(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-19
(45)【発行日】2024-03-28
(54)【発明の名称】最適化装置、評価装置、それらの方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 10/00 20220101AFI20240321BHJP
【FI】
G06N10/00
(21)【出願番号】P 2020169560
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2023-01-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)開催日 2020年2月8日~9日(公開日:2020年2月9日) (2)集会名、開催場所 IPA独立行政法人 情報処理推進機構 未踏ターゲット事業成果報告会 富士ソフトアキバプラザ 6階 セミナールーム(東京都千代田区神田練塀町3)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度 国立研究開発法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業ERATO中村巨視的量子機械プロジェクト 産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの。平成30年度 文部科学省、国家課題対応型研究開発推進事業光・量子飛躍フラッグシッププログラム(Q-LEAP)量子情報処理領域[Flagship]超伝導量子コンピュータの研究開発 産業技術力強化法第17条の適用を受けるもの。
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100121706
【氏名又は名称】中尾 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128705
【氏名又は名称】中村 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100147773
【氏名又は名称】義村 宗洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 泰成
(72)【発明者】
【氏名】部谷 謙太郎
(72)【発明者】
【氏名】田渕 豊
(72)【発明者】
【氏名】中村 泰信
【審査官】石坂 知樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-503796(JP,A)
【文献】特表2019-517069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートを最適化する最適化装置であって、
前記入力量子状態を表す情報の定義域空間から前記出力量子状態を表す情報の値域空間への写像について、前記定義域空間の部分空間である入力部分空間から前記値域空間の部分空間である出力部分空間への部分写像を得る部分写像生成部と、
前記入力部分空間に属する部分入力情報によって表される試行入力量子状態の量子ビットに対して試行制御情報に基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、前記出力部分空間に属する演算結果と、前記部分入力情報の前記部分写像による像と、の間の距離が小さくなるように前記試行制御情報を更新する更新部と、
を有する最適化装置。
【請求項2】
請求項1の最適化装置であって、
前記更新部は、
前記定義域空間から、前記値域空間における前記出力部分空間の補空間への写像による像、および、
前記定義域空間における前記入力部分空間の補空間から、前記値域空間への写像による像、
を考慮することなく、前記試行制御情報を更新する、最適化装置。
【請求項3】
請求項1または2の最適化装置であって、
前記入力部分空間は前記定義域空間の一部であり、
前記出力部分空間は前記値域空間の一部である、最適化装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れかの最適化装置であって、
前記入力部分空間は前記定義域空間の一部の次元の元から構成される部分空間であり、および/または、前記出力部分空間は前記値域空間の一部の次元の元から構成される部分空間である、最適化装置。
【請求項5】
入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートの忠実度を評価する評価装置であって、
前記入力量子状態を表す情報の定義域空間から前記出力量子状態を表す情報の値域空間への写像について、前記定義域空間の部分空間である入力部分空間から前記値域空間の部分空間である出力部分空間への部分写像を得る部分写像生成部と、
前記入力部分空間に属する部分入力情報によって表される試行入力量子状態の量子ビットに対して評価対象制御情報に基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、前記出力部分空間に属する演算結果と、前記部分入力情報の前記部分写像による像と、の間の距離に基づく忠実度を得る評価部と、
を有する評価装置。
【請求項6】
入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートを最適化する最適化方法であって、
前記入力量子状態を表す情報の定義域空間から前記出力量子状態を表す情報の値域空間への写像について、前記定義域空間の部分空間である入力部分空間から前記値域空間の部分空間である出力部分空間への部分写像を得る部分写像生成ステップと、
前記入力部分空間に属する部分入力情報によって表される試行入力量子状態の量子ビットに対して試行制御情報に基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、前記出力部分空間に属する演算結果と、前記部分入力情報の前記部分写像による像と、の間の距離が小さくなるように前記試行制御情報を更新する更新ステップと、
を有する最適化方法。
【請求項7】
入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートの忠実度を評価する評価方法であって、
前記入力量子状態を表す情報の定義域空間から前記出力量子状態を表す情報の値域空間への写像について、前記定義域空間の部分空間である入力部分空間から前記値域空間の部分空間である出力部分空間への部分写像を得る部分写像生成ステップと、
前記入力部分空間に属する部分入力情報によって表される試行入力量子状態の量子ビットに対して評価対象制御情報に基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、前記出力部分空間に属する演算結果と、前記部分入力情報の前記部分写像による像と、の間の距離に基づく忠実度を得る評価ステップと、
を有する評価方法。
【請求項8】
請求項1から4の最適化装置または請求項5の評価装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子計算技術に関し、特に量子ゲートの忠実度の評価に関する。
【背景技術】
【0002】
量子計算機は量子論に基づく量子ビットと呼ばれる基本要素からなる計算機である。量子計算機は様々な計算タスクを従来の計算機に比べ効率的に実施するため、現在大きな注目を集めるとともに、盛んに開発が進んでいる。量子計算機を用いて有用な計算を行うためには、量子ビットに作用して量子ビットの状態を更新する量子ゲートと呼ばれる操作を行わなければいけない。すなわち、量子ゲートとは任意の量子ビットの状態の入力を、所望の別の状態に移す写像である。現実の量子計算機ではノイズが生じるため、実現可能な量子ゲートの構成には限りがあり、また理想的な量子ゲートと現実の量子ゲートを一致させることは容易でない。このため、理想的な量子ゲートにできるだけ近い量子ゲートを構成する手法が世界中で研究されている。
【0003】
量子ゲートがどの程度理想に近く作られたかを表す指標は忠実度(fidelity)と呼ばれる。量子ゲートの忠実度には様々な定義があるが、典型的には次のように評価される。量子ゲートは、有限な数の量子状態をどのような量子状態に移すか、すなわち写像を表した行列(例えば、パウリ転送行列のような実行列)で一意に特徴づけられる。理想的な量子ゲートを表す行列の各要素は数値計算により容易に求まる。一方、物理的に実現されている量子ゲートを表す行列を得るには、実験を通して当該行列の個々の要素を把握する必要がある。行列のサイズは、量子ゲートが作用する量子ビットの数に対して指数関数的に増大するため、この行列の要素をすべて把握するのに要する実験時間は量子ビットの数に対して指数関数的に増大する。量子ゲートの忠実度は、典型的には、理想的な量子ゲートを表す行列と現在実現している量子ゲートを表す行列の間に何らかの距離の尺度を定義することで表現される。例えば、現在の量子ゲートを表す行列が理想的な量子ゲートを表す行列と一致する場合に1となり、理想的な量子ゲートを表す行列から離れるほど小さくなる1以下の非負の値となるように量子ゲートの忠実度が設計される。
【0004】
忠実度が高くなるように物理的な量子ゲートを実現する代表的な手法の一つが「変分法」を用いて量子ゲートを決定付ける情報(以下、「試行制御情報」と呼ぶことにする)を変化させていく手法である(例えば、非特許文献1参照)。この手法は以下のようなものである。試行制御情報をいくつかのパラメータ(例えば、実数パラメータ)θmの集合Θ=(θ1,...,θM)で特徴づける。ただし、Mは1以上の整数であり、m=1,...,Mである。Θで特徴づけられる試行制御情報に従った物理的な量子ゲートの忠実度をF(Θ)とする。F(Θ)を計算した後、忠実度が高くなるようにパラメータの集合Θを更新していく。この忠実度の評価とパラメータの集合Θの更新は、所定の終了条件を満たすまで繰り返される。繰り返しが終了したら、その際のパラメータの集合Θが結果として出力される。
【0005】
上記の手法では、どのような量子系の量子ビットを用いるか、どのような試行制御情報を用いるか、どのような行列を用いるか、どのようにパラメータの集合Θを定義するか、F(Θ)に加えてF(Θ)の勾配を計算するか、得られたF(Θ)からどのようにパラメータを更新するかなど、細部に関し細かな派生が存在する。しかし、実験で忠実度に関する情報の評価を行い、試行制御情報を特徴づけるパラメータの集合Θを逐次的に更新していく点で同一である。この手法により、一般的に忠実度の高い量子ゲートを構築することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Navin Khanejaa, Timo Reissb, Cindie Kehletb, Thomas Schulte-Herbruggenb, Steffen J. Glaserb, "Optimal control of coupled spin dynamics: design of NMR pulse sequences by gradient ascent algorithms," Journal of Magnetic Resonance 172 (2005) 296-305.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の量子ゲートの忠実度を向上させる枠組みは汎用的に使えるもののいくつかの問題があり、利用する上での問題となっていた。第一に、量子ビットの数が多くなると、F(Θ)を評価するために必要な実験回数が大幅に増えてしまい、現実的な時間で実験ができなくなってしまう場合がある。第二に、どのようなパラメータの集合Θを採用しても十分な忠実度が得られない状況もありうる。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みてなされたものであり、従来よりも少ない実験回数で物理的な量子ゲートの忠実度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では、入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートを次のように最適化する。まず、入力量子状態を表す情報の定義域空間から出力量子状態を表す情報の値域空間への写像について、定義域空間の部分空間である入力部分空間から値域空間の部分空間である出力部分空間への部分写像を得る。次に、入力部分空間に属する部分入力情報によって表される試行入力量子状態の量子ビットに対して試行制御情報に基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、出力部分空間に属する演算結果と、部分入力情報の部分写像による像と、の間の距離が小さくなるように試行制御情報を更新する。
【発明の効果】
【0010】
これにより、従来よりも少ない実験回数で物理的な量子ゲートの忠実度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は実施形態の最適化システムを例示するためのブロック図である。
【
図2】
図2は実施形態の量子計算装置を例示するための概念図である。
【
図3】
図3は実施形態の最適化方法を例示するためのフロー図である。
【
図4】
図4Aは量子ゲートを例示するための概念図である。
図4Bは緩和が加わった量子ゲートを例示するための概念図である。
【
図5】
図5Aはトフォリ(Toffoli)ゲートの全域写像を例示するための図である。
図5Bは緩和が加わったトフォリゲートの部分写像を例示するための図である。
【
図6】
図6は実施形態の評価システムを例示するためのブロック図である。
【
図7】
図7は実施形態の評価方法を例示するためのフロー図である。
【
図8】
図8は実施形態のハードウェア構成を例示するためのブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
[第1実施形態]
本実施形態では、忠実度を向上させる目的の量子ゲートgの入出力量子状態に制限を課すことで、従来よりも少ない実験回数で量子ゲートの忠実度を向上させる。前述のように量子ゲートとは、量子ビットの任意の入力量子状態を当該入力量子状態に対応する所望の出力量子状態に変換するものである。すなわち、量子ゲートgの入力量子状態を表す情報(例えば、複素行列などの行列)の定義域を定義域空間S
Dと表現し、当該量子ゲートの出力量子状態を表す情報(例えば、複素行列などの行列)の値域を値域空間S
Rと表現すると、量子ゲートgは定義域空間S
Dから値域空間S
Rへの写像(全域写像)f:S
D→S
Rで表現できる。しかし実用上、定義域空間S
Dの任意の元で表される入力量子状態が量子ゲートに入力され、当該量子ゲートgから値域空間S
Rの任意の元で表される出力量子状態が出力されることが求められることは多くない。そこで、本実施形態では、目的の量子ゲートgの入力量子状態および出力量子状態が、定義域空間S
Dおよび値域空間S
Rの実用的な部分空間I⊆S
DおよびO⊆S
Rに限られているとする。すなわち、量子ゲートgを表す写像f:S
D→S
Rに対し、定義域空間S
Dの部分空間(入力部分空間)I⊆S
Dから値域空間S
Rの部分空間(出力部分空間)O⊆S
Rへの部分写像f':I→Oを定義する。ただし、入力部分空間Iが定義域空間S
Dを制約した真部分空間(定義域空間S
Dの一部)であるか(I⊂S
D)、出力部分空間Oが値域空間S
Rを制約した真部分空間(値域空間S
Rの一部)であるか(O⊂S
R)、またはI⊂S
DかつO⊂S
Rである。I⊂S
Dの場合、IはS
Dの一部の次元の元から構成された部分空間であってもよいし、S
Dの各次元の要素の範囲が制限された部分空間であってもよいが、前者の方がより少ない実験回数で量子ゲートの忠実度を向上させることができる。同様に、O⊂S
Rの場合、OはS
Rの一部の次元の元から構成された部分空間であってもよいし、S
Rの各次元の要素の範囲が制限された部分空間であってもよいが、前者の方がより少ない実験回数で量子ゲートの忠実度を向上させることができる。ここで、入力部分空間Iに影響を及ぼさない(入力部分空間Iの要素を変化させない)が入力部分空間I以外の空間に任意のノイズを許容する緩和演算子D
Iを定義できる。同様に、出力部分空間Oに影響を及ぼさない(出力部分空間Oの要素を変化させない)が出力部分空間O以外の空間に任意のノイズを許容する緩和演算子D
Oを定義できる。また、入出力量子状態に緩和演算子D
Iを作用させ、緩和演算子D
Iから出力された量子状態に量子ゲートgを作用させ、量子ゲートgから出力された量子状態に緩和演算子D
Oを作用させる量子ゲートを、緩和が加わった量子ゲートをD
I〇g〇D
Oと表現する。例えば、
図4Aに例示する量子ゲートgでは、S
DがN次元(Nは2以上の整数)の要素IN
1,...,IN
Nからなる空間であり、S
RがN次元の要素OUT
1,...,OUT
Nからなる空間であり、量子ゲートgは写像f:(IN
1,...,IN
N)→(OUT
1,...,OUT
N)で表される。これに対し、
図4Bで例示する緩和が加わった量子ゲートをD
I〇g〇D
Oは、I⊂S
DかつO⊂S
Rであり、部分写像f':I→Oで表される。量子ゲートD
I〇g〇D
Oは、入出力状態が入力部分空間Iの情報で表される入力量子状態および出力部分空間Oの情報で表される出力量子状態の場合にのみ、写像fで表される目的の量子ゲートgと区別できない。一方、入力部分空間I以外の情報で表される入力量子状態および出力部分空間O以外の情報で表される出力量子状態に対しては、量子ゲートD
I〇g〇D
Oの動作は定義されていない。実用上、入力部分空間Iの情報で表される入力量子状態および出力部分空間Oの情報で表される出力量子状態について使用される限り、量子ゲートD
I〇g〇D
Oは目的の量子ゲートgと同等であって問題は生じない。なお、量子ゲートgを表す写像f、量子ゲートD
I〇g〇D
Oを表す部分写像f'、緩和演算子D
I,D
Oは、それぞれパウリ転送行列(例えば、参考文献1等参照)などの行列によって表現できる。なお、パウリ転送行列はサイズ4
n×4
nの実行列である。ただし、nは1以上の整数であり、量子ビットの個数を表す。以降、パウリ転送行列をVと表し、パウリ転送行列Vのij成分をV
ijと表す。各量子ビットの状態を表す密度行列はパウリ演算子と実数係数との積和として表現できる複素行列であり、パウリ転送行列Vのij成分V
ijは、入力側のパウリ演算子P
jを、出力側のパウリ演算子P
iに転写する係数となる。つまり、P
jにパウリ転送行列Vを表現として持つような量子ゲートUを作用させると、出力として以下のP
iを得る。
P
i = Σ
j V
ij P
j
ここで、入力された量子状態のサイズ2
n×2
nの密度行列rhoを、以下のようにパウリ演算子P
kと実数係数c
kとの積和で表す。
rho = Σ
k c
k P
k
すると、入量子状態は実数係数c
kを要素とするサイズ4
nの実ベクトルcに対応する。このように入力量子状態の密度行列をパウリ演算子基底で表現したものを拡張版状態ベクトルとみなす。このとき、パウリ転送行列Vで表される量子ゲートを、拡張版状態ベクトルcに対応する入力量子状態に作用させると、出力量子状態に対応する拡張版状態ベクトルdはパウリ転送行列Vを拡張版状態ベクトルcに作用させたもの、すなわちd=Vcとなる。ただし、dはサイズ4
nの実ベクトルであり、出力量子状態の密度行列をパウリ演算子基底で表現したものである。
参考文献1:Daniel Greenbaum, "Introduction to Quantum Gate Set Tomography," arXiv:1509.02921, September 9, 2015.
一般に、部分写像f'を表す行列の要素のうち最適化すべき要素は、入力部分空間I⊆S
Dを出力部分空間O⊆S
Rに写すために必要な要素のみである。そのため、部分写像f'を表す行列の要素のうち最適化すべき要素は、写像fを表す行列の要素数よりも少ない。したがって、量子ゲートD
I〇g〇D
Oの忠実度F(Θ)を評価するために必要な実験回数(実験時間)は、量子ゲートgの忠実度F(Θ)を評価するために必要な実験回数(実験時間)よりも少ない。また量子ゲートD
I〇g〇D
Oは量子ゲートgよりも最適化すべき要素数が少ないため、量子ゲートD
I〇g〇D
Oの方が量子ゲートgよりもパラメータの集合Θの最適解を得やすい。すなわち、量子ゲートD
I〇g〇D
Oの忠実度F(Θ)を向上させる方が量子ゲートgの忠実度F(Θ)を向上させるよりも容易である。このように本実施形態では、従来よりも少ない実験回数で物理的な量子ゲートの忠実度を向上させることができる。特に、I⊂S
DかつO⊂S
Rである場合、量子ゲートの入力状態だけではなく、量子ゲートの機能をも実用的な範囲に制限でき、より大きな効果が期待できる。以降、本実施形態を詳細に説明する。
【0013】
<構成>
図1に例示するように、本実施形態の最適化システム1は、入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートを最適化する最適化装置11、および、物理的な量子操作を行う量子計算装置12を有する。最適化装置11は、制御部110、試行制御情報初期化部111、記憶部112,115、入力部113、部分写像生成部114、操作内容設定部116、損失・勾配導出部117、更新部118、および出力部119を有し、制御部110の制御に従って各処理を実行する。最適化装置11は、例えばコンピュータ(例えば、古典コンピュータ)に所定のプログラムが読み込まれることで構成される装置である。
【0014】
図2に例示するように、量子計算装置12は、n個の量子ビット121-1,…,121-n、量子操作部122、および観測部123を有する。ただし、nは1以上の整数である。量子ビット121-i(ただし、i=1,…,n)は、例えば超伝導素子、イオン、原子、人工原子、光子などの物質で構成される。量子操作部122は、量子操作内容を表す試行制御情報に基づいて量子ビット121-1,…,121-nの量子状態を操作する。これによって量子ゲートが物理的に実現される。例えば、量子ビット121-1,…,121-nが超伝導素子、イオン、原子、人工原子などを用いて構成される場合、量子操作部122は、試行制御情報に基づいて成形された電磁波パルスを量子ビット121-1,…,121-nを構成する物質に照射することで当該電磁波パルスの形状に応じた量子ゲートを実現する。例えば、量子ビット121-1,…,121-nが光子を用いて構成される場合、量子操作部122は、試行制御情報に基づいてビームスプリッタやミラーなどの光学素子の光学特性などを操作することで当該光学特性などに応じた量子ゲートを実現する。従って、忠実度の高い量子ゲートを実現することは、高い忠実度を実現するための電磁波パルスの形状や光学素子の光学特性などを表す試行制御情報を生成することに対応する。
【0015】
<方法>
図3を用い、入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートgの最適化方法を例示する。
【0016】
まず試行制御情報初期化部111が、上述した試行制御情報νを所定の初期状態に初期化し、試行制御情報νを特定する実数のパラメータθmの集合Θ=(θ1,...,θM)を記憶部112に格納する。ただし、Mは1以上の整数であり、m=1,...,Mである(ステップS111)。
【0017】
入力部113に、上述した入力部分空間Iおよび出力部分空間Oを特定する情報が入力される。例えば、入力部分空間Iおよび出力部分空間Oは、それぞれ実用上利用される定義域空間SDおよび値域空間SRの部分空間である。例えば、d=2nであり、SDおよびSRはN=d×d個の要素を持つ行列で表現される。IおよびOの例は前述した通りであり、例えば、IはSDを表す行列の一部の要素からなる部分空間であり、OはSRを表す行列の一部の要素からなる部分空間である。入力部分空間Iおよび出力部分空間Oを特定する情報は部分写像生成部114に送られる(ステップS113)。
【0018】
部分写像生成部114は、量子ゲートgの入力量子状態を表す情報の定義域空間S
Dから出力量子状態を表す情報の値域空間S
Rへの(全域)写像f:S
D→S
Rについて、入力部分空間I⊆S
Dから出力部分空間O⊆S
Rへの部分写像f':I→Oを得て出力する。例えば、部分写像生成部114は、緩和が加わった量子ゲートD
I〇g〇D
Oを表す部分写像f'を得て出力する。前述のように、例えば、D
I,g,D
Oはそれぞれパウリ転送行列のような行列で表現され、量子ゲートgを表す写像fおよび量子ゲートD
I〇g〇D
Oを表す部分写像f'もパウリ転送行列のような行列で表現される。写像fおよび部分写像f'は数値計算によって容易に取得可能である。
図5Aおよび
図5Bに、量子ゲートgの一例であるトフォリゲートを表す写像fおよび部分写像f'を例示する。
図5Aおよび
図5Bの縦軸は写像fの定義域空間S
Dの各元が表す値INを表す。
図5Aの横軸は写像fによる値INの像OUTを例示し、
図5Bの横軸は部分写像f'による値INの像OUTを例示している。値INと像OUTの組は-1.00から1.00の範囲に正規化された確率の分布で示され、負の確率は位相が反転した確率を表す。確率は色の濃淡で示され、明るい色の領域ほど高い確率値を示している。
図5Bは
図5Aに比べて確率1.00の領域(色が明るい領域)が少なく、部分写像f'によって表されるトフォリゲートの入力および出力の空間が、写像fによって表されるトフォリゲートの入力および出力の空間よりも制約されていることが分かる。さらに部分写像生成部114は、量子計算装置12による忠実度推定実験の初期状態αおよび観測基底βを定める。例えば、部分写像生成部114は、部分写像f'を表す行列(例えば、パウリ転送行列)の要素から、直接忠実度推定(例えば、参考文献2)を用いて初期状態αおよび観測基底βを定める。
参考文献2:Steven T. Flammia and Yi-Kai Liu, "Direct Fidelity Estimation from Few Pauli Measurements," Physical Review Letters 106, 230501 (2011).
部分写像f'、初期状態αを特定する情報、および観測基底βを特定する情報は、記憶部115に格納される(ステップS114)。
【0019】
操作内容設定部116は、記憶部115から部分写像f'、初期状態αを特定する情報、および観測基底βを特定する情報を読み込み、記憶部112からパラメータの集合Θを読み込む。操作内容設定部116は、初期状態αを特定する情報を用いて入力部分空間Iに属する部分入力情報x∈Iによって表される試行入力量子状態ρを設定する。試行入力量子状態ρは1種類であってもよいし、複数種類であってもよい。また操作内容設定部116は、パラメータの集合Θを用い、試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して行う物理的な量子操作を特定する試行制御情報νを設定して出力する。また操作内容設定部116は観測基底βを特定する情報および部分写像f'を出力する。試行入力量子状態ρを表す部分入力情報xおよび試行制御情報νは量子計算装置12(
図2)の量子操作部122に送られ、観測基底βを特定する情報は観測部123に送られる。また試行入力量子状態ρを表す部分入力情報x∈I、および部分写像f'は損失・勾配導出部117に送られる(ステップS116)。
【0020】
量子計算装置12の量子操作部122は、電磁波パルスの照射等によって量子ビット121-1,…,121-nを試行入力量子状態ρにし、この試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して試行制御情報νに基づく物理的な量子操作を行う。例えば、量子操作部122は、試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して、試行制御情報νによって表される形状の電磁波パルスの照射等を行う。観測部123は、この試行制御情報νに基づく物理的な量子操作を行って得られた量子ビット121-1,…,121-nの試行出力量子状態を観測基底βで観測し、出力部分空間Oに属する演算結果Λ(ρ)を得て出力する。演算結果Λ(ρ)は最適化装置11(
図1)の損失・勾配導出部117に送られる(ステップS12)。
【0021】
損失・勾配導出部117には、試行入力量子状態ρを表す部分入力情報x、部分写像f'、および演算結果Λ(ρ)が入力される。損失・勾配導出部117はこれらを用い、演算結果Λ(ρ)と、部分入力情報xの部分写像f'による像f'(x)と、の間の距離(損失)Eが小さくなるようにパラメータθmを更新するための更新情報(例えば、勾配、または勾配および損失Eの組)Δθmを算出して出力する。損失Eの一例はΛ(ρ)の要素とf'(x)の要素との間の二乗誤差である。Δθmはパラメータθmの更新方向(パラメータθmを大きくするか小さくするか)と更新量(更新幅)とを特定するものであり、パラメータθmごとに算出される。損失Eに対するパラメータθmの勾配を計算する手法についてはいくつかの手法が提案されているが、例えば、参考文献3に記載された手法が代表的である。
参考文献3:K. Mitarai, M. Negoro, M. Kitagawa, and K. Fujii, "Quantum Circuit Learning," Physical Review A 98, 032309 (2018).
更新情報Δθmは更新部118に送られる(ステップS117)。
【0022】
更新部118は更新情報Δθm(ただし、m=1,...,M)を用い、記憶部112に格納されている各パラメータθmを更新し、更新後のパラメータθmの集合Θ=(θ1,...,θM)を記憶部112に格納する。パラメータの集合Θの更新によって試行制御情報νも更新される。すなわち、更新部118は、入力部分空間I⊆SDに属する部分入力情報xによって表される試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して試行制御情報νに基づく物理的な量子操作を行って得られた試行出力量子状態を観測して得られる、出力部分空間O⊆SRに属する演算結果Λ(ρ)と、部分入力情報xの部分写像f'による像f'(x)と、の間の距離が小さくなるように試行制御情報νを更新する。更新部118は、(1)定義域空間SDから、値域空間SRにおける出力部分空間O⊆SRの補空間への写像による像、および、(2)定義域空間SDにおける入力部分空間I⊆SDの補空間から、値域空間SRへの写像による像、を考慮することなく、試行制御情報νを更新する(ステップS118)。
【0023】
制御部110は所定の終了条件を満たしたか否かを判断する。終了条件はどのようなものであってもよい。例えば制御部110は、最適化の処理(ステップS116,S12,S117,S118)が初回のサイクルではなく、かつ、損失Eが前回のサイクルから改善されていない回数pをカウントし、所定の許容探索ステップ数Pとpが等しい場合に終了条件を満たすと判断する。ただし、Pは正整数である。あるいは、忠実度または損失Eが事前に定めた目標値に達した場合に終了条件を満たすと判断されてもよいし、所定の実験可能な回数の更新が行われた場合に終了条件を満たすと判断されてもよい(ステップS110)。ここで、終了条件を満たさないと判断された場合にはステップS116の処理に戻る。一方、終了条件を満たすと判断された場合、出力部119が記憶部112に格納されたパラメータの集合Θのうち、最も損失Eが小さかったものを最終的なパラメータの集合Θとして出力する。ただし、これは本発明を限定するものではない。例えば、終了条件を満たすと判断されたサイクルで生成されたパラメータの集合Θが出力されてもよいし、終了条件を満たすと判断されたサイクルの前のサイクルで生成されたパラメータの集合Θが出力されてもよいし、損失Eが小さい順に選ばれた複数のパラメータの集合Θが出力されてもよい(ステップS119)。
【0024】
<本実施形態の特徴>
量子計算の実用的な用途では、量子ゲートの特定の部分的な入出力関係のみを再現すれば十分である。通常の量子ゲートの最適化では、単一の量子ゲートのみに着目し、その量子ゲートの任意の入出力関係を再現しようとする。一方、実用的な用途では特定の部分的な入出力関係のみに専念して最適化することで忠実度の向上を行うことが許される。本実施形態では特定の部分的な入出力関係のみに専念して最適化することにより、従来考えられていた問題点を解決し、従来手法よりはるかに効率的な量子ゲートの忠実度評価と向上が可能となった。
【0025】
第一に、評価すべき量子ゲートを表す行列(例えば、パウリ転送行列)の要素の分布を効率的に推定できるようになるため、実験時間を減らすことができる。特にいくつかの重要な例においては、数倍から数十倍の高速化が可能となる。第二に、実験の状況によっては理想の量子ゲートgを高い忠実度で実現することは難しくとも、入出力状態が部分空間I⊆SDおよびO⊆SRに限った範囲では、量子ゲートgと同じ動作をする、緩和が加わった量子ゲートDI〇g〇DOを実現することは可能なケースがあり、最適化の目的ゲートをDI〇g〇DOに変形することによってこれを探索することが可能となる。第三に、実験的に一致させるべき量子ゲートが単一の量子ゲートgから実用上の動作が問題ない量子ゲートの集合に拡張される。その結果、より少ない更新回数で高い忠実度を実現する量子ゲートに至ることができると期待できる。従って、一回のΘの更新は高速になり、さらにΘの更新の回数は減ると期待され、結果として実現できる忠実度の上限も改善される。
【0026】
本実施形態で最適化される量子ゲートの入出力状態は部分空間I⊆SDおよびO⊆SRに制限される。しかし、「量子ビットの測定」、「測定に基づく量子ビットへのフィードバック」などの、有用な量子計算を行う上で必須となる多くの操作では入出力状態が部分空間に制限されても問題は生じず、量子ゲートの有用性は失われない。
【0027】
[第2実施形態]
第2実施形態は第1実施形態の変形例であり、入出力量子状態を制限した範囲で量子ゲートgの忠実度を評価する。これにより、実用的な入出力の範囲で要求される忠実度を評価することができる。以下では第1実施形態との相違点を中心に説明し、既に説明した事項については、第1実施形態で用いた参照番号を用いて説明を簡略化する。
【0028】
<構成>
図6に例示するように、本実施形態の評価システム2は、入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートを評価する評価装置21、および、物理的な量子操作を行う量子計算装置12を有する。評価装置21は、制御部110、記憶部212,115、入力部213、部分写像生成部114、操作内容設定部116、評価部217、および出力部219を有し、制御部110の制御に従って各処理を実行する。評価装置21は、例えばコンピュータに所定のプログラムが読み込まれることで構成される装置である。
【0029】
<方法>
図7を用い、入力量子状態を出力量子状態に変換する量子ゲートgの忠実度の評価方法を例示する。
【0030】
入力部213に、上述した入力部分空間Iおよび出力部分空間Oを特定する情報が入力される。さらに入力部213には、評価対象の試行制御情報νを特定する実数のパラメータθmの集合Θ=(θ1,...,θM)も入力される。入力部分空間Iおよび出力部分空間Oを特定する情報は部分写像生成部114に送られる。パラメータの集合Θは記憶部212に格納される(ステップS213)。
【0031】
部分写像生成部114は、量子ゲートgの入力量子状態を表す情報の定義域空間SDから出力量子状態を表す情報の値域空間SRへの(全域)写像f:SD→SRについて、入力部分空間I⊆SDから出力部分空間O⊆SRへの部分写像f':I→Oを得て出力する。さらに部分写像生成部114は、忠実度推定実験の初期状態αおよび観測基底βを定める。部分写像f'、初期状態αを特定する情報、および観測基底βを特定する情報は、記憶部115に格納される(ステップS114)。
【0032】
操作内容設定部116は、記憶部115から部分写像f'、初期状態αを特定する情報、および観測基底βを特定する情報を読み込み、記憶部212からパラメータの集合Θを読み込む。操作内容設定部116は、初期状態αを特定する情報を用いて入力部分空間Iに属する部分入力情報x∈Iによって表される試行入力量子状態ρを設定する。また操作内容設定部116は、パラメータの集合Θを用いて試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して行う物理的な量子操作を特定する試行制御情報νを設定して出力する。また操作内容設定部116は観測基底βおよび部分写像f'を出力する。試行入力量子状態ρを表す部分入力情報xおよび試行制御情報νは量子計算装置12(
図2)の量子操作部122に送られ、観測基底βを特定する情報は観測部123に送られる。また試行入力量子状態ρを表す部分入力情報x∈I、および部分写像f'は評価部217に送られる(ステップS216)。
【0033】
量子計算装置12の量子操作部122は、量子ビット121-1,…,121-nを試行入力量子状態ρにし、この試行入力量子状態ρの量子ビット121-1,…,121-nに対して試行制御情報νに基づく物理的な量子操作を行う。観測部123は、この試行制御情報νに基づく物理的な量子操作を行って得られた量子ビット121-1,…,121-nの試行出力量子状態を観測基底βで観測し、出力部分空間Oに属する演算結果Λ(ρ)を得て出力する。演算結果Λ(ρ)は評価装置21(
図6)の評価部217に送られる(ステップS22)。
【0034】
評価部217には、試行入力量子状態ρを表す部分入力情報x、部分写像f'、および演算結果Λ(ρ)が入力される。評価部217はこれらを用い、演算結果Λ(ρ)と、部分入力情報xの部分写像f'による像f'(x)と、の間の距離(損失)Eに基づく忠実度F(Θ)を得て出力する。例えば、損失Eが0のときに1となり、損失Eの絶対値が大きくなるほど小さくなる1以下の非負の値である忠実度F(Θ)を得て出力する。忠実度F(Θ)は出力部219から評価装置21の外部に出力される(ステップS219)。
【0035】
[ハードウェア構成]
各実施形態における最適化装置11および評価装置21は、例えば、CPU(central processing unit)等のプロセッサ(ハードウェア・プロセッサ)やRAM(random-access memory)・ROM(read-only memory)等のメモリ等を備える汎用または専用のコンピュータが所定のプログラムを実行することで構成される装置である。このコンピュータは1個のプロセッサやメモリを備えていてもよいし、複数個のプロセッサやメモリを備えていてもよい。このプログラムはコンピュータにインストールされてもよいし、予めROM等に記録されていてもよい。また、CPUのようにプログラムが読み込まれることで機能構成を実現する電子回路(circuitry)ではなく、単独で処理機能を実現する電子回路を用いて一部またはすべての処理部が構成されてもよい。また、1個の装置を構成する電子回路が複数のCPUを含んでいてもよい。
【0036】
図8は、各実施形態における最適化装置11および評価装置21のハードウェア構成を例示したブロック図である。
図8に例示するように、この例の最適化装置11および評価装置21は、CPU(Central Processing Unit)10a、入力部10b、出力部10c、RAM(Random Access Memory)10d、ROM(Read Only Memory)10e、補助記憶装置10fおよびバス10gを有している。この例のCPU10aは、制御部10aa、演算部10abおよびレジスタ10acを有し、レジスタ10acに読み込まれた各種プログラムに従って様々な演算処理を実行する。また、入力部10bは、データが入力される入力端子、キーボード、マウス、タッチパネル等である。また、出力部10cは、データが出力される出力端子、ディスプレイ、所定のプログラムを読み込んだCPU10aによって制御されるLANカード等である。また、RAM10dは、SRAM (Static Random Access Memory)、DRAM (Dynamic Random Access Memory)等であり、所定のプログラムが格納されるプログラム領域10daおよび各種データが格納されるデータ領域10dbを有している。また、補助記憶装置10fは、例えば、ハードディスク、MO(Magneto-Optical disc)、半導体メモリ等であり、所定のプログラムが格納されるプログラム領域10faおよび各種データが格納されるデータ領域10fbを有している。また、バス10gは、CPU10a、入力部10b、出力部10c、RAM10d、ROM10eおよび補助記憶装置10fを、情報のやり取りが可能なように接続する。CPU10aは、読み込まれたOS(Operating System)プログラムに従い、補助記憶装置10fのプログラム領域10faに格納されているプログラムをRAM10dのプログラム領域10daに書き込む。同様にCPU10aは、補助記憶装置10fのデータ領域10fbに格納されている各種データを、RAM10dのデータ領域10dbに書き込む。そして、このプログラムやデータが書き込まれたRAM10d上のアドレスがCPU10aのレジスタ10acに格納される。CPU10aの制御部10aaは、レジスタ10acに格納されたこれらのアドレスを順次読み出し、読み出したアドレスが示すRAM10d上の領域からプログラムやデータを読み出し、そのプログラムが示す演算を演算部10abに順次実行させ、その演算結果をレジスタ10acに格納していく。このような構成により、最適化装置11および評価装置21の機能構成が実現される。
【0037】
上述のプログラムは、コンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録しておくことができる。コンピュータで読み取り可能な記録媒体の例は非一時的な(non-transitory)記録媒体である。このような記録媒体の例は、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、半導体メモリ等である。
【0038】
このプログラムの流通は、例えば、そのプログラムを記録したDVD、CD-ROM等の可搬型記録媒体を販売、譲渡、貸与等することによって行う。さらに、このプログラムをサーバコンピュータの記憶装置に格納しておき、ネットワークを介して、サーバコンピュータから他のコンピュータにそのプログラムを転送することにより、このプログラムを流通させる構成としてもよい。上述のように、このようなプログラムを実行するコンピュータは、例えば、まず、可搬型記録媒体に記録されたプログラムもしくはサーバコンピュータから転送されたプログラムを、一旦、自己の記憶装置に格納する。そして、処理の実行時、このコンピュータは、自己の記憶装置に格納されたプログラムを読み取り、読み取ったプログラムに従った処理を実行する。また、このプログラムの別の実行形態として、コンピュータが可搬型記録媒体から直接プログラムを読み取り、そのプログラムに従った処理を実行することとしてもよく、さらに、このコンピュータにサーバコンピュータからプログラムが転送されるたびに、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行することとしてもよい。また、サーバコンピュータから、このコンピュータへのプログラムの転送は行わず、その実行指示と結果取得のみによって処理機能を実現する、いわゆるASP(Application Service Provider)型のサービスによって、上述の処理を実行する構成としてもよい。なお、本形態におけるプログラムには、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるもの(コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータ等)を含むものとする。
【0039】
各実施形態では、コンピュータ上で所定のプログラムを実行させることにより、本装置を構成することとしたが、これらの処理内容の少なくとも一部をハードウェア的に実現することとしてもよい。
【0040】
なお、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、上述の各種の処理は、記載に従って時系列に実行されるのみならず、処理を実行する装置の処理能力あるいは必要に応じて並列的にあるいは個別に実行されてもよい。その他、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更が可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0041】
11 最適化装置
114 部分写像生成部
118 更新部
12 量子計算装置
21 評価装置