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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-04-16
(45)【発行日】2024-04-24
(54)【発明の名称】メッシュ構造物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   D04H 1/4382 20120101AFI20240417BHJP
   D01D 5/04 20060101ALI20240417BHJP
   D01D 5/06 20060101ALI20240417BHJP
   D01F 6/00 20060101ALI20240417BHJP
   D01F 6/70 20060101ALI20240417BHJP
   D01F 8/04 20060101ALI20240417BHJP
   D04H 1/4358 20120101ALI20240417BHJP
   D04H 1/728 20120101ALI20240417BHJP
【FI】
D04H1/4382
D01D5/04
D01D5/06 105Z
D01F6/00 Z
D01F6/70 A
D01F8/04 Z
D04H1/4358
D04H1/728
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020186735
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076361
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】手島 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】酒井 洸児
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】樫村 吉晃
(72)【発明者】
【氏名】▲吉▼江 悠加
(72)【発明者】
【氏名】竹内 昌治
(72)【発明者】
【氏名】大崎 寿久
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-044128(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0093606(US,A1)
【文献】特開平04-146931(JP,A)
【文献】実開平02-084499(JP,U)
【文献】特開平07-243150(JP,A)
【文献】特開平4-050353(JP,A)
【文献】特開平5-051853(JP,A)
【文献】特開2014-070322(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00 - 9/00
D01D 1/00 - 13/00
D04H 1/00 - 18/00
D03D 1/00 - 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱応答に対し形状記憶性を有し、直径50nm~3mmの複数の形状記憶性ファイバをそれらの側面どうしの間に隙間をあけて配列した層を有し、前記層を複数重ねて重ねた方向に接触した前記形状記憶性ファイバどうしの接触部分を接着一体化した積層構造物からなり、前記積層構造物の外周部においては、重ねられた上下の形状記憶性ファイバがそれら個々の形状記憶性ファイバの周面において前記積層構造物の内部側の面の曲面部分を一部残し、他の部分を接着一体化してなるメッシュ構造物。
【請求項2】
前記形状記憶性ファイバが、熱応答に対し形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成されたコア層と、熱応答に対し前記形状記憶性と異なる形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成され、前記コア層の周囲に位置する被覆層とからなる請求項1に記載のメッシュ構造物
【請求項3】
前記形状記憶性ファイバが、ポリウレタン系形状記憶ポリマからなる、直径250~300μmまたは直径500~600μmのマイクロファイバである請求項1に記載のメッシュ構造物。
【請求項4】
前記コア層を構成する形状記憶性ファイバと前記被覆層を構成する形状記憶性ファイバが、ガラス転移点の異なる2種類のポリウレタン系形状記憶ポリマからなる、直径100~2000nmのナノファイバである請求項2に記載のメッシュ構造物。
【請求項5】
熱応答に対し形状記憶性を有し、直径50nm~3mmの複数の形状記憶性ファイバをそれらの側面どうしの間に隙間をあけて配列した層を有し、前記層を複数重ねて重ねた方向に接触した前記形状記憶性ファイバどうしの接触部分を接着一体化した積層構造物からなり、前記積層構造物の外周部においては、重ねられた上下の形状記憶性ファイバがそれら個々の形状記憶性ファイバの周面において前記積層構造物の内部側の面の曲面部分を一部残し、他の部分を接着一体化してなるメッシュ構造物を製造するにあたり、
熱応答に対し形状記憶性を有する形状記憶性ポリマを有機溶媒に溶解した溶液をノズルを備えたシリンジに充填し、前記ノズルの先端を前記形状記憶性ポリマに対する貧溶媒であり、前記形状記憶性ポリマに対する溶解性を有する射出用溶媒に浸漬した状態で前記ノズルの先端から前記溶液を前記射出用溶媒中に噴射して前記形状記憶性ポリマからなる形状記憶性ファイバの層を生成し、この層を前記射出用溶媒中で複数積層するメッシュ構造物の製造方法。
【請求項6】
前記形状記憶性ファイバとして、ポリウレタン系形状記憶ポリマからなる形状記憶性ファイバを用い、
前記有機溶媒として、N,N-ジメチルホルムアミドを用い、
前記貧溶媒として、アセトン、1-プロパノール、2-プロパノール、エタノール、水のいずれかを用いる請求項5に記載のメッシュ構造物の製造方法。
【請求項7】
熱応答に対し形状記憶性を有する形状記憶性ポリマを雰囲気中で揮発可能な溶媒に対し溶解した溶液をノズルを備えたシリンジに充填し、前記ノズルの先端をコレクタに対し対向配置し、前記シリンジと前記コレクタの間に電圧を印加し、前記ノズルの先端から前記溶液を前記コレクタ側の雰囲気中に噴射させ、前記溶媒を前記雰囲気中で揮発させながら前記形状記憶性ポリマをファイバとして押し出す請求項5に記載のメッシュ構造物の製造方法。
【請求項8】
前記シリンジに熱応答に対し形状記憶性の異なる2種類の形状記憶性ポリマを収容し、前記ノズルから前記2 種類の形状記憶性ポリマをコア層流と周辺層流の同軸層流で押し出すことにより、一方の形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成されたコア層と、他方の形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成され、前記コア層の周囲に位置する被覆層からなる2層構造のファイバを押し出す請求項7に記載のメッシュ構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メッシュ構造物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
変形後に外部からの刺激を受けることで元の形状に回復する材料として、形状記憶材料の開発が盛んに行われている。特に形状記憶ポリマは、歯科材料剤やステント材料などの医療応用の観点から、生体毒性の低い合金やセラミックから成る既存の材料に代わる形状記憶材料として注目されている(非特許文献1参照)。
【0003】
さらに形状記憶ポリマは、合金やセラミックに比べて柔軟で安価、軽量、変形率が高いという複数のメリットを有する。現在形状記憶ポリマとして、ガラス転移温度を境に結晶性が変化する温度応答性ポリマの開発が進められ、結晶性高分子、ハイドロゲル、液晶性エラストマ、フォトクロミック高分子など様々な材料が報告されている(非特許文献2参照)。
【0004】
これらの材料を医療用デバイスとして組み込むためには、より微細な構造に加工する必要がある。例えば、同一の形状記憶ポリマ薄膜の内部に応答温度の異方性を形成できるようになると、外部の温度変化に対して複数種の変形などの応答が可能となり、より複雑なアクチュエータとしての機能の付与が可能になることが期待される。
ただし、溶媒に溶解された液性の高分子材料を、ナノマイクロメートル~マイクロメートルの微細な形状に加工することは、依然として技術的に困難であると考えられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【文献】M. Harper, G. Li,「A review of stimuli-responsive shape memory polymer composites」,Polymer, 2013, 54, 2199-2221.
【文献】W. Sokolowski, A. Metcalfe, S. Hayashi, L. Yahia,J. Raymond, 「Medical applications of shape memory polymers」,Biomedical Materials, 2(2007), S23-S27.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
微細な構造を作製する手法の種類は、単純な回転塗布法による薄膜作製や、インクジェットによる吐出法、スタンプ法による高分子表面への微細構造の転写などに限られ、かつ、加工精度も低いという問題がある。
そのため、以上のような形状記憶ポリマの欠点を克服する方策として,サブミクロンスケールでの形状制御や正確な配置技術が求められている。
【0007】
本願発明は、上述の背景に鑑みなされたもので、ナノメートルスケールからミリメートルスケールの径を有する形状記憶性ファイバを備えたメッシュ構造物の提供、および、その製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、熱応答に対し形状記憶性を有し、直径50nm~3mmの複数の形状記憶性ファイバをそれらの側面どうしの間に隙間をあけて配列した層を有し、前記層を複数重ねて重ねた方向に接触した前記形状記憶性ファイバどうしの接触部分を接着一体化した積層構造物からなり、前記積層構造物の外周部においては、重ねられた上下の形状記憶性ファイバがそれら個々の形状記憶性ファイバの周面において前記積層構造物の内部側の面の曲面部分を一部残し、他の部分を接着一体化してなるメッシュ構造物に関する。
【0009】
本発明の他の形態は、前記形状記憶性ファイバが、熱応答に対し形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成されたコア層と、熱応答に対し前記形状記憶性と異なる形状記憶性を有する形状記憶性ポリマから構成され、前記コア層の周囲に位置する被覆層とからなることが好ましい。
【0010】
本発明の一形態において、前記形状記憶性ファイバが、ポリウレタン系形状記憶ポリマからなる、直径250~300μmまたは直径500~600μmのマイクロファイバであることが好ましい。
本発明の一形態において、前記コア層を構成する形状記憶性ファイバと前記被覆層を構成する形状記憶性ファイバが、ガラス転移点の異なる2種類のポリウレタン系形状記憶ポリマからなる、直径100~2000nmのナノファイバであることが好ましい。
【0011】
本発明の他の形態は、熱応答に対し形状記憶性を有する形状記憶性ポリマを大気中で揮発可能な溶媒に対し溶解した溶液をノズルを備えたシリンジに充填し、前記ノズルの先端をコレクタに対し対向配置し、前記シリンジと前記コレクタの間に電圧を印加し、前記ノズルの先端から前記形状記憶性ポリマと前記溶媒を前記コレクタ側の雰囲気中に押し出し、前記溶媒を前記雰囲気中で蒸発させながら前記形状記憶性ポリマをファイバとして押し出す形状記憶性ファイバの製造方法に関する。
本発明の他の形態は、上述した製造方法により得られた形状記憶性ファイバをメッシュ状に配置するメッシュ構造物の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、ナノメートルスケールからミリメートルスケールの径を有する形状記憶性ファイバからなるメッシュ構造物を提供すること、および、その製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は本発明に係る形状記憶性ファイバの第1実施形態を示すもので、図1(a)は斜視図、図1(b)は正面図である。
図2図2は形状記憶性ポリマをシリンジにより貧溶媒に噴出している状態の一例を示す説明図である。
図3図3は本発明に係る形状記憶性ファイバを用いて構成されるメッシュ構造物の一形態を示すもので、図3(a)は斜視図、図3(b)は側面図である。
図4図4は本発明に係る形状記憶性ファイバを用いて構成されるメッシュ構造物の他の形態を示すもので、図4(a)は斜視図、図4(b)は側面図である。
図5図5はシリンジのノズルからコレクタに向かって形状記憶性ポリマを含む溶液を噴出して形状記憶性ファイバを生成している状態を示すもので、図5(a)は形状記憶性ファイバを噴出してコレクタ上に第1層を積層した状態を示す説明図、図5(b)は第1層上に他の形状記憶性ファイバを噴出して第2層を積層した状態を示す説明である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に基づき、本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1(a)は2種類の形状記憶性高分子材料から構成された本発明の第1実施形態に係る形状記憶性ファイバ(マイクロファイバ)1を示す。図1(a)に示す形状マイクロファイバ1は、横断面円形状の紐状の中心ファイバ層(コア層)2と、該中心ファイバ層2の周囲をほぼ均等厚で取り囲む被覆ファイバ層(被覆層)3からなる。中心ファイバ層2と被覆ファイバ層3はそれぞれ熱応答に対して異なる温度応答性を持つことが好ましい。
【0015】
被覆ファイバ層3の直径(外径)と中心ファイバ層2の直径をそれぞれR、Rと定義することができる。被覆ファイバ層3の直径Rと中心ファイバ層2の直径Rは特に限定されないが、50nm~3mmの範囲であることが望ましい。
また、直径Rを有する中心ファイバ層2は省略し、被覆ファイバ層3のみの1層構造としてもよい。あるいは、直径Rを有する被覆ファイバ層3を省略し、中心ファイバ層2のみの1層構造としても良い。
中心ファイバ層2と被覆ファイバ層3の形状はその種類に限定されないが、四角形を含む多角形、真円を含む楕円、網目構造、また、それらの組み合わせ形状等を例示できる。
また、後述するように強固な基板表面で形状記憶性ファイバ1を形成し、形状記憶性ファイバ1により折り重ね構造あるいは編組構造などとして薄膜を作製することで、平坦なファイバ層(薄膜)が得られる。さらに、基板とファイバ層(薄膜)の間に犠牲層を挿入することで、薄膜形成後に犠牲層を除去し、基板からの遊離を容易にすることが可能となる。
【0016】
図2に、貧溶媒を用いたマイクロファイバ1の製造方法の概要を示す。
ポリウレタン系形状記憶ポリマを用い、水、あるいは、ほとんどの有機溶媒と任意の割合で混合することが可能な有機溶媒の一種N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide、以下DMFと略記する)に溶解した溶液を用意する。
【0017】
この溶液をシリンジ5の収容部6に充填する。シリンジ5は図2に示すような縦筒型の収容部6の先端部(下端部)に針状の細長いノズル(ニードル)7を備えた構造を有し、収容部6の基端部側(上端部側)に出入自在にピストン部8が設けられている。収容部6の上端部外周側にフランジ部9が設けられ、このフランジ部9を支持部10で水平支持することでシリンジ5がノズル7を下向きとして垂直に支持されている。ピストン部8は、収容部6の上端部側に挿入される円柱状の本体部8Aを備え、本体部8Aの上端部にフランジ部8Bが形成されている。
【0018】
ピストン部8の上方には上下昇降式の押圧部材11が配置されており、この押圧部材11によりピストン部8を収容部6に沿って押し下げることができる。ノズル7を下向きとしたシリンジ5の収容部6に上述の溶液12を収容し、収容部6の上端側に挿入したピストン8を収容部6の下端側に向けて押圧部材11により押し下げることによって、溶液をノズル7の下端(先端)から噴出できるように構成されている。
【0019】
ノズル7の下方には、貧溶媒13を収容した容器15が設けられ、ノズル7の下端(先端)を貧溶媒13の液面より若干深い位置に至るようにノズル7が貧溶媒13に浸漬されている。
ノズル7の下端を貧溶媒に浸けた状態でノズル7の下端から溶液12を貧溶媒13中に吐出することで、溶液12(DMF)は即座に貧溶媒13に溶解して拡散し、残ったポリウレタン系形状記憶ポリマが水中で凝集してマイクロファイバ(紐状構造物)1Aを生成する。
このマイクロファイバ1Aの直径はノズル7から溶液12を押出す速度により制御が可能である。
【0020】
なお、図2に示すシリンジ5は単層構造のマイクロファイバ1Aを製造するための構成であるので、図1に示す2層構造のマイクロファイバ1を製造するには、収容部6とノズル7をいずれも2分割構造とした2重構造のシリンジを適用すればよい。その場合のシリンジは、2分割した収容部の一方と2分割したノズルの一方の吐出部を接続し、2分割した収容部の他方と2分割したノズルの他方の吐出部を接続して構成する。
【0021】
図1に示す中心ファイバ層2と被覆ファイバ層3からなる2層構造のマイクロファイバを製造する場合、ノズル7を中心部とその周辺部で2分割するように隔壁を設け、ノズルの先端部から2種類の溶液が同軸層流として噴出できるように構成することが望ましい。
その場合、中心ファイバ層2を生成するための溶液の一例として導電性高分子を含む溶液を用い、被覆ファイバ層3を生成するための溶液の一例としてポリウレタン系形状記憶ポリマを含む溶液を使用することができる。このようにすることにより、絶縁体に被覆された形状記憶性を有する紐状構造物としてのマイクロファイバ1を得ることができる。
貧溶媒13中に浮遊したマイクロファイバ1Aはピペットやシリンジなどの吸引器具を用いて回収可能であるので、回収したマイクロファイバを再度基板に展開し、メッシュ状に編み込むことで薄膜状の編組体を作製できる。
中心ファイバ層2と被覆ファイバ層3を適用する場合、中心ファイバ層2として、ポリノルボルネン、スチレンブタジエン共重合体などの形状記憶性ポリマを適用することができ、被覆ファイバ層3として、ポリウレタンなどの形状記憶性ポリマを適用することができる。
【0022】
複数種類のマイクロファイバ1Aを積層した場合、多くの水分(溶媒の主成分)を含むため、積層の度にマイクロファイバ1Aを焼結ないし風乾して水分を除去することが望ましい。さらに、マイクロファイバ1Aを再度DMFに暴露することで、積層した層間の密着性(マイクロファイバ間の密着性)を高めることが可能となる。このように作成された積層体(メッシュ構造物)20の斜視図を図3(a)に示し、図3(b)に積層体(メッシュ構造物)20の部分断面を示す。
【0023】
図4に、マイクロファイバ(紐状構造物)がわずかに溶解する貧溶媒を用いた製造方法により得られた積層体(メッシュ構造物)21の概念図と断面図を示す。
図2を基に、先に説明した製造方法と同様に、ポリウレタン系形状記憶ポリマを、水やほとんどの有機溶媒と任意の割合で混合することが可能な有機溶媒の一種DMFに溶解した溶液を用意する。これをシリンジ5に充填し、シリンジ5のノズル7の先端をアセトンの貧溶媒13中に浸けた状態でノズル7から吐出することで、DMFは徐々にアセトンの貧溶媒13に溶解して拡散し、残ったポリウレタンが水中で凝集してマイクロファイバ22を生成できる。このマイクロファイバ22の直径は、シリンジ5から溶液を押出す速度により制御が可能である。
ここで用いる貧溶媒13は、アセトンの他に(1-プロパノール、2-プロパノール、エタノール、水)などを用いることができる。
【0024】
例えば、アセトン中でマイクロファイバ22の形状が定まる前に2層目を吐出して2層目のマイクロファイバ22を構成することにより各層のマイクロファイバ22が相互に接触部分で接着した積層体(メッシュ構造物)を得ることが可能となる。
例えば、貧溶媒の選択において溶解度合いを考慮することにより、図3(a)に示す場合と同様にマイクロファイバ22を重ねたとして、図4(a)に示すようにファイバ同士が徐々に変形して接着し始め、最終的に図4(b)に示すようにマイクロファイバ22同士が互いに接触した部分で接着した積層体(メッシュ構造物)21を作製することができる。
【0025】
図3図4に示すマイクロファイバ1A、22を製造する場合、先に説明したように、2重構造のシリンジのノズルから同軸層流となるように溶液を貧溶媒中に吐出することで製造しても良い。例えば、内側に導電性高分子材料を吐出し、その外側にポリウレタンの形状記憶ポリマを吐出する同軸層流となるように吐出して紡糸する。これにより、内側に導電性高分子材料からなる中心ファイバ層を有し、外側にポリウレタンの形状記憶ポリマからなる被覆ファイバ層を有する2重構造の紐状構造となるマイクロファイバを製造できる。
【0026】
図5に、溶媒を雰囲気中で蒸発させながらナノファイバからなる薄膜を形成することで、複数種類の薄膜からなる積層体の製造が可能となる電解紡糸法の概要を示す。
ガラス転移点(Tg)の異なる2種類のポリウレタン系形状記憶ポリマを、常温で蒸発し易く、水やほとんどの有機溶媒と任意の割合で混合することが可能な有機溶媒の一種、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に個々に溶解した2種類の溶液を用意する。
【0027】
図5(a)に示すように一方の溶液25をシリンジ5に充填し、ノズル7と該ノズル7に対向配置したコレクタとしての基板26に電圧を印加しながらノズル7の先端からその下方の雰囲気24中に吐出する。これにより、大気中でDMFを蒸発させながら形状記憶性ナノファイバ27を作製できる。
【0028】
ナノファイバ27は基板26上に回収される。基板26が静置されている場合は基板26上にナノファイバ27を堆積させることでランダムな配向性を有するナノファイバ27からなるナノファイバメッシュ(メッシュ構造物)28が得られる。また、基板26の代わりにドラムを用い、基板としてのドラムを回転させながら回収することで、ドラムの回転方向に沿った配向性を有するナノファイバメッシュが得られる。
【0029】
次に、図5(b)に示すように他方の溶液30を別途用意した他のシリンジ5に充填し、ノズル7と該ノズル7に対向配置した先の基板26に電圧を印加しながらノズル7の先端からその下方の雰囲気24中に吐出することで、大気中でDMFを蒸発させながら形状記憶性ナノファイバ31を作製できる。
続いて基板26上のナノファイバメッシュ28上に、ナノファイバ31を堆積させることでランダムな配向性を有するナノファイバ31からなるナノファイバメッシュ(メッシュ構造物)32を形成できる。
以上の操作により、溶媒を含まない状態でナノファイバの製膜が可能であるため、ナノファイバメッシュ28、32を重ね合わせた積層体(メッシュ構造物)33が得られる。
ナノファイバ27、31の径はポリウレタン系ポリマの濃度と粘性、吐出速度、印加する電圧により制御が可能となる。濃度および粘性を高めることで径は大きくなり、一方で吐出速度と印加電圧を上げることでナノファイバの径を小さくできる。
ガラス転移点(Tg)の異なる2種類のポリウレタン系形状記憶ポリマとして具体的には、ポリウレタン系高分子材料の配合比を変化させたもの、ないし組成の異なるエーテルやエステルなどのポリマを変化させたものなどを用いることができる。
【0030】
以上説明の製造方法により、径がナノメートルサイズのナノファイバ、あるいは、径がマイクロメートルサイズのマイクロファイバであって、形状記憶ポリマからなるナノファイバ、あるいは、マイクロファイバがメッシュ状に固定された積層体(メッシュ構造物)33を得ることができる。
【実施例
【0031】
「実施例1」
ポリウレタン系形状記憶ポリマをN,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)に70質量%溶解した溶液を準備した。この溶液をシリンジに充填し、シリンジの先端を水中に浸けた状態でシリンジのノズルから溶液を水中に吐出した。
DMFは即座に水に溶解して拡散し、残ったポリウレタン系形状記憶ポリマが水中で凝集してマイクロファイバ化した。ポリウレタン系形状記憶ポリマをノズルから押出速度100μL/minで押し出したところ、直径500~600μmのマイクロファイバを得ることができた。
【0032】
「実施例2」
ポリウレタン系形状記憶ポリマを、N,N-ジメチルホルムアミド(N,N-dimethylformamide:DMF)に70質量%溶解した溶液を準備した。この溶液をシリンジに充填し、シリンジの先端をアセトン中に浸けた状態でシリンジのノズルから溶液をアセトン中に吐出した。
【0033】
DMFは徐々にアセトンに溶解して拡散し、残ったポリウレタン系形状記憶ポリマがアセトン中で凝集してマイクロファイバ化した。ポリウレタン系形状記憶ポリマをノズルから押出速度100μL/minで押し出したところ、直径250~300μmのマイクロファイバを得ることができた。
また、アセトン中でマイクロファイバの形状が定まる前に再度シリンジのノズルから2層目のマイクロファイバを吐出することにより1層目のマイクロファイバと2層目のマイクロファイバを相互に接着した積層体(メッシュ構造物)を得ることができた。
【0034】
図5を基に先に説明した電解紡糸法によりナノファイバを製造した。ガラス転移点(Tg)の異なる2種類のポリウレタン系形状記憶ポリマを用意し、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)にそれぞれ溶解した2種類の溶液を用意する。これら2種類の溶液を2基のシリンジに各々充填し、ノズルに対向配置したコレクタとノズル間に20kVの電圧を印加しながら一方の溶液をノズルから大気中に吐出することにより、大気中でDMFを蒸発させながら形状記憶性ナノファイバを作製し、このナノファイバをコレクタ上に回収することができた。最初のナノファイバをコレクタ上に堆積させた後、他方の溶液を収容したシリンジのノズルから同等の条件で他方の溶液を噴出し、ナノファイバを作製した。
【0035】
一方の溶液と他方の溶液を用いてコレクタとノズル間にそれぞれ20kVの電圧を印加しながら紡糸することで、直径100~2000nmの1層目のナノファイバと直径100~2000nmの2層目のナノファイバからなる積層体(メッシュ構造物)を得ることができた。
【符号の説明】
【0036】
1、1A…形状記憶性ファイバ(マイクロファイバ)、2…中心ファイバ層、3…被覆ファイバ層、5…シリンジ、6…収容部、7…ノズル、13…貧溶媒、20、21…編組体(メッシュ構造物)、24…雰囲気、25、30…溶液、27、31…ナノファイバ、28、32…ナノファイバメッシュ(メッシュ構造物)、33…積層体(メッシュ構造物)。
図1
図2
図3
図4
図5