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特許7284457量子効率分布の取得方法、量子効率分布の表示方法、量子効率分布の取得プログラム、量子効率分布の表示プログラム、分光蛍光光度計及び表示装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-23
(45)【発行日】2023-05-31
(54)【発明の名称】量子効率分布の取得方法、量子効率分布の表示方法、量子効率分布の取得プログラム、量子効率分布の表示プログラム、分光蛍光光度計及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20230524BHJP
   G01J 3/443 20060101ALI20230524BHJP
【FI】
G01N21/64 Z
G01J3/443
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2019159440
(22)【出願日】2019-09-02
(65)【公開番号】P2021038972
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2022-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(73)【特許権者】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀込 純
(72)【発明者】
【氏名】大川 拓樹
(72)【発明者】
【氏名】玉島 孝弘
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 いまり
(72)【発明者】
【氏名】鄭 銀強
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-151632(JP,A)
【文献】特開2018-194428(JP,A)
【文献】特開2018-155676(JP,A)
【文献】特開2008-014689(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198364(WO,A1)
【文献】特開2019-020363(JP,A)
【文献】国際公開第2010/084566(WO,A1)
【文献】特開2018-038184(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0050536(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/958
G01J 3/00-G01J 3/52
C09K 11/00
H10K 59/00
G01J 1/00-G01J 1/60
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
SPIE Digital Library
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の所定の面における量子効率分布を取得する方法であって、
基準物質に第1の波長域に属する励起光を積分球を介して照射し、
少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得し、
試料の所定の面に励起光を積分球を介して照射し、
前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得し、
前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、
前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出し、
前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出し、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項2】
請求項1に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記撮影装置が第3の波長域に対応する第3のチャネルを更に有し、
前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差及び第3のチャネルの照射輝度値と第3のチャネルの測定輝度値の差の合計から前記蛍光輝度値を算出する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項3】
請求項2に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記第1のチャネルがBチャネルであり、前記第2のチャネルがGチャネルであり、前記第3のチャネルがRチャネルである、
量子効率分布の取得方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記蛍光輝度値と前記吸収輝度値の比から、各画素の内部量子効率を算出し、
前記蛍光輝度値と前記照射輝度値の比から、各画素の外部量子効率を算出する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記基準物質が標準白板である、
量子効率分布の取得方法。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法であって、
分光蛍光光度計の積分球に前記基準物質及び前記試料を設置して励起光を照射する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項7】
表示装置が、請求項1から6のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項8】
請求項7に記載の量子効率分布の表示方法であって、
前記表示装置が、蛍光波長毎に得られる量子効率分布をサムネイル形式に並べて表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項9】
請求項7に記載の量子効率分布の表示方法であって、
前記表示装置が、前記座標のX軸の位置及びY軸の位置を指定する少なくとも二つのトレースバーを表示し、
さらに前記表示装置は、二つのトレースバーの各々に沿った量子効率の値の変化をグラフ形式で表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項10】
試料の所定の面における量子効率分布を取得する方法であって、
基準物質に励起光を積分球を介して照射し、
撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得し、
試料の所定の面に励起光を積分球を介して照射し、
前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得し、
前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得し、
前記蛍光スペクトルに基づき、蛍光波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出し、
各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出し、
前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出し、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項11】
請求項10に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記撮影装置が、第1の波長域に対応するBチャネルと、第2の波長域に対応するGチャネルと、第3の波長域に対応するRチャネルとを有し、
前記第1の波長域と、前記第2の波長域と、前記第3の波長域のそれぞれに対応して蛍光強度分布データが割り当てられ、
前記Bチャネルと、前記Gチャネルと、前記Rチャネルの各々について、前記反射成分係数と前記蛍光成分係数を算出した上で、各画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項12】
請求項10または11に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記反射成分係数と前記照射輝度値に基づき各画素の反射光量を算出し、
前記蛍光成分係数と前記蛍光強度分布データに基づき各画素の蛍光量を算出し、
前記照射輝度値に対応した照射量と前記反射光量の差から各画素の吸収量を算出する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項13】
請求項12に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記蛍光量と前記吸収量の比から、各画素の内部量子効率を算出し、
前記蛍光量と前記照射量の比から、各画素の外部量子効率を算出する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項14】
請求項10から13のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法であって、
前記基準物質が標準白板である、
量子効率分布の取得方法。
【請求項15】
請求項10から14のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法であって、
分光蛍光光度計の積分球に前記基準物質及び前記試料を設置して励起光を照射する、
量子効率分布の取得方法。
【請求項16】
表示装置が、請求項10から15のいずれか1項に記載の量子効率分布の取得方法により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項17】
請求項16に記載の量子効率分布の表示方法であって、
前記表示装置が、蛍光波長毎に得られる量子効率分布をサムネイル形式に並べて表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項18】
請求項16に記載の量子効率分布の表示方法であって、
前記表示装置が、前記座標のX軸の位置及びY軸の位置を指定する少なくとも二つのトレースバーを表示し、
さらに前記表示装置は、二つのトレースバーの各々に沿った量子効率の値の変化をグラフ形式で表示する、
量子効率分布の表示方法。
【請求項19】
試料の所定の面における量子効率分布を取得するプログラムであって、
分光蛍光光度計が、基準物質に第1の波長域に属する励起光を積分球を介して照射するとともに、試料の所定の面に励起光を積分球を介して照射し、
当該プログラムは、
少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得するステップと、
前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得するステップと、
前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出するステップと、
前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出するステップと、
前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出するステップと、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得するステップと、
をコンピュータに実行させる量子効率分布の取得プログラム。
【請求項20】
請求項19に記載の量子効率分布の取得プログラムにより得られた量子効率分布を、前記所定の面に対応した座標上において表示するように、表示装置に実行させる、
量子効率分布の表示プログラム。
【請求項21】
試料の所定の面における量子効率分布を取得するプログラムであって、
分光蛍光光度計が、基準物質に励起光を積分球を介して照射するとともに、試料の所定の面に励起光を積分球を介して照射し、
当該プログラムは、
撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得するステップと、
前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得するステップと、
前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得するステップと、
前記蛍光スペクトルにおいて、励起波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出するステップと、
各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出するステップと、
前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出するステップと、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得するステップと、
をコンピュータに実行させる量子効率分布の取得プログラム。
【請求項22】
請求項21に記載の量子効率分布の取得プログラムにより得られた量子効率分布を、前記所定の面に対応した座標上において表示するように、表示装置に実行させる、
量子効率分布の表示プログラム。
【請求項23】
試料の所定の面における量子効率分布を取得可能な分光蛍光光度計であって、
基準物質及び試料の所定の面に第1の波長域に属する励起光を積分球を介して照射する光源と、
少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置と、
コンピュータと、を備え、
前記撮影装置が、
前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得するとともに、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得し、
前記コンピュータが、
前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、
前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出し、
前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出し、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、
分光蛍光光度計。
【請求項24】
請求項23に記載の分光蛍光光度計により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する表示装置。
【請求項25】
試料の所定の面における量子効率分布を取得可能な分光蛍光光度計であって、
基準物質及び試料の所定の面に励起光を積分球を介して照射する光源と、
撮影装置と、
前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得する検出器と、
コンピュータと、を備え、
前記撮影装置が、
前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得するとともに、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得し、
前記コンピュータが、
前記蛍光スペクトルにおいて、励起波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出し、
各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出し、
前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出し、
各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、
分光蛍光光度計。
【請求項26】
請求項25に記載の分光蛍光光度計により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子効率分布の取得方法、量子効率分布の表示方法、量子効率分布の取得プログラム、量子効率分布の表示プログラム、分光蛍光光度計及び表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ディスプレイや白色発光ダイオード光源の省エネルギー化に向けて、使用される蛍光体の高効率化への取り組みが行われている。これらの蛍光体の発光効率評価には、固体状態での蛍光量子効率(量子収率)の測定が有用とされている。
【0003】
非特許文献1や非特許文献2は、量子効率測定のための分光蛍光光度計を開示している。このような分光蛍光光度計は、一般的に試料に励起光を照射して、試料から放出された蛍光を測定する装置である。
【0004】
また、量子効率には外部量子効率と内部量子効率が存在することが知られている。外部量子効率は、蛍光体に照射された励起光の光量子数に対する蛍光発光の光量子数の割合であり、これに対して内部量子効率は、蛍光体に吸収された励起光の光量子数に対する蛍光発光の光量子数の割合である。この蛍光体に吸収された励起光の光量子数は、蛍光体に照射された励起光から蛍光体に反射された成分を除いたものである。
【0005】
非特許文献1(JIS R 1697にも対応)及び非特許文献3は、以下の式(1)により内部量子効率を定義している。
【0006】
【数1】
【0007】
一方、非特許文献3は、以下の式(2)により外部量子効率を定義している。
【0008】
【数2】
【0009】
内部量子効率を算出するための吸収フォトン数相対値(吸収量)と蛍光フォトン数相対値(蛍光量)、および外部量子効率を算出するための照射フォトン数相対値(照射量)と蛍光フォトン数相対値(蛍光量)は、上述の蛍光スペクトルの測定によって求められる。
【0010】
内部量子効率における吸収フォトン数相対値は、測定した励起光のスペクトルから蛍光体試料のスペクトル成分を差し引くことにより、測定試料における励起光スペクトル成分を抽出する。励起光の照射波長に基づき、このスペクトルを積分することにより、蛍光体試料が吸収したフォトン数相対値(吸収量)を求める。
【0011】
外部量子効率における照射フォトン数相対値は、測定した励起光のスペクトルにおける波長範囲のスペクトルを積分することにより、試料に照射したフォトン数相対値(照射量)を求める。
【0012】
蛍光フォトン数相対値は、測定した蛍光体試料のスペクトル成分から励起光のスペクトルを差し引き、蛍光が生じている波長範囲においてスペクトルを積分することにより、試料が発した蛍光のフォトン数相対値(蛍光量)を求める。
【0013】
得られた吸収フォトン数相対値(吸収量)と蛍光フォトン数相対値(蛍光量)にて式(1)より内部量子効率を算出し、得られた照射フォトン数相対値(照射量)と蛍光フォトン数相対値(蛍光量)にて式(2)より外部量子効率を算出する。
【0014】
なお、特許文献1では、積分球の移動機構を備えた量子効率測定装置が報告されている。この量子効率測定装置では、試料セルの試料収容部が積分球内に位置する状態と試料セルの試料収容部が積分球外に位置する状態のそれぞれの状態となるように、暗箱内において積分球が移動機構によって移動させられる。
【0015】
これは、量子効率の測定精度を向上させるために、積分球内での多重反射を補正する手段として、異なる試料設置状態とするための機構であり、得られるデータは測定部位における平均的なスペクトル情報から得られる量子効率のみである。
【0016】
また、非特許文献4では、単波長の励起光による蛍光分布を撮影した画像に対し、広視野拡散光学技術空間周波数イメージング(SFDI)によって散乱や反射といった影響を考慮することで量子効率の分布画像を求めている。
【0017】
一方、特許文献2によると、分光蛍光光度計における積分球の近傍にカメラモジュール(撮影装置)を設けることで励起光照射時における試料からの蛍光により、試料の蛍光の画像を撮影することが可能とされている。
【0018】
さらに非特許文献5は、多波長照射可能な光源とカラーカメラによるRGB画像から、反射と蛍光吸収の画像に分離、および吸収・蛍光スペクトルを推定する手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2012-117816号公報
【文献】特開2019-020362号公報
【非特許文献】
【0020】
【文献】ISO 20351:2017 specifies a method of absolute measurement (using an integrating sphere) of internal quantum efficiency of phosphor powders which are excited by UV or blue light and emit visible light, and which are used for white light-emitting diodes (LEDs). (JIS R 1697)
【文献】堀込、和久井、分析化学 58(2009)553
【文献】大久保、重田、照明学会誌83巻第2号H11
【文献】Journal of Biomedical Optics; August 2015, Vol. 20(8)
【文献】Y. Fu, A. Lam, I. Sato, T. Okabe and Y. Sato, IEEE Trans. PAMI, 38 (7), pp. 1313-1326, 2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
非特許文献1~3、特許文献1に開示された如き従来の分光蛍光光度計のシステムでは、標準白色板を用いた励起光スペクトルの測定と試料による蛍光スペクトルの測定を行うことで量子効率を算出していたが、スペクトルの測定箇所は励起光の照射面であり、照射面における平均的な値として得るにとどまっていた。
【0022】
非特許文献4では、試料画像から量子効率を算出しているが、ローダミンBなど量子効率が既知の試料との相対比較する手法である。適当な既知試料を準備する必要があり、測定値は既知試料の量子効率に左右される。
【0023】
量子効率が既知の試料は限られており、液体試料、固体試料など試料の状態に合わせた既知試料を準備することは容易でない。溶液試料の場合、試料の濃度によって量子効率が変化するが、一般に量子効率が報告されている濃度は希薄溶液であり、蛍光量が小さいことが多い。そのため、撮影に適した蛍光量を有する試料を選定し、かつ量子効率が報告値の範囲で一定かつ撮影可能な濃度に希釈する手間が生じる。固体試料についても、量子効率が既知の試料は限られており、試料の励起波長や蛍光波長に合った試料を選定する手間が生じる。そのため、試料画像から量子効率が既知の試料を用いない方法、つまり絶対法にて量子効率を求める手法が望まれる。
【0024】
非特許文献5では、カラーカメラによるRGB画像から反射と蛍光吸収それぞれの成分画像に分離、および吸収・蛍光スペクトルを推定する手法について記載されているが、量子効率の算出については述べられていない。また、絶対法量子効率の算出のためには、吸収量(照射量)と蛍光量について、その収支を正確に得る必要がある。特に固体試料の場合、試料表面の鏡面反射や拡散反射などの反射状態が不均一であるため、反射光量の推定においては照明やカメラの設置角度の依存性による誤差が生じる。この影響を除くためには特許文献2のように積分球を使用し、照明を拡散状態にする方法が考えられる。しかし、特許文献2では励起・蛍光スペクトルの測定、カメラによる撮影について述べられている一方で、量子効率の算出については述べられていない。また、特許文献2では非特許文献5と異なり、照明には分光蛍光光度計からの励起側分光器にて分光された励起光を用いており、試料設置とカラーカメラによる撮影には積分球を使用している。従って両者は光学的な幾何条件が異なるため、単純に非特許文献5に基づいてカラーカメラによるRGB画像から量子効率の算出まで導くことは容易ではない。
【0025】
更には、非特許文献1で言及されているように分光蛍光光度計の励起側光学系および蛍光側光学系には光学系に由来する分光特性がある。励起側光学系に分光特性があることで、試料に照射される励起光量が波長毎に異なる。同様に蛍光側光学系に分光感度特性があることで、試料から放出される蛍光について検出される強度が波長によって異なる。励起側光学系および蛍光側光学系について、分光特性を補正する方法は公知であり、任意の方法で予め装置関数を取得し、分光感度補正を実施している。しかしながら、積分球にカメラを備えた分光蛍光光度計におけるカメラの分光感度特性の補正方法に関する報告はない。そのため、積分球を用いて撮影した画像においては、励起側光学系や積分球の分光特性の影響が生じ、吸収量(照射量)と蛍光量について、その収支を正確に得ることを困難とさせる。
【0026】
本発明は、試料を観測した面内における内部量子効率および外部量子効率の分布を把握技術に関する。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得する方法であって、基準物質に第1の波長域に属する励起光を照射し、少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得し、試料の所定の面に励起光を照射し、前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得し、前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出し、前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出し、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、量子効率分布の取得方法である。
【0028】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得する方法であって、 基準物質に励起光を照射し、撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得し、試料の所定の面に励起光を照射し、前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得し、前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得し、前記蛍光スペクトルに基づき、蛍光波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出し、各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出し、前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出し、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、量子効率分布の取得方法である。
【0029】
本発明の一態様は、表示装置が、上述の量子効率分布の取得方法により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する、量子効率分布の表示方法である。
【0030】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得するプログラムであって、分光蛍光光度計が、基準物質に第1の波長域に属する励起光を照射するとともに、試料の所定の面に励起光を照射し、当該プログラムは、少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得するステップと、前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得するステップと、前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出するステップと、前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出するステップと、前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出するステップと、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得するステップと、をコンピュータに実行させる量子効率分布の取得プログラムである。
【0031】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得するプログラムであって、分光蛍光光度計が、基準物質に励起光を照射するとともに、試料の所定の面に励起光を照射し、当該プログラムは、撮影装置により、前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得するステップと、前記撮影装置により、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得するステップと、前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得するステップと、前記蛍光スペクトルにおいて、励起波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出するステップと、各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出するステップと、前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出するステップと、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得するステップと、をコンピュータに実行させる量子効率分布の取得プログラムである。
【0032】
本発明の一態様は、上述の量子効率分布の取得プログラムにより得られた量子効率分布を、前記所定の面に対応した座標上において表示するように、表示装置に実行させる、量子効率分布の表示プログラムである。
【0033】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得可能な分光蛍光光度計であって、基準物質及び試料の所定の面に第1の波長域に属する励起光を照射する光源と、少なくとも前記第1の波長域に対応する第1のチャネル及び第2の波長域に対応する第2のチャネルを有する撮影装置と、コンピュータと、を備え、前記撮影装置が、前記基準物質を撮影した各画素の第1のチャネルの照射輝度値及び第2のチャネルの照射輝度値を取得するとともに、前記所定の面を撮影した各画素の第1のチャネルの測定輝度値及び第2のチャネルの測定輝度値を取得し、前記コンピュータが、前記第1のチャネルの照射輝度値と前記第1のチャネルの測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、前記第2のチャネルの照射輝度値と前記第2のチャネルの測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出し、前記照射輝度値と、前記吸収輝度値と、前記蛍光輝度値に基づき、各画素の量子効率を算出し、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、分光蛍光光度計である。
【0034】
本発明の一態様は、試料の所定の面における量子効率分布を取得可能な分光蛍光光度計であって、基準物質及び試料の所定の面に励起光を照射する光源と、撮影装置と、前記励起光の照射から得られた蛍光スペクトルを取得する検出器と、コンピュータと、を備え、前記撮影装置が、前記基準物質を撮影した各画素の波長毎の照射輝度値を取得するとともに、前記所定の面を撮影した各画素の波長毎の測定輝度値を取得し、前記コンピュータが、前記蛍光スペクトルにおいて、励起波長毎に割り当てられる蛍光強度分布データを算出し、各画素における波長毎の前記照射輝度値と、前記測定輝度値と、前記蛍光強度分布データに基づき、当該画素における反射成分係数と蛍光成分係数を算出し、前記反射成分係数と前記蛍光成分係数に基づき、各画素の量子効率を算出し、各画素の量子効率から前記試料の所定の面における量子効率分布を取得する、分光蛍光光度計である。
【0035】
本発明の一態様は、上述の分光蛍光光度計により得られた量子効率分布を前記所定の面に対応した座標上において表示する表示装置である。
【発明の効果】
【0036】
本発明によれば、試料の所定の面における量子効率の分布を把握することが可能となり、試料の性質をより詳細に分析することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1図1は、分光蛍光光度計の一実施形態を示すブロック構成図。
図2図2は、分光蛍光光度計により得られる試料の蛍光スペクトル。
図3図3は、積分球の一例の構成を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図。
図4図4は、第1実施形態の量子効率の算出方法を実施する手順のフロー図。
図5図5は、第1実施形態のR/G/Bの各チャネルにおける照射輝度値と吸収輝度値と蛍光輝度値の関係を示す概念図であり、(a)は基準測定の照射輝度値、(b)は試料測定の輝度値、(c)は算出した吸収輝度値と蛍光輝度値。
図6図6は、蛍光スペクトルにおける標準白板と試料のR/G/Bの各チャネル波長域を示した蛍光スペクトルの概念図であり、(a)は基準測定のスペクトル、(b)は試料測定のスペクトル、(c)は算出した吸収量、蛍光量のスペクトル。
図7図7は、分光蛍光光度計の他の実施形態を示すブロック構成図。
図8図8は、積分球の他の例の構成を示す図であり、(a)は上面図、(b)は側面図。
図9図9は、入力である標準白板の画像及び試料の画像ならびに出力である量子効率分布の画像の例を示す図。
図10図10は、第2実施形態の量子効率の算出方法を実施する手順のフロー図。
図11図11は、反射成分係数と蛍光成分係数を算出する過程を示す概念図。
図12図12は、蛍光スペクトルを構築する過程を示す概念図。
図13図13は、入力である標準白板の画像、試料の画像及び蛍光スペクトルならびに出力である量子効率分布の画像の例を示す図。
図14図14は、第3実施形態の量子効率の算出方法を実施する手順のフロー図。
図15図15は、第3実施形態のマルチチャネルにおける照射輝度値と吸収輝度値と蛍光輝度値の関係を示す概念図であり、(a)は基準測定の照射輝度値、(b)は試料測定の輝度値、(c)は算出した吸収輝度値と蛍光輝度値。
図16図16は、表示装置が表示する測定結果の画像の図。
図17図17は、表示装置が表示する測定結果の画像の図。
図18図18は、表示装置が表示する測定結果の画像の図。
図19図19は、内部量子効率分布画像及び外部量子効率分布画像を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明に係る量子効率分布の取得方法と、量子効率分布の表示方法の好適な実施形態、これらを実施するための量子効率分布の取得プログラム、量子効率分布の表示プログラム、分光蛍光光度計及び表示装置について、図面を参照して詳述する。
【0039】
図1は、量子分布を取得する分光蛍光光度計の一実施形態を示すブロック構成図である。図1を用いて本実施形態の分光蛍光光度計の構成を詳述する。
【0040】
本実施形態の分光蛍光光度計1は、試料に励起光を照射して、試料から放出された蛍光を測定する装置であり、光度計部10と、光度計部10内に配置され、光度計部10をコントロールし試料を分析するデータ処理部30と、入出力を行う操作部40とを備える。
【0041】
光度計部10は、光源11と、光源11の光から分光して励起光を生成する励起側分光器12と、励起側分光器12からの光を分光するビームスプリッタ13と、ビームスプリッタ13で分光された一部の光の強度を測定するモニタ検知器14と、試料から放出された蛍光を単色光に分光する蛍光側分光器15と、単色の蛍光の電気信号を検知する検出器(蛍光検出器)16と、励起側分光器12の回折格子を駆動する励起側パルスモータ17と、蛍光側分光器15の回折格子を駆動する蛍光側パルスモータ18とを備える。
【0042】
データ処理部30は、コンピュータ31と、コンピュータ31内に配置される制御部32と、試料からの蛍光をデジタル変換するA/D変換器33を備える。また、操作部40は、操作者が、コンピュータ31の処理に必要な入力信号を入力する操作パネル41と、コンピュータ31により処理された各種分析結果を表示する表示装置42と、操作パネル41及び表示装置42とコンピュータ31とを連結するインターフェース43とを備える。
【0043】
操作者が操作パネル41により入力した測定条件に応じて、コンピュータ31が励起側パルスモータ17に信号を出力し、励起側パルスモータ17が駆動して励起側分光器12が目的の波長位置に設定される。また、同じく測定条件に応じて、コンピュータ31が蛍光側パルスモータ18に信号を出力し、蛍光側パルスモータ18が駆動して蛍光側分光器15が目的の波長位置に設定される。励起側分光器12、蛍光側分光器15は、所定のスリット幅を持つ回折格子やプリズムなどの光学素子を有しており、励起側パルスモータ17、蛍光側パルスモータ18を動力とし、ギヤやカム等の駆動系部品を介して光学素子を回転運動させることでスペクトル走査が可能となる。
【0044】
さらに光度計部10は、積分球20を有する。積分球20は実質的に球形の形状を呈し、その内部には物質が存在せず、内部空間が画定されている。また、積分球20は、固体、紛体、液体等種々の形態をとる測定対象の試料を設置して保持(収容や封入など)可能な試料保持部(試料設置部)23を有する。試料保持部23は、積分球20に対し取り外し可能に構成され、円形板形状を呈し試料をばね応力にて保持する。
【0045】
さらに、本実施形態においては、積分球20の近傍にカメラモジュール(撮影装置)21が設けられている。カメラモジュール21は、試料からの蛍光の電気信号を検知して、スペクトルの強度を取得する検出器16とは異なり、試料からの蛍光により、試料画像(試料表面の画像)を撮影し、取得する装置である。本実施形態において、試料保持部23は、ビームスプリッタ13で分光された一部の励起光が、直接試料に照射されない位置に設置されている。一方、カメラモジュール21は、積分球20の中心から見て試料保持部23の位置とは対極の位置(対極の位置の近傍を含む)に設置され、光源11の光により照射された試料が放出する蛍光に基づき、試料の表面を撮影する。
【0046】
積分球20は、ビームスプリッタ13で分光された一部の励起光を内部に取り込む。積分球20の(内部空間を画定する)内面には、硫酸バリウムなどの高反射の白色材料等が塗布されている。積分球20は、入射した励起光を内面で反射、散乱させることにより、平均化された励起光を、試料保持部23に保持された試料に照射する。さらに、試料から放出された蛍光が、積分球20の内面で反射、散乱し、積分球から出て、蛍光側分光器15、検出器16に導かれる。積分球20の詳細は後に説明する。
【0047】
放出された蛍光を蛍光側分光器15が取り込み、単色光に分光し、検出器16がこの単色光を検出し、A/D変換器33を経てコンピュータ31に信号強度として取り込まれ、表示装置42にて各種分析結果が表示される。一方、放出された蛍光をカメラモジュール21が撮影し、試料画像を取得し、表示装置42にて表示される。
【0048】
図2は、図1の実施形態を含む一般的な分光蛍光光度計から得られるデータの一例であり、蛍光スペクトルを示す。蛍光スペクトルは、図1の装置では試料保持部23の測定試料に対し、固定波長の励起光を照射し、蛍光波長を変化させた際の波長毎の蛍光強度を測定することにより得られるスペクトルである。固定波長に設定された励起側分光器12からの励起光を測定試料に照射する。蛍光側分光器15は、その時の測定対象の蛍光を測定開始波長から測定終了波長まで変化させ、波長毎の蛍光の変化を検出器16が検出し、A/D変換器33を介してコンピュータ31に信号強度として取り込まれる。コンピュータ31がこの信号強度を解析処理し、インターフェース43を介して表示装置42にスペクトルが表示される。表示装置42には、測定結果として、蛍光波長と蛍光強度の図2に示されるような二次元の蛍光スペクトルが表示される。図2のスペクトルは、励起光が特定波長(例えば440nm)であり、蛍光波長を変化させた際の蛍光強度を示している。
【0049】
励起光スペクトルの測定として、積分球20の試料保持部23に基準物質として例えば標準白板を置く。積分球20の励起光導入用開口部から標準白板に向けて、選択した波長の励起光を照射し、測光用開口部から出射する光の強度を測定する。励起光強度は、検出器16の信号が飽和しない強度とする。図2の点線が励起光のスペクトルに相当する。
【0050】
次に、蛍光体試料のスペクトル測定として、積分球20の試料保持部23試料を設置する。励起光スペクトルの測定と同様にして、励起光を試料に照射し、検出器で光強度を測定し、励起光の散乱光と蛍光からなるスペクトルを求める。図2の実線が蛍光体試料の蛍光スペクトルに相当する。
【0051】
蛍光スペクトルの面積に相当する蛍光量と励起光スペクトルの面積に相当する吸収量の比が式(1)により求められる内部量子効率に相当する。一方、蛍光スペクトルの面積に相当する蛍光量と励起光の照射量(吸収量ではない)の比が式(2)により求められる外部量子効率である。
【0052】
図3は、実施形態の積分球20の詳細を示す図であり、図3(a)は積分球20の上面図、図3(b)は積分球20の側面図を示す。本例の積分球20には、積分球20の外面と内面を貫通する六つのポート(穴)P1~P6が設けられている。ポートP1とポートP3、ポートP2とポートP4、ポートP5とポートP6が、それぞれ互いに球の中心点を間に位置して対極する位置に設けられている。ビームスプリッタ13に対向する位置のポートP1には何も設けられておらず、励起側分光器12で生成され、ビームスプリッタ13で分光された励起光が通過可能となっている。ポートP5には、試料Sを保持した試料保持部23が取り付けられている。ポートP3、P4は、高反射の白色材料等(例えば積分球20の内面と同一の物質)で形成された白板22で塞がれており、積分球20の内面の一部をなしている。なお、開放により励起光および蛍光が逃げることによる光量の低下を抑制するため、ポートP2の対極のポートP4は白板22でふさぐことが望ましいが、必須ではない。蛍光側分光器15に対向する位置のポートP2、カメラモジュール21に対向する位置のポートP6には何も設けられていない。
【0053】
本構成において、ポートP1から励起光を入射させると、励起光が、積分球20の内面で散乱、反射(拡散反射)し、積分球20の内部空間が励起光で満たされる。そして、ポートP1から入射した励起光の入射方向に対し、90度方向に蛍光を取り出すポートP2が配置されており、試料保持部23の試料から発せられた蛍光は、ポートP2を通過して蛍光側分光器15に導かれ、スペクトルが測定される。
【0054】
また、試料を保持する試料保持部23は、励起光が直接照射されない位置であるポートP5の位置に設置されている。カメラモジュール21は、ポートP5、すなわち試料保持部23の対極に位置するポートP6に対向するように設置されている。カメラモジュール21は、試料Sに焦点が合うようなレンズ、光量調整用の絞り、不要光をカットするロングパスフィルター、撮影素子等より構成される。カメラモジュール21は、データ処理部30のコンピュータ31により制御される。なお、試料保持部23の試料に励起光が直接照射されないことが満たされていれば、積分球20のポートの構成、数等は、図3に示すものには限定されない。また、本実施形態では各ポートの径がすべて同一であるが、同一にする必要は必ずしもない。また、白板22はそれが取り付けられるポートから外光が積分球内に入らない大きさであることが好ましい。試料保持部23の構造も特には限定されない。積分球20の内面の素材も特に限定はされないが、高反射成分係数の素材で構成することが好ましい。
【0055】
次に、本発明に係る量子効率分布の取得方法の第1実施形態を説明する。本実施形態の量子効率分布の取得方法は、試料を撮影した画像の各画素のRGB輝度値から吸収量分布と蛍光量分布を算出して、当該試料の所定の面における量子効率の分布状態を求める方法である。
【0056】
測定に際しては、例えば図1および図3に示す構成の積分球20とカメラモジュール(撮影装置)21を搭載した分光蛍光光度計1を用いる。励起側および蛍光側光学系にはその光学系に由来する分光特性がある。励起側光学系に分光特性があることで、試料に照射される励起光量が波長毎に異なる。一方、蛍光側光学系に分光感度特性があることで、試料から放出される蛍光について検出される強度が波長ごとに異なる。励起側および蛍光側光学系についての補正方法は公知であり、任意の方法で予め装置関数を取得し、分光感度補正を実施することとする。
【0057】
図4は本実施形態の方法を実施する手順のフローを示す。まず操作者は、装置(分光蛍光光度計)を構成するための装置校正を実施する(ステップS1)。装置の校正は、標準白板輝度値校正、標準白板RGB感度校正、積分球感度校正を少なくとも含む。
【0058】
第一に標準白板輝度値校正、すなわち標準白板を用いたカメラモジュール21の輝度値の校正を行う。カメラモジュール21のビット深度が8ビットの場合、輝度値は0~255の256階調のデータが得られることになる。一般的な撮影においても輝度値の調整は行われるが、以下、本方法に適した装置校正について説明する。
【0059】
一般的に、撮影対象内(ここでは測定試料)に対して、カメラモジュール21の輝度値がサチュレーション(飽和)しないように、すなわち撮影画像内で輝度値が8ビットの上限をサチュレーションしない撮影条件を設定する。しかしながら、量子効率の算出のためには測定試料の励起光の吸収量を得る必要がある。よって、測定試料ではなく、試料への照射光に基づいた輝度値の校正が必要である。そこで、測定に用いる励起光を照射した際に撮影画像が輝度値の最大値をとる標準白板を基準物質として用いて、カメラモジュール21の輝度値の校正を行う。
【0060】
まず、積分球20の試料保持部23に標準白板Wを設置する。標準白板Wは、例えば反射成分係数が90%以上有し、蛍光を発しない高反射素材(例えば酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)を用いる。サチュレーションを起こさないよう、高反射素材を用いた撮影により撮影条件を設定することが好ましい。
【0061】
輝度値を左右する撮影条件として、露光時間、感度(ゲイン)、絞り等複数のパラメータが存在する。複数のパラメータが存在する場合、一つのパラメータを変数として、他のパラメータを固定して調整することができる。例えば、感度(ゲイン)と絞りを固定した上で露光時間を調整し、輝度値がサチュレーションしない値を設定する。
【0062】
ここで標準白板Wに照射する光として、分光蛍光光度計1の励起光として分光された単色光で予め校正する。分光蛍光光度計1では、分光しない白色光(0次光)の照射も可能だが、通常、量子効率は励起波長毎に求めるため、使用する単色光の励起波長条件で予め設定する。なお、分光しない白色光(0次光)と分光された単色光をそれぞれ測定に用いる際は、0次光と単色光で光量が大きく異なるため、輝度値における撮影条件はそれぞれ別の値を用いると良い。
【0063】
分光蛍光光度計1の励起側分光器12、ビームスプリッタ13から照射される単色光は波長毎に光量が異なり、またカメラモジュール(撮影装置)21の感度も使用する機器に応じてR/G/Bのカラーフィルターの分光感度特性が異なる。励起光の光量とカメラモジュール21で得られる強度が異なるため、使用する励起波長全てでその輝度値における撮影条件を予め取得しておく。
【0064】
ただし、カメラモジュール21による撮影の際、励起波長毎に撮影条件を変更すると連続した測定の際、カメラのセンサーにおいて撮影条件変更に伴う不感時間が生じ、スループットが低下するおそれがある。使用する機器構成が固定される場合、励起光の光量の最大波長とカメラモジュール21の分光感度の最大波長は機器に特有となる。ここで、装置構成としては積分球20を用いているため、積分球20の内面の白色素材および標準白板Wの白色素材の反射率も特性として結果を左右する。そこで、励起光量とカメラモジュール21の感度の分光分布、積分球内面の白色素材と標準白板の反射率曲線を掛け合わせた最大の波長を算出し、その波長における撮影条件を校正し代表値とすると良い。
【0065】
第二に標準白板RGB感度校正、すなわち標準白板を用いたカメラモジュール21のR/G/B感度の校正を実施する。カメラモジュール21のR/G/Bの各チャネルには感度差があり、白色光下での撮影時にも各チャネルの値が一致しない可能性があるため、この校正を行う。この校正は一般的なホワイトバランスの調整に相当する。チャネルとは、カメラモジュール21を構成する撮影素子において、特定の波長域の光を捉える部分に対応する。
【0066】
ここでは、積分球20に標準白板Wを設置した状態で分光蛍光光度計1から分光しない白色光(0次光)を照射し、R/G/Bの各チャネルの輝度値が同程度の値になるようにR/G/Bの係数を求め、感度を補正する。例えば、Gの輝度を基準にR及びBの輝度に対応した感度の補正値を予め取得し、取得した各チャネルの画素に乗算することで補正する。
【0067】
この時、0次光は光量に波長分布があり、また同様に積分球20の内面の白色素材および標準白板Wの白色素材の反射率も波長分布があることから、各波長で均一な分布を有する理想的な白色光照明とは異なる。つまり、対象に照射される白色光照明の波長分布は、0次光の波長分布と積分球内面の白色素材と標準白板の反射率分布を掛け合わされたものとできる。この波長分布は、積分球20に標準白板Wを設置し、励起側分光器12で0次光に設定・照射する。積分球20からの光束を蛍光側分光器15にてR/G/Bの各チャネルが検出可能な波長範囲(例えば380nm~700nm)を走査し、検出器16で検出することで、光量の波長分布を得る。
【0068】
得られた積分球内の白色光照明の光量分布をR/G/Bの各チャネルの波長分布に応じた分光感度曲線に対して除算することにより、照明に起因する光量分布の影響が補正される。
【0069】
第三に積分球感度校正、すなわち積分球の感度校正のための補正係数を取得する。積分球20は、内壁が90%位以上の反射率を有し、蛍光を発しない高反射素材(例えば酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)が塗布されている。この積分球20での反射や吸収は照射される励起光だけでなく、測定試料による反射光や蛍光に対しても行われる。つまり、測定試料に照射される光には自身の反射光や蛍光も含まれることとなり、同様に観測される光も様々な光の足し合わせとなってしまう。正しい反射率を測定するためには、こういった積分球による影響を補正する必要がある。
【0070】
蛍光側分光器15からの蛍光スペクトルにおける積分球補正係数は、標準白板を含めた積分球20の反射率を測定することで得られる。この取得方法について、非特許文献2においては、蛍光側分光器15及び検出器16にて積分球20を取り除いた状態と、積分球20を設置した状態で蛍光スペクトルを測定し、除算にて補正係数を算出する方法が記されている。また、分光感度曲線が既知の標準光源を積分球に導入し蛍光側分光器15及び検出器16にて発光スペクトルを測定し、既知の分光感度曲線との除算にて補正係数を算出する方法が知られている。
【0071】
本構成において、蛍光成分は積分球内壁による相互反射の影響を受けにくいが、反射成分はその影響を受けやすい。相互反射による高次成分が観測光に大きく影響を与えることが知られている一方で、量子効率の算出には正確な反射成分の算出が不可欠となることから、カメラモジュール21の撮影画像に対し、相互反射による高次成分の補正を行う必要がある。そこで、本実施形態ではカメラモジュール21からの撮影画像について、積分球20による相互反射の影響を、式(3)のような非線形なモデルにより補正する。
【0072】
【数3】
【0073】
ここでR及びR’は、それぞれ真値及び積分球20を用いて観測された分光反射率を、c及びm(i=1,2,・・・)は、それぞれ補正に用いる係数列及び冪指数列を示す。本実施形態では任意の適切な冪指数列mを設定し、基準物質である標準白板と積分球を用いた測定から係数列cを算出した。なお、ここで得られた係数列、すなわち補正係数cを用いて、ステップ4における反射率補正を行う。
【0074】
次に操作者は、標準白板と黒色板を含む基準物質を測定してそのデータを取得するための基準測定を実施する(ステップS2)。基準測定は、標準白板画像撮影、標準白板スペクトル測定、黒色板画像撮影、黒色板スペクトル測定を少なくとも含む。
【0075】
まず操作者は、標準白板Wを積分球20の試料保持部23に設置する。任意の波長範囲および任意の波長間隔で励起光を標準白板Wに照射し、各励起波長における標準白板の画像をカメラモジュール21で撮影し、かつ標準白板の蛍光スペクトルを測定する。この画像は各画素での照射量に相当するため、各画素で算出することで各励起波長における照射量分布となる。本測定は標準試料の蛍光スペクトルを測定する。得られるスペクトルは、試料の面内に照射された励起光の平均的なスペクトルに相当する。
【0076】
次に操作者は、黒色板Bを積分球20の試料保持部23に設置する。標準白板Wと同じ条件で画像と蛍光スペクトルを測定する。黒色板Bは反射率が0%で光を完全吸収する拡散反射性の素材であることが望ましい。黒色板Bの画像と蛍光スペクトルはそれぞれの測定値のバックグラウンドに相当する。黒色板Bの測定値は、バックグラウンドとして、画像の各画素のR/G/B輝度および蛍光スペクトルの蛍光強度から減算され、黒色板Bも標準白板と同様に基準物質の一つと言える。
【0077】
次に操作者は、測定対象となる試料のデータを取得するための試料測定を行う(ステップ3)。試料測定は測定試料画像撮影と測定試料スペクトル測定を少なくとも含む。操作者は、積分球20の試料保持部23に測定試料Sを設置する。標準白板Wの測定と同じ条件で、任意の波長範囲の任意の波長間隔における励起波長の励起光を、試料Sの所定の面(一般的には切り出した平面)に照射し、測定試料Sの画像を撮影する。続いて、標準白板の測定と同じ条件で、測定試料Sの蛍光スペクトルを測定する。
【0078】
以上の測定結果を踏まえ、次にコンピュータ31が、R/G/Bの各チャネルにおける輝度差に基づく光量の分布を算出する光量分布算出を行う(ステップS4)。光量分布算出は、ステップS2の標準白板Wの撮影に基づく照射量分布算出と、ステップS3の測定試料Sの撮影に基づく吸収量分布算出と蛍光量分布算出とを少なくとも含む。図5は、カメラモジュール21のR/G/Bの各チャネルにおける照射輝度値、吸収輝度値、蛍光輝度値の関係の概念図を示す。図5(a)~(c)における「上限」は、ステップS1にて標準白板Wによって校正されたカメラモジュール21の輝度値の上限を示しており、ステップS2で標準白板Wを測定した際、輝度値は上限値を超えない。
【0079】
本例では図2に示される単一の励起波長440nmを例にして、R/G/Bの各チャネルにおける照射輝度値、吸収輝度値、蛍光輝度値の関係を説明する。一般的に、カメラモジュール21を構成し得るカラーCCD、カラーCMOS等の撮影素子において、Bチャネルは400nm~500nm、Gチャネルは480nm~580nm、Rチャネルは550~700nmの波長域の光に対応しており、それぞれ受光可能である。
【0080】
図5(a)は、ステップS2の基準測定におけるR/G/Bの各チャネルの輝度値を示している。ステップS2における基準測定は、波長440nmに相当するBのチャネルで受光され、照射輝度値が得られる。また、GやRのチャネルにおいても輝度値が得られるが、励起光の迷光やノイズにより引き起こされる変動レベルであり、わずかの値である。この時、各輝度値は黒色板Bの輝度値が差し引きされた輝度値が正味の輝度値である。
【0081】
図5(b)は、ステップS3の試料測定におけるR/G/Bの各チャネルにおける測定された輝度値、すなわち測定輝度値を示している。測定試料は波長440nmの光を吸収することで、吸収されずに反射された光が観測される。主に波長440nmのBチャネルが反射光を反映することになる。この時、Bチャネルの輝度値は、試料Sが励起光を吸収することにより光量が減衰するため、基準測定における標準白板Wの輝度値よりも小さい値となる。
【0082】
一方、励起されて放出された蛍光は、図2において蛍光波長520nmを頂点としたスペクトルを描いている。この蛍光は、カメラモジュール21において、GチャネルとRチャネルで輝度値が得られることとなる。この時、G/Rチャネルの輝度値は、試料Sが蛍光により発光するため、基準測定における標準白板Wの輝度値よりも大きい値となる。
【0083】
この現象は、蛍光は励起光よりもエネルギーレベルの低い長波長に生じるストークスの原理により、440nmで励起された蛍光がそれよりも長波長の光として発光することに起因する。カメラモジュール21のチャネルではBチャネルの領域で測定試料Sが励起された場合、GやRチャネルで蛍光が観測される。このことは、理論的にはBチャネルにおける吸収輝度値が、Gチャネル及びRチャネルの蛍光輝度値に分配されることを意味する。また、励起光として入射される光の波長は、反射の波長と同じ波長で生じるため、基準測定による標準白板Wで観測されたチャネルにて反射および吸収の輝度値が観測されることとなる。これらの関係を用い、吸収および蛍光の輝度値を算出する。
【0084】
すなわち図5(c)に示すように、励起波長440nmを照射したため、この波長が属するBチャネルにおいて、試料測定の輝度値(測定輝度値)から基準測定の輝度値(照射輝度値)を差し引きした輝度値の差(変化)が吸収輝度値に相当する。また、励起波長が属しないGおよびRチャネルにおいて、試料測定の輝度値(測定輝度値)から基準測定の輝度値(照射輝度値)を差し引きした輝度値の差(変化)が蛍光輝度値に相当する。吸収輝度値と蛍光輝度値を各画素でそれぞれ計算することで、吸収輝度分布と蛍光輝度分布が得られる。これを測定した各励起波長で計算することで、励起波長毎の吸収輝度分布と蛍光輝度分布が得られる。
【0085】
次にコンピュータ31は、内部量子効率と外部量子効率を計算する(ステップS5)。各チャネルの波長範囲を考慮すると、400nm~500nmの励起波長の場合、吸収輝度値はBチャネルの輝度値を用い、蛍光輝度値はGチャネルおよびRチャネルの輝度値を用いる。この時、R/G/Bの各チャネルの輝度値はステップS1の輝度値の校正により補正されているため、R/G/Bの各チャネルの輝度値を相互比較することが可能である。GチャネルとRチャネルの輝度値の合計が蛍光輝度値に相当することとなる。励起波長が480nm~580nmの場合、吸収輝度値はGチャネルの輝度値を用い、蛍光輝度値はRチャネルの輝度値を用いる。
【0086】
式(1)に基づき、内部量子効率は蛍光量を吸収量で割り算することで得られるため、算出された蛍光量分布を吸収量分布にて割り算することで、内部量子効率の分布が得られる。言い換えると、蛍光輝度値と吸収輝度値の比から、各画素の内部量子効率が算出され、各画素の内部量子効率を、観測した資料の所定の面において対応する座標に載せることにより、当該所定の面における内部量子効率部分を取得することができる。
【0087】
また、式(2)に基づき、算出された蛍光量分布をステップS2で求めた照射量分布にて割り算することで、外部量子効率の分布が得られる。言い換えると、蛍光輝度値と照射輝度値の比から、各画素の外部量子効率が算出され、各画素の外部量子効率を、観測した資料の所定の面において対応する座標に載せることにより、当該所定の面における外部量子効率分布を取得することができる。これを各励起波長で繰り返して計算することで、励起波長毎の内部量子効率分布と外部量子効率分布が得られる。
【0088】
このように、標準白板と測定試料における各画素のR/G/Bチャネルの輝度値の画像を用いることで、照射量分布、吸収量分布と蛍光量分布が可能となり、内部量子効率および外部量子効率の分布画像の取得が可能となる。
【0089】
尚、本例では一般的なカメラモジュール21を想定しており、その撮影素子は、第1のチャネル(Bチャネル)、第2のチャネル(Gチャネル)であり、第3のチャネル(Rチャネル)という三つのチャネルを有している。そして、最も短い波長域に対応するBチャネルに属する励起光の照射により、Bチャネルの照射輝度値と測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、Gチャネルの照射輝度値とGチャネルの測定輝度値の差及びRチャネルの照射輝度値とRチャネルの測定輝度値の差の合計から蛍光輝度値を算出している。もちろん、最低二つのチャネルがあり、励起光の波長が属する第1の波長域に対応する第1のチャネルの照射輝度値と測定輝度値の差から吸収輝度値を算出し、第2のチャネルの照射輝度値と測定輝度値の差から蛍光輝度値を算出してもよい。ここでは第1の波長域は第2の波長域よりおおむね小さいことが条件となる。
【0090】
図6は、ステップS2、S3の各スペクトル測定で得られたスペクトルを示しており、図6(a)~(c)の各々は、図5(a)~(c)の各々に対応する。吸収輝度値、蛍光輝度値に対応して吸収量、蛍光量がスペクトルで現れている。
【0091】
上述した通り、本実施形態は、R/G/Bチャネルの輝度値に基づき最終的に内部量子効率分布と外部量子効率分布を取得することが可能であり、スペクトルの測定は必ずしも必要ではない。しかしながら、図6に示すように、励起波長の蛍光スペクトルを測定することで、R/G/Bのどのチャネルに吸収量輝度値と蛍光量輝度値が割り当てされるか把握することを可能となり、有用である。また、蛍光スペクトルの測定を不要とする場合、図7及び図8に示した他の実施形態のように、蛍光側分光器15、検出器16および蛍光側パルスモータ18を省略しても実施は可能である。
【0092】
図9は、標準白板の画像と試料の測定試料画像および量子効率面内分布の算出結果である画像の一例を示す。ステップS2にて取得された標準白板の画像およびステップS3にて取得された測定試料の画像を入力として、ステップS4を経てステップS5にて算出された量子効率分布画像が出力として得られることとなる。表示装置42がこのような入力及び出力の画像を表示し、操作者は画像を観察して試料の性質を詳細に分析することができる。なお、量子効率は割合であり、吸収した光量(フォトン数)以上の光量の蛍光は生じないため、0~1の範囲の値をとる。量子効率の分布の画像は各画素が0~1の値となるため、分布をヒートマップなどのグラデーション図として描くと良い。尚、図9では内部量子効率の分布画像を示しているが、外部量子効率の分布画像を切り替えて表示するようにしてもよい(図19参照)。
【0093】
次に、本発明に係る量子効率分布の取得方法の第2実施形態を説明する。第1実施形態では、標準白板と測定試料における各画素のR/G/Bチャネルの輝度値の画像を用い、差し引きすることにより吸収輝度値と蛍光輝度値を求め、内部量子効率及び外部量子効率の分布画像を取得している。この方法では、R/G/Bチャネルの検出波長が重複している波長域が存在し得る(例えばBチャネルは400nm~500nm、Gチャネルは480nm~580nm、Rチャネルは550~700nm)。このため、重複した波長域の励起波長を持つ励起光を用いる場合、吸収量が2つのチャネルにまたがることになり、吸収量の算出に誤差が生ずる可能性がある。同様にR/G/Bチャネルの検出波長が重複している波長域に蛍光が生じる場合、蛍光量の算出に誤差が生ずる可能性がある。
【0094】
上述の点に鑑み、第2実施形態では、蛍光側分光器15で取得した蛍光スペクトルを用いて、試料画像の各画素のR/G/B輝度値から吸収量分布と蛍光量分布を算出する。本実施形態においても図1図3に示した装置を利用することができる。図10は本実施形態の方法を実施する手順のフローを示す。ステップS1~ステップS3は第1実施形態のものと同じである。
【0095】
ステップS4において、蛍光側分光器15で取得した蛍光スペクトルを用い、試料画像の各画素のR/G/B輝度値から吸収量分布と蛍光量分布を算出する。試料画像において、各画素のR/G/Bのそれぞれのチャネルには、それぞれ試料Sからの反射光の成分と蛍光の成分の両方が含まれている。対象物体の特定の点から観測される光(の強度)Iは、ステップS3における測定試料画像撮影によって観測可能であるが、式(4)のように反射光と蛍光の総和として表すことができる。式(4)は非特許文献の式(7)~(9)に相当する。
【0096】
【数4】
【0097】
ここで、Lはその点に照射された照明の強度スペクトル、Rはその点での試料の反射スペクトル、aはその点での試料の吸収量であり、蛍光強度を左右する蛍光成分係数、Fはその試料の蛍光スペクトルをそれぞれ示している。強度スペクトルLと蛍光スペクトルFは、それぞれステップS2、ステップS3における測定によって直接得ることができる。また、式には記載されていないが、黒色板Bのバックグラウンドに相当する輝度値を差し引いた正味の輝度値を用いることとする。これをR/G/B(カラー)画像について考えると、ある画素のR/G/B観測値I、I、Iは、ステップS3における測定試料画像撮影によって観測可能であるとともに、以下の式(5)のようにそれぞれのチャネルの分光感度を係数として波長について積分したものとなる。ここでC、C、Cは、それぞれカメラモジュール21を構成する撮影素子のR/G/Bチャネルの分光感度を示しており、既知の値である。
【0098】
【数5】
【0099】
このモデルを解くためには、試料の反射スペクトルRまたは蛍光特性(吸光度を示す励起光スペクトルと発光の分光分布を示す蛍光スペクトル)aのいずれかが既知である必要があり、RGB画像では詳細な波長情報が記録できない点についても解決する必要がある。
【0100】
そこで、本推定手法では分光蛍光光度計の単色光からなる励起光を照明(の強度スペクトル)Lとして扱うことにより、これらの問題の解決を図った。分光蛍光光度計1では単波長の光を励起光として対象物体に照射し、そのときに放射される光の波長情報を測定しており、励起波長を変化させながらそれぞれ記録することで対象物体の蛍光特性を網羅的に計測している。k番目の単波長照明L=L(λ)の下での反射蛍光モデルは、以下の式(6)により求められる。
【0101】
【数6】
【0102】
ここで、下付き文字のkはk番目の波長での値を示しており(例:R=R(λ))、単波長照明のためLは、λ以外の波長では強度を持たず、例えば次の式(7)におように、積分が単項となることに留意する。
【0103】
【数7】
【0104】
図11は反射成分係数(反射率)Rと蛍光成分係数a’を算出する過程の概念図を示す。前述したとおり、式(6)における(L)は、ステップS2の標準白板Wを用いた撮影によって測定でき、FはステップS3において分光蛍光光度計1を用いた測定とカメラモジュール21の分光感度から既知の値として算出することができる。ここで、Fは積分球20の反射率の影響を受けている。そのため、ステップS1の第三の工程で求めた積分球20の補正係数を用いて、分光蛍光光度計1から得た蛍光スペクトルを補正する。ここで、積分球20の補正係数は、蛍光スペクトルと同様に数nm毎の値として適用される。
【0105】
ここで、蛍光スペクトルFは例えば図11の最上段に描かれたように所定の点(画素)で得られるが、測定対象の面(試料の面)の物質が変わらない限り、蛍光強度の絶対値が変化しても蛍光スペクトルの形状は変化しない。すなわち、蛍光スペクトルFが得られれば、R、G、B各波長域への蛍光強度の分配はどの点でも画一的に決まるため、F、F、Fそれぞれへの分配も面内のあらゆる画素で自動的に決定される。すなわち、この分配は、蛍光強度分布データという形で得られる。
【0106】
これにより式(6)における未知数は波長λでの反射成分係数Rと蛍光成分係数a’のみとなり、この連立方程式を解くことにより、これらの値を得ることができる。これを全ての励起波長(波長λk1,λk2,・・・,λ)について計算することで、図12に示すように反射スペクトルおよび励起光スペクトルを得ることが可能となる。すなわち、反射成分係数と照射輝度値に基づき、各画素の反射光量を算出するとともに、蛍光成分係数と蛍光強度分布データに基づき、各画素の蛍光量を算出することができる。更に全ての画素で計算することで反射光量分布Iと蛍光量分布Iを得ることができる。
【0107】
また、分光蛍光光度計1を用いた測定では、測定試料Sからの平均的な蛍光スペクトルが得られることとなる。測定試料Sに複数の蛍光成分が混在している場合、この蛍光スペクトルは合算された蛍光スペクトルとなる。この時、この合算されたスペクトルは、PARAFACなどの手法で蛍光スペクトルを成分毎に分離し、成分毎の蛍光スペクトルとしてFを規定し、各成分における蛍光量分布Iと反射光量分布Iを得る。
【0108】
その後、求められたIに対してステップS1で求めた係数を式(3)に適用することで補正を行う。
【0109】
各画素における吸収量は、各画素におけるステップS2においてカメラモジュール21におけるRGBそれぞれのチャネルに対応して得られた照射輝度値に対応した照射量(積分球で拡散反射されて、白板を照らす光の光源から照射される光量分布)と、反射光量の差から算出される。すなわち、吸収量分布Iは、ステップS2で得られる照射輝度値に対応した照射量分布Lと、ステップS3において上述の計算で得られた反射光量分布Iの差で得られることとなる。
【0110】
すなわち、上記プロセスでは、カメラモジュール21の撮影により標準白板から照射輝度値を取得するとともに、試料の所定の面における各画素の測定輝度値を取得する。さらに、検出器(蛍光検出器)は蛍光スペクトルFを取得するが、この蛍光スペクトルは、所定の面のあらゆる個所において相似形であり、全画素(全点)において、Fについて、第1のチャネル(Bチャネル)、第2のチャネル(Gチャネル)であり、第3のチャネル(Rチャネル)という三つのチャネルそれぞれの蛍光波長域に対応した蛍光強度分布データF、F、Fが算出される。そして、各画素における波長毎の照射輝度値と、測定輝度値と、蛍光強度分布データに基づき、式(6)から当該画素における反射成分係数Rと蛍光成分係数a’を算出することができる。
【0111】
さらに反射成分係数Rと蛍光成分係数a’に基づき、各画素の反射光量を算出することができ、蛍光成分係数a’と蛍光強度分布データに基づき各画素の蛍光量を算出することができる。また、照射量と反射光量の差に基づき各画素の吸収量を算出することができる。これらの値から各画素の量子効率を算出することができる、試料の所定の面における量子効率分布を取得することができる。
【0112】
ステップS5では、式(1)より、測定試料Sの内部量子効率は次の式(8)によって計算される。すなわち、蛍光量と吸収量の比から、各画素の内部量子効率が算出される。
【0113】
【数8】
【0114】
同様に式(2)より、測定試料Sの外部量子効率は次の式(9)によって計算される。すなわち、蛍光量と照射量の比から、各画素の外部量子効率が算出される。
【0115】
【数9】
【0116】
これらを単一の励起波長について光量をR/G/Bの各チャネルの輝度値の合計と近似すると、k番目の波長での量子効率について次の近似式、式(10)及び式(11)が得られる。
【0117】
【数10】
【0118】
【数11】
【0119】
式(10)式の分母は入射量と吸収率の積すなわち吸収量を、分子が蛍光量をそれぞれ示しており、式(1)に一致していることがわかる。同様に式(11)は式(2)に一致していることがわかり、量子効率の算出が可能であることがわかる。
【0120】
図13は上記の過程を示す概念図である。ステップS2にて取得された標準白板Wにおける各画素のR/G/Bチャネルの輝度値の画像および蛍光スペクトル、ステップS3にて取得された測定試料Sにおける各画素のR/G/Bチャネルの輝度値の画像および蛍光スペクトルが入力1である。これにより、ステップS4で反射成分の係数Rと蛍光成分係数a’を算出し、反射光量分布Iと蛍光量分布Iを求める。さらに、照射量分布Lと反射光量分布Iの差で得られる吸収量分布Iを算出する。これらを入力2として、ステップS5で出力である内部量子効率分布および外部量子効率分布を算出することが可能となる。なお、第1実施形態と同様に量子効率は割合であり、吸収した光量(フォトン数)以上の光量の蛍光は生じないため、0~1の範囲の値となる。量子効率の分布の画像は、各画素が0~1の値となるため、分布をヒートマップなどのグラデーション図として描くと良い。
【0121】
図14及び図15は、第3実施形態の方法を示す。第1実施形態においては、撮影素子がR/G/Bチャネルで構成されたカメラモジュール21によって、量子効率の分布を求めた。本実施形態では、R/G/Bの3チャネルのカラーカメラではなく、撮影素子が複数のチャネルで構成されたマルチチャネルカメラ(分光カメラ)を利用する。図14は、図1のカメラモジュール21においてこのようなマルチチャネルカメラを用いた場合における算出の手順を示す。この場合、図15に示すように多数のチャネルを持ち、波長方向の分解能が高いデータを得ることが可能となる。R/G/Bの3チャネルでは、その検出波長が重複している波長域に蛍光が生じる場合、蛍光量の算出に誤差が生じる可能性が問題となるが、本実施形態の様に第1実施形態の方法においてマルチチャネルカメラを適用することにより、誤差を低減することができる。
【0122】
図16図18は、表示装置42が表示する、上述した実施形態において得られた測定結果の画像を示す。すなわち、表示装置42は上述した量子効率分布の取得方法により得られた量子効率分布を表示する量子効率分布の表示方法を実施する。
【0123】
これらの実施形態では、任意の波長範囲の任意の波長間隔で取得された画像および蛍光スペクトルを用いて、各励起波長における量子効率の分布画像が算出される。領域(i)-1:量子効率サムネイルは、この各励起波長における量子効率の分布画像を複数並べてサムネイル形式で表示した領域である。領域(ii):三次元蛍光スペクトルは蛍光波長をX軸に、励起波長をY軸に、蛍光強度をZ軸とした三次元データの蛍光スペクトルを等高線図やグラデーション等によるヒートマップで表示した領域である。領域(ii)において励起波長と蛍光波長に関わるトレースバーT1、T2を表示し、領域(i)-1で表示されているサムネイル画像を選択・強調表示すると、領域(ii)における三次元蛍光スペクトルのトレースバーT2が連動して移動するように設定するのが好ましい。その逆に、領域(ii)における三次元蛍光スペクトルのトレースバーT2を移動すると、領域(i)で表示されているサムネイル画像が選択・強調表示されるように設定するのが好ましい。
【0124】
領域(ii)で表示している三次元蛍光スペクトルは、X軸の蛍光波長を固定し、Y軸の励起波長を変数としたデータとして切り出すと、励起光スペクトルとなる。また、Y軸の励起波長を固定し、X軸の蛍光波長を変数としたデータとして切り出すと、蛍光スペクトルとなる。これらの切り出しを領域(ii)の三次元蛍光スペクトルで表示しているトレースバーT1、T2の波長位置で切り出し、領域(iii):励起・蛍光スペクトルに励起光スペクトルまたは蛍光スペクトルとして表示するように設定するのが好ましい。領域(iii)に表示される励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルは、三次元蛍光スペクトルのトレースバーT1、T2の移動に連動して表示されるように設定するのが好ましい。また、領域(iii)にも三次元蛍光スペクトルのトレースバーT1、T2に対応したトレースバーT3、T4を表示するように設定することが好ましい。
【0125】
量子効率の分布画像は各励起波長で算出されるため、領域(iii)の励起波長軸に合わせ、領域(i)-2:量子効率サムネイルとして、量子効率の分布画像を並べて表示しても良い。この場合、領域(iii)に励起光スペクトルおよび蛍光スペクトルの表示領域にX軸の波長位置に相当するトレースバーT3、T4を表示し、励起波長に相当するトレースバーを選択すると、領域(i)-2として、該当する励起波長の量子効率の分布画像が選択・強調されると良い。その逆で、領域(i)-2で表示されているサムネイル画像を選択・強調表示した際には、領域(iii)における三次元蛍光スペクトルの励起波長のトレースバーが該当の励起波長に連動して移動すると良い。
【0126】
図16においては、領域(i)-1において励起光波長460nmの量子効率の分布画像を選択しており、トレースバーT2はY軸において460nmに設定され、トレースバーT4もX軸において460nmに設定されている。また、領域(i)-1において励起光波長460nmの量子効率の分布画像を選択されている。
【0127】
ここで図16の画面において、操作者が初めに領域(i)-1において励起光波長500nmの量子効率の分布画像を、操作パネル41、マウス等を用いて選択する。すると、トレースバーT2、T4が500nmの位置に移動し、領域(i)-2においても励起光波長500nmの量子効率の分布画像が選択され、図17の画面に遷移する。また、操作者による図16からの初めの操作が、トレースバーT2またはT4の500nmへの移動、または領域(i)-2における励起光波長500nmの量子効率の分布画像の選択、であっても、図17の画面に遷移する。
【0128】
領域(iv):量子効率分布画像には、領域(i)-1および領域(i)-2で選択・強調された量子効率の分布画像を拡大表示する。領域(iv)には、XY座標に観察した試料の面における量子効率分布が表示される。更に表示装置42は、このXY座標のX軸の位置及びY軸の位置を指定する少なくとも二つのトレースバーT5、T6を表示する。このトレースバーT5、T6に沿った量子効率の値の変化をグラフ形式で領域(v)に表示する。トレースバーT5、T6に連動してX座標の切り出しとY座標の切り出しが表示され、それぞれを重ねて表示、または個々に表示できると良い。トレースバーT5、T6の移動に併せ、相当する座標位置の量子効率の分布が領域(v)に表示される。また、領域(iv)には区画を表示し、選択した区画の平均化した量子効率を一覧表として表示しても良い。本例では、A列~E列および1行~5行の5×5の区画を表示しA1~E5までの25区画の区画を選択、一覧表表示した例を示している。
【0129】
図16の画面において、操作者が領域(iv)において操作パネル41、マウス等を用いてトレースバーT5、T6を移動させると、図18の画面に遷移する。領域(v)の表示も、トレースバーT5、T6の移動に伴い変化している。
【0130】
図16図18に示すように、表示装置42は、任意の波長範囲の任意の波長間隔で取得された画像および蛍光スペクトルを用いて算出された各励起波長における量子効率の分布画像および三次元蛍光スペクトルを一元的に画面表示することができる。操作者は、試料の蛍光特性を励起波長、蛍光波長、量子効率の面内分布の観点から、網羅的に把握することが容易となる。
【0131】
図19は、内部量子効率分布と外部量子効率分布の画像の例を示す。内部量子効率および外部量子効率は、基本的には0~1の間の値をとることから、グレースケールやヒートマップで分布を示すと良い。例えば、グレースケールの場合、白:1、黒:0として、その間の値を段階的に明度変化させたグレースケールで表示する。分布画像の近傍に0~1の明度を示すスケールバーを表示しても良い。式1および式2より、分母の吸収フォトン数よりも照射フォトン数の方が大きいため、内部量子効率よりも外部量子効率の方が小さい値となる。従って、内部量子効率分布画像よりも外部量子効率分布画像の方が暗い色調となる。両者は同じ測定結果から計算可能であることから、それぞれ同時に計算され、例えば図16図18の(iv)および(v)の領域に切り替えて表示する。
【0132】
上述した量子効率分布の取得方法や表示方法は、所定のプログラムにより実行可能である。このようなプログラムは、コンピュータ31の内部や外部に設置された記憶装置から読み出される。当該プログラムは、コンピュータ31に上述した各ステップを実行させ、 分光蛍光光度計1がステップに従って起動し、量子効率分布を取得し、表示することができる。
【0133】
本発明によれば、測定対象の試料について、所定の面内における量子効率の分布を把握することができるため、より試料の性質を詳細に知ることができるようになる。
【0134】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明は、試料の詳細な特性、特に試料の面内における量子効率分布の如き詳細な蛍光特性を把握する必要がある分野に有用である。
【符号の説明】
【0136】
1 分光蛍光光度計
10 光度計部
11 光源
12 励起側分光器
13 ビームスプリッタ
14 モニタ検知器
15 蛍光側分光器
16 検出器
20 積分球
21 カメラモジュール(撮影装置)
22 白板
23 試料保持部(試料設置部)
30 データ処理部
31 コンピュータ
32 制御部
40 操作部
42 表示装置
図1
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図19