(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-20
(45)【発行日】2023-12-28
(54)【発明の名称】光ファイバケーブルセンシング装置、光ファイバケーブルセンシング方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G01D 5/353 20060101AFI20231221BHJP
【FI】
G01D5/353 B
(21)【出願番号】P 2020123618
(22)【出願日】2020-07-20
【審査請求日】2022-07-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】飯田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】村山 英晶
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-102691(JP,A)
【文献】特開2007-187578(JP,A)
【文献】特開2011-55281(JP,A)
【文献】特開2002-328027(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116032(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/235152(WO,A1)
【文献】特開2017-199001(JP,A)
【文献】特開2016-102689(JP,A)
【文献】特開2016-102690(JP,A)
【文献】特開2012-42389(JP,A)
【文献】特開2009-68877(JP,A)
【文献】特開平3-157605(JP,A)
【文献】国際公開第2020/027223(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/083989(WO,A1)
【文献】特開平7-49221(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/26-5/38
G01B 11/16
G01M 11/00-11/02
G01J 9/00
G02B 6/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
敷設された光ファイバケーブルに含まれる通信用のシングルモード光ファイバの一端に試験光を入射し、前記シングルモード光ファイバの前記一端に戻ってくる散乱光から前記シングルモード光ファイバ毎に物理量の長手方向分布を測定する測定器と、
前記物理量の長手方向分布から前記シングルモード光ファイバの曲げの位置を検出すること、及び、データベースに記載されている特定点の位置と前記曲げの位置とを照合して前記光ファイバケーブルの敷設経路を推定する演算器と、
を備え
、
前記曲げの位置は、前記光ファイバケーブルの前記測定器から前記物理量の長手方向分布に現れるピークまでの距離であることを特徴とする光ファイバケーブルセンシング装置。
【請求項2】
前記演算器は、
前記測定器から、前記測定器に最も近い前記曲げの位置z
1に相当する特定点の位置p
1までの前記光ファイバケーブルの敷設方向を知得済みであり、
前記曲げの位置z
n(nは2以上の自然数)と前記曲げの位置z
n-1との距離を算出し、
前記曲げの位置z
n-1に相当する前記特定点の位置p
n-1から前記距離だけ離れた位置にある前記特定点の位置p
nを前記データベースから見出し、
前記曲げの位置z
n-1から前記曲げの位置z
nの間では前記光ファイバケーブルの敷設方向が前記特定点の位置p
n-1から前記特定点の位置p
nへの方向であると推定する推定作業を行うこと、及び
前記nが全ての前記曲げの数Nに至るまで前記推定作業を繰り返すこと
を特徴とする請求項1に記載の光ファイバケーブルセンシング装置。
【請求項3】
敷設された光ファイバケーブルに含まれる通信用のシングルモード光ファイバの一端に試験光を入射し、前記シングルモード光ファイバの前記一端に戻ってくる散乱光から前記シングルモード光ファイバ毎に物理量の長手方向分布を測定器で測定する測定工程と、
前記物理量の長手方向分布から前記シングルモード光ファイバの曲げの位置を検出すること、及び、データベースに記載されている特定点の位置と前記曲げの位置とを照合して前記光ファイバケーブルの敷設経路を推定する演算工程と、
を行
い、
前記曲げの位置は、前記光ファイバケーブルの前記測定器から前記物理量の長手方向分布に現れるピークまでの距離であることを特徴とする光ファイバケーブルセンシング方法。
【請求項4】
前記演算工程では、
前記測定器から、前記測定器に最も近い前記曲げの位置z
1に相当する特定点の位置p
1までの前記光ファイバケーブルの敷設方向を知得すること、
前記曲げの位置z
n(nは2以上の自然数)と前記曲げの位置z
n-1との距離を算出し、
前記曲げの位置z
n-1に相当する前記特定点の位置p
n-1から前記距離だけ離れた位置にある前記特定点の位置p
nを前記データベースから見出し、
前記曲げの位置z
n-1から前記曲げの位置z
nの間では前記光ファイバケーブルの敷設方向が前記特定点の位置p
n-1から前記特定点の位置p
nへの方向であると推定する推定作業を行うこと、及び
前記nが全ての前記曲げの数Nに至るまで前記推定作業を繰り返すこと
を特徴とする請求項3に記載の光ファイバケーブルセンシング方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の光ファイバケーブルセンシング装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、敷設された光ファイバケーブルの位置を推定する光ファイバケーブルセンシング装置、光ファイバケーブルセンシング方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
敷設された光ファイバケーブルは3次元空間の曲線の軌跡として表現することができる。3次元空間の曲線の軌跡は、曲率κと捩率τを取得し、フレネ・セレの公式を利用して解析することができる。ここで、曲率κとは、曲線がどの方向にどれくらい曲がっているかを表現する値である。捩率τとは、曲がり方向の基準となる初期座標(地球の天地を基準とした絶対座標)に対してどれくらい回転しているかを表現する値である。なお、「絶対座標」とは、例えば、地球を球としたときの任意接面に平行な平面を直交するx軸とz軸で表現し、当該xz平面の垂線をy軸で表現した座標である。
【0003】
曲線の任意位置で取得した曲率κと捩率τをフレネ・セレの公式に代入することで任意位置での位置ベクトルT(s)を取得でき、位置ベクトルT(s)を積分することで曲線の軌跡ベクトルr(s)を得ることができる。
【0004】
図1は、光ファイバケーブルの位置を推定する方法を説明するイメージである。
図1のように、「捻れによる回転Ω」と「曲がりによる方向ベクトルr」がわかれば、光ファイバケーブルケーブルの位置を推定することができる。ここで、「捻れによる回転Ω」とは、初期位置r
0に対してz軸(光ファイバケーブルの中心軸方向)を中心にΩ回転することを意味する。「曲がりによる方向ベクトルr」は前記軌跡ベクトルr(s)である。また、
図1のr
j(jは0以上の整数)は光ファイバケーブルの長手方向の位置、L
jは光ファイバケーブルの区間を意味する。x’軸とy’軸は光ファイバケーブルケーブルの基準軸であり、絶対座標のx軸とy軸に対してΩ回転している。
【0005】
このように曲線軌跡を解析する場合、FBG(Fiber Bragg Grating)が付与されたマルチコア光ファイバを用いて曲率κと捩率τを算出する手法が知られている(例えば、非特許文献1及び2を参照。)。FBGによりファイバ曲げによって反射光の波長が変わる(ブラッグ波長がシフトする)ので、OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)で各コアの長手方向の歪み分布を測定する。そして、同一地点における各コアの歪みから得られる断面方向の歪み分布に基づいて曲率κと捩率τを算出する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“Shape sensing using multi-core fiber optic cable and parametric curve solution”, Optics Express, Vol.20, No.3, pp.2967-2973
【文献】“Bend measurement using Bragg gratings in multicore fiber”, Electronics letters, vol.36, no.2, pp.120-121
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
FBGを付与したマルチコア光ファイバをセンサー媒体として使用する従来の手法には次のような課題がある。
まず、FBGを付与したマルチコア光ファイバは特殊な構造のため長尺化が難しいため、従来の手法は長距離の曲線軌跡を解析することが困難である。
さらに、歪みに対する感度を向上させるためには、FBGを付与したマルチコア光ファイバのコアピッチを大きくする必要があるが、機械的強度や伝送特性担保の観点から、コアピッチを大きくすることが難しい。現状ではコアピッチが数十μmに限定される。つまり、従来の手法は測定精度の向上が困難である。
また、測定手段であるOFDRは測定距離が短く(数十m~数百m)、長距離を測定することが困難である。
【0008】
一方、敷設された光ファイバケーブルはマルチコア光ファイバではなく、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている。このため、上述したようなマルチコア光ファイバを用いた曲線軌跡解析を行うことが困難であるという課題もある。
【0009】
そこで、本発明は、前記課題を解決するために、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルの敷設ルートを容易に推定できる光ファイバケーブルセンシング装置、光ファイバケーブルセンシング方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置は、光を用いて取得した長手方向歪分布光から光ファイバケーブルに曲げが発生している地点を特定し、光ファイバケーブルが通過している設備(マンホール等)の位置情報と対応付けることにより、光ファイバケーブルが向いている方向を補正することとした。
【0011】
具体的には、本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置は、
敷設された光ファイバケーブルに含まれるシングルモード光ファイバに試験光を入射し、前記シングルモード光ファイバ毎に物理量の長手方向分布を測定する測定器と、
前記物理量の長手方向分布から前記シングルモード光ファイバの曲げの位置を検出すること、及び、データベースに記載されている特定点の位置と前記曲げの位置とを照合して前記光ファイバケーブルの敷設経路を推定する演算器と、
を備える。
【0012】
また、本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法は、
敷設された光ファイバケーブルに含まれるシングルモード光ファイバに試験光を入射し、前記シングルモード光ファイバ毎に物理量の長手方向分布を測定器で測定する測定工程と、
前記物理量の長手方向分布から前記シングルモード光ファイバの曲げの位置を検出すること、及び、データベースに記載されている特定点の位置と前記曲げの位置とを照合して前記光ファイバケーブルの敷設経路を推定する演算工程と、
を行う。
【0013】
本光ファイバケーブルセンシング装置及び方法は、シングルモード光ファイバの長手方向歪分布から曲げが発生している位置を検出し、データベース上の特定点(マンホール等の設備)と照合しながら光ファイバケーブルの敷設経路を推定する。従って、本発明は、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルの敷設ルートを容易に推定できる光ファイバケーブルセンシング装置、及び光ファイバケーブルセンシング方法を提供することができる。
【0014】
具体的な推定手法は次の通りである。
前記演算器は、
前記測定器から、前記測定器に最も近い前記曲げの位置z1に相当する特定点の位置p1までの前記光ファイバケーブルの敷設方向を知得済みであり、
前記曲げの位置zn(nは2以上の自然数)と前記曲げの位置zn-1との距離を算出し、
前記曲げの位置zn-1に相当する前記特定点の位置pn-1から前記距離だけ離れた位置にある前記特定点の位置pnを前記データベースから見出し、
前記曲げの位置zn-1から前記曲げの位置znの間では前記光ファイバケーブルの敷設方向が前記特定点の位置pn-1から前記特定点の位置pnへの方向であると推定する推定作業を行うこと、及び
前記nが全ての前記曲げの数Nに至るまで前記推定作業を繰り返すこと
を特徴とする。
【0015】
本発明は、前記ルート推定装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムである。本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【0016】
つまり、本発明の装置は、通信ビルから配線されている光ファイバケーブルの通過エリアと通過ルートを推定することができる。
【0017】
なお、上記各発明は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、汎用的なシングルモード光ファイバで構成されている光ファイバケーブルの敷設ルートを容易に推定できる光ファイバケーブルセンシング装置、光ファイバケーブルセンシング方法、及びプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】光ファイバケーブルの位置を推定する方法を説明するイメージである。
【
図2】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置を説明する図である。
【
図3】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置を用いて光ファイバケーブルが有するシングルモード光ファイバの1つを測定している図である。
【
図4】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置が測定するシングルモード光ファイバの光ファイバケーブル断面内の位置を説明する図である。
【
図5】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置が算出したケーブル断面歪み分布の一例である。
【
図7】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置が行う演算を説明する図である。
【
図8】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法を説明するフローチャートである。
【
図9】本発明に係る光ファイバケーブルセンシングシステムを説明する図である。
【
図10】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置を説明する図である。
【
図11】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置が取得する歪の長手方向分布を説明する図である。
【
図12】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置の動作を説明する図である。
【
図13】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング方法を説明する図である。
【
図14】本発明に係る光ファイバケーブルセンシング装置を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
(実施形態1)
図2は、本実施形態の光ファイバケーブルセンシング装置10を説明する図である。また、
図3は、光ファイバケーブルセンシング装置10を用いて光ファイバケーブル20が有するシングルモード光ファイバの1つを測定している図である。光ファイバケーブル20はテープスロット型であり、スロット21の溝22に4芯の光ファイバテープ心線23が5セット挿入されている。光ファイバテープ心線23は4本のシングルモード光ファイバ24を4本並列させている。なお、本実施形態では、テープスロット型の光ファイバケーブル20で説明するが、光ファイバケーブルセンシング装置10が測定できる光ファイバケーブルはテープスロット型に限らない。
なお、シングルモード光ファイバとは、試験光の波長において光がシングルモードで伝搬する光ファイバという意味である。
【0022】
光ファイバケーブルセンシング装置10は、
光ファイバケーブル20に格納されたM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し、N本のシングルモード光ファイバ24毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定する測定器11と、
光ファイバケーブル20の長手方向の任意地点において、光ファイバケーブル20の断面におけるN本のシングルモード光ファイバ24のそれぞれの位置及び前記物理量から、光ファイバケーブル20の前記任意地点の曲率κを数1で算出し、光ファイバケーブル20の前記任意地点の捩率τを数2で算出する演算器12と、
を備える。
図3の例では、M=160である。
また、数1と数2については後述する。
【0023】
光ファイバケーブルセンシング装置10は、全てのシングルモード光ファイバ24を測定しなくてよい。
図4は、光ファイバケーブルセンシング装置10が測定するシングルモード光ファイバ24の位置を説明する図である。光ファイバケーブルセンシング装置10は、溝22毎に最外周にある4本のシングルモード光ファイバ24と最内周にある4本のシングルモード光ファイバ24を測定する。つまり、
図4の例では、N=64である。なお、
図4と
図5に記載されるx軸とy軸は光ファイバケーブル20の中心軸をx=0、y=0として記載している。
【0024】
測定器11は、前記物理量として歪み量、曲げ損失、又は偏波変動を測定することを特徴とする。以下の説明では、前記物理量として歪み量を測定する場合を説明するが、他の物理量を測定しても同様に曲率κと捩率τを計算できる。測定器11は、光ファイバケーブル20内の各シングルモード光ファイバ24に対して、長手方向の歪み分布を測定する手段で位置zにおける歪み量を測定する。当該手段として、OFDRやB-OFDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOFDR)が挙げられる。なお、当該手段としてB-OTDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOTDR)を用いれば上記のOFDRに比べて長距離の測定が可能となる。
【0025】
演算器12は、光ファイバケーブル20の任意位置zにおける各シングルモード光ファイバ24の歪み量を3次元空間座標上(ケーブルの中心位置が座標0に相当)にマッピングし、ケーブル断面歪み分布を算出する。
図5は、ケーブル断面歪み分布の一例である。
図5の例では、第1象限のシングルモード光ファイバ24が縮み、第3象限のシングルモード光ファイバ24が伸びていることが読み取れる。ここから、光ファイバケーブル20は任意位置zにおいてx軸正側及びy軸正側に曲がっていることが予測される。
【0026】
ここで、「曲げ軸」の定義を
図6に示す。「曲げ軸」とは、“neutral axis”であって、任意位置zでの光ファイバケーブル20の中心軸に接する接線の接点における、曲率半径Rを持つ円の中心Ceを垂直に通る直線Axと平行であり、任意位置zにおける光ファイバケーブル20の中心Oを通る直線Nxである。
【0027】
演算器12は、
図5のケーブル断面歪分布からシングルモード光ファイバの位置毎に歪量を取り出し、
図7のように数1を利用して曲率κを計算し、数2を利用して捩率τを計算する。
【数1】
【数2】
ただし、
i:シングルモード光ファイバの番号
ε
i:シングルモード光ファイバのうちi番目のシングルモード光ファイバの任意地点zにおける物理量
r
i:断面におけるi番目のシングルモード光ファイバと前記曲げ軸との距離
θ
i:断面におけるi番目のシングルモード光ファイバのx軸に対する角度オフセット
angle(v):ベクトルvのx軸に対する角度
θ:任意位置zにおける曲率κのベクトルのx軸に対する傾き
θ’(s):前記θの、光ファイバケーブルの中心弧長sに関する微分
である。
【0028】
歪み量ε
iは、任意位置の曲率半径Rと光ファイバケーブル断面中心からシングルモード光ファイバまでの距離r
iを用いてε
i=r
i/Rで表現できる。ここで、光ファイバケーブル20の曲げ半径Rが1/κであり、歪みの差Δεが(距離の差)/Rに比例するから、曲げ軸を基準とすればε
i∝κr
iが成り立つ。
【数2A】
数1のΣの中の式は、各シングルモード光ファイバの歪を「ケーブル中心からの方向θを持ち、歪の大きさεを持つ歪ベクトル」として考え、その歪ベクトルの各成分を曲げ軸Nxからの距離rで規格化したもの、といえる。なお、光ファイバケーブル断面中心O(r=0)では歪がなく、軸Ax側で縮む歪が発生し、軸Axの反対側で伸びる歪が発生する。
【0029】
演算器12は、前記曲率κと前記捩率τを数3(フレネ・セレの公式)に代入して光ファイバケーブル20の中心軸軌跡r(s)を演算することで、敷設された光ファイバケーブルの位置を推定することができる。
【数3】
ただし、
T(s):位置ベクトル
r
0:初期位置
e
1:単位接ベクトル
e
2:単位主法線ベクトル
e
3:単位従法線ベクトル
d/ds:単位弧長当たりの変化量
である。
【0030】
演算器12は、歪み量、曲げ損失、及び偏波変動の少なくとも2つを前記物理量とし、前記物理量毎に算出した前記曲率κを統計処理した値、及び前記物理量毎に算出した前記捩率τを統計処理した値をそれぞれ新たな前記曲率κ及び前記捩率τとする。ここで、統計処理とは、それぞれの測定技術で測定した値を平均することや中央値を採ることを意味する。各種測定技術を用いることで曲がり推定精度を向上することができる。
演算器12は、シングルモード光ファイバ24の歪み量だけでなく、測定器11に曲げ損失や偏波変動も測定させ、それらの物理量を数1と数2に代入して曲率κ及び捩率τを計算できる。そして、このように複数の物理量から計算した曲率κ及び捩率τを平均化あるいは中央値をとることで、より正確な曲率κ及び捩率τを取得できる。
【0031】
図8は、光ファイバケーブルセンシング装置10が行う光ファイバケーブルセンシング方法を説明するフローチャートである。当該光ファイバケーブルセンシング方法は、
光ファイバケーブル20に格納されたM本(Mは3以上の整数)のシングルモード光ファイバ24のうち、任意のN本(NはM未満の整数)のシングルモード光ファイバ24に試験光を入射すること(ステップS01)、
N本のシングルモード光ファイバ24毎に曲げを表す物理量の長手方向分布を測定すること(ステップS02)、及び
光ファイバケーブル20の長手方向の任意地点において、光ファイバケーブル20の断面におけるN本のシングルモード光ファイバ24のそれぞれの位置及び前記物理量から、光ファイバケーブル20の前記任意地点の曲率κを数1で算出し、光ファイバケーブル20の前記任意地点の捩率τを数2で算出すること(ステップS03)、
を行う。
【0032】
(実施形態2)
図9は、本実施形態の光ファイバケーブルセンシングシステム301の実施例を説明する図である。光ファイバケーブルセンシングシステム301は、前述した光ファイバケーブルセンシング装置10と光ファイバケーブル20で構成される。光ファイバケーブル20は、市街地50の道路51の下に埋設されている。光ファイバケーブル20からシングルモード光ファイバ24の一つを分岐して光通信契約をしたユーザ宅へ引き込まれる。あるいは、シングルモード光ファイバ24に接続されている光スプリッタを介してユーザ宅へ引き込んでもよい。
【0033】
光ファイバケーブルセンシングシステム301は、このように地下に埋設されている通信用の光ファイバケーブル20の位置を通信会社の局舎15側から推定するためのシステムである。このような通信用の光ファイバケーブル20にはマルチコア光ファイバではなく汎用的なシングルモード光ファイバが採用されており、従前のマルチコア光ファイバによる3Dセンシング技術をそのまま適用することはできない。さらに、光ファイバケーブル20は長距離にわたって埋設されていることが多く、全長にわたって光ファイバケーブル20の位置を測定できることが求められる。
【0034】
そこで、光ファイバケーブルシステム301は、前述した光ファイバケーブルセンシング装置10を備える。ただし、本実施形態の光ファイバケーブルセンシング装置10は、次のような特徴がある。
図10は、光ファイバケーブルセンシング装置10を説明する機能ブロック図である。光ファイバケーブルセンシング装置10は、
敷設された光ファイバケーブル20に含まれるシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し、シングルモード光ファイバ24毎に物理量の長手方向分布を測定する測定器11と、
前記物理量の長手方向分布からシングルモード光ファイバ24の曲げの位置を検出すること、及び、データベース13に記載されている特定点(マンホール等の設備)の位置と前記曲げの位置とを照合して光ファイバケーブル20の敷設経路を推定する演算器12と、
を備える。
【0035】
測定器11は、前記物理量の長手方向分布として歪み量、曲げ損失、又は偏波変動の長手方向分布を測定する。本実施形態では物理量として歪みの長手方向分布を測定する例で説明する。
測定器11は、光ファイバケーブル20内の各シングルモード光ファイバに試験光を入射し、後方散乱光を受光することで光ファイバの長手方向の歪み分布(距離zにおける歪み量)を測定する。測定器11は、B-OTDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOTDR(Optical Time Domain Reflectometer))、OFDR(Optical Frequency Domain Reflectometry)、B-OFDR(ブリルアン散乱光を観測することで歪み分布を測定するOFDR)などである。
【0036】
ここで、測定器11は、シングルモード光ファイバ24の曲げを長距離にわたって測定する必要がある。シングルモード光ファイバ24の曲げによる歪は、捻れや撚りの歪に比べて後方散乱光の強度が大きくなる。さらに、シングルモード光ファイバ24の曲げによる歪は、数m程度継続する。このため、測定器11は、シングルモード光ファイバ24の曲げによる歪だけを長距離測定できれば良いので、測定分解能と距離分解能を下げて(測定感度を低下させ、測定間隔を広げて)測定する。
【0037】
具体的には、例えば、B-OTDRであれば、パルス幅を100ns程度として分解能を10mとする。
【0038】
演算器12は、測定器11が測定した歪み分布から光ファイバケーブル20に曲げが発生している地点を特定し、光ファイバケーブル20が通過している設備(マンホール等)の位置情報(データベース13)と対応付けることにより、光ファイバケーブル20の曲げ方向を補正する。
【0039】
図10のように、演算器12は、歪分布取得部31、不連続歪位置取得部32、方向計算部33、及びケーブルルート計算部34を有する。歪分布取得部31は、測定器11から歪み分布を取得する。
図11は、歪分布取得部31が取得した歪み分布の例である。歪み分布に歪み値のピークが複数存在している。不連続歪位置取得部32は、このピークを光ファイバケーブル20の曲げで発生した歪みと判断し、そのピークの位置z
nを検出する。例えば、不連続歪位置取得部32は、閾値より大きい歪み量の位置をピークと判断してもよい。なお、位置z
nは、光ファイバケーブル20の光ファイバケーブルセンシング装置10から各ピークまでの距離である。nは自然数であり、ピークの総数をNとする。
【0040】
方向計算部33は、不連続歪位置取得部32が検出した距離znとデータベース13が記憶する設備の位置情報とを照合する。
まず、測定器10から、測定器10に最も近い前記曲げの位置z1(n=1)に相当する特定点(設備)の位置p1までの光ファイバケーブル20の敷設方向を知得済みとする。
方向計算部33は、
前記曲げの位置zn(nは2以上の自然数)と前記曲げの位置zn-1との距離を算出し、
前記曲げの位置zn-1に相当する前記特定点の位置pn-1から前記距離だけ離れた位置にある前記特定点の位置pnをデータベース13から見出し、
前記曲げの位置zn-1から前記曲げの位置znの間では光ファイバケーブル20の敷設方向が前記特定点の位置pn-1から前記特定点の位置pnへの方向であると推定する推定作業を行うこと、及び
前記nが全ての前記曲げの数Nに至るまで前記推定作業を繰り返す。
【0041】
図12を用いて具体的な計算方法を説明する。データベース13には、地図と設備p
nの設置位置が記憶されている。方向計算部33は、設備p
1との距離がz
2-z
1である設備をデータベース13から探し出し、これを設備p
2とする。一方、方向計算部33は、設備p
xと設備p
yは、設備p
1との距離がz
2-z
1でないので、設備p
2ではないと判断する。そして、ケーブルルート計算部34は、光ファイバケーブル20が設備p
1から設備p
2までを通過していると推定する。方向計算部33とケーブルルート計算部34は、設備p
2から設備p
3についても距離z
3-z
2に基づいて同様の推定作業を繰り返し、光ファイバケーブル20のルートを推定する。方向計算部33とケーブルルート計算部34は、この推定作業をn=Nまで繰り返す。これにより、シングルモード光ファイバ24による通信用光ファイバケーブル20の市街地50でのルートの推定ができる。
なお、複数のシングルモード光ファイバ24それぞれから距離z
nを検出した場合、平均化した値を距離z
nとすることが好ましい。
【0042】
図13は、光ファイバケーブルセンシング装置10が行う光ファイバケーブルセンシング方法を説明する図である。当該光ファイバケーブルセンシング方法は、
敷設された光ファイバケーブル20に含まれるシングルモード光ファイバ24に試験光を入射し、シングルモード光ファイバ24毎に物理量の長手方向分布を測定器11で測定する測定工程(ステップS01、S02)と、
前記物理量の長手方向分布からシングルモード光ファイバ24の曲げの位置(距離z
n)を検出すること、及び、データベース13に記載されている特定点(設備p
n)の位置と曲げの位置(距離z
n)とを照合して光ファイバケーブル20の敷設経路を推定する演算工程(ステップS03)と、
を行う。
【0043】
そして、演算工程(ステップS03)では、
測定器11から、測定器11に最も近い曲げの位置z1に相当する特定点の位置p1までの光ファイバケーブル20の敷設方向を知得すること(ステップS31)、
曲げの位置zn(nは2以上の自然数)と曲げの位置zn-1との距離を算出し、
曲げの位置zn-1に相当する特定点の位置pn-1から距離(zn-zn-1)だけ離れた位置にある特定点の位置pnをデータベース13から見出し、
曲げの位置zn-1から曲げの位置znの間では光ファイバケーブル20の敷設方向が特定点の位置pn-1から特定点の位置pnへの方向であると推定する推定作業を行うこと(ステップS32)、及び
前記nの数が全ての曲げの数Nに至るまで前記推定作業を繰り返すこと
を特徴とする。
【0044】
(実施形態3)
実施形態1と実施形態2で説明した光ファイバケーブルの推定手法を組み合わせて光ファイバケーブルの位置を推定してもよい。具体的には、次のように行う。まず、実施形態1で説明したように敷設された光ファイバケーブルの位置を推定する。実施形態1の推定方法は、光ファイバケーブルセンシング装置10から離れるほど光ファイバケーブル20の位置誤差が大きくなる。そこで、実施形態2で説明した推定手法を用いて位置誤差を補正する。
【0045】
(実施形態4)
演算器12はコンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
図14は、システム100のブロック図を示している。システム100は、ネットワーク135へと接続されたコンピュータ105を含む。
【0046】
ネットワーク135は、データ通信ネットワークである。ネットワーク135は、プライベートネットワーク又はパブリックネットワークであってよく、(a)例えば或る部屋をカバーするパーソナル・エリア・ネットワーク、(b)例えば或る建物をカバーするローカル・エリア・ネットワーク、(c)例えば或るキャンパスをカバーするキャンパス・エリア・ネットワーク、(d)例えば或る都市をカバーするメトロポリタン・エリア・ネットワーク、(e)例えば都市、地方、又は国家の境界をまたいでつながる領域をカバーするワイド・エリア・ネットワーク、又は(f)インターネット、のいずれか又はすべてを含むことができる。通信は、ネットワーク135を介して電子信号及び光信号によって行われる。
【0047】
コンピュータ105は、プロセッサ110、及びプロセッサ110に接続されたメモリ115を含む。コンピュータ105が、本明細書においてはスタンドアロンのデバイスとして表されているが、そのように限定されるわけではなく、むしろ分散処理システムにおいて図示されていない他のデバイスへと接続されてよい。
【0048】
プロセッサ110は、命令に応答し且つ命令を実行する論理回路で構成される電子デバイスである。
【0049】
メモリ115は、コンピュータプログラムがエンコードされた有形のコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体である。この点に関し、メモリ115は、プロセッサ110の動作を制御するためにプロセッサ110によって読み取り可能及び実行可能なデータ及び命令、すなわちプログラムコードを記憶する。メモリ115を、ランダムアクセスメモリ(RAM)、ハードドライブ、読み出し専用メモリ(ROM)、又はこれらの組み合わせにて実現することができる。メモリ115の構成要素の1つは、プログラムモジュール120である。
【0050】
プログラムモジュール120は、本明細書に記載のプロセスを実行するようにプロセッサ110を制御するための命令を含む。本明細書において、動作がコンピュータ105或いは方法又はプロセス若しくはその下位プロセスによって実行されると説明されるが、それらの動作は、実際にはプロセッサ110によって実行される。
【0051】
用語「モジュール」は、本明細書において、スタンドアロンの構成要素又は複数の下位の構成要素からなる統合された構成のいずれかとして具現化され得る機能的動作を指して使用される。したがって、プログラムモジュール120は、単一のモジュールとして、或いは互いに協調して動作する複数のモジュールとして実現され得る。さらに、プログラムモジュール120は、本明細書において、メモリ115にインストールされ、したがってソフトウェアにて実現されるものとして説明されるが、ハードウェア(例えば、電子回路)、ファームウェア、ソフトウェア、又はこれらの組み合わせのいずれかにて実現することが可能である。
【0052】
プログラムモジュール120は、すでにメモリ115へとロードされているものとして示されているが、メモリ115へと後にロードされるように記憶装置140上に位置するように構成されてもよい。記憶装置140は、プログラムモジュール120を記憶する有形のコンピュータにとって読み取り可能な記憶媒体である。記憶装置140の例として、コンパクトディスク、磁気テープ、読み出し専用メモリ、光記憶媒体、ハードドライブ又は複数の並列なハードドライブで構成されるメモリユニット、並びにユニバーサル・シリアル・バス(USB)フラッシュドライブが挙げられる。あるいは、記憶装置140は、ランダムアクセスメモリ、或いは図示されていない遠隔のストレージシステムに位置し、且つネットワーク135を介してコンピュータ105へと接続される他の種類の電子記憶デバイスであってよい。
【0053】
システム100は、本明細書においてまとめてデータソース150と称され、且つネットワーク135へと通信可能に接続されるデータソース150A及びデータソース150Bを更に含む。実際には、データソース150は、任意の数のデータソース、すなわち1つ以上のデータソースを含むことができる。データソース150は、体系化されていないデータを含み、ソーシャルメディアを含むことができる。
【0054】
システム100は、ユーザ101によって操作され、且つネットワーク135を介してコンピュータ105へと接続されるユーザデバイス130を更に含む。ユーザデバイス130として、ユーザ101が情報及びコマンドの選択をプロセッサ110へと伝えることを可能にするためのキーボード又は音声認識サブシステムなどの入力デバイスが挙げられる。ユーザデバイス130は、表示装置又はプリンタ或いは音声合成装置などの出力デバイスを更に含む。マウス、トラックボール、又はタッチ感応式画面などのカーソル制御部が、さらなる情報及びコマンドの選択をプロセッサ110へと伝えるために表示装置上でカーソルを操作することをユーザ101にとって可能にする。
【0055】
プロセッサ110は、プログラムモジュール120の実行の結果122をユーザデバイス130へと出力する。あるいは、プロセッサ110は、出力を例えばデータベース又はメモリなどの記憶装置125へともたらすことができ、或いはネットワーク135を介して図示されていない遠隔のデバイスへともたらすことができる。
【0056】
例えば、
図13のフローチャートを行うプログラムをプログラムモジュール120としてもよい。システム100を演算器12として動作させることができる。
【0057】
用語「・・・を備える」又は「・・・を備えている」は、そこで述べられている特徴、完全体、工程、又は構成要素が存在することを指定しているが、1つ以上の他の特徴、完全体、工程、又は構成要素、或いはそれらのグループの存在を排除してはいないと、解釈されるべきである。用語「a」及び「an」は、不定冠詞であり、したがって、それを複数有する実施形態を排除するものではない。
【0058】
(他の実施形態)
なお、この発明は上記実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施可能である。要するにこの発明は、上位実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0059】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜な組み合わせにより種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態に亘る構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10:光ファイバケーブルセンシング装置
11:測定器
12:演算器
13:データベース
20:光ファイバケーブル
21:スロット
22:溝
23:光ファイバテープ心線
24:シングルモード光ファイバ
31:歪分布取得部
32:不連続歪位置取得部
33:方向計算部
34:ケーブルルート計算部
50:市街地
51:道路
100:システム
101:ユーザ
105:コンピュータ
110:プロセッサ
115:メモリ
120:プログラムモジュール
122:結果
125:記憶装置
130:ユーザデバイス
135:ネットワーク
140:記憶装置
150:データソース
301:光ファイバケーブルセンシングシステム