(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】モードフィールド径測定装置および測定方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/02 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
G01M11/02 P
G01M11/02 N
(21)【出願番号】P 2021006932
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】中村 篤志
(72)【発明者】
【氏名】古敷谷 優介
(72)【発明者】
【氏名】本田 奈月
(72)【発明者】
【氏名】大橋 正治
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-96880(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0274906(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00 - G01M 11/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバにおける測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射部と、
開口部の中心が前記光ファイバの他端の中心軸上となるように配置され、前記他端の中心軸に対する開口角が可変であり、前記開口部を通過する前記他端からの出力光の光強度を測定する光強度測定部と、
前記試験光入射部で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、前記光強度測定部が測定した前記光強度の前記開口角に対する依存性と、を用いて前記試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出部と、
を備えることを特徴とするモードフィールド径測定装置。
【請求項2】
前記光ファイバは、複数のコアを有しており、
前記光強度測定部は、
前記光ファイバの中心と前記測定対象のコアの中心との距離を用いて、前記他端と前記可変開口間の距離に応じて変化する前記モードフィールド径が、所定の値に収束したとみなせる前記他端と前記可変開口間の距離を算出し、
前記他端から、算出した前記距離以上離れた位置に、かつ、前記開口部の中心が前記他端の中心軸上となるように前記可変開口を設置する
ことを特徴とする請求項1に記載のモードフィールド径測定装置。
【請求項3】
前記光強度測定部は、数C1を用いて前記他端と前記可変開口間の距離を算出する
ことを特徴とする請求項2に記載のモードフィールド径測定装置。
【数C1】
ただし、zは前記他端と前記可変開口間の距離、λは前記試験光の波長、dは前記光ファイバの中心と測定対象のコアの中心との距離、w
01はLP
01モードの近視野におけるモードフィールド半径を表す。
【請求項4】
前記モードフィールド径算出部は、数C2を用いてモードフィールド径を算出する
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のモードフィールド径測定装置。
【数C2】
ただし、MFDはモードフィールド径、νおよびμは前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数、θは前記光ファイバの中心軸からの前記可変開口の開口角、P
νμ(θ)は前記可変開口の開口角がθの場合に測定される光強度、θ
maxは最大の開口角を表す。
【請求項5】
光ファイバにおける測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射手順と、
中心が前記光ファイバの他端の中心軸上となるように設置された開口部の前記他端の中心軸に対する開口角を変化させながら、前記開口部を通過する前記他端からの出力光の光強度を測定する光強度測定手順と、
前記試験光入射手順で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、前記光強度測定手順で測定した前記光強度の前記開口角に対する依存性と、を用いて前記試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出手順と、
を行うことを特徴とするモードフィールド径測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、空間多重システムにおける伝送特性の測定技術に関する。
【背景技術】
【0002】
動画やゲームに代表される大容量コンテンツの増加やスマートフォンの普及に伴い、光ファイバネットワークにおけるトラフィック量は年々増加している。一方で、現在伝送媒体として用いられているシングルモードファイバには、伝送容量の限界が近づいている。将来的なトラフィック増大に対応するための一つの技術として、マルチコアファイバやマルチモードファイバを用いた空間多重伝送が注目されている。空間多重伝送システムでは複数のコアや複数の導波モードを伝送チャネルとして用いており、各チャネルの伝送特性を把握することが重要となる。
【0003】
光ファイバの伝送特性は導波モードの電界分布に密接に関係している。モードフィールド径は、基本モード(LP01モード)の電界の拡がりを表すパラメータであり、これにより接続損失、波長分散、後方散乱光捕獲率等を推定可能であるため、従来の単一モードファイバの伝送特性を把握する上で重要なパラメータの一つとなっている。
【0004】
単一モードファイバにおけるモードフィールド径の測定方法として、可変開口法(VA法)が知られている。VA法は、可変開口を介して被試験光ファイバからの出力光強度を測定する方法である。しかし、高次モードに対するモードフィールド径の測定方法は明らかにされていない。また、VA法は測定対象のコア中心が光ファイバの中心に位置していることを前提として測定を行う手法であるため、マルチコアファイバのように必ずしも測定対象のコアが光ファイバの中心に位置しない場合の適用方法は明確ではない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】A. Nakamura et al., “Effective mode field diameter for LP11 mode and its measurement technique,” IEEE Photonics Technology Letters, vol. 28, no. 22, pp. 2553-2556, 2016.
【文献】M. Ohashi et al., “Prediction of modal dispersion of high-order mode from wavelength dependence of the mode field radius,” OECC2019, WP4-C10, 2019.
【文献】A. Nakamura et al., “Reduction of modal evoluation fluctuation in 2-LP mode optical time domain reflectometry,” Optics Express, vol. 25, no. 17, pp. 20727-20736, 2017.
【文献】N. Hanzawa et al., “Three-mode PLC-type multi/demultiplexer for mode-division multiplexing transmission,” ECOC2013, Tu1.B.3, 2013.
【文献】Y. Tottori et al., “Multi functionality demonstration for multi core fiber fan-in/fan-out devices using free space optics,” OFC2014, Th2A.44, 2014.
【文献】A. Nakamura et al., “Mode field diameter definitions for few-mode fibers based on spot size of higher-order Gaussian mode,” IEEE Photonics Journal, vol. 12, no. 2, 7200609, 2020.
【文献】J. D. LOVE, C. D. HUSSEY,“Variational approximations for higher-ordermodes of weakly-guiding fibres” Optical and Quantum Electronics 16 (1984) 41-48, 1984.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、空間多重伝送システムにおける任意のチャネルのモードフィールド径を測定できるモードフィールド径測定装置および測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本開示のモードフィールド径測定装置および測定方法は、複数の伝送チャネルを有する被試験光ファイバの測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射し、可変開口(VA:Variable Aperture)法でモードフィールド径を測定する。
【0008】
具体的には、本開示に係るモードフィールド径測定装置は、
光ファイバにおける測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射部と、
開口部の中心が前記光ファイバの他端の中心軸上となるように配置され、前記他端の中心軸に対する開口角が可変であり、前記開口部を通過する前記他端からの出力光の光強度を測定する光強度測定部と、
前記試験光入射部で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、前記光強度測定部が測定した前記光強度の前記開口角に対する依存性と、を用いて前記試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出部と、を備える。
【0009】
具体的には、本開示に係るモードフィールド径測定方法は、
光ファイバにおける測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射手順と、
中心が前記光ファイバの他端の中心軸上となるように設置された開口部の前記他端の中心軸に対する開口角を変化させながら、前記開口部を通過する前記他端からの出力光の光強度を測定する光強度測定手順と、
前記試験光入射手順で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、前記光強度測定手順で測定した前記光強度の前記開口角に対する依存性と、を用いて前記試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出手順と、を行う。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、空間多重伝送システムにおける任意のチャネルのモードフィールド径を測定できるモードフィールド径測定装置および測定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】モードフィールド径測定方法の手順の一例を示す。
【
図2】モードフィールド径測定装置の概略構成の一例を示す。
【
図3】モードフィールド径の算出結果を説明する図である。
【
図4】モードフィールド径の算出結果を説明する図である。
【
図5】モードフィールド径の算出結果の相対誤差を説明する図である。
【
図6】モードフィールド径の算出結果の相対誤差を説明する図である。
【
図7】モードフィールド径の算出結果が所望の精度を満たすための条件を説明する図である。
【
図8】モードフィールド径の算出結果が所望の精度を満たすための条件を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0013】
(実施形態)
図1は、本実施形態のモードフィールド径測定方法を説明する工程図である。
本実施形態のモードフィールド径測定方法は、
複数の伝送チャネルとして、複数のコア及び複数のモードを有する被試験光ファイバのモードフィールド径を可変開口(VA:Variable Aperture)法で測定するモードフィールド径測定方法であって、
被試験光ファイバにおける測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射手順S1と、
中心が前記被試験光ファイバの他端の中心軸上となるように設置された開口部の前記他端の中心軸に対する開口角を変化させながら前記開口部を通過する前記他端からの出力光の光強度を測定する光強度測定手順S2と、
試験光入射手順S1で前記試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、光強度測定手順S2で測定した前記光強度の前記開口角に対する依存性と、下記の式(1)と、を用いて前記試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出手順S3と、
を行うことを特徴とする。
【数1】
ただし、MFDはモードフィールド径、νおよびμは試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数、θは被試験光ファイバ10の中心軸からの可変開口14の開口角、P
νμ(θ)は可変開口14の開口角がθの場合における光強度、θ
maxは最大の開口角を表す。
【0014】
試験光入射手順S1では、
所望の波長を有する試験光を生成する生成ステップ(S1a)と、
前記生成ステップで生成した前記試験光を測定対象のモードに変換するモード変換ステップ(S1b)と、
前記モード変換ステップで測定対象のモードに変換された試験光を、被試験光ファイバの一端から測定対象のコアに入射する入射ステップ(S1c)と、
を行う。
【0015】
光強度測定手順S2では、
前記可変開口の開口部を通過する前記被試験光ファイバの他端から出力される前記試験光の光強度を測定する。このとき、前記開口部の開口角を変化させながら光強度を測定することにより、開口角に対する光強度の変化を得る。
【0016】
モードフィールド径算出手順S3では、
試験光入射手順S1で被試験光ファイバに入射した測定対象のモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、光強度測定手順S2で測定した開口角に対する光強度の変化と、を用いてモードフィールド径を算出する。
モードフィールド径を算出する詳細は後述する。
【0017】
図2は、本実施形態に係るモードフィールド径測定方法を行うモードフィールド径装置の構成例を説明する図である。
本実施形態のモードフィールド径測定装置100は、
複数の伝送チャネルとして、複数のコア及び複数のモードを有する被試験光ファイバ10のモードフィールド径を可変開口(VA:Variable Aperture)法で測定するモードフィールド径測定装置であって、
被試験光ファイバ10における測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射する試験光入射部100Aと、
可変開口14の開口部14aを通過する試験光出力端10bからの出力光の光強度を測定する光強度測定部100Bと、
試験光入射部100Aで試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、光強度測定部100Bが測定した光強度の開口角θに対する依存性と、を用いて試験光として入射したモードのモードフィールド径を算出するモードフィールド径算出部100Cと、
を備えることを特徴とする。
【0018】
試験光入射部100Aは、試験光入射手順S1を行う。
具体的には、試験光入射部100Aは、光源11、モード励振器12および入出力デバイス13を有する。光源11から出力される連続光は、モード励振器12で測定対象のモードに変換される。モード励振器12は、例えば非特許文献4に記載されるような平面光波回路で構成された方向性結合器を備える、モード合分波器である。モード励振器12で測定対象のモードに変換された連続光は、入出力デバイス13を介して被試験光ファイバ10の試験光入力端10aから測定対象のコアに入射される。入出力デバイス13は、例えば非特許文献5に記載されるような空間光学系で構成されたファンインファンアウトデバイスである。
【0019】
光強度測定部100Bは、光強度測定手順S2を行う。
具体的には、光強度測定部100Bは、開口部14aを有する可変開口14、光学レンズ15、受光器16および制御部17を有する。被試験光ファイバ10の試験光出力端10bから出力された試験光は、可変開口14の開口部14aを通過後に光学レンズ15により集光され受光器16で光電変換される。このとき、開口部14aの開口角θは制御部17からの信号に従って変化させる。なお、被試験光ファイバ10の中心軸と可変開口14の開口部14aの中心を合わせるために、被試験光ファイバ10における試験光出力端10bに調心器を設置することが望ましい。
【0020】
また、被試験光ファイバ10が複数のコア有するマルチコアファイバ(MCF:Multi-Core Fiber)である場合には、本測定方法および測定装置により得られるモードフィールド径は、被試験光ファイバ10における試験光出力端10bと可変開口14間の距離zに依存するため、距離zは、所望の測定精度に応じて適切に設定する必要がある。この点については後述する。
【0021】
モードフィールド径算出部100Cは、モードフィールド径算出手順S3を行う。
具体的には、モードフィールド径算出部100Cは、A/D(アナログ/デジタル)変換器18と信号処理部19を有する。受光器16から出力される光強度に関する信号は、A/D(アナログ/デジタル)変換器18でデジタルデータに変換される。信号処理部19は、制御部17からの開口角θに関する信号と変換器18で変換したデジタルデータに基づいて可変開口14の開口部14aの開口角θに対する光強度を取得する。さらに、信号処理部19は、開口角θに対する光強度と、試験光として入射したモードの方位角方向および半径方向のモード次数と、を用いてモードフィールド径を算出する演算処理を行う。
【0022】
以下、モードフィールド径算出部100Cが、モードフィールド径算出手順S3において行うモードフィールド径を算出する演算処理について説明する。方位角方向および半径方向の次数がそれぞれνおよびμの直線偏光モード(LP
νμモード)の遠視野における電界分布を以下の式で表す。
【数2】
ただし、θおよびφはそれぞれ、発散角および被試験光ファイバ10の断面における方位角を表す。E
fνμ(θ,φ)は遠視野における電界分布、Ψ
νμ(φ)は方位角方向の変数、F
νμ(θ)は半径方向の電界分布を表す。なお、θは、後述する式(4)を使用することで、開口角と見なせる。
【0023】
このとき、開口角αの可変開口14を通過する光強度は次式で記述できる。
【数3】
ただし、kは真空中での波数を表す。
式(3)の両辺を開口角αで微分すると、以下の式が得られる。
【数4】
【0024】
式(2)よりFνμは発散角を引数に持つ関数なので、式(4)の右辺にあるFνμ(α)のαは、発散角を表す。一方で、式(4)の左辺にあるPνμ(α)のαは、開口角を表す。したがって、式(4)は、発散角αにおける半径方向の電界分布Fνμ(α)を、発散角αと角度の大きさが同じである開口角αの可変開口14を通過した光強度Pνμ(α)で表すことができることを意味する。
【0025】
一方、非特許文献6によると、LP
νμモードのモードフィールド径は、遠視野における半径方向の電界分布を用いて、θを発散角として以下の式(5)で表すことができる。
【数5】
【0026】
式(5)に、αをθに置き換えた式(4)を適用することにより、モードフィールド径を算出する式は、以下の式のように書き直すことができる。
【数6】
ただし、θ
maxは最大の開口角である。
式(6)では、θを発散角ではなく開口角として扱うことができ、可変開口14を用いて測定した光強度P
νμ(θ)からモードフィールド径を算出することができる。
【0027】
一例として、4つのLPモードが伝搬可能な被試験光ファイバ10を考える。ここで、LP01、LP11、LP21、LP02モードの近視野における半径方向の電界分布をガウス関数で用いて以下の式で近似する(例えば、非特許文献7を参照。)。
【数7】
【数8】
【数9】
【数10】
ただし、E
nνμはLPνμモードの近視野における半径方向の電界分布を、w
νμはLPνμモードの近視野におけるモードフィールド半径(スポットサイズ)を、rは被試験光ファイバ10の断面における半径方向の座標を表す。dは被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との間の距離を表す。
【0028】
このとき、遠視野における半径方向の電界分布は以下の式で表される。
【数11】
【数12】
【数13】
【数14】
ただし、Rは遠視野における半径方向の座標を表す。zは被試験光ファイバ10の試験光出力端10bと可変開口14間の距離を表す。
【0029】
W
νμ(z)は被試験光ファイバ10の試験光出力端10bから距離z離れた地点(遠視野)におけるスポットサイズであり、以下の式で表される。
【数15】
ただし、λは試験光の波長を表す。
【0030】
ここで、式(3)、式(6)および式(11)~(15)より、測定対象のコアの中心が被試験光ファイバ10の中心に位置する場合(d=0の場合)、各モードのモードフィールド径は以下の式で表すことができる。
【数16】
【数17】
【数18】
【数19】
【0031】
式(16)~(19)に示すように、各モードのモードフィールド径は、被試験光ファイバ10の試験光出力端10bと可変開口14間の距離zに依存して変化することがわかる。ここで、z>>(πw
2
νμ/λ)
2を満たす場合、式(15)より、w
νμ=zλ/πw
νμと近似でき、式(16)から式(19)までに示す各モードのモードフィールド径はそれぞれ、式(20)から(23)に示すMFD′
νμのうち、ν及びμが自身と同一のMFD′
νμに収束する。
【数20】
【数21】
【数22】
【数23】
【0032】
図3および
図4は、それぞれd=0およびd=20の場合における、距離zに対するモードフィールド径w
νμ(z)の算出結果と距離zとの関係を説明する図である。
図3及び
図4では、LP01モード、LP11モード、LP21モード、LP02モードに対する計算結果を表す。ここで、モードフィールド径は式(3)、式(6)および式(11)~(15)を用いて計算した。また、各モードの近視野におけるモードフィールド径2w
νμを10μmとした。
【0033】
図3及び
図4より、d=0およびd=20のどちらの場合においても、被試験光ファイバ10の試験光出力端10bと可変開口14間の距離zが小さい領域において得られるモードフィールド径は大きく変化し、距離zが大きくなると得られるモードフィールド径は一定値に収束することがわかる。なお、測定対象のモードの電界分布が理想的なガウス関数である場合、収束するモードフィールド径は真値に対してわずかに大きな値となる。
【0034】
図5および
図6は、それぞれd=0およびd=20の場合における、収束するモードフィールド径に対する得られるモードフィールド径の相対誤差の関係を説明する図である。相対誤差は、式(24)で定義した。
【数24】
【0035】
図5および
図6より、いずれのモードに対しても距離zが小さいほど相対誤差が大きいことがわかる。また、
図5に示すd=0の場合、各モードの測定結果がほぼ重なって表示されていることから、相対誤差の距離依存性は測定対象のモードにほとんど依存しない。一方で、
図6に示すd=20の場合、低次のモードほど相対誤差が大きい傾向にあることがわかる。
【0036】
図7は、被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との間の距離dと、式(24)で表される相対誤差を1%以下とする最小の距離zの関係を説明する図である。横軸は被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との間の距離dであり、縦軸は試験波長およびモードフィールド半径で規格化された距離zである。
図7より、被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との間の距離dが大きくなるほど相対誤差を1%以下とする最小の距離zが大きいことがわかる。また、LP01モードに対する相対誤差を1%以下とする最小の距離zが最も大きいことがわかる。
【0037】
図8は、
図7のLP01モードに対する計算結果を抜粋した図である。被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との間の距離dに対する相対誤差を1%以下とする最小の距離zは、dが10μmより大きい場合、以下の式で近似することができる。
【数25】
また、dが10μmより小さい場合、以下の式で近似することができる。
【数26】
つまり、可変開口14を設置する位置を、式(25)および(26)を満たす距離zより大きくすることで、各モードに対するモードフィールド径を十分な精度で測定することが可能となる。
【0038】
以上説明したように、複数の伝送チャネルを有する被試験光ファイバの測定対象のコアに試験光を測定対象のモードで選択的に入射し、可変開口(VA:Variable Aperture)法でモードフィールド径を測定することによって、空間多重伝送システムにおける任意のチャネルのモードフィールド径を測定できるモードフィールド径測定装置および測定方法を提供することができる。これにより、本発明で測定した高次モードのモードフィールド径に非特許文献1から非特許文献3を適用することで、空間多重伝送システムの任意のコアにおける任意のモードの接続損失、波長分散、後方散乱光捕獲率等を求めることが可能になる。
【0039】
また、上記で説明したように、光ファイバ中心および測定対象コア中心間の距離dに応じて定めた距離z以上に光ファイバの他端から離れた位置に可変開口を設置してVA法を行うことにより、マルチコアファイバにおける任意コアのモードフィールド径を精度よく測定できるモードフィールド径測定装置および測定方法を提供することができる。
【0040】
上記では、複数チャネルとしてマルチモードかつマルチコアである光ファイバを用いて説明したが、マルチコアファイバ(MCF:Multi-Core Fiber)やマルチモードファイバにも同様に本発明を適用できる。具体的には、マルチコアファイバの場合は、試験光入射部100Aが、試験光入射手順S1において、測定対象のモードが1つだけであっても本発明の作用効果が得られる。また、マルチモードファイバの場合は、被試験光ファイバ10の中心と測定対象のコアの中心との距離dが0として本発明を適用できる。また、シングルコアかつシングルモードである光ファイバであっても、測定対象のモードが1つで、距離dが0として、同様に本発明を適用できる。
【0041】
なお、信号処理部19は、コンピュータとプログラムによっても実現でき、プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本開示に係るモードフィールド径測定装置および測定方法は、情報通信産業に適用することができる。
【符号の説明】
【0043】
10:被試験光ファイバ
10a:試験光入力端
10b:試験光出力端
11:光源
12:モード励振器
13:入出力デバイス
14:可変開口
14a:開口部
15:光学レンズ
16:受光器
17:制御部
18:A/D変換器
19:信号処理部
100:モードフィールド径測定装置
100A:試験光入射部
100B:光強度測定部
100C:モードフィールド径算出部