(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-08
(45)【発行日】2024-04-16
(54)【発明の名称】金ナノ粒子の凝集体、金ナノ粒子分散液、放射線治療用増感剤及び金ナノ粒子分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 33/242 20190101AFI20240409BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20240409BHJP
A61K 47/10 20170101ALI20240409BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20240409BHJP
A61K 51/02 20060101ALI20240409BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240409BHJP
【FI】
A61K33/242
A61K47/20
A61K47/10
A61K9/10
A61K51/02
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2020062947
(22)【出願日】2020-03-31
【審査請求日】2023-02-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】三澤 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】岡田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】大澤 正人
【審査官】田澤 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-513001(JP,A)
【文献】特表2010-523983(JP,A)
【文献】特開2011-46676(JP,A)
【文献】特開2005-220435(JP,A)
【文献】国際公開第2015/056766(WO,A1)
【文献】特表2017-504603(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-33/44
47/00-47/69
9/00-9/72
51/00-51/12
A61P 1/00-43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質溶液中で分散可能な金ナノ粒子の凝集体であって、
金ナノ粒子はその表面が被覆剤で被覆され、
被覆剤が、ヒドロキシアルカンチオールと、ポリエチレングリコール鎖の末端にチオール基を有するポリエチレングリコールとを含み、
電解質溶液中でポリエチレングリコールのポリエチレングリコール鎖が相互に絡み合うことにより金ナノ粒子が所定の間隔を維持して凝集した凝集体をなすことを特徴とする金ナノ粒子の凝集体。
【請求項2】
請求項1記載の金ナノ粒子の凝集体において、前記ヒドロキシアルカンチオールは、水酸基とアルキル鎖との間にオリゴエチレングリコール鎖を有し、オリゴエチレングリコール鎖数が3以上であることを特徴とする金ナノ粒子の凝集体。
【請求項3】
請求項1または請求項2記載の金ナノ粒子の凝集体と、この金ナノ粒子の凝集体が分散する電解質溶液とを含むことを特徴とする金ナノ粒子分散液。
【請求項4】
請求項1または請求項2記載の金ナノ粒子の凝集体と、この金ナノ粒子の凝集体が分散する生理食塩水とを含むことを特徴とする放射線治療用増感剤。
【請求項5】
表面が疎水性分散剤で被覆された金ナノ粒子を準備する工程と、
金ナノ粒子の表面を被覆する疎水性分散剤をヒドロキシアルカンチオールで置換し、このヒドロキシアルカンチオールで表面が被覆された金ナノ粒子を親水性溶媒に分散させる工程と、
前記親水性溶媒にチオール基を有するポリエチレングリコールを加えることで、金ナノ粒子の表面を更にポリエチレングリコールで被覆する工程と、
ヒドロキシアルカンチオールとポリエチレングリコールとで表面が被覆された金ナノ粒子を電解質溶液に分散させる工程とを含むことを特徴とする金ナノ粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金ナノ粒子の凝集体、金ナノ粒子分散液、放射線治療用増感剤及び金ナノ粒子分散液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療では、腫瘍の癌細胞等に対する放射線(例えばX線、陽子線、電子線、重粒子線、中性子線等)の照射により、入射する放射線自体が癌細胞のDNAや細胞膜を切断したり変性させたりする直接的損傷作用と、水の放射線分解で発生した活性酸素によって癌細胞のDNAや細胞膜に損傷を与える間接的損傷作用とが生じる。また、放射線治療の際に放射線増感剤を用いて、癌細胞のみの放射線感受性を高めることによって、主として間接的損傷効果が増強され、より低線量での治療が可能となり、正常組織の損傷を抑える手法が検討されている。より効率的な治療を行うための放射線感受性を高める増感剤の組成物として、金ナノ粒子が注目されている(例えば、非特許文献1参照)。この場合、癌細胞内部やその周辺に多量の金ナノ粒子を集積させる必要があり、これには、金ナノ粒子を生理食塩水のような電解質溶液中に高い濃度(例えば100mg/ml以上)で分散させた親水性金ナノ粒子分散液の状態で生体に投与することが考えられる。
【0003】
然しながら、従来、1次粒子を均一に単分散させた親水性金ナノ粒子分散液としては、プローブやマーカーとしての目的に用いられる低濃度(例えば0.1mg/ml以下)のものがほとんどである。そのため、高濃度の金ナノ粒子溶液を得るには、この低濃度の金ナノ粒子分散液に対して、数万G以上の高い遠心分離を長時間施して濃縮調製する必要があり、この遠心分離の過程で沈殿や固化でロスする金ナノ粒子も多く、所望の高濃度(例えば100mg/ml以上)の金ナノ粒子分散液を得るには、多大な時間とコストがかかるという問題があった。一部、高濃度の金ナノ粒子も市販されているが、それらは凍結乾燥品として販売されており、液体中の分散状態を保証しているものではない(例えば、非特許文献2参照)。そして、実際に金ナノ粒子を使用する環境は、生体内や培養液であり、pH6.8からpH7.4の中性かつ0.9%の塩濃度の溶液である。たとえ純水中で分散できたとしても、低pHの合成時と異なるpH条件で、帯電により水中で安定化したコロイドの反発力を打ち消す塩の存在によって、何も修飾しない金ナノ粒子は瞬時に凝集沈殿する。
【0004】
そこで、本発明者らは、鋭意研究を重ね、電子デバイス製造用の疎水性金ナノ粒子分散液として超高濃度(例えば300mg/ml)のものが存在することに着目し、この疎水性金ナノ粒子分散液から、2次凝集体サイズを制御した、高濃度の親水性金ナノ粒子分散液が得られることを知見するのに至った。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Her S,外2名,「Gold nanoparticles for applications in cancer radiotherapy: Mechanisms and recent advancements」, Advanced Drug Delivery Reviews,米国,2017年1月15日,Volume 109,p.84-101
【文献】Kim D,外1名,「MO-F-213AB-06: Experimental Evaluation of Radiation Dose Effect by High Atomic Number Materials for Superficial Radiation Therapy」,Medical Physics,米国,2012年1月,39(6Part21),p.3872
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、長時間の濃縮調製を行うことなく製造できる、電解質溶液中で分散可能な金ナノ粒子凝集体、金ナノ粒子分散液、放射線治療用増感剤及び金ナノ粒子分散液の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、電解質溶液中で分散可能な本発明の金ナノ粒子の凝集体は、金ナノ粒子の表面が被覆剤で被覆され、被覆剤が、ヒドロキシアルカンチオールと、ポリエチレングリコール(以下「PEG」ともいう)鎖の末端にチオール基を有するポリエチレングリコール(以下「チオールPEG」ともいう)とを含み、電解質溶液中でPEG鎖が相互に絡み合うことにより金ナノ粒子が所定の間隔を維持して凝集した凝集体をなすことを特徴とする。尚、本発明において、金ナノ粒子が所定の間隔を維持するとは、金ナノ粒子相互の間隔が一定であることを意味するのではなく、金ナノ粒子が静電近接せずに相互に離間していることを意味するものとする。
【0008】
本発明の金ナノ粒子の凝集体において、前記ヒドロキシアルカンチオールは、水酸基とアルキル鎖との間にオリゴエチレングリコール鎖を有し、オリゴエチレングリコール鎖の数が3以上であることが好ましい。これによれば、高濃度疎水性金ナノ粒子の凝集体を親水化するとともに、非特異吸着を抑制し、容器壁面への吸着などを防止できるので、長期安定化することができる。そして、チオールPEGは、チオール基を介して金ナノ粒子の表面に結合し、PEG鎖数が約1000Da以上の場合(後述の実施例では5000Da)に、金ナノ粒子表面に約3nm以上のPEG鎖の緩衝層を形成して、金ナノ粒子同士の静電近接を妨げた状態を維持しつつ、PEG鎖が相互に絡み合った2次凝集体を形成する。
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の金ナノ粒子分散液は、上記金ナノ粒子の凝集体と、この金ナノ粒子の凝集体が分散する電解質溶液とを含むことを特徴とする。この電解質溶液を生理食塩水とすれば、血中に投与した場合に、血中に滞留し、所謂EPR(enhanced permeability and retention)効果により腫瘍に集積するので、金ナノ粒子分散液を放射線治療用増感剤として用いることができる。
【0010】
上記課題を解決するために、本発明の金ナノ粒子分散液の製造方法は、表面が疎水性分散剤で被覆された高濃度の金ナノ粒子を準備する工程と、金ナノ粒子の表面を被覆する疎水性分散剤をヒドロキシアルカンチオールで置換し、このヒドロキシアルカンチオールで表面が被覆された金ナノ粒子を親水性溶媒に分散させる工程と、前記親水性溶媒に末端チオール基を有するPEG(チオールPEG)を加えることで、金ナノ粒子の表面を更にPEGで被覆する工程と、ヒドロキシアルカンチオールと末端チオール基を有するPEGとで表面が被覆された金ナノ粒子を電解質溶液に分散させる工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
以上によれば、先ず、脂肪酸や脂肪族アミン等の疎水性分散剤で表面が被覆された金ナノ粒子(またはこの金ナノ粒子を低極性溶媒に分散させた疎水性金ナノ粒子分散液)を準備し、準備した金ナノ粒子に、ヒドロキシアルカンチオールと、例えば水やアルコール等の親水性溶媒とを混合することで、金ナノ粒子の疎水性分散剤がヒドロキシアルカンチオールにより置換され、ヒドロキシアルカンチオールにより表面が被覆された金ナノ粒子が親水性溶媒に分散可能となる。このヒドロキシアルカンチオールにより表面が被覆された金ナノ粒子を生理食塩水や培養液等の電解質溶液に分散させようとすると、安定して分散せず、凝集して沈殿することが確認された。
【0012】
そこで、本発明者らは、鋭意研究し、ヒドロキシアルカンチオールにより表面が被覆された金ナノ粒子に、PEG鎖の末端にチオール基を有するチオールPEGを混合することで、金ナノ粒子の表面のうち、ヒドロキシアルカンチオールの末端チオール基が吸着していない隙間の部分に、チオールPEGの末端チオール基を吸着させた(つまり、金ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤(分散剤)が、ヒドロキシアルカンチオールとチオールPEGとを含むこととした)。これにより、電解質溶液中で、チオールPEGのPEG鎖が金ナノ粒子同士の静電近接を妨げた状態を維持しつつ、相互に絡み合うことにより金ナノ粒子が互いに所定の間隔(距離)を維持して凝集した凝集体をなし、この金ナノ粒子の凝集体は電解質溶液中で沈殿することなく安定して分散することが確認された。その後、生体毒性のあるトルエンなどの低極性溶媒を真空乾燥して蒸散除去し、再度水に分散させることで金ナノ粒子凝集体が得られる。
【0013】
このように本発明によれば、PEG鎖が相互に絡み合うことで金ナノ粒子が互いに所定の間隔を維持して凝集した凝集体(クラスタ)をなした状態で電解質溶液中に分散可能となる。従って、従来例のように長時間の濃縮調製を行うことなく、高濃度のクラスタ状金ナノ粒子分散液を得ることができる。このようにして得られた高濃度のクラスタ状金ナノ粒子分散液は、放射線治療用増感剤として好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態の金ナノ粒子の凝集体の電解質溶液中のTEM画像。
【
図2】本発明の実施例で得た生成物のエタノール中のTEM画像。
【
図3】本発明の実施例で得た凝集体のPBS中のTEM画像。
【
図4】凝集体の吸収スペクトルの変化を示すグラフ。
【
図5】凝集体のPBS中の粒子サイズ分布を示すグラフ。
【
図6】(a)は、撹拌後の生成物A1と超音波ホモジナイザ処理後の生成物A2の粒子サイズ分布を夫々示すグラフであり、(b)は、撹拌後の生成物D1と超音波ホモジナイザ処理後の生成物D2の粒子サイズ分布を夫々示すグラフ。
【
図8】X線を照射した後の細胞活性評価の結果を示すグラフ。
【
図9】陽子線を照射した後の腫瘍サイズの変化を示すグラフ。
【
図10】金ナノ粒子投与から24時間後における腫瘍及び各臓器内の金ナノ粒子の蓄積量を示すグラフ。
【
図11】in vivoイメージング装置を用いて金ナノ粒子の体内動態を観察した結果を示す図。
【
図12】腫瘍部分における相対蛍光放射強度の時間変化を示すグラフ。
【
図13】高速液体クロマトグラフィーを用いた金ナノ粒子の残留トルエンの測定結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態の金ナノ粒子分散液の製造方法について説明する。
【0016】
先ず、脂肪酸や脂肪族アミン等の疎水性分散剤で表面が被覆された金ナノ粒子を低極性溶媒に分散させた疎水性金ナノ粒子分散液を準備する。市販の疎水性金ナノ粒子分散液としては、真空蒸発法により得られた電子デバイス製造用の金ナノインク(株式会社アルバック製、商品名「Au1T」)を好適に用いることができる。金ナノ粒子としては、平均粒子径が50nm以下のものを用いることができる。平均粒子径が50nmよりも大きいと、金ナノ粒子分散液を生体に投与したときに、金ナノ粒子が血管壁、肝臓や脾臓等に引っ掛かり易くなり、結果として、腫瘍細胞の近くに金ナノ粒子を集積できなくなる場合がある。平均粒子径の下限は特に限定されず、放射線との相互作用を考慮して例えば1nmに設定することができるが、1nm以下の平均粒子径となる金ナノ粒子群を用いることもできる。上記金ナノインクで用いられているように、脂肪酸としては炭素数6~18のカルボン酸を用いることができ、また、脂肪族アミンとしては炭素数6~14のものを用いることができる。
【0017】
次に、準備した疎水性金ナノ粒子分散液の親水化処理を行う。即ち、疎水性金ナノ粒子分散液に、一端にチオール基(以下「末端チオール基」という)を有すると共に他端に水酸基を有するヒドロキシアルカンチオールと、親水性溶媒(極性溶媒)とを混合する。親水性溶媒としては、エタノール等のアルコール類や蒸留水を用いることができる。ヒドロキシアルカンチオールとしては、アルキル鎖数が10~16であるものを好適に用いることができる。アルキル鎖数が10より小さいと、長期安定分散性に乏しくなる。また、アルキル鎖と水酸基との間にオリゴエチレングリコール鎖を有していてもよく、長期安定分散性を高めるためには、オリゴエチレングリコール鎖数は3以上が好ましく、6以上がより好ましい。末端チオール基は、疎水性分散剤よりも金ナノ粒子との親和性が高いため、疎水性分散剤(脂肪酸や脂肪族アミン)と容易に置換される。その結果、金ナノ粒子の表面がヒドロキシアルカンチオールで被覆され、ヒドロキシアルカンチオールの水酸基により親水性溶媒に分散可能となる。尚、ヒドロキシアルカンチオールの代わりに末端親水基としてNH2基やCOOH基を持つアルカンチオールを用いると、親水性溶媒に分散せず、凝集して沈殿することが確認された。
【0018】
ここで、表面がヒドロキシアルカンチオールで被覆され、親水化した金ナノ粒子を電解質溶液に分散させようとしたが、安定して分散せず、凝集して沈殿することが判明した。尚、電解質溶液としては、公知の生理食塩水や培養液等を用いることができるため、詳細な説明を省略する。
【0019】
そこで、本実施形態では、ヒドロキシアルカンチオールにより表面が被覆された金ナノ粒子が分散する親水性溶媒に、チオールPEG(PEG鎖長は例えば5000Da)を更に混合することで、金ナノ粒子の表面のうち、ヒドロキシアルカンチオールの末端チオール基が吸着していない隙間の部分に、チオールPEGの末端チオール基を更に吸着させた(つまり、金ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤(分散剤)がヒドロキシアルカンチオールとチオールPEGとを含む構成を採用した)。
図1を参照して、チオールPEGのPEG鎖が相互に絡み合うことにより金ナノ粒子が凝集して凝集体をなすことで、電解質溶液中に安定して分散することができる。
【0020】
ここで、PEG鎖長が上記5000DaのチオールPEGを使った実験では、TEM観察の結果、金ナノ粒子表面に5~10nm厚さのPEG鎖の緩衝層が形成されること(つまり、この緩衝層を介して金ナノ粒子間の間隔が5~10nmに維持されること)が確認された。また、PEG鎖長が2000Da,3400DaのチオールPEGを使った実験でも、電解質溶液に分散可能であることと、TEM観察の結果、金ナノ粒子表面に2~3nm厚さのPEG鎖の緩衝層が形成されることが確認された。経験則としては、PEG鎖長(Da)の約1/1000の厚さ(nm)の緩衝層が形成されるものと考えられる。尚、1個の金ナノ粒子に対し、同じ個数のPEG鎖が結合すると仮定すると、緩衝層はPEG鎖長に比例して厚くなるが、表面積が2乗で大きくなること、PEG鎖が折れ曲がること等の理由から、緩衝層の厚さとPEG鎖長との比例関係には限界があり、PEG鎖長がある長さ以上で緩衝層の厚さが飽和すると考えられる。一方、チオールPEGのPEG鎖による緩衝層の厚さが、後述する放射線照射の2次電子の飛程(50eVの2次電子の飛程は10.6nm程度)より大きくなると、活性酸素の連鎖的な反応が期待できなくなるので、これ以上離れないようなPEG鎖長に設定する必要がある。したがって、本実施形態では、チオールPEGのPEG鎖長は、2000Da以上10000Da以下の範囲内に設定することが好ましい。
【0021】
このように、本実施形態によれば、金ナノ粒子の表面を被覆する被覆剤(分散剤)がヒドロキシアルカンチオールとポリエチレングルコールとを含むため、チオールPEGのPEG鎖が相互に絡み合うことにより金ナノ粒子が互いに所定の間隔(距離)を維持して凝集した凝集体(クラスタ)をなし、この金ナノ粒子の凝集体が、塩により静電的な反発力を失っても、電解質溶液中に分散可能となる。何も表面修飾しない金ナノ粒子単独では電解質溶液中に分散しないが、このようにして、PEG鎖で緩衝層を設けた金ナノ粒子の凝集体を電解質溶液中に分散させることで、金ナノ粒子が独立して電解質溶液中に分散する従来例のものと比べて高濃度の金ナノ粒子分散液を得ることができる。しかも、従来例のように濃縮調製を行う場合に比べて短時間かつ低コストで金ナノ粒子分散液を製造することができる。
【0022】
このようにして得られたクラスタ状金ナノ粒子分散液は、生体に対して毒性を示さないことから、生体に投与(IV(Intravenous)投与またはIT(Intratumoral)投与)することで、所謂EPR効果により腫瘍や癌細胞やその周辺に金ナノ粒子を高濃度で集積することができる。ここで、金ナノ粒子表面を被覆するチオールPEGのPEG鎖長が5000Daである場合、凝集体における複数の金ナノ粒子間の間隔は約5~20nmとなる(
図1参照)。この場合、放射線が照射される金ナノ粒子から発生する電子のエネルギーが50~100eVとなるように高エネルギー放射線を照射すれば、電子の飛程は5~25nmとなり、凝集体を構成する一の金ナノ粒子から発生した電子により他の金ナノ粒子が連鎖的に励起されるようになる。このように、凝集体内の金ナノ粒子全てに放射線が当たらなくても、金ナノ粒子の凝集体を構成する複数の金ナノ粒子から電子や2次放射線が連鎖的に放射されることで、より多くの活性酸素を発生させることが可能となるため、本実施形態の金ナノ粒子分散液を放射線治療用増感剤として好適に用いることが判った。
【0023】
次に、本発明の実施例について説明する。
【0024】
本実施例では、疎水性金ナノ粒子分散液として、株式会社アルバック社製の商品名「Au1T」を用いた。この分散液中に分散している金ナノ粒子の平均粒子径(一次粒子径)は5nmであり、分散液の有機溶媒(分散媒)はトルエンであり、金ナノ粒子の濃度は160mg/mlであった。
【0025】
この疎水性金ナノ粒子分散液(Au1T)に含まれる金ナノ粒子を親水性溶媒に分散可能とするため、一端にチオール基(末端チオール基)を持ち、アルキル鎖とオリゴエチレングリコール鎖を介して、他端に親水基を持つ7種類のアルカンチオール(AT)A~G(株式会社同仁化学研究所製、製品コード「H354, H355, A423, H396, A458, H394, C429」を準備した(下表1参照)。
【0026】
【0027】
尚、親水性溶媒をエタノールとし、上記疎水性金ナノ粒子分散液(Au1T)10μLに含まれる金ナノ粒子1.6mgをエタノール中に安定分散させるために必要なアルカンチオールAの量を、次の方法で求めた。即ち、アルカンチオールAの濃度を0.03,0.06,0.13,0.25,0.51,1.02,2.03,4.06mMと変化させ、金ナノ粒子に特有の表面プラズモン吸光度スペクトルピーク(530nm近傍)を夫々測定し、それらのピークの高さと波長の測定値を指標として凝集沈殿を起こさない濃度の下限を求めたところ、2.0mM(このときの金ナノ粒子とヒドロキシアルカンチオールAとのモル濃度比は7.3:2.0)であった。これより、アルカンチオールAの濃度を2.0mM以上にすれば、エタノールおよび水中で安定分散することが判った。
【0028】
各アルカンチオール(A~G)2μLと、エタノール1mLとを混合したものに、上記疎水性金ナノ粒子分散液(Au1T)10μL(=1.6mg)を夫々混合し、室温で7時間静置した。これにより、金ナノ粒子の表面にアルカンチオールを夫々吸着させた。静置後、混合液のTEM写真を撮像した。
図2に示すように、末端親水基として水酸基を持つ4種類のヒドロキシアルカンチオールA,B,D,Fが吸着した金ナノ粒子(以下「生成物A,B,D,F」という)がエタノール中に一様に分散しており、濃い赤紫色を呈していることが確認された。尚、4種類のヒドロキシアルカンチオールA,B,D,Fの間でエタノール中での分散性の違いは生じなかったため、オリゴエチレングリコール鎖数やアルキル基数(アルキル鎖長)は親水化処理に対して影響を与えないことが判った。一方、図示は省略するが、末端親水基としてNH
2基またはCOOH基を持つ3種類のアルカンチオールC,E,Gを混合したものは、エタノール中に分散せず、凝集して黒色の沈殿となり、この黒色沈殿を撹拌しても分散されないことが確認された。これより、金ナノ粒子の表面をヒドロキシアルカンチオールA,B,D,Fで被覆すれば、エタノール中に安定分散することが判った。
【0029】
次に、塩分濃度0.9%のリン酸緩衝生理食塩水(以下「PBS」という)等の電解質溶液に分散可能とするために、PEG鎖(PEG鎖長は5000Da)の末端にチオール基を有するチオールPEG(フナコシ株式会社製、商品名「mPEG-SH, 5k」)を更に混合し、混合したものを室温で夫々2時間静置した。これにより、金ナノ粒子の表面のうち、ヒドロキシアルカンチオールA,B,D,Fが吸着していない隙間の部分に、チオールPEGを吸着させた。
【0030】
尚、PBS中で安定分散させるために必要なチオールPEGの量(チオールPEG処理量)は、次の方法で求めた。即ち、混合するチオールPEGの量を0.00,0.03,0.05,0.08,0.10,0.13,0.15,0.20,0.26,0.51mMと変化させ、プレートリーダー(BioTek社製、商品名「Synergy HTX」)により吸光度スペクトルを測定し、凝集沈殿を起こさない境界濃度を求めたところ、0.15mM(このときの金ナノ粒子とチオールPEGとのモル濃度比は7.3:0.15)であった。これより、チオールPEGの濃度を0.15mM以上にすれば、PBS中に安定分散することが判った。
【0031】
2時間静置した後、純水3mLを加えたものを100mLのナスフラスコに入れて、50℃の温浴中で真空引きした。これにより、上記疎水性金ナノ粒子分散液の有機溶媒であるトルエンが泡となって脱気され、純水も蒸発した。2mLとなるまで約30分継続して行った後、これを1mLのシリンジに移し、0.45μmのフィルター処理を行った後、0.22μmのフィルター処理を行った。フィルター処理後の溶液をフィルター(Amicon社製、10kDa)を用い、12000g、10分遠心して濃縮することで、約0.6mLを回収した。回収したものにPBS0.4mLを混合して金ナノ粒子分散液を得た。
【0032】
このようにして得られたクラスタ状金ナノ粒子分散液のTEM写真を撮像した。
図3に示すように、チオールPEGのPEG鎖が互いに絡み合うことで金ナノ粒子が凝集して凝集体をなし、この金ナノ粒子の凝集体がPBS中に一様に分散していることが確認された。これは、金ナノ粒子の表面から数nmの範囲において、電荷を持たないPEGが介在していることによるものと考えられる。また、TEM写真から凝集体の粒径(粒子サイズ)を求めたところ、後述する
図5に示す測定結果と略一致することが確認された。これより、一次粒子径3~7nm(平均粒子径5nm)を持つ金ナノ粒子の数10個~数100個が、PEG鎖を介して凝集しているものと考えられる。
【0033】
ヒドロキシアルカンチオールA,B,D,FとチオールPEGとで表面が被覆された金ナノ粒子の凝集体(以下「凝集体A,B,D,F」という)を1/100に希釈し、動的光散乱装置(Malvern社製、商品名「Zetasizer nano」)を用いてZeta電位(mV)を測定したところ、-13.2mV~-25.9mVであり、いずれの凝集体も負に帯電していることが確認された(下表2参照)。これは、ヒドロキシアルカンチオールA,B,D,Fの末端水酸基によるものであり、これにより分散安定性が確保されていることが判った。また、表2に示すように、凝集体A,B,D,Fの平均径は182~231nm程度であった。また、凝集体Dよりも凝集体A,B,Fの収率が低い理由は、トルエンを真空蒸発させた際に容器壁面に付着した凝集体を再分散させなかったためであり、凝集体Dと同程度の収率が得られるものと考えられる。
【0034】
【0035】
上記凝集体A,B,D,Fの生成から2日後、3日後、5日後、9日後の吸収波長スペクトルを測定した結果を
図4に示す。いずれの凝集体A,B,D,Fも波長530nm付近に表面プラズモン(SPR)のピークが見られた。また、凝集体Aについては経時変化が大きく、生成から9日後には沈殿した一方で、他の凝集体B,D,Fについては、顕著な経時変化は見られなかった。これより、上記Zeta電位の測定結果を踏まえて、ヒドロキシアルカンチオールのPEG鎖数を6以上にすることで、PBS中で長期分散可能であることが判った。
【0036】
次に、上記凝集体A,B,D,Fの生成から9日後の粒子サイズ分布を動的光散乱装置(以下「DLS」という)により測定した。その測定結果を
図5に示す。凝集体A,B,Fは、20~200nmの範囲で多峰性のプロファイルを有する一方で、凝集体Dは、95nmにピークを持つ単峰性のプロファイルを有していた。
【0037】
また、上記凝集体A,Dのコロイド溶液をボルテックスミキサーにより撹拌したものを生成物A1,D1とし、撹拌後に更に超音波ホモジナイザ処理したものを生成物A2,D2とした。これら生成物A1,A2の粒子サイズ分布をDLSにより測定した結果を
図6(a)に示すと共に、生成物D1,D2の粒子サイズ分布をDLSにより測定した結果を
図6(b)に示す。これによれば、撹拌だけでは数百nmを超える大きな凝集体が含まれていたが、超音波ホモジナイザ処理を更に行うことで150~200nmにピークを持つ単峰性のサイズ分布が得られることが判った。尚、更なる細粒化を意図して、100nmメンブレンでエクストルーダ処理を行ったが、却って凝集体のサイズが大きくなり、しかも多峰性のサイズ分布となることが確認された。
【0038】
次に、上記効果を確認するために、以下の実験を行った。
【0039】
実験1では、上記凝集体A,B,D,Fを蒸留水で1/4,1/16,1/64,1/256,1/1024の倍率で夫々希釈したものに対して、X線照射装置(管電圧150kV、管電流8mA)を用いて6Gy,12Gy,18Gyの線量でX線を照射し、それにより発生する活性酸素を試薬(五稜化薬株式会社製、商品名「Aminophenyl Fluorescein (APF)」、5μM、励起480nm、蛍光530nm)を用いて測定した。その測定結果を
図7に示す。本実験1によれば、いずれも、線量依存的に活性酸素の発生量が増加することが確認された。尚、本実験1で使用した試薬では、金ナノ粒子のSPR吸収帯とAPFの蛍光帯域とが重なるため、希釈倍率が1,1/4の場合のように金ナノ粒子の濃度が高い場合には、蛍光が吸収されて蛍光強度が低くなることで、希釈倍率が1/16の場合に蛍光強度が最大となったものと考えられる。
【0040】
実験2では、B16マウスメラノーマ細胞株を培養し、24wellプレートに播種し、0.5mLの培養液を添加して、70%コンフルエントまで培養した。これに、上記凝集体A,B,D,Fのコロイド溶液を、1wellあたり20μL添加してよく撹拌し、6時間培養して金ナノ粒子を細胞内に取り込ませた後、X線照射装置(管電圧150kV、管電流8mA)を用いて12Gyの線量でX線を照射した。その後、テトラゾリウム塩(WST-1)で細胞活性を評価した結果を
図8に示す。本実験2によれば、無処置の対照群(NT)に比べて、20~30%の細胞活性の低下が確認された。これは、腫瘍細胞内やその周辺に金ナノ粒子を取り込んだ状態で、X線照射されたため、腫瘍細胞内外で発生した活性酸素によって、細胞膜やDNAが損傷を受けたためであると考えられる。また、図示しないが、金ナノ粒子のみを投与して、X線を照射しない別の対照群では、無処置の対照群(NT)と比べて、細胞活性にほとんど違いは見られないことが確認された。
【0041】
実験3では、C57BL/6Jマウス大腿部に、1.0×10
6個のB16細胞懸濁液50μLを播種し、約10日間飼育して腫瘍サイズ6~7mmのB16メラノーマ担癌マウスを作成した。上記凝集体Aのコロイド溶液(濃度36mg/mL)を調整した。これを、5%グルコースに混合して、1匹あたり1.9mgの濃度で50μLを投与した。投与に際しては、投与経路の違いをみるため、等量を腫瘍部局所(IT)と尾静脈(IV)に投与した。投与から24時間後に、麻酔下で保定したマウスの腫瘍部位に、平均エネルギー40MeV、線量率0.6Gy/minの陽子線を、100×30mmの照射コリメータを介して照射した。陽子線の照射後30日にわたって腫瘍サイズを測定した結果を
図9に示す。これによれば、金ナノ粒子を投与せず陽子線のみを照射した陽子線単独照射群(PO)に比べて,金ナノ粒子投与群(IV,IT)でより高い抗腫瘍効果が確認され、特に腫瘍部局所投与(IT)では腫瘍増殖が停止するという顕著な抗腫瘍効果が確認された。また、投与から24時間後における腫瘍及び各臓器内の金ナノ粒子の蓄積量をICP-MSで測定した結果を
図10に示す。これによれば、投与量の70~80%が臓器に蓄積され、特に肝臓と腫瘍への集積が高いことが確認された。また、図示しないが、クライオ切片でも腫瘍内の金ナノ粒子凝集が確認された。これは、腫瘍部局所投与(IT)することで金ナノ粒子の腫瘍蓄積が増加したことが増感効果に寄与したと推察される。
【0042】
実験4では、体内動態を調べるため、Balb/cAJcl-nu/nu ヌードマウス大腿部皮下に、上皮成長因子受容体EGFRが過剰発現しているヒト類表皮癌A431細胞株を播種し、腫瘍サイズが6~7mmの担癌マウスを作成した。この腫瘍への標的指向性を高めるために、上記生成物Aの金ナノ粒子に抗EGFR抗体結合チオールPEG修飾したサンプルを、以下の手順で合成した。即ち、抗EGFR抗体(商品名「アービタックス」)1mg(100mg/100mL)を、抗体希釈バッファーに置換し、これをAmicon Ultra(10kDa)を用い、12000g、5分遠心する工程を3回繰り返し、約300μL回収した。また、SH-PEG3.4K-NHS ester 3.5mgをエタノール150μLで希釈し、この希釈したものに、上記回収物約300μLとリン酸水素2ナトリウム600μLとを添加し、pH8.5として、室温で4時間反応させた。反応後、Amicon Ultra(10kDa)で再度遠心して、SH-PEG-抗EGFR抗体を回収した。その後、0.1M塩酸で、pH7.3に戻した。同時に、in vivoイメージングのため、Sufo-Cy7-NHS ester 1mg (22microL DMSO)とHS-PEG7.5k-NH
2 2mgとをエタノール100μLに溶かし、超音波で5分撹拌した後、pH8.3のリン酸二水素ナトリウム400μLを加え、静置した。6時間静置した後、0.1M塩酸で、pH7.3に戻した。これを凝集体Aの分散液(コロイド溶液)に混合して、3時間静置した。このようにして得られた、抗体PEG修飾5nm金ナノ粒子を、尾静脈投与(IV)及び腫瘍部局所投与(IT)し、投与から2時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後の体内動態をin vivo発光・蛍光イメージングシステム(プライムテック社、商品名「Ami-HTX」)により測定した結果を
図11に示す。これによれば、尾静脈投与(IV)と腫瘍部局所投与(IT)とでは腫瘍部への金ナノ粒子の集積が異なり、尾静脈投与(IV)のときに金ナノ粒子の局在を示すCy7(励起685nm、蛍光710nm)の蛍光強度が腫瘍部で長く継続していることが分かった。また、投与から2時間後、24時間後、48時間後、72時間後、96時間後、120時間後において、腫瘍部にROIを設定したときの相対蛍光放射強度を観察した結果を
図12に示す。これによれば、時間経過に伴い相対蛍光放射強度が対数的に減衰することが確認された。これより、腫瘍部に蓄積させた金ナノ粒子も約1週間には体外に排出されるものと推察される。
【0043】
実験5では、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて、上記凝集体A,B,D,Fに残留するトルエンを調べた。即ち、アセトニトリルと水とを1:7で混合して溶出液とし、トルエンの吸収帯である210nmと260nmにおける吸光度を測定した。その測定結果を
図13に示す。本実験5によれば、上記凝集体A,B,D,Fのいずれも、生体に有害なトルエンに対応するピークは観察されなかった。これは、疎水性分散媒をヒドロキシアルカンチオールとPEGに置換(分散剤置換)する過程で、金ナノ粒子に吸着していたトルエンが遊離し、真空蒸発によって除去されたものと考えられる。
【0044】
以上説明した実施例及び実験によれば、金ナノ粒子の疎水性分散剤をヒドロキシアルカンチオールA,B,D,FとチオールPEGとで置換することで、チオールPEGのPEG鎖が相互に絡み合うことにより凝集体をなし、この金ナノ粒子の凝集体が電解質溶液中に分散可能となる。この電解質溶液をPBSとした金ナノ粒子分散液は生体に有害なトルエンを含まないため、金ナノ粒子に必要に応じてグルコース等の修飾を施して生体に投与すると、癌細胞やその付近に金ナノ粒子を集積することができる。そして、癌細胞にX線や陽子線等の放射線を照射すると、凝集体を構成する複数の金ナノ粒子に連鎖的に電子が照射されることと相俟って、より多くの活性酸素を発生させることができる。従って、金ナノ粒子分散液を放射線治療用増感剤として好適に用いることができる。
【0045】
また、チオールPEGを介して複数の金ナノ粒子が凝集してなる数百nmサイズの凝集体は、その分散液が生体に投与されると、血中滞留性がよいため、血流中でせん断力や圧力変化によって徐々に分離してより小さいサイズ(>5nm)の凝集体となる。その結果、分離により得られた凝集体が癌細胞の血管結合の弱い部分から腫瘍(癌組織)に集積されやすくすることができる。この場合、pHによって切れる結合をPEGに入れることで、血流中で凝集体を分離しやすくすることができる。
【0046】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態及び実施例では、チオールPEGとしてPEG鎖長が5000Daであるものを例に説明したが、2000Da以上10000Da以下のPEG鎖長を有するチオールPEGを用いることができる。この場合、放射線の照射により金ナノ粒子から発生する電子のエネルギーから決まる電子の飛程よりも金ナノ粒子間の距離が短くなるため、凝集体における複数の金ナノ粒子に電子が連鎖的に照射され、より多くの活性酸素を発生させることができ、有利である。