IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人岩手大学の特許一覧

特許7403120ポリアリーレンスルファンケトン樹脂、及びその成形体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-14
(45)【発行日】2023-12-22
(54)【発明の名称】ポリアリーレンスルファンケトン樹脂、及びその成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 67/00 20060101AFI20231215BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231215BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20231215BHJP
【FI】
C08G67/00
C08J5/18 CEZ
C08L73/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019206970
(22)【出願日】2019-11-15
(65)【公開番号】P2021080332
(43)【公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504165591
【氏名又は名称】国立大学法人岩手大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100154759
【弁理士】
【氏名又は名称】高木 貴子
(74)【代理人】
【識別番号】100193725
【弁理士】
【氏名又は名称】小森 幸子
(74)【代理人】
【識別番号】100207240
【弁理士】
【氏名又は名称】樋口 喜弘
(72)【発明者】
【氏名】矢木 直人
(72)【発明者】
【氏名】岩楯 展行
(72)【発明者】
【氏名】高田 十志和
(72)【発明者】
【氏名】小川 智
(72)【発明者】
【氏名】村岡 宏樹
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-208320(JP,A)
【文献】特開2002-332346(JP,A)
【文献】Mitsuru UEDA et al.,“Synthesis of aromatic poly(thioether ketone)”,Journal of Polymer Science Part A: Polymer Chemistry,1992年08月,Vol. 30, No. 9,p.1993-1998,DOI: 10.1002/pola.1992.080300923
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G,C08J,C08L
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを、トリフルオロメタンスルホン酸中で反応させる工程を有することを特徴とする、下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法
【化1】
【化2】
(式(2-1)及び式(2-2)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子であり、ZはOH又はハロゲン原子である。)
【化3】
(式(1-1)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子である。)
【請求項2】
請求項1に記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法でポリアリーレンスルファンケトン樹脂を得た後、得られたポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含むポリアリーレンスルファンケトン樹脂組成物を製造する、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂組成物の製造方法
【請求項3】
請求項1に記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法でポリアリーレンスルファンケトン樹脂を得た後、得られたポリアリーレンスルファンケトン樹脂又は該ポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含むポリアリーレンスルファンケトン樹脂組成物を成形することを特徴とする、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含む成形体の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂及びその製造方法、並びに該ポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含む樹脂組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気電子部品、自動車部品、医療用部品、繊維等の用途におけるフィルムとして、耐熱性や機械特性、耐薬品性、耐久性に優れている、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂(以下「PAEK樹脂」と略すことがある。)やポリアリーレンスルファンケトン樹脂(以下「PASK樹脂」と略すことがある。)等のスーパーエンジニアリングプラスチックが広く利用されている。
【0003】
従来、PAEK樹脂としては、4,4’-ジフルオロベンゾフェノンとハイドロキノンの2つのモノマーを、ジフェニルスルホン中で炭酸カリウムを用いた芳香族求核置換型溶液重縮合反応(例えば、特許文献1参照)により製造される、1つの繰り返し単位中に2つのエーテル基と1つのケトン基を持つポリエーテルエーテルケトン樹脂(以下「PEEK樹脂」と略すことがある。)がよく知られている。
また、ハイドロキノンの代わりに、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノンを使用することで製造される、1つの繰り返し単位中にエーテル基、ケトン基を1つずつ持つポリエーテルケトン樹脂(以下「PEK樹脂」と略すことがある。)や、1つの繰り返し単位中に1つのエーテル基、2つのケトン基を有するポリエーテルケトンケトン樹脂(以下「PEKK樹脂」と略すことがある。)もある。
【0004】
しかしながら、これらのPAEK樹脂の製造に用いられている芳香族求核置換型溶液重縮合反応は、モノマーに高価な4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを使用するため原料費が高く、かつ、反応温度が300℃以上で製造工程費も高いという欠点があり、樹脂の価格が高くなる傾向にある。
【0005】
そこで、モノマーに4,4’-ジフルオロベンゾフェノンを用いることなく、かつ、温和な重合条件で、PAEK樹脂を製造する芳香族求電子置換型溶液重縮合反応が知られている。
芳香族求電子置換型溶液重縮合反応を用いた例として、4-フェノキシ安息香酸クロリドをフッ化水素-三フッ化ホウ素の存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献2参照)、テレフタル酸クロリドとジフェニルエーテルをルイス酸の存在下で反応させる方法によるPEKK樹脂(例えば、特許文献3参照)、4-フェノキシ安息香酸をメタンスルホン酸と五酸化二リンの混合物存在下で反応させる方法によるPEK樹脂(例えば、特許文献4参照)等がある。
【0006】
PASK樹脂としては、含水有機アミド溶媒中、アルカリ金属硫化物と4,4’-ジハロベンゾフェノンを含むジハロ芳香族化合物とを反応させて芳香族求核置換反応により製造される、ポリスルファンケトン樹脂(以下「PSK樹脂」と略すことがある。)が知られている(例えば、特許文献5参照)。
また、芳香族チオエーテルと芳香族ジカルボン酸ジハライドとをルイス酸の存在下で、溶媒として非プロトン性有機溶媒を用いて芳香族求電子置換反応により製造される、ポリスルファンスルファンケトンケトン樹脂(以下「PSSKK樹脂」と略すことがある。)が知られている(例えば、特許文献6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許第4320224号明細書
【文献】米国特許第3953400号明細書
【文献】米国特許第3065205号明細書
【文献】特開昭61-247731号公報
【文献】特開平6-25416号公報
【文献】特開昭60-120720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した従来のPEEK樹脂、PEK樹脂、PEKK樹脂等のPAEK樹脂は、部分結晶性のポリマーであり、そのガラス転移温度(Tg)は高く(例えば、140℃以上)、耐熱性に優れるものの、結晶融点(Tm)も高く(例えば、340℃より大きい)、成形加工に高い温度や圧力を要して、成形加工性が劣るという欠点があった。
従来知られているPAEK樹脂やPASK樹脂において、低コスト、かつ簡便な条件及び方法により製造できる樹脂であって、耐熱性に優れた高いTgを有するとともに、成形加工性に優れた低いTmを満足する、Tg値とTm値のバランスの良い樹脂は、知られていない。
【0009】
そこで、本発明は、実用的かつ簡便な方法により高収率に製造できるポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)であって、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低い結晶融点を示す、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させて得られるポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)は、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低い結晶融点を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンスルファンケトン樹脂。
【化1】
(式(1-1)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子である。)
[2]下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させて得られるポリアリーレンスルファンケトン樹脂。
【化2】
【化3】
(式(2-1)及び式(2-2)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子であり、ZはOH又はハロゲン原子である。)
[3]前記[1]又は[2]のいずれかに記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含む樹脂組成物。
[4]前記[1]又は[2]のいずれかに記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂を含む成形体。
[5]下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させる工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法。
【化4】
【化5】
(式(2-1)及び式(2-2)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子であり、ZはOH又はハロゲン原子である。)
[6]前記モノマー(2-1)と前記モノマー(2-2)との反応工程を有機スルホン酸中で行う、前記[5]に記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法。
[7]前記有機スルホン酸がトリフルオロメタンスルホン酸である、前記[6]に記載のポリアリーレンスルファンケトン樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、実用的かつ簡便な方法により高収率に製造できるポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)であって、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低い結晶融点を示す、ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のPASK樹脂、及び該PASK樹脂を含む樹脂組成物や成形体について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0014】
(ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂))
本発明のPASK樹脂は、下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させて得られるポリアリーレンスルファンケトン樹脂である。
【化6】
【化7】
(式(2-1)及び式(2-2)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子であり、ZはOH又はハロゲン原子である。)
【0015】
本発明のPASK樹脂の好ましい実施態様としては、下記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有するポリアリーレンスルファンケトン樹脂である。
【化8】
(式(1-1)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子である。)
【0016】
上記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有する本発明のPASK樹脂は、耐熱性に優れた高いガラス転移温度を有するとともに、成形加工性に優れた低い結晶融点を示すことができる。
上記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有する本発明のPASK樹脂のうち、特に、より好ましい実施態様として、例えば、下記繰り返し単位(1-1-A)で表されるポリスルファンスルファンケトンエーテルケトン樹脂(PSSKEK樹脂)、下記繰り返し単位(1-1-B)で表されるポリエーテルエーテルケトンスルファンケトン樹脂(PEEKSK樹脂)、又は下記繰り返し単位(1-1-C)で表されるポリスルファンスルファンケトンスルファンケトン樹脂(PSSKSK樹脂)等が挙げられる。
【0017】

【化9】
【0018】
【化10】
【0019】
【化11】
【0020】
上記一般式(1-1)で表される繰り返し単位を有する本発明のPASK樹脂は、上記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、上記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させて得られるが、係るPASK樹脂の製造方法については、後で詳しく説明する。
【0021】
本発明のPASK樹脂は、高いガラス転移温度を維持しつつ、結晶融点を低くすることができ、ガラス転移温度と結晶融点とのバランスに優れた、耐熱性にも成形加工性にも優れた樹脂とすることができる。
本発明のPASK樹脂が示すガラス転移温度(Tg)としては、125℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上がさらに好ましい。
また、本発明のPASK樹脂が示す結晶融点(Tm)としては、340℃以下が好ましく、335℃以下がより好ましく、330℃以下がさらに好ましい。
本発明のPASK樹脂のうち、特にガラス転移温度(Tg)が125℃以上であり、結晶融点(Tm)が330℃以下であるPASK樹脂が、Tg値とTm値のバランスのとれたより好ましいPASK樹脂となり、さらにガラス転移温度(Tg)が150℃以上であり、結晶融点(Tm)が330℃以下であるPASK樹脂が、特に好ましいPASK樹脂となる。
【0022】
(ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)の製造方法)
本発明のPASK樹脂の製造方法は、下記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、下記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを反応させる工程を有する。
【0023】

【化12】
【0024】
【化13】
(式(2-1)及び式(2-2)中、X、X、及びYはそれぞれ酸素原子もしくは硫黄原子であり、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上は硫黄原子であり、ZはOH又はハロゲン原子である。)
【0025】
上記一般式(2-1)で表されるモノマーとしては、例えば、1,4-ビス(フェニルスルファニル)ベンゼン(以下、BPSBとも記載する)、1,4-ジフェノキシベンゼン(以下、DPOBとも記載する)等が挙げられる。
上記一般式(2-2)で表されるモノマーとしては、例えば、4,4’-チオジベンゾイルクロライド(以下、TDBCとも記載する)、4,4’-チオジ安息香酸(以下、TDBAとも記載する)、4,4’-オキシビスベンゾイルクロライド(以下、OBBCとも記載する)、4,4’-オキシビス安息香酸(以下、OBBAとも記載する)等が挙げられる。
本発明のPASK樹脂を製造する際には、上記一般式(2-1)及び一般式(2-2)中、X、X、及びYのうちいずれか1つ以上が硫黄原子となるように、上記一般式(2-1)で表されるモノマーと上記一般式(2-2)で表されるモノマーとを適宜選択する。
本発明のPASK樹脂中に占める硫黄原子の量を変更することで、結晶融点の調節をすることができる。
【0026】
本発明のPASK樹脂の製造方法の好ましい一実施態様は、上記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)と、上記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)とを、有機スルホン酸中で反応させる、PASK樹脂の製造方法である。
【0027】
芳香族求電子置換型溶液重縮合反応であるので、温和な重合条件で反応させることができ、具体的には、上記モノマー(2-1)と上記モノマー(2-2)とに、有機スルホン酸を加え、20~100℃、1~40時間の条件下で、混合し反応させることで、本発明のPASK樹脂を製造することができる。
【0028】
有機スルホン酸としては、特に制限はなく、本発明のPASK樹脂が製造できる限り、目的に応じて適宜選択できる。
例えば、脂肪族スルホン酸、芳香族スルホン酸等が挙げられ、より具体的には、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸(トシル酸)等が挙げられる。
但し、得られるPASK樹脂の反応収率や、PASK樹脂のフィルム強度等を考慮すると、本発明のPASK樹脂を製造する際に使用する有機スルホン酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸が特に好ましい。
トリフルオロメタンスルホン酸を用いて本発明のPASK樹脂を製造すると、得られるPASK樹脂の反応収率は70%以上、好ましくは74%以上、より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上とすることができる。ここで、反応収率とは、モノマー(2-1)とモノマー(2-2)とを反応させることにより得られるPASK樹脂の理論上の質量に対する、実際に得られたPASK樹脂の質量の割合をしめす。
【0029】
有機スルホン酸中で上記モノマー(2-1)と上記モノマー(2-2)とを反応させる際、五酸化二リンも加え、有機スルホン酸及び五酸化二リンの存在下で反応させてもよい。
有機スルホン酸を用いて上記モノマー(2-1)と上記モノマー(2-2)とを反応させる際の好ましい実施態様としては、例えば、トリフルオロメタンスルホン酸の存在下で反応させる場合、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンとの存在下で反応させる場合、メタンスルホン酸と五酸化二リンとの存在下で反応させる場合等が挙げられる。
【0030】
上記モノマー(2-1)と上記モノマー(2-2)の添加量の割合は、モル比で、1.2:0.8~0.8:1.2の範囲であることが好ましく、1.1:0.9~0.9:1.1の範囲であることがより好ましく、1.1:1.0~0.95:1.05の範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
上記モノマー(2-1)と上記モノマー(2-2)の合計の添加量と、有機スルホン酸の添加量との割合は、質量比で、1:100~50:100の範囲であることが好ましく、2:100~45:100の範囲であることがより好ましく、5:100~40:100の範囲であることがさらに好ましい。
【0032】
本発明のPASK樹脂の製造方法のより好ましい実施態様として、上記繰り返し単位(1-1-A)で表されるポリスルファンスルファンケトンエーテルケトン樹脂(PSSKEK樹脂)、上記繰り返し単位(1-1-B)で表されるポリエーテルエーテルケトンスルファンケトン樹脂(PEEKSK樹脂)、及び上記繰り返し単位(1-1-C)で表されるポリスルファンスルファンケトンスルファンケトン樹脂(PSSKSK樹脂)を製造する方法について、以下詳しく説明する。
【0033】
<PSSKEK樹脂の製造方法>
PSSKEK樹脂を製造する方法としては、例えば、下記反応工程式(A)又は(B)に従うことができる。
【0034】
【化14】
【0035】

【化15】
【0036】
上記反応工程式(A)、及び上記反応工程式(B)のいずれにおいても、それぞれの工程で使用される上記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)及び上記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)を、有機スルホン酸中で反応させることにより、PSSKEK樹脂を製造することができる。
中でも、上記反応工程式(A)の場合は、トリフルオロメタンスルホン酸の存在下で反応させる、或いは五酸化二リンを併用し、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPSSKEK樹脂を製造するのが、より好ましい。
また、上記反応工程式(B)の場合は、メタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPSSKEK樹脂を製造するのが、より好ましい。
【0037】
<PEEKSK樹脂の製造方法>
PEEKSK樹脂を製造する方法としては、例えば、下記反応工程式(C)又は(D)に従うことができる。
【0038】
【化16】
【0039】
【化17】
【0040】
上記反応工程式(C)、及び上記反応工程式(D)のいずれにおいても、それぞれの工程で使用される上記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)及び上記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)を、有機スルホン酸中で反応させることにより、PEEKSK樹脂を製造することができる。
中でも、上記反応工程式(C)の場合は、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPEEKSK樹脂を製造するのが、より好ましい。
また、上記反応工程式(D)の場合は、トリフルオロメタンスルホン酸の存在下で反応させる、或いは五酸化二リンを併用し、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPEEKSK樹脂を製造するのが、より好ましい。
【0041】
<PSSKSK樹脂の製造方法>
PSSKSK樹脂を製造する方法としては、例えば、下記反応工程式(E)又は(F)に従うことができる。
【0042】
【化18】
【0043】
【化19】
【0044】
上記反応工程式(E)、及び上記反応工程式(F)のいずれにおいても、それぞれの工程で使用される上記一般式(2-1)で表されるモノマー(2-1)及び上記一般式(2-2)で表されるモノマー(2-2)を、有機スルホン酸中で反応させることにより、PSSKSK樹脂を製造することができる。
中でも、上記反応工程式(E)の場合は、トリフルオロメタンスルホン酸の存在下で反応させる、或いは五酸化二リンを併用し、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPSSKSK樹脂を製造するのが、より好ましい。
また、上記反応工程式(F)の場合は、トリフルオロメタンスルホン酸と五酸化二リンの存在下で反応させてPSSKSK樹脂を製造するのが、より好ましい。
【0045】
<ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)を含有する樹脂組成物>
本発明に係るPASK樹脂は、他の配合物と合わせて樹脂組成物を作製することができる。
他の配合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、無機フィラー、有機フィラー等が挙げられる。
フィラーの形状としては、特に限定はなく、例えば、粒子状、板状、繊維状等のフィラーが挙げられる。
PASK樹脂を含有する樹脂組成物は、フィラーとしては繊維状フィラーを含有することがより好ましい。繊維状フィラーの中でも、カーボン繊維とガラス繊維は、産業上利用範囲が広いため、好ましい。
【0046】
<ポリアリーレンスルファンケトン樹脂(PASK樹脂)を含む成形体>
本発明に係るPASK樹脂は、耐熱性に優れ高いガラス転移温度(Tg)を有するとともに、低融点化が可能で、良好な成形加工性及び優れた耐衝撃性を有する。そのため、ニートレジンとしての使用や、ガラス繊維、炭素繊維、フッ素樹脂等のコンパウンドとしての使用が可能である。そして、本発明に係るPASK樹脂を成形することで、ロッド、ボード、フィルム、フィラメント等の一次加工品や、各種射出加工品、各種切削加工品、ギア、軸受、コンポジット、インプラント、3D成形品等の二次加工品を製造することができ、これらの本発明に係るPASK樹脂を成形してなる成形品は、自動車、航空機、電気電子、医療用部材等の利用が可能である。
【実施例
【0047】
(ガラス転移点(Tg)および結晶融点(Tm))
パーキンエルマー製DSC装置(Pyris Diamond)を用いて、50mL/minの窒素流下、20℃/minの昇温条件で40~400℃まで測定を行い、ガラス転移点(Tg)および結晶融点(Tm)を求めた。
【0048】
(フィルム強度)
380℃のホットプレート上で樹脂粉末をカプトンフィルムで挟み、上から1kgの加重をかけることで樹脂を溶解したのち、直ちに冷却することで非晶フィルムを作製し、得られたフィルムを手で折り曲げることで、下記基準によりフィルム強度を評価した。
[評価基準]
〇 フィルムを180度に折り曲げても割れない
△ フィルムを180度に折り曲げると割れる
× フィルムを作製することができない
【0049】
(合成例1)
下記反応工程式(1)に従い、1,4-ビス(フェニルスルファニル)ベンゼン(BPSB)を得た。
100mLの三ツ口フラスコに、パラジヨードベンゼン0.904g、酸化銅(I)0.412gを加え、アルゴン雰囲気下とした。キノリン6.4mL、ピリジン1.6mL、ベンゼンチオール0.603gを加え、170℃で24時間撹拌した。室温まで冷やした後、トルエン30mLと3N塩酸25mLを加え、固体成分を吸引濾過にて濾別した。濾液をクロロホルムにて抽出し、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、溶媒を除去し、真空乾燥を行うことで粗生成物を茶色固体として得た。これをヘキサン:クロロホルム=1:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで、1,4-ビス(フェニルスルファニル)ベンゼン0.62g(化合物-1)を白色固体として得た。
【0050】
【化20】
【0051】
(合成例2)
下記反応工程式(2)に従い、4,4’-チオジ安息香酸(TDBA)を得た。
50mLフラスコに4-ニトリルヨードベンゼン3.00g、1,10-フェナントロリン0.118g、炭酸カリウム1.81g、ヨウ化銅(I)0.124gを加え、アルゴン雰囲気下とした。N-メチルピロリドン(NMP)13mL、ビストリメチルシリルスルフィド1.17gを加え、120℃で14時間撹拌した。撹拌終了後、反応溶液に水を注いで反応を停止し、酢酸エチルで抽出、有機層を水で洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、溶媒を除去し、真空乾燥を行うことで粗生成物を茶色固体として得た。これをヘキサン:クロロホルム=1:1を展開溶媒とするシリカゲルカラムクロマトグラフィーにて分離精製することで4,4’-チオジベンゾニトリル0.81gを白色固体として得た。得られた4,4’-チオジベンゾニトリル0.60g、水酸化カリウム5.70g、水25mL、エタノール25mLを加え、一晩還流を行った。室温まで冷やした後、水へ注ぎ、3N塩酸を加えて酸性化した。析出した固体を吸引濾過にて濾別することで4,4’-チオジ安息香酸0.547g(化合物-2)を白色固体として得た。
【0052】
【化21】
【0053】
(合成例3)
下記反応工程式(3)に従い、4,4’-チオジベンゾイルクロライド(TDBC)を得た。
50mL枝付きフラスコに(化合物-2)1.5gを加え、アルゴン雰囲気下とした。脱水N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)0.1mLと塩化チオニル15mLを加え、室温下で3時間撹拌した後、昇温して一晩還流した。反応終了後、蒸留により塩化チオニルを除去し、残渣をエーテルで抽出して得られた有機層を水により洗浄した。有機層を無水硫酸マグネシウムで乾燥、濾過、溶媒を除去し、真空乾燥を行うことで4,4’-チオジベンゾイルクロライド1.34g(化合物-3)を白色固体として得た。
【0054】
【化22】
【0055】
(実施例1)
下記反応工程式(4)に従い、上記繰り返し単位(1-1-A)で表されるポリスルファンスルファンケトンエーテルケトン樹脂(PSSKEK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに、4,4’-オキシジベンゾイルクロライド0.928gと(化合物-1)1.00gを加え、アルゴン雰囲気下とした。氷浴で冷やしながらトリフルオロメタンスルホン酸20.9gを加え、60℃で22時間反応を行った。その後、反応溶液を氷水に注ぎ、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。得られた固体を200mLナスフラスコに移し、NMPを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、蒸留水によるかけ洗いを行った。固体を200mLナスフラスコに移し、沸騰水を加えて、15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、水によるかけ洗いを行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-1)1.36gを白色固体として得た。
【0056】

【化23】
【0057】
(実施例2)
下記反応工程式(5)に従い、上記繰り返し単位(1-1-B)で表されるポリエーテルエーテルケトンスルファンケトン樹脂(PEEKSK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに1,4-ジフェノキシベンゼン0.826g、(化合物-2)0.80g、五酸化二リン(十酸化四リンと同義である)1.68gを入れ、アルゴン雰囲気下とした。トリフルオロメタンスルホン酸22.9gを加え、60℃で22時間撹拌した。撹拌終了後、重合溶液に4-クロロフェノール46gを加え、溶液温度が65℃以下に収まるように水46gを30分かけてゆっくりと添加した。その後、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水46gを加え、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水46gを加え、炭酸カリウム4.20gを徐々に添加し、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液46gを加え、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。再度、有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液46g加え、80℃で30分撹拌した後、40℃まで冷却してからメタノール46gを添加し、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。ロート上の固体を押し固め、メタノール20gによるかけ洗いを行った後、温水20gによるかけ洗いを2回行った。固体を200mLナスフラスコに移し、N-メチルピロリドン(NMP)62gを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、NMP20gと温水20gによるかけ洗いを2回繰り返した。固体を100mLビーカーに移し、温水20gを加えて、スラリー状にした。これに塩酸を少し加えてpH4.0に調整し、10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水20gによるかけ洗いを2回行った。固体を100mLビーカーに移し、温水25gを加えて、スラリー状にした。10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水20gによるかけ洗いを2回行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-2)1.08gを灰色固体として得た。
【0058】
【化24】
【0059】
(実施例3)
下記反応工程式(6)に従い、上記繰り返し単位(1-1-B)で表されるポリエーテルエーテルケトンスルファンケトン樹脂(PEEKSK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに1,4-ジフェノキシベンゼン0.73gと(化合物-3)0.80gを加え、アルゴン雰囲気下とした。氷浴で冷やしながらトリフルオロメタンスルホン酸17.1gを加え、室温まで昇温して3時間撹拌を行った。その後、反応溶液を氷水に注ぎ、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。得られた固体を200mLナスフラスコに移し、NMPを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、沸騰水によるかけ洗いを行った。固体を200mLナスフラスコに移し、沸騰水を加えて、15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、水によるかけ洗いを行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-3)1.16gを白色固体として得た。
【0060】
【化25】
【0061】
(実施例4)
下記反応工程式(7)に従い、上記繰り返し単位(1-1-C)で表されるポリスルファンスルファンケトンスルファンケトン樹脂(PSSKSK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに(化合物-1)0.82gと(化合物-3)0.80gを加え、アルゴン雰囲気化とした。氷冷で冷やしながらトリフルオロメタンスルホン酸17.1gを加え、室温まで昇温し、3時間攪拌を行った。その後、反応溶液を氷水に注ぎ、析出した固体を吸引ろ過にて濾別した。得られた固体を200mLナスフラスコに移し、NMPを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、沸騰水によるかけ洗いを行った。固体を200mLナスフラスコに移し、沸騰水を加えて、15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、水によるかけ洗いを行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-4)1.18gを白色固体として得た。
【0062】
【化26】
【0063】
(実施例5)
下記反応工程式(8)に従い、上記繰り返し単位(1-1-A)で表されるポリスルファンスルファンケトンエーテルケトン樹脂(PSSKEK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに4,4’-オキシジ安息香酸0.812gと(化合物-1)1.0gを入れ、アルゴン雰囲気下とした。メタンスルホン酸18.1g、五酸化二リン1.81gを加え、60℃で22時間撹拌した。撹拌終了後、重合溶液に4-クロロフェノール50gを加え、溶液温度が65℃以下に収まるように水50gを30分かけてゆっくりと添加した。その後、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水50gを加え、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水50gを加え、炭酸カリウム5.21gを徐々に添加し、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液50gを加え、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。再度、有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液50g加え、80℃で30分撹拌した後、40℃まで冷却してからメタノール50gを添加し、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。ロート上の固体を押し固め、メタノール25gによるかけ洗いを行った後、温水25gによるかけ洗いを2回行った。固体を200mLナスフラスコに移し、NMP66gを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、NMP25gと温水25gによるかけ洗いを2回繰り返した。固体を100mLビーカーに移し、温水25gを加えて、スラリー状にした。これに塩酸を少し加えてpH4.0に調整し、10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水25gによるかけ洗いを2回行った。固体を100mLのビーカーに移し、温水25gを加えて、スラリー状にした。10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水25gによるかけ洗いを2回行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-5)0.368gを灰色固体として得た。
【0064】
【化27】
【0065】
(実施例6)
下記反応工程式(9)に従い、上記繰り返し単位(1-1-B)で表されるポリエーテルエーテルケトンスルファンケトン樹脂(PEEKSK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに(化合物-2)1.0gと1,4-ジフェノキシベンゼン1.03gを入れ、アルゴン雰囲気下とした。メタンスルホン酸21.0g、五酸化二リン2.10gを加え、60℃で22時間撹拌した。撹拌終了後、重合溶液に4-クロロフェノール55gを加え、溶液温度が65℃以下に収まるように水55gを30分かけてゆっくりと添加した。その後、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水55gを加え、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水55gを加え、炭酸カリウム6.0gを徐々に添加し、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液55gを加え、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。再度、有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液55g加え、80℃で30分撹拌した後、40℃まで冷却してからメタノール55gを添加し、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。ロート上の固体を押し固め、メタノール28gによるかけ洗いを行った後、温水28gによるかけ洗いを2回行った。固体を200mLナスフラスコに移し、NMP73gを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、NMP28gと温水28gによるかけ洗いを2回繰り返した。固体を100mLビーカーに移し、温水28gを加えて、スラリー状にした。これに塩酸を少し加えてpH4.0に調整し、10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水28gによるかけ洗いを2回行った。固体を100mLビーカーに移し、温水28gを加えて、スラリー状にした。10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水28gによるかけ洗いを2回行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(樹脂-6)0.627gを灰色固体として得た。
【0066】
【化28】
【0067】
実施例1~6に係るPASK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、収率(%)の測定結果、及びフィルム強度の評価結果を表1-1~表1-2に示す。
【0068】
(比較例1)
下記工程により、ポリエーテルエーテルケトンエーテルケトン樹脂(PEEKEK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに4,4’-ジカルボキシジフェニルエーテル2.83gと1,4-ジフェノキシベンゼン3.00gを入れ、アルゴン雰囲気下とした。メタンスルホン酸61.1g/五酸化二リン6.11gを加え、60℃で22時間撹拌した。撹拌終了後、重合溶液に4-クロロフェノール154gを加え、溶液温度が65℃以下に収まるように水154gを30分かけてゆっくりと添加した。その後、60℃で30分撹拌し、10分間静置した後に水層を除去した。有機層に水154gを加え、炭酸カリウム17.6gを徐々に添加し、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液154gを加え、80℃で30分撹拌した後、水層を除去した。再度、有機層に0.5N炭酸カリウム水溶液154g加え、80℃で30分撹拌した後、40℃まで冷却してからメタノール154gを添加し、析出した固体を吸引濾過にて濾別した。ロート上の固体を押し固め、メタノール77gによるかけ洗いを行った後、温水77gによるかけ洗いを2回行った。固体を500mLナスフラスコに移し、NMR205gを加えて、150℃で15分間撹拌した。吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、NMP77gと温水77gによるかけ洗いを2回繰り返した。固体を200mLビーカーに移し、温水77gを加えて、スラリー状にした。これに塩酸を少し加えてpH4.0に調整し、10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水77gによるかけ洗いを2回行った。固体を200mLビーカーに移し、温水77gを加えて、スラリー状にした。10分撹拌した後、吸引濾過にて濾別した固体をロート上で押し固め、温水77gによるかけ洗いを2回行った。得られた固体を120℃で一晩減圧乾燥することで(比較樹脂-1)4.96gを白色固体として得た。
【0069】
(比較例2)
下記工程により、ポリスルファンスルファンケトンケトン樹脂(PSSKK樹脂)を得た。
500mLセパラブルフラスコに4,4’-ジフロロテレフタロフェノン16.10gとp-ジメルカプトベンゼン7.46g、無水炭酸カリウム6.90gおよびキサントン40gを加え、アルゴン雰囲気下とした。撹拌しながら200℃まで1時間かけて昇温し、その後240℃で15分間保持し、さらに320℃で3時間撹拌した。撹拌終了後、重合溶液に塩化メチルを20分間吹込んだ後冷却し、粉砕後、温アセトンで2回、温水で2回、さらに温アセトンで1回洗浄を行い、得られた固体を120℃で一晩乾燥させることで(比較樹脂-2)20.0gを得た。
【0070】
(比較例3)
ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)として、Victrex社製のPEEK150PFを用意した。
【0071】
比較例1に係るPEEKEK樹脂、及び比較例2に係るPSSKK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)、収率(%)の測定結果、及びフィルム強度の評価結果を表2に示す。
また、比較例3に係るPEEK樹脂のガラス転移温度(Tg)、結晶融点(Tm)の測定結果、及びフィルム強度の評価結果を表2に示す。
【0072】
【表1-1】
【0073】

【表1-2】
【0074】

【表2】
【0075】
実施例1~6のPASK樹脂は、表1-1~表1-2に示されるように、ガラス転移温度(Tg)を126℃以上、結晶融点(Tm)を330℃以下にすることが可能である。特に、実施例2及び3のPASK樹脂は、ガラス転移温度(Tg)を150℃以上、結晶融点(Tm)を330℃以下の良好な結果を示す。
本発明のPASK樹脂は、ガラス転移温度と結晶融点とのバランスに優れた、耐熱性にも成形加工性にも優れた樹脂とすることができる。