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特許7370234四重極質量分析装置、四重極質量分析方法、及び、四重極質量分析装置用プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-19
(45)【発行日】2023-10-27
(54)【発明の名称】四重極質量分析装置、四重極質量分析方法、及び、四重極質量分析装置用プログラム
(51)【国際特許分類】
   H01J 49/42 20060101AFI20231020BHJP
   H01J 49/10 20060101ALI20231020BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20231020BHJP
【FI】
H01J49/42
H01J49/10
G01N27/62 G
G01N27/62 E
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019218355
(22)【出願日】2019-12-02
(65)【公開番号】P2021089813
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000127961
【氏名又は名称】株式会社堀場エステック
(73)【特許権者】
【識別番号】000155023
【氏名又は名称】株式会社堀場製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【弁理士】
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100129702
【弁理士】
【氏名又は名称】上村 喜永
(72)【発明者】
【氏名】笹井 浩平
(72)【発明者】
【氏名】笹倉 一志
(72)【発明者】
【氏名】池山 俊広
(72)【発明者】
【氏名】井上 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】内原 博
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-092630(JP,A)
【文献】特開2011-102714(JP,A)
【文献】特開2014-103009(JP,A)
【文献】特開2019-007768(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0151544(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0181076(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0166262(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 49/42
H01J 49/10
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料がイオン化されるイオン源と、
四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、
前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、
前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御器と、
前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出部と、
前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出部が算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析部と、を備え
前記フィルタ電圧制御器は、前記遮断モードにおいて、イオンが前記フィルタ部を通過して前記検出器に到達可能となる高周波電圧と直流電圧の組の集合である安定領域外を通過するようにフィルタ電圧を掃引することを特徴とする四重極質量分析装置。
【請求項2】
前記フィルタ電圧制御器が、
前記入射モードでは前記安定領域内を通過するようにフィルタ電圧を掃引する請求項1記載の四重極質量分析装置。
【請求項3】
前記フィルタ電圧制御器が、前記入射モードではイオンの質量電荷比ごとに定まる複数の前記安定領域において高周波電圧に対して直流電圧が最大となる頂点又はその近傍をそれぞれ通過するようにフィルタ電圧を掃引する請求項1又は2記載の四重極質量分析装置。
【請求項4】
前記フィルタ電圧制御器が、前記遮断モードではイオンの質量電荷比ごとに定まる複数の前記安定領域に対してすべて外側を通過するようにフィルタ電圧を掃引する請求項2又は3記載の四重極質量分析装置。
【請求項5】
前記フィルタ電圧制御器が、前記遮断モードにおいて掃引するフィルタ電圧の高周波電圧に対する直流電圧の傾きが、前記入射モードにおいて掃引するフィルタ電圧の高周波電圧に対する直流電圧の傾きよりも大きく設定されている請求項1乃至4いずれかに記載の四重極質量分析装置。
【請求項6】
前記イオン源からイオンを引き出し、前記フィルタ部内に入射させる電場を形成するイオン射出電極をさらに備え、
前記イオン射出電極が、前記入射モード及び前記遮断モードのいずれでも同じ電圧が印加される請求項1乃至5いずれかに記載の四重極質量分析装置。
【請求項7】
試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、を備えた四重極質量分析装置に用いた分析方法であって、
前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御ステップと、
前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出ステップと、
前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出ステップで算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析ステップと、を備え
前記フィルタ電圧制御ステップは、前記遮断モードにおいて、イオンが前記フィルタ部を通過して前記検出器に到達可能となる高周波電圧と直流電圧の組の集合である安定領域外を通過するようにフィルタ電圧を掃引することを特徴とする四重極質量分析方法。
【請求項8】
試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、を備えた四重極質量分析装置に用いられるプログラムであって、
前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御器と、
前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出部と、
前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出部が算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析部としての機能をコンピュータに発揮させ
前記フィルタ電圧制御器としての機能は、前記遮断モードにおいて、イオンが前記フィルタ部を通過して前記検出器に到達可能となる高周波電圧と直流電圧の組の集合である安定領域外を通過するようにフィルタ電圧を掃引することを特徴とする四重極質量分析装置用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、四重極質量分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
四重極質量分析装置は、試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、イオン源から入射するイオンが質量分離されるフィルタ部と、フィルタ部を通過したイオンが検出される検出器とを備えたものである。四重極には、マシュー(Mathieu)の式に基づき、高周波電圧(RF)と直流電圧(DC)とが所定の比で組み合わされたフィルタ電圧が印加され、フィルタ部はマスフィルタとしての機能を発揮する。そして、フィルタ電圧が前述した所定の比を保ちながら低電圧側から高電圧側へと掃引されることにより、検出器の出力によりイオンのマススペクトルが得られる。
【0003】
ところで、四重極質量分析装置では、得られたマススペクトルから中性分子によるノイズを低減したり、ゼロ点からオフセットを補正したりするために、ベースライン処理が行われている。例えば特許文献1では、イオンを検出器に入射させる入射期間と、イオンを検出器に入射させない遮断期間とを設けておき、入射期間に検出器から得られた信号から遮断期間に検出器から得られた信号を減算することでベースライン処理が行われている。より具体的には入射期間と遮断期間は四重極の後段に配置されたポストフィルタの電位を変化させることで実現される。また、別の態様としてはイオン源とフィルタ部との電位差を変更して、イオン源で発生するイオンがそもそもフィルタ部に入射しないようにして、イオンが検出器で検出されないようにするものも挙げられる。
【0004】
しかしながら、上記のような各方法で検出器にイオンが入射しないようにして遮断期間を実現したとしても、検出器の出力のうち特に質量電荷比の小さい部分に他の部分よりも大きな信号が発生してしまうことがある。このため、単純に入射期間における検出器の出力を遮断期間における検出器の出力で減算しても適切なベースライン処理にならない場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第5412246号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述したような問題に鑑みてなされたものであり、確実に検出器に対してイオンが入射しないようにして適切なベースライン処理が可能となる四重極質量分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明に係る四重極質量分析装置は、試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御器と、前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出部と、前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出部が算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る四重極質量分析方法は、試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、を備えた四重極質量分析装置に用いた分析方法であって、前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御ステップと、前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出ステップと、前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出ステップで算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析ステップと、を備えたことを特徴とする。
【0009】
このようなものであれば、前記フィルタ電圧制御器が前記四重極に印加されるフィルタ電圧を前記検出器にイオンが入射しないように制御し、前記フィルタ部内におけるイオンの振動を不安定にして、フィルタ部内を通過するイオンは前記四重極に衝突させる、あるいは、イオンの軌道を検出器に入射しないように変化させるので、前記遮断モードでは確実に前記検出器にイオンが入射しないようにできる。したがって、前記遮断モードにおける前記検出器の出力はイオンの影響を全く受けていない状態を実現でき、例えば中性子等によるノイズや温度ドリフトだけが表れたベースラインを得ることができる。このため、前記分析部による試料の分析結果についても従来よりも妥当なベースライン処理が行われたものにできる。
【0010】
前記入射モードでは、前記検出器の出力から質量電荷比ごとに明確なピークが得られるようにし、前記遮断モードではイオンが入射しないようにするには、前記フィルタ電圧制御器が、前記入射モードではイオンが前記フィルタ部を通過して前記検出器に到達可能となる高周波電圧と直流電圧の組の集合である安定領域内を通過するようにフィルタ電圧を掃引し、前記遮断モードでは、前記安定領域外を通過するようにフィルタ電圧を掃引すればよい。
【0011】
前記入射モードにおいて質量分離に適したフィルタ電圧の掃引態様としては、前記フィルタ電圧制御器が、前記入射モードではイオンの質量電荷比ごとに定まる複数の前記安定領域において高周波電圧に対して直流電圧が最大となる頂点近傍をそれぞれ通過するようにフィルタ電圧を掃引するものが挙げられる。
【0012】
前記遮断モードでは分析対象となる質量電荷比の帯域全体でイオンが前記検出器に入射しないようにするには、前記フィルタ電圧制御器が、前記遮断モードではイオンの質量電荷比ごとに定まる複数の前記安定領域に対してすべて外側を通過するようにフィルタ電圧を掃引すればよい。
【0013】
前記遮断モードでも前記入射モードと対応する電圧掃引動作が行われるようにしつつ、前記検出器にはイオンが確実に入射しないようにするための具体的な態様としては、前記フィルタ電圧制御器が、前記遮断モードにおいて掃引するフィルタ電圧の高周波電圧に対する直流電圧の傾きが、前記入射モードにおいて掃引するフィルタ電圧の高周波電圧に対する直流電圧の傾きよりも大きく設定されているものが挙げられる。
【0014】
前記入射モードと前記遮断モードでは前記四重極に印加される電圧以外では違いが生じないようにして、前記遮断モードで得られるベースラインが前記入射モードにおいてもよく再現されるようにするには、前記イオン源からイオンを引き出し、前記フィルタ部内に入射させる電場を形成するイオン射出電極をさらに備え、前記イオン射出電極が、前記入射モード及び前記遮断モードのいずれでも同じ電圧が印加されていればよい。
【0015】
既存の四重極質量分析装置においてプログラムをアップデートするだけで、本発明に係る四重極質量分析装置と同等の効果を享受できるようにするには、試料がイオン化されるイオン源と、四重極を具備し、前記イオン源で発生したイオンが質量分離されるフィルタ部と、前記フィルタ部を通過したイオンを検出する検出器と、を備えた四重極質量分析装置に用いられるプログラムであって、前記四重極に印加される高周波電圧と直流電圧とからなるフィルタ電圧を制御し、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させない遮断モードと、前記フィルタ部に入射したイオンを前記検出器に入射させる入射モードと、に切り替えるフィルタ電圧制御器と、前記遮断モードにおける前記検出器の出力に基づいてベースラインを算出するベースライン算出部と、前記入射モードにおける前記検出器の出力と前記ベースライン算出部が算出したベースラインに基づいて、試料の分析結果を出力する分析部としての機能をコンピュータに発揮させることを特徴とする四重極質量分析装置用プログラムを用いれば良い。
【0016】
なお、四重極質量分析装置用プログラムは電子的に配信されるものであってもよいし、CD、DVD、フラッシュメモリ等のプログラム記録媒体に記録されたものであっても構わない。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明に係る四重極質量分析装置であれば、前記遮断モードにおいて前記四重極に印加されるフィルタ電圧を制御しているので、従来よりも確実に前記検出器にイオンが入射しないようにできる。この結果、得られるベースラインに原因不明の出力が現れるのを大幅に低減し、ベースラインの信頼性を向上させることができる。ひいては、前記入射モードで得られる前記検出器の出力とベースラインとから得られる試料の分析結果の妥当性も従来よりも向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施形態に係る四重極質量分析装置の真空チャンバへの取り付け状態を表す図。
図2】同実施形態に係る四重極質量分析装置の構成を示す模式的斜視図。
図3】同実施形態に係る四重極質量分析装置の構成と全体の電位勾配について示す模式図。
図4】同実施形態に係る四重極質量分析装置の構成を示す機能ブロック図。
図5】フィルタ電圧と安定領域との関係について示す模式図。
図6】同実施形態における入射モードと遮断モードのそれぞれで掃引されるフィルタ電圧の走査直線と、各質量電荷比の安定領域との関係を示す模式図。
図7】同実施形態における入射モードと遮断モードにおける検出器の出力例と、分析部の分析結果例を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の一実施形態に係る四重極質量分析装置100について図1乃至図7を参照しながら説明する。
【0020】
図1に示すように本実施形態の四重極質量分析装置100は、例えば、半導体プロセスチャンバ等の真空チャンバVCに取り付けられて、チャンバVC内の残留ガスを分析する残留ガス分析装置として用いられるものである。
【0021】
この四重極質量分析装置100は、ケーシングCと、ケーシングCの内部に収容された図2に示すセンサ機構SNおよび制御演算機構6(図1及び図2では図示しない)とを具備するものである。
【0022】
前記ケーシングCは、図1に示すように、その先端面がチャンバVCの内部に配置されるように取り付けられてセンサ機構SNを収容する第1カバーC1と、チャンバVCの外側に配置されて制御演算機構6を収容する第2カバーC2とを具備する。チャンバVC内に配置された第1カバーC1の先端面には、チャンバVC内のガスをセンサ機構SN内に導入するためのガス導入口が形成されている。
【0023】
センサ機構SNは、図2及び図3に示すようにガス導入口から導入された試料を電子衝突によりイオン化するイオン源1と、イオン源1で発生したイオンを引き出して加速、収束させる引出電極2と、引出電極2によって加速、収束されたイオンを4本の円柱状の電極である四重極31により発生する高周波電場によって質量電荷比に応じて分離するフィルタ部3と、フィルタ部3で分離されたイオンを検出し、検出されたイオンの検出数に応じた電流値を出力として制御演算機構6に出力する検出器5と、フィルタ部3と検出器5との間に設けられたポストフィルタ4と、を備えている。これらの部材はイオンの進行方向に対して一列に並べて設けられる。
【0024】
本実施形態のセンサ機構SNは、検出器5に対してイオンを入射させる入射モードと、検出器5に対してイオンが入射させない遮断モードの少なくとも2つのモードで動作する。これらのモードの切替はフィルタ部3の四重極31に印加されるフィルタ電圧を変更することで実現される。
【0025】
イオン源1には、チャンバVC内に存在する分子が試料として導入され、電子銃11から射出された電子によりイオン化される。なお、入射モード、遮断モードのいずれであっても電子銃11から電子は射出されており、イオン源1内に入射した分子は常時イオン化されるように構成されている。
【0026】
フィルタ部3の四重極31は、互いに対向する電極に同じ極性のフィルタ電圧が印加され、隣接する電極に正負逆の電圧が印加される。フィルタ電圧は、図2(a)に示すように直流電圧と高周波電圧とからなり、分析時には図2(b)に示すように直流電圧の振幅と高周波電圧の振幅がそれぞれ低電圧側から高電圧側に向かって掃引される。入射モード及び遮断モードにおけるフィルタ電圧の詳細については後述する。
【0027】
図2及び図3に示す検出器5は、例えばファラデーカップであって、入射するイオンの数に応じた電流が発生するものである。
【0028】
図4に示す制御演算機構6は、増幅器や、A/Dコンバータ、D/Aコンバータ、CPU、メモリ、通信ポート等を具備するコンピュータを備えたものであり、検出器5の出力である電流値に基づいて質量分析を行う。また必要に応じて、その分析結果を汎用コンピュータ等に送信する。
【0029】
具体的には制御演算機構6は、CPUによりメモリに格納されている四重極質量分析装置用プログラムが実行され、各種機器が協業することにより、図4の機能ブロック図に示す少なくとも引出電圧制御器61、フィルタ電圧制御器62、ベースライン算出部63、ベースライン記憶部64、分析部65、モード切替部66としての機能を発揮する。
【0030】
各部について詳述する。
【0031】
引出電圧制御器61は、引出電極2に印加される電圧を制御するものである。本実施形態では図3の模式図に示すように、引出電圧制御器61は、イオン源1に対してフィルタ部3内の電位が低くなるように引出電極2に電圧を印加する。なお、フィルタ部3に対して検出器5側の電位がさらに低くなるようにポストフィルタ4には電圧が印加されている。引出電圧制御器61は、入射モード又は遮断モードのいずれであってもイオン源1に対するフィルタ部3の電位差を同じに保つように構成されている。なお、従来技術であれば検出器5にイオンが入射しないように例えばイオン源1よりもフィルタ部3のほうが高電位となるように制御されている。
【0032】
図4に示すようにフィルタ電圧制御器62は、四重極31に印加されるフィルタ電圧を制御する。具体的にはフィルタ電圧制御器62は、入射モードではフィルタ部3内においてイオンが安定的に振動しながら進行して検出器5に入射するようにフィルタ電圧を四重極31に印加する(以下、入射モードにおいて四重極31に印加されるフィルタ電圧のことを入射フィルタ電圧ともいう)。一方、遮断モードでは、フィルタ電圧制御器62は、フィルタ部3内においてイオンが不安定な軌道で進行して、例えばイオンが四重極31に衝突する、あるいは、検出器5の外側に逸れるようにフィルタ電圧を四重極31に印加する(以下、遮断モードにおいて四重極31に印加されるフィルタ電圧のことを遮断フィルタ電圧ともいう)。
【0033】
次に入射フィルタ電圧、及び、遮断フィルタ電圧の詳細について図5及び図6を参照しながら説明する。
【0034】
入射モードで四重極31に印加される入射フィルタ電圧は、図5及び図6においてハッチングとして示される領域である概略三角形状の安定領域内を通過するように掃引される。ここで安定領域とはイオンがフィルタ部3を通過して検出器5に到達可能となる高周波電圧(RF電圧)と直流電圧(DC電圧)の組の集合である。この安定領域については、マシュー(Mathieu)の式に基づき分析対象とするイオンの質量電荷比ごとに個別に決定されるものである。本実施形態では高周波電圧の周波数が所定値で固定されているので、安定領域は直流電圧の振幅と高周波電圧の振幅で定義される。実際の分析ではある入射フィルタ電圧が四重極31に印加されている場合には1つの質量電荷比のイオンのみを検出器5に入射させるように高周波電圧及び直流電圧の比が設定される。具体的には図6に示すように、入射フィルタ電圧は、各質量電荷比の安定領域の頂点近傍内を通過するように設定された第1走査直線SL1上で掃引される。ここで、安定領域の頂点とはイオンが検出器5に入射できる高周波電圧と直流電圧の組み合わせのうち、高周波電圧に対して直流電圧が最大となる点を言う。第1走査直線SL1は、各安定領域と安定領域外とを交互に出入りするので、入射フィルタ電圧がこの第1走査直線SL1に沿って掃引されると、イオンが検出される期間と検出されない期間が交互に現れる。また、イオンは質量電荷比の小さいものから順番に検出器5に入射することになる。
【0035】
一方、遮断モードで四重極31に印加される遮断フィルタ電圧は、各安定領域の外側のみを通る第2走査直線SL2に沿って掃引される。図6に示すように第1走査直線SL1の傾きに対して第2走査直線SL2の傾きは大きく設定されている。言い換えると、高周波電圧の値が同じ条件では、遮断フィルタ電圧の直流電圧の値は、入射フィルタ電圧の直流電圧の値よりも大きくなるように設定されている。
【0036】
図4に示すベースライン算出部63は、フィルタ電圧制御器62が四重極31に対して遮断フィルタ電圧を印加している場合の検出器5の出力に基づいてベースラインを算出するものである。例えばベースライン算出部63は、例えば図7(a)に示すようなものであり、第2走査直線SL2に沿って遮断フィルタ電圧が掃引された場合に検出器5から出力される電流値と高周波電圧との間の関係を示すデータと、印加されている高周波電圧において入射フィルタ電圧であれば質量分離される質量電荷比との関係から、各質量電荷比に対応してイオンが検出されていない場合に出力される電流値をベースラインとして算出する。算出されたベースラインはベースライン記憶部64に記憶され、分析部65における演算に利用される。
【0037】
分析部65は、フィルタ電圧制御器62が四重極31に対して入射フィルタ電圧を印加している場合の検出器5の出力と、ベースラインとに基づいて、試料の分析結果を出力する。分析部65は、例えば図7(b)に示す第1走査直線SL1に沿って入力フィルタ電圧が掃引された場合の検出器5の電流値と、質量電荷比との関係を算出し、その算出結果からベースラインを差し引くことで、図7(c)に示す分析対象となる質量電荷比以外ではほぼ電流値がゼロとなる質量スペクトルを算出する。
【0038】
モード切替部66は、フィルタ電圧制御器62、ベースライン算出部63、分析部65の動作態様を入射モードと遮断モードで切り替える。本実施形態では、試料の分析が開始された直後では遮断モードで動作させ、ベースライン算出部63にベースラインを算出させる。ベースラインが算出されるとモード切替部66は、各部を入射モードで動作させ、分析部65に試料の質量スペクトルを出力させる。
【0039】
このように本実施形態の四重極質量分析装置100は、ベースラインの作成を行うための遮断モードでは、フィルタ電圧制御器62が四重極31に対して各質量電荷比の安定領域をすべて外れるように第2走査直線SL2に沿って遮断フィルタ電圧を掃引する。このようにフィルタ部3の四重極31によって形成される電場によって検出器5にイオンが導入されないようにしているので、ベースライン作成時にイオンが検出器5に入射するのを従来よりも確実に防止することができる。言い換えると、遮断モードにおける四重極質量分析装置100内の電圧条件は、フィルタ部3にイオンを入れ、フィルタ部3から検出器5にはイオンが届かないように設定されている。このような電圧条件が設定されることによって、遮断モードでの検出器5の出力におけるベースラインと、入射モードでの検出器5の出力におけるベースラインとの差を小さくできる。
【0040】
この結果、ベースライン算出部63により算出されるベースラインの妥当性を高めることができ、試料の分析結果についても信頼性を向上させることができる。
【0041】
その他の実施形態について説明する。
【0042】
四重極については4本の円柱電極で構成されたものに限られず、双曲面の内周面を有した筒体であっても構わない。
【0043】
遮断フィルタ電圧については前記実施形態に示したものに限られない。すなわち、第2走査直線に沿って掃引するものに限られず、さらに別の直線に沿って掃引されるものであってもよい。さらに言い換えると、遮断フィルタ電圧が掃引される際の走査直線については、安定領域の外側のみを通るように設定すればよい。
【0044】
本発明に係る四重極質量分析装置の用途はチャンバ内の残留ガス分析装置に限られるものではない。例えばガスクロマトグラフ等とともに試料の定量分析を行うために用いられても構わない。
【0045】
引出電極については、入射モード又は遮断モードのいずれであっても印加される電圧は変更されていなかったが、遮断モード時にイオン源よりもフィルタ部のほうが高電位となるようにしつつ、四重極には遮断フィルタ電圧が掃引されるようにしてもよい。あるいは、四重極に遮断フィルタ電圧を掃引しつつ、ポストフィルタに印加される電圧によりフィルタ部よりも検出器のほうが高電位となるようにしてもよい。
【0046】
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内で実施形態の変形を行ったり、各実施形態の一部同士を組み合わせたりしても構わない。
【符号の説明】
【0047】
100・・・四重極質量分析装置
1 ・・・イオン源
2 ・・・引出電極
3 ・・・フィルタ部
31 ・・・四重極
5 ・・・検出器
62 ・・・フィルタ電圧制御器
63 ・・・ベースライン算出部
65 ・・・分析部
図1
図2
図3
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図5
図6
図7