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特許7393751レアアース泥の採泥方法及び環境負荷低減方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-29
(45)【発行日】2023-12-07
(54)【発明の名称】レアアース泥の採泥方法及び環境負荷低減方法
(51)【国際特許分類】
   E21C 50/00 20060101AFI20231130BHJP
【FI】
E21C50/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020033844
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134627
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-26
(73)【特許権者】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504194878
【氏名又は名称】国立研究開発法人海洋研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504196300
【氏名又は名称】国立大学法人東京海洋大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100145012
【弁理士】
【氏名又は名称】石坂 泰紀
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】高橋 恵輔
(72)【発明者】
【氏名】秋藤 哲
(72)【発明者】
【氏名】難波 康広
(72)【発明者】
【氏名】許 正憲
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 英剛
(72)【発明者】
【氏名】秋山 敬太
(72)【発明者】
【氏名】山中 寿朗
(72)【発明者】
【氏名】牧田 寛子
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-214082(JP,A)
【文献】特開2001-241286(JP,A)
【文献】特許第6653890(JP,B2)
【文献】特開2014-159710(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0061872(US,A1)
【文献】特開昭61-186695(JP,A)
【文献】特開昭56-067095(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E21C 50/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって前記海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが前記凹地に収容された状態にする工程と、
(B)前記スラリーよりも密度が高い置換材を前記凹地に注入する工程と、
を含み、
前記置換材は、温度20℃及びせん断速度100s -1 の条件で測定される粘度が40~500mPa・sであり、
前記(B)工程において、前記凹地よりも上方に位置する揚泥機構に前記スラリーを押し上げる、レアアース泥の採泥方法。
【請求項2】
(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって前記海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが前記凹地に収容された状態にする工程と、
(B)前記スラリーよりも密度が高い置換材を前記凹地に注入する工程と、
を含み、
前記置換材の大気圧下における密度A(単位:g/cm )と前記スラリーの大気圧下における密度B(単位:g/cm )が下記不等式で表される条件を満たし、
A-B≧0.03
前記(B)工程において、前記凹地よりも上方に位置する揚泥機構に前記スラリーを押し上げる、レアアース泥の採泥方法。
【請求項3】
前記置換材がセメントを含む、請求項1又は2に記載のレアアース泥の採泥方法。
【請求項4】
前記置換材が混和剤を更に含む、請求項に記載のレアアース泥の採泥方法。
【請求項5】
前記置換材が前記(A)工程の掘削によって生じた泥を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のレアアース泥の採泥方法。
【請求項6】
(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって前記海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが前記凹地に収容された状態にする工程と、
(B)前記スラリーよりも密度が高い置換材を前記凹地に注入する工程と、
を含み、
前記置換材は、温度20℃及びせん断速度100s -1 の条件で測定される粘度が40~500mPa・sであり、
前記(B)工程において、前記凹地よりも上方に位置する揚泥機構に前記スラリーを押し上げるとともに、
前記(B)工程後、前記凹地が前記置換材で埋められた状態を維持することにより、前記凹地内に海水の低酸素領域が形成されることを抑制する、環境負荷低減方法。
【請求項7】
(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって前記海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが前記凹地に収容された状態にする工程と、
(B)前記スラリーよりも密度が高い置換材を前記凹地に注入する工程と、
を含み、
前記置換材の大気圧下における密度A(単位:g/cm )と前記スラリーの大気圧下における密度B(単位:g/cm )が下記不等式で表される条件を満たし、
A-B≧0.03
前記(B)工程において、前記凹地よりも上方に位置する揚泥機構に前記スラリーを押し上げるとともに、
前記(B)工程後、前記凹地が前記置換材で埋められた状態を維持することにより、前記凹地内に海水の低酸素領域が形成されることを抑制する、環境負荷低減方法
【請求項8】
前記置換材がセメントを含む、請求項6又は7に記載の環境負荷低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レアアース泥の採泥方法及び環境負荷低減方法に関する。
【背景技術】
【0002】
全世界の海洋底には、石油や天然ガスをはじめとする液体や気体の天然資源が多く存在する。また、マンガンノジュール等の固体の鉱物資源の存在も明らかになってきている。特許文献1~4は液体や気体の天然資源の採取方法、又は比較的浅い海底内の鉱物資源の揚鉱手法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-172418号公報
【文献】特開2019-120063号公報
【文献】特開2019-011568号公報
【文献】特公平8-26740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
深海の海底下にレアアースを含む泥の層が存在することが確認されている。この泥はレアアース泥と称され、新たな資源として着目されている。しかし、このような深海底からレアアース泥を効率的に採取する技術は未だ確立されていない。
【0005】
本発明は、深海の海底下の層にも適用可能なレアアース泥の採泥方法を提供する。また、本発明は、海底下からのレアアース泥の採泥に起因する環境負荷を低減する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るレアアース泥の採泥方法は、(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが凹地に収容された状態にする工程と、(B)上記スラリーよりも密度が高い置換材を凹地に注入する工程とを含み、(B)工程において、凹地よりも上方に位置する揚泥機構にスラリーを押し上げる。
【0007】
上記採泥方法によれば、レアアースを含むスラリーよりも密度が高い置換材で当該スラリーを揚泥機構に押し上げるため、大規模な海中機器を使用することなくレアアースを含むスラリーを効率的に採泥できる。なお、本発明でいう「レアアースを含むスラリー」は、流動性を有するレアアース泥、又は少なくともレアアース泥と海水とを含む混合流体を意味する。
【0008】
本発明に係る環境負荷低減方法は、(A)レアアース泥を含む海底下の層を掘削することによって海底に凹地を形成するとともに、レアアースを含むスラリーが凹地に収容された状態にする工程と、(B)上記スラリーよりも密度が高い置換材を凹地に注入する工程とを含み、(B)工程において、凹地よりも上方に位置する揚泥機構にスラリーを押し上げるとともに、(B)工程後、凹地が置換材で埋められた状態を維持することにより凹地内に海水の低酸素領域が形成されることを抑制する。この環境負荷低減方法は、海底下からのレアアース泥の採泥に起因する環境負荷を低減するのに有用である。
【0009】
置換材はセメントを含むことが好ましい。セメントの水和反応によって置換材が固化することで、上記(B)工程後(スラリーを置換材に置換後)、凹地が置換材で埋められた状態を安定的且つ十分に長期にわたって維持することができる。置換材がセメントを含む場合、施工性向上の観点から、混和剤を更に含むことが好ましい。置換材は(A)工程の掘削によって生じた泥(例えば、レアアース濃集部を取り除いた後の残土)を含んでもよい。かかる泥を使用することで、廃棄物として処理すべき残土の量を削減できる。
【0010】
置換材は、温度20℃及びせん断速度100s-1の条件で測定される粘度が40~500mPa・sであることが好ましい。この粘度が40mPa・s以上であることで、凹地が置換材で埋められた状態を維持しやすい傾向にある。他方、この粘度が500mPa・s以下であることで、置換材を移送する際の圧力損失を小さくできる傾向にある。置換材の大気圧下における密度A(単位:g/cm)とスラリーの大気圧下における密度B(単位:g/cm)が下記不等式で表される条件を満たすことが好ましい。
A-B≧0.03
すなわち、密度Aと密度Bの差が0.03g/cm以上であることで、海底下の凹地内においても、レアアースを含むスラリーの下に置換材が短時間で沈降し、置換材によってスラリーを安定的に押し上げることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、深海の海底下の層にも適用可能なレアアース泥の採泥方法が提供される。また、本発明によれば、海底下からのレアアース泥の採泥に起因する環境負荷を低減する方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は本発明に係るレアアース泥の採泥システムの一実施形態を模式的に示す断面図である。
図2図2は海底下の層に集泥管を貫入させている様子を模式的に示す断面図である。
図3図3は集泥管内のスラリーを揚泥管に移送する様子を模式的に示す断面図である。
図4図4は揚泥管内のスラリーを循環流によって上方に移送している様子を模式的に示す断面図である。
図5図5は置換材の置換挙動に関する要素実験で使用した装置を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<レアアース泥の回収システム>
図1は本実施形態に係るレアアース泥の回収システムを模式的に示す断面図である。回収システム10は、水深5000mを超える深海の海底下の層Lに賦存するレアアース泥をスラリー状にして回収するためのものである。図1は、攪拌装置3によってレアアース泥の解泥を実施している様子を示したものである。回収システム10は、海底下の層Lに貫入された集泥管1と、攪拌装置3と、集泥管1に接続された揚泥管5(揚泥機構)と、アニュラス部切替機構7とを備える。
【0015】
集泥管1は、海底近傍のレアアース泥を解泥するためのものである。更に、集泥管1内においてレアアース泥を含むスラリーSが調製される。集泥管1は、円筒部1aと、円筒部1aの上端を閉鎖する上板1bと、上板1bを貫通する開口1cとによって構成されている。図1における集泥管1は、その先端が海底Fから層Lに貫入された状態である。
【0016】
攪拌装置3は、海上の船(不図示)から延びているドリルパイプ3aと、ドリルパイプ3aの下端側且つ外側に設けられたブレード3bとによって構成される。ドリルパイプ3aの回転に伴ってブレード3bが回転し且つドリルパイプ3aの上下方向の移動に伴ってブレード3bが上下方向に移動するように構成されている。集泥管1内においてブレード3bが回転しながら下方向に移動することで、層Lに凹地Cが形成されるとともに、レアアース泥が海水と混ざって流動性を有するスラリーSが得られる。
【0017】
アニュラス部切替機構7は、アニュラス部閉鎖機構7aと、ドリルパイプ閉鎖バルブ7bと、シャッタ機構7cとによって構成される。揚泥管5は、アニュラス部閉鎖機構7aを介して集泥管1の開口1cに接続されている。揚泥管5は、ドリルパイプ3aとともに循環流を生じさせることができる。具体的には、揚泥管5は、ドリルパイプ3aとともに二重管を構成しており、ドリルパイプ3a(内側の管)とアニュラス部5a(ドリルパイプ3aの外面と揚泥管5の内面で画成される領域)とを上板1bよりも上方の位置で連通させることができる(図4参照)。
【0018】
アニュラス部閉鎖機構7aは船上から又はROVで操作される。ドリルパイプ3aは、必要に応じてドリルパイプ閉鎖バルブ7bで封鎖される。また、シャッタ機構7cは、ドリルパイプ3aの内側とアニュラス部5aとを必要に応じて連通させる。サブシー制御装置(不図示)はこれらを制御する。また、サブシーアキュムレータ(不図示)はこれらの機構を動作させる動力源である。ドリルパイプ閉鎖バルブ7bは、ドリルパイプ3aにおける揚泥管5の下端に相当する位置に設けられており、これを操作することで揚泥管5が集泥管1と連通しない状態にすることが可能である。シャッタ機構7cは、ドリルパイプ3aにおけるドリルパイプ閉鎖バルブ7bよりも高い位置に設けられており、これを操作することで、ドリルパイプ3aの内部とアニュラス部5aとをその位置で連通させることができる。
【0019】
<レアアース泥の回収方法>
図1図4を参照しながら、回収システム10を使用してレアアース泥を回収する方法について説明する。本実施形態に係るレアアース泥の回収方法は以下の工程を含む。
(a)レアアース泥を含む海底下の層Lに集泥管1を貫入させる工程(図2参照)。
(b)集泥管1内において、レアアース泥を解泥することによってレアアースを含むスラリーSを調製する工程(図1参照)
(c)集泥管1内に置換材Rを注入することによって集泥管1内のスラリーSを揚泥管5内に押し上げる工程(図3参照)
(d)海上の船に向けてスラリーSを揚泥管5で移送する工程(図4参照)
【0020】
(a)工程は、図2に示すように、海底下の層Lに集泥管1を貫入させる工程である。揚泥管5の先端に集泥管1を取り付けた状態で船上から揚泥管5を降下させ、集泥管1の先端側を海底Fに突き刺す。集泥管1の自重によって層Lに集泥管1が沈み込む。
【0021】
(b)工程は、レアアース泥をブレード3bで解泥することによって集泥管1内においてスラリーSを調製する工程である(図1参照)。ブレード3bは、例えば、ドリルパイプ3aの先端に取り付けられた状態で揚泥管5内を降下し、集泥管1内に至る。船上からドリルパイプ3aを通じて海水を供給し、ブレード3bの開口部(不図示)から海水を噴出させながら、ブレード3bを回転させるとともに徐々に降下させる。これにより、集泥管1内においてレアアース泥が解きほぐされて細かい粒子状となる。レアアース泥を解泥することで集泥管1内にスラリーSが調製される。船上から供給する海水量を調整することで、スラリーSの濃度を調整することができる。なお、スラリーSの密度などの物性は集泥管1内に配置又は投下されたセンサーで測定することができる。
【0022】
(c)工程は、集泥管1内に置換材Rを注入することによって集泥管1内のスラリーSを揚泥管5内に押し上げる工程である(図3参照)。スラリーSよりも密度が高い置換材Rをドリルパイプ3aを通じて集泥管1内に供給する。これにより、集泥管1内のスラリーSが揚泥管5内に押し上げられる。このプロセスを採泥と称する。
【0023】
置換材Rについて説明する。置換材Rは、スラリーSよりも高い密度の流体である。置換材Rの大気圧下における密度A(単位:g/cm)とスラリーSの大気圧下における密度B(単位:g/cm)が下記不等式で表される条件を満たすことが好ましい。
A-B≧0.03
すなわち、密度Aと密度Bの差が0.03g/cm以上であることで、海底下の凹地C内においても、スラリーSの下に置換材Rが短時間で沈降し、置換材RによってスラリーSを揚泥管5に向けて安定的に押し上げることができる。密度Aと密度Bの差は、より好ましくは0.05g/cm以上であり、更に好ましくは0.08g/cm以上である。なお、密度Aと密度Bの差の上限値は、例えば、2.0g/cmである。
【0024】
置換材Rはセメントを含むことが好ましい。セメントの水和反応によって置換材Rが固化することで、上記(c)工程後(スラリーSを置換材Rに置換後)、凹地Cが置換材Rで埋められた状態を安定的且つ十分に長期にわたって維持することができる。セメントの種類としては、例えば、ポルトランドセメントやアルミナセメントを使用でき、経済的であり且つ比較的短期間で硬化する点で早強ポルトランドセメントが好ましい。置換材Rがセメントを含む場合、施工性向上の観点から、混和剤を更に含むことが好ましい。混和剤の種類としては、例えば、増粘剤、分離低減剤、減水剤、AE減水剤、高性能AE減水剤、流動化剤などを使用できる。
【0025】
置換材Rは、(a)工程の掘削によって生じた泥(例えば、レアアース濃集部を取り除いた後の残土)を含んでもよい。かかる泥を使用することで、廃棄物として処理すべき残土の量を削減できる。
【0026】
置換材Rは、温度20℃及びせん断速度100s-1の条件で測定される粘度が好ましくは40~500mPa・sであり、より好ましくは80~400mPa・sであり、更に好ましくは100~300mPa・sである。この粘度が40mPa・s以上であることで、凹地Cが置換材で埋められた状態を維持しやすい傾向にある。他方、この粘度が500mPa・s以下であることで、置換材Rを移送する際の圧力損失を小さくできる傾向にある。
【0027】
(d)工程は、(c)工程を経て揚泥管5内に移送されたスラリーSを海上の船に向けて移送する工程である(図4参照)。ドリルパイプ3aから海水を供給することで、揚泥管5内に循環流を生じさせることができる(図4中の矢印参照)。このプロセスを揚泥と称する。なお、スラリーSの移送先は海上の船に限らず、例えば、海中又は海上の処理設備等であってもよい。
【0028】
上記実施形態によれば、集泥管1内で解泥及びスラリー調製をするため、揚泥に適した濃度のスラリーを安定的に調製することができる。また、(c)工程後、凹地Cが置換材Rで埋められた状態が維持されることにより、凹地C内に海水の低酸素領域が形成されることを抑制できる。海底下からのレアアース泥の採泥に起因する環境負荷を低減することができる。
【0029】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、水深5000mを超える深海の海底下からレアアース泥を採泥する場合を例示したが、これよりも浅い海域(例えば、水深1000~3000m又は3000~5000m)に本発明を適用してもよい。
【実施例
【0030】
二種類の置換材(海底粘土置換材及び模擬粘土置換材)を調製するため、以下の材料を準備した。
(1)早強ポルトランドセメント(宇部三菱セメント社製)
(2)人工海水(テトラマリンソルト、ジェックス社製)
(3)セルロース系増粘剤(メトローズ3403Q、信越化学社製)
(4)南鳥島沖海底粘土
(5)ベントナイト(クニゲルV1、クニミエ工業社製)
【0031】
<海底粘土置換材の調製>
上記材料を表1に示す割合で配合し、次のようにして海底粘土置換材を調製した。すなわち、南鳥島沖海底粘土に人工海水を加えてハンドミキサーで2分間撹拌した。その後、セメント及び増粘剤を添加し、再度ハンドミキサーで2分間撹拌して海底粘土置換材を得た。表1におけるセメント及び混和剤の配合率は置換材全質量を基準としたものであり、粘土の含水率はセメント及び混和剤を添加する前の値(水質量/粘土質量)である(表2においても同じ)。
【0032】
<模擬粘土置換材の調製>
上記材料を表2に示す割合で配合し、次のようにして模擬粘土置換材を調製した。すなわち、ベントナイトに人工海水を加えてハンドミキサーで2分間撹拌した後、セメント及び増粘剤を添加し、再度ハンドミキサーで2分間撹拌して模擬粘土置換材を得た。
【0033】
<置換材の材料特性の測定>
(1)粘度
レオストレスメーター(Anton Paar社製、MCR102)を使用し、温度20℃、せん断速度100s-1における置換材の粘度を測定した。
(2)寸法安定性
300ccカップを人工海水で満たし、そこに300ccの置換材を流し込み、24時間後における置換材の体積を測定した。下記式に測定値を代入して寸法変化率(体積変化率)を算出した。
寸法変化率(%)=[300-(24時間後の置換材の体積)]/300×100
(3)密度
30cc容重マスに擦り切れまで置換材を流し込み、5cmの高さから、4~5回マスから材料が溢れない程度の軽い衝撃を与えて気泡を抜いた後に測定した質量から密度を算出した。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1及び表2に示す結果から、置換材の寸法変化率を小さくするには置換材の粘度を40mPa・s以上に調整することが有用である。置換材の粘度を40mPa・s以上に調整には以下の少なくとも一つの手法を採用すればよい。
・粘土の含水率を88質量%よりも低くする。
・置換材のセメント量を5質量%以上にする。
・置換材に増粘剤を配合する。
【0037】
<置換材の置換挙動に関する要素実験>
表3に示す三種類の模擬スラリー(レアアースを含むスラリーを模したもの)を調製した。
【0038】
【表3】
【0039】
レアアースを含有するスラリーを模した上記スラリーA~Cが密度差によって置換材に置換されるかを評価する実験を以下のようにして実施した。
(実験装置)
集泥管とドリルパイプを模した以下のサイズの実験装置を準備した(図5参照)。
・二枚の型枠(透明樹脂製)のサイズ:幅60cm、高さ54cm
・二枚の型枠の離間距離:2cm
・模擬集泥管上部の形状:屋根状
・模擬ドリルパイプ:ゴムホース(直径2cm)
【0040】
(置換材の注入方式)
・トレミー式…模擬集泥管の下部に模擬ドリルパイプを設置したまま置換材を注入する方式。
・自由落下式…模擬集泥管の上部に模擬ドリルパイプを設置したまま置換材を流し込む方式。
【0041】
(模擬スラリーの回収率の評価)
置換材を注入する前の模擬スラリーの写真と、置換材と模擬スラリーの置換が見かけ上停止するまで置換材を注入した時点での模擬スラリーの残部の写真をそれぞれ撮影した。置換材の注入時間は最大で12分間とした。画像解析ソフトImage-Jを使用し、置換材の注入前後の模擬スラリーの面積を求め、その比率から模擬スラリーの回収率を算出した。表4に実験の結果を示す。
【0042】
【表4】
【符号の説明】
【0043】
1…集泥管、1a…円筒部、1b…上板、1c…開口、3…攪拌装置、3a…ドリルパイプ、3b…ブレード、5…揚泥管(揚泥機構)、5a…アニュラス部、7…アニュラス部切替機構、7a…アニュラス部閉鎖機構、7b…ドリルパイプ閉鎖バルブ、7c…シャッタ機構、10…回収システム、C…凹地、F…海底、L…層
図1
図2
図3
図4
図5