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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-01
(45)【発行日】2024-03-11
(54)【発明の名称】DNAの検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6888 20180101AFI20240304BHJP
   C12Q 1/6895 20180101ALI20240304BHJP
   C12Q 1/6813 20180101ALI20240304BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240304BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20240304BHJP
【FI】
C12Q1/6888 Z
C12Q1/6895 Z
C12Q1/6813 Z
G01N33/53 M
C12N15/11 Z ZNA
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020147576
(22)【出願日】2020-09-02
(65)【公開番号】P2022042243
(43)【公開日】2022-03-14
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】000103840
【氏名又は名称】オリエンタル酵母工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【弁理士】
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】石丸 千晶
(72)【発明者】
【氏名】向後 佑佳子
(72)【発明者】
【氏名】野間 聡
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋介
(72)【発明者】
【氏名】久保田 元
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-263859(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第103540673(CN,A)
【文献】Food Chemistry,2014年,Vol.145,pp.1086-1091
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C12Q 1/00- 3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Genbank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験試料中の動物由来のDNAを検出する方法であって、
被験試料から抽出されたDNAを鋳型とし、
配列番号1で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号2で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号3で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、
を用いてリアルタイムPCRを行い、測定された蛍光シグナルに基づいて、前記被験試料中の動物由来のDNAを検出することを特徴とする、DNAの検出方法。
【請求項2】
前記プローブが、MGBプローブである、請求項1に記載のDNAの検出方法。
【請求項3】
前記被験試料が、食品である、請求項1又は2に記載のDNAの検出方法。
【請求項4】
配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されていることを特徴とする、動物由来DNA検出用プローブ。
【請求項5】
MGBプローブである、請求項4に記載の動物由来DNA検出用プローブ。
【請求項6】
配列番号1で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号2で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号3で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、
を備える、動物由来DNA検出用キット。
【請求項7】
被験試料中の植物由来のDNAを検出する方法であって、
被験試料から抽出されたDNAを鋳型とし、
配列番号4で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、
を用いてリアルタイムPCRを行い、測定された蛍光シグナルに基づいて、前記被験試料中の植物由来のDNAを検出することを特徴とする、DNAの検出方法。
【請求項8】
前記プローブが、MGBプローブである、請求項7に記載のDNAの検出方法。
【請求項9】
前記被験試料が、食品である、請求項7又は8に記載のDNAの検出方法。
【請求項10】
配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されていることを特徴とする、植物由来DNA検出用プローブ。
【請求項11】
MGBプローブである、請求項10に記載の植物由来DNA検出用プローブ。
【請求項12】
配列番号4で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーと、
配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、
を備える、植物由来DNA検出用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品等に含まれている動物由来のDNA又は植物由来のDNAを検出する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本においては、国民の健康危害の発生を防止する観点から、食品に含まれているアレルギー物質(アレルゲン)の表示が義務化されている。また、その表示の妥当性を科学的に検証するための検査方法が通知されている(非特許文献1)。食品に含まれているアレルギー物質の検査は、当該食品に、アレルギー物質である特定の動植物種に由来する成分が含まれているかを調べるものである。アレルギー物質の検査方法は、定量検査法と定性検査法があり、定性検査法には、ウエスタンブロット法やPCR(Polymerase Chain Reaction)法が採用されている。例えば、食物アレルギーのアレルギー物質のうち、小麦、そば、えび、かに、落花生については、PCR法が用いられている。
【0003】
PCRを用いる定性検査法では、食品から抽出されたDNAを鋳型として、検査対象である特定の動植物種に由来するDNAの特定の塩基配列領域を、特異的にPCR増幅することにより行う。得られた増幅産物は、通常、電気泳動法により分離した後に染色することによって検出されている。増幅産物が検出された場合には、鋳型としたDNA中に当該特定の動植物種に由来するDNAが含まれていた、すなわち、当該食品中に当該特定の動植物種に由来するアレルギー物質が含まれていた、と評価される。
【0004】
PCRを用いる定性検査法においては、検査対象である動植物種に由来するDNAをPCR増幅する前に、食品から抽出されたDNA試料が、PCR増幅に必要な品質を備えていることを確認しておくことが好ましい。この確認は、PCR増幅産物が検出されなかった場合に、鋳型としたDNA試料に目的の動植物由来のDNAが検出限界値未満の量しか含まれていなかったためであるのか、使用したDNA試料自体に問題があったためなのか、についての判断に役立つ。
【0005】
食品から抽出されたDNA試料の品質確認は、一般的に、当該DNA試料を鋳型として、広範囲の動植物種に由来するDNAをPCR増幅することにより行われる。検査対象である特定の動植物種のみならず、様々な動植物種に由来するDNAが含まれていることは、食品からのDNA抽出が良好に行われたことの指標となる。具体的には、食品から抽出されたDNA試料を鋳型とし、動物由来のDNAを増幅可能なプライマー又は植物由来のDNAを増幅可能なプライマーを用いてPCRを行う。
【0006】
動物由来のDNAを増幅可能なプライマーは、広範囲の動物種全般に共通し、他の生物種とは異なる遺伝子配列領域をPCR増幅するプライマーである。当該プライマーは、例えば、各種生物のミトコンドリアDNA(mtDNA)上の16S rRNA遺伝子の塩基配列を比較検討し、多数の動物種に共通しているが他の生物種とは異なっている遺伝子配列領域を選出し、当該領域をPCR増幅するようにして設計できる(特許文献1)。
【0007】
植物由来のDNAを増幅可能なプライマーは、広範囲の植物種全般に共通し、他の生物種とは異なる遺伝子配列領域をPCR増幅するプライマーである。当該プライマーは、例えば、植物の葉緑体DNA上のtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列を比較検討し、多数の植物種に共通しているが他の生物種は有していない遺伝子配列領域を選出し、当該領域をPCR増幅するようにして設計できる(非特許文献2)。
【0008】
一方で、核酸増幅には、リアルタイムPCRが広く用いられている。リアルタイムPCRでは、エンドポイントでPCR増幅産物を確認する従来のPCR法に対して、PCR産物を反応サイクルごとにモニターするため、増幅産物を定量的に測定することができ、また反応後のDNA増幅産物の検出操作が不要である。さらに、PCR産物を蛍光シグナルで検出するため、検出感度が高いといった利点もある。
【0009】
リアルタイムPCRには、主にSYBR Green法とTaqManプローブ法がある。SYBR Green法は、配列非特異的に2本鎖DNAにインターカレートする蛍光分子であるSYBR Greenの存在下でリアルタイムPCRを行う方法である。当該方法は、プローブが不要である点で簡便であるが、非特異的な増幅産物も検出されてしまう。これに対して、TaqManプローブ法は、特定の鋳型DNAに配列特異的に結合し、蛍光物質と消光物質が結合したプローブの存在下でリアルタイムPCRを行う方法であり、目的の増幅産物を特異的に検出できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4357541号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】消費者庁、「アレルギー物質を含む食品の検査方法について」、平成22年9月10日消食表第286号。
【文献】Watanabe,et al.,Journal of Food Biochemistry, 2006, vol.30(6), p.215-233.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来のエンドポイントPCRの増幅産物の確認を電気泳動法で行う場合、染色で得られた電気泳動パターンは目視により確認されるが、目視による評価では客観性に欠けるという問題がある。また、増幅産物の確認を従来の電気泳動法で行う場合、PCR後に反応チューブの蓋を開けて泳動用サンプルを回収する必要があるが、反応チューブの開閉によりコンタミネーションが起こるリスクがある。
【0013】
動物由来DNA又は植物由来DNAを増幅する増幅反応をリアルタイムPCRで行うことにより、電気泳動による増幅産物の確認が不要となり、また、蛍光シグナルによる検出であるため、目視評価よりも客観性が高い。
【0014】
そこで、本発明は、動物由来DNA又は植物由来DNAを、TaqManプローブを用いたリアルタイムPCRで増幅して検出する方法、及び当該方法で使用されるプローブを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
すなわち、本発明は、以下のDNAの検出方法等を提供するものである。
[1] 被験試料中の動物由来のDNAを検出する方法であって、被験試料から抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号1で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号3で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、を用いてリアルタイムPCRを行い、測定された蛍光シグナルに基づいて、前記被験試料中の動物由来のDNAを検出することを特徴とする、DNAの検出方法。
[2] 前記プローブが、MGBプローブである、前記[1]のDNAの検出方法。
[3] 前記被験試料が、食品である、前記[1]又は[2]のDNAの検出方法。
[4] 配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されていることを特徴とする、動物由来DNA検出用プローブ。
[5] MGBプローブである、前記[4]の動物由来DNA検出用プローブ。
[6] 配列番号1で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号2で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号3で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号6で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、を備える、動物由来DNA検出用キット。
[7] 被験試料中の植物由来のDNAを検出する方法であって、被験試料から抽出されたDNAを鋳型とし、配列番号4で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、を用いてリアルタイムPCRを行い、測定された蛍光シグナルに基づいて、前記被験試料中の植物由来のDNAを検出することを特徴とする、DNAの検出方法。
[8] 前記プローブが、MGBプローブである、前記[7]のDNAの検出方法。
[9] 前記被験試料が、食品である、前記[7]又は[8]のDNAの検出方法。
[10] 配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されていることを特徴とする、植物由来DNA検出用プローブ。
[11] MGBプローブである、前記[10]の植物由来DNA検出用プローブ。
[12] 配列番号4で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号5で表される塩基配列を有するプライマーと、配列番号7で表される塩基配列を有しており、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されているプローブと、を備える、植物由来DNA検出用キット。
【発明の効果】
【0016】
本発明において用いられるプローブは、動物又は植物の遺伝子に広く共通する領域にハイブリダイズするものである。これらのプローブを用いたリアルタイムPCRにより、被験試料中の動物由来DNA又は植物由来DNAを増幅して検出することができる。このため、本発明は、食物アレルギーの原因となる畜肉、魚介類、穀類、野菜類などに由来するDNAを検出する検査に特に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】各動物の16S rRNA遺伝子の塩基配列(前半)のアラインメント図である。
図1B】各動物の16S rRNA遺伝子の塩基配列(後半)のアラインメント図である。
図2】各植物のtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列のアラインメント図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るDNAの検出方法は、被験試料中の動物由来のDNA又は植物由来のDNAを、TaqManプローブを用いたリアルタイムPCRにより増幅して検出する方法である。リアルタイムPCRでは増幅産物をリアルタイムで検出するため、本発明においては、増幅反応後に電気泳動等による増幅産物を確認する必要がなく、作業時間を短縮できる上に、PCR増幅産物のコンタミネーションのリスクを低減できる。
【0019】
<プライマー及びプローブ>
本発明に係るDNAの検出方法において、被験試料中の動物由来のDNAを検出するために用いられるプライマー及びプローブは、様々な動物の遺伝子中で広く保存されている領域とハイブリダイズするように設計されている。特に、食物アレルギーの原因となる畜肉、魚介類等に共通する領域を標的としているため、当該プライマー及びプローブを用いることにより、食品から抽出されたDNA中の畜肉、魚介類等に由来するDNAを網羅的に増幅させることができる。
【0020】
本発明に係るDNAの検出方法において、被験試料中の植物由来のDNAを検出するために用いられるプライマー及びプローブは、様々な植物の遺伝子中で広く保存されている領域とハイブリダイズするように設計されている。特に、食物アレルギーの原因となる穀類、野菜類等に共通する領域を標的としているため、当該プライマー及びプローブを用いることにより、食品から抽出されたDNA中の穀類、野菜類等に由来するDNAを網羅的に増幅させることができる。
【0021】
本発明に係るDNAの検出方法において、動物由来のDNAの増幅に使用されるプライマーとしては、表1に記載の動物検出用F1プライマー、動物検出用F2プライマー、及び動物検出用R1プライマーを用いる(特許文献1)。植物由来のDNAの増幅に使用されるプライマーとしては、表1に記載の植物検出用F1プライマー及び植物検出用R1プライマーを用いる(非特許文献2)。これらの動物由来のDNAの増幅に使用されるプライマーは、各種生物のmtDNAの16S rRNA遺伝子の塩基配列を比較検討し、広く動物種全般に共通し、動物以外の生物種では異なっている遺伝子配列領域を選出して設計された。同様に、これらの植物由来のDNAの増幅に使用されるプライマーは、各種生物の葉緑体DNAのtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列を比較検討し、広く植物種全般に共通し、植物以外の生物種は有していない遺伝子配列領域を選出して設計された。
【0022】
【表1】
【0023】
各プライマー及びプローブは、本発明の効果を阻害しない範囲において、各種の修飾がなされていてもよい。当該修飾としては、PCRに用いられるプライマー及びプローブに一般的になされる各種の修飾を適宜用いることができる。また、当該プライマー及びプローブは、プライマー又はプローブとしての機能が損なわれない限度において、鋳型DNAとハイブリダイズするオリゴヌクレオチドの5’側に、鋳型DNAとハイブリダイズしないオリゴヌクレオチドが付加されていてもよい。また、当該プローブは、蛍光物質等で修飾されていてもよい。当該蛍光物質は、リアルタイムPCRにおける蛍光シグナルの検出を阻害しない蛍光波長であることが好ましい。
【0024】
本発明において用いられる動物検出用プローブは、様々な動物の16S rRNA遺伝子の動物検出用F1プライマーと動物検出用R1プライマー、又は動物検出用F2プライマーと動物検出用R1プライマーで挟まれた領域の塩基配列の中から、広く動物種全般に共通し、動物以外の生物種では異なっている遺伝子配列領域と特異的にハイブリダイズするように設計されている。同様に、本発明において用いられる植物検出用プローブは、様々な植物のtrnL-trnF遺伝子間領域の植物検出用F1プライマーと植物検出用R1プライマーで挟まれた領域の塩基配列の中から、広く植物種全般に共通して存在し、植物以外の生物種では存在しない遺伝子配列領域と特異的にハイブリダイズするように設計されている。各プローブの塩基配列を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
本発明において用いられる動物検出用プローブ及び植物検出用プローブは、使用するプライマーよりも塩基長が短く、融解温度(Tm)値が低い。そこで、表1に記載のプライマーと同程度のTm値となるように、Tm値を高める各種の修飾がなされていることが好ましい。当該修飾としては、例えば、MGB(Minor Groove Binder)が挙げられる。MGBは、DNA2重螺旋構造の副溝(Minor Groove)に結合する構造をもつ分子である。本発明において用いられるプローブとしては、リアルタイムPCR用のプローブとして広く用いられているMGBプローブであることが好ましい。
【0027】
本発明において用いられるプローブが有するMGBとしては、例えば、1,2-ジヒドロ-(3H)-ピロロ[3,2-e]インドール-7-カルボキサミド(CDPI3)のトリマー、N-メチルピロール-4-カルボキシ-2-アミド(MPC5)のペンタマー等の、特許第4942484号公報等に記載のものを用いることができる。MGBは、鋳型DNAとハイブリダイズする、プローブ中のオリゴヌクレオチドの5’末端又は3’末端に直接又はリンカーを介して間接的に結合させてもよく、当該オリゴヌクレオチドの内部に結合していてもよい。本発明において用いられるプローブとしては、PCRにおいてTaqポリメラーゼによる5’-ヌクレアーゼ消化に対する影響が小さいことから、鋳型DNAとハイブリダイズする、プローブ中のオリゴヌクレオチドの3’末端に直接又はリンカーを介して間接的に結合させてあるものが好ましい。
【0028】
本発明において用いられるプローブは、一方の末端が蛍光物質で修飾されており、他方の末端が消光物質で修飾されている、いわゆるTaqManプローブである。鋳型DNAとハイブリダイズする、プローブ中のオリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端のいずれに蛍光物質が結合していてもよいが、5’末端に蛍光物質が結合しており、3’末端にMGB分子と消光物質が結合しているオリゴヌクレオチドや、5’末端にMGB分子と消光物質が結合しており、3’末端に蛍光物質が結合しているオリゴヌクレオチドが好ましい。
【0029】
本発明において用いられるプローブの修飾に用いられる蛍光物質及び消光物質としては、いずれも一般的なTaqManプローブに使用されるものの中から適宜選択して用いることができる。蛍光物質としては、例えば、FAM、Texas Red、TET、HEX、Cy3、Cy5等が挙げられる。また、消光物質としては、例えば、TAMRA(6-カルボキシテトラメチルローダミン)、ROX(6-カルボキシ-X-ローダミン)、Eclipse(登録商標) Dark quencher、BHQ(Black Hole Quencher)、DABCYL等が挙げられる。
【0030】
<被験試料>
本発明に係るDNAの検出方法では、被験試料から抽出されたDNAを鋳型とする。当該被験試料としては、動物由来DNA又は植物由来DNAが含まれているか否かを調べる必要があるものであれば特に限定されるものではない。本発明において用いられるプローブ及びプライマーは、特に、食物アレルギーの原因となる動物や植物に由来するDNAを特異的に増幅可能であることから、当該被験試料は、ヒトを含む各種の動物が使用等する、アレルギー物質の有無が問題となるものであることが好ましく、特に食品が好ましい。当該食品としては、生若しくは加熱した食品原料、添加物、加工食品、調味料、飲料等が挙げられる。食品原料としては、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉;さけ、さば、かれい、いわし、たこ、えび、いか、かに、いくら、あわび等の魚介類;米、小麦、そば等の穀類;じゃがいも等のいも類;大豆;落花生、カシューナッツ、くるみ、ごま等の種実類;にんじん、ほうれんそう、きゅうり、たまねぎ等の野菜類;オレンジ、キウイフルーツ、バナナ、もも、りんご等の果実類;まつたけ、マッシュルーム等のきのこ類;青のり等の海藻類;緑茶、コーヒー、ココア等の嗜好性飲料の原料;等が挙げられる。本発明はPCR法を用いるため、微量のDNAが存在すれば検出可能であり、主原料の一部に混入した動物性又は植物性の原料等の検出にも使用可能である。
【0031】
PCR法を用いた検査では、検査に供されるDNAの品質は、検査結果の信頼性に大きく影響する。例えば、食品から抽出されたDNAがひどく損傷していた場合には、当該食品中にアレルゲンとなる特定の動植物の細胞や組織等が含まれていた場合でも、当該特定の動植物由来DNAを検出可能なプライマーを用いたPCRによって目的の大きさの増幅断片が得られないことがある。このため、目的の増幅産物が得られなかった場合に、被験試料中に目的のDNAが存在していなかったのか、それとも被験試料のDNAの品質に問題があったのか、を判断する必要がある。
【0032】
本発明に係るDNAの検出方法は、PCR法を用いた特定の動植物の食品への混入検査の検査対象となるDNAの品質保証にも使用できる。被験試料から抽出されたDNAに対して本発明に係るDNAの検出方法を行い、目的とする増幅産物が検出された場合には、当該DNAには、少なくともPCRに反応可能な状態にある動物由来DNA又は植物由来DNAが存在していることが確認できる。つまり、本発明に係るDNAの検出方法によって当該検査に供される被験試料中の動物DNA又は植物DNAの存在の有無を確認しておくことにより、検査に供されるDNAの品質が保証され、検査の信頼性を高めることができる。このため、本発明に係るDNAの検出方法は、食品の原料製造会社や加工製造会社等、異物分析業者等で利用が可能である。
【0033】
<被験試料からのDNA抽出>
被験試料からのDNA抽出は、一般的な既知のDNA抽出法や市販の各種DNA抽出キット[例えば、Nucleon PhytoPure,plant and fungal DNA extraction kits(Amersham Biosciences Corp.,USA)、GM quicker 4(Nippon Gene Co.Ltd.,Japan)、DNeasy Plant Mini Kit(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)等]を用いて実施することができる。これらのDNA抽出法により、ゲノムDNA及び細胞小器官由来DNA(mtDNAや葉緑体DNA)を被験試料から抽出できる。中でも、被験試料が食品の場合には、非特許文献1に記載の方法又はこれに準じて行うことが好ましい。
【0034】
<リアルタイムPCR>
動物由来DNAを検出する場合には、被験試料から抽出されたDNAと、動物検出用F1プライマー、動物検出用F2プライマー、動物検出用R1プライマー、及び動物検出用プローブを含有させた反応液を調製し、当該反応液をリアルタイムPCR装置に設置して常法によりリアルタイムPCRを行う。動物検出用F1プライマーと動物検出用F2プライマーは、リアルタイムPCRの反応液中に等モル量となるように添加する。同様に、植物由来DNAを検出する場合には、被験試料から抽出されたDNAと、植物検出用F1プライマー、植物検出用R1プライマー、及び植物検出用プローブを含有させた反応液を調製し、当該反応液をリアルタイムPCR装置に設置して常法によりリアルタイムPCRを行う。
【0035】
リアルタイムPCRでは、アニーリングにおいて動物検出用プローブ又は植物検出用プローブが目的とする増幅産物にハイブリダイズし、その後の伸長反応において当該プローブが加水分解され、蛍光物質が消光物質から分離して蛍光を発する。この遊離した蛍光物質からの蛍光シグナルがリアルタイムPCR装置の検出システムによってサイクル毎にモニターされる。この測定された蛍光シグナルに基づいて、動物由来DNA又は植物由来DNAを検出できる。
【0036】
このリアルタイムPCRにより、動物由来DNA又は植物由来DNAの増幅産物が得られる。動物由来DNAの増幅産物は、生物種や被験試料ごとに異なるものの、おおよそ350~470bpである。植物由来DNAの増幅産物は、生物種や被験試料ごとに異なるものの、おおよそ120~130bpである。
【0037】
本発明に係るDNAの検出方法により得られた増幅産物の塩基配列を一般的な方法で解析することにより、さらに詳細に生物種の同定を行うこともできる。塩基配列の解析は、一般的なDNAシークエンサー及びNCBI等の公共のデータベースを用いて常法により解析可能である。
【0038】
<検出用キット>
本発明に係るDNAの検出方法において、動物由来DNAの検出に用いられる動物検出用F1プライマー、動物検出用F2プライマー、動物検出用R1プライマー、及び動物検出用プローブをまとめてキット化することが好ましい。同様に、植物由来DNAの検出に用いられる植物検出用F1プライマー、植物検出用R1プライマー、及び植物検出用プローブをまとめてキット化することが好ましい。これらのキットにより、各方法をより簡便に実施することができる。さらに、これらのキットは、リアルタイムPCRを行うためのTaqDNAポリメラーゼ、dNTP、反応バッファー等を含むことが好ましい。
【実施例
【0039】
次に実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
<DNAの抽出>
以降の実験において、被験試料からの動物由来DNAの抽出には、市販の抽出キット「GM quicker 4」(Nippon Gene Co.Ltd.,Japan)を使用した。また、植物由来DNAの抽出には、市販の抽出キット「DNeasy Plant Mini Kit」(Qiagen GmbH,Hilden,Germany)を使用した。抽出方法は、いずれもプロトコルに従った。
【0041】
<プライマー及びプローブ>
以降の実験において、動物由来DNAを検出するためのリアルタイムPCRには、表1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(動物検出用F1プライマー、動物検出用F2プライマー、及び動物検出用R1プライマー)を用いた。植物由来DNAを検出するためのリアルタイムPCRには、表1に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチド(植物検出用F1プライマー、及び植物検出用R1プライマー)を用いた。
【0042】
以降の実験において、リアルタイムPCRで使用するプローブとしては、5’末端をFAMで標識し、3’末端をMGBとEclipseで修飾したオリゴヌクレオチドを用いた。
【0043】
<リアルタイムPCR>
以降の実験において、リアルタイムPCRは以下の方法で行った。
PCR反応組成液(動植物共通)は、1μLのDNA(20ng/μL)、12.5μLの「TaqMan Universal PCR Master Mix」(Applied Biosystems Corp.,USA)、0.25μLの各プライマー(50μM)(ただし、動物由来DNAの検出の場合には、0.125μLの動物検出用F1プライマー、0.125μLの動物検出用F2プライマー、0.25μLの動物検出用R1プライマー(いずれも50μM))、及び0.5μLのプローブ(10μM)を加え、さらに反応液の液量が25μLとなるように超純水を添加した。また、抽出したDNAの濃度が20ng/μLに満たない場合は、抽出DNA溶液原液1μLを使用した。
【0044】
調製した反応液を、96ウェルPCRプレートに注入し、当該プレートをリアルタイムPCR装置「7900HT Fast Real Time PCR System」(Applied Biosystems Corp.,USA)にセットし、リアルタイムPCRを行った。動物由来DNAの検出のためのPCRでは、50℃で2分間、95℃で10分間を各1回行った後、95℃で15秒間の変性ステップ、55℃15秒間のアニーリングステップ、60℃1分間のDNA伸長ステップを含むサイクルを、50回繰り返した。植物由来DNAの検出のためのPCRでは、50℃で2分間、95℃で10分間を各1回行った後、95℃で15秒間の変性ステップ、60℃で1分間のアニーリング・DNA伸長ステップを含むサイクルを、50回繰り返した。
【0045】
反応終了後、各ウェルの反応液について、それぞれの伸長ステップ後に取得した蛍光データを解析した。解析は、ベースラインを3-15サイクル、閾値を0.2として行った。Ct値(相対蛍光量が閾値に達したサイクル数)が43以下のDNA試料について、当該DNA試料は目的の増幅産物が得られて検出できた、と判定した。
【0046】
[実施例1]
食品原料となる様々な動植物について、表1に記載のプライマーによって増幅される遺伝子領域にプローブを設計した。動物検出用プローブはmtDNAの16S rRNA遺伝子の塩基配列を、植物検出用プローブは葉緑体DNAのtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列を比較検討して、設計した。設計したプローブを用いてリアルタイムPCRで各動植物由来のDNAが検出できるかを調べた。
【0047】
動物検出用プローブの設計は、食品原料となる13品目(さけ、さば、かれい、牛肉、豚肉、鶏肉、たこ、えび、いか、かに、いくら、いわし、あわび)の増幅領域の塩基配列を比較し、より多くの動物種で共通する4つの領域を、プローブの候補領域とした。植物検出用プローブの設計は、食品原料となる24品目(米、小麦、そば、じゃがいも、大豆、落花生、カシューナッツ、くるみ、ごま、にんじん、ほうれんそう、きゅうり、たまねぎ、オレンジ、キウイフルーツ、バナナ、もも、りんご、まつたけ、マッシュルーム、青のり、緑茶、コーヒー、ココア)の増幅領域の塩基配列を比較し、より多くの植物種で共通する4つの領域を、プローブの候補領域とした。動物の16S rRNA遺伝子の塩基配列、及び植物のtrnL-trnF遺伝子間領域の塩基配列は、DDBJデータベースに登録されているものを用いた。各候補プローブの領域と塩基配列を図1A図1B図2、及び表3に示す。なお、M1プローブ、M4プローブ、及びP4プローブは、図に示す領域の相補鎖配列である。
【0048】
【表3】
【0049】
食品原料検体37品目(動物13品目、植物24品目)について、それぞれDNAを抽出し、表1に記載のプライマー、及び表3に記載の塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをFAM、MGB、及びEclipseで修飾したプローブを用いて、リアルタイムPCRを行った。M1~M4プローブを使用する反応では、表1に記載の動物検出用F1プライマー、動物検出用F2プライマー、及び動物検出用R1プライマーを用い、P1~P4プローブを使用する反応では、表1に記載の植物検出用F1プライマー及び植物検出用R1プライマーを用いた。各プライマー及びプローブは、ユーロフィンジェノミクス株式会社で合成されたものを使用した。結果を表4及び5に示す。表中、「〇」は増幅産物が検出されたことを、「×」は増幅産物が検出されなかったことを示す。また、「検出率(%)」は、増幅産物が検出された食品原料の割合を示す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
図1A図1B、及び図2に示すように、いずれのプローブも動物種間又は植物種間で広く保存されている領域に設計した。しかし、検出率はプローブごとに大きく異なった。動物由来DNAの検出においては、M1プローブは全ての動物種で増幅産物が検出されたのに対して、残る3種のプローブは検出率がいずれも80%未満であり、検出できない動物が多かった(表4)。植物由来DNAの検出においては、P1プローブは全ての植物種で増幅産物が検出されたのに対して、残る3種のプローブは検出率が非常に低く、特にP2プローブを用いたリアルタイムPCRでは、いずれの植物も検出できなかった(表5)。この結果、動物由来DNAの検出はM1プローブが、植物由来DNAの検出はP1プローブが最適であることが確認された。
【0053】
次に、M1プローブと動物検出用F1プライマーと動物検出用F2プライマーと動物検出用R1プライマーとを用いた動物DNA検知系を用いて、表5に記載の植物24品目に対して同様にリアルタイムPCRを行い、当該検出系の特異性を確認した。その結果を表5に示す。また、P1プローブと植物検出用F1プライマーと植物検出用R1プライマーとを用いた植物DNA検出系を用いて、表4に記載の動物13品目に対して同様にリアルタイムPCRを行い、当該検出系の特異性を確認した。その結果を表4に示す。この結果、いずれの検出系においても検出率は0%であり、M1プローブを用いた動物DNA検知系及びP1プローブを用いた植物DNA検知系は、それぞれ動物由来DNA及び植物由来DNAに特異的であることが確認された。
【0054】
次に、動物検体2品目(牛肉、えび)及び植物検体2品目(大豆、カシューナッツ)から抽出したDNAを表6に記載の濃度に段階希釈し、それぞれM1プローブを用いた動物DNA検知系及びP1プローブを用いた植物DNA検知系を用いてリアルタイムPCRを行い、検出下限値を調べた。その結果を表6に示す。表中、「〇」は増幅産物が検出されたことを、「×」は増幅産物が検出されなかったことを、「-」は未検討を、それぞれ示す。
【0055】
【表6】
【0056】
この結果、M1プローブを用いた動物DNA検知系の検出下限値は、牛肉が1pg/μL、えびが5pg/μLであった。また、P1プローブを用いた植物DNA検知系の検出下限値は、大豆が50pg/μL、カシューナッツが1pg/μLであった。
【0057】
以降の実施例において、M1プローブを動物検出用プローブ、P1プローブを植物検出用プローブとした。
【0058】
[実施例2]
表7及び表8に記載の加工食品について、DNAを抽出し、実施例1の動物検出用プローブを用いた動物DNA検知系及び植物検出用プローブを用いた植物DNA検知系を用いて、実施例1と同様にリアルタイムPCRを行った。表7に記載の加工食品については動物検出用プローブを用いた動物DNA検知系で、表8に記載の加工食品については植物検出用プローブを用いた植物DNA検知系を用いた。その結果を表7及び8に示す。表中、「〇」は増幅産物が検出されたことを、「×」は増幅産物が検出されなかったことを示す。
【0059】
【表7】
【0060】
【表8】
【0061】
動物検出用プローブを用いた動物DNA検知系は、動物検体を含む加工食品11品目のうち、10品目で動物由来DNAを検出した(表7)。また、植物検出用プローブを用いた植物DNA検知系は、植物検体を含む加工食品15品目のうち、14品目で植物由来DNAを検出した(表8)。動物の加工食品検体のうち、「さば水煮」から動物由来DNAが検出されなかったのは、缶詰であり、加工時の加熱処理によって動物由来DNAが分解したためと推察された。また、植物の加工食品検体のうち、「即席 松茸お吸い物」から植物由来DNAが検出されなかったのは、フリーズドライであり、抽出されたDNAがPCRに適していなかったためと推察された。
図1A
図1B
図2
【配列表】
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