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  • 特許-摩擦攪拌接合方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-30
(45)【発行日】2023-11-08
(54)【発明の名称】摩擦攪拌接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20231031BHJP
   C04B 35/596 20060101ALI20231031BHJP
【FI】
B23K20/12 344
B23K20/12 364
C04B35/596
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022055947
(22)【出願日】2022-03-30
(62)【分割の表示】P 2018533013の分割
【原出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2022091916
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2022-03-30
(31)【優先権主張番号】P 2016156384
(32)【優先日】2016-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】303058328
【氏名又は名称】東芝マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】船木 開
(72)【発明者】
【氏名】池田 功
(72)【発明者】
【氏名】阿部 豊
(72)【発明者】
【氏名】加藤 雅礼
【審査官】山内 隆平
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-035009(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047376(WO,A1)
【文献】特開2016-064419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
C04B 35/596
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ショルダ部とプローブ部とが一体化したセラミックス部材から成る摩擦攪拌接合用ツール部材を用いた摩擦攪拌接合方法であって、
前記摩擦攪拌接合用ツール部材は、
前記プローブ部の根元部および前記ショルダ部の端部が曲面形状を有し、
前記ショルダ部の端部の曲率半径をR1(mm)とし、前記ショルダ部の外径をD(mm)としたとき、R1/Dが0.02以上0.20以下であり、
前記セラミックス部材が、単位面積50μm×50μmあたりのアスペクト比が2以上の窒化珪素結晶粒子が面積比で60%以上である窒化珪素焼結体であり、
前記窒化珪素焼結体が窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、前記添加成分がY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上含有し、
前記ショルダ部の前記端部から前記プローブ部の前記根元部にかけて前記プローブ部の前記根元部よりも前記ショルダ部の前記端部が被接合材側に近づくように形成される傾斜面を有し、前記プローブ部の軸直角方向に対する前記傾斜面の傾斜角度が3°以上8°以下であり、
前記ショルダ部の端部の曲率半径R1(mm)が0.5mm以上であり、
前記ショルダ部の端部に表面粗さRaが10μm以下の研磨面を有し、
2以上の被接合材を重ね合わせ、前記摩擦攪拌接合用ツール部材を回転速度300rpm以上で回転させながら前記2以上の被接合材に押し当てる、
ことを特徴とする摩擦攪拌接合用ツール部材を用いた摩擦攪拌接合方法。
【請求項2】
前記セラミックス部材は、ビッカース硬さが1400HV1以上の窒化珪素焼結体から成ることを特徴とする請求項1に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項3】
前記プローブ部の根元部の曲率半径R2(mm)が0.1mm以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項2のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項4】
前記プローブ部の先端部は曲面形状であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項5】
前記被接合材が、鉄鋼であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【請求項6】
前記摩擦攪拌接合用ツール部材の前記回転速度を1000rpm以下とすることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
実施形態は、摩擦攪拌接合用ツール部材およびそれを用いた摩擦攪拌接合装置並びに摩擦攪拌接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
摩擦攪拌接合(FSW:Friction Stir Welding)は、プローブと呼ばれる接合ツール部材を高速回転させながら部材に押し付け、摩擦熱を利用して複数の部材を一体化させる接合方法である。摩擦熱により部材(母材)を軟化させ、プローブの回転力によって接合部周辺を塑性流動させて複数の部材(母材と相手材)を一体化させることができる。このため、摩擦攪拌接合は、固相接合の一種であるといえる。
【0003】
摩擦攪拌接合は、固相接合であるため接合部への入熱が少ないため、接合対象の軟化や歪の程度が少ない。また、接合ろう材を使用しないことから、コストダウンが期待される。摩擦攪拌接合に用いる接合ツール部材は、高速回転に耐えうる耐磨耗性と、摩擦熱に耐えうる耐熱性とが求められる。従来の接合ツール部材としては、特開2011-98842号公報(特許文献1)に窒化珪素焼結体を使用した部材が開示されている。特許文献1の窒化珪素焼結体は、cBN(立方晶窒化ホウ素)、SiC(炭化けい素)、TiN(窒化チタン)を20vol%と大量に含有したものであった。
【0004】
特許文献1の窒化珪素焼結体から成る接合ツール部材は一定の耐摩耗性の改善がみられるものの、更なる改善が要請されていた。特許文献1のように、cBN(立方晶窒化ホウ素)、SiC(炭化けい素)、TiN(窒化チタン)を20vol%と大量に添加したものでは、難焼結性となるために、緻密な焼結体が得られず窒化珪素焼結体の耐摩耗性が不十分であることが判明した。
【0005】
一方、国際公開番号WO2016/047376号公報(特許文献2)記載の発明では、焼結助剤量を15質量%以下にした窒化珪素焼結体から成る摩擦攪拌接合用ツール部材が開発されている。焼結助剤を所定の組合せとすることにより、焼結助剤量を低減することが実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-98842号公報
【文献】国際公開番号WO2016/047376号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2ではビッカース硬度と破壊靭性値とを両立させた窒化珪素焼結体が開示されている。これにより、摩擦攪拌接合用ツール部材として性能を向上させている。しかしながら、長期寿命の観点では、満足できるものではなかった。この原因を調査した結果、ショルダ部の形状に原因があることが判明した。特許文献2の図2には断面が角ばった形状のツール部材が開示されている。このような構造では、摩擦攪拌接合中にショルダ部が被接合材と接触してしまう結果、ショルダ部が欠けて機能が喪失されるといった問題があった。
【0008】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、このような問題に対応するために完成されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、ショルダ部とプローブ部とが一体化したセラミックス部材から成る摩擦攪拌接合用ツールにおいて、プローブ部の根元部およびショルダ部の端部は曲面形状を有し、ショルダ部の端部の曲率半径をR1(mm)とし、ショルダ部の外径をD(mm)としたとき、R1/Dが0.02以上0.20以下であることを特徴とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材の一構成例を示す半断面図である。
図2】ツール部材の傾斜面の傾斜角度の一例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、ショルダ部とプローブ部とが一体化したセラミックス部材から成る摩擦攪拌接合用ツールにおいて、プローブ部の根元部およびショルダ部の端部は曲面形状を有し、ショルダ部の端部の曲率半径をR1(mm)とし、ショルダ部の外径をD(mm)としたとき、R1/Dが0.02以上0.20以下であることを特徴とする。
【0012】
図1は実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材の一例を示す半断面図である。図中、符号1は摩擦攪拌接合用ツール部材であり、2はプローブ部の先端部であり、3はショルダ部の端部であり、4はプローブ部の根元部であり、5は傾斜面であり、Wはプローブ部の外径であり、Dはショルダ部の外径である。
【0013】
摩擦攪拌接合用ツール部材1は、ショルダ部とプローブ部とが一体化したセラミックス部材から構成されている。一体化とは、ショルダ部とプローブ部とが一つのセラミックス焼結体で形成されている状態を示す。例えば、ショルダ部とプローブ部とを接合ろう材により接合したものは除外される。同様に、ショルダ部とプローブ部とを嵌め合わせた構造としたものは除外される。
【0014】
ショルダ部とプローブ部とが一つのセラミックス焼結体となった一体化構造とすることにより、ツール部材の強度を上げることができる。
【0015】
また、プローブ部の根元部およびショルダ部の端部は曲面形状を有している。プローブ部はツール部材の先端の凸部である。この凸部(プローブ部)を被接合材に押し当てることにより、摩擦攪拌接合を実施する。この凸部の根元が根元部となる。根元部を曲面形状とすることにより、根元部の強度を向上させることができる。ツール部材のように高速で回転する場合、根元部が直角であると、プローブ部が折れ易く成る。根元部に曲面形状を付与することにより、応力が集中するのを防止することができる。
【0016】
また、ショルダ部の端部も曲面形状を有することを特徴とする。摩擦攪拌接合時に被接合材にプローブ部を押し当てていくと、ショルダ部が被接合材に接触する。ショルダ部の端部が角型であると、端部と被接合材との接触が線接触状態になる。線接触では、ショルダ部の端部に応力が掛かり過ぎるため、端部が破損し易くなる。それに対し、ショルダ部の端部を曲面形状とすることにより、ショルダ部の端部と被接合材との接触を面接触にすることができる。これにより、ショルダ部が破損することを効果的に抑制することができる。
【0017】
また、ショルダ部の端部の曲率半径をR1(mm)とし、ショルダ部の外径をD(mm)としたとき、R1/Dが0.02以上0.20以下の範囲内とする。
【0018】
ショルダ部の端部の曲率半径R1はツール部材の断面観察または画像解析(ツール部材(立体)のままの画像解析)により求めるものとする。また、ショルダ部の外径Dはツール部材(セラミックス部材)の外径とする。プローブ部側を正面からみたとき、ショルダ部の最も長い直径をツール部材の外径Dとする。
【0019】
R1/Dが0.02以上0.20以下であるということは、外径D(mm)に対して、曲率半径R1を2~20%の範囲にしてあることを示す。ショルダ部が存在することにより、ツール部材としての強度が向上する。また、ショルダ部が被接合材に接触することにより、攪拌力が向上する。
【0020】
ショルダ部が存在しない形状では、プローブ部のみの細長い形状となる。細長い形状では、ツール部材が折れ易くなる。ショルダ部が存在すると、ツール部材の強度を向上させることができる。一方で、ショルダ部の端部が角型であると、ショルダ部が破損し易くなる。
【0021】
R1/Dを0.02以上0.20以下と設定することにより、ツール部材全体の強度向上とショルダ部端部の強度向上とを両立させることができる。R1/Dが0.02未満では、ショルダ部の端部の曲率半径R1が小さすぎて、曲面形状にする効果が不十分である。また、R1/Dが0.20を超えて大きいと、曲率半径R1が大きくなる。曲率半径R1が過大であると、ショルダ部が細長い形状になり、ツール部材の強度が低下する。このため、R1/Dは0.02以上0.20以下、さらには0.05以上0.15以下の範囲内であることが好ましい。
【0022】
また、ショルダ部の端部の曲率半径R1は0.5mm以上であることが好ましい。曲率半径R1が0.5mm未満では、R1/Dを0.02~0.20の範囲に制御し難い。特に、セラミックス部材でこのような形状にするには、ショルダ部の外径Dを細くしなければならず加工が困難である。曲率半径R1の上限は特に限定されるものではないが、曲率半径R1は4mm以下が好ましい。曲率半径R1が4mmを超えて大きいと、ショルダ部がなで肩形状になる。ショルダ部が存在することにより、摩擦攪拌接合中に被接合材にプローブ部が入り込む深さを安定化させることができる。ショルダ部がなで肩形状であると、プローブ部が被接合材に入り込む深さを安定させることが困難となる。このため、ショルダ部の端部の曲率半径R1は0.5mm以上4mm以下、さらには1.2mm以上2.3mm以下が好ましい。
【0023】
また、プローブ部の根元部の曲率半径をR2(mm)としたとき、R2は0.1mm以上であることが好ましい。曲率半径R2が0.1mm未満であると、プローブ部の根元部が直角に近い形状になり、プローブ部の構造的な強度が低下する。根元部の形状は富士山の裾野形状のようなゆるやかな曲面形状であっても良い。一方で、曲率半径R2が0.1mm以上とすることにより、根元部の構造的な強度を向上させることができる。また、プローブ部による攪拌力の向上にもつながる。
【0024】
また、ショルダ部の端部からプローブ部の根元部にかけて傾斜面を有していることが好ましい。この傾斜面は、図2に示すように、ショルダ部の端部からプローブの中心方向に降下するように形成される。すなわち、プローブの先端部2の周囲に凹部が形成されるように傾斜面が配置される。したがって、プローブの水平方向と傾斜面とは所定の傾斜角度θを成す。
【0025】
また、傾斜面の傾斜角度θは0°を超えて10°以下であることが好ましい。さらに好ましくは、傾斜面の傾斜角度θは、3~8°である。
【0026】
図2にショルダ部の端部3からプローブ部の根元部4にかけて伸びる傾斜面5の一構成例を示す。傾斜面の傾斜角度θは、プローブ部の根元部4の一番下の箇所から水平に線を引いた時に、この水平線(図2上の点線)と傾斜面5とがなす角度を示す。
【0027】
傾斜面設けることにより、摩擦攪拌接合中にプローブ部の根元部4に応力が集中することを防止することができる。また、ショルダ部の端部3を曲面形状に形成しているため、ショルダ部が被接合材に線接触することが防止される。傾斜面5を組合せて形成することにより、ツール部材1の耐久性を向上させることができる。
【0028】
また、傾斜面の傾斜角度θは0°を超えて10°以下、さらには3~8°であることが好ましい。傾斜角度θが10°を超えて大きいと、ショルダ部の端部3が被接合材と線接触となり易くなる。また、傾斜角度θが0°(水平)であると、プローブ部の根元部に応力が掛かり易くなる。
【0029】
また、傾斜面の傾斜角度θは0°未満-10°以上、さらには-3°~-8°であることが好ましい。傾斜面の傾斜角度θが-10°より小さいと、プローブ部の根元部に応力が掛かり易くなる。傾斜面の傾斜角度θを0°未満-10°以上とすることにより、プローブ部が被接合材を攪拌し易くなる。また、プローブ部の根元部を曲面形状にしてあるので、傾斜角度をマイナス方向に傾けても耐久性が低下しない。
【0030】
また、プローブ部の外径Wはショルダ部の外径Dに対してW≦0.7D(mm)であることが好ましい。プローブ部の外径W(mm)がショルダ部の外径D(mm)に近いと、ショルダ部を設ける効果が小さい。
【0031】
また、プローブ部の先端部2は曲面形状であることが好ましい。プローブ部の先端部2が球面形状であると、摩擦攪拌接合中に被接合部材に入り込み易くなる。また、先端部2が平坦面であると、プローブ部の先端部2の端部が角型になる。角型であると、割れ欠けが発生し易く寿命が低下する。このため、プローブ部の先端部は曲面形状であることが好ましい。
【0032】
また、プローブ部の先端部2の表面粗さRaは10μm以下、さらには5μm以下が好ましい。また、ショルダ部の端部3の表面粗さRaも10μm以下、さらには5μm以下が好ましい。プローブ部の先端部2とショルダ部の端部3の表面粗さを小さくしておけば、摩擦攪拌接合中に被接合材と接触によりツール部材が破壊されることを防止できる。
【0033】
また、表面粗さRaは3μm以下、さらには2.5μm以下が好ましい。また、表面粗さRaの下限値は特に限定されるものではないが0.01μm以上が好ましい。Raが0.01μm未満と小さい場合、プローブ部の先端部2と被接合部材との密着性は向上する反面、プローブ部の先端部2の攪拌力が低下する。
【0034】
ここでプローブ部の先端部2の攪拌力とは、被接合部材を塑性変形(塑性流動)させる力のことである。攪拌力が不十分であると、被接合部材同士の接合力が低下する。また、被接合部材の塑性変形に時間が掛かり、接合時間が長くなることも考えられる。このため、プローブ部の先端部2の表面粗さRaは0.01~5μm、さらには0.05~2.5μmが好ましい。
【0035】
また、セラミックス部材は、ビッカース硬さが1400HV1以上である窒化珪素焼結体から成ることが好ましい。ビッカース硬さHV1は、JIS-R1610に準じて荷重1kgにて測定した値とした。
【0036】
ビッカース硬さHV1は1400以上、さらには1500以上が好ましい。なお、ビッカース硬さの上限は特に限定されるものではないが、1900HV1以下が好ましい。ビッカース硬さが1900HV1を超えて高いと、曲面形状に加工することが困難となる。加工性を考慮すると窒化珪素焼結体のビッカース硬さHV1は、1400以上1900以下、さらには1500以上1700以下が好ましい。
【0037】
また、窒化珪素焼結体は、窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、添加成分はY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される3種以上の元素を含有するものであることが好ましい。
【0038】
すなわち、窒化珪素焼結体は添加成分を15質量%以下含有するものである。添加成分とは、窒化珪素以外の成分を意味する。窒化珪素焼結体では、窒化珪素以外の添加成分とは焼結助剤成分を示す。焼結助剤成分は粒界相を構成するものである。添加成分が15質量%を超えて過剰に多いと粒界相が過多になる。窒化珪素焼結体は、細長いβ-窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとっている。焼結助剤成分が多く成ると、窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとれない部分が形成されてしまうため望ましくない。
【0039】
また、添加成分量は3質量%以上12.5質量%以下が好ましい。さらに添加成分は5質量%以上12.5質量%以下が好ましい。添加成分が3質量%未満では、粒界相が過少となり窒化珪素焼結体の密度が低下するおそれがある。添加成分を3質量%以上に規定すれば、焼結体の相対密度を95%以上に形成し易くなる。また、添加成分を5質量%以上に規定することにより、焼結体の相対密度を98%以上に形成し易くなる。
【0040】
また、添加成分としてはY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備することが好ましい。添加成分としてのY(イットリウム)、ランタノイド元素、Al(アルミニウム)、Mg(マグネシウム)、Si(珪素)、Ti(チタン)、Hf(ハフニウム)、Mo(モリブデン)、C(炭素)を構成元素として含有していれば、その存在形態は限定されるものではない。例えば、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、酸窒化物(複合酸窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物を含む)などの形態が挙げられる。また、ランタノイド元素としては、Yb(イッテルビウム)、Er(エルビウム)、Lu(ルテニウム)、Ce(セリウム)から選択される1種が好ましい。
【0041】
また、後述するように、製造工程において焼結助剤として添加する場合は、酸化物(複合酸化物を含む)、窒化物(複合窒化物を含む)、炭化物(複合炭化物)が好ましい。Y元素の場合、酸化イットリウム(Y)が好ましい。また、ランタノイド元素としては、酸化イッテルビウム(Yb)、酸化エルビウム(Er)、酸化ルテニウム(Lu)、酸化セリウム(CeO)から選ばれる1種が好ましい。
【0042】
Al元素の場合、酸化アルミニウム(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、MgO・Alスピネルが好ましい。Mg元素の場合、酸化マグネシウム(MgO)、MgO・Alスピネルが好ましい。Si元素の場合、酸化珪素(SiO)、炭化珪素(SiC)が好ましい。
【0043】
Ti元素の場合、酸化チタン(TiO)、窒化チタン(TiN)が好ましい。また、Hf元素の場合、酸化ハフニウム(HfO)が好ましい。Mo元素の場合、酸化モリブデン(MoO)、炭化モリブデン(MoC)が好ましい。C元素に関しては、炭化珪素(SiC)、炭化チタン(TiC)、炭窒化チタン(TiCN)として添加することが好ましい。これら添加成分の2種以上を組合せて添加することにより、Y、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備した粒界相を構成することができる。また、添加成分はY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を4種以上含有することが好ましい。
【0044】
また、製造工程において添加する焼結助剤の組合せとしては、次に示す組合せが好ましい。
【0045】
まず、第一の組合せとしては、MgOを0.1~1.7質量%と、Alを0.1~4.3質量%と、SiCを0.1~10質量%と、SiOを0.1~2質量%とを添加するものである。これにより、Mg、Al、Si、Cの4種を添加剤分として含有することになる。なお、MgOとAlとを添加する場合、MgO・Alスピネルとして0.2~6質量%添加しても良い。
【0046】
また、上記第一の組合せに、TiOを0.1~2質量%追加してもよい。第一の組合せにTiOを添加することにより、Mg、Al、Si、C、Tiの5種を添加剤分として含有することになる。
【0047】
また、第二の組合せとしては、Yを0.2~3質量%と、MgO・Alスピネルを0.5~5質量%と、AlNを2~6質量%と、HfOを0.5~3質量%と、MoCを0.1~3質量%とを添加するものである。第二の組合せは、添加成分として、Y、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
【0048】
また、Yの代わりに、ランタノイド元素の酸化物を使用しても良い。この場合は、ランタノイド元素、Mg、Al、Hf、Mo、Cの6種類を添加するものである。
【0049】
また、第三の組合せとしては、Yを2~7質量%と、AlNを3~7質量%と、HfOを0.5~4質量%とを添加するものである。これにより、添加成分をY、Al、Hfの3種類とするものである。
【0050】
また、Yの代わりに、ランタノイド元素の酸化物を使用しても良い。この場合は、ランタノイド元素、Al、Hfの3種類とするものである。
【0051】
また、上記第一ないし第三の組合せにおいて、焼結助剤成分の含有量の上限は合計で15質量%以下とする。
【0052】
上記第一ないし第三の組合せは、いずれもYとAlとを添加する組合せを使用していないことである。第一の組合せはYを使用していない。また、第二の組合せは、MgO・Alスピネルとして添加している。また、第三の組合せはAlを使用していない。YとAlとの組合せでは焼結すると、YAG(Al12)、YAM(Al)、YAL(AlYO)といったイットリウムアルミニウム酸化物が形成され易い。これらイットリウムアルミニウム酸化物は、耐熱性が劣る。Yをランタノイド元素に置き換えても同様である。摩擦攪拌接合用接合ツール部材は、摩擦面の温度が800℃以上の高温環境になる。耐熱性が低下すると接合ツール部材の耐久性が低下してしまう。
【0053】
また、上記添加成分は焼結助剤としての役目も優れている。そのため、β型窒化珪素結晶粒子のアスペクト比が2以上の割合を60%以上と高くすることができる。なお、アスペクト比が2以上の割合は以下の手順で求める。すなわち、窒化珪素焼結体の任意の断面をSEM観察して拡大写真(倍率:3000倍以上)を撮影する。次に、拡大写真に写る窒化珪素結晶粒子の長径と短径とを測定し、アスペクト比を求める。単位面積50μm×50μmあたりのアスペクト比が2以上の窒化珪素結晶粒子の面積比(%)を求めるものとする。
【0054】
また、摩擦攪拌接合装置は、被接合材の接合時間を短縮し、かつ生産効率を上げるために、接合ツール部材を回転速度300rpm以上で回転させて、押込荷重9.8kN(1ton)以上で使用することが望まれる。また、摩擦熱により摩擦面の温度が800℃以上の高温環境になる。このためツール部材は、耐熱性と耐磨耗性とが要求される。このような窒化珪素焼結体製接合ツール部材は、ビッカース硬度、破壊靭性値が要求される。
【0055】
前記添加成分により、窒化珪素焼結体のビッカース硬度は1400HV1以上とすることができる。また、窒化珪素焼結体の破壊靭性値は6.0MPa・m1/2以上であることが好ましい。さらに、ビッカース硬度は1500HV1以上、破壊靭性値は6.5MPa・m1/2以上とすることができる。また、3点曲げ強度は900MPa以上、さらには1000MPa以上とすることができる。
【0056】
上記のようなセラミックス部材から成る摩擦攪拌接合用接合ツール部材は耐熱性および耐熱性が優れている。このため、回転速度が300rpm以上であり、押込荷重が9.8kN(1ton)以上になる過酷な接合環境下でも優れた耐久性を示す。また、線接合を行う場合、移動速度を300mm/分以上にすることもできる。
【0057】
また、摩擦攪拌接合工程の条件として、ツール部材の回転速度は300rpm以上1000rpm以下の範囲であることが好ましい。回転速度が300rpm未満では攪拌力が不十分となるおそれがある。また、1000rpmを超えると、攪拌力が強くなり過ぎて被接合材の接合痕の凹凸が大きくなる。接合痕の凹凸が大きくなると、外観が悪化する。このため、回転速度は300~1000rpm、さらには400~800rpmの範囲内であることが好ましい。
【0058】
また、押込荷重は9.8kN以上50kN以下が好ましい。9.8kN未満では攪拌力が不十分となる。また、50kNを超えると、ツール部材の寿命が低下するおそれがある。このため、押込荷重は、14kN以上35kN以下の範囲が好ましい。
【0059】
上記回転速度および押込荷重は、点接合、線接合のいずれの場合でも適用できる。また、線接合を行う場合、移動速度は300mm/分以上1500mm/分以下の範囲内であることが好ましい。移動速度が300mm/分未満ではスピードが遅すぎて量産性が低下する。一方、1500rpmを超えて早いと、部分的に攪拌力が低下して、被接合材同士の接合強度が低下する。このため、移動速度は300~1500mm/分さらには、400~1000mm/分であることが好ましい。
【0060】
なお、実施形態に係る接合ツール部材は回転速度300rpm未満、押込荷重9.8kN未満の条件で使用しても良いものである。
【0061】
また、ツール部材の回転速度をA(rpm)、トルクをB(kg・m)としたとき、B/A=0.001~0.025の範囲内であることが好ましい。トルクとは、力と距離の積で表されるものである。なお、トルクの単位はkg・mとした。また、1kg・m=9.8N・mである。B/A=0.001~0.025であるということは、回転速度に対しトルクが十分に大きいことを示す。回転速度が大きいと攪拌力が大きくなる。回転速度を維持したまま、所定のトルクを維持することができる。このような使い方をしたとしても優れた耐久性を示すことができる。また、B/A=0.001~0.025の範囲であれば、欠陥の無い接合部を形成することができる。
【0062】
なお、トルクは摩擦攪拌接合装置のツール材を回転させているサーボモータをトルク計算機として用いて算出するものとする。ここで、サーボモーター(Servomotor)とは、サーボ機構において位置、速度等を制御する用途に使用するモーターのことである。サーボアンプのモニタ出力からDC0V~DC10V程度の電圧をシーケンサーのアナログ/デジタル変換ユニットに取り込む。次に、シーケンサー内部演算にて取り込んだアナログ電圧をデジタル電圧に変換していく。これを動作パターンにあった計算式を用いてトルクを算出するものである。
【0063】
以上のような条件であっても、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は優れた耐久性を示す。また、プローブ部の先端部の温度が800℃以上となる過酷な接合環境下でも優れた耐久性を示す。
【0064】
このため、被接合材が鉄鋼である接合作業に適している。鉄鋼の具体例としては、ステンレス鋼、炭素鋼、ハイテン鋼などの鉄合金が挙げられる。鉄鋼は、自動車、鉄道、工作機械、家具など様々な製品に使用されている。摩擦攪拌接合は、接合ろう材を使用しない接合方法であるため、製品の軽量化などに有効である。
【0065】
鉄鋼は厚さが0.5mm以上、さらには1mm以上の厚いものが使用される。なお、摩擦攪拌接合は2枚以上の被接合材を重ねて接合するため、鉄鋼の厚さの上限は3mm以下が好ましい。このため、前述のような厳しい接合条件が要求される。実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は、耐久性が優れているので前述の過酷な条件でも使用可能である。
【0066】
また、摩擦攪拌接合は、被接合材を重ね合わせた接合以外にも、被接合材同士を付き合せて接合する方法もある。また、線接合、点接合(スポット接合)の方法であっても良い。また、摩擦攪拌を利用した摩擦攪拌プロセス(FSP)に適用しても良い。言い換えると、実施形態では摩擦攪拌接合(FSW)の中に摩擦攪拌プロセス(FSP)が含まれるものである。
【0067】
また、摩擦攪拌接合工程において、必要に応じ、裏当て材を用いるものとする。裏当て材は窒化珪素焼結体から成るものであることが好ましい。
【0068】
次に、実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材の製造方法について説明する。実施形態に係る摩擦攪拌接合用ツール部材は上記構成を有していれば、その製造方法は特に限定されるものではないが、効率よく得るための方法として以下のものが挙げられる。
【0069】
まず、セラミックス焼結体を作製する。セラミックス焼結体は、窒化珪素焼結体であることが好ましい。窒化珪素焼結体は、窒化珪素以外の添加成分を15質量%以下含有すると共に、添加成分はY、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備するものであることが好ましい。
【0070】
一方、窒化珪素粉末を用意する。窒化珪素粉末は、平均粒径が2μm以下のα型窒化珪素粉末が好ましい。このような窒化珪素粉末を用いることにより、焼結工程でα型がβ型に変化することにより、 β型窒化珪素結晶粒子が複雑にからみあった構造をとることができる。また、窒化珪素粉末中の不純物酸素量は2質量%以下が好ましい。
【0071】
次に、添加成分である焼結助剤粉末を用意する。焼結助剤粉末は、Y、ランタノイド元素、Al、Mg、Si、Ti、Hf、Mo、Cから選択される元素を3種以上具備する組合せとする。添加する形態としては酸化物粉末(複合酸化物を含む)、窒化物粉末(複合窒化物を含む)、炭化物粉末(複合炭化物を含む)、炭窒化物(複合炭窒化物を含む)から選択される1種以上となる。また、その合計量は15質量%以下となるように規定される。また、焼結助剤粉末の平均粒径は3μm以下が好ましい。焼結助剤粉末の好ましい組合せは、前述の第一ないし第三の組合せが好適である。
【0072】
次に、窒化珪素粉末および焼結助剤粉末を混合した後、ボールミルで混合し、原料粉末を調製する。次に、原料粉末に有機バインダを添加し、成型する工程を実施する。成型工程は、目的とする形状を有する金型を使用してもよい。また、円柱形状または四角柱形状の成形体を作製しても良い。また、成型工程に関しては、金型成型やCIP(冷間静水圧加圧法)などを使用しても良い。
【0073】
次に、成型工程で得られた成形体を脱脂する。脱脂工程は、窒素中で温度400~800℃で実施することが好ましい。また、成形体を加工して、目的とする形状に近づけておいても良い。
【0074】
次に、脱脂工程で得られた脱脂体を焼結する。焼結工程は、温度1600℃以上で実施するものとする。焼結工程は、不活性雰囲気中または真空中で実施することが好ましい。不活性雰囲気としては、窒素雰囲気やアルゴン雰囲気が挙げられる。また、焼結工程は、常圧焼結、加圧焼結、HIP(熱間静水圧加圧法)が挙げられる。また、複数種類の焼結方法を組合せても良い。
【0075】
また、得られた窒化珪素焼結体を最終的に目的とする形状に加工する。加工は、研磨加工や放電加工が好ましい。プローブ部の根元部の曲面形状は放電加工が適している。また、研磨加工はダイヤモンド砥石を用いた研磨加工であることが好ましい。また、プローブ部の先端部、ショルダ部の端部の表面粗さの調整にもダイヤモンド砥石を用いた研磨加工が好適である。
【0076】
(実施例)
(実施例1~9および比較例1~3)
セラミックス部材として表1に示す窒化珪素粉末と焼結助剤粉末とを添加した原料混合粉末を用意した。窒化珪素粉末はα化率が95%以上であり、平均粒径が1.2μmである粉末を使用した。また、焼結助剤粉末は平均粒径が0.7~2.0μmである粉末を使用した。
【0077】
【表1】
【0078】
次に、各試料に係る原料混合粉末をボールミルで混合した後、有機バインダを2質量%混合した。その後、金型成型した。次に各成形体に対して、温度1800℃×5時間の条件で、窒素雰囲気中で常圧焼結した。その後、1700℃×2時間の条件でHIP焼結を実施した。これにより、試料1~6に係る窒化珪素焼結体を作製した。
【0079】
得られた窒化珪素焼結体のビッカース硬度、破壊靭性値、3点曲げ強度を測定した。ビッカース硬度HV1は、JIS-R1610に準拠し、荷重1kgにて試験した。また、破壊靭性値はJIS-R-1607に準拠して測定し、IF法に基づいて新原の式で求めた。また、3点曲げ強度はJIS-R1601に準拠して測定した。その結果を下記表2に示す。
【0080】
【表2】
【0081】
次に、各試料を加工してツール部材を作製した。ツール部材は、ショルダ部の外径Dを20mm、プローブ部の外径Wを10mmに統一した。また、各実施例および比較例1~2はプローブ部の先端部を曲面形状にした。その他の形状は表3に示す通りであり、ショルダ部の端部とプローブ部の根元部を曲面形状とした(図1参照)。また、曲面形状への加工は放電加工を用いた。
【0082】
また、比較例3として、実施例1の窒化珪素焼結体を用いて、ショルダ部の端部とプローブ部の根元部を直角形状としたものを用意した。
【0083】
また、各実施例および比較例に係るツール部材は、ショルダ部の端部とプローブ部の先端部の表面粗さRaは2μmに統一した。また、表面粗さの調整はダイヤモンド砥石を使った研磨加工により実施した。
【0084】
【表3】
【0085】
次に、各実施例および比較例に係る摩擦攪拌接合用ツールを摩擦攪拌接合装置に設置した。被接合材として、ステンレス鋼(厚さ1.5mm)を2枚用意した。摩擦攪拌接合の接合条件として表4に示す2つの線接合条件で実施した。線接合長さ10mまで摩擦攪拌接合を実施した後に、プローブ部またはショルダ部の破損の有無、ツール部材のショルダ部の摩耗量を測定した。また、試験の際は、窒化珪素焼結体から成る裏当て材を用いた。
【0086】
プローブ部またはショルダ部の破損の有無は目視にて確認した。また、ツール部材のショルダ部の摩耗量は試験後のツール部材をレーザ3次元形状測定器により求めた。その結果を下記表5に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
【表5】
【0089】
上記表5に示す結果から明らかなように、各実施例に係るツール部材は、優れた性能を示した。特にR1/Dが0.05~0.15であり、R1が1.2~2.2mmであり、R2が0.1mm以上であり、傾斜面の角度が3~8°であるツール部材は摩耗量が少なかった。また、傾斜面の角度が-3~-8°であるツール部材も磨耗量が少なかった。このため、傾斜面の角度は0°を超えて10°以下または0°未満-10°以上が好ましいことが判明した。一方、比較例1~3はいずれも試験中にツール部材が破損してしまい、10mの接合長さに耐えなかった。これらの結果は、同じ素材 であっても形状を最適化することにより、ツール部材の耐久性が向上することを示すものである。
【0090】
(実施例1A~9A)
次に、実施例1~9に係るツール部材に対し、回転速度とトルクを変えて摩擦攪拌接合を行った。回転速度A(rpm)、トルクB(kg・m)として、表6に示す条件で摩擦攪拌接合を行った。被接合材は、ステンレス鋼(厚さ1.0mm)2枚用意した。
【0091】
また、接合後に接合部の欠陥の有無を測定した。接合部の欠陥の有無は、接合部断面を金属顕微鏡で観察し、直径0.2mm以上の孔(接合欠陥)の有無により行った。その結果を下記表6に示す。
【0092】
【表6】
【0093】
表6に示す結果から明らかな通り、好ましい範囲を満たしている実施例1、3~5、7~8を使ったものはB/A=0.001~0.025の範囲で欠陥の無い接合を得ることができた。なお、金属顕微鏡(2000倍)で確認したところ0.2mm未満の欠陥も確認されなかった。このため、耐久性と接合品質の両立が図れている。
【0094】
一方、実施例2(R1=0.4mm)、実施例6(傾斜角度13°)、実施例9(傾斜角度-13°)と好ましい範囲を外れたものは、トルクが大きくなったときに欠陥が発生した。
【0095】
トルクとは力と距離の積で表される量(モーメント)である。回転軸の中心からの距離に反比例するものである。つまり、ツール部材の先端部は、回転軸とショルダ部で負荷される力が異なることになる。実施形態に係るツール部材をB/Aを0.001~0.025の範囲で摩擦攪拌接合を行うことにより、欠陥の無い接合を実現できる。言い換えれば、実施形態に係るツール部材はB/A=0.001~0.025となる条件での摩擦攪拌接合に適したものであると言える。
【0096】
以上、本発明のいくつかの実施形態を例示したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。これら実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。また、前述の各実施形態は、相互に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0097】
1…摩擦攪拌接合用ツール部材
2…プローブ部の先端部
3…ショルダ部の端部
4…プローブ部の根元部
5…傾斜面
W…プローブ部の外径
D…ショルダ部の外径
θ…傾斜面の傾斜角度
図1
図2