(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】SiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20240403BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240403BHJP
C30B 23/06 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
C30B29/36 A
C23C14/34 A
C30B23/06
(21)【出願番号】P 2020556060
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043204
(87)【国際公開番号】W WO2020095873
(87)【国際公開日】2020-05-14
【審査請求日】2022-02-22
(31)【優先権主張番号】P 2018208476
(32)【優先日】2018-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【氏名又は名称】辻田 朋子
(74)【代理人】
【識別番号】100196313
【氏名又は名称】村松 大輔
(72)【発明者】
【氏名】金子 忠昭
(72)【発明者】
【氏名】芦田 晃嗣
(72)【発明者】
【氏名】井原 知也
(72)【発明者】
【氏名】堂島 大地
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/188381(WO,A1)
【文献】特開2014-125550(JP,A)
【文献】特開2009-256138(JP,A)
【文献】国際公開第2017/188382(WO,A1)
【文献】夫馬弘雄ほか,SiC半導体,豊田中央研究所R&Dレビュー,1995年,Vol. 30, No. 2
【文献】A.S.Segal et al.,Growth of silicon carbide by sublimation sandwich method in the atmosphere of inert gas,Journal of crystal growth,2000年,No. 208,pp. 431-441
【文献】児島一聡ほか,4H-SiCホモエピタキシャル成長における表面モフォロジーのオフ角依存性,表面科学,2014年,No.2,pp. 78-83
【文献】YUUKI Ishida et al.,Investigation of giant step bunching in 4H-SiC homoepitaxial growth: Proposal of cluster effect model,Japanese journal of applied physics,2015年,No.54
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
C23C 14/34
C30B 23/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含
み、
前記成長工程は、Si蒸気圧空間を介して排気される原料供給空間に前記SiC基板を配置して成長させる、SiC半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記成長工程は、前記原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる、請求項
1に記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項3】
SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含み、
前記成長工程は、SiC製の容器内に、前記SiC基板及びSi蒸気供給源を配置して成長させる
、SiC半導体基板の製造方法。
【請求項4】
前記成長工程は、1600℃以上の温度で行う、請求項1~
3の何れかに記載のSiC半導体基板の製造方法。
【請求項5】
SiC基板にSi原子及びC原子を供給して成長させる原料供給空間を有する
SiC製の原料容器と
、
前記原料供給空間を加熱可能な高温真空炉と、を備え
、
前記原料供給空間は、Si原子供給源と、C原子供給源と、を有し、
前記Si原子供給源及び前記C原子供給源は、前記原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう配置され、
前記Si原子供給源として、前記SiC製の容器内に配置されるSi蒸気供給源を含み、
前記原料供給空間は、準閉鎖空間である、SiC半導体基板の製造装置。
【請求項6】
前記原料供給空間内には、前記SiC基板に向かって温度が下がるような温度勾配が設けられている、請求項
5に記載のSiC半導体基板の製造装置。
【請求項7】
さらに、前記SiC半導体基板の製造装置は、Si蒸気圧環境が形成されるSi蒸気圧空間を備え、
前記原料供給空間は、前記Si蒸気圧環境を介して排気される、請求項5又は6に記載のSiC半導体基板の製造装置。
【請求項8】
前記Si蒸気圧空間を有する浸炭容器と、を備える、請求項
7に記載のSiC半導体基板の製造装置。
【請求項9】
前記高温真空炉は、前記原料供給空間を加熱可能な本加熱室と、
前記本加熱室に接続する予備加熱室と、
前記原料供給空間を移動させる移動手段と、を有し、
前記移動手段は、前記本加熱室と前記予備加熱室の間を移動可能に構成されている、請求項
5~8の何れかに記載のSiC半導体基板の製造装置。
【請求項10】
SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含
み、
前記成長工程は、Si蒸気圧空間を介して排気される原料供給空間に前記SiC基板を配置して成長させる、SiC半導体基板の表面に1ユニットセル高さのステップを配列させる方法。
【請求項11】
SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含み、
前記成長工程は、SiC製の容器内に、前記SiC基板及びSi蒸気供給源を配置して成長させる、SiC半導体基板の表面に1ユニットセル高さのステップを配列させる方法。
【請求項12】
前記成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる、請求項
10又は請求項11に記載の方法。
【請求項13】
請求項1~
4の何れかに記載の製造方法により製造されたSiC半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステップ高さが制御された成長層を有するSiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiC(炭化珪素)半導体デバイスは、Si(シリコン)やGaAs(ガリウムヒ素)半導体デバイスに比べて高耐圧及び高効率、高温動作が可能であるため、産業化に向けて開発が進められている。
【0003】
通常、デバイス製造に用いられる(0001)から僅かな傾斜を設けたSiC基板の表面には、ステップ-テラス構造が形成されている。従来、SiC基板の表面制御においては、デバイス製造プロセス中にステップが束化(バンチング)して、ステップバンチングが形成されてしまうことが問題視されてきた。
【0004】
このステップバンチングは、SiC半導体デバイスの特性に悪影響を与えることが知られている。具体的には、(1)ステップバンチングが形成された表面にエピタキシャル成長を行うと、エピタキシャル成長層(以下、エピ層という)の表面にステップバンチング起因の欠陥が発生する場合があること、(2)エピ層表面に酸化膜を形成して製造されるMOSFET等のSiC半導体デバイスにおいて、ステップバンチングの存在は動作性能および信頼性に致命的な影響を与える場合があること、がそれぞれ知られている。
【0005】
このような問題に対し、ステップバンチングの発生を抑制する技術が種々提案されている。例えば、特許文献1には、化学気相成長(CVD:Chemical Vapor Deposition)法において「『格子乱れ層』を3nm以下にしたSiC単結晶基板のガスエッチング後の表面に、SiCのエピタキシャル成長に必要とされる量のSiH4ガスとC3H8ガスとを濃度比C/Siが0.7~1.2で同時に供給することによって、ステップバンチングフリーのSiCエピタキシャルウェハを提供する技術」が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した(1)及び(2)のステップバンチングの問題をさらに先に進めると、SiC基板表面に形成されるステップ高さを制御して、デバイス製造に好ましい表面を提供することが望ましい。すなわち、ステップ高さが制御されれば、エピタキシャル成長や酸化膜形成において、ステップ-テラス構造に起因した問題に寄与することができ、結果としてデバイスの動作性能および信頼性を向上させることができる。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の技術は、ステップバンチングの発生は抑制できるとされるものの、SiC基板表面のステップ高さを制御可能な成長手法ではなかった。
【0009】
本発明は、ステップ高さが制御された成長層を有するSiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の一態様のSiC半導体基板の製造方法は、SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含む。
【0011】
このように、SiC-Si平衡蒸気圧環境下でSiC基板を成長させることにより、成長層のステップ高さが制御されたSiC半導体基板を提供することができる。
【0012】
この態様において、前記成長工程は、Si蒸気圧空間を介して排気される原料供給空間に前記SiC基板を配置して成長させる。
このように、原料供給空間は、Si蒸気圧空間を介して排気(真空引き)されることにより、原料供給空間内のSiC-Si平衡蒸気圧環境を長時間維持することができる。
【0013】
前記配置工程は、前記原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる。
このような原子数比Si/Cで、Si原子供給源及びC原子供給源を配置することにより、原料供給空間内に容易にSiC-Si平衡蒸気圧環境を形成することができる。
【0014】
この態様において、前記成長工程は、1600℃以上の温度で行う。
このような、温度領域で成長させることにより、高速にSiC基板を成長させることができる。
【0015】
また、本発明はSiC半導体基板にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板は、1ユニットセル高さのステップが配列した成長層を備える。
このように、1ユニットセル高さのステップが配列していることにより、エピタキシャル成長時にステップバンチング起因の欠陥が発生する問題や、MOSFET等におけるステップ-テラス構造に起因した問題等の解決に寄与し、結果として動作性能および信頼性を向上させることができる。
【0016】
この態様において、前記成長層は、4H-SiCであることを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上述したSiC半導体基板の製造装置にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板の製造装置は、SiC基板にSi原子及びC原子を供給して成長させる原料供給空間と、Si蒸気圧環境が形成されるSi蒸気圧空間と、前記原料供給空間を加熱可能な高温真空炉と、を備え、前記原料供給空間は、前記Si蒸気圧空間を介して排気される。
このように、原料供給空間はSi蒸気圧空間を介して排気(真空引き)されることにより、原料供給空間内を成長に好ましい原子数比Si/Cを長時間維持することができる。
【0018】
この態様において、前記原料供給空間は、Si原子供給源と、C原子供給源と、を有し、前記Si原子供給源及び前記C原子供給源は、前記原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう配置される。
このような構成とすることにより、原料供給空間内にSiC-Si平衡蒸気圧環境を形成することができる。
【0019】
この態様において、前記原料供給空間内には、前記SiC基板に向かって温度が下がるような温度勾配が設けられている。
このような温度勾配が設けられていることにより、SiC基板にSi原子とC原子を輸送することができ、成長速度を向上させることができる。
【0020】
この態様において、前記原料供給空間を有する原料容器と、前記Si蒸気圧空間を有する浸炭容器と、を備える。
【0021】
この態様において、前記高温真空炉は、前記原料供給空間を加熱可能な本加熱室と、前記本加熱室に接続する予備加熱室と、前記原料供給空間を移動させる移動手段と、を有し、前記移動手段は、前記本加熱室と前記予備加熱室の間を移動可能に構成されている。
このように、原料供給空間を本加熱室から予備加熱室へ移動可能な構成とすることにより、SiC基板を急速に昇温及び降温させることが可能である。
【0022】
また、本発明は、SiC半導体基板の基底面転位を低減する方法にも関する。すなわち、本発明の一態様のSiC半導体基板の基底面転位を低減する方法は、SiC基板を成長させる成長工程を含むSiC半導体基板の製造方法において、SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含む、SiC半導体基板の表面に1ユニットセル高さのステップを配列させる方法である。
【0023】
この態様において、前記成長工程は、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させる。
【発明の効果】
【0024】
開示した技術によれば、ステップ高さが制御された成長層を有するSiC半導体基板及びその製造方法及びその製造装置を提供することができる。
【0025】
他の課題、特徴及び利点は、図面及び特許請求の範囲とともに取り上げられる際に、以下に記載される発明を実施するための形態を読むことにより明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の成長工程の説明図である。
【
図2】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の成長工程の説明図である。
【
図3】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の成長工程の説明図である。
【
図4】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法で用いる高温真空炉の概略図である。
【
図5】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の実施例1で観察されるSiC基板表面のSEM像である。
【
図6】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の比較例1で観察されるSiC基板表面のSEM像である。
【
図7】一実施の形態のSiC半導体基板の製造方法の成長工程の成長条件を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を、図面に示した好ましい一実施形態について、
図1~
図7を用いて詳細に説明する。本発明の技術的範囲は、添付図面に示した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、適宜変更が可能である。
【0028】
[SiC半導体基板の製造方法]
以下、本発明の一実施形態であるSiC半導体基板の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
本発明に係るSiC半導体基板の製造方法は、SiC基板10をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含む。このように、SiC-Si平衡蒸気圧環境下でSiC基板10を成長させることにより、ステップ12高さが制御された成長層11を有するSiC半導体基板を製造することができる。
【0030】
<SiC基板>
SiC基板10としては、何れのポリタイプのものも用いることができる。SiC半導体デバイスの基板としては昇華法等で作製したバルク結晶から加工したSiC基板10を用いる。
【0031】
本明細書中の説明においては、SiC基板10の半導体素子を作る面(具体的には成長層11を堆積する面)を主面といい、この主面に相対する面を裏面という。また、主面及び裏面を合わせて表面という。
【0032】
なお、主面としては、(0001)面や(000-1)面から数度(例えば、0.4~8°)のオフ角を設けた表面を例示することができる。(なお、本明細書では、ミラー指数の表記において、“-”はその直後の指数につくバーを意味する)。
【0033】
原子レベルで平坦化されたSiC基板10の表面には、ステップ-テラス構造が確認される。このステップ-テラス構造は、1分子層以上の段差部位であるステップ12と、{0001}面が露出した平坦部位であるテラス13と、が交互に並んだ階段構造となっている。
【0034】
ステップ12は、1分子層(0.25nm)が最小高さ(最小単位)であり、この1分子層が複数層重なることで、様々なステップ高さを形成している。本明細書中の説明においては、ステップ12が束化(バンチング)して巨大化し、各ポリタイプの1ユニットセルを超えた高さを有するものをマクロステップバンチング(MSB:Macro Step Bunching)という。
【0035】
すなわち、MSBとは、4H-SiCの場合には4分子層を超えて(5分子層以上)バンチングしたステップ12であり、6H-SiCの場合には6分子層を超えて(7分子層以上)バンチングしたステップ12である。
【0036】
このMSBは、エピ層表面にMSB起因の欠陥が発生することや、MOSFETの酸化膜信頼性の阻害要因の一つであるため、SiC基板10の表面に形成されていないことが望ましい。
【0037】
<成長工程>
本発明の実施形態に係る成長工程は、SiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させることにより、MSBが形成されたSiC基板10上にMSBが形成されていない成長層11を成長させることができる(
図1参照)。
【0038】
この成長工程では、昇華法を採用することができる。昇華法とは、原料とSiC基板10を原料供給空間S1(成長空間)内に配置し加熱することで、原料から昇華した原料ガスをSiC基板10上に輸送して再結晶化・成長させる手法である。
【0039】
すなわち、原料供給空間S1内には、SiC基板10に加えて、原料となるSi原子供給源及びC原子供給源が配置されており、これらを加熱することで原料供給空間S1内にSiC基板10の原料となるSi原子及びC原子を供給する。このSi原子及びC原子がSiC基板10表面に輸送され再結晶化することにより、成長層11が形成される。
【0040】
また、本発明の実施形態に係る成長工程では、Si蒸気圧空間S2を介して排気(真空引き)される原料供給空間S1にSiC基板10が配置されることが望ましい。すなわち、
図2(a)に示すように、Si蒸気圧空間S2を有する浸炭容器30内に、原料供給空間S1を有する原料容器20を配置され、さらにこの原料容器20内にSiC基板10が配置されることが望ましい。
【0041】
原料容器20は、上容器21と、この上容器21に嵌合可能な下容器22と、を備え、この容器内にSiC基板10を成長させる原料供給空間S1を有している。この時、上容器21と下容器22の嵌合部には、微小な間隙23が形成されており、この間隙23から原料容器20内が排気(真空引き)される。
【0042】
Si原子供給源及びC原子供給源としては、Si基板等のSi原子を供給可能な材料や黒鉛等のC原子を供給可能な材料、SiC基板等のSi原子及びC原子を供給可能な材料を採用することができる。また、原料容器20の少なくとも一部を多結晶SiC(Poly-SiC)で形成することにより、原料容器20自体をSi原子供給源及びC原子供給源とすることができる。
【0043】
図2(a)は、多結晶SiC製の原料容器20を採用し、加えて原料供給空間S1内にSi基板24を配置した形態を示している。この場合には、原料容器20及びSi基板24が原料供給空間S1内にSi原子を供給し、原料容器20がC原子を供給する形態となっている。
【0044】
このSi原子供給源及びC原子供給源の配置はこの形態に限られず、原料供給空間S1内にSi原子及びC原子を供給可能な形態であればよい。例えば、原料容器20は多結晶SiC以外の材料を採用しても良いし、原料供給空間S1内にSi材料,C材料,SiC材料を配置する形態を採用しても良い。
なお、原料に多結晶SiCを用いる場合には、多結晶SiC(原料)と単結晶SiC(SiC基板10)の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)を成長駆動力とすることができる。
【0045】
また、原料供給空間S1内には、SiC基板10に向かって温度が下がるような温度勾配が設けられていることが望ましい。この温度勾配を成長駆動力として、SiC基板10へのSi原子及びC原子の輸送が起こるため、成長層11の成長速度が上昇する。
【0046】
さらに、SiC基板10に効率よくSi原子とC原子を到達させるために、Si原子供給源及びC原子供給源をSiC基板10に近接させても良い。
図2(a)においては、Si原子供給源及びC原子供給源となる多結晶SiC製の上容器21をSiC基板10と平行に近接配置した形態を示している。
【0047】
このSiC基板10主面と上容器21天面との距離Lは、好ましくは0.5~20mmの範囲に、より好ましくは0.7~10mmの範囲に設定されている。
【0048】
この距離Lが0.5mm以上である場合には、SiC基板10主面と上容器21天面の温度差が大きくなる。その結果成長駆動力が大きくなり成長速度が増大する。
一方、距離Lが20mm以下である場合には、原料と基板との距離が近くなり、原料ガスの輸送が効率良く行われ、成長速度が増大する。
【0049】
また、
図2(a)に示すように、原料容器20はSi蒸気圧環境が形成されるSi蒸気圧空間S2内に配置されている。このように、Si蒸気圧空間S2内に原料供給空間S1が配置され、Si蒸気圧環境の空間を介して原料容器20内が排気(真空引き)されることで、原料供給空間S1内からSi原子が減少することを抑制することができる。これにより、原料供給空間S1内を成長に好ましい原子数比Si/Cを長時間維持することができる。
【0050】
すなわち、原料供給空間S1から直接排気する場合には、間隙23からSi原子が排気されてしまう。この場合には、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが著しく減少することにより、成長に適切な環境が維持されない。
一方、Si蒸気圧環境のSi蒸気圧空間S2を介して原料容器20内を排気する場合には、原料供給空間S1からSi原子が排気されることを抑制して、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cを保つことができる。
【0051】
Si蒸気圧空間S2は、加熱時にSi蒸気圧環境が形成されていれば良く、例えば、浸炭容器30を用いてSi蒸気圧環境を形成することができる。
この浸炭容器30は、Si蒸気圧空間S2内に原料容器20を収容可能な形態であればよく、例えば、上容器31と、この上容器31に嵌合可能な下容器32と、を備えている。この浸炭容器30は、原料容器20と同様に、上容器31と下容器32の嵌合部には、微小な間隙33が形成されており、この間隙33から排気(真空引き)される。
【0052】
この浸炭容器30の内壁面は、複数の層から構成されており、Si蒸気圧空間S2内部側から外部側に向かって順に、タンタルシリサイド層(TaSi2又はTa5Si3等)、タンタルカーバイド層(TaC又はTa2C)、タンタル層(Ta)を有している。
【0053】
このように内側から、タンタルシリサイド層、タンタルカーバイド層、タンタル層が形成されていることにより、Si蒸気圧空間S2内に存在するC原子を浸炭容器30自体に取り込む(浸炭させる)ことができる。また、タンタルシリサイド層は、加熱することで浸炭容器30のSi蒸気圧空間S2にSi原子を供給する。その結果、加熱時にSi蒸気圧空間S2内を高純度のSi蒸気圧環境(Si雰囲気)とすることができる。
なお、C原子を取り込み、Si蒸気圧空間S2にSi蒸気圧環境を形成可能であれば、浸炭容器30として採用することができる。
【0054】
また、原料容器20及び浸炭容器30は、6インチウェハや8インチウェハを収納可能な直径に形成されることが望ましい。
【0055】
図2(b)は、成長機構の概要を示す説明図である。SiC基板10を配置した原料供給空間S1を、1400℃以上2300℃以下の温度範囲で加熱することで、以下1)~5)の反応が持続的に行われ、結果として成長が進行すると考えられる。
【0056】
1) Poly-SiC(s)→Si(v)+C(s)
2) 2C(s)+Si(v)→SiC2(v)
3) C(s)+2Si(v)→Si2C(v)
4) Si(v)+SiC2(v)→2SiC(s)
5) Si2C(v)→Si(v)+SiC(s)
【0057】
1)の説明:原料容器20(Poly-SiC(s))が加熱されることで、熱分解によってSiCからSi原子(Si(v))が脱離する。
2)及び3)の説明:Si原子(Si(v))が脱離することで残存したC(C(s))は、原料供給空間S1内のSi蒸気(Si(v))と反応することで、Si2C又はSiC2等となって原料供給空間S1内に昇華する。
4)及び5)の説明:昇華したSi2C又はSiC2等が、温度勾配(及び化学ポテンシャル差)によってSiC基板10のテラス13に到達・拡散し、ステップ12に到達することで下地のSiC基板10の多型を引き継いで成長する(ステップフロー成長)。
【0058】
本発明の実施形態に係る成長工程における成長環境は、SiC-Si平衡蒸気圧環境であることを特徴とする。以下、SiC-Si平衡蒸気圧環境及びSiC-C平衡蒸気圧環境について詳細に説明する。なお、本明細書におけるSiC-Si平衡蒸気圧環境及びSiC-C平衡蒸気圧環境とは、理論的な熱平衡環境から導かれた成長速度と成長温度の関係を満たす近熱平衡蒸気圧環境を含む。
【0059】
SiC-Si平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とSi(液相)と気相の三相が平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことを言う。
言い換えれば、本明細書における「SiC-Si蒸気圧環境」とは、SiC(固体)とSi(液相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。
SiC-Si平衡蒸気圧環境は、例えば、原子数比Si/Cが1を超える準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC製の原料容器20内に、化学量論比1:1を満たすSiC基板10と、Si蒸気供給源(Si基板やSiペレット等)と、を配置した場合には、原料容器20内の原子数比Si/Cは1を超える。
なお、本明細書における「準閉鎖空間」とは、容器内の真空引きは可能であるが、容器内に発生した蒸気の少なくとも一部を閉じ込め可能な空間のことをいう。この準閉鎖空間は、原料容器20内や浸炭容器30内に形成することができる。
【0060】
また、SiC-C平衡蒸気圧環境とは、SiC(固相)とC(固相)と気相の三相が平衡状態となっているときの蒸気圧の環境のことを言う。
言い換えれば、本明細書における「SiC-C平衡蒸気圧環境」とは、SiC(固相)とC(固相)とが気相を介して相平衡状態となっているときの蒸気圧の環境を指す。
SiC-C平衡蒸気圧環境は、例えば、原子数比Si/Cが1以下である準閉鎖空間が熱処理されることで形成される。具体的には、化学量論比1:1を満たすSiC製の原料容器20内に、化学量論比1:1を満たすSiC基板10を配置した場合には、原料容器20内の原子数比Si/Cは1となる。また、C蒸気供給源(Cペレット等)を配置して原子数比Si/Cを1以下としても良い。
【0061】
SiC-Si平衡蒸気圧環境の気相中の原子数比Si/Cは、SiC-C平衡蒸気圧環境の気相中の原子数比Si/Cよりも大きい。
【0062】
本手法においては、SiC原料とSiC基板間の蒸気圧環境がSiC-Si平衡蒸気圧環境となる条件下で、多結晶SiC(SiC原料)と単結晶SiC(SiC基板10)の蒸気圧差(化学ポテンシャル差)や温度勾配を成長駆動力として、SiC基板10を成長させている。
【0063】
ここで、SiC原料とSiC基板の蒸気圧差を成長量とした場合、SiCの成長速度は以下の数1で求められる。
【0064】
【0065】
ここで、TはSiC原料側の温度、miは気相種(SixCy)の1分子の質量、kはボルツマン定数である。
また、P原料i-P基板iは、原料ガスが過飽和な状態となって、SiCとして析出した成長量であり、原料ガスとしてはSiC,Si2C,SiC2が想定される。
【0066】
このSiC-Si平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して加熱することで形成することができる。
以下、SiC-Si平衡蒸気圧環境を形成する原料供給空間S1の配置について詳細に説明する。
【0067】
本手法においては、SiC-Si平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置することで形成することができる。対して、SiC-C平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1以下となるよう配置することで形成される。
【0068】
すなわち、加熱前にSi原子供給源をC原子供給源より多く原料供給空間S1内に配置しておくことで、原料供給空間S1内にSiC-Si平衡蒸気圧環境を形成することができる。
なお、Si原子供給源としてSi基板24を示したが、Si原子を供給して原料供給空間S1内の原子数比Si/Cを上昇させる材料であれば当然に採用することができる。
【0069】
一方で、SiC-C平衡蒸気圧環境は、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1以下となるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して加熱することで形成することができる。
図3(a)は、SiC製の原料容器20内に、SiC基板10のみを配置した形態を示している。
【0070】
本手法における加熱温度は、好ましくは1400~2200℃の範囲で設定され、より好ましくは1600~2000℃の範囲で設定される。
図2及び
図3の形態においては、Si原子供給源及びC原子供給源から加熱温度に応じたSi原子とC原子の平衡蒸気圧が発生し、原料供給空間S1内を満たす。
【0071】
本手法における成長速度は、上記温度領域によって制御することができ、0.001~1μm/minの範囲で選択することが可能である。
本手法における成長量は、好ましくは5~15μmであり、より好ましくは8~10μmである。
本手法における成長時間は、所望の成長量となるよう任意の時間に設定することができる。例えば、成長速度が10nm/minの時に、成長量を10μmとしたい場合には、成長時間は100分間成長させればよい。
本手法における真空度(本加熱室41)は、10-5~10Paであり、より好ましくは10-3~1Paである。
本手法においては、成長中に不活性ガスを導入することも可能である。この不活性ガスは、Ar等を選択することができ、この不活性ガスを10-5~10000Paの範囲で導入することによって、高温真空炉40(本加熱室41)の真空度を調整することができる。
【0072】
本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、SiC基板10をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含む。このように、SiC-Si平衡蒸気圧環境下でSiC基板を成長させることにより、1ユニットセル高さのステップ12が配列した成長層11を成長させることができる。
【0073】
また、本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、Si蒸気圧空間S2を介して排気(真空引き)される原料供給空間S1にSiC基板10を配置して成長させる。このように、原料供給空間S1は、Si蒸気圧空間S2を介して排気されることにより、原料供給空間S1内のSiC-Si平衡蒸気圧環境を長時間維持することができる。
【0074】
なお、
図1においては、耐圧層であるエピ層を有さないSiC基板10に対して本発明に係る成長工程を施した例を示したが、耐圧層であるエピ層を有したSiC基板10に対して本発明に係る成長工程を施すことも当然に可能である。
【0075】
また、本発明は、SiC基板を成長させる成長工程を含むSiC半導体基板の製造方法において、SiC基板をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させることにより、SiC半導体基板の表面に1ユニットセル高さのステップを配列させる方法である。
【0076】
また、SiC-Si平衡蒸気圧環境は、例えば、原料供給空間内の原子数比Si/Cが1を超えるよう、Si原子供給源及びC原子供給源を配置して成長させることで形成される。
【0077】
[SiC半導体基板]
本発明の一実施形態のSiC半導体基板は、1ユニットセル高さのステップ12が配列した成長層11を備えることを特徴とする。4H-SiC(0001)面側に成長させた成長層11の表面は、
図5に示すように、<11-20>方向に沿って100μm以上の範囲にわたって、MSBは形成されておらず、1nm(1ユニットセル)高さのステップ12が、14nmのテラス13幅で配列している。なお、このステップ高さやテラス幅は、原子間力顕微鏡(AFM)や特開2015-179082号公報に記載の走査型電子顕微鏡(SEM)像コントラストを評価する手法により確認することができる。
【0078】
このようにステップ12高さを1ユニットセルに制御された成長層11を有することにより、成長層11上に耐圧層であるエピ層を形成する場合には、エピ層表面にステップバンチング起因の欠陥が発生することを抑制することができる。
また、成長層11を耐圧層とする場合には、MOSFETにおいてステップ-テラス構造に起因した問題が発生することがなく、結果として動作性能および信頼性を向上させることができる。すなわち、好ましい酸化絶縁膜形成に寄与することができる。
【0079】
[SiC半導体基板の製造装置]
以下、本発明に係るSiC半導体基板の製造装置について、
図4を参照して詳細に説明する。この実施形態に係る製造装置は、Si蒸気圧空間S2を有する浸炭容器30と、原料供給空間S1を有する原料容器20と、原料供給空間S1を加熱可能な高温真空炉40備える。なお、同実施形態において、先のSiC半導体基板及びその製造方法と基本的に同一の構成要素については、同一の符号を付してその説明を簡略化する。
【0080】
図4は、本発明に係るSiC半導体基板の製造方法の成長工程で用いられる高温真空炉40(SiC半導体基板の製造装置)の一例である。
この高温真空炉40は、本加熱室41と、予備加熱室42と、浸炭容器30を予備加熱室42から本加熱室41へ移動可能な移動手段43(移動台)と、を備えている。本加熱室41は、SiC基板10を1000℃以上2300℃以下の温度に加熱することができる。予備加熱室42は、SiC基板10を本加熱室41で加熱する前に予備加熱を行うための空間である。
【0081】
本加熱室41には、真空形成用バルブ44と、不活性ガス注入用バルブ45と、真空計46と、が接続されている。真空形成用バルブ44は、本加熱室41内を排気して真空引きする真空引ポンプと接続されており、本加熱室41内の真空度を調整することができる。また、不活性ガス注入用バルブ45は、本加熱室41内に不活性ガス(例えば、Ar等)を導入し、この圧力を調整することができる。真空計46は、本加熱室41内の真空度を測定することができる。
【0082】
また、本加熱室41の内部には、ヒータ47が備えられている。さらに、本加熱室41の側壁及び天井には熱反射金属板が固定されており(図示せず)、この熱反射金属板は、ヒータ47の熱を本加熱室41の略中央部に向けて反射させるように構成されている。
これにより、SiC基板10を加熱し、1000℃以上2300℃以下の温度まで昇温させることができる。なお、ヒータ47としては、例えば、抵抗加熱式のヒータ又は高周波誘導加熱式のヒータを用いることができる。
【0083】
予備加熱室42は、本加熱室41と接続されており、移動手段43により浸炭容器30を移動可能に構成されている。これにより、原料供給空間S1が、本加熱室41から予備加熱室42へ、又は予備加熱室42から本加熱室41へ搬送される。
なお、この予備加熱室42には、本加熱室41のようなヒータ47は設けられておらず、本加熱室41の余熱により昇温される。例えば、本加熱室41が2000℃の場合、予備加熱室42は1000℃程度まで昇温し、浸炭容器30等の脱ガス処理を行えるよう構成されている。
【0084】
また、本加熱室41と予備加熱室42間の搬送は、移動手段43により最短1分程で完了するため、1~1000℃/minでの昇温・降温を実現することができる。このように急速昇温及び急速降温が行えるため、従来の装置では困難であった、昇温中及び降温中の低温成長履歴を持たない表面形状を観察することが可能である。
また、
図5においては、本加熱室41の下方に予備加熱室42を配置しているが、これに限られず、任意の方向に設置することができる。
【0085】
移動手段43は、浸炭容器30を配置する台であり、この浸炭容器30との接触部より微小な熱を逃がしている。これにより、浸炭容器30内乃至原料供給空間S1内に温度勾配が生まれ、SiC基板10の成長駆動力となっている。
図5に示したように、下から浸炭容器30を支持する場合には、浸炭容器30の底面方向に(上から下に)向かって温度が下がるように温度勾配が設けられる。
なお、この温度勾配は、移動手段43の設計を変更することで任意の方向に設けることができ、例えば、移動手段43に吊り下げ式等を採用した場合には、熱が上方向に逃げるため、温度勾配は、浸炭容器30の天面方向に(下から上に)向かって温度が下がるように僅かな温度勾配が設けられることとなる。
【0086】
本発明によれば、Si蒸気圧空間S2を介して排気(真空引き)される原料供給空間S1にSiC基板10を配置する配置工程と、SiC基板10をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程と、を含む。
このように、SiC基板10を成長させる原料供給空間S1は、Si蒸気圧空間S2を介して排気(真空引き)されることで、原料供給空間S1内のSi原子が排気されることを抑制して、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cを成長に適した比率に保つことができる。
さらに、SiC-Si平衡蒸気圧環境下でSiC基板10を成長させることにより、SiC基板10表面にMSBが形成されることを抑制することができる。この時、SiC基板10に「格子乱れ層」が存在する場合においても、MSBが形成されることを抑制することができる。
【実施例】
【0087】
以下の方法で実施例1、比較例1のSiC半導体基板を製造した。
<実施例1>
(配置工程)
以下の条件で、SiC基板10を原料供給空間S1及びSi蒸気圧空間S2内に配置した(
図2(a)参照)。
[SiC基板10]
多型:4H-SiC
オフ方向及びオフ角:<11-20>方向4°オフ
成長面:(0001)面
基板サイズ:横幅10mm×縦幅10mm×厚み0.3mm
格子乱れ層:5μm
なお、格子乱れ層の深さはSEM-EBSDにて確認した。TEM及びμXRDで確認しても良い。
【0088】
[原料供給空間S1]
原料容器20材料:多結晶SiC
原料容器20サイズ:直径60mm×高さ4mm
Si基板24:横幅10mm×縦幅10mm×厚み0.2mm
このようにSi基板24を原料容器20内に配置することにより、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが、1を超えるように設定されている(SiC-Si平衡蒸気圧環境)。
【0089】
[Si蒸気圧空間S2]
浸炭容器30のタンタルシリサイド層:TaSi2又はTa5Si3
浸炭容器30のタンタルカーバイド層:TaC又はTa2C
浸炭容器30のタンタル層:Ta
浸炭容器30サイズ:直径160mm×高さ60mm
【0090】
(成長工程)
上記条件で配置したSiC基板10を、以下の条件で成長させた。
昇温レート:10℃/min
加熱温度:1800℃
加熱時間:60min
成長速度:68nm/min
本加熱室真空度:10-5Pa
降温レート:1000℃/min
【0091】
図5は、上記条件で成長させた実施例1のSiC基板10表面のSEM像である。
図5(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図5(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この実施例1のSiC基板10表面には、MSBは形成されておらず、1.0nm(フルユニットセル)のステップ12が、14nmのテラス13幅で規則正しく配列している。なお、ステップ12高さは、AFMにより測定した。
また、この実施例1のようにステップ12高さが抑制可能な成長環境は、加熱温度と成長速度の関係からSiC-Si平衡蒸気圧環境であることがわかっている(
図7参照)。
【0092】
<比較例1>
(配置工程)
以下の条件で、SiC基板10を原料供給空間S1及びSi蒸気圧空間S2内に配置した(
図3(a)参照)。
[SiC基板10]
実施例1と同様のSiC基板10を用いた。
[原料供給空間S1]
実施例1と同様の原料容器20を用いた。Si基板24は配置せず、原料容器20内にはSiC基板10のみを配置した。その結果、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1以下となるよう設定されている(SiC-C平衡蒸気圧環境)。
[Si蒸気圧空間S2]
実施例1と同様の浸炭容器30を用いた。
【0093】
(成長工程)
上記条件で配置したSiC基板10を、実施例1と同様の条件で成長させた。
【0094】
図6は、上記条件で成長させた比較例1のSiC基板10表面のSEM像である。
図6(a)は倍率×1000で観察したSEM像であり、
図6(b)は倍率×100000で観察したSEM像である。
この比較例1のSiC基板10表面には、ステップ端がジグザグ形状のMSBが形成されており、高さ3nmのステップ12が、平均42nmのテラス13幅で配列している。なお、ステップ12高さは、AFMにより測定した。
また、この比較例1のようにMSBが形成される成長環境は、加熱温度と成長速度の関係からSiC-C平衡蒸気圧環境であることがわかっている(
図7参照)。
【0095】
図7は、本発明に係るSiC半導体基板の製造方法にて成長させた加熱温度と成長速度の関係を示すグラフである。このグラフの横軸は温度の逆数であり、このグラフの縦軸は成長速度を対数表示している。原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1を超えるように設定して(
図2(a)参照)成長させた結果を○印で示し、原料供給空間S1内の原子数比Si/Cが1又は1未満となるよう設定して(
図3(a)参照)成長させた結果を×印で示している。○印箇所のSiC基板10表面は何れもMSBが形成されておらず、ステップ12は1ユニットセルの高さであった。一方、×印箇所のSiC基板10表面は何れもMSBが形成されていた。
【0096】
また
図7のグラフでは、SiC-Si平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を破線(アレニウスプロット)で、SiC-C平衡蒸気圧環境におけるSiC基板成長の熱力学計算の結果を二点鎖線(アレニウスプロット)にて示している。
【0097】
すなわち、破線は、SiC(固相)とSi(液相)と気相の三相が平衡状態となるような蒸気圧環境において、多結晶SiCを原料として単結晶SiCを成長させた際の熱力学計算の結果である。具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC+Si系であること,(ii)成長駆動力は、原料供給空間S1内の温度勾配と、多結晶SiCと単結晶SiCの蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスは、SiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がステップ12に吸着する吸着係数は0.001であること。
【0098】
また、二点鎖線は、SiC(固相)とC(固相)と気相の三相が平衡状態となるような蒸気圧環境において、多結晶SiCを原料として単結晶SiCを成長させた際の熱力学計算の結果である。具体的には、数1を用いて、以下の条件(i)~(iv)で熱力学計算を行った。(i)体積一定のSiC+C系であること,(ii)成長駆動力は、原料供給空間S1内の温度勾配と、多結晶SiCと単結晶SiCの蒸気圧差(化学ポテンシャル差)であること,(iii)原料ガスはSiC,Si2C,SiC2であること,(iv)原料がステップ12に吸着する吸着係数は0.001であること。
【0099】
なお、熱力学計算に用いた各化学種のデータはJANAF熱化学表の値を採用した。
【0100】
その結果、SiC基板10をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させた
図7の○印箇所の条件においては、MSBの形成が分解・抑制されており、成長層11表面に1nm(1ユニットセル)高さのステップ12が整列していることがわかる。
一方で、SiC基板10をSiC-C平衡蒸気圧環境下で成長させた
図7の×印箇所の条件においては、MSBが形成されていることがわかる。
【0101】
本発明のSiC半導体基板の製造方法によれば、SiC基板10をSiC-Si平衡蒸気圧環境下で成長させる成長工程を含むことにより、1ユニットセル高さのステップ12が配列した成長層11を成長させることができる。
【符号の説明】
【0102】
10 SiC基板
11 成長層
12 ステップ
13 テラス
20 原料容器
24 Si基板
25 C原子吸蔵部材
30 浸炭容器
40 高温真空炉
41 本加熱室
42 予備加熱室
43 移動手段
S1 原料供給空間
S2 Si蒸気圧空間
MSB マクロステップバンチング