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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】複合タングステン酸化物粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20231208BHJP
【FI】
C01G41/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019025759
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2019142762
(43)【公開日】2019-08-29
【審査請求日】2021-11-19
(31)【優先権主張番号】P 2018026130
(32)【優先日】2018-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中倉 修平
(72)【発明者】
【氏名】荻 崇
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/129516(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0102700(US,A1)
【文献】特開2013-075778(JP,A)
【文献】特開2017-106007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00
C09K 3/00
B01J 10/00,19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式M(但し、M元素は、アルカリ金属のうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であって、
被処理物である、タングステン源と前記M元素を含有するM元素源とを含む原料混合溶液の液滴を形成する液滴形成工程と、
前記被処理物を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と、を有する複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項2】
前記液滴形成工程において、前記タングステン源を含む溶液と、前記M元素源を含む溶液とを混合し、前記原料混合溶液を形成する請求項1に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項3】
前記液滴形成工程では、超音波噴霧装置を用いて前記原料混合溶液の液滴を形成しており、
前記超音波噴霧装置において、前記タングステン源を含む溶液と、前記M元素源を含む溶液とを混合し、前記原料混合溶液を形成する請求項1または請求項2に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項4】
前記タングステン源がパラタングステン酸アンモニウムである請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項5】
前記M元素源が、前記M元素の炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物から選択された1種類以上である請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【請求項6】
前記複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相の格子定数が、a軸が7.37Å以上7.42Å以下、c軸が7.58Å以上7.71Å以下であり、
前記複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率が、50%以上である請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の複合タングステン酸化物粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合タングステン酸化物粒子の製造方法、および複合タングステン酸化物粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
タングステンブロンズは、一般式M(0<x/y≦1)で表され、Mとしてアルカリ、アルカリ土類、希土類金属元素などからなる数多くのものが知られている。そしてタングステンブロンズの用途は、特許文献1に開示されるエレクトロクロミック材料、特許文献2に示される燃料電池の触媒材料や有機化学合成の触媒材料、特許文献3や4に示される近赤外線遮蔽技術が知られている。
【0003】
ところで、良好な可視光透過率を有し透明性を保ちながら日射透過率を低下させる近赤外線遮蔽技術として、これまでさまざまな技術が提案されてきた。なかでも、無機物である導電性微粒子を用いた近赤外線遮蔽技術は、その他の技術と比較して近赤外線遮蔽特性に優れ、低コストである上、電波透過性が有り、さらに耐候性が高い等のメリットがある。
【0004】
例えば特許文献3において、一般式M(但し、Mは、H、He、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦3.0)で表記される複合タングステン酸化物微粒子を赤外線遮蔽微粒子として可視光線を透過する樹脂等の媒体中に分散させた赤外線遮蔽材料微粒子分散体や、該赤外線遮蔽粒子の製造方法等に関する技術が開示されている。特許文献3には、薄膜状の赤外線遮蔽材料微粒子分散体である赤外線遮蔽膜を製造した例等も開示されている。
【0005】
特許文献3によれば、太陽光線、特に近赤外線領域の光をより効率良く遮蔽し、同時に可視光領域の透過率を保持する等、優れた光学特性を有する赤外線遮蔽材料微粒子分散体を作製することが可能となるとされている。このため、特許文献3に開示された赤外線遮蔽粒子分散体を窓ガラス等の各種用途に適用することが検討されている。
【0006】
そして、近赤外線遮蔽材料として有用な複合タングステン酸化物粒子の製造方法について、各種検討がなされている。
【0007】
例えば、特許文献3の発明者は、非特許文献1において、固相法よるCs0.32WOナノ粒子の合成方法を提案している。しかしながら、非特許文献1に開示された合成方法では粒子径が大きく、ナノ粒子化するには粉砕プロセスが必要であった。このため、プロセスの工程数が増える可能性があった。
【0008】
非特許文献2には水熱合成法によるCsWOの合成方法が開示されている。しかしながら、水熱合成法では数十時間以上の合成時間を必要とする。また、水熱合成法は、後処理工程などの工程数が多い問題もある。
【0009】
非特許文献3には、誘導結合熱プラズマ技術に基づく合成方法が開示されている。しかしながら、係る合成方法は誘導結合熱プラズマの装置を導入する必要があり、コストが高くなっていた。
【0010】
特許文献4には化学式KxCsyWOzで表わされるカリウム・セシウム・タングステンブロンズ固溶体粒子調合のためのプロセスであって、式中、x+y≦1および2 ≦ z ≦ 3であり、前記プロセスは適切なタングステン・ソースをカリウム塩およびセシウム塩と混ぜ合わせて粉末混合物を形成し、還元雰囲気下でプラズマトーチに粉末混合物を露出することを含み、好ましくは還元雰囲気が水素/希ガス混合物から成るシースガスによって供給される、プロセスが開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献4についてもプラズマを用いる必要があり、プラズマ装置導入のためにコストが高くなっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【文献】Takeda Hiromitsu, and Kenji Adachi, "Near infrared absorption of tungsten oxide nanoparticle dispersions." Journal of the American Ceramic Society,2007 , Vol.90, Issue 12, P.4059-4061
【文献】Guo Chongshen, et al., "Novel synthesis of homogenous CsxWO3 nanorods with excellent NIR shielding properties by a water controlled-release solvothermal process." Journal of Materials Chemistry,2010, Vol.20, Issue38, P.8227-8229.
【文献】Mamak Marc, et al., "Thermal plasma synthesis of tungsten bronze nanoparticles for near infra-red absorption applications." Journal of Materials Chemistry, 2010, Vol.20, Issue44, P.9855-9857.
【特許文献】
【0013】
【文献】特許第4110762号公報
【文献】特許第2535790号公報
【文献】特許第4096205号公報
【文献】特表2012-532822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
既述の様に複合タングステン酸化物粒子は、近赤外線遮蔽材料として有用である。そして、低コストで、かつ少ない工程で製造することができる複合タングステン酸化物粒子の製造方法が求められている。
【0015】
しかしながら、従来開示された複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、上述のように特殊な高コストの装置の導入を要したり、多くの工程を要したりする等の問題があった。
【0016】
上記従来技術の問題に鑑み、本発明の一側面では、導入コストの低い設備を用いることができ、工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の一側面では、
一般式M(但し、M元素は、アルカリ金属のうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦.0)で表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法であって、
被処理物である、タングステン源と前記M元素を含有するM元素源とを含む原料混合溶液の液滴を形成する液滴形成工程と、
前記被処理物を1000℃以上1200℃以下で熱処理する熱処理工程と、を有する複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供する。

【発明の効果】
【0018】
本発明の一側面によれば、導入コストの低い設備を用いることができ、工程数の少ない複合タングステン酸化物粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法に好適に用いることができる複合材料製造装置の模式図
図2】実施例1で用いた反応部の温度分布測定結果
図3】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のXRD回折図形
図4】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のSEM像
図5】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM像
図6】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のTEM-EDSを用いたMapping像
図7】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のW4fおよびCs3dのXPSスペクトル。
図8】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のO1sのXPSスペクトル。
図9】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のhigh―angle angular dark―field images、およびコントラスト強度。
図10】実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のXAFSを用いた動径分布関数の算出結果。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)に係る複合タングステン酸化物粒子の製造方法、複合タングステン酸化物粒子の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0021】
[複合タングステン酸化物粒子の製造方法]
以下、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法の一構成例について説明する。
【0022】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、一般式Mで表わされる複合タングステン酸化物粒子の製造方法に関し、以下の工程を有することができる。
【0023】
なお、上記一般式中のM元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素とすることができる。また、Wはタングステン、Oは酸素を表し、x、y、zはそれぞれ、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦5.0を満たすことが好ましい。
【0024】
被処理物である、タングステン源とM元素源とを含む原料混合溶液の液滴を形成する液滴形成工程。
被処理物を、500℃以上で熱処理する熱処理工程。
【0025】
ここでまず、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法で製造する複合タングステン酸化物粒子について説明する。
【0026】
複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物は、上述のように一般式Mで表記される。式中のM元素、W、O、及びx、y、zについては既述のため、ここでは説明を省略する。
【0027】
複合タングステン酸化物は、例えば正方晶、立方晶、及び六方晶のいずれかの、タングステンブロンズ型の結晶構造をとることができる。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子に含まれる複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されず、正方晶、立方晶、六方晶から選択された1種類以上の結晶構造を有することができる。
【0028】
ただし、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、複合タングステン酸化物粒子の可視光線領域の光の透過率、及び近赤外線領域の光の吸収が特に向上するため好ましい。このため、複合タングステン酸化物粒子は、六方晶の結晶構造の複合タングステン酸化物を含むことが好ましい。そして、M元素にCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を用いると六方晶を形成し易くなる。このため、M元素はCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を含むことが好ましい。
【0029】
ここで、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合のM元素の配置の仕方を説明する。
【0030】
Wと、6つのOとを単位として形成される8面体、すなわち頂点にO原子を配し、中央部にW原子を配した8面体が、6個集合することでO原子より構成される六角形の空隙(トンネル)が形成される。そして、当該空隙中に、M元素が配置されて1箇の単位を構成し、この1箇の単位が多数集合して六方晶の結晶構造を構成する。六方晶の結晶構造を有する複合タングステン酸化物が均一な結晶構造を有するとき、M元素の添加量は、x/yの値で0.2以上0.5以下が好ましく、さらに好ましくは0.33である。z/y=3の時、x/yの値が0.33となることで、M元素が六角形の空隙の全てに配置されると考えられる。
【0031】
同様に、z/y=3の時、立方晶、正方晶のそれぞれの複合タングステン酸化物にも構造に由来したM元素の添加量の上限があり、1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、立方晶の場合は1モルであり、正方晶の場合は0.5モル程度である。なお、正方晶の場合の1モルのタングステンに対するM元素の最大添加量は、M元素の種類により変化するが、工業的に製造が容易なのは、上述のように0.5モル程度である。但し、これらの構造は、単純に規定することが困難であり、当該範囲は特に基本的な範囲を示した例であることから、本発明がこれに限定されるわけではない。
【0032】
また、M元素は極微量でも添加することで、複合タングステン酸化物内に自由電子が生成され、目的とする赤外線吸収効果を得ることができる。このため、x/yは、0.001≦x/y≦1を満たすことが好ましい。
【0033】
また、複合タングステン酸化物は、三酸化タングステン(WO)にM元素を添加した組成を有している。そして、三酸化タングステンでは有効な自由電子を含まないため、1モルのタングステンに対する酸素の割合を3未満としないと赤外線吸収効果を発揮することはできない。しかしながら、複合タングステン酸化物では、M元素を添加することで自由電子を生じ、赤外線吸収効果を得ることができる。このため、1モルのタングステンに対する酸素の割合は3以下とすることができる。ただし、WOの結晶相は可視光線領域の光について吸収や散乱を生じさせ、近赤外線領域の光の吸収を低下させる恐れがある。このため、WOの生成を抑制する観点から、1モルのタングステンに対する酸素の割合は2より大きくすることが好ましい。
【0034】
従って、タングステンに欠損がない場合、2.2≦z/y≦3.0を満たすことが好ましい。
【0035】
ただし、タングステンに欠損がある場合、タングステンの含有割合を示すyの値が小さくなるため、z/yの上限値は3.0を超える。このため、z/yは、上述のように2.2≦z/y≦5.0を満たすことが好ましい。
【0036】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は特に限定されず、使用目的等に応じて選定することができる。
【0037】
例えば透明性を保持することが要求される用途に使用する場合は、800nm以下の粒子径を有していることが好ましい。これは、粒子径が800nm以下の粒子は、散乱により光を完全に遮蔽することが無く、可視光線領域の視認性を高く保持し、同時に効率良く透明性を保持することができるからである。特に可視光線領域の透明性を重視する場合は、さらに粒子による散乱を考慮することが好ましい。
【0038】
係る粒子による散乱の低減を重視するとき、粒子径は200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0039】
これは、粒子径が小さければ、幾何学散乱もしくはミー散乱による、波長400nm~780nmの可視光線領域の光の散乱が低減される結果、赤外線遮蔽膜が曇りガラスのようになり、鮮明な透明性が得られなくなるのを回避できるからである。そして、粒子径が200nm以下になると、上記幾何学散乱もしくはミー散乱が低減し、レイリー散乱領域になる。レイリー散乱領域では、散乱光は粒子径の6乗に比例して低減するため、粒子径の減少に伴い散乱が低減し透明性が向上するからである。さらに粒子径が100nm以下になると、散乱光は非常に少なくなり好ましい。光の散乱を回避する観点からは、粒子径が小さい方が好ましい。
【0040】
このため、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、用いる用途に応じて選択することができる。例えば上述のように可視光線領域の視認性を高く保持することが求められる場合には、粒子径は800nm以下とすることが好ましく、200nm以下とすることがより好ましく、100nm以下とすることがさらに好ましい。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造する複合タングステン酸化物粒子の粒子径の下限値は特に限定されないが、例えば1nm以上とすることができる。
【0041】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径は、該粒子を例えばSEMやTEMで観察し、該粒子に外接する最小の外接円を描いた場合の直径とすることができる。
【0042】
なお、例えば後述する液滴形成工程において形成する液滴のサイズ等を調整することで、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径を選択することができる。
【0043】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られた複合タングステン酸化物粒子を含有する赤外線遮蔽材料は近赤外線領域、特に波長1000nm付近の光を大きく吸収するため、その透過色調は青色系から緑色系となる物が多い。
【0044】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子、具体的には係る複合タングステン酸化物粒子が含有する複合タングステン酸化物の格子定数は特に限定されないが、a軸が7.37Å以上7.42Å以下、c軸が7.58Å以上7.71Å以下であることが好ましい。
【0045】
これは、複合タングステン酸化物の格子定数を上記範囲とすることで、後述する還元処理を行えばW(タングステン)欠損のない結晶構造を構成することができるからである。
【0046】
格子定数の算出方法は特に限定されず、得られた複合タングステン酸化物粒子について測定した粉末X線回折パターンからリートベルト法等を用いて算出することができる。
【0047】
なお、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子は、例えばM元素の酸化物等の不可避成分を含有する場合がある。この場合、複合タングステン酸化物の結晶相、すなわち複合タングステン酸化物相の格子定数が上記範囲を満たすことが好ましい。
【0048】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率は50%以上が好ましい。
【0049】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られる複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率の上限は特に限定されないが、例えば100%以下とすることができる。
【0050】
本発明の発明者らの検討によれば、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られた複合タングステン酸化物粒子は、さらに還元性ガスを含む雰囲気下で熱処理を行う還元処理に供することもできる。なお、この際の還元処理の条件は特に限定されないが、例えば還元性ガスを含む雰囲気下で、400℃を超え700℃未満の範囲の温度で行うことができる。
【0051】
還元処理を行うことで、熱処理工程後の複合タングステン酸化物粒子に含まれている異相である(HO)0.33WO相や、例えばCsO相のようなM元素の酸化物相等を低減、消滅させることができる。この際、タングステン原子が還元され、複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中において、M元素のサイトにM元素が侵入し、タングステン欠損が減少していく反応が同時に進行すると推定される。
【0052】
そして、上述のように複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率が50%以上あれば、還元処理を行った後の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率を高く保つことが可能となる。還元処理後に具体的には例えば90%以上のタングステン占有率を実現できるため好ましい。
【0053】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により得られた複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率が50%以上90%以下ならば、タングステン原子サイトにタングステン以外の元素を侵入させることも可能である。
【0054】
なお、複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率は、試料である複合タングステン酸化物粒子のXRDパターンについてリートベルト解析を行うことで求めることができる。タングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率と欠損率は合算すると100%となる。
【0055】
また、複合タングステン酸化物粒子のM元素やタングステン原子の欠損はSTEM観察により確認することもできる。例えば後述する実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子についてのSTEM観察結果である図9(A)、図9(B)、図9(D)からタングステン原子や、M元素等の欠損を確認できる。
【0056】
次に、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法について具体的に説明する。
【0057】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法はタングステン源と、M元素源とを含む液滴を、原料の熱分解温度以上の雰囲気にガス流と共に供給して溶媒の蒸発、熱分解を経て複合タングステン酸化物粒子を得る噴霧熱分解法である。
【0058】
そこで、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、既述の様に、被処理物である、タングステン源とM元素源とを含む原料混合溶液の液滴を形成する液滴形成工程を有することができる。また、被処理物である上記液滴を500℃以上で熱処理する熱処理工程とを有することができる。
(液滴形成工程)
液滴形成工程では、被処理物である、タングステン源とM元素源とを含む原料混合溶液の液滴を形成することができる。
【0059】
液滴形成工程において液滴を形成する具体的な手段は特に限定されない。例えばスプレーノズルを用いてタングステン源とM元素源とを含む溶液の液滴を形成する方法や、タングステン源とM元素源とを含む溶液に対して超音波照射を行い、液滴を形成する方法、二流体ノズルを用いて液滴を形成する方法、遠心アトマイザーを初めとした各種アトマイザーを用いて液滴を形成する方法等が挙げられる。
【0060】
特に微細な液滴を安定して形成できることから、タングステン源とM元素源とを含む溶液に対して超音波を照射して液滴を形成することが好ましい。すなわち超音波を用いた液滴形成方法を好適に用いることができる。
【0061】
なお、タングステン源を含む溶液と、M元素源を含む溶液とを別に用意しておき、例えば液滴形成部(液滴形成手段)に供給する直前、もしくは液滴形成部内で混合し、タングステン源とM元素源とを含む溶液を形成することが好ましい。すなわち、液滴形成工程において、タングステン源を含む溶液と、M元素源を含む溶液とを混合し、原料混合溶液を形成することが好ましい。そして、原料混合溶液の形成に引き続き、連続して該原料混合溶液を用いて液滴を形成することが好ましい。
【0062】
液滴形成工程において両溶液を混合する具体的な方法は特に限定されない。例えばタングステン源を含む溶液と、M元素源を含む溶液とを液滴形成部である超音波噴霧装置(超音波照射装置)に別々に導入し、該装置内で両溶液を混合して原料混合溶液とし、液滴を形成することが好ましい。すなわち、液滴形成工程において、超音波噴霧装置を用いて原料混合溶液の液滴を形成している場合、超音波噴霧装置において、タングステン源を含む溶液と、M元素源を含む溶液とを混合し、原料混合溶液を形成することが好ましい。このように、タングステン源を含む溶液と、M元素源を含む溶液とを別に用意しておき、例えば超音波噴霧装置において混合することで、原料混合溶液を形成してから液滴にするまでの時間を特に短くすることができる。このため、中和反応によりタングステン源と、M元素源とが反応し、原料混合溶液内で析出等が生じることを特に抑制できる。
【0063】
タングステン源としては特に限定されず、タングステンの塩等を用いることができ、例えばパラタングステン酸アンモニウムを好ましく用いることができる。パラタングステン酸アンモニウム(ATP:ammonium tungstate pentahydrate)は、例えば(NH10(W1241)・5HOで表すことができる。
【0064】
パラタングステン酸アンモニウムは、タングステン以外の元素が、N(窒素)、H(水素)、O(酸素)であり、後述する昇温工程や、熱処理工程において系外に排出される。このため、タングステン源を含む溶液の溶質として用いることで、不純物の混入を抑制した複合タングステン酸化物粒子を得ることができるため好ましく用いることができる。
【0065】
また、タングステン源を含む溶液としては、取扱いの容易さ等から、タングステン源を含む水溶液を好適に用いることができる。このため、タングステン源としては水溶性の塩を好適に用いることができる。そして、パラタングステン酸アンモニウムは水への溶解が容易であり、溶媒として水を用い、タングステン源を含む溶液を容易に形成できるため、好ましく用いることができる。
【0066】
M元素源を含む溶液としては、例えばM元素を含む塩の溶液を用いることができる。M元素源であるM元素の塩の種類は特に限定されないが、例えばM元素の炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0067】
M元素源を含む溶液としては、取扱いの容易さ等から、M元素源を含む水溶液を好適に用いることができる。このため、M元素の塩としては水溶性の塩を好適に用いることができる。
【0068】
例えば、M元素がセシウムの場合についても、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩、水酸化物等から選択された1種類以上を用いることができるが、炭酸塩を特に好適に用いることができる。これは、炭酸セシウムが水への溶解が容易であるからである。
【0069】
なお、得られる複合タングステン酸化物中の1モルのタングステンに対する、M元素の割合、すなわちドープ量は、原料混合溶液を形成する際のタングステン源と、M元素源との割合により決まる。このため、例えばタングステン源を含む溶液の濃度や、M元素源を含む溶液の濃度等により制御できる。
【0070】
タングステン源を含む溶液に含まれるタングステン源の濃度は特に限定されない。例えば、タングステン源を含む溶液のタングステン濃度が0.12mol/L以上120mol/L以下であることが好ましい。これは、タングステン源を含む溶液のタングステン濃度を0.12mol/L以上とすることで、単位時間当たりの複合タングステン酸化物粒子の生産量を十分に確保でき、例えばフィルター等で十分な量を回収することができ、生産性を高めることができるからである。また、タングステン源を含む溶液のタングステン濃度を120mol/L以下とすることで、生成した粒子が凝集することを抑制し、例えば数μm以上の粗大な複合タングステン酸化物粒子が混入することを抑制できるからである。
【0071】
タングステン源を含む溶液として、例えばパラタングステン酸アンモニウム水溶液を用いる場合、パラタングステン酸アンモニウムは分子内に12個のタングステンを含むため、パラタングステン酸アンモニウムの濃度は0.01mol/L以上10mol/L以下が好ましい。
【0072】
また、M元素源を含む溶液に含まれるM元素の濃度についても特に限定されるものではなく、製造する複合タングステン酸化物粒子における所望の組成や、タングステン源を含む溶液に含まれるタングステン源の濃度等に応じて選択することができる。
【0073】
原料混合溶液には、タングステン源を含む溶液や、M元素源を含む溶液以外にも任意の成分を添加できる。例えば複合タングステン酸化物粒子の還元を促進させるために、還元剤として、アンモニアを添加することもできる。タングステン源を含む溶液として、既述のパラタングステン酸アンモニウム水溶液を用いる場合、上記アンモニアは、例えばパラタングステン酸アンモニウム水溶液に添加しておくことができる。
【0074】
液滴形成工程で形成する液滴のサイズは特に限定されないが、液滴の直径は100μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることがさらに好ましい。液滴の直径を100μm以下とすることで、得られる複合タングステン酸化物粒子が粗粒化することを防ぎ、ナノメートルオーダーの複合タングステン酸化物粒子を得ることが可能になる。なお、液滴形成工程で形成する液滴のサイズの下限値は特に限定されない。ただし、過度に小さい液滴を形成することは困難であり、生産性が低下する恐れがあることから、例えば1μm以上であることが好ましい。
【0075】
液滴形成工程で形成した液滴は、例えばキャリアガスにより搬送し、熱処理工程や、昇温工程に供することができる。
(熱処理工程)
熱処理工程では被処理物を500℃以上で熱処理することができる。
【0076】
被処理物であるタングステン源とM元素源とを含む原料混合溶液の液滴中に含まれる溶媒は、500℃まで加熱される過程で蒸発し、さらにタングステン源や、M元素源が分解する。そして、係る分解過程でタングステンと、M元素とが反応して複合タングステン酸化物が形成される。
【0077】
熱処理工程等で液滴を加熱する際、液滴に含まれる溶媒が水の場合、該水の蒸発は50℃以上120℃以下の範囲で生じていると推定される。また、タングステン源や、M元素源の分解は、例えば120℃以上500℃以下の範囲で生じていると推定される。
【0078】
そして、タングステン源や、M元素源の分解の過程や、さらに高温の温度でタングステンとM元素とが反応して、複合タングステン酸化物が形成されていると考察される。
【0079】
このため、タングステン源や、M元素源の分解を十分に進行させ、複合タングステン酸化物への不純物の混入を抑制するため、熱処理工程ではタングステン源や、M元素源の分解温度以上で熱処理を行うことが好ましい。そして、上述のように、タングステン源や、M元素源の分解は通常500℃以下で生じると考えられる。このため、熱処理工程では、被処理物である液滴を500℃以上で熱処理を行うことができる。
【0080】
本発明の発明者らの検討によれば、熱処理温度は、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径にも影響する。そして、本発明の発明者らのさらなる検討によれば、熱処理温度が上がるにつれて、得られる複合タングステン酸化物粒子の粒子径が小さくなる傾向がみられる。
【0081】
タングステン源の溶液としてパラタングステン酸アンモニウム水溶液を、M元素源の溶液として炭酸セシウム水溶液を用いて、セシウムドープ酸化タングステン酸化物粒子を製造した場合を例に説明する。この場合、熱処理温度が500℃以上1000℃未満の場合は、セシウムドープ酸化タングステン酸化物粒子の粒子径は100nmから1μm未満となった。また、さらに高温の1000℃以上となると、セシウムドープ酸化タングステン酸化物粒子の粒子径は100nm未満となる場合があった。
【0082】
これは、熱処理温度が高くなると、生成した複合タングステン酸化物粒子の昇華に熱エネルギーが使われ、昇華により粒子が弾けて微細な粒子径の粒子が得られるためと推認される。
【0083】
なお、同様の傾向が他の組成の複合タングステン酸化物粒子の製造でも見られることが確認された。このため、特に微細なナノ粒子である複合タングステン酸化物粒子を得るためには、熱処理温度は1000℃以上とすることが好ましい。すなわち、特に微細なナノ粒子を得ることを目的とする場合、熱処理工程では被処理物を1000℃以上で熱処理することが好ましい。
【0084】
熱処理工程において、被処理物の熱処理温度の上限は特に限定されないが、過度に高温まで昇温しようとすると、加熱装置のコストが高くなる恐れがあることから、1500℃以下であることが好ましい。
【0085】
また、粒子径が100nm未満のナノ粒子の複合タングステン酸化物粒子を製造することを目的とする場合、熱処理工程において被処理物を1000℃以上に熱処理することに加えて、1000℃以上の熱処理温度での熱処理時間を1秒以上とすることが好ましく、3秒以上とすることがより好ましい。これは、1000℃以上の熱処理温度での熱処理時間を1秒以上とすることで、生成した複合タングステン酸化物粒子に対して、十分な熱エネルギーを与えて昇華させ、より確実に例えば粒子径が100nm未満のナノ粒子とすることができるからである。
【0086】
1000℃以上の熱処理温度での熱処理時間の上限値は特に限定されないが、過度に長くしようとすると、熱処理炉の大きさが大きくなり、生産性が低下する恐れや、析出した粉末がフィルターまで到達せずに反応部の配管の内部に落下して閉塞する恐れがある。このため、1000℃以上の熱処理温度での熱処理時間は、例えば100秒以下とすることが好ましい。
【0087】
液滴形成工程で形成した液滴は、例えばキャリアガスにより電気炉等に搬送され、上述の熱処理工程を実施できる。このため、例えばキャリアガスの流量等を制御することにより、熱処理工程の時間を調整することができる。
【0088】
なお、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法は、熱処理工程の前に昇温工程をさらに有することもできる。
【0089】
昇温工程では、例えば被処理物である液滴を500℃まで昇温する工程とすることができる。また、例えば上述のように粒子径が特に小さいナノ粒子とする場合には、昇温工程は、被処理物である液滴を1000℃まで昇温する工程とすることができる。
【0090】
昇温工程の後は、熱処理工程において熱処理を実施できる。なお、熱処理工程においても必要に応じて所定の温度まで昇温することはできる。
【0091】
昇温工程に要する時間は特に限定されるものではなく、任意に選定することができる。
【0092】
既述の様に、被処理物であるタングステン源とM元素源とを含む原料混合溶液の液滴中に含まれる溶媒は、昇温工程の昇温する過程で蒸発し、より高温になるとタングステン源や、M元素源が分解する。そして、係る分解過程でタングステンと、M元素とが反応して複合タングステン酸化物が形成される。
【0093】
なお、熱処理工程後に得られた複合タングステン酸化物粒子は、必要に応じて還元処理に供することもできる(還元処理工程)。
【0094】
既述の様に還元処理を実施することで、複合タングステン酸化物粒子に含まれる異相を低減し、複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率を向上させることができる。
【0095】
還元処理の条件は特に限定されないが、還元処理温度は例えば400℃より高く700℃未満であることが好ましく、500℃以上700℃未満であることがより好ましく、600℃以上700℃未満であることがさらに好ましい。なお、室温から、還元処理の温度まで昇温後、再び室温まで降温することができる。
【0096】
還元雰囲気は、アルゴンなどの不活性ガスと、Hガス(水素ガス)等の還元性ガスとの混合ガスによる雰囲気とすることが好ましく、還元性ガスはHガスが望ましい。
【0097】
還元性ガスとしてHガスを用いる場合、還元雰囲気中のHガスの含有量は、適宜選択できるが、Hガスの含有量は、体積割合で0.1%以上10%以下の範囲が好ましく、2%以上10%以下の範囲がより好ましい。還元性ガスのみの雰囲気で還元すると、還元反応が過剰に進み金属のタングステンが析出することがあるので注意が必要である。
【0098】
還元処理の時間は、昇温から、降温までの全時間で30分以上とすることが望ましい。還元処理の時間の上限は特に限定されず、例えば過度に還元が進行しないように予備試験等を行い、選択することが好ましい。なお、ここでいう昇温から降温までの全時間とは、室温から昇温を開始し、還元処理温度に達した後、室温に冷却するまでの時間を意味する。なお、係る時間、複合タングステン酸化物粒子は、既述の還元雰囲気下に置かれていることが好ましい。
[複合タングステン酸化物粒子]
次に、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子について説明する。本実施形態の複合タングステン酸化物粒子は、既述の複合タングステン酸化物粒子の製造方法により製造することができるため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0099】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子は、一般式M(但し、M元素は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類元素、Mg、Zr、Cr、Mn、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、B、F、P、S、Se、Br、Te、Ti、Nb、V、Mo、Ta、Re、Be、Hf、Os、Bi、Iのうちから選択される1種類以上の元素、Wはタングステン、Oは酸素、0.001≦x/y≦1、2.2≦z/y≦5.0)で表わされる複合タングステン酸化物の粒子とすることができる。
【0100】
なお、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子は、上記一般式で表される複合タングステン酸化物を含有する粒子とすることができる。また、上記一般式で表される複合タングステン酸化物からなる粒子とすることもできる。ただし、この場合も、複合タングステン酸化物粒子が、製造工程等で混入する不可避成分を含有することを除外するものではない。
【0101】
そして、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相は、その格子定数が、a軸が7.37Å以上7.42Å以下、c軸が7.58Å以上7.71Å以下であることが好ましい。
【0102】
これは、複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相の格子定数を上記範囲とすることで、還元処理を行うことでW(タングステン)欠損のない結晶構造を構成することができるからである。
【0103】
格子定数の算出方法は特に限定されず、得られた複合タングステン酸化物粒子について測定した粉末X線回折パターンから、リートベルト法等を用いて算出することができる。
【0104】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子が含有する複合タングステン酸化物の結晶構造は特に限定されず、正方晶、立方晶、六方晶から選択された1種類以上の結晶構造を有することができる。
【0105】
ただし、複合タングステン酸化物が六方晶の結晶構造を有する場合、複合タングステン酸化物粒子の可視光線領域の光の透過率、及び近赤外線領域の光の吸収が特に向上するため好ましい。このため、複合タングステン酸化物粒子は、六方晶の結晶構造の複合タングステン酸化物を含むことが好ましい。そして、M元素にCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を用いると六方晶を形成し易くなる。このため、M元素はCs、Rb、K、Tl、Ba、Inから選択された1種類以上を含むことが好ましい。特に、M元素がCsであることがより好ましい。
【0106】
また、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子が含有する、複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率は、50%以上であることが好ましい。
【0107】
これは、複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率が50%以上の場合、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子について還元処理を行った後の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率を高く保つことが可能となり、例えば90%以上のタングステン占有率を実現できるからである。
【0108】
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率の上限は特に限定されないが、例えば100%以下とすることができる。
【0109】
なお、複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率は、試料である複合タングステン酸化物粒子のXRDパターンについてリートベルト解析を行うことで求めることができる。
【0110】
また、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子が含有する複合タングステン酸化物相中のタングステン原子の価数は、5.5価以上であることが好ましい。
【0111】
これは、複合タングステン酸化物相中のタングステン原子の価数を5.5価以上とすることで、結晶相を正方晶、立方晶、及び六方晶のいずれかに保つことができるためだからである。
【0112】
複合タングステン酸化物相中のタングステン原子の価数の上限は特に限定されないが、例えば6価以下とすることが好ましい。これは、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の複合タングステン酸化物相において、タングステンは6価よりも高い価数をとることは難しいと考えられるからである。複合タングステン酸化物相中に過剰に侵入した酸素は、M元素と結合してM元素のイオン生じさせ、複合タングステン酸化物から脱離してM元素の酸化物を形成してしまう可能性がある。また、熱処理工程や、昇温工程を経て析出した粉末はフィルターにて回収されるが、そのフィルターおよびフィルター上の複合タングステン酸化物は原料溶液中に含まれる溶媒(水)および酸素、アンモニアを含むキャリアガスにさらされ続ける。これにより、M元素と結合できなかった侵入酸素は原料に含まれるプロトンと配位して結晶相中に水分子として侵入している可能性がある。また、窒素分子や、プロトンなどの要因から生じる水素分子も、水分子と同様に結晶相中に侵入している可能性がある。このように、過剰に浸入した酸素は、タングステンと直接反応することができないため、タングステンを6価よりも高い価数にまで酸化することはできないと考えられる。
【0113】
複合タングステン酸化物中のタングステン原子の価数は、例えばXPS等により評価することができる。
[複合材料製造装置]
本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法に好適に用いることができる複合材料製造装置の構成例について以下に説明する。
【0114】
図1は、複合材料製造装置10を模式的に示した図である。
【0115】
複合材料製造装置10は、液滴形成部11と、輸送部12と、反応部13と、回収部14とを有することができる。
【0116】
なお、図1に示すように、液滴形成部11と、輸送部12と、反応部13と、回収部14とは配管により接続しておくことが好ましい。
【0117】
液滴形成部11には、必要に応じて付帯設備を接続しておくことができる。例えば液滴形成部11には、原料溶液であるタングステン源を含む溶液を格納する第1格納部151や、M元素源を含む溶液を格納する第2格納部152を接続しておくことができる。なお、第1格納部151と液滴形成部11との間の配管や、第2格納部152と液滴形成部11との間の配管には、例えばポンプ151A、152Aをそれぞれ設けておき、所望の流速で各溶液を液滴形成部11に供給可能に構成できる。また、液滴形成部11で形成した液滴を輸送部12等に搬送するためのキャリアガスを収納したキャリアガスタンク16を接続しておくことができる。
【0118】
そして、第1格納部151、及び第2格納部152から液滴形成部11に供給されたタングステン源を含む溶液、およびM元素源を含む溶液は、図1に示した装置では液滴形成部11内の上部で混合され、原料混合溶液が形成される。次いで、形成された原料混合溶液を用いて、液滴形成部11により液滴が形成される。
【0119】
なお、図1に示した液滴形成部11は超音波噴霧装置の場合を例に示しており、例えば超音波照射部111により、原料混合溶液に超音波が照射され、液滴が形成される。
【0120】
上述のように、液滴形成部11にはキャリアガスを充てんしたキャリアガスタンク16を接続しておくことができ、該キャリアガスタンク16から液滴形成部11に対してキャリアガスが供給される。そして、液滴形成部11で形成した液滴はキャリアガスにより搬送され、輸送部12を介して反応部13に供給される。
【0121】
輸送部12は、液滴形成部11と、反応部13とを接続しており、液滴形成部11で形成した液滴を反応部13へと供給することができる。輸送部12を通過する液滴を予め加熱し、反応部13の温度が下がらないように、輸送部12内を加熱できるように構成しておくことが好ましい。具体的には例えば、輸送部12の外側にヒーターを巻きつける等して設置し、輸送部12の内部の温度を30℃以上80℃以下に保つことが好ましい。
【0122】
反応部13では、既述の昇温工程、及び熱処理工程を実施することができる。このため、反応部13は、例えば図1に示したように耐熱性の配管131と、該配管131を加熱するヒーター132とを有することができる。
【0123】
配管131としては、例えばセラミック製の配管を用いることができる。
【0124】
反応部13の長さは特に限定されるものではなく、昇温工程、及び熱処理工程の所定の温度まで加熱することができ、熱処理工程の時間を十分に確保できるように選択することが好ましい。
【0125】
反応部13の配管131の長さは、所定の温度まで加熱し、熱処理工程の時間を十分に確保する観点から1m以上であることが好ましい。配管131の長さの上限は特に限定されないが、過度に長くすると多くのキャリアガスを要することになり、また装置のサイズも大きくなることから、5m以下であることが好ましい。
【0126】
また、配管131の直径(内径)についても特に限定されないが、生産性の観点から2cm以上であることが好ましい。配管131の直径(内径)の上限値は特に限定さないが、その中心部と、壁面部との温度差が過度に大きくならないように選択することが好ましく、配管131の直径は例えば20cm以下であることが好ましい。
【0127】
反応部13の配管131は、その長手方向に沿って温度勾配を有するのが通常である。例えば、反応部入口131A側の温度が低く、反応部出口131Bに向かって温度が上昇する。
【0128】
このため、反応部出口131B近傍に温度が500℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。
【0129】
また、特に既述の熱処理工程において被処理物を1000℃以上の温度で熱処理する場合には、反応部出口131B近傍に温度が1000℃以上となる温度領域を形成できるように、各種条件を設定することが好ましい。また、熱処理工程において、例えば1000℃以上の温度での熱処理時間を1秒以上とする場合、反応部13内の1000℃以上となる温度領域を、被処理物が通過する時間が1秒以上となるように、各種条件を設定することが好ましい。具体的には例えば、配管131内の温度分布を予め測定しておき、キャリアガスの供給速度等を調整することが好ましい。
【0130】
回収部14では、反応部13で生成した複合タングステン酸化物粒子を回収することができる。回収部14の構成は特に限定されるものではなく、製造する複合タングステン酸化物粒子の粒径等に応じて選択することができる。回収部14としては、例えば各種フィルターを用いることができる。もしくは、静電型捕集器を用いることができる。なお、回収部14でタングステン源を含む溶液等に含まれていた液体などが析出しないように、回収部14の周囲にヒーター等の加熱手段を配置し、加熱しておくこともできる。
【0131】
複合材料製造装置10の内部は密閉されており、キャリアガスタンク16から液滴形成部11にガスが流入し、回収部14から流出するようにガス流が構成されていることが好ましい。
【0132】
以上に説明した本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、液滴形成部や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いることができ、工程数も少なくすることができ、これにより容易に複合タングステン酸化物粒子を製造できる。
【実施例
【0133】
以下に具体的な実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
図1に示した複合材料製造装置10を用いて、複合タングステン酸化物粒子として、Cs0.32WO粒子の製造を行い、評価を行った。以下、具体的な条件について説明する。
【0134】
図1に示した複合材料製造装置10は、液滴形成部11と、輸送部12と、反応部13と、回収部14とを有しており、液滴形成部11と、輸送部12と、反応部13と、回収部14とは配管により接続されている。
【0135】
液滴形成部11には、原料溶液であるタングステン源を含む溶液を格納する第1格納部151、M元素源を含む溶液を格納する第2格納部152、液滴形成部11で形成した液滴を輸送部12等に搬送するためのキャリアガスを収納したキャリアガスタンク16を接続しておいた。
【0136】
まず、タングステン源を含む溶液として、(NH10(W1241)・5HOで表されるパラタングステン酸アンモニウム(ATP)(関東化学製 純度:88~90%)、及び超純水を用いて10mmol/Lのパラタングステン酸アンモニウム水溶液を調製した。そして、係るパラタングステン酸アンモニウム水溶液は、第1格納部151に入れ、第1格納部151に配管で接続された液滴形成部11に、ポンプ151Aにより連続して供給されるように構成した。
【0137】
また、M元素源を含む溶液として、炭酸セシウム(シグマアルドリッチ社製)、及び超純水を用いて19.2mmol/Lの炭酸セシウム水溶液を調製した。そして、係る炭酸セシウム水溶液は、第2格納部152に入れ、第2格納部152に配管で接続された液滴形成部11に、ポンプ152Aにより連続して供給されるように構成した。
【0138】
なお、上述のようにポンプ151A、152Aにより第1格納部151、及び第2格納部152から、配管を介して液滴形成部11に各溶液が一定の流速で供給され、液滴形成部11内の上部で両溶液が混合され原料混合溶液が形成されるように構成されている。そして、液滴形成部11内で形成される原料混合溶液中の1モルのタングステンに対するセシウムのモル数の割合が0.32となるように供給速度、及び各溶液の濃度を調整した。原料混合溶液中では、5mmol/Lのパラタングステン酸アンモニウムと9.6mmol/Lの炭酸セシウムとが含まれる。
【0139】
液滴形成部11には、キャリアガスタンク16が接続されており、キャリアガスタンク16としては空気ボンベを用いた。そして、複合タングステン酸化物粒子を製造している間、液滴形成部11にはキャリアガスとして空気ガスが5L/minの流量で供給されるように構成した。
【0140】
液滴形成部11には、超音波照射部111が設けられており、液滴形成部11で形成された原料混合溶液に対して超音波を照射し、直径が1μm以上5μm以下の液滴を形成できるように超音波の出力を調整しておいた。なお、液滴形成部11としては、超音波式ネブライザ(オムロンヘルスケア株式会社製 型式:NE-U17 超音波発信周波数1.7MHz)を用いた。
【0141】
そして、輸送部12の外側にヒーターを配置し、輸送部12の内部の温度を70℃に保つように構成した。
【0142】
反応部13は、配管131を備えており、配管131にはセラミック製の長さ1.3m、内径28.5mmの円筒形状の管を用いた。
【0143】
反応部13は、ヒーター132により配管131の外部から加熱するように構成されており反応部入口131Aから、反応部出口131Bに向かって温度が高くなるように温度を設定した。
【0144】
本実施例では、反応部出口131B近傍における最高温度が1200℃となるようにヒーター132の温度を設定した。本実施例で用いた反応部の温度分布を図2に示す。図2は、配管131の長さ方向に沿って2cm毎に温度を熱電対により測定して得られた温度分布曲線を示したものである。なお、配管131と回収部14との間の配管部分でも一部温度を測定している。図2中横軸は、反応部入口131Aの位置を0とした場合の、反応部入口131Aからの、配管131の長さ方向に沿った測定点の位置(距離)x(cm)を示している。また、図2中縦軸は、配管131の長さ方向の各位置における炉内温度を示している。
【0145】
図2に示したように、反応部入口131Aから、反応部出口131Bに向かって温度が徐々に高くなるように温度分布が形成され、1000℃以上になる温度領域も設定されていることが確認できる。
【0146】
回収部14には、バグフィルターを配置し、反応部13で昇温工程、及び熱処理工程を終え、形成された複合タングステン酸化物粒子を回収できるように構成した。粉末を乾燥させた状態で回収するため、ガラスフィルターの周囲をガラス繊維テープで目張りし、120℃に加熱した。なお、加温しないと蒸発した液滴が析出する場合がある。
【0147】
以上の条件により、複合タングステン酸化物粒子の製造を行った。
【0148】
具体的には、液滴形成部11において、パラタングステン酸アンモニウム水溶液と、炭酸セシウム水溶液との原料混合溶液の液滴を形成し(液滴形成工程)、炉体温度が1200℃に設定された反応部13にキャリアガスにより該液滴を供給し、昇温工程と、熱処理工程とを実施した。反応部13の配管131内は、図2に示した温度分布を有し、キャリアガスの流量を5L/minとしたことから、液滴は1000℃まで昇温され(昇温工程)、1000℃以上の熱処理温度で3.0秒間熱処理がなされている(熱処理工程)。
【0149】
回収部14で回収された複合タングステン酸化物粒子について以下の評価を行った。
(1)粉末X線回折
得られた複合タングステン酸化物粒子について、粉末X線回折装置(Bruker社製 型式:D2 PHASER)を用い、粉末X線回折パターン(XRDパターン)の測定を行った。なお、線源としてはCuKα線を用い、管電圧40kV、管電流30mAとして粉末X線回折パターンの測定を行った。
【0150】
得られたXRDパターンを図3に示す。図3に示したように、XRDパターンから、得られた複合タングステン酸化物粒子は、2θが26°近傍にCsO相のピークが、18°近傍に(HO)0.33WO相のピークがそれぞれ確認できたものの、ほぼCs0.32WOの単相であることが確認できた。
【0151】
また、得られたXRDパターンについてのリートベルト解析により複合タングステン酸化物であるCs0.32WO相の格子定数を算出するとa=7.38Å、c=7.71Åであった。
【0152】
さらに、本リートベルト解析では、複合タングステン酸化物粒子のCs0.32WO相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率をパラメータとして計算を行った。本粒子におけるCs0.32WO相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の占有率は60%であった。なお、占有率と欠損率との合計は100%となるため、100%から占有率の値を差し引いた値をCs0.32WO相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の欠損率として解釈する。つまり、本粒子におけるCs0.32WO相中のタングステン原子サイトにおけるタングステン原子の欠損率は40%となる。
【0153】
化学式Csとして記載する場合、理想的にはCs0.32WOとなるが、Wが40%欠損している場合、y=0.6となるため、x/yは最大で0.53となり、z/yは最大で5.0となる。
(2)SEM像観察
得られた複合タングステン酸化物粒子について、電界放出形走査型電子顕微鏡(FE-SEM:Field Emission-Scanning Electron Microscope 日立ハイテクノロジーズ製 型式:S-5200)を用いて観察を行った。観察は印加電圧を5~20kVとして行った。
【0154】
得られたSEM像を図4(A)、図4(B)に示す。図4(B)は、図4(A)の一部をさらに拡大して示したSEM像である。
【0155】
図4(A)、図4(B)に示したSEM像から、得られた複合タングステン酸化物粒子としては、一部に粗粒が見られるものの、200nm以下の微細な粒子が得られていることを確認できた。
(3)TEM像観察
得られた複合タングステン酸化物粒子について、透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope 日本電子株式会社製 型式:JEM-3000F)を用いて観察を行った。観察は印加電圧を297kVとして行った。
【0156】
得られたTEM像を図5に示す。
【0157】
図5に示すように、TEM像においても、200nm以下の微細な粒子が得られていることを確認できた。
【0158】
図6にTEM/EDSを用いたMapping像を示す。図6(A)がTEMの観察画像であり、図6(B)がCsの、図6(C)がWの、図6(D)がOのmapping画像となる。図6(B)~図6(D)中の白い部分が各元素の存在を示している。図6(A)~図6(D)の比較から明らかなように、得られた複合タングステン酸化物粒子全体にCs、W、Oが略均一に分散していることを確認できる。また、図6(B)から、微細な粒子の内部にもCsが存在していることを確認した。
(4)XPS測定
図7(A)、図7(B)にXPSを用いたW原子の4fとCs原子の3dのスペクトルの測定結果を示す。なお、測定には、島津製作所社製ESCA-3400を用いた。図7(A)がW原子の4fの結果であり、図7(B)がCsの3dの結果である。W原子の4fの測定結果は37.8eVと、35.7eVとにピークを有し、これらのピークはW6+に由来すると考えられる。すなわち、複合タングステン酸化物相中のW原子が6価になっていることを確認できた。
【0159】
一方、Csの3dの場合、CsOH(724±0.2eV)とCsmetal(726±0.3eV)とに由来するピークが考えられるが、本複合タングステン酸化物粒子は723.9eVにピークを有することを確認できた。これは、一価である。以上の結果から本参考例で調製した複合タングステン酸化物粒子中のW、Csは、共に酸化されていると考えられる。
【0160】
図8に実施例1で得られた複合タングステン酸化物粒子のO原子の1sのXPSスペクトルの結果を示す。得られたスペクトルをピーク分離したところ、W原子に結合したO原子のスペクトルのシフト(図中のWO)と、W原子に結合したO原子にH原子が付着することで生じたスペクトルのシフト(図中のOH、OH)が確認された。なお、Si原子によるスペクトルのシフト(図中のSiO)は、得られた複合タングステン酸化物粒子にガラスフィルター由来の不純物が付着したためである。本SiOのピークはセルロースフィルターなどのカーボン由来のフィルターを用いることや静電型捕集器などの別の捕集システムを用いることで取り除くことができる。
(5)STEM観察
図9(A)、図9(B)、図9(D)に日本電子製STEM(型式:JEM―ARM200F)を用いて観察したhigh-angle angular dark-field images(HAADF)像を示す。HAADF像では、重い原子ほど明るいコントラストを示すため、最も明るいコントラストがW、次に明るいコントラストがCsであり、Oは確認できないと考えられる。
【0161】
図9(A)、図9(B)は001入射時のHAADF像であり、図9(B)は、図9(A)の四角枠の拡大図を示している。図9(B)の矢印の箇所に100、010、110方向に筋状の欠損を確認した。この筋状の欠損は、W、Csが交互に並ぶ列に沿って存在している。図9(B)の枠で囲った欠損内でのコントラストを図9(C)に示す。コントラストはWサイトで欠損していることがわかった。図9(D)には010入射でのHAADF像を示す。
【0162】
90°異なる方向から観察しても10nm程度の欠損を確認できるため、本W欠損は面状に存在していると考えられる。また、図9(B)、図9(D)の結晶構造の模式図は、STEM観察を行っている面を示す。なお、図9(A)、図9(B)、図9(D)で観察された欠損は、他の視野でも同様に観察された。
(6)XAFS測定
図10にあいちシンクロトロン光センターのBL5S1ビームラインを用いてXAFS測定を行い、タングステンからの動径分布関数を算出した結果を示す。ピーク位置は1.35Åであった。本分布は空間的な平均値であるが、Wのまわりにはc面内に4つの酸素が位置し、c軸方向に2つの酸素原子が位置するため、c面内の酸素の影響が強い。本ピーク位置は実際の原子間距離よりも短いことが知られるが、W欠損によりW欠損に隣接するc面方向のWが間の酸素を強く引き付けるためと考えられる。
【0163】
本実施例の結果から、本実施形態の複合タングステン酸化物粒子の製造方法によれば、液滴形成手段や、ヒーター等の導入コストの低い設備を用いて複合タングステン酸化物粒子を製造でき、工程数も抑制できることを確認できた。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10