(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-08-24
(45)【発行日】2023-09-01
(54)【発明の名称】アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置
(51)【国際特許分類】
G11B 5/66 20060101AFI20230825BHJP
G11B 5/02 20060101ALI20230825BHJP
H01F 10/14 20060101ALI20230825BHJP
H01F 10/16 20060101ALI20230825BHJP
【FI】
G11B5/66
G11B5/02 T
H01F10/14
H01F10/16
(21)【出願番号】P 2019198443
(22)【出願日】2019-10-31
【審査請求日】2022-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100108187
【氏名又は名称】横山 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(73)【特許権者】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 伸
(72)【発明者】
【氏名】福島 隆之
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/163658(WO,A1)
【文献】特開2018-147548(JP,A)
【文献】特開2018-137021(JP,A)
【文献】特開2015-005317(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/82
G11B 5/00 - 5/024
H01F 10/14
H01F 10/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、下地層と、L1
0型結晶構造を有する合金を含む磁性層とをこの順で有し、
前記磁性層に接しているピニング層をさらに有し、
前記ピニング層は、磁性粒子と粒界部を含むグラニュラー構造を有し、
前記磁性粒子は、Coを含む粒子であり、
前記粒界部は、Y
2O
3及び/又はランタノイドの酸化物を含
み、
前記ピニング層に含まれる磁性粒子のキュリー温度をP
Tc
[K]とし、前記L1
0
型結晶構造を有する合金のキュリー温度をM
Tc
[K]とすると、式
P
Tc
-M
Tc
≧200
を満たすことを特徴とするアシスト磁気記録媒体。
【請求項2】
前記ピニング層は、厚さが1nm以上10nm以下であることを特徴とする請求項
1に記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項3】
前記基板上に、前記下地層と、前記磁性層と、前記ピニング層をこの順で有することを特徴とする請求項1
または2に記載のアシスト磁気記録媒体。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体を有することを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アシスト磁気記録媒体及び磁気記憶装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハードディスク装置に対する大容量化の要求は、益々強くなっている。
【0003】
しかしながら、現行の記録方式では、ハードディスク装置の記録密度を向上させることが難しくなってきている。
【0004】
アシスト磁気記録方式は、次世代の記録方式として盛んに研究され、注目されている技術の1つである。アシスト磁気記録方式は、磁気ヘッドから磁気記録媒体に近接場光又はマイクロ波を照射し、近接場光又はマイクロ波が照射された領域の保磁力を局所的に低下させて磁気情報を書き込む記録方式である。近接場光が照射されるアシスト磁気記録媒体を熱アシスト磁気記録媒体と呼び、マイクロ波が照射されるアシスト磁気記録媒体をマイクロ波アシスト磁気記録媒体と呼ぶ。
【0005】
アシスト磁気記録方式では、磁性層を構成する磁性材料として、例えば、L10型結晶構造を有するFePt合金(Ku~7×107erg/cm3)、L10型結晶構造を有するCoPt合金(Ku~5×107erg/cm3)等の高Ku材料が用いられている。
【0006】
磁性層を構成する磁性材料として、高Ku材料を用いると、KuV/kTが大きくなるため、熱ゆらぎによる減磁を抑制することができ、その結果、アシスト磁気記録媒体のシグナルノイズ比(SNR)を向上させることができる。
【0007】
ここで、Kuは、磁性粒子の磁気異方性定数であり、Vは、磁性粒子の体積であり、kは、ボルツマン定数であり、Tは、絶対温度である。
【0008】
特許文献1には、基板と、下地層と、L10型結晶構造を有する合金を主成分とする磁性層とをこの順で有するアシスト磁気記録媒体が開示されている。ここで、アシスト磁気記録媒体は、磁性層に接したピニング層を有する。また、ピニング層はCo又はCoを主成分とする合金を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、アシスト磁気記録媒体の記録密度をさらに向上させるために、アシスト磁気記録媒体のSNRをさらに向上させることが求められている。
【0011】
本発明は、SNRに優れるアシスト磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)基板上に、下地層と、L10型結晶構造を有する合金を含む磁性層とをこの順で有し、前記磁性層に接しているピニング層をさらに有し、前記ピニング層は、磁性粒子と粒界部を含むグラニュラー構造を有し、前記磁性粒子は、Coを含む粒子であり、前記粒界部は、Y2O3及び/又はランタノイドの酸化物を含むことを特徴とするアシスト磁気記録媒体。
(2)前記ピニング層に含まれる磁性粒子のキュリー温度をPTc[K]とし、前記L10型結晶構造を有する合金のキュリー温度をMTcとすると、式
PTc-MTc≧200
を満たすことを特徴とする(1)に記載のアシスト磁気記録媒体。
(3)前記ピニング層は、厚さが1nm以上10nm以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載のアシスト磁気記録媒体。
(4)前記基板上に、前記下地層と、前記磁性層と、前記ピニング層をこの順で有することを特徴とする(1)~(3)のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体。
(5)(1)~(4)のいずれか1項に記載のアシスト磁気記録媒体を有することを特徴とする磁気記憶装置。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、SNRに優れるアシスト磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施形態のアシスト磁気記録媒体の一例を示す模式図である。
【
図2】本実施形態の磁気記憶装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図2の磁気ヘッドの一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形及び置換を加えることができる。
【0016】
図1に、本実施形態のアシスト磁気記録媒体の一例を示す。
【0017】
アシスト磁気記録媒体100は、基板1上に、シード層2と、第1の下地層3と、第2の下地層4と、磁性層5と、ピニング層6と、保護層7と、潤滑膜8を、この順で有する。
【0018】
ここで、磁性層5は、L10型結晶構造を有する合金を含み、L10型結晶構造を有する合金が(001)配向している。
【0019】
ピニング層6は、磁性層5に接しており、磁性粒子と粒界部を含むグラニュラー構造を有する。ここで、磁性粒子は、Coを含む粒子であり、粒界部は、Y2O3及び/又はランタノイドの酸化物を含む。ピニング層6は、磁性層5に磁気情報を書き込む際に、磁性粒子の磁化方向をピン止めする機能を有する。
【0020】
一般に、磁気ヘッドから照射される近接場光又はマイクロ波により、アシスト磁気記録媒体の磁性層の保磁力を局所的に低下させて、磁性層に磁気情報を書き込むが、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層には、近接場光又はマイクロ波の照射による効果が残留しているため、一部の磁性粒子で磁化反転が生じ、ノイズの原因となっている。
【0021】
このため、特許文献1のアシスト磁気記録媒体には、磁性層と接しているピニング層が形成されており、その結果、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転を抑制することができる。
【0022】
ここで、引用文献1のアシスト磁気記録媒体では、磁性層に磁気情報を書き込む時の書きにじみを防ぐために、非磁性粒界部を含むグラニュラー構造を有するピニング層が形成されている。これは、ピニング層中の磁性粒子間の交換結合を遮断することに加え、ピニング層を介して、磁性層中の磁性粒子同士が交換結合することを防ぐためである。
【0023】
しかしながら、ピニング層中の非磁性粒界部からの漏れ磁場がノイズの原因となる場合がある。漏れ磁場の影響は、磁性層の表層側にピニング層が形成されている場合に、顕著となる。
【0024】
そこで、アシスト磁気記録媒体100では、ピニング層6中の粒界部を、僅かに磁性を有するY2O3及び/又はランタノイドの酸化物で構成し、ピニング層6中の磁性粒子間の交換結合を僅かに生じさせることで、ピニング層6中の粒界部からの漏れ磁場を低減することができる。この効果は、低温時(室温時)において、顕著となるため、ノイズの発生を防ぐことができる。
【0025】
ピニング層6中の粒界部に含まれるランタノイドの酸化物におけるランタノイドとしては、例えば、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユウロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)等が挙げられる。
【0026】
ランタノイドの酸化物の具体例としては、La2O3、CeO2、Ce2O3、Pr6O11、Nd2O3、Pm2O3、Sm2O3、Eu2O3、Gd2O3、Tb2O3、Tb4O7、Dy2O3、Ho2O3、Er2O3、Tm2O3、Yb2O3、Lu2O3等が挙げられる。
【0027】
また、Y2O3及び/又はランタノイドの酸化物は、引用文献1のアシスト磁気記録媒体のピニング層の粒界部を構成する材料(例えば、SiO2、Cr2O3、TiO2、B2O3、GeO2、MgO、Ta2O5、CoO、Co3O4、FeO、Fe2O3、Fe3O4等)に比べ、融点が高いため、ピニング層6が平坦化される。そして、ピニング層6が平坦化されると、アシスト磁気記録媒体100の表面も平坦化されるため、磁気ヘッドと磁性層5とのスペーシングロスが低減し、アシスト磁気記録媒体100のSNRが向上する。
【0028】
ピニング層6に含まれる磁性粒子のキュリー温度をPTc[K]と、磁性層5に含まれるL10型結晶構造を有する合金のキュリー温度をMTc[K]とすると、式
PTc-MTc≧200
を満たすことが好ましく、式
PTc-MTc≧300
を満たすことがより好ましく、式
PTc-MTc≧500
を満たすことが特に好ましい。式
PTc-MTc≧200
を満たすと、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転をより効果的に抑制することができる。
【0029】
なお、PTc-MTcの最適値は、ピニング層6を構成する材料、ピニング層6の厚さ、磁性層5を構成する材料、磁性層5の厚さ、磁性層5中の磁性粒子の粒度分布に依存する。
【0030】
代表的な磁性材料のキュリー温度を以下に示す。
【0031】
Co:1388K
Fe:1044K
Ni:624K
FePt合金:~750K
SmCo5合金:~1000K
CoCrPt系合金:400~600K
これらの値から、ピニング層6中の磁性粒子の組成及びキュリー温度を決定することができる。実用的な磁性材料の中で、最もキュリー温度が高いのはCoであることから、PTc及びPTc-MTcが最大となるのは、ピニング層6中の磁性粒子として、Co粒子を用いる場合である。PTc-MTcが大きい程、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転を抑制する効果を保証することができるため、ピニング層6中の磁性粒子がCo粒子であることが好ましい。
【0032】
ピニング層6中の磁性粒子を構成する材料として、キュリー温度の高いCo又はCoFe合金を用いると、PTc-MTcを好適な範囲とすることができる。
【0033】
ピニング層6中の磁性粒子を構成する材料としては、例えば、Co、CoFe合金、CoPt合金、CoB合金、CoSi合金、CoC合金、CoNi合金、CoPtB合金、CoPtSi合金、CoPtC合金、CoGe合金、CoBN合金(非グラニュラー構造)、CoSi3N4合金(非グラニュラー構造)等が挙げられる。
【0034】
ピニング層6中の磁性粒子を構成する材料は、ピニング層6に接している磁性層5に含まれている元素や磁性層5に拡散しても影響の少ない元素を含んでいてもよい。
【0035】
ピニング層6中の磁性粒子がCo合金粒子である場合、Co合金中のCo以外の元素(例えばFe、Pt、B、Si、C、Ni、Ge、N等)の含有量は、15at%以下であることが好ましく、10at%以下であることがより好ましい。Co合金中のCo以外の元素の含有量が15at%以下であると、Co合金粒子の飽和磁化及び/又はキュリー温度が大きく低下しないため、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転をさらに抑制することができる。
【0036】
ピニング層6中の粒界部の含有量は、10体積%~50体積%であることが好ましく、15体積%~45体積%であることがより好ましい。ピニング層6中の粒界部の含有量が10体積%~50体積%であると、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転をさらに抑制することができる。
【0037】
ピニング層6の厚さは、1nm~10nm以下であることが好ましく、1nm~6nmであることがより好ましい。ピニング層6の厚さが1nm以上であると、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転をさらに抑制することができ、10nm以下であると、ピニング層6中の粒界部からの漏れ磁場をさらに低減することができる。
【0038】
なお、ピニング層6の好適な厚さは、PTc-MTcの値、ピニング層6を構成する材料、磁性層5を構成する材料及び厚さ、磁性層5を構成する磁性粒子の粒度分布等に依存する。
【0039】
また、ピニング層6の厚さの上限は、ピニング層6中の磁性粒子を構成する材料に依存し、磁性粒子がCo粒子であれば、ピニング層6の厚さを6nm以下とすることが好ましく、磁性粒子がCo合金粒子であれば、ピニング層6の厚さを8nm以下とすることが好ましい。
【0040】
ピニング層6は、磁性層5に対して、基板1の側に形成されていてもよいが、基板1とは反対の側に形成されていることが好ましい。前述したように、ピニング層6は、ピニング層6中の粒界部からの漏れ磁場を低減することができるため、磁気ヘッドに近い側にピニング層6が形成されている方が効果的である。
【0041】
また、ピニング層6中のCoを含む粒子が、hcp構造等のL10型結晶構造以外の結晶構造を有する場合、ピニング層6が、磁性層5に対して、基板1とは反対の側に形成されていると、磁性層5の(001)配向性をさらに向上させることができる。
【0042】
アシスト磁気記録媒体100は、単層構造のシード層と、積層構造の下地層を有する、即ち、基板1上に、シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4が、この順で形成されている。シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4は、第2の下地層4上に形成されている磁性層5と格子整合していることが好ましい。これにより、磁性層5の(001)配向性をさらに向上させることができる。
【0043】
シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4を構成する材料としては、例えば、(100)配向している、Cr、W、MgO等が挙げられる。
【0044】
シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4の各層の間における格子ミスフィットは、10%以下であることが好ましい。
【0045】
各層の間における格子ミスフィットが10%以下である、シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4としては、例えば、(100)配向している、Cr、W、MgO等が積層している構造が挙げられる。
【0046】
シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4を確実に(100)配向させるために、シード層2、第1の下地層3、又は、第2の下地層4の下に、Cr層、Crを含み、bcc構造を有する合金層、又は、B2構造を有する合金層を形成してもよい。
【0047】
Crを含み、bcc構造を有する合金としては、例えば、CrMn合金、CrMo合金、CrW合金、CrV合金、CrTi合金、CrRu合金等が挙げられる。
【0048】
B2構造を有する合金としては、例えば、RuAl合金、NiAl合金等が挙げられる。
【0049】
磁性層5との格子整合性を向上させるために、シード層2、第1の下地層3、第2の下地層4の少なくとも1つが酸化物を含んでいてもよい。
【0050】
酸化物は、Cr、Mo、Nb、Ta、V及びWからなる群より選択される1種以上の元素の酸化物であることが好ましい。
【0051】
酸化物としては、例えば、CrO、Cr2O3、CrO3、MoO2、MoO3、Nb2O5、Ta2O5、V2O3、VO2、WO2、WO3、WO6等が挙げられる。
【0052】
シード層2、第1の下地層3又は第2の下地層4中の酸化物の含有量は、2mol%~30mol%の範囲内であることが好ましく、10mol%~25mol%の範囲内であることがより好ましい。シード層2、第1の下地層3又は第2の下地層4中の酸化物の含有量が2mol%以上であると、磁性層5の(001)配向性をさらに向上させることができ、30mol%以下であると、シード層2、第1の下地層3又は第2の下地層4の(100)配向性をさらに向上させることができる。
【0053】
磁性層5に含まれるL10型結晶構造を有する合金としては、例えば、FePt合金、CoPt合金等が挙げられる。
【0054】
磁性層5の(001)配向性を向上させるために、磁性層5の成膜時に加熱処理することが好ましい。この場合、加熱温度を低減するために、L10型結晶構造を有する合金に、Ag、Au、Cu、Ni等を添加してもよい。
【0055】
磁性層5に含まれるL10型結晶構造を有する合金は、磁気的に孤立している磁性粒子であることが好ましい。このために、磁性層5は、SiO2、TiO2、Cr2O3、Al2O3、Ta2O5、ZrO2、Y2O3、CeO2、GeO2、MnO、TiO、ZnO、B2O3、C、B及びBNからなる群より選択される1種以上の物質をさらに含むことが好ましい。これにより、磁性粒子間の交換結合をより確実に分断し、アシスト磁気記録媒体100のSNRをさらに向上させることができる。
【0056】
磁性層5に含まれる磁性粒子のメジアン径は、アシスト磁気記録媒体100の記録密度を向上させる観点から、10nm以下であることが好ましい。
【0057】
一般に、磁性層に含まれる磁性粒子の体積が小さくなると、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における熱ゆらぎの影響を受けやすくなる。
【0058】
しかしながら、ピニング層6が磁性層5に接していることで、磁性層5に含まれる磁性粒子の磁化方向をピン止めすることができる。その結果、磁性層5に含まれる磁性粒子のメジアン径が小さくても、磁気情報を書き込んだ直後の磁性層5における磁性粒子の磁化反転に由来するノイズを低減し、アシスト磁気記録媒体100のSNRを向上させることができる。
【0059】
なお、磁性粒子のメジアン径は、TEMの観察画像を用いて決定することができる。
【0060】
例えば、TEMの観察画像から、200個の磁性粒子の粒径(円相当径)を測定し、積算値50%における粒径をメジアン径とする。
【0061】
磁性層5に含まれる粒界部の幅の平均値は、0.3nm~2.0nmであることが好ましい。
【0062】
磁性層5は、単層構造を有するが、積層構造を有していてもよい。
【0063】
積層構造を有する磁性層は、例えば、SiO2、TiO2、Cr2O3、Al2O3、Ta2O5、ZrO2、Y2O3、CeO2、GeO2、MnO、TiO、ZnO、B2O3、C、B及びBNからなる群より選択される1種以上の物質が異なる層が積層されている。
【0064】
磁性層5の厚さは、1nm~20nmであることが好ましく、3nm~15nmであることがより好ましい。磁性層5の厚さが1nm以上であると、再生出力を向上させることができ、20nm以下であると、磁性粒子の肥大化を抑制することができる。
【0065】
なお、積層構造を有する磁性層の場合、上記磁性層の厚さは、積層構造を構成する全ての層の厚さの合計を指す。
【0066】
磁気記録媒体100は、ピニング層6上に、保護層7が形成されているが、保護層7が形成されていなくてもよい。
【0067】
保護層7を構成する材料としては、例えば、炭素等が挙げられる。
【0068】
保護層7の形成方法としては、例えば、炭化水素からなる原料ガスを高周波プラズマで分解して成膜するRF-CVD(Radio Frequency-Chemical Vapor Deposition)法、フィラメントから放出された電子で原料ガスをイオン化して成膜するIBD(Ion Beam Deposition)法、固体Cターゲットを用いて、成膜するFCVA(Filtered Cathodic Vacuum Arc)法等が挙げられる。
【0069】
保護層7の厚さは、1nm~6nmであることが好ましい。保護層7の厚さが1nm以上であると、磁気ヘッドの浮上特性を向上させることができ、6nm以下であると、磁気スペーシングロスを低減して、アシスト磁気記録媒体100のSNRをさらに向上させることができる。
【0070】
磁気記録媒体100は、保護層7上に、潤滑膜8が形成されているが、潤滑膜8が形成されていなくてもよい。
【0071】
潤滑膜8は、パーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を塗布して、形成することができる。
【0072】
(磁気記憶装置)
本実施形態の磁気記憶装置の構成例について説明する。
【0073】
本実施形態の磁気記憶装置は、本実施形態のアシスト磁気記録媒体を有する。
【0074】
本実施形態の磁気記憶装置は、例えば、アシスト磁気記録媒体を回転させるためのアシスト磁気記録媒体駆動部と、アシスト磁気記録媒体に対する記録動作と再生動作とを行う磁気ヘッドと、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部と、記録再生信号処理系を有する。
【0075】
磁気ヘッドは、例えば、先端部に近接場光発生素子を備えた磁気ヘッドと、先端部に再生素子を備えた再生ヘッドを有する。
【0076】
記録ヘッドは、例えば、アシスト磁気記録媒体を加熱するためのレーザー発生部と、レーザー発生部から発生したレーザー光を近接場光発生素子まで導く導波路を含む近接場光照射部を有する。
【0077】
【0078】
図2に示す磁気記憶装置は、アシスト磁気記録媒体100と、アシスト磁気記録媒体100を回転させるためのアシスト磁気記録媒体駆動部101と、磁気ヘッド102と、磁気ヘッドを移動させるための磁気ヘッド駆動部103と、記録再生信号処理系104を有する。
【0079】
図3に、磁気ヘッド102の一例として、熱アシスト磁気記録媒体212用の磁気ヘッド102を示す。
【0080】
磁気ヘッド102は、記録ヘッド208と、再生ヘッド211を有する。
【0081】
記録ヘッド208は、主磁極201と、補助磁極202と、磁界を発生させるためのコイル203と、近接場光照射部213を有する。ここで、近接場光照射部213は、レーザーダイオード(LD)204と、LD204から発生したレーザー光205を近接場光発生素子206まで伝達するための導波路207を含む。
【0082】
再生ヘッド211は、シールド209で挟まれた再生素子210を有する。
【0083】
なお、マイクロ波アシスト磁気記録媒体用の磁気ヘッドは、熱アシスト磁気記録媒体212用の磁気ヘッド102の近接場光照射部213をマイクロ波照射部に置き換えたものであるため、説明を省略する。
【0084】
図2に示す磁気記憶装置は、アシスト磁気記録媒体100を有するため、アシスト磁気記録媒体100に磁気情報を書き込むことに起因するノイズを低減することが可能になり、その結果、アシスト磁気記録媒体100に書き込まれた磁気情報を読み込む時のSNRを向上させることが可能となる。これにより、高記録密度の磁気記憶装置を提供することができる。
【実施例】
【0085】
以下に、本発明の実施例を説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0086】
(実施例1)
以下のようにして、アシスト磁気記録媒体100(
図1参照)を作製した。
【0087】
外径2.5インチのガラス製の基板1上に、膜厚50nmのCr-50at%Ti合金膜を成膜した。次に、基板1を350℃まで加熱した後、シード層2としての、膜厚15nmのCr膜、第1の下地層3としての、膜厚30nmのW膜、第2の下地層4としての、膜厚3nmのMgO膜を順次成膜した。次に、基板1を650℃まで加熱した後、磁性層5としての、膜厚2nmの(Fe-50at%Pt)-40mol%C膜、膜厚4.5nmの85mol%(Fe-50at%Pt)-15mol%SiO2膜を順次成膜した。ここで、L10型結晶構造を有する合金粒子としての、(Fe-50at%Pt)粒子のキュリー温度MTCは、700Kである。次に、ピニング層6としての、Co-20体積%Dy2O3膜を成膜した。ここで、ピニング層6に含まれる磁性粒子としての、Co粒子のキュリー温度PTCは、1300Kである。次に、保護層7としての、膜厚4nmのC膜を成膜した後、潤滑膜8としての、膜厚1.5nmのパーフルオロポリエーテル系の潤滑剤を塗布して、アシスト磁気記録媒体100を得た。
【0088】
(実施例2~21、比較例1~7)
ピニング層6を構成する材料及び膜厚を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様に、アシスト磁気記録媒体を得た。
【0089】
(ピニング層の算術平均粗さRa)
ピニング層を形成した後の基板を取り出し、AFMを用いて、ピニング層の算術平均粗さRaを測定した。
【0090】
次に、アシスト磁気記録媒体のノイズ、SNRを測定した。
【0091】
(ノイズ、SNR)
磁気ヘッド102(
図3参照)を用いて、線記録密度1500kFCIのオールワンパターン信号をアシスト磁気記録媒体に記録し、ノイズとSNRを測定した。ここで、レーザーダイオードに投入するパワーを、トラックプロファイルの半値幅(トラック幅MWW)が60nmとなるように、調整した。
【0092】
表1に、アシスト磁気記録媒体のノイズ、SNRの測定結果を示す。
【0093】
【表1】
表1から、実施例1~22のアシスト磁気記録媒体は、SNRが高いことがわかる。
【0094】
これに対して、比較例1~7のアシスト磁気記録媒体は、ピニング層中の粒界部がY2O3又はランタノイドの酸化物を含まないため、SNRが低い。
【符号の説明】
【0095】
1 基板
2 シード層
3 第1の下地層
4 第2の下地層
5 磁性層
6 ピニング層
7 保護層
8 潤滑膜
100 アシスト磁気記録媒体
101 アシスト磁気記録媒体駆動部
102 磁気ヘッド
103 磁気ヘッド駆動部
104 記録再生信号処理系
201 主磁極
202 補助磁極
203 コイル
204 レーザーダイオード
205 レーザー光
206 近接場光発生素子
207 導波路
208 記録ヘッド
209 シールド
210 再生素子
211 再生ヘッド
212 熱アシスト磁気記録媒体
213 近接場光照射部