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  • 特許-熱電変換材料 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-11-30
(45)【発行日】2023-12-08
(54)【発明の名称】熱電変換材料
(51)【国際特許分類】
   H10N 10/853 20230101AFI20231201BHJP
   C22C 12/00 20060101ALI20231201BHJP
【FI】
H10N10/853
C22C12/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019119503
(22)【出願日】2019-06-27
(65)【公開番号】P2021005668
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-04-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】大石 佑治
(72)【発明者】
【氏名】牟田 浩明
(72)【発明者】
【氏名】潮田 康隆
(72)【発明者】
【氏名】島田 武司
(72)【発明者】
【氏名】松田 三智子
【審査官】加藤 俊哉
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-526810(JP,A)
【文献】特開2006-156993(JP,A)
【文献】特開平11-135840(JP,A)
【文献】特開2006-089847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 10/853
C22C 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CeFe4-yCoSbの組成式であらわされ、0<x<1、0<y≦1、12.12≦z<12.5を満たすスクッテルダイト系の化合物1モルに対して、0.3モル以下のSnを含有することを特徴とする熱電変換材料。
【請求項2】
SnはCeサイトに添加されることを特徴とする請求項1に記載の熱電変換材料。
【請求項3】
p型の熱電変換材料であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の熱電変換材料。
【請求項4】
Snの含有量が0.08モル以上であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の熱電変換材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱電変換材料に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、火力発電所などの大型発電システム、鉄鋼関連炉、ごみ焼却場、化石燃料エンジンで走行する自動車などから膨大な量の熱エネルギーが排出されている。排出される熱エネルギーの一部は給湯や暖房の熱源などとして利用されているが、殆どが利用されずに捨てられているのが実情である。利用されずに捨てられている排熱エネルギーは、未利用排熱エネルギーなどと呼称されている。未利用排熱エネルギーを効率的に利用・回収等できれば、社会システム全体のエネルギー消費の低減に繋がり、エネルギー問題や地球温暖化などの環境問題の解決に大きく貢献できる。
【0003】
熱エネルギーを電気エネルギーに変換する熱電発電システムは、未利用排熱エネルギーの再資源化という意味で注目されてきた。熱電発電システムは、電子をキャリアとして持つn型の熱電変換材料と、ホール(正孔)をキャリアとして持つp型の熱電変換材料とを、導電材を介して接続した素子を複数有する熱電変換モジュールを用いた発電システムである。熱電変換モジュールの一方と他方との間に温度勾配が生じると、n型の熱電変換材料では高温領域の価電子が伝導帯へ励起され、低温度領域へ電子が拡散により移動して熱起電力が発生し、高温側が高電位になる。一方、p型の熱電変換材料では高温領域の正孔が励起され、低温領域に正孔が移動して熱起電力を発生し、低温側が高電位となる。n型の熱電変換材料とp型の熱電変換材料とを導電材を介して接続すると、これらの間に電流が流れ(ゼーベック効果と呼ばれている)、一種の電池のようにふるまう。熱電発電システムはこのようにして得た電気エネルギーを供給するものである。
【0004】
つまり、熱電変換モジュールに用いられる熱電変換材料は、固体による直接エネルギー交換を行うものであり、炭酸ガスの排出がなく、フルオロカーボンガスなどの冷媒を用いて冷却する必要もない。したがって、環境と共生するエネルギー技術として、近年、その価値が見直されている。
【0005】
このうち、p型熱電変換材料に関する技術が、特許文献1、2、3に掲載されている。
特許文献1には、MM’1-yCoM’’12(例えばM=La、Ce、Pr、Nd、Eu、M’=Fe,Ru,Os,Rh、M’’=Sb、As、P、Bi、Ge、Se)の二段階合成法によるスクッテルダイト化合物の作製方法が記載されている。
特許文献2には(La・Ce・Ba)(Co・Fe)Sb12系のp型熱電変換材料においてLa、Baを添加した系で高い無次元性能指数ZT(以下、単に「ZT」と称する)を示すことが記載されている。
更に特許文献3ではRE(Co1-ySb12(RE=La,Ce、M=Cu,Zn)であらわされるスクッテルダイト系熱電材料において、REにCeを選んだ系にMをCu、Znにした材料で最大パワーファクターが3×10-3W/m・Kとなると報告している。
このような、スクッテルダイト系熱電材料の内、特にSbを選択したスクッテルダイト系熱電材料においては、強度に優れ、振動環境などに高い耐性を有すると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】米国特許第5994639号明細書
【文献】特許第5090939号公報
【文献】特許第4920199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
熱電変換材料の性能は、ZTが1よりも大きいことが実用化の目安とされている。なお、ZT≒1の熱電変換材料では理論発電効率は約9%であると言われている。
【0008】
ZT=SσT/κ …(1)
ここで、前記式(1)において、S:ゼーベック係数、σ:電気伝導率、κ:熱伝導率、T:絶対温度である。
【0009】
前記式(1)に示されているように、性能の良い、すなわち、高効率の熱電変換材料とは、電気伝導率σおよびゼーベック係数Sが大きく、熱伝導率κが小さい材料である。しかし、一般的に、熱電変換材料は、電気伝導率σが高い材料ほど熱伝導率κが高く、電気伝導率σが低い材料ほど熱伝導率κが低くなる相関関係があるため、無次元性能指数ZTを高くするのは困難なことである。特にp型熱電材料に関しては、ZTのさらなる向上が求められている。
本発明は前記状況に鑑みてなされたものであり、ZTの高い熱電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の課題は以下の手段によって解決される。
本発明に係る熱電変換材料は、CeFe4-yCoSbの組成式であらわされ、0<x<1、0<y≦1、12.12≦z<12.5を満たすスクッテルダイト系の化合物1モルに対して、0.3モル以下のSnを含有する熱電変換材料である。SnはCeサイトに添加されることが望ましい。上記の熱電変換材料はp型の熱電変換材料であることが好ましい。前記Snの含有量が0.08モル以上であることが望ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ZTが高い熱電変換材料を提供でき、効率の良い熱電発電システムの構築に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】Snの量を変化させた本発明の熱電変換材料におけるZTの温度変化である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、Ceを充填した特定のスクッテルダイト系の化合物にSnを特定量含有することでZTの向上が達成できることを見出したことによるものである。
以下、詳しく説明する。
まず、ベースとなるスクッテルダイト系の化合物は、CeFe4-yCoSbの組成式であらわされ、0<x<1、0<y≦1、12.0≦z<12.5を満たすものとした。
【0014】
本発明者等の検討によれば、この組成系において、CeサイトにSnを添加することで、ZTの向上が達成できると考えた。ここで特に重要なのは、SbサイトへのSnの混入を防ぐことである。CoをFeに置換させて、スクッテルダイトの結晶構造を維持しつつ、Sbをスクッテルダイトの化学量論組成であるZ=12以上とすることで、Snは、Sbのサイトではなく、Ceのサイトに入ろうとすると考えた。但し、Sn添加量が多くなるとSbサイトへもSnが入ってしまうため、本発明者等は、Fe、Co、Sbの量を適切に選択しつつ、この組成系のスクッテルダイト1モル当たり、Snを0.3モル以下の範囲で含有することで、熱電特性を向上させることを確認し、本発明に到達した。
【0015】
以下、本発明の熱電材料を得るための製造方法の一例について説明を加えておく。
(秤量工程H1)
秤量工程H1は、Ceを含む素原料、Feを含む素原料、Coを含む素原料、Snを含む素原料およびSbを含む素原料をそれぞれ秤量する工程である。これらの素原料の秤量は、一般的な秤量機を用いて行うことができる。素原料の形態はどのようなものであってもよい。すなわち、素原料は、例えば、鉱石であってもよいし、スクラップ材などであってもよいし、予め精製された純度の高い精製品であってもよい。ここで、Ce、Fe、Co、SnおよびSbは、それぞれの素原料中に含まれている含有率を予め分析しておき、その分析を基に、秤量後の原料の狙いの組成式に合致するように秤量するのが好ましい。
【0016】
また、秤量は、グローブボックスのような外気と遮断された状況下で作業が可能な密閉作業装置で行うのが好ましい。密閉作業装置は、内部に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを供給できるものを用いるのが好ましい。秤量は、酸素濃度が0.1~100容積ppmである密閉作業装置内で行うのが好ましい。密閉作業装置内で秤量した素原料は、例えば、黒鉛るつぼなどの耐熱性容器に入れるのが好ましい。
【0017】
(溶解混合工程H2)
溶解混合工程H2は、前記した素原料を溶解して混合する工程である。素原料の溶解は、例えば、1020℃以上、好ましくは1050℃以上で行う。なお、コストや加熱装置の保全などの観点から、素原料の溶解は1300℃以下、より好ましくは1100℃以下で行う。
素原料の溶解は前記温度で数分から数時間保持して行うが、原料の全量によって変わるため数十時間保持する場合もある。溶解混合後、冷却しインゴットを取り出すが、不活性雰囲気中で取り出すことが望ましい。その後、例えば、高周波加熱炉で1100℃まで昇温して再加熱し、溶湯にする。
【0018】
(リボン作製工程H3)
リボン作製工程H3は、前記した素原料の溶湯を液体急冷凝固法により急冷凝固してリボンを作製する工程である。液体急冷凝固法とは、溶解した金属(溶湯)を回転する金属ロールに滴下し、結晶の核形成速度より急速に冷却することで非晶質金属のリボンを作製する方法である。
リボン作製工程H3で得られるリボンの厚さは10~200μmであるのが好ましい。リボンの厚さがこの範囲にあると、組織の均一性が高くなり、また、酸化の程度がコントロールし易い。リボン作製工程H3も前記同様、不活性雰囲気中で行う。
【0019】
(粉砕工程H4)
リボンの粉砕工程H4は、密閉作業装置(酸素濃度0.1~100容積ppm)内で行うのが好ましい。粉砕して得られた多結晶体粒はメディアン径(d50)が10~100μmであるのが好ましい。このようにすると、酸素と接触して酸素濃度制御が行い易くなり、後述する加圧焼結で緻密な焼結体を得ることが容易となる。
リボンの粉砕は、例えば、乳鉢および乳棒を用いたり、ボールミル、ロッドミル、高圧粉砕ロール、縦軸インパクタミル、ハンマーミル、ジェットミルなどを用いたりすることによって行うことができる。
【0020】
(加圧焼結工程H5)
加圧焼結工程H5は、粉砕工程H4後、加圧焼結工程H5を終えるまで酸化雰囲気(例えば、大気)に触れさせずに加圧焼結して前述した本実施形態に係る熱電変換材料を製造する工程である。なお、不活性とは、酸化性でないことをいう。このような不活性雰囲気は、例えば、10Pa以下まで真空引きして、Arガスで置換することを3回繰り返すなどして、大気中の酸素を炉内から排出することにより、好適に具現できる。
【0021】
この加圧焼結工程H5では、加圧焼結を行う直前に、不活性雰囲気下で熱処理することが好ましい。例えば、加圧焼結装置内の還元雰囲気を真空引きして10Pa程度とした後、不活性雰囲気に置換する。このとき、熱処理を大気開放することなく操作するのが好ましい。不活性雰囲気としては、例えば、窒素およびアルゴンのうちの少なくとも一方の雰囲気を挙げることができるが、これに限定されない。なお、不活性雰囲気としては、アルゴン雰囲気であるのが好ましい。また、還元雰囲気を不活性雰囲気に置換するにあたって、前記した置換操作を2回以上行うのが好ましく、3回以上行うのがより好ましい。加圧焼結装置としては、例えば、放電プラズマ焼結装置やホットプレス機を用いることができる。なお、この工程では、真空引きの前に2時間程度の短時間であれば大気開放することも可能である。
【0022】
不活性雰囲気に置換した後、加圧焼結装置内を、例えば、1~60℃/分の昇温速度で昇温し、300~500℃で5分保持する。このとき、焼結中の全温度にわたり加圧圧力が例えば50~200MPa、具体的には例えば100MPaになるよう、昇温前に加圧する。保持が終わった後、500℃/h以下の冷却速度で冷却し、減圧を行う。なお、冷却は、加圧焼結装置内で自然放冷することによって行うのが好ましい。
以上、H1乃至H5の工程により、本発明の熱電変換材料を得ることができる。
【実施例
【0023】
(秤量工程H1)
秤量工程H1は、密閉作業装置であるグローブボックスを用い、外気と遮断された状況下で純度99.9%以上のCe、Fe、Co、Sb、Snを組成式に従って秤量した。組成式は、Ce0.95Sn0.08FeCoSb12.12、Ce0.95Sn0.1FeCoSb12.2、Ce0.95Sn0.2FeCoSb12.2、Ce0.95Sn0.3FeCoSb12.2とした。密閉作業装置は、内部にアルゴンを供給し、酸素濃度が100容積ppm以下で制御された雰囲気で行った。密閉作業装置内で秤量した素原料は内部が黒鉛でコーティングされた耐熱性のある石英管に入れた。
【0024】
(溶解混合工程H2)
溶解混合工程H2は、前記した素原料を電気炉で溶解して行った。電気炉には素原料が入った石英管を装荷し、溶解温度1100℃で行った。本実施例の場合は24時間保持した。溶解混合後、水冷しインゴットを取り出した。
【0025】
(リボン作製工程H3)
リボン作製工程H3では、インゴットを、口径φ0.6mmの石英ノズルに入れたのち、高周波加熱で1080℃まで加熱溶解し、20秒保持した後、溶解した金属(溶湯)を回転する銅ロールに滴下、急冷し、リボン状の金属箔を作製した。
リボン作製工程H3で得られたリボンの厚さは10~200μmの範囲内であった。リボン作製工程H3の間は、アルゴンの不活性雰囲気中で行った。
【0026】
(粉砕工程H4)
リボンの粉砕工程H4は、密閉作業装置(酸素濃度100容積ppm以下に制御)内で行った。粉砕はタングステンカーバイド製の乳鉢を使って行った。
【0027】
(加圧焼結工程H5)
加圧焼結工程H5は、粉砕工程H4で得た粉砕リボンは15Pa以下まで真空引きしてAr置換し、Arガスを流量計で15ml/minに制御したフロー中で加圧焼結した。加圧焼結は焼結前に400℃で5分間保持する予備熱処理を行い、外気にさらすことなく続けて550℃で15分間焼結を行った。焼結後の化合物について、XRD(X線回折)を用いてスクッテルダイト型の結晶構造であることを確認し、さらに、組織をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて確認したところ10~100μmの結晶粒径となっていることを確認した。
【0028】
得られた熱電変換材料に対して、以下の評価を行った。
まず、ゼーベック係数及び電気伝導率は、アドバンス理工社製ZEM-3で測定した。試料は、2つの端面を有する形状に加工し、ゼーベック係数は、差温ヒータで試料端面を加熱して、試料の両端に温度差をつけ、試料側面に押し当てたプローブ熱電対間の温度差と起電力を計測した。電気抵抗は直流四端子法で測定した。
熱伝導率は、比熱と熱拡散率と密度とから算出した。比熱測定は入力補償型示差走査熱量計であるPerkin-Elmer社製Pyris1で測定し、熱拡散率はレーザーフラッシュ法を行うNETZSCH社製LFA467で測定し、密度はアルキメデス法で測定した。
無次元性能指数ZTは、測定して得られたゼーベック係数、熱伝導率、電気伝導率から前述した式(1)で算出した。
【0029】
Snの量を変化させた本発明の熱電変換材料におけるZTの温度変化を図1に示す。
なお、比較例として、Sn無添加(0モル)で、実施例と同様に製造した試料についての測定結果を図1に付記する。
【0030】
これらの結果より、本発明の熱電変換材料は、Sn無添加の比較例の熱電変換材料に対して、無次元性能指数ZTが高く、優れた熱電変換性能を有することがわかった。
図1