(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-09-05
(45)【発行日】2023-09-13
(54)【発明の名称】球状炭素粒子およびその製造方法、並びに球状炭素粒子を用いた蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
C01B 32/05 20170101AFI20230906BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230906BHJP
H01G 11/42 20130101ALI20230906BHJP
H01G 11/84 20130101ALI20230906BHJP
【FI】
C01B32/05
H01M4/62 Z
H01G11/42
H01G11/84
(21)【出願番号】P 2020013517
(22)【出願日】2020-01-30
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
(72)【発明者】
【氏名】川上 知洋
(72)【発明者】
【氏名】長谷中 祐輝
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 秀治
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-105119(JP,A)
【文献】特開2012-121796(JP,A)
【文献】特開昭61-064708(JP,A)
【文献】特開昭52-008042(JP,A)
【文献】国際公開第2019/009332(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00-32/991
H01M 4/00-4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
BET法により求めた比表面積は500m
2/g以上1900m
2/g以下であり、酸素元素含有量は1質量%以上15質量%以下であり、硫黄元素含有量は0.8質量%以上であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d
002は3.3Å以上3.7Å以下である、球状炭素粒子。
【請求項2】
前記球状炭素粒子のラマンスペクトルによる1360cm
-1付近のDバンドの半値幅は270cm
-1以上330cm
-1以下であり、R値は0.8以上1.5以下である、請求項1に記載の球状炭素粒子。
【請求項3】
前記球状炭素粒子の体積平均粒径は100nm以上5.0μm以下である、請求項1または2に記載の球状炭素粒子。
【請求項4】
0.1質量%以上の硫黄元素を含むリグニン、水、金属水酸化物、および
リグニンの質量に対して0.01質量%以上のアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および
得られた噴霧乾燥物を
不活性ガス雰囲気下400℃以上1000℃以下の温度で炭化して球状炭素粒子を得る工程
を含む、請求項1~3のいずれかに記載の球状炭素粒子の製造方法。
【請求項5】
前記炭化工程
は500℃以上
900℃以下の温度で行う、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の球状炭素粒子を含む、非水電解質蓄電デバイス用電極。
【請求項7】
請求項6に記載の電極を含む、非水電解質蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状炭素粒子、該球状炭素粒子の製造方法、および該球状炭素粒子を用いた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料は、熱的および化学的に安定であり、導電性を有することから、様々な用途に広く用いられている。また、近年は、様々な粒子材料において、粒径を小さくし、導電性の向上および出力性の向上を図るために、粒子材料を球状化することが試みられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、コロイダルシリカの水性懸濁下で、多官能性アミノ化合物からなる少なくとも一種のアミノ系モノマー化合物とアルデヒド化合物とを塩基性条件下で反応させ、水に可溶なアミノ系樹脂の初期縮合物の水溶液を生成させる工程、及び該水溶液に少なくとも2種の酸触媒を加えて球状の硬化アミノ樹脂粒子を析出させる工程、とを含む、硬化アミノ樹脂粒子の製造方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献2には、(1)無機顔料を水性媒体中で湿式解砕して、無機顔料の水分散体を調製する工程、(2)水性分散体とアミノ樹脂初期反応物とを混合し、着色された樹脂液を調製する工程、(3)着色樹脂液を水媒体中に乳化または懸濁分散し、着色樹脂分散液を調製する工程、(4)着色樹脂の分散液を加熱下に縮合硬化した後に、分離して着色樹脂微粒子を得る工程を経由することによる、着色樹脂球状微粒子の製造方法が開示されている。
【0005】
また、特許文献3には、無粉砕で、真円度が0.9~1.0で粒径が0.01μm~10μmの形態を有することを特徴とする球状超微粒子が開示されており、その製造方法として、多数の貫通孔を有する基盤を定速度振動させることにより、圧送される無機物または有機物のスラリー状液状物を均一液状粒子に分断し、液状球状粒子を炭化、賦活、酸化、還元、脱アルカリ工程等に付すことを特徴とする、球状超微粒子の製造方法も開示されている。同文献には、有機物が、フェノール樹脂およびメラミン樹脂のような熱硬化性樹脂であってよいことも開示されている。
【0006】
更に特許文献4には、ケナフを蒸解してリグニン含有溶液を得る工程と、リグニン含有溶液からリグニン含有物を採取し、リグニン含有物から塩分を除く工程と、塩分を除いたリグニン含有物を炭化する工程と、炭化物を粉砕する工程と、粉砕した炭化物を熱プラズマ処理してカーボン微粒子を得る工程とを含む、カーボン微粒子の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2013/176057号パンフレット
【文献】特開2002-201336号公報
【文献】特開2006-167593号公報
【文献】国際公開第2019/111770号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1および2には、粒子を得た後に、炭化処理まで行うことは記載されていない。また、本発明者らの検討によれば、仮に、特許文献1および2に記載の粒子を炭化処理に付したとしても、これらの粒子に含まれているコロイダルシリカまたは無機顔料といったテンプレート(核剤)は炭化処理後も粒子中に残存するため、純粋な炭素材料粒子を得ることはできない。更に、これらの粒子を炭化処理に付した場合、核剤による賦活(乳化剤として添加される金属化合物が熱還元されることによる炭素浸食)が起こるため、著しく低い炭化粒子の生産性しか実現できない。
上述した通り、特許文献3には、有機物の球状超微粒子は記載されている。しかし、同文献には、超微粒子状の炭素を得るためにはフェノール樹脂またはフリフラール樹脂を使用すべきであることが記載されており、有機物としてフェノール樹脂を使用した実施例しか記載されていない。また、本発明者らの検討によれば、同文献における球状超微粒子の製造には、特殊な装置が必要とされ、工程数も多いといった問題がある。
また、特許文献4では、リグニンを使用した微粒子の製造方法が検討されているが、本発明者らの検討によれば、熱プラズマ処理を必要とする等、特殊な装置を必要とするといった問題がある。
【0009】
このような状況下、本発明が解決しようとする課題は、球状炭素粒子、および該球状炭素粒子の効率的かつ安全な製造方法を提供し、安定かつ高容量の蓄電デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために、球状炭素粒子、および該球状炭素粒子の製造方法について詳細に検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕BET法により求めた比表面積は500m2/g以上1900m2/g以下であり、酸素元素含有量は1質量%以上15質量%以下であり、硫黄元素含有量は0.8質量%以上であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002は3.3Å以上3.7Å以下である、球状炭素粒子。
〔2〕前記球状炭素粒子のラマンスペクトルによる1360cm-1付近のDバンドの半値幅は270cm-1以上330cm-1以下であり、R値は0.8以上1.5以下である、前記〔1〕に記載の球状炭素粒子。
〔3〕前記球状炭素粒子の体積平均粒径は100nm以上5.0μm以下である、前記〔1〕または〔2〕に記載の球状炭素粒子。
〔4〕リグニン、水、金属水酸化物、およびアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および得られた噴霧乾燥物を炭化して球状炭素粒子を得る工程を含む、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の球状炭素粒子の製造方法。
〔5〕前記炭化工程は不活性ガス雰囲気下400℃以上1000℃以下の温度で行う、前記〔4〕に記載の方法。
〔6〕前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の球状炭素粒子を含む、非水電解質蓄電デバイス用電極。
〔7〕前記〔6〕に記載の電極を含む、非水電解質蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、球状炭素粒子、および該球状炭素粒子の効率的かつ安全な製造方法を提供し、安定かつ高容量の蓄電デバイスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施例1に従って製造した球状炭素粒子の電子顕微鏡観察写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、以下は本発明の実施形態を例示する説明であって、本発明を以下の実施形態に限定することは意図されていない。
【0014】
[球状炭素粒子]
本発明の球状炭素粒子において、BET法により求めた比表面積は500m2/g以上1900m2/g以下であり、酸素元素含有量は1質量%以上15質量%以下であり、硫黄元素含有量は0.8質量%以上であり、CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002は3.3Å以上3.7Å以下である。
【0015】
〔BET法により求めた比表面積〕
球状炭素粒子のBET法により求めた比表面積(以下において、単に「比表面積」とも称する)は500m2/g以上1900m2/g以下である。比表面積が500m2/g未満であると、細孔容積が小さいことに起因して蓄電デバイスとしての静電容量が小さいため、エネルギー密度の高維持率を得ることは困難である。比表面積が1900m2/gより大きいと、質量当たりの電解質吸着量は増大するが体積当たりの静電容量が低下する結果、電気二重層キャパシタ性能が低下する可能性がある。比表面積は、好ましくは520m2/g以上、より好ましくは550m2/g以上であり、好ましくは1700m2/g以下、より好ましくは1600m2/g以下である。比表面積が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、球状炭素粒子を例えば電気二重層キャパシタに使用した場合に、高電圧駆動においてさえも、長期にわたって更に高い静電容量およびエネルギー密度が維持されやすい。比表面積は、球状炭素粒子の製造において用いる金属水酸化物の種類または量を適宜調整することによって、或いは球状炭素粒子の製造方法における炭化温度または炭化時間を適宜調整することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。比表面積は、後述の実施例に記載の通り、窒素吸着等温線を測定する方法によって求めることができる。
【0016】
〔酸素元素含有量〕
球状炭素粒子の酸素元素含有量は、1質量%以上15質量%以下である。酸素元素含有量が1質量%未満であると、炭素に由来する物性が支配し、酸素元素を含有することによる効果(例えば溶媒親和性)を得ることが困難であり、酸素元素含有量が15質量%より大きいと、熱安定性が低く、球状形状を維持することが困難である。酸素元素含有量は、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%以上であり、好ましくは14質量%以下、より好ましくは12質量%以下である。酸素元素含有量が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、酸素元素を含有することによる効果を得やすい。酸素元素含有量は、球状炭素粒子を製造する際に使用する出発材料の選択、または炭化処理条件の調整によって、例えば、出発材料としてクラフトリグニンを使用し、金属水酸化物と反応させ、熱分解を抑制した温度で炭化することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。酸素元素含有量は、後述の実施例に記載の通り、酸素・窒素・水素分析装置を用いて測定できる。
【0017】
〔硫黄元素含有量〕
球状炭素粒子の硫黄元素含有量は、0.8質量%以上である。硫黄元素含有量が0.8質量%未満であると、静電容量の優れたデバイスを得ることは困難である。硫黄元素含有量は、好ましくは0.9質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上である。硫黄元素含有量の上限値は特に限定されない。硫黄元素含有量は、通常は3.0質量%以下であり、好ましくは2.0質量%以下、より好ましくは1.8質量%以下である。硫黄元素含有量が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、静電容量のより優れたデバイスを得やすい。硫黄元素含有量は、例えば、球状炭素粒子を製造する際に使用する(硫黄元素を含有する)出発材料を(例えば苛性ソーダ水溶液と一緒に加熱する等の方法により)加水分解することによって、或いは出発材料を硫酸等の硫黄元素含有成分で変性し、その変性量を調整することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。硫黄元素含有量は、例えば元素分析または蛍光X線分析によって、求めることができる。
【0018】
〔CuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002〕
球状炭素粒子のCuKα線を用いて測定される(002)面の面間隔d002(以下において、単に「面間隔d002」とも称する)は3.3Å以上3.7Å以下である。面間隔d002が3.3Å未満であるかまたは3.7Åより大きいと、低温での静電容量維持率に優れた蓄電デバイスをもたらすことは困難である。面間隔d002は、好ましくは3.35Å以上、より好ましくは3.4Å以上、特に好ましくは3.5Å以上であり、好ましくは3.67Å以下、より好ましくは3.65Å以下である。面間隔d002が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、低温での静電容量維持率に優れた蓄電デバイスをもたらしやすい。また、イオンが侵入しやすくなるため、入出力特性に優れる蓄電デバイスを得やすい。面間隔d002は、例えば球状炭素粒子の製造方法における噴霧乾燥時の固形分濃度若しくは吐出速度または炭化時の温度若しくは時間を適宜調整することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。面間隔d002は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0019】
〔ラマンスペクトルによる1360cm-1付近のDバンドの半値幅およびR値〕
本発明の一実施態様である球状炭素粒子は、ラマン分光測定において、1360cm-1付近にピークを有する。このピークは、一般にDバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造の乱れおよび欠陥に起因するピークである。1360cm-1付近のDバンドの半値幅(以下において、単に「半値幅」とも称する)は、乱れた構造の量を表しており、本発明の好ましい一実施態様では、好ましくは270cm-1以上330cm-1以下、より好ましくは280cm-1以上320cm-1以下である。半値幅が広すぎないことにより、多すぎる末端構造に起因した電気抵抗の増大を抑制しやすく、半値幅が狭すぎないことにより、十分な量の、吸着の起点になる構造を得やすい。Dバンドの半値幅は、例えば金属水酸化物の添加量、並びに炭化工程の温度および処理時間を適宜調整することによって、前記範囲内に調整できる。
【0020】
また、1580cm-1付近のピークは、一般にGバンドと称されるラマンピークであり、グラファイト構造に由来するピークである。
1360cm-1付近のピーク強度(ID)と1580cm-1付近のピーク強度(IG)との強度比(ID/IG)は一般にR値と称され、球状炭素粒子の結晶性に関係する。ここで、球状炭素粒子の結晶性が高すぎると、グラファイト構造の発達により炭素エッジが減少し、電解質の配位サイトが少なくなる傾向がある。その結果、低温特性の低下、または電気抵抗の増大といった問題が起こり得る。一方、球状炭素粒子の結晶性が低すぎると、非晶質が多くなり、電気抵抗が高くなる傾向がある。その結果、電解質と電極材料との界面の電気二重層の利用効率が低下し得る。上記の観点から、R値は、好ましくは0.8以上、より好ましくは0.82以上、特に好ましくは0.85以上である。また、R値は、電解液親和性の観点から、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.4以下(例えば1.3以下)、更に好ましくは1.2以下、特に好ましくは1.17以下である。R値が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、球状炭素粒子を例えば電気二重層キャパシタに使用した場合に、高電圧駆動においてさえも、長期にわたって更に高い静電容量およびエネルギー密度が維持されやすい。R値は、例えば金属水酸化物の添加量、並びに炭化工程の温度および処理時間を適宜調整することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。
【0021】
〔体積平均粒径〕
球状炭素粒子の体積平均粒径は、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上、特に好ましくは120nm以上であり、好ましくは5.0μm以下、より好ましくは4.9μm以下、特に好ましくは4.5μm以下である。体積平均粒径が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、電極密度が高く体積効率の良い、かつ入出力特性に優れる蓄電デバイスを得やすい。体積平均粒径は、例えば球状炭素粒子の製造方法における噴霧乾燥条件を適宜調整することによって、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。体積平均粒径は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0022】
本発明の炭素粒子は、球状であるため、電気化学的な副反応の起点となる尖頭部分が少ない。従って、本発明の球状炭素粒子は、耐電圧性が高く、耐久性の高い蓄電デバイスの電極に好適に用いることができる。
本発明の球状炭素粒子は、尖頭部分または平面部分を有さない粒子が個数換算で全体の好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは97%以上、更により好ましくは98%以上、特に好ましくは99%以上である。尖頭部分または平面部分を有さない粒子の個数は、例えば、走査型顕微鏡等により測定できる。
本発明において、球状は、真球状、楕円球状、ドーナツ状および複数個の孔を持つ球状からなる群から選択される1以上の形状である。また、本発明の球状炭素粒子は、例えば、表面に凹凸を有していてもよいし、歪みまたは一部欠けた部分を有していてもよい。球状炭素粒子はまた、球状が2~10個結合した形状(例えば雪だるま状、蝶ネクタイ状およびブドウの房状)の粒子を含んでいてもよい。なお、球状は、棒状、繊維状および板状等ではない。
【0023】
[球状炭素粒子の製造方法]
本発明の球状炭素粒子は、例えば、
リグニン、水、金属水酸化物、およびアルデヒドを混合して水溶液を得る工程、
前記水溶液を噴霧乾燥する工程、および
得られた噴霧乾燥物を炭化して球状炭素粒子を得る工程
を含む製造方法により製造できる。この製造方法により、本発明の球状炭素粒子は、効率的かつ安全に製造できる。
【0024】
〔水溶液調製工程〕
前記製造方法では、0.1質量%以上の硫黄元素を含むリグニンを好ましくは使用する。このようなリグニンは、一般的にクラフトリグニンと呼ばれており、製紙業においてセルロース抽出後の廃棄物として得られる。具体的には、例えばパルプの製造過程で生成した黒液を鉱酸で酸性化し、析出した沈殿を洗浄して調製することができる。このようにして得られたリグニンは、調製工程中で、その主要な結合であるエーテル結合が切断され、著しく低分子化されるので、その数平均分子量は通常3500~4500となる。また、クラフトリグニンは、他の方法で単離されたリグニンと比べて多量のフェノール性水酸基を有していることから化学的活性に富んでいるため、高い密度の炭素形成に好ましい。
リグニンの硫黄元素含有量は、リグニンの分子量の低下を抑制しやすく、その結果炭素縮合が十分に進みやすい観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上、更に好ましくは0.5質量%以上である。また、硫黄元素含有量は、使用する機器を腐食する可能性のある二酸化硫黄等の排出が抑制されやすい観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4.5質量%以下である。硫黄元素含有量は、例えば、硫黄元素を含有するリグニンを(例えば苛性ソーダ水溶液と加熱する等の方法により)加水分解することにより、或いはリグニンを硫酸等の硫黄元素含有成分で変性し、その変性量を調整することにより、前記下限値以上および前記上限値以下に調整できる。硫黄元素含有量は、元素分析または蛍光X線分析によって測定できる。
【0025】
リグニンは1種のみを使用してもよいし、硫黄元素含有量、分子量および揮発性成分含有量の1つ以上が異なる2種以上のリグニンを組み合わせて使用してもよい。2種以上のリグニンを組み合わせて使用する場合、そのうちの少なくとも1種のリグニンは、好ましくは、上述した好ましい硫黄元素含有量および/または分子量を有する。
【0026】
前記製造方法では、リグニンを金属水酸化物とアルデヒドと反応させ、反応生成物を得る。リグニンと金属水酸化物およびアルデヒドとの反応生成物を使用することにより、噴霧乾燥時または炭化時の加熱によって噴霧物は溶融せず、良好な炭化収率を達成でき、球状の炭素粒子を得ることができる。その作用機構は、詳細には解明されていないが、以下のように考えることができる。しかしながら、本発明は、以下の説明によって限定されるものではない。
金属水酸化物を塩基触媒として、リグニンをアルデヒドと反応させることにより、リグニンに含まれるフェノール部分とアルデヒドが反応し、熱架橋し得る官能基が付与される。これらが混合時または噴霧乾燥時の加熱によって架橋され、分子量が増大し、強固な三次元ネットワークが形成されることにより、溶融することなく良好な炭化収率で球状炭素粒子を得ることができる。更に、アルデヒド付加反応の触媒であった金属水酸化物は、噴霧乾燥時に固化して微細孔の鋳型として機能するほか、炭化時には賦活反応をも触媒し、球状炭素粒子に高い比表面積をもたらすことができる。
【0027】
金属水酸化物としては、特に限定されるものではなく、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等を使用することができる。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。入手容易性、経済性、水溶液の安定性、または所望の高い比表面積をもたらし得る多孔化効率を考慮すると、金属水酸化物は、好ましくは水酸化リチウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選択される1以上の金属水酸化物であり、より好ましくは水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群から選択される1以上の金属水酸化物である。
【0028】
金属水酸化物の使用量は、使用するリグニンの性状によって異なり、特に限定されない。金属水酸化物の使用量は、リグニンの質量に対して、通常は0.1質量%以上であり、400質量%以下であり、経済性および所望の物性(例えば、比表面積、半値幅および/またはR値)の得やすさを考慮すると、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは350質量%以下、より好ましくは310質量%以下である。
【0029】
アルデヒドとしては、特に限定されるものではなく、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、バレルアルデヒド、イソバレルアルデヒド、ヘキサナールおよびベンズアルデヒド等のモノアルデヒド;グリオキサール、1,4-ブタンジアール、1,6-ヘキサンジアール、1,9-ノナンジアール、オルトフタルアルデヒド、メタフタルアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のジアルデヒド等を使用することができる。これらは、単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。入手容易性、経済性、または多孔化効率を考慮すると、アルデヒドは、好ましくはホルムアルデヒド、ベンズアルデヒド、グリオキサールおよびテレフタルアルデヒドからなる群から選択される1以上のアルデヒドであり、好ましくはホルムアルデヒドである。水に難溶なアルデヒドを使用する場合は、有機溶媒を使用してもよい。使用する有機溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、アセトンを用いることができる。本明細書では、水溶液調製工程において有機溶媒を用いた場合でも、便宜上「水溶液」と称する。
【0030】
アルデヒドの使用量は、使用するリグニンの性状によって異なり、特に限定されない。アルデヒドの使用量は、リグニンの質量に対して、通常は0.01質量%以上であり、20質量%以下であり、アルデヒドの反応性およびアルデヒドによるリグニンの架橋効率を考慮すると好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、好ましくは18質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0031】
水溶液調製工程において、リグニンとアルデヒドとの反応を促進するため、必要に応じて、アミン類を加えてもよい。アミン類としては、アンモニア;メチルアミン、エチルアミン、ブチルアミンおよびアニリン等の1級アミン;ジメチルアミン、ジエチルアミンおよびジブチルアミン等の2級アミン;エチレンジアミンおよびポリエチレンイミン等のポリアミンを使用することができる。これらは単独で使用しても、複数を組み合わせて使用してもよい。入手容易性、経済性または炭化効率を考慮すると、アンモニアの使用が好ましい。
【0032】
アミン類を使用する場合、その使用量は、使用するリグニンの性状によって異なり、特に限定されない。アミン類の使用量は、リグニンの質量に対して、通常は0.01質量%以上であり、10質量%以下であり、アミン類添加による上記反応促進の効果が発現されやすい観点から、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは9質量%以下、より好ましくは8質量%以下である。
【0033】
水溶液調製工程において、アルデヒドによる架橋反応をより円滑に進行させるために、触媒として酸を添加してもよい。酸を使用する場合、その使用量は特に限定されるものではなく、使用するリグニンの種類および場合により添加してよいアミンの種類によって適宜変更してよい。リグニンの質量に対して、好ましくは0.01~10質量%、より好ましくは0.1~5質量%の範囲で酸を添加する。使用できる酸は、特に限定されるわけではなく、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸類、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸および酒石酸等の有機酸を使用することができる。これらは単独で使用しても複数を併用しても構わない。経済性および反応性を考慮して、塩酸または酢酸の使用が好ましい。
【0034】
リグニン、水、金属水酸化物、およびアルデヒドを混合する温度は、特に限定されない。混合する温度は、水を使用することから、通常5~80℃の範囲、反応性または揮発性を考慮すると、好ましくは10~70℃の範囲、より好ましくは20~60℃の範囲である。混合する時間も特に限定されない。通常0.1~10時間の範囲、好ましくは0.2~9時間の範囲、より好ましくは0.3~8時間の範囲である。加熱には、オイルバスまたはウォーターバス等を使用してよい。
【0035】
水溶液の固形分濃度は、使用するリグニンの水溶性に依存し、特に限定されるものではない。固形分濃度は、通常0.01質量%以上であり、20質量%以下であり、乾燥時のエネルギー効率および所望の面間隔d002の得やすさを考慮すると、好ましくは0.02質量%以上、より好ましくは0.03質量%以上であり、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0036】
〔噴霧乾燥工程〕
得られた水溶液を噴霧乾燥することにより、球状炭素粒子の前駆体を得ることができる。噴霧乾燥は、例えば、超音波または気体を導入しながら水溶液を霧化し、霧化物を加熱乾燥するか、またはスプレー等を用いて水溶液から微細な液滴を作製し、得られた液滴を加熱乾燥することにより実施できる。
加熱乾燥による溶媒の除去は、常圧下または減圧下のいずれで実施してもよい。常圧下で実施する場合には、不活性ガス雰囲気下、例えば窒素雰囲気下に行うことが、安全性の観点から好ましい。
【0037】
加熱乾燥する温度は特に限定されない。水溶液を調製する温度以上、例えば80℃以上600℃以下の温度が好ましく、100℃以上400℃以下の温度がより好ましく、120℃以上300℃以下が特に好ましい。
【0038】
〔炭化工程〕
次いで、得られた噴霧乾燥物(球状炭素粒子の前駆体)を炭化することにより、球状炭素粒子を得ることができる。炭化工程は、一段の炭化工程でも多段の炭化工程でもよい。多段の炭化工程を行う場合は、連続的に行っても、一旦冷却して行ってもよい。
【0039】
炭化工程は、好ましくは不活性ガス雰囲気下で行う。不活性ガスとしては、例えばヘリウム、窒素またはアルゴン等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。不活性ガス中に酸化性ガスが含まれている場合、その含有量は低いほど好ましい。そのような場合、不活性ガス中の酸化性ガス(特に酸素)の含有量は、通常1体積%以下、好ましくは1000体積ppm以下である。酸化性ガスの含有量が前記上限値以下であると、炭化物生成過程で、酸化が進行しにくく、所望の構造構築が進みやすく、また、生成した構造の酸化分解が起きにくい。
【0040】
不活性ガスの供給量(流通量)は、特に限定されない。噴霧乾燥物1g当たり、通常1mL/分以上、好ましくは10mL/分以上、更に好ましくは30mL/分以上であり、通常500mL/分以下である。また、炭化工程は、減圧下で、例えば10KPa以下で行うこともできる。
【0041】
一段または多段の炭化工程において、各炭化工程の昇温速度は特に限定されない。加熱の方法により異なるが、好ましくは1℃/分以上、より好ましくは2℃/分以上であり、好ましくは20℃/分以下、より好ましくは18℃/分以下である。昇温速度が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、良好な生産性を得やすく、経済性の観点からも好ましい。また、発生する乾留ガスによる賦活の進行が抑制されやすく、良好な炭素密度を得やすい。
【0042】
一段または多段の炭化工程において、炭化温度は、好ましくは400℃以上、より好ましくは500℃以上、特に好ましくは550℃以上であり、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下である。炭化温度が前記下限値以上であると、炭化が進行して目的の構造構築を得やすい。炭化温度が前記上限値以下であると、金属酸化物の揮散および結晶構造構築の過度な進行が抑制されやすく、所望の特性(例えば、比表面積、元素含有量、面間隔d002、半値幅および/またはR値)を有する球状炭素粒子を得やすい。
【0043】
一段または多段の炭化工程において、各炭化工程における炭化温度の保持時間は特に限定されず、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上であり、好ましくは20時間以下、より好ましくは15時間以下である。保持時間が前記下限値以上であり前記上限値以下であると、炭化が十分に進行しやすく、その結果、球状炭素粒子を製造する過程で(特に、多段の炭化工程を行う場合の二段目以降の炭化工程において)炭化物の発火が生じにくくなるため好ましい。また、所望の物性(例えば、比表面積、元素含有量、面間隔d002、半値幅および/またはR値)を有する球状炭素粒子を得やすく、経済性の観点からも適度な時間であるため好ましい。
【0044】
〔酸洗浄工程〕
球状炭素粒子は、後述する任意の解砕工程および/または任意の分級工程の前または後に、1回または複数回、酸性水溶液で洗浄してよく、酸性水溶液で洗浄することが好ましい。酸性水溶液で洗浄することによって、過剰のまたは残留した金属水酸化物を除去できる。酸性水溶液で球状炭素粒子を洗浄した後、イオン交換水で洗液が中性になるまで洗浄し、球状炭素粒子に付着した酸性水溶液を除去することが極めて好ましい。洗浄に使用する酸性水溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸およびリン酸等の鉱酸の水溶液、ギ酸および酢酸等の有機酸の水溶液を使用することができる。金属水酸化物の除去性、球状炭素粒子への浸透性、および球状炭素粒子表面における残留性を考慮すると、塩酸水または酢酸水溶液を使用することが好ましい。酸性水溶液中の酸の濃度は特に制限されるものではなく、使用する酸成分の種類に応じて異なるが、通常、pH=-1~5の酸性水溶液を用いることが好ましく、pH=0~3の酸性水溶液を用いることがより好ましい。1回の洗浄のために使用する酸性水溶液の量は、好ましくは球状炭素粒子の1質量倍以上300質量倍以下、より好ましくは5質量倍以上200質量倍以下の量である。洗浄後は、適当に乾燥することが好ましい。
【0045】
〔解砕工程〕
本発明の製造方法では、炭化工程後または任意の酸洗浄工程の後に解砕を実施してもよい。この工程では、噴霧乾燥および/または炭化により融着または凝集した炭化物を解砕し、目的の大きさに調整することができる。
【0046】
解砕に用いる装置は、特に限定されない。例えばジェットミル、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を単独でまたは組み合わせて使用することができる。微粉の発生が少ないという観点からは、分級機能を備えたジェットミルが好ましい。一方、ボールミル、ハンマーミル、またはロッドミル等を用いる場合は、解砕後に分級を行うことで微粉を除くことができる。解砕の際には、球状炭素粒子が粉砕されて尖頭部分および平面部分が生じないよう、解砕強度および解砕時間を適切に設定する必要がある。
【0047】
〔分級工程〕
本発明の製造方法は、炭化工程後または必要に応じて行ってよい酸洗浄工程若しくは解砕工程の後に分級を実施してもよい。分級によって、球状炭素粒子の体積平均粒径をより正確に調整することができ、また、特定の寸法より小さい粒子(例えば体積平均粒径が0.1μm未満の粒子)、および特定の寸法より大きい粒子(例えば体積平均粒径が50μm以上の粒子)を除去することもできる。
分級を行う場合、その例として篩による分級、湿式分級、または乾式分級を挙げることができる。湿式分級機としては、例えば重力分級、慣性分級、水力分級、または遠心分級等の原理を利用した分級機を挙げることができる。乾式分級機としては、沈降分級、機械的分級、または遠心分級の原理を利用した分級機を挙げることができる。
【0048】
解砕工程後に分級を行う場合、上述したように、解砕と分級は、1つの装置(例えば、乾式の分級機能を備えたジェットミル)を用いて行うことができる。或いは、解砕機と分級機とが独立した装置を用いることもでき、この場合、解砕と分級とは連続して行ってもよいし、不連続に行ってもよい。
【0049】
[非水電解質蓄電デバイス用電極]
本発明の球状炭素粒子は、非水電解質蓄電デバイス用電極に使用できる。従って、本発明はまた、本発明の球状炭素粒子を含む非水電解質蓄電デバイス用電極も対象とする。本発明の電極は、非水電解質蓄電デバイスの分極性電極(例えば塗布電極またはシート電極)として使用することができる。
【0050】
[非水電解質蓄電デバイス用電極の製造方法]
非水電解質蓄電デバイス用電極は、例えば、本発明の球状炭素粒子、結合剤(バインダー)、導電性付与剤および溶剤(例えば水)を混合し、得られた混合物を公知の方法により、集電材(例えばアルミ箔等)に塗布して溶媒を除去した後、加圧成形することにより製造できる。
結合剤としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンおよびポリフッ化ビニリデン等のフッ素系高分子化合物、カルボキシメチルセルロース、スチレン-ブタジエンラバー、石油ピッチ、およびフェノール系樹脂等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。結合剤の添加量は、使用する結合剤の種類によっても異なるが、上記混合物の質量に対して、好ましくは1~10質量%であり、より好ましくは2~9質量%である。結合剤の添加量が前記範囲内であると、球状炭素粒子および導電性付与剤と集電材との十分な結合を得やすく、所望の内部抵抗を有する蓄電デバイスをもたらしやすい。
導電性付与剤としては、アセチレンブラックおよびケッチェンブラック等を単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0051】
電極活物質層は、通常は集電材の両面に形成するが、必要に応じて片面に形成してもよい。電極活物質層が厚いほど、集電材およびセパレータ等が少なくて済むため高容量化には好ましいが、電極活物質層が厚すぎると、電極内のイオン拡散抵抗が増大し、入出力特性が低下するため好ましくない。好ましい電極活物質層(片面当たり)の厚さは、20~500μmであり、より好ましくは30~300μm、更に好ましくは50~200μm、特に好ましくは60~150μmである。
【0052】
[非水電解質蓄電デバイス]
本発明はまた、本発明の電極を含む非水電解質蓄電デバイスも対象とする。
非水電解質蓄電デバイスの例としては、非水電解質を用いたキャパシタ(例えば電気二重層キャパシタ)および二次電池が挙げられる。
電気二重層キャパシタは、一般に、電極、電解液、およびセパレータを主構成要素として含み、セパレータを介在させた一対の電極、またはセパレータと電極とを交互に積層させた積層物を電解液中に浸漬させた構造を有する。電極以外の構成要素としては、一般的に使用されている構成要素を使用することができる。
【0053】
本発明の電極と組み合わせて使用できる電解液は、非水溶媒に電解質を溶解することにより調製できる。
そのような非水溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチレンカーボネートおよびプロピレンカーボネート等のカーボネート類;アセトニトリルおよびプロピオニトリル等のニトリル類;γ-ブチロラクトンおよびγ-バレロラクトン等のラクトン類;ジメチルスルホキシドおよびジエチルスルホキシド等のスルホキシド類;ジメチルホルムアミドおよびジエチルホルムアミド等のアミド類;テトラヒドロフランおよびジメトキシエタン等のエーテル類;並びにジメチルスルホランおよびスルホラン等を挙げることができる。これらの非水溶媒は、単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。
これらの非水溶媒に溶解させる電解質としては、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラプロピルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラブチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリメチルエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、トリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、ジエチルジメチルアンモニウムテトラフルオロボレート、N-エチル-N-メチルピロリジニウムテトラフルオロボレート、N,N-テトラメチレンピロリジニウムテトラフルオロボレートおよび1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレートのようなアンモニウムテトラフルオロボレート類;テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラブチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、トリメチルエチルヘキサフルオロホスフェート、トリエチルメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートおよびジエチルジメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェートのようなアンモニウムヘキサフルオロホスフェート類;並びにリチウムヘキサフルオロホスフェートおよびリチウムテトラフルオロボレート等が挙げられる。非水溶媒中の電解質の濃度は、所望の静電容量を得やすい観点から、好ましくは0.5~5mol/L、より好ましくは1~2.5mol/Lである。
【0054】
セパレータとしては、例えば、セルロース、ガラス繊維またはポリオレフィン(例えばポリエチレン若しくはポリプロピレン等)を主成分とした不織布、クロスまたは微孔フィルムを使用することができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
なお、以下に本発明の球状炭素粒子の物性値(「比表面積」、「元素含有量」、「(002)面の面間隔d002」、「ラマンスペクトルによる1360cm-1付近のDバンドの半値幅」、「R値」および「体積平均粒径」)の測定法を記載するが、実施例を含めて、本明細書中に記載する物性値は、以下の方法により求めた値に基づくものである。
【0056】
[分析方法]
〔比表面積〕
以下にBETの式から誘導された近似式を記す。
【数1】
前記の近似式を用いて、液体窒素温度における、窒素吸着による3点法によりv
mを求め、次式により試料の比表面積を計算した。
【数2】
このとき、v
mは試料表面に単分子層を形成するのに必要な吸着量(cm
3/g)、vは実測される吸着量(cm
3/g)、p
0は飽和蒸気圧、pは絶対圧、cは定数(吸着熱を反映)、Nはアボガドロ数6.022×10
23、a(nm
2)は吸着質分子が試料表面で占める面積(分子占有断面積)である。
具体的には、日本BELL社製「BELL Sorb Mini」を用いて、以下のようにして液体窒素温度における球状炭素粒子への窒素の吸着量を測定した。球状炭素粒子を試料管に充填し、試料管を-196℃に冷却した状態で、一旦減圧し、その後所望の相対圧にて球状炭素粒子に窒素(純度99.999%)を吸着させた。各所望の相対圧にて平衡圧に達した時の試料に吸着した窒素量を吸着ガス量vとした。
【0057】
〔酸素元素含有量〕
株式会社堀場製作所製「酸素・窒素・水素分析装置EMGA-930」を用いて酸素元素含有量の測定を行った。
この装置の検出方法は、不活性ガス融解-非分散型赤外線吸収法(NDIR)であり、校正は、Snカプセル、およびSS-3(標準試料)により行った。前処理として250℃で約10分間脱水処理を施した試料20mgを、Snカプセルに量り取り、元素分析装置内で30秒間脱ガスした後、測定を行った。3検体を分析し、その平均値を分析値とした。
【0058】
〔硫黄元素含有量〕
株式会社堀場製作所製「炭素・硫黄分析装置EMIA-920V2 HORIBA製」を用いて硫黄元素含有量の測定を行った。
この装置の検出方法は、酸素気流中燃焼(高周波誘導加熱炉方式)-非分散赤外吸収法(NDIR)であり、校正は、アルミナ坩堝に助燃剤であるW(タングステン)とSn(スズ)のみを入れてブランクとし、標準物質であるJSS152-18[C:0.277%、S:0.0056%]およびJSS150-16[S:0.0296%]を用いて行った。前処理として250℃で約10分間脱水処理を施した試料50mg、粒子状タングステン1.5g、粒子状スズ0.3gをアルミナ坩堝に量り取り、元素分析装置内で30秒間脱ガスした後、純酸素気流下で高周波により加熱燃焼させ、測定を行った。3検体を分析し、その平均値を分析値とした。
【0059】
〔(002)面の面間隔d
002〕
球状炭素粒子を試料ホルダーに充填し、「株式会社リガク製MiniFlexII」を用い、Niフィルターにより単色化したCuKα線を線源とし、X線回折図形を得た。X線回折図形のピーク位置は重心法(回折線の重心位置を求め、これに対応する2θ値でピーク位置を求める方法)により求め、標準物質用高純度シリコン粉末の(111)面の回折ピークを用いて補正した。CuKα線の波長を0.15418nmとし、以下に記すBraggの公式により面間隔d
002を算出した。
【数3】
【0060】
〔ラマン分光測定〕
株式会社堀場製作所製「LabRAM ARAMIS」を用い、レーザー波長532nmの光源を用いて、ラマンスペクトルを測定した。各試料において無作為に5箇所の粒子をサンプリングし、測定を実施した。測定条件は、波長範囲50~2000cm-1、積算回数1000回であり、5箇所の平均値を計測値として算出した。
1360cm-1付近のDバンドの半値幅は、上記測定条件にて得られたスペクトルに対し、Dバンド(1360cm-1付近)とGバンド(1580cm-1付近)とのピーク分離を、ガウス関数でフィッティングして実施した後、測定した。また、R値は、DバンドとGバンドの各ピークの強度比ID/IG(Dバンドピーク強度/Gバンドピーク強度)であって、得られたスペクトルを用いて算出した。
【0061】
〔体積平均粒径〕
体積平均粒径(粒度分布)は、以下の方法により測定した。界面活性剤[和光純薬工業株式会社製「TritonX100」]を0.3質量%含む水溶液に試料を投入し、超音波洗浄器で10分以上処理し、試料を水溶液中に分散させた。この分散液を用いて粒度分布を測定した。粒度分布測定は、粒径・粒度分布測定器(日機装株式会社製「マイクロトラックM T3000」)を用いて行った。D50は、累積体積が50%となる粒径であり、この値を体積平均粒径として用いた。
【0062】
[実施例1]
〔球状炭素粒子の製造〕
1Lセパラブルフラスコに、硫黄元素含有量が2質量%であるリグニン12gを秤取し、イオン交換水320mLを添加した。得られた混合物をメカニカルスターラーで撹拌しながら、水酸化カリウムを0.4g添加してリグニンを溶解し、更にホルムアルデヒド水溶液(36質量%)を4.2mL添加し、リグニン水溶液を得た。
標準サイクロンを装着したスプレードライヤーB-290(Buchi製)を用い、流通量357L/時で窒素を流通させながら、液体材料の挿入部を200℃に加熱した状態で、得られたリグニン水溶液を噴霧乾燥した。固形分回収率は82.7質量%であった。
得られた噴霧乾燥物2gを、焼成ボートに入れ、管状炉(50φ,500mm)にて、窒素気流1L/分の不活性ガス雰囲気下700℃で4時間炭化した。得られた炭化物を1N塩酸水300mLで洗浄し、更にイオン交換水で中性を示すまで洗浄して乾燥し、球状炭素粒子を得た。
収率は83.2質量%(8.26g)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。また、得られた球状炭素粒子の電子顕微鏡観察写真を
図1に示す。
【0063】
〔電気二重層キャパシタの作製〕
得られた球状炭素粒子、JSR株式会社製のスチレン-ブタジエンラバー(SBR)、第一工業製薬株式会社製のカルボキシメチルセルロース(CMC)、および電気化学工業株式会社製のアセチレンブラックを、球状炭素粒子:SBR:CMC:アセチレンブラック=90:3:2:5(質量比)になるように秤取し、これらを水と混合し、スラリーを得た。得られたスラリーを、厚さ20μmの宝泉株式会社製のエッチドAl箔にバーコーターで塗布した。スラリーが塗布されたエッチドAl箔を、ガラスチューブオーブンを用いて減圧雰囲気下150℃で7時間乾燥することにより、分極性電極を得た。得られた分極性電極の厚さは100μmであった。
電気二重層キャパシタとしての静電容量およびエネルギー密度を、2032型コインセルを作製して評価するため、得られた分極性電極を用いて、下記手順に従って電気二重層キャパシタを作製した。
2032型コインセル部材は宝泉株式会社から入手した。得られた分極性電極を14mmΦの寸法に打抜いたものを電極として用いた。セパレータとして、日本板硝子株式会社製のガラス繊維セパレータを17mmΦに打抜いたものを用いた。電解液として、富山薬品工業株式会社製のトリエチルメチルアンモニウムテトラフルオロボレートのプロピレンカーボネート溶液(TEMA-BF4/PC、1.4mol/L)を用いた。2032型コインセルの作製は、アルゴン雰囲気下のグローブボックス内で行った。セパレータを介して上記電極2枚を重ね合わせてコインセルの中に入れ、電解液を注入した。電極およびセパレータを電解液で十分に含浸させた後、かしめ機を用いて封止することにより、電気二重層キャパシタを得た。
【0064】
〔電気二重層キャパシタの性能評価試験〕
<静電容量>
作製した電気二重層キャパシタを充放電装置(株式会社計測器センター製BLS5516)に接続し、25℃で、電圧が2.5Vになるまで電流密度3mA/cm2で定電流充電を行い、次いで、2.5Vの定電圧で2時間充電した。充電後、定電流(電流密度3mA/cm2)でキャパシタの放電を行った。このとき、キャパシタ電圧(V1,V2)および放電時間(t1,t2)を測定し、下記式からキャパシタの静電容量を算出した。また、キャパシタの静電容量を、電極における球状炭素粒子の総質量で除することにより、質量基準の静電容量を算出した。結果を表2に示す。
F(V1-V2)=-I(t1-t2)
F:キャパシタの静電容量(F)
V1:2.5(V)
V2:1.5(V)
t1:キャパシタ電圧がV1になったときの放電時間(秒)
t2:キャパシタ電圧がV2になったときの放電時間(秒)
I:キャパシタの放電電流(A)
【0065】
<エネルギー密度>
放電開始から放電終了までの放電電力量を、電極における球状炭素粒子の総質量で除することにより、質量基準のエネルギー密度を算出した。結果を表2に示す。
【0066】
[実施例2]
水酸化カリウムの使用量を0.4gから36gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、球状炭素粒子を製造した。収率は37.9質量%(4.55g)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。
また、実施例1で得た球状炭素粒子に代えて上記球状炭素粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0067】
[比較例1]
1Lセパラブルフラスコにリグニン60gを秤取し、イオン交換水570mLを添加した。得られた混合物をメカニカルスターラーで撹拌しながら、アンモニア水(28質量%)を200mL添加した。そこに、ホルムアルデヒド水溶液(36質量%)20.4mL、アンモニア水(28質量%)5mLおよび酢酸0.5gの混合溶液を添加し、室温で20分撹拌した。更に、オイルバスを用いて80℃で1.5時間撹拌した。その後、撹拌しながら室温に冷却し、リグニン水溶液を得た。
得られたリグニン水溶液を、実施例1と同様にして噴霧乾燥した。固形分回収率は68質量%であった。
得られた噴霧乾燥物2gを、焼成ボートに入れ、管状炉(50φ,500mm)にて、窒素気流1L/分の不活性ガス雰囲気下1200℃で3時間炭化し、球状炭素粒子を得た。
収率は85.6質量%(1.71g)であった。得られた球状炭素粒子の分析結果を表1に示す。
また、実施例1で得た球状炭素粒子に代えて上記球状炭素粒子を用いたこと以外は実施例1と同様にして、電気二重層キャパシタを作製し、その性能評価試験を行った。結果を表2に示す。
【0068】
【0069】
【0070】
実施例1および2で得られた球状炭素粒子は、高い静電容量および高いエネルギー密度をもたらしたことが分かる。また、本発明の球状炭素粒子は効率的かつ安全に製造できた。
一方、比較例1で得られた球状炭素粒子は、不十分な静電容量および不十分なエネルギー密度しかもたらさなかった。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の球状炭素粒子は蓄電デバイスの製造に使用することができ、そのような蓄電デバイスは安定かつ高容量といった特性を有することができる。