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  • 特許-自律神経機能改善用の発酵乳 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】自律神経機能改善用の発酵乳
(51)【国際特許分類】
   A23C 9/123 20060101AFI20231020BHJP
   A23L 33/00 20160101ALN20231020BHJP
【FI】
A23C9/123
A23L33/00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019090381
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020184906
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-05-09
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10741
【微生物の受託番号】IPOD  FERM BP-10740
(73)【特許権者】
【識別番号】000006138
【氏名又は名称】株式会社明治
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100136319
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 宏修
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100143498
【弁理士】
【氏名又は名称】中西 健
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】水野 敬
(72)【発明者】
【氏名】逸見 隼
(72)【発明者】
【氏名】牧野 聖也
(72)【発明者】
【氏名】狩野 宏
【審査官】堂畑 厚志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/133122(WO,A1)
【文献】特開2011-126833(JP,A)
【文献】国際公開第2014/132982(WO,A1)
【文献】特開2005-194259(JP,A)
【文献】MAKINO, Seiya et al.,Anti-Fatigue Effects of Yogurt Fermented with Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus OLL1073R-1 in Healthy People Suffering from Summer Heat Fatigue: A Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial,Nutrients,vol. 10, no. 798, ,2018年,p. 1-10
【文献】OTOMI, Kaiho et al.,Effects of Yogurt Containing Lactobacillus gasseri OLL2716 on Autonomic Nerve Activities and Physiological Functions,Health,2015年,vol. 7,p. 397-405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23C
A01J
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを含有し、無脂乳固形分を7.0%以上9.0%以下の範囲内で含み、
00g/日以上120g/日以下の範囲内または00mL/日以上120mL/日以下の範囲内の量を1日2回、4週間以上継続して経口摂取させる、
相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【請求項2】
ストレプトコッカス サーモフィルスをさらに含有する、請求項1に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【請求項3】
前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスと前記ストレプトコッカス サーモフィルスとを用いて発酵される、請求項1または2に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【請求項4】
前記発酵乳はヨーグルトである、請求項1から3のいずれか1項に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【請求項5】
前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスは、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である
請求項1から4のいずれか1項に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【請求項6】
ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを含有し、無脂乳固形分を7.0%以上9.0%以下の範囲内で含む発酵乳を、00g/日以上120g/日以下の範囲内または00mL/日以上120mL/日以下の範囲内の量で1日2回、4週間以上継続して経口摂取させる、
相対的交感神経活動指標(LF/HF)の低減方法(ヒトを治療する行為を除く。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自律神経機能を改善するための発酵乳に関する。
【背景技術】
【0002】
自律神経は交感神経と副交感神経から成り、どちらかが乱れてバランスを崩すと、「冷え」、「凝り」、「胃腸の不調」等が生じて日常生活に悪影響を及ぼす。ところで、ヒトがストレスを受けると脳からの指令により副腎皮質から副腎皮質ホルモンが分泌されると共に、交感神経が支配している副腎皮質の中の副腎髄質からアドレナリン等が分泌される。これらのホルモンには、血糖値上昇、血圧上昇、免疫抑制、胃酸分泌促進、覚醒といった様々な作用がある。このため、ヒトがストレスを受けて交感神経が優位になり続けると、そのヒトに体調不良等の不具合が生じやすくなる。その予防策や対応策として、カルシウム摂取や、適度な運動等が挙げられるが、近年、自律神経機能の改善に対して効果のある食品を摂るといった身近で手軽にできる対策が求められている。
【0003】
従来、自律神経機能改善のための食品や組成物が、いくつか検討されている。例えば、特開2018-184361号公報(特許文献1)では、ジケトピペラジン類又はその塩を有効成分として含有する自律神経調節用組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-184361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、通常の食事に供することができる食品であって、自律神経機能に対して改善作用を有する食品は未だに存在しない。そこで、本発明は、身近で手軽に摂取することができる自律神経機能の改善用の食品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明者らは、身近で手軽に摂取できる食品として発酵乳に着目し、発酵乳の持つ自律神経機能改善効果について詳細に検討した。そして、その結果として、相対的交感神経活動指標(=(交感神経機能を反映する0.04Hz~0.15Hzの低周波成分(LF))/(主に副交感神経機能を反映する0.15Hz~0.40Hzの高周波成分(HF)))が2.0以上であるヒトに、特定のラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物を含有する発酵乳を摂取させると、そのヒトの相対的交感神経活動指標が有意に減少し、その結果、自律神経機能が改善されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、次の通りとなる。
(1)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを含有し、無脂乳固形分を7.0%以上9.0%以下の範囲内で含み、00g/日以上120g/日以下の範囲内または00mL/日以上120mL/日以下の範囲内の量を1日2回、4週間以上継続して経口摂取させる、相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。なお、ここで、「相対的交感神経活動指標(LF/HF)が有意に減少すること」とは、「自律神経機能の改善」を意味する。すなわち、本発明は、「ラクトバチルス デルブルエッキーを含有する自律神経機能の改善用の発酵乳」と言い換えることもできる。
【0008】
(2)ストレプトコッカス サーモフィルスをさらに含有する、(1)に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【0009】
(3)前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスと前記ストレプトコッカス サーモフィルスとを用いて発酵される、(1)または(2)に記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【0010】
(4)前記発酵乳はヨーグルトである、(1)から(3)のいずれか1つに記載の相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用の発酵乳。
【0011】
(5)前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスは、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(1)から(4)のいずれか1つに記載の発酵乳。
【0012】
(6)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを含有し、無脂乳固形分を7.0%以上9.0%以下の範囲内で含む発酵乳を、00g/日以上120g/日以下の範囲内または00mL/日以上120mL/日以下の範囲内の量で1日2回、4週間以上継続して経口摂取させる、相対的交感神経活動指標(LF/HF)の低減方法(ヒトを治療する行為を除く。)
【0013】
また、本発明には、以下の発明も包含される。
【0014】
)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを含有し、無脂乳固形分を7.0%以上9.0%以下の範囲内で含む発酵乳を00g/日以上120g/日以下の範囲内または00mL/日以上120mL/日以下の範囲内の量を1日2回、4週間以上継続して対象に経口摂取させる、相対的交感神経活動指標(LF/HF)を低減するための方法。
【0015】
)ストレプトコッカス サーモフィルスをさらに含有する、(7)に記載の方法。
【0016】
)前記発酵乳は前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスと前記ストレプトコッカス サーモフィルスとを用いて発酵される、(7)または(8)に記載の方法。
【0017】
10)前記発酵乳はヨーグルトである、(7)から(9)のいずれか1つに記載の方法。
【0018】
(1)前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスがラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(7)から(10)のいずれか1つに記載の方法。
【0019】
(1)相対的交感神経活動指標(LF/HF)の低減用の発酵乳の製造における、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスの使用。
【0020】
(1)ストレプトコッカス サーモフィルスをさらに含有する、(1)に記載の使用。
【0021】
(1)前記発酵乳は前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスと前記ストレプトコッカス サーモフィルスとを用いて発酵される、(1)または(1)に記載の使用。
【0022】
(1)前記発酵乳はヨーグルトである、(1)から(1)のいずれか1つに記載の使用。
【0023】
(1)前記ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスがラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)である、(1)から(1)のいずれか1つに記載の使用。
【0024】
17)相対的交感神経活動指標(LF/HF)の低減用の発酵乳の製造に使用するための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス。
【0025】
18)相対的交感神経活動指標(LF/HF)の低減用の発酵乳の製造に使用するための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(FERM BP-10741)。
【0026】
19)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを有効成分とする、相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用組成物。
【0027】
(2)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減剤として使用する方法。
【0028】
(2)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを投与することにより相対的交感神経活動指標(LF/HF)を低減する方法。
【0029】
(2)相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減剤としての使用のための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスによる代謝物。
【0030】
(2)相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減剤としての使用のための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス。
【0031】
(2)自律神経機能を改善するための組成物の製造のための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスによる代謝物の使用。
【0032】
(2)相対的交感神経活動指標(LF/HF)を低減するための発酵乳の製造のための、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスの使用。
【0033】
(2)ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスに乳原料を供給して相対的交感神経活動指標(LF/HF)低減用組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクスを用いて調製した発酵乳を摂取することで、相対的交感神経活動指標(LF/HF)を有意に減少させることができる。特に、発酵乳は食経験が豊富な食品であり、身近で手軽に摂取することができるため、自律神経の乱れによる諸症状に対して効果的な対応策となり、相対的交感神経活動指標(LF/HF)を有意に減少させることで自律神経機能の改善に大きく寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】試験例1において、試験飲料およびプラセボ飲料それぞれを高交感神経活動群の被験者に摂取させる前の被験者の相対的交感神経活動指標と、4週間摂取させた後の被験者の相対的交感神経活動指標とを併せて示すグラフである。なお、**印は、対応のないt検定において危険率1%未満で有意差があることを示す。
図2】試験例2において、試験飲料およびプラセボ飲料それぞれを低交感神経活動群の被験者に摂取させる前の被験者の相対的交感神経活動指標と、4週間摂取させた後の被験者の相対的交感神経活動指標とを併せて示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明では、ラクトバチルス デルブルエッキー、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス、ラクトバチルス ガセリ、ラクトバチルス ラムノーザスおよびラクトバチルス アシドフィラスより成る群から選択される少なくとも一種のラクトバチルス属の乳酸菌を用いて発酵乳を調製する。発酵乳の調製方法としては、例えば、「原料乳を殺菌して冷却した後、その原料乳に、上述のラクトバチルス属の乳酸菌を含む乳酸菌スターターを添加して、その乳酸菌スターター入り原料乳を所定の乳酸酸度となるような発酵温度と発酵時間で発酵させる方法」が挙げられる。乳酸酸度としては、例えば0.6~1.2質量%が例示される。発酵温度としては、例えば40~45℃が例示される。発酵時間としては、例えば2~12時間が例示される。
【0037】
本発明における「乳酸菌」とは、分類学的に乳酸菌と認定されたものの全ての総称であり、菌種や菌株などで限定されるものではない。なお、乳酸菌はその由来により、植物由来および動物由来のいずれかに分類することもあるが、本発明では植物由来の乳酸菌、動物由来の乳酸菌のいずれも使用することができる。本発明の乳酸菌の菌株としては、ラクトバチルス属の乳酸菌から選ばれる1種又は2種以上の菌株が、ヨーグルトなどの発酵乳により十分な食経験があるため好ましい。また、ラクトバチルス属の乳酸菌は、ラクトバチルス デルブルエッキー、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス、ラクトバチルス ガセリ、ラクトバチルス ラムノーザスおよびラクトバチルス アシドフィラスより成る群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)」であることがより好ましく、中でも「ラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)」であることがさらに好ましい。
【0038】
また、乳酸菌スターターとして、サーモフィラス菌またはストレプトコッカス サーモフィラス(Streptococcus thermophilus)をラクトバチルス属の乳酸菌と併用することが、生産効率および嗜好性の観点から好ましい。さらに、ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)である場合、サーモフィラス菌はStreptococcus thermophilus 1131や、Streptococcus thermophilus OLS3059であることがより好ましい。さらに、乳酸菌スターターとしてまたは機能性の付与などを目的として、ラクトバチルス属の乳酸菌およびサーモフィラス菌以外の乳酸菌や、ビフィズス菌、酵母などの発酵微生物を添加してもよい。
【0039】
ここで、「ラクトバチルス属の乳酸菌がラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス(Lactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus) OLL1073R-1」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10741(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。また、「Streptococcus thermophilus OLS3059」は、独立行政法人産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに寄託番号 FERM BP-10740(寄託日:2006年11月29日)で寄託されている。Streptococcus thermophilus 1131は、株式会社明治製の明治ブルガリアヨーグルト「LB81」から入手することができる。
【0040】
本発明における「発酵乳」とは、乳を発酵させたものをいい、例えば、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令(乳等省令)で定義される「発酵乳」、「乳酸菌飲料」、「乳飲料」、「ナチユラルチーズ」等を包含するがこれらに限定されない。例えば、発酵乳は、乳等省令で定義される「発酵乳」、すなわち、生乳、牛乳、特別牛乳、生山羊乳、殺菌山羊乳、生めん羊乳、成分調整牛乳、低脂肪牛乳、無脂肪牛乳および加工乳などの乳またはこれと同等以上の無脂乳固形分を含む乳等を、乳酸菌または酵母で発酵させ、固形状(ハードタイプ)、糊状(ソフトタイプ)または液状(ドリンクタイプ)にしたもの、または、これらを凍結したものをいうが、これに限定されない。本発明の発酵乳では、無脂乳固形分の濃度の範囲は、例えば4.0%~12.0%であることが好ましく、6.0%~10.0%であることがより好ましく、7.0%~9.0%であることがさらに好ましい。また、乳脂肪分の濃度は、例えば0.2%~4.0%であることが好ましく、0.3%~3.0%であることがより好ましく、0.4%~2.0%であることがさらに好ましい。
【0041】
発酵乳の典型例としては、ヨーグルトが挙げられる。国際連合食糧農業機関(FAO)/世界保健機構(WHO)で定義されている国際規格にも、「ヨーグルトと称される製品は、Streptococcus thermophilus、Lactobacillus delbrueckii ssp. bulgaricusの両方の菌の乳酸発酵作用により、乳及び脱脂粉乳などの乳製品から作られるもので、最終製品中には前述の2つの菌が多量に生存しているもの」と規定されている。本発明において、「ヨーグルト」とは、前記のFAO/WHOの定義するヨーグルトを包含するものである。このヨーグルトには、例えばプレーンヨーグルト、ハードヨーグルト(セットタイプヨーグルト)、ソフトヨーグルト、ドリンクヨーグルトなどが含まれる。本発明では、疲労時の飲みやすさの観点から、特にドリンクヨーグルトが好ましい。
【0042】
本発明の発酵乳を1回の摂取に適切な量で1個包装の形態とすることにより、本発明の発酵乳を適切かつ手軽に摂取することができることになり、使用性の面から好ましい。1回の摂取に適切な量は、改善すべき疲労感の程度などによると共に個人差やばらつきがあるものの、例えば、無脂乳固形分が8.0%である発酵乳の場合には、1回あたりで50mL~200mLの範囲内であることが好ましく、80mL~150mLの範囲内であることがより好ましく、100mL~120mLの範囲内であることがさらに好ましい。あるいは、1回あたりで50g~200gの範囲内であることが好ましく、80g~150gの範囲内であることがより好ましく、100g~120gの範囲内であることがさらに好ましい。
【0043】
本発明では、「1個包装の形態」はあらゆる形態、例えば、蓋付きの容器、キャップ付きのボトル、個袋、パウチ、チューブなどの一般的な包装形態を包含する。本発明では、各個包装、または複数の個包装を含む包装に、発明に係る発酵乳の用途、効能、摂取方法などの説明を記載すること、および/または、その説明を記載した物等を封入等すること、および/または、別途パンフレットなど、その説明を記載した物等を掲示することなどにより、その用途を明確にすることができる。
【0044】
本発明の発酵乳は、自律神経機能の改善効果を高める観点から、4週間以上継続して摂取することが好ましく、6週間以上継続して摂取することがより好ましく、8週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、10週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、12週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、24週間以上継続して摂取することがさらに好ましく、36週間以上継続して摂取することが特に好ましい。なお、本発明の発酵乳は、十分な食経験があり安全に摂取することができるため、摂取期間の上限は特に制限されず、永久的に継続することが可能であるが、強いて上限を設けるならば、例えば60週間以下である。なお、この上限は、改善すべき疲労感の程度や個人差により、例えば、120週間以下としてもよいし、100週間以下としてもよいし、80週間以下としてもよい。
【0045】
本発明の発酵乳は、摂取されることで自律神経機能を改善することができる。具体的には、「冷え」「凝り」「胃腸の不調」「抑うつの悪化」「めまいの悪化」「心拍数の増加」「血圧の上昇」「慢性痛の悪化」などを改善することができることが期待される。すなわち、本発明では、身近で手軽に摂取することができる発酵乳によって、「冷え」「凝り」「胃腸の不調」「抑うつの悪化」「めまいの悪化」「心拍数の増加」「血圧の上昇」「慢性痛の悪化」などの改善を期待することができる。なお、ここで、発酵乳中の乳酸菌が生菌であっても死菌であっても、その発酵乳は同改善効果を発揮することができる。
【0046】
ところで、本発明の発酵乳に、その用途、効能、機能、有効成分の種類、使用方法などの説明を表示することが好ましい。ここにいう「表示」には、需要者に対して上記効果の説明を知らしめるための全ての表示が含まれる。この表示は、上述の表示内容を想起・類推させ得るような表示であればよく、表示の目的、表示の内容、表示する対象物・媒体などの如何に拘わらない全てのあらゆる表示を含み得る。例えば、製品の包装・容器に上記説明を表示すること、製品に関する広告・価格表もしくは取引書類に上記説明を表示して展示もしくは頒布すること、またはこれらを内容とする情報を電磁気的(インターネットなど)方法により提供することが挙げられる。
【0047】
本発明の自律神経機能改善用の発酵乳を包装してなる製品には、例えば「自律神経機能改善」・「相対的交感神経活動指標の低減」等との表示が付されることが好ましい。
【0048】
なお、以上のような表示を行うために使用する文言は、上述の例に限定されず、そのような意味と同義である文言であってもかまわない。そのような文言としては、例えば、需要者に対して、「自律神経機能を改善する」、「相対的交感神経活動指標を低減する」、「自律神経機能を改善するのに役立つ」あるいは「相対的交感神経活動指標を低減するのに役立つ」等の種々の文言が許容され得る。
【0049】
なお、上述の発酵乳は、特別用途食品、総合栄養食品、栄養補助食品、特定保健用食品、機能性表示食品、加工食品等の形態にすることもできる。また、同発酵乳は、ドリンクヨーグルト以外の飲料や流動食等の組成物に配合することもできる。
【0050】
本発明において、自律神経機能改善の指標は、相対的交感神経活動指標で表すことができる。相対的交感神経活動指標は、「交感神経機能を反映する0.04Hz~0.15Hzの低周波成分(LF))」を(主に副交感神経機能を反映する0.15Hz~0.40Hzの高周波成分(HF)で除することによって求めることができる。
【0051】
本発明は、後述する実施例により、特定のラクトバチルス属の乳酸菌を含む飲料と、含まない飲料を比較することにより、特定のラクトバチルス属の乳酸菌を用いて調製した発酵乳に、自律神経機能の改善効果があることを見出したものである。したがって、本発明は、自律神経機能の改善効果を有するラクトバチルス属の乳酸菌およびその代謝物をも提供する。このとき、自律神経機能の改善効果を得ることを目的とした場合の、1日あたりのラクトバチルス属の乳酸菌の摂取量は、年齢や性別等によって異なるが、当業者によれば適宜定めることができる。これら1日あたりの摂取量は、ラクトバチルス属の乳酸菌として、10cfu以上であることが好ましく、10cfu以上であることがより好ましく、10cfu以上であることがさらに好ましい。この摂取量の上限は、特に限定されないが、例えば1012cfuである。
【0052】
本発明の乳酸菌には、菌体そのものはもちろん、菌体破砕物等の菌体に由来するものが含まれる。また、本発明の乳酸菌の代謝物には、乳酸菌の培養や発酵による代謝物などが含まれる。例えば、ラクトバチルス属の乳酸菌であるラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)は、その培養中に菌体外多糖(EPS)を産生することが知られているが、この菌体外多糖を使用することも、本発明に含まれる。本発明において、これら菌体外多糖の1日あたりの摂取量の下限は、100μgであり、好ましくは500μgであり、より好ましくは1.0mgであり、さらに好ましくは2.0mgである。上限は、特に限定されないが、例えば、200mgであり、好ましくは100mgであり、より好ましくは70mgであり、さらに好ましくは30mgであり、さらにより好ましくは8.0mgである。
【実施例
【0053】
以下、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。なお、この実施例は、本発明を限定するものではない。
【0054】
[調製例1]
生乳、脱脂粉乳、クリーム、液糖、ペクチン、砂糖、ステビアおよび香料を含む混合物Aにラクトバチルス デルブルエッキー 亜種 ブルガリクス OLL1073R-1(寄託番号:FERM BP-10741)およびストレプトコッカス サーモフィルス 1131をスターターとして添加して発酵させて、無脂乳固形分8.1%、乳脂肪分0.5%のドリンクタイプのヨーグルト(以下「試験飲料」と称する)を調製した。なお、この試験飲料は、調製後速やかに112mLずつ容器(印などのついていない無地のキャップ付きペットボトル)に充填された。なお、この試験飲料の栄養成分は、1本(112ml)当たり、エネルギー量76kcal、たんぱく質3.6g、脂質0.67g、炭水化物13.9g、糖類13.3gであった。
【0055】
[調製例2]
牛乳、脱脂粉乳、乳タンパク、液糖、ペクチン、砂糖、ステビア、乳酸および香料を含む混合物Bを殺菌処理して飲料(以下「プラセボ飲料」と称する)を調製した。なお、このプラセボ飲料は、調製後速やかに112mLずつ、試験飲料を充填した容器と同一の容器に充填された。なお、このプラセボ飲料の一般組成(無脂乳固形分、脂肪)、栄養成分(タンパク質、脂質、炭水化物、糖類)およびエネルギー量は、調製例1の試験飲料と同等であるが、本プラセボ飲料には乳酸菌が含まれていない。
【0056】
[試験例1]
大阪市立大学健康科学イノベーションセンターにボランティア登録している人らの中から30~60歳の健常者男女53名を対象として、無作為化、プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を実施した(なお、上記53名を選定する際に、自律神経系の障害がある者(LF/HF≧10)の者は除外した。)。具体的には、以下の通りである。
【0057】
先ず、上記53名を27名の群(以下「A群」と称する)と26名の群(以下「B群」)に分け、被験者らの安静閉眼時の相対的交感神経活動指標(LF/HF)を求めた。その後、4週間に亘ってA群の被験者らに試験飲料を1日に2本を任意の時間に摂取させ、B群の被験者らにプラセボ飲料を1日に2本摂取させた後、被験者らの安静閉眼時の相対的交感神経活動指標(LF/HF)を求めた。次に、その3週間(ウォッシュアウト期間(試験飲料を摂取させない期間))後に、被験者らの安静閉眼時の相対的交感神経活動指標(LF/HF)を求めた。その後、4週間に亘ってB群の被験者らに試験飲料を1日に2本摂取させると共にA群の被験者らにプラセボ飲料を1日に2本摂取させた後、被験者らの安静閉眼時の相対的交感神経活動指標(LF/HF)を求めた。
【0058】
なお、A群、B群に関わらず、上記試験開始前に各被験者の相対的交感神経活動指標(LF/HF)を導出し、相対的交感神経活動指標が2.0以上(ln(LF/HF)が0.693以上)である被験者らの群を高交感神経活動群とし、相対的交感神経活動指標が2.0未満(ln(LF/HF)が0.693未満)である被験者らの群を低交感神経活動群として、被験者らを分別した。なお、本プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験におけるカットオフ値は、以下の文献1および2に記載のLF/HFを用いた疲労度評価基準を参考にして設定した。
【0059】
なお、文献1によれば、正常者の仰向けでの交感神経系と副交感神経系の活動バランスLF/HFは1.5~2.0であった。また、文献2によれば、LF/HFが2.0~5.0である者では交感神経系と副交感神経系の活動バランスが少し崩れ、交感神経系優位になっている状態と判断しており、5.0以上である者は交感神経系と副交感神経系の活動バランスが大きく崩れ、交感神経系優位になっている状態であり、メンタルヘルス障害に結びつく危険性があり、医師に相談することが必要である状態を意味する。したがって、ここでは相対的交感神経活動指標のカットオフ値を2.0に設定した。
文献1:Task Force of the European Society of Cardiology and the North American Society of Pacing and Electrophysiology. Heart rate variability. Standards of measurement, physiological interpretation, and clinical use. Eur. Heart J., 7(3): 354-381 (1996)
文献2:特許第5491749号明細書
【0060】
また、相対的交感神経活動指標は、安静時閉眼状態の被験者らの両手人差し指の脈波・心電測定(バイタルモニター:株式会社 疲労科学研究所,測定時間:3分間)およびその周波数解析により、交感神経活動と副交感神経活動を評価して求めた。具体的には、心電図R-R間隔もしくは脈波の2回微分波形の加速度脈波a-a間隔の周波数解析により、0.04Hz~0.15Hzの低周波成分(LF)および0.15Hz~0.40Hzの高周波成分(HF)を求めた後、低周波成分を高周波成分で除すことによって相対的交感神経活動指標が求められる。
【0061】
プラセボ対照二重盲検クロスオーバー比較試験を図1および図2に示す。図1から明らかなように、試験飲料を摂取した高交感神経活動群の被験者らの相対的交感神経活動指標は、同試験飲料の摂取前よりも有意に低下した。一方、プラセボ飲料を摂取した高交感神経活動群の被験者らの相対的交感神経活動指標は、同試験飲料の摂取前の相対的交感神経活動指標とほぼ同じであった。すなわち、この試験飲料が高交感神経活動群の被験者らの自律神経機能を有効に改善したことが明らかとなった。
【0062】
その一方、図2にから明らかなように、低交感神経活動群の被験者らに試験飲料およびプラセボ飲料のいずれを摂取してもその被験者らの相対的交感神経活動指標が下がることがなかった。すなわち、摂取対象が低交感神経活動群の被験者らである場合、試験飲料が彼らの自律神経機能を改善することはないことが明らかとなった。つまり、試験飲料は、高交感神経活動群の被験者に対してのみその自律神経改善機能を発揮することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、身近で手軽に摂取できる発酵乳により、相対的交感神経活動指標(LF/HF)を有意に減少させることで、自律神経機能を改善することできる。発酵乳は食経験が豊富な食品であり、身近で手軽に摂取することができるため、自律神経の乱れによる諸症状に対して効果的な対応策となり、自律神経機能の改善に大きく寄与することができ、非常に有用である。
【受託番号】
【0064】
FERM BP-10741
FERM BP-10740
図1
図2