(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/05 20060101AFI20240403BHJP
A23L 5/00 20160101ALI20240403BHJP
A23L 33/18 20160101ALI20240403BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20240403BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240403BHJP
A61P 39/06 20060101ALI20240403BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240403BHJP
A61Q 19/08 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
A61K38/05
A23L5/00 M
A23L5/00 Z
A23L33/18
A61K8/64
A61P29/00
A61P39/06
A61P43/00 111
A61Q19/08
(21)【出願番号】P 2020552608
(86)(22)【出願日】2019-10-24
(86)【国際出願番号】 JP2019041787
(87)【国際公開番号】W WO2020085459
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-10-19
(32)【優先日】2018-10-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 浩二
(72)【発明者】
【氏名】居原 秀
(72)【発明者】
【氏名】垣花 優希
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-231902(JP,A)
【文献】特開2015-193582(JP,A)
【文献】国際公開第2017/104777(WO,A1)
【文献】IHARA, H. et al.,Detection and quantification of 2-oxo-histidine-containing dipeptides,Free Radical Biology and Medicine,2017年,Vol.112, Suppl.1,pp.26-27 ,Abstract Number:14
【文献】垣花優希ほか,酸化イミダゾールジペプチド産生の分子メカニズムの解明,第71回 日本酸化ストレス学会 第18回 日本NO学会 合同学術集会 プログラム・抄録集,2018年04月19日,p.183 [Pn-11]
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/00-38/58
A61P 29/00-29/02
A61P 39/00-39/06
A61P 43/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 19/00-19/10
A23L 5/00ー 5/49
A23L 33/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
【請求項2】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項1記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
【請求項3】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤であって、イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する
、抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
【請求項4】
イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項3 記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
【請求項5】
2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1 種又は2種以上である請求項3又は4記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
【請求項6】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
【請求項7】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項6記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
【請求項8】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物であって、イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する
、抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
【請求項9】
イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項8記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
【請求項10】
2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE 、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である請求項8又は9記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
【請求項11】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤製造のための使用。
【請求項12】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項11記載の使用。
【請求項13】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤製造のための使用であって、イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物
の使用である、抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤製造のための使用。
【請求項14】
イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項13記載の使用。
【請求項15】
2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE 、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、β カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である請求項13又は14記載の使用。
【請求項16】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の、抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品製造のための使用。
【請求項17】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項16記載の使用。
【請求項18】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の、抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品製造のための使用であって、イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物
の使用である、抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品製造のための使用。
【請求項19】
イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項18記載の使用。
【請求項20】
2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE 、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、β カロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である請求項18又は19記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、食品等の分野で有用な抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤に関する。
【背景技術】
【0002】
カルノシン(β-アラニル―L-ヒスチジン)、アンセリン(β-アラニル-L-1-メチルヒスチジン)、バレニン(β-アラニル-L-3-メチルヒスチジン)、ホモカルノシン(γ-アミノブチリル-L-ヒスチジン)及びホモアンセリン(γ-アミノブチリル-L-1-メチルヒスチジン)は、種々の脊椎動物組織、特に骨格筋及び中枢神経系に存在するジペプチドであり、いずれもイミダゾール環を有するヒスチジン残基を有することから、イミダゾール含有ジペプチド、イミダゾールジペプチドなどと呼ばれている。
【0003】
カルノシンは、塩基性の金属キレート作用及び抗酸化作用を有し、脳内では嗅覚組織に多く分布していることから嗅覚に必須のCu、Znイオンの運搬体として、あるいは運動に伴う乳酸生成としての生体平衡維持にとって重要な物質と考えられてきた。
さらに近年、カルノシンは、抗酸化作用と共に抗糖化作用や抗疲労作用などを有することが報告されている。特に、老化や生活習慣病、疲労を促進する活性酸素種(ROS)の消去作用、高血糖に伴う最終糖化産物(AGEs)の生成抑制作用、アルツハイマー型認知症や虚血状態での脳神経細胞死の防止効果などが注目されている(非特許文献1、2)
【0004】
さらに、最近、本発明者らは、2-オキソイミダゾ-ル含有ジペプチドが生体内に存在すること、酸化ストレスをかけると、酸化ストレスに依存して生体内で2-オキソイミダゾール含有ジペプチドが生成すること、カルノシンに、アスコルビン酸、銅イオン及び酸素を反応させると、2-オキソイミダゾール含有ジペプチドが生成すること(非特許文献3-7)を報告した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Eur.J.Pharmacol.,513(1-2),145-150(2005)
【文献】Stroke,38(11),3023-3031(2007)
【文献】第70回日本酸化ストレス学会学術集会(2017年6月21日)
【文献】2017年度生命科学系学会合同年次大会(2017年11月15日)
【文献】レドックス研究会2018(2018年4月24日)
【文献】第18回日本NO学会(2018年5月17日)
【文献】第16回レドックス・ライフイノベーションシンポジウム(2018年8月30日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、イミダゾール含有ジペプチドに代わる、より強力な抗酸化剤、抗糖化剤及び抗炎症剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで本発明者は、種々のペプチド類の抗酸化作用、抗糖化作用、抗炎症作用について検討してきたところ、抗酸化作用を示すイミダゾール含有ジペプチドの酸化体であることから、抗酸化作用は弱いであろうと予想された2-オキソイミダゾール含有ジペプチドが、イミダゾール含有ジペプチドに比べて極めて強力な抗酸化作用、抗糖化作用及び抗炎症作用を有することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、次の発明[1]~[35]を提供するものである。
[1]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
[2]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[1]記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
[3]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
[4]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項3記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
[5]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[3]又は[4]記載の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤。
[6]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩を有効成分とする抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
[7]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[6]記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
[8]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
[9]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項8記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
[10]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[8]は[9]記載の抗酸化食品組成物、抗糖化食品組成物又は抗炎症食品組成物。
[11]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤製造のための使用。
[12]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[11]記載の使用。
[13]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤製造のための使用。
[14]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[13]記載の使用。
[15]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[13]又は[14]載の使用。
[16]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の、抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品製造のための使用。
[17]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[16]記載の使用。
[18]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物の抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品製造のための使用。
[19]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである請求項18記載の使用。
[20]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[18]又は[19]記載の使用。
[21]抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤として使用するための2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩。
[22]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[21]記載の化合物。
[23]抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤として使用するためのイミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物。
[24]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[23]記載の組成物。
[25]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[23]又は[24]記載の組成物。
[26]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品としての使用。
[27]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[26]記載の使用。
[28]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物の抗酸化食品、抗糖化食品又は抗炎症食品としての使用。
[29]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[28]記載の使用。
[30]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[28]又は[29]記載の使用。
[31]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩の有効量を投与することを特徴とする抗酸化、抗糖化又は抗炎症方法。
[32]2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリン、2-オキソバレニン、2-オキソホモカルノシン、2-オキソホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[31]記載の方法。
[33]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩と2-オキソ化物質を含有する組成物の有効量を投与することを特徴とする抗酸化、抗糖化又は抗炎症方法。
[34]イミダゾール含有ジペプチド又はその塩が、カルノシン、アンセリン、バレニン、ホモカルノシン、ホモアンセリン及びこれらの塩から選ばれるジペプチドである[33]記載の方法。
[35]2-オキソ化物質が、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上である[33]又は[34]記載の方法。
【発明の効果】
【0009】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチドは、イミダゾール含有ジペプチドよりも格段に強力な抗酸化作用、抗糖化作用及び抗炎症作用を示し、抗酸化作用、抗糖化作用及び抗炎症作用にに基づく種々の疾患、例えば、糖尿病、糖尿病合併症、高血圧症、高脂血症、動脈硬化症、肝臓疾患、消化器系疾患、脳機能障害疾患、心血管系疾患、心機能低下、癌、アトピー性皮膚炎、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、多発性硬化症、関節リウマチ、運動ニューロン病による神経変性、皮膚老化、骨粗しょう症等の予防又は治療用の医薬、医薬部外品、化粧料、食品などとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】2-オキソイミダゾール含有プチドのDPPHラジカル捕捉活性を示す。データは、サンプル1mmоl当たりのトロロックス当量(TEAC)のμmolとして示す。
【
図2】DPPHとのインキュベーションによる2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの消費を示す。
【
図3】ロテノン誘発ニューロン細胞死に対する2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの保護効果を示す。
【
図4】2-オキソイミダゾール含有ジペプチドによる一酸化窒素産生抑制作用を示す。
【
図5】2-オキソイミダゾール含有ジペプチドによる抗ニトロ化作用を示す。
【
図6】2-オキソイミダゾール含有ジペプチドによるタンパク質糖化阻害作用を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤の有効成分は、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩である。
【0012】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチドとしては、2-オキソカルノシン(β-アラニル―L-2-オキソヒスチジン)、2-オキソアンセリン(β-アラニル-L-1-メチル-2-オキソヒスチジン)、2-オキソバレニン(β-アラニル-L-3-メチル-2-オキソヒスチジン)、2-オキソホモカルノシン(γ-アミノブチリル-L-2-オキソヒスチジン)及び2-オキソホモアンセリン(γ-アミノブチリル-L-1-メチル-2-オキソヒスチジン)が挙げられる。このうち、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリンが好ましい。
また、2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの塩としては、これらのジペプチドの塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩などの酸付加塩、及びナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩などの塩基性塩などが挙げられる。
これらの2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0013】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、例えば、前記非特許文献4、6に記載のように、イミダゾールジペプチドに、アスコルビン酸と銅イオンと酸素を反応させることにより、製造することができる。
より詳細には、イミダゾールジペプチドを含有する溶液に、アスコルビン酸及び銅イオンを添加し、酸素ガスを導入することにより、2-オキソイミダゾール含有ジペプチドが得られる。
反応溶媒としては、水、種々の緩衝液などが挙げられる。銅イオンは、塩化銅、硫酸銅などの水溶性銅化合物を用いて反応液中に銅イオンを供給すればよい。酸素の導入は、反応液中に酸素をバブリングすればよい。
反応は、アスコルビン酸及び銅イオンにより、イミダゾールジペプチドのイミダゾール環からの水素原子の引き抜き後に、分子状酸素によるイミダゾール環の2位の酸化が行われるものと考えられる。
反応液からの2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの精製は、イオン交換樹脂などを用いて行うことができる。
2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの塩への変換は、常法によって行うことができる。
【0014】
2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、後記実施例に示すように、イミダゾールジペプチドに比べて数千倍強力な抗酸化作用を有し、グルタチオンやアスコルビン酸などに比べても強力な抗酸化作用を有する。また、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、イミダゾールジペプチドよりも強力な抗糖化作用も有する。更に、2-オキソイミダゾールジペプチド又はその塩は、イミダゾールジペプチドに比べて強い抗炎症作用を有する。
より詳細には、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、イミダゾールジペプチドに比べて、極めて強力な、ラジカルスカベンジャー活性(DPPHラジカル消去活性)、ロテノン誘発ニューロン細胞死保護作用、抗ニトロ化作用(チロシンニトロ化抑制作用)を有する。また、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、イミダゾールジペプチドに比べて、強力なタンパク質糖化抑制作用を有する。更に、2-オキソイミダゾールジペプチド又はその塩は、イミダゾールジペプチドに比べて、強力な一酸化窒素産生抑制作用を有する。
従って、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩は、抗酸化剤、抗糖化剤及び抗炎症剤として有用である。すなわち、本発明の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤は、生体内のおける酸化ストレスによって生じる疾患、生体内における糖化によって生じる疾患及び生体内の炎症によって生じる疾患の予防及び/又は治療剤として有用である。ここで、酸化ストレス、糖化又は炎症によって生じる疾患としては、糖尿病、糖尿病合併症、高血圧症、高脂血症、動脈硬化症、肝臓疾患(慢性肝炎、肝硬変、NASHなど)、消化器系疾患(消化性潰瘍、炎症性腸疾患、クローン病など)、脳機能障害疾患(脳梗塞後遺症、脳血流障害、各種認知症など)、心血管系疾患、心機能低下、癌、パーキンソン病、多発性硬化症、関節リウマチ、アルツハンマー型認知症などが挙げられる。糖化によって生じる疾患としては、糖尿病、糖尿病合併症、動脈硬化症、高脂血症、アルツハイマー型認知証、皮膚老化(シミ、しわなど)、高血圧症、骨粗しょう症などが挙げられる。
【0015】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤抗炎症剤の有効成分は、2-オキソイミダゾール含有ジペプチド又はその塩であるが、生体内で2-オキソイミダゾール含有ジペプチドを生成することができる成分の組み合わせでもよい。そのような成分の組み合わせとしては、イミダゾールジペプチドと2-オキソ化物質の組み合わせが挙げられる。イミダゾールジペプチドと2-オキソ化物質とを併用すれば、投与されたイミダゾールジペプチドは、生体内で、2-オキソ化物質と、血液中の銅イオンと酸素の作用により、2-オキソイミダゾール含有ジペプチドが生成する。
2-オキソ化物質としては、アスコルビン酸、ビタミンE、グルタチオン、カテキン、N-アセチルシステイン、ブチルヒドロキシアニソール、クエルセチン、ビリルビン、βカロテン、リコペン、ルテイン、アスタキサンチン、β-クリプトキサンチン、アントシアニン、タンニン、ルチン、イソフラボン、ノビレチン、ヘスぺリジン、クロロゲン酸、セサミン、クルクミン、及びレスベラトロールから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。
【0016】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤の形態としては、通常、経口的に摂取又は投与される形態であればよく、医薬品、医薬部外品、食品組成物(機能性食品、特定保健用食品などを含む)、化粧品などが含まれる。これらの形態のより具体的な形態としては、散剤、細粒剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、液状製剤(エリキシル剤、リモナーデ剤、シロップ剤、乳剤、懸濁剤、溶液剤、ドリンク剤など)、ゲル状剤、治療用食品、飲料、菓子、食品添加物などが挙げられる。
【0017】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤には、医薬品、医薬部外品、食品、化粧品として使用される他の添加剤を配合することができる。そのような添加剤としては、賦形剤、滑沢剤、結合剤、酸化防止剤、香料、調味料、甘味料、着色料、増粘安定剤、発色剤、漂白剤、防カビ剤、防腐剤、ガムベース、酵素、光沢剤、酸味料、乳化剤、等張化剤、緩衝剤、溶解補助剤、安定化剤などが挙げられる。また、アミノ酸類、不飽和脂肪酸、ビタミン類、微量金属類、グルコサミン、コンドロイチン硫酸などの機能性成分を配合してもよい。
【0018】
本発明の抗酸化剤、抗糖化剤又は抗炎症剤における有効成分の摂取量又は投与量は、摂取するヒトの年齢、体重、症状などによって異なるが、例えば、1mg/日以上10g/日以下が好ましく、5mg/日以上5g/日以下がより好ましく、10mg/日以上3g/日以下がさらに好ましい。この一日あたりの摂取量又は投与量は、一回で摂取又は投与してもよいし、3回程度に分けて摂取又は投与してもよい。
また、一投与単位又は一摂取単位当たりの有効成分の含有量は、2質量%以上100質量%以下が好ましく、5質量%以上90質量%以下がより好ましく、5質量%以上80質量%以下がさらに好ましい。ここで、一投与単位又は一摂取単位とは、例えば錠剤であれば、一錠の意味である。
イミダゾールジペプチドと酸化物質を併用する場合における有効成分の摂取量、投与量、含有量は、イミダゾールジペプチドの摂取量、投与量、含有量である。
【実施例】
【0019】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0020】
参考例1(2-オキソイミダゾール含有ジペプチドの製造)
イミダゾールジペプチドのイミダゾール環の酸化は、アスコルビン酸銅イオン系により行った。10mMカルノシン又はホモカルノシン、200mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.2)、200mMアスコルビン酸、および2mM CuSO4を含む反応混合物(5mL)を室温でインキュベートした。酸素ガスを混合物中に30分間バブリングした。
酸化されたイミダゾールジペプチドを、以下の条件下で精製した。Scherzo SS-C18カラム(6.0×100mm)を用い、1.5mL/分の流速、溶媒A(0.1%ギ酸を含有する水)および溶媒B(50%アセトニトリルおよび100mMギ酸アンモニウムを含有する水)(0分で0%B;20分で90%B)の直線勾配で溶出し、溶出を250nmでの吸光度によってモニターした。生成物の化学構造を、LC-ESI-MS/MSおよびNMR分析によって特定した。
【0021】
2‐オキソカルノシン:
1 NMR(D2O): δH2.54(dt, J = 3.5Hz,2H),2.66(dd, J = 8.2Hz,1H),2.80(dd, J = 5.5Hz,1H),3.06(t,J=6.8Hz,2H),4.41(dd,J=4.7Hz,1H),6.12(s,1H),δC31.34,35.83,39.70,56.61 84 (m, 1H), 3.05 (s, 3H), 4.26 (dd, J = 4.7 Hz, 1H), 6.12 (s, 1H); δC 29.10, 31.92, 175.47, 179.10.
2‐オキソアンセリン:1H NMR (D2O): δH 2.26 (dt, J = 3.1 Hz, 2H), 2.60 (dd, J = 10 Hz, 1H), 2.70 (t, J = 6.5 Hz, 2H), 2.84 (m, 1H), 3.05 (s, 3H), 4.26 (dd, J = 4.7 Hz, 1H), 6.12 (s, 1H); δC 29.10, 31.92, 37.67, 38.87, 55.07, 117.95, 129.67, 155.86, 175.47, 179.10.
2-オキソホモカルノシン:
1H NMR (D2O): δH 1.72-1.75 (m, 2H), 2.21 (dt, J = 3.5 Hz, 2H), 2.53 (dd, J = 8.2 Hz, 1H), 2.76-2.81 (m, 3H), 4.23 (dd, J = 4.7 Hz, 1H), 6.08 (S, 1H); δC 24.41, 29.46, 33.86, 40.21, 55.46, 116.34, 129.51, 164.25, 175.61, 178.91.
【0022】
実施例1(抗酸化活性の測定)
(1)方法
(CARNSを過剰発現するSH-SY5Y細胞株の調製)
CARNS遺伝子(NP_00159694)を、プライマーを用いてヒト脳cDNAから増幅した。増幅したCARNS遺伝子を、指向性TOPOクローニングシステム(Gateway Cloning Technology, Thermo Fischer Scientific)を用いてpENTR/D-TOPOベクターにクローニングした。CARNS遺伝子を、LR反応(Thermo Fischer Scientific)によってcDNA3.2/nFLAG-DEST発現プラスミドにサブクローニングした。SH-SY5Y細胞を、以下の条件で培養した。10% FBSを添加したDMEM (和光純薬工業、大阪、日本)中37℃。
ポリエチレンイミンMax (Polysciences, Inc., PA, USA)を用いて
CARNS/pcDNA3.2/nFLAG-DESTで細胞をトランスフェクトした。その後、細胞を400μg/mlのG418を含む培地中で培養した。トランスフェクションの4週間後、生存クローンを単離し、大量に増殖させた。FLAGタグ化CARNSの発現を、抗FLAG抗体(Sigma-Aldrich, MO, USA)を用いたウエスタンブロットによって分析した。CARNSを恒常的に過剰発現する安定な細胞株を選択し、400μg/mlのG418を含む培地中で維持した。
【0023】
(細胞処理)
CARNSを安定に発現するSH―SY5Y細胞および対照細胞を96ウェルプレートに2.0×104細胞/ウェルの密度で播種した。また、LC-ESI-MS/MS分析用に、100mm皿に4.0×106細胞/皿を播種した。カルノシンの抗酸化能を調べるために、細胞を種々の濃度のH2O2またはロテノンで24時間処理した。細胞生存率は、MTT法を用いて測定した。
2-オキソカルノシンの形成を分析するために、細胞を150μMのH2O2または2.5μMのロテノンで様々な時間処理した。2-オキソカルノシンの形成に対するROSの効果を調べるために、細胞を、200U/mLのPEGcatalaseを用いて、または用いずに1時間前処理した。PBSで5回洗った後、細胞を150μMのH2O2または2.5μMのロテノンで2時間処理した。細胞をPBSで2回洗浄し、安定な同位体標識標準を含有する水中80%アセトニトリル1mL中の細胞溶解物を、スクレーパーを使用することによって回収した。18,800g、4℃で20分間遠心分離した後、上清を回収し、乾燥し、100mM HClに溶解し、Oasis MCXカートリッジ(Waters)に供した。試料を溶出し、LC-ESI-MS/MSに供した。
【0024】
(TBARS)
TBARSの量は、Masakiらによって報告された方法(Arch Biochem Biophys 269,390-399)に従って決定した。脳(約10mg)を、1% Triton X-100を含む0.4mlのPBS中でホモジナイズした。18,800g、4℃で20分間遠心分離した後、50μlの上清に1% Triton X-100を含むPBS0.35mlを加え、0.8mlの0.375% 2-チオバルビツール酸、15%トリクロロ酢酸、2%エタノール、250mM HCl、および0.4%ブチルヒドロキシトルエンと混合し、次いで15分間煮沸した。冷却後、サンプルを遠心分離し(18,800g、5分)、蛍光強度を蛍光検出器で分析した(励起波長515nm、蛍光波長553nm)。マロンジアルデヒドビス(ジメチルアセタール)を標準として使用した。
【0025】
(抗酸化活性の測定)
DPPHラジカルに対する2-オキソカルノシンの捕捉効果を測定した。簡潔には、μM範囲のカルノシン、2-オキソカルノシン、アンセリン、2-オキソアンセリン、グルタチオン、またはアスコルビン酸塩を含有する反応混合物を、40%エタノールを含有する12mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 7.4)中の100μM DPPH (Alfa Aesar, MA)と共に、室温で30分間インキュベートした。540nmでの吸光度を、Model 680プレートリーダー(Bio-Rad, CA, USA)によって測定した。Trolox (MERCK, Darmstadt, Germany)を標準として使用した。ラジカルスカベンジング活性を、試料のミリモル当たりのトロロックス当量μmolで評価した。TEACは、DPPHラジカル溶液に対する試料溶液のスカベンジングパーセンテージに従って式により計算した。2-オキソ-ルノシンの消費および生成物の形成をLC-ESI-S/MSによってモニターした。
【0026】
(細胞毒性)
SH-SY5Y細胞を、MTTアッセイのために96ウェルプレートに1.0×104細胞/ウェルの密度でプレーティングした。酸化ストレスに対する2-オキソカルノシンの細胞保護効果を試験するために、細胞を50μMカルノシンまたは2-オキソカルノシンで3時間前処理し、次いで細胞を2μMロテノンで24時間処理した。細胞生存率は、MTT法を用いて測定した。
【0027】
(統計処理)
全ての実験を少なくとも3回行った。個々の実験の値を平均±SDとして示す。統計的有意性は、GraphPad Prismソフトウェアを用いて、One-way ANOVA(または1元配置分散分析)、Two-way ANOVA(または2元配置分散分析)、またはスチューデントのt検定によって決定した。P<0.05を有意とみなした。
【0028】
(2)結果
DPPHラジカル補捉活性を
図1に示す。また、DPPHとのインキュベーションによる2-オキソカルノシンの消費を
図2に示す。
カルノシンは無視できる程度の抗酸化活性を示した(TEAC値=0.0088μmol/mmol)。しかし、2-オキソカルノシンのTEACは、カルノシンよりもはるかに大きかった(35,000倍)(
図1)。さらに、2-オキソカルノシンは、グルタチオンおよびアスコルビン酸塩などの内因性抗酸化剤よりも強いフリーラジカル捕捉活性を示した。安定なラジカル、1,1-ジフェニル2-ピクリルヒドラジル(DPPH)とのインキュベーションは、2-オキソカルノシンの消費を生じた(
図2)。
ロテノン誘導ニューロン細胞死に対する保護効果を
図3に示す。
2-オキソカルノシンは、カルノシンに比べて強い、ロテノン誘導ニューロン細胞死に対する保護効果を示した。
【0029】
実施例2
マウスマクロファージ様細胞RAW264.7を5×10
4cells/wellで96wellに播種し、通夜培養した。カルノシン又は2-オキソカルノシンを添加し、1時間インキュベートした。大腸菌細胞壁リポ多糖(LPS)100ng/mLを添加し、24時間培養した。産生される一酸化窒素に由来する培地中の亜硝酸濃度を測定した。
その結果、
図4に示すように、マクロファージのLPS処理により生じる一酸化窒素産生量が、2-オキソカルノシンによって有意に減少した。その効果は、カルノシンに比べて有意に強かった。
【0030】
実施例3
カルノシン、2-オキソカルノシン、アンセリン、2-オキソアンセリン(終濃度2.5μM)とチロシン(終濃度10μM)を混合した。活性窒素酸化物の一種であるパーオキシナイトライト(終濃度10μM)を添加し、5分間インキュベートした。LC-MSMSで、チロシンのニトロ化物であるニトロチロシンの生成量を定量した。
その結果、
図5に示すように、2-オキソカルノシン、2-オキソアンセリンは、強力な、抗ニトロ化効果を示した。また、この抗ニトロ化効果は、カルノシン、アンセリンでは認められなかった。
【0031】
実施例4
BSA 1mg/mL、デヒドロアスコルビン酸(DHA)5mM、グリコールアルデヒド(GA)1mM、及びカルノシン又は2-オキソカルノシン 10μMを含むリン酸緩衝液を、37℃で、4日間インキュベートした。この反応液に対して、GA-KLH免疫マウスより作製した抗GA修飾タンパク質IgG抗体(GAK2)との交差反応性をELISAで確認した。
その結果、
図6に示すように、2-オキソカルノシンは、カルノシンよりも強力なタンパク質糖化阻害効果を示した。