(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】デバイスの製造方法および接合装置、半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
H01L 21/52 20060101AFI20240201BHJP
H01L 21/58 20060101ALI20240201BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240201BHJP
B23K 20/00 20060101ALI20240201BHJP
H05K 7/20 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01L21/52 C
H01L21/52 A
H01L21/52 F
H01L21/58
B81C1/00
B23K20/00 310L
H05K7/20 E
(21)【出願番号】P 2019214583
(22)【出願日】2019-11-27
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】日暮 栄治
(72)【発明者】
【氏名】須賀 唯知
(72)【発明者】
【氏名】山本 道貴
(72)【発明者】
【氏名】倉島 優一
(72)【発明者】
【氏名】松前 貴司
(72)【発明者】
【氏名】高木 秀樹
【審査官】堀江 義隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-126272(JP,A)
【文献】特開2015-079637(JP,A)
【文献】特開2010-205848(JP,A)
【文献】特開2018-201022(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/52
B81C 1/00
B23K 20/00
H05K 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平滑な表面を有するテンプレート基板の表面に、第1金属薄膜を形成するステップと、
テンプレートストリッピングにより、平滑化対象の部材の表面に、活性化された前記第1金属薄膜を複数回、重ねて転写し、前記部材の前記表面に多層金属膜を形成するステップと、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
前記部材の接合相手となる支持基板の表面に、第2金属薄膜を形成するステップと、
前記部材と前記支持基板を、前記多層金属膜と前記第2金属薄膜が活性化された状態で接触させて接合するステップと、
をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記部材と、その接合相手となる支持基板を、前記多層金属膜が活性化された状態で接触させて接合するステップをさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
複数回の転写の過程で、剛性が異なる複数の前記テンプレート基板が使用されることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記複数のテンプレート基板のうち、終盤に使用されるテンプレート基板の弾性率は、序盤に使用されるテンプレート基板の弾性率より相対的に大きいことを特徴とする請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記序盤に使用されるテンプレート基板は、フレキシブル基板であることを特徴とする請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
前記終盤に使用されるテンプレート基板は、半導体基板であることを特徴とする請求項5または6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記第1金属薄膜は、単金属膜または金属多層膜を含むことを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記活性化には、低真空プラズマ、大気圧プラズマ、またはイオンビームが利用されることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
表面に第1金属薄膜が形成されたテンプレート基板を保持する第1ステージと、
支持基板を保持する第2ステージと、
前記第1金属薄膜を活性化する活性化処理部と、
接合対象のチップを保持するチップホルダーと、
前記テンプレート基板と前記チップを相対的に移動させて、前記チップの表面に、テンプレートストリッピングにより前記第1金属薄膜を複数回、重ねて転写し、前記チップを前記支持基板と接合するマニピュレータと、
を備えることを特徴とする接合装置。
【請求項11】
支持基板と、
前記支持基板上に設けられる金属薄膜と、
前記金属薄膜上に設けられる多層金属膜と、
前記多層金属膜上に設けられるチップと、
を備え、
前記多層金属膜の層間ギャップは、前記チップに近いほど大きく、前記チップから遠ざかるほど小さいことを特徴とす
る半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいて、異なる部品同士の接合は重要なプロセスである。接合の代表的な例は、個片となった半導体チップ(ダイ)を、放熱基板等に接合するダイボンディングである。例えば、LED(発光ダイオード)チップやパワーデバイスは、ダイボンディングによって放熱基板へ実装される。また、MEMSやセンサのパッケージング(気密封止、真空封止)にも、接合技術が利用されている。
【0003】
従来のダイボンディングは、銀ペーストなどの接着剤を利用したものが主流であったが、近年、接着剤を用いない、アウトガスの発生のないダイボンディング手法の開発が進められている。
【0004】
たとえば本発明者らは、金(Au)薄膜を用いて、低真空プラズマで表面を活性化することにより常温、大気中、無加圧で、強固なウェハ接合を行う手法を提案している(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】E. Higurashi et al., IEICE Transactions on Electronics, vol. E100-C, no. 2, pp. 156-160, 2017
【文献】Y. Kurashima et al. Microelectronic Engineering, vol. 189 pp. 1-5, (2018).
【文献】M. Yamamoto et al. Journal of Automation Technology (IJAT), vol. 13, pp. 254-260, (2019).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1の手法は、原子間の凝着力により接合させる方法であるがゆえに、極めて平滑な接合面(rms表面粗さ:0.5nm以下)が必要であり、極薄薄膜(厚さ:50nm以下)を用いてこれを実現したが、一般に平滑な表面を得るには、化学機械研磨(CMP:Chemical Mechanical Polishing)などの超精密ポリッシングによる除去加工が用いられてきた。また、三次元構造の中に種々の機能を有する異種材料を複合化するためには、ウェハレベルの接合のみならず、最適なプロセスで作製した高機能な素子をチップレベルで高精度実装する手法も併用する必要がある。一般にスパッタリングなどで成膜した厚さ500nm以上の厚い金属薄膜電極の表面は、rms表面粗さが数nm以上となり、オーミックコンタクト形成のためにシンタリング処理などを行うとさらに表面粗さが大きくなり、Siウェハのような超平滑(rms表面粗さ: 0.2nm)な表面は得られないため、低温(150℃以下)、かつ低荷重(200MPa以下)での接合は困難であった。
【0007】
また、キャビティ加工等のマイクロマシニングを施したSiウェハのキャビティ内部などは、そもそもCMPプロセスの適用は困難であり、後工程で平滑化が困難という大きな課題があった。
【0008】
平滑な表面を得る手法として、テンプレートストリッピングプロセスが知られている。この手法は、平滑なテンプレート基板に成膜した薄膜をテンプレート基板から剥離させることで平滑な表面を得る手法であり、表面プラズモン分析などで研究が行われている。
【0009】
本発明者らはテンプレートストリッピングを接合に利用することを検討した(非特許文献2,3)。
【0010】
図1(a)~(d)は、テンプレートストリッピングを用いた接合を説明する図である。
図1(a)に示すように、表面に金属薄膜6が形成されたテンプレート基板4を用意する。そしてその上から、平滑化すべき表面を有する対象2を押し付ける。その結果、
図1(b)に示すように、金属薄膜6の一部が剥ぎ取られて対象2の表面に転写され、対象2に平滑面が形成される。この対象2Aの表面の平滑度は、テンプレート基板4の平滑度を反映したものとなっている。
【0011】
図1(c)に示すように、対象2Aの接合相手8の表面にも金属薄膜9を形成し、
図1(d)に示すように、対象2Aと接合相手8を接合する。
【0012】
図1(a)~(d)に示すように、比較的表面粗さが小さい表面を有する対象物2の場合、金属薄膜6の厚さt1を薄くできる。したがって、転写に際しては、過度な加圧は不要であり、また高温加熱する必要もない。
【0013】
本発明者らは、半導体チップのように、数nmより大きな粗い表面を有する対象物2を
図1(a)~(d)の手法によって接合することを検討した。
図2(a)、(b)は、粗い表面を有する対象2におけるテンプレートストリッピングを説明する図である。
【0014】
対象物2の表面が粗い場合、テンプレート基板4上に、対象物2の粗さを埋めるに足る厚さt2の金属薄膜6を形成する必要がある。ここで、金属薄膜6は、厚さt2が厚くなるほど、金属薄膜6の表面は粗くなる(非特許文献1)。このような場合において、テンプレート基板4から対象物2に、金属薄膜6を転写する際には、大きな圧力を印加する必要があり、また高温に加熱する必要がある(非特許文献2)。具体的には、この手法により平滑な表面を得るためには、300MPa以上の大きな加圧、または200℃以上の高温加熱処理が必要となる。また、この手法で得られる表面の平滑性が十分でない場合、対象物2と接合相手8を接合する際にも、高温加熱処理や大きな加圧が必要となる。
【0015】
対象物2が、活性層を有する半導体チップである場合、高加圧処理、高温加熱処理を施すと、半導体チップを劣化させるという問題がある。かかる事情から、テンプレートストリッピングを、表面の粗い対象物2の平滑化および接合に適用することは、実用上、大きな障壁があった。
【0016】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、そのある態様の例示的な目的は、低温および/または低荷重で平滑面を形成可能な接合技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明のある態様は、半導体デバイスの製造方法に関する。製造方法は、平滑な表面を有するテンプレート基板の表面に第1金属薄膜を形成するステップと、テンプレートストリッピングにより、平滑化対象の部材の表面に、活性化された第1金属薄膜を複数回、重ねて転写し、部材の表面に多層金属膜を形成するステップと、を備える。
【0018】
テンプレートストリッピングを繰り返し行うことで、部材の表面には、第1金属薄膜の積層構造である多層金属膜が形成される。多層金属膜の各層は積層の工程においてナノメートルスケールで塑性変形し、転写を繰り返すごとに、変形量が小さくなり、平滑化されていき、最終的には、極めて平滑(たとえばrms表面粗さが0.5nm以下)な表面を得ることができる。この製造方法は、高温加熱処理が不要であるという利点を有し、および/または、大きな加圧処理が不要であるという利点を有する。なお、第1金属薄膜の成膜直後(長い場合は1週間程度)は活性化された状態が維持されるため、特に表面活性化処理は不要であるが、成膜からある程度時間が経過した後は、表面活性化処理を行った後に、テンプレートストリッピングを行うとよい。
【0019】
ある態様において、製造方法は、接合相手の支持基板の表面に、第2金属薄膜を形成するステップと、部材と支持基板を、多層金属膜と第2金属薄膜が活性化された状態で接触させて接合するステップと、をさらに備えてもよい。支持基板の表面が平滑で、第2金属薄膜の接合面も平滑な場合、同様に原子レベルで平滑な第1金属薄膜を、第2金属薄膜と接触させることにより、原子間の凝着力が発生した接合が可能となる。この接合プロセスにおいても、高温加熱は不要であり、また部材と支持基板同士の強い加圧も不要であるという利点がある。なお、第1金属薄膜と第2金属薄膜は、Au-Auのように同じ材料であってもよいし、異種材料であってもよい。
【0020】
また、第1金属薄膜、多層金属膜、第2金属薄膜の表面活性化には、低真空プラズマまたは大気圧プラズマを利用してもよい。大気圧プラズマを利用した場合、大気圧における処理が可能となる。
【0021】
複数回の転写の過程で、剛性が異なる複数のテンプレート基板が使用されてもよい。上述のように、転写を繰り返すうちに、多層金属膜の各層の塑性変形量は徐々に小さくなっていく。転写ごとのテンプレート基板の剛性を最適化することにより、各層の塑性変形量を調節することができ、より平滑な表面を実現できる。
【0022】
複数のテンプレート基板のうち、終盤に使用されるテンプレート基板の弾性率は、序盤に使用されるテンプレート基板の弾性率より相対的に大きくてもよい。これにより、最終的に得られる表面の平滑性をさらに高めることができる。
【0023】
序盤に使用されるテンプレート基板は、フレキシブル基板であってもよい。フレキシブル基板として、ポリマー基板を用いてもよい。
【0024】
終盤に使用されるテンプレート基板は、半導体基板であってもよい。たとえば半導体基板は、シリコン基板であってもよいし、シリコン基板上にシリコン酸化膜を形成したものを用いてもよい。
【0025】
第1金属薄膜は、Auなどの単金属膜を用いてもよいし、Au/Ta/Cu/Ta/Au(金/タンタル/銅/タンタル/金)や、Au/Al/Au(金/アルミニウム/金)などの金属多層膜を含んでもよい。
【0026】
本発明の別の態様は、接合装置である。この接合装置は、表面に第1金属薄膜が形成されたテンプレート基板を保持する第1ステージと、支持基板を保持する第2ステージと、第1金属薄膜を活性化する活性化処理部と、接合対象のチップを保持するチップホルダーと、テンプレート基板とチップを相対的に移動させて、チップの表面に、テンプレートストリッピングにより第1金属薄膜を複数回、重ねて転写し、チップを支持基板と接合するマニピュレータと、を備える。
【0027】
本発明の別の態様は、半導体デバイスである。半導体デバイスは、支持基板と、支持基板上に設けられる金属薄膜と、金属薄膜上に設けられる多層金属膜と、多層金属膜上に設けられるチップと、を備える。
【0028】
多層金属膜の層間ギャップは、チップに近いほど大きく、チップから遠ざかるほど小さくてもよい。
【0029】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を装置、方法、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、テンプレートストリッピングを用いて、粗い部材に、平滑な面を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】
図1(a)~(d)は、テンプレートストリッピングを用いた接合を説明する図である。
【
図2】
図2(a)、(b)は、粗い表面を有する対象におけるテンプレートストリッピングを説明する図である。
【
図3】
図3(a)~(c)は、実施の形態に係る半導体デバイスの製造方法の工程の一部を説明する図である。
【
図4】転写の繰り返しにより、第1金属薄膜層の表面が平滑化されていく様子を示す図である。
【
図5】転写回数と表面粗さの関係(測定結果)を示す図である。
【
図6】
図6(a)、(b)は、転写後の断面SEM像および断面TEM像を示す図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、チップと支持基板との接合工程を示す図である。
【
図8】実施の形態に係る接合装置を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
(実施の形態)
以下、本発明を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0033】
また各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。
【0034】
図3(a)~(c)は、実施の形態に係る半導体デバイスの製造方法の工程の一部を説明する図である。
図3(a)~(c)には、粗い表面12、具体的にはrms表面粗さで数nm~数百nmを有する部材(以下、チップという)2の表面を平滑化する工程が示されている。
【0035】
図3(a)に示すように、平滑な(たとえばrms表面粗さ: 0.5nm以下)表面を有するテンプレート基板20の表面に、第1金属薄膜22が形成される(S100)。テンプレート基板20としては、酸化膜(SiO
2)を形成したシリコン基板や、ポリエチレンテレフタレート(PET)のようなポリマー基板(フレキシブル基板)など、転写する金属との凝着力が弱い基板を用いることができる。転写する金属との凝着力を小さくするために、ポリマー基板に酸化膜を成膜した基板なども用いることができる。
【0036】
第1金属薄膜22の形成方法は限定されないが、たとえばスパッタなどを用いることができる。第1金属薄膜22の厚みt1は、たとえば0.1nm~300nm程度である。第1金属薄膜22は、たとえばAuなどの単金属膜を用いることができる。
【0037】
続いて、
図3(b)に示すように、第1金属薄膜22の表面を活性化する(S102)。表面活性化には、イオンビームや低真空プラズマ、大気圧プラズマを用いることができる。第1金属薄膜22の活性化とあわせて、チップ10の表面12を活性化してもよい。チップ10の表面12に、数十~数百nmの金属薄膜(バッファ層ともいう)11を形成しておき、それを活性するとよい。
【0038】
そして、
図3(c)に示すように、チップ10の表面12に、テンプレートストリッピングにより第1金属薄膜22を複数回、重ねて転写し、チップ10の表面に多層金属膜16を形成する。この例では、3回の転写を行っているが、その回数は限定されず、チップ10の表面が、要求される平滑性(たとえば、rms表面粗さ:0.5nm以下)を獲得するように決めればよい。
【0039】
図4は、転写の繰り返しにより、第1金属薄膜層14の表面が平滑化されていく様子を示す図である。転写の回数を重ねるに従い、第1金属薄膜層14の塑性変形量が小さくなっていく。
【0040】
図5は、転写回数と表面粗さの関係(測定結果)を示す図である。この測定結果は、転写の繰り返しによって、表面の平滑度が改善されていくことを裏付けるものであるが、この結果は自明なものではなく、本発明者らの実験によって初めて確認されたものであることに留意されたい。
【0041】
図6(a)、(b)は、転写後のデバイスの断面SEM像および断面TEM像を示す図である。両図とも、下側がチップであり、上側が多層金属膜16(5層)を示す。転写した接合界面の多層構造においては、第1金属薄膜層14の間に、空隙が形成されることが分かる。この空隙の有無、大きさは、使用するテンプレート基板の材質とストリッピングの条件(圧力、温度)により制御することができる。
【0042】
続いて、
図3(a)~(c)の処理によって、平滑化された表面を獲得したチップ10を、支持基板と接合する処理について説明する。
【0043】
図7(a)~(c)は、チップ10と支持基板30との接合工程を示す図である。
図7(a)に示すように、支持基板30の表面に、第1金属薄膜22と接合可能な材料の第2金属薄膜32を形成する(S200)。支持基板30の材料は限定されず、半導体デバイスの構造によってさまざまであるが、たとえば金属性の熱伝導率が高い放熱基板や、セラミック基板を用いることができる。第2金属薄膜32は、第1金属薄膜22と同じ材料を用いるとよい。
【0044】
図7(b)に示すように、チップ10の多層金属膜16と支持基板30の第2金属薄膜32を活性化する(S202)。表面活性化にはイオンビームやプラズマを用いることができる。
【0045】
そして
図7(c)に示すように、チップ10と支持基板30を、多層金属膜16と第2金属薄膜32を接触させて接合し、半導体デバイス40が構成される(S204)。以上が接合工程である。
【0046】
実施の形態に係る製造方法により製造された半導体デバイス40は、以下の構造を有する。
【0047】
半導体デバイス40は、支持基板30と、支持基板30上に設けられる第2金属薄膜32と、第2金属薄膜32上に設けられる多層金属膜16と、多層金属膜16上に設けられるチップ10と、を備える。
【0048】
図6(a)に示すように、多層金属膜16の層間ギャップは、チップ10に近いほど大きく、チップ10から遠ざかるほど小さい。
【0049】
続いて、実施の形態に係る半導体デバイスの製造の利点を説明する。
第1に、テンプレートストリッピングによる転写を繰り返し行うことにより、活性なAu薄膜の塑性変形と表面拡散や粒界拡散などを積極的に利用した付加加工により、表面粗さの大きな面を平滑化できる。具体的にはrms表面粗さが1nm以下(たとえば0.5nm)の平滑面を得ることができる。この過程において、高温加熱処理や大きな加圧は不要である。
【0050】
この技術によれば、CMPプロセス無しに、平滑面の形成が可能になり、新規低温接合プロセスを構築できる。
【0051】
第2に、平滑面を形成したチップ2は、低温(常温~150℃)・低荷重(200MPa以下)での接合が可能になる。これは、
図2を参照して説明した1回の転写を行う技術では、大きな加圧(300 MPa以上)・高温加熱処理(200℃以上)が必要になるのと比較して、温度、圧力の観点から有利である。
【0052】
(接合装置)
図8は、実施の形態に係る接合装置を示すブロック図である。接合装置100は、第1ステージ102、第2ステージ104、活性化処理部106、チップホルダー108、マニピュレータ110を備える。
【0053】
第1ステージ102は、表面に第1金属薄膜22が形成されたテンプレート基板20を保持する。第2ステージ104は、支持基板30を保持する。
【0054】
活性化処理部106は、テンプレート基板20の第1金属薄膜22を表面活性化する。活性化処理部106は、プラズマ発生装置やイオンビーム発生源であってもよい。
【0055】
チップホルダー108は、接合対象のチップ10を保持する。チップ10は上述のように、粗い表面12を有している。活性化処理部106は、チップ10の表面12も、活性化することができる。チップ10の表面12に、前処理によって、Au薄膜であるバッファ層11を形成しておいてもよい。
【0056】
マニピュレータ(ハンドラともいう)110は、テンプレート基板20とチップ10を相対的に移動させて、チップ10の表面に、テンプレートストリッピングにより第1金属薄膜22を複数回、重ねて転写する。そして転写の完了後に、マニピュレータ110は、チップ10を支持基板30と接合する。また、活性化処理部106は、接合前にチップ10および支持基板30の表面も活性化することができる。
【0057】
以上、本発明について、実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。以下、こうした変形例について説明する。
【0058】
(変形例1)
第1金属薄膜22の材料はAuに限定されず、Cu(銅),Ag(銀)などの他の金属を用いてもよい。また、Au/Ta/Cu/Ta/Auや、Au/Al/Auなどの多層金属膜を用いてもよい。
【0059】
(変形例2)
上述のように、転写を繰り返す過程において、第1金属薄膜層14は塑性変形して、真実接触面積を増加させ凝着する必要があることから、テンプレート基板の弾性率は重要なパラメータである。そこで、複数回の転写の過程で、剛性が異なる複数のテンプレート基板を使用してもよい。転写ごとのテンプレート基板の剛性を最適化することにより、各層の塑性変形量を調節することができ、より平滑な表面を実現できる。
【0060】
特に、複数のテンプレート基板のうち、終盤に使用されるテンプレート基板の弾性率は、序盤に使用されるテンプレート基板の弾性率より相対的に大きくてもよい。たとえば序盤(たとえば転写回数が1~8回)において、フレキシブル基板を用い、終盤(たとえば最後の1回の転写)において絶縁膜(SiO2)を形成した半導体(Si)基板を用いてもよい。これにより、最終的に得られる表面の平滑性をさらに改善できる。
【0061】
(変形例3)
実施の形態では、半導体チップの表面を平滑化する場合を説明したが、この平滑化の手法は、支持基板30や、その他の部材の平滑化に適用することも可能である。
【0062】
(変形例4)
図7において、支持基板30の表面に第2金属薄膜32を形成したが、その限りでなく、支持基板30の材料の種類(たとえばAuである場合)によっては、第2金属薄膜32は不要である。
【0063】
実施の形態にもとづき、具体的な用語を用いて本発明を説明したが、実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0064】
10 チップ
12 表面
14 第1金属薄膜層
16 多層金属膜
20 テンプレート基板
22 第1金属薄膜
30 支持基板
32 第2金属薄膜
100 接合装置
102 第1ステージ
104 第2ステージ
106 活性化処理部
108 チップホルダー
110 マニピュレータ