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特許7399417高分子及び繊維構造体を備えた高分子複合体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】高分子及び繊維構造体を備えた高分子複合体
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20231211BHJP
   D04B 21/00 20060101ALI20231211BHJP
   D04B 21/16 20060101ALI20231211BHJP
   D03D 1/00 20060101ALI20231211BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20231211BHJP
   C08F 220/56 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08J5/04 CEY
D04B21/00 B
D04B21/16
D03D1/00 A
C08F220/28
C08F220/56
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019221026
(22)【出願日】2019-12-06
(65)【公開番号】P2021088686
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】500239823
【氏名又は名称】エルジー・ケム・リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109841
【弁理士】
【氏名又は名称】堅田 健史
(72)【発明者】
【氏名】孝治 慎之助
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大樹
(72)【発明者】
【氏名】原田 明
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 義徳
(72)【発明者】
【氏名】大▲崎▼ 基史
(72)【発明者】
【氏名】児島 淳子
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-111788(JP,A)
【文献】国際公開第2015/129513(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/163550(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0133986(US,A1)
【文献】特開2001-032160(JP,A)
【文献】国際公開第2019/146633(WO,A1)
【文献】特開2008-001997(JP,A)
【文献】国際公開第2015/137206(WO,A1)
【文献】特開2021-070768(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B 11/16;15/08-15/14
C08J 5/04-5/10;5/24
B29C 70/00-70/88
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00;301/00
D04B 1/00-1/28;21/00-21/20
D03D 1/00-27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子複合体であって、
高分子と、繊維構造体とを備えてなり、
前記高分子が、ホスト基含有モノマーと、ゲスト基含有モノマーとから構成されてなるものである、高分子複合体。
【請求項2】
前記ホスト基が、置換基を有してもよい、シクロデキストリン、カリックスアレーン、クラウンエーテル、シクロファン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体、並びにこれらの一種又は二種以上の組み合わせであり、
前記ゲスト基が、置換基を有してもよい、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアリールアルキル基から選択される一種又は二種以上の組み合わせであり;或いは、
前記ホスト基含有モノマーにおける前記モノマー又は前記ゲスト基含有モノマーにおける前記モノマーが、ビニル系モノマーである、請求項1に記載の高分子複合体。
【請求項3】
前記ホスト基含有モノマーが、下記式(1)で表される重合性モノマーであり、又は、
前記ゲスト基含有モノマーが、下記式(2)で表される重合性モノマーである、請求項1に記載の高分子複合体。
【化1】
〔上記式(1)中、
Qは、O又はNHであり、
CDは、シクロデキストリンであり、
aは、水素原子又はメチル基である。〕
【化2】
〔上記式(2)中、
Aは、置換基を有してもよいアリール基、C(O)OR1又はC(O)NHR1であり、
R1は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアリールアルキル基であり、
bは、水素原子又はメチル基である。〕
【請求項4】
前記高分子複合体の切創力及び伸び率それぞれが、前記高分子複合体の水平方向(X方向)と、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)において異方性を有することを特徴とする、請求項1~3の何れか一項に記載の高分子複合体。
【請求項5】
前記X方向における切創力Sxと、前記Y方向における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記高分子複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記高分子複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすことを特徴とする、請求項4に記載の高分子複合体。
2<Ex/Ey (式2)
2<Ey/Ex (式3)
【請求項6】
前記高分子複合体の伸び率Exが15%以上であり、又は、
前記高分子複合体の伸び率Eyが15%以上であることを特徴とする、請求項5に記載の高分子複合体。
【請求項7】
前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上であることを特徴とする、請求項1~6の何れか一項に記載の高分子複合体。
【請求項8】
前記繊維構造体は、織物、編物、不織布、又は織布であることを特徴とする、請求項1~7の何れか一項に記載の高分子複合体。
【請求項9】
請求項1~8の何れか一項に記載の高分子複合体を用いた、表層材。
【請求項10】
請求項9に記載の表層材を備えた、ロボット。
【請求項11】
高分子複合体を製造する方法であって、
ホスト基含有モノマーと、ゲスト基含有モノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを重合し高分子とし、
前記高分子と前記繊維構造体とを複合化することを含んでなる、高分子複合体の製造方法。
【請求項12】
前記高分子複合体が、請求項1~7の何れか一項に記載の高分子複合体である、請求項11に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子及び繊維構造体を備えた高分子複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、軽量性、柔軟性、伸縮性、高強度性、又は耐久性等を備えた複合体(機能性材料)が要求されている。特に、様々な分野において機能性材料として用いられる複合体の開発が要求されている。
【0003】
このような複合体の従前の例としては、柔軟性を有するシリコーン樹脂、軽量かつ高強度な炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、一般的な柔軟性ポリマーと高強度繊維からなる複合体、又は、化学構造体において可逆的な結合を有し自己修復可能なことから耐久性に優れた自己修復性材料等が提案されている。
【0004】
例えば、特許文献1(再表2016-006413号公開公報)では、外的要因により生じた傷等を元の状態に修復するという自己修復性を実現する為に、ポリロタキサン分子の環状分子と、このポリロタキサン分子以外の重合体分子とが可逆的な結合を介して架橋された架橋構造体による高分子材料が提案されている。
【0005】
また、特許文献2(特開2016-186143号公開公報)では、高強度紡績糸を用いた高強力、耐折性、軽量性に優れる編織物等の繊維構造物、及びこれらからなる防護材を提供する為に、ポリパラフェニレンテレフタルアミド長繊維の捲縮糸を用いた織物が提案されている。
【0006】
特許文献3(特表2009-535525号公開公報)では、機械方向に非常に低い伸び率を有し、機械の横方向に比較的弱い力で伸長することを可能とする為に、布地の繊維が機械方向に平行な又は±45°の範囲内の角度を形成する繊維方向で配置されてなる不織布が提案されている。
【0007】
特許文献4(特表2017-531737号公開公報)では、両性高分子電解質(PA)ハイドロゲルによって、耐摩耗性を実現する一方で、人体からの拒絶反応を予防し、かつ、高い負荷を実現する為に、布地とPAハイドロゲルとを備えた複合材料が提案されている。
【0008】
しかしながら、軽量性、柔軟性、伸縮性(可撓性)、高強度性、及び耐久性等を兼ね備えた複合体の開発が未だ要求されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】再表2016/006413号公開公報
【文献】特開2016-186143号公開公報
【文献】特表2009-535525号公開公報
【文献】特表2017-531737号公開公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、軽量性、柔軟性及び伸縮性(可撓性)と、高強度性、及び耐久性とを充足させる高分子複合体を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、特定の高分子と繊維構造体とにより構成されてなる高分子複合体を提案する。
【0012】
〔本発明の一の態様〕
本発明はその一の態様として以下のものを提案することができる。
〔1〕高分子複合体であって、
高分子と、繊維構造体とを備えてなり、
前記高分子が、ホスト基含有モノマーと、ゲスト基含有モノマーとから構成されてなるものである、高分子複合体。
〔2〕前記ホスト基が、置換基を有してもよい、シクロデキストリン、カリックスアレーン、クラウンエーテル、シクロファン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体、並びにこれらの一種又は二種以上の組み合わせであり、
前記ゲスト基が、置換基を有してもよい、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアリールアルキル基から選択される一種又は二種以上の組み合わせであり;或いは、
前記ホスト基含有モノマーにおける前記モノマー又は前記ゲスト基含有モノマーにおける前記モノマーが、ビニル系モノマーである、〔1〕に記載の高分子複合体。
〔3〕前記ホスト基含有モノマーが、下記式(1)で表される重合性モノマーであり、又は、
前記ゲスト基含有モノマーが、下記式(2)で表される重合性モノマーである、〔1〕に記載の高分子複合体。
〔上記式(1)中、
Qは、O又はNHであり、
CDは、シクロデキストリンであり、
aは、水素原子又はメチル基である。〕
〔上記式(2)中、
Aは、置換基を有してもよいアリール基、C(O)OR1又はC(O)NHR1であり、
R1は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアリールアルキル基であり、
bは、水素原子又はメチル基である。〕
〔4〕前記高分子複合体の切創力及び伸び率それぞれが、前記高分子複合体の水平方向(X方向)と、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)において異方性を有することを特徴とする、〔1〕~〔3〕の何れか一項に記載の高分子複合体。
〔5〕 前記X方向における切創力Sxと、前記Y方向における切創力Syが下記(式1)を満たすものであり、
2<Sx/Sy (式1)
〔式1中、Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である〕
前記高分子複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記高分子複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は下記(式3)を満たすことを特徴とする、〔4〕に記載の高分子複合体。
2<Ex/Ey (式2)
2<Ey/Ex (式3)
〔6〕前記高分子複合体の伸び率Exが15%以上であり、又は、
前記高分子複合体の伸び率Eyが15%以上であることを特徴とする、〔5〕に記載の高分子複合体。
〔7〕前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上であることを特徴とする、〔1〕~〔6〕の何れか一項に記載の高分子複合体。
〔8〕前記繊維構造体は、織物、編物、不織布、又は織布であることを特徴とする、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の高分子複合体。
〔9〕〔1〕~〔8〕の何れか一項に記載の高分子複合体を用いた、表層材。
〔10〕〔9〕に記載の表層材を備えた、ロボット。
〔11〕高分子複合体を製造する方法であって、
ホスト基含有モノマーと、ゲスト基含有モノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを重合し高分子とし、
前記高分子と前記繊維構造体とを複合化することを含んでなる、高分子複合体の製造方法。
〔12〕前記高分子複合体が、〔1〕~〔7〕の何れか一項に記載の高分子複合体である、〔11〕に記載の製造方法。
〔13〕〔11〕又は〔12〕に記載の製造方法で製造された、高分子複合体。
【発明の効果】
【0013】
本発明による高分子複合体によれば、軽量性、柔軟性、伸縮性、耐久性、高強度性(特に、耐切創性)、及び異方性(伸縮性及び強度性に関する)を相加的相乗的に実現することができ、取り分け、一定方向における伸縮性を実現することを可能とした機能性高分子構造体を提案することができる。その結果、高強度性と柔軟性を要求する材料を提案することが可能となり、例えば、介護ロボットのように、高強度性と耐久性を有しながら、可動領域は伸縮性を有し、人体と接触する部位は柔軟性を有するといった高次元の機能性材料を提案することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明による高分子複合体の一例を示した概略図である。
図2図2は、本発明による高分子複合体がロボットの関節部分の表層材として使用したものを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔定義〕
「高分子:ポリマー(化合物)」は、分子量が大きい分子(例えば、分子量1万以上)で、分子量が小さい分子から実質的又は概念的に得られる単位の多数回の繰り返しで構成した構造体を意味する。高分子は、天然高分子又は合成高分子が挙げられ、構成物質も無機物質及び/又は有機物質であってもよい。本発明にあっては、好ましくは、合成高分子、特に、有機合成高分子、例えば、樹脂、プラスチック、合成繊維が挙げられる。また、高分子は、直鎖状及び/又は分岐状、星型状、櫛型状、ブラシ状等の様々な形状であってよい。また、高分子は、重合体、共重合体(ランダム、交互、ブロック等)、多重合体であってもよい。
「異方性」とは、物質(例えば、高分子複合体)の性質が、当該物質の分布又は方向(二次元、三次元)に依存しないことを意味し、例えば、当該物質が本発明による高分子複合体の場合、X方向、Y方向、及び/又はZ方向〔横方向、縦(直交)方向、厚み方向〕のそれぞれにおいて、物理的性質(引っ張り、収縮、剪断、曲げ、回復等)が異なることを意味する。
「ISO 13997:1999」は、「Protective clothing-Mechanical properties-Determination of resistance to cutting by sharp objects (MOD)」であり、日本工業規格(JIS)では、「JIS T 8052:2005」として、「防護服-機械的特性-鋭利物に対する切創抵抗性試験方法」と規定されている。
「引張強度」は、例えば、JIS K 7164(ISO 527-4)によって測定することができる。
「伸び率」は、例えば、JIS L 1096 織物及び編物の生地試験方法に記載のグラブ法によって測定することができる。
「シクロデキストリン(CD)」は、D-グルコースが、通常、6~8個、α-1,4グリコシド結合によって結合し環状構造をとった環状オリゴ糖の一種である。シクロデキストリンは、一般的に、6個結合しているものがα-シクロデキストリン(シクロヘキサアミロース;α-CD)、7個結合しているものがβ-シクロデキストリン(シクロヘプタアミロース;β-CD)、8個結合しているものがγ-シクロデキストリン(シクロオクタアミロース;γ-CD)と呼ばれている。
【0016】
〔高分子複合体〕
本発明による高分子複合体は、ホスト基含有モノマー(単量体)と、ゲスト基含有モノマー(単量体)とから構成されてなる高分子と繊維構造体とで構成されてなるものである。
【0017】
(高分子)
高分子は、ホスト基含有モノマー(単量体)と、ゲスト基含有モノマー(単量体)とを備えたものである。本発明にあっては、高分子は、高分子複合体において、主として、柔軟性、伸縮性、耐久性(自己修復性)として機能するものである。
【0018】
高分子においては、上記モノマー由来のホスト基とゲスト基が、所謂、ホスト-ゲスト相互作用によって、包接錯体(包接化合物)を形成する。ホスト-ゲスト相互作用が分子間(又は、超分子内)で起こり得るものであり、これによって高分子は架橋構造体を形成する。架橋構造体における架橋点は、ホスト-ゲスト相互作用に基づく包接錯体である。ホスト-ゲスト相互作用は可逆的であり、ホスト基とゲスト基との相互作用の発生(及び、これによる結合)並びにこの相互作用の解消(及び、これによる解離)は、可逆的に起こる。従って、本発明にあっては、な高分子は、高い破断ひずみを示すことができ、柔軟性及び伸縮性に優れるものとなる。また、ホスト-ゲスト相互作用が可逆的であるため、高分子は高い自己修復性を有する材料となる。
【0019】
〈ホスト基含有モノマー〉
ホスト基は、置換基を有していてもよく、又は、ホスト基の誘導体を包含してもよい。ホスト基としては、置換基を有してもよい、シクロデキストリン、カリックスアレーン、クラウンエーテル、シクロファン、ククルビットウリル、及びこれらの誘導体、並びにこれらの一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0020】
ホスト基の具体例としては、シクロデキストリン(α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン)、カリックス[6]アレーンスルホン酸、カリックス[8]アレーンスルホン酸、12-クラウン-4、18-クラウン-6、[6]パラシクロファン、[2,2]パラシクロファン、ククルビット[6]ウリル、及びククルビット[8]ウリル等から選択される一種又は二種以上の組み合わせであり、好ましくはシクロデキストリンであり、より好ましくは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン及び/又はγ―シクロデキストリンである。
【0021】
ホスト基の好ましいものとしては、シクロデキストリン又はその誘導体であることが好ましい。この場合、ホスト高分子のホスト基とゲスト高分子のゲスト基とのホスト-ゲスト相互作用が起こりやすくなり、高分子材料の機械的物性が向上し、特に、破断ひずみに優れ、伸長率及び柔軟性に優れ、高分子材料の透明性も向上させることができる。シクロデキストリン誘導体の種類は特に限定されず、様々なシクロデキストリン誘導体を使用することができる。
【0022】
ホスト基含有モノマーとしては、ホスト基を1つ以上(好ましくは1つ)含有するビニル系モノマーが挙げられる。ホスト基の種類としては上述の通りである。ホスト基含有モノマーとしては、例えば、下記式(1)で表される重合性モノマーが挙げられる。
【0023】
【化1】
【0024】
前記式(1)中、Qは、O又はNHであり、NHが好ましい。CDは、シクロデキストリンであり、好ましくは、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン又はγ-シクロデキストリンである。Raは、水素原子又はメチル基である。
【0025】
前記式(1)で表されるモノマーとしては、6-(メタ)アクリルアミド-α-シクロデキストリン、6-(メタ)アクリルアミド-β-シクロデキストリン、α-シクロデキストリンメタクリレート、β-シクロデキストリンメタクリレート、α-シクロデキストリンアクリレート、及びβ-シクロデキストリンアクリレート等から選択される一種又は二種以上の組み合わせであり、又はこれらの異性体であり、或いは、これらの一部又は全てが置換基で置換されたものであってよい。
【0026】
前記ホスト基含有モノマーは公知の方法(例えば、国際公開第2013/162019号等に開示の方法)で製造することができる。
【0027】
〈ゲスト基含有モノマー〉
ゲスト基は、例えば、置換基を有してもよい、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、及びアリールアルキル基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0028】
アルキル基の具体例として、直鎖、分岐又は環状のC1~18のアルキル基が挙げられ、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、シクロペンチル、n-ヘキシル、シクロヘキシル、イソへキシル、ドデシル、オクタデシル、アダマンチル等のアルキル基から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはアダマンチル基又はブチル基であり、特に好ましくはアダマンチル基である。
【0029】
アルキル基は、置換基、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくは1~3個程度有してよい。有機金属錯体であるフェロセンを置換基として結合させたアルキル基であってもよい。
【0030】
アリール基の具体例として、例えば、単環又は2環以上のアリール基が挙げられ、フェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリルから選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはフェニル基である。アリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1~18アルキル基等)、ニトロ基、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アリール基を有するアゾ基、保護されていてもよい水酸基等の置換基から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくは1~3個程度有していてもよい。
【0031】
アリールアルキル基の具体例として、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3の低級アルキルに、前記した単環又は2環以上のアリール基が置換した基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、ナフチルメチル基、アントラセンメチル基、ピレンメチル基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ベンジル基、ナフチルメチル基である。
【0032】
アリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1~18アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アリール基を有するアゾ基、保護されていてもよい水酸基等の置換基から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはこれらを1~3個程度有していてもよい。例えば、ヒドロキシフェニルメチル基、メチルフェニルメチル基、ジメチルフェニルメチル基、トリメチルフェニルメチル基、カルボキシフェニルメチル基、ヒドロキシメチルフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0033】
ゲスト基含有モノマーとしては、ゲスト基を1つ以上(好ましくは1つ)含有するビニル系モノマーが挙げられる。ゲスト基の種類としては上述の通りである。ゲスト基含有モノマーとしては、例えば、下記式(2)で表されるモノマーが挙げられる。
【0034】
【化2】
【0035】
前記式(2)中、Aは、置換基を有してもよいアリール基、C(O)OR1又はC(O)NHR1であり、R1は、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよいアリールアルキル基である。Rbは、水素原子又はメチル基である。
【0036】
前記式(2)において、R1で示される、置換基を有してもよいアルキル基のアルキル基としては、例えば、直鎖、分岐又は環状のC1~18のアルキル基が挙げられる。具体的には、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、シクロペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、イソへキシル、ドデシル、オクタデシル、アダマンチル等のアルキル基から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。このうち、好ましくはアダマンチル基又はブチル基であり、特に好ましくはアダマンチル基である。該アルキル基は、例えば、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、保護されていてもよい水酸基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはこれらを1~3個程度有していてもよい。有機金属錯体であるフェロセンを置換基として結合させたアルキル基でもよい。
【0037】
前記式(2)において、A及びR1で示される、置換基を有してもよいアリール基のアリール基としては、例えば、単環又は2環以上のアリール基が挙げられ、具体的にはフェニル、トルイル、キシリル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。このうち、好ましくはフェニル基である。該アリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1~18アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アリール基を有するアゾ基、保護されていてもよい水酸基から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはこれらを1~3個程度有していてもよい。
【0038】
前記式(2)において、R1で示される、置換基を有してもよいアリールアルキル基のアリールアルキル基としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1~3の低級アルキルに、前記に挙げた単環又は2環以上のアリール基が置換した基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、ナフチルメチル基、アントラセンメチル基、ピレンメチル基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくは、ベンジル基、ナフチルメチル基である。該アリール基は、例えば、アルキル基(例えば、C1~18アルキル基等)、ハロゲン原子(例えば、フッ素、塩素、臭素等)、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アリール基を有するアゾ基、保護されていてもよい水酸基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられ、好ましくはこれらを1~3個程度有していてもよい。例えば、ヒドロキシフェニルメチル基、メチルフェニルメチル基、ジメチルフェニルメチル基、トリメチルフェニルメチル基、カルボキシフェニルメチル基、ヒドロキシメチルフェニルメチル基、トリフェニルメチル基等から選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0039】
前記式(2)で表されるモノマーとして、好ましくは、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、N-(1-アダマンチル)アクリルアミド、アクリル酸2-エチル-2-アダマンチル、N-ベンジルアクリルアミド、N-1-ナフチルメチルアクリルアミド、スチレンから選択される一種又は二種以上の組み合わせが挙げられる。
【0040】
前記式(2)で表されるモノマーは、Aが置換基を有してもよいアリール基の場合、市販のモノマー(スチレンなど)を、そのまま用いることができる。前記のようなホスト基含有モノマー、ゲスト基含有モノマーは公知の方法(例えば、国際公開第2013/162019号等に開示の方法)で製造することができる。
【0041】
イオン性重合性モノマーとしては、(メタ)アクリル酸の塩、スチレンスルホン酸の塩、側鎖に第4級アンモニウム塩を有する(メタ)アクリルアミド及び側鎖に第4級アンモニウム塩を有する(メタ)アクリルエステルが挙げられる。イオン性重合性モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸ナトリウム、スチレンスルホン酸ナトリウム、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩化メチル4級塩、(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド等が例示される。
【0042】
前記のようなゲスト基含有モノマーは公知の方法(例えば、国際公開第2013/162019号等に開示の方法)で製造することができる。
【0043】
〈モノマー〉
本発明にあっては、基本となるモノマーは、具体的には、樹脂成分として、(メタ)アクリレートモノマーおよび(メタ)アクリレートオリゴマーのうち、少なくとも1つを含むことができる。(メタ)アクリレートは、アクリレート及びメタクリレートを意味する。
【0044】
(メタ)アクリレートモノマーは、モノ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリレート、又はこれら混合物であってよい。モノ(メタ)アクリレートの具体例としては、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸、ベンジル(メタ)アクリレート、4-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が例示される。本発明にあっては、好ましくは、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物であり、より好ましくは、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート又はこれらの混合物である。
【0045】
ポリ(メタ)アクリレートの具体例としては、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、デカンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-アクリロイロキシプロピルメタクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレンングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンポリオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンポリオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、9,9-ビス[4-(2-アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO付加物ジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのEO付加物又はPO付加物のポリオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンEO付加物トリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、テトラフルフリルアルコールオリゴ(メタ)アクリレート、エチルカルビトールオリゴ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールオリゴ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンオリゴ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールオリゴ(メタ)アクリレート、(ポリ)ウレタン(メタ)アクリレート、(ポリ)ブタジエン(メタ)アクリレートからなる群から選択される一種又は二種以上の混合物が例示される。
【0046】
(繊維構造体)
本発明にあっては、高分子複合体は、繊維構造体を備えてなるものである。繊維構造体は、高分子複合体において、主として、高強度性(特に、耐切創性)、異方性(伸縮性及び高強度性に関して)として機能するものである。
【0047】
本発明にあっては、繊維構造体は、一又は複数の繊維から構築される二次元、又は三次元の構造体であり、高分子複合体に対して、高強度性(耐切創性)の向上、特に、強度(耐切創力)及び伸縮性に関する異方性を高分子複合体に付与する。繊維の組成、繊維構造体における二次元又は三次元の構造により、強度(耐切創力)を向上させることができる。また、強度性および伸縮性に関する異方性については、特に三次元の構造により制御することができる。繊維構造体として、高強度繊維(例えば、ポリアミド繊維等)を用いて編物を形成する場合、編物の横方向と縦方向で異方性を有する繊維構造体を得ることができる。編物の構成を制御することで、強度(耐切創力)及び伸縮性に関する異方性を制御することができる。
【0048】
〈繊維〉
繊維は、柔軟性、強度性、伸縮性を構築することが可能なものであれば天然又は合成のいずれであってもよいが、好ましくは、(化学)合成繊維が使用される。繊維としては精製繊維、再生繊維、半合成繊維、合成繊維、無機物繊維、無機物及び有機物による合成繊維等が挙げられる。
【0049】
「精製繊維(天然高分子)」としては、セルロース系繊維(リヨセル、テンセル)が例示される。「再生繊維(天然高分子)」としては、セルロース系繊維(レーヨン、ビスコースレーヨン、ポリノジック、キュプラ、銅アンモニアレーヨン)、タンパク質系繊維(カゼイン繊維、落花生タンパク繊維、とうもろこしタンパク繊維、大豆タンパク繊維、再生絹糸)、その他の繊維(アルギン繊維、キチン繊維、マンナン繊維、ゴム繊維)等が例示される。「半合成繊維(半合成高分子)」としては、セルロース系繊維(アセテート、トリアセテート、酸化アセテート)、タンパク質系繊維(プロミックス)、天然ゴム系繊維(塩化ゴム、塩酸ゴム)等が例示される。「合成繊維(合成高分子)」としては、ポリアミド系繊維(ナイロン、ナイロン6、ナイロン66、芳香族ナイロン)、芳香族ポリアミド系繊維(アラミド)、ポリビニルアルコール系(ビニロン)、ポリ塩化ビニリデン系(ビニリデン)、ポリ塩化ビニル系繊維(ポリ塩化ビニル)、ポリエステル系繊維(ポリエステル)、ポリアクリロニトリル系繊維(ポリアクリロニトリル繊維、モダクリル繊維)、ポリオレフィン系繊維(ポリエチレンル繊維、ポリプロピレン繊維、ポリスチレン繊維)、ポリエーテルエステル系繊維(レクセ、サクセス)、ポリウレタン系繊維(ポリウレタン)、ポリイミド系繊維(ポリイミド)、アクリレート系繊維、エチレンビニールアルコール系繊維、ポリクラール系繊維等が例示される。「炭素繊維」としては、アクリル繊維又はピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して作った繊維であり、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が挙げられる。また、ガラス繊維(石英ガラス等の無アルカリガラス繊維)、人造鉱物繊維(ロックウール、グラスウール、セラミックファイバー)が使用可能である。
【0050】
本発明にあっては、好ましくは、アラミド繊維、ポリアリレート繊維、ガラス繊維、(超高分子量)ポリエチレン繊維、PBO(ポリパラフェニレンベンズオキサゾール)繊維、炭素繊維等が好ましくは用いられる。
【0051】
繊維は、フィラメント(長繊維:マルチフィラメント、単繊維:モノフィラメント)、ステープル(短繊維)であってよい。また、紡糸後に、延伸(引き伸し、適度な強さと伸度を繊維に付与する処理)を行ってよい。また、撚り、延伸等を行う作業として、延伸糸(FOY)、半延伸糸(POY)、延伸加工糸(DTY)を行ってもよい。さらに、紡糸後、紡績(ステープルを紡いで糸にすること)、混紡(二種以上の異なったステープルを混ぜ合わせて紡績すること)、撚糸(フィラメント糸及び紡績糸に撚りをかけること)、交撚(二種類以上のちがった種類の糸を混ぜながら撚りをかけること)等を行って、所望の繊維形態(糸)とすることができる。また、繊維の断面もまた、円形、楕円形、多角形、Y字形、星形等の様々な形状とすることができ、また、繊維の中を空洞とした中空繊維として構成することができる。
【0052】
本発明にあっては、前記繊維構造体を構成する繊維は、引張強度が1GPa以上のものであれば好ましいものとして使用できる。
【0053】
繊維は、紡糸、糸とした後に、「織物」、「編物」、「織布」、「不織布」又はこれらの混合体(布地又は生地形態)として形成され、繊維構造体とすることができる。
【0054】
(異方性)
本発明にあっては、前記高分子複合体の切創力及び伸び率それぞれが、前記高分子複合体の水平方向(X方向)と、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)において異方性を有することを特徴とする。本発明において、「異方性」とは、伸び率と、切創力のX方向とY方向の比(X/Y)又はY方向とX方向の比(Y/X)として表すことが可能である。
【0055】
本発明にあっては、上記異方性を有することにより、一定方向に伸縮する箇所の表層材用途、取り分け、ロボットの表層材用途に好適に用いられる。伸び率の異方性を有することで、ロボットの駆動部などの伸縮する箇所に設置することが可能となり、切創力の異方性を有することで、保護機能の高い表層材を提供することが可能となる。
【0056】
(数式(1)及び数式(2)又は数式(3))
本発明にあっては、下記数式(1)及び数式(2)又は数式(3)を充足するものが好ましい。例えば、本発明による高分子複合体は、例えば、図1に示すような三次元立体構造とした場合、水平方向(X方向)、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)、そして、厚み方向(Z方向)として数値を測定し算出することができる。
【0057】
(切創力比:Sx/Sy)
本発明における高分子複合体は、前記高分子複合体の水平方向(X方向)における切創力Sxと、前記X方向に対して垂直方向(Y方向)における切創力Syが下記(式1)を満たすものである。
2<Sx/Sy (式1)
【0058】
本発明にあっては、Sx/Syは2超過であり、好ましくは3超過であり、より好ましくは5超過である。Sx/Syが上記数値であることにより、即ち、前記X方向に高い切創力を有することで、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部など、傷などダメージを受け易い部位において特定方向の保護機能が高い表層材を提供可能となる。
【0059】
Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した値である。この測定方法は、試料と接触させた試験用刃物に負荷荷重を徐々に加えながら、試験用刃物をゆっくりと移動させ、刃物が試料を貫通したときの力から、切創抵抗性(切創力)を評価する方法である。刃物と、試料の下に位置する試料ホルダとの電気的な接触により、試料の貫通を検出する。具体的には、試験装置に取り付けた試験片上を、試験測定用刃物が150mm/minの速度で20mm移動して試験片を切断する時に必要な切断荷重(N)で測定することができる。
【0060】
(伸び率比:Ex/Ey)
本発明における高分子複合体は、前記高分子複合体を前記X方向に沿って50mm、前記Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記X方向の伸び率Exとし、かつ、
前記高分子複合体を前記Y方向に沿って50mm、前記X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記Y方向に対して引張試験をした際、応力0.1MPaにおける前記Y方向の伸び率Eyが下記(式2)又は(式3)を満たすものである。
2<Ex/Ey (式2)
2<Ey/Ex (式3)
【0061】
本発明にあっては、Ex/Eyは2超過であり、好ましくは3超過であり、より好ましくは4超過である。Ex/Eyが上記数値であることにより、即ち、前記X方向に高い伸縮性を有することから、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に、駆動部の伸縮方向とエラストマーのより高い伸縮性を有する方向(Y方向)とを一致させ、設置することにより、Ex/Eyが
高い数値であるほど駆動部が抵抗なく駆動することが可能となる。
【0062】
本発明にあっては、Ey/Exは2超過であり、好ましくは3超過であり、より好ましくは4超過である。Ey/Exが上記数値であることにより、即ち、前記Y方向に高い伸縮性を有することから、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に、駆動部の伸縮方向とエラストマーのより高い伸縮性を有する方向(Y方向)とを一致させ、設置することにより、Ey/Exが高い数値であるほど駆動部が抵抗なく駆動することが可能となる。
【0063】
また、高分子複合体が、Ex/Ey又はEy/Exが上記数値を満たし、かつ、前記切創力比(Sx/Sy)が前記数値を満たす場合においては、特に、伸び率の高い方向と切創力が高い方向が直交することから、より好適には、ロボットの駆動部等の伸縮する箇所に設置する表層材として用いることができる。
【0064】
本発明の好ましい態様によれば、高分子複合体の伸び率Exが15%以上であり、好ましくは30%以上であり、より好ましくは60%以上であることが好ましい。また、高分子複合体の伸び率Eyが15%以上であり、好ましくは30以上であり、より好ましくは60%以上であることが好ましい。
【0065】
Ex又はEyが15%以上であれば、柔軟性、伸縮性、耐久性、強度性、及び保護性が要求される部材、例えば、多くの可動部材に適用することが可能となり、伸び率Ex又はEyが30%以上であれば、例えば、ヒト型ロボットの最も高い伸び率を必要とされる膝部材及び肘部材等にも適用可能となる。また、伸び率Ex又はEyが60%以上であれば、ヒト型ロボット以外のより高い伸び率を必要とする駆動部材に用いることが可能となる他、必要とされる伸び率が低い場合であっても、より小さい力で伸ばすことが可能となるため好ましい。
【0066】
Ex及びEyは、JIS L 1096に準拠した測定方法により測定した値である。この測定方法は、試料をX方向に沿って100mm、Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定した。また、Eyは、試料をY方向に沿って100mm、X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定することができる。
【0067】
〔高分子複合体の製造方法〕
本発明の一の態様において、高分子複合体の製造方法を提案することができ、その製造方法は、
ホスト基含有モノマーと、ゲスト基含有モノマーと、繊維構造体とを用意し、
前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを重合し高分子とし、
前記高分子と前記繊維構造体とを複合化することを含んでなるものである。
なお、高分子、繊維構造体の内容、材料、調製等は、〔高分子複合体〕の項で説明したのと同様であってよい。
【0068】
(重合)
重合方法としては、前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとをラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合、配位重合、重縮合等の重合方法を用いることができ、好ましくはラジカル重合を用いることができる。重合に際しては、重合開始剤、安定剤、促進剤、溶媒、イオン物質、加熱又はUV線等を使用することができる。
【0069】
ラジカル重合に用いる重合開始剤としては、ジハロゲン、アゾ化合物、有機過酸化物、酸化剤と還元剤を組み合わせたレドックス開始剤等を用いることができる。ラジカル重合には、溶媒を用いてもよい。モノマーと重合開始剤、場合によって溶媒を混合し、重合開始剤の種類に応じて、加熱又はUV光照射などにより重合開始剤からラジカルを発生させることで重合反応を開始する。重合完了後、必要に応じて精製処理などを行い、目的とする高分子を得ることができる。
【0070】
(複合化)
本発明にあっては、高分子と繊維構造体を複合化する。複合化された高分子複合体は、軽量性、柔軟性、伸縮性、及び高強度(特に、耐切創性)、並びに、耐久性及び異方性(伸縮性及び強度性に関する)を発揮させることができる。本発明の好ましい態様によれば、上記諸機能を全て十分に発揮させるために、高分子と繊維構造体の相互作用を適切に調製することが好ましい。
【0071】
発明にあっては、前記高分子と前記繊維構造体とを複合化することは、前記繊維構造体(存在下)において、前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを重合することが提案される。例えば、前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを前記繊維構造体とを混合した後に重合し、又は、前記繊維構造体に前記ホスト基含有モノマーと、前記ゲスト基含有モノマーとを付与した後に重合することであってよい。或いは、前記高分子を構成するモノマーを重合することは、前記ホスト基含有モノマー及び前記ゲスト基含有モノマーのみで重合してもよい。この場合、得られた高分子を繊維構造体に付与して、複合化をすることとなる。
【0072】
複合化させる方法としては、高分子と繊維構造体を接着させた後に、熱プレスを行い複合化させる方法等を用いることができる。
【0073】
高分子、繊維構造体の内容、材料、調製等は、〔高分子複合体〕の項で説明したのと同様であってよい。
【0074】
本発明にあっては、上記高分子複合体の製造方法で製造された高分子複合体もまた、本発明の一の態様で提案することができる。
【0075】
〔用途〕
本発明による高分子複合体は機能性材料として使用される。従って、例えば、製品の表層材として使用することができる。特に好ましくは、ロボットの表層材(外装材)として使用することが可能である。従って、本発明にあっては、本発明による高分子複合体で形成された表層材を備えてなるロボットを提案することができる。実際、図2に示す通り、ロボットの関節部分において表層材として使用する。特に、(介護)ロボットは、直接被介護者と触れ合うことから、その表層材には、柔軟性が求められ、かつ、ロボット内部を保護する機能(強度性)及び耐久性が必要であり、他方、ロボットの駆動部(可動領域)においては、伸縮性(可撓性)及び柔軟性(特に、一定方向)を備える必要がある。よって、本発明による高分子複合体は、当該必要性を充足させた(介護)ロボット用表層材として好ましくは使用される。
【実施例
【0076】
本発明の内容を以下の実施例を用いて説明するが、本発明の範囲は、これら実施例に限定して解釈されるものではない。また、本明細書に開示された様々な本発明の態様は、本実施例から当業者が容易に本発明を実施することができるものである。
【0077】
〔繊維の調製〕
(1)ポリアリレート繊維編物
22texのゼクシオン繊維(KBセーレン社製)を用意し、これを用いて経編して、厚さ1.03mm、目付61.18g/m2のポリアリレート繊維編物を得た。
(2)ガラス繊維編物
67.5texのガラス繊維(セントラルグラスファイバー社製)を用意し、これを用いて経編して、厚さ0.7mm、目付370g/m2のガラス繊維編物を得た。
【0078】
〔ホスト基含有モノマーの調製〕
ナスフラスコにβ-シクロデキストリン(19.4部、ユシロ化学工業)、無水酢酸(100.0部、東京化成)、ピリジン(129.2部、東京化成)を加え、70℃で4時間攪拌し、反応させた。その後、氷冷下でメタノール(31.4部、キシダ化学)を加え、20分間攪拌し反応液を得た。前記反応液を水に滴下してTAcβ-シクロデキストリンを析出、遠心(3500rpm、3分間)により沈殿物を得た。前記沈殿物を吸引濾過し一晩乾燥させ析出物を分取した。前記析出物を3日間真空乾燥させ、ホスト基含有モノマーとして、アセチル化β-シクロデキストリン(CDモノマー)を得た。
【0079】
〔実施例1〕
(高分子前駆体溶液の調製)
ナスフラスコに主鎖モノマーとしてエチルアクリレート(EA、100.0部、ナカライテスク株式会社)、CDモノマー(12.1部)、ゲストモノマーとしてアクリル酸2-エチル-2-アダマンチル(2.4部、大阪有機化学工業)を加え、超音波洗浄槽で60分間処理し、CDモノマーを完全に溶解させた後、光重合開始材としてIrgacure184(0.4部、BASF)を添加し溶解させることで高分子前駆体溶液を得た。
(高分子複合体の調製)
2枚のガラス板の間に1.0mmのスペーサを挟み込むことで、フィルム形成用冶具を形成した。その間に前記ポリアリレート繊維編物をセットしたのちに、上記高分子前駆体溶液を入れ、ガラス面からUV光(170mW/cm2)を60分間照射し、得られた試料を取り出して80℃で一晩加熱真空乾燥を行うことですることで高分子複合体1を得た。
〔実施例2〕
実施例1において、エチルアクリレート(EA)をブチルアクリレート(BA、128.0部、ナカライテスク)に変更した以外は同様にして高分子複合体2を得た。
〔実施例3〕
実施例1において、ポリアリレート繊維編物をガラス繊維編物に変更した以外は同様にして高分子複合体3を得た。
〔実施例4〕
実施例1において、エチルアクリレート(EA)を上記ブチルアクリレート(BA)に、ポリアリレート繊維編物をガラス繊維編物に、それぞれ変更した以外は同様にして高分子複合体4を得た。
【0080】
〔比較例1〕
実施例1において、ポリアリレート繊維編物を用いない以外は同様にして高分子体1を得た。
〔比較例2〕
実施例1において、エチルアクリレート(EA)を上記ブチルアクリレート(BA)に変更し、ポリアリレート繊維編物を用いない以外は同様にして高分子体2を得た。
【0081】
〔評価試験〕
実施例の高分子複合体及び比較例の高分子体に関して、以下の評価を行った。
【0082】
〔引張試験評価〕
Ex及びEyは、JIS L 1096に準拠した測定方法により測定した。
Exは、試料をX方向に沿って50mm、Y方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定した。
Eyは、試料をY方向に沿って50mm、X方向に10mm、厚さ1mmに切り出し、前記X方向に対して引張試験を行う。測定された荷重(N)を試料の断面積で割ることで応力を算出し、0.1MPaにおける伸び率を測定した。
これら測定結果は、下記表1に記載した通りであった。
【0083】
〔切創強度評価試験〕
Sx及びSyは、ISO 13997(JIS T 8052)に準拠した測定方法により測定した。
この測定方法は,試料と接触させた試験用刃物に負荷荷重を徐々に加えながら、試験用刃物をゆっくりと移動させ、刃物が試料を貫通したときの力から、切創抵抗性(切創力)を評価する方法である。刃物と、試料の下に位置する試料ホルダとの電気的な接触により、試料の貫通を検出する。具体的には、試験装置に取り付けた試験片上を、試験測定用刃物が150mm/minの速度で2mm移動して試験片を切断する時に必要な切断荷重(N)で測定した。
これら測定結果は、下記表1に記載した通りであった。
【0084】
〔評価結果〕
下記表1に示された通り、本願発明(実施例)は、比較例と対比して、
切創力比(Sx/Sy)および伸び率比(Ex/Ey)が高いことがわかった。これらの結果から、特定方向の保護機能および伸縮性において、優れた効果を発揮することが明らかに理解される。
【0085】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明の高分子複合体は、高強度、柔軟性、伸縮性の機能を有し、一定方向に対して高い伸縮性を有することから、人体と直接かつ柔軟に接触することが可能であり、可動領域を自在に実現できるように可撓性と伸縮性とを実現することが可能となり、また、内部構造体を保護する強度を備えた素材(例えば、ロボット用表層材)として好適である。
図1
図2