(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-27
(45)【発行日】2023-08-04
(54)【発明の名称】結合型マルチコア光ファイバ
(51)【国際特許分類】
G02B 6/02 20060101AFI20230728BHJP
【FI】
G02B6/02 481
(21)【出願番号】P 2020158882
(22)【出願日】2020-09-23
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】中島 和秀
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】堀部 修平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/161825(WO,A1)
【文献】特開2015-118270(JP,A)
【文献】国際公開第2010/038861(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/168266(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/172997(WO,A1)
【文献】SHOTA, Oe et al.,Proposal of 128ch coupled multi-core fiber configuration using coil-shape (MCF),20th Microoptics Conference (MOC'15),2015年,p.1-2,DOI: 10.1109/MOC.2015.7416520
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/02-6/10
6/44
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3以上のコアを有する結合型マルチコア光ファイバであって、
断面において、前記コアは、クラッドの中心に対して回転非対称、且つコア間クロストークが-10dB/km以上となる最小コア間隔で配置されて
おり、前記コアの少なくとも1つが、全ての前記コアが正多角形に配置されていると仮定した当該コアの位置から前記正多角形の外側にずれた位置にあること
を特徴とする結合型マルチコア光ファイバ。
【請求項2】
ずれた位置にある前記コアの中心と当該コアに隣接する前記コアの中心とを結ぶ線分と、
前記正多角形の辺と成す角度が10°以上であることを特徴とする請求項
1に記載の結合型マルチコア光ファイバ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、結合型マルチコア光ファイバに関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズにより伝送容量が制限される。これらの制限を緩和するために1本の光ファイバ中に複数のコアを有するマルチコアファイバを用いた並列伝送や、コア内に複数の伝搬モードが存在するマルチモードファイバを用いたモード多重伝送といった空間多重技術が検討されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】H. Takara et al., “1.01-Pb/s (12 SDM/222 WDM/456 Gb/s) Crosstalk-managed Transmission with 91.4-b/s/Hz Aggregate Spectral Efficiency,” in ECOC2012, paper Th.3.C.1 (2012)
【文献】T. Sakamoto et al., “Differential Mode Delay Managed Transmission Line for WDM-MIMO System Using Multi-Step Index Fiber,” J. Lightwave Technol. vol. 30, pp. 2783-2787 (2012).
【文献】Y. Sasaki et al., “Large-effective-area uncoupled few-mode multi-core fiber,” ECOC2012, paper Tu.1.F.3 (2012).
【文献】T. Ohara et al., “Over-1000-Channel Ultradense WDM Transmission With Supercontinuum Multicarrier Source,” IEEE J. Lightw. Technol., vol. 24, pp.2311-2317 (2006)
【文献】T. Sakamoto, T. Mori, M. Wada, T. Yamamoto, F. Yamamoto, and K. Nakajima, “Fiber Twisting- and Bending-Induced Adiabatic/Nonadiabatic Super-Mode Transition in Coupled Multicore Fiber,” J. Lightwave Technol. 34, 1228-1237 (2016).
【文献】T. Fujisawa et al., “Group delay spread analysis of coupled-multicore fibers: A comparison between weak and tight bending conditions,” Opt. Commun., vol. 393, no. 9, pp. 232-237, 2017.
【文献】Y. Kokubun, and M. Koshiba “Novel multi-core fibers for mode division multiplexing: Proposal and design principle.” IEICE Electronics Express, vol.6, pp.522-528 (2009)
【文献】R. Ryf, N. K. Fontaine, B. Guan, R.-J. Essiambre, S. Randel, A. H. Gnauck, S. Chandrasekhar, A. Adamiecki, G.Raybon, B, Ercan, R.P. Scott, S. J. Ben Yoo, T. Hayashi, T. Nagashima, and T. Sasaki, “1705-km transmission over coupled-core fibre supporting 6 spatial modes,” ECOC, paper PD. 3.2 (2014).
【文献】岡本著 光導波路の基礎、コロナ社 ISBN 4-339-00602-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
マルチコアファイバを用いた伝送においては、コア間のクロストークが生じると信号品質が劣化するため、クロストークを抑圧するためにコア間を一定以上離さなければならない。一般には、光通信システムで十分な伝送品質を担保するためには、パワーペナルティを1dB以下にすることが望ましく、そのためには非特許文献1または4に記載の通りクロストークは-26dB以下としなければならない。
【0005】
一方で、MIMO技術を用いると受信端においてクロストークを補償することが可能であり、コア間距離を小さくし、クロストークが-26dB以上であっても信号処理によりパワーペナルティを1dB未満とすることができ、空間利用効率を向上させることができる。しかしながら、MIMO技術を適用する場合、伝送路中で発生する複数の信号光間の群遅延差(DMD)に起因する群遅延広がり(GDS)が大きいと、伝送路のインパルス応答幅が大きくなり、信号処理の増大を招く。
【0006】
各コアの構造が単一のモードを伝搬する構造であるシングルモードマルチコアファイバにおいては、非特許文献5に記載の通り、モード間でランダムな結合を誘起させるようコア構造及びコア間隔が調整された結合型シングルモードMCFが検討されている。
【0007】
一般に、同種コアシングルモードMCFであっても、製造誤差により各コアの構造がわずかに異なり、各コアを伝搬するモードの群速度が異なることから、DMDは同種コア構造で設計しても0にはならないが、モード間でランダムな結合を誘起することで、GDSが距離の平方根に比例して大きくなるようになり、主に長距離伝送(100km以上)の伝送においては、GDSを大幅に低減することが可能である。
【0008】
ただし、非特許文献5に記載の通り、コア間隔を小さくしすぎると伝搬モード間の実効屈折率差が大きくなり、ファイバ中でモード間の結合量が低下し、ランダムな結合が得られなくなり、結果としてGDSが増加してしまうため、ランダムな結合を得るための好ましいコア間隔の範囲が存在する。
【0009】
一方で、限られたファイバ断面積でより大容量の通信を行うためには、コアの配置密度を高く(すなわちコア間隔を小さく)することが望ましく、ランダムなモード間結合を実現しつつ、コア間隔を低減することが望ましい。
【0010】
すなわち、本発明は、ランダムなモード間結合を実現しつつ、コア間隔を低減できる結合型マルチコア光ファイバを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明に係る結合型マルチコア光ファイバは、コアを特定の配列とすることとした。
【0012】
具体的には、本発明に係る結合型マルチコア光ファイバは、3以上のコアを有する結合型マルチコア光ファイバであって、
断面において、前記コアは、クラッドの中心に対して回転非対称、且つコア間クロストークが-10dB/km以上となる最小コア間隔で配置されていること
を特徴とする。
【0013】
例えば、本発明に係る結合型マルチコア光ファイバは、断面において、前記コアの少なくとも1つが、全ての前記コアが正多角形に配置されていると仮定した当該コアの位置から前記正多角形の外側にずれた位置にあることを特徴とする。このとき、ずれた位置にある前記コアの中心と当該コアに隣接する前記コアの中心とを結ぶ線分と、前記正多角形の辺と成す角度が10°以上であることが好ましい。
【0014】
従来のマルチコア光ファイバは全ての隣接コア間隔が等しいが、本形態の結合型マルチコア光ファイバは、それとは異なり、一部のコア間の間隔を増加させることで伝搬モードの最大実効屈折率差を低減でき、GDSを低減できる。従って、本発明は、ランダムなモード間結合を実現しつつ、コア間隔を低減できる結合型マルチコア光ファイバを提供することができる。
【0015】
また、本発明に係る結合型マルチコア光ファイバは、断面において、前記コアが渦巻状に配置されていてもよい。
【0016】
さらに、本発明に係る結合型マルチコア光ファイバは、p個以上(pは4以上の整数)のコアを有する結合型マルチコア光ファイバであって、
断面において、前記コアは、p個のうちn個を頂点とするn角形内に、クラッドの中心に対してm回回転対称となるように(mは2以上n未満の整数、nは4以上p以下の整数)、且つ
コア間クロストークが-10dB/km以上となる最小コア間隔で配置されていること
を特徴とする。
【0017】
従来のマルチコア光ファイバのように全ての隣接コア間隔が等しくても、クラッドの中心に対してm回回転対称となるように配列することでGDSを低減できる。従って、本発明は、ランダムなモード間結合を実現しつつ、コア間隔を低減できる結合型マルチコア光ファイバを提供することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明は、ランダムなモード間結合を実現しつつ、コア間隔を低減できる結合型マルチコア光ファイバを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に関連する結合型マルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
【
図2】本発明に関連する結合型マルチコア光ファイバのコア間隔に対するGDSを説明する図である。
【
図3】本発明に関連する結合型マルチコア光ファイバのコア間隔に対するGDSを説明する図である。
【
図4】本発明に関連する結合型マルチコア光ファイバのコア間隔に対する実効屈折率を説明する図である。
【
図5】本発明に係る結合型マルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
【
図6】本発明に係る結合型マルチコア光ファイバのコア間隔に対する実効屈折率を説明する図である。
【
図7】本発明に係る結合型マルチコア光ファイバのコア間隔に対するGDSを説明する図である。
【
図8】GDSのコア数依存性について説明する図である。
【
図9】本発明に係る結合型マルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
【
図10】本発明に係る結合型マルチコア光ファイバの断面を説明する図である。
【
図11】コア間クロストークを変化させた時のインパルス応答形状を説明する図である。
【
図12】結合量(クロストーク)とインパルス応答形状をガウス波形でフィッティングした場合の相関係数との関係を説明する図である。
【
図13】結合量(クロストーク)とインパルス応答波形のガウスフィッティングにより得られる標準偏差との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
(関連する形態)
図1は、本発明に関連する結合型マルチコア光ファイバの断面構造を説明する図である。
図1(A)、(B)、(C)は、それぞれコア数が3,4,6の配列例である。コアは、半径がaであり、コア間隔(コアの中心間距離)をΛとして円環状に配列(多角形の頂点にコアが配列)されている。このような構造では、全てのコアに対して隣接コアとの距離がΛとなる。
【0022】
なお、コアの屈折率をn1、クラッドの屈折率をn2とすると、コアに光を導波させるため条件はn1>n2である。例えば、クラッドを純石英ガラス、コアをゲルマニウム(Ge)、アルミニウム(Al)、リン(P)、その他の屈折率を増加させる不純物を添加した石英ガラスとする。あるいは、クラッドをフッ素(F)、ボロン(B)、その他の屈折率を低減させる不純物を添加した石英ガラス、コアを純石英ガラスとしてもよい。
【0023】
図2は、
図1(A)のように円環状に配置された3コア構造におけるコア間隔と群遅延広がり(GDS)との関係を計算した結果を説明する図である。
【0024】
ここで、コアの屈折率分布はステップ型とし、コア半径は4.5μm、比屈折率差は0.35%とし、コア間隔Λを変化させたときのGDSを算出した。なお、GDSの算出には非特許文献6に記載の解析法及びパラメータを用いている。具体的には、光ファイバの曲げ半径を140mm、捻じれ速度を0.5πrad/m、捻じれ速度の標準偏差σγを0.1rad/mとし、波長は1550nmとしている。また、伝搬距離は1kmとしている。ところで、非特許文献6に記載の通り、マルチコアファイバの各コアの屈折率分布は理想的に同一と仮定するのは、光ファイバの製造に伴う誤差を考慮すると現実的でないため、本計算ではコア間の比屈折率差の偏差σΔを0.001%と設定している。
【0025】
得られた図から、モード間の結合状態は主に3つに分類できる。コア間隔が大きな領域では、いわゆる非結合型のマルチコアファイバに分類される構造となり、GDSは各コアの構造偏差に起因するコア間スキューによってGDSが距離に比例して広がっていく。これを「弱結合領域」と定義し、各コアを独立した構造とみなした場合の各伝搬モードの群速度差に比例してGDSが広がる。
【0026】
一方、コア間隔が25-30μmの領域においては、非特許文献5及び6で設計されているようなモード間でランダムな結合が生じ、GDSが距離の平方根に比例して増加する特性を示す。このような領域を「ランダム結合領域」と定義し、GDS波形がガウス波形を示す。
【0027】
さらにコア間隔を低減すると、複数のコアにまたがって導波するスーパーモードと呼ばれるモードが伝搬し、コア間隔が小さくなるとそれらの実効屈折率差が大きくなり、スーパーモード間の結合が抑制されることから、数モードファイバと同じようにモード間の群遅延差に比例してGDSが増加する。これを「スーパーモード導波領域」と定義する。
【0028】
図2からわかる通り、コア間隔が20-25μmの範囲でGDSが最小値をとり、それ以上小さくしていくとGDSが増加してしまう。コア間隔が20-25μmの範囲では、GDS波形はガウス波形を示しており、これはモード間のランダムな結合が生じていることを示している。一方で、25μm以下の領域では、伝搬モード実効屈折率差が増加することによってモード間結合が減少し、GDSが増加する。
【0029】
上記で述べた傾向はコア数に限らず同様の傾向を示す。
図3は、コア間隔を18または25μmとし、コア数を2から7まで変化させたときのGDSを計算したものである。計算条件は
図2での説明と同じである。また、コアの配置は、円環状配置としている。
【0030】
図3より、何れのコア数においてもコア間隔が25μmでGDSがガウス波形を示し、モード間でランダムな結合が得られるのに対し、コア間隔が18μmでは、モード間の結合量の低下に伴ってGDSが増加している。
【0031】
先に述べた通り、コア間隔の低下に伴うGDSの増加は、モード間実効屈折率差の増加によるものである。これを示すために、コア数が3,4,6におけるコア間隔と伝搬モードの実効屈折率を計算したものをそれぞれ
図4(A)、(B)、(C)に示す。何れのコア数においてもコア間隔が小さくなるとモード間の実効屈折率差が大きくなることがわかる。
【0032】
ここで、各コア間隔におけるモード間の最大実効屈折率差Δneff
maxを
図4(D)に示す。何れのコア数においても、コア間隔に対する最大実効屈折率差は同等の値を示しており、これにより
図3に示すようなコア数に依存しないGDS特性が得られたことが説明できる。
【0033】
(実施形態1)
図5は、本実施形態の結合型マルチコア光ファイバについてコアの配置を説明する図である。
図5(A)、(B)、(C)は、それぞれ3コア、4コア、6コアを説明している。本実施形態の結合型マルチコア光ファイバは、3以上のコア11を有しており、断面において、前記コアが、クラッドの中心に対して回転非対称、且つコア間クロストークが-10dB/km以上となる最小コア間隔で配置されていることを特徴とする。
【0034】
特に、本実施形態では、従来のコア配置に対して、特定のコアの位置を変化させることで、コア配置のクラッド中心に対する対称性を失わせることが特徴である。つまり、本実施形態では、断面において、コア11の少なくとも1つが、全てのコアが正多角形に配置されていると仮定した当該コアの位置から前記正多角形の外側にずれた位置にあることを特徴とする。
【0035】
具体的には、コア11-1と11-2が従来のコアの位置11-1
dと11-2
dからずれている。例えば、
図5(C)の6コアの場合、従来の構造であれば最小コア間隔Λで隣接したコアの中心間を点線で結ぶと正六角形となり、六回回転対称構造となる。一方、本実施形態のようにコア11-1と11-2のコア間隔を広げることで、回転対称性がなくなる。なお、本明細書では、回転対称性が無いことを「回転非対称」と記載する。
【0036】
また、
図5のような回転非対称のコア配置のマルチコア光ファイバは、疑似的に一次元的に直線上にコアが配置された非特許文献7に示すようなマルチコア光ファイバとみなすことができる。このため、
図5のような回転非対称のコア配置のマルチコア光ファイバは、N個のコアに対してNの異なる実効屈折率を有する伝搬モードが存在する。
【0037】
一方、
図1のように回転対称性を有するコア配置だと、伝搬するモードにおいても回転対称である複数の伝搬モードが生じる。電界分布は異なっているが、回転対称であるということは実効的には同じ電界とみなすことができ、つまりそれらのモードは縮退していると言える。つまり、
図1のような回転対称のコア配置のマルチコア光ファイバは、N個のコアに対してNの異なる実効屈折率を有する伝搬モード群を形成することはできない。
【0038】
なお、非特許文献7のコア配置だと、直線上にしかコアが配置できず、円形状のクラッド断面に対してコアの配置密度が高くなるようにコアを配置することができず、好ましくない。
【0039】
ここで、
図5のように、円環配置においてコア間隔が異なる2つのコアが、従来の構造において配置される場所からの隣接コア間からの角度の差をθとおく。換言すると、コア11-1の中心とコア11-3の中心とを結ぶ線分(一点鎖線)と従来のコアの位置11-1
dの中心とコア11-3の中心とを結ぶ線分(点線)とが成す角度をθとする。θ≧10°であることが好ましい。
【0040】
図6は、本実施形態の結合型マルチコア光ファイバにおけるコア間隔と伝搬モードの実効屈折率との関係を説明する図である。
図6(A)、(B)、(C)は、それぞれコア数が3,4,6の計算結果である。なお、θは10°としている。従来構造のマルチコア光ファイバの計算結果である
図4と比較すると、本実施形態の結合型マルチコア光ファイバはコア数分だけ実効屈折率が異なるモードが伝搬していることがわかる。
【0041】
また、各コア間隔におけるモード間の最大実効屈折率差Δneff
maxを
図6(D)に示す。従来構造のマルチコア光ファイバの結果である
図4と比較すると、同じコア間隔であれば本実施形態の結合型マルチコア光ファイバの最大実効屈折率差は従来構造のマルチコア光ファイバの最大実効屈折率差の半値程度に小さくなっている。
【0042】
図7は、
図5(A)のようにコアが配置された3コア構造のマルチコア光ファイバにおけるコア間隔とGDSとの関係を計算した結果を説明する図である。ここでは、θ=10°としている。従来構造のマルチコア光ファイバの結果である
図2と比較すると、本実施形態のマルチコア光ファイバでランダムな結合が得られ、GDSが低減されるコア間隔Λの領域が拡大していることがわかる。具体的には、当該領域が17.5-30μmに拡大、特にコア間隔Λが狭くなる方向へ拡大している。これは、本実施形態のマルチコア光ファイバが従来構造のマルチコア光ファイバに比べてより高密度にコアを配置することが可能であることを意味する。
【0043】
なお、
図5(B)のコア数が4のマルチコア光ファイバ及び
図5(C)のコア数が6のマルチコア光ファイバについてもコア間隔とGDSとの関係を計算し、コア間隔をおよそ18μmまで短くしてもランダムな結合が得られることを確認している。
【0044】
図8は、GDSのコア数依存性についてθの値毎に計算した結果を説明する図である。コア間隔Λ=18μmで計算している。なお、θ=0°は従来構造のマルチコア光ファイバに相当する。
図8より、θを0°より大きくすることで何れのコア数においてもGDSの低減が可能であることがわかる。また、
図8より、有意なGDS低減効果を得るためにはθは10°以上であればよいといえる。
【0045】
なお、
図5においては2つのコアの位置が従来のコア配置よりずれた例を示しているが、1つのコアのみをずらすことでも同様の効果を得ることができる。
【0046】
本実施形態においては1260nm以上で単一モードが伝搬可能なコアを対象に計算及び効果の説明を行っている。ただし、コアが2以上の伝搬モードを有する場合も上述の説明と同様に最大実効屈折率差でGDSを低減する効果を得ることができる。従って、本発明は単一モードコアのマルチコア光ファイバに限定されず、数モードが伝搬するコアのマルチコア光ファイバであってもよい。
【0047】
(実施形態2)
図9は、コア数が7より大きいマルチコア光ファイバの例を説明する図である。本例では、断面において、コア11が渦巻状に配置されていることを特徴とする。渦巻状に配置されたコア11の中心を結ぶ実線は数1で表されるインボリュート曲線と呼ばれる。
【数1】
ここで、aは係数である。
図9はa=0.1の例である。コア11をこのように配置すると、任意のコア数においてクラッド中心における対称性を無くすことができ、GDSを低減できる。なお、コアを渦巻状に配置することは、任意のコア数でコア配置を一意に決めることができ、コア数の拡張性があるという特徴もある。
【0048】
(実施形態3)
実施形態1及び2では、クラッド中心に対して対称性のないコア配置の構造例を説明した。本実施形態では、従来のようなコア配置でもクラッド中心に対して対称性を低減することで同様の効果が得られることを説明する。
【0049】
クラッド12内に正方格子状にコア11が配置された
図10の例で説明する。
図10(A)に示すコア配置の構造では対称数は2であり、
図1(B)のようにクラッド12内にコア11が正方形状に配置された構造(4回回転対称)よりGDSが小さくなる。また、
図10(B)に示すように上段4個のコア11と下段4個のコア11との間のコア間隔をΛ1をΛより大きくしてもよい。
図10(B)のコア配置構造は
図10(A)のコア配置構造より実効屈折率差の最大値を低減することが可能であり、GDSをより低減できる。
【0050】
(実施形態4)
本実施形態では、どの程度の結合量でランダムな結合が生じ、GDSを低減できるかを定量的に説明する。
光増幅器で挟まれた中継区間が一般に40km以上であることを鑑み、伝送距離40kmの場合を説明する。
図11は、コア間クロストークを変化させた時のインパルス応答形状の計算結果を説明する図である。当該計算において、モード間の群遅延差DMDを1ns/kmと仮定し、伝搬モード数を2としている。
【0051】
ここで、パルス幅はインパルス応答に対して十分小さいものを入力しており(-20dB/kmの場合の両端に存在するピーク波形が入力パルス幅と同じとなる)、出力波形はすべてのコアからの出力光を加算したものを示している。
【0052】
-20dB/kmでは、両端に大きな強度を示すパルスが存在し、その幅は40nsと、累積DMD(1ns/km×40km)と同じ値となっている。-10dB/kmとした場合は、両端のパルス強度が低下しているものの、インパルス応答幅は累積DMDと同じである。
【0053】
一方で、-5dB/km以上の結合量では、インパルス応答形状がガウシアン形状となっている。コア間結合が強い場合はインパルス応答形状がガウス形状となることはよく知られている。-3dB/kmの場合は同様にガウス形状であるが、その幅(例えば半値幅)がさらに小さくなっていることわかる。
【0054】
非特許文献8によるとインパルス応答形状がガウス形状となると、そのインパルス応答幅は距離の平方根に比例する。インパルス応答幅が距離に比例する非結合型のファイバと比較すると、結合型光ファイバは特に長距離伝送においてインパルス応答幅を低減できることが知られている(例えば、非特許文献8を参照。)。そこで、結合量(クロストーク)とインパルス応答幅のガウス形状との関係を確認した。
【0055】
図12は、結合量(クロストーク)とインパルス応答形状をガウス波形でフィッティングした場合の相関係数との関係を説明する図である。
図12より、-10dB/km以上の結合量でインパルス応答は理想的なガウス波形と相関係数が95%以上の形状となる。
【0056】
図13は、結合量とインパルス応答波形のガウスフィッティングにより得られる標準偏差との関係を説明する図である。結合量が大きくなればなるほどインパルス応答幅が小さくなることがわかる。
【0057】
これらの結果から、コア間で-10dB/km以上の結合が得られるとインパルス応答幅をガウスフィッティングしたときの半値幅を大きく低減できる。このため、隣接コア間距離Λについては-10dB/km以上の結合が得られるように設計すればよい。ここで、コア間クロストーク量XT(/km)については、次式で計算できる。
【数2】
κは隣接コア間結合係数、
βはモードの伝搬定数、
Rは曲げ半径、
である。
【0058】
つまり、-10dB/km以上のコア間クロストークを得るための隣接コア間距離Λの条件は、次式となる。
【数C1】
【0059】
数C1にXT=0.1(-10dB/kmに相当)を代入することで所望の隣接コア間距離Λを求めることができる。曲げ半径については、光ファイバの遮断波長の測定において曲げ半径を140mmとすることから、同様に曲げ半径を140mmとすれば、クロストークの最悪条件における値が算出できる。なお、この半径140mmは、ケーブル内で光ファイバに付与される曲げ半径の実効的な値として用いられている。ただし、コア直径2aに対して隣接コアが接触しないために少なくとも
2a≦Λ
でなければならない。非特許文献5に記載の通り、コアが近接することでインパルス応答幅が大きくなる現象があるため、経験的には
2a≦2Λ
程度とすることが望ましい。
【0060】
ここで、κは非特許文献9に記載の通り、各モードの実効屈折率、電界分布から算出することが可能である。マルチコア光ファイバにおいてはコア間クロストーク量を算出するために一般的に用いられているパラメータである。
【0061】
[付記]
以下は、本実施形態のマルチコア光ファイバを説明したものである。
本マルチコア光ファイバは、3以上のコアを有し、各コアが、クラッド中心に対する回転方向の対称性を持たないように配置され、且つコア間隔が、-10dB/km以上のコア間クロストークとなるよう調整されている。
【0062】
すなわち、
(1):
本マルチコア光ファイバは、3以上のコアを有する結合型マルチコア光ファイバであって、断面において、前記コアの配置がクラッドの中心に対して回転非対称であり、最短のコア間距離Λが数C1であることを特徴とする。
【0063】
(2):
上記(1)に記載のマルチコア光ファイバは、断面において、前記コアの少なくとも1つが、全ての前記コアが正多角形に配置されていると仮定した当該コアの位置から前記正多角形の外側にずれた位置にあることを特徴とする。
【0064】
(3):
上記(2)に記載のマルチコア光ファイバは、ずれた位置にある前記コアの中心と当該コアに隣接する前記コアの中心とを結ぶ線分と、前記正多角形の辺と成す角度が10°以上であることを特徴とする。
【0065】
(4):
上記(1)に記載のマルチコア光ファイバは、断面において、前記コアが渦巻状に配置されていることを特徴とする。
【0066】
(5):
本マルチコア光ファイバは、3以上のコアを有する結合型マルチコア光ファイバであって、断面において、前記コアの配置で形成されるn角形(nは4以上の整数)がクラッドの中心に対してm回回転対称(mは2以上n未満の整数)であり、最短のコア間距離Λが数C1であることを特徴とする。
【0067】
本発明の光ファイバは、より小さな面積で多くのコアを配置することができることから、コアの多重度が向上し、伝送容量を拡大する効果を奏する。また、本発明の光ファイバは、信号伝搬後の群遅延広がりが小さいため、受信端でモード間クロストークを補償するMIMO処理における計算負荷が小さくなるという効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、光伝送システムにおける伝送媒体として利用できる。
【符号の説明】
【0069】
11:コア
12:クラッド