(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】新規植物体、当該植物体の生産方法、およびステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法
(51)【国際特許分類】
A01H 5/00 20180101AFI20231017BHJP
C12N 15/57 20060101ALN20231017BHJP
C12N 15/60 20060101ALN20231017BHJP
C12N 15/29 20060101ALN20231017BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
A01H5/00 A ZNA
C12N15/57
C12N15/60
C12N15/29
C12N15/09 110
(21)【出願番号】P 2019158782
(22)【出願日】2019-08-30
【審査請求日】2022-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】草場 信
(72)【発明者】
【氏名】山谷 浩史
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2007/0094744(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107936099(CN,A)
【文献】欧州特許出願公開第01033405(EP,A2)
【文献】国際公開第2010/039750(WO,A2)
【文献】Li, Z. et al.,"NYEs/SGRs-mediated chlorophyll degradation is critical for detoxification during seed maturation in Arabidopsis",Plant J.,2017年,Vol. 92,pp. 650-661
【文献】Ren, G. et al.,"Identification of a novel chloroplast protein AtNYE1 regulating chlorophyll degradation during leaf senescence in Arabidopsis",Plant Physiol.,2007年,Vol. 144,pp. 1429-1441
【文献】Wu, S. et al.,"NON-YELLOWING2 (NYE2), a Close Paralog of NYE1, Plays a Positive Role in Chlorophyll Degradation in Arabidopsis",Mol. Plant,2016年,Vol. 9,pp. 624-647
【文献】Wang, M. et al.,"Parallel selection on a dormancy gene during domestication of crops from multiple families",Nat. Genet.,2018年,Vol. 50,pp. 1435-1441
【文献】山谷浩史 ほか,"ダイズ種皮緑色を決定するGsc1オーソログの機能解析",育種学研究,Vol. 21 (別1),2019年03月16日,p. 40
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00-17/00
C12N 15/00-15/90
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子および第2のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制されているか、または前記
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されており、
さらに、
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子および第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現が抑制されているか、または前記
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されて
おり、
前記第1のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(a)~(d)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(a)配列番号1または3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1または3に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号5または7に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(d)前記(a)または(c)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(e)~(h)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(e)配列番号2または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(f)配列番号2または4に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号6または8に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(h)前記(e)または(g)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(i)~(l)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子であり:
(i)配列番号9または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(j)配列番号9または11に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(k)配列番号13または15に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(l)前記(i)または(k)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(m)~(p)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子である、植物体:
(m)配列番号10または12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(n)配列番号10または12に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(o)配列番号14または16に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(p)前記(m)または(o)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項2】
前記植物体が双子葉植物である、請求項1に記載の植物体。
【請求項3】
植物体において、
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子および第2のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現を抑制するか、または前記
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程と、
以下の
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子および第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現
を抑制するか、または前記
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能
を阻害する工程を含み、
前記第1のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(a)~(d)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(a)配列番号1または3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1または3に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号5または7に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(d)前記(a)または(c)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(e)~(h)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(e)配列番号2または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(f)配列番号2または4に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号6または8に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(h)前記(e)または(g)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(i)~(l)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子であり:
(i)配列番号9または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(j)配列番号9または11に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(k)配列番号13または15に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(l)前記(i)または(k)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(m)~(p)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子である、植物体の生産方法:
(m)配列番号10または12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(n)配列番号10または12に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(o)配列番号14または16に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(p)前記(m)または(o)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項4】
前記植物体が双子葉植物である、請求項3に記載の生産方法。
【請求項5】
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子および第2のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制された、または、前記
第1のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されたステイグリーン植物において、
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子および第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制する、または、前記
第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドおよび前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含
み、
前記第1のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(a)~(d)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(a)配列番号1または3に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(b)配列番号1または3に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(c)配列番号5または7に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(d)前記(a)または(c)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(e)~(h)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子であり:
(e)配列番号2または4に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(f)配列番号2または4に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(g)配列番号6または8に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(h)前記(e)または(g)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第1のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(i)~(l)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子であり:
(i)配列番号9または11に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(j)配列番号9または11に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(k)配列番号13または15に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(l)前記(i)または(k)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子、
前記第2のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(m)~(p)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子である、ステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法:
(m)配列番号10または12に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(n)配列番号10または12に記載されるアミノ酸配列に対して90%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(o)配列番号14または16に記載される塩基配列からなる遺伝子;
(p)前記(m)または(o)の遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【請求項6】
前記ステイグリーン植物が双子葉植物である、請求項
5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規植物体、当該植物体の生産方法、およびステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葉野菜等の緑色野菜は老化により黄変し易いことが知られている。緑色野菜はわずかでも黄変すると、消費者の購買意欲および食欲が大きく減退してしまう。よって、黄変した緑色野菜の売れ残りおよび購買後の廃棄等のフードロスが問題になっている。
【0003】
例えば、栽培後期に黄変が起こり易く、出荷時に黄変した部位の除去が行われている。また、長時間の緑色野菜の輸送中に黄変が起こり易いことが知られている。輸送中の黄変を抑制するために、緑色野菜の保存設備の改善等が行われている。一方、収穫後の労働コストおよび設備コストの上昇に伴う緑色野菜の高価格化が懸念される。したがって、栽培時および輸送時等に、黄変が起こり難く緑色が維持された、ステイグリーン植物の開発が望まれている。
【0004】
例えば、非特許文献1には、クロロフィル分解酵素の発現が抑制されることによって、ステイグリーン植物を得ることができることが記載されている。一方、非特許文献2および3には、シロイヌナズナおよびダイズにおいて種子におけるクロロフィル分解が抑制されると、発芽・成苗率が低下することが記載されている。また、非特許文献4には、ダイズでは種子にクロロフィル蓄積するCytG系統の、青豆(種子緑色)形質を抑制する突然変異体について記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Kusaba et. al.,Plant Cell,p.1362-1375,19, 2007
【文献】Nakajima et. al., Plant Physiology, p.261-273, 160, 2012
【文献】Li et. al., The Plant Journal, p.650-661, 92, 2017
【文献】Terao, Nakatomi, J Genet, p.64-80, 4, 1929
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述のとおり、ステイグリーン植物には発芽・成苗率が低いという問題があり、実用化に至っていない。したがって、ステイグリーン植物の発芽・成苗率の改善が望まれる。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、発芽・成苗率低下が抑制された、黄変が起こり難いステイグリーン植物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る植物体は、以下の(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制されているか、または前記クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されており、さらに、以下の(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現が抑制されているか、または前記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されている、植物体である:
(1)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(2)配列番号1~4のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(3)配列番号1~4に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(4)配列番号5~8のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(5)上記(1)~(4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(6)配列番号9~12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(7)配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(8)配列番号9~12に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(9)配列番号13~16のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(10)上記(6)~(9)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【0009】
本発明の一態様に係る植物体は双子葉植物であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の一態様に係る植物体の生産方法は、植物体において、以下の(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現を抑制するか、または前記クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程と、以下の(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制するか、または前記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含む、植物体の生産方法である:
(1)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(2)配列番号1~4のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(3)配列番号1~4に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(4)配列番号5~8のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(5)上記(1)~(4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(6)配列番号9~12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(7)配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(8)配列番号9~12に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(9)配列番号13~16のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(10)上記(6)~(9)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【0011】
本発明の一態様に係る植物体の生産方法において、植物体は双子葉植物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の一態様に係るステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法は、以下の(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制する、または、前記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含む、ステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法である:
(6)配列番号9~12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(7)配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(8)配列番号9~12に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(9)配列番号13~16のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(10)上記(6)~(9)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【0013】
また、本発明の一態様に係るステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法は、以下の(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制された、または、前記クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されたステイグリーン植物において、
以下の(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制、または、前記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含む、ステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法である:
(1)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(2)配列番号1~4のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(3)配列番号1~4に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(4)配列番号5~8のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(5)上記(1)~(4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(6)配列番号9~12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子;
(7)配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(8)配列番号9~12に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子;
(9)配列番号13~16のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子;
(10)上記(6)~(9)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子。
【0014】
本発明の一態様に係るステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法において、ステイグリーン植物が双子葉植物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の一態様によれば、発芽率または成苗率低下が抑制され、黄変が起こり難い、ステイグリーン植物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】評価例1のシロイヌナズナ種子の発芽率の測定結果を示すグラフである。
【
図2】評価例2のシロイヌナズナ葉のクロロフィル含量の測定結果を示すグラフである。
【
図3】評価例3のシロイヌナズナ種子の色の観察結果を示す写真である。
【
図5】評価例4のダイズ種子の本葉展開率(発芽・成苗率)の測定結果を示すグラフである。
【
図6】評価例5のダイズ種子の色の観察結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
〔用語等の定義〕
本明細書において、「ポリヌクレオチド」は、「核酸」または「核酸分子」とも換言でき、ヌクレオチドの重合体を意図している。また、「塩基配列」は、「核酸配列」または「ヌクレオチド配列」とも換言でき、特に言及のない限り、デオキシリボヌクレオチドの配列またはリボヌクレオチドの配列を意図している。また、「ポリペプチド」は、「タンパク質」とも換言できる。
【0018】
本明細書において、「ステイグリーン植物」は、栽培、収穫、保存および輸送等の際に黄変が起こり難く、緑色が維持される植物を意図している。ステイグリーン植物の例として、クロロフィルが種子に蓄積する突然変異体等が挙げられる。クロロフィルが種子に蓄積する突然変異体の例として、クロロフィル分解酵素遺伝子の変異体およびクロロフィル分解抑制遺伝子の変異体等が挙げられる。クロロフィル分解酵素遺伝子の例として、後述する(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子等が挙げられる。また、クロロフィル分解制御遺伝子の例として、CytG遺伝子(例えば、配列番号18に記載される塩基配列)等が挙げられる。
【0019】
〔植物体〕
本実施形態に係る植物体は、クロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制されているか、当該クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されている。さらに、本実施形態に係る植物体は、CaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現が抑制されているか、または当該CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されている。
【0020】
本明細書において、「遺伝子の発現が抑制されている」とは、ゲノム上にある遺伝子が本来の機能を発揮しない状態を意味する。「遺伝子の発現抑制」は、例えば、「遺伝子の破壊」および「遺伝子の変異」によって生じ得る。
【0021】
「遺伝子の破壊」は、ゲノム上に本来ある遺伝子が存在しないこと、またはゲノム上にある遺伝子から転写産物が生成されないことを意味する。「遺伝子の変異」は、本来の機能的なタンパク質が生成されない遺伝子の変異、タンパク質が生成されるものの、生成される量が低下する遺伝子の変異、またはタンパク質が生成されるものの、タンパク質の安定性が低下する遺伝子の変異を意味している。
【0022】
本明細書において、「変異」は、野生型のゲノム上にある塩基、または野生型タンパク質にあるアミノ酸残基の変化(例えば、置換、欠失、挿入、付加、重複または逆位など)を意味する。ゲノム上にある塩基の変化には、複数の塩基の転座も含まれる。
【0023】
また、「遺伝子の発現抑制」には、当該遺伝子には変化を生じていないが、遺伝子の機能(mRNAへの転写からそれに続くタンパク質への翻訳まで)が他の因子を介して修飾されて、タンパク質の生成量が低下しているか、またはタンパク質の生成が生じていない状態も含まれる。「遺伝子の発現抑制」は、例えば、当該遺伝子から転写されるmRNAの分解によって生じ得る。
【0024】
本明細書において、「遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されている」とは、ポリペプチドが生成されるものの、生成されるポリペプチドの量が低下することによって、ポリペプチドの本来の機能を発揮しない状態を含む。また、「遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されている」とは、生成されるポリペプチドの量は抑制されないものの、活性を有しないか不完全な機能のみを有していることにより、ポリペプチドの本来の機能を発揮しない状態を含む。
【0025】
(クロロフィル分解酵素遺伝子)
本実施形態に係る植物体のクロロフィル分解酵素遺伝子は、以下の(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子である。
(1)配列番号1~4のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子
(2)配列番号1~4のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子
(3)配列番号1~4に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子
(4)配列番号5~8のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子
(5)上記(1)~(4)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、クロロフィル分解酵素として機能するタンパク質をコードする遺伝子
上記クロロフィル分解酵素遺伝子は、クロロフィル分解酵素として機能するポリペプチドをコードする遺伝子である。当該クロロフィル分解酵素は、クロロフィルaを分解する酵素である。これにより、ステイグリーン形質を効果的に維持できる。
【0026】
クロロフィル分解酵素遺伝子は以下に示す配列番号5~8に示す塩基配列に限定されるものでない。すなわち、シロイヌナズナもしくはダイズに内在するクロロフィル分解酵素遺伝子の相同遺伝子の発現を抑制してもよい。また、シロイヌナズナおよびダイズ以外の植物においては、当該植物に内在するクロロフィル分解酵素遺伝子の相同遺伝子の発現を抑制すればよい。本明細書において、相同遺伝子とは、共通の祖先に由来し、同じ構造および機能を有する遺伝子を示し、オルソログおよびパラログ等を含む。上記相同遺伝子は、特に限定されず、種々の生物に関する遺伝子配列を格納したデータベースを検索することで特定することができる。
【0027】
配列番号5に示す塩基配列は、シロイヌナズナに内在する遺伝子AT4G22920(AtSGR1)である。配列番号1に示すアミノ酸配列は、遺伝子AT4G22920(AtSGR1)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0028】
配列番号6に示す塩基配列は、シロイヌナズナに内在する遺伝子AT4G11910(AtSGR2)であり、遺伝子AT4G22920(AtSGR1)の相同遺伝子である。配列番号2に示すアミノ酸配列は、遺伝子AT4G11910(AtSGR2)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0029】
配列番号7に示す塩基配列は、ダイズに内在する遺伝子Glyma11g02980(GmSGR1)である。配列番号3に示すアミノ酸配列は、遺伝子Glyma11g02980(GmSGR1)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0030】
配列番号8に示す塩基配列は、ダイズに内在する遺伝子Glyma01g42390(GmSGR2)であり、遺伝子Glyma11g02980(GmSGR1)の相同遺伝子である。配列番号4に示すアミノ酸配列は、遺伝子Glyma01g42390(GmSGR2)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0031】
上記クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の相同遺伝子を取得する(単離する)方法は、特に限定されるものではない。例えば、上記クロロフィル分解酵素遺伝子またはCaaXプロテアーゼ様遺伝子の塩基配列の一部と特異的にハイブリダイズするプローブを調製し、ゲノムDNAライブラリーまたはcDNAライブラリーをスクリーニングすればよい。
【0032】
本明細書において、「1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加」は、例えば、Kunkel法等の部位特異的突然変異誘発法を用いて人為的に変異を導入してもよいし、天然に存在する同様の変異ポリペプチドに由来するものであってもよい。置換、欠失、挿入および/または付加されるアミノ酸残基の数は、通常は、30アミノ酸残基以内であり、好ましくは20アミノ酸残基以内であり、さらに好ましくは10アミノ酸残基以内であり、最も好ましくは5アミノ酸残基以内(例えば、5、4、3、2、1アミノ酸)である。
【0033】
本明細書において、「(アミノ酸配列の)配列同一性」は、基準となる(アミノ酸)配列に対して、言及されている(アミノ酸)配列が一致している割合を意味する。ここで、配列の一致していない部分は、(アミノ酸残基の)置換、付加、欠失または挿入が存在している部分である。
【0034】
上記(3)の遺伝子がコードするアミノ酸配列の配列同一性は、配列番号1~4のいずれかに記載されるアミノ酸配列に対して、50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上(例えば、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。配列同一性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990) を利用して決定することができる。
【0035】
本明細書において、「ストリンジェントな条件下」とは、いわゆる塩基配列に特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成され、非特異的な2本鎖のポリヌクレオチドが形成されない条件をいう。
【0036】
上記クロロフィル分解酵素遺伝子は、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。上記クロロフィル分解酵素遺伝子は、非翻訳領域(UTR)の配列等の付加的な配列を含むものであってもよい。
【0037】
(CaaXプロテアーゼ様遺伝子)
本実施形態に係る植物体のCaaXプロテアーゼ様遺伝子は、以下の(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上の遺伝子である。
(6)配列番号9~12のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質をコードする遺伝子
(7)配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列において、1または数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加されたアミノ酸配列からなり、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子
(8)配列番号9~12に記載されるアミノ酸配列に対して50%以上の配列同一性を有し、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子
(9)配列番号13~16のいずれかに記載される塩基配列からなる遺伝子
(10)上記(6)~(9)のいずれかの遺伝子と相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズし、かつ、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するタンパク質をコードする遺伝子
上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子は、CaaXプロテアーゼ様タンパク質として機能するポリペプチドをコードする遺伝子である。CaaXプロテアーゼ様タンパク質は、シグナル伝達に関与しているCaaXタンパク質を分解する酵素(CaaXプロテアーゼ)と共通のアミノ酸モチーフを持つ。
【0038】
CaaXプロテアーゼ様遺伝子は以下に示す配列番号13~16に示す塩基配列に限定されるものでない。すなわち、シロイヌナズナもしくはダイズに内在する相同遺伝子またはシロイヌナズナおよびダイズ以外の植物に内在する相同遺伝子の発現を抑制してもよい。
【0039】
配列番号13に示す塩基配列は、シロイヌナズナに内在する遺伝子AT2G35260(AtYTH1)である。配列番号9に示すアミノ酸配列は、遺伝子AT2G35260(AtYTH1)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0040】
配列番号14に示す塩基配列は、シロイヌナズナに内在する遺伝子AT4G17840(AtYTH2)であり、遺伝子AT2G35260(AtYTH1)の相同遺伝子である。配列番号10に示すアミノ酸配列は、遺伝子AT4G17840(AtYTH2)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0041】
配列番号15に示す塩基配列は、ダイズに内在する遺伝子Glyma01g40650(GmYTH1)である。配列番号11に示すアミノ酸配列は、遺伝子Glyma01g40650(GmYTH1)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0042】
配列番号16に示す塩基配列は、ダイズに内在する遺伝子Glyma11g04660(GmYTH2)であり、遺伝子Glyma01g40650(GmYTH1)の相同遺伝子である。配列番号12に示すアミノ酸配列は、遺伝子Glyma11g04660(GmYTH2)がコードするタンパク質のアミノ酸配列である。
【0043】
上記(8)の遺伝子がコードするアミノ酸配列の配列同一性は、配列番号9~12のいずれかに記載されるアミノ酸配列に対して、50%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは60%以上(例えば、65%以上、70%以上、75%以上、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)である。配列同一性は、BLASTN(核酸レベル)やBLASTX(アミノ酸レベル)のプログラム(Altschul et al. J. Mol. Biol., 215: 403-410, 1990)を利用して決定することができる。
【0044】
上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子は、RNA(例えば、mRNA)の形態、またはDNAの形態(例えば、cDNAまたはゲノムDNA)で存在し得る。DNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子は、非翻訳領域(UTR)の配列等の付加的な配列を含むものであってもよい。
【0045】
本実施形態において発現または活性が抑制されるクロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子はそれぞれ、通常、内在性のクロロフィル分解酵素遺伝子およびその相同遺伝子、ならびに、内在性のCaaXプロテアーゼ様遺伝子およびその相同遺伝子である。例えば、その植物の内在性クロロフィル分解酵素遺伝子が1種である場合には、その発現または活性が抑制されていればよい。その植物が2種以上の内在性クロロフィル分解酵素遺伝子およびその相同遺伝子を有する場合には、そのうちの1種以上の発現または活性が抑制されていればよく、全部の発現または活性が抑制されていてもよいが、そのうちの2種以上の発現または活性が抑制されていることが好ましい。CaaXプロテアーゼ様遺伝子も同様である。また、植物細胞が有する1種の内在性クロロフィル分解酵素遺伝子の対立遺伝子(アレル)のうち、少なくとも1つのアレルの発現または活性が抑制されていればよく、両方のアレルの発現または活性が抑制されていることが好ましい。CaaXプロテアーゼ様遺伝子も同様である。さらに、本発明の目的に反しない限り、クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子以外の遺伝子の発現および活性が同時に抑制されていてもよい。
【0046】
本実施形態に係る植物体は、発芽率または成苗率の低下が抑制された、黄変が起こり難いステイグリーン植物であるという特徴を有している。実施例に示すとおり、本実施形態に係る植物体は、クロロフィル分解酵素遺伝子に変異を有し、CaaXプロテアーゼ様遺伝子には変異を有さないステイグリーン植物と比較して、発芽率または成苗率が大きく改善されている。また、実施例に示すとおり、本実施形態に係る植物体は、野生型の植物と同等の発芽率または成苗率を有している。
【0047】
当該技術分野では、クロロフィル分解酵素遺伝子の発現または活性が抑制されると、黄変が起こり難いステイグリーン植物が得られることが知られていた。一方、当該ステイグリーン植物は種子へのクロロフィル蓄積が原因で発芽率または成苗率が低く実用化に至っていなかった。しかしながら、驚くべきことに、クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方の発現または活性を抑制することによって、種子へのクロロフィル蓄積は抑制され、従来のステイグリーン植物よりも発芽・成苗率が大きく改善される。このことは、CaaXプロテアーゼ様遺伝子が種子におけるクロロフィル蓄積変異のサプレッサー遺伝子として機能することを意味する。
【0048】
本実施形態に係る植物体の対象となる植物は、特に限定されず、如何なる植物であってもよい。対象となる植物の例として、双子葉植物および単子葉植物等が挙げられる。本発明の効果を十分に発揮できる点で、対象となる植物は双子葉植物であることが好ましい。また、対象となる植物の例として、一年生植物、二年生植物および多年生植物等が挙げられる。また、対象となる植物は、本発明の効果を十分に発揮できる点で、種子植物等の緑色植物であることがより好ましく、葉菜類の植物がさらに好ましい。
【0049】
双子葉植物の例として、ナタネ、ダイコン、ワサビダイコン、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、メキャベツ、カイラン、シロイヌナズナ、コマツナ、ハクサイ、ミズナ、アブラナ、カブ、ケール、カラシナ、タカナ、ワサビ、チンゲンサイ、ノザワナおよびハツカダイコン等のアブラナ科;キク、ヒマワリ、レタス、ゴボウ、シュンギク、ショクヨウギク、エンダイブ、チコリー、キクイモ、ショクヨウタンポポ等のキク科;ダイズ、エンドウ、ソラマメ、ラッカセイ、ナタマメ、インゲンマメ等のマメ科;オカヒジキおよびホウレンソウ等のアカザ科;ナス、ジャガイモ、トマト、トウガラシおよびピーマン等のナス科;シソ、セージ、チョロギ、タイム、エゴマおよびハッカ等のシソ科;オクラ等のアオイ科;ニンジン、パセリ、セロリ、アシタバ、ミツバおよびセリ等のセリ科;リンゴ、サクランボおよびイチゴ等のバラ科;ジュンサイおよびハス等のスイレン科;サンショウ等のミカン科;ウドおよびタラノキ等のウコギ科;サツマイモ等のヒルガオ科;トウガン、スイカ、マクワウリ、メロン、キュウリ、カボチャ、ヘチマおよびニガウリ等のウリ科;等の植物が挙げられる。
【0050】
単子葉植物の例として、イネ、トウモロコシ、コムギ、オオムギ、アワおよびソルガム等のイネ科;タロイモ、サトイモおよびハスイモ等のサトイモ科;ユリ、チューリップ、タマネギ、ラッキョウ、ネギ、ワケギ、ニンニク、アサツキ、ニラ、アスパラガスおよびヤマユリオニユリ等のユリ科;ヤマイモおよびジネンジョ等のヤマノイモ科;ミョウガおよびショウガ等のショウガ科;等の植物が挙げられる。
【0051】
本実施形態に係る植物体の例として、植物個体全体(例えば、成体、苗、種子および果実)、植物器官(例えば、根、茎、葉および花弁等)、植物細胞、植物組織(例えば、表皮、篩部、柔組織、木部、維管束、生殖器官および胚等)、カルス等が挙げられる。
【0052】
また、本実施形態に係る植物体には、植物細胞を生育させた植物、上記植物体の、後代、子孫またはクローンである植物、および繁殖材料(例えば、種子、果実、切穂、塊茎、塊根、株、カルス、プロトプラスト等)が含まれる。
【0053】
また、本実施形態に係る植物体には、交配によって得られた育種後代も含まれる。
【0054】
〔植物体の生産方法〕
本実施形態における植物体の生産方法は、植物体において、上記(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現を抑制するか、または上記クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程と、上記(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制するか、または上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含む。上記工程の順序は特に限定されず、同時に行ってもよい。
【0055】
本実施形態における植物体の生産方法において、「遺伝子の発現を抑制する工程」とは、「ゲノム上にある遺伝子が本来の機能を発揮しない状態となるように植物体を改変する」ことを意味する。したがって、「遺伝子の発現を抑制する工程」としては、「遺伝子を破壊する」および「遺伝子に変異を導入する」ことを含み得る。
【0056】
「遺伝子を破壊する」は、ゲノム上に本来ある遺伝子が存在しない状態にすること、またはゲノム上にある遺伝子から転写産物が生成させないことを意味する。「遺伝子に変異を導入する」は、本来の機能的なタンパク質が生成されないよう遺伝子に変異を導入する、タンパク質が生成されるものの、生成される量が低下するよう遺伝子に変異を導入する、またはタンパク質が生成されるものの、タンパク質の安定性が低下するよう遺伝子に変異を導入することを意味している。
【0057】
また、「遺伝子の発現を抑制する工程」としては、当該遺伝子には変化を生じていないが、遺伝子の機能(mRNAへの転写からそれに続くタンパク質への翻訳まで)が他の因子を介して修飾させて、タンパク質の生成量を低下させるか、またはタンパク質の生成を生じさせないように植物体を改変することも含み得る。
【0058】
本明細書において、「遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程」とは、ポリペプチドが生成されるものの、生成されるポリペプチドの量が低下することによって、ポリペプチドの本来の機能が発揮されないように植物体を改変すること、生成されるポリペプチドの量は抑制されないものの、活性を有しないか不完全な機能のみを有していることにより、ポリペプチドの本来の機能が発揮されないように植物体を改変することを含む。
【0059】
例えば、本実施形態の植物体の生産方法において、上記(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子および上記(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子に変異を導入することにより、当該遺伝子の発現を抑制または当該遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害することができる。変異の導入方法の例として、ゲノム編集法、物理的変異導入法、化学的変異導入法、およびトランスポゾンまたはアグロバクテリウムを使用する方法等が挙げられる。また、遺伝子の発現を抑制する方法として、RNA干渉(RNAi)およびアンチセンスRNA等が挙げられる。クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子に変異を導入するまたは発現を抑制する順序は特に限定されず、同時に行ってもよい。
【0060】
ゲノム編集法の例として、ZFN(zinc-finger nucleases)、TALEN(transcription activator-like effector nucleases)、CRISPR-Cas9システム等が挙げられる。CRISPR-Cas9システムでは、ガイドRNAおよびCas9タンパク質が、TALENおよびZFNでは、融合タンパク質(DNA結合ドメインおよびヌクレアーゼが融合されている)が、標的細胞内に存在すれば、ゲノム編集可能である。したがって、上記ガイドRNAおよびCas9タンパク質、ならびに上記融合タンパク質はいずれも、標的細胞に直接的に導入され得る。これらを標的細胞に直接的に導入する方法としては、PEG法、エレクトロポレーション法、およびパーティクルボンバードメント法などが挙げられる。
【0061】
物理的変異導入法の例として、放射線または紫外線照射による変異導入等が挙げられる。化学的変異導入法の例として、EMS(エチルメタンスルホン酸)等の変異誘導物質による変異原処理等が挙げられる。
【0062】
本実施形態の植物体は、育種法によっても生産することができる。育種法としては、例えば、上記クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現が抑制された品種と任意の品種を交雑させることを特徴とする一般的な育種法(交雑育種法等)を挙げることができる。該方法によって、発現率が改善されたステイグリーン植物体を作出することができる。
【0063】
〔ステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法〕
また、本実施形態におけるステイグリーン植物の発芽率または成苗率を改善する方法は上記(6)~(10)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制、または、上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程を含むものであればよく、その他の工程、条件、材料等については特に限定されるものではない。
【0064】
ステイグリーン植物の例として、自然突然変異等の変異により生じたステイグリーン植物等が挙げられる。また、ステイグリーン植物の例として、上記(1)~(5)からなる群より選択されるいずれか1つ以上のクロロフィル分解酵素遺伝子の発現が抑制された、または、上記クロロフィル分解酵素遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されたステイグリーン植物が挙げられる。
【0065】
上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現を抑制、または、上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害する工程は、上述の〔植物体の生産方法〕と同様に、上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子に変異を導入することにより、当該遺伝子の発現を抑制または当該遺伝子がコードするポリペプチドの機能を阻害することができる。変異の導入方法および遺伝子の発現を抑制する方法は、上述の〔植物体の生産方法〕と同様である。
【0066】
本明細書において、「発芽率または成苗率の改善」とは、従来のステイグリーン植物(クロロフィル分解抑制変異体)の発芽率または成苗率よりも高いことを示す。本明細書において、発芽率または成苗率には、発芽率、成苗率、本葉展開率およびアルビノ(白化)発生抑制率等が含まれる。また、本明細書において、「発芽率または成苗率」を「発芽・成苗率」と略記する場合がある。
【0067】
〔発芽・成苗率が改善されたステイグリーン植物の選抜方法〕
本実施形態の選抜方法は、植物において、上記(1)~(5)からなる群より選択されるクロロフィル分解酵素遺伝子および上記(6)~(10)からなる群より選択されるCaaXプロテアーゼ様遺伝子の発現が抑制されているか、または上記クロロフィル分解酵素遺伝子および上記CaaXプロテアーゼ様遺伝子がコードするポリペプチドの機能が阻害されているかを判定する工程を含む。
【0068】
上記(1)~(5)の遺伝子はクロロフィル分解酵素をコードし、上記(6)~(10)の遺伝子はCaaXプロテアーゼ様タンパク質をコードしている。植物においてこれらの遺伝子の発現が抑制されているか否かを判定することにより、当該植物の発芽・成苗率が改善し、緑色を維持する表現型を有するか否かを簡易に判断できる。
【0069】
具体的な判定方法については従来公知の方法を用いることができる。例えば、(i)対象となる植物からDNA試料を得て、遺伝子の有無または遺伝子に変異が入っているか否かを調べる方法、(ii)上記遺伝子の転写産物であるmRNAの有無または量を調べる方法、(iii)上記遺伝子の転写産物であるタンパク質の有無または量を調べる方法等を挙げることができる。
【0070】
上記DNA、RNAまたはタンパク質を調べる手法としては、従来公知の方法を利用できる。例えば、プローブを用いる手法、PCR法、RT-PCR法、抗体を用いた各種イムノアッセイ法、マイクロアレイを利用する方法等を挙げることができる。
【0071】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0072】
〔実施例1〕シロイヌナズナの突然変異体の作製
アブラナ科であるシロイヌナズナについて、クロロフィルa分解酵素遺伝子であるAtSGR1遺伝子(配列番号5)およびAtSGR2遺伝子(配列番号6)に変異を有するatsgr1atsgr2二重突然変異体(AtsgrDM)は、Fudan大学のBunke Kuaiらのグループから譲渡されたCol株由来の二重突然変異体を使用した。
【0073】
また、CaaXプロテアーゼ様遺伝子であるAtGSC1(AtYTH1)遺伝子(配列番号13)に変異を有するatgsc1突然変異体は、ABRC(Arabidopsis Biological Resource)から入手した。CaaXプロテアーゼ様遺伝子であるAtGSC2(AtYTH2)遺伝子(配列番号14)に変異を有するatgsc2突然変異体は、CRISPR-Cas9によるゲノム編集により作製した。CRISPR-Cas9によるゲノム編集においては、ガイドRNAとして塩基配列GCAGGAATAGATTACACAGG(配列番号17)を使用した。また、ゲノム編集用ベクターpEgP126_Paef1-2a-GFBSD2(Osakabe et al., Sci Rep 6, 26685, 2016)にこのガイドRNAを組み込み、AtGSC1突然変異体へ導入ることにより、atgsc1atgsc2二重突然変異体(AtythDM)を作製した。
【0074】
そして、AtsgrDMとAtythDMを交雑することにより、クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異を有する、atsgr1atsgr2 atyth1atyth2四重突然変異体(AtsgrAtyth4M)を作製した。各変異体は、PCRにより、目的の遺伝子に変異が導入されていることを確認した。
【0075】
〔実施例2〕ダイズの突然変異体の作製
マメ科であるダイズについて、クロロフィルa分解酵素遺伝子であるGmSGR1(D2)遺伝子(配列番号7)およびGmSGR2(D1)遺伝子(配列番号8)に変異を有するgmsgr1gmsgr2二重突然変異体(天津大青豆)は、農業生物資源ジーンバンクから入手した。また、CaaXプロテアーゼ様遺伝子であるGmYTH1(GmGSC1)遺伝子(配列番号15)およびGmYTH2(GmGSC2)遺伝子(配列番号16)に変異を有する、gmyth1gmyth2二重突然変異体(T139)はUSDA(United States Department of Agriculture)から入手した。そして、gmsgr1gmsgr2二重突然変異体とgmyth1gmyth2二重突然変異体を交雑することにより、クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異を有する、gmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2四重突然変異体を作製した。また、交雑することにより、クロロフィル分解酵素遺伝子CytG遺伝子(配列番号18)およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異を有する、cytG gmyth1gmyth2突然変異体を作製した。各変異体は、PCRにより、目的の遺伝子に変異が導入されていることを確認した。
【0076】
〔評価例1〕シロイヌナズナ種子の発芽率の測定
野生型のシロイヌナズナ、実施例1で作製したシロイヌナズナの突然変異体AtsgrDMおよびAtsgrAtyth4Mの種子をそれぞれの処理区に約50粒播種した。培地は1/2MS培地を使用し、無菌的に播種した。種子は吸水後、遮光した環境下で、4℃において4日間静置したものを播種した。播種後、90μmolの蛍光灯下で、22℃において3日間培地を静置した。播種後3日目の発芽率の測定結果を、
図1に示す。
【0077】
図1中、「Col」は野生型のシロイヌナズナを示す。2回の反復実験を行い、各処理区の左側が1回目の結果、右側が2回目の結果を示す。
図1に示すとおり、クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異を有することにより、クロロフィル分解酵素遺伝子変異により生じる発芽率低下を抑制した。そして、AtsgrAtyth4Mは野生型のシロイヌナズナと同等の発芽率まで発芽率が回復することがわかった。
【0078】
〔評価例2〕シロイヌナズナ葉のクロロフィル含量の測定
野生型のシロイヌナズナ、実施例1で作製したシロイヌナズナの突然変異体AtsgrDMおよびAtsgrAtyth4Mの種子を評価例1と同様の条件で低温処理した後、培養土に播種した。播種後25日目のシロイヌナズナの上から数えて8枚目の葉を切り取り、遮光した環境下(暗黒処理下)で、22℃において高湿条件下で静置した。SPAD葉緑素計(コニカミノルタ社製)によって葉のクロロフィル含量を測定した。クロロフィル含量の測定結果を
図2に示す。
【0079】
図2の縦軸は、クロロフィル含量(相対値)を示し、暗黒処理前の葉のクロロフィル含量を1とする。各処理区について、3~4回の反復実験を行った。
図2の測定値は、平均値±標準誤差を示す。
図2に示すとおり、AtsgrAtyth4MおよびAtsgrDMはCol(野生型のシロイヌナズナ)に比べて、葉に含まれるクロロフィル含量の低下が抑制された。
【0080】
〔評価例3〕シロイヌナズナ種子の色の観察
野生型のシロイヌナズナ、実施例1で作製したシロイヌナズナの突然変異体AtsgrDM、AtythDMおよびAtsgrAtyth4Mの種子の色を観察した。種子の色は、純水にサスペンドした状態で観察した。
図3は、各シロイヌナズナの種子の写真を示す。
【0081】
図3に示すように、野生型のシロイヌナズナ(Col)、AtythDMおよびAtsgrAtyth4Mの種子の色はうす茶色であった。一方、AtsgrDMの種子の色はクロロフィル分解酵素に変異を有するため、クロロフィルが種子に蓄積し、種子の色は茶緑色であった。AtsgrAtyth4Mは、クロロフィル分解酵素遺伝子のサプレッサー遺伝子であるCaaXプロテアーゼ様遺伝子にも変異が導入されているため、クロロフィル分解酵素遺伝子変異による種子へのクロロフィル蓄積が抑制された。
【0082】
〔評価例1~3のまとめ〕
図4は、評価例1~3の結果をまとめたものである。
図4の上段は、評価例2における、暗黒処理後6日目の葉の写真を示す。
図4の下段は、評価例3における、種子の写真と、評価例2と同様に播種した、播種後7日目のシロイヌナズナの子葉を示す写真である。
【0083】
図4に示すように、野生型のシロイヌナズナは、播種後7日目にほとんどの種子から正常な発芽・子葉の発達が観察された。一方、暗黒処理から6日経過した葉は、クロロフィル含量が減少し、葉が黄変した。クロロフィル分解酵素遺伝子に変異が導入されたAtsgrDMは、暗黒処理から6日経過した葉のクロロフィル含量の減少は抑制された。一方、播種後3日目の発芽率は約50%と、野生型のシロイヌナズナと比較して大きく減少した。
【0084】
クロロフィル分解酵素遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異を有するAtsgrAtyth4Mは、播種後7日目の発芽率は野生型のシロイヌナズナと同等であり、アルビノ個体も観察されなかった。また、暗黒処理から6日経過した葉のクロロフィル含量の減少は、クロロフィル分解酵素遺伝子に変異が導入されたAtsgrDMと同様に抑制された。すなわち、AtsgrAtyth4Mは、発芽・成苗率が高いステイグリーン系統であることが分かった。
【0085】
〔評価例4〕ダイズの本葉展開率の測定
市販されているダイズ(品種名:フクユタカおよびキヨミドリ)、ジーンバンクより入手した在来種・天津大青豆、実施例2で作製したダイズの突然変異体cytG gmyth1gmyth2およびgmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2の種子をそれぞれの処理区に15粒播種した。種子は調湿した環境下(高湿度状態)で、4℃において3日間静置したものを培養土に播種した。播種後、明条件下で、25℃において9日間培地を静置した。播種後7~8日目の各ダイズ系統の本葉展開率(発芽・成苗率)の測定結果を
図5に示す。
【0086】
「フクユタカ」は、一般的な栽培ダイズであり、GmYTH1遺伝子に変異を有する。「キヨミドリ」は、クロロフィル分解制御遺伝子であるCytG遺伝子に変異を有するダイズである。「天津大青豆」は、クロロフィル分解酵素遺伝子であるGmSGR1遺伝子およびGmSGR2遺伝子の両方に変異を有するダイズである。なお、ダイズの場合、クロロフィル分解酵素遺伝子であるGmSGR1遺伝子およびGmSGR2遺伝子の両方に変異を有さないと、表現型(種子の緑色化)が現れない。
【0087】
図5に示すように、クロロフィル分解酵素遺伝子GmSGR1とGmSGR2に変異が導入されている天津大青豆、クロロフィル分解制御遺伝子CytGに変異が導入されているキヨミドリは、フクユタカに比べて本葉展開率が低かった。一方、クロロフィル分解酵素遺伝子(GmSGR1とGmSGR2)およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異が導入されている「gmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2」の本葉展開率は、天津大青豆の本葉展開率より高かった。CytG遺伝子およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異が導入されている「cytG gmyth1gmyth2」の本葉展開率も、キヨミドリの本葉展開率よりも高かった。
【0088】
〔評価例5〕ダイズの種子の色の観察
評価例4で評価した各ダイズ系統の種子の色を観察した。
図6は、各ダイズの種子の写真を示す。
【0089】
図6に示すように、天津大青豆の種子の色はクロロフィル分解酵素の発現が抑制されているため、クロロフィルが種子に蓄積し、種子の色はPANTONE(登録商標)378Cに近似した緑色であった。また、キヨミドリもクロロフィル分解が抑制されているため、クロロフィルが種子に蓄積し、種子の色はPANTONE(登録商標)628Cに近似した緑色であった。
【0090】
一方、クロロフィル分解酵素遺伝子GmSGR1(D2)とGmSGR2(D1)およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子の両方に変異が導入されている「gmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2」の種子の色は、PANTONE(登録商標)7403Cに近似した黄色であった。すなわち、「gmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2」は、クロロフィル分解抑制突然変異のサプレッサー遺伝子であるCaaXプロテアーゼ様遺伝子に変異が導入されているため、クロロフィル分解酵素遺伝子変異による種子へのクロロフィル蓄積が抑制された。
【0091】
評価例4および5の結果はそれぞれ、評価例1および3と同様の結果が得られた。したがって、クロロフィル分解酵素遺伝子であるGmSGR1(D2)とGmSGR2(D1)およびCaaXプロテアーゼ様遺伝子GmYTH1GmYTH2に変異が導入されている「gmsgr1gmsgr2 gmyth1gmyth2」は、シロイヌナズナの変異体AtsgrAtyth4Mと同様に、発芽・成苗率が高いステイグリーン系統であることが示唆された。また、シロイヌナズナに内在するYTHタイプのCaaXプロテアーゼ様タンパク質(配列番号9、10)に対して、ダイズに内在するYTHタイプのCaaXプロテアーゼ様タンパク質(配列番号11、12)の配列同一性は67.2%~53.7%であった。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明によれば、発芽・成苗率が改善されたステイグリーン植物を得ることができる。また、本発明は、食品、農業および園芸等の分野に利用することができる。
【配列表】