(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-03
(45)【発行日】2023-07-11
(54)【発明の名称】コアシェル型半導体ナノ粒子、その製造方法および発光デバイス
(51)【国際特許分類】
C09K 11/08 20060101AFI20230704BHJP
B82Y 20/00 20110101ALI20230704BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230704BHJP
C01G 15/00 20060101ALI20230704BHJP
C09K 11/62 20060101ALI20230704BHJP
C09K 11/64 20060101ALI20230704BHJP
C09K 11/88 20060101ALI20230704BHJP
H01L 33/50 20100101ALI20230704BHJP
【FI】
C09K11/08 G ZNM
B82Y20/00
B82Y40/00
C01G15/00 B
C09K11/08 A
C09K11/62
C09K11/64
C09K11/88
H01L33/50
(21)【出願番号】P 2020500587
(86)(22)【出願日】2019-02-15
(86)【国際出願番号】 JP2019005610
(87)【国際公開番号】W WO2019160093
(87)【国際公開日】2019-08-22
【審査請求日】2022-01-24
(31)【優先権主張番号】P 2018025409
(32)【優先日】2018-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100131808
【氏名又は名称】柳橋 泰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145104
【氏名又は名称】膝舘 祥治
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
(72)【発明者】
【氏名】輪島 知卓
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】小谷松 大祐
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-196631(JP,A)
【文献】特開2014-169421(JP,A)
【文献】特表2007-513478(JP,A)
【文献】特表2013-539798(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0267924(US,A1)
【文献】特開2018-141141(JP,A)
【文献】上松 太郎 ほか,III-VI半導体シェルによるAgInS2量子ドットコロイドからのバンド端蛍光,第78回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2017年,8p-A414-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00- 11/89
H01L 33/00;
33/48- 33/64
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コア表面に配置されるシェルと、を備え、光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子であって、
前記コアが、M
1、M
2およびZを含む半導体を含み、M
1が、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、M
2が、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、Zが、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記シェルが、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含み、
前記シェル表面に第15族元素を含む化合物が配置され、
前記第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するPを含
み、
前記第15族元素を含む化合物は、トリアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアリールホスフィンおよびトリアリールホスフィンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含むコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項2】
前記シェルが、前記第13族元素としてGaを含む請求項1に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項3】
前記シェルが、前記第16族元素としてSを含む請求項1または2に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項4】
前記コアが、M
1としてAgを含み、M
2としてInおよびGaの少なくともいずれか一方を含み、ZとしてSを含む請求項1から3のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項5】
発光スペクトルの半値幅が70nm以下であるピークを有する、請求項1から4のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項6】
発光寿命が200ns以下である、請求項1から5のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項7】
励起スペクトルまたは吸収スペクトルがエキシトンピークを示す、請求項1から6のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項8】
発光スペクトル全体におけるバンド端発光成分の純度が40%以上である、請求項1から7のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項9】
バンド端発光成分の純度が40%以上で、かつ量子収率が10%以上である、請求項1から8のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子。
【請求項10】
コアと、前記コア表面に配置されるシェルとを備えるコアシェル粒子を準備することと、前記コアシェル粒子と第15族元素を含む化合物とを接触させることとを含み、
前記コアが、M
1、M
2およびZを含む半導体を含み、M
1が、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、M
2が、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、Zが、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、
前記シェルが、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含み、
前記第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するPを含
み、
前記第15族元素を含む化合物は、トリアルキルホスフィン、トリアルキルホスフィンオキシド、トリアリールホスフィンおよびトリアリールホスフィンオキシドからなる群から選択される少なくとも1種を含む、
光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法。
【請求項11】
光変換部材および半導体発光素子を備える発光デバイスであって、前記光変換部材が請求項1から9のいずれか1項に記載のコアシェル型半導体ナノ粒子を含む発光デバイス。
【請求項12】
前記半導体発光素子は、LEDチップである、請求項11に記載の発光デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コアシェル型半導体ナノ粒子、その製造方法および発光デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体粒子はその粒径が例えば10nm以下になると、量子サイズ効果を発現することが知られており、そのようなナノ粒子は量子ドット(半導体量子ドットとも呼ばれる)と呼ばれる。量子サイズ効果とは、バルク粒子では連続とみなされる価電子帯と伝導帯のそれぞれのバンドが、ナノ粒子では離散的となり、粒径に応じてバンドギャップエネルギーが変化する現象を指す。
【0003】
量子ドットは、光を吸収して、そのバンドギャップエネルギーに対応する光に波長変換可能であるため、量子ドットの発光を利用した白色発光デバイスが提案されている(例えば、特開2012-212862号公報および特開2010-177656号公報参照)。具体的には、発光ダイオード(LED)チップから発せされる光の一部を量子ドットに吸収させて、量子ドットからの発光とLEDチップからの発光との混合色として白色光を得ることが提案されている。これらの特許文献では、CdSeおよびCdTe等の第12族-第16族、PbSおよびPbSe等の第14族-第16族の二元系の量子ドットを使用することが提案されている。またCdやPbを含む化合物の毒性を考慮して、これらの元素を含まないコアシェル構造型半導体量子ドットを使用した波長変換フィルムが提案されている(例えば、国際公開第2014/129067号参照)。さらにAgInS2-ZnSナノ結晶のフォトルミネッセンス内部量子効率を増加させるプロセスが提案されている(例えば、特開2016/196631号公報参照)。特開2016/196631号公報に記載のプロセスは、欠陥発光における内部量子収率の増加を示すものであって、バンド端発光における量子収率の増加を示すものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の一態様は、バンド端発光を示し、量子収率に優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第一態様は、コアと、前記コアの表面に配置されるシェルと、を備え、光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子であって、前記コアが、M1、M2およびZを含む半導体を含み、M1が、銀(Ag)、銅(Cu)および金(Au)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含み、M2が、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)およびタリウム(Tl)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含み、Zが、硫黄(S)、セレン(Se)およびテルル(Te)からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素である半導体を含み、前記シェルが、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含み、前記シェル表面に第15族元素を含む化合物が配置され、前記第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するリン(P)を含むコアシェル型半導体ナノ粒子である。
【0006】
第二態様は、前記コアシェル型半導体ナノ粒子を含む光変換部材と半導体発光素子とを備える発光デバイスである。
【0007】
第三態様は、コアと、前記コア表面に配置されるシェルとを備えるコアシェル粒子を準備することと、前記コアシェル粒子と第15族元素を含む化合物とを接触させることとを含む、光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法である。前記コアは、M1、M2およびZを含む半導体を含む。M1は、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、M2は、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、Zは、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。前記シェルは、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含む。前記第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するPを含む。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様によれば、バンド端発光を示し、量子収率に優れるコアシェル型半導体ナノ粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1で作製した半導体ナノ粒子(コア)とコアシェル型半導体ナノ粒子(コアシェル)のXRDパターンである。
【
図2】実施例1で作製した半導体ナノ粒子(コア)とコアシェル型半導体ナノ粒子(コアシェル)とTOP修飾コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルである。
【
図3】実施例1で作製した半導体ナノ粒子(コア)とコアシェル型半導体ナノ粒子(コアシェル)とTOP修飾コアシェル型半導体ナノ粒子の発光スペクトルである。
【
図4】比較例1で作製した半導体ナノ粒子(コア)とTOP修飾コア半導体ナノ粒子の発光スペクトルである。
【
図5】実施例2で作製した半導体ナノ粒子(コア)とコアシェル型半導体ナノ粒子(コアシェル)とTOP修飾コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルである。
【
図6】実施例2で作製した半導体ナノ粒子(コア)とコアシェル型半導体ナノ粒子(コアシェル)とTOP修飾コアシェル型半導体ナノ粒子の発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本明細書において「工程」との語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。また組成物中の各成分の含有量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。以下、実施形態を詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するためのコアシェル型半導体ナノ粒子、その製造方法および発光デバイスを例示するものであって、本発明は、以下に示すコアシェル型半導体ナノ粒子、その製造方法および発光デバイスに限定されない。
【0011】
コアシェル型半導体ナノ粒子
第一態様であるコアシェル型半導体ナノ粒子は、コアと、前記コア表面に配置されるシェルと、を備え、光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子である。前記コアは、M1、M2およびZを含む半導体を含む。半導体におけるM1は、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、M2は、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、Zは、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。前記シェルは、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含む。そして前記シェル表面には、第15族元素を含む化合物が配置され、前記第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するPを含んでいる。
【0012】
特定の構成元素から構成されるコアと、第13族元素および第16族元素を含むシェルを備え、バンド端発光を示すコアシェル型半導体ナノ粒子のシェル表面に、負の酸化数を有するリン(P)を含む化合物が配置されることで、バンド端発光の量子収率が向上する。これは例えば、特定のリン含有化合物により、コアシェル型半導体ナノ粒子のシェルにおける欠陥が補償されるためと考えることができる。
【0013】
[コア]
コアシェル型半導体ナノ粒子のコアは、M1、M2およびZを含む三元系の半導体から構成される。コアの結晶構造は、正方晶、六方晶および斜方晶からなる群より選ばれる少なくとも一種であってもよい。ここで、M1は、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含み、好ましくはAgおよびCuの少なくとも一方を含み、より好ましくはAgを含む。M1がAgを含むことで、コア(後述する製造方法で用いられる半導体ナノ粒子に相当する)の合成が容易になる傾向がある。コアはM1として2以上の元素を含んでいてもよい。
【0014】
M2は、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含み、好ましくはInおよびGaの少なくとも一方を含み、より好ましくはInを含む。Inは副生成物を生じにくいことから好ましく用いられる。コアはM2として2以上の元素を含んでいてもよい。例えば、コアを構成する半導体はM2としてGaおよびInを含んでいてもよい。
【0015】
Zは、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含み、好ましくはSを含む。ZがSを含むコアは、ZがSeまたはTeである半導体と比較してバンドギャップが広くなるため、可視光領域の発光を与えやすい。コアはZとして2以上の元素を含んでいてもよい。
【0016】
M1、M2およびZの組み合わせ(M1/M2/Z)の例としては、Cu/In/S、Ag/In/S、Ag/(In、Ga)/S、Ag/In/SeおよびAg/Ga/Sが挙げられる。
【0017】
上記特定の元素を含み、かつその結晶構造が正方晶、六方晶、または斜方晶である半導体は、一般的には、M1M2Z2で表される組成を有する。なお、M1M2Z2で表される組成を有する半導体であって、六方晶の結晶構造を有するものはウルツ鉱型であり、正方晶の結晶構造を有する半導体はカルコパイライト型である。結晶構造は、例えば、X線回折(XRD)により得られるXRDパターンを測定することによって同定される。具体的には、コアから得られたXRDパターンを、M1M2Z2の組成で表される半導体ナノ粒子のものとして既知のXRDパターン、または結晶構造パラメータからシミュレーションを行って求めたXRDパターンと比較する。既知のパターンおよびシミュレーションのパターンの中に、コアのパターンと一致するものがあれば、当該半導体ナノ粒子の結晶構造は、その一致した既知またはシミュレーションのパターンの結晶構造であるといえる。
【0018】
半導体ナノ粒子の集合体においては、コアの結晶構造が異なる複数種の半導体ナノ粒子が混在していてよい。その場合、XRDパターンにおいては、複数の結晶構造に由来するピークが観察される。
【0019】
三元系の半導体からなるコアは、実際には、上記一般式で表される化学量論組成のものではなく、特にM1の原子数のM2の原子数に対する比(M1/M2)が1よりも小さくなる場合もあるし、あるいは逆に1よりも大きくなる場合もある。また、M1の原子数とM2の原子数の和が、Zの原子数と同じとはならないことがある。本実施形態の半導体ナノ粒子において、三元系の半導体からなるコアは、そのような非化学量論組成の半導体からなるものであってよい。本明細書では、特定の元素を含む半導体について、それが化学量論組成であるか否かを問わない場面では、M1-M2-Zのように、構成元素を「-」でつないだ式で半導体組成を表す。
【0020】
コアは、実質的にM1、M2およびZのみから構成されていてよい。ここで「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的にM1、M2およびZ以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
【0021】
コアは他の元素を含んでいてよい。例えば、M2の一部は他の金属元素により置換されていてよい。他の金属元素は+3価の金属イオンになるものであってよく、具体的には、Cr、Fe、Al、Y、Sc、La、V、Mn、Co、Ni、Ga、In、Rh、Ru、Mo、Nb、W、Bi、AsおよびSbからなる群から選択される少なくとも一種であってよい。その置換量は、M2と置換する他の金属元素とを合わせた原子の数を100%としたときに、10%以下であることが好ましい。
【0022】
[シェル]
シェルは、コアを構成する半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体であって、第13族元素および第16族元素を含む半導体から構成される。第13族元素としては、B、Al、Ga、InおよびTlが挙げられ、第16族元素としては、O、S、Se、TeおよびPoが挙げられる。シェルを構成する半導体には、第13族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれてよく、第16族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれていてもよい。
【0023】
シェルは、実質的に第13族元素および第16族元素からなる半導体から構成されていてもよい。ここで「実質的に」とは、シェルに含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第13族元素および第16族元素以外の元素の割合が、例えば10%以下、好ましくは5%以下、より好ましくは1%以下であることを示す。
【0024】
コアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーはその組成にもよるが、第11族-第13族-第16族の三元系の半導体は、一般に1.0eV以上3.5eV以下のバンドギャップエネルギーを有し、特に、Ag-In-Sから成る半導体は、1.8eV以上1.9eV以下のバンドギャップエネルギーを有する。したがって、シェルは、コアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成してもよい。あるいは、シェルの組成等が先に決定されている場合には、コアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーがシェルのそれよりも小さくなるように、コアを設計してもよい。
【0025】
具体的には、シェルを構成する半導体は、例えば2.0eV以上5.0eV以下、特に2.5eV以上5.0eV以下のバンドギャップエネルギーを有してよい。また、シェルのバンドギャップエネルギーは、コアのバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV以上3.0eV以下程度、特に0.3eV以上3.0eV以下程度、より特には0.5eV以上1.0eV以下程度大きいものであってよい。シェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとコアを構成する半導体のバンドギャップエネルギーとの差が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0026】
さらに、コアおよびシェルを構成する半導体のバンドギャップエネルギーは、コアとシェルのヘテロ接合において、シェルのバンドギャップエネルギーがコアのバンドギャップエネルギーを挟み込むtype-Iのバンドアライメントを与えるように選択されることが好ましい。type-Iのバンドアライメントが形成されることにより、コアからのバンド端発光をより良好に得ることができる。type-Iのアライメントにおいて、コアのバンドギャップとシェルのバンドギャップとの間には、少なくとも0.1eVの障壁が形成されることが好ましく、特に0.2eV以上、より特には0.3eV以上の障壁が形成されてよい。障壁の上限は、例えば1.8eV以下であり、特に1.1eV以下である。障壁が前記下限値以上であると、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が少なくなり、バンド端発光の割合が大きくなる傾向がある。
【0027】
シェルを構成する半導体は、第13族元素としてInまたはGaを含むものであってよい。またシェルは、第16族元素としてSを含むものであってよい。InまたはGaを含む、あるいはSを含む半導体は、第11族-第13族-第16族の三元系の半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する半導体となる傾向にある。
【0028】
シェルは、その半導体の晶系がコアの半導体の晶系となじみのあるものであってよく、またその格子定数が、コアの半導体のそれと同じまたは近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い(ここでは、シェルの格子定数の倍数がコアの格子定数に近いものも格子定数が近いものとする)半導体からなるシェルは、コアの周囲を良好に被覆することがある。例えば、第11族-第13族-第16族の三元系の半導体であるAg-In-Sは、一般に正方晶系であるが、これになじみのある晶系としては、正方晶系、斜方晶系が挙げられる。Ag-In-S半導体が正方晶系である場合、その格子定数は5.828Å(0.5828nm)、5.828Å(0.5828nm)、11.19Å(1.119nm)であり、これを被覆するシェルは、正方晶系または立方晶系であって、その格子定数またはその倍数が、Ag-In-S半導体の格子定数と近いものであることが好ましい。あるいは、シェルはアモルファス(非晶質)であってもよい。
【0029】
アモルファス(非晶質)のシェルが形成されているか否かは、コアシェル型半導体ナノ粒子を、HAADF-STEMで観察することにより確認できる。アモルファス(非晶質)のシェルが形成されている場合、具体的には、規則的な模様(例えば、縞模様ないしはドット模様等)を有する部分が中心部に観察され、その周囲に規則的な模様を有するものとしては観察されない部分がHAADF-STEMにおいて観察される。HAADF-STEMによれば、結晶性物質のように規則的な構造を有するものは、規則的な模様を有する像として観察され、非晶性物質のように規則的な構造を有しないものは、規則的な模様を有する像としては観察されない。そのため、シェルがアモルファスである場合には、規則的な模様を有する像として観察されるコア(前記のとおり、正方晶系等の結晶構造を有する)とは明確に異なる部分として、シェルを観察することができる。
【0030】
また、コアがAg-In-Sからなり、シェルがGaSからなる場合、GaがAgおよびInよりも軽い元素であるために、HAADF-STEMで得られる像において、シェルはコアよりも暗い像として観察される傾向にある。
【0031】
アモルファスのシェルが形成されているか否かは、高解像度の透過型電子顕微鏡(HRTEM)で本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子を観察することによっても確認できる。HRTEMで得られる画像において、コアの部分は結晶格子像(規則的な模様を有する像)として観察され、シェルの部分は結晶格子像として観察されず、白黒のコントラストは観察されるが、規則的な模様は見えない部分として観察される。
【0032】
一方、シェルはコアと固溶体を構成しないものであることが好ましい。シェルがコアと固溶体を形成すると両者が一体のものとなり、シェルによりコアを被覆して、コアの表面状態を変化させることによりバンド端発光を得るという、本実施形態のメカニズムが得られなくなる場合がある。例えば、Ag-In-Sからなるコアの表面を、化学量論組成ないしは非化学量論組成の硫化亜鉛(Zn-S)で覆っても、コアからバンド端発光が得られないことが確認されている。Zn-Sは、Ag-In-Sとの関係では、バンドギャップエネルギーに関して上記の条件を満たし、type-Iのバンドアライメントを与えるものである。それにもかかわらず、前記特定の半導体からバンド端発光が得られなかったのは、前記特定の半導体とZnSとが固溶体を形成して、コア-シェルの界面が無くなったことによると推察される。
【0033】
シェルは、第13族元素および第16族元素の組み合わせとして、InとSの組み合わせ、GaとSとの組み合わせ、またはInとGaとSとの組み合わせを含んでよいが、これらに限定されるものではない。InとSとの組み合わせは硫化インジウムの形態であってよく、また、GaとSとの組み合わせは硫化ガリウムの形態であってよく、また、InとGaとSの組み合わせは硫化インジウムガリウムであってよい。シェルを構成する硫化インジウムは、化学量論組成のもの(In2S3)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化インジウムを式InSx(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。同様に、硫化ガリウムは化学量論組成のもの(Ga2S3)でなくてよく、その意味で、本明細書では硫化ガリウムを式GaSx(xは整数に限られない任意の数字、例えば0.8以上1.5以下)で表すことがある。硫化インジウムガリウムは、In2(1-y)Ga2yS3(yは0よりも大きく1未満である任意の数字)で表される組成のものであってよく、あるいは、InaGa1-aSb(aは0よりも大きく1未満である任意の数字であり、bは整数に限られない任意の数値である)で表されるものであってよい。
【0034】
硫化インジウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.0eV以上2.4eV以下であり、晶系が立方晶であるものについては、その格子定数は10.775Å(1.0775nm)である。硫化ガリウムは、そのバンドギャップエネルギーが2.5eV以上2.6eV以下程度であり、晶系が正方晶であるものについては、その格子定数が5.215Å(0.5215nm)である。ただし、ここに記載された晶系等は、いずれも報告値であり、実際のコアシェル型半導体ナノ粒子において、シェルがこれらの報告値を満たしているとは限らない。
【0035】
硫化インジウムおよび硫化ガリウムは、第11族-第13族-第16族の三元系の半導体、特にAg-In-Sがコアである場合に、シェルを構成する半導体として好ましく用いられる。特に、硫化ガリウムは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。硫化ガリウムを使用する場合には、硫化インジウムを使用する場合と比較して、より強いバンド端発光を得ることができる場合がある。
【0036】
[表面修飾剤]
シェルは、その表面が負の酸化数を有するPを含む第15族元素を含む化合物(以下、特定修飾剤ともいう)で修飾されていてよい。シェルの表面修飾剤が特定修飾剤を含んでいることで、コアシェル型半導体ナノ粒子のバンド端発光の量子収率が向上する。
【0037】
特定修飾剤は、第15族元素として負の酸化数を有するPを含む。Pの酸化数は、Pに水素原子または炭化水素基が1つ結合することで-1となり、酸素原子が単結合で1つ結合することで+1となり、Pの置換状態で変化する。例えば、トリアルキルホスフィンおよびトリアリールホスフィンにおけるPの酸化数は-3であり、トリアルキルホスフィンオキシドおよびトリアリールホスフィンオキシドでは-1となる。
【0038】
特定修飾剤は、負の酸化数を有するPに加えて、他の第15族元素を含んでいてもよい。他の第15族元素としては、N、As、Sb等を挙げることができる。
【0039】
特定修飾剤は、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含リン化合物であってよい。炭素数4以上20以下の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基などの直鎖または分岐鎖状の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基などの直鎖または分岐鎖状の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基などの脂環式炭化水素基;フェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ベンジル基、ナフチルメチル基などのアリールアルキル基などが挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。特定修飾剤が複数の炭化水素基を有する場合、それらは同一であっても、異なっていてもよい。
【0040】
特定修飾剤として具体的には、トリブチルホスフィン、トリイソブチルホスフィン、トリペンチルホスフィン、トリヘキシルホスフィン、トリオクチルホスフィン、トリス(エチルヘキシル)ホスフィン、トリデシルホスフィン、トリドデシルホスフィン、トリテトラデシルホスフィン、トリヘキサデシルホスフィン、トリオクタデシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィンオキシド、トリイソブチルホスフィンオキシド、トリペンチルホスフィンオキシド、トリヘキシルホスフィンオキシド、トリオクチルホスフィンオキシド、トリス(エチルヘキシル)ホスフィンオキシド、トリデシルホスフィンオキシド、トリドデシルホスフィンオキシド、トリテトラデシルホスフィンオキシド、トリヘキサデシルホスフィンオキシド、トリオクタデシルホスフィンオキシド、トリフェニルホスフィンオキシド等を挙げることができ、これらからなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0041】
シェルの表面は、特定修飾剤に加えて、その他の表面修飾剤で表面修飾されていてもよい。その他の表面修飾剤としては、例えば、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含酸素化合物等であってよい。含窒素化合物としてはアミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としてはチオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
【0042】
その他の表面修飾剤としては、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物が好ましい。含窒素化合物としては、例えばn-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミンなどのアルキルアミンや、オレイルアミンなどのアルケニルアミンが挙げられる。特に純度の高いものが入手しやすい点と沸点が290℃を超える点から、n‐テトラデシルアミンが好ましい。また含硫黄化合物としては、例えば、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0043】
表面修飾剤は、異なる二以上のものを組み合わせて用いてよい。例えば、上記において例示した含窒素化合物から選択される一つの化合物(例えば、オレイルアミン)と、上記において例示した含硫黄化合物から選択される一つの化合物(例えば、ドデカンチオール)とを組み合わせて用いてよい。
【0044】
[コアシェル構造]
【0045】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、紫外光、可視光または赤外線などの光が照射されると、照射された光よりも長い波長の光を発するものである。具体的には、コアシェル型半導体ナノ粒子は、例えば、紫外光、可視光または赤外線が照射されると、照射された光よりも長い波長の発光を有し、かつ、主成分の発光の寿命が200ns以下および/または発光スペクトルの半値幅が70nm以下である発光をすることができる。更に特定の族の元素を含むシェルの表面が、特定修飾剤で修飾されていることで、バンド端発光の量子収率を向上させることができる。
【0046】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、例えば、50nm以下の平均粒径を有してよい。平均粒径は、1nm以上20nm以下の範囲内、特に1nm以上10nm以下の範囲内にあってよい。
【0047】
ナノ粒子の平均粒径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて撮影されたTEM像から求めてよい。ナノ粒子の粒径は、具体的には、TEM像で観察される粒子の外周の任意の二点を結び、粒子の内部に存在する線分のうち、最も長いものを指す。
【0048】
ただし、粒子がロッド形状を有するものである場合には、短軸の長さを粒径とみなす。ここで、ロッド形状の粒子とは、TEM像において短軸と短軸に直交する長軸とを有し、短軸の長さに対する長軸の長さの比が1.2より大きいものを指す。ロッド形状の粒子は、TEM像で、例えば、長方形状を含む四角形状、楕円形状、または多角形状等として観察される。ロッド形状の長軸に直交する面である断面の形状は、例えば、円、楕円、または多角形であってよい。具体的にはロッド状の形状の粒子について、長軸の長さは、楕円形状の場合には、粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指し、長方形状または多角形状の場合、外周を規定する辺の中で最も長い辺に平行であり、かつ粒子の外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、最も長い線分の長さを指す。短軸の長さは、外周の任意の二点を結ぶ線分のうち、前記長軸の長さを規定する線分に直交し、かつ最も長さの長い線分の長さを指す。
【0049】
コアシェル型半導体ナノ粒子の平均粒径は、50,000倍以上150,000倍以下のTEM像で観察される、すべての計測可能な粒子について粒径を測定し、それらの粒径の算術平均とする。ここで、「計測可能な」粒子は、TEM像において粒子全体が観察できるものである。したがって、TEM像において、その一部が撮像範囲に含まれておらず、「切れて」いるような粒子は計測可能なものではない。1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子数が100以上である場合には、そのTEM像を用いて平均粒径を求める。一方、1つのTEM像に含まれる計測可能な粒子の数が100未満の場合には、撮像場所を変更して、TEM像をさらに取得し、2以上のTEM像に含まれる100以上の計測可能な粒子について粒径を測定して平均粒径を求める。
【0050】
コアシェル型半導体ナノ粒子において、コアは、例えば、10nm以下、特に、8nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径は、2nm以上10nm以下の範囲内、特に2nm以上8nm以下の範囲内にあってよい。コアの平均粒径が前記範囲であると、量子サイズ効果を得られ易くなり、バンド端発光を得られ易い。
【0051】
シェルは、シェルの厚さは0.1nm以上50nm以下の範囲内、0.1nm以上10nm以下の範囲内、特に0.3nm以上3nm以下の範囲内にあってよい。シェルの厚さが前記範囲である場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られ、バンド端発光を得られ易い。
【0052】
コアの平均粒径およびシェルの厚さは、コアシェル型半導体ナノ粒子を、例えば、HAADF-STEMで観察することにより求めてよい。特に、シェルがアモルファスである場合には、HAADF-STEMによって、コアとは異なる部分として観察されやすいシェルの厚さを容易に求めることができる。その場合、コアの粒径は半導体ナノ粒子について上記で説明した方法に従って求めることができる。シェルの厚さが一定でない場合には、最も小さい厚さを、当該粒子におけるシェルの厚さとする。
【0053】
あるいは、コアの平均粒径は、シェルによる被覆の前に予め測定しておいてよい。それから、コアシェル型半導体ナノ粒子の平均粒径を測定し、当該平均粒径と予め測定したコアの平均粒径との差を求めることにより、シェルの厚さを求めてよい。
【0054】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、発光スペクトルにおける発光ピークの半値幅は、例えば、70nm以下、60nm以下、55nm以下、50nm以下または40nm以下であってよい。半値幅の下限値は例えば、10nm以上、20nm以上または30nm以上であってよい。
【0055】
ここで、「発光の寿命」とは、後述する実施例のように、蛍光寿命測定装置と称される装置を用いて測定される発光の寿命をいう。具体的には、上記「主成分の発光寿命」は、次の手順に従って求められる。まず、コアシェル型半導体ナノ粒子に励起光を照射して発光させ、発光スペクトルのピーク付近の波長、例えば、(ピークの波長±50nm)の範囲内にある波長の光について、その減衰(残光)の経時変化を測定する。経時変化は、励起光の照射を止めた時点から測定する。得られる減衰曲線は一般に、発光や熱等の緩和過程に由来する複数の減衰曲線を足し合わせたものとなっている。そこで、本実施形態では、3つの成分(すなわち、3つの減衰曲線)が含まれると仮定して、発光強度をI(t)としたときに、減衰曲線が下記の式で表せるように、パラメータフィッティングを行う。パラメータフィッティングは、専用ソフトを使用して実施する。
I(t) = A1exp(-t/τ1) + A2exp(-t/τ2) + A3exp(-t/τ3)
【0056】
上記の式中、各成分のτ1、τ2およびτ3は、発光強度が初期の1/e(36.8%)に減衰するのに要する時間であり、これが各成分の発光寿命に相当する。発光寿命の短い順にτ1、τ2およびτ3とする。また、A1、A2およびA3は、各成分の寄与率である。例えば、Axexp(-t/τx)で表される曲線の積分値が最も大きいものを主成分としたときに、主成分の発光寿命τが200ns以下、100ns以下、または80ns以下である。そのような発光は、バンド端発光であると推察される。なお、主成分の特定に際しては、Axexp(-t/τx)のtの値を0から無限大まで積分することによって得られるAx×τxを比較し、この値が最も大きいものを主成分とする。
【0057】
なお、発光の減衰曲線が3つ、4つ、または5つの成分を含むものと仮定してパラメータフィッティングを行って得られる式がそれぞれ描く減衰曲線と、実際の減衰曲線とのずれは、それほど変わらない。そのため、本実施形態では、主成分の発光寿命を求めるにあたり、発光の減衰曲線に含まれる成分の数を3と仮定し、それによりパラメータフィッティングが煩雑となることを避けている。
【0058】
コアシェル型の半導体ナノ粒子の発光は、バンド端発光に加えて欠陥発光(例えば、ドナーアクセプター発光)を含むものであってもよいが、実質的にバンド端発光のみであることが好ましい。欠陥発光は一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。ここで、実質的にバンド端発光のみであるとは、発光スペクトルにおけるバンド端発光成分の純度が40%以上であることをいい、50%以上が好ましく、60%以上がより好ましく、65%以上が更に好ましい。また、バンド端発光成分の純度の上限値は、例えば、100%以下、100%未満、または95%以下であってよい。「バンド端発光成分の純度」とは、発光スペクトルに対し、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの形状をそれぞれ正規分布と仮定したパラメータフィッティングを行って、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの2つに分離し、それらの面積をそれぞれa1、a2とした時、下記の式で表される。
バンド端発光成分の純度(%) = a1/(a1+a2)×100
発光スペクトルがバンド端発光を全く含まない場合、すなわち欠陥発光のみを含む場合は0%、バンド端発光と欠陥発光のピーク面積が同じ場合は50%、バンド端発光のみを含む場合は100%となる。
【0059】
バンド端発光の量子収率は量子収率測定装置を用いて、励起波長450nm、温度25℃で測定し、506nmから882nmの範囲で計算された内部量子収率に上記バンド端発光成分の純度を乗じ、100で除した値として定義される。コアシェル型半導体ナノ粒子のバンド端発光の量子収率は、例えば10%以上であり、20%以上が好ましく、30%以上がより好ましい。また、量子収率の上限値は、例えば、100%以下、100%未満、または95%以下であってよい。
【0060】
コアシェル型半導体ナノ粒子が発するバンド端発光は、コアシェル型半導体ナノ粒子の粒径を変化させることによって、ピークの位置を変化させることができる。例えば、コアシェル型半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のピーク波長が短波長側にシフトする傾向にある。さらにコアシェル型半導体ナノ粒子の粒径をより小さくすると、バンド端発光のスペクトルの半値幅がより小さくなる傾向にある。
【0061】
コアシェル型半導体ナノ粒子におけるバンド端発光の発光ピーク波長は、例えば、500nm以上600nm以下であり、好ましくは510nm以上590nm以下、520nm以上585nm以下、または550nm以上580nm以下であってよい。また、半導体ナノ粒子が欠陥発光も発する場合、欠陥発光の発光ピーク波長は、例えば、600nmを超えて700nm以下、または605nm以上690nm以下であってよい。
【0062】
コアシェル型半導体ナノ粒子がバンド端発光に加えて欠陥発光する場合、バンド端発光の最大ピーク強度および欠陥発光の最大ピーク強度より求められるバンド端発光の強度比は、例えば、0.75以上であり、好ましくは0.85以上であり、より好ましくは、0.9以上であり、特に好ましくは0.93以上であり、上限値は、例えば、1以下、1未満、または0.99以下であってよい 。なお、バンド端発光の強度比は、発光スペクトルに対し、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの形状をそれぞれ正規分布と仮定したパラメータフィッティングを行って、バンド端発光のピークと欠陥発光のピークの2つに分離し、それらのピーク強度をそれぞれb1、b2とした時、下記の式で表される。
バンド端発光の強度比 = b1/(b1+b2)
発光スペクトルがバンド端発光を全く含まない場合、すなわち欠陥発光のみを含む場合は0、バンド端発光と欠陥発光のピーク強度が同じ場合は0.5、バンド端発光のみを含む場合は1となる。
【0063】
コアシェル型半導体ナノ粒子はまた、その吸収スペクトルまたは励起スペクトル(蛍光励起スペクトルともいう)がエキシトンピークを示すものであることが好ましい。エキシトンピークは、励起子生成により得られるピークであり、これが吸収スペクトルまたは励起スペクトルにおいて発現しているということは、粒径の分布が小さく、結晶欠陥の少ないバンド端発光に適した粒子であることを意味する。エキシトンピークが急峻になるほど、粒径がそろった結晶欠陥の少ない粒子がコアシェル型半導体ナノ粒子の集合体により多く含まれていることを意味する。したがって、発光の半値幅は狭くなり、発光効率が向上すると予想される。本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルまたは励起スペクトルにおいて、エキシトンピークは、例えば、350nm以上1000nm以下、好ましくは450nm以上590nm以下の範囲内で観察される。エキシトンピークの有無を見るための励起スペクトルは、観測波長をピーク波長付近に設定して測定してよい。
【0064】
[コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法]
光が照射されると発光するコアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コアと、前記コア表面に配置されるシェルとを備えるコアシェル粒子を準備するコアシェル粒子準備工程と、前記コアシェル粒子と第15族元素を含む化合物とを接触させる修飾工程とを含む。前記コアは、M1、M2およびZを含む半導体を含む。ここでM1は、Ag、CuおよびAuからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、M2が、Al、Ga、InおよびTlからなる群より選ばれる少なくとも一種を含み、Zが、S、SeおよびTeからなる群より選ばれる少なくとも一種を含む。前記シェルは、第13族元素および第16族元素を含み、前記コアよりバンドギャップエネルギーが大きい半導体を含む。前記化合物が含む第15族元素は少なくとも負の酸化数を有するPを含んでいる。
【0065】
特定元素を含んで構成され、それ自体がバンド端発光を示すコアシェル粒子に、第15族元素を含む特定修飾剤を接触させて、シェル表面が修飾されてバンド端発光における量子収率が向上するコアシェル型半導体ナノ粒子を効率的に製造することができる。一方、コアのみの半導体ナノ粒子に特定修飾剤による修飾処理を行っても量子収率の向上効果は得られない。また特定元素以外の元素を含むシェルを有するコアシェル粒子に特定修飾剤による修飾処理を行っても量子収率の向上効果は得られない。したがって、特定修飾剤の修飾による量子収率の向上効果は、特定元素を含むシェルを有し、バンド端発光を示すコアシェル型ナノ粒子に特有の効果と考えられる。
【0066】
コアシェル粒子準備工程
コアシェル粒子準備工程は、コアとなる半導体ナノ粒子を溶媒中に分散させた分散液を準備するコア準備工程と、当該分散液に、第13族元素の源(ソース)となる同元素を含む化合物および第16族元素の源(ソース)となる同元素の単体または同元素を含む化合物を加えて、半導体ナノ粒子の表面に、実質的に第13族元素と第16族元素とからなる半導体の層を形成するシェル形成工程とを含んでいてもよい。
【0067】
コア準備工程
コア準備工程では、半導体ナノ粒子の分散液を準備する。半導体ナノ粒子は、M1、M2およびZを含む半導体からなるナノ粒子である。半導体ナノ粒子は、市販されているものをそのまま用いてよく、あるいは試験的に生産されたものがあればそれを用いてよく、あるいはM1源、M2源およびZ源を反応させることにより作製してよい。コアシェル準備工程では、半導体ナノ粒子を作製した後、直ちにシェルによる被覆を実施しなければならないということはなく、別に作製された半導体ナノ粒子を、時間を置いて用いてよい。
【0068】
半導体ナノ粒子は、例えば、元素M1の塩と元素M2の塩と元素Zを配位元素とする配位子とを混合することにより錯体とし、この錯体を熱処理することを含む方法で作製してよい。M1の塩およびM2の塩はいずれも、その種類は特に限定されず、有機酸塩および無機酸塩のいずれであってもよい。具体的には、塩は、酢酸塩等の有機酸塩、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩のいずれであってもよく、好ましくは酢酸塩等の有機酸塩である。有機酸塩は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすい。
【0069】
Zが硫黄(S)である場合、Zを配位元素とする配位子としては、例えば、2,4-ペンタンジチオンなどのβ-ジチオン類;1,2-ビス(トリフルオロメチル)エチレン-1,2-ジチオールなどのジチオール類;ジエチルジチオカルバミド酸塩;チオ尿素等が挙げられる。
【0070】
Zがテルル(Te)である場合、Zを配位元素とする配位子としては、例えば、ジアリルテルライド、ジメチルジテルライド等が挙げられる。Zがセレン(Se)である場合、Zを配位元素とする配位子としては、例えば、ジメチルジセレノカルバミド酸、2-(ジメチルアミノ)エタンセレノール等が挙げられる。
【0071】
錯体は、M1の塩、M2の塩およびZを配位元素とする配位子とを混合することにより得られる。錯体の形成は、M1の塩およびM2の塩の水溶液と配位子の水溶液とを混合する方法で実施してよく、あるいは、M1の塩、M2の塩および配位子を、有機溶媒(特に、エタノール等の極性の高い有機溶媒)中に投入して混合する方法で実施してよい。有機溶媒は表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶液であってよい。M1の塩、M2の塩およびZを配位元素とする配位子の仕込み比は、M1M2Z2の組成に対応して、1:1:2(モル比)とすることが好ましい。
【0072】
次に、得られた錯体を熱処理して、半導体ナノ粒子を形成する。錯体の熱処理は、得られた錯体を沈殿させて分離した後、乾燥させて粉末とし、粉末を例えば100℃以上300℃以下の温度で加熱することにより実施してよい。この場合、熱処理して得られる半導体ナノ粒子は、さらに表面修飾剤である溶媒、または表面修飾剤を含む溶媒中で熱処理して、その表面が修飾されることが好ましい。あるいは、錯体の熱処理は、粉末として得た錯体を、表面修飾剤である溶媒、または表面修飾剤を含む溶媒中で、例えば100℃以上300℃以下の温度で加熱することにより実施してよい。あるいはまた、M1の塩、M2の塩および配位子を、有機溶媒中に投入して混合する方法で錯体を形成する場合には、有機溶媒を表面修飾剤または表面修飾剤を含む溶媒として、塩および配位子を投入した後、加熱処理を実施することにより、錯体の形成、熱処理および表面修飾を連続的にまたは同時に実施してよい。
【0073】
あるいは、半導体ナノ粒子は、M1の塩、M2の塩およびZの供給源となる化合物を有機溶媒に投入して形成しても良い。あるいはまた、有機溶媒とM1、M2少なくともいずれか一方の塩とを反応させて錯体を形成するとともに、これらの錯体とZの供給源となる化合物とを反応させ、得られた反応物を加熱することにより結晶成長させる方法で製造してよい。M1の塩およびM2の塩については、上記錯体の形成を含む作製方法に関連して説明したとおりである。これらの塩と反応して錯体を形成する有機溶媒は、例えば、炭素数4以上20以下のアルキルアミン、アルケニルアミン、アルキルチオール、アルケニルアミン、アルキルホスフィン、アルケニルホスフィンのうち少なくとも1種類を含むものであってよい。これらの有機溶媒は、最終的には、得られる半導体ナノ粒子を表面修飾するものとなってよい。これらの有機溶媒は他の有機溶媒と混合して用いてよい。この製造方法においても、M1の塩、M2の塩およびZの供給源となる化合物の仕込み比は、M1M2Z2の組成式に対応して、1:1:2(モル比)とすることが好ましい。
【0074】
Zの供給源となる化合物は、Zが硫黄(S)である場合には、例えば、硫黄、チオ尿素、チオアセトアミド、アルキルチオールである。Zがテルル(Te)である場合には、例えば、トリアルキルホスフィンにTe粉末を加えた混合液を200℃以上250℃以下で熱処理して得られるTe-ホスフィン錯体を、Zの供給源となる化合物として用いてよい。Zがセレン(Se)である場合には、例えば、トリアルキルホスフィンにSe粉末を加えた混合液を200℃以上250℃以下で熱処理して得られるSe-ホスフィン錯体を、Zの供給源となる化合物として用いてよい。
【0075】
あるいは、半導体ナノ粒子の製造方法は、いわゆるホットインジェクション法であってよい。ホットインジェクション法は、100℃以上300℃以下の範囲内にある温度に加熱した溶媒に、半導体ナノ粒子を構成する各元素の供給源となる化合物(例えば、M1の塩、M2の塩およびZの供給源となる化合物(またはZを配位元素とする配位子))を溶解または分散させた液体(前駆体溶液とも呼ぶ)を比較的短い時間(例えばミリ秒オーダー)で投入して、反応初期に多くの結晶核を生成させる半導体ナノ粒子の製造方法である。あるいは、ホットインジェクション法においては、一部の元素の供給源となる化合物を有機溶媒中に予め溶解または分散させておき、これを加熱してから、その他の元素の前駆体溶液を投入してよい。溶媒を表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶媒とすれば、表面修飾も同時に実施できる。ホットインジェクション法によれば、粒径のより小さいナノ粒子を製造することができる。
【0076】
半導体ナノ粒子の表面を修飾する表面修飾剤は、先に、シェルに関連して説明したとおりである。半導体ナノ粒子が表面修飾されていると、粒子が安定化されて、粒子の凝集または成長が防止され、ならびに/あるいは粒子の溶媒中での分散性が向上する。半導体ナノ粒子が表面修飾されている場合、シェルは、表面修飾剤が脱離したタイミングで成長する。したがって、半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤は、最終的に得られるコアシェル構造のナノ粒子においては、コアの表面、すなわちコアとシェルとの界面には通常存在しない。
【0077】
なお、いずれの製造方法を採用する場合でも、半導体ナノ粒子の製造は不活性雰囲気下、特にアルゴン雰囲気下または窒素雰囲気下で実施される。これは、酸化物の副生および半導体ナノ粒子表面の酸化を、低減ないしは防止するためである。
【0078】
上記の方法で作製した半導体ナノ粒子は、反応終了後、溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製してよい。分離は、例えば、粒子を作製した後、混合液を遠心分離に付して、上澄み液を取り出すことにより行う。精製は、上澄み液にアルコールを加えて、遠心分離に付して沈殿させ、その沈殿を取り出し、あるいは上澄み液を除去して、分離した沈殿を、例えば減圧乾燥または自然乾燥により乾燥させる、あるいは有機溶媒に溶解させる方法で実施してよい。アルコールの添加と遠心分離による精製は必要に応じて複数回実施してよい。精製に用いるアルコールとして、メタノール、エタノール、n-プロパノール等の低級アルコールを用いてよい。沈殿を有機溶媒に溶解させる場合、有機溶媒として、クロロホルム等のハロゲン溶剤;トルエン等の芳香族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶剤などを用いてよい。
【0079】
半導体ナノ粒子を精製した後、乾燥させる場合、乾燥は減圧乾燥により実施してよく、あるいは自然乾燥により実施してよく、あるいはまた、減圧乾燥と自然乾燥との組み合わせにより実施してよい。自然乾燥は、例えば、大気中に常温常圧にて放置することにより実施してよく、その場合、20時間以上、例えば、30時間程度放置してよい。
【0080】
シェル形成工程に供される半導体ナノ粒子は、適切な溶媒に分散させた分散液として調製され、当該分散液中でシェルとなる半導体層が形成される。半導体ナノ粒子が分散した液体においては、散乱光が生じないため、分散液は一般に透明(有色または無色)のものとして得られる。半導体ナノ粒子を分散させる溶媒は特に限定されず、半導体ナノ粒子を作製するときと同様、任意の有機溶媒であってよい。有機溶媒は、表面修飾剤、または表面修飾剤を含む溶液であってよい。例えば、有機溶媒は、シェルに関連して説明したその他の表面修飾剤である、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つであってよく、あるいは、炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つであってよく、あるいは炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含窒素化合物から選ばれる少なくとも1つと炭素数4以上20以下の炭化水素基を有する含硫黄化合物から選ばれる少なくとも1つとの組み合わせであってよい。含窒素化合物としては、その沸点が反応温度より高いことが好ましく、具体的な有機溶媒としては、オレイルアミン、n-テトラデシルアミン、ドデカンチオール、またはその組み合わせが挙げられる。
【0081】
半導体ナノ粒子の分散液は、分散液に占める粒子の割合が、例えば、0.02質量%以上1質量%以下、特に0.1質量%以上0.6質量%以下となるように調製してよい。分散液に占める粒子の割合が0.02質量%以上であると、貧溶媒による凝集・沈澱プロセスによる生成物の回収が容易になる傾向がある。また1質量%以下であると、コアを構成する材料のオストワルド熟成、衝突による融合が抑制され、粒径分布が狭くなる傾向にある。
【0082】
シェル形成工程
シェルとなる半導体の層の形成は、第13族元素を含む化合物と、第16族元素の単体または第16族元素を含む化合物とを、上記分散液に加えて実施する。第13族元素を含む化合物は、第13族元素源となるものであり、例えば、第13族元素の有機塩、無機塩、および有機金属化合物等である。具体的に第13族元素を含む化合物としては、酢酸塩等の有機酸塩;硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩、スルホン酸塩等の無機酸塩;アセチルアセトナート錯体等の有機金属化合物が挙げられ、好ましくは酢酸塩等の有機酸塩、または有機金属化合物である。有機酸塩および有機金属化合物は有機溶媒への溶解度が高く、反応をより均一に進行させやすい。
【0083】
第16族元素の単体または第16族元素を含む化合物は、第16族元素源となるものである。例えば、第16族元素として硫黄(S)をシェルの構成元素とする場合には、高純度硫黄のような硫黄単体を用いることができる。あるいは、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等のチオール、ジベンジルジスルフィドのようなジスルフィド、チオ尿素、1,3-ジメチルチオ尿素、チオカルボニル化合物等の硫黄含有化合物を用いることができる。
【0084】
第16族元素として、酸素(O)をシェルの構成元素とする場合には、アルコール、エーテル、カルボン酸、ケトン、N-オキシド化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、セレン(Se)をシェルの構成元素とする場合には、セレン単体、またはセレン化ホスフィンオキシド、有機セレン化合物(ジベンジルジセレニドやジフェニルジセレニド)もしくは水素化物等の化合物を、第16族元素源として用いてよい。第16族元素として、テルル(Te)をシェルの構成元素とする場合には、テルル単体、テルル化ホスフィンオキシド、または水素化物を、第16族元素源として用いてよい。
【0085】
第13族元素源および第16族元素源を分散液に添加する方法は特に限定されない。例えば、第13族元素源および第16族元素源を、有機溶媒に分散または溶解させた混合液を準備し、この混合液を分散液に少量ずつ、例えば、滴下する方法で添加してよい。この場合、混合液は、0.1mL/時間以上10mL/時間以下、特に1mL/時間以上5mL/時間以下の速度で添加してよい。また、混合液は、加熱した分散液に添加してよい。具体的には、例えば、分散液を昇温して、そのピーク温度が200℃以上290℃以下となるようにし、ピーク温度に達してから、ピーク温度を保持した状態で、混合液を少量ずつ加え、その後、降温させる方法で、シェル層を形成してよい(スローインジェクション法)。ピーク温度は、混合液の添加を終了した後も必要に応じて保持してよい。
【0086】
ピーク温度が200℃以上であると、半導体ナノ粒子を修飾している表面修飾剤が十分に脱離し、またシェル生成のための化学反応が十分に進行する等の理由により、半導体の層(シェル)の形成が十分に進行する傾向がある。ピーク温度が290℃以下であると、半導体ナノ粒子に変質が生じることが抑制され、シェル形成によるバンド端発光が十分に得られる傾向がある。ピーク温度を保持する時間は、混合液の添加が開始されてからトータルで1分間以上300分間以下、特に10分間以上60分間以下であってよい。ピーク温度の保持時間は、ピーク温度との関係で選択され、ピーク温度がより低い場合には保持時間をより長くし、ピーク温度がより高い場合には保持時間をより短くすると、良好なシェル層が形成されやすい。昇温速度および降温速度は特に限定されず、降温は、例えばピーク温度で所定時間保持した後、加熱源(例えば電気ヒーター)を停止して放冷することにより実施してよい。
【0087】
あるいは、第13族元素源および第16族元素源は、直接、全量を分散液に添加してよい。それから、第13族元素源および第16族元素源が添加された分散液を加熱することにより、シェルである半導体層を半導体ナノ粒子の表面に形成してよい(ヒーティングアップ法)。具体的には、第13族元素源および第16族元素源を添加した分散液は、例えば、徐々に昇温して、そのピーク温度が200℃以上290℃以下となるようにし、ピーク温度で1分間以上300分間以下保持した後、徐々に降温させるやり方で加熱してよい。昇温速度は例えば1℃/分以上50℃/分以下としてよく、降温速度は例えば1℃/分以上100℃/分以下としてよい。あるいは、昇温速度を特に制御することなく、所定のピーク温度となるように加熱してよく、また、降温を一定速度で実施せず、加熱源を停止して放冷することにより実施してもよい。また、降温を水もしくは他の適切な液体に浸漬することによって急速に行ってもよい。ピーク温度が特定の範囲である有利な効果については上記混合液を添加する方法で説明したとおりである。
【0088】
ヒーティングアップ法によれば、スローインジェクション法でシェルを形成する場合と比較して、より強いバンド端発光を与えるコアシェル型半導体ナノ粒子が得られる傾向にある。
【0089】
いずれの方法で第13族元素源および第16族元素源を添加する場合でも、両者の仕込み比は、第13族元素と第16族元素とからなる化合物半導体の化学量論組成比に対応させることが好ましい。例えば、第13族元素源としてIn源を、第16族元素源としてS源を用いる場合には、In2S3の組成に対応して、仕込み比は1:1.5(In:S)とすることが好ましい。同様に、第13族元素源としてGa源を、第16族元素源としてS源を用いる場合には、Ga2S3の組成に対応して、仕込み比は1:1.5(Ga:S)とすることが好ましい。尤も、仕込み比は、必ずしも化学量論組成比にしなくてよく、目的とするシェルの生成量よりも過剰量で原料を仕込む場合には、例えば、第16族元素源を化学量論組成比より少なくしてよく、例えば、仕込み比を1:1(第13族:第16族)としてもよい。
【0090】
また、分散液中に存在する半導体ナノ粒子に所望の厚さのシェルが形成されるように、仕込み量は、分散液に含まれる半導体ナノ粒子の量を考慮して選択する。例えば、半導体ナノ粒子の、粒子としての物質量10nmolに対して、第13族元素および第16族元素から成る化学量論組成の化合物半導体が0.01mmol以上10mmol以下、特に0.1mmol以上1mmol以下生成されるように、第13族元素源および第16族元素源の仕込み量を決定してよい。ただし、粒子としての物質量というのは、粒子1つを巨大な分子と見なしたときのモル量であり、分散液に含まれるナノ粒子の個数を、アボガドロ数(NA=6.022×1023)で除した値に等しい。
【0091】
製造方法においては、第13族元素源として、酢酸インジウムまたはガリウムアセチルアセトナートを用い、第16族元素源として、硫黄単体、チオ尿素あるいは1,3-ジメチルチオ尿素を用いて、分散液として、n‐テトラデシルアミンあるいはオレイルアミンを用いて、硫化インジウムまたは硫化ガリウムを含むシェルを形成することが好ましい。
【0092】
ヒーティングアップ法で、1,3-ジメチルチオ尿素を第16族元素源(硫黄源)として用いると、シェルが十分に形成されて、強いバンド端発光を与える半導体ナノ粒子が得られやすい。硫黄単体を用いてシェルを形成する場合、ピーク温度到達後の保持時間を長くすると(例えば、40分以上、特に50分以上、上限は例えば60分以下)、バンド端発光の強い半導体ナノ粒子が得られやすくなる。また、硫黄単体を使用したヒーティングアップ法によれば、保持時間を長くすることにより、欠陥発光に由来するブロードなピークの強度がバンド端発光のピークの強度よりも十分に小さい発光スペクトルを与える半導体ナノ粒子が得られる。さらにまた、硫黄源の種類によらず、保持時間を長くするほど、得られる半導体ナノ粒子が発するバンド端発光のピークが長波長側にシフトする傾向にある。また、ヒーティングアップ法で、分散液にn‐テトラデシルアミンを用いると、欠陥発光に由来するブロードなピークの強度がバンド端発光のピークの強度よりも十分に小さい発光スペクトルを与える半導体ナノ粒子が得られる。上記の傾向は、第13族元素源としてガリウム源を使用した場合に、有意に認められる。
【0093】
このようにして、シェルを形成してコアシェル粒子が形成される。得られたコアシェル粒子は、溶媒から分離してよく、必要に応じて、さらに精製および乾燥してよい。分離、精製および乾燥の方法は、先に半導体ナノ粒子に関連して説明したとおりであるから、ここではその詳細な説明を省略する。
【0094】
修飾工程
修飾工程では、準備したコアシェル粒子と、酸化数が負のPを含む第15族元素を含む化合物(特定修飾剤)とを接触させて、コアシェル粒子のシェル表面を修飾する。これにより、優れた量子収率でバンド端発光を示すコアシェル型半導体ナノ粒子が製造される。
【0095】
コアシェル型半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触は、例えば、コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液と特定修飾剤とを混合することで行うことができる。またコアシェル粒子を、液状の特定修飾剤と混合して行ってもよい。特定修飾剤には、その溶液を用いてもよい。コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液は、コアシェル型半導体ナノ粒子と適当な有機溶媒とを混合することで得られる。分散に用いる有機溶剤としては、例えばクロロホルム等のハロゲン溶剤;トルエン等の芳香族炭化水素溶剤;シクロヘキサン、ヘキサン、ペンタン、オクタン等の脂肪族炭化水素溶剤などを挙げることができる。コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度は、例えば、1×10-7mol/L以上1×10-3mol/L以下であり、好ましくは1×10-6mol/L以上1×10-4mol/L以下である。
【0096】
特定修飾剤のコアシェル型半導体ナノ粒子に対する使用量は、例えば、モル比で1倍以上50,000倍以下である。また、コアシェル型半導体ナノ粒子の分散液における物質量の濃度が1.0×10-7mol/L以上1.0×10-3mol/L以下であるコアシェル型半導体ナノ粒子の分散液を用いる場合、分散液と特定修飾剤とを体積比で1:1000から1000:1で混合してもよい。
【0097】
コアシェル型半導体ナノ粒子と特定修飾剤との接触時の温度は、例えば、-100℃以上100℃以下または-30℃以上75℃以下である。接触時間は特定修飾剤の使用量、分散液の濃度等に応じて適宜選択すればよい。接触時間は、例えば、1分以上、好ましくは1時間以上であり、100時間以下、好ましくは48時間以下である。接触時の雰囲気は、例えば、窒素ガス、希ガス等の不活性ガス雰囲気である。
【0098】
コアシェル型半導体ナノ粒子の製造方法は、コアシェル粒子準備工程および修飾工程に加えて、必要に応じて、分離、精製、乾燥等の後処理工程を更に含んでいてもよい。
【0099】
[発光デバイス]
発光デバイスは、光変換部材および半導体発光素子を備え、光変換部材に上記において説明したコアシェル型半導体ナノ粒子を含むものである。この発光デバイスによれば、例えば、半導体発光素子からの発光の一部を、コアシェル型半導体ナノ粒子が吸収してより長波長の光が発せられる。そして、コアシェル構造の半導体ナノ粒子からの光と半導体発光素子からの発光の残部とが混合され、その混合光を発光デバイスの発光として利用できる。
【0100】
具体的には、半導体発光素子としてピーク波長が400nm以上490nm以下程度の青紫色光または青色光を発するものを用い、コアシェル型半導体ナノ粒子として青色光を吸収して黄色光を発光するものを用いれば、白色光を発光する発光デバイスを得ることができる。あるいは、コアシェル型半導体ナノ粒子として、青色光を吸収して緑色光を発光するものと、青色光を吸収して赤色光を発光するものの2種類を用いても、白色発光デバイスを得ることができる。
【0101】
あるいは、ピーク波長が400nm以下の紫外線を発光する半導体発光素子を用い、紫外線を吸収して青色光、緑色光、赤色光をそれぞれ発光する、三種類のコアシェル型半導体ナノ粒子を用いる場合でも、白色発光デバイスを得ることができる。この場合、発光素子から発せられる紫外線が外部に漏れないように、発光素子からの光をすべて半導体ナノ粒子に吸収させて変換させることが望ましい。
【0102】
あるいはまた、ピーク波長が490nm以上510nm以下程度の青緑色光を発するものを用い、コアシェル型半導体ナノ粒子として上記の青緑色光を吸収して赤色光を発するものを用いれば、白色光を発光するデバイスを得ることができる。
【0103】
あるいはまた、半導体発光素子として波長700nm以上780nm以下の赤色光を発光するものを用い、コアシェル型半導体ナノ粒子として、赤色光を吸収して近赤外線を発光するものを用いれば、近赤外線を発光する発光デバイスを得ることもできる。
【0104】
コアシェル型半導体ナノ粒子は、他の半導体量子ドットと組み合わせて用いてよく、あるいは他の量子ドットではない蛍光体(例えば、有機蛍光体または無機蛍光体)と組み合わせて用いてよい。他の半導体量子ドットは、例えば、背景技術の欄で説明した二元系の半導体量子ドットである。量子ドットではない蛍光体として、アルミニウムガーネット系等のガーネット系蛍光体を用いることができる。ガーネット蛍光体としては、セリウムで賦活されたイットリウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体、セリウムで賦活されたルテチウム・アルミニウム・ガーネット系蛍光体が挙げられる。他にユウロピウムおよび/またはクロムで賦活された窒素含有アルミノ珪酸カルシウム系蛍光体、ユウロピウムで賦活されたシリケート系蛍光体、β-SiAlON系蛍光体、CASN系またはSCASN系等の窒化物系蛍光体、LnSi3N11系またはLnSiAlON系等の希土類窒化物系蛍光体、BaSi2O2N2:Eu系またはBa3Si6O12N2:Eu系等の酸窒化物系蛍光体、CaS系、SrGa2S4系、SrAl2O4系、ZnS系等の硫化物系蛍光体、クロロシリケート系蛍光体、SrLiAl3N4:Eu蛍光体、SrMg3SiN4:Eu蛍光体、マンガンで賦活されたフッ化物錯体蛍光体としてのK2SiF6:Mn蛍光体などを用いることができる。
【0105】
発光デバイスにおいて、コアシェル型半導体ナノ粒子を含む光変換部材は、例えばシートまたは板状部材であってよく、あるいは三次元的な形状を有する部材であってよい。三次元的な形状を有する部材の例は、表面実装型の発光ダイオードにおいて、パッケージに形成された凹部の底面に半導体発光素子が配置されているときに、発光素子を封止するために凹部に樹脂が充填されて形成された封止部材である。
【0106】
または、光変換部材の別の例は、平面基板上に半導体発光素子が配置されている場合にあっては、前記半導体発光素子の上面および側面を略均一な厚みで取り囲むように形成された樹脂部材である。あるいはまた、光変換部材のさらに別の例は、半導体発光素子の周囲にその上端が半導体発光素子と同一平面を構成するように反射材を含む樹脂部材が充填されている場合にあっては、前記半導体発光素子および前記反射材を含む樹脂部材の上部に、所定の厚さで平板状に形成された樹脂部材である。
【0107】
光変換部材は半導体発光素子に接してよく、あるいは半導体発光素子から離れて設けられていてよい。具体的には、光変換部材は、半導体発光素子から離れて配置される、ペレット状部材、シート部材、板状部材または棒状部材であってよく、あるいは半導体発光素子に接して設けられる部材、例えば、封止部材、コーティング部材(モールド部材とは別に設けられる発光素子を覆う部材)またはモールド部材(例えば、レンズ形状を有する部材を含む)であってよい。
【0108】
また、発光デバイスにおいて、異なる波長の発光を示す2種類以上のコアシェル型半導体ナノ粒子を用いる場合には、1つの光変換部材内で前記2種類以上のコアシェル型半導体ナノ粒子が混合されていてもよいし、あるいは1種類の量子ドットのみを含む光変換部材を2つ以上組み合わせて用いてもよい。この場合、2種類以上の光変換部材は積層構造を成してもよいし、平面上にドット状ないしストライプ状のパターンとして配置されていてもよい。
【0109】
半導体発光素子としてはLEDチップが挙げられる。LEDチップは、GaN、GaAs、InGaN、AlInGaP、GaP、SiC、およびZnO等からなる群より選択される1種または2種以上から成る半導体層を備えたものであってよい。青紫色光、青色光、または紫外線を発光する半導体発光素子は、例えば、組成がInXAlYGa1-X-YN(0≦X、0≦Y、X+Y<1)で表わされるGaN系化合物を半導体層として備えたものである。
【0110】
本実施形態の発光デバイスは、光源として液晶表示装置に組み込まれることが好ましい。コアシェル型半導体ナノ粒子によるバンド端発光は発光寿命の短いものであるため、これを用いた発光デバイスは、比較的速い応答速度が要求される液晶表示装置の光源に適している。また、本実施形態のコアシェル型半導体ナノ粒子は、バンド端発光として半値幅の小さい発光ピークを示し得る。したがって、発光デバイスにおいて:
- 青色半導体発光素子によりピーク波長が420nm以上490nm以下の範囲内にある青色光を得るようにし、コアシェル型半導体ナノ粒子により、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の範囲内にある緑色光、およびピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにする;または、
- 発光デバイスにおいて、半導体発光素子によりピーク波長400nm以下の紫外光を
得るようにし、コアシェル型半導体ナノ粒子によりピーク波長430nm以上470nm以下、好ましくは440nm以上460nm以下の範囲内にある青色光、ピーク波長が510nm以上550nm以下、好ましくは530nm以上540nm以下の緑色光、およびピーク波長が600nm以上680nm以下、好ましくは630nm以上650nm以下の範囲内にある赤色光を得るようにすることによって、濃いカラーフィルターを用いることなく、色再現性の良い液晶表示装置が得られる。発光デバイスは、例えば、直下型のバックライトとして、またはエッジ型のバックライトとして用いられる。
【0111】
あるいは、コアシェル型半導体ナノ粒子を含む、樹脂もしくはガラス等からなるシート、板状部材、またはロッドが、発光デバイスとは独立した光変換部材として液晶表示装置に組み込まれていてよい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0113】
(実施例1)
半導体ナノ粒子の合成
反応容器にて酢酸銀(AgOAc)0.4mmol、酢酸インジウム(In(OAc)3)0.4mmolを、蒸留精製したオレイルアミン8mLと混合し、攪拌しながらドデカンチオール(1.25mmol,300μL)を添加した。合成溶液を脱気してアルゴン雰囲気に置換し、およそ70℃まで昇温し、いったんフタを開けてチオ尿素の結晶(0.8mmol,60.8mg)を加え第一混合物を得た。続いて、ごく短時間の脱気を行い、30℃/分の昇温速度にて130°Cに達するまで昇温した。実測で130℃に到達した後600秒間熱処理を続けた。続いて反応容器を室温下の水に浸漬して急冷(急冷時平均して約50℃/分の速度で降温)合成を停止した。遠心分離によって粗大粒子を除去した後、上澄みにメタノールを加えてコアとなる半導体ナノ粒子を沈殿させ、遠心分離によって回収した。回収した固体をオレイルアミン2mLに分散した。
【0114】
得られた半導体ナノ粒子についてXRDパターンを測定し、正方晶(カルコパイライト型)のAgInS
2、六方晶(ウルツ鉱型)のAgInS
2および斜方晶AgInS
2と比較した。測定したXRDパターンを
図1に示す。XRDパターンより、この半導体ナノ粒子の結晶構造は、六方晶および斜方晶にみられる48°付近のピークが観察されなかったため、実質的に正方晶のAgInS
2とほぼ同じ構造であることを確認できた。XRDパターンは、リガク社製の粉末X線回折装置(商品名SmartLab)を用いて測定した。
【0115】
また、得られた半導体ナノ粒子の形状を、透過型電子顕微鏡(TEM、(株)日立ハイテクノロジーズ製、商品名H-7650)を用いて観察するとともに、その平均粒径を8万倍から20万倍のTEM像から測定した。ここでは、TEMグリッドとして、商品名ハイレゾカーボン HRC-C10 STEM Cu100Pグリッド(応研商事(株)を用いた。得られた粒子の形状は、球状もしくは多角形状であった。平均粒径は、3か所以上のTEM画像を選択し、これらに含まれているナノ粒子のうち、計測可能なものをすべて、すなわち、画像の端において粒子の像が切れているようなものを除くすべての粒子について、粒径を測定し、その算術平均を求める方法で求めた。本実施例を含む全ての実施例および比較例において、3以上のTEM像を用いて、合計100点以上のナノ粒子の粒径を測定した。半導体ナノ粒子の平均粒径は4.17nmであった。
【0116】
続いて得られた半導体ナノ粒子に含まれるインジウムの物質量をICP発光分光(島津製作所、ICPS-7510)測定により求めたところ、41.5μmolであった。
平均粒径が4.17nmである場合の半導体ナノ粒子の体積は、球状とした場合に37.95nm3と算出される。また、正方晶である場合の硫化銀インジウム結晶の単位格子体積は0.38nm3(格子定数 5.828Å(0.5828nm)、5.828Å(0.5828nm)、11.19Å(1.119nm))と算出されることから、半導体ナノ粒子の体積を単位格子体積にて除することにより半導体ナノ粒子1個の中に100個の単位格子が含まれていることが算出される。次に正方晶である場合の硫化銀インジウム結晶の1個の単位格子には4個のインジウム原子が含まれているため、ナノ粒子1個あたりには400個のインジウム原子が含まれていることが算出される。インジウムの物質量をナノ粒子1個あたりのインジウム原子数で除することにより半導体ナノ粒子の、ナノ粒子としての物質量は、104nmolであると算出される。
【0117】
コアシェル型半導体ナノ粒子の合成
ガリウムアセチルアセトナート(Ga(acac)3)0.1mmol、1,3-ジメチルチオ尿素0.1mmolを測り取り、蒸留精製したオレイルアミン8mLと、上記で合成した半導体ナノ粒子のオレイルアミン分散液0.5mL(ナノ粒子としての物質量が30nmol)とを加え第二混合物を得た。溶液を60℃程度で脱気し、その後60℃/分の昇温速度で、230℃に達するまで昇温し、230℃以降は2℃/分の速度で280℃まで昇温し、280℃にて30分間熱処理した。続いて室温下にて150℃まで降温したところで一度真空引きを行い硫化水素などの揮発成分を除去したのち、100℃以下になったところでフラスコを水に浸して室温まで急冷した。メタノールを加えてコアシェル粒子を沈殿させ、洗浄を行った後、得られたコアシェル型半導体ナノ粒子をクロロホルム(4mL)に分散した。
【0118】
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子について上述の半導体ナノ粒子と同様に平均粒径およびXRDを測定した。測定したXRDパターンを
図1に示す。コアシェル型半導体ナノ粒子の平均粒径は5.38nmであった。また、XRDパターンより、このコアシェル型半導体ナノ粒子の結晶構造は、六方晶および斜方晶にみられる48°付近のピークが観察されなかったため、実質的に正方晶のAgInS
2と同じ構造であることがわかった。
【0119】
修飾工程
得られたコアシェル型半導体ナノ粒子のクロロホルム分散液のうち2mlを分取し、2mlのトリオクチルホスフィン(TOP)を加えた。室温で10分振り混ぜた後、室温で24時間静置し、TOP修飾されたコアシェル粒子である半導体ナノ粒子の分散液を得た。
【0120】
吸収、発光スペクトルおよび量子収率の測定
半導体ナノ粒子と、コアシェル型半導体ナノ粒子およびTOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。その結果を
図2と
図3に示す。なお、吸収スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製、商品名V-670)を用いて、波長範囲を350nmから850nmとして測定した。発光スペクトルは、マルチチャンネル分光器(浜松ホトニクス社製、商品名PMA12)を用いて、励起波長450nmにて測定した。量子収率については、蛍光スペクトル測定装置PMA-12(浜松ホトニクス社製)に積分球を取り付けた装置を用いて、室温(25℃)で、励起波長450nmで行い、350nmから1100nmの波長範囲で測定し、506nmから882nmの波長範囲より計算した。
【0121】
図2に示すように、コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、600nm付近以降ほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから600nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。
図3に示すように、577nm付近に半値幅が約44nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は12.3%であり、バンド端発光成分の純度は44.4%であり、バンド端発光の強度比は、0.81であった。
【0122】
図2に示すように、TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にわずかながらショルダーが見られ、600nm付近以降ほぼ吸収がないことを確認できたことから400nmから600nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。
図3に示すように、579nm付近に半値幅が約46nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は31.7%であり、バンド端発光成分の純度は67.1%であり、バンド端発光の強度比は、0.89であった。
【0123】
コアシェル型半導体ナノ粒子およびTOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子のバンド端発光として観察される発光について発光寿命を測定した。発光寿命の測定は、浜松ホトニクス株式会社製の蛍光寿命測定装置(商品名Quantaurus-Tau)を用いて、波長470nmの光を励起光として、コアシェル構造の半導体ナノ粒子に照射して、バンド端発光ピークのピーク波長付近の発光の減衰曲線を求めた。得られた減衰曲線を浜松ホトニクス株式会社製の蛍光寿命測定/解析ソフトウェアU11487-01を用いてパラメータフィッティングにより、3つの成分に分けた。その結果、τ1、τ2、およびτ3、ならびに各成分の寄与率(A1、A2およびA3)は以下の表1に示すとおりとなった。なお、TOP未修飾は、TOP修飾していないコアシェル型半導体ナノ粒子であり、TOP修飾は、TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子である。
【0124】
【0125】
表1に示すように、コアシェル型半導体ナノ粒子(TOP未修飾)の主成分(τ2、A2)は44.6nsであり、TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子(TOP修飾)の主成分(τ2、A2)は63.0nsであった。この発光寿命は、バンド端発光が確認されているCdSe(ナノ粒子)が発する蛍光で、寄与率の最も大きい成分の蛍光寿命(30nsから60ns)と同程度であった。
【0126】
エネルギー分散型X線分析装置による分析
TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子に含まれる各元素の原子百分率を、エネルギー分散型X線分析装置(EDAX製、商品名OCTANE)により分析した。その結果を表2に示す。表2に示すようにTOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子はPを含むことを確認した。また、組成をコアの組成をAgInS2、シェルの組成をGaSした場合に、表2のAgおよびGaの結果より計算した硫黄の原子百分率は、49.4%(13.4×2+22.6÷1×1=49.4)となり、表2のSの値に対して良い一致を示した。
【0127】
【0128】
(比較例1)
実施例1と同様に合成した半導体ナノ粒子(コア)をオレイルアミン2mLに分散したものに対して、2mLのトリオクチルホスフィン(TOP)を加えた。室温で10分振り混ぜた後、室温で24時間静置し、TOP修飾された半導体ナノ粒子の分散液を得た。半導体ナノ粒子および得られたTOP修飾された半導体ナノ粒子については、実施例1と同様に発光スペクトルを測定した。それぞれの結果を
図4に示す。
【0129】
図4に示すようにTOP修飾された半導体ナノ粒子においてバンド端発光は見られず、ブロードな発光が見られた。
【0130】
(実施例2)
半導体ナノ粒子の合成
反応容器にてAgOAc0.4mmol、In(acac)30.16mmol、Ga(acac)30.24mmol、オレイルアミン11.8mlを混合し、ドデカンチオール(0.83mmol,200μL)を添加した。合成溶液を脱気して窒素雰囲気に置換し、湯浴でおよそ50℃まで昇温し、いったんフタを開けてチオ尿素(0.8mmol,60.8mg)を加え第一混合物を得た。続いて、ごく短時間の脱気を行い、再度窒素を導入した後、10℃/分の昇温速度にて150°Cに達するまで昇温した。実測で150℃に到達した後600秒間熱処理を続けた。続いて反応容器を約50℃の湯に浸漬して急冷(降温速度は冷却開始直後で約90℃/分、60℃までの平均で約37℃/分)して合成を停止した。遠心分離によって粗大粒子を除去した後、上澄みにメタノールを加えてコアとなる半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿をメタノールで1回洗浄した後、30分間真空乾燥させ、ヘキサン5mLに分散した。
【0131】
コアシェル型半導体ナノ粒子の合成
Ga(acac)30.1mmol、1,3-ジメチルチオ尿素0.15mmolを測り取り、テトラデシルアミン7.79gと、上記で合成した半導体ナノ粒子のヘキサン分散液3.3mL(ナノ粒子としての物質量が約60nmol)とを加え第二混合物を得た。反応容器を脱気し、窒素を導入した後、攪拌を開始し、湯浴でおよそ50℃まで昇温してテトラデシルアミンを融解させた。その後10℃/分の昇温速度で、270℃に達するまで昇温し、270℃にて60分間熱処理した。続いて室温下にて100℃まで降温したところで一度真空引きを行い硫化水素などの揮発成分を除去したのち、さらに約60℃まで下がったところで反応溶液にヘキサン3mlを加え、テトラデシルアミンの凝固を抑制した。内容物を取り出し、遠心分離によって粗大な粒子を沈殿分離した後、上澄みにメタノールを加えてコアシェル粒子を沈殿させ、沈殿をメタノールで1回洗浄した後、得られたコアシェル粒子をヘキサン(3mL)に分散した。
【0132】
吸収、発光スペクトルおよび量子収率の測定
コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収、発光スペクトルを測定した。その結果を
図5と
図6に示す。なお、吸収スペクトルは、紫外可視近赤外分光光度計(日立ハイテクノロジー社製、商品名U-2900)を用いて、波長範囲を350nmから750nmとして測定した。発光スペクトルは、量子効率測定システムQE-2100(大塚電子社製)を用いて室温(25℃)、励起波長450nmにて測定した。また、量子収率は同装置で測定したスペクトルの506nmから882nmの波長範囲より計算した。
【0133】
図5に示すように、コアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にショルダーが見られ、600nm付近以降ほぼ吸収がないことを確認できたことから、400nmから600nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。
図6に示すように、567nm付近に半値幅が約36nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は23.6%であった。また、バンド端発光成分の純度は69.5%であり、バンド端発光の強度比は、0.93であった。
【0134】
上記で得られたコアシェル型半導体ナノ粒子のヘキサン分散液1.5mlを試験管に取り、窒素気流中でヘキサンを蒸発させて除去した後、クロロホルム1.5mlを加えた。これに同量のトリオクチルホスフィン(TOP)を加え、試験管上部を窒素で満たして密栓し、室温で24時間攪拌してTOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子の分散液を得た。
【0135】
得られたTOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子について量子収率と発光スペクトルを測定した。
図5に示すように、TOP修飾されたコアシェル型半導体ナノ粒子の吸収スペクトルにおいては500nm付近にショルダーが見られ、600nm付近以降ほぼ吸収がないことを確認できたことから400nmから600nm付近にエキシトンピークがあることが推測される。
図6に示すように、569nm付近に半値幅が39nmであるバンド端発光が観察され、バンド端発光の量子収率は51.8%であった。また、バンド端発光成分の純度は83.1%であり、バンド端発光の強度比は、0.95であった。
【0136】
バンド端発光を示すコアシェル型半導体ナノ粒子を、TOP修飾することで発光の量子収率、特にバンド端発光における量子収率が向上する。
【0137】
日本国特許出願2018-025409号(出願日:2018年2月15日)の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書に参照により取り込まれる。