(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-01
(45)【発行日】2024-02-09
(54)【発明の名称】正孔取り出し層用塗布液及び正孔取り出し層
(51)【国際特許分類】
H10K 30/50 20230101AFI20240202BHJP
H10K 30/40 20230101ALI20240202BHJP
H10K 30/86 20230101ALI20240202BHJP
H10K 85/60 20230101ALI20240202BHJP
【FI】
H10K30/50
H10K30/40
H10K30/86
H10K85/60
(21)【出願番号】P 2022075883
(22)【出願日】2022-05-02
(62)【分割の表示】P 2017167613の分割
【原出願日】2017-08-31
【審査請求日】2022-05-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 研究成果展開事業[戦略的イノベーション創出推進プログラム]、「塗布型長寿命有機太陽電池の創出と実用化に向けた基盤技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100130409
【氏名又は名称】下山 治
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【氏名又は名称】永川 行光
(74)【代理人】
【識別番号】100188857
【氏名又は名称】木下 智文
(72)【発明者】
【氏名】中村 栄一
(72)【発明者】
【氏名】ルイ シャン
(72)【発明者】
【氏名】ツォンミン ツォウ
(72)【発明者】
【氏名】西岡 拓紀
(72)【発明者】
【氏名】ヘンリー ハリム
(72)【発明者】
【氏名】武井 出
【審査官】佐竹 政彦
(56)【参考文献】
【文献】特許第6181261(JP,B1)
【文献】特開2013-187419(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0069850(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 10/00-99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で表される化合物を含有する
正孔取り出し層用塗布液。
(前記式(I)中、X
1とX
2の一方は置換基R
2を有する窒素原子であり、他方は置換基Ar
3を有する炭素原子であり、R
1~R
4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、Ar
1~Ar
4はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、Ar
1~Ar
4のうち少なくとも1つが置換基としてフッ素原子を有する芳香族基である。)
【請求項2】
R
1とR
2とのうちの少なくとも1つが置換基としてイオン性の置換基を有する炭素数1~20のアルキル基である、請求項1に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
【請求項3】
前記式(I)で表される化合物及び溶媒を含有する、請求項1又は2に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
【請求項4】
前記式(I)で表される化合物及び水を含有する、請求項1又は2に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
【請求項5】
下記式(I)で表される化合物を含有する正孔取り出し層。
(前記式(I)中、X
1
とX
2
の一方は置換基R
2
を有する窒素原子であり、他方は置換基Ar
3
を有する炭素原子であり、R
1
~R
4
はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、Ar
1
~Ar
4
はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、Ar
1
~Ar
4
のうち少なくとも1つが置換基としてフッ素原子を有する芳香族基である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
有機無機ハイブリット半導体材料を用いた光電変換素子が、高効率性のために注目を浴びている。例えば非特許文献1には、ペロブスカイト半導体化合物を活性層材料として用いた太陽電池が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Heo et al. Energy and Environmental Science, 2015, 8, 1602-1608.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機無機ハイブリット半導体材料を用いた光電変換素子は、耐久性の面で課題を有していた。太陽電池の実用化のためには、より長期間の使用を可能とするために、耐久性を向上させることが望まれていた。
【0005】
本発明は、有機無機ハイブリット半導体材料を用いた光電変換素子において、耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、有機無機ハイブリット半導体材料を用いた光電変換素子において、特定の化合物を含有するバッファ層を用いることにより耐久性を向上できることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は、以下に存する。
[1]
下記式(I)で表される化合物を含有する
正孔取り出し層用塗布液。
(前記式(I)中、X
1とX
2の一方は置換基R
2を有する窒素原子であり、他方は置換基Ar
3を有する炭素原子であり、R
1~R
4はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、Ar
1~Ar
4はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、Ar
1~Ar
4のうち少なくとも1つが置換基としてフッ素原子を有する芳香族基である。)
[2]R
1とR
2とのうちの少なくとも1つが置換基としてイオン性の置換基を有する炭素数1~20のアルキル基である、請求項1に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
[
3]
前記式(I)で表される化合物及び溶媒を含有する、請求項1又は2に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
[
4]
前記式(I)で表される化合物及び水を含有する、請求項1又は2に記載の
正孔取り出し層用塗布液。
[5]下記式(I)で表される化合物を含有する正孔取り出し層。
(前記式(I)中、X
1
とX
2
の一方は置換基R
2
を有する窒素原子であり、他方は置換基Ar
3
を有する炭素原子であり、R
1
~R
4
はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表し、Ar
1
~Ar
4
はそれぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族基を表し、Ar
1
~Ar
4
のうち少なくとも1つが置換基としてフッ素原子を有する芳香族基である。)
【発明の効果】
【0008】
有機無機ハイブリット半導体材料を用いた光電変換素子において、耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】一実施形態としての光電変換素子を模式的に表す断面図である。
【
図2】一実施形態としての太陽電池を模式的に表す断面図である。
【
図3】一実施形態としての太陽電池モジュールを模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明の実施形態を詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定はされない。
【0011】
本発明に係る光電変換素子は、一対の電極と、活性層と、式(I)で表される化合物を含有する層と、を備える。一対の電極は、上部電極と下部電極とにより構成される。活性層は、一対の電極間に位置し、有機無機ハイブリッド型半導体材料を含有する。以下、式(I)で表される化合物のことを、ベンゾジピロール化合物と呼ぶことがある。
【化2】
【0012】
図1は、本発明に係る光電変換素子の一実施形態を模式的に表す断面図である。
図1に示される光電変換素子は、一般的な薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子であるが、本発明に係る光電変換素子が
図1に示されるものに限られるわけではない。
図1に示す光電変換素子100においては、下部電極101、活性層103、及び上部電極107がこの順に配置されている。また、光電変換素子100において、下部電極101と活性層103との間に存在するバッファ層102は、式(I)で表される化合物を含有する層である。もっとも、光電変換素子100が上部電極107と活性層103との間にバッファ層105を有していてもよく、このバッファ層105が式(I)で表される化合物を含有する層であってもよい。また、
図1に示すように、光電変換素子100が、基材108、絶縁体層、及び仕事関数チューニング層のようなその他の層を有していてもよい。
【0013】
[1.活性層]
活性層103は光電変換が行われる層である。光電変換素子100が光を受けると、光が活性層103に吸収されてキャリアが発生し、発生したキャリアは下部電極101及び上部電極107から取り出される。
【0014】
本実施形態において、活性層103は有機無機ハイブリッド型半導体材料を含有する。有機無機ハイブリッド型半導体材料とは、有機成分と無機成分とが分子レベル又はナノレベルで組み合わせられた材料であって、半導体特性を示す材料のことを指す。
【0015】
有機無機ハイブリッド型半導体材料の一例としては、ペロブスカイト構造を有する化合物(以下、ペロブスカイト半導体化合物と呼ぶことがある)が挙げられる。ペロブスカイト半導体化合物とは、ペロブスカイト構造を有する半導体化合物のことを指す。ペロブスカイト半導体化合物としては、特段の制限はないが、例えば、Galasso et al. Structure and Properties of Inorganic Solids, Chapter 7 - Perovskite type and related structuresで挙げられているものから選ぶことができる。例えば、ペロブスカイト半導体化合物としては、一般式AMX3で表されるAMX3型のもの又は一般式A2MX4で表されるA2MX4型のものが挙げられる。ここで、Mは2価のカチオンを、Aは1価のカチオンを、Xは1価のアニオンを指す。
【0016】
1価のカチオンAに特段の制限はないが、上記Galassoの著書に記載されているものを用いることができる。より具体的な例としては、周期表第1族及び第13族~第16族元素を含むカチオンが挙げられる。これらの中でも、セシウムイオン、ルビジウムイオン、置換基を有していてもよいアンモニウムイオン又は置換基を有していてもよいホスホニウムイオンが好ましい。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの例としては、1級アンモニウムイオン又は2級アンモニウムイオンが挙げられる。置換基にも特段の制限はない。置換基を有していてもよいアンモニウムイオンの具体例としては、アルキルアンモニウムイオン又はアリールアンモニウムイオンが挙げられる。特に、立体障害を避けるために、3次元の結晶構造となるモノアルキルアンモニウムイオンが好ましく、安定性向上の観点からは、一つ以上のフッ素基を置換したアルキルアンモニウムイオンを用いることが好ましい。また、カチオンAとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。
【0017】
1価のカチオンAの具体例としては、メチルアンモニウムイオン、モノフッ化メチルアンモニウムイオン、ジフッ化メチルアンモニウムイオン、トリフッ化メチルアンモニウムイオン、エチルアンモニウムイオン、イソプロピルアンモニウムイオン、n-プロピルアンモニウムイオン、イソブチルアンモニウムイオン、n-ブチルアンモニウムイオン、t-ブチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、ジエチルアンモニウムイオン、フェニルアンモニウムイオン、ベンジルアンモニウムイオン、フェネチルアンモニウムイオン、グアニジウムイオン、ホルムアミジニウムイオン、アセトアミジニウムイオン又はイミダゾリウムイオン等が挙げられる。
【0018】
2価のカチオンMにも特段の制限はないが、2価の金属カチオン又は半金属カチオンであることが好ましい。具体的な例としては周期表第14族元素のカチオンが挙げられ、より具体的な例としては、鉛カチオン(Pb2+)、スズカチオン(Sn2+)、ゲルマニウムカチオン(Ge2+)が挙げられる。また、カチオンMとして2種類以上のカチオンの組み合わせを用いることもできる。なお、安定な光電変換素子を得る観点からは、鉛カチオン又は鉛カチオンを含む2種以上のカチオンを用いることが特に好ましい。
【0019】
1価のアニオンXの例としては、ハロゲン化物イオン、酢酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、ホウ酸イオン、アセチルアセトナートイオン、炭酸イオン、クエン酸イオン、硫黄イオン、テルルイオン、チオシアン酸イオン、チタン酸イオン、ジルコン酸イオン、2,4-ペンタンジオナトイオン又はケイフッ素イオン等が挙げられる。バンドギャップを調整するためには、Xは1種類のアニオンであってもよいし、2種類以上のアニオンの組み合わせであってもよい。なかでも、Xとしてはハロゲン化物イオン、又はハロゲン化物イオンとその他のアニオンとの組み合わせを用いることが好ましい。ハロゲン化物イオンXの例としては、塩化物イオン、臭化物イオン又はヨウ化物イオン等が挙げられる。半導体のバンドギャップを広げすぎない観点から、ヨウ化物イオンを用いることが好ましい。
【0020】
ペロブスカイト半導体化合物の好ましい例としては、有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられ、特にハライド系有機-無機ペロブスカイト半導体化合物が挙げられる。ペロブスカイト半導体化合物の具体例としては、CH3NH3PbI3、CH3NH3PbBr3、CH3NH3PbCl3、CH3NH3SnI3、CH3NH3SnBr3、CH3NH3SnCl3、CH3NH3PbI(3-x)Clx、CH3NH3PbI(3-x)Brx、CH3NH3PbBr(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI3、CH3NH3Pb(1-y)SnyBr3、CH3NH3Pb(1-y)SnyCl3、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Clx、CH3NH3Pb(1-y)SnyI(3-x)Brx、及びCH3NH3Pb(1-y)SnyBr(3-x)Clx、並びに、上記の化合物においてCH3NH3の代わりにCFH2NH3、CF2HNH3、又はCF3NH3を用いたもの、等が挙げられる。なお、xは0以上3以下、yは0以上1以下の任意の値を示す。
【0021】
活性層103は、2種類以上のペロブスカイト半導体化合物を含有していてもよい。例えば、A、B及びXのうちの少なくとも1つが異なる2種類以上のペロブスカイト半導体化合物が活性層103に含まれていてもよい。また活性層103は、異なる材料を含み又は異なる成分を有する複数の層で形成される積層構造を有していてもよい。
【0022】
活性層103に含まれるペロブスカイト半導体化合物の量は、良好な半導体特性が得られるように、好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは70質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上である。上限に特に制限はない。また、活性層103には、ペロブスカイト半導体化合物に加えて添加剤が含まれていてもよい。添加剤の例としては、ハロゲン化物、酸化物、又は硫化物、硫酸塩、硝酸塩若しくはアンモニウム塩等の無機塩のような、無機化合物、又は有機化合物が挙げられる。
【0023】
活性層103の厚さに特段の制限はない。より多くの光を吸収できる点で、活性層103の厚さは、好ましくは10nm以上、さらに好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、特に好ましくは120nm以上である。一方で、直列抵抗が下がる点、又は電荷の取出し効率を高める点で、活性層103の厚さは、好ましくは1500nm以下、さらに好ましくは1000nm以下、より好ましくは600nm以下である。
【0024】
活性層103の形成方法は特に限定されず、任意の方法を用いることができる。具体例としては、塗布法及び蒸着法(又は共蒸着法)が挙げられる。簡易に活性層103を形成できる点で、塗布法を用いることは好ましい。例えば、有機無機ハイブリッド半導体材料又はその前駆体を含有する塗布液を塗布し、必要に応じて加熱乾燥することにより活性層103を形成する方法が挙げられる。また、このような塗布液を塗布した後で、有機無機ハイブリッド半導体材料の溶解性が低い溶媒をさらに塗布することにより、有機無機ハイブリッド半導体材料を析出させることもできる。
【0025】
有機無機ハイブリッド半導体材料の前駆体とは、塗布液を塗布した後に有機無機ハイブリッド半導体材料へと変換可能な材料のことを指す。具体的な例として、加熱することによりペロブスカイト半導体化合物へと変換可能なペロブスカイト半導体化合物前駆体を用いることができる。例えば、一般式AXで表される化合物と、一般式MX2で表される化合物と、溶媒と、を混合して加熱攪拌することにより、塗布液を作製することができる。この塗布液を塗布して加熱乾燥を行うことにより、一般式AMX3で表されるペロブスカイト半導体化合物を含有する活性層103を作製することができる。溶媒としては、ペロブスカイト半導体化合物及び添加剤が溶解するのであれば特に限定されず、例えばN,N-ジメチルホルムアミドのような有機溶媒が挙げられる。
【0026】
塗布液の塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0027】
[2.電極]
電極は、活性層103における光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有する。本発明の一実施形態に係る光電変換素子100は一対の電極を有し、一対の電極のうち一方を上部電極と呼び、他方を下部電極と呼ぶ。光電変換素子100が基材を有するか又は基材上に設けられている場合、基材により近い電極を下部電極と、基材からより遠い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶことができる。また、透明電極を下部電極と、下部電極よりも透明性が低い電極を上部電極と、それぞれ呼ぶこともできる。
図1に示す光電変換素子100は、下部電極101及び上部電極107を有している。
【0028】
一対の電極としては、正孔の捕集に適したアノードと、電子の捕集に適したカソードとを用いることができる。この場合、光電変換素子100は、下部電極101がアノードであり上部電極107がカソードである順型構成を有していてもよいし、下部電極101がカソードであり上部電極107がアノードである逆型構成を有していてもよい。
【0029】
一対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは、太陽光が40%以上透過することを指す。また、透明電極の太陽光線透過率は70%以上であることが、より多くの光が透明電極を透過して活性層103に到達するために好ましい。光の透過率は、分光光度計(例えば、日立ハイテク社製U-4100)で測定できる。
【0030】
下部電極101及び上部電極107、又はアノード及びカソードの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の部材及びその製造方法を使用することができる。
【0031】
[3.バッファ層]
バッファ層は、活性層103と一対の電極101,107の少なくとも一方との間に位置する層である。バッファ層は、例えば、活性層103から下部電極101又は上部電極107へのキャリア移動効率を向上させるために用いることができる。
【0032】
本発明の一実施形態において、バッファ層は式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有する。バッファ層が当該化合物を含有して形成されることにより、有機無機ハイブリッド型化合物を用いた光電変換素子の耐久性を向上させることができると考えられる。素子の耐久性が向上するメカニズムは明らかではないが、以下が考えられる。本発明者らの検討によると、有機無機ハイブリッド化合物は、水、さらには酸や塩基の影響を受けやすい傾向があり、そのため、従来、使用されていたPEDOT:PSSを含有したバッファ層では、高い耐久性が得られない傾向があることが判明した。しかしながら、式(I)で表される化合物は基R
1~R
4及びAr
1~Ar
4によらず、従来のPEDOT:PSSとは異なり、化学的に中性、弱酸性又は弱塩基性となることができ、さらには、吸湿性が極めて低い傾向がある。そのため、当該化合物を含有するバッファ層と有機無機ハイブリッド型化合物を含有する活性層との界面における水の影響又は酸塩基反応による活性層の劣化が進みにくくなると考えられる。この結果、有機無機ハイブリッド化合物を用いた光電変換素子の耐久性を向上させられるものと考えられる。
【化3-1】
【0033】
式(I)において、X1とX2との一方は置換基R2を有する窒素原子であり、他方は置換基Ar3を有する炭素原子である。式(I)において、破線で示されている2つの結合は、一方が単結合であり他方が二重結合であることを表す。より具体的には、置換基R2を有する窒素原子と置換基Ar4を有する炭素原子との間の結合は単結合であり、置換基Ar3を有する炭素原子と置換基Ar4を有する炭素原子との間の結合は二重結合である。
【0034】
ベンゾジピロール化合物の分子量は、本発明に係る光電変換素子の電極と活性層との間に層を形成できれば特に制約はなく、通常460以上、好ましくは500以上、より好ましくは600以上であって、通常5000以下、好ましくは4000以下、より好ましくは3000以下である。層の形成を蒸着で行う場合には2000以下が好ましい。
【0035】
式(I)において、R1及びR2はそれぞれ独立して水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基の例としては、アシル基;炭素数1~30の炭化水素基;炭素数1~30の複素環基等が挙げられる。
【0036】
炭素数1~30の炭化水素基としては、炭素数1~30の脂肪族炭化水素基又は炭素数1~30の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0037】
炭素数1~30の脂肪族炭化水素基は、飽和脂肪族炭化水素基であってもよいし、不飽和脂肪族炭化水素基であってもよい。また、直鎖状の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖状の炭化水素基であってもよいし、環状の炭化水素基であってもよい。炭素数1~30の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~30のアルキル基、炭素数2~30のアルケニル基、炭素数2~30のアルキニル基、又は炭素数4~30のアルカジエニル基等が挙げられる。
【0038】
炭素数1~30のアルキル基としては、炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~6のアルキル基であることがさらに好ましい。アルキル基の例としては、制限するわけではないが、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、又はドデカニル基等を挙げることができる。アルキル基の別の例としては、ベンジル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0039】
炭素数2~30のアルケニル基としては、炭素数2~10のアルケニル基であることが好ましく、炭素数2~6のアルケニル基であることがさらに好ましい。アルケニル基の例としては、制限するわけではないが、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチルアリル基、又は2-ブテニル等を挙げることができる。
【0040】
炭素数2~30のアルキニル基としては、炭素数2~10のアルキニル基であることが好ましく、炭素数2~6のアルキニル基であることがさらに好ましい。アルキニル基の例としては、制限するわけではないが、エチニル基、プロピニル基、又はブチニル基等を挙げることができる。
【0041】
炭素数4~30のアルカジエニル基は、炭素数4~10のアルカジエニル基であることが好ましく、炭素数4~6のアルカジエニル基であることがさらに好ましい。アルカジエニル基の例としては、制限するわけではないが、1,3-ブタジエニル基等を挙げることができる。
【0042】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6~30のものが好ましく、炭素数6~20のものがより好ましい。芳香族炭化水素基の例としては、フェニル基等の単環芳香族炭化水素基;2-ビフェニリル基、3-ビフェニリル基、若しくは4-ビフェニリル基等の環連結芳香族炭化水素素基;ナフチル基(1-ナフチル基若しくは2-ナフチル基)、アントリル基(2-アントリル基若しくは9-アントリル基等)、又はフルオレニル基等の芳香族縮合環基;又はメチルフェニル基等のアルキルアリール基等が挙げられる。
【0043】
炭素数1~30の複素環基としては、炭素数1~30の脂肪族複素環基又は炭素数1~30の芳香族複素環基等が挙げられる。
【0044】
炭素数1~30の脂肪族複素環基は、なかでも、炭素数2~30の脂肪族複素環基が好ましく、炭素数2~20の脂肪族複素環基がさらに好ましい。テトラヒドロチエニル基若しくはピペリジニル基、又はこれらにさらにアルキル基が結合しているものが挙げられる。
【0045】
炭素数1~30の芳香族複素環基としては、単環芳香族複素環基、環連結芳香族複素環基、及び縮合芳香族複素環基が挙げられる。
【0046】
単環芳香族複素環基としては、炭素数2~30のものが好ましく、炭素数2~20のものがより好ましい。単環芳香族複素環基の好ましい例としては、炭素原子以外に1~4個のヘテロ原子を環を構成する原子として有する、5~14員環、さらに好ましくは5~10員環、より好ましくは5又は6員環の単環芳香族複素環基が挙げられる。ヘテロ原子の例としては、例えば窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられ、単環芳香族複素環基は環を構成する原子として1種又は2種のヘテロ原子を含むことが好ましい。
【0047】
単環芳香族複素環基の具体的な例としては、チエニル基(2-チエニル基若しくは3-チエニル基)、フリル基(2-フリル基若しくは3-フリル基)、ピリジル基(2-ピリジル基、3-ピリジル基、若しくは4-ピリジル基)、チアゾリル基(2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、若しくは5-チアゾリル基)、オキサゾリル基(2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、若しくは5-オキサゾリル基)、ピラジニル基、ピリミジニル基(2-ピリミジニル基、4-ピリミジニル基、若しくは5-ピリミジニル基)、ピロリル基(1-ピロリル基、2-ピロリル基、若しくは3-ピロリル基)、イミダゾリル基(1-イミダゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、若しくは5-イミダゾリル基)、ピラゾリル基(1-ピラゾリル基、3-ピラゾリル基、若しくは4-ピラゾリル基)、ピリダジニル基(3-ピリダジニル基若しくは4-ピリダジニル基)、イソチアゾリル基(3-イソチアゾリル基等)、イソオキサゾリル基(3-イソオキサゾリル基等)、イミダゾリル基、又はこれらにさらにアルキル基が結合していているもの、等が挙げられる。
【0048】
縮合芳香族複素環基としては、炭素数4~30のものが好ましく、炭素数4~20のものがより好ましい。縮合芳香族複素環基の好ましい例としては、炭素原子以外に1~4個のヘテロ原子を環を構成する原子として有する、8~20員環、さらに好ましくは9~14員環の、2環又は3環式の芳香族複素環基が挙げられる。縮合芳香族複素環基の別の好ましい例としては、炭素原子以外に1~4個のヘテロ原子を含む5~14員(好ましくは5~10員)の7~10員芳香族複素架橋環から任意の1個の水素原子を除いてできる1価の基が用いられる。ヘテロ原子の例としては、例えば窒素原子、硫黄原子及び酸素原子が挙げられ、縮合芳香族複素環基は環を構成する原子として1種又は2種のヘテロ原子を含むことが好ましい。
【0049】
縮合芳香族複素環基の具体的な例としては、キノリル基(2-キノリル基、3-キノリル基、4-キノリル基、5-キノリル基、若しくは8-キノリル基等)、イソキノリル基(1-イソキノリル基、3-イソキノリル基、4-イソキノリル基、若しくは5-イソキノリル基等)、インドリル基(1-インドリル基、2-インドリル基、若しくは3-インドリル基等)、2-ベンゾチアゾリル基、ベンゾ[b]チエニル基(2-ベンゾ[b]チエニル基若しくは3-ベンゾ[b]チエニル基等)、ベンゾ[b]フラニル基(2-ベンゾ[b]フラニル基若しくは3-ベンゾ[b]フラニル基等)、又はこれらにさらにアルキル基が結合していているもの、等が挙げられる。
【0050】
環連結芳香族複素環基としては、炭素数4~30のものが好ましく、炭素数4~20のものがより好ましい。環連結芳香族複素環基の例としては、上述した単環芳香族複素環基、縮合芳香族複素環基、及び芳香族炭化水素基のうちの少なくとも1つが互いに結合したものが挙げられる。
【0051】
R1及びR2によりベンゾジピロール化合物の酸化電位を調整することができる。酸化電位を低くするためには電子供与性基を、酸化電位を高くするためには電子受容性基を選択すればよい。また、R1及びR2として対応する溶媒に親和性のあるものを選択することにより、ベンゾジピロール化合物の溶解性を向上できる。
【0052】
以上例示した1価の有機基は、さらなる置換基を有していてもよい。さらなる置換基としては、水酸基;フッ素原子若しくは塩素原子等のハロゲン原子;メチル基若しくはエチル基等の炭素数1~6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基若しくはエトキシカルボニル基等の炭素数1~6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基若しくはエトキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;フェノキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基等のアリールアルキルオキシ基;ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基、ジベンジルアミノ基、若しくはジフェネチルアミノ基等のジアルキルアミノ基;ジフェニルアミノ基若しくはカルバゾリル基等のジアリールアミノ基;アセチル基等のアシル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;シアノ基;ニトロ基;メチレンジオキシ基若しくはエチレンジオキシ等の炭素数1~3のアルキレンジオキシ基;イオン性の置換基;等が挙げられる。
【0053】
イオン性の置換基としては、酸性置換基若しくはその塩、又は4級アンモニウム基が挙げられる。酸性置換基の例としては、スルホン酸基(スルホ基)及びスルフィン酸基(スルフィノ基)を含む硫黄酸基;(狭義の)リン酸基、リン酸エステル基、亜リン酸基、及び亜リン酸エステル基を含むリン酸基;又はカルボキシル基等が挙げられる。酸性置換基の塩とは、酸性置換基が有する水素イオンを他の陽イオンで置換して得られる置換基を指し、具体的には、上述の酸性置換基の水素原子が、ナトリウム若しくはカリウムのようなアルカリ金属、又はカルシウム若しくはマグネシウムのようなアルカリ土類金属で置換されたものが挙げられる。4級アンモニウム基として好ましくは、炭素数1~6のアルキル基を3つ有するアンモニウム基が挙げられる。
【0054】
なかでもR1及びR2は、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1~30の脂肪族基、又は置換基を有していてもよい芳香族基であることが好ましい。これらの基が有していてもよい置換基としては、1価の有機基が有するさらなる置換基として上述したものが挙げられる。
【0055】
R1及びR2のより好ましい例としては、置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。R1及びR2としてさらに好ましくは置換基を有していてもよい炭素数1~12のアルキル基であり、特に好ましくは置換基を有していてもよい炭素数2~12のアルキル基である。また、これらのアルキル基は、直鎖のアルキル基であることが好ましいが、分岐鎖アルキル基であってもよい。R1及びR2がアルキル基であることは、キャリアの輸送性能が向上しうる点で好ましい。
【0056】
アルキル基が有する置換基として好ましくは、イオン性の置換基である。R1及びR2がイオン性の置換基を有することはさらにキャリア輸送効率が向上しうる点で好ましい。また、R1及びR2がイオン性の置換基を有することは、水、アルコール、アセトン等に代表される極性溶媒への溶解性が向上し、極性溶媒を用いた塗布成膜性が高くなる点でも好ましい。これらの置換基は、アルキル基の末端炭素原子に結合していてもよいし、中間の炭素原子に結合していてもよい。
【0057】
式(I)において、R3及びR4はそれぞれ独立に水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基の例としては、R1及びR2の例として挙げたものの他に、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、又はペンチルオキシ基等の、置換基を有していてもよい炭素数1~30のアルコキシ基;ベンジルオキシ基等のアリールアルキルオキシ基;水酸基;フッ素原子若しくは塩素原子等のハロゲン原子;メトキシカルボニル基若しくはエトキシカルボニル基等の炭素数1~30のアルコキシカルボニル基;又はフェノキシ基等のアリールオキシ基等が挙げられる。
【0058】
R3及びR4は、分子間の相互作用が向上する傾向がある点で、水素原子又は炭素数1~25の有機基であることが好ましく、炭素数1~20の有機基であることがより好ましい。
【0059】
なかでも、R3及び/又はR4が、芳香族基などのπ共役電子を有する置換基、またはアルキル基などの分子間のパッキングを制御できる置換基であると、薄膜としての非晶質性を高めることができ、薄膜形成能力を向上させることもできる。
【0060】
一方、R3及び/又はR4が水素原子の場合、化合物(I)の立体障害が小さくなり、主骨格の平面性が損なわれないために、分子間のπ-π相互作用が強固となり、電荷移動度が向上し得る。
【0061】
従って、R3及びR4のより好ましい例としては、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数2~20の芳香族基、又は置換基を有していてもよい炭素数1~20のアルキル基が挙げられる。
【0062】
式(I)においてAr1~Ar4は、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい芳香族基を表す。Ar1~Ar4の具体的な例としては、R1及びR2について芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基の例として挙げたものがある。
【0063】
Ar1~Ar4を選択することで、膜としての非晶質性を高めることに加えて、ガラス転移温度の制御による膜の耐熱性向上が期待される。非晶質性を高めるためには、π共役電子を有する置換基、具体的には、ベンゼン環基、ビフェニル基、ナフチル基等の芳香族基が好ましく、ガラス転移温度を上げるためには,フェナントリル基、カルバゾリル基等が好ましい。
【0064】
なかでも、Ar1~Ar4はそれぞれ独立に、置換基を有していてもよい炭素数5~20の芳香族基であることが好ましく、電子吸引基を置換基として有していてもよい炭素数6~20の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。特に好ましい例においては、Ar1~Ar4のうちの少なくとも1つは電子吸引基を置換基として有する炭素数6~20の芳香族炭化水素基であるか、又はAr1~Ar4がそれぞれ独立に電子吸引基を置換基として有する炭素数6~20の芳香族炭化水素基である。Ar1~Ar4が電子吸引基を置換基として有する炭素数6~20の芳香族炭化水素基であることは、キャリア輸送性能が向上しうる点で好ましい。電子吸引基としては、フッ素原子若しくは塩素原子のようなハロゲン原子、シアノ基、アシル基、ニトロ基、又はハロアルキル基等が挙げられる。なかでも、電子吸引基がハロゲン原子の場合、化合物の安定性が向上するために、得られる光電変換素子の耐久性も向上するために好ましく、なかでも、フッ素原子が特に好ましい。
【0065】
X1、X2、Ar1~Ar4及びR1~R4は、上記に列挙した基から好ましい基を任意に選択すれば良いが、合成のしやすさの観点から、式(I)で表される化合物は、ベンゼン環を中心として点対称構造であることが好ましい。すなわち、X1が置換基Ar3を有する炭素原子であり、X2が置換基R2を有する窒素原子であることが好ましい。また、この場合、Ar1はAr4と同じ基であり、Ar2はAr3と同じ基であり、R1はR2と同じ基であり、R3はR4と同じ基であることが好ましい。
【0066】
以下に、ベンゾジピロール化合物の具体例を挙げるが、用いられるベンゾジピロール化合物がこれらに限定されるわけではない。また、以下に記載の化合物のそれぞれの構造を組み合わせて得られる構造のベンゾジピロール化合物を用いることもできる。
【0067】
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
ベンゾジピロール化合物の合成方法は特に限定されないが、例えば、以下の反応式に従って合成することができる。下式の出発化合物は公知の方法に従って合成することができる。例えば、D.A.Kinsley,S.G.P.Plants.J.Chem.Soc.,1958,1-7に記載された方法によって合成できる。あるいは、下式の出発化合物は、対応するジアミノベンゼン誘導体とアルキニル化合物とのカップリング反応によって合成することができる。なお、下記の反応式において、R1~R4、及びAr1~Ar4は、それぞれ、上記式(I)中のR1~R4、及びAr1~Ar4と同義である。
【0073】
【0074】
上述のように、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間にバッファ層102を有することができ、又は、上部電極107と活性層103との間にバッファ層105を有することができる。また、光電変換素子100は、バッファ層102とバッファ層105との双方を有することもできる。ここで、下部電極101と活性層103との間に設けられるバッファ層102と、上部電極107と活性層103との間に設けられるバッファ層105とは、異なる材料で構成されていてもよい。すなわち、一方のバッファ層が式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有する層である一方、他方のバッファ層は式(I)で表されるベンゾジピロール化合物以外の化合物で構成される層であってもよい。なお、上述の通り、式(I)で表される化合物を含有する層は、下部電極101と活性層103との間に位置していてもよいし、活性層103と上部電極107との間に位置していてもよい。但し、式(I)で表される化合物を含有する層を塗布法により成膜する際には、塗布溶媒が活性層103を浸漬して、活性層103に影響を及ぼす可能性があるため、式(I)で表される化合物を含有する層は、下部電極101と、活性層103との間に位置していることが好ましい。
【0075】
アノードと活性層との間に設けられたバッファ層は正孔取り出し層と呼ばれることがあり、カソードと活性層との間に設けられたバッファ層は電子取り出し層と呼ばれることがある。一実施形態において、正孔取り出し層は式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有する層である。
【0076】
式(I)で表されるベンゾジピロール化合物以外の化合物で構成されるバッファ層に関しては、材料に特に限定はない。例えば、正孔取り出し層については、活性層からアノードへの正孔の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化鉄、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物が挙げられる。また、有機化合物としては、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミン又はポリアニリン等にドーパントがドーピングされた導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、ナフィオン、又はリチウムドーピングされたspiro-OMeTADが挙げられる。
【0077】
同様に、電子取り出し層についても、活性層からカソードへの電子の取り出し効率を向上させることが可能な任意の材料を用いることができる。具体的には、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の無機化合物、有機化合物、又は本発明に係る有機無機ペロブスカイト化合物が挙げられる。例えば、無機化合物としては、リチウム、ナトリウム、カリウム又はセシウム等のアルカリ金属の塩、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム又は酸化インジウム等の金属酸化物が挙げられる。有機化合物としては、バソキュプロイン(BCP)、バソフェナントレン(Bphen)、(8-ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)、ホウ素化合物、オキサジアゾール化合物、ベンゾイミダゾール化合物、ナフタレンテトラカルボン酸無水物(NTCDA)、ペリレンテトラカルボン酸無水物(PTCDA)、フラーレン化合物、又はホスフィンオキシド化合物若しくはホスフィンスルフィド化合物等の周期表第16族元素と二重結合を有するホスフィン化合物が挙げられる。
【0078】
バッファ層の膜厚に特に限定はないが、好ましくは0.5nm以上、さらに好ましくは1nm以上、より好ましくは5nm以上である、一方、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、特に好ましくは100nm以下である。バッファ層の膜厚が上記の範囲内にあることで、キャリアの移動効率が向上しやすくなり、光電変換効率が向上しうる。
【0079】
バッファ層の形成方法に制限はなく、材料の特性に合わせて形成方法を選択することができる。例えば、材料と溶媒を含有する塗布液を作製し、スピンコート法やインクジェット法等の湿式成膜法を用いることにより、バッファ層を形成することができる。この場合、溶媒としては、活性層103の形成方法の説明において挙げた溶媒を用いることができる。また、真空蒸着法等の乾式成膜法により、バッファ層を形成することもできる。
【0080】
[4.基材]
光電変換素子100は、通常は支持体となる基材108を有する。もっとも、本発明に係る光電変換素子は基材108を有さなくてもよい。基材108の材料は、本発明の効果を著しく損なわない限り特に限定されず、例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の材料を使用することができる。
【0081】
[5.その他の層]
光電変換素子100は、その他の層を有していてもよい。例えば、光電変換素子100は、電極の仕事関数を調整する仕事関数チューニング層を、下部電極101とバッファ層102との間、又は上部電極107とバッファ層105との間に有していてもよい。また、光電変換素子100は、下部電極101と活性層103との間、又は上部電極107と活性層103との間に、水分等が活性層103に到達することを抑制する薄い絶縁体層を有していてもよい。もっとも、一実施形態において、式(I)で表されるベンゾジピロール化合物は堅牢な分子骨格を有しキャリア輸送性能が高いため、活性層103と下部電極101との間に式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有するバッファ層が存在する場合、光電変換素子100は活性層103と下部電極101との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、光電変換素子100は活性層103と下部電極101との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。また、活性層103と上部電極107との間に式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有するバッファ層が存在する場合にも、光電変換素子100は活性層103と上部電極107との間に仕事関数チューニング層又は絶縁体層を有さなくてもよいし、光電変換素子100は活性層103と上部電極107との間にバッファ層以外の層を有さなくてもよい。
【0082】
[6.光電変換素子の作製方法]
上述の方法に従って、光電変換素子100を構成する各層を形成することにより、光電変換素子100を作製することができる。光電変換素子100を構成する各層の形成方法に特段の制限はなく、シートツゥーシート(万葉)方式、又はロールツゥーロール方式で形成することができる。
【0083】
なお、ロールツゥーロール方式とは、ロール状に巻かれたフレキシブルな基材を繰り出して、間欠的、或いは連続的に搬送しながら、巻き取りロールにより巻き取られるまでの間に加工を行う方式である。ロールツゥーロール方式によれば、kmオーダの長尺基板を一括処理することが可能であるため、ロールツゥーロール方式はシートツゥーシート方式に比べて量産化に適している。一方、ロールツゥーロール方式で各層を成膜しようとすると、その構造上、成膜面とロールとが接触することにより膜に傷がついたり、部分的に剥がれてしまったりする場合がある。
【0084】
ロールツゥーロール方式に用いることのできるロールの大きさは、ロールツゥーロール方式の製造装置で扱える限り特に限定されないが、外径の上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは1m以下である。一方、下限は好ましくは10cm以上、さらに好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。ロール芯の外径の上限は、好ましくは4m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは0.5m以下である。一方、下限は好ましくは1cm以上、さらに好ましくは3cm以上、より好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、特に好ましくは20cm以上である。これらの径が上記上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは各工程で成膜される層が曲げ応力により破壊される可能性が低くなる点で好ましい。ロールの幅の下限は、好ましくは5cm以上、さらに好ましくは10cm以上、より好ましくは20cm以上である。一方、上限は、好ましくは5m以下、さらに好ましくは3m以下、より好ましくは2m以下である。幅が上限以下であることはロールの取り扱い性が高い点で好ましく、下限以上であることは光電変換素子100の大きさの自由度が高くなるため好ましい。
【0085】
また、上部電極107を積層した後に、光電変換素子100を好ましくは50℃以上、さらに好ましくは80℃以上、一方、好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。アニーリング処理工程を50℃以上の温度で行うことは、光電変換素子100の各層間の密着性、例えばバッファ層102と下部電極101、バッファ層102活性層103等の層間の密着性が向上する効果が得られるため、好ましい。各層間の密着性が向上することにより、光電変換素子の熱安定性や耐久性等が向上しうる。アニーリング処理工程の温度を300℃以下にすることは、光電変換素子100に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。アニーリング処理工程においては、上記の温度範囲内において異なる温度を用いた段階的な加熱を行ってもよい。
【0086】
加熱時間としては、熱分解を抑えながら密着性を向上させるために、好ましくは1分以上、さらに好ましくは3分以上、一方、好ましくは180分以下、さらに好ましくは60分以下である。アニーリング処理工程は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、アニーリング処理工程は、構成材料の熱酸化を防ぐ上でも、常圧下、かつ不活性ガス雰囲気中で実施することが好ましい。加熱方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気中に光電変換素子を入れてもよい。また、加熱はバッチ式で行っても連続方式で行ってもよい。
【0087】
[7.光電変換特性]
光電変換素子100の光電変換特性は次のようにして求めることができる。光電変換素子100にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cm2で照射して、電流-電圧特性を測定する。得られた電流-電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、フィルファクター(FF)、直列抵抗、シャント抵抗といった光電変換特性を求めることができる。
【0088】
光電変換素子100の光電変換効率は、特段の制限はないが、好ましくは1%以上、さらに好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。また、光電変換素子100のフィルファクターは、特段の制限はないが、好ましくは0.6以上、さらに好ましくは0.7以上、より好ましくは0.9以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0089】
また、光電変換素子を実用化するには、製造が簡便かつ安価であること以外に、高い光電変換効率及び高い耐久性を有することが重要である。この観点から、光電変換素子100を1週間大気暴露する前後での光電変換効率の耐久性は、60%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、高ければ高いほどよい。光電変換効率の耐久性は、光電変換素子100を大気暴露する前後での光電変換効率に基づいて、以下のように算出することができる。
耐久性(%)=((所定時間大気暴露した後の光電変換効率)/(大気暴露直前の光電変換効率))×100
【0090】
同様の観点から、光電変換素子100の活性層103が大気に対して封止されていない状態、又は大気に対する封止が破綻している状態において、光電変換素子100を1週間暗所中で大気暴露する前後での光電変換効率の耐久性は、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上がさらに好ましく、95%以上が特に好ましい。
【0091】
[8.太陽電池]
本発明に係る光電変換素子100は、太陽電池、なかでも薄膜太陽電池の太陽電池素子として使用されることが好ましい。
図2は本発明の一実施形態に係る太陽電池の構成を模式的に表す断面図であり、
図2には本発明の一実施形態に係る太陽電池である薄膜太陽電池が示されている。
図2に表すように、本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10と、をこの順に備える。本実施形態に係る薄膜太陽電池14は、太陽電池素子6として、本発明に係る光電変換素子を有している。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(
図2中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、薄膜太陽電池14は、これらの構成部材を全て有する必要はなく、必要な構成部材を任意に選択することができる。
【0092】
薄膜太陽電池を構成するこれらの構成部材及びその製造方法について特段の制限はなく、周知技術を用いることができる。例えば、国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等の公知文献に記載の技術を使用することができる。
【0093】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく、任意の用途に用いることができる。例えば、一実施形態に係る太陽電池は、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池として用いることができる。
【0094】
本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14はそのまま用いてもよいし、太陽電池モジュールの構成要素として用いられてもよい。例えば、
図3に示すように、本発明に係る太陽電池、特には上述した薄膜太陽電池14を基材12上に備える太陽電池モジュール13を作製し、この太陽電池モジュール13を使用場所に設置して用いることができる。基材12としては周知技術を用いることができ、例えば、基材12の材料としては国際公開第2013/171517号、国際公開第2013/180230号又は特開2012-191194号公報等に記載の材料を用いることができる。例えば、基材12として建材用板材を使用する場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けることにより、太陽電池モジュール13として、建物の外壁用太陽電池パネルを作製することができる。
【実施例】
【0095】
以下に、実施例により本発明の実施形態を説明する。しかしながら、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例には限定されない。
【0096】
[合成例1:ベンゾジピロール化合物3F-BDP(E1)の合成]
【化4-1】
【0097】
Shenらによって報告されている手法(Shen,M.;Li,G.;Lu,B.Z.;Hossain,A.;Roschangar,F.;Farina,V.;Senanayake,C.H.Org.Lett.2004,6,4129-4132.)に倣い、2,5-ジクロロ-1,4-フェニレンジアミン(1.77g,10mmol)、Park,K.;Bae,G.;Moon,J.;Choe,J.;Song,K.H.;Lee,S.J.Org.Chem.2010,75,6244-6251.に記載された方法に従って合成したビス(3-フルオロフェニル)アセチレン(4.95g,23mmol)、パラジウム(II)アセテート(229mg,0.10mmol)、トリシクロヘキシルホスフィン(570mg,0.20mmol)、炭酸カリウム(6.98g,5.0mmol)を、N-メチルピロリドン(100mL)中で、130℃、19時間反応させた。その後、N-メチルピロリドンを減圧下で除去し、残渣をシリカゲル(展開溶媒:酢酸エチル)ショートカラムに通じ、さらにシリカゲルカラム(展開溶媒:ヘキサン/ジクロロメタン=1/1)により処理して、黄色個体である3F-BDPを得た(580mg,11%)。
【0098】
3F-BDP:
1H NMR(500MHz,DMSO-d6)δ:11.31(s,2H,NH),7.51-7.49(m,2H,ArH),7.42(q,J=7.3Hz,6H,ArH),7.14-7.28(m,12H,ArH).
13C NMR(125MHz,DMSO-d6)δ:163.46,163.06,161.52,161.13,138.07,138.01,134.68,134.61,133.95,133.73,130.77,130.70,130.62,126.78,125.96,124.21,116.21,116.05,114.59,114.46,114.42,114.29,113.10,112.94,111.71,98.40.
19F NMR(470MHz,DMSO-d6)δ:-115.32,-115.69.
HRMS(APCI+)m/z Calcd. for C42H21F4N2([M+H]+):533.1641;Found:533.1619.
【0099】
上述の方法により得られた3F-BDPを基に、以下の方法によりベンゾジピロール化合物3F-BDPSO-BNa(E1)を合成した。
【化4-2】
【0100】
3F-BDP(534mg,1.0mmol)と水素化ナトリウム(60%分散液、173mg,4.3mmol)の混合物をテトラヒドロフラン(20mL)中、室温で3時間撹拌し、2,4-ブタンスルフォネート(435mg,3.2mmol)を添加し、反応混合物を75℃で13時間撹拌した。室温に放冷し、メタノールを添加して未反応の水素化ナトリウムを失活させた。固形分を濾過し、テトラヒドロフランで洗浄した。残渣をメタノ-ル中で超音波洗浄することで、淡黄色固体である化合物3F-BDPSO-BNa(E1)(600mg,70%)を得た。
【0101】
3F-BDPSO-BNa(E1):
1H NMR(500MHz,DMSO-d6)δ:7.81(s,2H,ArH),7.52(q,J=7.4Hz,2H,ArH),7.37(q,J=7.4Hz,2H,ArH),7.32-7.23(m,8H,ArH),7.01-6.97(m,4H,ArH),4.26-4.20(m,4H,NCH2),2.24-2.22(m,2H,CH2CH),2.10-2.08(m,2H,CH2CH),1.50-1.47(m,2H,CH),0.90(d,J=6.9Hz,6H,CH3).
13C NMR(125MHz,DMSO-d6)δ:163.10,162.90,161.17,160.96,137.47,137.41,137.25,134.01,133.90,130.75,130.68,130.37,130.29,127.26,125.52,124.50,117.72,117.55,115.56,115.39,112.52,112.22,112.06,98.30,51.55,41.65,32.15,15.47,15.45.
19F NMR(470MHz,DMSO-d6)δ:-115.07,-115.94.
HRMS(ESI-)m/z Calcd. for C42H34F4N2NaO6S2([M-Na]-):825.1692;Found:825.1681.
【0102】
[実施例1]
(活性層塗布液の調製)
モル比が1:1となるようにヨウ化鉛(II)(1014mg)及びヨウ化メチルアンモニウム(CH3NH3I,350mg)をバイアルに量りとり、N,N-ジメチルホルムアミド(2mL)を加えた。次に、得られた混合液を70℃で1時間加熱撹拌した。その後、得られた溶液をポリテトラフルオロエチレン(PTFE)フィルター(孔径0.2μm)で濾過することにより、活性層塗布液を作製した。
【0103】
(光電変換素子の作製)
パターニングされた酸化インジウムスズ(ITO)透明導電膜を備えるガラス基板(ジオマテック社製)に対して、洗浄剤(横浜油脂工業社製、精密ガラス基板用洗浄剤セミクリーンM-LO,15mL)を用いた超音波洗浄、超純水を用いた超音波洗浄、窒素ブローによる乾燥、及びUV-オゾン処理を行った。
【0104】
次に、合成例1により得られたベンゾジピロール化合物E1(8.0mg)をアセトン:水=1:1(重量比)の混合溶媒2mLに溶解させ、オートバイアル(孔径0.45μm)でろ過することにより、正孔取出し層用塗布液1を調製した。この正孔取出し層用塗布液1を、室温で、上記ガラス基板上に3000rpmの速度でスピンコートすることにより、厚さ約10nmの正孔取り出し層を形成した。得られた基板を120℃で20分間加熱した。
【0105】
次に、正孔取り出し層が形成された基板をグローブボックスに導入し、窒素雰囲気下100℃で10分間加熱処理した。冷却後、上記のように調製された活性層塗布液(160μL)を4000rpmの速度で基板上にスピンコートし、約8秒後にクロロベンゼン(320μL)をさらにスピンコートすることで塗布液膜中の溶媒組成を変更してペロブスカイト組成の結晶を析出させた。さらに、ホットプレート上100℃で10分間加熱して結晶を成長させることにより、厚さ約350nmの活性層(ペロブスカイト結晶層)を形成した。
【0106】
次に、活性層上に、フラーレンC60(フロンティアカーボン社製)を30nm、続いてバソクプロイン(BCP)(シグマ-アルドリッチ社製)を15nm、それぞれ抵抗加熱型真空蒸着法によって成膜し、電子取り出し層を形成した。
【0107】
次に、電子取り出し層上に、抵抗加熱型真空蒸着法によりパターニングマスクを用いて厚さ約100nmの銀膜を蒸着させ、電極を形成した。以上のようにして、光電変換素子を作製した。
【0108】
[比較例1]
正孔取出し層用塗布液1の代わりに、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホン酸)分散液(PEDOT:PSS、ヘレウス社製AI4083)を用い、基板の加熱条件を120℃、30分として、厚さ35nmの正孔取り出し層を形成したことを除き、実施例1と同様の方法により光電変換素子を作製した。
【0109】
[光電変換素子の評価]
実施例1及び比較例1で得られた光電変換素子に1mm角のメタルマスクを付け、ITO電極と銀電極との間における電流-電圧特性を測定した。測定にはソースメーター(ケイスレー社製,2400型)を用い、照射光源としてはエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cm2のソーラシミュレータを用いた。この測定結果から、開放電圧Voc(V)、短絡電流密度Jsc(mA/cm2)、形状因子FF、及び光電変換効率PCE(%)を算出した。光電変換素子を作製した直後の測定結果に基づいて算出されたこれらの値を表1に示す。
【0110】
【0111】
ここで、開放電圧Vocとは電流値=0(mA/cm2)の際の電圧値であり、短絡電流密度Jscとは電圧値=0(V)の際の電流密度である。形状因子FFとは内部抵抗を表すファクターであり、最大出力をPmaxとすると次式で表される。
FF = Pmax/(Voc×Jsc)
また、光電変換効率PCEは、入射エネルギーをPinとすると次式で与えられる。
PCE = (Pmax/Pin)×100
= (Voc×Jsc×FF/Pin)×100
【0112】
また、得られた光電変換素子を封止することなく室温下で暗所に保管しながら、1日(24時間)ごとに同様の方法で電流-電圧特性を測定して光電変換効率PCEを算出した。それぞれの光電変換素子について、作製直後のPCE値が1.00となるように規格化された、各時点におけるPCE値の推移を表2に示す。
【0113】
【0114】
表2に示すように、式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有する正孔取り出し層を備える実施例1に係る光電変換素子は、封止せずに保管した場合でさえ光電変換効率PCEの経時低下が極めて小さいことが見出された。このように、式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含む正孔取り出し層は、光電変換素子の経時劣化を抑え、耐久性に優れた光電変換素子を得るために有用であることが見出された。また、実施例1に係る光電変換素子は、比較例1に係る光電変換素子よりも高い光電変換効率が得られた。
【0115】
一方、比較例1に係る光電変換素子は、時間とともに光電変換効率PCEが急速に低下した。これは、活性層が劣化したことが理由の1つと考えられる。すなわち、有機無機ハイブリッド型半導体化合物は水により劣化する傾向があるが、正孔取り出し層に含まれるPEDOT:PSS層はバリア性が低く、むしろ吸湿性を有するために、水による活性層の劣化が進みやすいものと考えられる。また、正孔取り出し層に含まれるPEDOT:PSSは強酸性であるため、正孔取り出し層が吸湿するとともに活性層と正孔取り出し層との界面において酸塩基反応が進行し、有機無機ハイブリッド型半導体化合物の分解が進みやすいものと考えられる。
【0116】
これに比べ、式(I)で表されるベンゾジピロール化合物は化学的に堅牢な分子骨格を有している。このために、式(I)で表されるベンゾジピロール化合物を含有する正孔取り出し層は単独で安定になり、かつ有機無機ハイブリッド型半導体化合物を含有する活性層を防護するように働くことができると考えられる。また、実施例1で用いたベンゾジピロール化合物は中性であり吸湿性が極めて低いため、正孔取り出し層と有機無機ハイブリッド型化合物を含有する活性層との界面における水の影響又は酸塩基反応による活性層の劣化が進みにくくなるものと考えられる。
【符号の説明】
【0117】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
100 光電変換素子
101 下部電極
102 バッファ層
103 活性層
105 バッファ層
107 上部電極
108 基材