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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-06-26
(45)【発行日】2023-07-04
(54)【発明の名称】基材の加工方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 33/09 20060101AFI20230627BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20230627BHJP
【FI】
C03B33/09
B23K26/53
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2020029819
(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公開番号】P2021134103
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 章広
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 佑介
(72)【発明者】
【氏名】魏 超然
(72)【発明者】
【氏名】吉▲崎▼ れいな
(72)【発明者】
【氏名】杉田 直彦
(72)【発明者】
【氏名】長藤 圭介
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/156183(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034237(WO,A1)
【文献】特表2018-525309(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0076440(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 33/00-33/14
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の加工方法であって、
前記基材の表面に第1のレーザを照射し、
第2のレーザを前記表面に照射し、前記表面に沿って走査し、
前記第2のレーザの照射は、
(a)前記第1のレーザの照射前、
(b)前記第1のレーザの照射と同時、または
(c)前記第1のレーザの照射後
のいずれかのタイミングで開始され、
前記(a)の場合、前記第2のレーザの走査は、前記第1のレーザの照射完了後も継続され、
前記第1のレーザは、短パルスレーザであり、前記表面に、加工起点となる光吸収性の領域を形成し、
前記第2のレーザは、前記基材に対して透明な波長を有する連続波レーザであり、前記加工起点となる位置を含むように照射または走査され、前記第2のレーザの走査により、前記加工起点にある前記光吸収性の領域が前記第2のレーザの走査方向に移動される、加工方法。
【請求項2】
前記第2のレーザの照射は、前記第1のレーザの照射と同時、または前記第1のレーザの照射後のいずれかのタイミングで開始される、請求項1に記載の加工方法。
【請求項3】
前記第2のレーザは、前記第1のレーザの照射後、600ナノ秒(nsec)以内に照射される、請求項2に記載の加工方法。
【請求項4】
前記第1のレーザは、パルス幅が50ナノ秒(nsec)以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項5】
前記基材は、前記第1のレーザの波長に対して透過性である、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項6】
前記基材は、ガラスまたはサファイアを含む、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項7】
前記第2のレーザは、前記加工起点におけるパワー密度が1MW/cm以上である、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項8】
前記第2のレーザは、前記加工起点におけるパワー密度が前記基材のアブレーション閾値以下である、請求項7に記載の加工方法。
【請求項9】
前記第2のレーザにおける最大の走査速度は、10mm/sec~1000mm/secの範囲である、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項10】
当該加工方法により、前記基材から該基材の一部が分離される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項11】
当該加工方法により、前記基材にくりぬき部または凹部が形成される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項12】
前記基材は、前記表面に、開口および端部からなる群から選定される特徴部を有し、
前記第2のレーザは、前記表面の法線に対して傾斜した角度で照射され、
当該加工方法により、前記基材の前記特徴部の周囲の少なくとも一部が面取りされる、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項13】
前記基材は、第1の層および第2の層を含む積層体であり、
当該加工方法により、第1の層のみが加工される、請求項1乃至9のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項14】
前記基材は、相互に対向する第1の主面および第2の主面を有し、
前記第1のレーザおよび第2のレーザは、前記第1の主面の側から照射され、
前記基材の前記表面は、前記第1の主面である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項15】
前記基材は、相互に対向する第1の主面および第2の主面を有し、
前記第1のレーザおよび第2のレーザは、前記第1の主面の側から照射され、
前記基材の前記表面は、前記第2の主面である、請求項1乃至13のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項16】
前記第2のレーザは2本存在し、
一つは、前記第1の主面から照射、走査され、他方は、前記第2の主面から照射、走査される、請求項14または15に記載の加工方法。
【請求項17】
前記第1および第2のレーザの少なくとも一方は、ベッセルビームである、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の加工方法。
【請求項18】
前記第2のレーザは、走査方向に長軸を有する楕円ビームである、請求項1乃至16のいずれか一項に記載の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスおよびサファイアのような脆性材料を切断したり加工したりする加工方法として、これまでに各種プロセスが提案されている。
【0003】
中でも、レーザを用いる加工方法は、非接触で被加工対象を加工することができるなど、多くの利点を有するため、各種プロセスに適用されている。例えば、レーザを用いてガラスを溶断したり、ガラスに貫通孔を形成したりする方法が知られている。
【0004】
最近では、出力が大きく高額な超短パルスレーザ光源を使用する代わりに、より安価な2つの異なる超短パルスレーザを用いて被加工体を加工することにより、加工コストを抑制する方法が提案されている(特許文献1)。
【0005】
また、レーザ照射により加工対象物を切断する方法として、加工対象物の内部に切断予定ラインに沿った改質領域を形成し、その後外力を加えて加工対象物を分断するプロセスが提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2003-205383号公報
【文献】特開2019-130538号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の方法では、レーザアブレーションにより基材が加工される。そのため、この方法では、2つのレーザを用いるものの、加工スループットを十分に高めることは難しく、基材の加工に時間がかかるという問題がある。
【0008】
また、特許文献2の方法では、基材の内部に高い歪みを含む改質領域を形成する必要がある。そのため、特許文献2の方法では、レーザ加工中に改質領域の近傍にクラックが生じ易いという問題がある。また、改質領域に沿って基材を切断した際に、切断面に微細なクラックが含まれ、切断面が平滑にならない場合がある。
【0009】
このように、従来の方法では、迅速かつ高品質の加工面が得られるように、脆性材料を加工することは難しい。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みなされたものであり、本発明では、加工スループットが高く、より平滑な加工面が得られる基材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、基材の加工方法であって、
前記基材の表面に第1のレーザを照射し、
第2のレーザを前記表面に照射し、前記表面に沿って走査し、
前記第2のレーザの照射は、
(a)前記第1のレーザの照射前、
(b)前記第1のレーザの照射と同時、または
(c)前記第1のレーザの照射後
のいずれかのタイミングで開始され、
前記(a)の場合、前記第2のレーザの走査は、前記第1のレーザの照射完了後も継続され、
前記第1のレーザは、短パルスレーザであり、前記表面に、加工起点となる光吸収性の領域を形成し、
前記第2のレーザは、前記基材に対して透明な波長を有する連続波レーザであり、前記加工起点となる位置を含むように照射または走査され、前記第2のレーザの走査により、前記加工起点にある前記光吸収性の領域が前記第2のレーザの走査方向に移動される、加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、加工スループットが高く、より平滑な加工面が得られる基材の加工方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態による基材の加工方法のフローの一例を概略的に示した図である。
図2】基材の加工装置の構成の一例を模式的に示した図である。
図3】本発明の一実施形態による加工方法によって加工される基材の断面の経時的変化を模式的に示した図である。
図4】本発明の一実施形態による加工方法によって加工される基材の断面の経時的変化を模式的に示した図である。
図5】本発明の一実施形態による加工方法によって加工される基材の断面の経時的変化を模式的に示した図である。
図6】本発明の一実施形態による加工方法によって加工される基材の断面の経時的変化を模式的に示した図である。
図7】本発明の一実施形態による加工方法において、第1のレーザおよび第2のレーザを基材に照射するタイミングの一例を模式的に示した図である。
図8】本発明の一実施形態による別の加工方法のフローの一例を概略的に示した図である。
図9】本発明の一実施形態による別の加工方法において、第1のレーザおよび第2のレーザを基材に照射するタイミングの一例を模式的に示した図である。
図10】本発明の一実施形態による加工方法により、一部分がくり抜かれた基材を模式的に示した図である。
図11】本発明の一実施形態による加工方法により、端面が面取りされた基材を模式的に示した図である。
図12】本発明の一実施形態による加工方法により、一部の層が加工された積層体を模式的に示した図である。
図13】本発明の一実施形態による加工方法により製造された、基板の上面を模式的に示した図である。
図14図13におけるI-I線に沿った断面を模式的に示した図である。
図15】各実施例における第2のレーザの出力と、形成された溝の深さとの関係をまとめて示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0015】
本発明の一実施形態では、基材の加工方法であって、
前記基材の表面に第1のレーザを照射し、
第2のレーザを前記表面に照射し、前記表面に沿って走査し、
前記第2のレーザの照射は、
(a)前記第1のレーザの照射前、
(b)前記第1のレーザの照射と同時、または
(c)前記第1のレーザの照射後
のいずれかのタイミングで開始され、
前記(a)の場合、前記第2のレーザの走査は、前記第1のレーザの照射完了後も継続され、
前記第1のレーザは、短パルスレーザであり、前記表面に、加工起点となる光吸収性の領域を形成し、
前記第2のレーザは、前記基材に対して透明な波長を有する連続波レーザであり、前記加工起点となる位置を含むように照射または走査され、前記第2のレーザの走査により、前記加工起点にある前記光吸収性の領域が前記第2のレーザの走査方向に移動される、加工方法が提供される。
【0016】
本発明の一実施形態による加工方法では、基材の加工に第1のレーザおよび第2のレーザの2つのレーザが使用される。
【0017】
このうち、第1のレーザは、短パルスレーザであり、基材の表面に加工起点となる高温領域を提供する役割を有する。また、第2のレーザは、連続波レーザであり、加工領域を広げる役割を有する。
【0018】
より具体的には、第1のレーザにより照射された基材の表面の高温領域は、その高温のため、熱電子励起やバンドギャップ縮小により光の吸収率が上昇した状態となる。
【0019】
その状態で、高温領域に第2のレーザが照射されると、第2のレーザの強度が基材のアブレーション閾値以下であっても、第2のレーザの照射により、高温領域の材料を除去できる。従って、表面の高温領域が加工起点として働き、基材の深さ方向にわたって材料を除去することができる。
【0020】
また、第2のレーザは基材に対して透明な波長であるため、加工起点となる高温領域以外の照射箇所ではほとんど吸収されることがなく、加工予定の領域以外の周辺領域に余分な熱を与えない。このため、熱応力を最小限に抑制することができ、クラックを抑止することができる。
【0021】
さらに、第二のレーザは連続波であるため、高温領域を連続的に加熱し続けて高温を維持することができ、連続的に高温領域と加工領域を走査方向に広げることができる。ここでいう連続波のレーザとは、加工時間中は途切れることなくパワー密度が一定以上に維持されるレーザを示す。すなわち加工時間が例えば50μ秒であれば、50μ秒の期間、パワー密度が一定以上に維持される。加工時間が例えば100秒であれば、100秒の期間、パワー密度が一定以上に維持される。
【0022】
また、本発明の一実施形態による加工方法では、第2のレーザは、基材の表面にわたって走査される。この第2のレーザの走査に伴い、加工起点にあった高温領域も、走査方向に沿って移動する。その結果、表面の材料が走査方向に沿って順次除去される。
【0023】
このように、本発明の一実施形態による加工方法では、基材の表面の加工起点から、第2のレーザの走査方向に沿って、基材の表面およびその直下の部分を連続的に加工することができる。特に、本発明の一実施形態による加工方法では、第2のレーザの走査速度を所望の範囲に調整することにより、基材を所望の速度で加工することができる。
【0024】
このような本発明の一実施形態による加工方法では、従来のレーザによるアブレーション方法に比べて、より迅速に基材を加工することができる。
【0025】
また、本発明の一実施形態による加工方法では、加工起点は、基材の内部ではなく、表面に形成される。このため、加工中に基材から除去される除去物は、表面から順次基板の外部に除去されていき、基材の内部で圧力が上昇することはない。従って、基材の加工中または加工後にクラックが発生するという問題を有意に抑制することができる。また、その結果、本発明の一実施形態による加工方法では、処理後の加工面に存在し得るクラックを有意に抑制することができ、平滑な加工面を得ることができる。
【0026】
なお、加工起点が基材の内部に形成された場合、基材から除去されるべき除去物を外部に排出する経路が存在しないため、除去物が内部にとどまったまま加熱され続けることで圧力が上昇し、大きなクラックが生じてしまう。
【0027】
以上の効果により、本発明の一実施形態による加工方法では、基材に対する加工スループットが高く、平滑な加工面を有する基材を提供することができる。
【0028】
(本発明の一実施形態による加工方法)
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態による基材の加工方法について、より詳しく説明する。
【0029】
図1に示すように、第1の加工方法は、
(i)基材の第1の表面に、第1のレーザを照射するステップ(ステップS110)と、
(ii)前記(i)のステップの後に実施される、基材の第1の表面に第2のレーザを照射し、第2のレーザを前記第1の表面に沿って走査するステップ(ステップS120)と、
を有する。
【0030】
図2に示すように、この加工装置100は、第1のレーザ光源110と、第2のレーザ光源120と、ダイクロイックミラー130と、レンズ140と、移動部材150とを有する。
【0031】
第1のレーザ光源110は、第1のレーザ112をダイクロイックミラー130に向かって出射することができる。
【0032】
第1のレーザ112は、短パルスレーザである。第1のレーザ112のパルス幅は、例えば、50ナノ秒(nsec)以下である。第1のレーザ112のパルス幅は、1nsec以下であることが好ましく、20ピコ秒(psec)以下であることがより好ましい。
【0033】
第1のレーザ112の波長には特に制限はなく、波長は、例えば、1064nm、1030nm、780nm、532nm、515nm、390nm、355nm、343nm、266nm、または257nm等であってもよい。
【0034】
また、第1のレーザ112におけるパルスエネルギーは、高温の照射領域170を形成するため、例えば、1μJ/ショット以上とされる。第1のレーザ112におけるパルスエネルギーは、10μJ/ショット以上であることが好ましく、100μJ/ショット以上であることがより好ましい。
【0035】
第1のレーザ112は、基材160の一方の表面(例えば第1の表面162)に、例えば、1μm~50μmの範囲のスポットを形成するように照射される。
【0036】
第2のレーザ光源120は、第2のレーザ122をダイクロイックミラー130に向かって出射することができる。
【0037】
第2のレーザ122は、連続波レーザである。第2のレーザ122は、被加工対象となる基材160に対して透明な波長を有する。波長は、例えば、400nm~3000nmの範囲である。また、第2のレーザ122の基材160の位置におけるパワー密度は、例えば、1MW/cm~1000MW/cmの範囲である。第2のレーザ122のパワー密度は、基材160のアブレーション閾値以下であってもよい。ここでいう透明な波長とは、被加工対象の吸収係数が10/cm以下となる波長を示す。
【0038】
また、第2のレーザ122は、基材160の第1の表面162に、第1のレーザ112よりも大きなスポットを形成するように照射される。例えば、第2のレーザ122のスポットは、第1の表面162において、1μm~1000μmの範囲の寸法を有してもよい。
【0039】
ダイクロイックミラー130は、第1のレーザ112を透過し、第2のレーザ122を反射する機能を有する。ダイクロイックミラー130については、上記例以外にも第1のレーザ112を反射し、第2のレーザ122を透過する機能を有する物品を使用してもよく、この場合、第1のレーザと第2のレーザの配置が入れ替えられる。
【0040】
移動部材150は、基材160を保持する機能を有する。また、移動部材150は、水平方向、例えば図2における矢印F1の方向に移動することができる。従って、移動部材150の移動により、基材160を矢印F1の方向に移動させることができる。照射部を移動させる手段として、他には例えばガルバノミラーや電気光学素子などの光学的な移動手段を用いても良い。
【0041】
以下、図2の加工装置100を参照しながら、第1の加工方法の各工程について説明する。
【0042】
(ステップS110)
まず、被加工対象となる基材160が準備される。基材160の材料は、第2のレーザ122の波長に対して透明である限り、特に限られない。
【0043】
基材160は、例えば、ガラスまたはサファイアであってもよい。また、基材160は、シリコン、SiC、またはGaNのような化合物半導体であってもよい。また、基材160は、ポリイミド、ポリカーボネート、フッ素樹脂、ポリエチレン、アクリル、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、または塩化ビニル樹脂のような樹脂で構成されてもよい。あるいは、基材160は、その他の脆性材料であってもよい。
【0044】
基材160は、第1のレーザ112の波長に対して透明であってもよい。
【0045】
また、基材160の寸法および形状は、特に限られない。基材160の厚さは、例えば、100μm以上であってもよい。
【0046】
基材160は、相互に対向する第1の表面162および第2の表面164を有する。
【0047】
次に、基材160が移動部材150上に設置される。基材160は、第2の表面164が移動部材150の側となるようにして、移動部材150上に設置される。
【0048】
次に、第1のレーザ光源110から、ダイクロイックミラー130に向かって、第1のレーザ112が照射される。第1のレーザ112は、ダイクロイックミラー130およびレンズ140を透過し、基材160の第1の表面162に照射される。
【0049】
第1のレーザ112の照射により、基材160の第1の表面162の照射領域170が高温となり、ここに光吸収性の領域が形成される。
【0050】
なお、第1のレーザ光源110は、短パルスの第1のレーザ112を1ショットだけ出射することが好ましい。
【0051】
(ステップS120)
次に、第2のレーザ光源120から、ダイクロイックミラー130に向かって、第2のレーザ122が照射される。第2のレーザ122は、ダイクロイックミラー130で反射され、レンズ140を透過する。その後、第2のレーザ122は、基材160の第1の表面162に照射される。
【0052】
第2のレーザ122は、第1のレーザ112による照射領域170を含むように出射されることが好ましい。ただし、これは必須ではない。後述するように、第2のレーザ122は、その走査中に、照射領域170を含むように操作されてもよい。
【0053】
第2のレーザ122の照射と同時に、またはその直後に、移動部材150が水平方向に沿って、矢印F1の方向に移動する。
【0054】
これにより、基材160も矢印F1の方向に移動され、その結果、第2のレーザ122が基材160の第1の表面162にわたって、矢印F1とは反対の方向に走査される。
【0055】
第2のレーザ122の走査方向は、基材160の第1の表面162に対して平行な方向である限り、特に限られない。
【0056】
第2のレーザ122は、例えば、基材160の第1の表面162に、1または2以上の直線軌跡を描くように走査されてもよい。あるいは、基材160の第1の表面162に、1または2以上の曲線軌跡を描くように走査されてもよい。また、第1の表面162上の第2のレーザ122の軌跡は、直線部分と曲線部分を有してもよい。
【0057】
また、移動部材150および基材160の移動速度、すなわち第2のレーザ122の走査速度は、特に限られない。第2のレーザ122の走査速度は、例えば、最大値が10mm/sec~1000mm/secの範囲である。第2のレーザ122の走査速度は、最大値が1mm/sec~10000mm/secの範囲であってもよい。
【0058】
なお、図2に示した例では、移動部材150の水平方向の移動を介して、固定された第2のレーザ122に対して基材160が移動される。しかしながら、これとは逆に、第2のレーザ122が、固定された基材160に対して水平方向に移動されてもよい。あるいは、基材160および第2のレーザ122の両方が、相互に対して反対方向に移動してもよい。
【0059】
前述の第1のレーザ112の照射により生じた照射領域170に第2のレーザ122が照射されると、第2のレーザ122の強度が基材のアブレーション閾値以下であっても、第2のレーザ122の照射により、照射領域170の材料が深さ方向に沿って除去される。これは、照射領域170は、第1のレーザ112の照射により既に高温状態にあり、光の吸収率が上昇しているためである。
【0060】
また、第2のレーザ122は、基材160の第1の表面162にわたって走査される。この第2のレーザ122の走査により、第1の表面162上の高温の領域も、照射領域170から、走査方向に沿って移動する。その結果、第1の表面162およびその直下の材料が、走査方向に沿って順次除去される。
【0061】
その結果、第1の加工方法では、照射領域170を加工起点として、第2のレーザ122が走査された軌跡に沿って、基材160の第1の表面162およびその直下の部分を連続的に加工することができる。
【0062】
まず、図3に示すように、基材160の第1の表面162に第1のレーザ112が照射される。これにより、第1の表面162に照射領域170が形成される。
【0063】
なお、第1のレーザ112により生じる光吸収性の照射領域170は、必ずしも第1の表面162に留まる必要はない。例えば、照射領域170は、第1の表面162から基材160の深さ方向にわたって延在してもよい。すなわち、照射領域170は、二次元的である必要はなく、三次元的な形態であってもよい。
【0064】
次に、図4に示すように、基材160の照射領域170を含むように、第2のレーザ122が照射される。これにより、照射領域170の温度が上昇し、基材160を構成する材料が除去される。すなわち、照射領域170を加工起点として、第1の表面162から、深さ方向に向かって基材160が加工される。
【0065】
また、第2のレーザ122は、第1の表面162にわたって走査される。この走査に伴い、図5に示すように、基材160の加工先端172は、第2のレーザ122の走査方向F2に沿って移動する。
【0066】
さらに第2のレーザ122の走査方向F2に沿った走査を継続すると、これに伴い、図6に示すように、加工先端172が進展し、広い範囲にわたって基材160を加工することができる。その結果、最終的に、例えば図6に示したような貫通部175を形成することができる。
【0067】
基材160の加工速度は、第2のレーザ122の走査速度によって定められる。このため、第1の加工方法では、第2のレーザ122の走査速度を所望の範囲に調整することにより、比較的に迅速に基材160を加工することができる。従って、第1の加工方法では、基材160の加工スループットを有意に高めることができる。
【0068】
さらに、第1の加工方法では、照射領域170、すなわち加工起点は、第1の表面162に形成される。このため、加工中に基材160に生じ得る歪みは、第1の表面162から容易に開放される。従って、第1の加工方法では、従来のように、基材160の加工中または加工後に、基材160の加工面にクラックが発生するという問題を有意に抑制することができる。
【0069】
また、その結果、第1の加工方法では、基材160の加工後の加工面に発生し得るクラックを有意に抑制することができ、平滑な加工面を得ることができる。
【0070】
図7には、第1のレーザ112の照射波形11および第2のレーザ122の照射波形13が示されている。横軸は時間(任意単位)であり、縦軸はレーザ強度(任意単位)である。
【0071】
第1のレーザ112の照射波形11において、第1のレーザ112の照射タイミング(レーザ強度が最大ピークとなる時間)は、時間tで表される。一方、第2のレーザ122の照射波形13において、時間tは、第1のレーザ112によって生じる照射領域170に、第2のレーザ122が照射されるタイミングとして表されている。
【0072】
図7に示すように、第2のレーザ122の照射領域170への照射は、第1のレーザ112の照射の後に開始される。すなわち、両方のレーザのタイミング差T=t-t>0となる。
【0073】
ただし、タイミング差T≦600nsecであることが好ましい。すなわち、第2のレーザ122の照射領域170への照射は、少なくとも第1のレーザ112の照射の後、600nsec以内に開始されることが好ましい。
【0074】
この場合、照射領域170に生じた高温の領域が消滅する前に、照射領域170に第2のレーザ122を照射することができる。従って、短パルスの第1のレーザ112を1回照射するだけで、第2のレーザ122の走査により、基材160から該基材160を構成する材料が除去される現象を継続することができる。
【0075】
なお、第2のレーザ122の形状は、特に限られない。第2のレーザ122は、例えば、ベッセルビームであってもよい。この場合、基材160の奥深くまで、レーザを集光させることができ、より均一に材料を除去することが可能となる。なお、これに加えて、またはこれとは別に、第1のレーザがベッセルビームであってもよい。この場合、焦点深度が向上するため基材160の表面により確実に加工起点を形成することができる。
【0076】
あるいは、第2のレーザ122は、楕円ビームであってもよい。楕円ビームの長軸が走査方向と平行となるようにして第2のレーザ122を走査することにより、基材160の加工速度をさらに高めることができる。
【0077】
(本発明の一実施形態による別の加工方法)
次に、図8を参照して、本発明の一実施形態による別の加工方法(以下、「第2の加工方法」と称する)について説明する。
【0078】
図8に示すように、第2の加工方法は、
(i)基材の第1の表面に第2のレーザを照射し、第2のレーザを前記第1の表面に沿って走査するステップ(ステップS210)と、
(ii)第2のレーザの走査中または走査と同時に実施される、基材の第1の表面に、第1のレーザを照射するステップ(ステップS220)と、
を有する。
【0079】
第2の加工方法では、第1の加工方法とは異なり、第1のレーザ112の照射は、第2のレーザ122の照射後、または第2のレーザ122の照射と同時に実施される。
【0080】
図9には、第1のレーザ112の照射波形21および第2のレーザ122の照射波形23が示されている。横軸は時間(任意単位)であり、縦軸はレーザ強度(任意単位)である。
【0081】
第1のレーザ112の照射波形21において、第1のレーザ112の照射タイミング(レーザ強度が最大ピークとなる時間)は、時間tで表される。一方、第2のレーザ122の照射波形23において、時間tは、後の第1のレーザ112によって生じる照射領域170に相当する領域に、第2のレーザ122が照射されるタイミングとして表されている。
【0082】
図9に示すように、第1のレーザ112の照射は、第2のレーザ122の走査中に実施される。または、第1のレーザ112の照射は、第2のレーザ122の照射と同時に開始されてもよい。
【0083】
従って、第2の加工方法では、第1のレーザ112の照射タイミング(レーザ強度が最大ピークとなる時間)をtとし、第2のレーザ122の照射タイミングをtとしたとき、タイミング差T=t-t≦0となる。特に、タイミング差T=0であることが好ましい。
【0084】
このような順番で第1のレーザ112および第2のレーザ122を照射した場合でも、第1の加工方法と同様の効果を得ることができることは、当業者には容易に理解できる。
【0085】
以上の記載から明らかなように、本発明の一実施形態では、第2のレーザ122によって照射または走査される領域が、第1のレーザ112によって生じる照射領域170を含む限り、第1のレーザ112と第2のレーザ122の照射の順番は、あまり重要ではない。第1のレーザ112の照射ステップと、第2のレーザ122の照射および走査ステップは、いずれの順番で実施されてもよい。
【0086】
また、第1の加工方法および第2の加工方法では、照射領域170、すなわち加工起点は、基材160の第1の表面162上に形成される。しかしながら、これは単なる一例であって、本発明の一実施形態において、第1のレーザ112による照射領域は、基材160の第2の表面164に形成されてもよい。
【0087】
この場合、図2に示した加工装置100において、第1のレーザ112および第2のレーザ122は、レンズ140等により、基材160の裏面、すなわち第2の表面164に焦点化される。
【0088】
なお、図2のように、基材160の第2の表面164が移動部材150と接触すると、第2の表面164から、基材160を構成する材料を除去することが阻害される場合が生じ得る。その場合、基材160の第2の表面164が移動部材150と接触しない構成としたり、移動部材150を省略した構成とすればよい。後者の場合、第2の表面164を覆わないようにして基材160を固定させておき、第2のレーザ光源120および光学系を移動させてもよい。
【0089】
以上、第1の加工方法および第2の加工方法を例に、本発明の一実施形態について説明した。しかしながら、これらの加工方法は、単なる一例であって、本発明による加工方法は、別の形態を有してもよい。
【0090】
例えば、上記例では、一つの第2のレーザ光源120から、一つの第2のレーザ122が照射される。しかしながら、加工装置100において、第2のレーザ光源120は、2つ存在しても良い。この場合、第2のレーザ光源120の一方を、基材160の第1の表面162の側に設置し、第2のレーザ光源120の他方を、基材160の第2の表面164の側に設置しても良い。
【0091】
このような構成では、第2のレーザ122を、基材160の両側から照射および走査できる。従って、より迅速に基材160を加工することができる。
【0092】
当業者には、この他にも各種変更が可能である。
【0093】
(本発明の一実施形態による加工方法の適用例)
次に、本発明の一実施形態による加工方法の適用例について説明する。
【0094】
本発明の一実施形態による加工方法は、例えば、基材に凹部または貫通部を形成する際に利用することができる。
【0095】
また、本発明の一実施形態による加工方法は、基材から1または2以上のピース部分を分離する際に利用することができる。さらに、本発明の一実施形態による加工方法は、基材に設けられた特徴部における面取りに適用できる。
【0096】
図10には、中央からピース部分がくり抜かれた基材160Aの斜視図を模式的に示す。くり抜かれたピース部分には、くり抜き部166が形成される。
【0097】
本発明の一実施形態による加工方法では、第2のレーザ122を、第1の表面162または第2の表面164にわたって閉じた軌跡を描くように、走査させることにより、図10に示すような、複雑なくり抜き部166を有する基材160Aを製造できる。
【0098】
なお、同じプロセスにおいて、加工領域を第1の表面から第2の表面まで貫通させないようにした場合、複雑な形状の凹部を形成することもできる。
【0099】
図11には、端面が面取りされた基材160Bの斜視図を模式的に示す。
【0100】
本発明の一実施形態による加工方法では、基材160の第1の表面162の法線に対して傾斜した角度で第2のレーザ122を基材160の端面に照射し、これを端面に沿って走査することにより、基材160の端面の少なくとも一部を面取りすることができる。
【0101】
なお、基材160において、面取りされる領域は、必ずしも端面に限られない。例えば、前述の図10に示すような基材160Aにおいて、くり抜き部166の両面側または片面側の開口部分を面取りすることも可能である。
【0102】
すなわち、面取りされる部分は、基材160の開口および/または端面など、いかなる特徴部であってもよい。
【0103】
図12には、基材160Cの斜視図を模式的に示す。
【0104】
基材160Cは、第1の層168aおよび第2の層168bの2層で構成された積層体である。基材160Cは、第1の層168aの寸法および形状が第2の層168bとは異なっている。
【0105】
本発明の一実施形態による加工方法では、第1のレーザ112および第2のレーザ122のパワー密度を適正に調整することにより、積層体の一部にのみ加工を施すことができる。例えば、第1の層168aのみを加工した場合、図12に示すような複雑な形状の積層体を製造することができる。
【0106】
本発明の一実施形態による加工方法では、図6に示すような基材160に貫通加工を施す際に、第2のレーザ122の強度を調節することにより、基材160の第1の表面162および第2の表面164から基材160の外部に排出されるべき除去物の一部を、表面張力により意図的に残留させてもよい。この場合、貫通部175に蓋がされ、貫通部175を上下が密封された閉空間とすることができる。
【0107】
このように、本発明の一実施形態による加工方法を適用した場合、脆性基材に対しても、各種精密な加工を施すことができる。
【0108】
(本発明の一実施形態による基板)
次に、図13および図14を参照して、本発明の一実施形態による基板について説明する。
【0109】
図13に示すように、本発明の一実施形態による基板(以下、単に「基板」と称する)260は、相互に対向する第1の表面262および第2の表面264を有し、略板状の形状を有する。
【0110】
なお、図13に示した例では、基板260の第1の表面262および第2の表面264は、いずれも略矩形状である。しかしながら、これは単なる一例であって、第1の表面262および第2の表面264の形状は、特に限られない。
【0111】
基板260は、例えば、ガラスまたはサファイアで構成されてもよい。基板260の厚さは、例えば、100μm以上であってもよい。
【0112】
基板260は、第1の表面262から深さ方向(図14におけるZ方向)に沿って延伸する凹部265を有する。凹部265は、第1の表面262に開口267を有する。
【0113】
図13に示すように、開口267は、X方向に延伸する長さおよびY方向に延伸する幅を有する。また、図14に示すように、凹部265は、Z方向に延伸する深さを有する。
【0114】
ここで、基板260において、開口267の長さをL(mm)とし、開口の幅をW(mm)とし、凹部265の深さをD(mm)とすると、開口267の長さLは、100μm以上であり、開口の幅Wは25μm以下である。また、アスペクト比D/Wは3.0以上である。アスペクト比D/Wは、4.0以上であることが好ましい。
【0115】
また、基板260は、凹部265を形成する内壁がレーザによる溶融痕を有する。
【0116】
レーザによる溶融痕は、例えば、光学顕微鏡により確認することができる。すなわち、顕微鏡像において、溶融した基材が流動除去されるときに形成されるうねり模様が認められる場合、その内壁は、レーザによる溶融痕があると認定できる。
【0117】
従来の方法では、脆性材料に対してこのような高アスペクト比の形状の加工を行うことは容易ではない。
【0118】
しかしながら、本願では、前述のような特徴を有する本発明の一実施形態による加工方法を採用することにより、図13および図14に示すような基板260を、比較的容易に製造できる。
【0119】
例えば、本発明の一実施形態による加工方法において、第1のレーザ112の照射により、図13におけるA点に加工起点を形成し、第2のレーザ122をA点からX方向に沿って走査することにより、凹部265を形成することができる。
【0120】
なお、第1のレーザ112および第2のレーザ122の条件を適切に変更することにより、凹部265の代わりに、第1の表面262に開口267を有し、第1の表面262から第2の表面264まで貫通する貫通部を形成することも可能である。
【0121】
また、第2のレーザの走査軌跡を、単純な直線ではなく、曲線または直線と曲線の組み合わせとした場合、より複雑な凹部または貫通部形状を有する基板が提供できる。
【実施例
【0122】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0123】
(例1)
ガラス基板に第1のレーザと第2のレーザを同時に照射した後、第2のレーザを走査することにより、ガラス基板に図13および図14に示したような溝を形成した。
【0124】
ガラス基板には、厚さが300μmの無アルカリガラスを使用した。
【0125】
第1のレーザは、波長780nmの短パルスレーザとした。パルス幅は220フェムト秒(fsec)であり、パルスエネルギーは、200μJ/ショットとした。第1のレーザは、第1の表面が上向きに載置されたガラス基板の上から、ガラス基板の第1の表面に垂直に照射した。ガラス基板上のスポット径は、8.4μmであった。
【0126】
なお、第1のレーザの照射回数は、1回である。
【0127】
第2のレーザは、波長1070nmの連続波レーザとした。第2のレーザの平均パワーは40Wである。第2のレーザは、ガラス基板の第1の表面に垂直に照射した。ガラス基板上のスポット径は、13.2μmであった。また、ガラス基板の第1の表面でのパワー密度は29.2MW/cmである。
【0128】
第2のレーザは、一方向に直線的に走査した。走査速度は200mm/秒とした。
【0129】
加工後に、ガラス基板の第1の表面に、狭小の溝が形成された。
【0130】
(例2~例31)
例1と同様の方法により、ガラス基板に溝を形成した。
【0131】
ただし、例2~例31では、第1のレーザの照射条件、ならびに第2のレーザの照射および走査条件の一つ以上を、例1の場合とは変化させた。
【0132】
加工後に、ガラス基板の第1の表面に、狭小の溝が形成された。
【0133】
(例32)
ガラス基板に第1のレーザと第2のレーザを同時に照射した後、第2のレーザを走査することにより、ガラス基板の切断を試みた。
【0134】
ガラス基板には、厚さが100μmの無アルカリガラスを使用した。
【0135】
第1のレーザは、波長514nmの短パルスレーザとした。パルス幅は170フェムト秒(fsec)であり、パルスエネルギーは、50μJ/ショットとした。第1のレーザは、第1の表面が上向きに載置されたガラス基板の上から、ガラス基板の第1の表面に垂直に照射した。ガラス基板上のスポット径は、7.9μmであった。
【0136】
なお、第1のレーザの照射回数は、1回である。
【0137】
第2のレーザは、波長1070nmの連続波レーザとした。第2のレーザの平均パワーは80Wである。第2のレーザは、ガラス基板の第1の表面に垂直に照射した。ガラス基板上のスポット径は、13.2μmであった。また、ガラス基板の第1の表面でのパワー密度は58.5MW/cmである。
【0138】
第2のレーザは、一方向に直線的に走査した。走査速度は50mm/秒とした。
【0139】
第2のレーザの走査後に、ガラス基板が分断された。目視観察の結果、切断面にクラックは認められなかった。
【0140】
以下の表1には、各例において使用した第1のレーザの条件をまとめて示す。また、表2には、各例において使用した第2のレーザの条件をまとめて示す。さらに、表3には、例1~例31において形成された溝の幅、深さ、およびアスペクト比をまとめて示す。
【0141】
【表1】
【0142】
【表2】
【0143】
【表3】
表3から、例1~例31において、ガラス基板に狭小の溝が形成されていることがわかった。
【0144】
図15において、横軸は、第2のレーザの出力であり、縦軸は、溝の深さである。なお、図15には、第2のレーザのそれぞれの走査速度における結果がプロットされている。
【0145】
図15から、第2のレーザの出力が増加すると、溝の深さが大きくなることがわかった。また、同じレーザ出力でも、第2のレーザの走査速度が増加すると、溝の深さが小さくなることがわかった。
【符号の説明】
【0146】
11 第1のレーザの照射波形
13 第2のレーザの照射波形
21 第1のレーザの照射波形
23 第2のレーザの照射波形
100 加工装置
110 第1のレーザ光源
112 第1のレーザ
120 第2のレーザ光源
122 第2のレーザ
130 ダイクロイックミラー
140 レンズ
150 移動部材
160 基材
160A~160C 基材
162 第1の表面
164 第2の表面
166 くり抜き部
168a 第1の層
168b 第2の層
170 照射領域
172 加工先端
175 貫通部
260 基板
262 第1の表面
264 第2の表面
265 凹部
267 開口
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15