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特許7403119ステロイドの測定方法、ステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ステロイドの測定方法、ステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20231215BHJP
   C12M 1/40 20060101ALI20231215BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20231215BHJP
   C12Q 1/32 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
G01N27/327 353T
C12M1/40 B
G01N27/416 336G
C12Q1/32
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019193718
(22)【出願日】2019-10-24
(65)【公開番号】P2020076765
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2018207465
(32)【優先日】2018-11-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100222922
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100202913
【弁理士】
【氏名又は名称】武山 敦史
(72)【発明者】
【氏名】三重 安弘
(72)【発明者】
【氏名】松田 智昌
(72)【発明者】
【氏名】猪熊 立規
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-163268(JP,A)
【文献】特開2000-189188(JP,A)
【文献】国際公開第2005/056824(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/017188(WO,A1)
【文献】特開2002-372511(JP,A)
【文献】特開2014-219353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/327,27/416,
G01N 33/483,
C12M 1/40,
C12Q 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、該メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極と、を用いる(ただし、デヒドロゲナーゼとジアフォラーゼと、の会合タンパク質を用いるものを除く)
ことを特徴とするステロイドの測定方法。
【請求項2】
前記ハイドロキシステロイド脱水素酵素は、3α型、3β型、11β型及び17β型からなる群より少なくとも1つ選択される、
ことを特徴とする請求項1に記載のステロイドの測定方法。
【請求項3】
前記ステロイドは、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、コルチゾール、エストラジオール、アンドロステロン、それらの酸化型ステロイド及びそれらの誘導体からなる群より少なくとも1つ選択される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のステロイドの測定方法。
【請求項4】
前記電極により電流値を測定する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のステロイドの測定方法。
【請求項5】
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、を含み(ただし、デヒドロゲナーゼとジアフォラーゼと、の会合タンパク質を用いるものを除く)
前記メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極を備える、
ことを特徴とするステロイドの測定キット。
【請求項6】
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、該メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極と、を用いて対象サンプルの電流値を測定する工程と、
得られた電流値をステロイド濃度に変換する工程と、
得られたステロイド濃度をストレス度に変換する工程と、
を含むストレス度の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステロイドの測定方法、ステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステロイドの一つであるコルチゾールは、副腎皮質から放出されるステロイドホルモンであり、ストレスとの関連では最もよく研究されているバイオマーカーである。
【0003】
体内のコルチゾール濃度が高いほど、ストレス度が高いことが知られている。体内のコルチゾールをいかに測定するかについての研究も進んでおり、血液のみならず唾液に含まれるコルチゾールを測定することも可能となってきている。
【0004】
コルチゾールの測定方法について、いくつか提案がなされている。
【0005】
特許文献1には、コルチゾール酸化酵素又は脱水素酵素を用いて、コルチゾールの酸化又は脱水素反応により生じる副生成物である「過酸化水素」及び「水素」を電気化学的に分解して計測する、コルチゾールの測定装置が開示されている(いわゆる第一世代型の電気化学酵素センサ)。
【0006】
非特許文献1には、抗体を用いて、コルチゾール及び検出用酵素が標識された抗原を(競合的に)捕捉し、該検出用酵素による基質の吸光特性の変化を計測してコルチゾールをアッセイする方法が開示されている(いわゆる競合ELISA法)。
【0007】
また、ATP濃度の測定であって、作用電極と参照電極とを含む酵素電極を使用し、アンモニア、NAD、胆汁酸塩、電子伝達物質を含む水溶液と試料とを混合した試料溶液に含まれるATPを、ジアフォラーゼ(DI)、12α-ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(12α-HSD)およびニコチンアミド-アデニンジヌクレオチドシンセターゼ(NADS)を固定した作用電極を用いて測定する方法もある(特許文献2)。試料溶液が作用電極に接触すると試料溶液が浸透し、NADSの作用によりデアミドNADおよびアンモニアから、試料溶液のATP濃度に対応する量のNADが生成する。このNADを12α-HSDとDIを組み合わせた酵素的サイクリングにより検出するというものである。生成したNADから12α-HSDの作用によりNADHが生成し、同時に試料溶液中の胆汁酸塩が酸化され、生成したNADHから、DIの作用によりNADが復元され、同時に酸化型の電子伝達物質が還元され、還元型の電子伝達物質となる。作用電極と参照電極の間に十分な電圧を印加すると、還元型の電子伝達物質は作用電極表面において電気化学的に酸化され、作用電極に電子を供給して酸化型の電子伝達物質に復元される。NADHの酸化/NADの還元と、電子伝達物質の酸化/還元が繰り返され、その間、作用電極表面における還元型電子伝達物質の電気化学的酸化に伴い作用電極への電子の供給が継続される。このとき、作用電極への電子の供給の速さ、即ち作用電極における電流は試料溶液中のATPの濃度に比例するので、作用電極における電流を測定することにより、試料中のATPの濃度を求めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2002-372511号公報
【文献】国際公開第2002/25262号
【非特許文献】
【0009】
【文献】井澤修平ら、日本補完代替医療学会誌、第4巻、第3号、2007年10月、113-118頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の測定装置では、生体試料に元々含まれる過酸化水素をも計測されるため、生体試料中のコルチゾールの正確な計測は困難であった。また、基質(試料)が供給された時(基質が酵素と接触し始める時)から測定終了後まで当該酵素反応が進行するため、計測された電流の解釈が複雑となり、コルチゾールの測定装置としての実用化には課題を残していた。
【0011】
また、非特許文献1に記載の方法では、計測に1.5~数時間を要する場合があり、迅速にコルチゾールを測定できない点で課題を残していた。
【0012】
また、特許文献2のATPの測定方法では、作用電極に固定したNADSと試料中のATPとを反応させることを特徴とするため、ATPの定量に代えて、試料溶液に含まれるアンモニア、NADを定量することもできる。しかしながら、12α-HSDの基質はNADSと反応しないため、当該基質量を測定することはできない。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、即時的かつ高感度にステロイドを定量的に測定することのできるステロイドの測定方法、ステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明の第1の観点に係るステロイドの測定方法は、
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、前記メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極と、を用いる(ただし、デヒドロゲナーゼとジアフォラーゼと、の会合タンパク質を用いるものを除く)、ことを特徴とする。
【0015】
例えば、前記ハイドロキシステロイド脱水素酵素は、3α型、3β型、11β型及び17β型からなる群より少なくとも1つ選択される。
【0016】
例えば、前記ステロイドは、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、コルチゾール、エストラジオール、アンドロステロン、それらの酸化型ステロイド及びそれらの誘導体からなる群より少なくとも1つ選択される。
【0017】
例えば、前記電極により電流値を測定する。
【0018】
本発明の第2の観点に係るステロイドの測定キットは、
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、を含み(ただし、デヒドロゲナーゼとジアフォラーゼと、の会合タンパク質を用いるものを除く)
前記メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極を備える、
ことを特徴とする。
【0019】
本発明の第3の観点に係るストレス度の測定方法は、
ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、該メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極と、を用いて対象サンプルの電流値を測定する工程と、
得られた電流値をステロイド濃度に変換する工程と、
得られたステロイド濃度をストレス度に変換する工程と、
を含む。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、即時的かつ高感度にステロイドを定量的に測定することのできるステロイドの測定方法、ステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】11-β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素type 2(HSD2)によるコルチゾールの測定の系を模式的に示した図である。
図2】HSD2によるコルチゾールの電気化学検出における応答を表したサイクリックボルタモグラムである。
図3】電流値とコルチゾール量との関係を表したグラフ図である。
図4】3α-ハイドロキシステロイド脱水素酵素(3αHSD)によるアンドロステロンの電気化学検出における応答を表したサイクリックボルタモグラムである。
図5】電流値とアンドロステロン量との関係を表したグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の第一は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、該メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極とを用いることを特徴とするステロイドの測定方法である。
【0023】
本発明で使用する電極は、作用電極、参照電極、および対極の3本の電極を使用するが、参照電極と対極を1本の電極で兼ねさせることもできる。本発明では、電位を規定する役割を担う電極を「参照電極」、電流を流す役割を担う電極を「対極」、目的の反応(コルチゾール変換など)が起こっている電極を「作用電極」と称する。本発明のステロイドの測定方法は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、電子伝達能を有するメディエーターを用い、電圧の印加によってハイドロキシステロイド脱水素酵素の基質であるステロイドの酸化・還元に伴う電子移動反応を、メディエーターを介した電気化学法により検出することにより、ステロイドを測定する方法である。よって、本発明で測定しうるステロイドは、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の反応基質である。
【0024】
具体的な方法の一例として、図1にコルチゾールの測定方法の一例を示す。図1においてVK(Red)は還元型ビタミンKを、VK(Ox)は酸化型ビタミンKを、DIはジアフォラーゼを、NADHは還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを、NAD+は、酸化型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドを、HSD2はハイドロキシステロイド脱水素酵素の一種の11β型ハイドロキシステロイド脱水素酵素タイプ2を示す。左端の作用電極にHSD2等が透析膜によって固定されている。
【0025】
HSD2、DI、NAD+、VK(Ox)を含む反応液にコルチゾールを添加すると、HSD2が基質であるコルチゾールを酸化してコルチゾンに変換すると共にNAD+がNADHに還元され、DIの存在によりNADHがNAD+へ酸化すると共にVK(Ox)がVK(Red)へ還元される。生成したVK(Red)分子は、作用電極上で2電子酸化され(電極へ電子を渡し)、この結果、作用電極にコルチゾール量に応じた電流が流れる。本発明はこの電子伝達系を利用したものであり、DIとHSD2とを固定した作用電極と参照電極とを試料に浸漬し、作用電極と参照電極との間に電圧を印加することで酸化反応を生じさせ、基質濃度に応じた電流値を測定するものである。HSD2による基質の酸化反応とNADHとNAD+との反応とを共役させ最終的にVKの酸化電流を測定することで迅速かつ誤差の少ない測定を可能とした。
【0026】
なお、図1では、コルチゾールからコルチゾンへの酸化反応で説明したが、11β型ハイドロキシステロイド脱水素酵素タイプ1(HSD1)を用いて、コルチゾンからコルチゾールへの還元反応にも応用することができる。HSD1を基質の還元に使用する場合は、この還元反応によるNADHからNADの酸化反応と、DIを介するNADをNADHへの還元反応とを共役させる。この還元反応によりVK(Red)がVK(Ox)へと酸化される。生成したVK(Ox)分子は、作用電極上で2電子還元され(電極から電子を受け取り)、この結果、作用電極にコルチゾン量に応じた電流が流れる。
【0027】
本発明で使用するハイドロキシステロイド脱水素酵素は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素を含む作用電極と参照電極との間に電圧を印加した場合にその基質を酸化すると共にNAD又はNADPをNADH又はNADPHに還元し、ジアフォラーゼの存在によりNADH又はNADPHをNAD又はNADPへ酸化すると共にVK(Ox)をVK(Red)へ還元できるもの、または電圧を印加した場合に、その基質を還元すると共にNADH又はNADPHをNAD又はNADPに酸化し、ジアフォラーゼの存在によりNAD又はNADPを還元すると共にVK(Red)をVK(Ox)へ酸化できるものを広く使用することができる。
【0028】
例えば、3(or17)α-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、3(or17)β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、3α(17β)-ハイドロキシステロイド脱水素酵素(NAD)、3α(or20β)-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、3β(or20α)-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、3β-ハイドロキシ-5α-ステロイド脱水素酵素、3β-ハイドロキシ-5β-ステロイド脱水素酵素、11β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、12α-ハイドロキシステロイド脱水素酵素、12β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素等を例示することができる。本発明では、C3のα位を酸化還元する3α型、C3のβ位を酸化還元する3β型、C11のβ位を酸化還元する11β型、C17のβ位を酸化還元する17β型のハイドロキシステロイド脱水素酵素などが好ましい。なお、本発明の測定方法は酵素によって発生する酸化・還元電流を測定するため、使用する酵素は基質を可逆的に酸化・還元する酵素ではなく、酸化反応又は還元反応のいずれかのみを触媒する酵素であることが好ましい。更には、検体に含まれる類似成分による測定誤差を生じないように、基質特異性の高い酵素である。好ましくは、11β型である。ヒト11β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素(11β-HSD)にはアイソザイムが知られ、ヒト11β-HSDタイプ1は、コルチゾンからコルチゾールへの還元反応が優位であり、ヒト11β-HSDタイプ2はコルチゾールからコルチゾンへの酸化反応を触媒する。本発明では、11β-HSD2が好ましく、特に好ましくはヒト11β-HSD2である。コルチゾールからコルチゾンへの酸化反応を優位に行いかつ基質特異性が高いからである。
【0029】
ジアフォラーゼは、NADHやNADPHを補酵素とする酸化・還元酵素である。NADHやNADPHを電子供与体として、キノン物質、芳香族ニトロ化合物その他の二電子還元を触媒することが知られている。基質がハイドロキシステロイド脱水素酵素によって酸化される場合には、図1に示すように、DIがNADHからNADへ酸化しおよびメディエーターを還元する反応を触媒する。一方、基質がハイドロキシステロイド脱水素酵素によって還元される場合には、DIがNADからNADHへ還元しおよびメディエーターを酸化する反応を触媒する。本発明で使用するジアフォラーゼは、市販の酵素を用いることができ、その由来についても特に制限はない。
【0030】
本発明では、ハイドロキシステロイド脱水素酵素およびジアフォラーゼに加え、NADHおよび/またはNADPHを併用する。NADHおよびNADPHのいずれを使用するかは、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の特性により選択することができる。また、NADHおよび/またはNADPHは、還元型のNADHおよび/またはNADPHであってもよく、酸化型のNADおよび/またはNADPであってもよい。ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、NADH、および電子伝達能を有するメディエーターを含む反応液に基質を添加すると、図1に示すようにNADHからDIによってNADが生成し、またはNADからNADHが生成するからである。NADPHの場合も同様である。
【0031】
本発明では、更に電子伝達能を有するメディエーターを含む。本明細書における「電子伝達能を有するメディエーター」とは、NADH又はNADPHがジアフォラーゼによりNAD又はNADPに酸化される際に還元される化合物、および/または、NAD又はNADPがジアフォラーゼによりNADH又はNADPHに還元される際に酸化される化合物である。該メディエーターとして、例えば、ビタミンK、1,4-ベンゾキノン、トルキノン、1,4-ナフトキノン、パラメチルアミノフェノール、2,5-ジクロロベンゾキノン、デュロキノン、2,5-ジメチルベンゾキノン、2,6-ジメチルベンゾキノン、ピロロキノリンキノン等のキノン類、リボフラビン、フラビンモノヌクレオチド、フラビンアデニンジヌクレオチド等のフラビン類、4-アミノフェノール、4-メチルアミノフェノール、2,6-ジクロロフェノールインドフェノール等のフェノール類、ヒドロキシメチルフェロセン、1ーヒドロキシエチルフェロセン等のフェロセン類、フェロシアン化カリウムのシアン化鉄類、N,N,N’,N’-テトラメチルフェニレンジアミンのフェニレンジアミン類等を挙げることができる。これらは酸化型でも還元型でもよい。ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、NADH、および電子伝達能を有するメディエーターに基質を添加すると、基質が酸化される場合には、図1に示すように酸化型メディエーターからDIによって還元型メディエーターが生成するからである。なお、基質が還元される場合には、還元型メディエーターからDIによって酸化型メディエーターが生成する。本発明のステロイドの測定方法では、メディエーターとしてビタミンKを好適に用いることができる。本発明の反応系において、ハイドロキシステロイド脱水素酵素およびDIとの組み合わせで極めて優れる電子伝達性を発揮し、これにより微量の基質でも測定できることが判明したからである。
【0032】
本発明において「ステロイド」とは、分子中にステロイド核を有する化合物を意味し、ステロイド核のいずれかの原子に置換基や官能基を有する化合物も含むものとする。例えば、生体に含まれるステロイドにはステロイド核の3位の炭素がヒドロキシル化またはカルボニル化され、10位および13位の炭素にメチル基が、17位の炭素にアルキル基を有し、および11位の炭素がヒドロキシル化もしくはカルボニル化される化合物がある。本発明では、これら化合物も含むものとする。特に、測定対象のステロイドとしては、副腎、副腎皮質、精巣、卵巣などの性腺の由来成分が好ましく、このようなステロイドとしてテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、コルチゾール、エストラジオール、アンドロステロンがある。これらは生体内濃度が低く、従来の測定方法では簡便かつ正確な測定が困難であった。しかも、これらステロイドは、外部環境による生体内での濃度変化が顕著であり、迅速かつ高感度の定量が求められている。本発明によれば、測定対象のステロイドを酸化または還元するハイドロキシステロイド脱水素酵素を適宜選択し、発生する酸化・還元電流を測定することで、迅速かつ高感度に試料に含まれるステロイドを測定することができる。なお、ハイドロキシステロイド脱水素酵素とステロイドとの関係として、例えば、ハイドロキシステロイド脱水素酵素として3α(17β)ハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用すれば、テストステロンを測定することができる。同様に、3α型ハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用してアンドロステロンを測定することができ、3β型ハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用してデヒドロエピアンドロステロンを測定することができ、11β型ハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用してコルチゾールを測定することができ、17β型ハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用してエストラジオールを測定することができる。
【0033】
本発明では、ハイドロキシステロイド脱水素酵素を用いた酸化還元反応を利用するため、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の触媒作用が基質の酸化である場合の基質を還元型ステロイドと称し、触媒作用が基質の還元である場合の基質を酸化型ステロイドと称する。還元型ステロイドとしては、テストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、コルチゾール、エストラジオール及びアンドロステロンがある。本発明のステロイドの測定方法では、前記した還元型ステロイドに加え、それらの誘導体や還元型ステロイドの酸化物も同様に測定することができる。還元型ステロイドの誘導体としては、例えば、デヒドロエピアンドロステロンサルフェートが挙げられる。また、これらの還元型ステロイドの酸化物としては、例えば、コルチゾールの酸化型であるコルチゾンが挙げられる。基質の還元反応を優位に触媒するハイドロキシステロイド脱水素酵素を使用してコルチゾンを還元し、コルチゾンを定量することができる。
【0034】
本発明の測定方法によれば、哺乳動物(例えば、ヒト)の血液、唾液、尿などの生体由来の試料を対象として、ステロイドホルモンとして知られるテストステロン、デヒドロエピアンドロステロン、コルチゾール、エストラジオールを測定することができる。なかでも、ストレスマーカーとしては、コルチゾール、デヒドロエピアンドロステロンやその誘導体などが知られているが、多くは、血液中の濃度を測定するものである。しかしながらコルチゾールは血液に加えて唾液中にも分泌することから、血液中のコルチゾール濃度と相関が非常に高く、唾液から分析できるストレスマーカーとして用いられてきた。本発明によれば、唾液を試料としてコルチゾールを測定することで被測定者の負担を低減しつつストレスを評価することができる。この点で、本発明のステロイドの測定方法で測定されるステロイドは、好ましくはコルチゾールである。
【0035】
本発明で使用する作用電極は、例えば、炭素電極(例えば、直径3mm程度)を用いることができ、ジアフォラーゼと測定対象のステロイドの酸化または還元反応を触媒しうるハイドロキシステロイド脱水素酵素とを固定したGCEガラス状カーボン電極などを好適に使用することができる。例えば、前記炭素電極を鏡面研磨した後、エタノール中で超音波洗浄を行った後に酵素を固定する。酵素の作用電極表面への固定は、作用電極の表面に酵素を直接結合させる方法による固定のみではなく、作用電極表面と酵素の直接的な結合を伴わない固定も含む。酵素の固定方法としては公知の方法を使用することができる。例えば、グルタルアルデヒド、カルボジイミドなどの架橋剤を用いて、ジアフォラーゼおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素を作用電極の表面に直接固定する方法や、適当な官能基を表面に有する皮膜を作用電極の表面に形成し、その官能基にジアフォラーゼおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素を直接または架橋剤を用いて結合させる、または作用電極の表面に親水性高分子層を形成し、その上にジアフォラーゼおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素を含む水溶液を滴下し、乾燥させる方法がある。更に、作用電極の表面に網目状構造を有する高分子(例えばセルロース透析膜、ポリエーテルスルホン透析膜、ポリスルホン透析膜等)の皮膜を形成し、この皮膜中にジアフォラーゼおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素を取り込ませる方法であってもよい。
【0036】
作用電極へのハイドロキシステロイド脱水素酵素の固定量は、測定対象のステロイドの種類、電圧の印加量、使用するハイドロキシステロイド脱水素酵素の酵素活性や純度などによって適宜選択できるが、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の固定量は、好ましくは電極単位面積当たり、0.001~100μg/mm、より好ましくは0.01~10μg/mmである。
【0037】
作用電極へのジアフォラーゼの固定量は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の固定量、電圧の印加量、使用するジアフォラーゼの酵素活性や純度などによって適宜選択できるが、電極単位面積当たり、0.001~10U/mm、より好ましくは0.01~1U/mmである。
【0038】
また、作用電極には、ジアフォラーゼおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素に加えて、NADHおよび/またはNADPHと電子伝達能を有するメディエーターとを表面に固定または担持させたものであってもよい。例えば、ジアフォラーゼとハイドロキシステロイド脱水素酵素に加えNADHおよび/またはNADPHと電子伝達能を有するメディエーターを含む溶液を電極表面に滴下し乾燥させ固定させる。NADHおよび/またはNADPHと電子伝達能を有するメディエーターの固定は、従来公知の方法で行うことができる。なお、NADHおよび/またはNADPHの固定量は、電極単位面積当たり、1pmol~10nmol/mm、より好ましくは10pmol~5nmol/mmである。また、電子伝達能を有するメディエーターがVK3の場合は、VK3の固定量は、電極単位面積当たり1pmol~1nmol/mm、より好ましくは5pmol~500pmol/mmである。
【0039】
NADHおよび/またはNADPHと電子伝達能を有するメディエーターは、作用電極に担持させず、これらの溶液を調製し、この溶液に作用電極を浸漬して使用してもよい。なお、浸漬する場合、NADHおよび/またはNADPHは、1~1000μM、より好ましくは10~500μMである。また、電子伝達能を有するメディエーターがVK3の場合は、1~100μM、より好ましくは5~50μMである。少なくともハイドロキシステロイド脱水素酵素とジアフォラーゼを含む反応液には、更に、緩衝液、pH調整剤、支持電解質、などを添加することもできる。
【0040】
また、対極としてはPt電極、金電極、Ni電極、カーボン電極などを使用することができる。参照電極としては、公知のPt電極、金電極、Ag/AgCl/sat.KCl参照電極、カロメル電極、可逆水素電極を使用することができる。なお、電流値の測定は、従来公知の2電極構成や3電極構成を有する電気化学分析装置を用いることができる。
【0041】
測定方法は、NADHおよび/またはNADPH、および電子伝達能を有するメディエーターを含む溶液に試料を混合して試料溶液とし、この試料溶液に、予め調製したジアフォラーゼと測定対象のステロイドを酸化または還元し得るハイドロキシステロイド脱水素酵素を固定した作用電極、対極、参照電極を接触させる。次いで、作用電極と参照電極の間に電圧を印加する。印加電圧は、0V~-1.0V、より好ましくは、-0.1V~-0.4Vである。印加時間は、1秒~60秒、より好ましくは10秒~30秒である。電圧を印加しながら作用電極の表面で電子伝達物質の酸化反応または還元反応を行い、作用電極と対極との間に流れる電流を測定する。予め作成した電流とステロイド値との検量線から、測定した電流値に基づいてステロイド量を算出する。なお、好ましい印加電圧を選択するには、サイクリックボルタンメトリーを行い、例えば、酸化反応の場合は、電極電位を正方向に掃引した場合に観察される酸化波(上側)の電流ピーク値を、還元反応の場合は還元波(下側)の電流ピーク値に該当する電圧を印加電圧として選択することができる。
【0042】
作用電極が、DIおよびハイドロキシステロイド脱水素酵素を固定し、更に、NADHおよび/またはNADPHと電子伝達能を有するメディエーターとが担持されたものである場合は、作用電極に唾液などの試料を滴下し、上記と同様に電圧を印加して作用電極の表面で電子伝達物質の酸化反応を行いながら、作用電極と対極との間に流れる電流を測定すればよい。予め作成した電流とステロイド値との検量線から、測定した電流値に基づいてステロイド量を算出することができる。
【0043】
本発明の第二は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、を含み、前記メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極を備える、ことを特徴とするステロイドの測定キットである。
【0044】
ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、電子伝達能を有するメディエーター及び電極の詳細については前述同様である。測定されるステロイドの詳細についても、前述同様である。
【0045】
このような測定キットとしては、スクリーン印刷などのプリント法により作成することができる。例えば、ガラス;セラミック;紙;ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、尿素系樹脂などの絶縁性樹脂;などの絶縁性基板に、銀、金、白金、その他の印刷可能な貴金属などの金属ペーストを用いて、作用電極リード、参照電極リード、対極リードを形成する。対極を1本の参照電極で兼ねさせる場合は、参照極用リードで代用する。これらの形状は、円形、方形、その他任意である。なお、電極は前記したペーストを塗工する以外にスパッタ法、蒸着法、電解法、その他で調製することもできる。このような導電性物質としては、カーボン、金、白金、銀、塩化銀、ニッケルがある。これらに粘性を有する高分子材料を混合してペーストを調製して塗工することができる。次いで、短絡防止のため、各電極の末端部以外の導電部分に絶縁層を被覆形成させてもよい。本発明の測定キットは、作用電極に、ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、電子伝達能を有するメディエーターが固定または担持することを主たる特徴とするが、溶液中にニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、および電子伝達能を有するメディエーターを滴下したものを用いてもよい。酵素等を固定する前の作用電極の表面は、洗浄、研磨、プラズマエッチングなどの表面処理を行うことが好ましい。研磨の際はアルミナ懸濁液を使用してもよい。表面処理した作用電極に、ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、および電子伝達能を有するメディエーターとを固定する。固定方法に応じて、更に架橋剤、親水性高分子などを前記ハイドロキシステロイド脱水素酵素等に添加し、これを滴下法、スピンコート法、ディップ法などで作用電極を被覆し、温度15~40℃で乾燥する。なお、参照電極や酵素等を固定する前の作用電極として市販品を使用してもよい。更に、作用電極、対極および参照電極を含むディスポーザブルな3極一体型印刷電極等を使用することもできる。これらの作用電極に、ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、および電子伝達能を有するメディエーターとを固定し、本発明の測定キットとすることができる。
【0046】
得られた測定キットの作用電極用リードおよび参照電極用リードを電気化学分析装置に接続する。所定の電圧を作用電極と参照電極との間に印加し、作用電極と参照電極とに例えば唾液などの検体を滴下する。その際、検体の滴下および電位を印加するタイミングの違いで、以下の2方法がある。1つは、作用電極と参照電極とに、例えば唾液などの検体を滴下、所定の電圧を作用電極と参照電極との間に印加した後に作用電極に流れる電流を測定する方法である。もう1つは、先に所定の電圧を作用電極と参照電極との間に印加しておき、作用電極と参照電極とに例えば唾液などの検体を滴下した後に、所定時間経過後の作用電極に流れる電流を測定する。前記したように、印加する電圧は、予めサイクリックボルタンメトリーを行い、得られたサイクリックボルタモグラムから特定することができる。予め異なるステロイド濃度で電流を測定して検量線を作成し、得られた電流値からステロイド濃度を求めることができる。
【0047】
本発明の測定キットは、作用電極に固定するハイドロキシステロイド脱水素酵素を変えることで、異なるステロイドを測定することができる。HSD2を使用した場合は、作用電極と参照電極に電圧を印加するとただちに反応が平衡に達し、作用電極に試料を滴下した後安定した電流値を測定することができ、計測時間は5秒~5分で十分である。
【0048】
本発明の第三は、(a)ハイドロキシステロイド脱水素酵素と、ジアフォラーゼと、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸と、電子伝達能を有するメディエーターと、該メディエーターとの間に電子移動を生じさせる電極と、を用いて対象サンプルの電流値を測定する工程と、(b)得られた電流値をステロイド濃度に変換する工程と、(c)得られたステロイド濃度をストレス度に変換する工程と、を含むストレス度の測定方法である。
【0049】
上記の工程(a)において、ハイドロキシステロイド脱水素酵素、ジアフォラーゼ、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドおよび/またはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸、電子伝達能を有するメディエーター、電極及び対象サンプルの詳細については、前述同様である。「対象サンプルの電流値を測定する」ことの詳細についても前述同様である。
【0050】
上記の工程(b)において、工程(a)で得られた電流値をステロイド濃度に変換する。得られた電流値をステロイド濃度に変換する方法の詳細については、前述同様である。
【0051】
上記の工程(c)において、工程(b)で得られたステロイド濃度をストレス度に変換する。「ストレス度」とは、対象サンプルを提供した哺乳動物のストレス状態の指標である。例えば、対象サンプル中のステロイド濃度が所定範囲内の場合には「ストレス度は正常」と判定し、該ステロイド濃度が所定範囲を超える場合には「ストレス度は高い」と判定し、該ステロイド濃度が所定範囲を下回る場合には「ストレス度は低い」と判定することができる。
【0052】
以上説明したように、本発明のステロイドの測定方法により、即時的かつ高感度にステロイドを定量的に測定することができる。特にコルチゾールは有用なストレスマーカーであり、本発明のステロイドの測定方法の利点を活かした簡便でポータブルなストレスセンサの開発が期待される。
【0053】
従来の競合ELISA法での定量は、免疫反応を利用しており、また、光学測定装置等を用いる必要があるため、測定に時間がかかるという課題を有していたが、本発明のステロイドの測定方法は、ハイドロキシステロイド脱水素酵素の基質であるステロイドの酸化還元反応に伴う電子移動反応を、メディエーターを介した電気化学法により検出する方法であるため、即時的な測定が可能である。
【0054】
また、より非侵襲的な検査という観点では、血液ではなく唾液、尿等の生体サンプルでの測定が好ましいが、唾液、尿等におけるステロイド濃度は非常に低く(例えば、コルチゾールの場合数nMオーダー)、従来の測定方法では検出感度の点で課題を有していた。本発明のステロイドの測定方法では、電圧印加によりハイドロキシステロイド脱水素酵素の酵素反応を制御しながら、基質(ステロイド)濃度に依存した当該反応を検出することができ、また、試料(生体サンプル)中に含まれる物質に影響されないため、数nMオーダーの検出感度を得ることができる。
【0055】
本発明のステロイドの測定キット及びストレス度の測定方法についても前述同様の効果を奏する。
【実施例
【0056】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0057】
(実施例1)
市販のGCEガラス状カーボン電極(直径3mm、長さ6mm、ビー・エー・エス株式会社製)を0.125μmのダイヤモンド粒子を用いて、電極表面が鏡面状態になるまで研磨した後、エタノール中で30秒超音波洗浄を行った。次に、10mM Tris-HCl buffer(pH 7.5)2μLと、4kU/mL(3mg/mL)に調製したジアフォラーゼ溶液(ニプロ社製)0.2μLと、200μg/mLに調製した11-β-ハイドロキシステロイド脱水素酵素type 2(HSD2)(MyBioSource社)2μLとを上記の電極上に載せて5~15分間、室温でインキュベートし、電極にジアフォラーゼとHSD2とを担持させた。次いで、予め蒸留水で洗浄しておいたセルロース透析膜(Por 4、スペクトラムラボラトリーズ社製)で上記電極を被覆し、作用電極を製造した。
【0058】
得られた作用電極、RE-1CP飽和KCl銀塩化銀参照電極(ビー・エー・エス株式会社製)、Ptカウンター電極(ビー・エー・エス株式会社製、直径5cm、長さ5cm)を電気化学分析装置(CH Instruments Inc.製)に接続し、室温で測定を行った。
【0059】
予めサンプルホルダーに、0.1M Tris-HCl緩衝溶液、100mM NaCl、0.1mM NAD及び0.01mM ビタミンK含む緩衝溶液2mLに終濃度で32nMになるように40μMコルチゾール(商品名:ヒドロコルチゾン、富士フィルム和光純薬製)エタノール溶液を加え、これに上記作用電極を浸漬した後、作用電極と参照電極との間に-0.35から-0.1Vの範囲で10mV/秒の速度で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。図2にその結果を示す。図2において、実線はコルチゾールを添加(32nM)した場合の応答を表し、点線は添加前の応答を表す。電極電位を-0.35から-0.1Vの正方向に掃引した場合に観察される酸化波(上側)では、実線、点線共に、-0.23V付近に、メディエーターであるビタミンKの酸化に対応する電流が観測された。なお、コルチゾールを添加した実線では、その酸化電流の増加が観測された。これは、コルチゾールの酵素変換反応によりビタミンKが還元され、電極による同物質の酸化が増幅されたためと考えられる。
【0060】
サンプルホルダーに、0.1M Tris-HCl緩衝溶液、100mM NaCl、0.1mM NAD及び0.01mM ビタミンK含む緩衝溶液2mLに終濃度で32nMになるように40μMコルチゾール(商品名:ヒドロコルチゾン、富士フィルム和光純薬製)エタノール溶液を加え、これに上記作用電極を浸漬した後、作用電極と参照電極との間に-0.35Vから-0.15Vの範囲で10mV/秒の速度で電位を掃引して、作用電極の表面で電子伝達物質の酸化反応を行わせながら、作用電極と対極との間に流れる電流を測定したところ、25nAの電流(コルチゾール0nMの緩衝溶液を検体にして同様の操作によって生じる電流値との差)が得られた。コルチゾール濃度を、2nM、8nM、152nMに代えて上記と同様に操作して電流を測定した。結果を図3に示す。コルチゾール濃度が、2、8、32、152nMの酸化電流値は、それぞれ0.007、0.016、0.025、0.038μAであり、コルチゾールの濃度上昇により、得られる電流も大きくなり、コルチゾール濃度と酸化電流との間に一定の関係が存在し、10nM以下の濃度でも正確な検量線として使用し得ることが判明した。
【0061】
本実施例の系を用いることで、対象サンプル中のコルチゾール濃度をnMオーダーで測定できることが示された。
【0062】
(実施例2)
市販のGCEガラス状カーボン電極(直径3mm、長さ6mm、ビー・エー・エス株式会社製)を0.125μmのダイヤモンド粒子を用いて、電極表面が鏡面状態になるまで研磨した後、エタノール中で30秒超音波洗浄を行った。次に、10mM Tris-HCl buffer(pH 7.5)2μLと、4kU/mL(3mg/mL)に調製したジアフォラーゼ溶液(ニプロ社製)0.2μLと、4.7mg/mL(329U/mL)の3α-ハイドロキシステロイド脱水素酵素(3αHSD)(オリエンタル酵母社製)10μLとを上記の電極上に載せて5~15分間、室温でインキュベートし、電極にジアフォラーゼと3αHSDとを担持させた。次いで、予め蒸留水で洗浄しておいたセルロース透析膜(Por 4、スペクトラムラボラトリーズ社製)で上記電極を被覆し、作用電極を製造した。
【0063】
得らえた作用電極、RE-1CP飽和KCl銀塩化銀参照電極(ビー・エー・エス株式会社製)、Ptカウンター電極(ビー・エー・エス株式会社製、直径5cm、長さ5cm)を電気化学分析装置(CH Instruments Inc.製)に接続し、室温で測定を行った。
【0064】
予めサンプルホルダーに、0.1M Tris-HCl緩衝溶液、100mM NaCl、0.1mM NAD及び0.01mM ビタミンK含む緩衝溶液2mLに終濃度で100μMになるように、アンドロステロン粉末(富士フイルム和光純薬製)をエタノールに溶解した100mMのアンドロステロン液を加え、これに上記作用電極を浸漬した後、作用電極と参照電極との間に-0.35から-0.12Vの範囲で10mV/秒の速度で電圧を掃引したサイクリックボルタンメトリーを行った。図4にその結果を示す。図4において、実線はアンドロステロンを添加(100、200、400、800μM)した場合の応答を表し、点線は添加前の応答を表す。電極電位を-0.35から-0.12Vの正方向に掃引した場合に観察される酸化波(上側)では、実線、点線共に、-0.23V付近に、メディエーターであるビタミンKの酸化に対応する電流が観測された。アンドロステロンを添加した実線では、何れの濃度でもその酸化電流の増加が観測され、アンドロステロンの酵素変換反応によりビタミンKが還元され、電極による同物質の酸化が増幅されたためと考えられた。
【0065】
予めサンプルホルダーに、0.1M Tris-HCl緩衝溶液、100mM NaCl、0.1mM NAD及び0.01mM ビタミンK含む緩衝溶液2mLに終濃度で100μMになるように、アンドロステロン粉末(富士フイルム和光純薬製)をエタノールに溶解した100mMのアンドロステロン液を加え、これに上記作用電極を浸漬した後、作用電極と参照電極との間に-0.35Vから-0.12Vの範囲で10mV/秒の速度で電位を掃引して、作用電極の表面で電子伝達物質の酸化反応を行わせながら、作用電極と対極との間に流れる電流を測定したところ、アンドステロン濃度が100μMにおいて0.043μAの電流(アンドロステロン0μMの緩衝溶液を検体にして同様の操作によって生じる電流値との差)が得られた。アンドロステロン濃度を200、400、800μMに代えて上記と同様に操作して電流を測定した。結果を図5に示す。アンドステロン濃度が100、200、400、800μMの酸化電流値は、それぞれ0.043、0.073、0.089、0.100μAであり、アンドロステロン濃度と酸化電流値との間に一定の関係が存在し、検量線として使用し得ることが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5