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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-21
(45)【発行日】2024-03-29
(54)【発明の名称】加工変質層の評価方法及び評価システム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/66 20060101AFI20240322BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H01L21/66 N
H01L21/304 622R
【請求項の数】 52
(21)【出願番号】P 2023524734
(86)(22)【出願日】2022-12-09
(86)【国際出願番号】 JP2022045532
(87)【国際公開番号】W WO2023106414
(87)【国際公開日】2023-06-15
【審査請求日】2023-04-21
(31)【優先権主張番号】P 2021200698
(32)【優先日】2021-12-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】301032067
【氏名又は名称】株式会社山梨技術工房
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】堂島 大地
(72)【発明者】
【氏名】浅川 和宣
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開平04-024541(JP,A)
【文献】特許第2847458(JP,B2)
【文献】特開2015-119056(JP,A)
【文献】特開平04-113649(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01L 21/304
G01N 21/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面の下に加工変質層を有する半導体基板の表面から侵入特性を有するレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定する測定工程と、
前記測定工程にて得られた散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層の評価を行う評価工程と、を含み、
前記加工変質層の評価は、前記加工変質層に含まれる歪みを評価することを含む、半導体基板の加工変質層の評価方法。
【請求項2】
表面の下に加工変質層を有する半導体基板の表面からの深さ方向の検査エリアの情報を取得する検査エリア情報取得工程と、
前記半導体基板の表面から侵入特性を有するレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定する測定工程と、
前記測定工程にて得られた散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層の評価を行う評価工程と、を含み、
前記測定工程は、前記検査エリアに対して前記レーザー光が侵入するように、前記レーザー光の侵入特性を含む投光条件を取得する投光条件取得工程と、
前記検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定する光選択工程と、を含む、半導体基板の加工変質層の評価方法。
【請求項3】
表面の下に加工変質層を有する半導体基板の表面から侵入特性を有するレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定する測定工程と、
前記測定工程にて得られた散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層の評価を行う評価工程と、を含み、
前記測定工程で測定される前記散乱光は、弾性散乱光を含む、半導体基板の加工変質層の評価方法。
【請求項4】
前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項5】
記評価工程は、前記散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層に含まれる歪み量を算出することを含む、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項6】
前記測定工程は、前記半導体基板の面方向にわたって、所定の深さの前記散乱光の強度を、前記面方向の位置情報と関連付けて取得し、
前記評価工程は、前記歪み量を、前記位置情報に関連付けて算出することを含む、請求項5に記載の加工変質層の評価方法。
【請求項7】
前記レーザー光は、前記半導体基板のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有する、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項8】
前記レーザー光は、前記半導体基板のバンドギャップの約101~122%の光子エネルギーを有する、請求項に記載の加工変質層の評価方法。
【請求項9】
前記半導体基板の表面からS偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するS偏光を用いた測定工程を含む、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項10】
前記半導体基板の表面からP偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するP偏光を用いた測定工程を含む、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項11】
前記半導体基板の表面からS偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するS偏光を用いた測定工程と、
前記表面からP偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するP偏光を用いた測定工程を含む、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項12】
前記半導体基板は、平坦化された表面を有する、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項13】
前記レーザー光は、前記半導体基板の表面の法線に対して40°≦θ≦80°の入射角度θで前記半導体基板に入射する、請求項1~3の何れかに記載の加工変質層の評価方法。
【請求項14】
前記測定工程は、前記レーザー光の前記侵入特性を調整する光調整工程を含む、請求項に記載の加工変質層の評価方法。
【請求項15】
前記光選択工程は、前記検査エリアから外れた非検査エリアで発生した散乱光を遮蔽することを含む、請求項に記載の加工変質層の評価方法。
【請求項16】
前記光選択工程は、前記半導体基板の裏面で発生した反射光及び/又は散乱光を遮蔽することを含む、請求項に記載の加工変質層の評価方法。
【請求項17】
前記測定工程は、前記半導体基板を回転させながら前記レーザー光を走査する走査工程を含む、請求項1~3の何れかに記載の評価方法。
【請求項18】
測定対象である半導体基板を保持可能なステージと、
前記半導体基板に対して、侵入特性を有するレーザー光を照射可能な投光系と、
前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光を受光可能な受光系と、
前記散乱光の強度に基づいて、前記半導体基板の表面の下の加工変質層の評価を行うデータ処理部と、を備え
前記データ処理部が行う前記加工変質層の評価は、前記加工変質層に含まれる歪みを評価することを含む、評価システム。
【請求項19】
測定対象である半導体基板を保持可能なステージと、
前記半導体基板の表面からの深さ方向の検査エリアを設定する検査エリア設定部と、
前記半導体基板に対して、侵入特性を有するレーザー光を照射可能な投光系と、
前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光を受光可能な受光系と、
前記散乱光の強度に基づいて、前記半導体基板の表面の下の加工変質層の評価を行うデータ処理部と、を備え
前記投光系は、前記検査エリアに対して前記レーザー光が侵入するように、少なくとも侵入特性を含む投光条件を決定し、
前記受光系は、前記検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定するように、受光条件を決定する、評価システム。
【請求項20】
記データ処理部が行う前記加工変質層の評価は、前記散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層に含まれる歪み量を算出することを含む、請求項18又は19に記載の評価システム。
【請求項21】
前記投光系は、前記半導体基板の表面全体にわたって、前記レーザー光を照射し、
前記受光系は、所定の深さで散乱した前記散乱光の強度を、前記半導体基板の面方向にわたって、前記面方向の位置情報と関連付けて取得し、
前記データ処理部は、算出した前記歪み量を、前記位置情報と関連付けて記録することを含む、請求項20に記載の評価システム。
【請求項22】
前記投光系は、前記半導体基板のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有する前記レーザー光を照射する、請求項18又は19に記載の評価システム。
【請求項23】
前記投光系は、前記半導体基板のバンドギャップの約101~122%の光子エネルギーを有する前記レーザー光を照射する、請求項22に記載の評価システム。
【請求項24】
測定対象である半導体基板を保持可能な前記ステージと、
S偏光及び/又はP偏光のレーザー光を照射可能な前記投光系と、
前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光を受光可能な前記受光系と、
S偏光及び/又はP偏光のレーザー光を用いて測定された前記散乱光の強度に基づいて加工変質層の評価を行う前記データ処理部と、を備え、請求項18又は19に記載の評価システム。
【請求項25】
前記投光系は、前記レーザー光を、前記半導体基板の表面の法線に対して40°≦θ≦80°の入射角度θで前記半導体基板に対して照射する、請求項18又は19に記載の評価システム。
【請求項26】
前記投光系は、前記レーザー光の前記侵入特性を調整する光調整器を有し、前記受光系は、前記検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定する光選択器を有する、請求項19に記載の評価システム。
【請求項27】
前記光選択器は、前記検査エリアから外れた非検査エリアで発生した散乱光を遮蔽するスリットを含む、請求項26に記載の評価システム。
【請求項28】
前記光選択器は、前記半導体基板の裏面で発生した反射光及び/又は散乱光を遮蔽するスリットを含む、請求項26又は27に記載の評価システム。
【請求項29】
前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である、請求項18又は19に記載の評価システム。
【請求項30】
半導体基板の表面からレーザー光を入射させて測定した、前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光の強度測定値を、測定位置情報に関連付けて散乱光強度データとして取得するデータ取得工程と、
前記散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の統計量を算出する統計量算出工程と、
前記統計量に基づいて、前記半導体基板の加工変質層の評価を行う評価工程と、を含み、
前記加工変質層の評価は、前記加工変質層に含まれる歪みを評価することを含む、半導体基板の評価方法。
【請求項31】
半導体基板の表面からレーザー光を入射させて測定した、前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光の強度測定値を、測定位置情報に関連付けて散乱光強度データとして取得するデータ取得工程と、
前記散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の統計量を算出する統計量算出工程と、
前記統計量に基づいて、前記半導体基板の加工変質層の評価を行う評価工程と、を含み、
前記評価工程は、複数の前記強度測定値の母数を抽出する母数抽出工程と、
抽出した前記母数に基づいて前記半導体基板を分析する分析工程と、
を含む、半導体基板の評価方法。
【請求項32】
前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項33】
前記データ取得工程は、異なる侵入特性を有する複数のレーザー光を入射させて測定した、複数種類の前記強度測定値を、前記半導体基板の面方向および深さ方向を含む測定位置情報にそれぞれ関連付けて複数種類の前記散乱光強度データとして取得することを含み、
前記統計量算出工程は、面方向および深さ方向を含む測定位置情報に関連付けて前記強度測定値の統計量を算出することを含む、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項34】
前記レーザー光は、偏光特性を有する、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項35】
前記レーザー光は、S偏光及び/又はP偏光である、請求項34に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項36】
前記評価工程は、前記統計量から、前記半導体基板の表面の下の歪み量を算出する、歪み量算出工程を含む、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項37】
前記評価工程は、所定の上限値より大きい前記強度測定値を特定してラベル付けするピーク特定工程を更に含む、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項38】
前記半導体基板は、平坦化された表面を有し、
前記評価工程は、前記測定位置情報及び前記強度測定値に基づいて、前記測定位置情報に照らして数値が不連続的な前記強度測定値を特定してラベル付けするピーク特定工程を更に含む、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項39】
前記強度測定値の下限から上限までを複数に分割する閾値に基づいて前記強度測定値の分布図を作成するマッピング工程を含む、請求項30又は31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項40】
前記マッピング工程は、歪み量が段階的に識別できるように、複数の閾値に基づいて前記強度測定値の分布図を作成することを含む、請求項39に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項41】
前記母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の位置母数を抽出する位置母数抽出工程を含む、請求項31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項42】
前記位置母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の最頻値を抽出する工程である、請求項41に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項43】
前記母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の尺度母数を抽出する尺度母数抽出工程を含む、請求項31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項44】
前記尺度母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の半値幅を抽出する工程である、請求項43に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項45】
前記母数抽出工程は、一の半導体基板について、複数の前記強度測定値から複数種類の前記母数を抽出する工程であり、
前記分析工程は、複数種類の前記母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する、請求項31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項46】
前記分析工程は、位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する、請求項45に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項47】
前記位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて複数の半導体基板を分類する、分類工程を含む、請求項46に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項48】
評価対象の複数の半導体基板の分析により得られた前記位置母数及び尺度母数の組合せに応じて、半導体基板の加工変質層の特徴の分類基準を予め作成する、分類基準作成工程を更に含み、
前記分析工程は、前記位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて、前記評価対象の複数の半導体基板を前記分類基準に照らして分類する、分類工程を含む、請求項47に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項49】
前記データ取得工程は、第1の侵入特性を有する第1のレーザー光を入射させて測定した散乱光の第1の強度測定値と、第2の侵入特性を有する第2のレーザー光を入射させて測定した散乱光の第2の強度測定値とを、前記半導体基板の面方向を含む前記測定位置情報にそれぞれ関連付けた第1の散乱光強度データ及び第2の散乱光強度データを取得することを含み、
前記統計量算出工程は、前記測定位置情報に関連付けられた前記第1の強度測定値と前記第2の強度測定値とから、それぞれ第1統計量と第2統計量とを算出することを含み、
前記母数抽出工程は、前記算出された第1統計量と第2統計量とから、それぞれ第1母数と第2母数とを抽出し、
前記分析工程は、前記第1母数及び第2母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する、請求項31に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項50】
前記第1のレーザー光はS偏光であり、前記第2のレーザー光はP偏光である、請求項49に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項51】
評価対象の複数の半導体基板の分析により得られた前記第1母数及び第2母数の組合せに応じて、半導体基板の加工変質層の特徴の分類基準を予め作成する、分類基準作成工程を更に含み、
前記分析工程は、前記第1母数及び第2母数の組合せに基づいて、前記評価対象の複数の半導体基板を前記分類基準に照らして分類する、分類工程を含む、請求項49に記載の半導体基板の評価方法。
【請求項52】
請求項1~3、18、19、30、31の何れか一項に記載の評価方法又は評価システムにより、半導体基板の加工変質層を評価する工程と、
前記評価の結果、所定の歪み量を含む層を特定する特定工程と、
前記特定された層を除去する除去工程を含む、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工変質層の評価方法及び評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、半導体基板(いわゆるウエハ)は、半導体材料のインゴットをスライスし、表面を研削・研磨することにより形成される。この半導体基板の表面には、スライス時や研削・研磨時に導入された結晶の歪みや傷等を有する表面層(以下、加工変質層という。)が存在する。この加工変質層は、デバイスの製造工程においてデバイスの歩留まりを低下させる要因となるため、除去することが好ましい。
【0003】
従来、この加工変質層の有無や程度を評価する手法としては、破壊検査が一般的であった。例えば、極めて加工が難しい材料に分類される化合物半導体材料の炭化ケイ素(SiC)においては、半導体基板を劈開した断面を透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)や走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)の電子線後方散乱回折(Electron Back Scattered Diffraction Pattern:EBSD)法を用いて観察することにより、加工変質層の評価が行われている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-017627号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来における加工変質層の評価は、半導体基板を劈開する破壊検査が主流であった。そのため、加工変質層を評価した半導体基板は、デバイスの製造工程に戻すことができないという問題があった。また、破壊検査は、加工変質層の評価を局所的に行う検査であり、半導体基板面内の加工変質層の分布を広範囲にわたって評価することが難しいという問題があった。
【0006】
また、半導体基板の加工変質層の評価に、ラマン分光法を採用することが種々検討されている。一方で、ラマン分光法は、レイリー散乱等の弾性散乱に比して微弱なラマン散乱を測定する必要があるため、一枚の半導体基板の全面を評価するのには時間を要する。そのため、ラマン分光法を加工変質層の評価手法として製造工程に導入する際には、スループットが低下してしまうという問題があった。
【0007】
上述した問題に鑑み、本発明の解決しようとする課題は、半導体基板を破壊することなく加工変質層を評価することができる新規の技術を提供することにある。
また、本発明の解決しようとする課題は、半導体基板を破壊することなく、加工変質層の分布、より具体的には、加工変質層に含まれる歪み量、その分布を高速に評価することができる新規の技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決する本発明は、表面の下に加工変質層を有する半導体基板の表面から侵入特性を有するレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定する測定工程と、前記測定工程にて得られた散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層の評価を行う評価工程と、を含む、半導体基板の加工変質層の評価方法である。
【0009】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記加工変質層は、歪みを含み、前記評価工程は、前記散乱光の強度に基づいて、歪み量を算出することを含む。
【0011】
前記測定工程は、前記半導体基板の面方向にわたって、所定の深さの前記散乱光の強度を、前記面方向の位置情報と関連付けて取得し、前記評価工程は、前記歪み量を、前記位置情報に関連付けて算出することを含む。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記レーザー光は、前記半導体基板のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有する。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記レーザー光は、前記半導体基板のバンドギャップの約101~122%の光子エネルギーを有する。
【0014】
本発明の好ましい形態では、加工変質層を有する半導体基板の表面からS偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するS偏光を用いた測定工程を含む。
【0015】
本発明の好ましい形態では、加工変質層を有する半導体基板の表面からP偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するP偏光を用いた測定工程を含む。
【0016】
本発明の好ましい形態では、加工変質層を有する半導体基板の表面からS偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するS偏光を用いた測定工程と、前記表面からP偏光のレーザー光を入射させ、前記表面の下で散乱した散乱光の強度を測定するP偏光を用いた測定工程を含む、加工変質層の評価方法である。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は、平坦化された表面を有する。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記レーザー光は、前記半導体基板の表面の法線に対して40°≦θ≦80°の入射角度θで前記半導体基板に入射する。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板の表面からの深さ方向の検査エリアの情報を取得する検査エリア情報取得工程を含み、前記測定工程は、前記検査エリアに対して前記レーザー光が侵入するように、前記レーザー光の侵入特性を含む投光条件を取得する、投光条件取得工程と、前記検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定する光選択工程を有する。
本発明において、“選択的に測定する”とは、検査エリアで発生した散乱光のみを測定することに限定されない。当該用語は、前記検査エリアで発生した散乱光の強度を識別できる程度に、非検査エリアで発生した散乱光の一部を検出しないことを含む。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記光選択工程は、前記検査エリアから外れた非検査エリアで発生した散乱光を遮蔽することを含む。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記光選択工程は、半導体基板の裏面で発生した反射光及び/又は散乱光を遮蔽することを含む。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記測定工程は、前記半導体基板を回転させながら前記レーザー光を走査する走査工程を含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記測定工程は、弾性散乱を含む前記散乱光を測定する工程である。
【0024】
また、上述した課題を解決する本発明は、測定対象である半導体基板を保持可能なステージと、前記半導体基板に対して、侵入特性を有するレーザー光を照射可能な投光系と、前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光を受光可能な受光系と、前記レーザー光を用いて測定された前記散乱光の強度に基づいて、加工変質層の評価を行うデータ処理部と、を備える、加工変質層の評価システムである。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記加工変質層は、歪みを含み、前記データ処理部は、前記散乱光の強度に基づいて、歪み量を算出することを含む。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記投光系は、前記半導体基板の表面全体にわたって、前記レーザー光を照射し、前記受光系は、所定の深さで散乱した前記散乱光の強度を、前記半導体基板の面方向にわたって、前記面方向の位置情報と関連付けて取得し、前記データ処理部は、算出した前記歪み量を、前記位置情報と関連付けて記録することを含む。
【0027】
本発明の好ましい形態では、前記投光系は、前記半導体基板のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有する前記レーザー光を照射する。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記投光系は、前記半導体基板のバンドギャップの約101~122%の光子エネルギーを有する前記レーザー光を照射する。
【0029】
本発明の好ましい形態では、測定対象である半導体基板を保持可能なステージと、S偏光及び/又はP偏光のレーザー光を照射可能な投光系と、前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光を受光可能な受光系と、S偏光及び/又はP偏光のレーザー光を用いて測定された前記散乱光の強度に基づいて加工変質層の評価を行うデータ処理部と、を備える。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記投光系は、前記レーザー光を、前記半導体基板の表面の法線に対して40°≦θ≦80°の入射角度θで前記半導体基板に対して照射する。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板の表面からの深さ方向の検査エリアを設定する検査エリア設定部を含み、前記投光系は、前記検査エリアに対してレーザー光が侵入するように、少なくとも侵入特性を含む投光条件を決定し、前記受光系は、前記検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定するように、受光条件を決定する。
本発明において、“選択的に測定する”とは、検査エリアで発生した散乱光のみを測定することに限定されない。当該用語は、前記検査エリアで発生した散乱光の強度を識別できる程度に、非検査エリアで発生した散乱光の一部を検出しないことを含む。
【0032】
本発明の好ましい形態では、前記投光系は、前記レーザー光の前記侵入特性を調整する光調整器を有し、前記受光系は、検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定する光選択器を有する。
【0033】
本発明の好ましい形態では、前記光選択器は、前記検査エリアから外れた非検査エリアで発生した散乱光を遮蔽するスリットを含む。
【0034】
本発明の好ましい形態では、前記光選択器は、半導体基板の裏面で発生した反射光及び/又は散乱光を遮蔽するスリットを含む。
【0035】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である。
【0036】
本発明の好ましい形態では、前記データ処理部は、前記散乱光の強度に基づいて算出された統計量の位置母数及び/又は尺度母数の抽出を行う。
【0037】
また、上述した課題を解決する本発明は、半導体基板の表面からレーザー光を入射させて測定した、前記半導体基板の表面の下で散乱した散乱光の強度測定値を、測定位置情報に関連付けて散乱光強度データとして取得するデータ取得工程と、前記散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の統計量を算出する統計量算出工程と、前記統計量に基づいて、前記半導体基板の加工変質層の評価を行う評価工程と、を含む、半導体基板の評価方法である。
【0038】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は、炭化ケイ素基板である。
【0039】
本発明の好ましい形態では、前記データ取得工程は、異なる侵入特性を有する複数のレーザー光を入射させて測定した、複数種類の前記強度測定値を、前記半導体基板の面方向および深さ方向を含む測定位置情報にそれぞれ関連付けて複数種類の散乱光強度データとして取得することを含み、前記統計量算出工程は、面方向および深さ方向を含む測定位置情報に関連付けて前記強度測定値の統計量を算出することを含む。
【0040】
本発明の好ましい形態では、前記レーザー光は、偏光特性を有する。
【0041】
本発明の好ましい形態では、前記レーザー光は、S偏光及び/又はP偏光である。
【0042】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、前記統計量から、前記半導体基板の表面の下の歪み量を算出する、歪み量算出工程を含む。
【0043】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、所定の上限値より大きい強度測定値を特定してラベル付けするピーク特定工程を更に含む。
【0044】
本発明の好ましい形態では、前記半導体基板は、平坦化された表面を有し、前記評価工程は、前記測定位置情報及び前記強度測定値に基づいて、測定位置情報に照らして数値が不連続的な前記強度測定値を特定してラベル付けするピーク特定工程を更に含む。
【0045】
本発明の好ましい形態では、前記強度測定値の下限から上限までを複数に分割する閾値に基づいて前記強度測定値の分布図を作成するマッピング工程を含む。
【0046】
本発明の好ましい形態では、前記マッピング工程は、前記歪み量が、段階的に識別できるように、複数の閾値に基づいて前記強度測定値の分布図を作成することを含む。
【0047】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、複数の前記強度測定値の母数を抽出する母数抽出工程と、抽出した前記母数に基づいて前記半導体基板を分析する分析工程と、を含む。
【0048】
本発明の好ましい形態では、前記母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の位置母数を抽出する位置母数抽出工程を含む。
【0049】
本発明の好ましい形態では、前記位置母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の最頻値を抽出する工程である。
【0050】
本発明の好ましい形態では、前記母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の尺度母数を抽出する尺度母数抽出工程を含む。
【0051】
本発明の好ましい形態では、前記尺度母数抽出工程は、複数の前記強度測定値の半値幅を抽出する工程である。
【0052】
本発明の好ましい形態では、前記母数抽出工程は、一の半導体基板について、複数の前記強度測定値から複数種類の前記母数を抽出する工程であり、前記分析工程は、複数種類の前記母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する。
【0053】
本発明の好ましい形態では、前記分析工程は、前記位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する。
【0054】
本発明の好ましい形態では、前記位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて複数の半導体基板を分類する、分類工程を含む。
【0055】
本発明の好ましい形態では、評価対象の複数の半導体基板の分析により得られた前記位置母数及び尺度母数の組合せに応じて、半導体基板の加工変質層の特徴の分類基準を作成しておく、分類基準作成工程を更に含み、前記分類工程は、前記位置母数及び尺度母数の組合せに基づいて、前記評価対象の複数の半導体基板を前記分類基準に照らして分類する、分類工程を含む。
【0056】
本発明の好ましい形態では、前記データ取得工程は、第1の侵入特性を有する第1のレーザー光を入射させて測定した散乱光の第1の強度測定値と、第2の侵入特性を有する第2のレーザー光を入射させて測定した散乱光の第2の強度測定値とを、前記半導体基板の面方向を含む測定位置情報にそれぞれ関連付けた第1の散乱光強度データ及び第2の散乱光強度データを取得することを含み、前記統計量算出工程は、前記測定位置情報に関連付けられた前記第1の強度測定値と前記第2の強度測定値とから、それぞれ第1統計量と第2統計量とを算出することを含み、前記母数抽出工程は、前記算出された第1統計量と第2統計量とから、それぞれ第1母数と第2母数とを抽出し、前記分析工程は、前記第1母数及び第2母数の組合せに基づいて前記半導体基板を分析する。
【0057】
本発明の好ましい形態では、前記第1のレーザー光はS偏光であり、前記第2のレーザー光はP偏光である。
【0058】
評価対象の複数の半導体基板の分析により得られた前記第1母数及び第2母数の組合せに応じて、半導体基板の加工変質層の特徴の分類基準を作成しておく、分類基準作成工程を更に含み、前記分析工程は、前記第1母数及び第2母数の組合せに基づいて、前記評価対象の複数の半導体基板を前記分類基準に照らして分類する、分類工程を含む。
【0059】
本発明の好ましい形態では、前記測定工程にて得られた散乱光の強度に基づいて、前記加工変質層の評価を行う評価工程を含む。
【0060】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、前記散乱光の強度に基づいて算出された統計量の分布図を作製するマッピング工程を有する。
【0061】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、前記散乱光の強度に基づいて算出された統計量の位置母数を抽出する位置母数抽出工程を有する。
【0062】
本発明の好ましい形態では、前記位置母数抽出工程は、最頻値を抽出する工程である。
【0063】
本発明の好ましい形態では、前記評価工程は、前記散乱光の強度に基づいて算出された統計量の尺度母数を抽出する尺度母数抽出工程を有する。
【0064】
本発明の好ましい形態では、前記尺度母数抽出工程は、半値幅を抽出する工程である。
【0065】
また、上述した課題を解決する本発明は、半導体基板の酸化層と歪み層の境界領域において発生した散乱光の強度に基づいて加工変質層を評価する、加工変質層の評価方法である。
【0066】
また、上述した課題を解決する本発明は、半導体基板の歪み層とバルク層の境界領域において発生した散乱光の強度に基づいて加工変質層を評価する、加工変質層の評価方法である。
【0067】
また、上述した課題を解決する本発明は、半導体基板の酸化層と歪み層の境界領域において発生した散乱光の強度と、前記半導体基板の歪み層とバルク層の境界領域において発生した散乱光の強度と、に基づいて加工変質層を評価する、加工変質層の評価方法である。
【0068】
また、本発明は、上述した何れかの半導体基板の評価方法又は評価システムにより、半導体基板の加工変質層を評価する工程と、前記評価の結果、所定の歪み量を含む層を特定する特定工程と、前記特定された層を除去する除去工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0069】
開示した技術によれば、半導体基板を破壊することなく加工変質層を評価することができる新規の技術を提供することができる。
また、開示した技術によれば、半導体基板を破壊することなく、加工変質層の分布を高速に評価することができる新規の技術を提供することができる。
【0070】
他の課題、特徴および利点は、図面および特許請求の範囲と共に取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0071】
図1】実施の形態にかかる評価方法を説明する説明図である。
図2】実施の形態にかかる評価方法を説明する説明図である。
図3】実施の形態にかかる評価方法で用いる検査装置のブロック図である。
図4】実施の形態にかかる評価方法の測定工程の説明図である。
図5】実施の形態にかかる評価方法の評価工程の説明図である。
図6】実施の形態にかかる評価方法の評価工程の説明図である。
図7】実施例にかかる測定結果を説明する説明図である。
図8】実施例にかかる測定結果を説明する説明図である。
図9】実施例にかかる分析の例を説明する説明図である。
図10】実施の形態にかかる評価システムを説明する説明図である。
図11】実施の形態にかかる評価システムを説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0072】
本発明の一態様は、半導体基板の加工変質層の評価方法である。加工変質層の評価方法は、好ましくは、歪みの評価方法である。加工変質層の評価方法は、より好ましくは、歪み量の評価方法である。
【0073】
本発明において、加工変質層とは、機械的加工により導入された変質を含む層をいう。
本発明の加工変質層の評価方法における検出対象は、半導体基板の表面の下に位置する歪みである。この歪みは、通常、半導体基板の加工により導入される。この検出対象とされるべき歪みは、その程度によって半導体デバイス製造の後工程に悪影響を与えうるものであり、通常、半導体デバイス製造の後工程に悪影響を与えうる程度の歪みは、半導体基板の表面の下の深さ1μm~20μm、1μm~10μm、1μm~8μm、1μm~6μm、の深さ範囲に位置する。よって、言い換えれば、本発明の評価方法における加工変質層及び深さ方向の検査エリアは、半導体基板の表面の下の深さ~20μm、~10μm、~8μm、~6μm、の深さ範囲である。
【0074】
歪みとは、理想的な結晶格子を基準とした場合の、実際の結晶格子の基準からのずれを指すものである。また、歪み量とは、その程度を指す値である。
【0075】
本発明の加工変質層の評価方法は、半導体基板を対象として、対象の歪み量や、その分布、又はその均一性を評価することを含む。
すなわち、本発明の半導体基板の加工変質層の評価方法は、対象基板の歪み量の測定、測定値の可視化、測定値を用いた分析を含む、歪み量の評価方法である。
【0076】
以下に添付図面を参照して、この発明にかかる加工変質層の評価方法及び評価システムの好適な実施の形態を詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。なお、以下の実施の形態の説明および添付図面において、同様の構成には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0077】
《加工変質層の評価方法》
図1は、実施の形態にかかる加工変質層の評価方法について説明する説明図である。
本発明にかかる加工変質層の評価方法は、表面101よりも下に存在する加工変質層102で散乱した散乱光L4の強度に基づいて、加工変質層102を評価することを特徴とする。具体的には、投光系10から照射したレーザー光L1を半導体基板100の表面101から内部に入射させる。半導体基板100の内部に入射された入射光L3が加工変質層102にて散乱することにより散乱光L4が生じる。この散乱光L4を受光系20で測定し、散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102の評価を行う。
【0078】
散乱光L4には、表面散乱光、内部散乱光が含まれうる。表面散乱光には、表面付着物由来の散乱光、表面凹凸由来の散乱光、格子欠陥由来の散乱光が含まれうる。内部散乱光には、格子欠陥由来の散乱光、内部歪み由来の散乱光が含まれうる。
本発明の加工変質層の評価方法における検出対象は、内部散乱光のうちの、内部歪み由来の散乱光である。
このため、内部歪み由来の散乱光以外の、表面付着物由来の散乱光、表面凹凸由来の散乱光、格子欠陥由来の散乱光を含む、検出対象外の散乱光は、適切な方法でその発生及び/又はその検出が抑制されることが好ましい。
ただし、散乱光L4は、内部歪み由来の散乱光の強度が判別可能な範囲で、検出対象外の散乱光を含んでもよい。
【0079】
半導体基板100は、スライス工程、研磨工程、研削工程の少なくとも一つが含まれる工程で製造された半導体材料である。これらの工程を経て製造される半導体基板100としては、シリコン(Si)基板を例示できる。上述したスライス工程、研磨工程、研削工程においては、デバイスの製造において悪影響を与える加工変質層102が導入され得る。特に、加工が難しい材料に分類される化合物半導体材料は、加工変質層102がデバイスに悪影響を与えることが近年の研究により明らかになってきた。
【0080】
本発明にかかる加工変質層の評価方法は、炭化ケイ素(SiC)基板、窒化ガリウム(GaN)基板、窒化アルミニウム(AlN)基板、酸化ガリウム(Ga)基板、サファイア基板等の化合物半導体材料基板の加工変質層102の評価に好適である。
【0081】
半導体基板100は、化学機械研磨等により平坦化された表面101と、スライス工程・研削工程・研磨工程等の機械加工を含む工程により導入された加工変質層102と、バルク層103と、を有している。なお、加工変質層102は、図1に示すように、半導体基板100の表面101の下に導入された層であり、酸化層1021と、歪み層1022と、を含む。
【0082】
また、別の観点では、半導体基板100の表面101の下は、明確に層と境界が分かれているわけではなく、内部に行くほど歪みの程度が小さくなる加工変質層102が、バルク層103との境界が曖昧な状態で、連続的に分布している(図11)。
言い換えれば、加工変質層102は、比較的大きな歪み量を持つ層のことを指す概念であり、バルク層103は、比較的小さな、又は無視できる程度の歪み量を持つ層のことを指す概念であって、両者を明確に分ける境界は存在しない、という観点もある。
【0083】
表面101は、化学機械研磨等の平坦化処理により平坦化されている。定量的に、表面101は、算術平均粗さ(Ra)が0.5nm以下の面を含む。好ましくは、表面101は、算術平均粗さ(Ra)が0.4nm以下、0.3nm以下、0.2nm以下の面を含む。
【0084】
レーザー光L1は、半導体基板100の表面101から内部に入射する。即ち、表面101は、レーザー光L1が入射する境界面である。
よって、半導体基板100が、平坦化処理によって平坦化された表面101を有することで、表面101の凹凸に起因する散乱光が発生しにくくなる、または、表面101で発生する散乱光の強度が低くなる。これにより、散乱光L4において、表面101の下の加工変質層102で発生した散乱光の割合が大きくなる。
【0085】
半導体基板100の表面101は、少なくとも、表面101で発生した散乱光が、加工変質層102で発生した散乱光の検出に障害とならない程度の平坦性とすることで、閾値やマッピングによる加工変質層102の歪み評価が可能となる。
言い換えれば、平坦化された表面101は、表面凹凸由来の散乱光の発生を抑制する、又は、表面凹凸由来の散乱光の強度を低減させる効果を有する。これにより、散乱光L4において、検出対象ではない表面凹凸由来の散乱光の割合を減らすことができる。
【0086】
図2は、レーザー光L1の偏光と加工変質層102の関係について説明する説明図である。図2(a)は、S偏光のレーザー光L1を半導体基板100に照射した場合を説明する説明図である。図2(b)は、P偏光のレーザー光L1を半導体基板100に照射した場合を説明する説明図である。
【0087】
本発明にかかる加工変質層の評価方法は、加工変質層102を有する半導体基板100の表面101からS偏光のレーザー光L1を入射させ、表面101の下で散乱した散乱光L4の強度を測定するS偏光を用いた測定工程を含む(図2(a)参照)。なお、S偏光は、レーザー光L1の電場が入射面に対して垂直方向に振動しており、同条件で照射されたP偏光と比べて透過率が低い。このため、入射光L3の総量及び有するエネルギー等を考慮すると、S偏光はP偏光と比べて相対的に浅い部分で発生した散乱光が検出されやすく、S偏光は加工変質層102の浅い部分の歪みの測定に適している。
具体的に、S偏光は、基板表面~10μm、~8μm、~6μm又は~4μmの深さ範囲に位置する歪みの測定に適している。
S偏光のレーザー光L1を用いた場合には、より表面101に近い酸化層1021と歪み層1022の境界領域において散乱光L4が発生しているものと考えられる。
すなわち、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、酸化層1021と歪み層1022の境界領域において発生した散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する方法であると考えられる。なお、ここで言う境界領域は、酸化層1021と歪み層1022の界面をふくむ。
【0088】
別の観点では、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、加工変質層102を有する半導体基板100の表面101からS偏光のレーザー光L1を入射させた場合に、表面101の下、深さ~10μm程度の深さ範囲にて発生した散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する方法である。
【0089】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、半導体基板100の表面101からP偏光のレーザー光L1を入射させ、表面101の下で散乱した散乱光L4の強度を測定するP偏光を用いた測定工程を含む(図2(b)参照)。なお、P偏光は、レーザー光L1の電場が入射面に対して平行方向に振動しており、同条件で照射されたS偏光と比べて透過率が高い。このため、入射光L3の総量及び有するエネルギー等を考慮すると、P偏光はS偏光と比べて相対的に深い部分で発生した散乱光が検出されやすく、P偏光は加工変質層102の深い部分の歪みの測定に適している。
具体的に、P偏光は、基板表面~47μm、~30μm、~20μm又は~10μmの範囲に位置する歪みの測定に適している。
P偏光のレーザー光L1を用いた場合には、酸化層1021よりも下層に存在する歪み層1022とバルク層103の境界領域において散乱光L4が発生しているものと考えられる。
すなわち、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、歪み層1022とバルク層103の境界領域において発生した散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する方法であると考えられる。なお、ここで言う境界領域は、歪み層1022とバルク層103の界面をふくむ。
【0090】
別の観点では、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、加工変質層102を有する半導体基板100の表面101からP偏光のレーザー光L1を入射させた場合に、表面101の下、深さ~47μm程度の深さ範囲にて発生した散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する方法である。
【0091】
S偏光のレーザー光L1を用いた場合の深さ方向の検査エリアIAは、基板表面~10μm、~8μm、~6μm又は~4μmの深さ範囲に含まれるように調整されうる。
P偏光のレーザー光L1を用いた場合の深さ方向の検査エリアIAは、は、基板表面~47μm、~30μm、~20μm又は~10μmの深さ範囲に含まれるように調整されうる。
【0092】
レーザー光L1を用いた場合の深さ方向の検査エリアIAは、レーザー光L1の偏光特性や波長特性、半導体基板100への入射角度等を含む侵入特性に応じて変化する。
即ち、レーザー光L1の侵入特性を調整することで、レーザー光L1を用いた場合の深さ方向の検査エリアIAを調整することができる。
【0093】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、上述した測定工程にて得られた散乱光L4の強度の結果に基づいて、加工変質層102の評価を行う評価工程を含む。この評価工程は、例えば、S偏光及び/又はP偏光を用いた測定において得られた散乱光L4の強度から統計量を算出し、可視化・数値化することで加工変質層102の評価を行う工程である。
【0094】
実施の形態にかかる加工変質層の評価方法は、半導体基板100の表面を洗浄する洗浄工程S10と、半導体基板100の加工変質層102にレーザー光L1を入射させて散乱した散乱光L4の強度を測定する測定工程S20と、この散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する評価工程S30と、を含み得る。
以下、本発明の実施の形態に沿って、各工程を詳細に説明する。
【0095】
〈洗浄工程S10〉
洗浄工程S10は、半導体基板100の表面に付着した有機物汚染やパーティクル汚染、酸化物層、イオン汚染等により、レーザー光L1が半導体基板100の表面101で散乱する要因を排除する工程である。特に、半導体基板100の表面にパーティクルが付着している場合は、加工変質層102で発生する散乱光L4よりも強い散乱が生じる。そのため、加工変質層102の測定を行う前には、パーティクル汚染等が除去されていることが望ましい。
【0096】
言い換えれば、洗浄工程S10は、表面付着物由来の散乱光の発生を抑制する、又は、表面付着物由来の散乱光の強度を低下させる効果を有する。これにより、散乱光L4において、検出対象ではない表面付着物由来の散乱光の割合を減らすことができる。
【0097】
洗浄工程S10の手法としては、半導体基板100の表面101に付着した有機物汚染やパーティクル汚染、酸化物層、イオン汚染の少なくとも何れか一つを除去可能な手法であれば採用することができる。例えば、一般的なRCA洗浄(NHOH,H,HO)、酸洗浄(HCl,HF)などの化学洗浄、バブルやブラシなどによる物理的洗浄を採用することができる。その他、半導体基板100の表面101を洗浄可能な手法であれば当然に採用することができる。
【0098】
以上、実施の形態にかかる洗浄工程S10について説明した。なお、本発明にかかる加工変質層の評価方法は、洗浄工程S10を含まない形態をも例示することができる。すなわち、半導体基板100の表面101が十分に清浄な場合には、洗浄工程S10を行わず、後述する測定工程S20及び評価工程S30を含むようにして加工変質層102の評価を行っても良い。
【0099】
〈測定工程S20〉
測定工程S20は、図1に示すように、評価システムの投光系10から照射され半導体基板100の表面101から入射した入射光L3を加工変質層102の内部で散乱させ、この散乱させた散乱光L4を受光系20で測定する工程である。そのため、半導体基板100の表面101は化学機械研磨等により十分に平坦化されていることが望ましい。言い換えれば、測定工程S20は、化学機械研磨後の表面101に対して行うことが望ましい。
【0100】
本実施の形態にかかる測定工程S20は、半導体基板100の表面101の法線Nに対して傾斜した入射角度θでレーザー光L1を入射させる工程である。このように入射角度θを設けて投光系10から照射されたレーザー光L1は、一部が半導体基板100の表面101で正反射して反射光L2となり、一部が半導体基板100の内部に入射して入射光L3となる。さらに、この入射光L3が加工変質層102にて散乱することにより散乱光L4が生じる。
【0101】
反射光L2は、レーザー光L1の入射角度θと同角度で正反射し、散乱光L4に比して高強度となる。本発明は散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102を評価する方法である。そのため、散乱光L4を精度良く測定するには、反射光L2が受光センサー24に入光することを抑制する必要がある。例えば、反射光L2を避けるように受光系20を配置する手法や、反射光L2の光路上に遮光テープを配置する等して、受光センサー24への入光を制限する手法を採用することができる。
【0102】
本発明で測定する散乱光L4は、弾性散乱を含む。すなわち、非弾性散乱に比して高強度な弾性散乱を含む散乱光L4を測定することにより、測定の感度を向上させることができ、高速な測定を実現することができる。
【0103】
測定工程S20は、S偏光を用いた測定工程S21と、P偏光を用いた測定工程S22と、を含み得る。S偏光とP偏光とでは、発生した散乱光の検出されやすさが散乱光の発生深さに応じて異なるため、レーザー光L1の偏光を選択することで、加工変質層102の測定領域を変更することができる。すなわち、S偏光を用いた測定工程S21においては、表面101寄りの加工変質層102の散乱光L4を測定することができると考えられる。一方で、P偏光を用いた測定工程S22においては、バルク層103寄りの加工変質層102の散乱光L4を測定することができると考えられる。
【0104】
なお、レーザー光L1の半導体基板100への侵入深さPDの制御に関しては、測定対象である半導体基板100の物性や加工変質層102の厚みに応じて、適切な入射角度θを当然に選択することができる。
【0105】
ここで、レーザー光L1の入射角度θは、その下限において40°≦θ、45°≦θ又は50°≦θ、その上限においてθ≦80°、θ≦75°又はθ≦70°、を満たすことが好ましい。
入射角度θが半導体基板100のブリュースター角付近(ブリュースター角±約10°)の場合、P偏光が半導体基板100のより深くまで侵入し、表面の下の深い部分の歪みを検知できるため、より好ましい。
【0106】
実施の形態にかかる加工変質層の評価に用いる評価システムは、半導体基板100にレーザー光L1を入射させ加工変質層102で散乱した散乱光L4の強度を測定可能な装置構成であれば、当然に採用することができる。
以下、図1ないし図4を参照して、実施の形態で用いる評価システムの一例について説明する。
【0107】
(評価システムの実施形態1)
図3は、実施の形態にかかる評価方法で用いる評価システムのブロック図である。
実施の形態にかかる評価システムは、レーザー光L1を照射する投光系10と、散乱光L4を受光する受光系20と、測定対象である半導体基板100が設置されるステージ30と、投光系10及び受光系20が設置される筐体40と、受光系20で測定した信号の信号処理を行う信号処理部50と、データ処理を行うデータ処理部60と、各種制御を行う制御部70と、を備える。
【0108】
言い換えれば、実施の形態にかかる評価システムは、測定対象である半導体基板100を保持可能なステージ30と、S偏光及び/又はP偏光のレーザー光L1を照射可能な投光系10と、半導体基板100の表面101の下で散乱した散乱光L4を受光可能な受光系20と、S偏光及びP偏光を用いて測定された散乱光L4の強度に基づいて加工変質層102の評価を行うデータ処理部60と、を備える。
【0109】
投光系10は、レーザー出力部11と、波長板12と、を有する。この投光系10は、レーザー光L1が半導体基板100の表面の法線Nに対して傾斜した入射角度θで入射するよう筐体40に取付けられている。
【0110】
なお、投光系10は、入射角度θを調整できるように、筐体40に取り付けられてもよい。
【0111】
レーザー出力部11は、レーザー光L1の発生源であり、例えば、He-Neレーザー等のガスレーザー、半導体レーザー及びYAGレーザー等の固体レーザー等を採用することができる。
【0112】
波長板12は、レーザー出力部11で発生したレーザー光L1に対して、波長の分離、微調整、楕円率の調整、偏光の回転等の調整を行う。この波長板12では、レーザー光L1のS偏光とP偏光の切り替えを行うことができ、入射角度θや波長λ等の測定条件を変更することなく、レーザー光L1の侵入特性を制御することができる。この波長板12は、測定対象である半導体基板100の材料や条件に応じて適切な材料や構成が選択される。
【0113】
即ち、波長板12は、レーザー光L1に対して、波長の分離、微調整、楕円率の調整、偏光の回転等の調整を行い、レーザー光L1の侵入特性を制御する、光調整器の一態様である。
【0114】
光調整器によってレーザー光L1の侵入特性を制御することで、評価システムは、入射光L3の侵入深さPD及び/又は深さ方向の検査エリアIAを調整して、半導体基板100の任意の深さ範囲に位置する歪みを選択的に検出することが可能となる。
【0115】
光調整器として、波長板12に限らない様々な光学素子(フィルタ、レンズ、ミラー等)又はその組み合わせが用いられ得、レーザー光L1の侵入特性(偏光特性、波長、入射角度等)を調整してもよい。
【0116】
レーザー光L1の波長は、受光系20において散乱光L4が検出可能な強度であるために、半導体基板100のバンドギャップよりも大きい光子エネルギーを有していることが望ましい。すなわち、レーザー光L1の波長λは、「λ[nm]≦1239.8/バンドギャップ[eV]」の関係式を満たすことが望ましい。
【0117】
具体的には、測定対象が4H-SiCである場合には、380nm以下の波長に設定されることが望ましい(λ[nm]≦1239.8/3.26[eV])。測定対象がGaNである場合には、365nm以下の波長に設定されることが望ましい(λ[nm]≦1239.8/3.39[eV])。
【0118】
レーザー光L1が有する光子エネルギーの下限値としては、好ましくは半導体基板100のバンドギャップの101%、さらに好ましくはバンドギャップの103%、さらに好ましくはバンドギャップの105%、さらに好ましくはバンドギャップの107%である。
【0119】
レーザー光L1が有する光子エネルギーの上限値としては、好ましくは半導体基板100のバンドギャップの122%、さらに好ましくはバンドギャップの120%、さらに好ましくはバンドギャップの115%、さらに好ましくはバンドギャップの112%、さらに好ましくはバンドギャップの110%である。
【0120】
上記した下限値と上限値の範囲で定義される光子エネルギーを有するレーザー光L1は、加工変質層、特に評価対象となる歪みを含む範囲に、十分なエネルギーを保持した状態で侵入し、加工変質層、特に歪みに起因する散乱光を検出可能な強度で生じさせる。
【0121】
レーザー光L1の波長(レーザー光L1が有する光子エネルギー)と、歪みが検出可能な深さの関係は、例えば、“Penetration depths in the ultraviolet for 4H、 6H and 3C silicon carbide at seven common laser pumping wavelengths”(S.G Sridhara, T.J Eperjesi, R.P Devaty, W.J Choyke,Materials Science and Engineering: B Volumes 61・62, 30 July 1999, Pages 229-233)に記載の吸収係数を考慮することで、計算することが可能である。
【0122】
例えば、レーザー光L1が、4H-SiCのバンドギャップの122%の光子エネルギーを有する場合(レーザー光L1の波長が313nmの場合)、歪みが検出可能な深さは、4μm程度と見積もることができる。
また例えば、レーザー光L1が、4H-SiCのバンドギャップの112%の光子エネルギーを有する場合(レーザー光L1の波長が340nmの場合)、歪みが検出可能な深さは、16μm程度と見積もることができる。
また例えば、レーザー光L1が、4H-SiCのバンドギャップの107%の光子エネルギーを有する場合(レーザー光L1の波長が355nmの場合)、歪みが検出可能な深さは、50μm程度と見積もることができる。
【0123】
レーザー光L1の強度は、半導体基板100を透過しない強さに設定されていることが望ましい。すなわち、入射光L3の侵入深さPDが半導体基板100の厚み以下となるよう設定されていることが望ましい。
【0124】
受光系20は、対物レンズ21と、結像レンズ22と、ビームスプリッター23と、受光センサー24と、スリット25と、を有する。この受光系20は、反射光L2が入光しないよう、入射角度θとは異なる測定角度φで筐体40に取付けられていることが望ましい。
【0125】
受光系20の測定角度φは、その下限において20°≦φ、25°≦φ又は30°≦φ、その上限においてφ≦70°、φ≦65°又はφ≦60°、を満たすことが好ましい。
このような測定角度φは、半導体基板100の表面101付近の浅い部分で発生した散乱光を受光系20に入光しにくくするため、表面101の下の歪みを精度よく検出できる。
【0126】
受光系20は、測定角度φを調整できるように、筐体40に取り付けられてもよい。
【0127】
ビームスプリッター23は、キューブ型のビームスプリッターを採用することが望ましい。受光センサー24は、散乱光L4の強度を電気信号に変換可能な構成であれば良い。例えば、光電子増倍管やフォトダイオード等を採用することができる。スリット25は、レーザー光L1の検査エリアを確定させるために配置されている。
【0128】
ここで、レーザー光L1の検査エリアは、入射光L3の侵入深さPDの範囲内で半導体基板100の表面101の下の任意の深さ範囲から確定される。
即ち、スリット25は、半導体基板100の表面101の下で発生した散乱光のうち、検査エリアで発生した散乱光L4を、選択的に受光センサー24に入光させる、光選択器の一態様である。
【0129】
言い換えれば、スリット25は、半導体基板100の表面101の下で発生した散乱光のうち、検査エリアから外れた非検査エリア(半導体基板100における、検査エリアよりも浅い部分、深い部分、又は裏面等)で発生した散乱光を受光センサー24に入光させないように遮蔽する、光選択器の一態様である。
半導体基板100の表面101の下のより深いところほど、入射光L3、散乱光L4は減衰する。このため、光選択器が、検査エリアから外れた非検査エリアで発生した散乱光を遮蔽することで、検査エリアで発生した散乱光L4を選択的に検出できる。
このことは、表面凹凸由来の散乱光の検出強度を低下させる効果も有する。これにより、散乱光L4において、検出対象ではない表面凹凸由来の散乱光の割合を減らすことができる。
【0130】
光選択器として、スリット25に限らない様々な光学素子(フィルタ、レンズ、ミラー等)又はその組み合わせが用いられ得る。
【0131】
(評価システムの実施形態2)
ここで、受光系20の別の例と、光選択の詳細について、図10を用いて説明する。
図11に示すように、受光系20は、対物レンズ21と、結像レンズ22と、ビームスプリッター23と、受光センサー24と、スリット25と、を有する。
【0132】
レーザー光L1は、半導体基板100の表面101で屈折し、散乱と減衰を繰り返しながら、侵入長PLの長さまで侵入する(入射光L3)。このとき、入射光L3が到達した最深部分の表面101からの距離が侵入深さPDとなる。
【0133】
レーザー光L1の入射により、表面101で散乱した表面散乱光L41と、加工変質層102の浅い部分で散乱した散乱光L42と、加工変質層102の深い部分で散乱した散乱光L43と、を含む散乱光が生じ得る。
【0134】
各散乱光L41、L42、L43は、対物レンズ21及び結像レンズ22を通過して、スリット25に到達する。
【0135】
スリット25は、光軸O上で散乱した散乱光を遮蔽するように、光軸Oに対してずれた(オフセットした)配置となっている。この例では、スリット25が、表面散乱光L41を遮蔽して、表面散乱光L41が受光センサー24に到達しないようにしている。
【0136】
また、スリット25は、散乱光L42よりも浅い部分で発生した散乱光を遮蔽するような位置及び/又は幅で配置されている。また、スリット25は、散乱光L43よりも深い部分で発生した散乱光を遮蔽するような位置及び/又は幅で配置されている。
【0137】
即ち、この例において、スリット25は、その位置及び/又は幅を調整することで、散乱光L42及びL43の発生箇所を含む深さ範囲を検査エリアIAに設定し、この範囲で発生した散乱光を選択的に受光センサー24へと到達させることができる。
【0138】
また、対物レンズ21及び結像レンズ22は、スリット25側における散乱光L42及び散乱光L43の到達点同士の間隔を、スリット25に対して垂直に広げている。
言い換えれば、対物レンズ21及び結像レンズ22は、検査エリアIAをより狭めることができるため、精度の高い測定が可能となる。
対物レンズ21及び結像レンズ22の倍率は、合わせて約1~100倍程度が好ましく、特に、約10倍程度が望ましい。
【0139】
上記のように、光選択器は、特定の深さ範囲で発生した散乱光L4を選択的に受光センサー24に入光させることができるものであればよい。
スリット25の場合、その位置を調整することで、検査エリアIAの深さ方向の位置を調整することができる。このとき、スリット25の位置に合わせて受光センサー24の位置も調整してもよい。また、スリット25の場合、幅を調整することで、検査エリアIAの幅を調整することができる。
即ち、光選択器の調整によって、入射光L3の侵入深さPDの範囲内で、半導体基板100の表面101の下の任意の深さ範囲に位置する歪みを選択的に検出することが可能となる。
【0140】
さらに、レーザー光L1の侵入特性(偏光特性、波長、入射角度θ等)を変化させることで入射光L3の侵入深さPDを変化させることができるため、レーザー光L1の侵入特性及び受光条件(検出角度、スリット25の位置や幅、対物レンズ21及び結像レンズ22の倍率等)をそれぞれ調整して任意に組み合わせることで、検査エリアIAの位置や幅を任意に調整することが可能となる。
【0141】
(評価システムの実施形態3)
ここで、受光系20の更に別の例について、図11を用いて説明する。
【0142】
この例は、入射光L3が、半導体基板100の裏面104に到達してしまう場合を考えている。
この例で、スリット25は、散乱光L43よりも深いところで発生した散乱光(又は反射光)を遮蔽するような位置と幅で設けられている。
特に、スリット25は、入射光L3が裏面104において反射又は散乱したことで生じた光L5を遮蔽し、受光センサー24に到達させないようにする。
【0143】
一方で、この例において、スリット25は、散乱光L42よりも浅いところで発生した散乱光については遮蔽しないような位置と幅で設けられている。
即ち、図11で説明された表面散乱光L41等については、受光センサー24に到達するようになっている。
ただし、基板表面の洗浄処理や平坦化処理によって、表面散乱光L41の発生要因を可能な限り排除することで、表面散乱光L41の検出強度を抑制することができるため、散乱光L42やL43等の内部散乱光の強度を判別可能に検出する事が可能となる。
【0144】
また、受光系20は、レーザー光L1の波長に対応したバンドパスフィルター26を有することが好ましい。
バンドパスフィルター26により、受光系20は、主に弾性散乱によって生じた散乱光を選択的に検出することが可能となる。
【0145】
図4は、実施の形態にかかる評価方法の測定工程S20の説明図である。
ステージ30は、図4に示すように、測定対象である半導体基板100が設置され、半導体基板100の中心を軸に水平回転可能に構成されている。また、ステージ30は、筐体40(投光系10及び受光系20)に対し、半導体基板100を平行移動可能に構成されている。このように、半導体基板100を回転させながら平行移動させることにより、レーザー光L1が半導体基板100の広範囲(若しくは全面)を走査可能なよう構成されている。
【0146】
なお、ステージ30を移動させる形態を示したが、投光系10及び受光系20を移動させることで、半導体基板100上をレーザー光L1が走査できるよう構成しても良い。
【0147】
データ処理部60は、深さ方向の検査エリアの情報(深さ方向の測定位置情報)を検査エリア設定部80から取得し(検査エリア情報取得工程)、これに基づいて、検査エリアにレーザー光L1が侵入するような投光条件(レーザー光L1の侵入特性等)及び/又は受光条件(検出角度、スリット25の位置や幅、対物レンズ21及び結像レンズ22の倍率等)を含むデータを取得する(投光条件取得工程)。
あるいは、使用者が、検査エリア設定部80にて、深さ方向の検査エリアの情報(深さ方向の測定位置情報)を予め入力しておくことで、データ処理部60が、このデータに基づいて投光条件及び/又は受光条件を含むデータを取得してもよい。
【0148】
制御部70は、データ処理部60から投光条件及び/又は受光条件を含むデータを取得し、このデータに基づいて、検査エリアにレーザー光L1が侵入するように、且つ、検査エリアで発生した散乱光を選択的に測定する(光選択工程)ように、投光系10、受光系20、ステージ30を含む、評価システムの各構成を制御する。
【0149】
信号処理部50は、受光センサー24(光電子増倍管)により測定された電気信号(アナログ信号)を増幅した後にデジタル信号に変換する。また、信号処理部50は、ステージ30のエンコーダ情報により半導体基板100の面方向の位置情報を取得し、散乱光L4の強度情報(強度測定値)と位置情報を紐づける。
【0150】
データ処理部60は、信号処理部50から、半導体基板100上をレーザー光L1が走査して得られた信号の処理結果として、散乱光L4の複数の強度情報(強度測定値)及び複数の強度情報(強度測定値)の各々に紐づいた測定位置情報を含む散乱光強度データを取得する。
【0151】
強度情報(強度測定値)は、ある測定位置で測定された散乱光の強度測定値であり、一つの数値で示される。
【0152】
測定位置情報は、半導体基板100の面方向(XY平面方向)の位置情報と、深さ方向(Z方向)の位置情報と、を含む。
測定位置情報のうち、深さ方向の位置情報は、投光条件と受光条件に基づいて定まる。
【0153】
データ処理部60は、信号処理部50から取得したデータに基づいて、散乱光L4の強度に応じて分類し、加工変質層102の分布図やヒストグラムを作製するためのデータ処理を行う。また、制御部70は、レーザー光の照射や走査の制御を行う。
【0154】
このデータ処理部60や制御部70は、例えば、プロセッサやストレージ等のハードウェア構成が採用され、投光系10、受光系20、ステージ30、信号処理部50、検査エリア設定部80を含め、ローカルエリアネットワーク等を介して相互通信可能なよう構成されていることが望ましい。
【0155】
〈評価工程の実施形態1〉
以下、評価工程の実施形態1について説明する。
図5及び図6は、実施の形態にかかる評価方法の評価工程S30の説明図である。
評価工程S30は、測定工程S20にて得られた散乱光L4の強度から、半導体基板100の加工変質層102の評価を行う工程である。具体的には、半導体基板100に任意エリアAAを設定し、この任意エリアAAごとに散乱光L4の強度に基づいて統計量を算出することで、半導体基板100に導入された加工変質層102の歪み量や分布状況を把握する工程である。
【0156】
評価工程S30は、半導体基板100を任意の面積で区画した任意エリアAAを設定するエリア設定工程S31と、この任意エリアAAごとに散乱光L4の強度に基づいて統計量を算出する統計量算出工程S32と、加工変質層102の良否を判別するための閾値を設定する閾値設定工程S33と、任意エリアAAにおける統計量をマッピングするマッピング工程S34と、統計量を用いて加工変質層102を分析する分析工程S35と、を含み得る。
【0157】
エリア設定工程S31は、測定工程S20にて測定した測定データを複数の区画に分割して、任意エリアAAを設定する工程である。図5においては、同心円上に扇状の任意エリアAAを設定したが、例えば格子状や渦巻状等、任意の形状・面積で設定することができる。
【0158】
統計量算出工程S32は、設定した任意エリアAAごとに、散乱光L4の強度の平均値や中央値、最頻値等の統計量を算出する工程である。例えば、統計量として平均値を採用する場合には、任意エリアAA内の散乱光L4の強度を積算する積算工程S321と、この積算工程S321で得られた積算値を任意エリアAAの任意エリア内の取得データ数で割る除算工程S322と、を有する。
【0159】
積算工程S321は、信号処理部50にて紐づけられた散乱光L4の強度情報(強度測定値)及び位置情報から、設定した任意エリアAA内の散乱光L4の積算値を算出する工程である。
【0160】
除算工程S322は、積算工程S321にて得られた積算値を任意エリアAAの任意エリア内の取得データ数で割ることにより、設定した任意エリアAA範囲の平均値を得る工程である。
【0161】
閾値設定工程S33は、デバイスの製造において悪影響を与える不適な加工変質層102を抽出するための閾値を設定する工程である。なお、この閾値は複数設定しても良く、例えば、統計量の下限値から上限値までを均等に256分割した閾値を設けるなどして、モノクロ若しくはカラーのグラデーションで統計量の高低を表現できるようにしても良い。
【0162】
マッピング工程S34は、加工変質層102の歪みの分布状況を視覚化した分布図を作成する工程である。例えば、統計量の下限値から上限値までを均等に256分割した閾値を設定した場合には、加工変質層102の歪み量や分布状況を可視化したコンタ図を作成することができ、デバイスの製造に好適な加工変質層102が分布する領域と、デバイスの製造に不適な加工変質層102が分布する領域と、を視覚的に判別することができる。
【0163】
分析工程S35は、測定工程S20にて得られた結果を用いて、加工変質層102の品質を分析する工程である。この分析工程S35は、閾値設定工程S33において設定した閾値における統計量の分布の位置母数(例えば、平均(算術・幾何・調和)、中央値(分位数・順序統計量)、最頻値、階級値、等から選ばれる1以上を含む)を抽出する位置母数抽出工程S351と、分布の統計的な尺度母数(例えば、分散、偏差値、標準偏差、平均偏差、中央絶対偏差、範囲、半値幅、等から選ばれる1以上を含む)を抽出する尺度母数抽出工程S352と、位置母数抽出工程S351及び/又は尺度母数抽出工程S352の結果に基づいて加工変質層102の品質を分類する分類工程S353と、を含み得る。
【0164】
図6は、実施の形態にかかる分析工程S35の一例を説明する説明図であり、横軸を散乱光L4の強度、縦軸をカウント数(頻度)とするヒストグラムである。
【0165】
位置母数抽出工程S351は、例えば、測定工程S20で測定した散乱光L4の強度の中から、加工変質層102において最も頻度の高い散乱光L4の強度(最頻値)を抽出する工程である。この最頻値は、図6のヒストグラムにおいて、カウント数が最も高い値を採用することができる。この最頻値を抽出することにより、測定した加工変質層102の品質を数値化することができ、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量を有しているかを把握することができる。
【0166】
尺度母数抽出工程S352は、例えば、図6のヒストグラムにおいて、最頻値を頂点とする山形の関数の半値幅を抽出する工程である。この半値幅を抽出することにより、測定した半導体基板100の加工変質層102のバラツキを数値化することができ、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量のバラツキを有しているかを把握することができる。
【0167】
分類工程S353は、位置母数抽出工程S351及び/又は尺度母数抽出工程S352の抽出結果に基いて加工変質層102の分類分けを行う工程である。例えば、S偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた最頻値、S偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた半値幅、P偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた最頻値、P偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた半値幅、を任意の組合せでグラフにプロットすることにより、測定した半導体基板100の加工変質層102の品質の分類を行うことができる(図9参照)。
【0168】
なお、実施の形態にかかる評価工程S30は、エリア設定工程S31と、統計量算出工程S32と、閾値設定工程S33と、マッピング工程S34と、分析工程S35と、をコンピュータのプロセッサに実行させる構成を採用することができる。
【0169】
本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、半導体基板100の表面101からレーザー光L1を入射させ、この入射した入射光L3が加工変質層102の内部で散乱することにより生じる散乱光L4を測定することにより、加工変質層102を非破壊で評価することができる。そのため、デバイスに悪影響を与える加工変質層102を有した半導体基板100を非破壊のまま判別して、加工変質層102を除去する等の適切な処理を経た上で、再度デバイスの製造工程に流すことができる。
【0170】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、加工変質層102を有する半導体基板100の表面101からS偏光のレーザー光L1を入射させ、表面101の下で散乱した散乱光L4の強度を測定するS偏光を用いた測定工程を含む。S偏光のレーザー光L1を入射させることにより、表面101近傍に存在する加工変質層102の歪み量や分布状況を測定することができる。
【0171】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、位置母数抽出工程S351及び/又は尺度母数抽出工程S352の抽出結果に基いて加工変質層102の分類分けを行う分類工程S353を含む。このように、加工変質層102の歪み量や分布状況を可視化・数値化することにより、デバイスの製造に適切な半導体基板100の分類を行うことができる。
【0172】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、レーザー光L1の偏光を選択することにより、加工変質層102の深さ方向の歪み量や分布状況を評価することができる。レーザー光L1のS偏光とP偏光との切り替えは波長板12にて行うことができる。そのため、入射角度θや波長λ等の測定条件を変更することなく、深さ方向の検査エリアIAを容易に調整して測定・評価することができる。
【0173】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、弾性散乱を含む散乱光L4を測定することにより、測定の感度を向上させることができる。すなわち、加工変質層102の内部で散乱することにより生じる散乱光L4は、そのほとんどが弾性散乱である。本発明は、この弾性散乱を含めるよう散乱光L4を測定することにより、高感度な測定を行うことができる。
【0174】
また、本発明にかかる加工変質層の評価方法によれば、半導体基板100を回転させながらレーザー光L1を走査することにより、加工変質層102を高速にマッピングすることができる。具体的には、6インチの半導体基板100であれば、一枚5分以内に全面をマッピングすることができる。
【0175】
また、本実施の形態にかかる加工変質層の評価方法によれば、任意エリアAAを設定し(エリア設定工程S31)その任意エリアAAの統計量を算出する(統計量算出工程S32)工程を含む。これにより、半導体基板100の広範囲に存在する加工変質層102の歪み量と分布状況を評価することができる。言い換えれば、測定データの一部を取捨選択するのではなく、全ての測定データを積算して活用することで、従来の手法では評価することが出来なかった加工変質層102を視覚化及び/又は数値化して評価することができる。
【0176】
〈評価工程の実施形態2〉
以下、評価工程の実施形態2について説明する。
図6~9は、実施の形態にかかる評価方法の評価工程S50の説明図である。
評価工程S50は、測定工程S20にて得られた散乱光L4の強度から、半導体基板100の加工変質層102の評価を行う工程である。具体的には、散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値に基づいて統計量を算出することで、半導体基板100に導入された加工変質層102の歪み量や分布状況を把握する工程である。
【0177】
評価工程S50は、半導体基板100の表面101からレーザー光L1を入射させて測定した、半導体基板100の表面101の下で散乱した散乱光L4の強度測定値を、測定位置情報に関連付けて散乱光強度データとして取得するデータ取得工程S51と、所定の基準を満たす強度測定値を特定してラベル付けするピーク特定工程S52と、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値に基づいて統計量を算出する統計量算出工程S53と、算出された統計量から半導体基板の表面の下の歪み量を更に算出する歪み量算出工程S54と、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の分布図を作成するマッピング工程S55と、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の母数を用いて半導体基板の加工変質層102を分析する分析工程S56と、分類基準に照らして評価対象の複数の半導体基板を分類する分類工程S57と、を含み得る。
【0178】
データ取得工程S51は、測定工程S20にて得られた散乱光L4の強度測定値を、これに紐づく測定位置情報と共に散乱光強度データとして取得する工程である。
測定工程S20では、半導体基板100上をレーザー光L1が走査して得られた信号の処理結果として、散乱光L4の複数の強度情報(強度測定値)及び複数の強度情報(強度測定値)の各々に紐づいた測定位置情報が得られる。
即ち、データ取得工程S51が取得する散乱光強度データは、散乱光L4の複数の強度情報(強度測定値)及び複数の強度情報(強度測定値)の各々に紐づいた測定位置情報を少なくとも含む。
【0179】
データ取得工程S51は、第1の侵入特性を有する第1のレーザー光(例えば、S偏光)を入射させて測定した散乱光の第1の強度測定値と、第2の侵入特性を有する第2のレーザー光(例えば、P偏光)を入射させて測定した散乱光の第2の強度測定値とを、前記半導体基板の面方向及び深さ方向を含む測定位置情報にそれぞれ関連付けた第1の散乱光強度データ及び第2の散乱光強度データを取得してもよい。
このとき、第1の侵入特性を有する第1のレーザー光と、第2の侵入特性を有する第2のレーザー光の侵入特性の違いは、各レーザー光の侵入特性(偏光特性、波長、入射角度等)又はその任意の組合せに基づくものであってよい。
【0180】
ピーク特定工程S52は、所定の基準を満たす強度測定値を特定してラベル付けする工程である。
例えば、ピーク特定工程S52は、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値のうち、所定の上限値より大きい強度測定値を特定してラベル付けする工程である。
また例えば、ピーク特定工程S52は、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値のうち、測定位置情報及び強度測定値に基づいて、測定位置情報に照らして数値が不連続的な強度測定値を特定してラベル付けする工程である。このようなピーク特定工程S52は、平坦化された表面を有する半導体基板100の測定で得られた散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値に対して行われることが好ましい。
このようなピーク特定工程S52は、加工変質層102に位置する歪みの、空間的連続性や、典型的な散乱光強度、にそぐわない強度測定値、即ち、歪み以外の要因に由来すると推測される散乱光の強度測定値を、ラベル付けしておくことができる。
これにより、後の工程で、歪み以外の要因に由来すると推測される散乱光の強度測定値を使用しないようにする、又は、その比重を小さくする等の処理を行うことができる。
【0181】
統計量算出工程S53は、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値に対して統計的処理を行い、統計量を算出する工程である。
また、統計量算出工程S53は、母数抽出工程S53であってもよく、母数抽出工程S53は散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の位置母数(例えば、平均(算術・幾何・調和)、中央値(分位数・順序統計量)、最頻値、階級値、等から選ばれる1以上を含む)を抽出する位置母数抽出工程S531と、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の尺度母数(例えば、分散、偏差値、標準偏差、平均偏差、中央絶対偏差、範囲、半値幅、等から選ばれる1以上を含む)を抽出する尺度母数抽出工程S352と、を含む。
【0182】
位置母数抽出工程S531は、例えば、測定工程S20で測定した散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の中から、加工変質層102において最も頻度の高い散乱光L4の強度測定値(最頻値)を抽出する工程である。この最頻値は、図6のヒストグラムにおいて、カウント数が最も高い値を採用することができる。この最頻値を抽出することにより、測定した加工変質層102の品質を数値化することができ、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量を有しているかを把握することができる。
【0183】
尺度母数抽出工程S532は、例えば、図6のヒストグラムにおいて、最頻値を頂点とする山形の関数の半値幅を抽出する工程である。この半値幅を抽出することにより、測定した半導体基板100の加工変質層102のバラツキを数値化することができ、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量のバラツキを有しているかを把握することができる。
【0184】
なお、統計量算出工程S53で算出される統計量は、面方向および深さ方向を含む測定位置情報に関連付けて算出されてもよい。
これにより、半導体基板100における、ある深さ、ある領域(半導体基板100の全体でもよい)の特徴を、その測定位置情報に対応する統計量に基づいて把握することができる。
【0185】
歪み量算出工程S54は、算出された統計量から半導体基板の表面の下の歪み量を更に算出する工程である。
歪み量は、統計量に対して何らかの演算処理をすることで算出されてもよく、統計量をそのまま歪み量とみなしてもよい。
歪み量は、面方向および深さ方向を含む測定位置情報に関連付けて算出された統計量に対して何らかの演算処理をすることで算出される、又は、統計量をそのまま歪み量とみなされた値であるため、面方向および深さ方向を含む測定位置情報に関連付けられている。
【0186】
マッピング工程S55は、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の下限から上限までを複数に分割する閾値に基づいて強度測定値の分布図を作成する工程である。マッピング工程S55は、閾値設定工程S551を含む。
【0187】
閾値設定工程S551は、例えば、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の下限値から上限値までを均等に256分割した閾値を設けることができる。
このような場合には、マッピング工程S55において、加工変質層102の歪み量や分布状況を可視化したコンタ図(例えば、図7図8)を作成することができる。
コンタ図は、デバイスの製造に好適な加工変質層102が分布する領域と、デバイスの製造に不適な加工変質層102が分布する領域と、を視覚的に判別することを助ける。
【0188】
なお、閾値設定工程S551は、算出された統計量の下限値から上限値までを均等に分割するものでなくてもよい。
例えば、閾値設定工程S551は、算出された統計量の下限値から所定の上限値までを分割する閾値を設定する工程であってもよい。このような閾値設定工程S551によれば、マッピング工程S55で作成されうる強度測定値の分布図において、算出された統計量のうち所定の上限値よりも小さい、半導体基板100の表面下の歪みに関係すると考えられる比較的小さい値の強度測定値の分布に注目することができる。
言い換えれば、このような閾値設定工程S551は、ピーク特定工程S52によって特定された所定の上限値を超える強度測定値は検出対象ではない格子欠陥由来の散乱光や表面汚染、表面凹凸に由来する散乱光から得られた強度測定値として、評価の対象から視覚的に除外することを助ける。
【0189】
マッピング工程S55は、強度測定値の分布図を作成する際に、ピーク特定工程S52でラベル付けされた、測定位置に照らして数値が不連続的な強度測定値に対して、視覚的なマーカーを付してもよい。
【0190】
分析工程S56は、母数抽出工程S53にて抽出した母数に基づいて、半導体基板100の加工変質層102の品質を分析する工程である。
即ち、分析工程S56は、母数抽出工程S53にて抽出した、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の位置母数(例えば、平均(算術・幾何・調和)、中央値(分位数・順序統計量)、最頻値、階級値、等から選ばれる1以上を含む)及び/又は尺度母数(例えば、分散、偏差値、標準偏差、平均偏差、中央絶対偏差、範囲、半値幅、等から選ばれる1以上を含む)に基づいて半導体基板100の加工変質層102の品質を分析する工程である。
【0191】
図6は、実施の形態にかかる分析工程S35の一例を説明する説明図であり、横軸を散乱光L4の強度、縦軸をカウント数(頻度)とするヒストグラムである。
【0192】
位置母数に基づいて半導体基板100の加工変質層102の品質を分析する場合を考える。
例えば、測定工程S20で測定した、散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の中から、加工変質層102において最も頻度の高い散乱光L4の強度(最頻値)を抽出する。この最頻値は、図6のヒストグラムにおいて、カウント数が最も高い値を採用することができる。
この最頻値を抽出することにより、測定した半導体基板100の加工変質層102の品質を数値化することができ、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量を有しているかを把握することができる。
【0193】
また、尺度母数に基づいて半導体基板100の加工変質層102の品質を分析する場合を考える。
例えば、図6のヒストグラムにおいて、最頻値を頂点とする山形の関数の半値幅を抽出することにより、測定した半導体基板100の加工変質層102のバラツキを数値化することができる。
即ち、半導体基板100が、他の半導体基板と比較してどの程度の歪み量のバラツキを有しているかを把握することができる。
【0194】
上記した分析工程S56は、例えば、最頻値及び半値幅を組み合わせて、歪み量及びそのバラツキ、の2つの観点から半導体基板100を分析してもよい。
【0195】
分類工程S57は、位置母数抽出工程S531及び/又は尺度母数抽出工程S532で抽出された母数の組合せに基づいて半導体基板100の加工変質層102の分類分けを行う工程である。分類工程S57は、抽出された母数の組合せに基づいて半導体基板の加工変質層の特徴の分類基準を予め作成する分類基準作成工程S571を含む。
【0196】
分類基準作成工程S571は、例えば、S偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた最頻値、S偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた半値幅、P偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた最頻値、P偏光のレーザー光L1を用いた測定にて得られた半値幅、を任意の組合せでグラフの軸とすることで分類基準を作成する。
分類工程S57は、例えば、上記で作成された分類基準(グラフの軸)に沿って、評価対象の複数の半導体基板から得られた各種母数をプロットすることにより、測定した半導体基板100の加工変質層102の品質の分類を行うことができる(図9参照)。
【0197】
実際に、S偏光を用いた測定工程S21によって得られた散乱光L4の強度とP偏光を用いた測定工程S22によって得られた散乱光L4の強度から最頻値及び半値幅を抽出し(位置母数抽出工程S531及び尺度母数抽出工程S532)、半導体基板100の加工変質層102の品質の分類を行った(分類工程S57)の結果の例を示す。
【0198】
図9(a)は、A社製の6inchの4H-SiCウエハ、B社製の6inchの4H-SiCウエハ、C社製の6inchの4H-SiCウエハ、D社製の6inchの4H-SiCウエハに対し、測定工程S20及び評価工程S50を行い、横軸にS偏光の最頻値を、縦軸にP偏光の最頻値をプロットしたグラフである。
【0199】
この図9(a)に示したように、S偏光により測定した表面101近傍の加工変質層102の最頻値と、P偏光により測定したバルク層103近傍の加工変質層102の最頻値とを用いて、複数の半導体基板100と比較・対比することにより、深さ方向を含めた加工変質層102の品質を評価することができる。
言い換えれば、図9(a)に示したように、S偏光の最頻値と、P偏光の最頻値とを、2軸の分類基準とすることで、複数の半導体基板100について、加工変質層の深さ方向の特徴を分類・評価することができる。
【0200】
図9(b)は、A社製の6inchの4H-SiCウエハ、B社製の6inchの4H-SiCウエハ、C社製の6inchの4H-SiCウエハ、D社製の6inchの4H-SiCウエハに対し、測定工程S20及び評価工程S30を行い、横軸にS偏光の最頻値を、縦軸にP偏光の半値幅をプロットしたグラフである。
【0201】
この図9(b)に示したように、S偏光により測定した表面101近傍の加工変質層102の最頻値と、P偏光により測定したバルク層103近傍の加工変質層102の半値幅とを用いて、複数の半導体基板100と比較・対比することにより、均一性を含めた加工変質層102の品質を評価することができる。
言い換えれば、図9(b)に示したように、S偏光の最頻値と、P偏光の半値幅とを2軸の分類基準とすることで、複数の半導体基板100について、加工変質層の均一性の特徴を分類・評価することができる。
【0202】
なお、実施の形態にかかる評価工程S50は、データ取得工程S51と、ピーク特定工程S52と、統計量算出工程S53と、歪み量算出工程S54と、マッピング工程S55と、分析工程S56と、分類工程S57と、をコンピュータのプロセッサに実行させる構成を採用することができる。
【0203】
《半導体基板の製造方法》
次に、本発明にかかる半導体基板の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の実施の形態において、先の《加工変質層の評価方法》の実施の形態と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0204】
本発明にかかる半導体基板の製造方法は、デバイスに悪影響な加工変質層102を評価する工程を含む。具体的には、半導体基板100の内部にレーザー光L1を入射させ、散乱した散乱光L4の強度に基づいて、半導体基板100の加工変質層102を評価する工程を含むことを特徴とする。
【0205】
通常、半導体基板を製造する場合、インゴットをスライスしてウエハを切り出すスライス工程や、その後ウエハを鏡面化するための研削工程及び研磨工程を有している。これらのスライス・研削・研磨に伴い、半導体基板100に加工変質層102が導入される。本発明は、上述した加工変質層102を評価するものであり、スライス工程の後に採用され得る。また、本発明は、研削工程の後に採用され得る。また、本発明は研磨工程の後に採用され得る。
【0206】
実施の形態にかかる半導体基板の製造方法は、半導体基板100の表面101からレーザー光L1を入射させ半導体基板100の内部で散乱した散乱光L4を測定する測定工程S20と、この散乱光L4の強度に基づいて半導体基板100の加工変質層102を評価する評価工程S30と、を含み得る。
【0207】
また、実施の形態にかかる半導体基板の製造方法は、評価工程S30に次いで半導体基板100の加工変質層102を除去する加工変質層除去工程S40を含み得る。
【0208】
以下、本発明の実施の形態に沿って、各工程を詳細に説明する。なお、測定工程S20及び評価工程S30については、先の《加工変質層の評価方法》と同様であるため、その説明を簡略化する。
【0209】
〈加工変質層除去工程S40〉
加工変質層除去工程S40は、評価工程S30又はS50で不適と判断された加工変質層102を除去する工程である。この加工変質層102を除去する手法としては、化学機械研磨(Chemical Mechanical Polishing:CMP)やエッチング手法を例示することができる。
【0210】
評価工程S30では、統計量算出工程S32で得られる任意エリアAAごとの散乱光L4の強度の統計量や、マッピング工程S34で得られる加工変質層102の歪みの分布状況を視覚化した分布図等に基づいて、加工変質層102がデバイス製造に不適かどうかが判断される。
例えば、加工変質層102の適/不適の判断に統計量を用いる場合、所定閾値以上の統計量の存在を、所定閾値以上の歪み量の存在として、加工変質層102を不適と判断してよい。
【0211】
評価工程S50では、統計量算出工程S53で得られる散乱光L4の散乱光強度データに含まれる複数の強度測定値の統計量や、その統計量から算出される歪み量、強度測定値の分布状況を視覚化した分布図等に基づいて、加工変質層102がデバイス製造に不適かどうかが判断される。
例えば、加工変質層102の適/不適の判断に歪み量を用いる場合、所定閾値以上の歪み量が関連付けられた面方向および深さ方向を含む測定位置情報に対応する加工変質層102を不適と判断してよい。
【0212】
化学機械研磨は、研磨パッドの機械的な作用とスラリーの化学的な作用を併用して研磨を行う手法である。
エッチング手法は、半導体基板100のエッチングに用いられる手法であれば良い。例えば、半導体基板材料がSiCである場合には,SiVE法や水素エッチング法等の熱エッチング法、水酸化カリウム溶融液、フッ化水素酸を含む薬液、過マンガン酸カリウム系の薬液、水酸化テトラメチルアンモニウムを含む薬液等を用いたウェットエッチング法を例示できる。なお、通常、ウェットエッチングで用いられる薬液であれば採用することができる。
【0213】
本発明にかかる半導体基板の製造方法によれば、デバイスの製造に好適な半導体基板100を提供することができる。すなわち、デバイスの歩留まりを悪化させる加工変質層102を有しない半導体基板100を判別して提供することができる。その結果、デバイスの歩留まりを向上させることができる。
【0214】
また、本実施の形態にかかる半導体基板の製造方法によれば、デバイスの歩留まりを低下させる加工変質層102を有した半導体基板100を再利用することができる。すなわち、非破壊で半導体基板100の加工変質層102を評価することができるため、問題となる加工変質層102を除去する加工変質層除去工程S40を経ることで、デバイスの製造に好適な半導体基板100を製造することができる。
【実施例
【0215】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
化学機械研磨を施した6インチサイズの4H-SiCウエハを2枚準備し、本発明の実施の形態に示した評価システムを用いて、加工変質層102の評価を行った。
【0216】
〈洗浄工程S10〉
2枚の4H-SiCウエハに対してRCA洗浄を行った。
【0217】
〈測定工程S20〉
洗浄工程S10を経た4H-SiCウエハに対し、図1ないし図4に示した評価システムを用いて測定を行った。図4に示すように、ステージ30に4H-SiCウエハを配置して、ステージを回転させつつ平行移動しながらレーザー光L1を4H-SiCウエハに入射させることで、半導体基板100全面にレーザー光L1を走査させ、弾性散乱を含む散乱光L4を測定した。なお、測定領域はφ144mm、レーザー光L1の波長は355nmの条件で測定を行った。また、6インチサイズの4H-SiCウエハ1枚にかかる測定時間は、3分であった。
【0218】
なお、この測定工程S20においては、同一の半導体基板100に対し、S偏光のレーザー光L1を入射させたS偏光を用いた測定工程S21と、P偏光のレーザー光L1を入射させたP偏光を用いた測定工程S22と、を行った。
【0219】
〈評価工程S30〉
図5に示すように、半導体基板100の中心から放射状に扇状の任意エリアAAを設定した(エリア設定工程S31)。次に、設定した任意エリアAAの位置に対応する範囲の散乱光L4の強度を積算した(積算工程S321)。次に、積算した値を任意エリアAAの取得データ数で割り、任意エリアAA毎に平均値を算出した(除算工程S322)。最後に、各任意エリアAAで算出された平均値を母集団として下限値から上限値までを均等に256分割した閾値を設定し(閾値設定工程S33)、加工変質層102の歪み量や分布状況を視覚化した分布図を作成した(マッピング工程S34)。
【0220】
図7及び図8は、評価工程S30において得られた加工変質層102の分布図である。図7(a)及び図7(b)は、S偏光のレーザー光L1を入射させたS偏光を用いた測定工程S21によって得られた分布図である。図8(a)及び図8(b)は、P偏光のレーザー光L1を入射させたP偏光を用いた測定工程S22によって得られた分布図である。なお、図7(a)と図8(a)は同一の基板であり、図7(b)と図8(b)は同一の基板である。
【0221】
この図7及び図8から把握できるように、化学機械研磨後の同一の半導体基板100を測定対象としているにも関わらず、S偏光のレーザー光L1を用いる場合とP偏光のレーザー光L1を用いる場合とで、異なる模様の分布図が得られていることがわかる。これは偏光の種類によって散乱光の発生深さに応じた散乱光の検出されやすさが異なることにより、異なる深さの加工変質層102を測定していると考えられる。
【0222】
ここで、異なる深さの加工変質層の分布図に基づいて、半導体基板100の加工履歴の推定を行うことができる。
例えば、S偏光を用いた測定工程S21、P偏光を用いた測定工程S22に基づいて得られた、異なる深さの加工変質層102の分布図から、半導体基板100に加工変質層102が導入された加工履歴の推定を行うことができる。
【0223】
すなわち、P偏光と比べて相対的に浅い部分で発生した散乱光が検出されやすいS偏光のレーザー光L1を用いて測定された図7に現れた模様は、表面101付近に存在している加工変質層102の歪み量や分布状況を反映したものと把握できる。この図7の模様は、研削・研磨時の加工痕に酷似するため、機械加工起因で導入された加工変質層102を反映していると考えられる。
【0224】
また、S偏光と比べて相対的に深い部分で発生した散乱光が検出されやすいP偏光のレーザー光L1を用いて測定された図8に現れた模様は、バルク層103付近に存在している加工変質層102の歪み量や分布状況を反映したものと把握できる。この図8の模様は、研削・研磨時のチャッキングにおいて用いられる治具の形状に酷似するため、研削・研磨時の圧力及び/又は摩擦熱起因で導入された加工変質層102を反映していると考えられる。
【0225】
このように、化学機械研磨により極めて精密な平坦化が行われた表面101を有する半導体基板100であるにも関わらず、表面101の下層には機械加工を伴う工程により導入された加工変質層102が存在していることが確認できる。さらに、レーザー光L1の偏光(S偏光又はP偏光)を選択することにより、任意の深さの加工変質層102の歪み量や分布状況を得ることができる。
【0226】
なお、実施例の加工変質層102の評価は非破壊である。そのため、評価した4H-SiCウエハは、廃棄することなくデバイスの製造工程に流すことができる。
【0227】
最後に、S偏光を用いた測定工程S21によって得られた散乱光L4の強度とP偏光を用いた測定工程S22によって得られた散乱光L4の強度から最頻値及び半値幅を抽出し(位置母数抽出工程S351及び尺度母数抽出工程S352)、半導体基板100の加工変質層102の品質の分類を行った(分類工程S353)結果の例を示す。
【0228】
図9(a)は、A社製の6inchの4H-SiCウエハ、B社製の6inchの4H-SiCウエハ、C社製の6inchの4H-SiCウエハ、D社製の6inchの4H-SiCウエハに対し、測定工程S20及び評価工程S30を行い、横軸にS偏光の最頻値を、縦軸にP偏光の最頻値をプロットしたグラフである。
【0229】
この図9(a)に示したように、S偏光により測定した表面101近傍の加工変質層102の最頻値と、P偏光により測定したバルク層103近傍の加工変質層102の最頻値とを用いて、複数の半導体基板100と比較・対比することにより、深さ方向を含めた加工変質層102の品質を評価することができる。
言い換えれば、図9(a)に示したように、S偏光の最頻値と、P偏光の最頻値とを分類基準とすることで、複数の半導体基板100について、加工変質層の深さ方向の特徴を分類・評価することができる。
【0230】
図9(b)は、A社製の6inchの4H-SiCウエハ、B社製の6inchの4H-SiCウエハ、C社製の6inchの4H-SiCウエハ、D社製の6inchの4H-SiCウエハに対し、測定工程S20及び評価工程S30を行い、横軸にS偏光の最頻値を、縦軸にP偏光の半値幅をプロットしたグラフである。
【0231】
この図9(b)に示したように、S偏光により測定した表面101近傍の加工変質層102の最頻値と、P偏光により測定したバルク層103近傍の加工変質層102の半値幅とを用いて、複数の半導体基板100と比較・対比することにより、均一性を含めた加工変質層102の品質を評価することができる。
言い換えれば、図9(b)に示したように、S偏光の最頻値と、P偏光の半値幅とを分類基準とすることで、複数の半導体基板100について、加工変質層の均一性の特徴を分類・評価することができる。
【符号の説明】
【0232】
100 半導体基板
101 表面
102 加工変質層
1021 酸化層
1022 歪み層
103 バルク層
10 投光系
11 レーザー出力部
12 波長板(光調整器)
20 受光系
21 対物レンズ
22 結像レンズ
23 ビームスプリッター
24 受光センサー
25 スリット(光選択器)
30 ステージ
40 筐体
50 信号処理部
60 データ処理部
70 制御部
L1 レーザー光
L2 反射光
L3 入射光
L4 散乱光
PD 侵入深さ
PL 侵入長
AA 任意エリア
IA 検査エリア
S10 洗浄工程
S20 測定工程
S21 S偏光を用いた測定工程
S22 P偏光を用いた測定工程
S30 評価工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11