi蒸気(Si(v)II)が供給される。
3)及び4)の説明:熱分解によってSi原子(Si(v)I)が脱離することで残存したC(C(s))は、Si蒸気(Si(v)I及びSi(v)II)と反応することで、Si2C又はSiC2等となって昇華する。
【0067】
上述したように、Si蒸気圧エッチング法では、Si蒸気圧空間S1のSi蒸気圧量を調整することができ、これによりSiC基板10表面のMSBの形成及び分解を制御することができる。
図4は、Si蒸気圧エッチング法における、加熱温度とエッチング速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸はエッチング速度を対数表示している。このグラフでは、Ta
5Si
3のタンタルシリサイド層24を有した浸炭容器20を用いてSi蒸気圧エッチングを施した結果を〇印及び△印で、TaSi
2のタンタルシリサイド層24を有した浸炭容器20を用いてSi蒸気圧エッチングを施した結果を●印及び▲印でそれぞれ示している。また、MSBが形成されなかった条件を〇印及び●印で示し、MSBが形成された条件を△印及び▲印で示している。さらに、
図4中の破線はタンタルシリサイド層24がTa
5Si
3の結果のアレニウスプロットであり、二点鎖線はタンタルシリサイド層24がTaSi
2の結果のアレニウスプロットである。
【0068】
図5(a)は、
図4の○印箇所の一例であり、Ta
5Si
3のタンタルシリサイド層24を有した浸炭容器20を用いて1800℃で加熱処理した4H-SiC(0001)面側のSEM像である。この表面では、テラス幅が14nm、ステップ高さが1.0nm(フルユニットセル)のステップ-テラス構造が形成されており、MSBは形成されていない。
一方で、
図5(b)は、
図4の▲印箇所の一例であり、TaSi
2のタンタルシリサイド層24を有した浸炭容器20を用いて1800℃で加熱処理した4H-SiC(0001)面側のSEM像である。この表面では、例えば、テラス幅が40~200nm、ステップ高さが3~14nmのステップ-テラス構造が形成されており、MSBが形成されている。
また、加熱温度や加熱時間、タンタルシリサイド層の種類、Arガスの導入の有無等、の条件を適宜変更することにより、テラス幅が異なるSiC基板10を得ることができる。
なお、このステップ高さやテラス幅は、原子間力顕微鏡(AFM)や特開2015-179082号公報に記載の走査型電子顕微鏡(SEM)像コントラストを評価する手法により確認することができる。
【0069】
このように、Si蒸気圧エッチングでは、浸炭容器20内に形成されたタンタルシリサイド層24の組成と加熱温度を適宜選択することにより、Si蒸気圧空間S1のSi蒸気圧量を調整して、MSBの形成・分解を制御することができる。
また、同じ加熱温度であっても、テラス幅とMSBの形成・分解を制御することができる。
【0070】
また、さらに、MSBが分解可能なSi蒸気圧量条件であっても、Arガスを導入することでエッチング速度を低下させて、MSBを形成することも可能である。
【0071】
本発明に係る歪層除去工程S10は、Si蒸気圧エッチング法を採用することにより、SiC基板10から歪層11を除去することが可能である。Si蒸気圧エッチング法においては、機械的な加工が施されないため、新たな歪層11が導入されることがない。結果として、歪層11が除去されたSiC基板10を得ることができる。
【0072】
また、本発明に係る歪層除去工程S10は、Si蒸気圧エッチング法を採用することにより、歪層11の除去と共に、SiC基板10表面に存在するMSBを分解することができる。
【0073】
(2)H2エッチング法
H2エッチング法は、水素雰囲気下で、SiC基板10の温度を1400~1700℃に加熱することで、SiC基板10表面をエッチングする手法である。このH2エッチング法を用いて、歪層11を除去しても良い。
【0074】
なお、歪層除去工程S10にてMSBが形成されてしまう場合には、エピタキシャル成長工程S20前に、MSBを分解可能なバンチング分解工程S11を別途施しても良い(
図1参照)。このバンチング分解工程S11には、後述するバンチング分解工程S30と同様の手法を採用することができる。
【0075】
<エピタキシャル成長工程>
エピタキシャル成長工程S20は、歪層11を除去したSiC基板10上に、成長層13をエピタキシャル成長させる工程である(
図2参照)。このエピタキシャル成長工程S20は、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下やCリッチ環境下で成長可能な手法であれば当然に採用することができ、昇華法や化学蒸着法(CVD:Chemical Vapor Deposition)等を例示することができる。
以下、本工程の実施形態について説明する。
【0076】
なお、エピタキシャル成長工程S20を施すSiC基板10のテラス幅W1は、好ましくは40nm未満であり、より好ましくは30nm未満であり、さらに好ましくは20nm未満であり、さらに好ましくは15nm未満である。
【0077】
(1)昇華法
昇華法は、原料とSiC基板10を成長空間内に配置し加熱することで、原料から昇華した原料ガスをSiC基板10上に輸送して再結晶化・成長させる手法である。
【0078】
本発明の実施形態に係る昇華法では、Si蒸気圧空間S1を介して排気される原料供給空間S2にSiC基板10が配置される。すなわち、
図6(a)に示すように、Si蒸気圧空間S1を有する浸炭容器20内に、原料供給空間S2を有する原料容器30を配置され、さらにこの原料容器30内にSiC基板10を配置される。
【0079】
この原料供給空間S2内には、Si原子供給源及びC原子供給源が配置されており、原料容器30を加熱することにより、原料供給空間S2内にSiC基板10の原料となるSi原子及びC原子を供給する。このSi原子及びC原子がSiC基板10表面に輸送され再結晶化することにより、エピタキシャル成長が進行する。
【0080】
浸炭容器20は、歪層除去工程S10で用いた浸炭容器20と同じものを採用することができる。すなわち、上容器21と、この上容器21に嵌合可能な下容器22と、を備え、内部側から外部側に向かって順に、タンタルシリサイド層24(TaSi2又はTa5Si3等)、タンタルカーバイド層25(TaC又はTa2C)、タンタル層26(Ta)を有している。そのため、加熱することで浸炭容器20内にSi蒸気圧空間S1を形成することができる。
【0081】
原料容器30は、浸炭容器20と同様に、上容器31と、この上容器31に嵌合可能な下容器32と、を備えており、容器内にはSiC基板10を成長させる原料供給空間S2を有している。この時、上容器31と下容器32の嵌合部には、微小な間隙33が形成されており、この間隙33から排気されることとなる。
【0082】
Si原子供給源及びC原子供給源としては、Si基板等のSi原子を供給可能な材料や黒鉛等のC原子を供給可能な材料、SiC基板等のSi原子及びC原子を供給可能な材料を採用することができる。また、原料容器30の少なくとも一部を多結晶SiC(Poly-SiC)で形成することにより、原料容器30自体をSi原子供給源及びC原子供給源とすることができる。
【0083】
図6(a)は、多結晶SiC製の原料容器30を採用し、この原料容器30が原料供給空間S2内にSi原子及びC原子を供給する形態となっている。このSi原子供給源及びC原子供給源の配置はこの形態に限られず、原料供給空間S2内にSi原子及びC原子を供給可能な形態であればよい。例えば、原料容器30は多結晶SiC以外の材料を採用しても良いし、原料供給空間S2内にSi材料,C材料,SiC材料を配置する形態を採用しても良い。
なお、原料に多結晶SiCを用いる場合には、多結晶SiC(原料)と単結晶SiC(SiC基板10)の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)を成長駆動力とすることができる。
【0084】
また、原料供給空間S2内には、SiC基板10に向かって温度が下がるような温度勾配が設けられていることが望ましい。この温度勾配を成長駆動力として、SiC基板10へのSi原子及びC原子の輸送が起こるため、成長層13の成長速度が上昇する。
【0085】
すなわち、原料容器30及び浸炭容器20内には、浸炭容器20を支える台座部分(移動手段43)と浸炭容器20の接触部(底面付近)からの微小な熱の逃げにより、底面方向に(上から下に)向かって温度が下がるように僅かな温度勾配が設けられている。この温度勾配を成長駆動力として、上容器31からSiC基板10へ原料の輸送が起こり、エピタキシャル成長を進行させることができる。
なお、温度勾配としては、上から下に向かって温度が下がる場合を示したが、これに限られず任意の方向に温度勾配がつくよう高温真空炉40を設計しても良い。
【0086】
さらに、SiC基板10に効率よくSi原子とC原子を到達させるために、Si原子供給源及びC原子供給源をSiC基板10に近接させても良い。
図6(a)においては、Si原子供給源及びC原子供給源となる多結晶SiC製の上容器31をSiC基板10と平行に近接配置した形態を示している。
【0087】
このSiC基板10主面と上容器31天面との距離Lは、好ましくは0.5~20mmの範囲に、より好ましくは0.7~10mmの範囲に設定されている。
【0088】
この距離Lが0.5mm以上である場合には、SiC基板10主面と上容器31天面の温度差が大きくなる。その結果成長駆動力が大きくなり成長速度が増大する。
一方、距離Lが20mm以下である場合には、原料と基板との距離が近くなり、原料ガスの輸送が効率良く行われ、成長速度が増大する。
【0089】
本手法における加熱温度は、好ましくは1400~2200℃の範囲で設定され、より好ましくは1600~2000℃の範囲で設定される。
本手法における成長速度は、上記温度領域や成長環境によって制御することができ、0.001~1μm/minの範囲で選択することが可能である。
本手法における成長量は、好ましくは5~15μmであり、より好ましくは8~10μmである。
本手法における成長時間は、所望の成長量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、成長速度が10nm/minの時に、成長量を10μmとしたい場合には、成長時間は100分間成長させればよい。
本手法における真空度(本加熱室41)は、10-5~10Paであり、より好ましくは10-3~1Paである。
本手法においては、成長中に不活性ガスを導入することも可能である。この不活性ガスは、Ar等を選択することができ、この不活性ガスを10-5~10000Paの範囲で導入することによって、高温真空炉40(本加熱室41)の真空度を調整することができる。
【0090】
図6(b)は、成長機構の概要を示す説明図である。SiC基板10を配置した原料供給空間S2を、1400℃以上2200℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~5)の反応が持続的に行われ、結果として成長が進行すると考えられる。
【0091】
1) Poly-SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0092】
1)の説明:原料容器30(Poly-SiC(s))が加熱されることで、熱分解によってSiCからSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することで残存したC(C(s))は、原料供給空間S2内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって原料供給空間S2内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配(及び化学ポテンシャル差)によってSiC基板10のテラス16に到達・拡散し、ステップ15に到達することで下地のSiC基板10の多型を引き継いで成長する(ステップフロー成長)。
【0093】
本発明の実施形態に係る成長工程における成長環境は、SiC-C平衡蒸気圧環境であることを特徴とする。以下、SiC-C平衡蒸気圧環境及びSiC-Si平衡蒸気圧環境について詳細に説明する。なお、本明細書におけるSiC-C平衡蒸気圧環境及びSiC-Si平衡蒸気圧環境とは、理論的な熱平衡環境から導かれた成長速度と成長温度の関係を満たす近熱平衡蒸気圧環境を含む。
【0094】
SiC-Si平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とSi(液相)と気相の三相が平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことを言う。
言い換えれば、本明細書における「SiC-Si蒸気圧環境」とは、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。
SiC-Si平衡蒸気圧環境は、例えば、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC製の原料容器30内に、化学量論比1:1を満たすSiC基板10と、Si蒸気供給源(Si基板やSiペレット等)と、を配置した場合には、原料容器30内の原子数比Si/Cは1を超える。
なお、本明細書における「準閉鎖空間」とは、容器内の真空引きは可能であるが、容器内に発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことをいう。この準閉鎖空間は、原料容器30内や浸炭容器20内に形成することができる。
【0095】
また、SiC-C平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とC(固相)と気相の三相が平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことを言う。
言い換えれば、本明細書における「SiC-C平衡蒸気圧環境」とは、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。
SiC-C平衡蒸気圧環境は、例えば、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC製の原料容器30内に、化学量論比1:1を満たすSiC基板10を配置した場合には、原料容器30内の原子数比Si/Cは1となる。また、C蒸気供給源(Cペレット等)を配置して原子数比Si/Cを1以下としても良い。
【0096】
SiC-C平衡蒸気圧環境の気相中の原子数比Si/Cは、SiC-Si平衡蒸気圧環境の気相中の原子数比Si/Cよりも小さい。
【0097】
本手法においては、SiC原料とSiC基板間の蒸気圧環境がSiC-C平衡蒸気圧環境となる条件下で、多結晶SiC(SiC原料)と単結晶SiC(SiC基板10)の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)や温度勾配を成長駆動力として、SiC基板10を成長させている。
【0098】
ここで、SiC原料とSiC基板の蒸気圧差を成長量とした場合、SiCの成長速度は以下の数1で求められる。
【0099】
【0100】
ここで、TはSiC原料側の温度、miは気相種(SixCy)の1分子の質量、kはボルツマン定数である。
また、P原料i-P基板iは、原料ガスが過飽和な状態となって、SiCとして析出した成長量であり、原料ガスとしてはSiC,Si2C,SiC2が想定される。
【0101】
本手法においては、SiC-C平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置することで形成することができる。対して、SiC-Si平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1を超えるよう配置することで形成される。
【0102】
図7は、本発明に係るSiC半導体基板の製造方法にて成長させた加熱温度と成長速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸は成長速度を対数表示している。原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1又は1未満となるよう配置して成長させた結果を〇印で示し、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1を超えるように配置して成長させた結果を×印で示している。
【0103】
また
図7のグラフでは、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を破線(アレニウスプロット)で、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を二点鎖線(アレニウスプロット)にて示している。
【0104】
すなわち、破線は、SiC(固相)とSi(液相)と気相の三相が平衡状態となるような蒸気圧環境において、多結晶SiCを原料として単結晶SiCを成長させた際の熱力学計算の結果である。具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC+Si系であること,(ii)成長駆動力は、原料供給空間S2内の温度勾配と、多結晶SiCと単結晶SiCの蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスは、SiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がステップ15に吸着する吸着係数は0.001であること。
【0105】
また、二点鎖線は、SiC(固相)とC(固相)と気相の三相が平衡状態となるような蒸気圧環境において、多結晶SiCを原料として単結晶SiCを成長させた際の熱力学計算の結果である。具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC+C系であること,(ii)成長駆動力は、原料供給空間S2内の温度勾配と、多結晶SiCと単結晶SiCの蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスはSiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がステップ15に吸着する吸着係数は0.001であること。
【0106】
なお、熱力学計算に用いた各化学種のデータはJANAF熱化学表の値を採用した。
【0107】
図8(a)は、SiC基板10を原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1以下となるよう配置し、1800℃でエピタキシャル成長を施した4H-SiC(0001)面側のSEM像である。すなわち、
図7の○印箇所の一例であり、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させた表面の一例である。この表面では、例えば、テラス幅が40~200nm、ステップ高さが3~14nmのステップ-テラス構造が形成されており、ステップ端の形状がジグザグ形状のMSBが形成されている。
一方で、
図8(b)は、SiC基板10を原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1以下を超えるよう配置し、1800℃でエピタキシャル成長を施した4H-SiC(0001)面側のSEM像である。すなわち、
図7の×印箇所の一例であり、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させた表面の一例である。この表面では、テラス幅が14nm、ステップ高さが1.0nm(フルユニットセル)のステップ-テラス構造が形成されており、MSBは形成されていない。
なお、このステップ高さやテラス幅は、AFMや特開2015-179082号公報に記載のSEM像コントラストを評価する手法により確認することができる。
【0108】
(2)CVD法
CVD法は、SiC基板10温度を1400~1700℃に加熱し、水素ガスをキャリアガスに用いてSiH
4ガスとC
3H
8ガスを供給することで、SiC基板10上に成長層13を形成する手法である。このCVD法は、SiH
4ガスとC
3H
8ガスの供給量により、成長環境中の原子数比Si/Cを制御することができる。そのため、Cリッチ環境下でSiC基板10を成長させることができる。なお、本明細書におけるCリッチ環境とは、成長中の原料ガスの原子数比Si/Cが1以下であることを言う。
このCVD法において、SiC基板をCリッチ環境下で成長させた場合には、
図8(a)に示したようなMSBが形成された表面を得ることができる。
【0109】
<バンチング分解工程>
バンチング分解工程S30は、SiC半導体基板14の表面に形成されたMSBを分解する工程である(
図2参照)。本発明の一実施形態に係るSiC半導体基板の製造方法においては、バンチング分解工程S30として、上述したSi蒸気圧エッチング法や昇華法を採用することができる。また、これらの手法以外であっても、MSBを分解可能な手法であれば当然に採用することができる。
【0110】
(1)Si蒸気圧エッチング法
図4の○印及び●印で示した条件で、Si蒸気圧エッチング法によるエッチングを施すことにより、エピタキシャル成長工程S20で形成されたMSBを分解することができる(
図5(a)参照)。
【0111】
(2)昇華法
図8の×印で示した条件で、昇華法によるエピタキシャル成長を施すことにより、エピタキシャル成長工程S20で形成されたMSBを分解することができる(
図8(b)参照)。
【0112】
このように、バンチング分解工程S30は、近接昇華法やSi蒸気圧エッチング法を採用することにより、エピタキシャル成長工程S20で形成されたMSBを分解することができる。なお、このバンチング分解工程S30は、歪層除去工程S10やエピタキシャル成長工程S20と同じ製造装置を用いて行うことができ、MSBの除去されたSiC半導体基板14を製造することができる。
【0113】
<成長層中のBPD変換率>
図9は、エピタキシャル成長工程S20中にBPDから他の欠陥・転位(TED等)に変換した変換率を求める手法の説明図である。
図9(a)は、歪層11を有したSiC基板10を示している。この段階ではバルク層12から歪層11まで、BPDが存在している。
図9(b)は、歪層除去工程S10により歪層11を除去したSiC基板10を示している。この段階では、バルク層12にBPDが存在している。
図9(c)は、エピタキシャル成長工程S20により成長層13を成長させたSiC半導体基板14を示している。この工程でバルク層12に存在していたBPDが、ある確率でTEDに変換される。ここで成長層13の表面には、100%変換されない限り、TEDとBPDが混在していることとなる。
図9(d)は、エピタキシャル成長工程S20後のSiC半導体基板14に対し、KOH溶解エッチング法を用いて成長層13中の欠陥を確認した様子を示している。このKOH溶解エッチング法は、約500℃に加熱した溶解塩(KOH等)にSiC基板を浸し、転位や欠陥部分にエッチピットを形成し、そのエッチピットの大きさ・形状により転位の種類を判別する手法である。この手法により、エピタキシャル成長工程S20後の成長層13中を伝播したBPDの数を得る。
図9(e)は、KOH溶解エッチング法後に成長層13を除去する様子を示している。本手法では、エッチピット深さまで機械研磨やCMP等により平坦化した後、Si蒸気圧エッチング法により成長層13を除去し、バルク層12を表出させている。
図9(f)は、成長層13を除去したバルク層12に対し、KOH溶解エッチング法を用いてバルク層12中の欠陥を確認した様子を示している。この手法により、成長層13直下のバルク層12に存在しているBPDの数を得る。
【0114】
図9に示した一連の順序により、
図9(d)における成長層13中を伝搬したBPDの数と、
図9(f)におけるバルク層12表面に存在したBPDの数を比較することで、エピタキシャル成長工程S20中に、BPDから他の欠陥・転位に変換したBPD変換率を得ることができる。
【0115】
本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、SiC基板10の表面に導入された歪層11を除去する歪層除去工程S10と、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程S20と、を含むことにより、成長層13中のBPD変換率を向上させることができる。
【0116】
また、本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、エピタキシャル成長工程S20は、MSBが形成されていないSiC基板10に対してエピタキシャル成長させることにより、成長層13中のBPD変換率を略100%とすることができる。
【0117】
また、本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、エピタキシャル成長工程S20後に、MSBを分解させるバンチング分解工程S30をさらに含む。これにより、耐圧層となるエピ層表面にステップバンチング起因の欠陥が発生することを抑制するSiC半導体基板14を提供することができる。また、MOSFETの動作性能および信頼性に致命的な影響を与えるMSBを除去したSiC半導体基板14を提供することができる。
【0118】
また、本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程S20を含むことにより、成長層13中のBPD変換率を向上させることができる。
【0119】
また、本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、前記エピタキシャル成長工程は、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板にエピタキシャル成長させる。このように、テラス幅が40nm未満である前記SiC基板をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させることにより、前記SiC基板のテラス幅が増大させつつ成長させることができる。
【0120】
また、本発明は、SiC基板10に単結晶SiCを成長させるエピタキシャル成長工程S20を含むSiC半導体基板の製造方法において、SiC基板10のテラス幅Wが増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法である。
【0121】
また、本発明は、SiC基板10に単結晶SiCを成長させるエピタキシャル成長工程S20を含むSiC半導体基板の製造方法において、前記SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下でエピタキシャル成長させるエピタキシャル成長工程を含む、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法である。
【0122】
[SiC半導体基板]
本発明の一実施形態のSiC半導体基板14は、BPDを有するバルク層12と、BPDをBPD以外の転位・欠陥に変換させる成長層13と、を備え、成長層13におけるBPDの変換率が略100%となっている。具体的には、前記変換率は99.95%より大きく、好ましくは99.96%以上であり、また好ましくは99.97%以上であり、また好ましくは99.98%以上であり、また好ましくは99.99%以上である。
すなわち、SiC半導体基板14は、バルク層12に存在していたBPDが、エピタキシャル成長工程S20中に他の転位・欠陥に変換されるため、表面にBPDが存在していない成長層13を有している。
【0123】
具体的には、バルク層12のBPD密度は、2000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、1個/cm2未満である、SiC半導体基板14である。
例えば、本発明のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は1200個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は0個である。
すなわち、バルク層12のBPD密度は、2400個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、0個/cm2である、SiC半導体基板14である。
【0124】
本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、BPDを有するバルク層12と、BPDをBPD以外に変換させる成長層13と、を備え、この成長層13におけるBPD変換率は99.5%より大きい。
【0125】
具体的には、バルク層12のBPD密度は、1000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、5個/cm2未満である、SiC半導体基板14である。
例えば、本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は669個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は2個以下である。すなわち、バルク層12のBPD密度は、1338個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、4個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
【0126】
本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、BPDを有するバルク層12と、BPDをBPD以外に変換させる成長層13と、を備え、この成長層13におけるBPD変換率は95%より大きい。
【0127】
具体的には、バルク層12のBPD密度は、2000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、100個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
また、バルク層12のBPD密度は、1000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、50個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
また、バルク層12のBPD密度は、500個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、25個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
また、バルク層12のBPD密度は、100個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、5個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
【0128】
例えば、本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は1200個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は0個である。すなわち、バルク層12のBPD密度は、2400個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、0個/cm2である、SiC半導体基板14である。
また、本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は669個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は2個である。すなわち、バルク層12のBPD密度は、1338個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、4個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
例えば、本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は276個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は12個である。すなわち、バルク層12のBPD密度は、552個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、24個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
例えば、本発明の他の実施形態のSiC半導体基板14は、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は62個以上であり、成長層13表面のBPDの個数は2個である。すなわち、バルク層12のBPD密度は、124個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、4個/cm2以下である、SiC半導体基板14である。
【0129】
本発明のSiC半導体基板によれば、バルク層12の表面は、1ユニットセル高さのステップ15が配列している。すなわち、
図5(a)に示したように、1nm(1ユニットセル)高さのステップ15が配列した表面にエピタキシャル成長することを特徴とする。このバルク層12のステップ高さやテラス幅は、SiC半導体基板14の断面SEM像等により確認することができる。
このように、バルク層12表面に同じ高さのステップ15が配列していることにより、成長層13におけるBPDの変換率を99.95%より大きくすることができる。
【0130】
また、本発明のSiC半導体基板によれば、成長層13の表面は、1ユニットセル高さのステップ15が配列している。このステップ高さやテラス幅は、AFMや特開2015-179082号公報に記載のSEM像コントラストを評価する手法により確認することができる。また、この成長層13上に、昇華法やCVD法等を用いて、耐圧層となるエピ層をさらに形成しても良い。
【0131】
[SiC半導体基板の製造装置]
以下、本発明に係るSiC半導体基板の製造装置について、
図10を参照して詳細に説明する。この実施形態に係る製造装置は、Si蒸気圧空間S1を有する浸炭容器20と、原料供給空間S2を有する原料容器30と、原料供給空間S2を加熱可能な高温真空炉40備える。なお、同実施形態において、先のSiC半導体基板及びその製造方法と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0132】
原料供給空間S2は、Si原子供給源と、C原子供給源と、を有しており、Si原子供給源及び前記C原子供給源は、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが1以下となるよう配置される。これにより、原料供給空間S2内にSiC-C平衡蒸気圧環境を形成してSiC基板10を成長させることができる。
【0133】
高温真空炉40は、本加熱室41と、予備加熱室42と、浸炭容器20を予備加熱室42から本加熱室41へ移動可能な移動手段43(移動台)と、を備えている。本加熱室41は、SiC基板10を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室42は、SiC基板10を本加熱室41で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0134】
本加熱室41には、真空形成用バルブ44と、不活性ガス注入用バルブ45と、真空計46と、が接続されている。真空形成用バルブ44は、本加熱室41内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されており、本加熱室41内の真空度を調整することができる。また、不活性ガス注入用バルブ45は、本加熱室41内に不活性ガス(例えば、Ar等)を導入し、この圧力を調整することができる。真空計46は、本加熱室41内の真空度を測定することができる。
【0135】
また、本加熱室41の内部には、ヒータ47が備えられている。さらに、本加熱室41の側壁及び天井には熱反射金属板が固定されており(図示せず)、この熱反射金属板は、ヒータ47の熱を本加熱室41の略中央部に向けて反射させるように構成されている。
これにより、SiC基板10を加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ47としては、例えば、抵抗加熱式のヒータ又は高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0136】
予備加熱室42は、本加熱室41と接続されており、移動手段43により浸炭容器20を移動可能に構成されている。これにより、原料供給空間S2が、本加熱室41から予備加熱室42へ、又は予備加熱室42から本加熱室41へ搬送される。
なお、この予備加熱室42には、本加熱室41のようなヒータ47は設けられておらず、本加熱室41の余熱により昇温される。例えば、本加熱室41が2000℃の場合、予備加熱室42は1000℃程度まで昇温し、浸炭容器20等の脱ガス処理を行えるよう構成されている。
【0137】
また、本加熱室41と予備加熱室42間の搬送は、移動手段43により最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。このように急速昇温及び急速降温が行えるため、従来の装置では困難であった、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。
また、
図5においては、本加熱室41の下方に予備加熱室42を配置しているが、これに限られず、任意の方向に設置することができる。
【0138】
移動手段43は、浸炭容器20を配置する台であり、この浸炭容器20との接触部より微小な熱を逃がしている。これにより、浸炭容器20内乃至原料供給空間S2内に温度勾配が生まれ、SiC基板10の成長駆動力となっている。
図5に示したように、下から浸炭容器20を支持する場合には、浸炭容器20の底面方向に(上から下に)向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
【0139】
なお、この温度勾配は、移動手段43の設計を変更することで任意の方向に設けることができ、例えば、移動手段43に吊り下げ式等を採用した場合には、熱が上方向に逃げるため、温度勾配は、浸炭容器20の天面方向に(下から上に)向かって温度が下がるように僅かな温度勾配が設けられることとなる。
【0140】
本発明のSiC半導体基板の製造装置によれば、原料容器30はSi蒸気圧環境が形成されるSi蒸気圧空間S1内に配置されている。このように、Si蒸気圧空間S1内に原料供給空間S2が配置され、Si蒸気圧空間S1を介して原料供給空間S2内が排気(真空引き)されることで、原料供給空間S2内からSi原子が減少することを抑制することができる。これにより、原料供給空間S2内を成長に好ましい原子数比Si/Cを長時間維持することができる。
【0141】
すなわち、原料供給空間S2から直接排気する場合には、上容器31と下容器32の嵌合箇所(間隙33)からSi原子が排気されてしまう。この場合には、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cが著しく減少することにより、成長に適切な環境が維持されない。
一方、Si蒸気圧環境のSi蒸気圧空間S1を介して原料容器30内を排気する場合には、原料供給空間S2からSi原子が排気されることを抑制して、原料供給空間S2内の原子数比Si/Cを保つことができる。
【実施例】
【0142】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す条件で、実施例1~4、比較例1のSiC半導体基板を製造した。なお、これらの実施例及び比較例にて使用したSiC基板10の歪層11の深さは、SEM-EBSDにより5μm程度と確認した。また、使用した浸炭容器20のサイズは直径160mm×高さ60mmであり、原料容器30のサイズは直径60mm×高さ4mmである。
【0143】
なお、テラス幅W(テラス幅W1及びテラス幅W2含む)の値としては、撮影したSEM像のステップ15に対して垂直なラインを引き、このライン上に存在するステップ15数をカウントすることで、テラス幅の平均値を採用した(テラス幅W=ライン長さ/ライン上のステップ数)。
また、ステップ高さは、AFMにより測定した。
【0144】
【0145】
実施例1は、Si蒸気圧エッチング法を用いてMSBが形成されない条件で歪層11を除去し(歪層除去工程S10)、昇華法を用いてSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させた(エピタキシャル成長工程S20)。その結果、成長層13のBPD変換率は、100%であった。この時、エピタキシャル成長工程S20前のテラス幅W1は14nmであり、エピタキシャル成長工程S20後のテラス幅W2は55nmであった(テラス幅増減率=292.86%)。
【0146】
実施例2は、Si蒸気圧エッチング法を用いてMSBが形成される条件で歪層11を除去し(歪層除去工程S10)、実施例1と同じ条件下(SiC-C平衡蒸気圧環境下)で成長させた(エピタキシャル成長工程S20)。その結果、成長層13のBPD変換率は、99.7%であった。この時、エピタキシャル成長工程S20前のテラス幅W1は26nmであり、エピタキシャル成長工程S20後のテラス幅W2は40nmであった(テラス幅増減率=53.85%)。
なお、この結果から、エピタキシャル成長前のSiC基板10表面にMSBが形成されている場合には、実施例1と比較してBPD変換率が低下していることがわかる。
【0147】
実施例3は、歪層11を除去する歪層除去工程S10を行わずに、実施例1及び実施例2と同じ条件下(SiC-C平衡蒸気圧環境下)で成長させた(エピタキシャル成長工程S20)。その結果、成長層13のBPD変換率は、95.65%であった。この時、エピタキシャル成長工程S20前のテラス幅W1は7nmであり、エピタキシャル成長工程S20後のテラス幅W2は45nmであった(テラス幅増減率=542.86%)。
この結果から、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程S20を含むことにより、成長層13のBPD変換率が95%以上となることがわかる。また、エピタキシャル成長前のSiC基板10に歪層11が残存している場合には、実施例1及び実施例2と比較してBPD変換率が低下していることがわかる。
【0148】
実施例4は、MSBが形成される条件で歪層11を除去し(歪層除去工程S10)、実施例1及び実施例2と同じ条件下(SiC-C平衡蒸気圧環境下)で成長させた(エピタキシャル成長工程S20)。その結果、成長層13のBPD変換率は、96.77%であった。この時、エピタキシャル成長工程S20前のテラス幅W1は50nmであり、エピタキシャル成長工程S20後のテラス幅W2は48nmであった(テラス幅増減率=-4.00%)。
この結果から、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させるエピタキシャル成長工程S20を含むことにより、成長層13のBPD変換率が95%以上となることがわかる。また、エピタキシャル成長工程S20において、SiC基板のテラス幅が増大する条件で成長させない場合には、実施例1及び実施例2と比較してBPD変換率が低下していることがわかる。
【0149】
実施例1によれば、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は1200個であり、成長層13表面のBPDの個数は0個である、SiC半導体基板14を製造することができる。
すなわち、実施例1によれば、バルク層12表面のBPD密度は、2400個/cm2であり、成長層13表面のBPD密度は、0個/cm2である、SiC半導体基板14を製造することができる。
言い換えれば、実施例1によれば、バルク層12表面のBPD密度は、2000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、1個/cm2未満である、SiC半導体基板14を製造することができる。
【0150】
実施例2によれば、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は669個であり、成長層13表面のBPDの個数は2個である、SiC半導体基板14を製造することができる。
すなわち、実施例2によれば、バルク層12表面のBPD密度は、1338個/cm2であり、成長層13表面のBPD密度は、4個/cm2である、SiC半導体基板14を製造することができる。
言い換えれば、実施例2によれば、バルク層12表面のBPD密度は、1000個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、5個/cm2未満である、SiC半導体基板14を製造することができる。
【0151】
実施例3によれば、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は276個であり、成長層13表面のBPDの個数は12個である、SiC半導体基板14を製造することができる。
すなわち、実施例3によれば、バルク層12表面のBPD密度は、552個/cm2であり、成長層13表面のBPD密度は、24個/cm2である、SiC半導体基板14を製造することができる。
言い換えれば、実施例3によれば、バルク層12表面のBPD密度は、500個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、25個/cm2以下である、SiC半導体基板14を製造することができる。
【0152】
実施例4によれば、10mm×5mmの面積において、バルク層12表面のBPDの個数は62個であり、成長層13表面のBPDの個数は2個である、SiC半導体基板14を製造することができる。
すなわち、実施例4によれば、バルク層12表面のBPD密度は、552個/cm2であり、成長層13表面のBPD密度は、4個/cm2である、SiC半導体基板14を製造することができる。
言い換えれば、実施例4によれば、バルク層12表面のBPD密度は、100個/cm2以上であり、成長層13表面のBPD密度は、5個/cm2以下である、SiC半導体基板14を製造することができる。
【0153】
なお、実施例2の歪層除去工程S10では、Arガスを10000Pa導入することでMSBを形成しているのに対し、この比較例2の歪層除去工程S10ではタンタルシリサイド層にTaSi2を採用することでMSBを形成している。
【0154】
比較例1は、実施例1と同様にMSBが形成されない条件で歪層11を除去し(歪層除去工程S10)、昇華法を用いてSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させた(エピタキシャル成長工程S20)。なお、このSiC-Si平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S2内にSi基板を配置することで形成している。その結果、成長層13のBPD変換率は、93.24%であった。
この結果から、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させた場合には、実施例1~4と比較してBPD変換率が低下していることがわかる。
【0155】
また、本発明者等は、BPD変換率に法則性がないか鋭意検討・実験したところ、
図11に示すように、BPD変換率はエピタキシャル成長前とエピタキシャル成長後のテラス幅Wの増減率(テラス幅増大率)に大きく関係していることを見出した。
【0156】
図11は、横軸にテラス幅増大率((成長前のテラス幅W2-成長後のテラス幅W1)/成長後のテラス幅W1)を、縦軸にBPD変換率をプロットしたグラフである。この
図11に示したプロットは、歪層11を除去した異なるテラス幅W1を有する複数のSiC基板10に対し、1700℃,1800℃,1900℃の何れかの成長温度で、かつ、SiC-Si平衡蒸気圧環境下又はSiC-C平衡蒸気圧環境下で、3μm成長させた複数の実験結果を示している。
この結果によれば、テラス幅増大率が0より大きい場合、すなわち、歪層11を除去したSiC基板10に対して、エピタキシャル成長中にテラス幅Wが増大する条件で成長させた場合には、BPD変換率が99.00%以上であった。
【0157】
すなわち、本発明に係るSiC半導体基板の製造方法によれば、SiC基板10の歪層11を除去する歪層除去工程S10と、SiC基板10のテラス幅が増大する条件で成長させるエピタキシャル成長工程S20と、を含むことにより、成長層13中のBPD密度を低減させることができる。さらに、MSBが形成されていないSiC基板10に対して、Cリッチ環境下でエピタキシャル成長を行うことにより、BPD変換率を100%とすることができる。
【0158】
なお、エピタキシャル成長工程S20において、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させた場合には、テラス幅W2が40~200nm、ステップ高さが3~14nmのステップ-テラス構造が形成される。そのため、エピタキシャル成長工程S20前のSiC基板10のテラス幅W1は、好ましくは40nm未満であり、より好ましくは30nm未満であり、さらに好ましくは20nm未満であり、さらに好ましくは15nm未満であり、さらに好ましくは14nmである。
【符号の説明】
【0159】
S10 歪層除去工程
S20 エピタキシャル成長工程
S30 バンチング分解工程
10 SiC基板
11 歪層
12 バルク層
13 成長層
14 SiC半導体基板
15 ステップ
16 テラス
20 浸炭容器
30 原料容器
40 高温真空炉
41 本加熱室
42 予備加熱室
43 移動手段
S1 Si蒸気圧空間
S2 原料供給空間
BPD 基底面転位
MSB マクロステップバンチング
W テラス幅