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特許7445076オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-27
(45)【発行日】2024-03-06
(54)【発明の名称】オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/359 20140101AFI20240228BHJP
【FI】
G01N21/359
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2023187783
(22)【出願日】2023-11-01
【審査請求日】2023-11-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100176773
【弁理士】
【氏名又は名称】坂西 俊明
(72)【発明者】
【氏名】山本 広史
(72)【発明者】
【氏名】澤田 真実
(72)【発明者】
【氏名】児玉 大介
(72)【発明者】
【氏名】堀内 浩幸
(72)【発明者】
【氏名】江崎 僚
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特許第6686216(JP,B1)
【文献】特開2006-036669(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/61
G01N33/00-G01N33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDream3)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
殻付き鶏卵の選別方法であって、
殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、前記特定の波長の光の吸収量を測定する測定ステップ、
前記吸収量を変換式に代入することにより判別値を算出する算出ステップ、及び
前記判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する選別ステップを含み、
前記変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵、及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵に対して、前記特定の波長の光の吸収量を測定した結果から導出された式であ
前記特定の波長の光は、波長310nm以上2500nm以下の範囲内に存在する光である、
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法。
【請求項2】
前記変換式は、部分的最小二乗判別分析により導出された式である、請求項1に記載の選別方法。
【請求項3】
前記変換式は、前記オボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値を1、前記オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値を0として部分的最小二乗判別分析により導出された式であり、
前記選別ステップは、前記算出ステップで算出した判別値が閾値未満の場合にオボムコイドを含まない殻付き鶏卵であるとして選別を行い、
前記閾値が、0超0.6以下の範囲内にある、請求項1又は2に記載の選別方法。
【請求項4】
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の製造方法であって、
請求項1又は2に記載の選別方法を実施して、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する工程を備える、製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鶏卵中の成分を測定する方法として、種々の技術手段が提案されている。例えば、特許文献1には、殻付卵に光を照射する工程と、殻付卵の透過光を受光する工程と、前記透過光のスペクトルを取得する工程と、前記スペクトルを多変量解析する工程と、前記スペクトルに基づき殻付卵を判定する工程と、を備える、殻付卵の判定方法が開示されている。また、特許文献2には、特定の波長領域の近赤外線を鶏卵に照射して透過光を検出することにより、割卵することなく鶏卵中のコレステロール含有量を高精度で定量し得ることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開第2017-49177号公報
【文献】特許第5959061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
鶏卵中のアレルゲンとなる物質の一つとして、例えば、卵白に含まれるオボムコイドというタンパク質が知られている。オボムコイドは、熱及び消化酵素に安定であるため、加熱処理及び消化酵素を用いた加工を施しても、そのアレルゲン性が失われにくい。このようなことから、オボムコイドを含まない鶏卵の作出の検討が進められている。
【0005】
一方、鶏卵中のオボムコイドは、例えば、割卵して得た卵白を用いて液体クロマトグラフィー法、ELISA法等により測定することが一般的である。しかしながら、このような測定方法は、手順が煩雑であることに加え、割卵してしまうため用途が限定されてしまい、商業的に不適である。そこで、非破壊的かつ簡便に、オボムコイドを含有しない殻付き鶏卵を選別する方法の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、非破壊的かつ簡便に、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、当該特定の波長の光の吸収量を測定した後、該吸収量から所定の変換式を用いて判別値を算出することにより、当該判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を判定できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば以下の各発明に関する。
[1]
殻付き鶏卵の選別方法であって、
殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、上記特定の波長の光の吸収量を測定する測定ステップ、
上記吸収量を変換式に代入することにより判別値を算出する算出ステップ、及び
上記判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する選別ステップを含み、
上記変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵、及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵に対して、上記特定の波長の光の吸収量を測定した結果から導出された式である、
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法。
[2]
上記特定の波長の光は、波長310nm以上2500nm以下の範囲内に存在する光である、[1]に記載の選別方法。
[3]
上記変換式は、部分的最小二乗判別分析により導出された式である、[1]又は[2]に記載の選別方法。
[4]
上記変換式は、上記オボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値を1、上記オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値を0として部分的最小二乗判別分析により導出された式であり、
上記選別ステップは、上記算出ステップで算出した判別値が閾値未満の場合にオボムコイドを含まない殻付き鶏卵であるとして選別を行い、
上記閾値が、0超0.6以下の範囲内にある、[1]~[3]のいずれかに記載の選別方法。
[5]
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の製造方法であって、
[1]~[4]のいずれかに記載の選別方法を実施して、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する工程を備える、製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、非破壊的かつ簡便に、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法)
本発明は、殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、上記特定の波長の光の吸収量を測定する測定ステップ、上記吸収量を変換式に代入することにより判別値を算出する算出ステップ、及び上記判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する選別ステップを含み、上記変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵、及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵に対して、上記特定の波長の光の吸収量を測定した結果から導出された式である、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法を提供することに特徴を有する。
【0012】
(測定ステップ)
本実施形態に係るオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、上記特定の波長の光の吸収量を測定する測定ステップを含む。
【0013】
(殻付き鶏卵)
本明細書における「殻付き鶏卵」は、卵殻、卵黄及び卵白のすべてを備える非破壊状態の卵である。殻付き鶏卵は、卵殻、卵黄及び卵白のすべてを備えていれば、卵殻にヒビが入っているもの等であってもよい。殻付き鶏卵は、食品材料等として使用される殻付き鶏卵を用いることができる。殻付き鶏卵における産卵鶏の鶏種及び/又は採卵時期に特に限定はない。また、殻付き鶏卵の卵殻は、白色卵殻であってもよいし、褐色、赤褐色等の有色卵殻であってもよい。
【0014】
(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵)
本明細書における「オボムコイドを含まない殻付き鶏卵」は、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵であり、オボムコイドを含まないこと以外は上記殻付き鶏卵で記載したとおりである。オボムコイドは、卵白に含まれるタンパク質であり、鶏卵のアレルゲンとなる物質の一つである。また、オボムコイドは水溶性であり、物理化学的安定性が極めて高い。そのため、加熱処理及び消化酵素を用いた加工を施しても、そのアレルゲン性は失われにくい。
【0015】
本明細書において、「オボムコイドを含まない」とは、卵白中のオボムコイド含有量が、卵白全量を基準として、1μg/mL未満、好ましくは0μg/mLであることを意味する。
【0016】
(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の使用用途)
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の使用用途としては、例えば、ゆで卵用、製菓用、調理用、製パン用、氷菓用、水練り用、ハム用、麺用等が挙げられる。ゆで卵用とは、ゆで卵の原料として使用される用途を意味する。製菓用とは、菓子類の製造原料として使用される用途を意味する。製菓用のオボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、例えば、スポンジケーキ等の原料として使用することができる。調理用とは、飲食品(但し菓子類は除く。)の製造原料として使用される用途を意味する。調理用のオボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、例えば、炒り卵、スクランブルエッグ、タマゴスープ、目玉焼き、オムレツ、卵焼きの原料等として使用することができる。本実施形態に係るオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、ゆで卵用、製菓用又は調理用のオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法としても用いることができる。また、特にオボムコイドはアレルゲン性を有するタンパク質であるため、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、低アレルゲン食品の開発にも用いることができる。低アレルゲン食品とは、アレルギーを起こしにくい食品を意味する。
【0017】
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、殻付き鶏卵の形態で流通させてもよく、割卵して卵白及び卵黄を含む形態で流通させてもよく、割卵して更に卵白及び卵黄を分離した後、卵白の形態で、又は卵黄の形態で流通させてもよい。
【0018】
(特定の波長の光の吸収量の測定方法)
特定の波長の光の吸収量(以下、「吸収量」とも記載する。)は、特定の波長の光を含む光を殻付き鶏卵に照射して、透過光又は反射光を検出する分光法を利用して測定される。すなわち、測定ステップでは、殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、透過光又は反射光を検出することによって、吸収量を測定する。測定する吸収量は、絶対値であっても、相対値(例えば、吸光度等)であってもよい。また、測定する吸収量は、単一波長の光の吸収量であってもよく、複数波長の光の吸収量であってもよい。測定する吸収量が、複数波長の光の吸収量である場合、連続的な複数波長の光であってもよく、非連続的な複数波長の光であってもよい。複数波長の光の吸収量を測定する場合、例えば、特定の波長の光の吸収量を含む吸収スペクトルを測定してもよい。
【0019】
本実施形態に係るオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法では、透過光又は反射光を検出することによって、吸収量を測定することが好ましい。吸収量は、例えば、可視近赤外分光光度計、近赤外分光光度計等により測定することができる。可視近赤外分光光度計としては、例えば、株式会社スペクトラ・コープ社製のHandy Lambda II NIR enh等を使用することができる。近赤外分光光度計としては、例えば、ブルカー・オプティクス株式会社製の近赤外分光計Matrix-F等を使用することができる。得られた吸収量のデータの解析は、市販のソフトウェアを使用して行うことができる。市販のソフトウェアとしては、例えば、The Unscrambler X(CAMO Software社製)、OPUS(ブルカー・オプティクス株式会社製)が挙げられる。
【0020】
(特定の波長の光)
測定ステップにおける特定の波長の光は、例えば、波長310nm以上2500nm以下、310nm以上2000nm以下、310nm以上1500nm以下、若しくは310nm以上1100nm以下、又は600nm以上2500nm以下、800nm以上2500nm以下、若しくは1100nm以上2500nm以下の範囲内に存在する光であってもよい。上述のとおり、特定の波長の光は、上記波長領域の範囲内に存在する光であればよく、上記波長領域のうちの単一波長の光であってもよく、上記波長領域のうちの複数波長の光であってもよい。この波長範囲内にある波長の光は、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵と、オボムコイドを含む殻付き鶏卵とで、殻付き鶏卵への吸収量が変化するため、当該吸収量に基づきオボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別することが可能になる。
【0021】
(殻付き鶏卵に照射する光の波長)
測定ステップにおいて殻付き鶏卵に照射する光(以下、「照射光」とも記載する。)は、上記特定の波長の光を含む光であれば特に限定されない。すなわち、照射光は、上記特定の波長の光以外の波長の光を含んでいてもよく、上記特定の波長の光であってもよい。上記吸収量は、殻付き鶏卵に照射光を照射して測定される。照射光としては、例えば、100nm以上3000nm以下の波長領域の光であってもよく、150nm以上2500nm以下、200nm以上2000nm以下、300nm以上1500nm以下、若しくは310nm以上1100nm以下、又は500nm以上3000nm以下、600nm以上3000nm以下、700nm以上2800nm以下、750nm以上2600nm以下、若しくは800nm以上2500nm以下の波長領域の光であってもよい。
【0022】
(殻付き鶏卵の配置条件)
測定ステップにおいて、殻付き鶏卵は、例えば、殻付き鶏卵の鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行又は略平行になるように配置されてもよいし、該長軸線が水平面と垂直又は略垂直になるように配置されてもよい。長軸線が水平面と垂直又は略垂直になるように配置される場合、鈍端部が下方になるように殻付き鶏卵が配置されていてよい。測定ステップにおいて、殻付き鶏卵は、上記配置となるように固定されていてよい。
【0023】
(殻付き鶏卵に照射する光の照射条件)
測定ステップにおいて、照射光は、殻付き鶏卵に対して様々な方向から照射されることができる。照射光の照射は、殻付き鶏卵が上記の配置となるように殻付き鶏卵を固定した状態で実施してもよく、非固定状態で実施してもよい。照射光は、例えば、殻付き鶏卵の鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線と交差する方向に照射されてもよく、該長軸線に沿う方向に照射されてもよい。上記吸収量の測定は、例えば、殻付き鶏卵の鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と平行又は略平行になるように配置された状態で、照射を該長軸線と交差する方向に照射して、透過光又は反射光を検出することにより、実施してもよい。また、上記吸収量の測定は、例えば、殻付き鶏卵の鈍端部を下方にし、殻付き鶏卵の鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と垂直又は略垂直になるように配置された状態で、照射光を該長軸線と交差する方向に照射して、透過光又は反射光を検出することにより、実施してもよい。
【0024】
(特定の波長の光の検出)
照射光を照射して、透過光を検出する場合、より高精度な測定を可能とする観点から、卵黄を通過しない部位に照射光を照射して得た透過光を検出することが好ましい。照射光を照射して、反射光を検出する場合、殻付き鶏卵中の卵白部位に由来する反射光を検出することもできる。
【0025】
(算出ステップ)
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、上記吸収量を変換式に代入することにより判別値を算出する算出ステップを含む。
【0026】
(変換式)
算出ステップにおいて、変換式は測定ステップにおいて測定した上記吸収量から判別値を算出するためのものである。変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵、及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵に対して、上記吸収量を測定した結果から導出された式である。より具体的には、上記測定した吸収量を説明変数とし、判別値を目的変数として導出された吸収量と判別値の関係式である。変換式は、例えば、多変量解析によって導出された式であってもよく、部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)、ロジスティック回帰分析等によって導出された式であってよく、部分的最小二乗判別分析によって導出された式であることが好ましい。判別値は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵のそれぞれに所定の数値を対応付けて設定された数値であり、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を判別するための数値である。例えば、オボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値を1、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値を0としてこれらの鶏卵と数値とを対応付けてもよい。この場合、変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値を1、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値を0として、上記吸収量を測定した結果から、部分的最小二乗判別分析により導出された式であってもよい。
【0027】
(多変量解析)
多変量解析では、例えば、対象から得られた複数のデータ(変数、変量)を同時に解析することで対象を分類するため、複数のデータ間の相互関係を分析するため、及び複数のデータを総合的に要約するために用いられる統計的技法である。多変量解析は、必要に応じて、スペクトルフィルタリング法、例えば、妨害成分を取り除くための直交シグナル補正(orthogonal signal correction:OSC)と組み合わせて行われてもよい。解析ツールは、ソフトウェアとして多数市販されており、任意のものが入手可能である。このような市販のツールは、一般的に、難しい数学・統計学の知識がなくても、多変量解析を行うことができるように操作マニュアルが備えられている。多変量解析は、得られた分析データの一部又は全部を用いて行われてよい。
【0028】
(部分的最小二乗判別分析(PLS-DA))
PLS-DAは、部分的最小二乗法(PLS)を判別分析(DA)に応用し、2つの群を判別するモデルを構築する方法である。本実施形態に係るオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法においては、上記測定した吸収量からオボムコイドを含む殻付き鶏卵とオボムコイドを含まない殻付き鶏卵とを判別するモデル(変換式)を構築する。
【0029】
(算出ステップにおけるオボムコイドを含む殻付き鶏卵)
算出ステップにおけるオボムコイドを含む殻付き鶏卵は、上記変換式を導出するために用いられる。当該オボムコイドを含む殻付き鶏卵は、オボムコイドを含むこと以外は上記殻付き鶏卵に記載のとおりである。算出ステップにおけるオボムコイドを含む殻付き鶏卵としては、例えば、野生型鶏種の産卵鶏から得られた殻付き鶏卵等が挙げられる。算出ステップにおけるオボムコイドを含む殻付き鶏卵は、上記特定の波長の光の吸収量を測定する際に、オボムコイドを含む殻付き鶏卵であることが既知のものであってもよく、上記吸収量の測定後にオボムコイドを含む殻付き鶏卵であることが判明したものであってもよい。
【0030】
(算出ステップにおけるオボムコイドを含まない殻付き鶏卵)
算出ステップにおけるオボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、上記変換式を導出するために用いられる。当該オボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、上記のとおりである。算出ステップにおけるオボムコイドを含まない殻付き鶏卵としては、例えば、遺伝子操作等によりオボムコイド遺伝子を欠損させた(ノックアウトした)鶏種から得られた殻付き鶏卵等が挙げられる。算出ステップにおけるオボムコイドを含まない殻付き鶏卵は、上記特定の波長の光の吸収量を測定する際に、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵であることが既知のものであってもよく、上記吸収量の測定後にオボムコイドを含まない殻付き鶏卵であることが判明したものであってもよい。
【0031】
(判別値の算出方法)
判別値の算出は、測定ステップにて測定した吸収量を上記変換式に代入することにより行われる。
【0032】
(選別ステップ)
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、上記判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別を行う選別ステップを含む。
【0033】
(選別の方法)
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別は、算出された殻付き鶏卵の判別値に基づいて行われる。例えば、算出された殻付き鶏卵の判別値と、予め設定された閾値との比較により行われてよい。上述した閾値は、目的に応じて予め設定されたものであってよく、例えば、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定精度の観点から、偽陽性を減らすために閾値を低く設定してもよく、経済的な観点から、偽陰性を減らすために閾値を高く設定してもよい。すなわち、上述した閾値は、偽陰性率と偽陽性率をどの程度でバランスさせるか等を考慮して、適宜設定することができる。
【0034】
変換式が、上記オボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値を1、上記オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値を0として上記吸収量を測定した結果から、PLS-DAにより導出されたものである場合、吸収量を測定した殻付き鶏卵の判別値が、例えば、閾値未満の場合にオボムコイドを含まない殻付き鶏卵であるとして選別を行ってもよい。上記閾値は、例えば、0超0.6以下の範囲内にあってもよく、0.05以上0.6以下、0.1以上0.6以下、0.1以上0.5以下、0.1以上0.4以下、又は0.1以上0.3以下の範囲内にあってもよく、0.2以上0.6以下、0.3以上0.5以下、又は0.4以上0.5以下の範囲内にあってもよい。また、閾値を低く設定するほど選別された殻付き鶏卵に占めるオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の割合が高くなるため、偽陽性を減らしたい場合、上記閾値は、例えば、0.1以上0.4以下、0.1以上0.35以下、0.1以上0.3以下、0.1以上0.25以下、又は0.1以上0.2以下の範囲内で設定してもよい。閾値を高く設定するほどオボムコイドを含まない殻付き鶏卵が選別される割合が高くなるため、偽陰性を減らしたい場合は、上記閾値は、例えば、0.35以上0.6以下、0.4以上0.6以下、0.45以上0.6以下、又は0.5以上0.6以下の範囲内で設定してもよい。偽陽性を減らしつつ偽陰性も減らしたい場合、上記閾値は、例えば、0.2以上0.5以下、0.2以上0.4以下、0.2以上0.35以下、0.3以上0.5以下、0.35以上0.5以下、0.4以上0.5以下、又は0.3以上0.4以下の範囲内で設定してもよい。
【0035】
本実施形態に係るオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、測定ステップ~選別ステップを1回実施すればよく、その後測定ステップ~選別ステップの一部又は全部を更に複数回実施してもよい。その場合、1回目の測定ステップ~選別ステップと条件を変更して実施してもよい。例えば、測定ステップにおける特定の波長の光の波長を変更して吸光度を測定すること、選別ステップにおける上記閾値を変更して実施すること等が挙げられる。
【0036】
(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の製造方法)
本発明は、上記オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法を実施して、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する工程を備える、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の製造方法を提供することに特徴を有する。
【0037】
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法は、上述のとおりである。
【実施例
【0038】
以下、実施例等に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0039】
[試験例1:オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定(1)]
(1.変換式の導出)
下記表1に示す計453個の変換式導出用のオボムコイドを含む殻付き鶏卵及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵(共に非破壊状態の卵)について、波長310nm以上1100nm以下の光を照射して、特定の波長の光の吸光度(吸収スペクトル)を測定した。その後、吸光度の測定データを用いて変換式を導出した。
【0040】
特定の波長の光の吸光度(吸収スペクトル)の測定は、変換式導出用の殻付き鶏卵の鈍端部と鋭端部とを結ぶ長軸線が水平面と略垂直になるように配置された状態で、波長310nm以上1100nm以下の光を長軸線と交差する方向に照射して、透過光を検出することにより実施した。上記吸光度の測定データは、可視近赤外分光光度計を用いて取得した。吸光度(吸収スペクトル)の測定機器及び条件は下記のとおりである。
機器:Handy Lambda II NIR enh(株式会社スペクトラ・コープ社製)
解析ソフトウェア:The Unscrambler X(CAMO Software社製)
【0041】
変換式の導出は、以下の手順で行った。変換式導出用のオボムコイドを含む殻付き鶏卵の判別値が1、変換式導出用のオボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判別値が0として設定した判別値を目的変数とした。測定した吸収スペクトルに対して、サビツキーゴーレイ(Savitzky-Golay)当てはめを平滑化点数両側25点で行い、二次微分(The Unscrambler X(CAMO Software社製)した。二次微分処理後の吸収スペクトルにおける特定の波長の光の吸光度の二次微分値を説明変数として、上記目的変数に対するPLS-DAを行った。導出した変換式のR決定係数は0.579と高い数値であり、変換式の適合度は高かった。
【0042】
(2.オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定)
下記表1に示す計125個の評価用のオボムコイドを含む殻付き鶏卵及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵(共に非破壊状態の卵)について、同様に波長310nm以上1100nm以下の光を照射した。次いで、特定の波長の光の吸光度(吸収スペクトル)を測定し、上記1.で導出した変換式を用いて判別値を算出した後、当該判別値と閾値とを比較して、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵であるか否かを判定した。
【0043】
吸収スペクトルの測定は、上記1.と同様にして実施した。その後、測定した殻付き鶏卵についての吸収スペクトルにおける、変換式を導出した際と同じ波長の光の吸光度を変換式に代入することにより、判別値を算出した。オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別は、閾値を0.5、0.4、0.3、0.2、0.1に設定し、判別値がそれぞれの閾値未満である場合に、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵であると判定した。下記式(1)で算出した判定率1を評価した結果を表2に示し、下記式(2)で算出した判定率2を評価した結果を表3に示す。
式(1)判別率1(%)=(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の正解数/判別値が閾値未満である殻付き鶏卵の数)×100
式(2)判別率2(%)={(オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の正解数+オボムコイドを含む殻付き鶏卵の正解数)/評価した殻付き鶏卵の総数}×100
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
【表3】
【0047】
表2に示すとおり、閾値を0.5に設定した場合、判定率1は96.30%であった。また、閾値をより低い値に設定するにしたがって、判定率1はより高くなる傾向にあった。このことから、オボムコイドを含む殻付き鶏卵が、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵として判定される(偽陽性)の数が減少しているためであると考えられる。この結果から、上記試験例1で行った方法により、高い精度でオボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別できることが示された。
【0048】
さらに、表3に示すとおり、式(2)のような計算方法で算出した判定率2は、閾値をより低い値に設定するにしたがって、低くなる傾向にあった。これは、閾値を低くしていくにつれて、偽陽性が減っていく一方で、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵が、オボムコイドを含む殻付き鶏卵として判定される(偽陰性)数が増加しているためであると考えられる。逆に、閾値をより高い値に設定するにしたがって、判定率2は高くなる傾向にある。これは、上記偽陰性となっていたオボムコイドを含まない殻付き鶏卵が減ったためであると考えられる。したがって、表2及び3の結果から、目的に応じて適宜閾値を設定して、高い精度でオボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別できることが示された。
【0049】
[試験例2:オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定(2)]
(1.変換式の導出)
変換式の導出は、殻付き鶏卵に照射する光の波長を変更したこと、それに伴って特定の波長の光における波長を変更したこと以外は試験例1と同様にして行った。下記表4に示す計119個の変換式導出用のオボムコイドを含む殻付き鶏卵及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵(共に非破壊状態の卵)について、波長800nm以上2500nm以下の光を照射して、特定の波長の光の吸光度(吸収スペクトル)を測定した。その後、吸光度の測定データを用いて変換式を導出した。導出した変換式のR決定係数は0.701とかなり高い数値であり、変換式の適合度はかなり高かった。
【0050】
(2.オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定)
オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の判定は、殻付き鶏卵に照射する光の波長を変更したこと、それに伴って特定の波長の光における波長を変更したこと以外は試験例1と同様にして行った。下記表4に示す計29個の評価用のオボムコイドを含む殻付き鶏卵及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵(共に非破壊状態の卵)について、同様に波長800nm以上2500nm以下の光を照射した。次いで、特定の波長の光の吸光度(吸収スペクトル)を測定し、上記試験例2の1.で導出した変換式を用いて判別値を算出した後、当該判別値と閾値とを比較して、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵であるか否かを判定した。上記式(1)で算出した判定率1を評価した結果を表5に示し、下記式(2)で算出した判定率2を評価した結果を表6に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
特定の波長の光における波長を変更しても、試験例1と同様の結果が得られた。閾値をより低い値に設定するにしたがって、判定率1はより高くなる傾向にあり、判定率2は低くなる傾向にあった。試験例2において導出した変換式は、試験例1で導出した変換式よりもR決定係数が高いため、さらにロットを増やしていくことで、より判定精度は高くなると考えられる。以上の結果から、上記試験例2で行った方法によっても、高い精度でオボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別できることが示された。
【要約】
【課題】非破壊的かつ簡便に、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する方法を提供すること。
【解決手段】殻付き鶏卵の選別方法であって、殻付き鶏卵に特定の波長の光を含む光を照射して、上記特定の波長の光の吸収量を測定する測定ステップ、上記吸収量を変換式に代入することにより判別値を算出する算出ステップ、及び上記判別値に基づいて、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵を選別する選別ステップを含み、上記変換式は、オボムコイドを含む殻付き鶏卵、及びオボムコイドを含まない殻付き鶏卵に対して、上記特定の波長の光の吸収量を測定した結果から導出された式である、オボムコイドを含まない殻付き鶏卵の選別方法。
【選択図】なし