(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-13
(45)【発行日】2023-12-21
(54)【発明の名称】標準試料膜、標準試料膜の製造方法、標準試料、試料セット、定量分析方法、転写フィルム
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20231214BHJP
G01N 27/64 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/10 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/40 20060101ALI20231214BHJP
H01J 49/14 20060101ALI20231214BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20231214BHJP
G01N 21/73 20060101ALI20231214BHJP
【FI】
G01N27/62 B
G01N27/62 G
G01N27/64 B
H01J49/04 630
H01J49/10 500
H01J49/40
H01J49/14 200
G01N1/00 102B
G01N21/73
(21)【出願番号】P 2021575733
(86)(22)【出願日】2021-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2021002470
(87)【国際公開番号】W WO2021157407
(87)【国際公開日】2021-08-12
【審査請求日】2022-08-08
(31)【優先権主張番号】P 2020019351
(32)【優先日】2020-02-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020198759
(32)【優先日】2020-11-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】椙山 卓郎
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 祐子
(72)【発明者】
【氏名】平兮 康彦
(72)【発明者】
【氏名】大塚 徹郎
(72)【発明者】
【氏名】杉島 明典
(72)【発明者】
【氏名】白石 康晴
(72)【発明者】
【氏名】平田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】槇納 好岐
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-024332(JP,A)
【文献】特開2006-071608(JP,A)
【文献】特開2004-069440(JP,A)
【文献】特開昭60-129650(JP,A)
【文献】特開昭49-073968(JP,A)
【文献】特開2005-181236(JP,A)
【文献】特開2013-238455(JP,A)
【文献】特開平10-148605(JP,A)
【文献】特開2006-170854(JP,A)
【文献】特開2019-078622(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第108982174(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/60 - G01N 27/70
G01N 23/00 - G01N 23/2276
G01N 1/00 - G01N 1/44
G01N 33/00 - G01N 33/46
G01N 21/62 - G01N 21/74
H01J 40/00 - H01J 49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素と、有機酸の金属塩と、前記炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa
1/2以内であるポリマーと、溶媒とを含む標準試料膜形成用組成物を塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する、標準試料膜の製造方法。
【請求項2】
前記有機酸が炭化水素基を有し、
前記炭化水素基のSP値と前記炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa
1/2以内である、請求項
1に記載の標準試料膜の製造方法。
【請求項3】
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料であって、
炭化水素と、
有機酸の金属塩と、
前記炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa
1/2以内であるポリマーと、を含む、標準試料。
【請求項4】
前記ポリマーが、前記炭化水素のSP値との差の絶対値が2.5MPa
1/2以内である、請求項
3に記載の標準試料。
【請求項5】
前記ポリマーが、(メタ)アクリル系ポリマーである、請求項
3または
4に記載の標準試料。
【請求項6】
前記炭化水素が、炭素数10以上の脂肪族飽和炭化水素を含む、請求項
3~
5のいずれか1項に記載の標準試料。
【請求項7】
前記炭化水素が、パラフィンを含む、請求項
3~
6のいずれか1項に記載の標準試料。
【請求項8】
前記有機酸が、スルホン酸基を有する、請求項
3~
7のいずれか1項に記載の標準試料。
【請求項9】
前記有機酸が、炭化水素基を有する、請求項
3~
8のいずれか1項に記載の標準試料。
【請求項10】
金属元素の種類が異なる2種以上の前記有機酸の金属塩を含む、請求項
3~
9のいずれか1項に記載の標準試料。
【請求項11】
請求項
3~
10のいずれか1項に記載の標準試料を複数組み合わせた試料セットであって、
前記複数の標準試料は同じ種類の有機酸の金属塩を含み、
前記複数の標準試料中の前記同じ種類の有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる、試料セット。
【請求項12】
前記有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる請求項
3~
10のいずれか1項に記載の標準試料を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの前記標準試料から得られる前記金属元素のイオンの信号強度を測定する工程1と、
前記複数の標準試料中の前記有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度と、前記工程1で得られた前記複数の標準試料のそれぞれの前記金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程2と、
前記標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、前記金属元素のイオンの信号強度を測定し、前記検量線に基づいて前記測定試料中の前記金属元素の濃度を求める工程3と、を有する、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法による定量分析方法。
【請求項13】
仮支持体と、
前記仮支持体上に配置された、請求項
3~
10のいずれか1項に記載の標準試料からなる試料膜と、を有する転写フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、標準試料膜、標準試料膜の製造方法、標準試料、試料セット、定量分析方法、および、転写フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法(以後、「LA-ICP-MS法」ともいう)は、レーザー光を試料に照射して、試料の一部を爆発的に剥離させて生じた微粒子またはガス化物を誘導結合プラズマ質量分析法により分析して、試料に含まれる元素の定量分析を行う方法である。
【0003】
近年、LA-ICP-MS法においては、フェムト秒レーザーが用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
通常、LA-ICP-MS法においては、固体試料中の金属元素濃度を求めるためには、測定対象である金属元素の濃度が既知である固体状の標準試料を用いて、検量線を作成することが必要となる。
一方で、従来においては、LA-ICP-MS法における標準試料に対応する固体状の標準試料としてはガラス、金属などの無機物が主流であり、有機物標準試料(有機物で主に構成された標準試料)は限定的である。
【0006】
また、LA-ICP-MS法にて標準試料を用いて測定対象である金属元素の検量線を作成する際に、標準試料に対してレーザー光を照射する位置によって測定対象である金属元素のイオンの信号強度が異なると、適切な検量線を作成できず、定量分析の確度・精度が落ちる。そのため、標準試料に対してレーザー光を照射する位置による信号強度の大きさの差異は小さいことが望ましい。つまり、測定位置による信号強度のばらつきが小さいことが望まれている。
また、標準試料を様々な素材(無機物、有機物)に貼付することができれば、分析要請のある物質を標準物質化することが可能な薄膜標準物質を容易に作製できる。
【0007】
本発明の第1実施態様は、上記実情に鑑みて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料膜であって、有機物を含み、測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきが小さい標準試料膜を提供することを課題とする。
本発明の第2実施態様は、上記実情に鑑みて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料であって、有機物を含み、測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきが小さい標準試料を提供することを課題とする。
また、本発明は、標準試料膜の製造方法、試料セット、定量分析方法、および、転写フィルムを提供することも課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、従来技術の問題点について鋭意検討した結果以下の構成により上記課題を解決できることを見出した。
【0009】
(1) レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料膜であって、
ポリマーおよび金属元素を含み、
標準試料膜の膜厚の最大高低差が0.50μm以下である、標準試料膜。
(2) 後述する方法Xにより求められる標準試料膜の元素濃度ばらつきが30%以下である、(1)に記載の標準試料膜。
(3) 標準試料膜の平均膜厚が3.5μm以下である、(1)または(2)に記載の標準試料膜。
(4) 金属元素が、有機酸の金属塩由来、または、無機酸の金属塩由来である、(1)~(3)のいずれかに記載の標準試料膜。
(5) 金属元素が2種以上含まれる、(1)~(4)のいずれかに記載の標準試料膜。
(6) ポリマーが、(メタ)アクリル系ポリマーである、(1)~(5)のいずれかに記載の標準試料膜。
(7) 炭化水素と、有機酸の金属塩と、炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマーと、溶媒とを含む標準試料膜形成用組成物を塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する、標準試料膜の製造方法。
(8) 有機酸が炭化水素基を有し、
炭化水素基のSP値と炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内である、(7)に記載の標準試料膜の製造方法。
(9) (1)~(6)のいずれかに記載の標準試料膜を複数組み合わせた試料セットであって、
複数の標準試料膜は同じ種類の金属元素を含み、
複数の標準試料膜中の金属元素の濃度が互いに異なる、試料セット。
(10) 金属元素の濃度が互いに異なる(1)~(6)のいずれかに記載の標準試料膜を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料膜から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程Aと、
複数の標準試料膜中の金属元素の濃度と、工程Aで得られた複数の標準試料膜のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程Bと、
標準試料膜中の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、測定試料中の金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程Cと、を有する、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法による定量分析方法。
(11) 仮支持体と、
仮支持体上に配置された、(1)~(6)のいずれかに記載の標準試料膜と、を有する転写フィルム。
(12) レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料であって、
炭化水素と、
有機酸の金属塩と、
炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマーと、を含む、標準試料。
(13) 炭化水素のSP値との差の絶対値が2.5MPa1/2以内である、(12)に記載の標準試料。
(14) ポリマーが、(メタ)アクリル系ポリマーである、(12)または(13)に記載の標準試料。
(15) 炭化水素が、炭素数10以上の脂肪族飽和炭化水素を含む、(12)~(14)のいずれかに記載の標準試料。
(16) 炭化水素が、パラフィンを含む、(12)~(15)のいずれかに記載の標準試料。
(17) 有機酸が、スルホン酸基を有する、(12)~(16)のいずれかに記載の標準試料。
(18) 有機酸が、炭化水素基を有する、(12)~(17)のいずれかに記載の標準試料。
(19) 金属元素の種類が異なる2種以上の有機酸の金属塩を含む、(12)~(18)のいずれかに記載の標準試料。
(20) (12)~(19)のいずれかに記載の標準試料を複数組み合わせた試料セットであって、
複数の標準試料は同じ種類の有機酸の金属塩を含み、
複数の標準試料中の同じ種類の有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる、試料セット。
(21) 有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる(12)~(19)のいずれかに記載の標準試料を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程1と、
複数の標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度と、工程1で得られた複数の標準試料のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程2と、
標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程3と、を有する、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法による定量分析方法。
(22) 仮支持体と、
仮支持体上に配置された、(12)~(19)のいずれかに記載の標準試料からなる試料膜と、を有する転写フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1実施態様によれば、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料膜であって、有機物を含み、測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきが小さい標準試料膜を提供することができる。
本発明の第2実施態様によれば、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料であって、有機物を含み、測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきが小さい標準試料を提供することができる。
また、本発明によれば、標準試料膜の製造方法、試料セット、定量分析方法、および、転写フィルムを提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS法)で標準試料膜の深さ方向の成分を分析して検出された金属元素の二次イオン強度の深さ方向のプロファイルを説明するための概略図である。
【
図2】
図1の測定対象である標準試料膜の一例を示す概略図である。
【
図3】標準試料膜に対するレーザー光を照射する際の手順を説明するための概略図である。
【
図4】金属元素の濃度と信号強度とに基づいた検量線の概略図である。
【
図5】標準試料に対するレーザー光を照射する際の手順を説明するための概略図である。
【
図6】金属元素の濃度と信号強度とに基づいた検量線の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。まず、本明細書で用いられる用語について説明する。
【0013】
[第1実施態様]
本発明の第1実施態様である標準試料膜の特徴点としては、有機物としてポリマーを含むと共に、標準試料膜の膜厚の最大高低差が0.50μm以下である点が挙げられる。
本発明者らは、測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきは、主に、標準試料膜の膜厚に関連していることを見出した。つまり、標準試料膜において、膜厚の最大高低差が大きい場合、膜厚の厚い部分では金属元素のイオンの信号強度が大きく、膜厚の薄い部分では金属元素のイオンの信号強度が小さくなる傾向があり、結果として信号強度のばらつきがあることを知見した。そこで、本発明者らは、膜厚の最大高低差を所定の範囲に調整することにより、上記問題が解決できることを見出した。
なお、膜厚の最大高低差を小さくする方法としては、例えば、第2実施態様で説明するような所定のバインダー(後述する特定ポリマーおよび炭化水素)を用いる方法や、水溶性ポリマーおよび無機酸の金属塩を用いる方法や、界面活性剤を用いる方法が挙げられる。
【0014】
以下では、まず、本発明の標準試料膜について詳述した後、標準試料膜の製造方法、試料セット、転写フィルム、および定量分析方法について詳述する。
【0015】
<標準試料膜>
本発明の標準試料膜は、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料膜であって、ポリマーおよび金属元素を含み、標準試料膜の膜厚の最大高低差が0.50μm以下である。
以下では、まず、標準試料膜に含まれる各成分について詳述する。
【0016】
(ポリマー)
標準試料膜に含まれるポリマーの種類は特に制限されないが、例えば、非水溶性ポリマーおよび水溶性ポリマーが挙げられる。水溶性ポリマーとは、ポリマーを105℃で2時間乾燥させた後、25℃の水100g中に溶解させたときに、その溶解量が1g以上であるポリマーである。非水溶性ポリマーとは、上記水溶性ポリマー以外のポリマーを意味する。
後述するように、標準試料膜を作製する際に、水を使用する場合は水溶性ポリマーを用いることが好ましく、有機溶媒を用いる場合は非水溶性ポリマーを用いることが好ましい。
【0017】
ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、ポリアミド系ポリマー、および、セルロース系ポリマーが挙げられる。
(メタ)アクリル系ポリマーとは、アクリル系ポリマーおよびメタクリル系ポリマーの総称である。
上記で例示した(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、および、ポリアミド系ポリマーなどは、非水溶性ポリマーである場合が多い。
【0018】
スチレン系ポリマーとは、スチレンに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。
スチレン系ポリマーにおける、スチレンに由来する繰り返し単位の含有量は、標準試料膜の測定位置による信号強度のばらつきがより抑制される点(以後、単に「本発明の効果がより優れる点」ともいう。)で、スチレン系ポリマーに含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0019】
(メタ)アクリル系ポリマーとは、アクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。
(メタ)アクリル系ポリマーは、本発明の効果がより優れる点で、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基の炭素数は、本発明の効果がより優れる点で、2~14が好ましく、3~10がより好ましく、3~8がさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルの総称である。
【0020】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、および、n-テトラデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
(メタ)アクリル系ポリマーにおける、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0022】
オレフィン系ポリマーとは、オレフィンに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。オレフィンとしては、例えば、エチレンおよびプロピレンが挙げられる。
ポリエステル系ポリマーとは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成されたポリマーである。ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。
ポリアミド系ポリマーとは、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマーである。ポリアミド系ポリマーとしては、ナイロン6、および、ナイロン6,6が挙げられる。
セルロース系ポリマーとは、セルロース骨格を有するポリマーである。セルロース系ポリマーとしては、ジアセチルセルロース、および、トリアセチルセルロースが挙げられる。
【0023】
水溶性ポリマーとしては、ヒドロキシ基を含む構造、ピロリドン環を含む構造、及び、オキシアルキレン基を含む構造からなる群から選ばれた、少なくとも1つを有する繰り返し単位を含むポリマーが好ましい。
【0024】
ヒドロキシ基を含む水溶性ポリマーとしては、アラビアガム、ソヤガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリヒドロキシエチル化セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、グリオキザール化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メチルセルロース、および、ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0025】
ピロリドン環を含む水溶性ポリマーとしては、ポリビニルピロリドン、および、ビニルピロリドンとビニルアセテートとの共重合体が挙げられる。
オキシアルキレン基を含む水溶性ポリマーとしては、ポリエチレングリコールおよびポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール(ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン縮合物ともいう。)などのポリアルキレングリコール、ポリ(エチレングリコール)メチルエーテルおよびポリ(エチレングリコール)フェニルエーテルなどのポリオキシアルキレンモノアルキルまたはアリールエーテルが挙げられる。
【0026】
中でも、水溶性ポリマーとしてはピロリドン環を含む水溶性ポリマーまたは多糖類が好ましく、ピロリドン環を含む水溶性ポリマーがより好ましく、ポリビニルピロリドンがさらに好ましい。
多糖類としては、多糖、多糖誘導体およびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。
セルロース系ポリマーとしては、セルロースの水酸基の少なくとも一部が、アルキル基およびヒドロキシアルキル基よりなる群から選ばれた少なくとも一種により置換された化合物が好ましい。
【0027】
標準試料膜中、ポリマーの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、標準試料膜全質量に対して、40質量%以上が好ましく、60質量以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、99質量%未満の場合が多く、98質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。
ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリマーを2種以上組み合わせて用いる場合、ポリマーの合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0028】
(金属元素)
金属元素は特に制限されず、公知の金属元素が挙げられる。
金属元素としては、例えば、水素元素を除いた周期表第1族~第12族元素の金属元素、および、周期表第13族~第16族の金属元素が挙げられる。周期表第13族に属する金属元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、および、タリウム(Tl)が挙げられる。周期表第14族に属する金属元素としては、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、および、鉛(Pb)が挙げられる。周期表第15族の属する金属元素としては、アンチモン(Sb)、および、ビスマス(Bi)が挙げられる。周期表第16族に属する金属元素としては、ポロニウム(Po)が挙げられる。
金属元素としては、本発明の効果がより優れる点で、アルミニウム、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、および、鉛(Pb)が好ましい。
なお、標準試料膜中において、金属元素はイオン化していてもよい。
【0029】
金属元素は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
標準試料膜中に種類が異なる2種以上の金属元素が含まれる場合、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法において2種以上の金属元素の信号強度を得ることができ、1つの標準試料膜で複数の金属元素に関する検量線を作成できる。
標準試料膜中に含まれる金属元素の種類数は特に制限されず、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、40以下の場合が多い。
【0030】
標準試料膜中、金属元素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、標準試料全質量に対して、0.1~1000質量ppmが好ましく、0.1~300質量ppmがより好ましい。
種類が異なる2種以上の金属元素を組み合わせて用いる場合、それぞれの金属元素の濃度が上記範囲内であることが好ましい。
【0031】
標準試料膜中における金属元素は、有機酸の金属塩由来、または、無機酸の金属塩由来であることが好ましい。
つまり、標準試料膜を製造する際に有機酸の金属塩を使用することにより、標準試料膜には有機酸の金属塩由来の金属元素が含まれる。言い換えれば、この場合、標準試料膜には有機酸の金属塩が含まれる。なお、有機酸の金属塩は、標準試料膜中においてアニオンとカチオンとに分離していてもよい。
また、標準試料膜を製造する際に無機酸の金属塩を使用することにより、標準試料膜には無機酸の金属塩由来の金属元素が含まれる。言い換えれば、この場合、標準試料膜には無機酸の金属塩が含まれる。なお、無機酸の金属塩は、標準試料膜中においてアニオンとカチオンとに分離していてもよい。
【0032】
有機酸の金属塩とは、有機酸と金属元素とを含む塩である。
有機酸の金属塩に含まれる金属元素としては、上述した金属元素が挙げられる。
有機酸としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基、および、チオール基からなる群から選択される酸基を有する化合物が挙げられる。なかでも、スルホン酸基を有する化合物が好ましい。
有機酸は、炭化水素基(脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基)を有することが好ましく、脂肪族炭化水素基を有することがより好ましく、アルキル基を有することがさらに好ましい。上記炭化水素基(脂肪族炭化水素基、アルキル基)の炭素数は特に制限されないが、5以上が好ましい。
なお、有機酸は脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基の両方を有していてもよい。
有機酸としては、本発明の効果がより優れる点で、上記酸基を有する炭化水素が好ましく、アルキルアリルスルホン酸がより好ましい。
【0033】
無機酸の金属塩とは、無機酸と金属元素とを含む塩である。
無機酸の金属塩に含まれる金属元素としては、上述した金属元素が挙げられる。
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、および、リン酸が挙げられる。
【0034】
(他の成分)
標準試料膜は、本発明の効果を損なわない範囲において、上述したポリマー、および、金属元素以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えば、炭化水素が挙げられる。
炭化水素の種類は特に制限されず、公知の炭化水素が挙げられる。
炭化水素は、飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよく、本発明の効果がより優れる点で、飽和炭化水素が好ましい。
炭化水素は、脂肪族炭化水素であっても、芳香族炭化水素であってもよく、本発明の効果がより優れる点で、脂肪族炭化水素が好ましい。
炭化水素は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。また、環状構造を有していてもよい。
炭化水素の炭素数は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましく、20以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、40以下の場合が多く、30以下の場合がより多い。
【0035】
炭化水素としては、本発明の効果がより優れる点で、脂肪族飽和炭化水素が好ましく、炭素数10以上の脂肪族飽和炭化水素がより好ましく、パラフィンがさらに好ましい。
本明細書において、パラフィンとは、炭素数15以上の脂肪族飽和炭化水素を意味する。
【0036】
炭化水素のSP(Solubility Parameter)値は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、14~18MPa1/2が好ましく、15~17MPa1/2がより好ましい。
SP値の計算方法は、以下の通りである。
計算プログラム(HSPiP、ver.4.1.07)を用いて、各材料の分子構造を入力し、プログラム付属のHSP値(ハンセン溶解度パラメータ)計算機能を用いて、HSP値(δD、δP、δH)を算出する。次に、以下の式より、SP値を算出する。
式 SP値=(δD
2+δP
2+δH
2)1/2
【0037】
炭化水素は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
なお、標準試料膜が炭化水素基を有する有機酸の金属塩を含む場合(標準試料膜が有機酸の金属塩由来の金属元素を含む場合)、有機酸の炭化水素基のSP値と炭化水素のSP値との差の絶対値は、本発明の効果がより優れる点で、3.5MPa1/2以内であることが好ましく、2.0MPa1/2以内であることがより好ましく、1.0MPa1/2以内であることがさらに好ましい。上記差の絶対値の下限値は特に制限されないが、0MPa1/2が挙げられる。
【0039】
標準試料膜は、界面活性剤を含んでいてもよい。
標準試料膜が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の種類は特に制限されず、公知の界面活性剤が挙げられるが、例えば、炭化水素系界面活性剤、フッ素系および/またはシリコン系界面活性剤(具体的には、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、または、フッ素原子とケイ素原子との両方を有する界面活性剤)が挙げられ、フッ素系および/またはシリコン系界面活性剤(具体的には、フッ素系界面活性剤、シリコン系界面活性剤、または、フッ素原子とケイ素原子との両方を有する界面活性剤)が好ましい。
標準試料膜が界面活性剤を含むことにより、大面積に塗布して製膜した場合に、塗布欠陥(ハジキ、塗布スジ、表面凹凸)を抑制できる。
炭化水素系界面活性剤として、例えば、アセチレン系界面活性剤であるオルフィンD-10A、D-10PG、E1004,E1010、E1020、E1030W,PD-001,PD-002W,PD-004,PD-005、EXP.4001、EXP.4200、EXP.4123、EXP.4300、WE-001、WE-002、WE-003(日信化学工業(株)製)が挙げられる。
フッ素系および/またはシリコン系界面活性剤として、米国特許出願公開第2008/0248425号明細書の段落[0276]に記載の界面活性剤が挙げられる。
また、米国特許出願公開第2008/0248425号明細書の段落[0280]に記載の、フッ素系および/またはシリコン系界面活性剤以外の他の界面活性剤を用いることもできる。
また、例えば、メガファックF-251、F-253、F-410、F-477、F-551、F-552、F-553、F-554、F-555、F-556、F-557、F-558、F-559、F-560、F-561、F-562、F-563、F-565、F-568、F-569、F-570、F-572、F-575、F-576、R-40、R-40-LM、R-41(DIC(株)製)、FC4432(住友スリーエム(株)製)、サーフロンS-221、S-231、S-232、S-233、S-241、S-242、S-243、S-420、S-431、S-386、S-611、S-647、S-651、S-653、S-656、S-693(AGCセイミケミカル(株)製)、PF-136A、PF-156A、PF-151N(OMNOVA社製)、フタージェント100、100C、150、150CH、251、212M、215M、250、222F、245F、208G、DFX-18、710FL、710FM、710FS、610FM、683((株)ネオス製)も用いることができる。
これらの界面活性剤は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
標準試料膜が界面活性剤を含む場合、界面活性剤の含有量は、標準試料膜の全固形分に対して、0.0001~2質量%が好ましく、0.0005~1質量%がより好ましい。
【0040】
(標準試料膜の形状)
標準試料膜の膜厚の最大高低差は、0.50μm以下であり、本発明の効果がより優れる点で、0.30μm以下が好ましく、0.20μm以下がより好ましく、0.10μm以下がさらに好ましい。下限は特に制限されないが、0.001μm以上の場合が多い。
上記標準試料膜の膜厚の最大高低差は、以下の方法により測定する。
触針式段差計を用いて、標準試料膜の膜厚を算出する。測定距離は3mm、走査速度は0.02mm/secである。1回目の測定を行った3mmの直線を走査線1とし、2回目の測定を、走査線1と直行する方向に0.2mm以上の距離を持つ箇所で行う。以後、同様の測定を繰り返し、合計10回の測定を行う。10回の測定(走査)を行って、各走査における膜厚の最大値と最小値とを求め、10回の走査によって得られる10個の最大値のうち最も大きい値Aと、10回の走査によって得られる10個の最小値のうち最も小さい値Bとの差分(値A-値B)を膜厚の最大高低差とする。
【0041】
標準試料膜の平均膜厚は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、3.5μm以下が好ましく、2.5μm以下がより好ましく、2.0μm以下がさらに好ましい。平均膜厚の下限は特に制限されないが、測定精度の点から、0.05μm以上が好ましく、0.1μm以上がより好ましい。
上記平均膜厚は、触針式段差計で任意の20点の厚みを測定して、算術平均して求める。
【0042】
標準試料膜においては、本発明の効果がより優れる点で、以下の方法Xにより求められる標準試料膜の元素濃度ばらつきが30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、0%が挙げられる。
方法X:標準試料膜の表面の10箇所において、標準試料膜の一方の表面から他方の表面に向かって飛行時間型2次イオン質量分析法(TOF-SIMS法)を行い、金属元素の二次イオン強度の深さ方向のプロファイルを得て、標準試料膜の一方の表面から他方の表面側に向かって標準試料膜の全厚みの20%の位置を第1位置とし、標準試料膜の一方の表面から他方の表面側に向かって標準試料膜の全厚みの80%の位置を第2位置とした際に、各箇所における第1位置から第2位置までの金属元素の二次イオン強度の合計値を算出し、得られた10個の二次イオン強度の合計値の相対標準偏差を算出して、元素濃度ばらつきとする。
以下、上記要件について、図面を用いて詳述する。なお、以下に示す図においては、発明の内容が理解しやすいように実際のデータとは縮尺などが異なる形で記載してある。
【0043】
図1に、標準試料膜の一方の表面から他方の表面に向かって、TOF-SIMS法を行い、標準試料膜の深さ方向における金属元素の二次イオン強度を分析して得られるプロファイル(金属元素の二次イオン強度の深さ方向のプロファイル)の一例を示す。なお、なお、本明細書では、深さ方向とは、2つの主面を有する標準試料膜の一方の主面を基準にして、他方の主面に向かう方向(厚み方向)を意図する。
【0044】
より具体的には、
図1中のプロファイルは、
図2に示す、基板10上に配置された標準試料膜12の一方の表面12A(標準試料膜12の基板10とは反対側の表面)から他方の表面12B(標準試料膜12の基板10側の表面)に向かって、イオンスパッタリングしながらTOF-SIMS法で標準試料膜中の深さ方向の成分を分析した結果に該当する。
図1中に記載される深さ方向のプロファイルにおいては、横軸(
図1中、紙面の左右方向の延びる軸)は、標準試料膜の一方の表面を基準とした深さを表し、縦軸(
図1中、紙面の上下方向の延びる軸)は金属元素の二次イオン強度を表す。
なお、TOF-SIMS法については、具体的には日本表面科学会編「表面分析技術選書 2次イオン質量分析法」丸善株式会社(1999年発行)に記載されている。
【0045】
図1中の横軸が0の位置は標準試料膜12の表面12Aに対応し、横軸がEの位置は標準試料膜12の表面12Bに対応する。つまり、横軸の0~Eまでが、標準試料膜12の一方の表面から他方の表面に対応する。
【0046】
なお、TOF-SIMS法を実施する際には、イオンビームを標準試料膜に照射しながら実施することが好ましい。イオンビームを照射しながらTOF-SIMSで標準試料膜の深さ方向の成分を分析する際において、表面深さ領域1~2nmの成分分析を行った後、さらに深さ方向に1nmから数百nm掘り進んで、次の表面深さ領域1~2nmの成分分析を行う一連の操作を繰り返す。
【0047】
図1および2に示すように、標準試料膜の一方の表面から他方の表面側に向かって標準試料膜の全厚みの20%の位置を第1位置P1とし、標準試料膜の一方の表面から他方の表面側に向かって標準試料膜の全厚みの80%の位置を第2位置P2とする。
より具体的には、
図2の白抜き矢印で示すように、標準試料膜12の一方の表面12Aから他方の表面12B側に向かって、表面12Aを基準として標準試料膜の全厚みTの20%の厚み分離れた位置を第1位置P1とする。また、
図2の黒矢印で示すように、標準試料膜12の一方の表面12Aから他方の表面12B側に向かって、表面12Aを基準として標準試料膜の全厚みTの80%の厚み分離れた位置を第2位置P2とする。
次に、第1位置P1から第2位置P2までの金属元素の二次イオン強度の合計値を算出する。具体的には、
図1で示される第1位置P1から第2位置P2までの金属元素の二次イオン強度の合計値を算出する。
図1に示すように、標準試料膜の表面(表面12Aおよび表面12B)付近においては、表面汚染などの影響により二次イオン強度の大きさが安定しない場合があるため、標準試料膜の一方の表面から第1位置P1までの領域、および、標準試料膜の他方の表面から第2位置P2までの領域における二次イオン強度を除いて、計算を行う。
【0048】
上記金属元素の二次イオン強度の合計値を算出する操作を、標準試料膜の表面の10箇所で行い、それぞれの測定箇所(10箇所)における金属元素の二次イオン強度の合計値を求める。得られた10個の金属元素の二次イオン強度の合計値の相対標準偏差を算出して、元素濃度ばらつき(%)とする。
各測定箇所の大きさは、縦100μm×横100μmの範囲とする。
なお、上記相対標準偏差を算出する際には、まず、得られた10個の金属元素の二次イオン強度の合計値より算出される標準偏差と、得られた10個の金属元素の二次イオン強度の合計値の算術平均値とを求める。得られた算術平均値に対する、標準偏差の割合(%)[(標準偏差/算術平均値)×100]を求めて、元素濃度ばらつきとする。
【0049】
なお、標準試料膜に複数の種類の金属元素が含まれる場合、少なくとも1つの金属元素の上記元素濃度ばらつきが所定の範囲内であることが好ましく、それぞれの金属元素の上記元素濃度ばらつきが所定の範囲内であることがより好ましい。つまり、標準試料膜に含まれる全ての種類の金属元素の上記元素濃度ばらつきが所定の範囲内であることがより好ましい。
【0050】
(標準試料膜の製造方法)
標準試料膜の製造方法は、上述した特性を示す標準試料膜を製造できれば、特に制限されない。例えば、有機酸の金属塩を使用する場合、ポリマー(特に、非水溶性ポリマー)と、有機酸の金属塩と、必要に応じて使用される他の成分(例えば、炭化水素、および、界面活性剤)と、有機溶媒とを含む標準試料膜形成用組成物を調製して、得られた標準試料膜形成用組成物を基板上に塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する方法が挙げられる。また、無機酸の金属塩を使用する場合、ポリマー(特に、水溶性ポリマー)と、無機酸の金属塩と、必要に応じて使用される他の成分(例えば、界面活性剤)と、水、または、無機酸を含む水溶液とを含む標準試料膜形成用組成物を調製して、得られた標準試料膜形成用組成物を基板上に塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する方法が挙げられる。つまり、ポリマーと、金属元素の供給源と、溶媒とを少なくとも含む標準試料膜形成用組成物を基板上に塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する方法が挙げられる。
【0051】
なかでも、本発明の効果が優れる標準試料膜を生産性良く製造できる点で、炭化水素と、有機酸の金属塩と、上記炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマーと、溶媒とを含む標準試料膜形成用組成物を塗布して、標準試料膜を形成する工程を有する、標準試料膜の製造方法が好ましい。
炭化水素および有機酸の金属塩は、上述した通りである。
【0052】
炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマー(以下、単に「特定ポリマー」ともいう。)は、炭化水素と相溶性がよい。
特定ポリマーのSP値と炭化水素のSP値との差の絶対値は、本発明の効果がより優れる点で、2.5MPa1/2以内が好ましく、2.0MPa1/2以内がより好ましく、1.5MPa1/2以内が特に好ましく、1.0MPa1/2以内が最も好ましい。上記差の絶対値の下限は特に制限されないが、0が好ましい。
特定ポリマーのSP値は、上記差の絶対値の範囲を満たしていればよいが、本発明の効果がより優れる点で、15~19MPa1/2が好ましく、16~17MPa1/2がより好ましい。
なお、特定ポリマーが複数の繰り返し単位を含む場合、各繰り返し単位のSP値と、その繰り返し単位の全繰り返し単位に対するモル比との積をそれぞれ算出して、合計して特定ポリマーのSP値を算出する。例えば、特定ポリマーが、SPAの繰り返し単位Aと、SPBの繰り返し単位Bとが含まれ、繰り返し単位Aの全繰り返し単位に対するモル比が0.2で、繰り返し単位Bの全繰り返し単位に対するモル比が0.8である場合、特定ポリマーのSP値は以下のように算出される。
特定ポリマーのSP値=(SPA×0.2)+(SPB×0.8)
【0053】
特定ポリマーの種類は、上記差の絶対値の範囲を満たしていれば特に制限されない。
特定ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、および、ポリアミド系ポリマーが挙げられ、(メタ)アクリル系ポリマーまたはスチレン系ポリマーが好ましく、(メタ)アクリル系ポリマーがより好ましい。
各ポリマーの詳細は、標準試料膜に含まれるポリマーにて説明した通りである。
【0054】
上記標準試料膜形成用組成物に含まれる特定ポリマーの含有量は、上述した標準試料膜中におけるポリマーの含有量となるように調整されることが好ましい。
上記標準試料膜形成用組成物に含まれる有機酸の金属塩の含有量は、上述した標準試料膜中における金属元素の含有量となるように調整されることが好ましい。
上記標準試料膜形成用組成物に含まれる炭化水素の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、特定ポリマー、有機酸の金属塩、および、炭化水素の合計量に対して、1~60質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
【0055】
上記標準試料膜形成用組成物に含まれる溶媒としては、上述した各種成分を溶解できる溶媒であればよい。溶媒としては、有機溶媒および水が挙げられ、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、および、エステル系溶媒が挙げられ、ケトン系溶媒、または、エステル系溶媒が好ましい。
溶媒として、具体的には、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、アセトン、および、クロロホルムが挙げられる。
上記標準試料膜形成用組成物中の溶媒の濃度は特に制限されないが、厚みの均一性が高い膜が得られる点で、組成物全質量に対する溶媒の含有量は、60~99質量%が好ましく、70~99質量がより好ましい。
【0056】
基板上に標準試料膜形成用組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、など)が挙げられる。
基板の種類は特に制限されず、平坦性に優れる点から、例えば、石英、ガラス基板、および、シリコンウェハが挙げられる。
標準試料膜形成用組成物を基板に塗布した後、必要に応じて、塗膜中の溶媒を除去するために乾燥処理を実施してもよい。乾燥処理の方法としては、例えば、加熱処理が挙げられる。上記乾燥処理の際に、炭化水素が揮発して除去されてもよい。
【0057】
上記基板は、仮支持体であってもよい。
基板が仮支持体である場合、仮支持体と、仮支持体上に配置された上記標準試料膜とを有する転写フィルムが形成される。この転写フィルムの仮支持体上の標準試料膜を被転写物と接触させて、仮支持体を剥離することにより、被転写物上に標準試料膜を配置することができる。このような転写フィルムを用いると、様々な形状の被転写物上に標準試料膜を配置することができる。
【0058】
仮支持体としては、例えば、表面を剥離剤(例えば、シリコーン系剥離剤)で処理した支持体、および、それ自体が剥離性を有する支持体が挙げられる。
仮支持体としては、ポリマー基板であることが好ましい。
仮支持体を構成する材料としては、例えば、セルロース系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、および、ポリアミド系ポリマーが挙げられる。
仮支持体の標準試料膜が配置される側の水接触角は特に制限されないが、標準試料膜の転写性がより優れる点で、100度以上が好ましい。
上記水接触角の測定方法としては、JIS R 3257:1999中に記載された静滴法が挙げられる。具体的には、接触角計FTA1000(ソフトウェアFta32)(First Ten Angstroms社製)を用い、室温25℃、湿度50%の条件で測定した水接触角である。より具体的には、水平を保った仮支持体表面に、純水を1.5μl滴下し、30秒経過した時点における、仮支持体表面上における純水の液滴について、半径rと高さhを求め、水接触角θをθ=2arctan(h/r)の式から算出した値である。
【0059】
<試料セット>
本発明の第1実施態様の試料セットは、複数の標準試料膜を組み合わせたセットである。なお、複数の標準試料膜は同じ種類の金属元素を含み、複数の標準試料膜中の同じ種類の金属元素の濃度が互いに異なる。
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法においては、通常、同じ種類の金属元素の濃度が異なる複数の標準試料膜を用いて、測定対象である所定の金属元素の濃度と信号強度との関係を表した検量線の作成を行う。つまり、上記試料セットを用いることにより、検量線を容易に作成できる。
試料セット中の標準試料膜の数は特に制限されないが、金属元素の濃度が互いに異なる標準試料膜を2以上含むことが好ましく、5以上含むことがより好ましい。上限は特に制限されないが、10以下の場合が多い。
【0060】
<定量分析方法>
本発明の標準試料膜を用いることにより、金属元素の含有量が未知の測定試料に含まれる金属元素の含有量を分析できる。
本発明の第1実施態様の定量分析方法においては、公知のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いることができる。なかでも、フェムト秒レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いることが好ましい。上記装置としては、例えば、Jupiter solid nebulizer(STジャパン製)が挙げられる。
第1実施態様で用いられるレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置は、後述する第2実施態様で用いられるレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置と同じである。装置の詳細は、第2実施態様で説明する。
【0061】
定量分析方法は、後述する工程A~Cを有する。
工程A:金属元素の濃度が互いに異なる本発明の標準試料膜を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料膜から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程
工程B:複数の標準試料膜中の金属元素の濃度と、工程Aで得られた複数の標準試料膜のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程
工程C:標準試料膜中の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、測定試料中の金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程
以下、各工程の手順について詳述する。
【0062】
(工程A)
工程Aは、金属元素の濃度が互いに異なる本発明の標準試料膜を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料膜から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程である。本工程では、金属元素の濃度が既知である標準試料膜を用いて、その標準試料膜から得られる信号強度を測定する。
上述したように、本工程Aでは、公知のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて、信号強度を測定する。
【0063】
工程Aにおいては、標準試料膜の複数の位置(箇所)にレーザー光を照射して、それぞれの位置における金属元素のイオンの信号強度を測定して、得られた信号強度を算術平均して、得られた平均信号強度をその標準試料膜から得られる信号強度として用いてもよい。
より具体的には、
図3に示すように、標準試料膜12中の複数の領域14に対して、それぞれレーザー光を照射する。
図3においては、領域14の数は9点であるが、その数は特に制限されない。通常、5~20点の場合が多い。
領域14の大きさは特に制限されないが、縦0.1~1.0mmで、横0.1~1.0mmの場合が多い。
領域14間の間隔は特に制限されないが、通常、領域14の一辺の長さ程度離間している。
【0064】
標準試料膜に対するレーザー光の照射方法は特に制限されない。
照射するレーザー光の波長は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、200~300nmが好ましく、230~260nmがより好ましい。
照射するレーザー光の強度は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1.0~2.0J/cm2が好ましく、1.2~1.8J/cm2がより好ましい。
照射するレーザー光のパルス幅は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、200~300fsが好ましく、230~250fsがより好ましい。
照射するレーザー光の周波数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5000~20000Hzが好ましく、8000~12000Hzがより好ましい。
レーザー光の照射時間は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.5~3.0秒が好ましく、1.5~2.5秒がより好ましい。
【0065】
工程Aにおいて用いられる、金属元素の濃度が互いに異なる標準試料膜の数は特に制限されず、検量線を測定するのに必要な数が適宜選択される。
金属元素の濃度が互いに異なる標準試料膜の数は、定量分析の精度がより向上する点で、2以上が好ましく、5~20がより好ましく、5~10がさらに好ましい。つまり、標準試料膜中の金属元素の濃度とその濃度での信号強度とのデータを少なくとも2以上(好ましくは5~20、より好ましくは5~10)得ることが好ましい。
【0066】
工程Aを実施することにより、金属元素の濃度が異なる複数の標準試料膜から、その濃度に基づいた測定対象である金属元素のイオンの信号強度のデータを得ることができる。つまり、金属元素の濃度に対応した信号強度のデータを、金属元素の濃度ごとに得ることができる。
なお、標準試料膜中に複数種の金属元素が含まれる場合(金属元素の種類が異なる複数の有機酸の金属塩が含まれる場合)には、本工程Aにおいて、それぞれの種類の金属元素の濃度に対応したイオンの信号強度をそれぞれ得てもよい。
【0067】
(工程B)
工程Bは、複数の標準試料膜中の金属元素の濃度と、工程Aで得られた複数の標準試料膜のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程である。
上述したように、工程Aにおいては、金属元素の濃度が異なる複数の標準試料膜から、その濃度に基づいた信号強度のデータを得ることができる。本工程Bでは、金属元素の濃度と、その濃度に基づいた金属元素のイオンの信号強度とを用いて検量線を作成する。より具体的には、例えば、
図4に示すように、金属元素の濃度を横軸に、金属元素のイオンの信号強度を縦軸にした直交座標に、各標準試料膜での金属元素の濃度および金属元素のイオンの信号強度に対する点をプロットして(
図4中の黒点に該当)、プロットされた点を通る検量線(
図4中の破線)を作成する。検量線を引く際には、例えば、最小二乗法に基づいて検量線(回帰直線)を引く方法が挙げられる。
図4においては、5点のプロット点が記載されているが、プロット点の数は
図4に限定されない。
【0068】
(工程C)
工程Cは、標準試料膜中の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程である。本工程Cでは、金属元素の濃度が未知である測定試料に対して、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法を適用して、金属元素のイオンの信号強度を測定して、検量線から測定試料中の金属元素のイオンの信号強度と対応する金属元素の濃度を読み取り、測定試料中の検出金属元素の濃度を求める。
【0069】
より具体的には、
図4に示すように、工程Cで得られた金属元素の濃度が未知の測定試料の金属元素のイオンの信号強度がS1であった場合、検量線から信号強度S1に対応する金属元素の濃度M1を読み取ることにより、測定試料中の金属元素の濃度がM1であると定量できる。
【0070】
なお、測定試料が複数の金属元素を含む場合、それぞれの金属元素に対応した検量線に基づいて、測定試料中の各金属元素の濃度を定量することもできる。
【0071】
[第2実施態様]
本発明の第2実施態様の標準試料の特徴点としては、有機酸の金属塩と所定のバインダー(炭化水素および所定のポリマー)とを用いている点が挙げられる。
測定位置による金属元素のイオンの信号強度のばらつきは、主に、標準試料中における金属元素の分布の均一性に関連している。つまり、標準試料中において、有機酸の金属塩が偏在している場合、有機酸の金属酸がある位置と無い位置とで、信号強度が大きく異なる。本発明者らは、所定のバインダーを用いることにより、有機酸の金属塩を標準試料中において均一に分散させることができ、結果として所望の効果が得られることを見出している。
なお、本発明の標準物質であれば、様々な素材に対応することが可能である。つまり、本発明の標準物質は、無機物質および有機物質を含めた広い材料分野での元素分析に対応することが可能である。
【0072】
以下では、まず、本発明の標準試料について詳述した後、試料セット、転写フィルム、および定量分析方法について詳述する。
【0073】
<標準試料>
本発明の標準試料は、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法に用いられる標準試料であって、炭化水素と、有機酸の金属塩と、炭化水素のSP(Solubility Parameter)値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマーと、を含む。
以下では、標準試料に含まれる各成分について詳述する。
【0074】
(炭化水素)
炭化水素の種類は特に制限されず、公知の炭化水素が挙げられる。
炭化水素は、飽和炭化水素であっても、不飽和炭化水素であってもよく、本発明の効果がより優れる点で、飽和炭化水素が好ましい。
炭化水素は、脂肪族炭化水素であっても、芳香族炭化水素であってもよく、本発明の効果がより優れる点で、脂肪族炭化水素が好ましい。
炭化水素は、直鎖状であっても、分岐鎖状であってもよい。また、環状構造を有していてもよい。
炭化水素の炭素数は特に制限されず、本発明の効果がより優れる点で、5以上が好ましく、10以上がより好ましく、15以上がさらに好ましく、20以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、40以下の場合が多く、30以下の場合がより多い。
【0075】
炭化水素としては、本発明の効果がより優れる点で、脂肪族飽和炭化水素が好ましく、炭素数10以上の脂肪族飽和炭化水素がより好ましく、パラフィンがさらに好ましい。
本明細書において、パラフィンとは、炭素数15以上の脂肪族飽和炭化水素を意味する。
【0076】
炭化水素のSP値は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、14~18MPa1/2が好ましく、15~17MPa1/2がより好ましい。
SP値の計算方法は、以下の通りである。
計算プログラム(HSPiP、ver.4.1.07)を用いて、各材料の分子構造を入力し、プログラム付属のHSP値(ハンセン溶解度パラメータ)計算機能を用いて、HSP値(δD、δP、δH)を算出する。次に、以下の式より、SP値を算出する。
式 SP値=(δD
2+δP
2+δH
2)1/2
【0077】
標準試料中、炭化水素の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、標準試料全質量に対して、1~60質量%が好ましく、1~40質量%がより好ましく、1~20質量%がさらに好ましく、1~10質量%が特に好ましい。
炭化水素は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。炭化水素を2種以上組み合わせて用いる場合、炭化水素の合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0078】
(有機酸の金属塩)
有機酸の金属塩とは、有機酸と金属元素とを含む塩である。
有機酸としては、例えば、スルホン酸基、カルボン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基、および、チオール基からなる群から選択される酸基を有する化合物が挙げられる。なかでも、スルホン酸基を有する化合物が好ましい。
有機酸は、炭化水素基(脂肪族炭化水素基または芳香族炭化水素基)を有することが好ましく、脂肪族炭化水素基を有することがより好ましく、アルキル基を有することがさらに好ましい。上記炭化水素基(脂肪族炭化水素基、アルキル基)の炭素数は特に制限されないが、5以上が好ましい。
なお、有機酸は脂肪族炭化水素基および芳香族炭化水素基の両方を有していてもよい。
有機酸としては、本発明の効果がより優れる点で、上記酸基を有する炭化水素が好ましく、アルキルアリルスルホン酸がより好ましい。
また、有機酸の炭化水素基のSP値と炭化水素のSP値との差の絶対値は、本発明の効果がより優れる点で、3.5MPa1/2以内であることが好ましく、2.0MPa1/2以内であることがより好ましく、1.0MPa1/2以内であることがさらに好ましい。上記差の絶対値の下限値は特に制限されないが、0MPa1/2が挙げられる。
【0079】
金属塩の金属元素は特に制限されず、公知の金属元素が挙げられる。金属元素としては、例えば、水素元素を除いた周期表第1族~第12族元素の金属元素、および、周期表第13族~第16族の金属元素が挙げられる。周期表第13族に属する金属元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、および、タリウム(Tl)が挙げられる。周期表第14族に属する金属元素としては、ゲルマニウム(Ge)、錫(Sn)、および、鉛(Pb)が挙げられる。周期表第15族の属する金属元素としては、アンチモン(Sb)、および、ビスマス(Bi)が挙げられる。周期表第16族に属する金属元素としては、ポロニウム(Po)が挙げられる。
金属元素としては、本発明の効果がより優れる点で、アルミニウム(Al)、ナトリウム(Na)、マグネシウム(Mg)、バリウム(Ba)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、カドミウム(Cd)、および、鉛(Pb)が好ましい。
【0080】
標準試料中、有機酸の金属塩の含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が、標準試料全質量に対して、0.1~1000質量ppmが好ましく、0.1~300質量ppmがより好ましい。
標準試料中における有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度とは、標準試料中における有機酸の金属塩に含まれる金属元素の濃度を意味する。
有機酸の金属塩は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。金属元素の種類が異なる2種以上の有機酸の金属塩を組み合わせて用いる場合、それぞれの有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が上記範囲内であることが好ましい。
【0081】
上述したように、有機酸の金属塩を2種以上用いる場合、金属元素の種類が異なる2種以上の有機酸の金属塩を用いることが好ましい。
標準試料中に金属元素の種類が異なる2種以上の有機酸の金属塩が含まれる場合、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法において2種以上の金属元素の信号強度を得ることができ、1つの標準試料で複数の金属元素に関する検量線を作成できる。
標準試料中に含まれる金属元素の種類が異なる有機酸の金属塩の種類数は特に制限されず、2以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、40以下の場合が多い。
【0082】
(炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマー)
炭化水素のSP値との差の絶対値が3.5MPa1/2以内であるポリマー(以下、単に「特定ポリマー」ともいう。)は、炭化水素と相溶性がよい。
特定ポリマーのSP値と炭化水素のSP値との差の絶対値は、本発明の効果がより優れる点で、2.5MPa1/2以内が好ましく、2.0MPa1/2以内がより好ましく、1.5MPa1/2以内が特に好ましく、1.0MPa1/2以内が最も好ましい。上記差の絶対値の下限は特に制限されないが、0が好ましい。
特定ポリマーのSP値は、上記差の絶対値の範囲を満たしていればよいが、本発明の効果がより優れる点で、15~19MPa1/2が好ましく、16~17MPa1/2がより好ましい。
SP値の計算方法は、以下の通りである。
計算プログラム(HSPiP、ver.4.1.07)を用いて、各材料の分子構造(特定ポリマー中の繰り返し単位の構造)を入力し、プログラム付属のHSP値(ハンセン溶解度パラメータ)計算機能を用いて、HSP値(δD、δP、δH)を算出する。次に、以下の式より、SP値を算出する。
式 SP値=(δD
2+δP
2+δH
2)1/2
なお、特定ポリマーが複数の繰り返し単位を含む場合、各繰り返し単位のSP値と、その繰り返し単位の全繰り返し単位に対するモル比との積をそれぞれ算出して、合計して特定ポリマーのSP値を算出する。例えば、特定ポリマーが、SPAの繰り返し単位Aと、SPBの繰り返し単位Bとが含まれ、繰り返し単位Aの全繰り返し単位に対するモル比が0.2で、繰り返し単位Bの全繰り返し単位に対するモル比が0.8である場合、特定ポリマーのSP値は以下のように算出される。
特定ポリマーのSP値=(SPA×0.2)+(SPB×0.8)
【0083】
特定ポリマーの種類は、上記差の絶対値の範囲を満たしていれば特に制限されない。
特定ポリマーとしては、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、および、ポリアミド系ポリマーが挙げられ、(メタ)アクリル系ポリマーまたはスチレン系ポリマーが好ましく、(メタ)アクリル系ポリマーがより好ましい。
(メタ)アクリル系ポリマーとは、アクリル系ポリマーおよびメタクリル系ポリマーの総称である。
【0084】
スチレン系ポリマーとは、スチレンに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。
スチレン系ポリマーにおける、スチレンに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、スチレン系ポリマーに含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0085】
(メタ)アクリル系ポリマーとは、アクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。
(メタ)アクリル系ポリマーは、本発明の効果がより優れる点で、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位を含むことが好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステル中のアルキル基の炭素数は、本発明の効果がより優れる点で、2~14が好ましく、3~10がより好ましく、3~8がさらに好ましい。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとは、アクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルの総称である。
【0086】
上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、sec-ブチル(メタ)アクリレート、1,3-ジメチルブチルアクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソペンチル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、2-エチルブチル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、n-オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ノニル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、n-デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、n-ドデシル(メタ)アクリレート、n-トリデシル(メタ)アクリレート、および、n-テトラデシル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0087】
(メタ)アクリル系ポリマーにおける、炭素数1~14のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルに由来する繰り返し単位の含有量は、本発明の効果がより優れる点で、(メタ)アクリル系ポリマーに含まれる全繰り返し単位に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されないが、100質量%が挙げられる。
【0088】
オレフィン系ポリマーとは、オレフィンに由来する繰り返し単位を、全繰り返し単位中、質量比で最も多く含む重合体である。オレフィンとしては、例えば、エチレンおよびプロピレンが挙げられる。
ポリエステル系ポリマーとは、多価カルボン酸(ジカルボン酸)とポリアルコール(ジオール)とを、脱水縮合してエステル結合を形成させることによって合成されたポリマーである。ポリエステル系ポリマーとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリブチレンテレフタレートが挙げられる。
ポリアミド系ポリマーとは、アミド結合によって多数のモノマーが結合してできたポリマーである。ポリアミド系ポリマーとしては、ナイロン6、および、ナイロン6,6が挙げられる。
【0089】
標準試料中、特定ポリマーの含有量は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、標準試料全質量に対して、40質量%以上が好ましく、60質量以上より好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%以上が特に好ましい。上限は特に制限されないが、99質量%未満の場合が多く、98質量%以下が好ましく、97質量%以下がより好ましい。
特定ポリマーは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特定ポリマーを2種以上組み合わせて用いる場合、特定ポリマーの合計含有量が上記範囲であることが好ましい。
【0090】
標準試料は、本発明の効果を損なわない範囲において、上述した炭化水素、有機酸の金属塩、および、特定ポリマー以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、溶媒が挙げられる。
標準試料中における他の成分の含有量は、標準試料全質量に対して、5質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。下限は制限されないが、0質量%が挙げられる。
【0091】
標準試料の製造方法は特に制限されず、上述した各種成分(炭化水素、有機酸の金属塩、および、特定ポリマー)を混合する方法が挙げられる。混合する方法としては、溶媒中に各種成分を添加して混合撹拌して、溶媒を除去する方法が挙げられる。
【0092】
標準試料の形状は特に制限されず、膜状であっても、塊状であってもよい。なかでも、測定が実施しやすい点で、膜状であることが好ましい。なお、本発明の標準試料が膜状である場合、得られる膜の表面平坦性に優れる。
標準試料が膜状である場合、標準試料からなる試料膜の平均膜厚は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.1~10μmが好ましく、0.5~5μmがより好ましく、0.5~3.5μmがさらに好ましい。
上記平均膜厚は、触針式段差計を用いて、標準試料からなる試料膜の任意の20点の厚みを測定して、それらを算術平均して求める。
【0093】
標準試料からなる試料膜の製造方法は特に制限されず、溶媒および上述した各種成分(炭化水素、有機酸の金属塩、および、特定ポリマー)を混合して組成物を調製して、得られた組成物を基板上に塗布して、必要に応じて乾燥処理を実施する方法が挙げられる。
【0094】
使用される溶媒の種類は特に制限されず、上述した各種成分を溶解できる溶媒であればよい。溶媒としては、有機溶媒および水が挙げられ、有機溶媒が好ましい。有機溶媒としては、例えば、ケトン系溶媒、アルコール系溶媒、エーテル系溶媒、炭化水素系溶媒、および、エステル系溶媒が挙げられ、ケトン系溶媒、または、エステル系溶媒が好ましい。
溶媒として、具体的には、メチルエチルケトン、酢酸ブチル、トルエン、ヘキサン、アセトン、および、クロロホルムが挙げられる。
上記組成物中の溶媒の濃度は特に制限されないが、厚みの均一性が高い膜が得られる点で、組成物全質量に対する溶媒の含有量は、60~99質量%が好ましく、70~99質量がより好ましい。
【0095】
基板上に組成物を塗布する方法は特に制限されず、公知の方法(例えば、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法など)が挙げられる。
基板の種類は特に制限されず、平坦性に優れる点から、例えば、石英、ガラス基板、および、シリコンウェハが挙げられる。
組成物を基板に塗布した後、必要に応じて、塗膜中の溶媒を除去するために乾燥処理を実施してもよい。乾燥処理の方法としては、例えば、加熱処理が挙げられる。
【0096】
上記基板は、仮支持体であってもよい。
基板が仮支持体である場合、仮支持体と、仮支持体上に配置された上記標準試料からなる試料膜とを有する転写フィルムが形成される。この転写フィルムの仮支持体上の試料膜を被転写物と接触させて、仮支持体を剥離することにより、被転写物上に試料膜を配置することができる。このような転写フィルムを用いると、様々な形状の被転写物上に試料膜を配置することができる。
【0097】
仮支持体としては、例えば、表面を剥離剤(例えば、シリコーン系剥離剤)で処理した支持体、および、それ自体が剥離性を有する支持体が挙げられる。
仮支持体としては、ポリマー基板であることが好ましい。
仮支持体を構成する材料としては、例えば、セルロース系ポリマー、(メタ)アクリル系ポリマー、スチレン系ポリマー、オレフィン系ポリマー、ポリエステル系ポリマー、および、ポリアミド系ポリマーが挙げられる。
仮支持体の標準試料からなる試料膜が配置される側の水接触角は特に制限されないが、試料膜の転写性がより優れる点で、100度以上が好ましい。
上記水接触角の測定方法としては、JIS R 3257:1999中に記載された静滴法が挙げられる。具体的には、接触角計FTA1000(ソフトウェアFta32)(First Ten Angstroms社製)を用い、室温25℃、湿度50%の条件で測定した水接触角である。より具体的には、水平を保った仮支持体表面に、純水を1.5μl滴下し、30秒経過した時点における、仮支持体表面上における純水の液滴について、半径rと高さhを求め、水接触角θをθ=2arctan(h/r)の式から算出した値である。
【0098】
<試料セット>
本発明の第2実施態様の試料セットは、複数の標準試料を組み合わせたセットである。なお、複数の標準試料は同じ種類の有機酸の金属塩を含み、複数の標準試料中の同じ種類の有機酸の金属塩の濃度が互いに異なる。
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法においては、通常、同じ種類の有機酸の金属塩の濃度が異なる複数の標準試料を用いて、測定対象である所定の金属元素の濃度と信号強度との関係を表した検量線の作成を行う。つまり、上記試料セットを用いることにより、検量線を容易に作成できる。
試料セット中の標準試料の数は特に制限されないが、有機酸の金属塩の濃度が互いに異なる標準試料を2以上含むことが好ましく、5以上含むことがより好ましい。上限は特に制限されないが、10以下の場合が多い。
【0099】
<定量分析方法>
本発明の標準試料を用いることにより、金属元素の含有量が未知の測定試料に含まれる金属元素の含有量を分析できる。
本発明の第2実施態様の定量分析方法においては、公知のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いることができる。なかでも、フェムト秒レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いることが好ましい。上記装置としては、例えば、Jupiter solid nebulizer(STジャパン製)が挙げられる。
レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置は、通常、レーザーアブレーション部(以下、単に「LA部」ともいう。)と、誘導結合プラズマ質量分析部(以下、単に「ICP-MS部」ともいう。)を有する。
【0100】
LA部は、試料に対してレーザーを照射してレーザーアブレーションを実施する部である。LA部の構造は特に制限されず、公知の構造が採用され、通常、試料を配置するためのステージと、レーザー照射部とを有する。LA部内には、ヘリウム(He)およびアルゴン(Ar)などの希ガスからなるキャリアガスを導入して、レーザー光の照射によって生じた微粒子またはガス化物をICP-MS部へと搬送する。
通常、LA部とICP-MS部とは管路を介して連通している。
【0101】
ICP-MS部では、高周波電磁誘導により維持された高温のプラズマによってLA部より搬送された測定対象物をイオン化させ、そのイオンを質量分析装置で検出することにより、原子種やその濃度を計測する。
ICP-MS部の構造は特に制限されず、公知の構造が採用され、通常、キャリアガスと共に導入された試料をイオン化するプラズマを発生させるプラズマトーチと、このプラズマトーチの先端部近傍に位置する質量分析部とを有する場合が多い。
【0102】
定量分析方法は、後述する工程1~3を有する。
工程1:有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる本発明の標準試料を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程
工程2:複数の標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度と、工程1で得られた複数の標準試料のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程
工程3:標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程
以下、各工程の手順について詳述する。
【0103】
(工程1)
工程1は、有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる本発明の標準試料を複数用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法によりそれぞれの標準試料から得られる金属元素のイオンの信号強度を測定する工程である。本工程では、有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が既知である標準試料を用いて、その標準試料から得られる信号強度を測定する。
上述したように、本工程1では、公知のレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いて、信号強度を測定する。
【0104】
工程1においては、標準試料の複数の位置(箇所)にレーザー光を照射して、それぞれの位置における金属元素のイオンの信号強度を測定して、得られた信号強度を算術平均して、得られた平均信号強度をその標準試料から得られる信号強度として用いてもよい。
より具体的には、
図5に示すように、標準試料20中の複数の領域22に対して、それぞれレーザー光を照射する。
図5においては、領域22の数は9点であるが、その数は特に制限されない。通常、5~20点の場合が多い。
領域22の大きさは特に制限されないが、縦0.1~1.0mmで、横0.1~1.0mmの場合が多い。
領域22間の間隔は特に制限されないが、通常、領域22の一辺の長さ程度離間している。
【0105】
標準試料に対するレーザー光の照射方法は特に制限されない。
照射するレーザー光の波長は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、200~300nmが好ましく、230~260nmがより好ましい。
照射するレーザー光の強度は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、1.0~2.0J/cm2が好ましく、1.2~1.8J/cm2がより好ましい。
照射するレーザー光のパルス幅は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、200~300fsが好ましく、230~250fsがより好ましい。
照射するレーザー光の周波数は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、5000~20000Hzが好ましく、8000~12000Hzがより好ましい。
レーザー光の照射時間は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、0.5~3.0秒が好ましく、1.5~2.5秒がより好ましい。
【0106】
工程1において用いられる、有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる標準試料の数は特に制限されず、検量線を測定するのに必要な数が適宜選択される。
有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度が互いに異なる標準試料の数は、定量分析の精度がより向上する点で、2以上が好ましく、5~20がより好ましく、5~10がさらに好ましい。つまり、標準試料中の金属元素の濃度とその濃度での信号強度とのデータを少なくとも2以上(好ましくは5~20、より好ましくは5~10)得ることが好ましい。
【0107】
工程1を実施することにより、金属元素の濃度が異なる複数の標準試料から、その濃度に基づいた測定対象である金属元素のイオンの信号強度のデータを得ることができる。つまり、金属元素の濃度に対応した信号強度のデータを、金属元素の濃度ごとに得ることができる。
なお、標準試料中に複数種の金属元素が含まれる場合(金属元素の種類が異なる複数の有機酸の金属塩が含まれる場合)には、本工程1において、それぞれの種類の金属元素の濃度に対応したイオンの信号強度をそれぞれ得てもよい。
【0108】
(工程2)
工程2は、複数の標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素の濃度と、工程1で得られた複数の標準試料のそれぞれの金属元素のイオンの信号強度とに基づく検量線を作成する工程である。
上述したように、工程1においては、金属元素の濃度が異なる複数の標準試料から、その濃度に基づいた信号強度のデータを得ることができる。本工程2では、金属元素の濃度と、その濃度に基づいた金属元素のイオンの信号強度とを用いて検量線を作成する。より具体的には、例えば、
図6に示すように、金属元素の濃度を横軸に、金属元素のイオンの信号強度を縦軸にした直交座標に、各標準試料での金属元素の濃度および金属元素のイオンの信号強度に対する点をプロットして(
図6中の黒点に該当)、プロットされた点を通る検量線(
図6中の破線)を作成する。検量線を引く際には、例えば、最小二乗法に基づいて検量線(回帰直線)を引く方法が挙げられる。
図6においては、5点のプロット点が記載されているが、プロット点の数は
図6に限定されない。
【0109】
(工程3)
工程3は、標準試料中の有機酸の金属塩由来の金属元素と同じ種類の金属元素を含む測定試料を用いて、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法により、金属元素のイオンの信号強度を測定し、検量線に基づいて測定試料中の金属元素の濃度を求める工程である。本工程では、金属元素の濃度が未知である測定試料に対して、レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法を適用して、金属元素のイオンの信号強度を測定して、検量線から測定試料中の金属元素のイオンの信号強度と対応する金属元素の濃度を読み取り、測定試料中の検出金属元素の濃度を求める。
【0110】
より具体的には、
図6に示すように、工程3で得られた金属元素の濃度が未知の測定試料の金属元素のイオンの信号強度がS1であった場合、検量線から信号強度S1に対応する金属元素の濃度M1を読み取ることにより、測定試料中の金属元素の濃度がM1であると定量できる。
【0111】
なお、測定試料が複数の金属元素を含む場合、それぞれの金属元素に対応した検量線に基づいて、測定試料中の各金属元素の濃度を定量することもできる。
【実施例】
【0112】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、および、処理手順などは、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更できる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0113】
<実施例A>
(実施例A1)
メチルエチルケトンに、ポリブチルメタクリレート、および、金属分散液(CONOSTAN STD、SCPサイエンス社製)を加えて、溶解させて、溶液を得た。ポリブチルメタクリレートの濃度は、溶液全質量に対して、10質量%であった。また、金属分散液には、金属種の異なる複数のアルキルアリルスルホン酸塩(炭化水素基のSP値:16MPa1/2)、および、パラフィン(SP値:16MPa1/2)が含まれていた。金属分散液は、後述する標準試料中のアルミニウム元素の濃度が40質量ppmとなるように、添加した。なお、金属分散液には、アルミニウム元素と同量のナトリウム元素、マグネシウム元素、アルミニウム元素、カルシウム元素、チタン元素、バナジウム元素、クロム元素、マンガン元素、鉄元素、ニッケル元素、銅元素、亜鉛元素、モリブデン元素、カドミウム元素、バリウム元素、および、鉛元素が含まれていた。
また、アルキルアリルスルホン酸塩に含まれる炭化水素基のSP値と、パラフィンのSP値との差は、0MPa1/2であった。
【0114】
得られた溶液を合成石英(縦2.5cm×横2.5cm×厚み0.7mm)上にスピンコート(回転数:2000rpm、時間:20秒間)して、膜状の標準試料を合成石英上に作製した。標準試料全質量に対するパラフィンの含有量は8質量%であり、標準試料全質量に対するポリブチルメタクリレートの含有量は上記パラフィンおよび金属分散液中由来の成分(例えば、アルキルアリルスルホニウム塩)以外の残部であった。
【0115】
得られた膜状の標準試料を用いて、フェムト秒レーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析法を実施した。
使用したフェムト秒レーザーアブレーション装置は、Jupiter solid nebulizer(STジャパン製)であった。
各種条件は、以下の通りであった。
レーザー条件
・レーザー装置:LPS MultiProbe
・レーザー波長:260nm
・レーザーパワー(フルエンス):0.5~1.5J/cm2
・レーザーパルス幅:247fs
・レーザー周波数:10,000Hz
・照射時間::約2秒間
・キャリアガス:試料室内Heガス0.6L/min、試料室直後にArガス1.1L/minを添加
・照射範囲:縦1mm×横1mm
ICP-MS条件
・MS測定装置:iCAP TQ(Thermo Fisher Scientific社)
・RF power:1550W
・Cooling gas flow rate:14L/min
・Auxiliary gas flow rate:0.8L/min
【0116】
レーザーアブレーションは、
図3および5に示すように、膜状の標準試料(標準試料膜)の9つの領域(各領域の大きさ:縦1mm×横1mm)に対して実施して、試料を気化させた。各領域の間隔は1mmであった。
9つ領域に対応する信号強度を得た後、信号強度の平均値(平均信号強度)および標準偏差を求めて、さらに、信号強度の相対標準偏差を求めた。
なお、後述する表1に示す信号強度の相対標準偏差は、標準試料に含まれる全ての金属元素について相対標準偏差を求め、最も悪かった値を示す。
【0117】
また、レーザーアブレーションの測定前に、触針式段差計を用いて、作製した標準試料の膜厚の最大高低差を算出した。
膜厚の最大高低差の測定方法は、以下の通りである。
触針式段差計を用いて、標準試料膜の膜厚を算出した。測定距離は3mm、走査速度は0.02mm/secであった。1回目の測定を行った3mmの直線を走査線1とし、2回目の測定を、走査線1と直行する方向に0.2mm以上の距離を持つ箇所で行った。以後、同様の測定を繰り返し、合計10回の測定を行った。10回の測定(走査)を行って、各走査における膜厚の最大値と最小値とを求め、10回の走査によって得られる10個の最大値のうち最も大きい値Aと、10回の走査によって得られる10個の最小値のうち最も小さい値Bとの差分(値A-値B)を膜厚の最大高低差とした。
【0118】
(実施例A2~A3、および、比較例A1)
使用するポリマーの種類を後述する表1のように変更した以外は、実施例A1と同様の手順に従って、信号強度の相対標準偏差を求めた。
【0119】
各実施例および比較例にて得られた膜状の標準試料(標準試料膜)に対して、上述した方法Xを実施して、標準試料膜に含まれる金属元素の元素濃度ばらつき(%)を算出した。
【0120】
なお、表1中、「PBMA」はポリブチルメタクリレートを、「PMMA」はポリメチルメタクリレートを、「PS」はポリスチレンを、「PVBC」はポリビニルベンジルクロライドを表す。
表1中、「Na濃度ばらつき(%)」は、上述した方法Xにて算出されるNa元素の元素濃度ばらつき(%)を表し、「Mg濃度ばらつき(%)」は、上述した方法Xにて算出されるMg元素の元素濃度ばらつき(%)を表す。
【0121】
【0122】
表1に示すように、本発明の標準試料を用いると、信号強度の相対標準偏差が小さいことが確認された。つまり、測定位置による金属元素の信号強度のばらつきが小さいことが確認された。
なかでも、実施例A1~A3の比較より、炭化水素(パラフィン)との差の絶対値が2.5MPa1/2以内の場合(好ましくは、1.0MPa1/2以内の場合)、より効果が優れることが確認された。
【0123】
(実施例2A)
水に、ポリビニルピロリドン(PVP)、および、NaCl標準液(原子吸光用、関東化学(株)製)を加えて、溶解させて、溶液を得た。ポリビニルピロリドンの濃度は溶液全質量に対して6質量%であった。NaCl標準液は、標準試料中のNa元素濃度が40質量ppmになるように、添加した。
得られた溶液を石英基板(縦2.5cm×横2.5cm×厚み1.0mm)上にスピンコート(回転数:1000rpm、時間:20秒)して、ホットプレートで200℃、5分間ベークし、膜状の標準試料(標準試料膜)を石英基板上に作製した。
得られた標準試料膜を用いて、上記実施例A1と同様に各種評価を実施した。結果を表2に示す。
なお、PVPは、水溶性ポリマーに該当する。
【0124】
【0125】
表2に示すように、本発明の標準試料(標準試料膜)を用いると、信号強度の相対標準偏差が小さいことが確認された。つまり、測定位置による金属元素強度のばらつきが小さいことが確認された。
【0126】
(実施例3A)
酢酸ブチルに、ポリブチルメタクリレート、金属分散液(CONOSTAN STD,SCPサイエンス社製)、および、界面活性剤(メガファックR-41、DIC(株)製)を加えて、溶解させて、溶液を得た。ポリブチルメタクリレートの濃度は、溶液全質量に対して、6質量%であり、界面活性剤の濃度は、溶液全質量に対して、0.05質量%であった。金属分散液は、標準試料中のアルミニウム元素の濃度が100質量ppmになるように添加した。
得られた溶液を円盤形状のシリコンウェハ(直径4.0inch×厚み0.5mm)上にスピンコートして、ホットプレートで200℃、5分間ベークし、膜状の標準試料(標準試料膜)をシリコンウェハ上に作製した。
シリコンウェハ中の任意の場所より、縦2.5cm×横2.5cmの標準試料膜の試験片を切り出し、得られた試験片に対して評価を実施し、表3に示す。
【0127】
【0128】
表3に示すように、本発明の標準試料(標準試料膜)を用いると、信号強度の相対標準偏差が小さいことが確認された。つまり、測定位置による金属元素強度のばらつきが小さいことが確認された。
【0129】
<実施例B>
標準試料全質量に対するナトリウム元素、マグネシウム元素、アルミニウム元素、カルシウム元素、チタン元素、バナジウム元素、クロム元素、マンガン元素、鉄元素、ニッケル元素、銅元素、亜鉛元素、モリブデン元素、カドミウム元素、バリウム元素、および、鉛元素の含有量がそれぞれ0質量ppm、23質量ppm、41質量ppm、60質量ppm、76質量ppm、109質量ppm、164質量pm、および、201質量ppmとなるように、金属分散液の添加量を調整した以外は、実施例A1と同様手順に従って、各金属元素(
23Na,
25Mg,
27Al,
43Ca,
49Ti,
51V,
53Cr,
55Mn,
57Fe,
60Ni,
65Cu,
66Zn,
95Mo,
111Cd,
137Ba,
208Pb)の各濃度における信号強度を求めた。なお、上記実施例Aで述べたように、実施例Bでも1つの標準試料の9つの領域に対してレーザー光を照射して、得られる信号強度の平均値を表4~6に示す信号強度として用いた。結果を表4~6に示す。
また、各金属元素の濃度を横軸に、金属元素のイオンの信号強度を縦軸にした直交座標に、各金属元素の濃度および金属元素のイオンの信号強度に対する点をプロットして、プロットされた点を通る検量線を最小二乗法により作成して、決定係数を算出した。表4~6中、「検量線」は作成された検量線の一次関数を表し、「決定係数(R
2)」は最小二乗法により求められる決定係数を表す。決定係数が1.000に近いほど、優れた結果に該当する。
なお、代表例として、
図7に
43Caの場合の結果を示す。
【0130】
なお、金属分散液(CONOSTAN STD、SCPサイエンス社製)には、アルキルスルホン酸ナトリウム、アルキルアリルスルホン酸マグネシウム、アルキルアリルスルホン酸アルミニウム、アルキルアリルスルホン酸カルシウム、アルキルアリルスルホン酸チタン、アルキルアリルスルホン酸バナジウム、アルキルアリルスルホン酸クロム、アルキルアリルスルホン酸マンガン、アルキルアリルスルホン酸鉄、アルキルアリルスルホン酸ニッケル、アルキルアリルスルホン酸銅、アルキルアリルスルホン酸亜鉛、アルキルアリルスルホン酸モリブデンアミン、アルキルアリルスルホン酸カドミウム、アルキルアリルスルホン酸バリウム、および、アルキルアリルスルホン酸鉛が含まれていた。また、金属分散液中における上記各有機酸の金属塩の濃度は、各金属元素換算で0.01質量%であった。つまり、例えば、アルキルアリルスルホン酸マグネシウムは、金属分散液中のマグネシウム元素の量が0.01質量%となるように含まれていた。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
表4~6に示すように、いずれの金属元素においても得られた検量線の直線性が優れており、良好な結果が得られた。
上記検量線を用いることにより、金属元素の濃度が未知の測定試料に対してレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析を実施して、得られた信号強度から金属元素を定量することができる。
【0135】
<実施例C>
(実施例C1)
実施例A1と同様に、メチルエチルケトンに、ポリブチルメタクリレート、および、金属分散液(CONOSTAN STD、SCPサイエンス社製)を加えて、溶解させて、溶液を得た。金属分散液は、標準試料中のアルミニウム元素の濃度が40質量ppmとなるように、添加した。
【0136】
得られた溶液をポリプロピレンフィルム(縦2.5cm×横2.5cm×厚み0.01mm)上にスピンコート(回転数:2000rpm、時間:20秒間)して、膜状の標準試料(標準試料膜)をポリプロピレンフィルム(以下、仮支持体と呼ぶ)上に作製した。標準試料膜全質量に対するパラフィンの含有量は8質量%であり、標準試料膜全質量に対するポリブチルメタクリレートの含有量は上記パラフィンおよび金属分散液中由来の成分(例えば、アルキルアリルスルホニウム塩)以外の残部であった。
【0137】
得られた仮支持体上の標準試料膜の平均膜厚を、触針式段差計を用いて算出した。
【0138】
得られた仮支持体上の標準試料膜面を、シリコンウェハに押し付け、1分間保持した。押し付け時の圧力は約50g/cm2、環境は、常温、常湿だった。
【0139】
仮支持体を剥離し、シリコンウェハ側に転写した標準試料膜の面積の比率を、仮支持体上の標準試料膜の面積を100%として算出した。また、シリコンウェハ側に転写した標準試料膜の平均膜厚を、触針式段差計を用いて算出した。
【0140】
(実施例C2)
溶液を塗布する仮支持体の種類を後述する表7のように変更した以外は、実施例C1と同様の手順に従って、標準試料膜の作製およびシリコンウェハへの押し付けを行った。ポリエチレンテレフタレートフィルム(実施例C2)の厚みは0.01mmだった。
【0141】
用いた仮支持体の水接触角を、上述した方法に従って計測した。
表7中、「転写面積(%)」は、仮支持体上の標準試料膜の面積を100%とし、仮支持体を剥離した際に、シリコンウェハ側に転写した標準試料膜の面積の比率を表す。
表7中、「転写した標準試料膜の平均膜厚(nm)」欄は、シリコンウェハ側に転写した標準試料膜の平均膜厚を表す。
【0142】
【0143】
表7に示すように、仮支持体としてポリプロピレンフィルムおよびポリエチレンテレフタレートフィルムを用いて、シリコンウェハ上に標準試料膜を転写させることができた。なかでも、実施例C1~C2の比較より、仮支持体の水接触角が100度以上の場合、より効果が優れることが確認された。
【符号の説明】
【0144】
10 基板
12 標準試料膜
14 領域
20 標準試料
22 領域