(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】極性基含有アリルモノマー共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 210/02 20060101AFI20231211BHJP
C08F 4/80 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08F210/02
C08F4/80
(21)【出願番号】P 2020097097
(22)【出願日】2020-06-03
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(73)【特許権者】
【識別番号】303060664
【氏名又は名称】日本ポリエチレン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】野崎 京子
(72)【発明者】
【氏名】黒田 潤一
(72)【発明者】
【氏名】林 慎也
(72)【発明者】
【氏名】奥村 吉邦
(72)【発明者】
【氏名】上松 正弘
(72)【発明者】
【氏名】満重 佑輔
【審査官】渡辺 陽子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-079347(JP,A)
【文献】特開2017-031300(JP,A)
【文献】特開2019-112623(JP,A)
【文献】国際公開第2019/163442(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは
Pdを表し、Xはリン原子(P
)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換若しくは無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換若しくは無置換のアルキレン基、
及び炭素原子数3~30の置換若しくは無置換のシクロアルキレン
基から選ばれる2価の基を表す。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、又はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6とR
7は結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R
5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1又は2である。)で示される金属錯体を触媒として使用し、エチレン、
一般式(1)
【化2】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換又は無置換のアミド基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のピロリジル基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピペリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のヒドロフリル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のイミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を表す。)で示される極性基を有するアリルモノマー、
及び一般式(2)
【化3】
(式中、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物を、
エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の和に対する一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の割合を70モル%以上として共重合することを特徴とする極性基含有アリルモノマー共重合体の製造方法。
【請求項2】
得られる共重合体がゲル化していないことを特徴とする請求項1に記載の共重合体の製造方法。
【請求項3】
一般式(C1)中のYが、置換若しくは無置換の1,2-フェニレン基又は置換若しくは無置換のメチレン基である請求項1又は2のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【請求項4】
一般式(C1)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基又は炭素原子数5~20のシクロアルキル基である請求項1~3のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項5】
一般式(C1)中のR
6及びR
7が、イソプロピル基、t-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、又はメンチル基から選択される請求項1~4のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項6】
一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物が、無置換の2,5-ノルボルナジエン(一般式(2)中のR
2、R
3、及びR
4がいずれも水素原子)である請求項1~5のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーが酢酸アリル(一般式(1)中のR
1がアセトキシ基(CH
3C(=O)-O-))である請求項1~6のいずれか一項に記載の共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性基を含有するアリルモノマー共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非極性モノマーであるエチレンやプロピレンなどのオレフィンと極性基を有するビニルモノマーとの共重合体は、無極性であるポリエチレンやポリプロピレンにはない機能性や特性を有しており、幅広い分野で使用されている。例えば、エチレン・ビニルアルコール共重合体(EVOH)は、エチレンモノマー構造単位とビニルアルコールモノマー構造単位からなる共重合体であり、エチレンと酢酸ビニルのラジカル共重合で得られるエチレン・酢酸ビニル共重合体をケン化することによって製造される。EVOHはその優れたガスバリア性を生かして、食品包装用途など広い分野で使用されている。
【0003】
一方で、酢酸アリルやアリルアルコールなどの極性基を有するアリルモノマーの重合は、通常のビニルモノマーと比べて難しく、その重合体はほとんど知られていない。その主な理由は、アリルモノマーをラジカル重合させた場合、アリル位炭素上に存在する水素原子引き抜きによるモノマーへの退化的連鎖移動反応のため、ポリマーの生長反応が極めて遅く、重合度の低いオリゴマーしか得られないためである(Chem. Rev. 58, 808 (1958);非特許文献1)。
【0004】
特開2011-68881号公報(特許文献1)、国際公開第2013/168626号(特許文献2)及びJ. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)(非特許文献2)には、周期表第10族の金属錯体触媒を使用したエチレンと極性基含有アリルモノマーの配位共重合が示されており、ラジカル重合法では得られなかった極性基含有アリルモノマー共重合体の合成に成功している。
【0005】
特開2013-079347号公報(特許文献3)には、周期表第10族の金属錯体触媒を使用して、エチレンと極性基含有アリルモノマー以外の第3のモノマーとして、ジエン化合物を共重合させた例が示されている。エチレンと極性基含有アリルモノマーとの共重合で得られる重合体に比べて、より高い分子量の重合体が得られる一方で、ジエン化合物による架橋反応も進行しており、溶媒に不溶なゲル化成分が生成していた。そのため、1,2-ジクロロベンゼンを溶媒とするソックスレー抽出により、可溶ポリマーと不溶ポリマーを分離するという工程が必要であった。
【0006】
また、特開2014-159540号公報(特許文献4)及び国際公開第2016/067776号(特許文献5)には、上記文献に記載の触媒をさらに改良することで、様々な成形品に成形できるレベルの分子量の重合体を製造できるようになったことが開示されている。しかしながら、触媒コストの観点から、触媒活性及び単位触媒あたりのポリマー生産性は十分ではなく、工業化に向けて課題は残されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-68881号公報
【文献】国際公開第2013/168626号
【文献】特開2013-079347号公報
【文献】特開2014-159540号公報
【文献】国際公開第2016/067776号
【非特許文献】
【0008】
【文献】Chem. Rev. 58, 808 (1958)
【文献】J. Am. Chem. Soc., 133, 1232 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、エチレンと極性基を有するアリルモノマーとの共重合体を、周期表第10族金属錯体を触媒として製造するにあたり、より高い触媒活性で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、周期表第10族金属錯体を触媒として使用し、エチレンと極性基を有するアリルモノマーに加えて、2,5-ノルボルナジエン類似化合物を共重合することにより、高い触媒活性で、種々の応用が可能な極性基を有するアリルモノマー共重合体を製造可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は以下の[1]~[7]の共重合体の製造方法に関する。
[1]
一般式(C1)
【化1】
(式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)又は砒素原子(As)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換若しくは無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、置換若しくは無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、又は置換若しくは無置換のシリレン基(-SiH
2-)から選ばれる2価の基を表す。R
5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R
6及びR
7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、又はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R
6とR
7は結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R
5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1又は2である。)で示される金属錯体を触媒として使用し、エチレン、
一般式(1)
【化2】
(式中、R
1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換又は無置換のアミド基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のピロリジル基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピペリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のヒドロフリル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のイミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を表す。)で示される極性基を有するアリルモノマー、
及び一般式(2)
【化3】
(式中、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物を、
エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の和に対する一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の割合を70モル%以上として共重合することを特徴とする極性基含有アリルモノマー共重合体の製造方法。
[2]
得られる共重合体がゲル化していないことを特徴とする[1]に記載の共重合体の製造方法。
[3]
一般式(C1)中のYが、置換若しくは無置換の1,2-フェニレン基又は置換若しくは無置換のメチレン基である[1]又は[2]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[4]
一般式(C1)中のR
6及びR
7が、いずれも炭素原子数3~20のアルキル基又は炭素原子数5~20のシクロアルキル基である[1]~[3]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[5]
一般式(C1)中のR
6及びR
7が、イソプロピル基、t-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、又はメンチル基から選択される[1]~[4]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[6]
一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物が、無置換の2,5-ノルボルナジエン(一般式(2)中のR
2、R
3、及びR
4がいずれも水素原子)である[1]~[5]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
[7]
一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーが酢酸アリル(一般式(1)中のR
1がアセトキシ基(CH
3C(=O)-O-))である[1]~[6]のいずれかに記載の共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
極性基を有するアリルモノマー共重合体を高い触媒活性で製造できるようになり、低い製造コストが実現可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[触媒]
(金属錯体の構造)
一実施形態で使用する周期表第10族金属錯体からなる触媒の構造は、一般式(C1)で示される。
【化4】
【0014】
式中、Mは周期表第10族の元素を表し、Xはリン原子(P)又は砒素原子(As)を表し、Yは、炭素原子数6~30の置換若しくは無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、置換若しくは無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、又は置換若しくは無置換のシリレン基(-SiH2-)から選ばれる2価の基を表す。R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。R6及びR7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、又はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表し、R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。Lは電子供与性配位子を表し、R5とLが環形成してもよい。qは0、1/2、1又は2である。
【0015】
なお、本明細書では、「炭化水素」は飽和、不飽和の脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素を含む。
【0016】
以下、一般式(C1)の構造について説明する。
【0017】
Mは周期表第10族の元素を表す。周期表第10族の元素としては、Ni、Pd、及びPtが挙げられるが、触媒活性及び得られる重合体の分子量の観点からNi及びPdが好ましく、Pdがより好ましい。
【0018】
Xはリン原子(P)又は砒素原子(As)であり、中心金属Mに2電子配位している。Xとしては、入手容易性及び触媒コストの面からPが好ましい。
【0019】
Yは、炭素原子数6~30の置換若しくは無置換のアリーレン基、炭素原子数1~20の置換若しくは無置換のアルキレン基、炭素原子数3~30の置換若しくは無置換のシクロアルキレン基、置換若しくは無置換のイミノ基(-NH-)、オキシ基(-O-)、又は置換若しくは無置換のシリレン基(-SiH2-)から選ばれる2価の基を表す。
【0020】
炭素原子数6~30の無置換のアリーレン基の例として、1,2-フェニレン基、1,2-ナフチレン基、2,3-ナフチレン基、1,8-ナフチレン基などが挙げられ、原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、1,2-フェニレン基及び1,2-ナフチレン基が好ましい。
【0021】
上記の無置換アリーレン基に1つ又は複数の置換基が存在していてもよい。置換基としては、炭素原子数1~4のアルキル基、炭素原子数6~20の芳香族炭化水素基、炭素原子数7~10のアルコキシフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、炭素原子数1~4のアルコキシ基、アリールオキシ基、置換又は無置換のアミノ基、シリル基、ハロゲン原子、及びフルオロアルキル基が好ましい。置換基の具体例としては、メチル基、エチル基、1-プロピル基、イソプロピル基、1-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、1-アントラセニル基、2-アントラセニル基、9-アントラセニル基;2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,3-ジメトキシフェニル基、2,4-ジメトキシフェニル基、2,5-ジメトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,4-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、3,6-ジメトキシフェニル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec-ブトキシ基、t-ブトキシ基;フェノキシ基;アミノ基、モノメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、モノ(n-プロピル)アミノ基、モノ(イソプロピル)アミノ基、モノ(n-ブチル)アミノ基、モノ(イソブチル)アミノ基、モノ(sec-ブチル)アミノ基、モノ(t-ブチル)アミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ(n-プロピル)アミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジ(n-ブチル)アミノ基、ジ(イソブチル)アミノ基、ジ(sec-ブチル)アミノ基、ジ(t-ブチル)アミノ基、モノフェニルアミノ基、モノベンジルアミノ基;トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリ(イソプロピル)シリル基、t-ブチルジメチルシリル基、t-ブチルジフェニルシリル基;フルオロ基、ブロモ基、クロロ基、ヨード基;トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ヘプタフルオロプロピル基、ノナフルオロブチル基などが挙げられる。なお、置換基が複数存在する場合、同じであっても異なっていてもよい。
【0022】
炭素原子数1~20の無置換のアルキレン基としては、炭素原子数1~10のアルキレン基が好ましい。炭素原子数1~20の無置換のアルキレン基の具体例としては、メチレン基、1,2-エチレン基、ジメチルメチレン基、ジエチルメチレン基、モノメチルメチレン基、モノエチルメチレン基、1-メチル-1,2-エチレン基、1-エチル-1,2-エチレン基、1,2-ジメチル-1,2-エチレン基、1,2-ジエチル-1,2-エチレン基、1,1-ジメチル-1,2-エチレン基、1,1-ジエチル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリメチル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリエチル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラメチル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラエチル-1,2-エチレン基などが挙げられる。原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、メチレン基、及びエチレン基が好ましい。
【0023】
上記の無置換のアルキレン基に1つ又は複数の置換基が存在していてもよい。置換基としてはアリール基、アルコキシ基、アルコキシフェニル基、アリールオキシ基、シリル基、オキソ基(=O)などが挙げられる。
【0024】
置換基を有する炭素原子数1~20のアルキレン基の具体例としては、ジフェニルメチレン基、モノフェニルメチレン基、モノ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(トリメチルシリル)メチレン基、ジ(2-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(2-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(3-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(3-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(4-メトキシフェニル)メチレン基、モノ(4-メトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)メチレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)メチレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)メチレン基、ジ(1-ナフチル)メチレン基、モノ(1-ナフチル)メチレン基、ジ(2-ナフチル)メチレン基、モノ(2-ナフチル)メチレン基、ジメトキシメチレン基、ジエトキシメチレン基、ジプロポキシメチレン基、ジイソプロポキシメチレン基、モノフェノキシメチレン基、ジフェノキシメチレン基、1,2-エタンジオキシメチレン基、1,3-プロパンジオキシメチレン基、1-フェニル-1,2-エチレン基、1,2-ジフェニル-1,2-エチレン基、1,1,2-トリフェニル-1,2-エチレン基、1,1,2,2-テトラフェニル-1,2-エチレン基、カルボニル基(-C(=O)-)などが挙げられる。
【0025】
炭素原子数1~20の置換又は無置換のアルキレン基としては、原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、メチレン基、モノメチルメチレン基、ジメチルメチレン基、モノフェニルメチレン基、及びジフェニルメチレン基が好ましい。
【0026】
炭素原子数3~30の無置換のシクロアルキレン基の例として、cis-シクロプロパン-1,2-イル基、trans-シクロプロパン-1,2-イル基、cis-シクロブタン-1,2-イル基、trans-シクロブタン-1,2-イル基、cis-シクロペンタン-1,2-イル基、trans-シクロペンタン-1,2-イル基、cis-シクロヘキサン-1,2-イル基、trans-シクロヘキサン-1,2-イル基、cis-シクロヘプタン-1,2-イル基、trans-シクロヘプタン-1,2-イル基、cis-シクロオクタン-1,2-イル基、trans-シクロオクタン-1,2-イル基などが挙げられる。原料入手の容易さ及び触媒合成の容易さから、cis-シクロペンタン-1,2-イル基、trans-シクロペンタン-1,2-イル基、cis-シクロヘキサン-1,2-イル基、及びtrans-シクロヘキサン-1,2-イル基が好ましい。
【0027】
上記の無置換シクロアルキレン基に1つ又は複数の置換基が存在していてもよい。置換基の具体例は、無置換アリーレン基に置換基が存在する場合の置換基の上記具体例と同様である。置換基が複数存在する場合、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0028】
置換又は無置換のイミノ基(-NH-)における置換基としては、炭素原子数1~5のアルキル基、炭素原子数2~10のアルコキシカルボニル基、炭素原子数6~20の、アルキル基又はアルコキシ基を有していてもよいアリール基、炭素原子数6~20のアラルキル基、及びシリル基が挙げられる。
【0029】
置換又は無置換のイミノ基(-NH-)の具体例として、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-エチルイミノ基、N-(n-プロピル)イミノ基、N-イソプロピルイミノ基、N-(n-ブチル)イミノ基、N-(sec-ブチル)イミノ基、N-(t-ブチル)イミノ基、N-ベンジルイミノ基、N-フェニルイミノ基、N-トリメチルシリルイミノ基、N-(2-メトキシフェニル)イミノ基、N-(3-メトキシフェニル)イミノ基、N-(4-メトキシフェニル)イミノ基、N-(2,6-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,3-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(3,5-ジメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメトキシフェニル)イミノ基、N-(2,4,6-トリメチルフェニル)イミノ基、N-(1-ナフチル)イミノ基、N-(2-ナフチル)イミノ基、N-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基などが挙げられる。
【0030】
触媒合成の容易さから、イミノ基、N-メチルイミノ基、N-ベンジルイミノ基、及びN-(t-ブトキシカルボニル)イミノ基が好ましい。
【0031】
置換又は無置換のシリレン基(-SiH2-)の例として、シリレン基、ジメチルシリレン基、ジエチルシリレン基、モノメチルシリレン基、モノエチルシリレン基、ジフェニルシリレン基、モノフェニルシリレン基、モノ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(トリメチルシリル)シリレン基、ジ(2-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(2-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(3-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(3-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(4-メトキシフェニル)シリレン基、モノ(4-メトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,3-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、モノ(3,5-ジメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメトキシフェニル)シリレン基、ジ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、モノ(2,4,6-トリメチルフェニル)シリレン基、ジ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2-イソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、モノ(2,6-ジイソプロピルフェニル)シリレン基、ジ(1-ナフチル)シリレン基、モノ(1-ナフチル)シリレン基、ジ(2-ナフチル)シリレン基、モノ(2-ナフチル)シリレン基、ジメトキシシリレン基、ジエトキシシリレン基、ジプロポキシシリレン基、ジイソプロポキシシリレン基、1,2-エタンジオキシシリレン基、1,3-プロパンジオキシシリレン基などが挙げられる。触媒合成の容易さから、シリレン基、モノメチルシリレン基、ジメチルシリレン基、モノフェニルシリレン基、及びジフェニルシリレン基が好ましい。
【0032】
これらのYとして好ましい群のうち、特に好ましくは、置換若しくは無置換の1,2-フェニレン基又は置換若しくは無置換のメチレン基である
【0033】
R5は、水素原子、ハロゲン原子、炭素原子数1~30の炭化水素基、ハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基、炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数6~30のアリールオキシ基、及び炭素原子数2~10のアシロキシ基からなる群より選ばれる置換基を表す。
【0034】
R5が表すハロゲン原子の好ましい具体例は、フッ素、塩素、及び臭素である。これらの中では塩素が好ましい。
【0035】
R5が表す炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは炭素原子数1~20の炭化水素基であり、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基である。好ましい具体例は、メチル基、エチル基、1-プロピル基、1-ブチル基、1-ペンチル基、1-ヘキシル基、1-ヘプチル基、1-オクチル基、1-ノニル基、1-デシル基、t-ブチル基、トリシクロヘキシルメチル基、1,1-ジメチル-2-フェニルエチル基、イソプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,1-ジエチルプロピル基、1-フェニル-2-プロピル基、イソブチル基、1,1-ジメチルブチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-エチルヘキシル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-プロピルヘプチル基、2-オクチル基、3-ノニル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、メチルシクロペンチル基、シクロヘキシル基、メチルシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロドデシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、エキソ-ノルボルニル基、エンド-ノルボニル基、2-ビシクロ[2.2.2]オクチル基、ノピニル基、デカヒドロナフチル基、メンチル基、ネオメンチル基、ネオペンチル基、5-デシル基、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フルオレニル基、トリル基、キシリル基、ベンジル基、4-エチルフェニル基などが挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、メチル基、又はベンジル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0036】
R5が表すハロゲン原子で置換された炭素原子数1~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフッ素、塩素又は臭素で置換した基であり、好ましい具体例として、トリフルオロメチル基、及びペンタフルオロフェニル基が挙げられる。
【0037】
R5が表す炭素原子数1~10のアルコキシ基で置換された炭素原子数2~30の炭化水素基は、好ましくは前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をメトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、又はt-ブトキシ基で置換した基である。さらに好ましくはメトキシ基又はエトキシ基で置換された炭素原子数2~6の炭化水素基である。具体的には、1-(メトキシメチル)エチル基、1-(エトキシメチル)エチル基、1-(メトキシエチル)エチル基、1-(エトキシエチル)エチル基、ジ(メトキシメチル)メチル基、及びジ(エトキシメチル)メチル基が挙げられる。特に好ましくは、1-(メトキシメチル)エチル基、又は1-(エトキシメチル)エチル基である。
【0038】
R5が表す炭素原子数6~20のアリールオキシ基で置換された炭素原子数7~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、又は2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基で置換した基である。さらに好ましくはフェノキシ基又は2,6-ジメチルフェノキシ基で置換された炭素原子数7~12の炭化水素基であり、特に好ましくは、1-(フェノキシメチル)エチル基、又は1-(2,6-ジメチルフェノキシメチル)エチル基である。
【0039】
R5が表す炭素原子数2~10のアミド基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基は、好ましくは、前述の炭素原子数1~30の炭化水素基をアセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、バレリルアミノ基、イソバレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、又はベンゾイルアミノ基で置換した置換基である。さらに好ましくは2-アセトアミドフェニル基、2-プロピオニルアミノフェニル基、2-バレリルアミノフェニル基、又は2-ベンゾイルアミノフェニル基であり、特に好ましくは、2-アセトアミドフェニル基である。
【0040】
R
5がアミド基で置換された炭化水素基である場合には、電子供与性配位子Lを別途使用せずとも、アミド基のカルボニル酸素がMに配位して環構造を形成することができる。即ち、R
5がLを兼ねることができる。この場合をR
5とLが環形成しているという。具体的には、2-アセトアミドフェニル基、2-プロピオニルアミノフェニル基、2-バレリルアミノフェニル基、及び2-ベンゾイルアミノフェニル基の場合が相当する。2-アセトアミドフェニル基の場合を下記化学式に示す。
【化5】
【0041】
R5が表す炭素原子数1~30のアルコキシ基は、好ましくは炭素原子数1~6のアルコキシ基であり、好ましい具体例は、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基である。これらの中で、さらに好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0042】
R5が表す炭素原子数6~30のアリールオキシ基は、好ましくは炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例は、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、及び2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基である。これらの中で、さらに好ましくは、フェノキシ基、又は2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基である。
【0043】
R5が表す炭素原子数2~10のアシロキシ基は、好ましくは炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、及びベンゾイルオキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、又はベンゾイルオキシ基であり、特に好ましくは、アセトキシ基、又はプロピオニルオキシ基である。
【0044】
これらのR5として好ましい群のうち、さらに好ましくは、炭素原子数1~20の炭化水素基、炭素原子数1~30のアルコキシ基、炭素原子数2~10のアミド基で置換された炭素原子数3~30の炭化水素基、又は炭素原子数2~10のアシロキシ基であり、特に好ましくは、メチル基、ベンジル基、メトキシ基、2-アセトアミドフェニル基、又はアセトキシ基である。
【0045】
R6及びR7はそれぞれ独立して、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、アミノ基、又はハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基を表す。
【0046】
R6及びR7が表すアルコキシ基としては、炭素原子数1~20のものが好ましく、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基などが挙げられる。
【0047】
R6及びR7が表すアリールオキシ基としては、炭素原子数6~24のものが好ましく、フェノキシ基などが挙げられる。
【0048】
R6及びR7が表すシリル基としてはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ(n-プロピル)シリル基、トリ(イソプロピル)シリル基などが挙げられ、アミノ基としてはアミノ基、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基などが挙げられる。
【0049】
R6及びR7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基における炭化水素基としては、アルキル基(鎖状アルキル基、シクロアルキル基、及び橋架けシクロアルキル基を含む)、及びアリール基(フェニル基、ナフチル基など)が挙げられ、炭素原子数3~20のアルキル基が好ましい。置換基としてのハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。置換基としてのアルコキシ基、及びアリールオキシ基はそれぞれ、前記R6及びR7が表すアルコキシ基、及びアリールオキシ基と同様のものが好ましい。
【0050】
R6及びR7が表すハロゲン原子、アルコキシ基及びアリールオキシ基から選ばれる1つ以上の基で置換されていてもよい炭素原子数1~120の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、n-ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、4-ヘプチル基、2-メチル-4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、3-メチル-4-ヘプチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2-メチル-3-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基、メンチル基(メンチル基、ネオメンチル基、イソメンチル基、ネオイソメンチル基はメンチル基と総称される。)、トリフルオロメチル基、ベンジル基、2’-メトキシベンジル基、3’-メトキシベンジル基、4’-メトキシベンジル基、4’-トリフルオロメチルベンジル基、9-フルオレニル基、2,7-ジメチル-9-フルオレニル基、2,7-ジエチル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-n-プロピル-9-フルオレニル基、2,7-ジイソプロピル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-n-ブチル-9-フルオレニル基、2,7-ジイソブチル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-sec-ブチル-9-フルオレニル基、2,7-ジ-t-ブチル-9-フルオレニル基、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,4,6-トリメチルフェニル基、2-イソプロピルフェニル基、3-イソプロピルフェニル基、4-イソプロピルフェニル基、2,6-ジイソプロピルフェニル基、3,5-ジイソプロピルフェニル基、2,4,6-トリイソプロピルフェニル基、2-t-ブチルフェニル基、2-シクロヘキシルフェニル基、2-メトキシフェニル基、3-メトキシフェニル基、4-メトキシフェニル基、2,6-ジメトキシフェニル基、3,5-ジメトキシフェニル基、2,4,6-トリメトキシフェニル基、4-フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、4-トリフルオロメチルフェニル基、3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、2-フリル基、2-ビフェニル基、2’,6’-ジメトキシ-2-ビフェニル基、2’-メチル-2-ビフェニル基、2’,4’,6’-トリイソプロピル-2-ビフェニル基などが挙げられる。
【0051】
触媒活性及び得られる共重合体の分子量の観点から、R6及びR7はいずれも炭素原子数3~20のアルキル基又は炭素原子数5~20のシクロアルキル基であることが好ましく、イソプロピル基、t-ブチル基、4-ヘプチル基、2,6-ジメチル-4-ヘプチル基、2-メチル-2-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、シクロヘキシル基、1-アダマンチル基、2-アダマンチル基又はメンチル基であることがより好ましく、イソプロピル基、t-ブチル基、2-メチル-2-ペンチル基、2,3,3-トリメチル-2-ブチル基、又はメンチル基であることが特に好ましい。R6とR7は同じでも、異なっていてもよい。R6とR7は結合して環構造を形成してもよい。
【0052】
電子供与性配位子(L)とは、電子供与性基を有し、金属原子Mに配位して金属錯体を安定化させることのできる化合物である。前述のように、R5がアミド基で置換された炭化水素基である場合には、アミド基のカルボニル酸素がMに配位して環構造を形成することができる。即ち、R5がLを兼ね、LはR5と環を形成している。
【0053】
電子供与性配位子(L)としては、硫黄原子を有するものとしてジメチルスルホキシド(DMSO)が挙げられる。窒素原子を有するものとして、アルキル基の炭素原子数1~10のトリアルキルアミン、アルキル基の炭素原子数1~10のジアルキルアミン、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(2,6-ルチジン)、アニリン、2,6-ジメチルアニリン、2,6-ジイソプロピルアニリン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)、アセトニトリル、ベンゾニトリル、キノリン、2-メチルキノリンなどが挙げられる。酸素原子を有するものとして、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタンなどが挙げられる。金属錯体の安定性及び触媒活性の観点から、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ピリジン、2,6-ジメチルピリジン(2,6-ルチジン)、及びN,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)が好ましく、ジメチルスルホキシド(DMSO)、及び2,6-ジメチルピリジン(2,6-ルチジン)がより好ましい。
【0054】
qは0、1/2、1又は2である。
【0055】
一般式(C1)の金属錯体を単離する場合、予め電子供与性配位子(L)を配位させて安定化させたものを用いることもできる。この場合、qは1/2、1又は2となる。qが1/2とは一つの2価の電子供与性配位子が2つの金属錯体に配位していることを意味する。qは金属錯体触媒を安定化する意味で1/2又は1が好ましい。なお、qが0の場合は配位子がないことを意味する。
【0056】
[金属錯体の製造方法]
一般式(C1)で示される触媒である金属錯体は、公知の文献(例えば、J. Am. Chem. Soc. 2012, 134, 8802)に記載の方法と同様の方法で、合成することができる。すなわち、0価又は2価のMソースと一般式(C1)中の配位子と反応させる。
【0057】
0価のMソースについては、パラジウムソースとして、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウムが挙げられ、ニッケルソースとして、テトラカルボニルニッケル(0):Ni(CO)4、及びビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルが挙げられる。
【0058】
2価のMソースについては、パラジウムソースとして、(1,5-シクロオクタジエン)(メチル)塩化パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(CH3CN)2、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム:PdCl2(PhCN)2、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジクロロパラジウム(II):PdCl2(TMEDA)、(N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン)ジメチルパラジウム(II):PdMe2(TMEDA)、ビス(アセチルアセトナト)パラジウム(II):Pd(acac)2(acac=アセチルアセトナト)、及びトリフルオロメタンスルホン酸パラジウム(II):Pd(OSO2CF3)2が挙げられ、ニッケルソースとして、(アリル)塩化ニッケル、(アリル)臭化ニッケル、塩化ニッケル、酢酸ニッケル、ビス(アセチルアセトナト)ニッケル(II):Ni(acac)2、(1,2-ジメトキシエタン)ジクロロニッケル(II):NiCl2(DME)、及びトリフルオロメタンスルホン酸ニッケル(II):Ni(OSO2CF3)2が挙げられる。
【0059】
一般式(C1)で示される金属錯体は、単離して使用することができるが、錯体を単離することなくMを含む金属ソースと配位子前駆体を反応系中で接触させて、これをそのまま(in situ)重合に供することもできる。特に一般式(C1)中のR5が水素原子の場合、0価のMを含む金属ソースと配位子とを反応させた後、錯体を単離することなくそのまま重合に供することが好ましい。
【0060】
一般式(C1)におけるMソース(M)と配位子(C1配位子)との比率((C1配位子)/M)は、モル基準で、0.5~2.0の範囲から選択することが好ましく、1.0~1.5の範囲で選択することがより好ましい。
【0061】
一般式(C1)で示される金属錯体は、担体に担持させて重合に使用することもできる。担体は、特に限定されないが、シリカゲル、アルミナなどの無機担体、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの有機担体などを挙げることができる。金属錯体の担持法としては、金属錯体の溶液を担体に含浸させて乾燥する物理的な吸着方法、金属錯体と担体とを化学的に結合させて担持する方法などが挙げられる。
【0062】
[モノマー]
一実施形態の共重合体の製造方法において、エチレンと共重合させる極性基を有するアリルモノマーは、一般式(1)
【化6】
で示される。
【0063】
式中、R1は、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数6~20のアリールオキシ基、炭素原子数2~10のアシル基、炭素原子数2~10のエステル基、炭素原子数2~10のアシロキシ基、アミノ基、炭素原子数1~12の置換アミノ基、炭素原子数2~12の置換又は無置換のアミド基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のピロリジル基、炭素原子数5~10の置換又は無置換のピペリジル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のヒドロフリル基、炭素原子数4~10の置換又は無置換のイミダゾリル基、メルカプト基、炭素原子数1~10のアルキルチオ基、炭素原子数6~10のアリールチオ基、エポキシ基、及びハロゲン原子からなる群より選ばれる置換基を表す。
【0064】
炭素原子数1~10のアルコキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数1~4のアルコキシ基であり、好ましい具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、1-プロポキシ基、1-ブトキシ基、及びt-ブトキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、又はイソプロポキシ基であり、特に好ましくは、メトキシ基である。
【0065】
炭素原子数6~20のアリールオキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数6~12のアリールオキシ基であり、好ましい具体例としては、フェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、4-メトキシフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基、及び2,6-ジ-t-ブチルフェノキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、フェノキシ基、3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基、又は2,6-ジメチルフェノキシ基であり、特に好ましくは、フェノキシ基、又は3,5-ジ-t-ブチルフェノキシ基である。
【0066】
炭素原子数2~10のアシル基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシル基であり、好ましい具体例としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、及びベンゾイル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、アセチル基、ピバロイル基、又はベンゾイル基であり、特に好ましくは、ベンゾイル基である。
【0067】
炭素原子数2~10のエステル基(オキシカルボニル基;R-O-(C=O)-、Rは有機基)であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のエステル基であり、好ましい具体例としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、n-プロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、n-ブトキシカルボニル基、t-ブトキシカルボニル基、(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基、(4-グリシジルブトキシ)カルボニル基、及びフェノキシカルボニル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、又は(4-ヒドロキシブトキシ)カルボニル基であり、特に好ましくは、メトキシカルボニル基である。
【0068】
炭素原子数2~10のアシロキシ基であるR1は、好ましくは、炭素原子数2~8のアシロキシ基であり、好ましい具体例としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、イソブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、イソバレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、及びトリフルオロアセトキシ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基、又はトリフルオロアセトキシ基であり、特に好ましくは、アセトキシ基、又はプロピオニルオキシ基である。
【0069】
炭素原子数1~12の置換アミノ基であるR1の好ましい具体例としては、モノメチルアミノ基、ジメチルアミノ基、モノエチルアミノ基、ジエチルアミノ基、モノイソプロピルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、モノフェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビス(トリメチルシリル)アミノ基、及びモルホリニル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、ジメチルアミノ基、又はジフェニルアミノ基である。
【0070】
炭素原子数2~12の置換又は無置換のアミド基(R-(C=O)NH-、Rは有機基)であるR1の好ましい具体例としては、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、ブチリルアミノ基、イソブチリルアミノ基、バレリルアミノ基、イソバレリルアミノ基、ピバロイルアミノ基、及びベンゾイルアミノ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、アセトアミド基、プロピオニルアミノ基、又はベンゾイルアミノ基であり、特に好ましくは、アセトアミド基である。
【0071】
炭素原子数5~10の置換又は無置換のピリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピリジル基、3-ピリジル基、2-(3-メチル)ピリジル基、2-(4-メチル)ピリジル基、3-(2-メチル)ピリジル基、3-(4-メチル)ピリジル基、2-(4-クロロメチル)ピリジル基、及び3-(4-クロロメチル)ピリジル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、2-ピリジル基、3-ピリジル基、又は2-(4-メチル)ピリジル基であり、特に好ましくは、2-ピリジル基である。
【0072】
炭素原子数4~10の置換又は無置換のピロリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、2-(1-ブチル)ピロリジル基、2-(1-シクロペンテニル)ピロリジル基、2-(4-メトキシカルボニル)ピロリジル基、及び2-(5-メトキシカルボニル)ピロリジル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、2-ピロリジル基、3-ピロリジル基、2-(1-メチル)ピロリジル基、又は2-(5-メトキシカルボニル)ピロリジル基であり、特に好ましくは、2-ピロリジル基である。
【0073】
炭素原子数5~10の置換又は無置換のピペリジル基であるR1の好ましい具体例としては、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピリジル基、2-(1-メチル)ピペリジル基、2-(1-エチル)ピペリジル基、2-(4-メチル)ピペリジル基、2-(5-メチル)ピペリジル基、及び2-(6-メチル)ピペリジル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、2-ピペリジル基、3-ピペリジル基、2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピリジル基、又は2-(6-メチル)ピペリジル基であり、特に好ましくは、2-ピペリジル基、又は2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピリジル基である。本開示の「ピペリジル基」は、非芳香族不飽和結合を有するもの、例えば2-(1,2,3,6-テトラヒドロ)ピリジル基も包含する。
【0074】
炭素原子数4~10の置換又は無置換のヒドロフリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-テトラヒドロフリル基、3-テトラヒドロフリル基、2-(5-メチル)テトラヒドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラヒドロフリル基、2-(5-エチル)テトラヒドロフリル基、2-(5-メトキシ)テトラヒドロフリル基、2-(5-アセチル)テトラヒドロフリル基、及び2-(4,5-ベンゾ)テトラヒドロフリル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、2-テトラヒドロフリル基、3-テトラヒドロフリル基、2-(5-メチル)テトラヒドロフリル基、2-(5-イソプロピル)テトラヒドロフリル基、又は2-(4,5-ベンゾ)テトラヒドロフリル基であり、特に好ましくは、2-テトラヒドロフリル基、2-(5-メチル)テトラヒドロフリル基、又は2-(5-イソプロピル)テトラヒドロフリル基である。
【0075】
炭素原子数4~10の置換又は無置換のイミダゾリル基であるR1の好ましい具体例としては、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、2-(1-ベンジル)イミダゾリル基、2-(1-アセチル)イミダゾリル基、2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基、及び2-(1-メチル-4,5-ベンゾ)イミダゾリル基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、2-イミダゾリル基、2-(1-メチル)イミダゾリル基、又は2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基であり、特に好ましくは、2-(1-メチル)イミダゾリル基、又は2-(4,5-ベンゾ)イミダゾリル基である。
【0076】
炭素原子数1~10のアルキルチオ基であるR1の好ましい具体例としては、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、及びt-ブチルチオ基が挙げられる。炭素原子数6~10のアリールチオ基であるR1の好ましい具体例としては、フェニルチオ基が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは、メチルチオ基、t-ブチルチオ基、又はフェニルチオ基であり、特に好ましくは、メチルチオ基、又はフェニルチオ基である。
【0077】
ハロゲン原子であるR1の好ましい具体例としては、フッ素、塩素、及び臭素が挙げられる。これらの中で、さらに好ましくは塩素又は臭素である。
【0078】
これらのR1として好ましい群のうち、さらに好ましくは、水酸基、炭素原子数1~10のアルコキシ基、炭素原子数2~10のエステル基、炭素原子数2~10のアシロキシ基、又はハロゲン原子であり、より好ましくは炭素原子数2~10のアシロキシ基である。一般式(1)で表される好ましい極性基を有するアリルモノマーの具体例としては、酢酸アリル、トルフルオロ酢酸アリル、安息香酸アリル、アリルアルコール、アリルメチルエーテル、臭化アリル、塩化アリルなどが挙げられ、酢酸アリル(一般式(1)中のR1がアセトキシ基(CH3C(=O)-O-))が特に好ましい。
【0079】
一実施形態の共重合体の製造方法において、エチレンと共重合させる一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーは、2種以上を組み合わせて重合させてもよい。
【0080】
一実施形態の共重合体の製造方法では、エチレン及び一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーに加えて、一般式(2)
【化7】
(式中、R
2、R
3、及びR
4は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~3のアルキル基を表し、それぞれ同じであっても、異なっていてもよい。)
で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物を共重合させることを特徴とする。
【0081】
R2、R3、及びR4の炭素原子数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、及びイソプロピル基が挙げられ、メチル基が好ましい。R2、R3、及びR4は、水素原子又はメチル基であることがより好ましく、すべて水素原子であることがさらに好ましい。
【0082】
一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物の好ましい具体例としては、2,5-ノルボルナジエン、7-メチル-2,5-ノルボルナジエン、7,7-ジメチル-2,5-ノルボルナジエン、1-メチルノルボルナジエン、及び1,4-ジメチルノルボルナジエンが挙げられ、特に好ましくは、2,5-ノルボルナジエンである。
【0083】
上記の2,5-ノルボルナジエン類似化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0084】
金属錯体(C1)を触媒として使用するエチレン等のオレフィン重合では、モノマーの金属への配位と挿入の繰り返しにより重合体が生長し、連鎖移動反応により重合体が触媒から解離する。周期表第10族金属錯体を使用する重合における連鎖移動反応は、下記式に示される機構で進行することが一般的に知られている(式中、R’はポリマー鎖を表す。金属Mの配位子は省略している。)。なお、下記式では、エチレンをモノマーとして使用した重合例を記載しているが、その他オレフィンモノマーでも同様である。M-R’錯体種にエチレンが挿入して生成した錯体種において、β-ヒドリド脱離が進行することで、重合体(式中CH2=CH-R’)が触媒から解離するのと同時に、ヒドリド錯体種(式中M-H)が生成し、生長反応が停止する。このヒドリド錯体種は反応性が非常に高いため、すぐにモノマーの配位・挿入反応が進行し、再重合が開始する。
【0085】
【0086】
一方で、酢酸アリルに代表される極性基を有するアリルモノマーの重合では、上記式と同様に、モノマーの金属への配位と挿入の繰り返しにより重合体生長反応が進行するが、連鎖移動反応の機構が異なることがわかってきた。極性基を有するアリルモノマーの重合における重合体生長反応及び連鎖移動反応の機構を下記式に示す(式中、R’は重合体鎖を表し、AcはCH3C(=O)-基を表す。)。なお、下記式では、酢酸アリルをモノマーとして使用し、2,5-ノルボルナジエンを共存させた重合例を記載しているが、その他の一般式(1)で示される、極性基を有するアリルモノマー及び一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物でも同様である。
【0087】
【0088】
重合体中に酢酸アリルが取り込まれる場合、エチレンと同様に、酢酸アリルの金属Mへの配位及びM-R’結合への挿入反応が起こる。その後、生成した錯体種に対して、エチレン、酢酸アリル等のモノマーの配位・挿入により、重合体が生長する。一方で、M-R’錯体種に酢酸アリルが挿入して生成した錯体種に対して、次のモノマーの配位・挿入と競合して、ある確率でβ-アセトキシ脱離が進行する。これにより、重合体(式中CH2=CH-CH2-R’)が触媒から解離し、アセトキシ錯体種(式中M-OAc)が生成する。このアセトキシ錯体種は、ヒドリド錯体種と比べて、遥かに反応性が低いため、アセトキシ錯体種へのモノマーの配位・挿入反応による再重合開始が律速となる。反応系ではこのアセトキシ錯体種がドーマント種となるため、触媒活性が発現している触媒は、実質的には仕込み量の一部であり、触媒あたりの重合体生産性が低くなる。
【0089】
一実施形態の共重合体の製造方法では、2,5-ノルボルナジエン類似化合物を重合系に共存させることで、ドーマント種であるアセトキシ錯体種を、2,5-ノルボルナジエン類似化合物との反応により、アルキル錯体種(式中M-R”)に迅速に変換させる。このアルキル錯体種は、上記のM-R’錯体種と同様のモノマーとの反応性を有することから、モノマーの配位・挿入反応による再重合が容易に開始する。これにより、触媒あたりの重合体生産性が大幅に改善され、触媒コスト低減化に繋がる。
【0090】
共重合において、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの総仕込み量1molに対する、一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物の総仕込み量は、1.0~25.0mmolであることが好ましい。
【0091】
一実施形態の共重合体の製造方法では、エチレン、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物に加えて、第4のモノマーを用いてもよい。第4のモノマーとして、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、スチレンなどのα-オレフィン;ノルボルネン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどの環状オレフィン;アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、酢酸ビニル、ビニルエーテル、アクリロニトリル、アクロレインなどの極性基を有するオレフィンなどが挙げられる。これらは2種以上を組み合わせて重合させてもよい。ただし、第4のモノマーとしてα-オレフィンが共重合されるときは、得られる重合体中に含まれるα-オレフィンとエチレンの合計に対するα-オレフィンの比率は40mol%未満である。共重合体に含まれる第4のモノマーの含有率は5mol%未満であることが好ましい。
【0092】
[重合方法]
一般式(C1)で示される金属錯体を触媒として使用して、エチレン、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマー、及び一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物を共重合する方法は特に制限されるものではなく、一般に使用される方法で重合可能である。すなわち、溶液重合法、懸濁重合法、気相重合法などのプロセス法が可能であり、特に溶液重合法、及び懸濁重合法が好ましい。重合様式は、バッチ様式でも連続様式でも可能である。共重合は、一段重合でも、多段重合でも行うこともできる。
【0093】
2種類以上の一般式(C1)で示される金属錯体触媒を混合して重合反応に使用してもよい。混合して使用することで重合体の分子量、分子量分布、又は一般式(1)のモノマーに由来するモノマーユニットの含有量を制御することが可能であり、所望の用途に適した重合体を得ることができる。金属錯体触媒総量とモノマーの総量のモル比は、モノマー/金属錯体の比で、1~10,000,000の範囲、好ましくは10~1,000,000の範囲、より好ましくは100~100,000の範囲が用いられる。
【0094】
一実施形態の共重合体の製造方法では、上述のとおり、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーがM-R’錯体種に取り込まれた後に生成する触媒ドーマント種に対して、一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物が反応して、触媒を再度活性化させることで、触媒活性を向上させる。この触媒活性向上効果は、一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーがM-R’錯体種にある程度取り込まれる重合条件、すなわち一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込み量が多い重合条件ほど顕著に現れるといえる。
【0095】
ここで、エチレンと一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の和に対する一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数の割合を「アリルモノマー仕込み比」と称した場合、「アリルモノマー仕込み比」は以下の数式で表すことができる。
アリルモノマー仕込み比(モル%)={一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数×100}/{エチレンの仕込みのモル数+一般式(1)で示される極性基を有するアリルモノマーの仕込みのモル数}
【0096】
触媒活性向上の効果の観点から、アリルモノマー仕込み比の好ましい範囲は70モル%以上100モル%未満であり、さらに好ましい範囲は75モル%以上98モル%以下であり、特に好ましい範囲は80モル%以上95モル%以下である。
【0097】
アリルモノマー仕込み比は、重合反応が回分式、又はピストンフロー型連続式のときは総仕込み量に基づいて計算され、連続槽式のときは重合槽平均濃度に基づいて計算される。
【0098】
重合温度は、特に限定されないが、通常-30~400℃の範囲であり、好ましくは0~200℃であり、より好ましくは30~150℃の範囲である。
【0099】
エチレン圧が内部圧力の大半を占める重合圧力は、常圧から100MPaの範囲内であり、好ましくは常圧から20MPaであり、より好ましくは常圧から10MPaの範囲内である。
【0100】
重合時間は、プロセス様式、触媒の重合活性などにより適宜調整することができ、数十秒から数分の短い時間であってよく、数千時間の長い反応時間も可能である。
【0101】
重合系中の雰囲気は、触媒の活性低下を防ぐため、モノマー以外の空気、酸素、水分などが混入しないように窒素ガス、アルゴンなどの不活性ガスで満たすことが好ましい。溶液重合の場合、モノマー以外に不活性溶媒を使用することが可能である。不活性溶媒としては、特に限定されないが、イソブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、シクロヘキサンなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタンなどのハロゲン化脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼンなどのハロゲン化芳香族炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチルなどの脂肪族エステル;安息香酸メチル、安息香酸エチルなどの芳香族エステルなどが挙げられる。
【0102】
共存させる2,5-ノルボルナジエン類似化合物は、得られる共重合体中にモノマーとして取り込まれていてもよく、さらには重合体を連結させる架橋点となっていてもよい。共重合体に含まれる2,5-ノルボルナジエン類似化合物の含有率は3mol%未満であることが好ましい。2,5-ノルボルナジエン類似化合物が架橋点として共重合体を連結させる場合、得られる共重合体がゲル化していないことが好ましい。ゲル化の有無は、共重合体を良溶媒に混合したときに、共重合体が完全に溶解するか、不溶分が残存するかで判定する。具体的には実施例に記載の方法による。共重合体の分子量としては重量平均分子量Mwで1,000,000以下であることが特に好ましい。
【0103】
一実施形態の共重合体の製造方法では、一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物の添加方法については特に制限はなく、反応前に反応溶媒中に溶解させていても、反応開始後に添加してもよい。2,5-ノルボルナジエン類似化合物の添加方法としては、反応開始時に一括で添加する方法、反応開始後、所定の反応時間にわたって添加を行う間欠フィード法、及び連続的に添加し続ける連続フィード法が挙げられる。触媒活性、生産性の向上及びゲル化の抑制の観点からは、2,5-ノルボルナジエン類似化合物を反応開始時に一括で添加するよりも、反応時間中に少量ずつ分割して又は連続的に添加することが好ましい。
【0104】
2,5-ノルボルナジエン類似化合物の使用量は、特に制限はなく、使用する触媒と2,5-ノルボルナジエン類似化合物の反応性によって、最適な量が決定される。金属錯体触媒量と2,5-ノルボルナジエン類似化合物の総添加量のモル比は、2,5-ノルボルナジエン類似化合物/金属錯体のモル比で、好ましくは1~2000の範囲、より好ましくは50~1000の範囲、さらに好ましくは100~500の範囲である。詳細には、重合の初期に2,5-ノルボルナジエン類似化合物を一括で反応系に添加する場合には、金属錯体触媒量と2,5-ノルボルナジエン類似化合物の総添加量のモル比は、2,5-ノルボルナジエン類似化合物/金属錯体の比で、好ましくは10~1500の範囲、より好ましくは30~1000の範囲、より好ましくは50~300の範囲である。前記間欠フィード法又は連続フィード法の場合は、金属錯体触媒量と2,5-ノルボルナジエン類似化合物の総添加量のモル比は、2,5-ノルボルナジエン類似化合物/金属錯体の比で、好ましくは1~2000の範囲、より好ましくは50~1000の範囲、特に好ましくは100~500の範囲である。
【0105】
2,5-ノルボルナジエン類似化合物を反応系に添加するときは、2,5-ノルボルナジエン類似化合物をそのまま単体で添加しても、有機溶媒に溶解させて添加してもよい。有機溶媒に溶解させて添加する場合、溶解させる有機溶媒としては、重合反応で使用する溶媒が好ましい。エチレンと共重合させる極性基を有するアリルモノマーが常温で液体である場合、2,5-ノルボルナジエン類似化合物をアリルモノマーに溶解させて添加してもよい。
【実施例】
【0106】
以下、合成例、実施例、及び比較例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。
【0107】
重合体の平均分子量及びモノマーユニット含有量は、以下の方法により測定、解析し算出した。
[平均分子量]
実施例及び比較例で得た共重合体の数平均分子量及び重量平均分子量は、昭和電工(株)製AT-806MSカラム(2本直列)を備えた東ソー(株)製高温GPC装置、HLC-8121GPC/HTを用いた、ポリスチレンを分子量の標準物質とするサイズ排除クロマトグラフィー(溶媒:1,2-ジクロロベンゼン、温度:145℃)により算出した。
【0108】
[モノマーユニット含有量]
一般式(1)で示される極性基を有するオレフィン及び2,5-ノルボルナジエン類似化合物に由来するモノマーユニットの含有率は、日本電子(株)製JNM-ECS400を使用して、溶媒として1,1,2,2-テトラクロロエタン-d2を使用した120℃における1H-NMRによって決定した。
【0109】
[共重合体のゲル化の有無]
得られた共重合体のゲル化の有無は、以下の方法により確認を行った。撹拌子を入れたナスフラスコにトルエン(5mL)及び共重合体(0.2g)を加え、25℃で撹拌後、油浴で50℃に昇温して撹拌させた。共重合体が完全に溶解しているときはゲル化なしとし、溶け残りがある場合はゲル化ありとした。
【0110】
合成例1:金属錯体1の合成
特開2014-159540号公報に記載の方法を用い、下記の反応スキームに従って金属錯体1を合成した。
【化10】
【0111】
(a)塩化メンチル(化合物1a)の合成
文献(J. Org. Chem., 17, 1116. (1952))記載の手法で、塩化メンチル(化合物1a)の合成を行った。具体的には、塩化亜鉛(77g、0.56mol)の37質量%塩酸(52mL、0.63mol)溶液に、(-)-メントール(27g、0.17mol)を加え、35℃に加熱しながら、5時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応液にヘキサン(50mL)を加え、分液漏斗を使用して、有機層と水層を分離した。有機層は水(30mL×1回)で洗浄後、さらに濃硫酸(10mL×5回)及び水(30mL×5回)で洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮を行い、塩化メンチル(化合物1a)を無色の油状物質として得た。収量は27g(収率91%)であった。
【0112】
(b)塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c)の合成
文献(Journal fur Praktische Chemie, 322, 485 (1980))記載の手法で、塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c)の合成を行った。具体的には、アルゴンガス雰囲気下、塩化メンチル(化合物1a;2.6g、15mmol)とマグネシウム(0.63g、26mmol)をテトラヒドロフラン(THF)(30mL)中で、70℃に加熱しながら反応させて得られた塩化メンチルマグネシウム(化合物1b)の溶液を、三塩化リン(0.63mL、7.2mmol)のTHF(30mL)溶液に-78℃で加えた。室温まで昇温後、70℃に加熱しながら2時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、蒸留精製を行い、塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c)を得た。収量は0.62g(収率25%)であった。
【0113】
31P-NMR(162MHz,THF):δ 123.9。
【0114】
(c)2-(ジメンチルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1d)の合成
ベンゼンスルホン酸(0.18g,1.2mmol)のTHF溶液(10mL)に、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,1.4mL,2.3mmol)を0℃で加え、室温で1時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジメンチルホスフィン(化合物1c;0.36g,1.1mmol)を-78℃で加え、室温で15時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(0.97mL,1.3mmol)を添加して停止した後に、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-(ジメンチルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1d)を白色粉末として得た。収量は0.31g(収率63%)であった。
【0115】
1H-NMR(500MHz,CDCl3):δ 8.27 (br s, 1H), 7.77 (t, J = 7.3 Hz, 1H), 7.59-7.52 (m, 2H), 3.54 (br s, 1H), 2.76 (br s, 1H), 2.16 (br s, 1H), 1.86-1.38 (m, 12H), 1.22-0.84 (m, 22H), 0.27 (br s, 1H);
31P{1H}-NMR(162MHz,CDCl3):δ 45.1 (br), -4.2 (br)。
【0116】
(d)金属錯体1の合成
アルゴン雰囲気下、2-(ジメンチルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物1d;0.14g,0.30mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.26mL,1.5mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)に、(cod)PdMeCl(文献(Inorg. Chem., 1993, 32, 5769-5778)に従って合成、cod=1,5-シクロオクタジエン、0.079g,0.30mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣を塩化メチレン(10mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(0.42g,3.0mmol)と2,6-ルチジン(0.35mL,3.0mmol)の塩化メチレン懸濁液(2mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行い、金属錯体1を得た。収量は0.17g(収率80%)であった。
【0117】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 8.26 (ddd, J = 7.8, 3.9, 1.4 Hz, 1H), 7.81 (t, J = 7.9 Hz, 1H), 7.56 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.49 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.43 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.13 (d, J = 7.8 Hz, 1H), 7.08 (d, J = 7.6 Hz, 1H), 3.75 (s, 1H), 3.24 (s, 3H), 3.17 (s, 3H), 2.59 (s, 1H), 2.49-2.39 (m, 2H), 2.29-2.27 (m, 1H), 2.05-1.96 (m, 1H), 1.89-1.37 (m, 12H), 1.21-1.11 (m, 2H), 0.98 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.95 (d, J = 6.2 Hz, 3H), 0.84 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.78 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.58 (d, J = 6.6 Hz, 3H), 0.41 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 0.08 (d, J = 6.6 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 16.6。
【0118】
合成例2:金属錯体2の合成
特開2011-68881号公報に記載の方法を用い、下記の反応スキームに従って金属錯体2を合成した。
【化11】
【0119】
(a)2-(ジイソプロピルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2a)の合成
ベンゼンスルホン酸(21.7g,137mmol)のTHF溶液(400mL)に、n-ブチルリチウム(1.6Mヘキサン溶液,174mL,274mmol)を0℃で加え、室温で3時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジイソプロピルホスフィン(19.0g,125mmol)を-78℃で加え、室温で15時間撹拌した。反応をトリフルオロ酢酸(15.6g,137mmol)を添加して停止した後に、溶媒を減圧留去した。残渣をジクロロメタンに溶解させ、飽和塩化アンモニウム水溶液で洗浄した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-(ジイソプロピルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2a)を白色粉末として得た。収量は26.8g(収率78%)であった。
【0120】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 1.25 (dd, J = 21.6, 7.0 Hz, 6H), 1.53 (dd, J = 21.8, 7.2 Hz, 6H), 3.45 (m, 2H), 5.42 (br d, 1JPH = 380 Hz), 7.58 (tdd, J = 7.6, 2.8, 1.1 Hz, 1H), 7.69 (ddd, J = 15.1, 7.7, 0.7 Hz, 1H), 7.83 (dd, J = 7.6, 7.6 Hz, 1H), 8.27 (dd, J = 7.5, 4.4 Hz, 1H);
13C-NMR(101MHz,CDCl3):δ 19.4 (s), 24.5-27.7 (m), 114.4 (br d, J = 93 Hz), 129.1 (d, J = 8.6 Hz), 130.3 (d, J = 12.5 Hz), 134.7-137.1 (m), 150.7 (br s);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 62.5 (d, 1JPH = 380 Hz) (83%), 31.0 (d, 1JPH = 460 Hz) (17%)。
【0121】
(b)金属錯体2の合成
アルゴン雰囲気下、2-(ジイソプロピルホスホニオ)ベンゼンスルホナート(化合物2a;16.3g,59mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(38.3g,296mmol)の塩化メチレン溶液(500mL)に、(cod)PdMeCl(文献(Inorg. Chem., 1993, 32, 5769-5778)に従って合成、cod=1,5-シクロオクタジエン、16.3g,62mmol)を加え、室温で2.5時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣を塩化メチレン(200mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(80.8g,585mmol)と2,6-ルチジン(62.7g,585mmol)の塩化メチレン懸濁液(500mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行った。さらに、塩化メチレン/ヘキサンからの再結晶精製を行い、金属錯体2を白色結晶として得た。収量は18.9g(収率61%)であった。
【0122】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 0.34 (d, J = 2.3 Hz, 3H), 1.32 (ddd, J = 49.9, 16.0, 7.0 Hz, 12H), 2.58 (dt, J = 22.3, 7.2 Hz, 2H), 3.18 (s, 6H), 7.12 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 7.46 (t, J = 7.4 Hz, 1H), 7.53 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.58 (t, J = 7.7 Hz, 2H), 8.29-8.32 (m, 1H);
13C-NMR(101MHz,CDCl3):δ -10.10 (d, J = 4.8 Hz), 18.44 (s), 19.29 (d, J = 4.8 Hz), 25.91 (d, J = 25.9 Hz), 26.20 (s), 122.72 (d, J = 3.8 Hz), 124.56 (d, J = 35.5 Hz), 129.19 (t, J = 6.7 Hz), 131.03 (d, J = 1.9 Hz), 132.39 (s), 138.30 (s), 151.13 (d, J = 10.5 Hz), 159.17 (s);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 34.4 (s)。
【0123】
合成例3:金属錯体3の合成
下記の反応スキームに従って金属錯体3を合成した。
【化12】
【0124】
(a)メタンスルホン酸イソプロピル(化合物3b)の合成
メタンスルホン酸クロリド(化合物3a;20.0g,174.6mmol)のジクロロメタン溶液(50mL)に、2-プロパノール(10.5g,174.6mmol,1.0eq)とトリエチルアミン(44.2g,436.5mmol,2.5eq)のジクロロメタン溶液(50mL)を0℃にてゆっくりと加え、25℃で16時間撹拌した。反応液をろ過し、回収したろ液を濃縮した後、再度ジクロロメタン(50mL)に溶解させ、1M塩酸(20mL)、飽和炭酸水素ナトリウム水(20mL)、飽和食塩水(20mL)にて洗浄した。無水硫酸ナトリウムにて脱水し、ろ過した後、濃縮することにより、目的物(化合物3b)を黄色いオイルとして得た。収量は20.2g(収率84%)であった。
【0125】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.91 (m, 1H), 3.04 (s, 3H), 1.39 (s, 3H), 1.38 (s, 3H)。
【0126】
(b)ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物3c)の合成
メタンスルホン酸イソプロピル(化合物3b;6.0g,43.4mmol)のテトラヒドロフラン溶液(100mL)に、n-ブチルリチウム(2.5Mヘキサン溶液,45.6mmol,1.1eq)を0℃で加え、0℃で1時間撹拌した。反応容器を-78℃に冷却した後に、塩化ジt-ブチルホスフィン(7.8g,43.4mmol,1.0eq)を-78℃で加え、室温で16時間撹拌した。溶媒を減圧留去した後、シリカゲルクロマトグラフィー(ペンタン/酢酸エチル=20/1)で精製し、ペンタン(5mL×2回)で洗浄することにより、目的物(化合物3c)を白色粉末として得た。収量は3.6g(収率29%)であった。
【0127】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.00 (m, 1H), 3.26 (br, 2H), 1.41 (d, J = 6.4 Hz, 6H), 1.19 (d, J = 12.0 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 18.4。
【0128】
(c)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物3d)の合成
ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸イソプロピル(化合物3c;3.58g,12.68mmol)のTHF(テトラヒドロフラン)溶液(40mL)に、硫黄(2.5Mヘキサン溶液,2.03g,63.39mmol,5eq)を-78℃で加え、25℃で16時間撹拌し、さらに60℃で2時間撹拌した。反応液をろ過し、ろ過残渣を酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、全ての溶液を回収して溶媒を減圧留去した。ペンタン(10mL)を加えてろ過し、減圧乾燥することにより、目的物(化合物3d)を白色粉末として得た。収量は3.5g(収率88%)であった。
【0129】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 5.16 (m, 1H), 3.80 (br, 2H), 1.46 (d, J = 6.4 Hz, 6H), 1.43 (d, J = 12.0 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 74.5。
【0130】
(d)ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物3e)の合成
ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸イソプロピル(化合物1d;5.5g,16.62mmol)のメタノール(40mL)、THF(20mL)及び水(5mL)の混合溶液に、水酸化ナトリウム(2.66g,66.47mmol,4eq)を加え、66℃で16時間撹拌した。この反応液から溶媒を留去して濃縮後、酢酸エチル(20mL)にて洗浄し、得られた白色粉末をエタノール(100mL)とジクロロメタン(50mL)混合溶液に懸濁させ、HCl/酢酸エチルにてpH=5に中和した。この中和液をろ過し、ろ液を濃縮後にジクロロメタンに溶解させ、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物3e)を淡黄色の粉末として得た。収量は4.2g(収率93%)であった。
【0131】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 6.28 (br, 1H), 3.75 (d, J = 6.4 Hz, 2H), 1.41 (d, J = 16.8 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 72.2。
【0132】
(e)ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸(化合物3f)の合成
RANEY(登録商標)-Ni(4.5g,52.5mmol,6.8eq)のTHF溶液(100mL)に、ジt-ブチル(チオ)ホスフィノメタンスルホン酸(化合物3e;2.1g,7.71mmol,1eq)のTHF溶液(40mL)をシリンジを用いてゆっくりと加え、室温で16時間撹拌した。この反応液にジクロロメタン(80mL)を加えてろ過し、溶媒を減圧留去した。この反応物をジクロロメタン(200mL)に懸濁し、不溶物をろ過により除去後、溶媒を減圧留去することにより、目的物(化合物3f)をピンクの粉末として得た。収量は0.8g(収率44%)であった。
【0133】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 4.88 (br, 1H), 3.06 (d, J = 3.2 Hz, 2H), 1.17 (d, J = 11.2 Hz, 18H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 19.1。
【0134】
(f)金属錯体3の合成
窒素雰囲気下、ジt-ブチルホスファニルメタンスルホン酸(化合物3f;0.95g,3.96mmol)とN,N-ジイソプロピルエチルアミン(3.5mL,19.8mmol)の塩化メチレン溶液(30mL)に、(cod)PdMeCl(cod=1,5-シクロオクタジエン、1.05g,3.96mmol)を加え、室温で1時間撹拌した。溶液を濃縮した後に、残渣をジクロロメタン(15mL)に溶解させ、この溶液を、炭酸カリウム(5.47g,39.6mmol)と2,6-ルチジン(4.61mL,39.8mmol)のジクロロメタン懸濁液(10mL)に加え、室温で1時間撹拌した。この反応液をセライト(乾燥珪藻土)及びフロリジル(ケイ酸マグネシウム)でろ過した後に、溶媒を濃縮し、減圧下乾燥を行った。ヘキサン(15mL×3回)で洗浄することにより、金属錯体3を得た。収量は1.2g(収率63%)であった。
【0135】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.8 Hz, 1H), 7.11 (d, J = 7.8 Hz, 2H), 3.44 (d, J = 8.2 Hz, 2H), 3.06 (s, 6H), 1.49 (d, J = 14.6 Hz, 18H), 0.54 (d, J = 1.9 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 46.5。
【0136】
合成例4:金属錯体4の合成
【化13】
金属錯体3合成用中間体3cの原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化ジ(2-メチル-2-ペンチル)ホスフィン(同モル数)に変えた以外は、金属錯体3の合成スキームの(a)~(f)と同様の方法で、金属錯体4を合成した。
【0137】
1H-NMR(400MHz,CDCl3):δ 7.57 (t, J = 7.6 Hz, 1H), 7.11(d, J = 8.0 Hz, 2H), 3.48(d, J = 7.6 Hz, 2H), 3.07(s, 6H), 1.95-1.85(m, 4H), 1.55-1.45(m, 16H), 0.98(t, J = 7.2 Hz, 6H), 0.53(d, J = 2.0 Hz, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl3):δ 50.9。
【0138】
合成例5:金属錯体5の合成
【化14】
金属錯体3合成用中間体3cの原料である塩化ジt-ブチルホスフィンを塩化t-ブチル(2,3,3-トリメチル-2-ブチル)ホスフィン(同モル数)に変えた以外は、金属錯体3の合成スキームの(a)~(f)と同様の方法で、金属錯体5を合成した。
1H-NMR(400MHz,CDCl
3):δ 7.57 (t, J = 7.7 Hz, 1H), 7.12 (d, J = 7.7 Hz, 2H), 3.66 (dd, J = 15.2, 8.0 Hz, 1H), 3.38 (dd, J = 15.2, 9.2 Hz, 1H), 3.14(s, 3H), 3.03(s, 3H), 1.59 (d, J = 14.0 Hz, 9H), 1.55-1.30(m, 6H) , 1.40 (s, 9H) , 0.58(s, 3H);
31P-NMR(162MHz,CDCl
3):δ 34.4。
【0139】
[重合体の合成]
合成例で製造した各金属錯体を使用して、酢酸アリルとエチレン等の共重合反応を行った。生産性、及び触媒活性は次の式により計算した。
【数1】
【数2】
【0140】
実施例1:金属錯体1を使用した2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体1の調製)
窒素ガス雰囲気下、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(150mL、1,390mmol)、及び一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物として2,5-ノルボルナジエン(184.3mg,2.0mmol)を含む500mLオートクレーブを、65℃で撹拌しながら、エチレン(0.51MPa)を充填した。オートクレーブ内に金属錯体1(13.9mg,0.020mmol)の酢酸アリル溶液(30mL)を圧送により加え、24時間撹拌した。このときのアリルモノマー仕込み比は95モル%と算出される。室温まで冷却及びエチレン脱圧後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体1を得た。収量は1.32gであった。生産性は66g/mmolと算出され、触媒活性は2.8g/(mmol・h)と算出された。重合体1の数平均分子量は31000、重量平均分子量は65000、Mw/Mnは2.1であった。共重合体中の酢酸アリル及び2,5-ノルボルナジエンの含有率について、エチレン:酢酸アリル:2,5-ノルボルナジエンのモル比は100:24.7:0.11(酢酸アリルモル分率=19.8%、2,5-ノルボルナジエンモル分率=0.09%)と決定された。重合体1はトルエンへ完全に溶解し、ゲル化はなかった。
【0141】
比較例1:金属錯体1を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体1の調製)
2,5-ノルボルナジエンを加えない点以外は実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0142】
比較例2:金属錯体1を使用した2-ノルボルネン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体2の調製)
2,5-ノルボルナジエンの代わりに2-ノルボルネン(188.3mg,2.0mmol)を加えた点以外は実施例1と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0143】
実施例1及び比較例1~2の重合条件及び結果をそれぞれ表1及び表2に示す。
【表1】
【0144】
【0145】
実施例1及び比較例1より、2,5-ノルボルナジエンを共存させることで、触媒活性が向上することが判った。また、比較例2において、2,5-ノルボルナジエンと類似の骨格を有する2-ノルボルネンの添加を試みたものの、触媒活性の向上は全く見られなかった。このとき、2-ノルボルネンの重合体への取り込みも見られなかった。
【0146】
実施例2:金属錯体2を使用した2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体2の調製)
窒素ガス雰囲気下、一般式(1)で示されるモノマーとして酢酸アリル(120mL、1,112mmol)、及び一般式(2)で示される2,5-ノルボルナジエン類似化合物として2,5-ノルボルナジエン(110.6mg,1.2mmol)を含む500mLオートクレーブを、65℃で撹拌しながら、エチレン(0.79MPa)を充填した。オートクレーブ内に金属錯体2(10.0mg,0.020mmol)の酢酸アリル溶液(酢酸アリル:30mL)を圧送により加え、24時間撹拌した。このときのアリルモノマー仕込み比は92.5モル%と算出される。この24時間の間、フィードポンプを使用して、2,5-ノルボルナジエンを0.25mmol/h(23.2mg/h)の速度で反応液中に追加でフィードした。室温まで冷却及びエチレン脱圧後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、重合体2を得た。収量は3.86gであった。生産性は193g/mmolと算出され、触媒活性は8.0g/(mmol・h)と算出された。重合体2の数平均分子量は6100、重量平均分子量は33000、Mw/Mnは5.5であった。共重合体中の酢酸アリル及び2,5-ノルボルナジエンの含有率について、エチレン:酢酸アリル:2,5-ノルボルナジエンのモル比は100:19.9:6.3(酢酸アリルモル分率=15.8%、2,5-ノルボルナジエンモル分率=5.00%)と決定された。重合体2はトルエンへ完全に溶解し、ゲル化はなかった。
【0147】
比較例3:金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体3の調製)
2,5-ノルボルナジエンを加えない点以外は実施例2と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0148】
比較例4:金属錯体2を使用した2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体4の調製)
金属錯体2を使用して、アリルモノマー仕込み比が低い条件で、2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。特開2013-079347号公報の実施例に記載の重合条件に従い、窒素ガス雰囲気下、金属錯体2(25.1mg,0.050mmol)、酢酸アリル(75mL,700mmol)、及び2,5-ノルボルナジエン(46.1mg,0.50mmol)を含む120mLオートクレーブを、80℃で撹拌しながら、エチレン(4.0MPa)を充填した。その後、80℃を維持しながら5時間撹拌を行った。このときのアリルモノマー仕込み比は67.0モル%と算出される。室温まで冷却及びエチレン脱圧後、オートクレーブ内の反応液をメタノール(500mL)に加え、共重合体を析出させた。生じた共重合体をろ過によって回収し、メタノールで洗浄した後に減圧下乾燥して、比較重合体4を得た。収量は5.10gであった。生産性は102g/mmolと算出され、触媒活性は20.0g/(mmol・h)と算出された。重合体2の数平均分子量は11000、重量平均分子量は37000、Mw/Mnは3.4であった。共重合体中の酢酸アリル及び2,5-ノルボルナジエンの含有率について、エチレン:酢酸アリル:2,5-ノルボルナジエンのモル比は100:4.3:0.28(酢酸アリルモル分率=4.1%、2,5-ノルボルナジエンモル分率=0.27%)と決定された。比較重合体4はトルエンへは完全には溶解せず、ゲル化ありと判定された。
【0149】
比較例5:金属錯体2を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体5の調製)
2,5-ノルボルナジエンを加えない点以外は比較例4と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0150】
実施例2及び比較例3~5の重合条件及び結果をそれぞれ表3及び表4に示す。
【0151】
【0152】
【0153】
実施例2及び比較例3より、金属錯体2を触媒として使用した場合でも、2,5-ノルボルナジエン共存による触媒活性向上の効果が見られた。また、比較例4及び比較例5より、アリルモノマー仕込み比が低い条件では、2,5-ノルボルナジエン共存による触媒活性向上効果がほとんど見られず、また重合体がゲル化することが判った。
【0154】
実施例3~5:金属錯体3~5を使用した2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体3~5の調製)
金属錯体3~5を使用して、エチレン圧、アリルモノマー仕込み比、2,5-ノルボルナジエンの添加量、及び反応温度を変えた以外は実施例2に記載の方法と同様に、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0155】
比較例6~8:金属錯体3~5を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体6~8の調製)
2,5-ノルボルナジエンを添加しないこと以外は実施例3~5と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0156】
実施例3~5及び比較例6~8の重合条件及び結果をそれぞれ表5及び表6に示す。
【0157】
【0158】
【0159】
実施例3と比較例6、実施例4と比較例7、実施例5と比較例8の比較より、金属錯体3~5を触媒として使用した場合でも、2,5-ノルボルナジエン共存による触媒活性向上の効果が見られた。さらに、金属錯体3又は金属錯体4を使用した場合、得られる重合体の分子量が増加することが判った。また、得られた重合体のトルエンへの溶解性は良好であり、ゲル化は認められなかった。
【0160】
実施例6~7:金属錯体3を使用した2,5-ノルボルナジエン共存下での酢酸アリルとエチレンの共重合(重合体6~7の調製)
金属錯体3を使用し、金属錯体3の使用量(実施例7のみ)、エチレン圧、アリルモノマー仕込み比、2,5-ノルボルナジエンの添加量、及び反応温度を変えた以外は実施例2に記載の方法と同様に、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0161】
比較例9:金属錯体3を使用した酢酸アリルとエチレンの共重合(比較重合体9の調製)
2,5-ノルボルナジエンを添加しないこと以外は実施例6~7と同様にして、酢酸アリルとエチレンの共重合を行った。
【0162】
実施例6~7及び比較例9の重合条件及び結果をそれぞれ表7及び表8に示す。
【0163】
【0164】
【0165】
実施例6~7と比較例9の比較より、反応温度を上げた場合でも触媒活性の向上効果が見られることが判った。
【0166】
以上の実施例及び比較例の結果から、エチレンと極性基を有するアリルモノマーとの共重合体の製造方法において、反応系にジエン化合物である2,5-ノルボルナジエン類似化合物を共存させることで、触媒の再重合を加速させ、生産性及び触媒活性を向上させることに成功した。これにより、重合体の製造コストを低減化することが可能であり、本発明が産業上有用であるといえる。