(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-16
(45)【発行日】2024-02-27
(54)【発明の名称】STW型ゼオライト及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/46 20060101AFI20240219BHJP
C01B 39/08 20060101ALI20240219BHJP
【FI】
C01B39/46
C01B39/08
(21)【出願番号】P 2019218610
(22)【出願日】2019-12-03
【審査請求日】2022-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】脇原 徹
(72)【発明者】
【氏名】伊與木 健太
(72)【発明者】
【氏名】新納 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】河本 拓也
(72)【発明者】
【氏名】楢木 祐介
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/058168(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/145837(WO,A1)
【文献】特開2008-063195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B
B01J
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素の含有量が250ppm以下であることを特徴とするSTW型ゼオライト。
【請求項2】
少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に以下の相対強度のピークを有する粉末X線回折パターンを有することを特徴とする請求項1に記載のSTW型ゼオライト。
【表1】
【請求項3】
ゲルマニウム源及びアルミニウム源の少なくともいずれか、シリカ源、ペンタメチルイミダゾリウムカチオン源、アルカリ源
、ハロゲン源、並びに水を含む組成物を結晶化させる結晶化工程、を有
し、
前記アルカリ源及びハロゲン源が臭化カリウムであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のSTW型ゼオライトの製造方法。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載のSTW型ゼオライトを含む触媒。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はSTW型ゼオライト及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
STW型ゼオライトは酸素4、5、8、10員環および二重4員環を有する小~中細孔ゼオライトである。STW型ゼオライトはキラルな螺旋型チャネルを有することから、キラル分離や不斉合成で用いられる触媒としての応用が検討されている(非特許文献1)。
【0003】
これまで、STW型ゼオライトの製造方法として、種々の製造方法が報告されている。例えば、非特許文献2では、テトラエチルオルトシリケート、有機構造指向剤である4BDMI(1,1’-(1,4-butanediyl)bis(2,3-dimethyl-1H-Imidazolium))、フッ化物、及び水からなる原料を結晶化することで、STW型ゼオライトが得られることが報告されている。また、非特許文献3では、有機構造指向剤として4BDMIの代わりにペンタメチルイミダゾリウムを用いる以外は非特許文献2と同様の原料を結晶化することで、STW型ゼオライトが得られることが報告されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】S.K.Brand et al.,Proc.Natl.Acad. Sci.,2017,114,page5101-5106
【文献】P.Lu et al.,J.Mater.Chem.A,2018, 6,page1485-1495
【文献】J.E.Schmidt et al.,Angew.Chem.Int.Ed.,2014,53,page8372-8374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規なSTW型ゼオライト、及び、そのSTW型ゼオライトの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者等は、STW型ゼオライト及びその製造方法について検討した。その結果、従来のSTW型ゼオライトとは異なる特徴を有するSTW型ゼオライト、及び、従来の製造方法と異なる原料系からSTW型ゼオライトが製造できることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] フッ素の含有量が250ppm以下であることを特徴とするSTW型ゼオライト。
[2] 少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に以下の相対強度のピークを有する粉末X線回折パターンを有することを特徴とする上記[1]に記載のSTW型ゼオライト。
【表1】
[3] ゲルマニウム源及びアルミナ源の少なくともいずれか、シリカ源、ペンタメチルイミダゾリウムカチオン源、アルカリ源並びに水を含む組成物を結晶化させる結晶化工程、を有することを特徴とする上記[1]又は[2]に記載のSTW型ゼオライトの製造方法。
[4] 上記[1]又は[2]に記載のSTW型ゼオライトを含む触媒。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、新規なSTW型ゼオライト、及び、そのSTW型ゼオライトの製造方法を提供することができる。また、本発明の一実施形態によれば、鉱化材としてフッ化物を使用しないSTW型ゼオライトの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】実施例1のSTW型ゼオライトのSEM観察図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について、実施形態の一例を示して説明する。
【0011】
本実施形態はSTW型ゼオライトに係る。STW型ゼオライトは、国際ゼオライト学会で定義される構造コードでSTW構造となる結晶構造(以下、単に「STW構造」ともいう。)を有する。ゼオライトの結晶構造は、粉末X線回折(以下、「XRD」ともいう。)測定により得られるXRDパターンと、国際ゼオライト学会で規定された結晶構造のXRDパターンと、を対比することで同定できる。
【0012】
本実施形態において、XRDパターンは、以下の条件で行うXRD測定により取得することができる。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 32°/分
計測時間 : 3秒
【0013】
ゼオライトは、一般に、多孔性無機酸化物又は結晶性アルミノシリケートを意味する。本実施形態のSTW型ゼオライトでは、ゼオライトが、多孔性無機酸化物である結晶性ゲルマニウムシリケート及び結晶性アルミノシリケートの少なくともいずれかであることが好ましい。結晶性ゲルマニウムシリケートはケイ素(Si)とゲルマニウム(Ge)が酸素(O)を介したネットワーク構造(骨格構造)からなる結晶構造を有するものである。また、結晶性アルミノシリケートはケイ素(Si)とアルミニウム(Al)が酸素(O)を介したネットワーク構造(骨格構造)からなる結晶構造を有するものである。
【0014】
本実施形態のSTW型ゼオライトは、フッ素の含有量が250ppm以下である。フッ素の含有量が250ppm以下であることで、STW型ゼオライトの毒性および腐食性を抑えることができ、工業生産に有利なものとなる。好ましくは、本実施形態のSTW型ゼオライトのフッ素の含有量は220ppm以下、より好ましくは200ppm以下、さらに好ましくは180ppm以下である。また、本実施形態のSTW型ゼオライトは、フッ素の含有量が250ppm以下であれば、有機構造指向剤を含んでいてもよく、有機構造指向剤を含んでいなくてもよいが、有機構造指向剤を含まない状態でフッ素の含有量が250ppm以下であることがより好ましい。フッ素の含有量の下限としては特に制限がないが、0ppm以上を挙げることができ、0.1ppm以上であることが好ましい。
【0015】
なお、本明細書において、フッ素の含有量(ppm)とは、本実施形態のSTW型ゼオライトの重量に対するフッ素の重量の割合を指す。また、本明細書において、フッ素の含有量が0ppmであるとは、本実施形態のSTW型ゼオライトにフッ素が含有されていないことを指す。
【0016】
フッ素の含有量は公知の方法により求めることができる。例えば、フッ素の含有量はは、電極法、ランタンアリザリンコンプレキソン法等を用いて求めることができ、好ましくは電極法を用いて求めることができる。具体的な電極法の方法として、例えば、次の方法が挙げられる。まず、フッ化カリウムを超純水に溶解させて得られるフッ素カリウム水溶液を、フッ化カリウムの濃度が異なるように数種類(例えば、2mg/L、0.2mg/L、又は0.02mg/Lの3種類)調製する(これらを検量線溶液とする)。次に、80℃で一晩の乾燥後の測定試料(例えば、15mg)に1mol/LのKOH水溶液(例えば、10mL)を加え、密閉容器に移し、80℃のオーブン内に12時間保持した後、1mol/L硝酸(例えば、10mL)、緩衝液(例えば、5mL)、及び超純水を加えサンプル溶液(例えば、100mL)を調製する。その後、上記検量線溶液及びサンプル溶液を用いて、電極を複合形フッ化物イオン選択性電極とした電極法により、検量線溶液濃度で検量線を作成して、サンプル溶液のフッ素濃度を測定する方法が挙げられる。なお、本実施形態のSTW型ゼオライトにおけるフッ素の含有量(ppm)は、サンプル溶液のフッ素濃度からサンプル溶液中のフッ素の総重量を求め、求めたフッ素の総重量(mg)を測定試料の重量(mg)で除して得られる値に、1,000,000を乗じることにより求めることができる。
【0017】
本実施形態のSTW型ゼオライトにおいて、フッ素は、STW型ゼオライトの細孔内(酸素4、5、8、10員環または二重4員環の細孔内)や細孔内を除く外表面に含有(担持)することができる。
【0018】
本実施形態のSTW型ゼオライトは、少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に、以下の相対強度のピーク(以下、単に「XRDピーク」ともいう)を有するXRDパターン、を有することが好ましい。言い換えれば、本実施形態のSTW型ゼオライトは、少なくとも下表に示す格子面間隔d(Å)のそれぞれに、ピークトップが下表の相対強度を満たすXRDピークを有するXRDパターンを有することが好ましい。
【0019】
【表2】
表2において相対強度は格子面間隔8.69±0.4Åのピーク強度に対する強度の割合(%)を示す。
【0020】
また、本実施形態のSTW型ゼオライトは、少なくとも以下の格子面間隔d(Å)に、以下のXRDピークを有するXRDパターン、を有することがより好ましい。
【0021】
【表3】
表3において相対強度は格子面間隔8.69±0.4Åのピーク強度に対する強度の割合(%)を示す。
【0022】
なお、「表2や表3に示すXRDピークを有するXRDパターンを有している」とは、表2や表3に示す各格子面間隔d(Å)において、対応する相対強度のピークが少なくとも1つ確認できることを指し、表2や表3に示す各格子面間隔d(Å)において、対応する相対強度のピークが2以上確認されてもよい。また、「表2や表3に示す各格子面間隔d(Å)において、対応する相対強度のピークが確認できる」とは、表2や表3に示す格子面間隔d(Å)のそれぞれに、対応する相対強度のピークが確認できるとともに、各格子面間隔dに確認されるピークが、互いに異なるピークであることを指す。例えば、表2や表3に示す格子面間隔d(Å)の中には、数値範囲が一部分重複しているもの(例えば、表3に示す5.95±0.2と5.83±0.2)が含まれているが、「表2や表3に示す各格子面間隔d(Å)において、対応する相対強度のピークが確認できる」とするには、その重複する範囲を含む格子面間隔d(Å)のそれぞれに、異なるピークが確認できることが必要であり、その重複する範囲を含む格子面間隔d(Å)において、重複する範囲にピークが1つ確認できればよいというものではない。
【0023】
本実施形態のSTW型ゼオライトのXRDパターンにおいて、上表に示したXRDピーク以外に相対強度が20%以上のピーク(格子面間隔d(Å)=8.69±0.4にピークトップを有するピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が20%以上のピーク)を含まないことが好ましい。
【0024】
好ましくは、上記のXRDピークは、有機構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)を含まない状態のSTW型ゼオライトのピークである。
【0025】
本実施形態のSTW型ゼオライトにおいて、SDAを含有する形態は、特に限定されるものではないが、例えば、酸素4、5、8、10員環または二重4員環の細孔内にSDAが含有されている形態や、これらの細孔内を除く外表面にSDAが担持される形態が挙げられる。なお、本実施形態のSTW型ゼオライトにSDAが含有される場合、後述する有機構造指向剤除去処理によりSDAを除去することができる。
【0026】
本実施形態のSTW型ゼオライトが結晶性ゲルマニウムシリケートである場合、STW型ゼオライトは、結晶性をより高くする観点から、酸化ゲルマニウムに対するシリカのモル比(以下「SiO2/GeO2」ともいう。)が1以上100以下が好ましく、2以上10以下がより好ましく、5以上9以下がさらに好ましい。
【0027】
本実施形態のSTW型ゼオライトは、カチオンタイプがプロトン型(H+型)又はアンモニウム型(NH4
+型)のいずれかであることが好ましい。
【0028】
次に、本実施形態のSTW型ゼオライトの製造方法について説明する。
【0029】
本実施形態のSTW型ゼオライトは、ゲルマニウム源及びアルミナ源の少なくともいずれか、シリカ源、ペンタメチルイミダゾリウム(以下「PMI」ともいう。)カチオン源、アルカリ源並びに水を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化させる結晶化工程、を含む製造方法により製造することができる。ここで、ゲルマニウム源とアルミナ源のうちゲルマニウム源を用いた場合には、結晶性ゲルマニウムシリケートである本実施形態のSTW型ゼオライトが得られる。一方、ゲルマニウム源とアルミナ源のうちアルミニウム源を用いた場合には、結晶性アルミノシリケートである本実施形態のSTW型ゼオライトが得られる。
【0030】
ゲルマニウム源は、酸化ゲルマニウム(GeO2)又はその前駆体となるゲルマニウム化合物であり、例えば、酸化ゲルマニウム、塩化ゲルマニウム、ゲルマニウムイソプロポキシドおよびゲルマニウム酸ナトリウムの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、酸化ゲルマニウムであることが好ましい。
【0031】
アルミナ源は、アルミナ(Al2O3)又はその前駆体となるアルミニウム化合物であり、例えば、アルミナ、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、非晶質アルミノシリケート、金属アルミニウムおよびアルミニウムアルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、アルミン酸ナトリウム、非晶質アルミノシリケートおよびアルミニウムアルコキシドの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0032】
シリカ源は、シリカ(SiO2)又はその前駆体となるケイ素化合物であり、例えば、コロイダルシリカ、無定型シリカ、珪酸ナトリウム、テトラエチルオルトシリケート、沈殿法シリカ、およびヒュームドシリカの群から選ばれる少なくとも1種を挙げることができ、テトラエチルオルトシリケート、コロイダルシリカ、及び沈殿法シリカの群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、テトラエチルオルトシリケートであることがより好ましい。
【0033】
PMIカチオン源は、PMI及び/又はPMIの塩であり、PMIの水酸化物、塩化物、臭化物、ヨウ化物、炭酸モノエステル塩、硫酸モノエステル塩、硝酸塩及び硫酸塩の群から選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、PMIの水酸化物、塩化物及び臭化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。特に好ましいPMIカチオン源として、PMIの水酸化物が挙げられる。
【0034】
PMIカチオンは以下の式(1)で示される四級アンモニウムカチオンであり、STW構造を指向する有機構造指向剤(SDA)として機能する。
【0035】
【0036】
アルカリ源は、アルカリ金属を含む塩であり、リチウム、ナトリウム、及びカリウムの群から選ばれる少なくとも1種を含む塩であることが好ましく、塩の中でも、水酸化物、塩化物、臭化物及びヨウ化物の群から選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、臭化物であることがさらに好ましい。特に好ましいアルカリ源として、臭化カリウム(KBr)が挙げられる。
【0037】
原料組成物は、フッ素を含有していないことが好ましく、言い換えれば、フッ素の含有量が0ppmであることが好ましい。一方、原料組成物は、フッ化物を除くハロゲン化物(以下、「ハロゲン源」ともいう。)を含んでいてもよい。ハロゲン源は、好ましくは臭化物であり、より好ましくは臭化カリウム(KBr)である。なお、ハロゲン源としてアルカリ金属ハロゲン化物を用いる場合、当該アルカリ金属ハロゲン化物は、原料組成物に含有されるアルカリ源としても機能し、ハロゲン源としてPMIのハロゲン化物を用いる場合、当該PMIのハロゲン化物は、原料組成物に含有されるPMIカチオン源としても機能する。
【0038】
原料組成物に含まれる水は、脱イオン水や純水が例示できる。なお、原料組成物に含有される各原料(ゲルマニウム源及びアルミナ源の少なくともいずれか、シリカ源、PMIカチオン源、アルカリ源)の少なくともいずれか一つが、含水物、水和物又は水溶液の含水物である場合、これに含まれる水は、原料組成物に含有する水として機能できる。
【0039】
原料組成物の組成としては、以下の組成を挙げることができる。
SiO2/GeO2比 :1以上1000以下
好ましくは1以上100以下
より好ましくは2以上10以下
PMI/(SiO2+GeO2)比 :0超1以下
好ましくは0.1以上0.8以下
より好ましくは0.2以上0.7以下
M/(SiO2+GeO2)比 :0超0.20以下
好ましくは0.05以上0.20以下
より好ましくは0.1以上0.20以下
X/(SiO2+GeO2)比 :0以上0.20以下
好ましくは0.05以上0.20以下
より好ましくは0.1以上0.20以下
【0040】
上記の組成において、SiO2/GeO2比は酸化ゲルマニウムに対するシリカのモル比であり、PMI/(SiO2+GeO2)比はシリカと酸化ゲルマニウムの合計量(モル)に対するPMIカチオンのモル比であり、M/(SiO2+GeO2)比はシリカと酸化ゲルマニウムの合計量(モル)に対するアルカリ金属のモル比であり、X/(SiO2+GeO2)比はシリカと酸化ゲルマニウムの合計量(モル)に対するハロゲンのモル比である。
【0041】
また、上記の組成において、M/SiO2比におけるMはアルカリ金属であり、アルカリ金属(M)がナトリウム(Na)である場合、M/SiO2比はNa/SiO2比となる。同様にハロゲン(X)が臭素(Br)の場合、X/SiO2比はBr/SiO2比となる。
【0042】
なお、ゲルマニウム(Ge)やケイ素(Si)が酸化物以外の形態で原料組成物に含有される場合、上記組成における「GeO2」には、原料組成物に含有されるゲルマニウム(Ge)を酸化ゲルマニウム(GeO2)として換算した値(モル)を用いることができ、上記組成における「SiO2」には、原料組成物に含有されるケイ素(Si)をシリカ(SiO2)として換算した値(モル)を用いることができる。
【0043】
原料組成物は種晶を含んでいてもよく、種晶はSTW型ゼオライトであることが好ましい。原料組成物に対する種晶の含有量(以下、「種晶含有量」ともいう。)は、原料組成物(種晶を除いた原料組成物)に含まれるケイ素(Si)をSiO2として換算した重量に対する、種晶に含まれるケイ素をSiO2として換算した重量の割合として、0.1重量%以上20重量%以下であることが好ましく、5重量%以上10重量%以下であることがより好ましい。なお、種晶には、フッ素が含有されていないことが好ましいが、製造されるSTW型ゼオライトのフッ素含有量が250ppm以下となる量のフッ素が含有されていてもよい。例えば、種晶には、1000ppm以下のフッ素が含まれていてもよい。1000ppm以下のフッ素が含まれている場合であっても、該フッ素はごく微量であるため、本実施形態において鉱化材として機能を有さないものとなる。
【0044】
原料組成物を水熱処理することで原料組成物を結晶化することができ、原料組成物を結晶化することで、本実施形態のSTW型ゼオライトが得られる。水熱処理は、原料組成物を密閉容器に充填し、これを密封した上で加熱することが挙げられる。水熱処理は、原料組成物を静置した状態又は撹拌した状態のいずれで行ってもよく、撹拌した状態で行う方が好ましい。
【0045】
水熱処理は、いわゆるドライゲルコンバージョン(DGC)法で行うこともできる。本実施形態におけるDGC法としては、テトラエチルオルトシリケート(シリカ源)、酸化ゲルマニウム(ゲルマニウム源)及びアルミナ(アルミナ源)の少なくともいずれか、有機構造指向剤であるPMI(PMIカチオン源)、アルカリ源、水、並びに種晶からなる原料組成物と、純水とを気相反応により反応させることで原料組成物を水熱処理(結晶化)し、STW型ゼオライトを得る方法を挙げることができる。具体的な水熱処理の方法としては、開放瓶に原料組成物を充填した上で、該開放瓶を純水が添加された容器内に設置(原料組成物と純水とが接触しないように設置)し、この容器を密封した上で加熱することが挙げられる。DGC法における水熱処理の概略図を
図1に示す。
図1に示す概略図では、水が充填された容器の中央部に、開放瓶が配置されており、その解放瓶の中に原料組成物が充填されている。
【0046】
結晶化温度は、好ましくは100℃以上200℃以下、より好ましくは120℃以上200℃である。
【0047】
結晶化時間は結晶化温度により変化し、結晶化温度の高温化に伴い、結晶化時間は短くなる傾向がある。例えば、結晶化時間は、10時間以上240時間以下、好ましくは10時間以上200時間以下であることが挙げられる。
【0048】
本実施形態における製造方法は、洗浄工程、イオン交換工程、乾燥工程又は有機構造指向剤除去工程の少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0049】
洗浄工程は、結晶化工程により得られるSTW型ゼオライトから不純物を低減する。洗浄方法は任意だが、例えば、固液分離により、STW型ゼオライトを回収し、これを十分量の純水と混合し、これを洗浄する方法が挙げられる。
【0050】
イオン交換工程は、STW型ゼオライトを任意のカチオンタイプ、例えば、アンモニウム型(NH4
+型)又はプロトン型(H+型)、とする(つまり、結晶化工程により得られるSTW型ゼオライトのカチオンとして、プロトン又はアンモニウムイオンを含有させる)。イオン交換方法は任意だが、例えば、STW型ゼオライトを塩化アンモニウム水溶液に混合及び攪拌することによってカチオンタイプをNH4
+型とする方法、カチオンタイプがNH4
+型のSTW型ゼオライトを焼成することによってカチオンタイプをH+型とする方法、が挙げられる。
【0051】
乾燥工程は、結晶化工程により得られるSTW型ゼオライトから水分を除去する。乾燥方法は任意であるが、例えば、STW型ゼオライトを、大気中、50℃以上150℃以下で2時間以上静置することが挙げられる。
【0052】
有機構造指向剤除去工程は、結晶化工程により得られるSTW型ゼオライトに含まれるPMIカチオンを除去する。PMIカチオンの除去方法は任意であるが、例えば、大気中、400℃以上800℃以下で処理(例えば、焼成処理)することが挙げられる。有機構造指向剤除去工程において、有機構造指向剤除去処理を行うことで、SDAを含有しない本実施形態のSTW型ゼオライトが製造できる。一方、有機構造指向剤の除去処理を行わなければ、SDAを含有する本実施形態のSTW型ゼオライトを製造できる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を具体的に説明する。しかしながら、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【0054】
(結晶の同定)
粉末X線回折装置(装置名:UltimaIV、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。測定条件は以下のとおりであった。
線源 : CuKα線(λ=1.5405Å)
測定モード : ステップスキャン
スキャン条件 : 32°/分
計測時間 : 3秒
測定範囲 : 2θ=5°から31°
【0055】
(フッ素の定量)
フッ化カリウムを超純水に溶解させフッ素濃度が、それぞれ、2mg/L、0.2mg/L、又は0.02mg/Lであるフッ素カリウム水溶液をそれぞれ調製し、支持塩として0.1mol/Lとなるように硝酸カリウムをそれぞれ加え、検量線溶液を3点、調製した。
【0056】
また、80℃で一晩の乾燥後の測定試料(サンプル)10~15mgに1mol/L KOH水溶液10mL加え、密閉容器に移し、80℃オーブン内に12時間保持して測定試料を溶解させた後、1mol/L硝酸10mLを加え、緩衝液(500-F-TISAB,HORIBA Scientific)を5mL加え、超純水を加え100mLとすることでサンプル溶液を調製した。
【0057】
上述の検量線溶液及びサンプル溶液を用いて、電極法(電極:複合形フッ化物イオン選択性電極、6561S-10C、HORIBA、Scientific社製)により、検量線溶液濃度で検量線の較正を行い、その後サンプル溶液のフッ素の濃度を測定した。また、サンプル中のフッ素の含有量は、以下の式より計算した。
【0058】
参考例1(種晶用STW型ゼオライト(非特許文献3のSTW型ゼオライト)の合成)
非特許文献3に準じた方法でSTW型ゼオライトを製造した。すなわち、テトラエチルオルトシリケート、有機構造指向剤であるPMI、フッ化アンモニウム、及び水からなる原料組成物を密閉容器に移し、200℃、58rpmで7日間攪拌加熱することで結晶化を行った。原料組成物は、以下のモル組成であった。
1.0SiO2:0.50PMI:0.50NH4F:4.0H2O
【0059】
得られた結晶化物(STW型ゼオライト)は固液分離し、温純水での洗浄後、大気中、80℃で乾燥した。
【0060】
乾燥後のSTW型ゼオライトを大気中、600℃、2時間で焼成し、PMIを除去した。PMI除去後のSTW型ゼオライトの主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=8.45のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が5%以上のピーク)を下表に示す。
【0061】
【表4】
表4において相対強度は格子面間隔8.45Åのピーク強度に対する強度の割合(%)を示す。
【0062】
上表から理解できるように、焼成後のSTW型ゼオライトは、表1に示す全てのXRDピークを含んでいた。
【0063】
実施例1
以下に示す組成となる様に、テトラエチルオルトシリケート、酸化ゲルマニウム、有機構造指向剤であるPMI、アルカリ源(KBr)、及び水を混合して下記組成の原料組成物を得た。
【0064】
SiO2/GeO2比 = 4.25
PMI/(SiO2+GeO2)比 = 0.5
K/(SiO2+GeO2)比 = 0.20
Br/(SiO2+GeO2)比 = 0.20
ここで、K/(SiO2+GeO2)比及びBr/(SiO2+GeO2)比は、SiO2+GeO2に対するKBrの量から求めた(K及びBrに係るモル比はそれぞれKBrに係るモル比に等しい)。
【0065】
また、種晶含有量(原料組成物(種晶を除いた原料組成物)に含まれるケイ素(Si)をSiO2として換算した重量に対する、種晶に含まれるケイ素をSiO2として換算した重量の割合)が10重量%となるように参考例1で得られたSTW型ゼオライトを当該原料組成物に添加及び混合した。混合後の原料組成物を開放瓶に充填し、充填後の開放瓶を、純水が0.1g/23mL(容器内容積)存在する容器内に設置した。該開放瓶が設置された容器を密閉し、200℃で8日間処理することで、水熱処理(結晶化)した。得られた結晶化物は固液分離し、温純水での洗浄後、大気中、110℃で乾燥した。乾燥後のSTW型ゼオライト中のアルカリ金属をNH4
+でイオン交換した。イオン交換して得られたSTW型ゼオライトを、大気中、600℃、2時間で焼成し、PMIを除去した。上記のフッ素の定量の方法によりゼオライト中のフッ素の含有量を求めたところ、PMI除去後のSTW型ゼオライトはフッ素の含有量が150ppmであった。
【0066】
PMI除去後のSTW型ゼオライトの主なXRDピーク(格子面間隔d(Å)=8.48のピークの相対強度を100%とした場合における相対強度が5%以上のピーク)を下表に示す。また、
図2に、PMI除去後のSTW型ゼオライトを走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した図(写真)を示す。なお、
図2のスケールは、10μmを示す。
【0067】
【表5】
表5において相対強度は格子面間隔8.48Åのピーク強度に対する強度の割合(%)を示す。
【0068】
上表から理解できるように、焼成後のSTW型ゼオライトは、表1に示す全てのXRDピークを含んでいた。
【0069】
比較例1
参考例1に記載のPMIを除去したSTW型ゼオライトを上記のフッ素の定量の方法によりフッ素の含有量を求めたところ、PMI除去後のSTW型ゼオライトはフッ素の含有量が330ppmであった。