IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本放送協会の特許一覧 ▶ 国立大学法人名古屋大学の特許一覧 ▶ 国立大学法人大阪大学の特許一覧

<>
  • 特許-量子ドット発光素子及び表示装置 図1
  • 特許-量子ドット発光素子及び表示装置 図2
  • 特許-量子ドット発光素子及び表示装置 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-09
(45)【発行日】2024-04-17
(54)【発明の名称】量子ドット発光素子及び表示装置
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/115 20230101AFI20240410BHJP
   G09F 9/33 20060101ALI20240410BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20240410BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20240410BHJP
   H10K 59/70 20230101ALI20240410BHJP
【FI】
H10K50/115
G09F9/33
H05B33/14 Z
H10K59/10
H10K59/70
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020012898
(22)【出願日】2020-01-29
(65)【公開番号】P2021118161
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2023-01-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】本村 玄一
(72)【発明者】
【氏名】都築 俊満
(72)【発明者】
【氏名】小倉 渓
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 有希子
(72)【発明者】
【氏名】亀山 達矢
(72)【発明者】
【氏名】鳥本 司
(72)【発明者】
【氏名】桑畑 進
(72)【発明者】
【氏名】上松 太郎
【審査官】藤岡 善行
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/035957(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/160094(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第109705667(CN,A)
【文献】特開2018-044142(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 50/115
H10K 59/10
H10K 59/70
H05B 33/14
C09K 11/08
H01L 33/50
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、電子輸送材料と、を含み、
前記量子ドットが、
第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるコアと、
前記コアの周りを覆い、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるシェルと、を具え
前記電子輸送材料の添加量が、前記量子ドットに対して質量比で0.05~10の範囲であることを特徴とする、量子ドット発光素子。
【請求項2】
前記量子ドットのコアを構成する化合物半導体が、銀と、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含み、
前記量子ドットのシェルを構成する化合物半導体が、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含む、請求項1に記載の量子ドット発光素子。
【請求項3】
前記電子輸送材料が、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、1,3,5-トリ(m-ピリド-3-イル-フェニル)ベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は2に記載の量子ドット発光素子。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする、表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、量子ドット発光素子及び表示装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
表示装置に求められる重要な特性の一つとして、色再現性がある。特に、2018年に放送サービスが始まった4K8Kスーパーハイビジョンの表色系は、自然界に実在するほぼ全ての物体色及び既存表色システムの色域を包含することを目指しており、4K8Kスーパーハイビジョンを表示する表示装置には、広い色域の色再現性が求められる。ここで、自発光型の表示装置の場合、青、緑、赤の各色の発光材料の色純度を高くする必要がある。
【0003】
近年、下記特許文献1や非特許文献1に開示されているように、半導体ナノ結晶からなる量子ドットを発光材料として用いた電界発光素子(量子ドット発光素子)が提案されている。量子ドットは、結晶粒径を変えることにより発光色を制御することができ、粒径分布を均一にすることにより発光スペクトルの半値幅を小さくすることができる。この発光スペクトルの半値幅が小さい利点を生かして、量子ドットは、表示色域の広い表示装置用の発光材料として利用できる可能性がある。また、量子ドットを用いた電界発光素子の中には、半値幅30nm以下、外部量子効率で約20%を実現した例も存在する(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、半値幅が狭く且つ高効率発光が得られる量子ドットの材料は、毒性の高いカドミウムを含む化合物であるセレン化カドミウム(Cd-Se)や硫化カドミウム(Cd-S)等を主成分とする材料に限られている。量子ドット発光素子を表示装置に応用する場合、環境や人体への影響を考慮して、毒性の低い材料を用いることが求められる。これに対して、カドミウムを含まない量子ドット材料(低毒性量子ドット材料)として、In-PやCu-In-Zn-Sを主成分として用いた材料が報告されている(非特許文献3、4、5)。また、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットも知られている。
【0005】
しかしながら、上記非特許文献3、4、5に記載のような、低毒性量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子の発光スペクトルの半値幅は、カドミウムを含む量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子に比較して大きく、即ち、色純度が低いのが現状である。
特に、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットから発せられる光は、粒子表面や内部の欠陥準位、或いは、ドナー・アクセプター対再結合に由来するものであるため、発光スペクトルがブロードとなり、色純度が低かった。
【0006】
これに対し、下記特許文献2に開示されているように、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなるコアと、該コアの表面を覆い、第13族元素-第16族元素からなるシェルと、を具える半導体ナノ粒子が開発されており、該半導体ナノ粒子を用いることで、多元系量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子の高色純度化が進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第4948747号公報
【文献】特開2018-44142号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】シラサキら(Y.Shirasaki et.al),ネイチャー・フォトニクス(Nature Photonics),7,13(2013)
【文献】X.ダイら(D.Dai et al.),ネイチャー(Nature),515,96(2014)
【文献】J.リムら(J.Lim et al.),ケミストリー・オブ・マテリアルズ(Chemistry Of Materials),23,4459(2011)
【文献】J.リムら(J.Lim et al.),エーシーエス・ナノ(ACS NANO),7,9019(2013)
【文献】Z.リウら(Z.Liu et al.),オーガニック・エレクトロニクス(Organic Electronics),36,97(2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、本発明者らが、上記のような多元系量子ドット材料を用いた量子ドット発光素子に関する検討を進めたところ、電界発光(EL)スペクトルにおいて、バンド端発光の他にブロードな欠陥発光が大きく出ることが分かった。
【0010】
本発明は、上記事情を鑑みてなされたものであり、低毒性な多元系量子ドット材料を用いて、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット発光素子を提供することを課題とする。
また、本発明は、かかる量子ドット発光素子を具え、低毒性としつつ、広色域表示が可能な表示装置を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットの材料として、コアが、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなり、シェルが、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物からなる、低毒性の量子ドットを合成し、更に、電界発光素子(EL素子)の発光層に、かかる量子ドットと共に電子輸送性の材料を含ませることで、ELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制でき、高色純度な発光素子を作製できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0012】
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、電子輸送材料と、を含み、
前記量子ドットが、
第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるコアと、
前記コアの周りを覆い、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるシェルと、を具えることを特徴とする。
かかる本発明の量子ドット発光素子は、低毒性としつつ、色純度の高い光を発することが可能である。
【0013】
本発明の量子ドット発光素子の好適例においては、前記量子ドットのコアを構成する化合物半導体が、銀と、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含み、
前記量子ドットのシェルを構成する化合物半導体が、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含む。この場合、コアと、シェルとの連続的な結晶成長を促進でき、色純度の更に高い光を発することができる。
【0014】
本発明の量子ドット発光素子の他の好適例においては、前記電子輸送材料が、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン、1,3,5-トリ(m-ピリド-3-イル-フェニル)ベンゼンからなる群から選択される少なくとも1種である。この場合、ELスペクトルに現れる欠陥発光を更に抑制できる。
【0015】
また、本発明の表示装置は、上記の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。かかる本発明の表示装置は、低毒性としつつ、広い色域の色再現性を有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低毒性としつつ、色純度の高いEL発光が可能な量子ドット発光素子を提供することができる。
また、本発明によれば、かかる量子ドット発光素子を具え、低毒性としつつ、広色域表示が可能な表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。
図2】実施例1-2及び比較例1-2の量子ドット発光素子に用いた量子ドットのPLスペクトルである。
図3】実施例1-2及び比較例1-2の量子ドット発光素子のELスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明の量子ドット発光素子及び表示装置を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0019】
<<量子ドット発光素子>>
本発明の量子ドット発光素子は、陰極と、発光層と、陽極と、を具え、前記発光層が、前記陰極と前記陽極との間に位置する量子ドット発光素子であって、
前記発光層が、量子ドットと、電子輸送材料と、を含み、
前記量子ドットが、
第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるコアと、
前記コアの周りを覆い、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなるシェルと、を具えることを特徴とする。
【0020】
本発明の量子ドット発光素子に用いる量子ドットは、コアを構成する化合物半導体が、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含み、シェルを構成する化合物半導体が、第13族元素と、第16族元素と、を含み、特定の多元系の化合物半導体からなるコアの表面が、よりバンドギャップエネルギーが大きい第13族元素及び第16族元素を含む化合物半導体からなるシェルで覆われていることで、従来の多元系の量子ドットでは得られなかった、バンド端発光が得られることを可能にしている。また、本発明の量子ドット発光素子に用いる量子ドットは、コア及びシェルのいずれも、カドミウムを含むことを要しないため、従来のセレン化カドミウム(Cd-Se)や硫化カドミウム(Cd-S)等をコアとするCd系の量子ドットに比べて、低毒性とすることが可能である。
また、本発明の量子ドット発光素子の発光層は、上述の量子ドットと共に、電子輸送材料を含み、該電子輸送材料は、陰極側から発光層に注入される電子の流れを妨げず、且つ、陽極側から発光層に注入される正孔を陰極側へと通過させない作用(即ち、発光層から流れ出る正孔電流をブロックする作用)を有するため、漏れ電流を抑制でき、また、発光層内で、陰極から注入された電子と、陽極から注入された正孔と、を効率的に再結合させることができる。本発明の量子ドット発光素子においては、電子輸送材料を介して量子ドットに電荷を注入することで、結晶欠陥の発光への影響を抑えることができる。
従って、本発明の量子ドット発光素子は、低毒性としつつ、色純度の高い光を発することが可能である。
【0021】
次に、本発明の量子ドット発光素子の一態様を、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の量子ドット発光素子の構造の一例を示した概略図である。図1に示す量子ドット発光素子10は、基板20上に、陰極30、電子注入層40、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70及び陽極80を、この順に積層した構成を有する。なお、図1に示す量子ドット発光素子10は、下部に配置した陰極30側より電子を注入し、上部に配置した陽極80より正孔を注入する構成となっているが、本発明の量子ドット発光素子は、これに限定されるものではなく、上下を逆転した構造であってもよい。また、本発明の量子ドット発光素子においては、電子注入層40と、発光層50との間に、電子輸送層(図示せず)が更に存在していてもよい。
【0022】
<基板>
前記基板20は、当該基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明な材料からなることが好ましい。かかる透明な材料としては、ガラス、石英、プラスチックフィルム等を例示することができる。ここで、プラスチックフィルムの材質としては、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、ポリアミド、ポリエーテルサルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等が挙げられる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、基板20の材料は、必ずしも透明な材料である必要はない。基板20として、不透明基板を用いる場合、該不透明基板としては、例えば、着色したプラスチックフィルム基板、アルミナのようなセラミックス材料からなる基板、ステンレス鋼のような金属板の表面に酸化膜(絶縁膜)を形成した基板等が挙げられる。
また、基板20として、例えば、プラスチックフィルム等の可撓性基板を用い、その上に量子ドット発光素子を形成した場合には、画像表示部を容易に変形することのできるフレキシブル量子ドット発光素子とすることができる。
前記基板20の平均厚さは、特に限定されるものではないが、0.001~30mmが好ましく、0.01~3mmがより好ましい。
【0023】
<陰極>
前記陰極30は、基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、透明で導電性の高い材料からなることが好ましい。この場合、陰極30としては、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
一方、上部電極側から光を取り出すトップエミッション型素子の場合には、陰極30の材料は、必ずしも透明な材料である必要はないため、陰極30として、金属電極を用いてもよい。ここで、陰極30の材料としては、仕事関数が比較的小さい金属が好ましい。仕事関数の小さい金属を用いることにより、陰極30から有機層への電子注入障壁を低くすることができ、電子を注入させ易くすることができる。陰極30に用いる金属としては、例えば、Al、Mg、Ca、Ba、Li、Na等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
前記陰極30の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、50~200nmが更に好ましい。
【0024】
<電子注入層>
前記電子注入層40は、陰極30からの電子注入を容易にするために形成する。該電子注入層40の材料としては、有機材料、無機材料のいずれも用いることができる。電子注入層40の材料として、より具体的には、酸化亜鉛(ZnO)、フッ化リチウム(LiF)、酸化リチウム(LiO)、酸化チタン(TiO)、酸化ケイ素(SiO)、酸化スズ(SnO)、酸化タングステン(WO)、酸化タンタル(Ta)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化アルミニウム(Al)等が挙げられる。これらの中でも、電子注入性の観点から、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0025】
電子注入層40の形成には、ナノ粒子を用いることが好ましい。該ナノ粒子の粒径は、1nm~100nmが好ましく、1nm~10nmが更に好ましく、1nm~5nmがより一層好ましい。好ましくは、酸化亜鉛ナノ粒子等の金属酸化物のナノ粒子をスピンコート法によって成膜した薄膜を、電子注入層40として用いることができる。
前記電子注入層40の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~100nmが更に好ましい。
【0026】
<電子輸送層>
上述の通り、電子注入層40と、発光層50との間には、電子輸送層が存在していてもよい。該電子輸送層は、陰極30から注入した電子を発光層50まで輸送するために用いる。該電子輸送層は、独立した層として形成される場合もあれば、発光層50と一体となって形成される場合もある。電子輸送層を構成する材料として、下記一般式(1):
【化1】
に示すような含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料を用いると、陰極30から注入された電子が効率よく電子輸送層中を移動し、発光層50の量子ドットに電子が効率よく注入されるため、高効率の発光素子を得ることができる。
【0027】
上記一般式(1)において、円弧の部分は、C及びNと共に環構造を形成していることを示す。ここで、一般式(1)で示される含窒素複素環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、ベンゾオキサゾール環、イミダゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、トリアゾール環、フェナントロリン環等が挙げられる。
【0028】
前記電子輸送層を構成する材料として、例えば、ピリジン誘導体、オキサジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体等の含窒素複素環式化合物が挙げられる。ここで、ピリジン誘導体としては、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)等が挙げられ、オキサジアゾール誘導体としては、2-(4-ビフェニリル)-5-(4-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール、1,3-ビス[5-(p-tert-ブチルフェニル)-1,3,4-オキサジアゾール-2-イル]ベンゼン等が挙げられ、トリアゾール誘導体としては、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-フェニル-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール、3-(4-tert-ブチルフェニル)-4-(4-エチルフェニル)-5-(4-ビフェニリル)-1,2,4-トリアゾール等が挙げられ、フェナントロリン誘導体としては、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Bphen)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)等が挙げられる。これらの中でも、電子輸送性の観点から、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)が好ましい。
【0029】
<発光層>
前記発光層50は、量子ドットと、電子輸送材料と、を含む。該発光層50では、陽極80から注入された正孔と陰極30から注入された電子とが再結合して、量子ドットが励起状態となり、基底状態に戻るときに放出されるエネルギーにより発光が得られる。
発光層50の発光色は、発光層50に含まれる量子ドットの結晶粒径や種類(材質)によって変化させることができる。ここで、量子ドットの結晶粒径は、所望の発光色に応じて選択でき、例えば、1~20nmが好ましく、2~10nmが更に好ましい。
【0030】
前記量子ドットは、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の化合物半導体からなるコアの表面が、よりバンドギャップエネルギーが大きい第13族元素及び第16族元素を含む化合物半導体からなるシェルで覆われていることで、従来の多元系の量子ドットでは得られなかった、バンド端発光が得られることを可能にしている。かかる構成の量子ドットを発光層50に適用することで、低毒性としつつ、色純度の高い光を発することが可能となる。
前記バンド端発光は、欠陥発光とともに得られてもよいが、欠陥発光は少ない方が好ましい。欠陥発光は、一般に発光寿命が長く、またブロードなスペクトルを有し、バンド端発光よりも長波長側にそのピークを有する。従って、欠陥発光が少ないと、バンド端発光の影響が大きくなり、発光の色純度を向上させることができる。
本実施形態の量子ドットが発光するバンド端発光は、量子ドットの粒径を変化させることによって、その強度およびピークの位置を変化させることができる。例えば、量子ドットの粒径をより小さくすると、バンド端発光のピーク波長が短波長側にシフトする傾向にある。さらに、量子ドットの粒径をより小さくすると、バンド端発光のスペクトルの半値幅がより小さくなる傾向にある。
【0031】
--量子ドットのコア--
前記量子ドットのコアは、第11族元素と、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる。
前記第11族元素としては、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)が挙げられ、これらの中でも、Agが好ましい。第11族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
前記第13族元素としては、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられ、これらの中でも、インジウム(In)及びガリウム(Ga)が好ましい。第13族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
前記第16族元素としては、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)が挙げられ、これらの中でも、硫黄(S)が好ましい。第16族元素として、硫黄(S)を含むコアは、セレン(Se)やテルル(Te)を含むものと比較してバンドギャップが広くなるため、可視光領域の発光を与えやすいことから好ましい。第16族元素として、1種の元素のみが含まれてもよいが、2種以上の元素が含まれていてよい。
第11族元素、第13族元素及び第16族元素の組み合わせは特に限定されない。第11族元素、第13族元素及び第16族元素の組み合わせ(第11族元素/第13族元素/第16族元素)は、好ましくは、Cu/In/S、Ag/In/S、Ag/In/Se、Ag/Ga/SおよびAg/In/Ga/Sである。
【0032】
前記コアは、第11族元素、第13族元素及び第16族元素のみから実質的に成っていてもよい。ここで、「実質的に」という用語は、不純物の混入等に起因して不可避的に第11族元素、第13族元素及び第16族元素以外の元素が含まれることを考慮して使用している。
或いは、前記コアは、他の元素を含んでいてもよい。例えば、第13族元素の一部は他の金属元素により置換されていてもよい。他の金属元素は、+3価の金属イオンになるものであってよく、具体的には、Cr、Fe、Al、Y、Sc、La、V、Mn、Co、Ni、Ga、In、Rh、Ru、Mo、Nb、W、Bi、As及びSbから選択される1種又は複数種の元素であってもよい。その置換量は、第13族元素と置換元素とを合わせた原子の数を100%としたときに、10%以下であることが好ましい。
【0033】
前記コアは、例えば、10nm以下、特には、8nm以下の平均粒径を有してよい。コアの平均粒径が小さい方が、量子サイズ効果が得られ易くなり、バンド端発光が得られ易くなる。
【0034】
--量子ドットのシェル--
前記量子ドットのシェルは、第13族元素と、第16族元素と、を含む化合物半導体からなる。
前記第13族元素としては、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)が挙げられ、これらの中でも、インジウム(In)及びガリウム(Ga)が好ましい。
前記第16族元素としては、酸素(O)、硫黄(S)、セレン(Se)、テルル(Te)、ポロニウム(Po)が挙げられ、これらの中でも、硫黄(S)が好ましい。
シェルを構成する化合物半導体には、第13族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれていてもよく、また、第16族元素が1種類だけ、または2種類以上含まれていてもよい。
【0035】
前記シェルは、コアを構成する化合物半導体よりも大きいバンドギャップエネルギーを有する化合物半導体であって、実質的に第13族元素及び第16族元素からなる化合物半導体であることが好ましい。具体的には、「実質的に」とは、シェルに含まれるすべての元素の原子数の合計を100%としたときに、第13族元素及び第16族元素以外の元素の割合が例えば5%以下であることを示す。
第11族元素-第13族元素-第16族元素の多元系の化合物半導体は、一般に、1.0eV~3.5eVのバンドギャップエネルギーを有する。従って、シェルは、コアを構成する化合物半導体のバンドギャップエネルギーに応じて、その組成等を選択して構成するとよい。具体的には、シェルは、例えば、2.0eV~5.0eVのバンドギャップエネルギーを有してよい。また、シェルのバンドギャップエネルギーは、コアのバンドギャップエネルギーよりも、例えば0.1eV~3.0eV程度、特には0.5eV~1.0eV程度大きいものであってよい。シェルのバンドギャップエネルギーとコアのバンドギャップエネルギーとの差が小さいと、コアからの発光において、バンド端発光以外の発光の割合が多くなり、バンド端発光の割合が小さくなることがある。
硫化インジウム及び硫化ガリウムは、第11族元素-第13族元素-第16族元素の多元系の化合物半導体、特には、Ag-In-S又はAg-In-Zn-Sがコアである場合に、シェルを構成する半導体として好ましく用いられる。特に、硫化ガリウムは、バンドギャップエネルギーがより大きいことから好ましく用いられる。硫化ガリウムを使用する場合には、硫化インジウムを使用する場合と比較して、より強いバンド端発光を得ることができる。
【0036】
また、前記シェルは、その化合物半導体の晶系がコアの化合物半導体の晶系となじみのあるものであってよく、また、その格子定数が、コアの化合物半導体の格子定数と同じ又は近いものであってよい。晶系になじみがあり、格子定数が近い化合物半導体からなるシェルは、コアの周囲を良好に被覆することがある。あるいは、シェルは、アモルファス(非晶質)であってもよい。
【0037】
前記シェルの厚さは、0.1nm~50nmの範囲内、特には0.2nm~10nmの範囲内にあってよい。シェルの厚さが0.1nm以上の場合には、シェルがコアを被覆することによる効果が十分に得られ、バンド端発光が得られ易くなる。
【0038】
前記シェルは、その表面が任意の化合物で修飾されていてよい。シェルの表面がコアシェル構造の半導体ナノ粒子の露出表面である場合には、当該表面を修飾することによって、ナノ粒子を安定化させて半導体ナノ粒子の凝集または成長を防止することができ、並びに/或いは、半導体ナノ粒子の溶媒中での分散性を向上させることができる。
前記表面の修飾に用いる表面修飾剤としては、例えば、炭素数4~20の炭化水素基を有する含窒素化合物、含硫黄化合物、含酸素化合物等が挙げられる。炭素数4~20の炭化水素基としては、n-ブチル基、イソブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ドデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等の飽和脂肪族炭化水素基;オレイル基等の不飽和脂肪族炭化水素基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の脂環式炭化水素基;フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、ナフチルメチル基等の芳香族炭化水素基、等が挙げられ、このうち飽和脂肪族炭化水素基や不飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。含窒素化合物としては、アミン類やアミド類が挙げられ、含硫黄化合物としては、チオール類が挙げられ、含酸素化合物としては脂肪酸類などが挙げられる。
含窒素化合物の表面修飾剤は、例えば、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、n-ペンチルアミン、n-ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ヘキサデシルアミン、オクタデシルアミン等のアルキルアミンや、オレイルアミン等のアルケニルアミンである。特に純度の高いものが入手し易い点と沸点が290℃を超える点から、n‐テトラデシルアミンが好ましい。
含硫黄化合物の表面修飾剤は、例えば、n-ブタンチオール、イソブタンチオール、n-ペンタンチオール、n-ヘキサンチオール、オクタンチオール、デカンチオール、ドデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等である。
【0039】
合成された量子ドットは、通常は、未反応原料を始めとする不純物を含んでいる。発光層に余分な原料成分を含むと電荷輸送を阻害することから、精製処理を施して余分な原料成分を除去することが好ましい。このときの精製方法としては、沈殿・再分散を利用した方法が挙げられる。これは量子ドット分散液に量子ドットを分散させない溶媒(貧溶媒)を加えて、量子ドットを沈殿させて回収し、目的の溶媒に再分散させる方法である。極性の小さい有機溶媒に分散している量子ドットに対しては、一般的に貧溶媒として極性の大きいアルコール等の溶媒を加えて沈殿を得る。
【0040】
上述した量子ドットとしては、コアを構成する化合物半導体が、銀と、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含み、シェルを構成する化合物半導体が、インジウム及び/又はガリウムと、硫黄と、を含む量子ドットが特に好ましい。この場合、コアと、シェルとの連続的な結晶成長を促進でき、色純度の更に高い光を発することができる。
【0041】
前記発光層50は、上述の量子ドットと共に、電子輸送材料を含み、発光層50が電子輸送材料を含むことで、ELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制できる。前記電子輸送材料は、例えば、前記量子ドットと混合され、発光層50において、量子ドットの隙間を埋める形で存在する。該電子輸送材料は、量子ドットと混合して使用する場合は、量子ドットの分散液に溶解する材料であることが好ましい。該電子輸送材料としては、有機溶媒への溶解性を有し、且つ電子輸送性を有する無機材料あるいは有機材料を好適に用いることができる。該電子輸送材料は、好ましくは電子輸送性の有機材料であり、電子輸送性の有機材料としては、例えば、ピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体、トリアゾール誘導体等が挙げられる。また、該電子輸送材料としては、上記の「電子輸送層」の項で説明したような、含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料が好ましく、上記一般式(1)に示すような含窒素複素環を含む低分子材料あるいは高分子材料が更に好ましい。発光層50に用いる好適な電子輸送材料として、具体的には、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(BCP)、1,3,5-トリス(N-フェニルベンズイミダゾール-2-イル)ベンゼン(TPBI)、3-フェニル-4-(1’-ナフチル)-5-フェニル-1,2,4-トリアゾール(TAZ)、4,7-ジフェニル-1,10-フェナントロリン(Bphen)、1,3,5-トリ(m-ピリド-3-イル-フェニル)ベンゼン(TmPyPB)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、量子ドット発光素子のELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制する効果、及び素子特性の観点から、トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)が好ましい。
【0042】
また、前記電子輸送材料の添加量は、前記量子ドットに対して質量比で0.05~10の範囲が好ましく、0.5~3の範囲が更に好ましい。量子ドットと電子輸送材料との質量比が上記の範囲内であれば、ELスペクトルに見られる欠陥発光を抑制する効果が更に大きくなる。
【0043】
発光層50の成膜方法としては、特に限定されないが、量子ドットを有機溶媒や水に溶解させた溶液を調製し、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等によって成膜することができる。このとき、赤、緑、青に発光する材料を微細に塗分けすることで、カラー表示が可能な表示装置の画素とすることができる。
前記発光層50の平均厚さは、特に限定されるものではないが、5~200nmが好ましく、10~50nmが更に好ましい。
【0044】
<正孔輸送層>
前記正孔輸送層60は、陽極80から注入した正孔を発光層50まで輸送するために用いる。正孔輸送層60を構成する材料としては、正孔輸送性の無機材料あるいは有機材料を用いることができる。正孔輸送層60を構成する材料は、好ましくは正孔輸送性の有機材料である。正孔輸送性の有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができる。正孔輸送層60を構成する材料としては、例えば、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)、2,2’-ビス(N-カルバゾール)-9,9’-スピロビフルオレン(CFL)、4,4’-ビス(カルバゾール-9-イル)ビフェニル(CBP)、4,4’,4”-トリメチルトリフェニルアミン、N,N,N’,N’-テトラフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD1)、N,N’-ジフェニル-N,N’-ビス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD2)、N,N,N’,N’-テトラキス(4-メトキシフェニル)-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(TPD3)、N,N’-ジ(1-ナフチル)-N,N’-ジフェニル-1,1’-ビフェニル-4,4’-ジアミン(α-NPD)、4,4’,4”-トリス(N-3-メチルフェニル-N-フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔輸送性の観点から、4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)が好ましい。
前記正孔輸送層60の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmであることが好ましく、20~100nmが更に好ましい。
【0045】
<正孔注入層>
前記正孔注入層70は、陽極80からの正孔注入を容易にする目的で用いる。正孔注入層70の材料としては、無機材料、有機材料のいずれも用いることができる。無機材料としては、酸化モリブデン(MoO)、酸化バナジウム(V)、酸化ルテニウム(RuO)、酸化レニウム、酸化タングステン、酸化マンガン等が挙げられる。また、有機材料としては、低分子材料、高分子材料のいずれも用いることができるが、高分子材料の例としては、PEDOT:PSS等が挙げられる。なお、PEDOTは、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)を示し、PSSは、ポリ(スチレンスルホン酸)を示す。正孔注入層70には、これらの1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、正孔注入層70に用いる材料としては、正孔注入性の観点から、酸化モリブデンが好ましい。
前記正孔注入層70の平均厚さは、特に限定されるものではないが、1~500nmが好ましく、3~50nmが更に好ましい。
【0046】
<陽極>
前記陽極80は、前記基板20側より光を取り出すボトムエミッション型素子の場合は、金属の薄膜を用いることができる。ここで、陽極80の材料としては、仕事関数が比較的大きい金属が好ましい。仕事関数の大きい金属を用いることにより、陽極80から有機層への正孔注入障壁を低くすることができ、正孔を注入させ易くすることができる。陽極80に用いる金属材料としては、特に限定されないが、Al、Au、Pt、Ni、W、Cr、Mo、Fe、Co、Cu等が挙げられ、Alを用いることが好ましい。
前記基板20や下部の陰極30が透明でない場合には、上部電極となる陽極80は、透明電極とする。ここで、該透明電極の材料としては、特に限定されないが、例えば、インジウム-錫-酸化物(ITO)、インジウム-亜鉛-酸化物(IZO)等の導電性透明酸化物を用いることができる。
前記陽極80の平均厚さは、特に限定されるものではないが、10~500nmが好ましく、30~150nmが更に好ましい。
【0047】
上述した電子注入層40、正孔輸送層60、正孔注入層70は、省略することも可能であり、また、それぞれの層が複数の役割を受け持つ構造となっていてもよい。例えば、一つの層で、正孔注入層と正孔輸送層を兼用したりすることも可能である。
【0048】
<各層の形成方法>
前記陰極30、電子注入層40、電子輸送層、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70、陽極80の形成方法は、特に限定されるものではなく、真空蒸着法、電子ビーム法、スパッタリング法、スピンコート法、インクジェット法、印刷法等の方法を用いることができる。また、これらの方法を用いて、陰極30、電子注入層40、電子輸送層、発光層50、正孔輸送層60、正孔注入層70、陽極80の厚さを、目的に応じて適宜調整することができる。また、これらの方法は、各層の材料の特性に応じて選択するのが好ましく、層ごとに作製方法が異なっていてもよい。
【0049】
<用途>
本発明の量子ドット発光素子は、後述する表示装置を始め、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等にも利用できる。
【0050】
<<表示装置>>
本発明の表示装置は、上述の量子ドット発光素子を具えることを特徴とする。本発明の表示装置は、上述した低毒性としつつ、色純度の高い光を発することが可能な量子ドット発光素子を具えるため、低毒性としつつ、広色域表示が可能である。本発明の表示装置は、上述した量子ドット発光素子の他に、表示装置に一般に用いられる他の部品を具えることができる。
【実施例
【0051】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
<量子ドット(AgInS/GaS)の合成>
本発明に従う、多元系コアシェル型量子ドット(AgInS/GaS)を以下の方法で合成した。
酢酸銀(AgOAc)、酢酸インジウム(In(OAc))をそれぞれ0.4mmol、チオ尿素を0.8mmol、35.8mmolのn-テトラデシルアミン、および0.2mLの1-ドデカンチオールを、二つ口フラスコに入れ、真空脱気(常温にて3min)した後、Ar雰囲気下にて、5℃/minの昇温速度で、150℃に達するまで昇温した。得られた懸濁液を放冷し、90℃を下回ったあたりで少量のヘキサンを加えた後、遠心分離(半径150mm、4000rpm、10分間)に付し、上澄みである濃い赤色の溶液を取り出した。これにナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径150mm、2500rpm、3分間)に付し、沈殿物を常温で真空乾燥し、半導体ナノ粒子(一次半導体ナノ粒子)を得た。
一次半導体ナノ粒子をコアとして、これらのうち、ナノ粒子としての物質量で30nmolを、ガリウムアセチルアセトナト(Ga(acac))0.1mmolと、硫黄0.15mmolと、n-テトラデシルアミン36.48mmolとを、フラスコに入れて、10℃/minの昇温速度で260℃まで加熱し、260℃にて50分間保持した後、加熱源をoffにして放冷した。その後、溶液にメタノールを加えて、コアシェル構造の半導体ナノ粒子の析出物を得て、遠心分離(半径150mm、2500rpm、3分間)により固体成分を回収した。これをクロロホルムに再分散した。
【0053】
<フォトルミネッセンス特性>
合成した量子ドット(AgInS/GaS)のクロロホルム分散液のフォトルミネッセンス(PL)特性を評価したところ、半値幅45nm、ピーク波長560nmの高色純度黄色発光が得られた。そのPLスペクトルを図2(a)に示す。PLスペクトルのピークに対する波長700nmの成分の強度比は0.015であり、欠陥発光成分は極めて小さく抑えられていた。
【0054】
<量子ドット発光素子の作製>
図1に示す構造の本発明に従う量子ドット発光素子を次のようにして作製した。
まず、ガラス基板20にITOからなる陰極30(厚さ:100nm)を形成し、これを複数のライン状にパターニングした。
次に、電子注入層40として、酸化亜鉛(ZnO)ナノ粒子をスピンコートにより成膜した(厚さ:30nm)。
次に、下記式(2):
【化2】
で示される構造式を有する、含窒素複素環を含む電子輸送材料[トリス(2,4,6-トリメチル-3-(ピリジン-3-イル)フェニル)ボラン(3TPYMB)]と、本発明に従う量子ドット(AgInS/GaS)との混合クロロホルム溶液をスピンコートすることにより、電子輸送材料と量子ドットとからなる発光層50(電子輸送材料の添加量に応じて厚さ:10-50nm)を形成した。この際、電子輸送材料の添加量を量子ドットに対する質量比で0.33、2.0に調整して、組成が異なる発光層を、それぞれ成膜した。なお、各発光層50において、量子ドットの分量を固定して、電子輸送材料の添加量を変化させて組成を変化させた。具体的には、電子輸送材料の添加量を量子ドットに対する質量比で0.33とした例では、発光層の厚さは20nmであり、電子輸送材料の添加量を量子ドットに対する質量比で2.0とした例では、発光層の厚さは50nmであり、後述する比較例1のように、電子輸送材料の添加量を量子ドットに対する質量比で0.0とした例では、発光層の厚さは10nmである。
次に、基板を真空蒸着装置に入れ、真空蒸着法により、正孔輸送層60として、下記式(3):
【化3】
で示される構造式を有する材料[4,4’,4”-トリス(カルバゾール-9-イル)トリフェニルアミン(TCTA)]を40nm、正孔注入層70として酸化モリブデン(MoO)を10nm、陽極80としてAlを80nm、順次成膜した。
なお、図1には示していないが、量子ドット発光素子は、窒素ガスで満たされたグローブボックス中で、封止用ガラスの周縁部に紫外線硬化樹脂を塗布した後、量子ドット発光素子を形成した前記基板の周縁部に貼り合せて、封止を行った。
【0055】
<量子ドット発光素子の特性評価>
上記の量子ドット発光素子のITO陰極30側に負、Al陽極80側に正となるように電圧を印加して、電流-電圧-輝度特性を測定し、電界発光(EL)スペクトルを観測した。ELスペクトルを図3(a)に示す(なお、図3(a)には、後述の比較例1の結果も含まれている)。
電子輸送材料の添加量に関わらず、半値幅45nm、ピーク波長570nmのバンド端発光が得られた。一方、欠陥発光成分は電子輸送材料の添加量に依存して異なり、ELスペクトルのバンド端発光成分のピークに対する波長700nmの成分の強度比は、電子輸送材料の添加によって、強度比0.16(添加量:0.33)、強度比0.12(添加量:2.0)と添加量に応じて欠陥発光強度を抑えられた。
【0056】
(比較例1)
実施例1で合成した多元系コアシェル型量子ドット(AgInS/GaS)を用いて、発光層50に電子輸送材料を含んでいないこと以外は、実施例1と同様にして、量子ドット発光素子を作製した。
作製した量子ドット発光素子に対して、実施例1と同様に電流-電圧-輝度特性を測定し、電界発光(EL)スペクトルを観測した。ELスペクトルを図3(a)に示す(電子輸送材料添加量:0)。
ELスペクトルのバンド端発光成分のピークに対する波長700nmの成分の強度比は、電子輸送材料を添加したEL素子と比べて大きく、強度比0.29という大きな欠陥発光成分が生じた。
【0057】
(実施例2)
<量子ドット(AgInGaS/GaS)の合成>
本発明に従う、多元系コアシェル型量子ドット(AgInGaS/GaS)を以下の方法で合成した。
0.083mmolの酢酸銀(AgOAc)、0.050mmolのアセチルアセトナートインジウム(In(CHCOCHCOCH;In(AcAc))、0.075mmolのアセチルアセトナートガリウム(Ga(CHCOCHCOCH;Ga(AcAc))および硫黄源として0.229mmolの硫黄を、0.25cmの1-ドデカンチオールと2.75cmのオレイルアミンの混合液に投入して分散させた。分散液を、撹拌子とともに試験管に入れ、窒素置換を行った後、窒素雰囲気下で、試験管内の内容物を撹拌しながら、300℃で10分の加熱処理を実施した。加熱処理後、得られた懸濁液を放冷した後、遠心分離(半径150mm、4000rpm、5分間)に付し、上澄みである分散液を取り出した。これに半導体ナノ粒子の沈殿が生じるまでメタノールを加えて、遠心分離(半径150mm、4000rpm、5分間)に付し、半導体ナノ粒子を沈殿させた。沈殿物を取り出して、クロロホルムに分散させて半導体ナノ粒子コア分散液を得た。
【0058】
得られた半導体ナノ粒子コアの分散液のうち、ナノ粒子としての物質量(粒子数)で1.0×10-5mmolを量りとり、試験管内で溶媒を蒸発させた。5.33×10-5molのGa(AcAc)(19.3mg)とチオ尿素(4.06mg)を3.0mLのオレイルアミンに分散させた分散液を得、これを窒素雰囲気下で300℃、15分間撹拌した。加熱源から取り出し、常温まで放冷し、遠心分離(半径150mm、4000rpm、5分間)し、上澄み部分と沈殿部分とに分けた。その後、上澄み部分にメタノールを加えて、コアシェル型半導体ナノ粒子の析出物を得た後、遠心分離(半径150mm、4000rpm、5分間)により固体成分を回収した。さらにエタノールを加えて同様に遠心分離し、クロロホルムに分散した。
【0059】
<フォトルミネッセンス特性>
合成した量子ドット(AgInGaS/GaS)のクロロホルム分散液のフォトルミネッセンス(PL)特性を評価したところ、半値幅41nm、ピーク波長515nmの黄緑色発光が得られた。そのPLスペクトルを図2(b)に示す。PLスペクトルのピークに対する波長650nmの成分の強度比は0.08であり、一定量の欠陥発光成分を含んだPLスペクトルとなった。
【0060】
<量子ドット発光素子の作製>
発光層50の量子ドットとして、AgInGaS/GaSからなる量子ドットを用いたこと以外は、実施例1と同じ方法で量子ドット発光素子を作製した。
【0061】
<量子ドット発光素子の特性評価>
上記の量子ドット発光素子のITO陰極30側に負、Al陽極80側に正となるように電圧を印加して、電流-電圧-輝度特性を測定し、電界発光(EL)スペクトルを観測した。ELスペクトルを図3(b)に示す(なお、図3(b)には、後述の比較例2の結果も含まれている)。電子輸送材料の添加量に関わらず、半値幅46nm程度、ピーク波長518nm付近にバンド端発光が得られた。一方、欠陥発光成分は電子輸送材料の添加量に依存して異なり、ELスペクトルのバンド端発光成分のピークに対する波長650nmの成分の強度比は、電子輸送材料の添加によって、強度比0.80(添加量:0.33)、強度比0.34(添加量:2.0)と添加量に応じて欠陥発光強度を抑えられた。
【0062】
(比較例2)
実施例2で合成した多元系コアシェル型量子ドット(AgInGaS/GaS)を用いて、発光層50に電子輸送材料を含んでいないこと以外は、実施例2と同様にして、量子ドット発光素子を作製した。
作製した量子ドット発光素子に対して、実施例2と同様に電流-電圧-輝度特性を測定し、電界発光(EL)スペクトルを観測した。ELスペクトルを図3(b)に示す(電子輸送材料添加量:0)。
ELスペクトルのバンド端発光成分のピークに対する波長650nmの成分の強度比は、電子輸送材料を添加したEL素子と比べて大きく、強度比1.72という大きな欠陥発光成分が生じた。
【0063】
以上の実施例1、比較例1、実施例2及び比較例2のフォトルミネッセンス(PL)及びエレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルの結果を表1に示す。
【0064】
【表1】
【0065】
上記の実施例の結果から、第11族元素-第13族元素-第16族元素からなる多元系の量子ドットを用いた量子ドット発光素子において、発光層に、かかる量子ドットと共に電子輸送性の材料を含ませることで、ELスペクトルに現れる欠陥発光を抑制できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の量子ドット発光素子は、高色純度な発光を必要とする様々なデバイス、製品に応用することが可能であり、表示装置、照明機器、バックライト、電子写真、照明光源、露出光源、標識、看板、インテリア等に好適に使用できる。
【符号の説明】
【0067】
10:量子ドット発光素子
20:基板
30:陰極
40:電子注入層
50:発光層
60:正孔輸送層
70:正孔注入層
80:陽極
図1
図2
図3