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  • 特許-石炭の発熱検知方法および発熱検知装置 図1
  • 特許-石炭の発熱検知方法および発熱検知装置 図2
  • 特許-石炭の発熱検知方法および発熱検知装置 図3
  • 特許-石炭の発熱検知方法および発熱検知装置 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-04
(45)【発行日】2023-09-12
(54)【発明の名称】石炭の発熱検知方法および発熱検知装置
(51)【国際特許分類】
   G01K 13/10 20060101AFI20230905BHJP
【FI】
G01K13/10
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019204668
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021076519
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003285
【氏名又は名称】千代田化工建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【弁理士】
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】日置 輝夫
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕晶
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼城 恭司
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 大介
(72)【発明者】
【氏名】前田 守彦
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 靖紘
(72)【発明者】
【氏名】池田 耕己
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-185264(JP,A)
【文献】特開2009-254964(JP,A)
【文献】特開平8-285693(JP,A)
【文献】宮崎 習,“石炭サイロ発熱監視装置の研究開発”,研究期報,109号,株式会社四国総合研究所,2018年12月,p.14-21,https://www.ssken.co.jp/research/pdf/109/109_03.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
G01N 1/00-37/00
B65G 3/00-3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
貯蔵された石炭の表面近傍において揮発性有機化合物を検出するステップと、
揮発性有機化合物の検出結果に基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定するステップと、
を備え
前記判定するステップは、揮発性有機化合物が検出された場合、貯蔵された石炭の内部温度が40℃以上であると判定するステップを備えることを特徴とする石炭の発熱検知方法。
【請求項2】
前記判定するステップは、検出された揮発性有機化合物の濃度と、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係とに基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定するステップを備えることを特徴とする請求項1に記載の石炭の発熱検知方法。
【請求項3】
前記検出するステップにおいて、機械類を貯蔵された石炭の表面に沿って移動させながら、揮発性有機化合物の検出作業を行い、
判定された発熱情報と前記機械類の位置情報とを関連づけて、貯蔵された石炭における温度分布を取得するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1または2に記載の石炭の発熱検知方法。
【請求項4】
揮発性有機化合物を検出するセンサと、
前記センサの検出結果に基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定する判定部と、
を備え
前記判定部は、前記センサにより揮発性有機化合物が検出された場合、貯蔵された石炭の内部温度が40℃以上であると判定することを特徴とする石炭の発熱検知装置。
【請求項5】
揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係を記憶する記憶部をさらに備え、
前記判定部は、前記センサにより検出された揮発性有機化合物の濃度と、前記記憶部に記憶された前記関係とに基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定することを特徴とする請求項に記載の石炭の発熱検知装置。
【請求項6】
貯蔵された石炭の表面に沿って移動可能に構成された、前記センサが搭載された機械類と、
判定された発熱情報と前記機械類の位置情報とを関連づけて、貯蔵された石炭における温度分布を取得する温度分布取得部と、
をさらに備えることを特徴とする請求項4または5に記載の石炭の発熱検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、貯蔵された石炭の内部における発熱を検知するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
石炭パイルや石炭サイロでは、石炭の貯蔵期間が長くなると貯蔵された石炭の内部で石炭が酸化発熱して自然発火が生じる場合がある。そこで、貯蔵された石炭の発熱を監視し、自然発熱を防止するために、石炭パイルの切り崩しや放水等を行っている。
【0003】
従来、貯蔵された石炭の発熱を検知する方法として、熱電対を用いた方法が知られている。この方法は、石炭貯蔵領域に熱電対を配置し、測定点と基準接点の温度差により発生する起電力に基づいて石炭の温度を求める方法である(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、別の方法としては、サーモカメラを用いた方法が知られている。この方法は、石炭貯蔵領域から放射される赤外線エネルギーをサーモカメラで検出し、検出値から温度を求める方法である。この方法によれば、貯蔵された石炭の外表面を非接触で広範囲に測定できる(例えば特許文献2参照)。
【0005】
さらに別の方法としては、光ファイバを用いた方法が知られている。この方法は、石炭貯蔵領域に配置された光ファイバに光を入射し、その後方散乱光に基づいて、測定点の温度を求める方法である(例えば特許文献3参照)。
【0006】
さらに別の方法としては、CO濃度計を用いた方法が知られている。石炭の自然発熱に伴い発生したCOがセンサに接触することによって、作用電極と対電極に流れる電流が変化する。この電流の変化に基づきCO濃度を測定することにより、石炭の発熱を検知できる(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2009-68954号公報
【文献】特開平08-285693号公報
【文献】特開2018-185266号公報
【文献】特開2011-241049号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、熱電対を用いた方法では、得られる温度情報は、熱電対近傍の石炭の温度情報に限られる。そのため、石炭パイルや石炭サイロの内部の温度を測るためには、熱電対を石炭貯蔵部に挿入する必要があり、大がかりな仕組みや作業が必要となる。
【0009】
また、サーモカメラを用いた方法では、石炭パイルや石炭サイロの内部が発熱していても外表面は外気温と同等になってしまうため、石炭貯蔵部の内部の温度情報を得ることができない。
【0010】
また、光ファイバを用いた方法では、石炭パイルや石炭サイロの内部の温度を測るためには、石炭貯蔵部に光ファイバを敷設する必要があり、大がかりな仕組みや作業が必要となる。
【0011】
また、一般的な知見において、石炭パイルや石炭サイロではCOは60℃程度またはそれ以上の温度で発生する傾向がある。したがって、CO濃度計を用いた方法では、比較的低温(例えば50℃以下)状態の早期発熱検知が難しい。
【0012】
本発明は、こうした状況を鑑みてなされたものであり、その目的は、貯蔵された石炭の内部における発熱を早期に低コストで検知することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の石炭の発熱検知方法は、貯蔵された石炭の表面近傍において揮発性有機化合物を検出するステップと、揮発性有機化合物の検出結果に基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定するステップと、を備える。
【0014】
判定するステップは、検出された揮発性有機化合物の濃度と、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係とに基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定するステップを備えてもよい。
【0015】
判定するステップは、揮発性有機化合物が検出された場合、貯蔵された石炭の内部温度が40℃以上であると判定するステップを備えてもよい。
【0016】
検出するステップにおいて、検出作業を機械類にて行ってもよい。
【0017】
本発明の別の態様は、石炭の発熱検知装置である。この装置は、揮発性有機化合物を検出するセンサと、センサの検出結果に基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定する判定部と、を備える。
【0018】
揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係を記憶する記憶部をさらに備えてもよい。判定部は、センサにより検出された揮発性有機化合物の濃度と、記憶部に記憶された関係とに基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定してよい。
【0019】
判定部は、センサにより揮発性有機化合物が検出された場合、貯蔵された石炭の内部温度が40℃以上であると判定してよい。
【0020】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システム、記録媒体、コンピュータプログラムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、貯蔵された石炭の内部における発熱を早期に低コストで検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本実施形態に係る発熱検知装置の構成を説明するためのブロック図である。
図2】揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係の一例を示す図である。
図3】揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係の別の一例を示す図である。
図4】石炭パイルの発熱検知方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本実施形態に係る発熱検知装置10の構成を説明するためのブロック図である。図1に示すように、発熱検知装置10は、VOCセンサ12と、判定部14と、記憶部16とを備える。
【0024】
本明細書のブロック図において示される各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUをはじめとする素子や機械装置で実現でき、ソフトウェア的にはコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックを描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0025】
VOCセンサ12は、揮発性有機化合物(VOC:Volatile Organic Compound)を検出するセンサである。揮発性有機化合物は、トルエン、キシレン、酢酸エチル等を含む。VOCセンサ12の種類は特に限定されず、周知のものを用いることができる。例えば、VOCセンサ12の半導体の電気抵抗値の変動からVOC濃度を検出する方式であってよい。後述の実施例ではVOCセンサとして、フィガロ技研株式会社製パーソナルTVOCモニターFTVR-01を用いた。
【0026】
記憶部16は、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係を記憶する。石炭の低温(40℃~60℃)発熱では、揮発性有機化合物が発生する。後述するように、本発明者は、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との間に所定の関係性があることを見いだした。この関係性を予め測定しておき、記憶部16に格納する。
【0027】
判定部14は、VOCセンサ12により検出された揮発性有機化合物の濃度と、記憶部16に記憶された揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との間の関係とに基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定する。
【0028】
図2は、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係の一例を示す。図2に、3種類の石炭(低品位炭A、高品位炭A、高品位炭B)についての実測値データがプロットされている。図2において、横軸は温度(℃)、縦軸はVOC濃度(任意単位)である。
【0029】
低品位炭Aは、亜瀝青炭であり、石炭化度が低く発熱しやすい。高品位炭Aは、瀝青炭であり、石炭化度が高く発熱しにくい。高品位炭Bはより高品位な瀝青炭であり、石炭化度がより高く、さらに発熱しにくい。図2から、各種類の石炭において、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度は比例関係にあることが分かる。また、同温度で比較した場合、低品位な(石炭化度の低い)石炭になるほど、揮発性有機化合物の濃度が高くなることが分かる。
【0030】
発熱検知装置10の判定部14は、図2に示すような揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係を利用して、VOCセンサ12で検出した揮発性有機化合物の濃度から石炭の温度を判定する。例えば、貯蔵されている石炭が低品位炭Aであり、揮発性有機化合物の濃度が0.5程度であるとき、図2の関係から石炭の温度は約40℃であると判定できる。また、例えば、貯蔵されている石炭が高品位炭Aであり、揮発性有機化合物の濃度が0.5程度であるとき、図2の関係から石炭の温度は約60℃であると判定できる。
【0031】
図3は、揮発性有機化合物の濃度と石炭の温度との関係の別の一例を示す。図3に、2種類の石炭(低品位炭B、低品位炭C)についての実測値データがプロットされている。図2において、横軸は温度(℃)、縦軸はVOC濃度(任意単位)である。低品位炭Bおよび低品位炭Cは、図2の低品位炭Aとは異なる亜瀝青炭である。ここで、図2図3のデータは測定条件が異なる点に留意する(図2は実験室での測定データ、図3は実際の石炭パイルでの測定データ)。
【0032】
図3から、石炭の温度が40℃未満(例えば20℃~38℃)では、VOCセンサ12によって揮発性有機化合物は殆ど検出されず、石炭の温度が40℃以上になると、VOCセンサ12によって揮発性有機化合物が検出されることが分かる。したがって、判定部14は、VOCセンサ12によって所定のVOC濃度(例えば0.05程度)以上の揮発性有機化合物が検出された場合、貯蔵された石炭の内部温度が40℃以上であると判定してもよい。
【0033】
図4は、石炭パイル30の発熱検知方法を説明するための図である。図4に示すように、ドローン32に本実施形態に係る発熱検知装置10を搭載する。ドローン32を石炭パイル30の表面に沿って飛行させながら、上述の発熱検知装置10を用いて、貯蔵された石炭の表面近傍において揮発性有機化合物を検出し、揮発性有機化合物の検出結果に基づいて、石炭パイル30の内部における発熱を判定する。ドローン32の位置情報と関連づけて揮発性有機化合物を検出することで、石炭パイル30における温度分布を求めることができる。
【0034】
図4では発熱検知装置10をドローン32に搭載した実施例を説明したが、揮発性有機化合物の検出作業は機械類、例えば移動ロボットにより行われてもよい。
【0035】
以上述べたように、本実施形態に係る発熱検知装置10では、40℃~60℃の比較的低温の発熱で石炭から発生する揮発性有機化合物を検出し、揮発性有機化合物の検出結果に基づいて、貯蔵された石炭の内部における発熱を判定する。これにより、貯蔵された石炭の内部における発熱を、例えばCO濃度計を用いた方法と比較して、早期に検知することができる。
【0036】
また、本実施形態に係る発熱検知装置10では、貯蔵された石炭内部から石炭表面に出てくる揮発性有機化合物を検出しているので、熱電対を用いた方法や光ファイバを用いた方法のように大がかりな仕組みや作業は不要である。したがって、低コストで石炭の発熱検知を行うことができる。
【0037】
以上、本発明を実施例をもとに説明した。この実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0038】
10 発熱検知装置、 12 VOCセンサ、 14 判定部、 16 記憶部、 30 石炭パイル、 32 ドローン。
図1
図2
図3
図4