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特許7323135摩擦攪拌接合用ツール部材およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法
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  • 特許-摩擦攪拌接合用ツール部材およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-31
(45)【発行日】2023-08-08
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合用ツール部材およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20230801BHJP
【FI】
B23K20/12 344
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020553154
(86)(22)【出願日】2019-10-11
(86)【国際出願番号】 JP2019040211
(87)【国際公開番号】W WO2020080286
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2018194365
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】船木 開
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅礼
(72)【発明者】
【氏名】深澤 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】阿部 豊
【審査官】梶本 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140444(JP,A)
【文献】特開2016-064419(JP,A)
【文献】特開2013-163208(JP,A)
【文献】国際公開第2018/030309(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダ部と、前記ショルダ部の上面から同心状に突設されたプローブ部とを有する摩擦攪拌接合用ツール部材において、
前記ショルダ部は、
の外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部を備え、
粒界相の結晶化率が50%以上であり、室温から800℃までの平均線膨張係数が2~4×10 -6 /Kであり、室温から200℃までの平均線膨張係数が1~3×10 -6 /Kであり、窒化珪素以外の添加成分を20質量%以下含有する窒化珪素焼結体から成り、
前記プローブ部の中心から前記曲面加工部までを囲んだ側面領域の投影図から求められる、前記ショルダ部と前記プローブ部とがいずれも存在しない2次元空間が占める空間占有率が30~70%の範囲内であり、
前記プローブ部の根元から前記曲面加工部までの傾斜面と前記プローブ部の中心軸の直交面とのなす角度であるショルダ角が-15°以上+15°以下の範囲内である、
ことを特徴とする摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項2】
前記ショルダ部の外径Dが5mm以上30mm以下であることを特徴とする請求項に記載の摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項3】
前記プローブ部の外径Wが2mm以上15mm以下であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合用ツール部材。
【請求項4】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合用ツール部材を被接合材に押し付けて押し付け部に発生した摩擦熱を利用して被接合材を一体に接合することを特徴とする摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
摩擦攪拌接合用ツール部材の前進角が0.5°以上20°以下または-20°以上-0.5°以下の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記被接合材の厚さを0.1~20mmに設定することを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項7】
前記プローブ部の根元から前記曲面加工部までの傾斜面と前記プローブ部の中心軸の直交面とのなす角度であるショルダ角と前進角との合計が-10°以上25°以下の範囲内であることを特徴とする請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項8】
前記プローブ部の根元から前記曲面加工部までの傾斜面と前記プローブ部の中心軸の直交面とのなす角度であるショルダ角がマイナスのとき、前記ショルダ角をαとし、前進角をθとすると、-3≦|α|-|θ|≦3である請求項ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
後述する実施形態は、摩擦攪拌接合用ツール部材およびそれを用いた摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、プローブと呼ばれる接合ツール部材を高速回転させながら部材に押し付け、押し付け部に発生した摩擦熱を利用して複数の部材を一体化させる接合方法である。摩擦熱により部材(母材)を軟化させ、プローブの回転力によって接合部周辺を塑性流動させて複数の部材(母材と相手材)を一体化させることができる。このため、摩擦攪拌接合は、固相接合の一種であるといえる。
【0003】
摩擦攪拌接合は、固相接合であり接合部への入熱が少ないため、接合対象部位の軟化や歪の程度が少ない。また、接合ろう材を使用しないことから、コストダウンが期待される。摩擦攪拌接合に用いる接合ツール部材には、高速回転に耐え得る耐摩耗性と、摩擦熱に耐え得る耐熱性とが求められる。
摩擦攪拌接合には、点接合方式と線接合方式とがある。
【0004】
点接合は、被接合材を点で接合する方法である。点接合では、ツール部材を被接合材に垂直に押し込みながら、摩擦攪拌接合が実施される。このため、接合痕は円形の点になる。また、線接合方式は、ツール部材を被接合材に押し込みながら一定方向に移動させる方式である。このため、接合痕は直線状になる。線接合は、接合箇所を大きくできることから、接合強度を高くする必要がある技術分野に用いられている。
【0005】
特開2000-94158号公報(特許文献1)の図1では、ツール部材を傾斜させながら線接合することが記載されている。特許文献1の段落[0007]には、ツール部材の傾斜角度を5度以内にすることが記載されている。特許文献1のツール部材は、小径のピンと、ピンより大径の円筒状の突起状ショルダと、突起状ショルダよりも大径の円筒状ショルダとを設けている。このような構造とすることにより、バリの発生を抑制し、接合後の切断工程を省略できることが示されている。
【0006】
一方、特許文献1はアルミニウムまたはアルミニウム合金を摩擦攪拌接合するためのものである。アルミニウムのように比較的軟らかい金属に対しては有効であったが、鉄合金のように硬い材料に適用すると、ツール部材の耐久性が低下するといった問題が生じていた。
【0007】
ツール部材を傾斜させると、ツール部材の外周部が被接合材と主に接触する構造になっていた。このため、ツール部材の外周部が破損され易く、寿命低下の原因となっていた。特に、鉄合金を線接合する際は、寿命の低下が大きかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-94158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の一態様が解決しようとする課題は、寿命が長い摩擦攪拌接合用ツール部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、ショルダ部と、ショルダ部の上面から同心状に突設されたプローブ部とを有する。摩擦攪拌接合用ツール部材のショルダ部は、その外周縁に、湾曲形状(curved-shape)を有するように曲面加工された曲面加工部を備える。そして、摩擦攪拌接合用ツール部材のプローブ部の先端からショルダ部の曲面加工部までを囲んだ側面領域の投影図(例えば、側面方向からの投影)から求められる、ショルダ部とプローブ部とがいずれも存在しない2次元空間の空間(空虚)占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0011】
言い換えれば、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、ショルダ部と、ショルダ部の上面から同心状に突設されたプローブ部とを有する。摩擦攪拌接合用ツール部材のショルダ部は、その外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部を備える。そして、摩擦攪拌接合用ツール部材が側面方向から投影(中心投影又は平行投影)されることにより、プローブ部の先端と曲面加工部の最外部とを対角頂点とする矩形の側面領域において、ショルダ部とプローブ部とがいずれも存在しない2次元空間の空間占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。さらに、摩擦攪拌接合用ツール部材が側面方向から投影された場合に、プローブ部の根元から曲面加工部までの傾斜線と、プローブ部(又は、摩擦攪拌接合用ツール部材)の中心軸の直交線とのなす角であるショルダ角は、-15°以上+15°以下の範囲内であることが好ましい。なお、上述の矩形の側面領域を第1の側面領域要素として求め、第1の側面領域要素と、プローブ部の中心軸を中心として第1の側面領域要素に線対称の第2の側面領域要素とを合わせて矩形の側面領域としてもよい。
【0012】
また、言い換えれば、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、ショルダ部と、ショルダ部の上面から同心状に突設されたプローブ部とを有する。摩擦攪拌接合用ツール部材のショルダ部は、その外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部を備える。そして、曲面加工部の最外部を円弧とする円形の下面と、プローブ部の先端を中心とする円形の上面とによって形成される円柱領域(又は半円柱領域)に対して、ショルダ部とプローブ部とがいずれも存在しない3次元空間が占める空間占有率(つまり、体積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材の一例を示す半断面図である。
図2】実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材が存在しない2次元空間の一例を示す一部断面概念図である。
図3】実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材のショルダ角の一例を示す半断面図である。
図4】実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材のショルダ角の別の一例を示す一部断面図である。
図5】実施形態に係る摩擦攪拌接合方法の一例を示す側面図である。
【実施形態】
【0014】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材1は、ショルダ部3と、ショルダ部3の上面から同心状に突設されたプローブ部2とを有する。摩擦攪拌接合用ツール部材1において、ショルダ部3は、その外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部を備える。プローブ部2の端面2aの先端cから曲面加工部3aまでを囲んだ側面領域4の投影図から求められる、ショルダ部3とプローブ部2とがいずれも存在しない2次元空間Sが占める空間(空虚)占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。
【0015】
言い換えれば、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材1は、ショルダ部3と、ショルダ部3の上面から同心状に突設されたプローブ部2とを有する。摩擦攪拌接合用ツール部材1において、ショルダ部3は、その外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部3aを備える。そして、摩擦攪拌接合用ツール部材1が側面方向から投影(中心投影又は平行投影)された場合に、プローブ部2の先端cと曲面加工部3aの最外部Pとを対角頂点とする矩形の側面領域において、ショルダ部3とプローブ部2とがいずれも存在しない2次元空間の空間占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。さらに、摩擦攪拌接合用ツール部材1が側面方向から投影されることにより、プローブ部2の根元から曲面加工部3aまでの傾斜線と、プローブ部2(又は、摩擦攪拌接合用ツール部材1)の中心軸の直交線とのなす角であるショルダ角αは、-15°以上+15°以下の範囲内であることが好ましい。なお、上述の矩形の側面領域4を第1の側面領域要素4として求め、第1の側面領域要素4と、プローブ部2の中心軸Cを中心として第1の側面領域要素4に線対称の第2の側面領域要素(図示省略)とを合わせて矩形の側面領域としてもよい。図2を用いて説明すれば、第2の側面領域要素は中心軸Cに接するように、中心軸Cの左側に現れる。以下、「摩擦攪拌接合用ツール部材」のことを単に「ツール部材」と呼ぶこともある。
【0016】
図1は実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材の構成例を示す半断面図である。図中、符号1は摩擦攪拌接合用ツール部材であり、2はプローブ部であり、3はショルダ部であり、3aはショルダ部3の曲面加工部であり、Dはショルダ部3の外径であり、Wはプローブ部2の外径である。
【0017】
プローブ部2は先端部とも呼ばれる。プローブ部2は、ショルダ部3の端面から突出した突起形状を有している。プローブ部2およびショルダ部3は同心状に一体に形成されている。また、プローブ部2の端面2aは、湾曲形状または平らな形状(flat shape)などに形成されている。プローブ部2の端面2aの形状は湾曲形状である方が、ツール部材の寿命がより長くなる。なお、「湾曲形状」は、「R形状」とも呼ばれる。
【0018】
また、ショルダ部3は、プローブ部2の根元からツール部材の外周までの領域を意味する。ショルダ部3の外周縁部は湾曲形状を有するように曲面加工部3aが形成されている。曲面加工部(湾曲形状部)3aは、プローブ部2の根元からツール部材の外周までの領域の中に、少なくとも一つあればよい。また、プローブ部2の中心軸Cにおいて断面を二分したとき、各断面形状が左右対称であることが好ましい。ツール部材1は回転しながら被接合材を押圧する。ツール部材1が左右対称であることにより、摩擦攪拌力を安定化させることができる。
【0019】
また、プローブ部2は回転しながら被接合材に入り込んでいく部材である。また、ショルダ部3も被接合材に入り込んでいく部材であり、単にプローブ部2を保護する押さえ部材とは区別されるものである。なお、ショルダ部3に関しては、プローブ部2と一緒に回転しても良いし、無回転ショルダ部であってもよい。また、ショルダ部3は、プローブ部2と一体になった一体型構造であっても良いし、プローブ部2とショルダ部3とが別の部材から構成された複合型構造であっても良い。また、複合型構造の場合、プローブ部2とショルダ部3とは別の材料で形成されていても良いものとする。また、無回転ショルダ部の場合、円筒形状、部分円筒形状などの方式が例示できる。すなわち、円筒形状は、プローブ部2の根元の全周を覆うようにショルダ部3を設けた形状である。また、部分円筒形状は、円筒形状の円を100%としたとき、100%未満の部分的な円筒形状を有するショルダ部3を設けた形状である。
【0020】
また、後述するように、線接合は、ツール部材1を傾斜させた状態で被接合材に押圧して、その押圧部位を移動しながら実施するものである。ツール部材1を傾けながら、動かすことにより、摩擦攪拌力を大きくすることができる。ショルダ部3に曲面加工部(湾曲形状部)3aを設けることにより、ショルダ部3に作用する応力を緩和することができる。
【0021】
また、ツール部材1は、プローブ部2の先端c(中心軸C上に存在)からショルダ部3の曲面加工部3aまでを囲んだ側面領域4の投影図から求められる空間占有率が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。つまり、ツール部材1は、ツール部材1が側面方向から投影された場合に、プローブ部2の先端cと曲面加工部3aの最外部Pとを対角頂点とする矩形の側面領域4において、空間占有率が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。実施形態に係るツール部材1は、ショルダ部3に曲面加工を施すと共に、空間占有率を制御している。これにより、ツール部材1を傾斜させた状態で被接合材に押圧しても、破損を抑制し、長寿命化することができる。また、後述するように、ツール部材1を窒化珪素焼結体で構成することにより、さらに長寿命化することができる。
【0022】
図2は、ツール部材1の一部断面図であるが、一部断面図におけるツール部材1の外形は、側面方向から投影されたツール部材1の投影図におけるツール部材1の外形とも解釈できる。図中、符号1はツール部材であり、2はプローブ部であり、3はショルダ部であり、3aはショルダ部3の曲面加工部であり、4は側面領域であり、Tはプローブ部2の高さである。ツール部材1のプローブ部2の先端cからショルダ部3の曲面加工部3aまでを囲んだ側面領域4の投影図は、ツール部材1を側面方向から撮影した写真を用いるものとする。
【0023】
ここで、空間占有率は、下記横軸長さと縦軸長さで示される側面領域に占める空間Sの断面積として計算される。ツール部材1の構造が中心軸Cを中心とする軸対称であるとみなせるので、横軸長さは、プローブ部2の先端cの左右位置からショルダ部3がまっすぐになった側面の左右位置までの長さ(外径Dの半分)を基準とすることができる。横軸長さは、矩形の側面領域4の横辺である。
【0024】
一方、縦軸長さは、曲面加工部3aの最外部Pの高さ位置からプローブ部2の先端cの高さ位置までの高さとする。なお、曲面加工部3aの最外部Pは、3次元領域上で円を形成するが、縦断面又は投影面においては点を形成する。縦軸長さは、矩形の側面領域4の縦辺である。つまり、横軸長さ×縦軸長さで表わされる側面領域4は、図2図4についても同様)に示すように、縦断面図において点線で囲んだ矩形領域となる。
【0025】
図2の一部断面図におけるツール部材1の外形を投影図におけるツール部材1の外形と解釈すれば、この点線で囲んだ側面領域4中の空間S(プローブ部2およびショルダ部3以外の空間)の割合を空間占有率と呼ぶことができる。空間Sとはツール部材1が存在しない領域である。なお、図2では、後述するショルダ角がプラスであるのでプローブ部2の高さTが縦軸長さと一致させることができるが、図4では、ショルダ角がマイナスであるのでプローブ部2の高さTが縦軸長さと一致させることはできない。
【0026】
つまり、空間占有率(%)=[[(横軸長さ×縦軸長さ)-(ツール部材面積)]/(横軸長さ×縦軸長さ)]×100、により求めるものとする。空間占有率0%とは、側面領域4の投影図が四角となり、円柱状のツール部材であることを意味する。また、図2において、縦軸長さがプローブ部2の高さTとなる。
【0027】
空間占有率が面積比で30~70%の範囲内であることにより、プローブ部2とショルダ部3の両方による攪拌効果が得られる。空間占有率が30%未満であるということは、ショルダ部3の外径Dに対し、プローブ部の外径Wが大きすぎる状態となり、ショルダ部3による攪拌効果が低下する。また、空間占有率が70%を超えると、プローブ部2が小さすぎて、プローブ部2による攪拌効果が不足する。このため、空間占有率は30~70%、さらには40~60%が好ましい。
【0028】
また、プローブ部2の根元からショルダ部3の曲面加工部(湾曲形状部)3aまでの傾斜面5と、ツール部材1の中心軸Cの直交面hとのなす角であるショルダ角(直交面hに対する傾斜面5の角度)αは、-15°以上+15°以下の範囲内であることが好ましい。図3及び図4の一部断面図におけるツール部材1の外形を投影図におけるツール部材1の外形と解釈すれば、プローブ部2の根元からショルダ部3の曲面加工部3aまでの傾斜線5と、ツール部材1の中心軸Cの直交線hとのなす角であるショルダ角(直交線hに対する傾斜線5の角度)αは、-15°以上+15°以下の範囲内であることが好ましい。図3および図4にショルダ角の概念図を示した。なお、直交面hは、縦断面上では直交線hとして示される。
【0029】
ショルダ角とはプローブ部2の根元からショルダ部3の曲面加工部(湾曲形状部)3aまでの傾斜面5の角度である。つまり、直交面hとは図1ないし図4において水平方向を示すものである。図1図3はショルダ角がプラスの場合であり、図4はショルダ角がマイナスの場合を例示したものである。ショルダ角αがプラスとは傾斜面が外側に向けて上昇している状態である。ショルダ角αがマイナスとは傾斜面が外側に向けて降下している状態である。傾斜面が無く水平の場合、ショルダ角αは0°となる。
【0030】
ショルダ角αがプラスであると、ショルダ部3による攪拌力が大きくなる。一方、ショルダ角αが+15°を超えると、ショルダ部3に作用する攪拌応力が大きくなり過ぎてショルダ部の耐久性が低下してしまう。ショルダ部3による攪拌力を高めるためには、ショルダ角αは0°を超えて+15°以下、さらには3°以上10°以下が好ましい。
【0031】
また、ショルダ角αがマイナスであると、ショルダ部3に作用する応力を低減させることができる。このため、ツール部材1の耐久性を向上させることができる。ショルダ角αがマイナスであると攪拌力は低下するが、ツール部材の耐久性は向上する。ショルダ角αが-15°を超えて大きくなる(マイナス角度が大きくなる)と攪拌力が低下し過ぎてしまう。このため、ショルダ角は0°よりも小さく-15°以上、さらには-3°以上-10°以下であることが好ましい。
つまり、ショルダ角αは、攪拌力を大きくしたいときはプラスにすることが好ましく、一方、耐久性を向上させたいときはマイナスにすることが好ましいのである。
【0032】
また、ショルダ部3の外径Dは5mm以上30mm以下であることが好ましい。また、プローブ部2の外径Wは2mm以上15mm以下であることが好ましい。ショルダ部3の外径Dが5mm未満では、ツール部材1が細くなり過ぎて耐久性が低下する恐れがある。被接合材として鉄合金を用いる場合、鉄合金は硬い材料であるためツール部材1の耐久性は必要である。また、ショルダ部3の外径Dが30mmを超えて大きいと、攪拌痕が大きくなり過ぎて、攪拌痕の外観が不均一になり易くなる。また、プローブ部2の外径Wが2mm未満では、プローブ部2による攪拌効果が不十分となる恐れがある。また、プローブ部2の径が15mmを超えて大きいと、相対的にショルダ部3が小さくなり、ショルダ部3による攪拌効果が不十分となる恐れがある。
【0033】
また、プローブ部2の外径W/ショルダ部3の外径Dの比が0.2~0.6の範囲内が好ましい。この範囲内であると、プローブ部2とショルダ部3の両方の攪拌効果が得られる。
【0034】
また、プローブ部2の高さT(mm)は、被接合材(例えば、図5に図示する被接合材6)の厚さに対し0.2mm以上小さいことが好ましい。例えば、被接合材の厚さが2mmのとき、プローブ部2の高さT(mm)は1.8mm以下(=2mm-0.2mm)が好ましい範囲となる。なお、被接合材の厚さとは、接合しようとする被接合材の合計厚さである。例えば、厚さ1mmのSUS板を2枚重ねて接合する場合、被接合材の厚さは2mm(=1mm×2枚)となる。厚さ2mmのSUS板を2枚重ねて接合する場合は、被接合材の厚さは4mmとなる。また、SUS板を2枚重ねて接合する場合、プローブ部2の高さTは1枚目のSUS板の厚さよりも大きいものとする。つまり、複数の被接合材を重ねて接合する際は、プローブ部2の高さTは、最後(一番奥)の被接合材を貫通しないサイズとすることが好ましい。また、2枚の被接合材を突き合わせて線接合する場合は、被接合材1枚の厚さが被接合材の厚さとなる。
【0035】
また、ショルダ角がマイナスの場合、プローブ部2の基端部から、ショルダ部3がまっすぐになった側面までの高さUが0.2mm以下であることが好ましい。高さUを0.2mm以下とすることにより、ショルダ部3に攪拌力を付与することができる。また、ショルダ角がマイナスの場合、高さTと高さUの合計が、被接合材の厚さに対し、0.2mm以上小さいことが好ましい。これにより、プローブ部2が被接合部材を、必要以上に突き抜けることを抑制することができる。
【0036】
また、ツール部材1は、少なくともプローブ部が窒化珪素焼結体から構成されることが好ましい。また、ツール部材1全体が窒化珪素焼結体から成ることがさらに好ましい。ツール部材1が窒化珪素焼結体から成るということは、プローブ部2とショルダ部3とが窒化珪素焼結体で一体に形成されていることを示す。
【0037】
実施形態に係るツール部材1は、上記空間占有率を有していれば、その材質は限定されるものではない。その一方で、被接合材を鉄合金のような硬い材料にした場合、ツール部材1の強度が必要である。特に、プローブ部2の強度が必要である。このため、プローブ部2は窒化珪素焼結体から成るものであることが好ましい。また、ツール部材1を窒化珪素焼結体で一体化されたものを用いることにより、プローブ部2とショルダ部3の両方による攪拌を得ると共にツール部材1の耐久性を向上させることができる。
【0038】
また、窒化珪素焼結体の室温から200℃までの平均線膨張係数が1~3×10-6/Kの範囲内であることが好ましい。線膨張係数は、温度上昇によって物体の長さが膨張する割合を示したものである。線膨張係数の測定はJIS-R-1618に準じて行うものとする。また、測定温度範囲は常温から200℃までとする。線膨張係数は、室温~200℃までの平均線膨張率を用いるものとする。また、室温から800℃までの平均線膨張係数は2~4×10-6/Kの範囲内であることが好ましい。
【0039】
摩擦攪拌接合では、ツール部材を高速回転させながら被接合材に押圧していく。このため、被接合材およびツール部材は高温環境下にさらされる。窒化珪素焼結体の線膨張係数が4×10-6/Kより大きいと、摩擦攪拌接合工程中にツール部材の熱膨張が大きくなる。ツール部材の熱膨張が大きくなると、ツール部材が被接合材を突き抜けて裏当て材に接触する恐れがある。裏当て材は、後述するように高強度材料で構成されている。そのために、ツール部材が裏当て材に接触すると、ツール部材が破損する。このため、窒化珪素焼結体の室温から800℃までの線膨張係数は4×10-6/K以下が好ましい。
【0040】
また、被接合材を構成する鉄合金には、純鉄、炭素鋼、工具鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、マンガン鋼、鋳鉄など様々な合金がある。これらの線膨張係数は8~20×10-6/Kの範囲内である。窒化珪素焼結体の線膨張係数が1×10-6/Kより小さいと、鉄合金との線膨張係数の差が大きくなる。線膨張係数の差が大きくなると、攪拌痕が不均一になり易い。また、ツール部材1を固定する冶具には鉄合金が使用される場合が多い。熱膨張係数の差が大きくなると、ツール部材1の固定に緩みが生じて回転力が円滑に伝達できなくなり、結果として攪拌痕が不均一になり易い。この点からも、熱膨張係数の差が大きくならないようにすることが好ましい。
【0041】
このため、室温から200℃までの平均線膨張係数が1~3×10-6/Kの範囲内である窒化珪素焼結体から成るツール部材1が好ましい。特に、室温から200℃までの線膨張係数が2~4×10-6/Kの範囲内である窒化珪素焼結体から成るツール部材1が好ましい。線膨張係数を制御することにより、被接合材へのツール部材1の進入度合いを安定化させることができる。摩擦攪拌接合はツール部材1を回転させながら、被接合材に押し込んでいく。被接合材に押し込んでいく段階で、ツール部材1は常温から800℃以上になっていく。室温から200℃までの線膨張係数を制御するということは、押し込み初期段階の押し込み量を安定させていることになる。このため、攪拌痕(接合痕)を均一にすることができる。
【0042】
線膨張係数はJIS-R-1618に準じた平均線膨張率を用いる。平均線膨張係数は、室温から目的とする温度までの体積の変化量を測定して平均値を求めるものである。そのため、目的とする温度によって、線膨張係数は変化する。初期段階の押し込み量を安定化させるには、200℃までの線膨張率を制御することが必要なのである。
【0043】
また、窒化珪素焼結体は、室温~800℃の線膨張係数が2~4×10-6/Kの範囲内であることが好ましい。前述のようにツール部材は800℃以上になる。また、被接合材が鉄合金の場合、ツール部材1の温度は1000~1300℃程度まで上がる。鉄合金は温度が高くなるほど軟化していく。温度が500~700℃程度では鉄合金は硬い。室温~800℃の線膨張係数を制御することにより、鉄合金が軟化する前の押し込み量を安定化させることができる。
【0044】
また、室温から200℃までの平均線膨張係数が1~3×10-6/Kの範囲内である窒化珪素焼結体としては次のものが挙げられる。
【0045】
すなわち、窒化珪素焼結体は、窒化珪素以外の添加成分を20質量%以下含有すると共に、添加成分はY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される3種以上の元素を含有するものであることが好ましい。
【0046】
すなわち、窒化珪素焼結体は添加成分を20質量%以下含有するものである。添加成分とは、窒化珪素以外の成分を意味する。窒化珪素焼結体では、窒化珪素以外の添加成分と焼結助剤成分を示す。焼結助剤成分は粒界相を構成するものである。添加成分が20質量%を超えて過剰に多いと粒界相が過多になる。窒化珪素焼結体は、細長いβ-窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとっている。焼結助剤成分が多く成ると、窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとれない部分が形成されてしまうため望ましくない。
【0047】
また、添加成分量は3質量%以上15質量%以下が好ましい。添加成分が3質量%未満では、粒界相が過少となり窒化珪素焼結体の密度が低下するおそれがある。添加成分を3質量%以上に規定すれば、焼結体の相対密度を95%以上に形成し易くなる。また、添加成分を5質量%以上に規定することにより、焼結体の相対密度を98%以上に形成し易くなる。
【0048】
また、添加成分としてはY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備することが好ましい。添加成分としてのY(イットリウム)、ランタノイド元素、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Si(珪素)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Mo(モリブデン)、C(炭素)を構成元素として含有していれば、その存在形態は限定されるものではない。例えば、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、酸窒化物(複合酸窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物を含む)などの形態が挙げられる。また、ランタノイド元素としては、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Lu(ルテニウム)、Ce(セリウム)から選択される1種が好ましい。
【0049】
また、後述するように、製造工程において焼結助剤として添加する場合は、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物)が好ましい。Y元素の場合、酸化イットリウム(Y)が好ましい。また、ランタノイド元素としては、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化エルビウム(Er)、酸化ルテニウム(Lu)、酸化セリウム(CeO)から選択される1種が好ましい。
【0050】
Al元素の場合、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、MgO・Alスピネルが好ましい。Mg元素の場合、酸化マグネシウム(MgO)、MgO・Alスピネルが好ましい。Si元素の場合、酸化珪素(SiO)、炭化珪素(SiC)が好ましい。
【0051】
Ti元素の場合、酸化チタン(TiO)、窒化チタン(TiN)が好ましい。また、Hf元素の場合、酸化ハフニウム(HfO)が好ましい。Mo元素の場合、酸化モリブデン(MoO)、炭化モリブデン(MoC)が好ましい。C元素に関しては、炭化珪素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)として添加することが好ましい。
【0052】
これら添加成分の2種以上を組合せて添加することにより、Y、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備した粒界相を構成することができる。また、添加成分はY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を4種以上含有することが好ましい。
【0053】
次に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を混合した後、ボールミルで混合し、原料粉末を調製する。次に、原料粉末に有機バインダを添加し、成型する工程を実施する。成型工程は、目的とするプローブ形状を有する金型を用いることが好ましい。また、成型工程に関しては、金型成型やCIP(冷間静水圧加圧法)などを用いても良い。
【0054】
次に、成型工程で得られた成形体を脱脂する。脱脂工程は、窒素中で温度400~800℃に加熱して実施することが好ましい。
【0055】
次に、脱脂工程で得られた脱脂体を焼結する。焼結工程は、温度1600℃以上で行うものとする。焼結工程は、不活性雰囲気中または真空中が好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気が挙げられる。また、焼結工程は、常圧焼結、加圧焼結、HIP(熱間静水圧加圧法)が挙げられる。また、複数種類の焼結方法を組合せてもよい。
【0056】
また、焼結温度の上限は特に限定されるものではないが、1800℃以下が好ましい。1800℃を超えた温度でも焼結は可能である。一方、焼結温度を1600~1800℃の範囲内にすることにより、焼結助剤同士の反応を均質にすることができる。また、焼結温度が低い方が焼結助剤同士の反応を均質化できる。このため、焼結温度は1600~1800℃、さらには1600~1700℃の範囲内が好ましい。特に、一次焼結を1600~1800℃、さらには1600~1700℃の範囲内で行うことが好ましい。一次焼結とは脱脂体を焼結する工程である。一次焼結工程で作製した焼結体をもう一度焼結する工程を二次焼結と呼ぶ。摩擦攪拌接合用ツール部材の製造では二次焼結はHIPで行うことが好ましい。HIP焼結により、緻密な焼結体を得ることができる。
【0057】
また、一次焼結後または二次焼結結後の冷却速度を100℃/時間以下とすることが好ましい。一般的に焼結炉のスイッチを切ると600℃/時間程度の急冷となる。100℃/時間以下の徐冷を行うことにより、後述する粒界相の結晶化を促進することができる。徐冷工程は、一次焼結後または二次焼結結後のどちらか一方または両方行ってもよい。
【0058】
また、製造工程において添加する焼結助剤の組合せとしては、次に示す組合せが好ましい。
【0059】
まず、第一の組合せとしては、MgOを0.1~1.7質量%と、Alを0.1~4.3質量%と、SiCを0.1~10質量%と、SiOを0.1~2質量%とを添加するものである。これにより、Mg、Al、Si、Cの4種を添加剤分として含有することになる。なお、MgOとAlとを添加する場合、MgO・Alスピネルとして0.2~6質量%添加しても良い。
【0060】
また、上記第一の組合せに、TiOを0.1~2質量%追加してもよい。第一の組合せにTiOを添加することにより、Mg、Al、Si、C、Tiの5種を添加剤分として含有することになる。
【0061】
また、第二の組合せとしては、Yを0.2~3質量%と、MgO・Alスピネルを0.5~5質量%と、AlNを2~6質量%と、HfOを0.5~3質量%と、MoCを0.1~3質量%とを添加するものである。第二の組合せは、添加成分として、Y、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
また、Yの代わりに、ランタノイド元素の酸化物を使用しても良い。この場合は、ランタノイド元素、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
【0062】
また、第三の組合せとしては、Yを2~7質量%と、AlNを3~7質量%と、HfOを0.5~4質量%とを添加するものである。これにより、添加成分をY、Al、Hfの3種類とするものである。
また、Yの代わりに、ランタノイド元素の酸化物を使用しても良い。この場合は、ランタノイド元素、Al、Hfの3種類とするものである。
また、上記第一ないし第三の組合せにおいて、焼結助剤成分の含有量の上限は合計で15質量%以下とする。
【0063】
上記第一ないし第三の組合せは、いずれもYとAlとを添加する組合せを使用していないことである。第一の組合せはYを使用していない。また、第二の組合せは、MgO・Alスピネルとして添加している。また、第三の組合せはAlを使用していない。YとAlとの組合せでは焼結すると、YAG(Al12)、YAM(Al)、YAL(AlYO)といったイットリウムアルミニウム酸化物が形成され易い。これらイットリウムアルミニウム酸化物は、耐熱性が劣る。Yをランタノイド元素に置き換えても同様である。摩擦攪拌接合用接合ツール部材は、摩擦面の温度が800℃以上の高温環境になる。耐熱性が低下すると、接合ツール部材の耐久性が低下してしまう。
【0064】
また、上記添加成分は焼結助剤としての役目も優れている。そのため、β型窒化珪素結晶粒子のアスペクト比が2以上の割合を60%以上と高くすることができる。なお、アスペクト比が2以上の割合は以下の手順で求める。すなわち、窒化珪素焼結体の任意の断面をSEM観察して拡大写真(倍率:3000倍以上)を撮影する。次に、拡大写真に写る窒化珪素結晶粒子の長径と短径とを測定し、アスペクト比を求める。単位面積50μm×50μmあたりのアスペクト比が2以上の窒化珪素結晶粒子の面積比(%)を求めるものとする。
【0065】
また、窒化珪素焼結体は、粒界相の結晶化率が50%以上であることが好ましい。粒界相は焼結助剤成分が反応して形成される。粒界相中に結晶相の割合を増やすことにより、線膨張係数の制御を行い易くなる。結晶相を増やすには、焼結助剤として酸化アルミニウム(Al)を用いないことが有効である。Alは、焼結促進効果は高い。その一方で、得られる粒界相は非晶質相になり易い。非晶質相はガラス相とも呼ばれている。非晶質相は線膨張率のばらつきを生じ易い。このため、粒界相の結晶化率は50%以上、さらには70%以上が好ましい。また、前述のような第三の組合せは、焼結助剤としてAlを用いないため、粒界相の結晶化率を70%以上にできる。この点からも第三の組合せは好ましい。
【0066】
また、第一ないし第三の組合せは前述の徐冷工程を行うことにより、粒界相の結晶化率を50%以上、さらには70%以上に制御し易い組み合わせである。
【0067】
また、粒界相の結晶化率は、透過型電子顕微鏡(TEM)にて分析可能である。TEMにて窒化珪素焼結体の任意の断面を観察する。単位面積3μm×3μmに写る粒界相中の結晶相の面積比を求める。面積比(%)=[結晶相の合計面積/(非晶質相の合計面積+結晶相の合計面積)]により求める。この作業を任意の3か所行い、その平均値を粒界相の結晶化率とする。
【0068】
上記構成を有することにより、室温から200℃までの平均線膨張係数を1~3×10-6/Kの範囲内に制御することができる。また、室温から800℃までの平均線膨張係数を2~4×10-6/Kの範囲内に制御することができる。また、窒化珪素焼結体のビッカース硬度は1400HV20以上とすることができる。また、窒化珪素焼結体の破壊靭性値は6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。さらに、ビッカース硬度は1500HV1以上、破壊靭性値は6.5MPa・m1/2以上とすることができる。また、3点曲げ強度は900MPa以上、さらには1000MPa以上とすることができる。
【0069】
なお、3点曲げ強度はJIS-R-1601(2008)に準じて測定するものとする。JIS-R-1601に対応したISOはISO14704(2000)である。
【0070】
また、破壊靭性値はJIS-R-1607(2015)に準じたIF法を用い、新原の式により求めたものである。また、JIS-R-1607に対応したISOはISO/DIS21618(2018)である。
【0071】
また、ビッカース硬さは、JIS-R-1610(2003)に準じたHV20(試験力196.1N)を測定したものである。また、JIS-R-1610に対応したISOはISO14705(2000)である。
【0072】
それぞれの測定はJIS(日本工業規格)を優先とするが、適宜ISO(国際標準化機構)を参照してもよいものとする。
【0073】
上記のような摩擦攪拌接合用ツール部材1は摩擦攪拌接合方法に好適である。また、摩擦攪拌接合用ツール部材1の前進角が0.5°以上20°以下または-20°以上-0.5°以下であることが好ましい。ここで、摩擦攪拌接合用ツール部材1の前進角θとは、被接合材6に垂直な方向と、摩擦攪拌接合用ツール部材の中心線とがなす傾斜角度である。
【0074】
図5に摩擦攪拌接合方法の一例を示した。特に、図5は線接合を例示するものである。図中、1は摩擦攪拌接合用ツール部材、6は被接合材、7は裏当て材、θは前進角、である。被接合材6は裏当て材7上に配置されている。また、被接合材6は2枚重ねて配置されている。また、矢印はツール部材1の移動方向である。
点接合のときは、前進角θはゼロの状態であり、ツール部材1を被接合材6に垂直な方向に押し込んでいくことになる。
【0075】
また、線接合のときは、ツール部材1は被接合材6に垂直な方向に対し、所定の傾き(前進角θ)を持って押し込んでいく。また、矢印方向にツール部材1を移動させるものとする。この所定の傾きを前進角θとする。前進角θがゼロとは、被接合材に対し垂直方向にツール部材が配置されていることを示す。
【0076】
ツール部材1の移動方向に対し、右肩上がりの角度をプラス、右肩下がりの角度をマイナスとする。点接合では前進角θ=0°となる。また、線接合では前進角θは、0.5°以上20°以下または-20°以上-0.5°以下が好ましい。線接合はツール部材1を移動させながら接合していく。前進角θが0.5°未満(0°以上0.5°未満)であると、ツール部材1を移動方向に動かす際に、ツール部材1に作用する応力が大きくなる。このため、ツール部材1の耐久性が低下する。
【0077】
また、前進角θが20°を超えて大きいと、ツール部材1が被接合材6の深くまで入り込み難いため、被接合材6同士の接合強度が低くなリ易い。ショルダ部3が深く入りすぎると耐久性が低下する。このため、前進角θは0.5°以上20°以下、さらには2°以上10°以下が好ましい。また、前進角θに傾きを持たせる方法は線接合に適している。
【0078】
同様に、前進角θが-20°未満であるとツール部材1が被接合材6の深くまで入り込み難い。また、前進角θが-0.5°を超える(-0.5°を超えて0°以下)であるとツール部材1を移動方向に動かす際に、ツール部材1にかかる応力が大きくなる。このため、前進角θは-20°以上-0.5°以下、さらには-10°以上-2°以下が好ましい。また、前進角θがプラスとマイナスではプラスであることが好ましい。前進角θがプラスである方が攪拌力を被接合材6に付与し易いためである。前進角θがマイナスのときは、被接合材6が薄いときや、攪拌痕を被接合材6の裏側まで付けたくないときなどに有効である。
また、前進角θと前記ショルダ角αの合計量が-10°以上25°以下の範囲内であることが好ましい。
【0079】
上記ショルダ角αと前進角θとの合計量を制御することにより、ショルダ部3に作用する応力を低減した上で、攪拌効果を高めることができる。前述のように、実施形態に係るツール部材1はショルダ部3の外周縁が湾曲形状を有するように曲面加工部3aを有している。上記ショルダ角αと前進角θとの合計量を制御することにより、応力低減効果と攪拌効果の向上を両立することができる。
【0080】
また、ショルダ角αがマイナスのとき、ショルダ角αと前進角θを-3≦|α|-|θ|≦3°とすることが好ましい。ショルダ角αと前進角θの絶対値を近似させることにより、接合欠陥の発生をより抑制することができる。ショルダ部3が被接合材6に平行に近似した状態になる。なお、|α|-|θ|=0、であるとショルダ部3と被接合材6は平行になる。
【0081】
実施形態に係るツール部材1は、前述したように、ショルダ部3の外周縁が湾曲形状を有するように曲面加工部3aを有している。また、ショルダ角αが付与されている。上記前進角θの大小によって、ショルダ部3と被接合材との接触角度が変化する。上記前進角θとショルダ角αとの合計量を-10°以上25°以下の範囲内とすることにより、ショルダ部3に作用する応力低減効果と、攪拌効果向上とを両立させることができる。また、前進角θとショルダ角αとの合計量が-10°以上25°以下、さらには0°以上20°以下が好ましい。
【0082】
また、被接合材6の厚さは0.1mm以上であることが好適である。また、被接合材6の厚さが0.5~20mmであることが更に好ましい。被接合材6の厚さは1枚の厚さである。前進角θを制御した場合、ツール部材1を所定の角度θだけ傾けながら被接合材6に押圧していく。被接合材6の厚さが0.1mm未満と薄い場合には、ツール部材1が被接合材6を貫通して裏当て材7と接触し易くなる。また、被接合材の厚さが20mmを超えて厚い場合には、ツール部材1に作用する応力が大きくなりツール部材1の耐久性が低下する。
【0083】
また、被接合材6は鉄合金であることが好ましい。鉄合金としては、純鉄、炭素鋼、工具鋼、クロムモリブデン鋼、ステンレス鋼、マンガン鋼、鋳鉄など様々な合金が挙げられる。これら合金はビッカース硬度Hvが140以上である。アルミニウムのビッカース硬度Hvは25程度である。ツール部材1を窒化珪素焼結体で構成することにより、ツール部材1を硬い鉄合金への摩擦攪拌接合に適用できる。
【0084】
また、ツール部材1の回転速度が200rpm以上であり、ツール部材1の押込荷重が9.8kN(1ton)以上であることが好ましい。また、線接合を行う場合、移動速度を200mm/分以上に設定することが好ましい。ツール部材1の回転速度は200rpm以上1000rpm以下の範囲であることが好ましい。回転速度が200rpm未満では攪拌力が不十分となる恐れがある。また、回転速度が1000rpmを超えると、攪拌力が強くなり過ぎて被接合材6の接合痕の凹凸が大きくなる。接合痕の凹凸が大きくなると、接合部の外観が悪化する。このため、ツール部材1の回転速度は200~1000rpm、さらには400~800rpmの範囲内であることが好ましい。
【0085】
また、押込荷重は9.8kN以上50kN以下の範囲が好ましい。押込荷重が9.8kN未満では攪拌力が不十分となる。また、押込荷重が50kNを超えると、ツール部材1の寿命が低下する恐れがある。このため、押込荷重は、14kN以上35kN以下の範囲がより好ましい。
【0086】
上記ツール部材1の回転速度および押込荷重は、点接合、線接合のいずれの場合でも適用できる。また、線接合を行う場合、移動速度は300mm/分以上1500mm/分以下の範囲内であることが好ましい。移動速度が300mm/分未満ではスピードが遅すぎて量産性が低下する。一方、移動速度が1500rpmを超えて早いと、部分的に攪拌力が低下して、被接合材同士の接合強度が低下する。このため、移動速度は300~1500mm/分が好ましく、さらには400~1000mm/分であることがさらに好ましい。
【0087】
以上の摩擦攪拌接合方法であれば、ツール部材1の高い攪拌力と耐久性とを両立することができる。また、攪拌力を均一にできるので接合痕(攪拌痕)を解消して接合部の美観を向上させることができる。
【0088】
また、線膨張係数を制御した窒化珪素焼結体から成るツール部材1を用いることにより、ツール部材の被接合材への進入深さを安定的に制御することができる。この点からも接合痕をきれいにすることができる。
【0089】
接合痕の美観が良好であるかの評価は、被接合材6の深さ方向の欠陥の有無で判別するものとする。深さ方向の欠陥の有無は、超音波探傷試験により測定することができる。超音波探傷試験は、構造物に対する非破壊試験法である。構造物を超音波が伝播するとき、内部欠陥があるとそこから超音波が反射されたり、超音波の透過が妨害・減衰されたりする性質を利用して、内部欠陥を検出する方法である。
【0090】
また、ツール部材1の被接合材への進入深さを安定的に制御できるため、ツール部材1の裏当て材への接触を防止することができる。この点からもツール部材1の長寿命化を図ることができる。
【0091】
なお、裏当て材は、熱伝導率が30W/m・K以下であり、ビッカース硬度Hvが1400以上である材料で形成されることが好ましい。ツール部材1の高速回転により発生した摩擦熱を攪拌接合に十分に活かすためには、裏当て材は熱伝導率が低い材料で形成されることが好ましい。また、ツール部材1の押圧力を攪拌接合に活かすためには、裏当て材は硬い材料で形成されることが好ましい。また、裏当て材は窒化珪素焼結体で形成されることが好ましい。また、裏当て材は室温~800℃の線膨張係数が2~4×10-6/Kである窒化珪素焼結体で形成されることが好ましい。ツール部材1と裏当て材の線膨張係数を2~4×10-6/Kの範囲内とすることにより、ツール部材1の被接合材への進入深さをより安定的に制御することができる。この点からも接合痕を解消し美観を向上させることができる。
【0092】
以上、側面方向からの投影図から求められる空間占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするツール部材1について説明したが、その場合に限定されるものではない。例えば、ツール部材1の立体的形状から求められる、ショルダ部3とプローブ部2とがいずれも存在しない3次元空間が占める空間占有率(つまり、体積率)が30~70%の範囲内であってもよい。
【0093】
その場合、ツール部材1は、ショルダ部3と、ショルダ部3の上面から同心状に突設されたプローブ部2とを有する。ツール部材1において、ショルダ部3は、その外周縁に、湾曲形状を有するように曲面加工された曲面加工部3aを備える。そして、曲面加工部3aの最外部Pを円弧とする円形の下面と、プローブ部2の先端cを中心とする円形の上面とによって形成される半円柱領域(又は円柱領域)に対して、ショルダ部3とプローブ部2とがいずれも存在しない3次元空間が占める空間占有率(つまり、体積率)が30~70%の範囲内であることを特徴とするものである。この場合でも、側面方向からの投影図から求められる空間占有率(つまり、面積率)が30~70%の範囲内である場合と同様の効果が得られる。
【0094】
なお、ツール部材1が存在しない3次元空間の空間占有率(%)の測定には、三次元測定器(キーエンス製)などの形状測定器が用いられてもよい。形状測定器を用いて画像解析することにより、ツール部材1が存在しない2次元空間の空間占有率の場合と同様に、ツール部材1が存在しない3次元空間の空間占有率を求めることができる。
【0095】
(実施例)
(実施例1~13および比較例1~2)
ツール部材1として表1に示す試料を用意した。なお、表1中の線膨張係数は常温から200℃までの値である。また、線膨張係数はJIS-R-1618に準じて測定した平均線膨張係数である。また、ビッカース硬度はJIS-R-1610に準じて測定したものである。また、3点曲げ強度はJIS-R-1601に準じて測定したものである。
【0096】
また、窒化珪素焼結体は、前述の第一ないし第三の組合せを用いたものである。また、一次焼結は、1600~1800℃で常圧焼結したものである。その後、二次焼結として、1600~1800℃でHIP焼結を行ったものである。また、試料1および試料2は一次焼結後および二次焼結後の冷却速度を100℃/時間以下の徐冷を行った。また、試料6は焼結後の徐冷は行わなかった。
【0097】
【表1】
【0098】
また、試料1、試料2、試料6の窒化珪素焼結体について、室温~800℃の線膨張係数を調べた。試料1および試料2は、2~4×10-6/Kの範囲内であった。試料6は、4~5×10-6/Kの範囲内であった。
【0099】
また、試料1、試料2、試料6の窒化珪素焼結体について、粒界相の結晶化率を測定した。粒界相の結晶化率の測定は、TEMにより測定した。単位面積3μm×3μmに写る粒界相中の結晶相の面積比を求めた。単位面積3か所の平均値を粒界相の結晶化率(%)とした。測定の結果、試料1および試料2は粒界相の結晶化率が50%以上であった。また、試料6は粒界相の結晶化率が20%程度であった。
【0100】
この点から、焼結工程後の徐冷(冷却速度100℃/時間以下)を行うことにより、粒界相の結晶化率を大きくする効果があることが分かった。また、粒界相の結晶化率を大きくすることにより、線膨張係数を好ましい範囲にできることが分かった。
【0101】
試料1~6に係る材料を用いて図1図4に示すような摩擦攪拌接合用ツール部材1を作製した。ツール部材1の形状は表2に示した通りである。また、プローブ部2の端面2aは湾曲形状とし、表面粗さRa0.2μm以下の研磨面とした。また、ツール部材1はプローブ部2の中心軸Cを中心とする軸対称の形状とした。また、各ショルダ部3の外周縁は湾曲形状となるように曲面加工部3aを形成した。また、空間占有率(%)はツール部材1を側面方向から写真撮影した場合の、2次元空間の割合を求めたものである。
【0102】
また、ショルダ角θがマイナスのものは、プローブ部2の基端部からショルダ部3がまっすぐになった側面までの高さUを0.2mm以下にした。
【0103】
【表2】
【0104】
上記実施例および比較例に係るツール部材を用いて、摩擦攪拌接合を行った。その条件は表3に示した通りである。被接合材はSUS304で統一した。なお、SUS304はビッカース硬さがHv200のものである。また、押圧力はツール部材の押し込み荷重のことである。また、2枚のSUS304板をつき合わせて線接合を行った。接合条件は線接合に統一した。このため、表3に示した被接合材の厚さは1枚のSUS304板の厚さである。
【0105】
【表3】
【0106】
実施例および比較例に係るツール部材を上記接合条件1~6で摩擦攪拌接合を行った。接合性能は、1mの接合部形成後と10mの接合部形成後における接合痕深さと被接合材の引張強度を測定した。また、引張強度はJIS-Z-3111(2005)に準じて測定した。なお、参考例1は実施例4のツール部材を接合条件1で摩擦攪拌接合を実施したものである。また、参考例2は実施例8のツール部材を接合条件7で摩擦攪拌接合を実施したものである。参考例1はショルダ角と前進角の合計が好ましい範囲外となったものである。
【0107】
また、10mの接合部形成後の接合痕の欠陥の有無を調査した。欠陥の有無は超音波探傷試験装置を用いて測定した。なお、1mの接合部形成は50cmを連続接合したものを2回行ったものである。また、10mの接合部形成は50cmを連続接合したものを20回行ったものである。
【0108】
測定結果を下記表4に示す。
【表4】
【0109】
上記表4に示す結果から明らかなように、各実施例に係るツール部材を用いた摩擦攪拌接合方法は優れた結果が得られた。各実施例に係るツール部材を用いたものは1mの接合部形成後に関しては優れた接合が確認できた。
【0110】
特に、窒化珪素焼結体から成るツール部材を用いたものは、優れた耐久性を示した。また、10mの接合部形成後の接合痕にも欠陥はなく、外観が良好な接合が得られた。それに対し、実施例11~13に係るツール部材を用いたものは、10mの接合部形成後には接合強度の低下が見られた。また、参考例1のようにショルダ角αと前進角θの合計が-9°~25°の範囲外のものは10mの接合部形成後の接合強度が低下した。これはショルダ部と被接合材の接触角度が不良であるためである。
【0111】
また、実施例14~16はショルダ角マイナスのときに-3≦|α|-|θ|≦3の範囲内にしたものである。1m後と10m後の接合深さの変化量が0mm以上0.01mm以下であった。この範囲にすることにより、接合深さが安定し、接合品位が向上していることが分かる。
【0112】
また、比較例1および比較例2のように空間占有率が範囲外のものは、10mの接合部形成に到達する前にツール部材が破損した。
【0113】
また、参考例1のように、ショルダ角αと前進角θの合計が好ましい範囲を外れると欠陥が形成された。これはショルダ部と被接合材の接触の仕方が望ましくないためである。
【0114】
また、参考例2のように、被接合材の板厚に対し、プローブ部の高さTが大きいものでは接合強度が低下した。これは線接合ではプローブが被接合材を突き抜けてしまうことが良くないことを示している。このように、ショルダ角αと前進角θを調整することは重要であることが分かる。
【0115】
また、厚さ1mmのSUS304板を2枚または3枚重ねて線接合を行った場合の接合痕深さ、接合痕の欠陥の有無を調べた。ツール部材は、実施例1、実施例8、実施例14および実施例15のものを用いた。また、接合条件2により行った。その結果を表5に示す。
【0116】
【表5】
【0117】
表5から分かる通り、SUS板を重ねて線接合したとしても優れた特性が得られた。
【0118】
以上、上述した少なくとも1つの実施形態によれば、寿命が長い摩擦攪拌接合用ツール部材を提供することができる。
【0119】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
図1
図2
図3
図4
図5