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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-03-29
(45)【発行日】2024-04-08
(54)【発明の名称】磁気カップリング装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 49/00 20060101AFI20240401BHJP
【FI】
F16H49/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020129000
(22)【出願日】2020-07-30
(65)【公開番号】P2022025862
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2023-03-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(73)【特許権者】
【識別番号】000219967
【氏名又は名称】東京エレクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木本 昭洋
(72)【発明者】
【氏名】田口 純之介
(72)【発明者】
【氏名】吉本 訓
(72)【発明者】
【氏名】岸本 徳彦
(72)【発明者】
【氏名】林 啓太
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-020561(JP,A)
【文献】特開2017-187130(JP,A)
【文献】特開平08-317629(JP,A)
【文献】特開平03-285556(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状扇形の第1永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列された駆動側磁石列と、
環状扇形又は扇形の第2永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列され、かつ、第1永久磁石の磁極面と第2永久磁石の磁極面が向かい合うように配列された従動側磁石列と、を有し、
駆動側磁石列を回転駆動させることで、従動側磁石列を従動回転させる磁気カップリング装置であって、
複数の前記第1永久磁石のうちの特定の第1永久磁石の径方向の第1中心線と、複数の前記第2永久磁石のうちの特定の第2永久磁石の径方向の第2中心線とを、異極どうしが向かい合うように重ね合わせた状態で、中心線どうしが重ねられた前記特定の第1永久磁石及び前記特定の第2永久磁石に隣接する第1永久磁石及び第2永久磁石も含めて、反発力が作用する反発領域の面積が、吸引力が作用する吸引領域の面積の5~15%になるように設定され、
前記重ね合わせた状態において、前記特定の第1永久磁石及びこれに隣接する第1永久磁石には、それぞれ反発領域と吸引領域が形成されることを特徴とする磁気カップリング装置。
【請求項2】
環状扇形の第1永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列された駆動側磁石列と、
環状扇形又は扇形の第2永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列され、かつ、第1永久磁石の磁極面と第2永久磁石の磁極面が向かい合うように配列された従動側磁石列と、を有し、
駆動側磁石列を回転駆動させることで、従動側磁石列を従動回転させる磁気カップリング装置であって、
複数の前記第1永久磁石のうちの特定の第1永久磁石の径方向の第1中心線と、複数の前記第2永久磁石のうちの特定の第2永久磁石の径方向の第2中心線とを、異極どうしが向かい合うように重ね合わせた状態で、中心線どうしが重ねられた前記特定の第1永久磁石及び前記特定の第2永久磁石に隣接する第1永久磁石及び第2永久磁石も含めて、反発力が作用する反発領域の面積が、吸引力が作用する吸引領域の面積の5~15%になるように設定され、
前記従動側磁石列は、駆動側磁石列の回転軸の周囲に、かつ、前記駆動側磁石列を搭載した円板内の領域において、円周方向に沿って複数配置されていることを特徴とする磁気カップリング装置。
【請求項3】
前記第1永久磁石および前記第2永久磁石は、隙間なく周方向に沿って配列されることを特徴とする請求項1又は2に記載の磁気カップリング装置。
【請求項4】
前記従動側磁石列を前記第1永久磁石の径方向に沿って移動させる機構が備えられていることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の磁気カップリング装置。
【請求項5】
前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の磁極面に強磁性体からなるポールピースが設けられていることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気カップリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、第1永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列された駆動側磁石列と、第2永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列され、かつ、第1永久磁石の磁極面と第2永久磁石の磁極面が向かい合うように配列された従動側磁石列と、を有し、駆動側磁石列を回転駆動させることで、従動側磁石列を従動回転させる磁気カップリング装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
かかる磁気カップリングは、非接触で動力を伝達する方法として知られている。例えば、半導体の製造工程において、半導体ウェハなどの成膜対象物を回転させつつ成膜を行うALD(Atomic Layer Deposition)などの真空成膜装置がある。このような真空成膜装置では、駆動側磁石列の回転軸の周囲に複数の従動側磁石列を配置した磁気カップリング装置を用い、駆動側から物理的に遮断された真空雰囲気の従動側に回転を伝達することで、駆動側の動力系から発生するパーティクルを遮断しながら成膜対象物を回転させて各種の膜を成膜することができる。
【0003】
例えば、特許文献1の基板処理装置は、円環状の駆動ギアの表面には短冊状の永久磁石が周方向に沿って配列され(駆動側磁石列)、従動ギアの表面にも短冊状の永久磁石が周方向に沿って配列されている(従動側磁石列)。従動ギアと駆動ギアの間には大気雰囲気と真空雰囲気を仕切るための仕切り部材が設けられている。従動ギアと一体回転する載置台の上にウェハが載置される。
【0004】
特許文献2は、所定の空隙を保ち、対向させた駆動側と被駆動側の各回転円盤の外周部に、放射状の永久磁石をN極、S極と交互に異極配列して、該磁気歯の磁気の吸引及び、反発にてトルクを伝達する磁気歯車を開示する。この磁気歯車に用いられる永久磁石は、放射状曲線(例えばインボリュート曲線)となる形状を呈している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-113431号公報
【文献】特開2005-114162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような真空成膜装置において、成膜対象物に均一に成膜するためには、従動側磁石列を1rpm程度の低速で安定して定速回転させる必要がある。しかしながら、特許文献1,2に開示される磁気カップリング装置では、従動側の追従性が良くなく、定速回転ができなかったり、回転開始時や回転停止時に動きが不安定になるという問題があった。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その課題は、従動側磁石列の追従性がよく、安定して定速回転が可能な磁気カップリング装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため本発明に係る、磁気カップリング装置は、
環状扇形の第1永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列された駆動側磁石列と、
環状扇形又は扇形の第2永久磁石が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列され、かつ、第1永久磁石の磁極面と第2永久磁石の磁極面が向かい合うように配列された従動側磁石列と、を有し、
駆動側磁石列を回転駆動させることで、従動側磁石列を従動回転させる磁気カップリング装置であって、
複数の前記第1永久磁石のうちの特定の第1永久磁石の径方向の第1中心線と、複数の前記第2永久磁石のうちの特定の第2永久磁石の径方向の第2中心線とを、異極どうしが向かい合うように重ね合わせた状態で、中心線どうしが重ねられた前記特定の第1永久磁石及び前記特定の第2永久磁石に隣接する第1永久磁石及び第2永久磁石も含めて、反発力が作用する反発領域の面積が、吸引力が作用する吸引領域の面積の5~15%になるように設定されていることを特徴とするものである。
【0009】
かかる構成による磁気カップリング装置の作用・効果を説明する。この構成によると、駆動側磁石列に配列される第1永久磁石は、環状扇形を呈している。ここで、環状扇形とは、半径の大きな扇形から半径の小さな扇形を切り取った形状のことを指す。すなわち、2つの円弧と2つの半径により囲まれた図形を表すものである。一方、従動側磁石列に配列される第2永久磁石は、環状扇形または扇形を呈している。
【0010】
第1永久磁石と第2永久磁石は、磁極が交互に異極になるように周方向に沿って複数配列される。すなわち、S極とN極が交互に配置される。通常は、従動側磁石列は駆動側磁石列よりも半径が小さく、1つの駆動側磁石列に対して1つまたは複数の従動側磁石列が配置される。駆動側磁石列を回転させることで、従動側磁石列を従動回転させることができる。
【0011】
上記において、第1永久磁石と第2永久磁石は所定の位置関係になるように設定されている。すなわち、特定の第1永久磁石の径方向の第1中心線と、特定の第2永久磁石の径方向の第2中心線とを、異極どうし(N極とS極)が向かい合うように重ね合わせた状態で、特定の第1永久磁石及び特定の第2永久磁石に隣接する第1永久磁石及び第2永久磁石も含めて、反発領域の面積が、吸引領域の面積の5~15%になるように設定されている。かかる範囲に設定することで、従動側磁石列の追従性を改善し、安定して定速回転が可能であることを確認することができた。
【0012】
本発明において、前記第1永久磁石および前記第2永久磁石は、隙間なく周方向に沿って配列されることが好ましい。隙間なく配列させることで、所望の回転トルクを伝達することができる。
【0013】
本発明において、前記従動側磁石列を前記径方向に沿って移動させる機構が備えられていることが好ましい。かかる機構を設けることで、前述の反発領域と吸引領域の面積比が適切になるように調整することができる。
【0014】
本発明において、前記第1永久磁石及び前記第2永久磁石の磁極面に強磁性体からなるポールピースが設けられていることが好ましい。これにより、磁場を均一化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1A】本発明に係る磁気カップリング装置100を模式的に表した平面図
図1B図1Aに示す磁気カップリング装置の側面図(断面図)
図2A】駆動側磁石列の磁石配列と従動側磁石列の磁石配列およびそれらの位置関係を示す平面図
図2B】磁石の磁極を示す断面図
図3】従動側磁石列を回転させる原理を説明する図
図4】第1永久磁石と第2永久磁石の好ましい形状を説明する図
図5】従動側磁石列のずらしを説明する図
図6】実施例1,2の実験結果を示すグラフ
図7】比較例1の実験結果を示すグラフ
図8】比較例2の実験結果を示すグラフ
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る磁気カップリング装置の好適な実施形態をまず説明する。図1Aは、本発明に係る磁気カップリング装置100を模式的に表した平面図であり、図1Bは、図1Aに示す磁気カップリング装置の側面図(断面図)である。図2Aは、駆動側磁石列の磁石配列と従動側磁石列の磁石配列およびそれらの位置関係を示す平面図であり、図2Bは、磁石の磁極を示す断面図である。
【0017】
<磁気カップリング装置の構成>
駆動側磁石列10は、円板12の表面(上面)に多数の第1永久磁石14が周方向に沿って配列されている。図2Aは、円板12の一部を示しているが、第1永久磁石14の磁極が交互に異極になるように、すなわち、S極とN極が交互になるように配列されている。第1永久磁石14は、円板12に対してネジなどの機械的な手段により固定する。あるいは、接着剤を用いて固定してもよい。
【0018】
駆動側磁石列10は、回転軸16を中心としてモーター等により回転駆動される。駆動機構については、周知の構成でよく、図示を省略する。
【0019】
従動側磁石列20は支持板30の下面側に5つ設けられている。なお、従動側磁石列20の配置個数に関しては、特定の数値に限定されるものではない。従動側磁石列20は、回転軸26を中心として回転可能であり、後述するように、駆動側磁石列10が回転することにより、それに追従して回転する。
【0020】
第1永久磁石14の形状は環状扇形である。ここで、環状扇形とは、半径の大きな扇形から半径の小さな扇形を切り取った形状を指すものである。すなわち、2つの円弧と2つの半径により囲まれた図形を指す。ここでいう円弧の中心は、円板12の中心と一致する。また、2つの半径は、円板12の中心を通る直線である。
【0021】
環状扇形は4つの角部を有するが、角部は鋭利である必要はなく、製造上の理由などにより丸み(R形状)を帯びていてもよい。あるいは、適宜の大きさの面取りを施してもよい。
【0022】
図2Aに示すように、第1永久磁石14は、周方向に沿って隙間なく環状に配列されている。隙間なく配列するために、第1永久磁石14は環状扇形に形成されている。なお、「隙間なく」とは、可能な限り隙間がないように配列することをいう。隙間が完全にゼロになることを意味するのではなく、第1永久磁石14の表面粗度等によってわずかな不可避の隙間が存在することがあるが、かかる場合も「隙間なく」の定義に含まれる。また、組み立て上や製造上の誤差により不可避な隙間が形成される場合も同様である。
【0023】
第1永久磁石14の配列個数(磁極数)は、磁気カップリング装置100の大きさにもよるが20極~320極程度である。
【0024】
従動側磁石列20は、円板22の表面(下面)に多数の第2永久磁石24が周方向に沿って配列されている。図1Bに示すように、第1永久磁石14の磁極と第2永久磁石24の磁極は、平行に対向するように配列されている。第1永久磁石14の磁極と第2永久磁石24の磁極の間は、所定の距離を隔てて配置される(図2Bも参照)。
【0025】
円板22の中心に回転軸26が一体的に取り付けられており、円板22と回転軸26が一体的に支持板30に対して回転可能に支持されている。回転軸26は、円板12の回転軸16の周囲に円周方向に沿って等間隔に配置されている。
【0026】
なお、本発明に係る磁気カップリング装置100が真空成膜装置に使用される場合には、駆動側磁石列10は大気雰囲気に置かれ、従動側磁石列20は真空雰囲気に置かれる。そのため、従動側磁石列20を含めた従動側の装置は、不図示の仕切り部材により仕切られている。真空成膜装置に関する基本構成は周知であるので図示及び説明を省略する。
【0027】
図2Aに示すように、円板22の下面に配列された第2永久磁石24は扇形に形成されているが、第1永久磁石14と同様に環状扇形であってもよい。第2永久磁石24の配列極数は6極であるが、これに限定されるものではない。ただし、好ましい極数(個数)は、磁気カップリング装置100の大きさにもよるが、4極~48極程度である。
【0028】
第2永久磁石24が扇形の場合、扇形は3つの角部を有するが、第1永久磁石14と同様に、角部は鋭利である必要はなく、製造上の理由等により丸み(R形状)を帯びていてもよい。あるいは、適宜の大きさの面取りを施してもよい。
【0029】
第2永久磁石24の極数が少なくなると、従動側磁石列20の追従性が悪くなる。また、極数が多すぎると、隣接する第2永久磁石24の間の不可避の隙間の面積の影響が大きくなり、回転トルクが低下するという問題がある。この点は、第1永久磁石14の場合も同様である。
【0030】
第1永久磁石14と第2永久磁石24の具体的な素材としては、希土類磁石が好ましく、例えば、サマリウムコバルト磁石やネオジウム磁石が選択される。ただし、特定の素材に限定されるものではない。
【0031】
<永久磁石の相対的な位置関係>
次に、第1永久磁石14と第2永久磁石24の相対的な位置関係について説明する。図2Aにおいては、駆動側磁石列10の一部と、複数の従動側磁石列20のうちの1つのみを示している。
【0032】
多数の第1永久磁石14のうちの任意の1つを特定の第1永久磁石140とし、それに隣接する2つの第1永久磁石に符号141を割り当てる。なお、特定の第1永久磁石140については、どの第1永久磁石14であってもよく、説明の便宜上、特定の第1永久磁石140とするものである。
【0033】
一方、多数の第2永久磁石24のうちの任意の1つを特定の第2永久磁石240とする。これに隣接する2つの第2永久磁石に符号241を割り当てる。ここで、特定の第1永久磁石140の磁極としてS極を選択した場合には、特定の第2永久磁石240の向かい合う磁極はN極となる状態を考える。特定の第1永久磁石140の磁極がN極の場合には、特定の第2永久磁石240の向かい合う磁極はS極となる状態を考える。この状態は、図2Bに示すように、異極同士が向かい合っており、両者の間には吸引力が大きく作用するので、駆動側磁石列10と従動側磁石列20とは安定した状態で停止している。
【0034】
第1永久磁石14の径方向の第1中心線X1は、環状扇形を左右に等しく分割する直線であり、回転軸16の中心を通る直線である。第2永久磁石24の径方向の第2中心線X2は、扇形を左右に等しく分割する直線であり、回転軸26の中心を通る直線である。図2Aに示すように、特定の第1永久磁石140の第1中心線X1と特定の第2永久磁石240の第2中心線X2とは一致しており重なっている。図2Bは、中心線X1,X2で切断した断面図である。
【0035】
図2Aに示すように、吸引領域Yとして3つの吸引領域Y1,Y2,Y3が存在する。反発領域Zとして、4つの反発領域Z1,Z2,Z3,Z4が存在する。吸引領域Y1においては、特定の第1永久磁石140と特定の第2永久磁石240の間に吸引力が作用する。吸引領域Y2,Y3においては、特定の第1永久磁石140と特定の第2永久磁石240に隣接する第1永久磁石141と第2永久磁石241の間に吸引力が作用する。
【0036】
反発領域Z1,Z2においては、特定の第1永久磁石140と隣接する第2永久磁石241の間に反発力が作用する。反発領域Z3,Z4においては、隣接する第1永久磁石141と特定の第2永久磁石240の間に反発力が作用する。
【0037】
図2Aでは、中心線X1,X2を挟んで、第1反発領域Z1,Z3と第2反発領域Z2,Z4の面積が同じである。従って、この状態では回転トルクは発生せずに安定した状態で停止する。
【0038】
また、図2Aの状態では、駆動側磁石列10の外周側端部の位置と、従動側磁石列20の外周側端部の位置は一致している。
【0039】
<従動回転の原理>
次に、駆動側磁石列10を回転させて従動側磁石列20を回転させるときの原理について図3を用いて説明する。図3(a)は、図2Aの状態と同じである。図3(b)は、左の状態から駆動側磁石列10を時計方向に所定の角度回転させた状態の駆動側磁石列10に対する従動側磁石列20の相対的位置関係を示している。すなわち、駆動側磁石列10を時計方向に所定の角度だけ回転させたとき、従動側磁石列20が駆動側磁石列10に対して相対的に反時計回りにθ°回転した状態になることを示している。
【0040】
図3(a)の状態は、安定して停止している状態であるが、駆動側磁石列10が時計回りに回転すると、従動側磁石列20は駆動側磁石列10に対して相対的に反時計回りに回転した状態となり、第1反発領域Z1,Z3の面積は第2反発領域Z2,Z4の面積よりも大きくなり不安定な状態となる。そのため図3(a)の位置に戻る方向、すなわち、従動側磁石列20が時計方向に回転する方向にトルクが発生する。従って、駆動側磁石列10が時計回りに回転を続けることで、従動側磁石列20は追従して時計回りに自転を続けることになる。
【0041】
図2Aにおける第1反発領域Z1,Z3の面積をαとし、駆動側磁石列10がθ゜回転したときの第1反発領域Z1,Z3の面積の増加分をΔαとすると、第1反発領域Z1,Z3の面積はα+Δα、第2反発領域Z2,Z4の面積はα-Δαとなる。第1反発領域Z1,Z3と第2反発領域Z2,Z4の面積が同じになる方向、すなわち、Δα=0になる方向に従動側磁石列20は回転する。このとき、第1反発領域Z1,Z3の面積αが狭いほうがαに対するΔαの影響が大きくなるため、従動側磁石列20の回転トルクが俊敏に発生して駆動側磁石列10に対する追従性が高まる。
【0042】
逆に、第1反発領域Z1,Z3の面積αが狭すぎると停止時のブレーキがなくなり、従動側磁石列20がオーバーランする恐れがある。発明者らの検討によれば、反発領域Z1~Z4(対向する面が同極(S極とS極、N極とN極))のトータルの面積が、吸引領域Y1~Y3(対向する面が異極(S極とN極、N極とS極))の5~15%であれば、従動側磁石列20の駆動側磁石列10に対する従動性がよく、定速回転することができ、さらに、回転開始及び回転停止時の動きもスムーズであることを見出した。
【0043】
以上の条件を満たすためには、図4に示すように、駆動側磁石列10の第1永久磁石14の周方向の幅W1と従動側磁石列20の第2永久磁石24の周方向の幅W2に関して、W2はW1の50%~150%であることが好ましい。また、第1永久磁石14の径方向の高さH1と第2永久磁石24の径方向の高さH2に関して、駆動側磁石列10と従動側磁石列20の位置が図2Aの位置のとき、磁石14と外側半分の磁石24(図2Aの例では3個)の重なり合う領域を確保し、かつ、磁石14が内側半分の磁石24(図2Aの例では3個)に重ならない大きさであること、具体的には、後述の従動側磁石列20の位置を回転軸16側にずらした場合も想定すると、H1はH2の50~150%であることが好ましい。
また、従動側磁石列20は、図5に示すように、第2永久磁石24の外周端部が第1永久磁石14の外周端部から第2永久磁石24の径方向の高さH2の0~50%だけ、駆動側磁石列10の回転中心の方向(第1永久磁石14の径方向)にずらして支持されていてもよい。これにより、駆動側磁石列10の磁石の極数と従動側磁石列20の磁石の極数を変えることなく、反発領域の面積と吸引領域の面積の比率を調整することができる。また、位置をずらすことで従動側磁石列20の追従性を改善できる可能性がある。
【0044】
従動側磁石列20を径方向に沿って移動させるための機構は種々の機構が考えられ、特定の機構に限定されるものではない。例えば、従動側磁石列20と回転軸26を径方向に沿って移動させるために、支持板30にスリットを形成して回転軸26をガイドさせるような機構を採用することができる。位置が調整された後は、ボルト・ナットのような機構により位置を固定させる。
【0045】
表1は、第1永久磁石14および第2永久磁石24の極数や幅W1,W2・高さH1,H2を変えた場合の反発領域/吸引領域の面積の比率の計算例を示している。表1の例では、駆動側磁石列10の半径は86mm、従動側磁石列20の半径が32mmであるが、本発明はかかる数値に限定されるものではなく、磁気カップリング装置100の大きさがどのようなものであっても適用される。また、表1において、従動側磁石列20の位置は、すでに説明したように、第2永久磁石24の「ずらし」が0の場合を「基準」とし、図5のように従動側磁石列20を内径側に2mmずらした場合を「ずらし」としている。
【表1】
【0046】
第1永久磁石14と第2永久磁石24の表面(互いに対向する面)にポールピースを配置してもよい。ポールピースは、好ましくは、強磁性体により形成され、磁石から発生する磁場を均一化させることができる。ポールピースの大きさは各磁石を覆うような形状にすることができる。
【実施例
【0047】
表2の実施例1,2および比較例1,2に関して、実際に磁気カップリング装置を作成し、従動側磁石列20を回転速度1rpmで定速回転させる実験を行った。その場合、従動側磁石列20が途中で0.2秒以上停止した箇所、回転停止時の従動側磁石列20のずれ角度(オーバーランの大きさ)、追従性(理想の定速回転と従動側磁石列の回転角度の一致度)について調べた。その結果を表2及び図6図8に示す。図6図8は、1回転させるまでの動作を示すものであるが、それ以後も同様の直線状のグラフになる。
【0048】
実施例1の追従性の実験結果は図6に示す通りであり、実施例2の追従性の結果も実施例1と同様であり図6に示すとおりである。図7は、比較例1の実験結果を示し、図8は、比較例2の実験結果を示す。回転数のモニターは周知のエンコーダを取り付けることで行うことができる。
【表2】
【0049】
表2から分かるように、反発領域の面積/吸引領域の面積が5~15%の範囲内である実施例1および実施例2は、回転途中で停止することはなく、回転停止時のオーバーランも0.4~0.6゜の範囲内に収まっており小さかった。図6からも分かるように、時間軸に対する従動側磁石列の回転角度は理想の定速回転とほぼ同じ直線上にあり、回転数1rpmで定速回転していることが分かった。
【0050】
これに対し、反発領域の面積/吸引領域の面積が5~15%の範囲から外れている比較例1では、回転停止時のオーバーランは実施例1,2と同等に小さかったものの、図7に示すように時間に対する従動側磁石列の回転角度が理想の直線上になく、従動側磁石列の追従性が悪く、定速回転できていないことが分かった。また、従動側磁石列の位置を内径側に2mmずらせた比較例2では、図8に示すように従動側磁石列の追従性は多少改善されたものの、1回転当たり0.2秒以上の途中停止が2回発生し、回転停止時のオーバーランの角度も実施例1,2よりも大きかった。かかる途中停止は、傷、パーティクルの発生、均一な成膜に悪影響を及ぼすので、0.2秒よりも抑制する必要がある。
【0051】
<別実施形態>
本発明に係る磁気カップリング装置は、主として真空成膜装置に用いられるものであるが、それ以外の用途の装置に用いられてもよい。
【0052】
図2に示すように、特定の第1永久磁石140に隣接する永久磁石141は両側に1つずつ2つであるが、駆動側磁石列10や従動側磁石列20の大きさ、第1・第2永久磁石14,24の大きさによっては、反発領域や吸引領域が、隣接する永久磁石に対して更に隣接する永久磁石に及ぶ場合もありうる。「隣接する」の定義として、このように更に隣接する永久磁石も含まれうる。
【符号の説明】
【0053】
100 磁気カップリング装置
10 駆動側磁石列
12 円板
14,140,141 第1永久磁石
16 回転軸
20 従動側磁石列
22 円板
24,240,241 第2永久磁石
26 回転軸
30 支持板
X1 第1中心線
X2 第2中心線
Y1,Y2,Y3 吸引領域
Z1,Z2,Z3,Z4 反発領域
W1,W2 幅
H1,H2 高さ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8