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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】排水の処理方法および排水の処理設備
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/34 20230101AFI20231208BHJP
【FI】
C02F3/34 101A
C02F3/34 101B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019097294
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2020189284
(43)【公開日】2020-11-26
【審査請求日】2022-04-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】後藤 拓人
(72)【発明者】
【氏名】青木 圭太
(72)【発明者】
【氏名】羽部 浩
(72)【発明者】
【氏名】堀 知行
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 由也
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 知大
(72)【発明者】
【氏名】青柳 智
(72)【発明者】
【氏名】笹本 岳宏
(72)【発明者】
【氏名】小野 徳昭
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-164739(JP,A)
【文献】特開2007-105627(JP,A)
【文献】特開平10-323694(JP,A)
【文献】特開2018-174839(JP,A)
【文献】特開平10-137789(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F3/00-34
C12M1/00-3/10
C12N1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
硝酸性窒素の濃度が5,000mg/L以上8,000mg/L以下である排水に対して、嫌気性微生物を含む活性汚泥およびメタノールを用いて生物処理を行ない、硝酸性窒素の濃度が1,000mg/L以下の処理水を得る、排水の処理方法であって、
前記活性汚泥は、前記嫌気性微生物として、Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、および、Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌を含む、排水の処理方法。
【請求項2】
前記Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌が、Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性が98%の微生物であり、
前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌が、Hyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)である、請求項1に記載の排水の処理方法。
【請求項3】
前記活性汚泥は、前記嫌気性微生物として、更に、
前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌、
Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌、および、前記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌、
Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌、
Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌、
Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌、および、前記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌、
Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌、
Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌、
Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌、
Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌、
Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌、ならびに、
Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌、からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、請求項1または2に記載の排水の処理方法。
【請求項4】
前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌が、Pelagibacterium luteolum(ペラジバクテリウム ルテオラム)に対する相同性が99%の微生物であり、
前記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌が、Plastorhodobacter daqingensis(プラストロドバクター ダキンゲンシス)に対する相同性が99%の微生物であり、
前記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌が、Jhaorihella thermophila(ジャオリヘラ サーモフィラ)に対する相同性が95%の微生物であり、
前記Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌が、Fontibacter ferrireducens(フォンチバクター フェリレデューセンス)であり、
前記Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌が、Acholeplasma parvum(アコレプラズマ パルバム)に対する相同性が95%の微生物であり、
前記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌が、Altibacter lentus(アルチバクター レンタス)に対する相同性が96%の微生物であり、
前記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌が、Ulvibacter antarcticus(ウルビバクター アンタークティカス)に対する相同性が96%の微生物であり、
前記Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌が、Aliidiomarina taiwanensis(アリイディオマリナ タイワンエンシス)に対する相同性が99%の微生物であり、
前記Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌が、Halomonas salifodinae(ハロモナス サリフォディンアエ)であり、
前記Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌が、Azoarcus indigens(アゾアルカス インディゲンス)に対する相同性が97%の微生物またはAzoarcus aromaticum(アゾアルカス アロマチカム)に対する相同性が99%の微生物であり、
前記Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌が、Parabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物であり、
前記Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌が、Aquimonas voraii(アクイモナス ボライ)に対する相同性が99%の微生物であり、
前記Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌が、Alkaliflexus imshenetskii(アルカリフレクサス イムシェネツキ)に対する相同性が98%の微生物である、請求項3に記載の排水の処理方法。
【請求項5】
前記活性汚泥に含まれる前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌の量が、前記活性汚泥に含まれる前記嫌気性微生物の全量に対して、20%以上である、請求項1~4のいずれか1項に記載の排水の処理方法。
【請求項6】
硝酸性窒素の濃度が5,000mg/L以上8,000mg/L以下である排水に対して、水素供与体が供給された状態で、嫌気性微生物を含む活性汚泥を用いて生物処理を行ない、硝酸性窒素の濃度が1,000mg/L以下の処理水を得る、排水の処理設備であって、
前記活性汚泥を内部に保持する処理槽と、
前記処理槽の内部に前記排水を供給する排水供給部と、
前記処理槽の内部に水素供与体であるメタノールを供給する水素供与体供給部と、
得られた前記処理水を前記処理槽の外部に排出する排出部と、を備え、
前記活性汚泥は、前記嫌気性微生物として、Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、および、Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌を含む、排水の処理設備。
【請求項7】
前記Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌が、Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性が98%の微生物であり、
前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌が、Hyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)である、請求項に記載の排水の処理設備。
【請求項8】
前記活性汚泥は、前記嫌気性微生物として、更に、
前記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌、
Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌、および、前記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌、
Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌、
Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌、
Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌、および、前記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌、
Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌、
Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌、
Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌、
Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌、
Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌、ならびに、
Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌、からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、請求項またはに記載の排水の処理設備。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水の処理方法および排水の処理設備に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所でステンレス鋼板を製造する工程において、硝酸を用いてステンレス鋼板の表面を酸洗浄する場合がある。洗浄後の排水には、硝酸性窒素が含まれる。このような排水は、例えば、製鉄所内の排水処理設備において、硝酸性窒素を除去し、所定の水質まで浄化してから、公共海域に放流される。
【0003】
硝酸性窒素を除去する方法としては、例えば、微生物を含む活性汚泥を用いた生物処理が挙げられる。
例えば、特許文献1には、「海水の塩分濃度程度の高濃度塩分を含有する被処理水中の硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素を、硫黄酸化細菌を含む微生物群により脱窒することを特徴とする生物脱窒処理方法。」が記載されている([請求項1])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-305980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な排水の処理方法および排水の処理設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討した結果、下記構成を採用することにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[7]を提供する。
[1]硝酸性窒素の濃度が5,000mg/L以上である排水に対して、嫌気性微生物を含む活性汚泥を用いて生物処理を行ない、硝酸性窒素の濃度が1,000mg/L以下の処理水を得る、排水の処理方法。
[2]上記活性汚泥は、上記嫌気性微生物として、Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌、および、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌、Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌、および、上記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌、Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌、Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌、Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌、および、上記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌、Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌、Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌、Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌、Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌、Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌、ならびに、Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌、からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、上記[1]に記載の排水の処理方法。
[3]上記Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌が、Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性が98%の微生物であり、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌が、Hyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)であり、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌が、Pelagibacterium luteolum(ペラジバクテリウム ルテオラム)に対する相同性が99%の微生物であり、上記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌が、Plastorhodobacter daqingensis(プラストロドバクター ダキンゲンシス)に対する相同性が99%の微生物であり、上記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌が、Jhaorihella thermophila(ジャオリヘラ サーモフィラ)に対する相同性が95%の微生物であり、上記Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌が、Fontibacter ferrireducens(フォンチバクター フェリレデューセンス)であり、上記Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌が、Acholeplasma parvum(アコレプラズマ パルバム)に対する相同性が95%の微生物であり、上記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌が、Altibacter lentus(アルチバクター レンタス)に対する相同性が96%の微生物であり、上記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌が、Ulvibacter antarcticus(ウルビバクター アンタークティカス)に対する相同性が96%の微生物であり、上記Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌が、Aliidiomarina taiwanensis(アリイディオマリナ タイワンエンシス)に対する相同性が99%の微生物であり、上記Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌が、Halomonas salifodinae(ハロモナス サリフォディンアエ)であり、上記Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌が、Azoarcus indigens(アゾアルカス インディゲンス)に対する相同性が97%の微生物またはAzoarcus aromaticum(アゾアルカス アロマチカム)に対する相同性が99%の微生物であり、上記Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌が、Parabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物であり、上記Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌が、Aquimonas voraii(アクイモナス ボライ)に対する相同性が99%の微生物であり、上記Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌が、Alkaliflexus imshenetskii(アルカリフレクサス イムシェネツキ)に対する相同性が98%の微生物である、上記[2]に記載の排水の処理方法。
[4]上記活性汚泥は、上記嫌気性微生物として、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌を含み、上記活性汚泥に含まれる上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌の量が、上記活性汚泥に含まれる上記嫌気性微生物の全量に対して、20%以上である、上記[2]または[3]に記載の排水の処理方法。
[5]上記活性汚泥は、上記嫌気性微生物として、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌を含み、上記活性汚泥に含まれる上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌の量が、上記活性汚泥に含まれる上記嫌気性微生物の全量に対して、50%以上である、上記[2]~[4]のいずれかに記載の排水の処理方法。
[6]硝酸性窒素の濃度が5,000mg/L以上である排水に対して、水素供与体が供給された状態で、嫌気性微生物を含む活性汚泥を用いて生物処理を行ない、硝酸性窒素の濃度が1,000mg/L以下の処理水を得る、排水の処理設備であって、上記活性汚泥を内部に保持する処理槽と、上記処理槽の内部に上記排水を供給する排水供給部と、上記処理槽の内部に水素供与体を供給する水素供与体供給部と、得られた上記処理水を上記処理槽の外部に排出する排出部と、を備える排水の処理設備。
[7]上記活性汚泥は、上記嫌気性微生物として、Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌、および、上記Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌、Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌、および、上記Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌、Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌、Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌、Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌、および、上記Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌、Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌、Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌、Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌、Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌、Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌、ならびに、Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌、からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含む、上記[6]に記載の排水の処理設備。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規な排水の処理方法および排水の処理設備を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】嫌気性膜分離活性汚泥装置を示す模式図である。
図2】生物処理の試験中における、硝酸性窒素の濃度(N濃度)および特定の微生物の相対存在量の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、図1に基づいて、本発明の一実施形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
【0011】
図1は、排水の処理設備としての嫌気性膜分離活性汚泥装置10を示す模式図である。以下、嫌気性膜分離活性汚泥装置10を、単に、「装置10」ともいう。装置10は、全体が覆われて、装置10の内部への空気の混入が避けられている。
図1に示すように、装置10は、並列配置された反応槽3および膜分離槽8を有する。反応槽3と膜分離槽8とは、連通管17によって連通している。反応槽3および膜分離槽8は、後述する活性汚泥2を内部に保持する処理槽を構成する。
反応槽3の上部に設けられた流入口21には、原水流入管11および有機物流入管12が差し込まれている。膜分離槽8の上部に設けられた流出口22には、不活性ガス排出管14および膜処理水流出管25が差し込まれている。流入口21および流出口22には、返送管15が差し込まれ、反応槽3と膜分離槽8とを連通している。
反応槽3の下部には、バブリング管5および散気管6を介して、不活性ガス供給装置4が接続している。膜分離槽8の下部には、膜洗浄管7および散気管6を介して、不活性ガス供給装置4が接続している。
膜分離槽8の内部には、膜モジュール9が配置されている。
【0012】
反応槽および膜分離槽は、それぞれ2個以上でもよい。その場合、複数の反応槽どうしの間、反応槽と膜分離槽との間、および、複数の膜分離槽どうしの間は、連通管によって連通される。
【0013】
このような構成において、装置10の反応槽3においては、嫌気性微生物を含む活性汚泥2を用いて、硝酸性窒素を含有する排水(「原水」ともいう)に対して、生物処理が行なわれる。活性汚泥2は、嫌気性微生物として、硝酸還元細菌を含むことが好ましい。
【0014】
原水における硝酸性窒素(NO-N)の濃度は、5,000mg/L以上である。上限は、特に限定されないが、例えば、10,000mg/L以下であり、8,000mg/L以下が好ましい。
このような原水としては、例えば、硝酸を用いてステンレス鋼板の表面を洗浄した後の排水が挙げられる。
【0015】
本発明における硝酸性窒素(NO-N)の濃度には、硝酸性窒素に換算した亜硝酸性窒素(NO-N)の濃度も含まれる。
まず、硝酸性窒素の濃度(c3)を、JIS K 0102の43.2.5に規定されるイオンクロマトグラフ法により測定する。これとは別に、亜硝酸性窒素の濃度(c2)を、JIS K 0102の43.1.1に規定されるナフタレンエチレンジアミン吸光光度法により測定する。測定した亜硝酸性窒素の濃度(c2)を硝酸性窒素の濃度(c3′)に換算する。換算した硝酸性窒素の濃度(c3′)を、別途測定した硝酸性窒素の濃度(c3)に合算する(c3+c3′)。こうして、本発明における硝酸性窒素の濃度を求める。
【0016】
硝酸を用いてステンレス鋼板の表面を洗浄した直後の排水は、酸性であることから、中和されることが好ましい。中和には、例えば、消石灰(水酸化カルシウム)が用いられる。この場合、中和後の排水は、カルシウムを含有する。そこで、中和後の排水に対しては、例えば、ソーダライム法を用いてカルシウムを除去する前処理を施すことが好ましい。このような前処理後の排水は、ナトリウムを含有する。
【0017】
前処理後の排水を生物処理される原水として用いる場合、そのpHは、4~10が好ましい。
【0018】
原水は、反応槽3の上部の流入口21に設けられた原水流入管11を経由して、反応槽3の内部に供給される。このとき、水素供与体となるメタノール等の有機物も、有機物流入管12を経由して、反応槽3の内部に供給される。原水流入管11および有機物流入管12は、それぞれ、排水供給部および水素供与体供給部を構成する。リン酸などのその他の添加物が反応槽3の内部に供給されてもよい。
【0019】
反応槽3の内部には、活性汚泥2が導入されている。生物処理を実行中の適切なタイミングで、活性汚泥2に含まれる微生物(嫌気性微生物)を解析することが好ましい。
【0020】
微生物の解析には、「次世代シークエンサ」と呼ばれる、高機能シークエンサを用いることが好ましい。次世代シークエンサを用いることにより、微生物の同定およびその相同性検索を、一度に大量に、かつ、短時間に行なうことができ、配列表に記載の塩基配列を検出できる。このような次世代シークエンサとしては、例えば、Illumina社製のMiSeq等が挙げられる。
ただし、より正確かつ詳細な系統学的情報の取得には、PCおよび解析ソフトウェアを用いることが好ましい。解析ソフトウェアとしては、例えば、後出の[実施例]に記載する各種ソフトウェアが挙げられる。
【0021】
活性汚泥2は、嫌気性微生物として、
(1)Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、
(2a)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌、および、(2b)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌、
(3a)Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌、および、(3b)Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌、
(4)Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌、
(5)Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌、
(6a)Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌、および、(6b)Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌、
(7)Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌、
(8)Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌、
(9)Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌、
(10)Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌、
(11)Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌、ならびに、
(12)Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌、からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含むことが好ましい。
【0022】
活性汚泥2は、嫌気性微生物として、(1)Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌、および、(2a)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌からなる群から選ばれる少なくとも1種の細菌を含むことがより好ましい。
【0023】
(1)Gallionellaceae(ガリオネラセアエ)科のSulfuricella(スルフリセラ)属に属する硝酸還元細菌としては、Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性(similarity)が98%の微生物(配列番号2)が好ましい。
【0024】
(2a)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌としては、Hyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)(配列番号1)が好ましい。
(2b)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のPelagibacterium(ペラジバクテリウム)属に属する細菌としては、Pelagibacterium luteolum(ペラジバクテリウム ルテオラム)に対する相同性が99%の微生物(配列番号7)が好ましい。
【0025】
(3a)Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のPlastorhodobacter(プラストロドバクター)属に属する硝酸還元細菌としては、Plastorhodobacter daqingensis(プラストロドバクター ダキンゲンシス)に対する相同性が99%の微生物(配列番号3)が好ましい。
(3b)Rhodobacteraceae(ロドバクテラセアエ)科のJhaorihella(ジャオリヘラ)属に属する細菌としては、Jhaorihella thermophila(ジャオリヘラ サーモフィラ)に対する相同性が95%の微生物(配列番号15)が好ましい。
【0026】
(4)Cyclobacteriaceae(シクロバクテリアセアエ)科のFontibacter(フォンチバクター)属に属する細菌としては、Fontibacter ferrireducens(フォンチバクター フェリレデューセンス)(配列番号4)が好ましい。
【0027】
(5)Acholeplasmataceae(アコレプラズマタセアエ)科のAcholeplasma(アコレプラズマ)属に属する細菌としては、Acholeplasma parvum(アコレプラズマ パルバム)に対する相同性が95%の微生物(配列番号5)が好ましい。
【0028】
(6a)Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のAltibacter(アルチバクター)属に属する細菌としては、Altibacter lentus(アルチバクター レンタス)に対する相同性が96%の微生物(配列番号6)が好ましい。
(6b)Flavobacteriaceae(フラボバクテリアセアエ)科のUlvibacter(ウルビバクター)属に属する細菌としては、Ulvibacter antarcticus(ウルビバクター アンタークティカス)に対する相同性が96%の微生物(配列番号9)が好ましい。
【0029】
(7)Idiomarinaceae(イディオマリナセア)科のAliidiomarina(アリイディオマリナ)属に属する硝酸還元細菌としては、Aliidiomarina taiwanensis(アリイディオマリナ タイワンエンシス)に対する相同性が99%の微生物(配列番号8)が好ましい。
【0030】
(8)Halomonadaceae(ハロモナダセアエ)科のHalomonas(ハロモナス)属に属する細菌としては、Halomonas salifodinae(ハロモナス サリフォディンアエ)(配列番号10)が好ましい。
【0031】
(9)Zoogloeaceae(ズーグレアセアエ)科のAzoarcus(アゾアルカス)属に属する硝酸還元細菌としては、Azoarcus indigens(アゾアルカス インディゲンス)に対する相同性が97%の微生物(配列番号11)またはAzoarcus aromaticum(アゾアルカス アロマチカム)に対する相同性が99%の微生物(配列番号12)が好ましい。
【0032】
(10)Tannerellaceae(タネレラセアエ)科のParabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物が属する新属に属する細菌としては、Parabacteroides distasonis(パラバクテロイデス ディスタソニス)に対する相同性が87%の微生物(配列番号13)が好ましい。
【0033】
(11)Rhodanobacteraceae(ロダノバクテラセアエ)科のAquimonas(アクイモナス)属に属する細菌としては、Aquimonas voraii(アクイモナス ボライ)に対する相同性が99%の微生物(配列番号16)が好ましい。
【0034】
(12)Marinilabiliaceae(マリニラビリアセアエ)科のAlkaliflexus(アルカリフレクサス)属に属する細菌としては、Alkaliflexus imshenetskii(アルカリフレクサス イムシェネツキ)に対する相同性が98%の微生物(配列番号14)が好ましい。
【0035】
活性汚泥2に含まれる、(2a)Hyphomicrobiaceae(ハイフォミクロビアセアエ)科のHyphomicrobium(ハイフォミクロビウム)属に属する硝酸還元細菌の量は、活性汚泥2に含まれる嫌気性微生物の全量に対して、20%以上が好ましく、50%以上がより好ましい。この「%」は、16S rRNA遺伝子の相対存在量を意味する。
【0036】
反応槽3には、不活性ガス供給装置4から、散気管6およびバブリング管5を経由して、不活性ガスが供給される。不活性ガスは、反応槽3の下部から、バブリングして供給される。不活性ガスの供給量は、特に限定されないが、例えば、反応槽3の容量10Lに対して、5~10L/minである。
【0037】
反応槽3においては、供給された不活性ガスによって、酸素のない嫌気状態が維持され、かつ、原水や活性汚泥2などが撹拌される。こうして、硝酸性窒素を含む原水に生物処理(脱窒素処理)が施され、処理水が得られる。
より詳細には、原水に含まれる硝酸性窒素は、水素供与体となるメタノール等の有機物が添加された状態で、活性汚泥2に含まれる嫌気性微生物によって分解され、窒素ガス(N)、炭酸ガス(CO)、水(HO)等が生成する。
【0038】
生物処理により得られる処理水における硝酸性窒素(NO-N)の濃度は、安定的な運転状態を継続することにより低減でき、具体的には、1,000mg/L以下にすることができ、活性汚泥に含まれる嫌気性微生物が十分に馴養されれば、300mg/L以下にもできる。
処理水を製鉄所等の工場から排出する際には、工場の立地区域において許容される排水基準を順守する必要がある。本発明によれば、処理水の硝酸性窒素(NO-N)の濃度を、この排水基準を満たす濃度に低減できる。
【0039】
得られた処理水は、反応槽3から連通管17を経由して、膜分離槽8に移送され、膜モジュール9を通過する。処理水は膜モジュール9により固液分離され、活性汚泥2が膜分離された膜処理水が得られる。得られた膜処理水は、膜分離槽8の上部の流出口22に設けられた膜処理水流出管25から、装置10の外部に流出する。
【0040】
膜モジュール9で膜分離された活性汚泥2は、返送汚泥として、膜分離槽8から、返送管15を経由して、反応槽3に戻される。返送汚泥の一部は、図示しない汚泥貯槽に送られて微生物が死滅している部分が廃棄されてもよい。追加の活性汚泥が足されてもよい。
【0041】
膜分離槽8の膜モジュール9には、不活性ガス供給装置4から、散気管6および膜洗浄管7を経由して、不活性ガスが供給される。供給された不活性ガスによって、膜モジュール9を含む膜分離槽8の嫌気状態が維持される。
膜モジュール9の膜表面は、不活性ガスによって洗浄され、清澄に保たれる。このとき、不活性ガスは、膜モジュール9の膜表面と平行に噴射されることが好ましい。
不活性ガスは、膜モジュール9の有効膜面積0.012mに対して、10L/min以上で供給されることが好ましい。膜洗浄のための不活性ガスの供給は、間欠運転とすることができる。
【0042】
装置10に供給される不活性ガスは、覆われた装置10の内部全体を、嫌気状態に維持する。余分な不活性ガスは、不活性ガス排出管14を経由して、装置10の外部に排出される。
【0043】
装置10に供給される不活性ガスは、酸素を含まないガスで細菌に害を及ぼさないガスであれば特に限定されず、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウム等のガスが挙げられ、これらの混合物でもよい。
なかでも、不活性ガスとしては、高純度の窒素ガスが好ましく、その酸素濃度は、10,000ppm(1体積%)未満が好ましく、1,000ppm(0.1体積%)未満がより好ましい。このような高純度の窒素ガスは、空気から、深冷分離法、PSA分離法、膜分離法等の方法を用いて得られる。
特に、深冷分離法は、酸素濃度が100ppm(0.01体積%)以下の高純度の窒素ガスを大量に発生させることができ、好適である。深冷分離法を用いるガス製造装置は、製鉄所などの精錬に酸素ガスを大量に必要とする工場で使用されており、副産物として高純度の窒素ガスを大量に発生させる。この副産物である窒素ガスを用いてもよい。
【0044】
以上、図1に示す嫌気性膜分離活性汚泥装置10を用いる実施形態について説明した。
しかし、本発明は、上述した実施形態に限定されず、例えば、活性汚泥を満たした密閉された消化槽に原水を投入し、所定の水理学的滞留時間(HRT)を与えて生物処理を行ない、廃汚泥を沈澱させ、上澄みを処理水として得る方法(標準消化法);標準消化法において、生物処理の際に、消化槽内を機械撹拌等により撹拌してHRTを短縮する方法(高率消化法);高率消化法において、処理水から沈澱分離した汚泥を消化槽に返送する方法(嫌気性接触法);活性汚泥を表面に担持した充填材を保持する処理槽に原水を通水する方法(嫌気性固定床法);活性汚泥を表面に担持した担体を原水中で流動させる流動床を形成する方法(嫌気性流動床法);等の方法を適用してもよい。
【実施例
【0045】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されない。
【0046】
<生物処理の試験内容>
図1に基づいて説明した嫌気性膜分離活性汚泥装置10を用いて、生物処理の試験を行なった。生物処理に供する原水としては、硝酸を用いてステンレス鋼板の表面を洗浄した後の排水を用いた。硝酸を用いてステンレス鋼板を洗浄した後の排水は、消石灰を用いて中和した。中和後の排水のpHは4~8であった。消石灰を用いて中和した後の排水には、ソーダライム法を用いてカルシウムを除去する前処理を施した。前処理後の排水のpHは9~10であった。前処理後の排水を、生物処理に供する原水として用いた。
不活性ガスとしては、窒素ガスを用いた。
【0047】
その他の主な条件は、以下のとおりである。
原水の硝酸性窒素の濃度:5,000~8,000mg/L
メタノールの注入量:12,000~18,000mg/L
水理学的滞留時間(HRT):12日
反応槽の容量:20L
膜分離槽の容量:6L
原水通水量:2.2L/日
汚泥返送量:13.0L/日
反応槽からの汚泥引抜量:0.49L/日
水温:22~25℃
槽内のpH:8.0~8.5
【0048】
<微生物の解析>
生物処理の試験中、1日ごとに、活性汚泥に含まれる微生物の解析を行なった。具体的には、以下の手順で、次世代シークエンサを用いて、行なった。
まず、遠心分離によって、活性汚泥の汚泥サンプル(遠心沈殿物)を得た。得られた汚泥サンプルに、平均粒子径が0.1mmのジルコニアとシリカとの混合ビーズ(Zirconia/Silica Beads)を加えたものを、ビーズビータ(バイオメディカルサイエンス社製、Shake Master)に供し、汚泥サンプルに含まれる微生物の細胞を破砕し、細胞破砕液を得た。得られた細胞破砕液から、フェノール・クロロホルム抽出法により、染色体DNAを抽出し、精製した。
次いで、染色体DNAの16S rRNAをターゲットにしたユニバーサルプライマーを基に、Illumina社製のMiSeq用バーコード配列を付加した下記参考文献1に記載のプライマーを用いて、PCR(Polymerase Chain Reaction)法により、16S rRNA遺伝子を増幅した。
参考文献1:J Gregory Caporaso et al.、The ISME Journal(2012)6,(1621-1624)
【0049】
得られたPCR増副産物について、AMPure磁気ビーズ(Beackmann coulter社製、A63881)および精製用マグネットスタンド(Beackmann coulter社製、A32782)を用いて、未反応のプライマーおよびプライマーダイマーを除去した。
次いで、得られた精製産物を、アガロースゲル電気泳動により分画し、スピンカラム(Promega社製、Wizard SV Gel and PCR Clean-up System)を用いて、目的の断片長を有するPCR増副産物のみを精製した。
【0050】
次に、DNAサンプル(染色体DNA)におけるDNA濃度を、DNA染色用蛍光試薬キットQuant-iT PicoGreen dsDNA Assay Kit(Thermo scientific製、P11496)および微量用蛍光スペクトロメータ(Thermo scientific製、NanoDrop 3300)を用いて定量した。必要量をMiSeq Reagent Kits v2(Illumina社製、MS-102-2001)に供し、次世代シークエンサにより、DNA配列解析を行なった。
【0051】
その結果、DNAサンプルのそれぞれから、10,000~80,000 reads程度の配列データが取得された。
取得された配列データについて、ソフトウェアea-utils-1.1.2-301(インターネット上で入手可能なフリーソフト)を用いて、遺伝子配列情報を連結した。さらに、ソフトウェアMothur version1.31.2(詳細は下記参考文献2を参照)を用いてキメラ配列を除去した。その後、ソフトウェアQIIME version1.6.0(詳細は、下記参考文献3を参照)により遺伝子配列の系統学的解析を行ない、各微生物種の相対存在率の増減と、物理化学的パラメータとの関係性を考察した。
参考文献2:Schloss P.D et al.,Appl.Environ.Microbiol(2009)75,7537-7541
参考文献3:Caporaso H.G et al.,Nat.methods(2012)7,335-336.
【0052】
<試験結果>
生物処理の試験中、原水および処理水の硝酸性窒素の濃度(N濃度)を測定した。さらに、上述したように、活性汚泥に含まれる微生物の解析を行なった。
【0053】
下記表1に、試験開始から41日目における優占細菌種の属種名(Bacteria)、遺伝子の相同性(Identity)(単位:%)、および、相対存在量(Relative abundance)(単位:%)を示す。
【0054】
【表1】
【0055】
下記表2に、試験開始から79日目における優占細菌種の属種名(Bacteria)、遺伝子の相同性(Identity)(単位:%)、および、相対存在量(Relative abundance)(単位:%)を示す。
【0056】
【表2】
【0057】
図2は、生物処理の試験中における、硝酸性窒素の濃度(N濃度、単位:mg/L)および特定の微生物の相対存在量(単位:%)の推移を示すグラフである。
【0058】
図2のグラフに示すように、処理水の硝酸性窒素の濃度は、試験開始から約34日目以降は1,000mg/L以下となり、試験開始から約82日目には10mg/L以下となった。
【0059】
図2のグラフから、硝酸性窒素が5,000~8,000mg/Lと高濃度である原水の生物処理に適した微生物環境が実現されたことが分かる。
すなわち、図2のグラフに示すように、まず、Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性が98%の微生物(図2のグラフ中では、便宜的に、単に、「Sulfuricella denitrificans」と表記する)の相対存在量が上昇し、試験開始から約13日目をピークとして、その後、下降した。
この下降と逆転するように、当初は少なかったHyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)の相対存在量が徐々に上昇して、試験開始から32日目には20%以上となり、試験開始から約75日目には50%以上となっていた。
Sulfuricella denitrificans(スルフリセラ デニトリフィカンス)に対する相同性が98%の微生物とHyphomicrobium nitrativorans(ハイフォミクロビウム ニトラチボランス)とが異なるタイミングで増加することにより、硝酸還元に相補的な役割を果たしたと推測される。
【符号の説明】
【0060】
2:活性汚泥
3:反応槽(処理槽)
4:不活性ガス供給装置
5:バブリング管
6:散気管
7:膜洗浄管
8:膜分離槽(処理槽)
9:膜モジュール
10:嫌気性膜分離活性汚泥装置(排水の処理設備)
11:原水流入管(排水供給部)
12:有機物流入管(水素供与体供給部)
14:不活性ガス排出管
15:返送管
17:連通管
21:流入口
22:流出口
25:膜処理水流出管
図1
図2
【配列表】
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