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特許7464944電波吸収積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】電波吸収積層フィルム、その製造方法、及びそれを含む素子
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20240403BHJP
   B32B 7/025 20190101ALI20240403BHJP
   B32B 15/04 20060101ALI20240403BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H05K9/00 M
B32B7/025
B32B15/04 Z
B32B27/18 H
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020523069
(86)(22)【出願日】2019-05-30
(86)【国際出願番号】 JP2019021622
(87)【国際公開番号】W WO2019235364
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-05-10
(31)【優先権主張番号】P 2018108946
(32)【優先日】2018-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】吉清 まりえ
(72)【発明者】
【氏名】浅井 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】桑原 大
【審査官】佐久 聖子
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3086324(JP,U)
【文献】特開2000-040893(JP,A)
【文献】特開2017-184106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
B32B 1/00-32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波吸収層を有する電波吸収積層フィルムであって、
前記電波吸収積層フィルムが、中心層と、2つの基材層と、2つの電波吸収層とを有し、
前記中心層が、少なくとも1つの金属層を含み、
2つの前記基材層が、前記中心層の両面に積層されており、
2つの前記基材層のそれぞれについて、前記中心層とは反対の面に前記電波吸収層が積層されており、
2つの前記基材層は同一であっても異なっていてもよく、2つの前記電波吸収層は同一であっても異なっていてもよく、
前記電波吸収層の少なくとも1つが磁性体を含み、
前記基材層各々の厚さが50μm以上125μm以下であ
前記基材層がポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、及びポリアミドイミドよりなる群から選択される少なくとも1つを含む層であり、
前記電波吸収積層フィルムの少なくとも一方の面について、30GHz以上300GHz以下の周波帯域において、透過減衰量の絶対値が10dB以上であり、かつ反射減衰量の絶対値が10dB以上のピークを有する、電波吸収積層フィルム。
【請求項2】
前記金属層がアルミニウム、チタン、真鍮、銀、金、白金、ないしそれらの合金を含む層である、請求項1に記載の電波吸収積層フィルム。
【請求項3】
厚さ1000μm以下である、請求項1又は2に記載の電波吸収積層フィルム。
【請求項4】
電波吸収層を有する電波吸収積層フィルムであって、
前記電波吸収積層フィルムが、中心層と、2つの基材層と、2つの電波吸収層とを有し、
前記中心層が、少なくとも1つの金属層を含み、
2つの前記基材層が、前記中心層の両面に積層されており、
2つの前記基材層のそれぞれについて、前記中心層とは反対の面に前記電波吸収層が積層されており、
2つの前記基材層は同一であっても異なっていてもよく、2つの前記電波吸収層は同一であっても異なっていてもよく、
前記電波吸収層の少なくとも1つが磁性体を含み、
前記基材層各々の厚さが50μm以上125μm以下であり、
厚さ450μm以下である、前記電波吸収積層フィルム。
【請求項5】
前記磁性体がイプシロン型酸化鉄、バリウムフェライト磁性体、及びストロンチウムフェライト磁性体よりなる群から選択される少なくとも1つを含む、請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収積層フィルム。
【請求項6】
前記磁性体がイプシロン型酸化鉄を含み、
前記イプシロン型酸化鉄がε-Fe結晶、及び、結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0以上2以下である結晶よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項に記載の電波吸収積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a1)前記基材層上に前記電波吸収層を形成して電波吸収層及び基材層の積層体を形成することを少なくとも2回行い、前記積層体を少なくとも2つ得ること、及び、
(b1)前記中心層の両面それぞれに、前記積層体の基材層の面を積層させることを含む製造方法。
【請求項8】
請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a2)前記中心層の両面それぞれに、前記基材層を積層させること、及び
(b2)前記中心層に積層された2つの前記基材層上に、それぞれ電波吸収層を形成することを含む製造方法。
【請求項9】
前記電波吸収層の形成が、前記磁性体を含むペーストを前記基材層上に塗布することにより行われる、請求項又はに記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1~のいずれか1項に記載の電波吸収積層フィルムを含む素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面と裏面とのそれぞれにおいて、ミリ波帯域以上における透過減衰性及び反射減衰性に優れ、極薄く設計されても良好な電波吸収性能を示す電波吸収積層フィルム、該フィルムの製造方法、及び該フィルムを含む素子に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおいて、高周波帯域の電波の使用が広がっている。しかし、高周波帯域の電波の利用の拡大には、電子部品同士の干渉による電子機器の故障や誤動作等を招く懸念がある。このような問題の対策として、不要な電波を電波吸収体により吸収する方法がとられている。
【0003】
このため、高周波帯域の電波を利用するレーダー等においても、本来受信されるべきでない不要な電波の影響を軽減するために、電波吸収体が利用されている。
このような要求に応えるため、高周波数帯域の電波を良好に吸収できる電波吸収体が種々提案されている。具体例としては、例えば、カーボンナノコイル及び樹脂を含有する電波吸収シート(例えば、特許文献1)が知られている。
【0004】
高周波帯域の電波の用途の中でも、自動車の運転支援システムについて研究が進んでいる。かかる自動車の運転支援システムでは、車間距離等を検知するための車載レーダーにおいて、76GHz帯域の電波が利用されている。そして、自動車の運転支援システムに限らず、種々の用途において、例えば100GHz以上の高周波数帯域の電波の利用が広がると予測される。このため、76GHz帯域やそれよりも高周波数帯域の電波を良好に吸収できる電波吸収体が望まれている。
【0005】
このような要求に応えるため、高周波数帯域における広い範囲において良好に電波を吸収できる電波吸収体として、例えば、ε―Fe系の鉄酸化物からなる磁性結晶を含む電波吸収層を備える電波吸収体が提案されている(例えば、特許文献2、非特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-060060号公報
【文献】特開2008-277726号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】A.Namai,S.Sakurai,M.Nakajima,T.Suemoto,K.Matsumoto,M.Goto,S.Sasaki, and S.Ohkoshi, J.Am.Chem.Soc.,131,1170-1173(2009).
【文献】A.Namai,M.Yoshikiyo,K.Yamada,S.Sakurai,T.Goto,T.Yoshida,T Miyazaki,M.Nakajima,T.Suemoto,H.Tokoro, and S.Ohkoshi,Nature Communications,3,1035/1-6(2012).
【文献】S.Ohkoshi,S.Kuroki,S.Sakurai,K.Matsumoto,K.Sato, and S.Sasaki,Angew.Chem.Int.Ed.,46,8392-8395(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ミリ波吸収体として使用し得る従来の電波吸収体では、十分なミリ波吸収性を達成するために電波吸収層の厚さを厚くすること、又は電波吸収層を有する基材層に金属層を貼り付けることが要求されていた。
しかしながら、電波吸収層を厚くする場合、電波吸収体の製造コストアップと、デバイスの小型化が困難であることとの不具合がある。
また、基材層に金属層を貼り付ける構成の電波吸収体には、以下の問題がある。このような構成の電波吸収体は、典型的には、一方の面に電波吸収層を備え、他方の面に金属層を備える。高周波信号を処理するための集積回路(RFIC)に入射する不要な電波を吸収するためにかかる構成の電波吸収体が用いられる場合、金属層がRFICと対向するように電波吸収体が配置される。そうすることによって、電波吸収層側から金属層側に向かって透過する不要な電波を減衰させることができ、RFICへの不要な電波の入射を抑制できる。
しかし、この場合、RFICから電波吸収体の電波吸収層と反対側の面(金属層)に向かって発せられるノイズが金属層によって全反射してしまう。そうすると、反射したノイズによって、電子部品同士の干渉による電子機器の故障や誤動作等を招く懸念が生じる。
このような事情から、表面と裏面とのそれぞれにおいて、透過する電波を減衰させる透過減衰性と、反射する電波を減衰させる反射減衰性とを兼ね備え、かつ極薄く設計されても良好な電波吸収性能を示すフィルム状の電波吸収体が求められている。
【0009】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑み、表面と裏面とのそれぞれにおいて、ミリ波帯域以上における透過減衰性及び反射減衰性に優れ、極薄く設計されても良好な電波吸収性能を示す電波吸収積層フィルム、該フィルムの製造方法、及び該フィルムを含む素子の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、2つの電波吸収層と、2つの基材層と、1つの中心層とを含む特定の層構成の電波吸収積層フィルムにおいて、中心層に少なくとも1つの金属層を含ませることによって、表面と裏面とのそれぞれにおいて、ミリ波帯域以上における透過減衰性及び反射減衰性に優れ、極薄く設計されても良好な電波吸収性能を示す電波吸収積層フィルムを製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の態様は、電波吸収層を有する電波吸収積層フィルムであって、
前記電波吸収積層フィルムが、中心層と、2つの基材層と、2つの電波吸収層とを有し、
前記中心層が、少なくとも1つの金属層を含み、
2つの前記基材層が、前記中心層の両面に積層されており、
2つの前記基材層のそれぞれについて、前記中心層とは反対の面に前記電波吸収層が積層されており、
2つの前記基材層は同一であっても異なっていてもよく、2つの前記電波吸収層は同一であっても異なっていてもよく、
前記電波吸収層の少なくとも1つが磁性体を含む、電波吸収積層フィルムである。
【0012】
本発明の第2の態様は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a1)前記基材層上に前記電波吸収層を形成して電波吸収層及び基材層の積層体を形成することを少なくとも2回行い、前記積層体を少なくとも2つ得ること、及び、
(b1)前記中心層の両面それぞれに、前記積層体の基材層の面を積層させることを含む製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a2)前記中心層の両面それぞれに、前記基材層を積層させること、及び
(b2)前記中心層に積層された2つの前記基材層上に、それぞれ電波吸収層を形成することを含む製造方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムを含む素子である。
【発明の効果】
【0015】
第1の態様に係る電波吸収積層フィルムは、表面と裏面とのそれぞれにおいて、ミリ波帯域以上における透過減衰性及び反射減衰性に優れ、極薄く設計されても良好な電波吸収性能を示す。
また、本発明によれば、上記電波吸収積層フィルムの製造方法、及び上記電波吸収積層フィルムを含む素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの好ましい1つの実施形態の断面図である。
図2】比較例1~3の積層フィルムの断面図である。
図3】実施例1の電波吸収積層フィルムのミリ波周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図4】比較例1の積層フィルムのミリ波周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図5】比較例2の積層フィルムのミリ波周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図6】比較例3の積層フィルムのミリ波周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施態様について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施態様に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
また、本明細書において、「~」は特に断りがなければ以上から以下を表す。
【0018】
≪電波吸収積層フィルム≫
図1は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの好ましい1つの実施形態の断面図である。
図1を参照して、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムについて以下説明する。
第1の態様に係る電波吸収積層フィルム1は、電波吸収層2を有する電波吸収積層フィルムであって、
前記電波吸収積層フィルムが、中心層3と、2つの基材層4と、2つの電波吸収層2とを有し、
中心層3が、少なくとも1つの金属層を含み、
2つの基材層4が、中心層3の両面に積層されており、
2つの基材層4のそれぞれについて、中心層3とは反対の面に電波吸収層2が積層されており、
2つの基材層4は同一であっても異なっていてもよく、2つの電波吸収層2は同一であっても異なっていてもよく、
電波吸収層2の少なくとも1つが磁性体を含む。
【0019】
第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの少なくとも一方の面(好ましくは両面)について、ミリ波帯域以上の高周波数の電波をより確実に吸収し得る観点から、30ギガヘルツ(GHz)以上の周波帯域(好ましくは30GHz以上300GHz以下、より好ましくは、40GHz以上200GHz以下の周波帯域)において、透過減衰量の絶対値が10デシベル(dB)以上であり、かつ反射減衰量の絶対値が10dB以上のピークを有することが好ましく、透過減衰量の絶対値が20dB以上であり、かつ反射減衰量の絶対値が20dB以上のピークを有することがより好ましく、30GHz以上の周波帯域において、透過減衰量の絶対値が20dB以上であり、かつ50GHz以上100GHz以下の周波帯域において、反射減衰量の絶対値が20dB以上のピークを有することが更に好ましい。
透過減衰量及び反射減衰量の値は、特に断らない限り、後記実施例で測定した条件により測定される値とする。
【0020】
電波吸収積層フィルムの形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの厚さは、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、1000μm以下であることが好ましく、900μm以下であることがより好ましく、450μm以下であることが更に好ましい。
【0021】
<2つの電波吸収層>
第1の態様において、電波吸収層2は、2つの基材層4のそれぞれについて、中心層3とは反対の面に積層される。2つの電波吸収層2は、構成(組成、厚さ、物性等)が同一であっても異なっていてもよい。電波吸収層2の少なくとも1つが磁性体を含む。本発明の効果をより確実に達成する観点から、電波吸収層2の両方が磁性体を含むことが好ましい。
【0022】
上記磁性体は、ミリ波帯域以上の高周波数の電波を吸収し得る観点から、30GHz以上の周波帯域において磁気共鳴する磁性体が好ましく、30GHz以上300GHz以下の周波帯域において磁気共鳴する磁性体がより好ましい。
【0023】
上記磁気共鳴としては、ミリ波帯域以上の周波帯域において、原子における電子がスピン運動するときの歳差運動に基づく磁気共鳴が挙げられる。ミリ波帯域以上の周波帯域における歳差運動に基づくジャイロ磁気効果による自然磁気共鳴が好ましい。
【0024】
上記磁性体としては、ミリ波帯域以上の高周波数の電波を吸収し得る限り特に制限はない。好ましい磁性体としては、イプシロン型酸化鉄、バリウムフェライト磁性体、及びストロンチウムフェライト磁性体よりなる群から選択される少なくとも1つを含む磁性体が挙げられる。
以下イプシロン型酸化鉄について説明する。
【0025】
(イプシロン型酸化鉄)
イプシロン型酸化鉄としては、ε-Fe結晶、及び、結晶構造と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0以上2以下(好ましくは0以上2未満)である結晶よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。このようなイプシロン型酸化鉄の結晶は磁性結晶であるため、本願の明細書では、その結晶について「磁性結晶」と呼ぶことがある。
【0026】
ε-Fe結晶については、任意のものを用いることができる。結晶構造と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであり、式ε-MFe2-xで表され、前記xが0以上2以下(好ましくは0以上2未満)である結晶については、後述する。
なお、本願明細書においてε-Fe結晶のFeサイトの一部が置換元素Mで置換されたε-MFe2-xを「M置換ε-Fe」とも呼ぶ。
【0027】
ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ粒子の粒子径は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。例えば、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性相に持つ粒子は、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径が5nm以上200nm以下の範囲にある。
また、後述するような方法で製造される、イプシロン型酸化鉄の磁性結晶を磁性層に持つ粒子の変動係数(粒子径の標準偏差/平均粒子径)は80%未満の範囲にあり、比較的微細で粒子径の整った粒子群である。
【0028】
好適な電波吸収層2において、このようなイプシロン型酸化鉄の磁性粒子(すなわち、ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ粒子)の粉体を、電波吸収層2中の電波吸収材料である磁性体として用いる。ここでいう「磁性相」は当該粉体の磁性を担う部分である。
「ε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶を磁性相に持つ」とは、磁性相がε-Fe結晶及び/又はM置換ε-Fe結晶からなることを意味し、その磁性相に製造上不可避的な不純物磁性結晶が混在する場合を含む。
【0029】
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶は、ε-Fe結晶と空間群や酸化状態を異にする鉄酸化物の不純物結晶(具体的には、α-Fe、γ-Fe、FeO、及びFe、並びにこれらの結晶においてFeの一部が他の元素で置換された結晶)を含んでいてもよい。
イプシロン型酸化鉄の磁性結晶が不純物結晶を含む場合、ε-Fe及び/又はM置換ε-Feの磁性結晶が主相であることが好ましい。すなわち、当該電波吸収材料を構成するイプシロン鉄酸化物の磁性結晶の中で、ε-Fe及び/又はM置換ε-Feの磁性結晶の割合が、化合物としてのモル比で50モル%以上であるものが好ましい。
【0030】
結晶の存在比は、X線回折パターンに基づくリートベルト法による解析で求めることができる。磁性相の周囲にはゾル-ゲル過程で形成されたシリカ(SiO)等の非磁性化合物が付着していることがある。
【0031】
(M置換ε-Fe
結晶と空間群がε-Feと同じであって、ε-Fe結晶のFeサイトの一部がFe以外の元素Mで置換されたものであるとの条件を満たす限り、M置換ε-Feにおける元素Mの種類は特に限定されない。M置換ε-Feは、Fe以外の元素Mを複数種含んでいてもよい。
【0032】
元素Mの好適な例としては、In、Ga、Al、Sc、Cr、Sm、Yb、Ce、Ru、Rh、Ti、Co、Ni、Mn、Zn、Zr、及びYが挙げられる。これらの中では、In、Ga、Al、Ti、Co及びRhが好ましい。MがAlである場合、ε-MFe2-xで表される組成において、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であることが好ましい。MがGaである場合、xは例えば0以上0.8未満の範囲内であることが好ましい。MがInである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲内であることが好ましい。MがRhである場合、xは例えば0以上0.3未満の範囲であることが好ましい。MがTi及びCoである場合は、xは例えば0以上1未満の範囲であることが好ましい。
【0033】
電波吸収量が最大となる周波数は、M置換ε-Feにおける元素Mの種類及び置換量の少なくとも一方を調整することにより調整することができる。
【0034】
このようなM置換ε-Fe磁性結晶は、例えば後述の、逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程によって合成することができる。また、特開2008-174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル-ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε-Fe磁性結晶を合成することができる。
【0035】
具体的には、
Jian Jin,Shinichi Ohkoshi and Kazuhito Hashimoto,ADVANCED MATERIALS 2004,16,No.1、January 5,p.48-51、
Shin-ichi Ohkoshi,Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto,JOURNAL OF APPLIED PHYSICS,97,10K312(2005)、
Shunsuke Sakurai,Jian Jin,Kazuhito Hashimoto and Shinichi Ohkoshi,JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN,Vol.74,No.7,July,2005、p.1946-1949、
Asuka Namai,Shunsuke Sakurai,Makoto Nakajima,Tohru Suemoto,Kazuyuki Matsumoto,Masahiro Goto,Shinya Sasaki,and Shinichi Ohkoshi,Journal of the American Chemical Society, Vol.131,p.1170-1173,2009.等に記載されるような、逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた工程及び焼成工程により、M置換ε-Fe磁性結晶を得ることができる。
【0036】
逆ミセル法では、界面活性剤を含んだ2種類のミセル溶液、すなわちミセル溶液I(原料ミセル)とミセル溶液II(中和剤ミセル)を混合することによって、ミセル内で水酸化鉄の沈殿反応を進行させる。次に、ゾル-ゲル法によって、ミセル内で生成した水酸化鉄微粒子の表面にシリカコートを施す。シリカコート層を備える水酸化鉄微粒子は、液から分離されたあと、所定の温度(700~1300℃の範囲内)で大気雰囲気下での熱処理に供される。この熱処理によりε-Fe結晶の微粒子が得られる。
【0037】
より具体的には、例えば以下のようにしてM置換ε-Fe磁性結晶が製造される。
【0038】
まず、n-オクタンを油相とするミセル溶液Iの水相に、鉄源としての硝酸鉄(III)と、鉄の一部を置換させるM元素源としてのM硝酸塩(Alの場合、硝酸アルミニウム(III)9水和物、Gaの場合、硝酸ガリウム(III)水和物、Inの場合、硝酸インジウム(III)3水和物、Ti及びCoである場合、硫酸チタン(IV)の水和物と硝酸コバルト(II)6水和物)と、界面活性剤(例えば臭化セチルトリメチルアンモニウム)とを溶解させる。
【0039】
ミセル溶液Iの水相には、適量のアルカリ土類金属(Ba、Sr、Ca等)の硝酸塩を溶解させておくことができる。この硝酸塩は形状制御剤として機能する。アルカリ土類金属が液中に存在すると、最終的にロッド形状のM置換ε-Fe磁性結晶の粒子が得られる。形状制御剤がない場合は、球状に近いM置換ε-Fe磁性結晶の粒子が得られる。
【0040】
形状制御剤として添加したアルカリ土類金属は、生成するM置換ε-Fe磁性結晶の表層部に残存することがある。M置換ε-Fe磁性結晶におけるアルカリ土類金属の質量は、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0041】
n-オクタンを油相とするミセル溶液IIの水相にはアンモニア水溶液を用いる。
【0042】
ミセル溶液I及びIIを混合した後、ゾル-ゲル法を適用する。すなわち、シラン(例えばテトラエチルオルトシラン)をミセル溶液の混合液に滴下しながら撹拌を続け、ミセル内で水酸化鉄、又は元素Mを含有する水酸化鉄の生成反応を進行させる。これにより、ミセル内で生成した微細な水酸化鉄の沈殿の粒子表面が、シランの加水分解によって生成するシリカでコーティングされる。
【0043】
次いで、シリカコーティングされたM元素含有水酸化鉄粒子を液から分離・洗浄・乾燥して得た粒子粉体を炉内に装入し、空気中で700℃以上1300℃以下、好ましくは900℃以上1200℃以下、さらに好ましくは950℃以上1150℃以下の温度範囲で熱処理(焼成)する。
この熱処理によりシリカコーティング内で酸化反応が進行して、微細なM元素含有水酸化鉄の微細な粒子が、微細なM置換ε-Feの粒子に変化する。
【0044】
この酸化反応の際に、シリカコートの存在がα-Feやγ-Feの結晶ではなく、ε-Feと空間群が同じであるM置換ε-Fe結晶の生成に寄与するとともに、粒子同士の焼結を防止する作用を果たす。また、適量のアルカリ土類金属が共存していると、粒子形状がロッド状に成長しやすい。
【0045】
また、前述の通り、特開2008-174405号公報に開示されるような、直接合成法とゾル-ゲル法とを組み合わせた工程、及び焼成工程によってM置換ε-Fe磁性結晶をより経済的に有利に合成することができる。
【0046】
簡潔に説明すれば、初めに3価の鉄塩と置換元素M(Ga、Al等)の塩が溶解している水溶媒に、撹拌状態でアンモニア水等の中和剤を添加することで、鉄の水酸化物(一部が別元素で置換されていることもある)からなる前駆体が形成される。
【0047】
その後にゾル-ゲル法を適用し、前駆体粒子表面にシリカの被覆層を形成させる。このシリカ被覆粒子を液から分離した後に、所定の温度で熱処理(焼成)を行うと、M置換ε-Fe磁性結晶の微粒子が得られる。
【0048】
上記のようなM置換ε-Feの合成において、ε-Fe結晶と空間群や酸化状態を異にする鉄酸化物結晶(不純物結晶)が生成する場合がある。Feの組成を有しながら結晶構造が異なる多形(polymorphism)には最も普遍的なものとしてα-Fe及びγ-Feがある。その他の鉄酸化物としてはFeO、Fe等が挙げられる。
このような不純物結晶の含有は、M置換ε-Fe結晶の特性をできるだけ高く引き出す上で好ましいとは言えないが、本発明の効果を阻害しない範囲で許容される。
【0049】
また、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hは、置換元素Mによる置換量に応じて変化する。つまり、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mによる置換量を調整することで、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hを調整することができる。
具体的には、例えばAl、Ga等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hが低下する。一方、Rh等を置換元素Mとして用いた場合には、置換量が増えるほど、M置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hは増大する。
置換元素Mによる置換量に応じてM置換ε-Fe磁性結晶の保磁力Hを調整しやすい点からは、置換元素Mとして、Ga、Al、In、Ti、Co及びRhが好ましい。
【0050】
そして、この保磁力Hの低下に伴い、イプシロン型酸化鉄の電波吸収量が最大となるピークの周波数も低周波数側あるいは高周波数側にシフトする。つまり、M元素の置換量により電波吸収量のピークの周波数をコントロールすることができる。
【0051】
一般的に用いられている電波吸収体の場合、電波の入射角度や周波数が設計した値から外れてしまうと吸収量がほとんどゼロになる。これに対し、イプシロン型酸化鉄を用いた場合、少し値が外れても、広い周波数範囲及び電波入射角度で電波吸収を呈する。このため、幅広い周波数帯域の電波を吸収可能な電波吸収層を提供することができる。
【0052】
イプシロン型酸化鉄の粒子径について、例えば上記工程において熱処理(焼成)温度を調整することによりコントロール可能である。
前述の逆ミセル法とゾル-ゲル法を組み合わせた手法や、特開2008-174405号公報に開示される直接合成法とゾル-ゲル法を組み合わせた手法によれば、TEM(透過型電子顕微鏡)写真から計測される平均粒子径として、5nm以上200nm以下の範囲の粒子径を有するイプシロン型酸化鉄の粒子を合成することが可能である。イプシロン型酸化鉄の平均粒子径は、10nm以上がより好ましく、20nm以上がより好ましい。
なお、数平均粒子径である平均粒子径を求める際、イプシロン型酸化鉄の粒子がロッド状である場合、TEM画像上で観察される粒子の長軸方向の径を当該粒子の径として平均粒子径を算出する。平均粒子径を求める際の、計測対象の粒子数は平均値を算出に当たり十分に多い数であれば特に限定されないが、300個以上であることが好ましい。
【0053】
また、ゾル-ゲル法で水酸化鉄微粒子の表面にコーティングされたシリカコートが、熱処理(焼成)後のM置換ε-Fe磁性結晶の表面に存在することがある。結晶の表面にシリカのような非磁性化合物が存在する場合、磁性結晶の取り扱い性や、耐久性、耐候性等が向上する点で好ましい。
非磁性化合物の好適な例としては、シリカのほか、アルミナやジルコニア等の耐熱性化合物が挙げられる。
【0054】
ただし、非磁性化合物の付着量があまり多いと、粒子同士が激しく凝集する場合があり好ましくない。
非磁性化合物がシリカである場合、M置換ε-Fe磁性結晶におけるSiの質量は、M置換ε-Fe磁性結晶における置換元素Mの質量と、Feの質量との合計に対して、100質量%以下であることが好ましい。
M置換ε-Fe磁性結晶に付着したシリカの一部又は大部分は、アルカリ溶液に浸す方法によって除去できる。シリカ付着量はこのような方法で任意の量に調整可能である。
【0055】
電波吸収層2における磁性体の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。磁性体の含有量は、電波吸収層2の固形分質量に対して、30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましく、60質量%以上が特に好ましく、60質量%以上91質量%以下が最も好ましい。
【0056】
((比誘電率調整方法))
電波吸収層2は、その比誘電率としては特に制限はないがが、6.5以上65以下であることが好ましく、10以上50以下であることがより好ましく、15以上30以下であることが更に好ましい。電波吸収層2の比誘電率を調整する方法は特に限定されない。電波吸収層2各々の比誘電率の調整方法としては、電波吸収層2に誘電体の粉末を含有させ、且つ、誘電体の粉末の含有量を調整する方法が挙げられる。
【0057】
誘電体の好適な例としては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛、及び二酸化チタンが挙げられる。電波吸収層2は、複数の種類の誘電体の粉末を組み合わせて含んでいてもよい。
【0058】
電波吸収層2の比誘電率の調整に用いられる誘電体の粉末の粒子径は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。誘電体の粉末の平均粒子径は、1nm以上100nm以下が好ましく、5nm以上50nm以下がより好ましい。ここで、誘電体の粉末の平均粒子径は、電子顕微鏡により観察される、誘電体の粉末の一次粒子の数平均径である。
【0059】
誘電体の粉末を用いて電波吸収層2の比誘電率を調整する場合、電波吸収層2各々の比誘電率が所定の範囲内である限り、誘電体の粉末の使用量は特に限定されない。誘電体の粉末の使用量は、電波吸収層2各々の固形分質量に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0060】
また、電波吸収層2にカーボンナノチューブを含有させることにより比誘電率を調整することができる。カーボンナノチューブは、上記の誘電体の粉末と併用してもよい。
【0061】
電波吸収層2へのカーボンナノチューブの配合量は、電波吸収層2の比誘電率が上記の所定の範囲内である限り特に限定されない。ただし、カーボンナノチューブは導電性材料でもあるため、カーボンナノチューブの使用量が過多であると、電波吸収層2によりもたらされる電波吸収特性が損なわれる場合がある。
カーボンナノチューブの使用量は、電波吸収層2の固形分質量に対して、0質量%以上20質量%以下が好ましく、1質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0062】
((比透磁率調整方法))
電波吸収層2の比透磁率は特に限定されないが、1.0以上1.5以下が好ましい。電波吸収層2の比透磁率を調整する方法は特に限定されない。電波吸収層2各々の比透磁率の調整方法としては、前述の通り、イプシロン型酸化鉄における置換元素Mによる置換量を調整する方法、電波吸収層2における磁性体の含有量を調整する方法等が挙げられる。
【0063】
((ポリマー))
上記磁性体等を電波吸収層2中に均一に分散させるとともに、厚さが均一な電波吸収層2の形成を容易にするために、電波吸収層2はポリマーを含んでいてもよい。電波吸収層2がポリマーを含む場合、ポリマーからなるマトリックス中に、上記磁性体等の成分を容易に分散させることができる。
【0064】
ポリマーの種類は、本発明の目的を阻害せず、電波吸収層2の形成が可能であれば特に限定されない。ポリマーは、エラストマー、ゴム等の弾性材料であってもよい。また、ポリマーは、熱可塑性樹脂であっても硬化性樹脂であってもよい。ポリマーが硬化性樹脂である場合、硬化性樹脂は、光硬化性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。
【0065】
ポリマーが熱可塑性樹脂である場合の好適な例としては、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂(ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリレート等)、FR-AS樹脂、FR-ABS樹脂、AS樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、フッ素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミドビスマレイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリベンゾオキサゾール樹脂、ポリベンゾチアゾール樹脂、ポリベンゾイミダゾール樹脂、BT樹脂、ポリメチルペンテン、超高分子量ポリエチレン、FR-ポリプロピレン、セルロース樹脂(例えば、メチルセルロース、エチルセルロース)、(メタ)アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート等)、及びポリスチレン等が挙げられる。
【0066】
ポリマーが熱硬化性樹脂である場合の好適な例としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、及びアルキド樹脂等が挙げられる。光硬化性樹脂としては、種々のビニルモノマー、種々の(メタ)アクリル酸エステル等の不飽和結合を有する単量体を光硬化させた樹脂を用いることができる。
【0067】
ポリマーが弾性材料である場合の好適な例としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、及びポリウレタン系エラストマー等が挙げられる。
【0068】
電波吸収層2がポリマーを含有する場合、ポリマーの含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。ポリマーの含有量は、電波吸収層2の固形分質量に対して、5質量%以上30質量%以下が好ましく、10質量%以上25質量%以下がより好ましい。
【0069】
((分散剤))
上記磁性体、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を電波吸収層2中で良好に分散させる目的で、電波吸収層2は分散剤を含んでいてもよい。分散剤は、上記磁性体、ポリマー等とともに均一に混合されてもよい。電波吸収層2がポリマーを含む場合、分散剤はポリマー中に配合されてもよい。また、分散剤により予め処理された、上記磁性体、比誘電率及び比透磁率を調整するために添加される物質を、電波吸収層2を構成する材料に配合してもよい。
【0070】
分散剤の種類は本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。従来から種々の無機微粒子又は有機微粒子の分散用途で使用されている種々の分散剤の中から、分散剤を選択できる。
【0071】
分散剤の好適な例としては、シランカップリング剤(例えば、フェニルトリメトキシシラン)、チタネートカップリング剤、ジルコネートカップリング剤、及びアルミネートカップリング剤等が挙げられる。
【0072】
分散剤の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。分散剤の含有量は、電波吸収層2各々の固形分質量に対して、0.1質量%以上30質量%以下が好ましく、1質量%以上15質量%以下がより好ましく、1質量%以上10質量%以下が特に好ましい。
【0073】
((その他の成分))
電波吸収層2は、本発明の目的を阻害しない範囲で、上記の成分以外の種々の添加剤を含んでいてもよい。電波吸収層2が含み得る添加剤としては、着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤、及び界面活性剤等が挙げられる。これらの添加剤は、本発明の目的を阻害しない範囲で、それらが従来使用される量を勘案して使用される。
【0074】
電波吸収層2各々の形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
2つの電波吸収層2各々の厚さとしては、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、700μm以下であることが好ましく、300μm以下であることがより好ましく、150μm以下であることが更に好ましく、100μm以下であることが特に好ましい。
電波吸収層2各々の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm以上、10μm以上、50μm以上等が挙げられる。
【0075】
((電波吸収層形成用ペースト))
電波吸収層を形成する方法としては、特に厚さの制限なく高効率で電波吸収層を形成できる点と、基材層上に直接電波吸収層を形成できる点とから、電波吸収層形成用ペーストを用いて形成する方法が好ましい。
電波吸収層形成用ペーストは、上記磁性体を含有することが好ましい。電波吸収層形成用ペーストは、電波吸収層について前述した、比誘電率、比透磁率等の調整のために添加される物質、ポリマー及びその他の成分等を含有していてもよい。なお、ポリマーが硬化性樹脂である場合、電波吸収層形成用ペーストは、硬化性樹脂の前駆体である化合物を含む。この場合、電波吸収層形成用ペーストは、硬化剤、硬化促進剤、及び重合開始剤等を必要に応じて含有する。
【0076】
また、電波吸収層形成用ペーストが光重合性又は熱重合性の化合物を含む場合、塗布膜に対して露光又は加熱を行い、電波吸収層を形成することができる。
【0077】
電波吸収層形成用ペーストは、分散媒を更に含むことが好ましい。しかし、電波吸収層形成用ペーストが、液状のエポキシ化合物のような液状の硬化性樹脂の前駆体を含有する場合、必ずしも分散媒は必要ない。
【0078】
分散媒としては、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液を用いることができる。分散媒としては、有機成分を溶解させやすい点や、蒸発潜熱が低く乾燥による除去が容易であること等から、有機溶剤が好ましい。
【0079】
分散媒として使用される有機溶剤の好適な例としては、N,N,N’,N’-テトラメチルウレア(TMU)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルイソブチルアミド、N,N-ジエチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジエチルホルムアミド、N-メチルカプロラクタム、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ピリジン等の含窒素極性溶剤;ジエチルケトン、メチルブチルケトン、ジプロピルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;n-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、シクロヘキサノール、ジアセトンアルコール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル等のエーテル系アルコール類;酢酸-n-ブチル、酢酸アミル等の飽和脂肪族モノカルボン酸アルキルエステル類;乳酸エチル、乳酸-n-ブチル等の乳酸エステル類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、2-メトキシブチルアセテート、3-メトキシブチルアセテート、4-メトキシブチルアセテート、2-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、3-エチル-3-メトキシブチルアセテート、2-エトキシブチルアセテート、4-エトキシブチルアセテート、4-プロポキシブチルアセテート、2-メトキシペンチルアセテート等のエーテル系エステル類等が挙げられる。これらは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0080】
電波吸収層形成用ペーストの固形分濃度は、電波吸収層形成用ペーストを塗布する方法、電波吸収層の厚さ等に応じて適宜調整される。典型的には電波吸収層形成用ペーストの固形分濃度は、3質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。なお、ペーストの固形分濃度は、分散媒に溶解していない成分の質量と、分散媒に溶解している成分の質量との合計を固形分の質量として算出される値である。
【0081】
<中心層>
第1の態様において、中心層3の両面に2つの基材層4が積層される。中心層3は、ミリ波を遮断する観点から、少なくとも1つの金属層を含む。
上記金属層としては、本発明の効果をより確実に達成する観点から、アルミニウム、チタン、SUS、銅、真鍮、銀、金、白金、ないしそれらの合金等を含む層が挙げられる。
【0082】
中心層3は、上記金属層以外の層を含んでいてもいなくてもよい。
上記金属層以外の層としては本発明の効果を損なわない限り任意の層であってよく、上記金属層と基材層4との間の接着層ないし粘着層等が挙げられる。上記接着層ないし粘着層としては、アクリル系粘着剤層、ゴム系粘着剤層、シリコーン系粘着剤層、ウレタン系粘着剤層等が挙げられる。
【0083】
中心層3の形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
中心層3の厚さとしては、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、600μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることが更に好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。
中心層3の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm以上、5μm以上、10μm以上等が挙げられる。
【0084】
<2つの基材層>
第1の態様において、2つの基材層4は中心層3の両面に積層されており、
2つの基材層4のそれぞれについて、中心層3とは反対の面に電波吸収層2が積層されており、2つの基材層4は、構成(組成、厚さ、物性等)が同一であっても異なっていてもよい。
基材層4としては、本発明の効果を損なわない限り任意の基材を含む層であってよいが、例えば、樹脂を含む層等が挙げられる。
上記樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、アクリル(PMMA)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)、ポリエーテルスルフォン、ポリイミド、ポリアミドイミド等が挙げられる。なかでも、耐熱性に優れ、寸法安定性とコストとのバランスがよいことからPETが好ましい。
【0085】
基材層4各々の形状は、曲面を有していてもよく、平面のみから構成されていてもよく、平板状が好ましい。
2つの基材層4各々の厚さとしては、本発明の効果を損なうことなく、該フィルムを薄くしたり小型化したりする観点から、800μm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることが更に好ましく、150μm以下であることが特に好ましい。
基材層4各々の厚さの下限値としては本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、例えば、1μm以上、10μm以上、50μm以上等が挙げられる。
【0086】
<用途>
第1の態様に係る電波吸収積層フィルムは、携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおける各種素子(車載素子、高周波アンテナ素子等を含む。)に用いられる電波吸収フィルムとして使用し得る。
【0087】
≪電波吸収積層フィルムの製造方法≫
<第2の態様に係る製造方法>
第2の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a1)前記基材層上に前記電波吸収層を形成して電波吸収層及び基材層の積層体を形成することを少なくとも2回行い、前記積層体を少なくとも2つ得ること、及び、
(b1)前記中心層の両面それぞれに、前記積層体の基材層の面を積層させることを含む。
【0088】
(上記(a1)について)
基材層上に前記電波吸収層を形成することを行い電波吸収層及び基材層の積層体を形成する方法としては特に制限はなく、基材層と、電波吸収層とを別個に形成した後に両者を積層してもよく、基材層の表面に直接電波吸収層を形成してもよい。
ここで、本願明細書における2つの層の積層は、2つの層が、外力により容易に剥離しない状態で接合された状態のみならず、2つの層が、外力により容易にずれたり剥離したりし得る状態で単に重ね合わせられた状態も含む。
積層状態が後者の状態である場合、電波吸収積層フィルムを構成する各層のずれや剥離が生じないように、電波吸収積層フィルムの任意の位置において、積層された各層が固定されることが好ましい。
固定方法としては、電波吸収積層フィルムの外周部の少なくとも1箇所をクリップ等の固定部材により挟持する方法、ビス等の固定具を貫通させることにより電波吸収積層フィルムを構成する各層を固定する方法、電波吸収積層フィルムの任意の位置を縫合する方法等が挙げられる。
【0089】
基材層と、電波吸収層とを別個に形成した後に両者を積層する場合、積層方法は特に制限はない。好ましい積層方法の一例としては、電波吸収層と基材層とを必要に応じて接着剤ないし粘着剤を用いて貼りあわせる方法等が挙げられる。
【0090】
電波吸収層を構成する成分が熱可塑性のポリマーを含む場合、電波吸収層に含まれる必須又は任意の成分からなる混合物を用いて、押出成形、射出成形、プレス成型等の公知の方法で電波吸収層を製造することができる。この場合、基材層をインサート材として用いて、周知のインサート成形方法を用いて基材層と電波吸収層とが一体化してもよい。
これらの方法には、生産効率が高いメリットがある一方で、厚さが1mm未満である薄い電波吸収層の製造が困難であるデメリットがある。
【0091】
一方、上述した電波吸収層形成用ペーストを用いて基材層上に前記電波吸収層を形成することを行い電波吸収層及び基材層の積層体を形成する方法は、特に厚さの制限なく高効率で電波吸収層を形成できる点と、基材層上に直接電波吸収層を形成できる点で好ましい。
基材層上に電波吸収層形成用ペーストを塗布する方法は、所望する厚さの電波吸収層を形成できる限り特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びアプリケーター法等が挙げられる。
上記の方法により、形成される塗布膜を乾燥させて分散媒を除去することで電波吸収層を形成することができる。塗布膜の膜厚は、乾燥後に得られる電波吸収層の厚さが所望の厚さになるように適宜調整される。
乾燥方法は、特に限定されず、例えば、(1)ホットプレートにて80℃以上180℃以下、好ましくは90℃以上160℃以下の温度にて1分間以上30分間以下乾燥させる方法、(2)室温にて数時間~数日間放置する方法、(3)温風ヒータや赤外線ヒータ中に数十分間~数時間入れて溶剤を除去する方法などが挙げられる。
【0092】
(上記(b1)について)
前記中心層の両面それぞれに、電波吸収層及び基材層の積層体の基材層の面を積層させる方法としては特に制限はない。積層方法としては、中心層の両面それぞれと、基材層の面とを接合させる方法が挙げられる。接合方法として特に制限はない。好ましい接合方法としては、中心層それぞれの面と、基材層の面とを必要に応じて接着剤ないし粘着剤を用いて貼りあわせる方法が挙げられる。
【0093】
<第3の態様に係る製造方法>
第3の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法であって、
(a2)前記中心層の両面それぞれに、前記基材層を積層させること、及び
(b2)前記中心層に積層された2つの前記基材層上に、それぞれ電波吸収層を形成することを含む。
【0094】
(上記(a2)について)
中心層の両面それぞれに、基材層を積層させる方法としては特に制限はない。積層方法において、例えば、中心層と、基材層とを別個に形成した後に両者を接合してもよく、中心層の表面に直接基材層を形成してもよい。
【0095】
中心層と、基材層とを別個に形成した後に両者を接合する場合、積層方法は特に制限はない。好ましい積層方法としては、中心層と基材層とを必要に応じて接着剤ないし粘着剤を用いて貼りあわせる方法が挙げられる。
【0096】
基材層を構成する成分が熱可塑性のポリマーを含む場合、基材層に含まれる成分からなる混合物を用いて、押出成形、射出成形、プレス成型等の公知の方法で基材層を製造することができる。この場合、中心層をインサート材として用いて、周知のインサート成形方法を用いて中心層と基材層とを一体化してもよい。
【0097】
中心層上に基材層形成用組成物を塗布する方法は、所望する厚さの基材層を形成できる限り特に限定されない。塗布方法としては、例えば、スプレーコート法、ディップコート法、ロールコート法、カーテンコート法、スピンコート法、スクリーン印刷法、ドクターブレード法、及びアプリケーター法等が挙げられる。
【0098】
(上記(b2)について)
中心層に積層された2つの基材層上に、それぞれ電波吸収層を形成する方法としては特に制限はないが、電波吸収層を別個に形成した後に2つの基材層上に電波吸収層を積層してもよく、基材層の表面に直接電波吸収層を形成してもよい。
【0099】
基材層上に、電波吸収層を形成する方法としては上記(a1)において前述した方法と同様の方法が挙げられる。基材層の表面に直接電波吸収層を形成する方法としては、上記(a1)において前述した基材層上に電波吸収層形成用ペーストを塗布する方法等が挙げられる。
【0100】
第2及び第3の態様に係る電波吸収積層フィルムの製造方法において、前記電波吸収層の形成が、前記磁性体を含む電波吸収層形成用ペーストを前記基材層上に塗布することにより行われることが好ましい。
【0101】
≪素子≫
第4の態様に係る素子は、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムを含む。
第4の態様に係る素子としては、携帯電話、無線LAN、ETCシステム、高度道路交通システム、自動車走行支援道路システム、衛星放送等の種々の情報通信システムにおける各種素子(車載素子、高周波アンテナ素子等を含む。)が挙げられる。
車載素子としては、76GHz帯域のミリ波を利用して車間距離等の情報を検知する車載レーダー等の自動車走行支援道路システム用車載素子が挙げられる。
【0102】
上記高周波アンテナ素子としては、受信アンテナ部を更に含むことが好ましい。
受信アンテナ部に直接入射する電波まで著しく減衰させてしまうことなくアンテナ素子としての機能を果たす観点から、上記高周波アンテナ素子は、高周波アンテナ素子全体としての電波吸収特性を付与する一方で、受信アンテナ部に直接入射する電波を、高周波アンテナ素子が所望する動作を実行できない程度に減衰させないように第1の態様に係る電波吸収積層フィルムを含むことがより好ましい。
上記高周波アンテナ素子の構成として具体的には、第1の態様に係る電波吸収積層フィルムが、受信アンテナ部が載置されていない表面を被覆する構成であって、上記電波吸収積層フィルムが、受信アンテナ部の側面全面に接していてもいなくてもよく、受信アンテナ部の上面の少なくとも一部を被覆していてもしていなくてもよい構成が挙げられる。
上記高周波アンテナ素子としては、受信アンテナ部は、通常、配線により他の部品と接続される。
このため、高周波アンテナ素子において、高周波アンテナ素子の表面の任意の箇所に端子が設けられ、当該端子と、受信アンテナ部とを接続する配線が設けられる構成が挙げられる。
【実施例
【0103】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
【0104】
[実施例1の電波吸収積層フィルム及び比較例1~3の積層フィルムの作成]
(電波吸収層形成用ペーストの調製)
TMU50.9質量%中、下記イプシロン型酸化鉄35.1質量%、下記カーボンナノチューブ(CNT)2.2質量%、下記分散剤3.5質量%及び下記樹脂8.3質量%を加え、各成分を均一に溶解又は分散させて電波吸収層形成用ペーストを得た。
なお、電波吸収層形成用ペーストの固形分濃度は、49.1質量%であった。
【0105】
イプシロン型酸化鉄としてε-Ga0.45Fe1.55を用いた。イプシロン型酸化鉄の平均粒子径は20nm以上30nm以下であった。
CNTとしては、長径150nmの多層カーボンナノチューブ(商品名VGCF-H;昭和電工社製)を用いた。
分散剤としては、フェニルトリメトキシシランを用いた。
樹脂として、エチルセルロースを用いた。
【0106】
(電波吸収層及び基材層の積層体の形成)
PETフィルム(厚さ125μm)に上記電波吸収層形成用ペーストを用いてアプリケーターにより塗布した後90℃20分及び130℃20分乾燥を行い厚さ70μmの電波吸収層をPETフィルムに形成し、図2(a)に示した電波吸収層及び基材層の積層体(合計厚さ約200μm)を少なくとも6個得た。
上記積層体のうち1個を比較例1の積層フィルムとして後記の透過減衰量及び反射減衰量試験に供した。
図2(a)は比較例1の積層フィルムの断面図である。
図2(a)中、12は電波吸収層を示し、14は基材層(PETフィルム)を示す。
【0107】
また、上記積層体のうち2個を用いてPETフィルム同士をラミネートし、図2(c)に示した比較例3の積層フィルム(合計厚さ約400μm)を形成して後記の透過減衰量及び反射減衰量試験に供した。
図2(c)中、32は電波吸収層を示し、34は基材層(PETフィルム)を示す。
【0108】
(上記積層体と金属層とのラミネート)
上記積層体のうち1個を用いてPETフィルムに厚さ20μmのアルミニウム金属シートをラミネートし、図2(b)に示した比較例2の積層フィルム(合計厚さ約220μm)を形成して後記の透過減衰量及び反射減衰量試験に供した。
図2(b)中、22は電波吸収層を示し、23は中心層(アルミニウム金属層)を示し、24は基材層(PETフィルム)を示す。
【0109】
上記積層体のうち1個を用いてPETフィルムに厚さ20μmのアルミニウム金属シートをラミネート後、上記アルミニウム金属シートの他の面に、上記積層体のうち1個を用いてPETフィルムをラミネートして図1に示すような実施例1の電波吸収積層フィルム(合計厚さ約420μm)を形成して後記の透過減衰量及び反射減衰量試験に供した。
図1中、実施例1の電波吸収積層フィルム1は中心層3である金属層と、2つの基材層4であるPETフィルムと、2つの電波吸収層2とを有する。
【0110】
[透過減衰量及び反射減衰量試験]
上記作成した実施例1の電波吸収積層フィルム及び比較例1~3の積層フィルムについて、各々図1及び図2(a)~(c)に示した「上」及び「下」の方向から30~2000GHzの電波を入射させ、その透過減衰量及び反射減衰量をテラヘルツ分光装置(アドバンテスト社製)を用いて、透過及び反射スペクトルを測定した。周波数fにおける透過減衰量Abs(f)は、Abs(f)=-10Log(T(f)/100)で求められる。ここで、T(f)は周波数fにおける透過率(%)である。
周波数fにおける反射減衰量RL(f)は、RL(f)=-10Log(R(f)/100)で求められる。ここで、R(f)は反射率(%)である。
結果を図3~6に示す。
【0111】
図3は実施例1の電波吸収積層フィルムの30GHz以上200GHz以下の周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図3(a)に示したように、図1に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対する透過減衰量も30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、絶対値が10dB以上であり良好であることが分かる。これは電波吸収層による吸収効果及び金属層による遮断効果に基づくためと思われる。
図3(b)に示したように、図1に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対する反射減衰量についても30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、絶対値10dB以上のピークが存在することが分かる。これは、上記いずれの方向からの入射波に対しても金属層により反射された反射波が電波吸収層により吸収されることに基づくためと思われる。
【0112】
図4は比較例1の積層フィルムの30GHz以上200GHz以下の周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図4(a)に示したように、図2(a)に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対しても透過減衰がほとんど見られないことが分かる。これは1つの電波吸収層のみの吸収に基づくためと思われる。
図4(b)に示したように、図2(a)に示した「上」の方向からの入射波に対する反射減衰が若干見られたものの、「下」の方向からの入射波に対する反射減衰はほとんど見られないことが分かる。これは金属層による反射波がなく電波吸収層表面のみの吸収に基づくためと思われる。
【0113】
図5は比較例2の積層フィルムの30GHz以上200GHz以下の周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図5(a)に示したように、図2(b)に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対する透過減衰量も30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、絶対値が10dB以上であり良好であることが分かる。これは金属層の存在に基づくためと思われる。
図5(b)に示したように、図2(b)に示した「上」の方向からの入射波に対する反射減衰量については30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、絶対値10dB以上のピークが存在することが分かる。これは金属層により反射された反射波が電波吸収層により吸収されたことに基づくと思われる。
一方、図2(b)に示した「下」の方向からの入射波に対しては、金属層が全反射してしまい反射減衰が得られていないことが分かる。
【0114】
図6は、比較例3の積層フィルムの30GHz以上200GHz以下の周波帯域における透過減衰量及び反射減衰量を示す図である。
図6(a)に示したように、「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対しても透過減衰がほとんど見られない比較例1の積層フィルムに比べ、比較例3の積層フィルムは図2(c)に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対しても電波吸収層が2層になったことから透過減衰量が向上しているものの、金属層による透過波の遮断効果は見られず、透過減衰は不十分であることが分かる。
図6(b)に示したように、図2(c)に示した「上」の方向からの入射波に対する反射減衰量については30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、絶対値10dB以上のピークが存在することが分かるものの、「下」の方向からの入射波に対する反射減衰量についてはピークが小さく絶対値10dB以上のピークは見られないことが分かる。これは両方の電波吸収層表面による反射減衰が見られるものの、金属層による反射波ではないことにより安定性に欠けることに基づくと推察される。
【0115】
上記得られた透過減衰量及び反射減衰量試験の結果に基づき、下記の指標にしたがって実施例1の電波吸収積層フィルム及び比較例1~3の積層フィルムの評価した結果を下記表1に纏める。
(透過減衰量)
○:30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、透過減衰量の絶対値が10dB以上
×:30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、透過減衰量の絶対値が10dB未満
(反射減衰量)
○:30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、反射減衰量の絶対値が10dB以上のピークが存在する。
×:30GHz以上200GHz以下の周波帯域において、反射減衰量の絶対値が10dB以上のピークが存在しない。
【表1】
【0116】
表1に示した結果から明らかなように、実施例1の電波吸収積層フィルムは、図1に示した「上」及び「下」のいずれの方向からの入射波に対する透過減衰性及び反射減衰性についても優れており、合計厚さ420μm以下の極薄い設計であっても良好な電波吸収性能を示すことが分かる。
一方、比較例1及び3の積層フィルムは透過減衰性及び反射減衰性いずれにも劣ることが分かる。
また、比較例2の積層フィルムは、透過減衰性については良好であるものの、図2(b)に示した「下」の方向からの入射波に対しては、金属層が全反射してしまい反射減衰が得られていないことが分かる。
【符号の説明】
【0117】
1 電波吸収積層フィルム
2 電波吸収層
3 中心層
4 基材層
図1
図2
図3
図4
図5
図6