(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-12
(45)【発行日】2024-04-22
(54)【発明の名称】試料導入装置、誘導結合プラズマ分析装置および分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/73 20060101AFI20240415BHJP
【FI】
G01N21/73
(21)【出願番号】P 2020127491
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2022-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2020076455
(32)【優先日】2020-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】302006854
【氏名又は名称】株式会社SUMCO
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】水野 泰輔
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 和三
(72)【発明者】
【氏名】藤井 紳一郎
(72)【発明者】
【氏名】宮下 振一
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-190136(JP,A)
【文献】国際公開第2018/207606(WO,A1)
【文献】特開平08-145950(JP,A)
【文献】特開平08-054370(JP,A)
【文献】特開平05-256837(JP,A)
【文献】特開平10-188877(JP,A)
【文献】特開2008-157895(JP,A)
【文献】特開2005-026159(JP,A)
【文献】特表2021-527828(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62-21/74
G01N 27/60-27/70
G01N 1/00-1/44
G01N 30/00-30/96
H05H 1/00-1/54
H01J 49/00-49/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料液を霧化するネブライザーと、
一方の端部に前記ネブライザーの噴霧口部が挿入され、該噴霧口部から噴霧された試料液の液滴の少なくとも一部が他方の端部から外部へ排出されるスプレーチャンバーと、
前記スプレーチャンバーの外側に配置された加熱用電磁波照射部と、
を有し、
前記加熱用電磁波照射部は、前記スプレーチャンバーの外側から、前記ネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除く前記スプレーチャンバーの少なくとも一部の部分に向かって加熱用電磁波を照射
し、かつ
前記加熱用電磁波は、近赤外線である、試料導入装置。
【請求項2】
前記スプレーチャンバーは、ガラス、石英またはフッ素樹脂製である、請求項
1に記載の試料導入装置。
【請求項3】
前記加熱用電磁波照射部は、少なくとも前記スプレーチャンバーの前記液滴の少なくとも一部が排出される側の端部寄りの部分に向かって加熱用電磁波を照射する、請求項1
または2に記載の試料導入装置。
【請求項4】
前記加熱用電磁波照射部は円環形状を有し、該円環形状の空洞部に前記スプレーチャンバーが挿入されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の試料導入装置。
【請求項5】
前記ネブライザーへの前記試料液の導入量は、1μL/min以上500μL/min以下である、請求項1~
4のいずれか1項に記載の試料導入装置。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載の試料導入装置と、分析部と、を含む誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項7】
プラズマトーチと、該プラズマトーチに分析対象試料を導入するインジェクターと、を含み、
前記インジェクターの内径は、0.50mm以上1.50mm以下である、請求項
6に記載の誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項8】
前記プラズマトーチにアルゴンガスを供給するガス供給源およびアルゴンガス以外の一種以上の他のガスを供給するガス供給源を更に含む、請求項
7に記載の誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項9】
前記一種以上の他のガスは、窒素ガス、酸素ガスおよび水素ガスからなる群から選択され、単位時間あたりの供給量として、アルゴンガスより少量の該ガスが前記プラズマトーチに供給される、請求項
8に記載の誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項10】
誘導結合プラズマ質量分析装置または誘導結合プラズマ発光分光分析装置である、請求項
6~
9のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ分析装置。
【請求項11】
分析対象試料の定性分析、定量分析または定性分析および定量分析を、請求項
6~
10のいずれか1項に記載の誘導結合プラズマ分析装置によって行うことを含む、分析方法。
【請求項12】
分析対象試料中の金属成分の定性分析、定量分析または定性分析および定量分析を行う、請求項
11に記載の分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料導入装置、誘導結合プラズマ分析装置および分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料液を霧化して液滴として分析部に導入するために、ネブライザー(噴霧器)およびスプレーチャンバーを含む試料導入装置が、各種分析装置に備えられている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
分析装置によって信頼性の高い分析結果を得るためには、分析装置を継続的に使用しても測定結果が大きく変動しないことが望まれる。しかし、本発明者の検討によって、特許文献1に記載されている装置は、この点において必ずしも十分なものではないことが明らかとなった。
【0005】
本発明の一態様は、分析装置において信頼性の高い分析結果を得ることを可能にするための試料導入装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
試料液を霧化するネブライザーと、
一方の端部に上記ネブライザーの噴霧口部が挿入され、噴霧口部から噴霧された試料液の液滴の少なくとも一部が他方の端部から外部へ排出されるスプレーチャンバーと、
上記スプレーチャンバーの外側に配置された加熱用電磁波照射部と、
を有し、
上記加熱用電磁波照射部は、上記スプレーチャンバーの外側から、上記ネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除く上記スプレーチャンバーの少なくとも一部の部分に向かって加熱用電磁波を照射する、試料導入装置、
に関する。
【0007】
先に示した特開2008-157895号公報(特許文献1)には、加熱光の照射手段を備えた試料導入装置が開示されている。ネブライザーによって霧化されてチャンバーに導入される試料液滴を加熱光により加熱すると、試料液滴に含まれる溶媒の少なくとも一部を気化させることができる。本発明者は、このように試料液滴を加熱して溶媒の少なくとも一部を気化させることによって、分析装置の分析部への溶媒による負荷を低減することができ、このことは分析部で得られる測定信号強度を高めることにつながると考えている。しかし特開2008-157895号公報に記載の装置では、照射手段による加熱光の照射は、ネブライザーの噴霧口を覆うように行われる(同公報の請求項1、
図1等参照)。これに対し、上記の本発明の一態様にかかる試料導入装置では、加熱用電磁波照射部は、スプレーチャンバーのネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除く少なくとも一部の部分に向かって加熱用電磁波を照射する。即ち、ネブライザーの噴霧口部は、加熱用電磁波の直接の照射を受けない。本発明者は、このことが、かかる試料導入装置を含む分析装置を継続的に使用しても測定結果が大きく変動しないことに寄与すると考えている。詳しくは、以下の通りである。
特開2008-157895号公報に記載の装置のようにネブライザーの噴霧口を覆うように加熱光を照射すると、照射を続けるうちに、ネブライザーの噴霧口で試料液に含まれる成分が乾燥して噴霧口の内部や先端に析出してしまうと考えられる。分析装置における分析中に、このような析出物や積層炭化物といった付着物が噴霧口の内部や先端に付着すると、ネブライザーから噴霧される試料液滴量にばらつきが生じ、結果的に測定結果が大きく変動する原因になると考えられる。
これに対し、上記の本発明の一態様にかかる試料導入装置では、ネブライザーの噴霧口部は、加熱用電磁波の直接の照射を受けない。これにより、分析装置における分析中、ネブライザーから噴霧される試料液滴量がばらつくことを抑制することができ、その結果、測定結果が大きく変動することなく信頼性の高い分析を行うことが可能になると考えられる。
【0008】
一形態では、上記加熱用電磁波は、近赤外線を含むことができる。
【0009】
一形態では、上記スプレーチャンバーは、ガラス、石英またはフッ素樹脂製であることができる。
【0010】
一形態では、上記加熱用電磁波照射部は、少なくとも上記スプレーチャンバーの上記液滴の少なくとも一部が排出される側の端部寄りの部分に向かって加熱用電磁波を照射することができる。
【0011】
一形態では、上記加熱用電磁波照射部は円環形状を有することができ、この円環形状の空洞部に上記スプレーチャンバーを挿入することができる。
【0012】
一形態では、上記ネブライザーへの上記試料液の導入量は、1μL/min以上500μL/min以下であることができる。
【0013】
本発明の一態様は、上記試料導入装置と、分析部と、を含む誘導結合プラズマ分析装置に関する。
【0014】
一形態では、上記誘導結合プラズマ分析装置は、プラズマトーチと、プラズマトーチに分析対象試料を導入するインジェクターと、を含むことができ、このインジェクターの内径は0.50mm以上1.50mm以下であることができる。
【0015】
一形態では、上記誘導結合プラズマ分析装置は、上記プラズマトーチにアルゴンガスを供給するガス供給源およびアルゴンガス以外の一種以上の他のガスを供給するガス供給源を更に含むことができる。
【0016】
一形態では、上記一種以上の他のガスは、窒素ガス、酸素ガスおよび水素ガスからなる群から選択されることができ、このガスは、単位時間あたりの供給量として、アルゴンガスより少量で上記プラズマトーチに供給されることができる。
【0017】
一形態では、上記誘導結合プラズマ分析装置は、誘導結合プラズマ質量分析装置または誘導結合プラズマ発光分光分析装置であることができる。
【0018】
本発明の一態様は、分析対象試料の定性分析、定量分析または定性分析および定量分析を、上記誘導結合プラズマ分析装置によって行うことを含む、分析方法に関する。
【0019】
一形態では、上記分析方法は、分析対象試料中の金属成分の定性分析、定量分析または定性分析および定量分析を行うことができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一態様によれば、分析装置において信頼性の高い分析結果を得ることを可能にするための試料導入装置を提供することができる。更に、本発明の一態様によれば、かかる試料導入装置を含む誘導結合プラズマ分析装置およびこの誘導結合プラズマ分析装置を用いる分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一態様にかかる試料導入装置の一例を示す概略図(側面図)である。
【
図2】スプレーチャンバーの一例を示す概略図(側面図)である。
【
図3A】スプレーチャンバーの一例を示す概略図(上面図)である。
【
図3B】スプレーチャンバーの一例を示す概略図(側面図)である。
【
図4A】
図3Aおよび
図3Bに示すスプレーチャンバーにおけるアディショナルガス導入管部の配置の説明図である。
【
図4B】
図3Aおよび
図3Bに示すスプレーチャンバーにおけるアディショナルガス導入管部の配置の説明図である。
【
図4C】
図3Aおよび
図3Bに示すスプレーチャンバーにおけるアディショナルガス導入管部の配置の説明図である。
【
図5A】スプレーチャンバーの他の一例を示す概略図(上面図)である。
【
図5B】スプレーチャンバーの他の一例を示す概略図(側面図)である。
【
図6】実施例1および比較例1について得られたIn信号強度のモニタリング結果を示す。
【
図7】実施例2および実施例3について算出されたIn信号強度の相対標準偏差(RSD)を示す。
【
図8】実施例4において得られた各種アナライトの信号強度の相対強度比(加熱用電磁波照射ありでの信号強度/加熱用電磁波照射なしでの信号強度)を示す。
【
図9】実施例4において得られた各種アナライトの信号強度の相対標準偏差(RSD)を示す。
【
図10】実施例5において得られたた各種アナライトの信号強度の相対強度比(N
2導入ありでの信号強度/N
2導入なしでの信号強度)を示す。
【
図11】実施例5において得られた各種アナライトの信号強度の相対標準偏差(RSD)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[試料導入装置]
以下、上記試料導入装置について、更に詳細に説明する。以下では、図面を参照して説明することがあるが、図面に示す形態は例示であって、かかる形態に本発明は限定されるものではない。
【0023】
図1は、本発明の一態様にかかる試料導入装置の一例を示す概略図(側面図)である。
図1に示す試料導入装置1は、スプレーチャンバー10、ネブライザー16および加熱用電磁波照射部17を含む。
【0024】
<加熱用電磁波照射部>
図1に示す試料導入装置1では、加熱用電磁波照射部17は、ネブライザー16の先端の噴霧口部に加熱用電磁波を照射しない位置に配置されている。加熱用電磁波照射部をこのように配置することが、この試料導入装置を含む分析装置を継続的に使用しても測定結果が大きく変動しないことに寄与し得ると考えられる。更に、加熱用電磁波照射部からの加熱用電磁波の照射によって、ネブライザーから導入された試料液滴に含まれる溶媒の少なくとも一部を気化できることは、分析装置の分析部への溶媒による負荷を低減することに寄与し、このことは分析部で得られる測定信号強度を高めることにつながると考えられる。また、加熱用電磁波照射のための手段をスプレーチャンバーの外側に配置することによって、かかる手段によるスプレーチャンバー内部の汚染発生を防止することができる。
【0025】
加熱用電磁波照射部から照射される加熱用電磁波は、スプレーチャンバー内部を流れる試料液の液滴を加熱可能な各種電磁波であることができる。かかる電磁波としては、例えば、赤外線、マイクロ波等を挙げることができる。ここで、「赤外線」とは、波長が780nm~1000μmの範囲の電磁波をいい、近赤外線(波長780nm~2μm)、中赤外線(波長2μm超~4μm)および遠赤外線(波長4μm超~1000μm)が包含される。「マイクロ波」とは、波長が1cm~10cmの範囲の電磁波をいう。一形態では、加熱用電磁波照射部から照射される加熱用電磁波は、スプレーチャンバーを昇温することなく(または昇温の程度が小さく)、スプレーチャンバー内を流れる試料液の液滴を加熱することが可能な電磁波であることが好ましい。スプレーチャンバーが昇温されてスプレーチャンバーから汚染物質が浸み出してスプレーチャンバー内部が汚染されることを抑制できるからである。この点からは、加熱用電磁波は、近赤外線を含むことが好ましく、近赤外線であることがより好ましい。
【0026】
加熱用電磁波照射部は、一形態では、円環形状を有することができる。かかる円環形状の空洞部に、スプレーチャンバーを挿入することができる。円環形状を有する加熱用電磁波照射部は、円環の内側に向かって加熱用電磁波を照射することができる。そのような形態の加熱用電磁波照射部の一例が、
図1に示されている加熱用照射部17である。かかる加熱用電磁波照射部は、例えば、円環形状のカバー部の内側の円周方向に複数の電磁波照射手段(例えば赤外線ランプ、マイクロ波発生源等)が配列されている構成、円環形状のカバー部の内側に円環形状の電磁波照射手段が配置されている構成等を取り得る。また、円環形状のカバー部の内壁が、加熱用電磁波に対して反射性を有する材料によって構成されていてもよい。ただし、上記試料導入装置が有する加熱用電磁波照射部は、スプレーチャンバーの外側から、ネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除くスプレーチャンバーの少なくとも一部の部分に向かって加熱用電磁波を照射可能なものであればよく、円環形状のものに限定されず、各種形状および各種構成を取ることができる。
上記試料導入装置における加熱用電磁波照射部の設置位置については、更に後述する。
【0027】
<ネブライザー>
上記試料導入装置が有するネブライザーとしては、液滴を霧化可能な公知の構成のネブライザー(噴霧器とも呼ばれる。)を用いることができる。ネブライザーは、ネブライザーに導入された試料液を霧化し、霧化された試料液の液滴を含むガス流を噴霧してスプレーチャンバー内に導入することができる。ネブライザーへの試料液の導入量は、この試料導入装置によって試料が導入される分析装置の種類等に応じて決定すればよく、例えば、1μL/min以上500μL/min以下であることができる。ネブライザーでは、例えば、試料液をキャリアガスと混合して噴霧することにより、試料液滴を含むガス流を生成(試料を霧化)することができる。キャリアガスとしては、不活性ガスの一種または二種以上が一般に使用される。キャリアガスの具体例としては、例えばアルゴンガスを挙げることができる。
【0028】
ネブライザーにより霧化された試料液滴を含むガス流は、スプレーチャンバーに導入され、スプレーチャンバー内に流通される。
【0029】
<スプレーチャンバー>
上記試料導入装置が有するスプレーチャンバーは、一方の端部からガス流によって液滴を導入することができ、導入された液滴の少なくとも一部を他方の端部から外部へ排出することができる構成を有するものであればよい。かかる構成によれば、試料液の液滴を、ガス流とともにスプレーチャンバーの一方の端部から導入し、導入された試料液の液滴の少なくとも一部を他方の他端から外部へ排出することができる。スプレーチャンバーは、通常、液滴の粒径の違いによる重さの違いを利用して、重力差によって液滴の粒径を選別し、微細な液滴を選択的に分析装置に導入する役割を果たすことができる。
【0030】
上記スプレーチャンバーは、単一の管状部材であることができ、2つ以上の部材が組み合わされた部材であることもできる。加熱用電磁波の透過性の観点からは、スプレーチャンバーは、ガラス、石英またはフッ素樹脂製であることが好ましい。
【0031】
以下に、図面を参照し、上記試料導入装置が有するスプレーチャンバーの一例について説明する。ただし、上記試料導入装置が有するスプレーチャンバーは、かかる例示に限定されるものではない。
【0032】
図2は、スプレーチャンバーの一例を示す概略図(側面図)である。
図2に示すスプレーチャンバー10は、第一管部11および第二管部12を含む流路管部13からなる。
図2に示す態様のスプレーチャンバー10では、第一管部11が、詳細を後述する分析部と接続されている。詳しくは、第一管部11は、分析部の最もスプレーチャンバー側に位置する部分である入口部14と継手部材15を介して接続されている。また、
図2に示すスプレーチャンバー10において、第二管部12はネブライザー16と接続されている。更に、スプレーチャンバーのみの概略図を示した図面が、
図3Aおよび
図3Bである。
図3Aは上面図、
図3Bは側面図である。なお図中、点線は厚みを示すものであり、二重管を示すものではない。
【0033】
図3Aおよび
図3Bに示すスプレーチャンバー10は、一方の端部に排出口部110を有し、他方の端部に試料導入口部121を有する流路管部13からなる。流路管部13は、第一管部11と第二管部12により構成されている。第一管部11は、排出口部110、円錐部111および円筒部112からなる。一方、第二管部12は、円筒部120および試料導入管部121からなる。そして、第一管部11の円筒部112と第二管部12の円筒部120とが少なくとも一部で重なり合って連結することにより、二重管部100が構成されている。したがって、二重管部100の二重管の空間の内側壁面は、第二管部12の円筒部120の外側側面であり、二重管部100の二重管の空間の外側壁面は、第一管部11の円筒部112の内側壁面である。
【0034】
次に、第一管部、第二管部について、更に詳細に説明する。
【0035】
図3Aおよび
図3B中、第一管部11は、一方の端部に排出口部110を有し、排出口部110は円錐部111と連通している。円錐部111は、排出口部の側に向かって内径が小さくなる円錐形状を有する。この円錐部111には、第一管部の他方の端部を含む円筒部112が連通している。
一方、第二管部12は、第二管部の一方の端部を含む円筒部120と他方の端部を含む試料導入口部121とが連通している。
以上の構造を有する第一管部11と第二管部12とによって、流路管部13が構成されている。更に、第一管部11と第二管部12との接続部において、両管部の円筒部が重なり合って二重管部100が構成されている。二重管部とは、第一管部の円筒部の端部開口と第二管部の円筒部の端部開口との間の部分である。したがって二重管部の両端は開口であるが、開口で囲まれる仮想平面を、以下では底面と呼ぶ。
図3Aおよび
図3Bに示す態様では、第一管部11と第二管部12とは別部材であって、第一管部11の円筒部112の端部開口に、第二管部12の円筒部120を挿入することにより両管部が接続されて流路管部13が構成されている。例えば、第一管部11の円筒部112が、端部においてテーパー状に先細り端部開口の内径が第二管部12の円筒部120の端部開口の外径と略同一の形状であることにより、両管部を接続して形成される二重管部100に導入されるアディショナルガスが、両管部の接続部から外部に漏出することを抑制することができる。または、シール部材等により接続部の密閉性を確保してもよい。なお接続部の密閉性については、アディショナルガスの漏出を完全に防ぐことは必須ではなく、二重管部に導入されたアディショナルガスがガス流となって流れることを妨げない程度の漏出は許容されるものとする。または、第一管部と第二管部とを一体成形して流路管部を構成してもよい。
【0036】
二重管部100は、外側側面、即ち第一管部11の円筒部112の外側側面に開口を有する。この開口は、二重管部内(即ち二重管部の内側壁面と外側壁面とに囲まれる空間)にアディショナルガスを導入するための開口(アディショナルガス導入用開口)である。アディショナルガス導入管部101は、上記開口を介して二重管部内にアディショナルガスを導入する導入路となる。アディショナルガス導入管部から開口を介して二重管部内にアディショナルガスを導入することにより、導入されたアディショナルガスは二重管部内を旋回して第一管部11の円錐部111に向かってらせん状のガス流(アディショナルガス流)をもたらすことができる。スプレーチャンバーの排出口部側に向かって内径が小さくなる円錐部の存在も、アディショナルガス流がらせん状のガス流となることに寄与することができる。こうして発生するアディショナルガス流は、円錐部の壁面に沿ってらせん状に排出口部に向かうガス流になることができる。このようなアディショナルガス流により、試料液滴が円錐部の壁面に付着することを抑制することができ、更にはアディショナルガス流が試料液滴を取り込み排出口部へ導くことができる。
【0037】
図3Aおよび
図3Bに示す形態では、第一管部11の円筒部112は、アディショナルガス導入用開口以外に廃液用開口と廃液用開口を介して廃液するための廃液管部113を有する。この廃液管部113は、二重管部100の内部から外部へ廃液する廃液路としての役割を果たすことができる。また、
図3Aおよび
図3Bに示す形態では、第二管部12も廃液管部122を有する。この廃液管部122は第二管部12の内部から外部へ廃液する廃液路としての役割を果たすことができる。
【0038】
次に、上記スプレーチャンバーの各部について、更により詳細に説明する。
【0039】
図4A~
図4Cは、
図3Aおよび
図3Bに示すスプレーチャンバーにおけるアディショナルガス導入管部の配置の説明図である。
図4Aは
図3Aに示す上面図に説明のための矢印を示した図面であり、
図4Bは二重管部のアディショナルガス導入管部を含む部分の断面図である。
図4Cは、
図3Bに示す側面図に説明のための矢印を示した図面である。図中の矢印は、それぞれ以下の方向を示している。X方向は、アディショナルガス導入管部の中心軸方向である。Y方向は、第一管部の円筒部の中心軸方向であり、第一管部の円錐部の中心軸方向および第二管部の円筒部の中心軸方向と一致する。また、Y方向は、流路管部の中心軸方向とも一致する。Z方向は、導入管部の中心軸方向である。
【0040】
他の形態のスプレーチャンバーの上面図が
図5Aであり、側面図が
図5Bである。
図5Aおよび
図5Bに示す態様は、アディショナルガス導入管部101および試料導入口部121の配置が異なる点以外、
図2~
図4Cに示すスプレーチャンバーと同様である。同様の点の説明は省略する。
【0041】
X方向とY方向とのなす角度θ1は、
図4A~
図4Cに示す態様では90°であり、
図5Aおよび
図5Bに示す形態では110°である。角度θ1は、0°~180°の範囲で規定されるものとする。角度θ1は、アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点から90°~130°の範囲であることが好ましい。また、アディショナルガス導入用開口は、二重管部の外側側面の任意の位置に設けることができる。例えば、二重管部の外側側面の中央を基準として、第二管部寄りの位置に設けてもよく、第一管部寄りの位置に設けてもよく、アディショナルガス導入用開口の中心が二重管部の外側側面の中央と一致する位置に設けてもよい。アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点からは、アディショナルガス導入用開口は、二重管部の外側側面の第二管部よりの位置に設けることが好ましく、より第二管部に近い位置に設けるほど好ましい。
【0042】
アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点からは、二重管部の長さ、即ち第一管部側の底面を第一底面と第二管部側の底面との間の最短距離は、10.0mm~30.0mmの範囲であることが好ましい。また、アディショナルガス導入用開口の直径は、0.1~3.0mmの範囲であることが好ましい。なお廃液用開口の直径についても、同様である。
【0043】
第一管部において、円錐部は、円筒部と排出口部との間に位置し、排出口部の側に向かって内径が小さくなる部分である。第一管部において、円筒部側から排出口部側に向かう内径変化が開始する位置を円錐部の一方の端部とし、内径変化が終了する位置を円錐部の他方の端部とする。円錐部の一方の端部から他方の端部までの最短距離を、円錐部の長さと呼ぶ。円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は、円錐部での試料液滴の壁面付着ロスを低減する観点から0.3以上であることが好ましい。上記の比が0.3以上(より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上)であることにより、円錐部においてアディショナルガスのガス流を、より円滑にらせん状に旋回させることができる。また、上記の比が大きくなるほど円錐部の最大内径に対して円錐部の長さが長くなることを意味する。上記の比は、例えば4.0以下または3.5以下であることができる。ただし円錐部の長さを長くして上記の比を大きくするほど、スプレーチャンバーの全長が長くなりスプレーチャンバーは大型になる。一方、本発明者らの検討によれば、上記の比が3.0超になるほど円錐部を長くしてもそれ以上の分析感度の変化は見られなかった。したがって、分析感度の向上とスプレーチャンバーの小型化の両観点から、上記の比は、3.0以下であることが好ましい。
【0044】
第一管部の円錐部の最大内径は、例えば25.0~65.0mmの範囲であることが好ましい。円錐部の最大内径とは、即ち円錐部と連通する円筒部の内径である。なお円筒部は、先に記載したように端部においてテーパー状に先細る形状を有していてもよい。この場合、ここでいう円筒部の内径とは、円筒部の最大内径をいう。また、第一管部の円錐部の最小内径は、例えば5.0~10.0mmの範囲であることが好ましい。円錐部は、中心軸を通る断面の形状が完全な三角形の一部であることは必須ではなく、上記断面形状の少なくとも一部に曲線が含まれることも許容されるものとする。
【0045】
上記スプレーチャンバーにおいて、第二管部の円筒部の外径は、上記第一管部の円筒部の内径より小さい。これにより、第一管部の円筒部と上記第二管部の円筒部とが少なくとも一部で重なり合うことにより二重管部を形成することができる。第一管部の円筒部の内径と第二管部の円筒部の外径との差は、1.0mm~6.0mmの範囲であることが好ましい。上記の差が1.0mm~6.0mmの範囲であれば、二重管部において、第一管部の円筒部の壁面と第二管部の円筒部の外側側面とにより囲まれる空間、即ちアディショナルガスが導入される空間の幅を、0.5mm~3.0mmの範囲とすることができる。上記空間の幅が0.5mm以上であることは、二重管部からの廃液を容易にする観点から好ましい。また、上記空間の幅が3.0mm以下であることは、アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点から好ましい。一例として、第二管部の円筒部の内径は、例えば20.0mm~60.0mmの範囲であることが好ましい。例えば第二管部の円筒部の内径が20mm以上であれば、試料導入口部から導入されたガス流中の試料液滴同士の衝突を効果的に抑制することができ、液滴同士の衝突による液滴ロスを低減することができる。また、例えば第二管部の円筒部の内径が60mm以下であれば、第二管部の小型化、更にはスプレーチャンバーの小型化の観点から好ましい。
【0046】
第二管部は、円筒部および試料導入口部を有し、好ましくは円筒部と試料導入口部とからなる。
図4Cに示す態様では、試料導入口部121の中心軸方向(Z方向)と第一管部の円筒部の中心軸方向(Y方向)となす角度θ2は、30°である。一方、
図5Bに示す態様では、Z方向はY方向と同一方向(即ち、Z方向とY方向とのなす角度θ2=0°)。θ2は、0°~90°の範囲で規定されるものとする。θ2が0°の場合、試料導入口部の中心軸方向と略同一の方向から試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバー内に導入すると、試料液滴は第二管部の円筒部の壁面と衝突し難くなる。これによりスプレーチャンバー内での液滴壁面付着ロスをより一層効果的に低減することができると考えられる。したがって、分析感度のより一層の向上の観点からは、Z方向とY方向とは同一方向であることが好ましい。
一方、Z方向がY方向に対して傾斜している場合、試料導入口部の中心軸方向と略同一の方向から試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバー内に導入すると、試料液滴の少なくとも一部が第二管部の円筒部の壁面と衝突し易くなる。第二管部の円筒部の壁面と衝突すると、液滴は衝突粉砕され、より微細な液滴となることができるため、スプレーチャンバーから排出される液滴がより微細化される傾向がある。試料液滴の微細化は、分析装置の分析部における感度の安定性の観点から好ましい。したがって、安定性を重視する場合には、Z方向はY方向に対して傾斜していることが好ましく、例えばθ2は10°~60°の範囲であることが好ましい。
【0047】
上記スプレーチャンバーにおいて、第二管部の円筒部の長さは、例えば10.0~70.0mmであることが好ましい。円筒部の少なくとも一部は、二重管部を構成しているが、上記長さとは、二重管部を構成している部分の長さも含むものとする。なお第二管部の円筒部は、例えば
図3Bおよび
図4Cに示す態様のように、完全な円筒形状ではなく試料導入口部側の底面部が、第二管部の円筒部の中心軸方向に対して傾斜していてもよい。この場合、円筒部の長さとは、最短長さ(例えば
図4C中のl)をいうものとする。
【0048】
上記スプレーチャンバーにおいて、第一管部の排出口部は、排出口となる開口を有する限り、その形状および長さは特に限定されるものではない。排出口部の先端は、通常、分析装置において分析部との接続部分となるため、分析部の形状に応じて先端形状を決定すればよい。
一方、第二管部の試料導入口部は、ネブライザーから試料液滴を含むガス流を導入するための開口を有する限り、その形状および長さは特に限定されるものではない。試料導入口部は、通常、ネブライザー先端を挿入する挿入口部となる。試料導入口部は、例えば円筒形状を有することができるが、上記の通り形状は特に限定されるものではない。
【0049】
上記スプレーチャンバーの全長については、一般に、全長が短いほどスプレーチャンバー内での液滴ロスは低減できる傾向があり、一方、全長が長いほど粒径選別能は高くなる傾向がある。以上の点を考慮し、上記スプレーチャンバーの全長は、例えば80.0mm~200.0mmの範囲であることが好ましい。スプレーチャンバーの全長とは、側面視において、一方の最端部から他方の最端部までの最短距離をいうものとする。例えば、
図4C中の長さL、
図5B中の長さLである。
【0050】
上記スプレーチャンバーは、二重管部からアディショナルガスを導入することができ、これにより試料液滴の壁面付着ロスを低減することができる。ただしスプレーチャンバー内での重力差を利用した試料液滴の粒径選別によって、液滴として導入された試料液の一部がスプレーチャンバーから排出されずにスプレーチャンバー内に残留することがあり得る。また、壁面付着が起こることにより液滴として導入された試料液の一部がスプレーチャンバー内に残留することもあり得る。上記スプレーチャンバーは、このように残留した試料液を外部へ廃液するための廃液路を少なくとも1つ有することが好ましい。例えば、第一管部内に残留した試料液を排出するための廃液路は、第一管部の任意の位置に設けることができ、一態様では二重管部を構成する部分に設けることができる。即ち、上記スプレーチャンバーは、二重管部の外側側面に廃液用開口および廃液用開口を介して二重管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有することができる(例えば
図3B中、廃液管部113)。また、第二管部の外側側面に、第二管部内に残留した試料液を廃液するための廃液用開口と廃液用開口を介して第二管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有することもできる(例えば
図3B中、廃液管部122)。
【0051】
なお本発明および本明細書において、円筒部に関して記載する「円筒」とは、完全な円筒形状を意味するものに限定されず、先に記載したように円筒形状の部分と連続する端部に内径が異なる部分が含まれる態様も包含されるものとする。円錐部に関して記載する「円錐」とは、先に記載したように、完全な円錐形状を意味するものに限定されるものではない。また、2つの方向の位置関係について記載する略同一、2つの径の大きさに関して記載する略同一とは、完全な同一に加えて一般に許容される誤差範囲を含む意味で用いるものとする。上記誤差範囲とは、2つの方向の位置関係については、例えば0.1°以内の範囲を意味し、2つの径の大きさに関しては、例えば1%以内の範囲を意味する。
【0052】
以上説明した第一管部および第二管部は、任意の材料製の部材であることができる。上記材料としては、耐酸性、耐アルカリ性等の化学的耐久性の観点からは、各種ガラス、石英、フッ素樹脂、および、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックに分類される各種樹脂等が好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等の各種フッ素樹脂を挙げることができる。エンジニアリングプラスチックとしてはポリカーボネート(PC)等の各種エンジニアリングプラスチックを挙げることができ、スーパーエンジニアリングプラスチックとしてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の各種スーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。先に記載した理由から、第一管部および第二管部は、ガラス、石英またはフッ素樹脂製であることが好ましい。また、第一管部および第二管部は、単管構造の部材であることができる。第一管部および第二管部は、公知の成形方法により製造することができる。
【0053】
先に説明した加熱用電磁波照射部は、ネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除くスプレーチャンバーの少なくとも一部の部分に向かって、加熱用電磁波を照射する。ネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分を除けば、スプレーチャンバーの任意の部分に加熱用電磁波を照射することができる。一形態では、少なくとも、スプレーチャンバーにおいて、ネブライザーから導入された上記ガス流の少なくとも一部が排出される側の端部寄りの部分に向かって加熱用電磁波を照射することが好ましい。かかる端部寄りの部分とは、スプレーチャンバーの側面視において、一方の最端部から他方の最端部までの最短距離をLとし、L/2の位置を中央部とすると、L/2の位置から上記ガス流の少なくとも一部が排出される側の端部までの部分の少なくとも一部をいうものとする。かかる部分を、以下では、「後方部」とも呼ぶ。一方、ネブライザーから上記ガス流が導入される側の端部寄りの部分とは、かかる端部からL/2の位置までの部分の少なくとも一部をいうものとする。かかる部分を、以下では、「前方部」とも呼ぶ。後方部に加熱用電磁波を照射することは、ガス流に含まれる試料液の液滴が加熱された後に温度が下がってスプレーチャンバー内で結露することを抑制する観点から好ましいと考えられる。結露を抑制できることは、分析装置における信号強度のばらつき低減の観点から好ましい。一形態では後方部のみに向かって、他の一形態では後方部および前方部に向かって、加熱用電磁波を照射することが好ましい。
【0054】
上記試料導入装置は、試料液を霧化して各種分析装置に導入するために好適に用いることができる。
【0055】
[誘導結合プラズマ分析装置]
本発明の一態様は、上記試料導入装置と、分析部と、を含む誘導結合プラズマ分析装置(以下、単に「分析装置」とも記載する。)に関する。
【0056】
上記分析装置に含まれる試料導入装置の詳細は、先に記載した通りである。
【0057】
上記分析装置は、誘導結合プラズマ分析装置であり、少なくとも分析部にプラズマトーチを含むことができる。例えば、
図2に示されている分析装置の入口部14は、分析部において、試料導入装置の最も近くに位置する部分であり、プラズマトーチの入口部であることができる。プラズマトーチは、例えば、誘導結合プラズマ分析装置の一例である誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP-MS;Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometer)または誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP-AES;Inductively Coupled Plasma-Atomic Emission Spectrometer)において、プラズマによりイオン化を行う部分である。
【0058】
上記分析装置における試料導入装置の設置角度は、試料導入装置が設置された設置面の水平方向(例えば
図2中、H方向)と、スプレーチャンバーの中心軸方向(例えば
図2中、Y方向)とがなす角度θ3が、0°~90°(即ち設置面の水平方向と平行~設置面の水平方向と垂直)の範囲であることが好ましい。これにより、ネブライザーからスプレーチャンバーに導入された試料液滴の中で、粒径の大きな液滴を重力によって落下させて粒径を選別する粒径選別能を向上させることができる。なお角度θ3は、0°~±90°の範囲で規定するものとする。θ3がマイナスの値を取る場合、スプレーチャンバーは、前方部より後方部が下方に位置するように設置されている。θ3がプラスの値を取る場合、スプレーチャンバーは、後方部より前方部が下方に位置するように設置されている。また、スプレーチャンバーの排出口部の外側側面の任意の位置に、排出口部内に残留した試料液を廃液するための廃液用開口を1つ以上設けてもよい。中でも、θ3がマイナスの値を取る場合、そのような廃液用開口をスプレーチャンバーの排出口部の外側側面に設けることが好ましい。
角度θ3は、分析部への試料導入効率と粒径選別能との両観点を考慮すると、20°~90°の範囲であることがより好ましく、20°~70°の範囲であることが更に好ましく、20°~50°の範囲であることが一層好ましく、20°~30°の範囲であることがより一層好ましい。
【0059】
プラズマトーチの入口部は、インジェクターを含むことができる。上記試料導入装置から導入された試料液滴は、インジェクターを通過してプラズマトーチに導入され得る。上記インジェクターの内径は、プラズマトーチの中央部により安定に試料液滴を導入する観点からは1.50mm以下であることが好ましく、1.20mm以下であることがより好ましく、1.00mm以下であることが更に好ましく、0.90mm以下であることが一層好ましく、0.80mm以下であることがより一層好ましい。試料液滴の導入効率の観点からは、上記内径は0.50mm以上であることが好ましい。
【0060】
誘導結合プラズマ分析装置は、通常、プラズマトーチにプラズマ生成用ガスを供給するためのガス供給源を含む。プラズマ生成用ガスとしては、通常、アルゴンガスが使用される。したがって、上記分析装置も、プラズマトーチにアルゴンガスを供給するためのガス供給源を含むことができる。また、一形態では、上記分析装置は、アルゴンガスを供給するガス供給源に加えて、アルゴンガス以外の一種以上の他のガスをプラズマトーチに供給するためのガス供給源を含むことができる。かかる他のガスをプラズマトーチに導入することは、プラズマ中の電子密度の増加、粘性や比熱の異なるガス導入によるイオン化促進や信号強度向上の観点から好ましい。以上の観点からは、かかる他のガスは、プラズマ生成用ガスとして導入されるアルゴンガスと比べて単位時間あたりの供給量として、より少量でプラズマトーチに供給されることが好ましい。また。一形態では、そのようなガスを、スプレーチャンバーにおいて導入することもできる。上記ガスとしては、窒素ガス、酸素ガスおよび水素ガスからなる群から選択される一種または二種以上のガスを挙げることができる。プラズマトーチにプラズマ生成用ガスとして導入されるアルゴンガスについて、プラズマトーチへの単位時間あたりの供給量は、例えば、16L/min~20L/minであることができる。これに対し、上記の他のガスについては、プラズマトーチへの単位時間あたりの供給量は、例えば、1mL/min~30mL/minであることができる。プラズマ生成用のアルゴンガスおよび上記の他のガスは、同一ガス流路または異なるガス流路から、プラズマトーチに導入することができる。
【0061】
プラズマトーチに導入された試料液滴に含まれる分析対象試料は、プラズマトーチ先端で生成されたプラズマによってイオン化される。誘導結合プラズマ分析装置の具体例としては、ICP-MS、ICP-AES等を挙げることができる。例えば、ICP-MSの場合、質量分析計に上記イオン化により発生したイオンが導入され、質量分析計によって質量選別されてイオン検出器によって検出される。こうしてイオン検出器によって検出されるイオンの質量に基づき定性分析を行うことができ、各質量のイオンの信号強度に基づき定量分析を行うことができる。
【0062】
[分析方法]
本発明の一態様は、分析対象試料の定性分析、定量分析または定性分析および定量分析を、上記誘導結合プラズマ分析装置によって行うことを含む分析方法に関する。
【0063】
図2等を示し例示した試料導入装置では、試料液滴を含むガス流が流路管部に流通される際、アディショナルガス導入管部からアディショナルガスが導入される。これにより、先に記載したように、導入されたアディショナルガスは、二重管部内を旋回し第一管部の円錐部に向かってらせん状のガス流(アディショナルガス流)をもたらすことができる。アディショナルガスとしては、例えば、キャリアガスの例として例示した各種ガスを用いることができる。アディショナルガスは、例えば、ガス供給源とアディショナルガス導入管部とを樹脂製チューブ等のチューブで接続してアディショナルガス供給源からアディショナルガス導入管部およびアディショナルガス導入用開口を経て、二重管部へ導入することができる。樹脂製チューブとしては、耐久性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製のチューブが好適である。アディショナルガス流量は、例えば、0.3~0.5L/minとすることができるが、二重管部のアディショナルガスが導入される空間の幅、円錐部のサイズ等を考慮し適宜設定すればよいため上記範囲に限定されるものではない。
【0064】
スプレーチャンバーから排出された試料液滴を含むガス流は、上記分析装置の分析部に導入され、定性分析および/または定量分析が行われる。分析部の具体例等の詳細は、先に説明した通りである。分析対象成分としては、例えば重金属等の各種金属成分、非金属成分等を挙げることができる。
【0065】
以上説明した本発明の一態様にかかる分析方法によれば、例えば、半導体基板等として使用される各種シリコンウェーハ、シリコンウェーハを切り出す単結晶インゴット等の各種シリコン試料について、シリコン試料の金属成分分析を行い、金属不純物汚染の有無および/または程度を評価することができる。金属不純物汚染は半導体デバイスにおけるデバイス不良の原因となるため、金属不純物汚染の有無および/または程度を把握し、金属不純物で汚染されたシリコンウェーハを不良品として排除することや、製造条件の変更や製造装置の交換・補修を行うことにより金属不純物汚染を低減することは望ましい。近年、デバイスの高性能化等に伴い、半導体基板にはより一層高い品質を有することが要求されている。かかる要求に応えるためには、シリコン試料の金属不純物汚染を低減することが望ましい。上記分析方法は、例えば、各種シリコン試料の金属成分分析方法として好適である。上記分析方法を用いることにより、例えば、シリコン試料の金属不純物汚染評価として、金属成分の定性分析および/または定量分析を行うことができる。シリコン試料の金属不純物汚染評価を行う場合、評価対象のシリコン試料の一部または全部を溶解して得られた試料液や、シリコン試料の表面に酸溶液等の回収液を走査させて表面に付着していた金属成分を回収液に取り込ませて得た試料液を、必要に応じて酸溶液等によって希釈する等の前処理を行った後にネブライザーに導入して金属成分分析に付すことができる。こうして得られる分析結果によって、シリコン試料の表層部金属不純物汚染、バルク金属不純物汚染、表面金属不純物汚染等の各種金属不純物汚染の有無や程度を評価することができる。
ただし本発明は、シリコン試料の金属不純物汚染評価に限らず、様々な分野における成分分析に適用することができる。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
以下において、スプレーチャンバーのアディショナルガス導入管部にはポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続してガスの導入を行い、廃液管部にはポリ塩化ビニル製チューブを接続して廃液を行った。また、以下に記載の実施例のスプレーチャンバーの第一管部および第二管部はガラス製であった。
【0067】
[実施例1]
市販の二重収束型ICP-MSのスプレーチャンバーを、θ1=90°である点を除き
図5Aおよび
図5Bに示す構成のスプレーチャンバーに変更して実施例1のICP-MSを準備した。実施例1のICP-MSにおいて、θ1=90°、θ2=0°、θ3=30°、第一管部の円錐部の最大内径は45.0mm、円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は0.5、二重管部の長さは20.0mm、アディショナルガス導入用開口ならびに二重管部および第二管部の廃液用開口の直径は3.0mm、第一管部の円筒部の内径(最大内径)は45.0mm、第二管部の円筒部の外径は42.0mm、スプレーチャンバー全長は130.0mmであった。
上記スプレーチャンバーの外側の後方部に、
図1に示すように円環形状の加熱用電磁波照射部を設置した。この加熱用電磁波照射部では、円環形状のカバー部の内側の円周方向に複数の近赤外線ランプが配列されている。
試料液として、1ppb(体積基準)のInおよび2000ppm(体積基準)のSiを含むHF濃度1質量%のフッ化水素酸(HF水溶液)を準備した。
上記ICP-MSにおいて、100μL/minの導入量で試料液をネブライザーへ導入し、ネブライザーにより試料液をキャリアガス(アルゴンガス;流量0.75L/min)を用いて霧化して試料液滴を含むガス流を生成し、この試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバーの試料導入管部からスプレーチャンバーの流路管部へ導入した。上記ガス流が流路管部に流通している間、加熱用電磁波照射部から近赤外線を照射し続け、かつアディショナルガスとしてアルゴンガスを流量約0.4L/minでアディショナルガス導入管部からアディショナルガス導入用開口を介して二重管部へ導入し続けながら、ICP-MSから出力されるInの信号強度をモニタリングした。こうして得られたモニタリング結果から、近赤外線の照射開始時(0分)の信号強度を1.0とした相対強度比として、近赤外線照射時間に対してIn強度の相対強度比をプロットしてグラフを作成した。
【0068】
[比較例1]
加熱用電磁波照射部の設置位置を、スプレーチャンバーの第二管部の円筒部の試料導入口部側の部分および試料導入口部を覆う位置に移動させ、近赤外線の照射をネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分に向かって行った点以外、実施例1と同様にしてInの信号強度をモニタリングした。得られたモニタリング結果から、実施例1と同様にグラフを作成した。
【0069】
実施例1および比較例1についてそれぞれ作成されたグラフを
図6に示す。
【0070】
図6に示されている結果から、比較例1では、実施例1と比べて近赤外線照射時間が長くなるほど相対強度比が低下したこと、即ち分析感度低下が生じたことが確認できる。これは、比較例1では、近赤外線の照射をネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分に向かって行ったため、試料液に含まれるSiがネブライザーの噴霧口部の先端で乾燥して目詰まりを生じさせたことが原因と考えられる。これに対し、実施例1では、近赤外線の照射をネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分以外の部分に対して行ったことが、近赤外線照射に伴う分析感度低下の抑制が可能であった理由と推察される。
【0071】
[実施例2]
試料液として、1ppb(体積基準)のInを含むHF濃度1質量%のフッ化水素酸(HF水溶液)を使用した点以外、実施例1と同様にしてInの信号強度をモニタリングした。得られたモニタリング結果から測定結果(In信号強度)を20個抽出し、それらの相対標準偏差(RSD)を算出した。
【0072】
[実施例3]
加熱用電磁波照射部の設置位置を、スプレーチャンバーの第二管部の円筒部を覆う位置(ただしネブライザーの噴霧口部が挿入されている部分は覆わない)に移動させ、スプレーチャンバーの前方部に向かって近赤外線照射を行った点以外、実施例2と同様にしてInの信号強度をモニタリングした。得られたモニタリング結果から測定結果(In信号強度)を20個抽出し、それらの相対標準偏差(RSD)を算出した。
【0073】
実施例2および実施例3について算出された相対標準偏差(RSD)を
図7に示す。
【0074】
図7に示されている結果から、スプレーチャンバーの後方部に加熱用電磁波を照射した実施例2において、実施例3と比べて、信号強度のばらつきが抑制されていること(即ち、より安定な強度で信号が得られること)が確認できる。
【0075】
[実施例4]
実施例1と同じ構成のICP-MSにおいて、プラズマトーチのインジェクターとして内径が異なる3種のインジェクター(内径0.75mm、1.00mm、1.50mm)を使用し、かつ試料液としてアナライトCo、Y、Ce、Tlをそれぞれ1ppb(体積基準)含むHF濃度1質量%のフッ化水素酸(HF水溶液)を使用した点以外、実施例1と同様にしてアナライトの信号強度をモニタリングした。比較のために、加熱用電磁波照射部からの電磁波照射を行わずに同様に上記試料液の分析を行い、アナライトの信号強度を測定した。各アナライトの信号強度を、加熱用電磁波照射なしでの信号強度に対する相対強度比(加熱用電磁波照射ありでの信号強度/加熱用電磁波照射なしでの信号強度)として
図8に示す。
更に、各インジェクターを使用して得られた各アナライトの信号強度を20個抽出し、それらの相対標準偏差(RSD)を算出した。算出された結果を
図9に示す。
【0076】
図8に示す結果から、3種のインジェクターのいずれを使用した場合にも、加熱用電磁波照射を行ったことによって照射なしの場合と比べて信号強度が高まったこと、即ち分析感度が向上したことが確認できる。更に、
図8に示す結果から、内径がより小さいインジェクターを使用するほど、分析感度がより向上したことも確認できる。更に、
図9に示す結果からは、内径がより小さいインジェクターを使用するほど、信号強度のばらつきをより抑制できることが確認できる。
【0077】
[実施例5]
実施例1と同じ構成のICP-MSにおいて、プラズマトーチへプラズマ生成用アルゴンガス(流量:18L/min)とは別の流路からN
2(流量:30mL/min)を導入し、かつ試料液としてアナライトCo、Y、Ce、Tlをそれぞれ1ppb(体積基準)含むHF濃度1質量%のフッ化水素酸(HF水溶液)を使用した点以外、実施例4(内径1.50mmのインジェクターを使用)と同様にしてアナライトの信号強度を測定した。この測定とは別に、N
2を導入しなかった点以外は同様として測定を実施した。各アナライトの信号強度を、N
2導入なしでの信号強度に対する相対強度比(N
2導入ありでの信号強度/N
2導入なしでの信号強度)として
図10に示す。
更に、N
2導入ありでの測定結果から測定結果(各アナライトの信号強度)を20個抽出し、それらの相対標準偏差(RSD)を算出した。算出された結果を
図11に示す。
【0078】
図10に示す結果から、プラズマトーチへのN
2導入によって導入なしの場合と比べて信号強度が高まったこと、即ち分析感度が向上したことが確認できる。
更に、
図11に示す結果を、
図9中の内径1.50mmのインジェクターを使用した場合(N
2導入なし)と対比すると、プラズマトーチへのN
2導入によって信号強度のばらつきをより抑制できることが確認できる。
【0079】
以上の結果から、本発明の一態様によれば、誘導プラズマ分析装置において、信頼性の高い分析結果を得ることが可能になることが確認できる。