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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-12
(45)【発行日】2023-07-21
(54)【発明の名称】深部体温推定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/01 20060101AFI20230713BHJP
【FI】
A61B5/01 250
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020099915
(22)【出願日】2020-06-09
(65)【公開番号】P2021194031
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2022-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100121669
【弁理士】
【氏名又は名称】本山 泰
(72)【発明者】
【氏名】平田 晃正
(72)【発明者】
【氏名】神谷 俊樹
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄一
(72)【発明者】
【氏名】橋本 優生
(72)【発明者】
【氏名】松浦 伸昭
(72)【発明者】
【氏名】桑原 啓
(72)【発明者】
【氏名】石原 隆子
(72)【発明者】
【氏名】都甲 浩芳
【審査官】▲高▼木 尚哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-065823(JP,A)
【文献】国際公開第2017/213011(WO,A1)
【文献】特開2018-183564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象者の心拍数を測定する第1測定部と、
前記測定対象者の近傍の温度を測定する第2測定部と、
前記測定対象者の近傍の湿度を測定する第3測定部と、
前記第1測定部が測定した心拍数より前記測定対象者の運動により発生する熱量を求める第1演算部と、
時刻tにおいて前記第1演算部が求めた熱量、前記第2測定部が測定した温度と前記第3測定部が測定した湿度とから求められる前記測定対象者の雰囲気と前記測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、前記測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および前記測定対象者の発汗量より求める汗の蒸発量から、前記測定対象者の深部体温の変化を推定する第2演算部と
を備え、
前記第2演算部は、時刻tにおいて、前記第1演算部が求めた前記測定対象者の運動により発生する熱量EX[W]、前記第2測定部が測定した前記測定対象者の近傍の温度T a (t)[℃]、時刻tにおける前記測定対象者の発汗の蒸発で奪われる熱量SW(t)[W]、前記測定対象者の深部体温の初期値T body,0 [℃]、皮膚温の初期値T skin,0 [℃]、前記測定対象者の体表面積S[m 2 ]、前記測定対象者の皮膚/雰囲気間の熱伝達率H[W/(m 2 ・℃)]、前記測定対象者の皮膚の比熱C skin [J/(kg・℃)]、前記測定対象者の深部の比熱C body [J/(kg・℃)]、前記測定対象者の皮膚の重量W skin [kg]、前記測定対象者の深部の重量W body [kg]、時刻t-Δtにおいて、前記第2演算部より算出される皮膚/深部間の熱交換係数hx[W/℃]、前記測定対象者の皮膚の代謝M skin [W]、深部の代謝M body [W]、皮膚温度T skin,t-Δt [℃]、深部温度T core,t-Δt [℃]を用い、以下の式より、時刻tにおける前記測定対象者の皮膚温度T skin,t-Δt [℃]、深部温度T core,t-Δt [℃]を推定する深部体温推定装置。
【数1】
【請求項2】
請求項1記載の深部体温推定装置において、
前記第2演算部は、前記測定対象者の皮膚が雰囲気に露出している部分と露出していない部分とで第1熱交換量、汗の蒸発量を変化させることを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の深部体温推定装置において、
前記第2演算部は、設定されている定数Mskin,0、Mbody,0を用い、K=(Tskin,t-Δt-Tskin,0)、L=(Tbody,t-Δt-Tbody,0)として、Mskin=Mskin,0×1.1K、Mbody=Mbody、0×1.1Lより、前記測定対象者の皮膚の代謝Mskin[W]、深部の代謝Mbody[W]を求めることを特徴とする深部体温推定装置。
【請求項4】
請求項記載の深部体温推定装置において、
前記第2演算部は、前記測定対象者の性別、身長、体重、年齢、身体活動レベルのうちの少なくとも一つの身体的特徴に応じて、定数Mbody,0を設定することを特徴とする深部体温推定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の体内の中心部分の温度である深部体温を推定する深部体温推定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
毎年、熱中症により多くの人が救急搬送されており、2019年5月から9月の全国における熱中症による救急搬送人員数の累計は、71,317人であった(非特許文献1参照)。熱中症の診療や、熱中症のリスクを測る方法として、深部体温(体内の温度)の測定が有効である(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】2019年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況、総務省、[2020年4月21日検索]、(https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke_geppou_2019.pdf)。
【文献】熱中症診療ガイドライン、厚生労働省、[2020年4月21日検索]、(https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/heatstroke2015.pdf)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、深部体温を監視するためには、直腸温、膀胱温、食道温などを測定する必要があり、日常生活のなかでこれらの測定を実施することは難しい。
【0005】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、より容易に深部温度が推定できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
部体温推定方法は、測定対象者の心拍数を測定する第1ステップと、測定対象者の近傍の温度を測定する第2ステップと、測定対象者の近傍の湿度を測定する第3ステップと、第1ステップで測定した心拍数より測定対象者の運動により発生する熱量を求める第4ステップと、時刻tにおいて第4ステップで求めた熱量、第2ステップで測定した温度と第3ステップで測定した湿度とから求められる測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の発汗量より求める汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定する第5ステップとを備える。
【0007】
また、本発明に係る深部体温推定装置は、測定対象者の心拍数を測定する第1測定部と、測定対象者の近傍の温度を測定する第2測定部と、測定対象者の近傍の湿度を測定する第3測定部と、第1測定部が測定した心拍数より測定対象者の運動により発生する熱量を求める第1演算部と、時刻tにおいて第1演算部が求めた熱量、第2測定部が測定した温度と第3測定部が測定した湿度とから求められる測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の発汗量より求める汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定する第2演算部とを備える。
【発明の効果】
【0008】
以上に説明したように、本発明によれば、熱量、測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定するので、より容易に深部温度が推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施の形態に係る深部体温推定装置の構成を示す構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態に係る深部体温推定方法を説明するフローチャートである。
図3図3は、本発明の実施の形態に係る深部体温推定方法を実施するためのウエアラブルデバイスの構成を示す構成図である。
図4図4は、本発明の実施の形態に係る深部体温推定方法を実施するためのウエアラブルデバイスの構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態に係る深部体温推定装置について図1を参照して説明する。この深部体温推定装置は、第1測定部101、第2測定部102、第3測定部103、第1演算部104、および第2演算部105を備える。
【0011】
第1測定部101は、測定対象者の心拍数を測定する。第1測定部101は、例えば、被測定者の心臓の心電位を計測する心電計と、心電計が計測した心電位から心拍数を算出する算出部とから構成することができる。また、第1測定部101は、ウエア型の心拍計、ベルト型の心拍計、腕時計型の心拍計、イヤホン型の心拍計などから構成することができる。
【0012】
第2測定部102は、測定対象者の近傍の温度を測定する。第2測定部102は、例えば温度計から構成することができる。第3測定部103は、測定対象者の近傍の湿度を測定する。第3測定部103は、例えば、湿度計から構成することができる。また、第2測定部102、第3測定部103は、第1測定部101と一体化した温度計、湿度計から構成することもできる。
【0013】
第1演算部104は、第1測定部101が測定した心拍数より測定対象者の運動により発生する熱量を求める。
【0014】
第2演算部105は、時刻tにおいて第1演算部104が求めた熱量、第2測定部102が測定した温度と第3測定部103が測定した湿度とから求められる測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の発汗量より求める汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定する。
【0015】
第1演算部104、第2演算部105は、例えば、携帯端末装置などの、第1演算部104、第2演算部105を実現するためのプログラムにより動作する、マイクロプロセッサを備えた小型のコンピュータ機器から構成することができる。
【0016】
次に、本発明の実施の形態に係る深部体温推定方法について、図2を参照して説明する。まず、第1ステップS101で、第1測定部101が、測定対象者の心拍数を測定する。次に、第2ステップS102で、第2測定部102が、測定対象者の近傍の温度を測定する。次に、第3ステップS103で、第3測定部103が、測定対象者の近傍の湿度を測定する。次に、第4ステップS104で、第1演算部104が、第1ステップS101で第1測定部101が測定した心拍数より、測定対象者の運動により発生する熱量を求める。
【0017】
次に、第5ステップS105で、第2演算部105が、熱量、測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定する。熱量は、時刻tにおいて第4ステップS104で第1演算部104が求める。第1熱交換量は、第2ステップS102で第2測定部102が測定した温度と、第3ステップS103で第3測定部103が測定した湿度と、から求められる。
【0018】
以下、より詳細に説明する。
【0019】
人体を表皮層(皮膚)と非表皮層(深部)と簡易化して考え,深部体温は非表皮層と同じであると仮定すると、式(1)、式(2)に示すように、時刻tにおける皮膚層と深部層の熱の流入出に関する方程式はそれぞれ式(1)、式(2)のように記述できる。
【0020】
式(1)の左辺は、時刻t-Δtからtに推移した際の、皮膚の温度上昇により生じる熱量を示している。式(1)の右辺の各項は、時刻t-Δtからtに推移した際の、皮膚、深部の温度上昇に起因する、深部より皮膚へ流入する熱量、皮膚の代謝で生じる熱量、皮膚より大気へ流出する熱量、皮膚表面での発汗により生じる蒸発熱を示している。
【0021】
式(2)の左辺は、時刻t-Δtからtに推移した際の、深部の温度上昇により生じる熱量を示している。式(2)の右辺の各項は、時刻t-Δtからtに推移した際の、皮膚、深部の温度上昇に起因する、皮膚より深部へ流入する熱量、深部の代謝で生じる熱量、測定対象者の運動により生じる熱量を示している。
【0022】
【数1】
【0023】
i,t[℃](i=skin,body)は、時刻tにおける皮膚、深部の温度を示している。Ti,tは、各部の温度および、時刻がΔtに推移した際の各部の熱量を、上述の2つの式より算出する際に使用する。熱量については、後述する。
【0024】
i[kg](i=skinまたはbody)は、皮膚または深部の質量を示している。Ci[J/(kg・℃)](i=skinまたはbody)は、皮膚または深部の比熱を示している。Mi[W](i=skinまたはbody)は、皮膚または深部の代謝量を示している。各部位の質量と比熱は、情報通信研究機構(NICT)が開発した「TARO」や「HANAKO」のような、解剖学的人体モデルや文献値を使用することができる。各部位の代謝量に関しては、後述する。
【0025】
hx[W/℃]は、皮膚と深部との間の熱交換係数であり、時刻tにおけるhxは、hx=hx0+hx1×2Aより算出する。なお、A=2(Tbody,t-Δt-Tbody,0)/1.2+{EX(t)-1)/1.5である。hx0およびhx1は、実験により決定する。例えば、hx0=17.0[W/℃]、hx1=23.5[W/℃]を使用することができる。
【0026】
EX(t)[W]は,時刻t-Δtからtに推移した際の、測定対象者の運動により生じる熱量を示しており,第1演算部104が求めた心拍数より算出するが、詳細は後述する。
【0027】
SW(t)[W]は、時刻t-Δtからtに推移した際の、発汗により生じる蒸発熱である。SW(t)は、第3測定部103が測定した、湿度humidity(t)および,各部の温度より算出するが詳細は後述する。
【0028】
air[℃]は、周辺温度を示しており,第2測定部102が測定した温度を使用する。式(1)の右辺第3項に示すように,測定対象者の皮膚と雰囲気との間の熱伝達率H[W/(m2・℃)](詳細は後述)を用いて、「H・(Tskin,t-Tair)」を全皮膚面積で積分することにより求めることができる。また、皮膚面積Sは、例えば,Duboiの式「S=身長[cm]0.725×体重[kg]0.425×7.184×10(-3)」などの推定式を用いて求めることができる。
【0029】
上記式を変形すると、以下に示す、式(3),式(4)のようになるので、上述した各定数,時刻t-Δtにおける測定対象者の深部体温のTbody,t-Δt[℃]、測定対象者の皮膚温の初期値Tskin,t-Δt[℃],各測定部から算出した心拍数,温度,湿度を用いて、時刻tにおける、皮膚温度および深部温度を推定することができる。
【0030】
「hx×(Tbody,m-1-Tskin,m-1)」,「hx×(Tskin,m-1-Tbody,m-1)」は、皮膚と深部との間の熱交換(第2熱交換量)を示している。また、「∫SH×(Tskin,m-1-Tair)」は、皮膚と雰囲気との熱交換(第1熱交換量)を示している。雰囲気との第1熱交換量、汗の蒸発により失われる熱量は、皮膚温度の計算に用いる。運動により発生する熱量と、代謝によって発生する熱量は、深部体温の計算に用いる。また、皮膚と深部とでの第2熱交換量を、皮膚温度と深部温度のそれぞれの計算に用いる。なお、外気温と熱交換量を計算する項の積分(第2演算部の演算)において、皮膚が外気に露出している部分と露出していない部分とに分けて行い、それぞれの熱伝達率(第1熱交換量、汗の蒸発量)を変化させることもできる。
【0031】
また、各定数は上記や後述の値に限定したものではなく、実際に即した値を用いることができ、計算実施において適宜設定することができる。各部の温度の初期値は、実測しておくことができる。また、各部の温度の初期値は、上記同様、実際に即した値を用いることができ、計算実施において適宜設定することができる。
【0032】
【数2】
【0033】
次に、第2演算部105の計算で用いられる各パラメータについて説明する。
【0034】
発汗の蒸発で奪われる熱量SW(t)は、不感蒸散と有感蒸散の和E[W]から算出できる。「E=Q×(IP+swrate(t))」となる。ここで、IP[g/s]は不感蒸散、Q[J/g]は水の蒸発熱、swrate(t)は、定数α10、α11、α20、α21、β10、β11、β20、β21を用い、「swrate(t)=[α11tanh{β11(Tskin,t-Δt-Tskin,0)-β10}+α10]×(Tskin,t-Δt-Tskin,0)/minute+[α21tanh{β21(Tbody,t-Δt-Tbody,0)-β20}+α20]×(Tbody,t-Δt-Tbody,0)/minute」となる。mituteは分である。
【0035】
例えば,次に示す値を設定することができる。「α10=0.95,α11=0.55,α20=3.80,α21=3.20,β10=0.09,β11=0.59,β20=1.80,β21=2.70」。
【0036】
ただし、SW(t)は、湿潤率wetが1を超える場合には最大蒸発熱Emax[W]を超えることができない。Wet=E/Emaxで計算できる。Emaxの計算は空気の動きVair[m/s]に依存する対流による熱移動Hc[W×m2/k]、皮膚の飽和水蒸気圧Ps[kPa]、空気の飽和水蒸気圧Pair[kPa]から計算できる。式は下記の通りである。
【0037】
・Hc=3.0×√(10×Vair
【0038】
・Ps=7.5×(10D
なお、D=7.23-((1750.3/(273+Tskin,t-Δt-38.1)))である。
【0039】
・Pair=7.5×(10G
なお、G=7.23-((1750.3/(273+Tair-38.1)))である。
【0040】
・Emax=Emax_coef×Hc×(Ps-humidity(t-Δt)×Pa)×{coverage+(1-coverage)/fpcl}
【0041】
なお、Emax_coefは係数、coverageは衣服の被覆率、fpclは透湿性の係数である。
【0042】
運動により発生する熱量Exは、METsにより計算できる。例えば、「METs=(測定された心拍数[bpm]-測定対象者の安静時心拍数[bpm])÷(測定対象者の最大心拍数[bpm]-安静時心拍数[bpm])×最大酸素摂取量[ml]÷3.5[ml]」によりMETs数を求める。求めたMETs数を用い、「EX熱量[W]=METs数×1.05×体重[kg]×4184÷3600」により、熱量を求める。最大酸素摂取量は、実測した値を用いることができる。また、推定式(VO2max=15HRmax/HRrest)より、最大酸素摂取量を推定することもできる。なお、HRrestは、実測した安静時心拍数である。また、HRmaxは、実測、あるいは年齢を用いた推定式「最大心拍数=(208-0.7×年齢)bpm」による最大心拍数である。
【0043】
熱伝達率Hは、対流による熱伝達Hcと、放射による熱伝達Hrとにより計算できる。「H=(Hc+Hr)×fcl」。fclは、被服係数である。
【0044】
基礎代謝は、測定対象者の皮膚代謝Mskin[W]、測定対象者の深部代謝Mbody[W]と分けて、時刻tにおけるMskinおよびMbodyは、Mskin=Mskin,0×1.1K、Mbody=Mbody、0×1.1Lより計算する。なお、「K=(Tskin,t-Δt-Tskin,0)」、「L=(Tbody,t-Δt-Tbody,0)」である。
【0045】
ここで、「Mbody,0=(0.1238+0.0481×体重×0.92+0.0234×height-0.0138×age-0.5473×sex_coef)×1000000/24/3600×activity_level」となる。sex_coefは性別ごとの係数であり、男性が1、女性が2となる。activity_levelは身体活動レベルである。また、Mskin,0=M_skin/ROU_skin×W_skinで計算する。ROU_skinは、皮膚の密度[kg/m3]、M_skinは、皮膚の代謝[W/m3]、W_skinは、体重×0.08で計算する。Mbody,0は、上述した測定対象者の性別、身体活動レベル、体重の他に、身長、年齢などに応じて設定することができる。
【0046】
以下、実施例を用いて本発明について説明する。
【0047】
[実施例1]
はじめに、実施例1について、図3を参照して説明する。図3は、実施の形態に係る深部体温推定方法を実施するためのウエアラブルデバイスの構成を示している。このウエアラブルデバイスは、測定対象者201が着衣するインナーウエア202に装着された測定部203を備える。測定部203は、アウターウエア204とインナーウエア202との間に配置される。測定部203は、一体化された温湿度センサとウエア型の心電計とから構成されている(参考文献)。測定部203により、インナーウエア202を着衣している測定対象者201の心拍数、および近傍の温度・湿度が測定される。
【0048】
測定部203は、通信機能を内蔵し、携帯端末装置205と通信可能とされている。測定部203が測定した心拍数、温度、湿度のデータは、携帯端末装置205に送信される。携帯端末装置205では、インストールされたソフトウエアにより、第1演算部および第2演算部の機能を実現する。
【0049】
測定部203より送信された心拍数、温度、湿度のデータを受信した携帯端末装置205は、まず、受信した心拍数のデータより、熱量を求める。次に、携帯端末装置205は、受信した温度、湿度のデータより、測定対象者201の雰囲気と測定対象者201の皮膚との間の第1熱交換量を求める。また、携帯端末装置205は、測定対象者201の皮膚と深部との間の第2の熱交換量を求める。また、携帯端末装置205は、測定対象者201の発汗量より求められる汗の蒸発量を求める。これらの各量を用い、携帯端末装置205は、測定対象者201の深部体温の変化を計算(推定)する。
【0050】
[実施例2]
次に、実施例2について、図4を参照して説明する。図4は、実施の形態に係る深部体温推定方法を実施するためのウエアラブルデバイスの構成を示している。このウエアラブルデバイスは、測定対象者201が着衣するインナーウエア202とアウターウエア204との間に配置される第1測定部203aを備える。第1測定部203aは、ベルト型の心電計から構成され、ベルト206により測定対象者201の胸部に装着される。第1測定部203aにより、測定対象者201の心拍数が測定される。
【0051】
また、このウエアラブルデバイスは、測定対象者201の頭部に配置される第2測定部203bを備える。第2測定部203bは、測定対象者201が装着するヘルメット207に固定されている。第2測定部203bにより、測定対象者201の近傍の温度・湿度が測定される。
【0052】
第1測定部203aは、通信機能を内蔵し、携帯端末装置205と通信可能とされている。第1測定部203aが測定した心拍数のデータは、携帯端末装置205に送信される。また、第2測定部203bも通信機能を有し、携帯端末装置205と通信可能とされている。第2測定部203b測定した温度、湿度のデータは、携帯端末装置205に送信される。携帯端末装置205では、インストールされたソフトウエアにより、第1演算部および第2演算部の機能を実現する。
【0053】
第1測定部203aより送信された心拍数のデータ、第2測定部203bより送信された温度、湿度のデータを受信した携帯端末装置205は、まず、受信した心拍数のデータより、熱量を求める。次に、携帯端末装置205は、受信した温度、湿度のデータより、測定対象者201の雰囲気と測定対象者201の皮膚との間の第1熱交換量を求める。また、携帯端末装置205は、測定対象者201の皮膚と深部との間の第2の熱交換量を求める。また、携帯端末装置205は、測定対象者201の発汗量より求められる汗の蒸発量を求める。これらの各量を用い、携帯端末装置205は、測定対象者201の深部体温の変化を計算(推定)する。
【0054】
以上に説明したように、本発明によれば、熱量、測定対象者の雰囲気と測定対象者の皮膚との間の第1熱交換量、測定対象者の皮膚と深部との間の第2熱交換量、および測定対象者の汗の蒸発量から、測定対象者の深部体温の変化を推定するので、より容易に深部温度が推定できるようになる。
【0055】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【0056】
[参考文献]スマートヘルスケアに向けた心電,加速度,温度・湿度の計測を可能にする低電力・小型ウエアラブルセンサを開発 NTT,[2020年4月21日検索]、(https://www.ntt.co.jp/news2019/1911/191108a.html)。
【符号の説明】
【0057】
101…第1測定部、102…第2測定部、103…第3測定部、104…第1演算部、105…第2演算部。
図1
図2
図3
図4