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特許7464952ポリマーPTC組成物、層状ポリマーPTC要素、ポリマーPTC素子、PTCデバイス、電気装置及び2次電池セル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-02
(45)【発行日】2024-04-10
(54)【発明の名称】ポリマーPTC組成物、層状ポリマーPTC要素、ポリマーPTC素子、PTCデバイス、電気装置及び2次電池セル
(51)【国際特許分類】
   H01C 7/02 20060101AFI20240403BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240403BHJP
   C08K 3/01 20180101ALI20240403BHJP
   H01B 1/20 20060101ALI20240403BHJP
【FI】
H01C7/02
C08L29/04 A
C08K3/01
H01B1/20 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019039688
(22)【出願日】2019-03-05
(65)【公開番号】P2019212893
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2018078579
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀邊 英夫
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 絵理子
(72)【発明者】
【氏名】西山 聖
(72)【発明者】
【氏名】小川 照彦
(72)【発明者】
【氏名】豊栖 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】青山 眞人
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開平07-037703(JP,A)
【文献】特開昭60-257091(JP,A)
【文献】特表2018-525472(JP,A)
【文献】特表2010-517206(JP,A)
【文献】特開平09-105679(JP,A)
【文献】前田裕子、鈴木雅雄、松扉 初、朝比奈研一,高アセタール化ポリビニルブチラール: 高アセタール化ポリビニルブチラールの概念と合成,高分子論文集,日本,1993年01月,Vol.50, No.1,pp.49-56
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/02
C08L 29/04
C08K 3/01
H01B 1/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)及び導電性フィラー(b)を含み、前記導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する、ポリマーPTC組成物。
【化1】
(式(1)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
【請求項2】
溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)及び1種の導電性フィラー(b)を含み、前記導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂である、ポリマーPTC組成物。
【請求項3】
溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)及び導電性フィラー(b)を含み、前記導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下であり、
前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)以外の樹脂(c)をさらに含み、
前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂であり、
前記樹脂(c)の融点が、80℃以上かつ前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)の融点以下である、ポリマーPTC組成物。
【請求項4】
前記導電性フィラー(b)が、無定形炭素、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物及び金属ケイ化物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は3に記載のポリマーPTC組成物。
【請求項5】
前記導電性フィラー(b)が、無定形炭素、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物及び金属ケイ化物からなる群から選択される、請求項に記載のポリマーPTC組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載のポリマーPTC組成物を含む、層状ポリマーPTC要素。
【請求項7】
請求項に記載の層状ポリマーPTC要素と、該ポリマーPTC要素の少なくとも一方の表面に設けられた金属電極とを有する、ポリマーPTC素子。
【請求項8】
請求項に記載のポリマーPTC素子と、該ポリマーPTC素子の少なくとも一つの金属電極に電気的に接続されたリードを有する、PTCデバイス。
【請求項9】
請求項に記載のポリマーPTC素子又は請求項に記載のPTCデバイスを有する、電気装置。
【請求項10】
請求項に記載のポリマーPTC素子又は請求項に記載のPTCデバイスを有する、2次電池セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーPTC(Positive Temperature Coefficient)組成物に関するものである。
また、本発明は、層状ポリマーPTC要素、ポリマーPTC素子、PTCデバイス、電気装置及び2次電池セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリマー材料及び導電性フィラーを含むポリマーPTC組成物からなるポリマーPTC要素が、2枚の金属箔電極の間に挟まれているポリマーPTC素子は広く知られ、種々の分野で使用されている。
【0003】
ポリマーPTC素子は、所定温度以上になると、その電気抵抗値が急激に増加し、電流の流れを実質的に遮断できるという特性を有する。
【0004】
また、ポリマーPTC素子は、周囲の過熱状態によって生じる熱、または過電流によって生じる温度上昇により、その電気抵抗値が増加し電流の流れを遮断できる。ポリマーPTC素子は、この性質を利用して、電気回路を保護する目的で使用されている。
【0005】
近年、電子・電気機器の性能は向上し、それに伴ってポリマーPTC素子のような保護素子については、電流遮断が鋭敏に起きるものが要望されている。
【0006】
ポリマーPTC素子の電流遮断を鋭敏に起こさせるために、ポリマーPTC素子中のポリマーPTC組成物の室温電気抵抗率と高温電気抵抗率の比を大きくする試みがされている。また、通常時の電流を十分に流すには、ポリマーPTC素子中のポリマーPTC組成物の室温電気抵抗率を低くする必要がある。
【0007】
そのようなポリマーPTC素子として例えば、特許文献1では、ポリマー材料として高密度ポリエチレン(HDPE)、導電性フィラーとしてニッケルフィラーを用いて作製されたPTC素子が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2007/052790号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に開示されているPTC素子では、ポリマーPTC組成物の室温電気抵抗率を低くして通常時の電流を十分に流すために、導電性フィラーを多く用いている。
【0010】
導電性フィラーには、その表面に微量のカルボキシル基や水酸基等の親水性官能基が存在することが知られている。それらの官能基は、導電性フィラーとポリマー材料との混合時、それらの親和性に関与するので、導電性フィラーは、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率低下に寄与するものと考えられる。しかしながら、導電性フィラーを多く用いると、PTC素子が高価になるとともにポリマーPTC素子中のポリマーPTC組成物の材料が脆くなり破壊しやすい。
【0011】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、少ない導電性フィラー量でも室温電気抵抗率の低いポリマーPTC組成物を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は下記<1>~<10>に関するものである。
<1>溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)及び導電性フィラー(b)を含み、前記導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下である、ポリマーPTC組成物。
<2>前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)が、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂である、<1>に記載のポリマーPTC組成物。
<3>前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)が、下記一般式(1)で表される構造単位を有する、<1>又は<2>に記載のポリマーPTC組成物。
【0014】
【化1】
【0015】
(式(1)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。)
<4>前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)以外の樹脂(c)をさらに含み、前記樹脂(c)の融点が80℃以上、かつ前記ポリビニルアルコール系樹脂(a)の融点以下である、<1>~<3>のいずれか1つに記載のポリマーPTC組成物。
<5>前記導電性フィラー(b)が、無定形炭素、金属、金属酸化物、金属炭化物、金属ホウ化物、金属窒化物及び金属ケイ化物からなる群から選択される少なくとも1種である、<1>~<4>のいずれか1つに記載のポリマーPTC組成物。
<6><1>~<5>のいずれか1つに記載のポリマーPTC組成物を含む、層状ポリマーPTC要素。
<7><6>に記載の層状ポリマーPTC要素と、該ポリマーPTC要素の少なくとも一方の表面に設けられた金属電極とを有する、ポリマーPTC素子。
<8><7>に記載のポリマーPTC素子と、該ポリマーPTC素子の少なくとも一つの金属電極に電気的に接続されたリードを有する、PTCデバイス。
<9><7>に記載のポリマーPTC素子又は<8>に記載のPTCデバイスを有する、電気装置。
<10><7>に記載のポリマーPTC素子又は<8>に記載のPTCデバイスを有する、2次電池セル。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、少ない導電性フィラー量でも室温電気抵抗率の低いポリマーPTC組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳述するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものであり、本発明はこれらの内容に特定されるものではない。
なお、本明細書中、「ポリビニルアルコール系樹脂」を「PVA系樹脂」と称することがある。
【0018】
[ポリマーPTC組成物]
本発明のポリマーPTC組成物は、溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)(以下、樹脂(a)と称することがある。)及び導電性フィラー(b)を含むポリマーPTC組成物であって、上記導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下である。
【0019】
<溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂(a)>
樹脂(a)は、溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂である。
本明細書において、「溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂」とは、熱分解温度が融点より十分に高いポリビニルアルコール系樹脂を意味し、とりわけ熱分解温度が融点より10℃以上高いポリビニルアルコール系樹脂を意味する。
【0020】
ここで熱分解温度は、JIS K7120(プラスチックの熱重量測定)に準拠して測定された開始温度T1に相当し、融点とはJIS K7121(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠して測定された融解ピーク温度に相当し、10℃/分の昇温速度で測定されたものである。
【0021】
樹脂(a)を用いることにより室温電気抵抗率の低いポリマーPTC組成物を得ることができるメカニズムについては明らかではないが、本発明のポリマーPTC組成物が樹脂(a)を含むと、本発明のポリマーPTC組成物のポリマー材料側にも水酸基が存在することとなる。そうすると、該ポリマー材料と微量の親水性官能基を表面に有する導電性フィラーとの親和性が増し、本発明のポリマーPTC組成物を含むポリマーPTC要素内の導電性フィラーの存在状態に影響を与えると考えられる。この結果、少ない導電性フィラー量でも室温での電気抵抗率の低いポリマーPTC組成物が得られるものと推定される。
【0022】
樹脂(a)としては、例えば、エチレン-ビニルアルコール系共重合体樹脂(以下、「EVOH」と称することがある。)等を挙げることができる。
【0023】
EVOHは、通常、エチレンとビニルエステル系モノマーを共重合させた後にケン化させることにより得られる樹脂であり、非水溶性の熱可塑性樹脂である。重合法も公知の任意の重合法、例えば、溶液重合、懸濁重合、エマルジョン重合を用いることができるが、一般的にはメタノールを溶媒とする溶液重合が用いられる。得られたエチレン-ビニルエステル系共重合体のケン化も公知の方法で行い得る。
【0024】
すなわち、EVOHは、エチレン構造単位とビニルアルコール構造単位を主とし、場合によってはケン化されずに残存した若干量のビニルエステル構造単位を含むものである。
【0025】
上記ビニルエステル系モノマーとしては、市場からの入手のしやすさや製造時の不純物の処理効率がよい点から、代表的には酢酸ビニルが用いられる。この他、例えば、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、バーサチック酸ビニル等の脂肪族ビニルエステル、安息香酸ビニル等の芳香族ビニルエステル等が挙げられる。上記ビニルエステル系モノマーは、通常炭素数3~20、好ましくは炭素数4~10、特に好ましくは炭素数4~7の脂肪族ビニルエステルである。これらは通常単独で用いるが、必要に応じて複数種を同時に用いてもよい。
【0026】
EVOHにおけるエチレン構造単位の含有量は、ISO 14663に基づいて測定した値であり、好ましくは15~55モル%、より好ましくは20~50モル%、さらに好ましくは25~48モル%である。かかる含有量が少なすぎると、ポリマーPTC組成物が脆くなって得られるポリマーPTCデバイスも脆くなる傾向があり、逆に多すぎると、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率が高くなる傾向がある。
【0027】
EVOHにおけるビニルエステル成分のケン化度は、JIS K6726(ただし、EVOHを水/メタノール溶媒に均一に溶解した溶液を用いる。)に基づいて測定した値であり、好ましくは80~100モル%、より好ましくは88~100モル%、さらに好ましくは98~100モル%である。かかるケン化度が低すぎる場合には、ポリマーPTC組成物の熱安定性、耐湿性等が低下する傾向がある。
【0028】
また、EVOHには、本発明の効果を阻害しない範囲(例えば10モル%以下)で、以下に示すコモノマーに由来する構造単位が、さらに含まれていてもよい。
【0029】
当該コモノマーは、例えば、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン類、2-プロペン-1-オール、3-ブテン-1-オール、4-ペンテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オール、3,4-ジヒドロキシ-1-ブテン、5-ヘキセン-1,2-ジオール、2-メチレンプロパン-1,3-ジオール等のヒドロキシ基含有オレフィン類、そのエステル化物である、3,4-ジアセトキシ-1-ブテン、2,3-ジアセトキシ-1-アリルオキシプロパン、2-アセトキシ-1-アリルオキシ-3-ヒドロキシプロパン、3-アセトキシ-1-アリルオキシ-2-ヒドロキシプロパン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジプロピオニルオキシ-2-メチレンプロパン、1,3-ジブチロニルオキシ-2-メチレンプロパン等のヒドロキシメチルビニリデンジアセテート類、グリセリンモノアリルエーテル、グリセリンモノビニルエーテル、グリセリンモノイソプロペニルエーテル等のグリセリンモノ不飽和アルキルエーテル類、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、(無水)フタル酸、(無水)マレイン酸、(無水)イタコン酸等の不飽和酸類あるいはその塩、炭素数1~18のモノまたはジアルキルエステル類、アクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、2-アクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のアクリルアミド類、メタクリルアミド、炭素数1~18のN-アルキルメタクリルアミド、N,N-ジメチルメタクリルアミド、2-メタクリルアミドプロパンスルホン酸あるいはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンあるいはその酸塩あるいはその4級塩等のメタクリルアミド類、N-ビニルピロリドン、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド等のN-ビニルアミド類、アクリルニトリル、メタクリルニトリル等のシアン化ビニル類、炭素数1~18のアルキルビニルエーテル、ヒドロキシアルキルビニルエーテル、アルコキシアルキルビニルエーテル等のビニルエーテル類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、臭化ビニル等のハロゲン化ビニル化合物類、トリメトキシビニルシラン等のビニルシラン類、酢酸アリル、塩化アリル等のハロゲン化アリル化合物類、アリルアルコール、ジメトキシアリルアルコール等のアリルアルコール類、トリメチル-(3-アクリルアミド-3-ジメチルプロピル)-アンモニウムクロリド、アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等のコモノマーが挙げられる。
【0030】
さらに、樹脂(a)として、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の「後変性」されたEVOHを用いることもできる。
【0031】
EVOH等の樹脂(a)の中でも、下記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位を有するPVA系樹脂(以下、「1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂」と称することがある。)が好ましい。
【0032】
下記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位は、ポリマーPTC組成物に含まれるポリビニルアルコール系樹脂の結晶化を乱すことによって、ポリマーPTC組成物の結晶化を乱すことが知られているが、導電性フィラーは結晶化部分ではない部分に存在すると考えられる。よって、ポリマーPTC組成物の結晶化を乱す該1,2-ジオール構造単位によって、導電性フィラーをポリマーPTC組成物中により広く分布させることが可能となるので、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率を低くすることができる。
【0033】
なお、導電性フィラーが存在可能な結晶化部分ではない部分の領域が広すぎても狭すぎても、PTC特性(所定温度以上になると、その電気抵抗値が急激に増加し、電流の流れを実質的に遮断できるという特性)向上効果は得られにくい(ダブルパーコレーション理論)。
【0034】
また、該1,2-ジオール構造単位が、樹脂(a)の主鎖に存在する1,3-ジオール構造よりも導電性フィラーと相互作用が強いことも、導電性フィラーをポリマーPTC組成物中により広く分布させることに有利に作用する可能性がある。
【0035】
【化2】
【0036】
上記式(1)中、R~Rはそれぞれ独立して水素原子又は有機基を表し、Xは単結合又は結合鎖を示す。
【0037】
~Rの有機基としては、特に限定されないが、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等の炭素数1~4のアルキル基が好ましく、必要に応じてハロゲン基、水酸基、エステル基、カルボン酸基、スルホン酸基等の置換基を有する有機基であってもよい。
【0038】
~Rは、それぞれ同一であっても異なっていてもよいが、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率を低くする観点から、全て同一であることが好ましく、全て水素原子であることがより好ましい。
【0039】
Xの結合鎖としては、特に限定されず、例えば、炭素数1~4の直鎖状又は分岐のアルキレン基、炭素数1~4の直鎖状又は分岐のアルケニレン基、炭素数1~4の直鎖状又は分岐のアルキニレン基、フェニレン基、ナフチレン基等の炭化水素(これらの炭化水素は、フッ素、塩素、臭素等のハロゲン等で置換されていてもよい。)の他、-O-、-(CHO)-、-(OCH-、-(CHO)CH-、-CO-、-COCO-、-CO(CHCO-、-CO(C)CO-、-S-、-CS-、-SO-、-SO-、-NR-、-CONR-、-NRCO-、-CSNR-、-NRCS-、-NRNR-、-HPO-、-Si(OR)-、-OSi(OR)-、-OSi(OR)O-、-Ti(OR)-、-OTi(OR)-、-OTi(OR)O-、-Al(OR)-、-OAl(OR)-、-OAl(OR)O-等が挙げられる。Rはそれぞれ独立して水素原子又は任意の置換基であり、水素原子又はアルキル基(特に炭素数1~4のアルキル基)が好ましい。また、mは自然数であり、好ましくは1~10、特に好ましくは1~5である。
【0040】
Xは、熱安定性の点で、単結合が好ましく、製造時の粘度安定性や耐熱性等の点で、炭素数1~4のアルキレン基、特にメチレン基、あるいは-CHOCH-が好ましい。
【0041】
上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位における特に好ましい構造は、R~Rがすべて水素原子であり、Xが単結合で表される構造である。
【0042】
また、1,2-ジオール構造単位含有PVA系樹脂は、公知の製造方法により製造することができる。例えば、特開2002-284818号公報、特開2004-285143号公報、特開2006-95825号公報に記載されている方法により製造することができる。すなわち、(i)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(2)で示される化合物との共重合体を鹸化する方法、(ii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(3)で示されるビニルエチレンカーボネートとの共重合体を鹸化及び脱炭酸する方法、(iii)ビニルエステル系モノマーと下記一般式(4)で示される2,2-ジアルキル-4-ビニル-1,3-ジオキソランとの共重合体を鹸化及び脱ケタール化する方法等により、製造することができる。
【0043】
【化3】
【0044】
上記一般式(2)中、R~R及びXは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R及びRは、それぞれ独立して、水素原子又はR-CO-(式中、Rは、炭素数1~4のアルキル基である。)である。
【0045】
【化4】
【0046】
上記一般式(3)中、R~R及びXは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。
【0047】
【化5】
【0048】
上記一般式(4)中、R~R及びXは、いずれも一般式(1)の場合と同様である。また、R10及びR11は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~4のアルキル基である。
【0049】
上記方法のうち、共重合反応性及び工業的な取扱いにおいて優れるという点で、(i)の方法が好ましく、特に、上記一般式(2)で示される化合物は、R~Rが水素原子、Xが単結合、R及びRがR-CO-であり、Rが炭素数1~4のアルキル基である3,4-ジアシロキシ-1-ブテンが好ましく、その中でも特にRがメチル基である3,4-ジアセトキシ-1-ブテンが好ましく用いられる。
【0050】
樹脂(a)が上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位を含む場合、樹脂(a)中の該1,2-ジオール構造単位の含有率は、結晶化を乱す度合いを制御する観点と製造の容易さの観点から、好ましくは0.5~15モル%であり、より好ましくは1~10モル%、さらに好ましくは4~8モル%である。1,2-ジオール構造単位の含有率が低すぎると、ポリマーPTC組成物における導電性フィラーの分散が行いにくい傾向にあり、1,2-ジオール構造単位の含有率が高すぎると、ポリマーPTC組成物中の導電性フィラーの分散がかえって非効率になって電気抵抗率が高くなる傾向がある。
【0051】
なお、樹脂(a)中の上記一般式(1)で表される1,2-ジオール構造単位の含有率は、ケン化度100モル%のPVA系樹脂のH-NMRスペクトル(溶媒:DMSO-d、内部標準:テトラメチルシラン)から求めることができる。具体的には1,2-ジオール構造単位中の水酸基プロトン、メチンプロトン、およびメチレンプロトン、主鎖のメチレンプロトン、主鎖に連結する水酸基のプロトンなどに由来するピーク面積から算出することができる。
【0052】
樹脂(a)の融点は、好ましくは80~220℃、より好ましくは120~200℃である。
樹脂(a)の融点が80℃未満であると、ポリマーPTC素子が使用中に意図せず高温となったとき、樹脂(a)が溶融してしまいポリマーPTC素子の動作に悪影響を与える可能性がある。また、樹脂(a)の融点が220℃を超えると、ポリマーPTC組成物の作製中に樹脂(a)が劣化し、ポリマーPTC素子の動作に悪影響を与える可能性がある。
【0053】
樹脂(a)のMFR(Melt Flow Rate、JIS K7210 A法により測定)は、好ましくは2~60g/10分(210℃、21.168N)、より好ましくは2.5~50g/10分(210℃、21.168N)、さらに好ましくは3~40g/10分(210℃、21.168N)である。
【0054】
樹脂(a)のMFRが2g/10分未満であると、ポリマーPTC組成物の作製時、導電性フィラー(b)を樹脂(a)と適切に混合するのに著しく長時間を要するので好ましくない。また、樹脂(a)のMFRが60g/10分を超えると、ポリマーPTC素子を成形するのが難しくなるので好ましくない。
【0055】
本発明のポリマーPTC組成物における、樹脂(a)の含有割合は、25~60質量%が好ましく、30~50質量%がより好ましい。
樹脂(a)の含有割合が多すぎると、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率が高くなる傾向があり、樹脂(a)の含有割合が少なすぎると、ポリマーPTC組成物が脆くなって得られるポリマーPTCデバイスも脆くなる傾向にある。
【0056】
<導電性フィラー(b)>
ポリマーPTC組成物は、導電性フィラー(b)を含む。導電性フィラー(b)によって、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率を低くすることができる。
【0057】
導電性フィラー(b)としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、カーボンファイバー、カーボンナノチューブ、ガラス状炭素、炭素ビーズ等の無定形炭素;金、銀、銅、ニッケル、アルミニウム、タングステン及びそれらの合金等の金属;インジウム-錫酸化物、リチウム-マンガン複合酸化物、五酸化バナジウム、酸化錫、酸化亜鉛等の金属酸化物;炭化タングステン、炭化チタン、炭化タンタル及びそれらの複合体等の金属炭化物;ホウ化チタン等の金属ホウ化物;チタン窒化物等の金属窒化物;ケイ化チタン、ケイ化ジルコニウム、ケイ化ニオブ、ケイ化モリブデン、ケイ化タンタル、及びケイ化タングステン等の金属ケイ化物からなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0058】
導電性フィラー(b)の形態は、本発明が目的とする効果を奏する限り、特に制限されるものではなく、例えば、粉末状、粒状およびフレーク状形態のいずれか、あるいはこれらのいずれかの組み合わせの形態であってもよいが、粉末状であることが好ましい。
【0059】
上記したものの中でも、導電性フィラー(b)は、ポリマーPTC組成物の電気抵抗率をより低くする観点から、好ましくはカーボンブラック、カーボンナノチューブ、炭化チタンまたはニッケルであり、粉末状のニッケルを用いることがより好ましい。
【0060】
導電性フィラー(b)を構成する粒子の平均粒子径は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~5μm、より好ましくは1.5~3μmである。
平均粒子径は、ASTM B330に準拠した測定方法などによって測定される。
【0061】
本発明のポリマーPTC組成物における、導電性フィラー(b)の含有割合は、75質量%以下であり、好ましくは40~75質量%、より好ましくは50~70質量%である。
【0062】
導電性フィラー(b)の含有割合を75質量%以下とすることにより、ポリマーPTC素子又はPTCデバイスを作製する際の種々の処理(放射線照射、リフロー工程等)を経ることによる電気抵抗率の上昇を抑えることができ、さらにトリップ(動作)後、温度が下がった時に、電気抵抗率が初期に近い値に戻る復帰性を得ることができる。
【0063】
導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%を超えると、ポリマーPTC組成物が高価になり、かつ、脆くなるという欠点があるが、本発明のポリマーPTC組成物は、導電性フィラー(b)の含有割合が75質量%以下という少ない量でも、上述の樹脂(a)を用いることにより電気抵抗率を低くすることができる。
【0064】
なお、導電性フィラー(b)の含有割合が少なくなりすぎると、通常時の電流が流れにくくなるとともに、本発明のポリマーPTC組成物の上記PTC特性が低下しやすいため、導電性フィラー(b)の含有割合は、上述のとおり40質量%以上であることが好ましい。
【0065】
<樹脂(c)>
本発明のポリマーPTC組成物は、ポリビニルアルコール系樹脂(a)以外の樹脂(c)をさらに含むことが好ましい。樹脂(c)を含ませることにより、上記PTC特性を向上させることができる。
【0066】
樹脂(c)の融点は80℃以上、好ましくは100℃以上、かつ樹脂(a)の融点以下である。
樹脂(c)の融点が80℃以上であると、使用中に意図せず高温となった時にもポリマーPTC組成物中の樹脂(c)が溶融することが少ない。また、樹脂(c)の融点が樹脂(a)の融点以下であると、ポリマーPTC組成物製造時に樹脂(a)を溶融させる際に、樹脂(c)も溶融させることができる。
【0067】
樹脂(c)としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられ、これらの中でも上記PTC特性向上の観点から、ポリフッ化ビニリデンが好ましい。
【0068】
本発明のポリマーPTC組成物における、樹脂(c)の含有割合は、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%がさらに好ましい。
樹脂(c)の含有割合が多すぎても少なすぎても、上記PTC特性向上効果が得られにくい。
【0069】
<その他の成分>
本発明のポリマーPTC組成物は、樹脂(a)、導電性フィラー(b)、樹脂(c)以外にも、その他の成分として、不活性充填剤、難燃剤、安定剤、酸化防止剤、オゾン分解防止剤、促進剤、色素、発泡剤、架橋剤、カップリング剤、架橋助剤及び分散剤等を含有することができる。
【0070】
本発明のポリマーPTC組成物が上記その他の成分を含有する場合、その含有量は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下である。
【0071】
<ポリマーPTC組成物の製造方法>
本発明のポリマーPTC組成物は、公知の方法で製造できる。
例えば、樹脂(a)、導電性フィラー(b)及び必要に応じて樹脂(c)を、それらの融点以下、例えば、60℃で1時間から1週間程度乾燥させる。
【0072】
上記乾燥によりポリマーPTC組成物中の水分含有率を低くし、以下の溶融混練時に、水分の混入が原因で起こる発泡などを防止することができる。
【0073】
その後、樹脂(a)及び必要に応じて樹脂(c)を、樹脂(a)及び(c)の融点以上、樹脂(a)及び(c)が劣化しない温度以下、及び剪断が適切に掛けられる条件で溶融混練する。
【0074】
その後、導電性フィラー(b)及び必要に応じて上記その他の成分を加えて、引き続き混練することにより、本発明のポリマーPTC組成物が得られる。
【0075】
[層状ポリマーPTC要素]
本発明の層状ポリマーPTC要素は、本発明のポリマーPTC組成物を含む。
本発明の層状ポリマーPTC要素は、例えば、本発明のPTC組成物を押出成形、型成形、射出成形又は加熱プレス等により成形して得ることができる。
【0076】
本発明の層状ポリマーPTC要素の厚さは、特に限定されないが、例えば、0.1~0.7mm、好ましくは0.2~0.6mmである。層状ポリマーPTC要素の厚さが0.7mmを超える場合、既存の2次電池内に組み入れることが困難となる。また、層状ポリマーPTC要素の厚さが0.1mm未満である場合、押出成形での製造が困難になり、安定性およびコストの観点から不利である。
【0077】
[ポリマーPTC素子]
本発明のポリマーPTC素子は、本発明の層状ポリマーPTC要素と、該ポリマーPTC要素の少なくとも一方の表面に設けられた金属電極とを有する。
【0078】
金属電極は、常套のポリマーPTC素子に使用されているいずれの既知の金属材料で構成されていてもよい。既知の金属材料としては、例えば、銅、ニッケル、アルミニウム、金等が挙げられる。
また、金属電極は、例えば、プレート又は箔の形態であってよい。具体的には、粗面化金属プレート、粗面化金属箔等を例示できる。
【0079】
金属電極の配置は、例えば、本発明の層状ポリマーPTC要素に金属電極を熱圧着することによって配置できる。また、本発明の層状ポリマーPTC要素を金属電極上に押出成形することによって配置できる。その後、必要に応じて切断することによってより小さい形態のポリマーPTC素子としてもよい。
【0080】
[PTCデバイス]
本発明のPTCデバイスは、本発明のポリマーPTC素子と、該ポリマーPTC素子の少なくとも一つの金属電極に電気的に接続されたリードを有する。
【0081】
リードは、PTCデバイスを用いる電気装置において、PTC素子を所定の回路、より詳細には、配線、部品、パッド、ランド、ターミナル等に電気的に接続するために存在するものであり、PTCデバイスに一般的に用いられるものであれば特に限定されない。
【0082】
リードを構成する材料としては、例えば、導電性材料であれば特に限定されず、例えば、ニッケル、コバール、42アロイ(Fe-42%Ni合金)等が挙げられる。
【0083】
リードは、いずれの適当な形態であってもよく、例えば、正方形もしくは矩形の金属箔、金属シート等のストリップの形態であってもよい。
【0084】
ポリマーPTC素子の金属電極とリードとの接続に用いる接続材料としては、PTCデバイスに一般的に用いられるものであれば特に限定されず、ハンダ材料、導電性接着剤、導電性ペースト、銀ロウ部材等が挙げられる。
【0085】
ポリマーPTC素子の金属電極とリードとの接続は、例えば、金属電極上に接続材料を配置し、その上にリードを配置して、その後、例えば、加熱手段によって加熱し、あるいはリフロー炉に入れて接続材料を溶融させることにより実施される。
【0086】
[電気装置、2次電池セル]
本発明のポリマーPTC素子又はPTCデバイスは、上記リードを介して種々の回路に接続される。よって、本発明はまた、本発明のポリマーPTC素子又はPTCデバイスを有する電気装置、及び本発明のポリマーPTC素子又はPTCデバイスを有する2次電池セルをも提供する。
【実施例
【0087】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0088】
なお、以下の実施例及び比較例では以下の材料を使用した。
<溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂>
PVA系樹脂1:上記一般式(1)のR~Rはそれぞれ水素原子、Xは単結合である構造単位を6モル%有するPVA系樹脂(平均重合度450、ケン化度98.5モル%、融点190℃)
EVOH1:日本合成化学工業株式会社製「ソアノールTM V2504RB」(エチレン含有量25モル%、融点195℃)
EVOH2:日本合成化学工業株式会社製「ソアノールTM D2908」(エチレン含有量29モル%、融点188℃)
EVOH3:日本合成化学工業株式会社製「ソアノールTM ET3803RB」(エチレン含有量38モル%、融点173℃)
EVOH4:日本合成化学工業株式会社製「ソアノールTM A4412」(エチレン含有量44モル%、融点164℃)
【0089】
<導電性フィラー>
ニッケル粉末(Inco社製「Type255」、平均粒子径:2.5μm)
【0090】
<溶融成形可能なポリビニルアルコール系樹脂以外の樹脂>
ポリフッ化ビニリデン(Arkema社製「KYNAR720」、融点170℃)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製「HI-ZEX3300F」、融点132℃)
【0091】
[実施例1]
ポリマー材料としてPVA系樹脂1及びニッケル粉末を60℃で1週間乾燥させた。その後、2軸溶融混練機(東洋精機製作所製「ラボプラストミル 4M150」)を用い、上記PVA系樹脂1を200℃及び80RPMの条件下で5分間溶融混練した。その後、ニッケル粉末の含有割合がポリマーPTC組成物全体の65質量%となるように、ニッケル粉末を加え、さらに200℃及び60RPMの条件下で15分間混練してポリマーPTC組成物を得た。
【0092】
得られたポリマーPTC組成物を加熱プレス(200℃、0.75MPa)し、フィルム状(70mm×70mm×1mm)に成形した後、室温で徐冷し、ポリマーPTC要素を得た。
【0093】
得られたポリマーPTC要素の異なる9点について、抵抗率計(三菱化学社製「ロレスターGP MPC-160」)を用いて四探針法により、25℃で電気抵抗率を測定し、その平均値を室温電気抵抗率とした。結果を表1に示す。
【0094】
[実施例2~6、比較例1]
上記ポリマー材料を表1に示すものとした以外は、実施例1と同様にポリマーPTC要素を作製し、室温電気抵抗率を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
【表1】
【0096】
表1の結果より、本発明のポリマーPTC組成物を用いて成形した実施例1~6のポリマーPTC要素の室温電気抵抗率は、本発明のポリマーPTC組成物を用いずに成形した比較例1のポリマーPTC要素の室温電気抵抗率に比べ顕著に低く、実施例1~6のポリマーPTC要素は優れた導電性を有していることがわかった。
【0097】
[実施例7]
EVOH3とニッケル粉末の混練条件を、200℃及び60RPMの条件下で5分とした以外は、実施例4と同様にしてポリマーPTC組成物を得た。
得られたポリマーPTC組成物を、実施例4と同様に加熱プレスし、フィルム状に成形した後、室温で徐冷し、ポリマーPTC要素を得た。
得られたポリマーPTC要素について、実施例4と同様に室温電気抵抗率を測定し、下記の条件でPTC特性を評価した。結果を表2に示す。
【0098】
<PTC特性>
ポリマーPTC要素であるフィルムの両面にニッケル箔を、加熱プレスを用いて200℃、0.725MPaにて5分間熱圧着して電極を設けた後加工し、10mm×10mmのポリマーPTC素子を得た。
【0099】
得られたポリマーPTC素子をオーブン(ADVANTEC社製「DRX320DA」)の中に入れ、ポリマーPTC素子の温度を1℃/minで昇温させたときの電気抵抗率をデジタルマルチメータ(sanwa社製「PC520M」)によって測定し、温度と電気抵抗率の関係を求め、電気抵抗率が室温での電気抵抗率の10倍に達した時点での温度をポリマーPTC発現温度(TPTC)とした。
【0100】
[実施例8、9]
ポリマーPTC組成物中のニッケル粉末含有割合、及びEVOH3とニッケル粉末の混練時間を表2に示すものとした以外は、実施例7と同様にポリマーPTC要素を作製し、室温電気抵抗率及びTPTCを測定した。結果を表2に示す。
【0101】
【表2】
【0102】
表2の結果より、本発明のポリマーPTC組成物を用いて成形した実施例7~9のポリマーPTC要素の室温電気抵抗率は、比較例1のそれに比べて顕著に低いことが分かった。
また、実施例7~9のポリマーPTC要素においては、ポリマーPTC素子の温度上昇に伴い急激に電気抵抗率が大きくなるというPTC特性の発現が確認された。