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特許7369396保護層の製造方法、保護層付単結晶自立基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-18
(45)【発行日】2023-10-26
(54)【発明の名称】保護層の製造方法、保護層付単結晶自立基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/38 20060101AFI20231019BHJP
   C23C 16/34 20060101ALI20231019BHJP
   C30B 25/20 20060101ALI20231019BHJP
   H01L 21/205 20060101ALI20231019BHJP
   H01L 21/265 20060101ALI20231019BHJP
【FI】
C30B29/38 D
C23C16/34
C30B25/20
H01L21/205
H01L21/265 601A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019170816
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2021046341
(43)【公開日】2021-03-25
【審査請求日】2022-09-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 科学技術振興機構 産学共同実用化開発事業 産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山口 晃
(72)【発明者】
【氏名】朴 冠錫
(72)【発明者】
【氏名】松本 功
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 明伯
(72)【発明者】
【氏名】村上 尚
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-010970(JP,A)
【文献】特開2017-208427(JP,A)
【文献】特開2015-046441(JP,A)
【文献】特開2018-170335(JP,A)
【文献】特開2019-004047(JP,A)
【文献】国際公開第2015/037232(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/38
C30B 25/20
C23C 16/34
H01L 21/205
H01L 21/265
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
III族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層、又は、該半導体層を支持するIII族窒化物半導体からなる基板を保護する保護層の製造方法であって、
前記保護層は、前記半導体層又は前記基板よりも熱分解速度の低い材料からなる少なくとも2層以上から構成される複合層を含み、
前記複合層における、前記半導体層側又は前記基板側に配置される膜は低温成長膜からなり、前記低温成長膜以外の層はエピタキシャル成長膜からなり、
前記低温成長膜を400~600℃の成長温度で形成し、
前記エピタキシャル成長膜を800~1200℃の成長温度で形成することを特徴とする保護層の製造方法
【請求項2】
前記低温成長膜が窒化アルミニウム(AlN)からなることを特徴とする請求項に記載の保護層の製造方法
【請求項3】
前記エピタキシャル成長膜が窒化アルミニウム(AlN)からなることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の保護層の製造方法
【請求項4】
前記エピタキシャル成長膜の膜厚が0.01~10μmであることを特徴とする請求項1~請求項3の何れか一項に記載の保護層の製造方法
【請求項5】
前記保護層は、前記半導体層又は前記基板との界面に配置され、前記半導体層又は前記基板と同じ材料からなるリグロース層をさらに含むことを特徴とする請求項1~請求項の何れか一項に記載の保護層の製造方法
【請求項6】
前記リグロース層を900~1150℃の成長温度で形成することを特徴とする請求項に記載の保護層の製造方法
【請求項7】
前記半導体層又は前記基板が窒化ガリウム(GaN)からなることを特徴とする請求項1~請求項の何れか一項に記載の保護層の製造方法
【請求項8】
窒素極性面からなる表面と、該表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に設けられ、前記基板よりも熱分解速度の低い材料からなる保護層と、
前記基板の前記表面側に設けられ、III族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層と、を備える保護層付単結晶自立基板の製造方法であって、
前記半導体層をTHVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法により形成し、
前記保護層請求項1~請求項の何れか一項に記載の保護層の製造方法により形成することを特徴とする保護層付単結晶自立基板の製造方法
【請求項9】
窒素極性面からなる表面と、該表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板を準備する工程(1)と、
少なくとも前記基板の前記裏面側に、前記基板よりも熱分解速度の低い材料から保護層を形成する工程(2)と、
前記基板の前記表面側に、III族窒化物半導体からなる半導体層を、THVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法によってエピタキシャル成長させる工程(3)と、
前記半導体層を切り出して単結晶自立基板を得る工程(4)と、を備え、
前記工程(2)は、前記基板の前記裏面に低温成長膜を成長させ、該低温成長膜を介して、格子緩和したエピタキシャル成長膜を成長させて前記保護層を形成することを特徴とする保護層付単結晶自立基板の製造方法。
【請求項10】
前記工程(1)は、前記基板として窒化ガリウム(GaN)からなる基板を準備することを特徴とする請求項に記載の保護層付単結晶自立基板の製造方法。
【請求項11】
前記工程(2)は、前記保護層に含まれる複合層を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって窒化アルミニウム(AlN)から形成することを特徴とする請求項又は請求項10に記載の保護層付単結晶自立基板の製造方法。
【請求項12】
前記工程(3)は、前記基板の前記表面側に窒化ガリウム(GaN)をエピタキシャル成長させて前記半導体層を形成することを特徴とする請求項~請求項11の何れか一項に記載の保護層付単結晶自立基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化合物半導体は、シリコンに比べて電子移動度が速く、発光特性を有することから、近年の技術開発により、通信分野や照明分野等に広く浸透している。中でも窒化物半導体は、GaAs、InP等の他の化合物半導体に比べてエネルギーのバンドギャップが広く、赤外から紫外領域までの発光や受光、さらには高周波用の高出力の電子素子材料として、昨今の省エネルギー社会において重要なキーマテリアルとされている。
【0003】
従来、化合物半導体を製造するにあたり、デバイス構造や、それを積層するための基板を製造する際の技術課題として、高温時の熱分解が挙げられる。通常、GaAs、InP、GaN等のIII族とV族の組み合わせで製造される化合物半導体では、As、P、N等のV族の蒸気圧が高いため、1000℃程度の高温状態において、熱分解によって半導体表面からV族元素が抜けてゆく現象が見られる。このような熱分解を抑制するため、例えば、以下に説明するような、製造工程における種々の方策が採用されている。
【0004】
上記の方策として、まず、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法等の気相成長装置を用いた方法において、薄膜成長時のV族/III族の比を、GaAs系、InP系では10~100倍、GaN系では1000~10000倍程度に設定して成長させる方法が挙げられる。
また、GaAs中へのAsの分布を均質にするために行うアニール処理を、AsH雰囲気中で行う方法が挙げられる。
また、GaAs中へZnを拡散させる方法等も採用されている。
【0005】
上記の中でも、GaAs系、InP系とGaN系では成長温度が大きく異なるため、GaN系の薄膜における窒素の熱分解を、雰囲気中の窒素分圧のみで抑えるためには、15000気圧程度の炉内圧力が必要とされ、実用的ではない。そのため、GaN系デバイスの製造における熱分解対策として、化合物半導体を保護する耐熱保護膜の開発が進められている。
上記のような耐熱保護膜として、例えば、以下のような方法で半導体の薄膜を成長させるケースで用いるものが検討されている。
【0006】
まず、THVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法によって高温(1000℃以上)で半導体を成長させる場合に、半導体層又は基板の裏面側を保護するための保護膜を設けることが検討されている。
また、Mg等のイオンの打ち込み後における1400~1500℃でのアニール処理を行う際に、半導体層又は基板の表面が熱分解するのを防止できる保護膜等も検討されている。
しかしながら、上記の何れのケースにおいても、高温雰囲気中で十分に長時間の耐性を有する保護膜は知られていない。
【0007】
ここで、従来、GaAs系、InP系の基板を製造するためのバルク材を融液から成長させる場合には、引き上げ雰囲気を、例えば、AsH雰囲気、又は、PH雰囲気とすることが知られている。
一方、窒化物半導体は、融液と気相との平衡条件に関し、極めて高温高圧の条件が必要であることが予想され、実験的にも十分知られていない。従って、シリコンやGaAs等の結晶成長に用いられるCz(Czochralski)法や、LEC(Liquid Encapsulated Czochralski)法等の一般的なバルク成長法を用いることができない。このため、窒化物半導体を成長させる場合には、例えば、アモノサーマル法やNaフラックス法等の方法を用いることが検討され、種々の方法の中でも、成長速度が比較的速い気相成長方法であるHVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法が実用化されている。
【0008】
上記のHVPE法は、所謂種基板と呼ばれる、予め用意された基板を反応炉内のサセプタ上に載置し、原料ガスのうち、III族側の原料ガスとしては、炉内上流側に配置されて加熱した金属原料ボートに液化金属原料を貯留し、この液化金属原料に塩素又は塩化水素を導入することで金属塩化物を生成させたものを用い、これを基板近傍へ導入する。
一方、V族側の原料ガスは、アンモニアガスとして基板近傍に導入される。
そして、III族側V族側の両方の原料ガスを基板近傍に供給し、基板を加熱することで金属塩化物とアンモニアの反応を促進させ、基板上に窒化物を結晶成長させる。このようにして成長した結晶膜積層基板は、自立基板とする他、さらに各種機能性膜を多層に積層することで半導体デバイスとする等の用途があり、特に、厚膜を必要とする縦型電子デバイスへの適用・開発の進捗が注目されている。
【0009】
しかしながら、HVPE法では、成長速度が100μm/hr程度であることに加え、成膜(成長)装置に副生成物が大量に付着することで長時間成長が妨げられること等の理由から、膜を薄く積層してから、種基板から成長膜を剥離する工程が必要になる等、自立基板を製造する際のコストを抑制できない。そこで、HVPE法で原料に用いる一塩化物に、さらに塩素を付加した三塩化物を用いるTHVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法等の方法も提案されている。このTHVPE法は、HVPE法に比べて高温下で膜を高速成長させることが可能であり、また、副生成物の生成も少なく、自立基板を製造する際のコストを抑制することが期待されている。
【0010】
図9のグラフに、HVPE法及びTHVPE法の、熱力学計算による、窒化ガリウム(GaN)結晶成長反応駆動力の温度依存性を示す。図9のグラフ中に示すように、HVPE法では、成長温度を800℃以上とした場合に、反応が進行し難くなることがわかる。一方、THVPE法においては、成長温度を1300℃とした場合でも十分に反応が進行することがわかる。
【0011】
図10のグラフに、図9における仮定と同等な装置を用いて行った、HVPE法及びTHVPE法によるGaN結晶成長の実験結果を示す。図10のグラフ中に示すように、成長温度が1100℃以上の場合、HVPE法では成長温度が遅く、1300℃ではほとんど成長していないのに対し、THVPE法では、1000℃以上の成長温度においても十分に早い成長速度が得られるうえ、全温度域において、HVPE法の概ね5倍以上の成長速度が得られることがわかる。
【0012】
一般に、窒化物基板は六方晶の結晶構造を有し、そのC軸方向には、最表面がIII族元素で終端しているIII族極性面(+C面)、及び、窒素原子で終端する窒素極性面(-C面)の両面が存在する。
HVPE法においては、主として基板のガリウム極性面(III族極性面:+C面)上に窒化ガリウム結晶を成長させるが、近年、デバイス構造の特性を向上させることを目的として、窒素極性面(-C面)上への結晶成長も試みられている(例えば、特許文献1を参照)。
一方、THVPE法においては、立体障害により、ガリウム極性面上には三塩化ガリウムが成長し難いため、通常、窒素極性面にのみ、窒化ガリウム結晶を成長させている。
【0013】
また、上述した、Mg等のイオンの打ち込み後における1400~1500℃でのアニール処理を行う製造方法に関し、例えば、半導体パワーデバイスの製造においては、LED等を製造する場合とは異なり、半導体層の平面方向に沿った一部分をP型にドーピングする技術が求められる。この場合、シリコン系デバイスを製造する方法と同様にイオン打ち込み技術が使用されるが、イオン打ち込み後、高温アニールによる活性化が必要となる。特に、窒化物半導体の場合には、高温アニールの過程において半導体層から窒素が抜け、表面が荒れてしまうことから、これを防止するための保護膜が必要となる。この保護膜は、半導体層よりも熱分解速度の低い材料からなり、例えば、半導体層と格子定数や熱膨張率が近いAlN等の材料が選ばれる。また、その成長方法及び成長装置としては、スパッタリング法や、MBE法、MOCVD法、HVPE法等、多種の方法・装置が使用されており、膜質も、エピタキシャル成長の他、アモルファス成長等、成長条件により異なった膜質を採用することが検討されている(例えば、特許文献2を参照)。
さらに、上記の保護層自体を無くす試みも行われている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2019-004047号公報
【文献】国際公開第2015/015973号
【非特許文献】
【0015】
【文献】Ion Implant device,「世界初Mgイオン注入法による高品質p型GaNの形成~GaNパワーデバイス作製プロセスの難所を克服~」,[online],20190528,imass001,p7,インターネット<URL:http://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20190528_imass001.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
上記の窒化物半導体における熱分解対策の現状としては、例えば、THVPE法を用い、上記のような高い成長温度で、基板の窒素極性面からなる表面上に窒化ガリウム結晶からなる半導体層を成長させた場合、以下のような不具合が生じる可能性がある。
即ち、高い成長温度で半導体層を成長させた場合、基板のIII族元素極性面からなる裏面がIII族元素と窒素とに熱分解し、この裏面から、III族元素が、例えば1μm/hr以上の速度で激しく蒸発してしまう。このように、基板の裏面からIII族元素が蒸発すると、高濃度のIII族元素の蒸気が基板の表面にまで回り込み、III族元素の液滴(ドロップレット)が基板の表面上に付着する。このようなIII族元素の液滴が基板の表面に付着すると、この基板上への半導体層の成長を阻害してしまう。その結果、半導体層の表面の少なくとも一部が荒れた状態となる可能性がある。さらに、高温で分解速度が増すと、裏面の分解速度が表面の成長速度を超え、結晶厚さが減少してしまうという問題がある。
【0017】
ここで、特許文献1には、上記したような問題を解決するため、裏面であるIII族極性面に、より高温に耐える保護層を設けることが開示されている。引用文献1には、例えば、GaN結晶を成長させる場合、窒化アルミニウム(AlN)等の、GaNよりも高温耐性がある材料からなる保護層を、スパッタ法やMOCVD法等によって気相成長させることが開示されている。
一方、特許文献1においては、上記の何れの成長方法を採用した場合でも、基板を加熱して保護層を成膜した後、常温付近まで冷却し、成膜装置のチャンバ内に移送して再度昇温させるため、基板と保護層との間の熱膨張率の差によって保護層内部に引張り応力が働くと、保護層にクラックが生じる可能性がある。このため、特許文献1においては、保護層内の応力を緩和することを目的として、結晶格子が揃ったエピタキシャル膜よりも、アモルファス状の膜を形成して保護層とすることを推奨している。
【0018】
しかしながら、本発明者等が鋭意実験を重ねた結果、スパッタ法によって成膜されたアモルファス状の保護層は、熱膨張率差によるクラックは生じないものの、HVPE法によって基板上にGaN結晶を高温で成長させたときに、保護層の高温耐性が無く、保護層ごと分解が進行することが確認された。
即ち、本発明者等が、GaNからなる基板のガリウム極性面に、AlN、酸化アルミニウム(Al)、窒化ホウ素(BN)、及び窒化ケイ素(SiN)からなる各保護層をスパッタ法で成膜した後、HVPE法によって基板の窒素極性面にGaN結晶を成長させたところ、何れの場合も保護層が消失し、GaNからなる基板が分解していることが確認された。
さらに、上記の各保護層材料の中から、2種類の組み合わせで数パターン選択し、2層構造の保護層をスパッタ法で成膜したが、上記同様、保護層ごと分解が進むことが確認された。
【0019】
また、Mgのイオン打ち込み後における1400~1500℃でのアニール処理を行った際の表面の熱分解の防止方法に関し、引用文献2においては、GaN上に、格子定数や熱膨張率は近いものの完全一致はしていないAlN膜を、スパッタ法やMOCVD法によって単層膜からなる保護膜を形成している。しかしながら、引用文献2に記載されたような、スパッタ法による緻密でない保護膜は、高温アニール時に保護膜の隙間から窒素抜けが生じ、また、MOCVD法等による緻密な保護膜は、高温アニールによって保護膜下の半導体層に残留応力やひずみ等が生じることから、良質なP型の活性層を得ることができなかった。
一方、非特許文献1に記載の方法では、保護膜を設けることなく活性層の製造を可能としているが、高圧が必要となり、製造コストが上昇するという問題がある。
【0020】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、保護膜としての機能を有効なものとし、THVPE法を用いて高温でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、基板のIII族元素極性面からなる裏面側に設けられた保護層並びに基板が熱分解することなく、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を高速で成長させることができ、生産性に優れ、且つ、製造コストを抑制することが可能な保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層下の半導体層に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能な保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記課題を解決するため、本発明者等は、III族窒化物半導体からなる基板における、III族元素極性面からなる裏面に、高温耐性を有する保護層をMOCVD法で形成する方法について、鋭意検討を重ねた。その結果、保護層に用いる材料として、格子定数、熱膨張係数がIII族窒化物に比較的近く、MOCVD法による成膜性にも優れているAlNを選択し、低温成長膜と、その上に積層されたエピタキシャル成長膜とを含む複合層を形成することで、例えばTHVPE法を用いて、高温でIII族窒化物半導体を成長させる際に、保護層にクラックが生じず、且つ、保護層及び半導体層が熱分解することがないことを見いだし、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、以下の態様を包含する。
【0022】
本発明は、III族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層、又は、該半導体層を支持するIII族窒化物半導体からなる基板を保護する保護層であって、前記半導体層又は前記基板よりも熱分解速度の低い材料からなる少なくとも2層以上から構成される複合層を含むことを特徴とする保護層を提供する。
【0023】
本発明によれば、上記のような、半導体層又は基板よりも熱分解速度の低い材料からなる成長膜を含む2層以上から構成される複合層を備えることにより、THVPE法により、半導体層又は基板上に高温雰囲気下でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層や半導体層又は基板が熱分解することがない。これにより、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を、高温雰囲気下で高速成長させることができるので、この保護層が設けられた単結晶自立基板の生産性が向上するとともに、製造コストを抑制することが可能になる。
また、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層下の半導体層に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能になる。
【0024】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記複合層における、前記半導体層側又は前記基板側に配置される膜が、成長温度が400~600℃の低温成長膜からなる構成を採用してもよい。
【0025】
本発明によれば、複合層における、半導体層側又は基板側に配置される膜が上記成長温度の低温成長膜であることで、この低温成長膜がアモルファス、又はそれに近い島状3次元成長膜となるので、保護層を、半導体層又は基板に対して効果的に格子緩和させることが可能になる。
【0026】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記複合層における、前記低温成長膜以外の層が、成長温度が800~1200℃のエピタキシャル成長膜からなることが好ましい。
【0027】
本発明によれば、複合層における低温成長膜以外の層が、上記成長温度のエピタキシャル成長膜からなることで、緻密で強固な膜が高い成長速度で得られるので、エピタキシャル層を短時間で成長させることができ、製造コストを抑制することが可能になる。
【0028】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記低温成長膜が窒化アルミニウム(AlN)からなることがより好ましい。
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記ピタキシャル成長膜が窒化アルミニウム(AlN)からなることがより好ましい。
【0029】
本発明によれば、低温成長膜が、保護層にクラックが生じるのを防止できるAlNからなるか、又は、ピタキシャル成長膜が、高温耐性を有するAlNからなることで、上記のような、保護層並びに基板が熱分解するのを抑制する効果が顕著に得られるとともに、高温で高速成長させることができるので、短時間での成膜が可能になり、製造コストも抑制できる。
【0030】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記エピタキシャル成長膜の膜厚が0.01~10μmであることがより好ましい。
【0031】
本発明によれば、エピタキシャル成長膜の膜厚が上記の下限以上であることで、完全な単結晶格子構造を半導体層又は基板と同じ面方位で得ることが可能になる。また、エピタキシャル成長膜の膜厚が上記の上限以下であることで、完全な格子緩和を生じる程度の膜厚となり、製造コストを抑制できる。
【0032】
また、本発明の保護層は、上記構成において、さらに、前記半導体層又は前記基板との界面に配置され、前記半導体層又は前記基板と同じ材料からなるリグロース層を含む構成を採用してもよい。
【0033】
本発明によれば、半導体層又は基板との界面にリグロース層が設けられることで、基板と半導体層又は保護層との界面の状態が安定し、成長後の剥離等が生じるのを防止できる。
【0034】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記リグロース層が、成長温度が900~1150℃の成長膜からなる構成を採用してもよい。
【0035】
本発明によれば、リグロース層が、上記の成長温度である成長膜からなることで、昇温時に、半導体層又は基板が通常の成長温度ほど高温にさらされることがないため、半導体層又は基板の表面が荒れることなく、半導体層又は基板とリグロース層との界面の状態が安定する。その結果、その次に成長する層とリグロース層の界面が安定し、成膜後に剥離等が生じるのを防止できる。
【0036】
また、本発明の保護層は、上記構成において、前記半導体層又は前記基板が窒化ガリウム(GaN)からなる構成を採用してもよい。
【0037】
本発明によれば、半導体層又は基板がGaNからなることで、半導体層又は基板上に成長するIII族窒化物半導体からなる半導体層の結晶性やデバイス特性がより高められるとともに、この保護層が設けられた単結晶自立基板としての機械的強度も確保できる。
【0038】
また、本発明は、窒素極性面からなる表面と、該表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板と、少なくとも前記基板の前記裏面側に設けられ、前記基板よりも熱分解速度の低い材料からなる保護層と、前記基板の前記表面側に設けられ、THVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるIII族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層と、を備え、前記保護層が、上記の何れかの保護層からなる保護層付単結晶自立基板であることを特徴とする。
【0039】
本発明によれば、上記のような、基板のIII族元素極性面からなる裏面側に設けられ、基板よりも熱分解速度の低い材料からなる保護層が、半導体層又は基板よりも熱分解速度の低い材料からなる成長膜を含む2層以上から構成される複合層を備えることにより、THVPE法により、基板上に高温雰囲気下でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層並びに基板が熱分解することがない。これにより、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を、高温雰囲気下で高速成長させることができるので、保護層付単結晶自立基板の生産性が向上するとともに、製造コストを抑制することが可能になる。
また、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層下の半導体層に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能になる。
【0040】
また、本発明は、窒素極性面からなる表面と、該表面と反対側のIII族元素極性面からなる裏面とを有し、III族窒化物半導体からなる基板を準備する工程(1)と、少なくとも前記基板の前記裏面側に、前記基板よりも熱分解速度の低い材料から保護層を形成する工程(2)と、前記基板の前記表面側に、III族窒化物半導体からなる半導体層を、THVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法によってエピタキシャル成長させる工程(3)と、前記半導体層を切り出して単結晶自立基板を得る工程(4)と、を備え、前記工程(2)は、前記基板の前記裏面に低温成長膜を成長させ、該低温成長膜を介して、格子緩和したエピタキシャル成長膜を成長させて前記保護層を形成することを特徴とする保護層付単結晶自立基板の製造方法を提供する。
【0041】
本発明によれば、上記のように、工程(2)が、基板の裏面に低温成長膜を成長させ、この低温成長膜を介して格子緩和したエピタキシャル成長膜を含む複合層を成長させて、基板よりも熱分解速度の低い材料から保護層を形成する方法を採用することにより、THVPE法を用いて、基板上に高温でIII族窒化物半導体を成長させたときに、保護層並びに基板が熱分解することがない。従って、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を、高温雰囲気下で高速成長させることができるので、保護層付単結晶自立基板を、優れた生産効率で、製造コストを抑制しながら製造することが可能になる。
また、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層下の半導体層に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能になる。
【0042】
また、本発明の保護層付単結晶自立基板の製造方法は、上記構成において、前記工程(1)が、前記基板として窒化ガリウム(GaN)からなる基板を準備する方法とすることができる。
【0043】
本発明によれば、GaNからなる基板を用いることで、基板上に成長するIII族窒化物半導体からなる半導体層の結晶性やデバイス特性がより高められるとともに、単結晶自立基板としての機械的強度も確保できる。
【0044】
また、本発明の保護層付単結晶自立基板の製造方法は、上記構成において、前記工程(2)が、前記保護層に含まれる複合層を、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によって窒化アルミニウム(AlN)から形成する方法を採用することがより好ましい。
【0045】
本発明によれば、保護層に含まれる複合層を、1回の成長中に成長温度を短時間で正確に切替えられるMOCVD法により、保護層にクラックが生じるのを防止可能なAlNからなる低温成長膜と、高温耐性を有したAlNからなるエピタキシャル成長膜とから形成することで、上記のような、保護層並びにデバイス構造、基板が熱分解するのを抑制する効果が顕著に得られる。また、エピタキシャル層を高温で高速成長させることができるので、結晶性の良い膜を短時間で成膜することが可能になり、製造コストも抑制できる。
【0046】
また、本発明の保護層付単結晶自立基板の製造方法は、上記構成において、前記工程(3)が、前記基板の前記表面側に窒化ガリウム(GaN)をエピタキシャル成長させて前記半導体層を形成する方法とすることがより好ましい。
【0047】
本発明によれば、半導体層をGaNから形成することで、III族窒化物半導体からなる基板上に成長する半導体層の結晶性がより高められ、また、高い成長速度による成膜が可能となる。
【0048】
なお、本発明で説明する「自立基板」とは、少なくとも自立できる程度の機械的強度を有する単結晶基板のことをいい、「保護層付単結晶自立基板」とは、保護層が備えられた単結晶自立基板、並びに、さらに基板の窒素極性面からなる表面に半導体層が積層された単結晶自立基板の両方のことをいう。
【発明の効果】
【0049】
本発明に係る保護層、及び、この保護層が設けられた保護層付単結晶自立基板によれば、上記のように、III族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層、又は、該半導体層を支持するIII族窒化物半導体からなる基板を保護する保護層が、半導体層又は基板よりも熱分解速度の低い材料からなる少なくとも2層以上から構成される複合層を含んでなる。これにより、基板上に高温でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層並びにデバイス構造、基板が熱分解することがないので、結晶性に優れた半導体層を、高温雰囲気下で高速成長させることができる。従って、結晶性に優れ、生産性に優れるとともに、製造コストが抑制された保護層、及び、保護層付単結晶自立基板が実現できる。
【0050】
また、本発明に係る保護層付単結晶自立基板の製造方法によれば、上記のような、各工程(1)~(4)を備えた方法を採用することにより、基板上に高温でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層並びにデバイス構造、基板が熱分解することがない。これにより、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を、高温雰囲気下で高速成長させることができるので、上記の保護層を備える保護層付単結晶自立基板を、優れた生産効率で、製造コストを抑制しながら製造することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法を模式的に説明する図であり、基板の裏面に形成された保護層を含む層構造を示す概略断面図である。
図2】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法を模式的に説明する図であり、基板の表面側に積層された半導体層を含む、全体の層構造を示す概略断面図である。
図3】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法について説明する図であり、図1及び図2中に示す保護層付単結晶自立基板の裏面側に設けられた保護層の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図4】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法について説明する図であり、基板の裏面に形成された保護層の表面におけるX線回折(XRD)の半値幅を示すグラフである。
図5】本発明に対する比較例の保護層付単結晶自立基板について説明する図であり、基板の裏面側に、MOCVD法を用いて、AlxGaN/AlNからなる層を交互に20ペアで積層した超格子構造で保護層を形成した層構造を示す断面図である。
図6図5中に示す保護層付単結晶自立基板の裏面側に設けられた保護層の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図7】本発明に対する比較例の保護層付単結晶自立基板について説明する図であり、基板の裏面側に、MOCVD法を用いて、膜厚方向で表層側に向けてGaNからAlNへ徐々に変化するグレーデッド層として保護層を形成した層構造を示す断面図である。
図8図7中に示す保護層付単結晶自立基板の裏面側に設けられた保護層の表面を撮影した走査型電子顕微鏡写真(SEM)である。
図9】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法で用いられるTHVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法、並びに、HVPE(Hydride Vapor Phase Epitaxy)法の、熱力学計算による、窒化ガリウム(GaN)結晶成長反応駆動力の温度依存性を示すグラフである。
図10】本発明の一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法で用いられるTHVPE法、並びに、HVPE法によって窒化ガリウム(GaN)結晶を成長させたときの、成長速度と成長温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0052】
以下、本発明を適用した一実施形態である保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法について、図1図4を適宜参照しながら説明する(必要に応じて従来図である図5図8も参照)。なお、以下の説明で用いる図面は、その特徴をわかり易くするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。また、以下の説明において例示される材料等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0053】
<保護層及び保護層付単結晶自立基板>
図1及び図2に示すように、本発明に係る保護層付単結晶自立基板10は、窒素極性面からなる表面1aと、該表面1aと反対側のIII族元素極性面からなる裏面1bとを有し、III族窒化物半導体からなる基板1と、少なくとも基板1の裏面1b側に設けられ、基板1よりも熱分解速度の低い材料からなる保護層2と、基板1の表面1a側に設けられ、THVPE(Tri Halide Vapor Phase Epitaxy)法によるIII族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層3とを備える。
そして、本発明に係る保護層付単結晶自立基板10は、保護層2が、少なくとも2層以上から構成される複合層22を含む層構造で概略構成されている。
また、本実施形態で説明する例の保護層2は、半導体層3又は基板1の少なくとも何れかを保護することが可能な保護膜からなり、半導体層3又は基板1よりも熱分解速度の低い材料からなるエピタキシャル成長膜22bを含む複合層22を備える。本実施形態で説明する例においては、保護層2が、基板1の裏面1b側を保護する例を説明するが、保護層2は、半導体層3を保護するように設けることも可能なものである。
【0054】
本発明者等は、上述したように、従来の保護層付単結晶自立基板において問題となっていた、高温雰囲気下で半導体層を成長させる際に、保護層にクラックが生じたり、保護層及び半導体層が分解したりするのを防止するため、鋭意検討を重ねた。そして、保護層に用いる材料に、格子定数、熱膨張係数がIII族窒化物に比較的近く、MOCVD法による成膜性にも優れているAlNを採用することで、例えば、THVPE法を用いて高温でIII族窒化物半導体を成長させる際に、保護層にクラックが生じず、また、保護層及び半導体層が分解することがないことを見いだしたものである。
【0055】
即ち、本発明者等は、上記課題を解決するのにあたり、従来、シリコン基板上に窒化ガリウム(GaN)結晶を成長させるときの結晶格子サイズの違いから生じる歪緩和手法として採用されている2つの方法について検討した。
第一の方法は、図5に示すような、AlN層とAlGaN層とを交互に積層した超格子構造から保護層を形成する方法であり、第二の方法は、図7に示すような、GaN層から成長を開始し、徐々に減量ガス中のGaの割合を減らし、徐々にAlの割合を増やすことで、最表面側の層がAlN層となるグレーデッド層から保護層を形成する方法である。しかしながら、上記の2つの方法では、図6のSEM写真(図5の積層構造を撮影)、及び、図8のSEM写真(図7の積層構造を撮影)に示すように、いずれも表面の保護層にクラックが生じることが明らかとなった。
【0056】
上記の結果を踏まえ、本発明者等は、図1及び図2に示すように、III族窒化物半導体(GaN)からなる基板1上に、低温でAlNからなる低温成長膜22aを成長させた後、高温でAlNからなるエピタキシャル成長膜22bをさらに成長させて保護層2を形成した。この結果、図3のSEM写真(図1及び図2の積層構造を撮影)に示すように、保護層2の表面にクラックが生じていないことが確認できた。
【0057】
さらに、本発明者等は、図1及び図2中に示すような、AlNがエピタキシャル成長した複合層22の格子緩和状況を、X線回折装置(XRD)によって測定し、結果を図4のグラフ(XRD半値幅)に示した。
一般に、格子に内部応力が残留していると、AlNのピーク位置が、本来のピーク位置に比べてGaN側にシフトする。このシフト量が大きいと、内部応力が大きいことを示していることから、後工程における結晶成長のための昇温時等において、保護層にクラックが生じる可能性が高い。このため、格子緩和の度合いは、基板となるGaNのピークと、保護層をなすAlNのピークの位置から計算される。
【0058】
図1及び図2中に示すような複合層22を含む保護層2を備えた積層構造においては、図4のグラフに示すように、AlNのピーク位置にシフトが見られず、完全に格子緩和されていることが確認できた。従って、保護層2には残留応力や歪が生じておらず、後工程において昇温した場合でも熱膨張係数の差を低温成長膜22aで十分に吸収し、保護層2にクラックが生じるのが抑制されていることが明らかとなった。
【0059】
本発明に係る保護層付単結晶自立基板及びその製造方法は、上記の知見に基づいてなされたものである。
以下、本実施形態の保護層付単結晶自立基板10の構成について詳細に説明する。
【0060】
[基板]
本実施形態の保護層付単結晶自立基板10に用いられる基板1は、III族窒化物半導体からなる基板であり、例えば、単結晶のIII族窒化物半導体からなる半導体基板である。
基板1は、後述の半導体層3をエピタキシャル成長させる種基板として機能するように構成されている。
【0061】
基板1は、上述したように、窒素極性面からなる表面1aと、この表面1aと反対側のIII族元素極性面からなる裏面1bとの両面を有する。
表面1aは、後述の半導体層3がエピタキシャル成長する成長面であり、窒素(N)の極性が表出する面(-c面)である。
裏面1bは、後述の保護層2が形成される面であり、III族元素、例えばガリウム(Ga)の極性が表出する面(+c面)である。
【0062】
基板1に用いられるIII族窒化物半導体としては、例えば、Ga等のIII族元素を含有する窒化物が挙げられ、必要に応じて他の元素を含有することもできる。また、III族窒化物半導体としては、上記Gaを含むGaNであることが、基板1の表面1a上に成長する、後述の半導体層3の結晶性やデバイス特性がより高められるとともに、単結晶自立基板としての機械的強度を確保する観点から好ましい。
【0063】
基板1の厚さとしては、特に限定されず、当該基板1の直径にも依存するが、本実施形態の保護層付単結晶自立基板10に自立できる程度の機械的強度を付与する観点から、例えば、基板1の直径が2inch(50.8mm)である場合には、基板の厚さは、300~600μmの範囲であることが好ましく、400~600μmの範囲であることがより好ましい。
また、基板1の直径が4inch(101.6mm)である場合には、基板1の厚さは、350~650μmの範囲であることが好ましく、450~650μmの範囲であることがより好ましい。
さらに、基板1の直径が6inch(152.4mm)である場合においても、基板1の厚さは、機械的強度等を勘案しながら適宜設定することができる。
【0064】
基板1の厚さが、各々の直径に対して上記の下限以上であれば、保護層付単結晶自立基板10全体に、それ自体で自立できる程度の機械的強度を付与できる。また、基板1の厚さが、各々の直径に対して上記の上限以下であれば、基板1がオーバースペックになることなく、コストも抑制することができる。
【0065】
[保護層]
保護層2は、上記のように、半導体層3又は基板1を保護するものであり、本実施形態で説明する例においては、少なくとも基板1の裏面1b側に設けられる。
本実施形態の保護層付単結晶自立基板10に備えられる保護層2は、上記のように、少なくとも2層以上から構成される複合層22を含んでなる。図1及び図2に示す例においては、複合層22は、基板1側に配置される低温成長膜22aと、該低温成長膜22aよりも表面側のエピタキシャル成長膜22bとから構成される。さらに、図示例の保護層2は、基板1との界面に、詳細を後述するリグロース層21を備えている。
【0066】
保護層2は、基板1及び後述の半導体層3よりも熱分解速度の低い材料から構成される。
ここで、本発明で説明する「熱分解速度の低い材料」とは、保護層2、並びに該保護層2が備えられる保護層付単結晶自立基板10を所定の温度に加熱したときに、保護層2が熱分解する速度が低い材料のことをいう。より具体的には、保護層2を構成する材料が、高温雰囲気中において昇華する速度が、基板1又は半導体層3をなす材料(III族窒化物半導体)よりも低いことをいう。
上記のような熱分解特性を有する保護層2を、少なくとも基板1の裏面1b側に設けることにより、詳細を後述する製造方法に備えられる工程(3)において、THVPE法によってIII族窒化物半導体からなる半導体層3を基板1の表面1a上にエピタキシャル成長させる際に、基板1の裏面1bが熱分解するのを抑制することができる。
【0067】
保護層2に含まれる複合層22は、基板1側に配置される低温成長膜22aを含むことが好ましい。これは、基板1とエピタキシャル成長膜22bとの間の熱膨張係数の差、並びに格子定数の差により、保護層2にクラックが生じるのを防ぐためである。エピタキシャル成長膜22bは、耐熱性の観点から、結晶性の高いエピタキシャル成長膜からなることが好ましい。
【0068】
また、保護層2は、上記のような熱分解特性に加えて、上述したような、III族窒化物半導体からなる半導体層3を基板1の表面1a上に成長させる際のガス雰囲気に対する耐食性が、基板1よりも高い材料から構成されていることがより好ましい。即ち、保護層2の材料として、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長で用いられるキャリアガスや原料に対する耐食性が高い材料を採用することがより好ましい。
【0069】
保護層2に含まれる複合層22において、エピタキシャル成長膜22b及び低温成長膜22aの材料としては、特に限定されず、窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al)、又は窒化ホウ素(BN)等が挙げられるが、これらの中でも、耐熱性の観点から、AlNを用いることが好ましい。
複合層22が、高温耐性を有するAlNからなることで、詳細を後述する半導体層3をTHVPE法で高温成長させる際に、保護層2、並びに、保護層2によって裏面1bが被覆される基板1が熱分解するのを抑制できる。また、複合層22がAlNからなることで、MOCVD法を用いて高温で高速成長させることができるので、短時間での成膜が可能になり、製造効率が高められるとともに、製造コストを抑制できる。
【0070】
図1及び図2に示すように、複合層22に含まれる低温成長膜22aは、基板1の裏面1b上において、後述のリグロース層21上に積層されている。
本実施形態においては、複合層22に低温成長膜22aが含まれていることにより、エピタキシャル成長膜22bの結晶格子が、III族窒化物半導体からなる基板1に対して効果的に格子緩和される。これにより、基板1と保護層2の格子係数が、それぞれ本来の結晶の値に近づき、内部応力がなくなるため、後述の半導体層3をTHVPE法で高温成長させる際に、それぞれの膜の熱膨張差により内部応力が入りやすい状態になった場合でも、保護層2にクラックが生じるのを効果的に防止できる。
なお、上述したように、保護層2を、半導体層3を保護するように設けることも可能であり、この場合には、詳細な図示を省略するが、低温成長膜22aが半導体層3側に配置されるとともに、低温成長膜22aと半導体層3との間にリグロース層21が配置される。
【0071】
本実施形態においては、複合層22において半導体層3側又は基板1側に配置される膜、即ち、複合層22に含まれる低温成長膜22aが、成長温度が400~600℃の低温成長膜であってもよい。このように、低温成長膜22aが上記成長温度の低温成長膜であることで、例えばAlNからなる低温成長膜22aがアモルファス、又はそれに近い島状3次元成長膜となるので、その上のエピタキシャル成長膜22b(複合層22)を含む保護層2全体を、基板1(又は半導体層3)に対して効果的に格子緩和させることが可能になる。
【0072】
また、保護層2に含まれる複合層22は、低温成長膜22a以外の層、即ち、低温成長膜22a上のエピタキシャル成長膜22bの成長温度が800~1200℃であることが好ましい。
このように、複合層22に含まれるエピタキシャル成長膜22bの成長温度が上記範囲であることで、緻密で強固な膜が高い成長速度で得られるので、エピタキシャル成長膜22b、ひいては複合層22全体を短時間で成長させることができ、製造コストを抑制できる。
【0073】
保護層2に含まれる複合層22の成長温度は、その構成元素によって反応最適温度が異なるが、エピタキシャル成長膜22bがAlNからなる場合は、通常は1200~1400℃が一般的な範囲である。しかしながら、温度を高くし過ぎると、GaNからなる基板1の窒素極性面を有する表面1aの分解が始まってしまうという問題がある。本実施形態における保護層2の形成にあたっては、島状で無ければ多少平坦性が劣っていても問題はないことから、複合層における低温成長膜22a以外の層、即ち、エピタキシャル成長膜22bの成長温度は800~1200℃であることが好ましい。なお、例えば、基板1の表面1a側において窒素分圧を高める処置等を行うことで、複合層22におけるエピタキシャル成長膜22bの成長温度を1200℃超とすることも可能である。
【0074】
また、保護層2に含まれるエピタキシャル成長膜22bの膜厚は、特に限定されないが、例えば、0.01~10μmであることが好ましい。エピタキシャル成長膜22bの膜厚が上記の下限以上であることで、完全な単結晶格子構造を基板1(又は半導体層3)と同じ面方位で得ることが可能になる。また、エピタキシャル成長膜22bの膜厚が上記の上限以下であることで、製造コストを抑制できる。
【0075】
複合層22に含まれる低温成長膜22a単独の膜厚も、特に限定されないが、例えば、10~100nmの範囲であることが好ましく、20~50nmの範囲であることがより好ましい。低温成長膜22aの膜厚が上記の下限以上であることで、複合層22の結晶格子が、III族窒化物半導体からなる基板1に対して効果的に格子緩和される。また、低温成長膜22aの膜厚が上記の上限以下であることで、複合層22が、低温成長膜22aとしての機能のみならず、保護層2としての機能を安定して有したものとなる。
【0076】
ここで、保護層2として、異種材質の膜を基板1(又は半導体層3)に直接成長した場合、界面の状態が安定せず、希に成長後の剥離が生じる場合もある。このため、本実施形態においては、保護層2が、さらに、基板1(又は半導体層3)との界面に配置され、基板(又は半導体層)と同じ材料、即ち、III族窒化物半導体(GaN)からなるリグロース層21を含む構成を採用し、成長炉内の雰囲気が安定した状態で保護層2を成長させる方法とすることがより好ましい。
【0077】
保護層2に含まれるリグロース層21の膜厚も、特に限定されないが、例えば、0.1~10μmの範囲であることが好ましく、1~5μmの範囲であることがより好ましい。リグロース層21の膜厚が上記の下限以上であることにより、その上の複合層22が、基板1に対してより効果的に格子緩和される。また、リグロース層21の膜厚が上記の上限以下であることにより、成膜に要する工程時間を抑制できるので、製造コストも抑制できる。
【0078】
また、リグロース層21は、成長温度が900~1150℃の成長膜であってもよい。このように、リグロース層21が上記の成長温度である成長膜からなることで、昇温時に、基板1(半導体層3)が通常の成長温度ほど高温にさらされることがないため、基板1(又は半導体層3)の表面が荒れることなく、基板1(又は半導体層3)とリグロース層21との界面の状態が安定する。その結果、その次に成長する層、即ち、複合層22とリグロース層21の界面が安定し、成膜後に剥離等が生じるのを防止できる。
【0079】
保護層2の全体膜厚としては、特に限定されないが、保護層2の全体膜厚を所定以上とすることで、保護層2による基板1の裏面1b側の被覆性が高められ、基板1が熱分解するのをより効果的に抑制できる。また、保護層2の全体膜厚を所定以下とすることで、基板1との熱膨張係数の差に起因して保護層2にクラックが生じるのを確実に防止できるとともに、保護層2が厚くなりすぎず、製造コストを抑制することが可能になる。
【0080】
なお、図1及び図2に示す例では、保護層2は、基板1の裏面1b側のみを覆うように設けられているが、これは限定されず、例えば、さらに、基板1の側面を覆うように保護層2を設けてもよい。このように、保護層2による被覆面積を大きくすることで、基板1が熱分解するのをさらに効果的に防止できる。
【0081】
[半導体層]
半導体層3は、基板1の表面1a側に設けられ、THVPE法によるIII族窒化物半導体の成長膜からなる。
【0082】
半導体層3に用いられるIII族窒化物半導体としては、例えば、III族元素としてGaを含有する窒化ガリウム(GaN)等が挙げられ、必要に応じて他の元素を含有することもできる。また、半導体層3をなすIII族窒化物半導体がGaNであることが、III族窒化物半導体からなる基板1の表面1a上に成長させたときの結晶性やデバイス特性がより高められ、また、高い成長速度による成膜が可能となる観点から好ましい。また、半導体層3がGaNからなることで、単結晶自立基板としての機械的強度も確保できる。
【0083】
半導体層3は、基板1の窒素極性面である表面1a上にエピタキシャル成長することにより、基板1をなすIII族窒化物半導体(GaN)の結晶格子を引き継ぐ単結晶層として設けられる。
また、半導体層3の表面3aは、基板1の表面1aと同様、(-c面)となる。
【0084】
半導体層3は、詳細を後述する製造方法に備えられる工程(4)において、所定の厚さに切り出されることで、単結晶自立基板が得られるものである。従って、半導体層3の厚さとしては、切り出し(スライス)時の予定厚さや、切り出し枚数等に応じて適宜設定することができ、例えば、1000μm以上に設定することも可能である。
【0085】
<保護層付単結晶自立基板の製造方法>
以下、本実施形態の保護層付単結晶自立基板の製造方法について、図1及び図2を適宜参照しながら説明する。
本実施形態の製造方法は、上述した保護層付単結晶自立基板10を製造する方法である。
【0086】
本実施形態の製造方法は、少なくとも、以下に示す工程(1)~(4)を備える方法である。
工程(1):窒素極性面からなる表面1aと、該表面1aと反対側のIII族元素極性面からなる裏面1bとを有し、III族窒化物半導体からなる基板1を準備する。
工程(2):少なくとも基板1の裏面1b側に、基板1よりも熱分解速度の低い材料から保護層2を形成する。
工程(3):基板1の表面1a側に、III族窒化物半導体からなる半導体層3を、THVPE法によってエピタキシャル成長させる。
工程(4):半導体層3を切り出して図視略の単結晶自立基板を得る。
【0087】
そして、本実施形態の製造方法は、上記の工程(2)が、基板1の裏面1bに低温成長膜22aを成長させ、該低温成長膜22aを介して、格子緩和したエピタキシャル成長膜22bを成長させて複合層22を含む保護層2を形成する。
以下、各工程(1)~(4)について説明する。
【0088】
[工程(1)]
まず、工程(1)においては、上記のように、III族窒化物半導体からなる基板1を準備する。
このような基板1としては、上述したような、窒化ガリウム(GaN)からなる基板が挙げられる。このように、基板1にGaNからなる基板を用いることで、基板1上に成長するIII族窒化物半導体からなる半導体層3の結晶性やデバイス特性がより高められる。また、単結晶自立基板としての機械的強度も確保できる。
【0089】
[工程(2)]
次に、工程(2)においては、上記のように、少なくとも基板1の裏面1b側に保護層2を形成する。
具体的には、基板1の裏面1bに、基板1よりも熱分解速度の低い材料を堆積させることで、少なくとも複合層22を含む保護層2を形成する。図1等に示す例では、基板1の裏面1bに、まず、GaNからなるリグロース層21を形成し、その上に、低温成長膜22a及びエピタキシャル成長膜22bを順次積層することで、複合層22を含む保護層2を形成している。
【0090】
工程(2)においては、例えば、図視略のMOCVD装置を用いて、保護層2に含まれる複合層22を形成する。この際、複合層22の材料としては、上述したような、AlN、Al、又はBN等が挙げられるが、これらの中でも、耐熱性や工程の簡便さの観点からAlNを用いることが好ましい。
【0091】
本実施形態の製造方法では、工程(2)において、保護層2に含まれる複合層22を、MOCVD法により高温耐性を有するAlNから形成することで、後工程である工程(3)において半導体層3を形成する際に、保護層2並びにデバイス構造、基板1が熱分解するのを抑制する効果が顕著に得られる。
また、MOCVD法によって複合層22をAlNから形成することで、複合層22を高温で高速成長させることができるので、結晶性の良い膜を短時間で成膜することが可能になり、製造コストも抑制できる。
【0092】
なお、工程(3)においては、保護層2を、基板1の裏面1bのみならず、側面も覆うように形成してもよい。
【0093】
[工程(3)]
次に、工程(3)においては、上記のように、基板1の表面1a側に、III族窒化物半導体からなる半導体層3を、THVPE法によって形成する。
【0094】
具体的には、図視略のTHVPE装置を用い、基板1の表面1aに、III族窒化物半導体として、例えばGaNをエピタキシャル成長させることで半導体層3を形成する。このように、THVPE法により、半導体層3をGaNから形成することで、III族窒化物半導体(GaN)からなる基板1上に成長する半導体層3の結晶性がより高められる。また、THVPE法によってGaNをエピタキシャル成長させることで、高い成長速度で半導体層3を形成することが可能になる。
【0095】
本実施形態によれば、上記の工程(2)が、基板1の裏面1bに低温成長膜22aを成長させ、この低温成長膜22aを介して格子緩和したエピタキシャル成長膜22bを成長させて、複合層22を含む保護層2を形成する方法を採用することにより、工程(3)において、THVPE法によって基板1上に高温でGaN等のIII族窒化物半導体を成長させたときに、保護層2並びに基板1が熱分解するのが抑制される。これにより、結晶性に優れたIII族窒化物半導体(GaN)を、高温雰囲気下で高速成長させることができる。
上記の工程(1)~(3)により、本実施形態の保護層付単結晶自立基板10が得られる。
【0096】
[工程(4)]
次に、工程(4)においては、上記のように、半導体層3を切り出して図視略の単結晶自立基板を得る。
具体的には、詳細な図示を省略するが、例えば、基板1の表面1a上に積層された半導体層3を、成長面に平行にスライスすることで、複数枚の単結晶自立基板を平板状に切り出す。
また、この際、基板1及び保護層2は、半導体層3から切り離して廃棄する。あるいは、基板1の表面1aを研磨したうえで、半導体層3を成長させるために再利用する。
【0097】
上記のような、半導体層3をスライスして単結晶自立基板を切り出す方法としては、図視略のワイヤソーを用いた方法の他、例えば、図視略の放電加工装置等を用いた方法が挙げられる。
【0098】
次いで、例えば、切り出した各々の単結晶自立基板の表面を研磨処理することで鏡面に仕上げる。
上記の工程(4)により、本実施形態の保護層付単結晶自立基板10から複数枚の単結晶自立基板が得られる。
【0099】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態の保護層2、及び、この保護層2が設けられた保護層付単結晶自立基板10によれば、III族窒化物半導体の成長膜からなる半導体層3又は基板1を保護する保護層2が、半導体層3又は基板1よりも熱分解速度の低い材料からなる少なくとも2層以上、即ち、低温成長膜22a及びエピタキシャル成長膜22bからなる複合層22を含む構成を採用している。これにより、基板1上に高温でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層2並びデバイス構造、に基板1が熱分解することがないので、結晶性に優れた半導体層3を、高温雰囲気下で高速成長させることができる。従って、結晶性に優れ、生産性に優れるとともに、製造コストが抑制された保護層2、及び、保護層付単結晶自立基板10が実現できる。
また、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層2下の半導体層3に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能になる。
【0100】
また、本実施形態の保護層付単結晶自立基板の製造方法によれば、上記の工程(2)が、基板1の裏面1bに低温成長層からなる低温成長膜22aを成長させ、この低温成長膜22aを介して格子緩和したエピタキシャル成長膜22aを成長させて複合膜22を形成することで、基板1よりも熱分解速度の低い材料から保護層2を形成する方法を採用している。これにより、基板1上に高温でGaN等のIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層2並びにデバイス構造、基板1が熱分解することがない。従って、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を、高温雰囲気下で高速成長させることができるので、保護層付単結晶自立基板10を、優れた生産効率で、製造コストを抑制しながら製造することが可能になる。さらに、保護層付単結晶自立基板10の半導体層3を切り出すことで、結晶性に優れる単結晶自立基板を生産性良く製造することも可能になる。
また、窒化物半導体デバイスを製造する工程におけるP型イオンの打ち込みに際し、保護層2下の半導体層3に残留応力やひずみ等を生じさせることなく、良質なP型活性層を得ることが可能になる。
【実施例
【0101】
次に、本発明の保護層付単結晶自立基板及びその製造方法に関し、実施例及び比較例を示してより詳細に説明するが、本発明はこれらの例にのみ限定されるものではない。
【0102】
<実施例>
本実施例においては、以下に説明するような手順により、図1及び図2中に示すような保護層付単結晶自立基板10を作製した。
【0103】
[工程(1)](基板の準備)
本実施例では、まず、工程(1)において、窒素極性面からなる表面1aと、該表面1aと反対側のIII族元素極性面からなる裏面1bとを有し、III族窒化物半導体であるGaNからなる基板1を準備した。
【0104】
[工程(2)](保護層の形成)
次に、本実施例では、工程(2)において、基板1の裏面1b側に、基板1よりも熱分解速度の低い材料からなる保護層2を形成した。即ち、工程(2)では、基板1のIII族元素極性面である裏面1b側に、GaNからなるリグロース層21、基板1側に配置される低温成長膜22aを含む複合層22を、MOCVD法によって以下に示す成長条件で積層することにより、保護層2を形成した。また、工程(2)においては、リグロース層21の上に、まず、低温成長膜22aを低温成長させた後、低温成長膜22a以外のエピタキシャル成長膜22bを高温成長させた。
(a)チャンバ内圧力:13kPa
(b)エピタキシャル成長膜(低温成長膜を除く)の成長温度:970℃
(c)低温成長膜の成長温度:500℃
(d)リグロース層21の成長温度:950℃
【0105】
より具体的に説明すると、まず、MOCVD装置のチャンバ内において、基板1を、裏面1b側を上に向けてサセプタ上に載置し、アンモニア(NH)ガスを導入しつつ昇温させ、水素ベーキング処理を経た後、GaNを成膜することでリグロース層21を形成した。
【0106】
次いで、一旦降温してAlNを数十nmになるまで低温成長させることで低温成長膜22aを形成した。ここで、低温成長膜22aの膜厚は、GaNからなる基板1と、その後の工程で成膜する複合層22における低温成長膜22a以外の層との間の応力緩和効果を十分に発揮できる程度の厚さが必要である。しかしながら、成長温度との兼ね合いで、低温成長膜22aを厚くし過ぎると、島状から巨大な3次元結晶成長粒となり、その上にエピタキシャル層が成長し難くため、上記のように数十nm程度とした。
【0107】
次いで、チャンバ内に連続してアンモニアガスを導入しつつ970℃まで昇温させ、低温成長膜22aの上に、引き続き、AlNからなるエピタキシャル成長膜22aを成長させ、複合層22を形成した。上記のような高温とすることで、AlNがエピタキシャル成長するので、エピタキシャル成長膜22aが緻密な膜に形成される。
【0108】
複合層22を成長させた後、アンモニアガスを導入したままで所定温度まで降温させ、次いで、アンモニアガスを遮断して常温付近まで冷却した後、基板1上に保護層2が形成された積層体をMOCVD装置のチャンバ内から取り出した。
【0109】
[工程(3)](半導体層の形成)
次に、工程(3)においては、基板1の表面1a上にIII族窒化物半導体であるGaNを成長させ、半導体層3を形成した。即ち、工程(3)では、基板1の窒素極性面である表面1a上に、THVPE法によって以下に示す成長条件でGaNからなる結晶を成長させることにより、半導体層3を形成した。
(a)塩化ガリウム:分圧0.001atm相当
(b)アンモニア:4slm
(c)キャリアガストータル:40slm
(d)成長温度:1340℃
(e)成長圧力:常圧
【0110】
より具体的に説明すると、まず、THVPE装置のチャンバ内において、基板1上に保護層2が形成された積層体を、基板1の表面1aを上に向けてサセプタ上に載置し、340℃に加熱して、表面1a上にGaN結晶を1時間成長させた。これにより、基板1上に、厚さが2000μmの半導体層3を形成した。
以上の手順により、本実施例の保護層付単結晶自立基板10を作製した。
【0111】
また、保護層2を形成しなかった点以外は、上記本実施例の各条件で基板1の表面1aに半導体層3を形成することで、参考例として保護層の無い単結晶自立基板を作製した。
【0112】
そして、本実施例で作製した、保護層2を有する保護層付単結晶自立基板10と、保護層を形成しなかった参考例の単結晶自立基板とを目視確認で比較したところ、参考例の単結晶自立基板は、基板の裏面が熱分解によって黒ずんでいるのが確認された。さらには、基板1の半分以上が熱分解により喪失していることが確認された。
一方、本実施例の保護層付単結晶自立基板10は、基板1が透明であり、裏面1bの熱分解が生じてないことが確認できた。
また、本実施例の保護層付単結晶自立基板10の保護層2の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって倍率=1000倍で撮影したところ、図3に示すように、表面にクラックが発生していないことが確認できた。
また、本実施例の保護層付単結晶自立基板10に設けられた保護層2(複合層22)のX線回折を測定したところ、図4のグラフに示すように、AlNのピーク位置にシフトが見られず、基板に対して完全に格子緩和されていることが確認できた。
【0113】
さらに、本実施例の保護層付単結晶自立基板10における半導体層3について、X線2結晶法によって結晶ピークの半値幅を測定したところ、約100秒であり、種結晶であるGaNからなる基板1の値と同等であった。さらに、常温下での常温のフォトルミネッセンス測定では、GaN結晶の発光ピークの他に、例えば不純物に由来する長波長側のブロードピーク等は観測されず、不純物濃度が少ない結晶性の良い半導体層3が得られていることが確認できた。
【0114】
<比較例1>
比較例1においては、図5に示すような、基板のIII族元素極性面である裏面側に、上記実施例と同様の条件で厚さが0.5μmのGaNからなるリグロース層を形成し、その上に、AlN層とAlGaN層とを交互に積層した超格子構造から保護層を形成することにより、従来から採用されている層構造の保護層付単結晶自立基板を作製した。
上記の超格子構造からなる保護層は、以下のような条件により、MOCVD装置を用いて形成した。
(a)成長圧力:15kPa
(b)成長温度:800℃
(c)炉内雰囲気:窒素(N)ガス
(d)積層数:20ペア(AlxGaN/AlN)
(e)膜厚(AlxGaN/AlN):15nm/5nm(但し1層あたり)
【0115】
そして、比較例1の保護層付単結晶自立基板に形成された保護層の表面を目視確認したところ、干渉縞を含んだ透明膜であることが確認された。
さらに、保護層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって倍率=1000倍で撮影したところ、図6に示すように、表面に多数のクラックが発生していることを確認した。これは、超格子構造からなる保護層の結晶格子が、基板に対して格子緩和されていないために、保護層全体にクラックが発生したと考えられる。
【0116】
<比較例2>
比較例2においては、図7に示すような、基板のIII族元素極性面である裏面側に、上記実施例と同様の条件で厚さが0.5μmのGaNからなるリグロース層を形成し、その上に、MOCVD法を用いて、膜厚方向で表層側に向けてGaNからAlNへ徐々に変化するグレーデッド層として保護層を形成した。
上記のレーデッド層からなる保護層は、以下に示すような条件により、MOCVD装置を用いて、GaN層から成長を開始し、徐々に減量ガス中のGaの割合を減らし、徐々にAlの割合を増やすことで、最表面側の層がAlN層となるグレーデッド層として形成した。
(a)成長圧力:15kPa
(b)成長温度:800℃
(c)全体膜厚:3μm
【0117】
そして、上記同様、比較例2の保護層付単結晶自立基板に形成された保護層の表面を目視確認したところ、干渉縞を含んだ透明膜であることが確認された。
さらに、保護層の表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって倍率=1000倍で撮影したところ、図8に示すように、表面に多数のクラックが発生していることを確認した。これは、比較例1の場合と同様、超格子構造からなる保護層の結晶格子が、基板に対して格子緩和されていないために、保護層全体にクラックが発生したと考えられる。
【0118】
以上説明した実施例の結果より、本発明に係る構成を有する上記実施例の保護層付単結晶自立基板が、基板上に高温でIII族窒化物半導体を成長させた場合でも、保護層並びに基板が熱分解することがないので、結晶性に優れた半導体層を、高温雰囲気下で高速成長させることができ、結晶性に優れ、生産性に優れるとともに製造コストを抑制できることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0119】
本発明の保護層、保護層付単結晶自立基板及びその製造方法は、基板を製造する際、THVPE法を用いてIII族窒化物半導体を高温成長させた場合でも、保護層並びに基板が熱分解することなく、結晶性に優れたIII族窒化物半導体を高速で成長させることができ、生産性に優れ、且つ、製造コストを抑制することが可能になる。従って、本発明の保護層付単結晶自立基板及びその製造方法は、赤外から紫外領域までの発光や受光、さらには高周波用の高出力の電子素子材料の用途において、非常に好適である。また、本発明の保護層は、窒化物半導体デバイスにおけるP型層形成のためのP型イオンの打ち込みの際や、その後の高温アニール処理の際に機能する保護層として非常に好適である。
【符号の説明】
【0120】
10…保護層付単結晶自立基板
1…基板
1a…表面
1b…裏面
2…保護層
21…リグロース層
22…複合層
22a…低温成長膜
22b…エピタキシャル成長膜
3…半導体層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10